Music TO GO!

2025年12月17日

アップルがAirPodsとケースのデータ交換協調の特許を取得

Patently AppleでアップルがAirPodsとケースのデータ協調の特許を取得したことが報じられています。
現在のAirPodsでもバッテリー残が表示されますが、リアルタイムではなく限定的なので、常にケースとAirPodsが協調してデータ交信して、相互の状況をケースが代行してiPhoneに送るという機能です。

IMG_4847.jpeg
画像はPatently Appleから引用
posted by ささき at 05:25 | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アップルがスマホのレンズ収差を偏向板で可変する特許取得

カメラの特許ですが、キラー特許になりうるので書いておきます。
Patently Appleによると、アップルがまだ一眼レフにさえ応用されてない、軍事や天文分野の「適応光学」の技術をスマホカメラに応用する特許を取得しました。これはDPPという液体で可変可能な位相偏向板を使って光学収差(歪み、ぼやけ、傾きなど)を補正するものです。乱暴ですけどすごく簡単に言うと、レンズの形を自由に変えられる(のと同じ)特許です。
効果としては従来ソフトウェアに頼っていたスマホの光学収差補正を、根本的にハードウエアのレンズシステムに戻すもので、Android勢に一気に差をつけられます。

IMG_4846.jpeg
画像はPatently Appleから引用

調べてみたところ、要素技術はMEMSやメタマテリアルではなくて、下記のドイツメーカー phaseformの特許のDeformable Phase Plate (DPP) 「変形可能位相プレート」のようです。おそらくアップルとこの会社の共同研究だと思う。

https://www.phaseform.com/technology
posted by ささき at 05:20 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年12月15日

AV Watchにポタフェス2025冬のレポートを執筆

AV Watchにポタフェス2025冬のレポートを執筆しました。
HIFIMANのネットワークプレーヤーになるWiFiヘッドフォンを紹介、Jack Vang氏のインタビューでVolk AudioのStellaとEtoileの違いを解き明かし、元ゼンハイザーのアレックスグレルの挑戦であるOAE2のFSFM設計の秘密に迫ります。

https://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/2071138.html

IMG_4821.jpeg IMG_4820.jpeg 
IMG_4819.jpeg IMG_4818.jpeg 
posted by ささき at 09:36 | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年12月10日

アップルがAirPods Proにおける重要特許を取得

Patently Appleによると、アップルがAirPods Proにおいて、マイクを従来のように筐体に取り付けるのではなく超小型のMEMSマイクを直接ドライバー(振動板の真横)に取り付ける特許を取得しました。
このことによりANCの大幅な向上が見込め、音質にも寄与します。これはキラー特許になる可能性があるかもしれません。
ただ、Pro3に入った形跡はないので、やはり来年H3が出てAirPods Pro4が出るという噂を後押ししてるような気もします。

IMG_4545.jpeg
図はPatently Appleから引用。振動板のすぐ横の赤丸をつけたところにマイクが設置されています。
posted by ささき at 06:50 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

Bluetooth 6.2のShorter Intervalのオーディオへの影響

Bluetooth 6.2のCore Specが公開されました。
https://www.bluetooth.com/bluetooth-core-6-2-feature-overview/

ここでの接続間隔の大幅な短縮「Shorter Interval(SCI)」という新機能が、オーディオの音質に影響を与えるかどうかについて、幾つかの評価軸からChatGPTでシミュレーションさせました。結果としてはSNや歪みなど根本的な向上はないけれども、安定性向上で体感的な音質向上はあるという結論でした。他のGrokやGeminiでもほぼ同じです。

スクリーンショット 2025-12-10 5.51.02.png スクリーンショット 2025-12-10 5.51.46.png
posted by ささき at 06:36 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年12月08日

同じDNAを共有する温度感のあるサウンド、Shanling「Regal」 + 「M7T」

ハイエンドイヤフォンであるShanling「Regal」と真空管搭載DAPのShanling「M7T」はどちらもShanlingの新製品です。元は別々に記事にするつもりでしたが、聴いてみると二者を組み合わせて感じる「温度感のあるハイエンドサウンド」というべき気持ち良い音楽体験が、同じDNAの共有を感じさせるので組み合わせてレビュー記事にしました。

IMG_4503.jpg
Shanling RegalとM7T

前から思っていたことではありますが、ポータブルだけではなく据え置き機材の多いShanlingは一貫した音作りの思想が感じられます。それは「高性能で冷静なモニターサウンド」ではなく、「高性能で温度感のあるリスニングサウンド」です。それが「Regal」 + 「M7T」の組み合わせではより鮮明に見えてくるように思えたわけです。

まずそれぞれの特徴を解説していきます。

* 「Regal」と「M7T」の特徴

Regalは3Way形式で、低域に対向配置型10mm ダイナミックドライバー×2基、中音域にBAドライバー×4基、高音域にマイクロプラナー×2基という、2DD+4BA+2MicroPlanarのトライブリッド構成です。合計8ドライバーによりShanlingではフラッグシップクラスに迫るスペックと謳っています。向かい合わせの対向配置の低域ドライバーは効果的に歪みを打ち消すことができます。ESTではなくマイクロプラナーの採用は音に厚みを加えることができるでしょう。

IMG_2894.jpg

Regalの興味深い特徴はカスタマイズが自由にできることです。まず2個のディップスイッチで4つのモード(バランス、ビューティフル、ヴォーカル、アンビエント)が選べ、さらに4種類の専用イヤーピース(バランス、ヴォーカル、Sound Stage、Bass)に加えてSpinFit(ワンサイズ)が付属します。

Regalは高純度チタニウムのフェイスプレートにアイスクリスタル加工が施され、光の当たり方によってキラキラと表情を変える美しい仕上げです。シェルは比較的大柄ですが、片側わずか6gという驚異的な軽量設計で、長時間装着しても耳への負担がほとんどありません。ユニバーサル形状で耳にぴったりと沿い、安定感も良好です。

M7Tは、AK4498EX×2 + AK4191のDACチップ、第4世代FPGAテクノロジー、2基のKDS高精度クリスタル発振器(90.3168MHz/98.304MHz)を搭載しています。
AK4498EXはよくフラッグシップに採用されるAK4499EXの兄弟モデルのDAC ICで、電圧を直接取り出せるので余分な変換が必要ないという利点があります。これはスペースの限られたポータブル機では利点となるでしょう。
こちらも音のカスタマイズが可能で、トランジスタモードと真空管モードが選べます。トランジスタモードではMUSES8920オペアンプ×2+BUF634Aバッファ×4、真空管モードではRaytheon JAN6418真空管をデュアル構成で使用します。トランジスタモードはトランジスタではなくオペアンプを使用していますが、真空管に対しての半導体モードという感じの意味でしょう。後述しますが、MUSESは音楽性を高めるオペアンプであり、この採用が大きく音に貢献しています。
真空管モードでは真空管特有のマイクロフォニックノイズも専用防振構造でほぼ皆無です。実際に爪でたたいてもマイクロフォニックノイズは生じません。

IMG_4510.jpg

M7TはAndroid 13を搭載したAndroid DAPですが、独自の技術でAndroidのミキサーの問題を回避しています。Snapdragon 665+6GB RAMを搭載して操作性も快適です。単体で使うときには「SHANLING Music」アプリを使用しますが、素のAndroidなので普通にNeutron Playerなどの音楽アプリやApple Musicなどのストリーミングアプリが使えます。WiFi環境下では「EddictPlayer」アプリによるリモートコントロールの使用ができます。

IMG_4511.jpg

M7Tの出力は4.4mmバランスで980mW@32Ω(3.5mmは245mW@32Ω)と十分な駆動力で、バッテリー持ちもバランス接続で約12.5時間、シングルエンドで約14.5時間と実用的。Bluetooth送受信にも対応し、多様な使い方が可能です。
航空機グレードのマグネシウム・アルミニウム合金をユニボディ切削加工した筐体で、「モカ」、「グレー」、「ダークブルー」の3色展開です。画像のモデルは「ダークブルー」です。M8Tをより小型化してスリムにした感じで、手の小さな方でも持ちやすいサイズ感でしょう。
画像で装着されているブラウンのケースは磁石式蓋付きの専用ケースです。

IMG_4498.jpg
専用ケースの出し入れ

次に単体での音質のインプレをします。

* Regal単体の音のインプレ

Regalの単体の試聴にはまず慣れたA&K KANN ULTRAを使用しました。
Regalの低域は超低域まで深く沈み込み、量感はかなり豊富ですが、叩きつけるというより「塊の迫力」で襲ってくるようなイメージです。対向配置型の低音ドライバーらしく緩さがあまりない弾むような気持ち良い低音です。
中高域は十分に伸びやかで、マイクロプラナーの効果か高域のベルの響きが自然で、この辺はESTと比べても自然に感じられます。ヴォーカルは温かみを帯び、甘く聴きやすいですが、低域がやや被る傾向があります。
良録音のジャズトリオを聴くと、ハイハットからウッドベース、ピアノまで楽器の分離が良く、音色が非常にきれいに聴こえます。

IMG_2923.jpg
KANN UltraとRegal

カスタマイズについても面白く使えます。
ディップスイッチによる切り替えも優秀で、ヴォーカルモードは自然に低域を抑え、アンビエントモードはスケール感を増します。ビューティフルモードは濃厚すぎて長時間は疲れますが、実験音楽や音響系では非常に印象的です。SIMピンで簡単に切り替えられるハードのディップスイッチは、音の変化が非常に自然で実用的です。

IMG_4506.jpg
Regalのディップスイッチ

イヤーピースの効果も顕著です。 標準のバランス以外の音の変化は次のようなものです。
・Vocalチップ:低域が適度に減り、SHANTIのような透明感のある女性ヴォーカルが際立ちます
・Sound Stageチップ:謎のウレタン構造で音場が傘のように立体的に広がるのがユニークです
・Bassチップ:独特の寸詰まりの形で超低域がさらに深まり、頭が震えるような感覚が増します
・SpinFit:最もモニター的でフラットな傾向です

実のところカスタマイズの音の変化も大きく面白いのですが、バランスモード+バランスチップの標準的な音が最も自然に感じました。標準状態で完成度が高いので、曲や好みで味付けしたい場合は組み合わせていくという感じですね。

* M7T単体の音のインプレ

次はM7Tのサウンドインプレです。単体の試聴はまず慣れたqdc WhiteTigerを使いました。M7Tの音も二つの違いが面白いと感じられます。
トランジスタモードでは、MUSES8920の影響が強く、暖かく陰影豊かな音色が特徴です。低域はとても引き締まり、ウッドベースのピチカートは弾むようにタイトで、解像感が非常に高いと感じられます。ハイハットやベルの高域も刺激が少なく、温かみがありながらシャープさも保っています。
全体的に「少し暗めで陰影を強調する」傾向があり、それが楽器の質感を美しく引き立てます。
またデジタルフィルターで音をカスタマイズすることもできます。微妙な変化ですが、好みに合わせてAndroidの設定から切り替えることができます。

IMG_2946.jpg
qdc WhiteTigerとM7T

真空管モードに切り替えると、音に華やかさと艶やかさが加わります。トランジスタモードのような音の引き締まった感じは若干減りますが、過度に甘くならず「品のある暖かさ」に留まります。特にジャズボーカルで地下クラブのような雰囲気が出るのが心地よいところです。
両モードとも、低音をブーストするような味付けはなく、あくまで自然で高性能な再生を追求している印象です。

次にRegalとM7Tを組み合わせたインプレです。

* RegalとM7Tの組み合わせの音のインプレ

RegalとM7Tはどちらも音の自由なカスタマイズができるので、様々な他の機材と組み合わせることもできますが、RegalとM7Tを組み合わせると音の相乗効果が一際高く感じられます。それはどちらも同系統の温かみのある音ということ、DAPとイヤフォンが同じ思想のもとに作られた感じがします。
そしてRegalのバランスモード+バランスチップという一番基本的な設定がM7Tに一番よく合うという親和性があります。

IMG_4496.jpg
RegalとM7Tと専用ケース

RegalのサウンドはM7Tを使うと、M7Tの音の温かみと相まって音色も一際美しく感じられます。M7Tのトランジスタモードでも温かみが感じられ、とても滑らかな音再現が楽しめます。ジャズとかロックというより、例えばチルっぽいメロウで適度に躍動的で美しいメロディーの音楽と相性が良いですね。真空管モードもメロウで良いけれども、トランジスタモードにするとRegalの性能ポテンシャルを引き出しながら音楽的でかつ高精細な楽しいリスニングができます。それにより、より壮大で細かなニュアンスが伝わります。
例えば音響系やエレクトロニカのアーティストがよく背景ノイズを少しのせるけれども、そうした細かな工夫もよく伝わります。

M7Tはモニター向けかリスニング向けかと言うと、かなりリスニング向けのDAPですが、トランジスタモードでも暖かく、特に音楽的なRegalとトランジスタモードで合わせると、MUSESのリファレンスという感じがします。MUSES作った人たちはこういう音を考えていたのではないかなという感じでアナログ的で美しい音を楽しめます。

* まとめ

レビューのために試聴をしていると、大体聞きどころがわかると曲をスキップするものです。しかしM7TとRegalはこのままこの世界に浸っていたいと思わせるほど魅力のあるサウンドで最後まで音楽を聞かせてくれます。

IMG_2941.jpg

Shanling RegalとM7Tは、それぞれ単体でも十分に満足できるハイエンド製品ですが、組み合わせることで互いの良さが最大限に引き立ちます。そこに同じDNAの親和性を感じます。
イヤフォンの「Regal」 とDAPの 「M7T」はそれぞれフラッグシップではありませんが、それに準じる位置にあるハイエンド機材です。フラッグシップモデルは最高のスペックを要求されるので、どうしても性能寄りの冷徹な音になりがちです。「Regal」 + 「M7T」の立ち位置がその性格をわかりやすくしたのかもしれません。

「高性能でありながら疲れず、音楽に深く浸りたい」 、「低音はたっぷり欲しいけど品良く、中高域は甘く美しく」 などリスニング的に温かみのある音楽を楽しみたいというユーザーに勧めたい組み合わせがM7TとRegalと言えるでしょう。
posted by ささき at 09:57 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年12月04日

PhilewebにMEMSドライバーがイヤホンに「健康管理機能」をもたらすという記事を執筆

PhilewebにUSoundのMEMSドライバーが、追加センサーなしでイヤホンに「健康管理機能」をもたらすという記事を執筆しました。
例えばQCY N70にファームウェアのアップデートだけで心拍数などがわかるようになる(かもしれない)というものです。

https://www.phileweb.com/review/column/202512/02/2789.html
posted by ささき at 06:31 | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年12月02日

スタジオの正確さとミュージシャンの情熱の融合、VOLK Audio「ÉTOILE」レビュー

VOLK AudioはEmpire Earsに在籍していたJack Vangが、自らの理想を実現するために立ち上げたブランドで、その処女作である「ÉTOILE」(エトワール、星の意味)は、限定生産350台でブランド創設を記念したFounder's Editionです。価格は(税込実勢価格)59万4千円。

IMG_4530_DxO.jpg

ETOILEは創業者のJack Vangと、マスタリングエンジニアのMichael Gravesとの10年にわたるコラボから生まれたIEMです。これはETOILEを語る上で重要なポイントなので、まずロサンゼルス・OSIRISスタジオのホームページに書かれた二人のエピソードから記事をはじめます。

* LAのスタジオにて

2013年にロサンゼルス・OSIRISスタジオでマスタリングエンジニア、Michael Gravesは、ある若きIEMデザイナーから送られてきた彼のマスタリング作業専用に作ったIEMのプロトタイプを耳にしました。それが彼とJack Vangとの出会いでした。
Michael Gravesはその出会いについてこう語ります。「それらはゲームチェンジャーだった。ヘッドホンでは決して得られなかった明瞭さとディテールを教えてくれた。それから12年以上、私は毎日あのIEMを着け続けている。音を職業として30年近く向き合ってきた今、私はどんな音の再現を求めているのかをはっきり理解するようになりました」。
Jack Vangはその後、Empire EarsでRaven、Novusといった伝説的なフラッグシップを世に送り出し続けて一流の開発者として名をなしました。しかし彼はそこから離れ、2023年に再びMichael Gravesのもとを訪れて、また力を貸してほしいと伝えます。Michael Gravesは迷いなく受諾しました。
Michael GravesはETOILEの誕生についてこう語ります。「長年の経験を土台に、私たちは試作機のブラッシュアップを密に重ね、音についての共通言語を共有しながら取り組みました。完成した最終バージョン──ETOILEは、私が求めていた“音の真実”そのものでした」。

また、Michael GravesはVOLK Audioの動画の中でこう語っています。「普通マスタリングエンジニアは部屋の響きが必要なのでイヤフォンやヘッドフォンを使いませんが、ETOILEを聞いた時は自分のスタジオの音と同じ"真の音だ"と感じた。リファレンスモニターに必要なものはバランスが取れていて、すべての音が聞こえることだ。ETOILEではしっかりとそれが確認できる」。
OSIRISスタジオはMichael Gravesが経営するスタジオで、オーディオ・リストレーション(修復)が可能な、極めてニュートラルで正確なモニタリング環境として知られているようです。つまりETOILEは「マスタリングエンジニアが本気で承認したイヤフォン」であり、IEMというよりもニアフィールドリファレンスモニターと言えます。
グラミー賞を5回受賞したエンジニアが自分の音を理解したと言わしめたIEMとは、と興味が湧くエピソードです。同じスタジオでの音の作り手でも、リスナーの代弁者と言われるほどマスタリングエンジニアは我々リスナーに近い位置にあります。そのため彼らが良いと思うIEMは我々にも届く音のはずです。

* ETOILEの特徴

Jack VangはVOLK Audioの立ち上げに際して「ETOILEは単なるIEMではありません。それは音楽の魂を宿す器であり、単なる技術的優位性を超えた"意志"を込めて作り上げられたものです」と書いています。
彼はその開発において解決しなければならない課題があると考え、そのために新しいバランスド・アーマチュアの組み合わせ、完全再設計のクロスオーバー、Sonion製ESTドライバーを導入、さらにその先へということで独自のM8静磁ドライバーを搭載しました。

etoile 図2.jpeg

ETOILEは10ドライバーによる6-Wayクロスオーバー構成を採用しています。IEMのノズル先端の穴は5つも別々に穿たれています。
低音域は、VOLK独自の10mmダイナミックドライバー「M10」によって支えられており、20Hzから350Hzの周波数帯域をカバーしています。
中音域は4基のSonion製BAドライバーが担当し、350Hzから8KHzまでの周波数をカバーします。4基の構成は2基のデュアルダイアフラムドライバーが中音域を担当して楽器やボーカルに自然な重みとリアリティを加え、2基のシングルダイアフラムドライバーが中高域の発音の明瞭さや倍音の整合性を高めるという2層構成になっています。
特徴的なのは高音域で、SONIONのEST4基とVolk独自の静磁ドライバー1基の両方でオーバーラップされてカバーされます。ESTは8KHzから45KHzまで高音域を広くカバーし、VOLK独自の「M8」と呼ばれる8mm径の静磁ドライバー(平面磁界型ツィーター)は50kHzまで伸びますが、主に8kHzから12kHzをカバーする主役となります。この高域部分の仕組みについては直接Jack氏に聞いてみました。
M8ドライバーで大事なことは構造よりもむしろその担当する8kHzから12kHzまでの帯域です。Jack氏は特に音色、倍音、トランジェントのニュアンスにおいてM8が重要な役割を果たすといいます。そして12kHz以上になるとESTが超高速性と伸長性により主役を担います、ただしM8も補助的に50kHzまで伸びていくとのこと。これらは可聴帯域を超えると思うかもしれませんが、Jack氏によるとこうしたESTとM8の相乗効果が空気感、開放感、空間の洗練度という「体感される雰囲気」を作り上げるそうです。またJack氏はホームページに「ESTドライバーによって、解像度や抜けの良さ、立体感は実現できるが、ESTドライバーだけに頼ると音質に“深み”が欠けていると感じ、独自の8mm静磁ドライバーのM8を搭載した。これにより、音の厚みと質感を高めている」とも書いています。
10 kHz 前後あるいはそれ以上の高域は音楽を良く聞かせるために極めて重要な帯域で、マスタリングエンジニアが重視する帯域のひとつでもあります。例えばあるエンジニアは「10kHz付近は量のバランスによる違和感が生まれやすい繊細な領域なので、慎重にレイヤリングしないと不自然になる。逆に適切に割り振れば、ミックス全体に透明感と輝きを与えられる重要な帯域である」という旨のことを書いています。
この辺りもエンジニア目線で作られたIEMということができるかもしれません。しかしそれはリスナーの我々にとっても有用なはずです。

etoile図ドライバー.jpeg

イヤフォンの筐体を見ると、大きめの筐体がとても軽い樹脂製のシェルに包まれています。シェルは大柄ですが、ユニバーサル形状が良くて耳にはぴったりとはまり込みます。軽いので見た目ほど装着感は悪くないですが、女性などには多少大きいかもしれません。
金属ではなく樹脂シェルを使用したのは軽量化もあるでしょうが、静磁ドライバーの精密な磁気的構造を考えるとその特性を妨げない非磁性のシェルが有用なのではないかと思います。
また全ドライバーを共有音響空間内に配置し、シェルに搭載したデュアルベントも特徴的です。インピーダンスは8.8オームと低いので、DAPやアンプには考慮が必要です。

etoile 図シェル.jpeg

フェイスプレートもハイエンドイヤフォンによくあるような宝石のような華美なものではなく、アルミニウムをCNC加工して24K金メッキを施したフレームの下にイタリア製サフィアーノレザー(皮革)が配されて、その下に樹脂プレートがある多重構造です。
見た目が豪華になる製品が多い中で質実剛健の設計で、共振を防止しています。イタリア製サフィアーノレザーはパッケージにも採用されています。
もともとスタジオで使うことを想定したIEMでもありますが、VOLKのホームページには「我々はクロスオーバーに名前を付けない」という言葉が書かれていて、商業主義的ではない質実剛健さを感じさせます。

etoile図ケーブル.jpeg

標準ケーブルは高純度導体の単芯5N OCC銀、単芯4N銀、銀メッキ6N OCC銅、金メッキ4N銀、パラジウムメッキ4N銀の複数の素材を使用し、それぞれが電流の形成、インピーダンス制御、絶対的な信号完全性の維持において最適な特性を持つよう厳選されています。かなり凝ったケーブルで、太いですがしなやかでタッチノイズもありません。

IMG_4500_DxO.jpg IMG_4516_DxO.jpg IMG_4521_DxO.jpg

パッケージは豪華で、スエードのポーチに厳重にプチプチで箱がくるまり、箱は多段の引き出しで内箱を引き出すことができます。宝石箱のようなパッケージです。
イヤピースはシリコンタイプの他にSymbioのフォームチップが入っています。Symbioはフォームタイプですが、軸に透明パイプが通っています。
ノズルが太くてはめにくいのですが、低音が増して高域が曇るという一般的なフォームチップの傾向とは異なり、全域で多少明るく先鋭感があがり少し派手目のメリハリがついた音になります。試聴にはもう少し抑えめな音のシリコンタイプを使いました。

* 音のインプレッション -「正確でかつ情熱的」

試聴はETOILEのプロサウンドのDNAを考慮して、A&K PD10で聴いてみました。PD10はXLR出力付きのドックなどプロ使用を意識しているようで、まさにVOLK Etoileに似合うDAPだと思います。

IMG_4214.jpg
PD10とETOILE

まず第一印象はとても解像力が高く、情報量が豊かで細かな音の洪水のような音に圧倒されます。低音が深く沈み、高域がスパークするように伸びやかなので、すごくワイドレンジ感が高く感じられます。細かな録音の粗までわかるような高い解像力とワイドレンジの音再現という性能面の高さがよくわかります。
そしてドラムのキックが強く、躍動感があり、ヴォーカルが生き生きとしているのに気がつきます。ロックのようなバンド演奏は迫力あり、カッコよく聴こえます。ヴォーカルには情感が乗って感動的に曲を盛り上げます。
スタジオエンジニアとのコラボというイメージから、解像力やワイドレンジ感など音性能は高いのは予想していましたが、いわゆる「モニター的」なドライな音と予想していた部分はあっさりと覆された感じがします。

IMG_4207.jpg

そしてよく聴き込むと、低音域は豊かでかなりたっぷりあるように聴覚的には聴こえるが、Bobby Bassのバスヴォーカルなどよく聞く低音の試聴曲で試してみると実は誇張しているようには聞こえません。正確な低音です。しかし超低域は深く沈み、重く、録音や曲によっては腹にくるくらいに重く感じます。正しい低音が出ていますが、とても低い領域までたっぷり出ているので「低音がすごい」と言いたくなる感覚に頭がバグりそうになります。

中音域のヴォーカルも艶がありながら、かつ正確性が高く感じます。SHANTIのヴォーカルは清々しく歌詞がとてもはっきりと聞こえてきます。バックバンドの音にマスクされることもなく、楽器音も声も両方高い解像力で聞こえます。低音はたっぷりありますが、不思議なことにヴォーカルにかぶることがありません。

高音域の再現性も素晴らしく、伸びやかで明るくシャープな高域を堪能させてくれます。そして刺激的なところがほとんどありません。シャープで伸びやかなイヤフォンは往々にして刺激的でキツすぎる傾向がありますが、ETOILEは伸びやかながらもきついところが少なく、つんざくようなキツさに怯えることなく安心して音量を上げることができます。
単に超高域まで再現するだけならば、ESTだけで十分でしょう。性能が欲しいだけならば、さらにESTの数を増やせば良いでしょう。しかし、さらに自然な音鳴りを再現しようとした時に、ESTと静磁ドライバの音をオーバーラップさせて混ぜる必要があったのではないかと再認識します。

ETOILEのサウンドは、よく聴き込むとニュートラルでフラットないわゆるモニター的な正確な音ですが、おそらく普通に音楽を聴いていればリスニング寄りの音楽的なイヤフォンと感じるはずです。音場も十分に広く、解像力の高さが楽器音を浮き上がらせて立体的に聴こえます。まさに正確でかつ情熱的という排反するような要素を持つIEMです。それがJack氏の挑戦でもあるのでしょう。

IMG_4196.jpg

音楽ジャンルで言うとクラシックのオーケストラ曲によく合います。というか、イヤフォンでここまでオーケストラを再現できるものはないのではないかとも思えます。ワイドレンジで解像力が高く、かつ整っていてどんな音でも破綻が少ない音です。低音が深く音場が広く、スケール感があります。
例えばロリンマゼールとベルリンフィルの演奏によるリムスキーコルサコフ「シェラザード組曲」の冒頭、サルタンのテーマであるオーケストラの全奏部分の雄大なドラマの迫力と、シェラザードの声を表す美しいソロバイオリン(とハープの伴奏)の音色の美しさの両方がどちらも際立って楽しめます。サルタンの威厳とシェラザードの美声が千夜一夜物語というドラマを見事に再現しながら、対照的に噛み合う様は感動的です。

アカペラ曲もまた良く楽しめます。良録音のアカペラを聴くと声の背後にある空間が聞き取れるような感覚があり、まるで収録したスタジオやホールが透けて見えるような気がしてきます。アカペラと正反対にメタルを聴いても高い刺激的な音は少なく、本来はこうした音なのだと考えさせられます。しかしドラムスのキックはしっかりと腹に響きます。

試しにPD10からKANN Ultraに変えてみると気がつくのですが、実のところ数少ないけれども、ETOILEはKANN Ultraでも物足りなく感じてしまうIEMの一つです。
PD10に戻してみると、ハチスノイトの声が絡み合う複雑な音楽で様々な音の立体的な重なりの洪水のような音世界に唖然としながらも、その一つ一つのピュアな声の音色の美しさにただ感動してしまいます。ここまでの音楽体験はETOILEとKANN Ultraでは得られませんでした。PD10やSP3000/4000クラスでないと真価は発揮できないタイプのイヤフォンで、DAPの性能をそのまま露わにしてしまうのもモニターIEMらしいというべきかもしれません。
エクスカリバーがアーサーでなければ引き抜けなかったように、ETOILEはDAPに真の王の資格を問うイヤフォンでもあります。

IMG_4211.jpg
DX280とETOILE

ためしにスティックDACでも鳴らしてみましたが、極端に低能率ではないので音量は不満なく出ますが、PD10やSP3000でゾワゾワとくるティングル体験のような感覚的な快感を味わってしまうと、さすがに物足りなくなります。
ただDAPの相性はあって、ハイエンドでなくとも合うDAPもあります。例えばiBasso DX280です。DX280のFIR4xモードの滑らかさと細かさが驚くほどの音体験となります。DX280とETOILEはkashiwa daisukeとかfilmsなどのエレクトロニカ勢の複雑な音楽が情報量の洪水のように流れてきて、その音世界に圧倒されます。それが単にApple Musicのストリーミングで楽しめるのだから驚きです。

PD10とETOILEの組み合わせは聴き終わると深くため息が漏れてしまうタイプの機材の一つです。それはリスナーが音楽に真摯に向き合っていたからなのでしょう。スタジオエンジニアが音楽を作るために真摯に向き合っているように。

* まとめ

端的にいうと、ETOILEはモニター的で正確なのにリスニング的に楽しいという逆説的な融合を実現したIEMです。
Jack Vangは、「ETOILEはマスタリング機器の正確さと、演奏の感情性を併せ持つ存在です。それはVOLKの基準そのものの体現なのです」と書いています。その言葉の通りにETOILEはリアルさ、正確さと音楽性をかなり高い次元で両立しています。4種類ものドライバーが混在する複雑なドライバー構成なのに、音が上から下まで一貫しているのにも驚かされます。
もう一つ逆説的ではあるけれども、ETOILEは聴いている曲が美しいのはイヤフォンが良いからではなく、音楽そのものが美しいからだと再認識させてくる稀有なIEMの一つであり、それは冒頭に挙げたような開発経緯の故だと思います。実のところ、冒頭のエピソードがほとんど全てを語ってくれていて、わたしの長いレビュー記事はそれに多少補足をしたに過ぎません。
音楽の持つ細かな情報量、高音域の質感、低音の打撃感など、それらはイヤフォンが作り出したものではなく、もともとの音楽に入っていたものをETOILEが上手に取り出しているのです。
本来はミュージシャンとスタジオエンジニアが作り上げた音楽と、我々リスナーの間にはケーブルや振動板などはないのが理想です。それは今の技術では不可能ですが、その理想に近づけることはできます。その解の一つがVOLK Audio「ETOILE」なのです。
posted by ささき at 06:39 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年12月01日

PhilewebにNTT武蔵野研究所の「空間ANC」の記事を執筆

PhilewebにNTT武蔵野研究所の「空間ANC」の記事を執筆しました。
展示ブースは車内を模して走行中の動画を三面に投影、走行音をスピーカーから流してます。床の真ん中には座席を模した四角の枠があり、そこが空間ANCが効く領域です。歩いていって四角のエリアに入ると走行音が低減されるのが分かります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。

https://www.phileweb.com/review/column/202512/01/2804.html

2ブースの入り口から全体を見る1.JPG 4 今回使用したハードウエア.JPG
posted by ささき at 15:40 | TrackBack(0) | __→ PCオーディオ最新技術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年11月27日

パッシブ型セラミックコートツイーターを採用した個性的な音、Maestraudio「MAPro1000 II」レビュー

Maestraudio「MAPro1000 II」は初代に比べて低音を抑えて、よりモニターライクにしたというプロ用を意識したイヤフォンです。

IMG_4227.jpg

ドライバーはダイナミックドライバーとパッシブ型セラミックコートツイーターのハイブリッド構成です。ダイナミックドライバーは10mm径のグラフェンコート、ツイーターはパッシブ型セラミックコートツイーターで、オーツェイド社が培ってきたピエゾテクノロジーを応用して、IEM向けに開発したものだそうです。MAPro1000 IIに搭載されているのは5.8mm径RST(Reactive Sympathetic Tweeter)というタイプです。RSTは従来のVSTに比べて広い指向性を有して、小さな筐体内で高音が効率的に前方に伝わります。
スクリーンショット 2025-11-27 10.50.11.png
実際このシリーズは装着感を重視していて、小型軽量ハウジングを採用しています。
またMAPro1000 IIでは内部配線を銀入りハンダ(銀配合ハンダ)に刷新、MMCXコネクター部に特殊形状の接点補正ワッシャーを新採用しています。

もう一つの特徴は音の変化を楽しめるというサラウンドイヤーピース「iReep01」が付属しています。従来よりも細身のイヤーピースです。
これはゲームなどでサラウンド的な効果を得るためのもので、イヤーピース内部の特殊形状により初期反射音を発生させ、ホールのような残響感と奥行き感を付与するというものです。

IMG_4225.jpg
細い方がiReep01

音の試聴はA&K SR35で行いました。

IMG_4222.jpg

MAPro1000 II はとても中高音域の解像感の高い音で、楽器の音がクリアで鮮明です。残響がよく聴こえる点で、空間の広がりが感じられます。弦楽器の音色が良く、声が聴き取りやすい感じです。低域は出過ぎてはいないけれども、低音がたっぷりと感じられて音楽の下支えになっています。

特徴的な中高音域の先鋭さがアクセントになっていて、モニターと銘打っているけれどもリスニング向けとして聴きやすいイヤフォンです。躍動感がある。音の歯切れの良さが気持ち良い。ゴーゴーペンギンのRavenでは特徴的な冒頭のピアノの打鍵音も美しく響き、続くテーマパートのスピード感が良い。
メタルのハイスピードのドラムロールでは歯切れの良い躍動感と、低音のたっぷりした量感があいまってなかなか良い感じです。

イヤーピースを細い方に変えると音の広がりが一際よく感じられる。広がるというよりも開放感が出るという方が正しいかもしれない。変わった味付けができると思います。

IMG_4224.jpg

価格は実勢で12,000円前後ですが、パッシブ型セラミックコートツイーターによる音の歯切れ良さはこの価格帯ではなかなか得られないと思います。バランスで聴きたくなるような音のポテンシャルもあります。MMCXでリケーブルができるのも良いですね。
ハイブリッドの良さがよくわかり、パッシブ型セラミックコートツイーターによって他にないような音の個性があるイヤフォンです。
posted by ささき at 11:03 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする