XM2のUSB DACモード
ONIXでは以前「Mystic XP1」の記事を書きました。http://vaiopocket.seesaa.net/article/503758608.html
ONIXはイギリス発祥のブランドですが、現在ではShanlingと強い提携を結んでいます。XP1は音質的には「ブリティッシュサウンド」として黒箱時代のLINNを思わせるような陰影あるトーンの音と、最新のShanlingのファームを組み合わせた、質実剛健な面と近代的な機能性を併せ持つDAC一体型のヘッドフォンアンプでした。
XM2とAzla Trinity
XM2は四角形のコンパクトDAPというユニークな形がまず特徴です。3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを搭載、800mWと高い出力性能を誇ります。1Wあるとだいたい据え置きヘッドフォンアンプくらいと言っても良いので、コンパクトDAPにしてはかなり高い出力性能です。
またワンタッチで画面を90度変えるスクリーン回転機能ができるので接続に応じて様々な使い方ができます。これは後でUSB接続するときに大きく意味を持ちます。
* XM2の特徴
XM2はDAC部分にCirrus Logic社のCS4308Pを搭載、I/V変換にはBrighton I/V変換ステージでデュアルOPA1612オペアンプを採用、アンプ回路には、デュアルSGM8262-2オペアンプを採用しています。
なんのことやらと思う人も多いかもしれませんが、まずここからXM2の見えない特徴を解き明かしていきます。
DACに使われているCS4308PはESS Sabreシリーズのように8chの出力を持つ、シーラスロジックの最新DACです。
8チャンネルある意味は何かというと、まず8chもあるとフルバランス構成に必要な4chをクリアして、さらに4chあまります。つまりチャンネルあたりデュアルDAC相当でフルバランスできるということです。
この利点はSNの向上です。なぜかというと、二つのDAC出力を加算すると、信号は単純に2倍になりますが、ノイズ成分はルート2(√2)でしか増えないからです。
これは一般的なデュアルDACの効果ですが、シーラスロジックではこのCS4308Pを出すときにこの点をCS4308P推奨設計ガイドとして公開してドキュメントにしています。これは秘密主義のESSとはちょっと対照的です。
[CS4308P推奨設計ガイド 参照リンク]
このドキュメントによると、XM2のフルバランス構成でデュアルDACとしているのは、つまりOUT_SUM_MODE(Output Summing mode)というDAC出力加算モードであり、このときXM2はこのガイドの「OUT_SUM_MODE=0x1」の設定になります。(0x1は16進数の1というプログラム的な意味です)
これで出力電流が二倍になるので、ここでデュアルOPA1612オペアンプの「Brighton」I/V変換ステージが生きてきます。並列で電流が倍になり、I/V変換がより低ノイズで正確になります。
XM2は、さらに出力段もSGM8262-2がデュアル搭載されて強力です。SGM8262-2自体がデュアルオペアンプなので、それが二つで4chのバランス駆動が成り立ちます。つまりXM2は小さいけれどもDACからアンプまでフルバランス構成であり、アンプのSGM8262-2は出力電流能力が高く負荷駆動に余裕があります。
端的に言えば、XM2の構成は低ノイズでかつ低インピーダンスに強いということです。つまり高感度マルチBAやハイブリッド構成にとても向いています。
言い換えると、XM2はコンパクトなのに低インピーダンスIEMも、フルサイズヘッドホンも余裕で鳴らすというのが、「DAC部分にFPGAとCirrus Logic社の CS4308Pを搭載、IV変換にはBrighton I/V変換ステージでデュアルOPA1612オペアンプを採用、アンプ回路には、デュアルSGM8262-2オペアンプを採用」という「電流マシマシ音カラメ」みたいな呪文の効能であり、XM2の全体のSN値としては121dBなので、他のハイエンド機と比較してもさほど遜色ない値です。これが「コンパクトなのにフラッグシップクラス」という売り文句の理論的な根拠でもあります。
さらにXM2はAndroid非搭載なので、音質的には重いAndroid搭載DAPよりは上となるでしょう。
しかしながら、Android非搭載ということはいまどきのストリーミング時代では問題となりそうに思えます。
XM2ではそこをコンパクトなフォームファクター、回転式スクリーン、マグネット付きの専用ケースというギミックでカバーしているのが次の秘密です。つまりストリーミングに関してはスマホに寄生して、USB DACとなることで解決しています。
つまり、最新型のDAC ICを生かすために非Android DAPとして音質を向上させ、その分でストーリーミングに対応できないのをコンパクトさを生かして、(大きな)スティックDACのようにスマホに接続して使えるわけです。
* インプレッション
実機を触ってみると、とても手に馴染みやすく、コンパクトな筐体です。さきに書いたようにMagsafe対応のケースが付属します。(ただしOTGケーブルは付属していないので別途用意が必要です)
XM2はAndroidではない独自OSを搭載しています。Android DAPは多機能だけれど動作が重く音質が良くないというジレンマがあります。そのため多くのAndroid DAPはAndroidの各種サービスを切った音質専用モードのようなものを設けています。XM2は音質を取ったというわけですね。
UIはAndroidではないけれども、とてもスムーズに動作します。これはいわゆる軽量な組み込みOSですが、タッチUIで動作します。一時期のDAPのようなメニューを上下に動かすようなものではなく、タッチが可能で動きはサクサクとしています。ShanlingはCDプレーヤーに組み込みOSを搭載しているので、そのノウハウがあるのかもしれません。ちなみにメイン画面のUIの他にAndroidのように上からプルダウンさせるメニューもあります。USB DACにするときはここでモードを変えます。
XM2の画面回転機能(ファンクションキーに回転機能を割り当て可能)
Androidベースではないですが、WIFIもサポートしています。
WIFIでできることは、まずEddict Player接続です。Shanling系のユーザーにはお馴染みのEddict Playerアプリからポケットに入れたまま、リモコンのように操作ができます。
そして、AirPlay、DLNA、ファイル転送(ただし内蔵メモリはありません)。この他にもOTAでファームアップができる予定とのこと。
USB出力もできます。その際には固定と可変ボリュームが選べます。
独自OSなので、ストリーミングアプリは直接XM2ではインストールできませんが、XM2をスマホのUSB DACとして扱いやすくすることで対応できます。ただしTIDALははじめから入っていますので、単体でもTIDALならばストリーミングはできます。
USB DACとしての音質などは後で別に書きます。
電池は公称8.5時間、実測ではエージングの時に測りましたが7時間くらい連続再生が可能です。
* 音質
音はまず透明感が高く、細かく解像してSN感が良い音と感じます。また音の響きが美しく、とても整っています。
XP1のときに感じた陰影感あるトーンはさほど強くなく影を潜めていますが、無機質的な感じではなく、心地よさはあります。シーラスDACの音とこのチューニングの相性が良いですね。黒箱LINNが現代LINNになった感じでしょうか。実際、先に書いたSN優先の設計ゆえではありますね。
XM2とqdc White Tiger
もう一つの音の特徴はパンチが強い音だということです。低音の力感とパンチがあります。音は左右に広く、コンパクトなDAPながら音のスケール感は大きいと感じます。後で書きますが、実のところUSB DACモードでスティックDACと比べた場合に、スケール感は利点として感じられます。
XM2の最大の強みは透明感あるSNの高さとパンチの強さです。リスニング寄りにチューニングしてあり、低音はパンチが強く中高域は音色が美しいという感じのサウンドですが、これはつまりハイブリッドにとても向いています。
* イヤフォンとの相性
イヤフォンの相性としてはShanling のハイブリッド構成IEM「Regal」とすごく相性が良い感じです。ShanlingとONIXが関連企業ということもあって、もしかするとリファレンスに使ったのかもしれないけれども、あつらえたようによく合います。RegalはShanling 「M7T」とも相性良かったけど、ONIX/ShanlingはDAPとイヤフォンの相性確認をきちんとやっているのかもしれません。あるいは開発ポリシーがきちんと整合しているのかもしれません。
XM2とRegal
ハイブリッドらしく中高域は鮮明で、低域はパンチが強いというXM2の良さを両方楽しめ、音の広がり、細かさともによくXM2の良さを引き出しています。高音域もかなりシャープに伸びるけれども、キツくならないのが良い点です。
低音はかなり強めになりますが、ヴォーカルにはあまり被さりにくいと思います。全体的にリスニング寄りで、かつ性能が高いサウンドです。
そしてRegalとの組み合わせで面白いのは、Regal側のスイッチ設定の使い方です。
スイッチは標準のバランスモードでもだいぶ低音は出るけれども、低音強調の「アンビエントモード(1をオン)」にすると、かなり誇張されているくらいに低音がたっぷりと出ます。とはいえそれほど中高域も被されて埋もれている感が少ないのは、XM2の音がシャープだからかもしれません。曲によっては、けっこう頭蓋骨がゆれるくらい、どばっと低音が出ます。これはなかなか快感です。
さらに全域強調した「ビューティフルモード(両方オン)」はポップのようなうるさい曲だと疲れる感もありますが、チルとかアンビエントに使うと良い味出してくれます。
ディップスイッチは爪楊枝で簡単に変えられるので、ちょっとやって色々と味変してみるのも面白いですね。
* USB DAC として
USB DACとして使うと、力強さ・パワー感が一層高く感じられます。バスパワーのスティックDACだと、どうしてもパワー感という点では限界があるので、電池内蔵のDAPをUSB DACとしてスマホにくっつけて使うのは意味があるように思います。
XM2とRegal
XM2とアンビエントモードにしたRegalをスマホのUSB DACとして使うと、正確な音ではないけどその破壊力・迫力はなかなか変え難いものがあります。しかも音が意外と崩れずに鮮明な中高音も両立しています。XM2とアンビエントモードの組み合わせはちょっとクセになります。
USB DACとしてスマホの背面に乗せる時には回転機能を使うと表示が正立して見えます。
* まとめ
XM2は最新CS4308Pをフル活用するためにAndroidを潔く捨てた結果、透明感抜群・SNの高いクリアな音と、800mWのパンチが詰まった本気で鳴るサウンドを実現したDAPといえます。四角いフォルムに回転画面、マグネットケースでスマホにピタッとくっついて「でかいスティックDAC」に変身するというユニークな使い方も魅力です。
そして本機の面白さは、「なぜこれだけ小さいのに強いのか」という点にあります。CS4308Pのマルチ出力を合算してS/Nを稼ぎ、デュアルのI/V変換と余裕のある出力段でしっかり駆動力を確保する、つまり回路全体を通して電流をしっかり扱う設計が貫かれていることが、このサイズからは想像できないスケール感とパンチの理由です。
さらにAndroidを搭載しないシンプルな構成とすることで音質を高める一方で、それで失うストリーミング機能はUSB DACとしてスマートフォンと組み合わせることで解決する。この割り切りも含めて、XM2は単なる小型DAPではなく、音質を優先した結果としての形を持ったプロダクトです。
つまりXM2は、単体DAPとしても、スマホと組み合わせた「でかいスティックDAC」としても使える一台です。ユニークな外観の中に詰め込まれた緻密な設計と、その設計がしっかり音として現れている点こそが、XM2の最大の魅力と言えるでしょう。

