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2026年02月23日

ミニモンスター・スティック型DAC、Astell & Kern「HC5」レビュー

もとはスマホからイヤフォン端子がなくなったことに端を発したスティック型DAC(またはドングルDAC)ですが、最近ではハイエンドタイプの機材も増えています。
Astell & Kern 「HC5」はそうしたハイエンドタイプのスティック型DAC(ポータブル USB DAC)です。2月21日(土)発売、直販価格は税込 84,700 円です。3.5mmと4.4mmバランスのイヤフォンが使用できます。
まずHC5の特徴から説明していきます

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* HC5の特徴

HC5はダウンサイズしたSP4000とでも呼べそうなミニモンスターで、ハイエンドDAPの設計をコンパクトにした点がポイントです。

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1. ハイエンド並みのDAC
まずスティック型DACとしては初めてAKM AK4191EQとAK4499EXのDACペアを採用しています。AKM AK4191EQとAK4499EXの組み合わせは、従来は1つのチップだったDACを、透明感とクリアさを追求するために、デジタルとアナログの境界線で物理的に切り離し、あえて2つのチップに分けた贅沢なセパレート型DACです。HC5ではこのペアを1組搭載しています。(SP4000では4組)

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2.強力なアンプ
また、HC5ではイヤフォンの駆動力を高めるための「High Driving Mode」を搭載しています。これもSP4000に搭載された機能で、アンプ回路を二倍にして並列動作させることで、ノイズの低さとイヤフォンを駆動する力を両立させた方式です。いままでは駆動力を上げるとノイズが増えてクリアさが失われがちですが、並列にして負荷分散するという工夫で解決したわけです。ただしSP4000ではオンオフができますが、HC5ではデフォルトでオンでオフはできません。

3. DARの搭載
また、AK DAPの上位機種に搭載されているDAR(Digital Audio Remaster)機能も搭載されています。
DAR機能は、CD品質の音源でもハイレゾにリアルタイムに変換できる機能です。DARでは従来のようにソフトウエアではなく専用ICのハードで実現しているのがポイントです。IC処理なので、CPUに負担をかけないので低ノイズでハイレゾ化できます。

4. 低ノイズ化の工夫
またHC5はスティックDACならではの機能として、優れた PSRR(電源ノイズ除去比)、CMRR(コモンモードノイズ除去比)性能を備えた専用アンプを搭載しています。簡単に言うと、PSRRは電源からのノイズ、CMRRは周囲の電磁波ノイズを打ち消す力のことです。これによって、HC5はスマホやPCのバスパワー電源から伝わってくるノイズや、周囲のスマホなどからのノイズの放射など電気的な雑音を効果的にシャットアウトすることができます。これでスティックDACの宿命だった、無音時の「サー音(ホワイトノイズ)」を低減できますので、高感度IEMにも向いています。

これらはAstell & Kernらしい低ノイズ化の取り組み、それによってDACだけに頼らずに地道にSN比を上げて音を鮮明にするための工夫が随所になされているわけです。

このほかの特徴としては細かいところではDACのフィルターを変えることで音の味付けを変えることができます。また、UAC2.0/1.0 切替機能がついているのでゲーム機でも使えます。
細かいところではボタンをダブルクリックするとボリュームホイールがキーロックされます。

そして1.62 型 OLED ディスプレイを搭載、サンプリングレートやモード設定がわかりやすいのもポイントです。HC5では多機能なので、こうしたディスプレイがあると助かります。
音量調整はボリュームホイールにより、150ステップの細かい音量調節が可能です。これによりセンシティブな高感度IEMなどでもきめ細かく音量の調整ができます。

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接続ケーブルとしてはUSB-C と Lightning の 2 本の着脱式デュアルノイズシールドケーブル付属していますので、iPhone 15以前のiPhoneでも使用できます。
それでは実際に音を聴いてみます ... が、その前に携帯しやすい工夫をしてみます。

*Mag Safe化

大きさはDC Eliteと変わらないので、DAC Pocket ラージで入りますが、せっかくのディスプレイが見えず、サイドボタンが押せないという問題があります。

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そこで自分でMagsafe仕様としました。

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Amazonで売ってるエレコム「マグネットパッド MAGKEEP」を使って、中の付属の両面接着剤を使ってMagsafe対応磁石に接着します。この接着剤は剥がすことも可能です。なかなか良い感じにできました。

これは他のものでもよく使っています。ただスティックDACだとはみ出した部分がゴミを拾いやすいので、iFi hip DACなど広いものにより有効です。

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hip DACとマグネットパッド

さて、実際に音を聴いてみます。

* HC5のインプレッション

試聴はiPhone 17 Proに接続して行いました。静かな部屋でHC5の着脱前後で比較しても、背景ノイズは高感度IEMでもほとんどなく、スマホにつけたスティックDACにありがちなチリチリいう電波輻射のノイズも通常はほとんど感じません。たまにちょっと感じる程度です。

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HC5とXIO

端的に言うと、HC5の音質はスティックDACとは思えないほど素晴らしい音質が堪能できます。
もう少し分解して言うと、HC5の音質では驚く点が4つあります。

1 スティックDACとは思えないほど、音がとても細かいこと
アコースティック音楽の良録音だと、静かな黒い背景から細かい音がぞわぞわと浮き上がるさまがぞくぞくとしていきます。
2 スティックDACとは思えないほど、音場がとても広いこと
DACスペックから音が細かいだろうことは予想してましたが、これは新鮮な驚きです。コンパクトなDACアンプは音場も狭いという常識があったけど、これは裏切ります。包まれ感を感じるほど。
3 スティックDACとは思えないほど、とてもワイドレンジ
低音がとても深く沈み、高域はシャープに伸びていきます。Campfire Audio Claraとか使うと驚くほどの沈み込みと、突き抜けるような高音が際立ちます
4 スティックDACとは思えないほど、パワフルなこと
まるでSP4000のハイドライビングモードのような躍動感が味わえます。そしてパーカッションなどの打撃感がとてもタイトで小気味良いのも特徴です。

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もう少し細かく語ると、HC5の音傾向としては、低音はタイトでよく引き締まっています。誇張感はなく、全体にDAC自体の音はフラットです。音色はニュートラルで着色感はかなり少なくAKMらしい感じ。シンプルなせいか、DAPよりも着色感は少ない感じがします。
透明感が高く、歪み感もスティックDACとは思えないくらい低く、端正で透き通った音が楽しめます。これは音像をきりりと引き立たせて、立体感が高く感じられる要因でもあります。
音質が優れていると言う点ではロスレス・ストリーミングよりもローカルの音源の方が音質よく感じます。これはApple Musicアプリより、ローカル音源で使用しているHiBy Musicアプリの方が音が良いせいかもしれないけど、そのくらい感じるほど音質が高いと思います。

とにかくSNが高いのが際立っていて、単に解像度が高いのではなく、楽器音が一音一音が空間にくっきりと浮かび上がるSN感が高いと言うべきだと思う。音が彫り込まれたように鮮明で鮮やかで、地下鉄に乗っていても「ハアッ」というヴォーカルのため息が掠れる音が聴こえるくらい。これはノイズが低いと言うこともポイントになっていると思う。

DARやDACフィルターの効き具合もわかりやすいので、DAR PCM、DAR DSD、DAR offの組み合わで音を試してみると良いと思う。DARのアップサンプリングの品質が高いのも分かりやすい。アップサンプリングしても音が軽薄になりにくいです。

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*まとめ

音質レベルの高いHC5は10万とか20万のイヤフォンを持っているが、数十万のDAPはさすがに、と言う人のための良い選択肢です。高感度IEMを使う人にもおすすめですね。

ちなみにHC5は、いままでのA&K製品と異なり、持っていると多少熱くなります。オーディオ機器で熱いのはマイナスではなく、頑張って増幅しているなと感じさせてくれます。SP4000も同じですが、この辺は体制が変わって考え方が少し変化したことを窺わせます
一方で変わらぬものもあります。それは細かな設計、特にノイズ対策を徹底していると言う点です。
HC5は価格的には同価格帯のDAPよりは音質はだいぶ上のように思います。しかしそれは単にすごいDACを使ったからだけではなく、それを活かすためのノイズ対策までしっかり気を配ったトータルな設計の伝統が生きているからです。それはとてもAstell & Kernらしいことです。
posted by ささき at 18:19 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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