今年のCESから、オーディオ分野で特に興味深い動きがいくつか見えてきました。
単なる新製品発表というよりも、「市場がどこへ向かおうとしているのか」を感じさせるトピックが多かった印象ですね。ここでは個人的に注目したポイントを整理してみます。
1. 「平面型+ゲーミングヘッドフォン」という方程式
まず最も象徴的だったのが、平面型ドライバーを用いたゲーミングヘッドフォンの本格化です。
AUDEZEは新たに「Maxwell 2」を発表しました。前モデルからの変更点はいくつかありますが、特に注目したいのは、昨年発表された静電型ヘッドフォン「CRBN2」で採用された SLAM(Symmetric Linear Acoustic Modulator)技術が導入されている点です。
この技術は低域の空気制御を改善するためのもので、Maxwell 2では低域の量感やレスポンスが向上している可能性が高いと考えられます。
また、ASUSとHIFIMANの協業による「ROG Kithara」も発表され、こちらは明確にAUDEZE Maxwellを意識した製品と言えるでしょう。もっとも、Maxwellは密閉型かつワイヤレスである一方、ROG Kitharaは設計思想や用途がやや異なります。そのため単純な横並び比較ではなく、「平面型をどうゲーム用途に最適化するか」というアプローチの違いとして捉えるのが自然でしょう。
平面型ヘッドフォンは、音の分離や定位といった「音を正確に伝える」能力に優れています。トランジェントの速い、コツコツとした音の再現も得意です。
こうした特性が、現代のゲーミング、特にFPSなどで重要となる音像定位、と強く噛み合い始めたと見ることができます。
一方で、平面型ドライバーには弱点もあります。いわゆる「ドドーン」という重低音の演出は得意ではなく、ここでは平面型の正確性が裏目に出ることもあります。そこで重要になるのが正確性と演出感の両立です。これが「平面型+ゲーミング」方程式の最大のポイントになるでしょう。
つまり、平面型ゲーミングヘッドフォンの価値は、「正確さを犠牲にして迫力を得る」ことではなく、正確さをベースにして迫力を制御できる点にあると言えます。
なぜなら、演出感はDSPなどで比較的容易に作れますが、正確性は後から作ることが難しいからです。
こうして考えてみると、「平面型+ゲーミング」ヘッドフォンへの参入は決して簡単ではないことがわかります。平面型ドライバーの扱いと、ゲーミング用途の音作り、その両方に十分な経験を持つメーカーでないと成立しにくい分野です。現時点で可能性があるメーカーとして思い浮かぶのは、finalくらいでしょうか。
この構図は、最近増えている OTC補聴器における「イヤフォンブランド+補聴器ブランド」のタッグにも似ています。異なる専門性を融合させるクロスオーバーが、今の時代に強く求められているのだと感じます。
2. 大手メーカーがヘッドフォン市場に「復帰」
もう一つ見えてきた動きが、大手オーディオブランドのヘッドフォン市場への復帰です。
CESでは、Fenderがヘッドフォンへの再参入を発表すると同時に、Bluetoothスピーカー市場にも戻ってきました。今回は過去モデルの焼き直しではなく、製品構成やポジショニングを見る限り、戦略を明確に見直してきた印象があります。
また、Klipschも「Atlas」という新シリーズでヘッドフォン市場に復帰しました。
FenderもKlipschも、コロナ禍の時期にはこの分野から一度距離を置いていました。ブランド付加価値の高いメーカーほど、当時の市場環境は厳しかったのだと思います。それにもかかわらず、今回そろってヘッドフォンで復帰してきたということは、市場の再活性化と同時に、ヘッドフォンが再び「ブランド価値を載せられる製品」になりつつあることを示しているように思います。
両社とも大手メーカーですから、再参入にあたっては当然ながら綿密な損益計算を行っているはずです。まだ推測の域は出ませんが、パーソナルオーディオ分野が再び高付加価値化の方向へ向かい始めている、という見方はできるかもしれません。
一方で、TWS(完全ワイヤレスイヤフォン)市場はすでに成熟しきっており、新規参入が非常に難しいフェーズに入っている、という判断も透けて見えます。
3. イヤフォンがIMAX認証を取得
CESではもう一つ、非常に異色なニュースがありました。
BreggzのTWS「Zohn-1」が、イヤフォンとして初めて IMAX認証(IMAX Enhanced) を取得したのです。
IMAX Enhancedは通常、テレビやサウンドバー向けの認証であり、TWSでの取得は極めて珍しいケースです。Zohn-1はBAドライバーを採用している点や、パーソナライズ機能、工芸品のような独特なケースデザインなどが特徴ですが、詳細な技術情報はまだ多くが明らかになっていません。
Zohn-1は以下から購入可能ですが、価格は約15万円と、TWSとしては破格です。
https://breggz.com/products/zohn-1-rtw
ノイズキャンセリングはパッシブのみのようですが、BAドライバーはベントが不要なため、ユニバーサルシェルでも遮音性はそれなりに確保できると考えられます。加えて、音のパーソナライズ機能がこの製品の重要なポイントになっているのでしょう。
4. 家具屋IKEAのマルチBluetoothスピーカー
IKEAからは、ある意味でCESらしい「変化球」も登場しました。
10ドルという低価格のBluetoothスピーカー「Kallsup」です。このスピーカーは複数台のペアリングに対応し、最大で100台近い同時再生が可能とされています。おそらくコスト優先の設計で、Auracastは使用せず、独自実装のマルチ再生機能を採用していると考えられます。
理論的には、マルチスピーカーアレイにすることで1台あたりの負担が減り、歪みを低減することは可能です。ただしKallsupの場合、位相ズレなどを厳密に管理しているとは考えにくく、音質的なメリットは二の次でしょう。
IKEAらしく、空間を一気に盛り上げるディスプレイ用途や、パーティー向けの演出を狙った製品だと思われます。
5. 変わり種ヘッドフォンも健在
最後に少し変わり種として、ヘッドフォンをひねるとポータブルスピーカーになるという「TDM Neo Hybrid Headphones」も展示されていました。
CESらしいアイデア勝負の製品で、実用性はともかく、「音をどう使うか」という発想の広がりを感じさせます。
まとめ
今年のCESを俯瞰すると、平面型+ゲーミング、ブランド価値の再評価、認証や空間体験の拡張、異分野クロスオーバー、といったキーワードが浮かび上がってきます。
単なるスペック競争ではなく、「どの専門性を、どう組み合わせるか」が問われる時代に入ったことを、改めて実感させられると言えるかもしれません。
Music TO GO!
2026年01月10日
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