Music TO GO!

2026年03月22日

コンパクトでユニークなDAP、ONIX 「Tocata XM2」レビュー

ONIX 「Tocata XM2」(以降XM2)はパッと見するとコンパクトで手頃な価格のDAPですが、その中に高性能の秘密を秘めています。また、いまどき珍しいAndroid搭載でないDAPですが、ここにも秘密があります。本記事ではその見える特徴と見えない特徴を解き明かしていきます。

IMG_2351.jpg
XM2のUSB DACモード

ONIXでは以前「Mystic XP1」の記事を書きました。http://vaiopocket.seesaa.net/article/503758608.html
ONIXはイギリス発祥のブランドですが、現在ではShanlingと強い提携を結んでいます。XP1は音質的には「ブリティッシュサウンド」として黒箱時代のLINNを思わせるような陰影あるトーンの音と、最新のShanlingのファームを組み合わせた、質実剛健な面と近代的な機能性を併せ持つDAC一体型のヘッドフォンアンプでした。

IMG_6204.jpg
XM2とAzla Trinity

XM2は四角形のコンパクトDAPというユニークな形がまず特徴です。3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを搭載、800mWと高い出力性能を誇ります。1Wあるとだいたい据え置きヘッドフォンアンプくらいと言っても良いので、コンパクトDAPにしてはかなり高い出力性能です。
またワンタッチで画面を90度変えるスクリーン回転機能ができるので接続に応じて様々な使い方ができます。これは後でUSB接続するときに大きく意味を持ちます。

xm2回転.jpeg

* XM2の特徴

XM2はDAC部分にCirrus Logic社のCS4308Pを搭載、I/V変換にはBrighton I/V変換ステージでデュアルOPA1612オペアンプを採用、アンプ回路には、デュアルSGM8262-2オペアンプを採用しています。
なんのことやらと思う人も多いかもしれませんが、まずここからXM2の見えない特徴を解き明かしていきます。

cs4308P.jpeg

DACに使われているCS4308PはESS Sabreシリーズのように8chの出力を持つ、シーラスロジックの最新DACです。
8チャンネルある意味は何かというと、まず8chもあるとフルバランス構成に必要な4chをクリアして、さらに4chあまります。つまりチャンネルあたりデュアルDAC相当でフルバランスできるということです。
この利点はSNの向上です。なぜかというと、二つのDAC出力を加算すると、信号は単純に2倍になりますが、ノイズ成分はルート2(√2)でしか増えないからです。
これは一般的なデュアルDACの効果ですが、シーラスロジックではこのCS4308Pを出すときにこの点をCS4308P推奨設計ガイドとして公開してドキュメントにしています。これは秘密主義のESSとはちょっと対照的です。
[CS4308P推奨設計ガイド 参照リンク]
このドキュメントによると、XM2のフルバランス構成でデュアルDACとしているのは、つまりOUT_SUM_MODE(Output Summing mode)というDAC出力加算モードであり、このときXM2はこのガイドの「OUT_SUM_MODE=0x1」の設定になります。(0x1は16進数の1というプログラム的な意味です)

これで出力電流が二倍になるので、ここでデュアルOPA1612オペアンプの「Brighton」I/V変換ステージが生きてきます。並列で電流が倍になり、I/V変換がより低ノイズで正確になります。
XM2は、さらに出力段もSGM8262-2がデュアル搭載されて強力です。SGM8262-2自体がデュアルオペアンプなので、それが二つで4chのバランス駆動が成り立ちます。つまりXM2は小さいけれどもDACからアンプまでフルバランス構成であり、アンプのSGM8262-2は出力電流能力が高く負荷駆動に余裕があります。
端的に言えば、XM2の構成は低ノイズでかつ低インピーダンスに強いということです。つまり高感度マルチBAやハイブリッド構成にとても向いています

言い換えると、XM2はコンパクトなのに低インピーダンスIEMも、フルサイズヘッドホンも余裕で鳴らすというのが、「DAC部分にFPGAとCirrus Logic社の CS4308Pを搭載、IV変換にはBrighton I/V変換ステージでデュアルOPA1612オペアンプを採用、アンプ回路には、デュアルSGM8262-2オペアンプを採用」という「電流マシマシ音カラメ」みたいな呪文の効能であり、XM2の全体のSN値としては121dBなので、他のハイエンド機と比較してもさほど遜色ない値です。これが「コンパクトなのにフラッグシップクラス」という売り文句の理論的な根拠でもあります。
さらにXM2はAndroid非搭載なので、音質的には重いAndroid搭載DAPよりは上となるでしょう。

しかしながら、Android非搭載ということはいまどきのストリーミング時代では問題となりそうに思えます。
XM2ではそこをコンパクトなフォームファクター、回転式スクリーン、マグネット付きの専用ケースというギミックでカバーしているのが次の秘密です。つまりストリーミングに関してはスマホに寄生して、USB DACとなることで解決しています。
つまり、最新型のDAC ICを生かすために非Android DAPとして音質を向上させ、その分でストーリーミングに対応できないのをコンパクトさを生かして、(大きな)スティックDACのようにスマホに接続して使えるわけです。

* インプレッション

実機を触ってみると、とても手に馴染みやすく、コンパクトな筐体です。さきに書いたようにMagsafe対応のケースが付属します。(ただしOTGケーブルは付属していないので別途用意が必要です)

XM2はAndroidではない独自OSを搭載しています。Android DAPは多機能だけれど動作が重く音質が良くないというジレンマがあります。そのため多くのAndroid DAPはAndroidの各種サービスを切った音質専用モードのようなものを設けています。XM2は音質を取ったというわけですね。
UIはAndroidではないけれども、とてもスムーズに動作します。これはいわゆる軽量な組み込みOSですが、タッチUIで動作します。一時期のDAPのようなメニューを上下に動かすようなものではなく、タッチが可能で動きはサクサクとしています。ShanlingはCDプレーヤーに組み込みOSを搭載しているので、そのノウハウがあるのかもしれません。ちなみにメイン画面のUIの他にAndroidのように上からプルダウンさせるメニューもあります。USB DACにするときはここでモードを変えます。

IMG_6375.jpg IMG_6376.jpg IMG_6377.jpg
XM2の画面回転機能(ファンクションキーに回転機能を割り当て可能)

Androidベースではないですが、WIFIもサポートしています。
WIFIでできることは、まずEddict Player接続です。Shanling系のユーザーにはお馴染みのEddict Playerアプリからポケットに入れたまま、リモコンのように操作ができます。
そして、AirPlay、DLNA、ファイル転送(ただし内蔵メモリはありません)。この他にもOTAでファームアップができる予定とのこと。
USB出力もできます。その際には固定と可変ボリュームが選べます。

独自OSなので、ストリーミングアプリは直接XM2ではインストールできませんが、XM2をスマホのUSB DACとして扱いやすくすることで対応できます。ただしTIDALははじめから入っていますので、単体でもTIDALならばストリーミングはできます。
USB DACとしての音質などは後で別に書きます。

電池は公称8.5時間、実測ではエージングの時に測りましたが7時間くらい連続再生が可能です。

* 音質

音はまず透明感が高く、細かく解像してSN感が良い音と感じます。また音の響きが美しく、とても整っています。
XP1のときに感じた陰影感あるトーンはさほど強くなく影を潜めていますが、無機質的な感じではなく、心地よさはあります。シーラスDACの音とこのチューニングの相性が良いですね。黒箱LINNが現代LINNになった感じでしょうか。実際、先に書いたSN優先の設計ゆえではありますね。

IMG_6399.jpg
XM2とqdc White Tiger

もう一つの音の特徴はパンチが強い音だということです。低音の力感とパンチがあります。音は左右に広く、コンパクトなDAPながら音のスケール感は大きいと感じます。後で書きますが、実のところUSB DACモードでスティックDACと比べた場合に、スケール感は利点として感じられます。
XM2の最大の強みは透明感あるSNの高さとパンチの強さです。リスニング寄りにチューニングしてあり、低音はパンチが強く中高域は音色が美しいという感じのサウンドですが、これはつまりハイブリッドにとても向いています。

IMG_6396.jpg

* イヤフォンとの相性

イヤフォンの相性としてはShanling のハイブリッド構成IEM「Regal」とすごく相性が良い感じです。ShanlingとONIXが関連企業ということもあって、もしかするとリファレンスに使ったのかもしれないけれども、あつらえたようによく合います。RegalはShanling 「M7T」とも相性良かったけど、ONIX/ShanlingはDAPとイヤフォンの相性確認をきちんとやっているのかもしれません。あるいは開発ポリシーがきちんと整合しているのかもしれません。

IMG_6373.jpg
XM2とRegal

ハイブリッドらしく中高域は鮮明で、低域はパンチが強いというXM2の良さを両方楽しめ、音の広がり、細かさともによくXM2の良さを引き出しています。高音域もかなりシャープに伸びるけれども、キツくならないのが良い点です。
低音はかなり強めになりますが、ヴォーカルにはあまり被さりにくいと思います。全体的にリスニング寄りで、かつ性能が高いサウンドです。


IMG_4506-dcd87.jpg

そしてRegalとの組み合わせで面白いのは、Regal側のスイッチ設定の使い方です。
スイッチは標準のバランスモードでもだいぶ低音は出るけれども、低音強調の「アンビエントモード(1をオン)」にすると、かなり誇張されているくらいに低音がたっぷりと出ます。とはいえそれほど中高域も被されて埋もれている感が少ないのは、XM2の音がシャープだからかもしれません。曲によっては、けっこう頭蓋骨がゆれるくらい、どばっと低音が出ます。これはなかなか快感です。
さらに全域強調した「ビューティフルモード(両方オン)」はポップのようなうるさい曲だと疲れる感もありますが、チルとかアンビエントに使うと良い味出してくれます。

ディップスイッチは爪楊枝で簡単に変えられるので、ちょっとやって色々と味変してみるのも面白いですね。

* USB DAC として

USB DACとして使うと、力強さ・パワー感が一層高く感じられます。バスパワーのスティックDACだと、どうしてもパワー感という点では限界があるので、電池内蔵のDAPをUSB DACとしてスマホにくっつけて使うのは意味があるように思います。

IMG_2355.jpg IMG_2344.jpg
XM2とRegal

XM2とアンビエントモードにしたRegalをスマホのUSB DACとして使うと、正確な音ではないけどその破壊力・迫力はなかなか変え難いものがあります。しかも音が意外と崩れずに鮮明な中高音も両立しています。XM2とアンビエントモードの組み合わせはちょっとクセになります。
USB DACとしてスマホの背面に乗せる時には回転機能を使うと表示が正立して見えます。

* まとめ

XM2は最新CS4308Pをフル活用するためにAndroidを潔く捨てた結果、透明感抜群・SNの高いクリアな音と、800mWのパンチが詰まった本気で鳴るサウンドを実現したDAPといえます。四角いフォルムに回転画面、マグネットケースでスマホにピタッとくっついて「でかいスティックDAC」に変身するというユニークな使い方も魅力です。

そして本機の面白さは、「なぜこれだけ小さいのに強いのか」という点にあります。CS4308Pのマルチ出力を合算してS/Nを稼ぎ、デュアルのI/V変換と余裕のある出力段でしっかり駆動力を確保する、つまり回路全体を通して電流をしっかり扱う設計が貫かれていることが、このサイズからは想像できないスケール感とパンチの理由です。
さらにAndroidを搭載しないシンプルな構成とすることで音質を高める一方で、それで失うストリーミング機能はUSB DACとしてスマートフォンと組み合わせることで解決する。この割り切りも含めて、XM2は単なる小型DAPではなく、音質を優先した結果としての形を持ったプロダクトです。

つまりXM2は、単体DAPとしても、スマホと組み合わせた「でかいスティックDAC」としても使える一台です。ユニークな外観の中に詰め込まれた緻密な設計と、その設計がしっかり音として現れている点こそが、XM2の最大の魅力と言えるでしょう。

posted by ささき at 09:46 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年03月05日

二つのディスクリート設計、Topping「DX9 Discrete」レビュー

Topping DX9 Discreteは今年の1月30日に発売された据え置きタイプのDAC内蔵型ヘッドフォンアンプで、価格は228,690円(税込)です。
以前レビューしたDX5IIは低価格ながら測定性能の高さと躍動感ある音質を楽しませる製品でしたが、その最上位版ということになります。DX5IIで興味を持った人には大注目でしょう。
"Discrete"の名の通りにディスクリート設計がポイントで、本記事ではそこを中心にToppingの開発チームに直接メールインタビューした結果を元にして、DX9 Discreteの実像を浮かび上がらせていきます。

IMG_6341.jpg

* DX9 Discreteとは

まず位置付けについて解説すると、Toppingのラインナップで、DX9 Discreteは一体型のDAC内蔵型ヘッドフォンアンプのフラッグシップとなります。先代のDX9からはDAC部分が大きく異なり、DAC部分はD900譲りのPSRMを16要素にして採用、アンプ部分はA90 Discreteをさらに発展したモジュールを搭載という良いところ取りをした一台完結型製品という位置付けです。
さらにそれを誇示するかのように、天板部分が透明で中の回路がそのまま見え、液晶表示が左右別に用意されているという新しいデザインも独特です。

IMG_6329.jpg

先に書いたように、DX9 Discreteのポイントはその名の通り、大きく分けて「二つのディスクリート設計」がポイントです。
ディスクリート(個別という意味)設計とは、普及価格帯では市販のオペアンプ(IC)で済ませる回路を、トランジスタなどパーツごとに分けた設計のことで、オペアンプよりも設計の自由度が高く、限界を高くできます。一方で問題もあり、パーツが多くなるので精度の管理が難しくなり、たいていは高価格品となります。このことを少し頭の隅に置いておいてください。
ちなみにDX5IIではDAC部分はICを採用、アンプ部分はオペアンプとディスクリートのハイブリッド方式でした。

イメージ.jpeg

* ディスクリート設計のDAC

DX9 Discreteのまず一つ目の「ディスクリート設計」はDAC部分のPSRM(Phase-Switching Reference Modulator)技術です。
端的にいうと、これはディスクリート方式の1bit形式DACです。ポイントはその設計です。1bit DACはDSD(PDM)信号を通すDACです。DSDはそのままでもアナログ信号に近いのですが、特に高周波ノイズが大きいのでその除去をしなければなりません。このDSDに適用するフィルタをアナログ信号に戻すためのフィルターという意味で再構成フィルタとも呼びますが、この出来が大きく音質を左右します。
普通はこの部分はチャンネルあたり1組のローパスフィルタであり、RCフィルタと呼ばれる抵抗とコンデンサを組み合わせたものになっています。
ところがPSRMではこの部分がチャンネルあたり16組の「移動平均再構成フィルタ」になっています。つまり1chあたり1本あれば信号は通りますが、それが16本あります。ちょっとエンジニアリング的にいうと冗長化(余分に加える)設計されています。

IMG_6332.jpg
PSRM部分

それはなぜなのか、移動平均とはなにか、というと、1chあたり16組の信号を少しずつタイミング(位相)をずらして出力し、平均化することで精度の高いフィルターとしているのです。タイミングをずらすのはエラーを分散させるためです。
つまり複数の1ビットストリームの出力を平均化することで、コンポーネントの個体差やエラーをランダム化して相殺するということです。もう少し噛み砕くと、1本の信号線でも信号は伝わるけれども、複数本にした冗長系を平均化した方がより正しく伝わる(線によってばらつくため、それを平均化した方が良い)というわけです。これはさきに書いたディスクリート設計における部品の質がばらつくという課題点をきれいに解決しています。
そして私ははじめ高周波ノイズのみの対応かと思っていたのですが、Toppingの開発チームに聞くと、この方式の優れた点は、高周波ノイズを減らすと同時に、低周波の熱雑音にも効果があるということです(熱雑音はランダムノイズだから平均化で効率的に低減できる)。結果として単なるRCフィルターのようなローパスフィルターではなく、広い帯域でSNを上げることができるわけです。

また、これはFPGAを使用するDACとは別の考え方であり、ノイズを平均化して消せるので、他のFPGA方式のDACのようにFPGAによる複雑なノイズシェーパーに頼らずにもっと軽量に高周波ノイズを低減できるというわけです。
高価なFPGAも不要なので、全体にコストパフォーマンスの高い設計ができます。さらに高速動作するFPGA自体が出すノイズもありません。Toppingの開発チームに、このPSRMはFPGAを不要とするものかという質問をしたところ、「目標とする性能をすでに達成しています。そのため、より複雑な解決策は必要ありません。」と回答してくれました。

これまでのDACが計算でノイズをねじ伏せてきたのだとすれば、DX9 DiscreteのPSRMは並列化(冗長化)という構造でノイズを消し去っています。ノイズを消すために自らがノイズ源となっていたFPGAのジレンマからも、オーディオ回路を解き放てるオーディオ的に美しい解法です。
高価なパーツを使えば良くなるのは当たり前ですが、設計の妙でそれを超えるというのがコスパを誇るToppingらしい手法とも言えますね。だからTopping製品は測定性能が良いのにコスパも高いというわけです。

* ディスクリート設計のアンプ

次にもう一つのディスクリート設計はアンプの部分です。そして、もう一つの冗長化設計の妙がここにも見てとれます。
まずToppingのアンプ技術のキーはNFCAです(DX5IIのページも参照)。NFCAとは「Nested Feedback Composite Amplifier(入れ子型複合フィードバックアンプ)」の略で、端的に言えば複数のNFB(負帰還)ループを多段式に組み合わせることで、極めて高いS/N比と低歪みを実現する設計です。こうした過度な負帰還はトランジェント(立ち上がり)が鈍くなり、音の勢いを失わせるという問題がありましたが、NFCAは最新の設計によりNFBの欠点を克服したアンプ設計です。このポイントは単に古い欠点を克服しただけではなく、トランジェントをより向上させる可能性も有しています。またNFCAは多段NFBによって出力段の動作がより安定することで出力インピーダンスを極めて低く抑えることができます。このようにNFCAは高SN、低出力インピーダンスを実現できるなど、ヘッドフォンアンプとして優れた資質を備えています。これは、TOPPING製品が「測定値と聴感の両立」を実現している理由の一つになっています。

IMG_6333.jpg
ヘッドフォンアンプ部分

DX9 Discreteのポイントは、4チャンネルではなく、6チャンネルのアンプ回路モジュールを使っていることです。これはバランス(4チャンネル)とアンバランス(2チャンネル)を分離するためです。その目的はノイズとクロストークの低減です。
これもToppingの開発から聞いたのですが、増幅モジュール自体はA90 Discreteで使用されているものと同一なのですが、周辺回路とより上位レベルのトポロジー(回路構成)に違いがあり、その理由は主にバランス回路とシングルエンド回路の分離によるものだそうです。
これはNFCAのポイントはフィードバックなので、フィードバックのかけ方が、回路の出力形態(バランスかアンバランスか)によって最適値が異なるということです。バランス(4ch)とアンバランス(2ch)を分けたことで、フィードバックの設定を「バランス寄り」か「アンバランス寄り」のどちらかに合わせる必要がありません。それぞれ最適のチューニングができます。

ノイズとクロストークの低減についてはToppingの開発から補足説明をいただきましたので、翻訳してそのまま引用します。
「もし4モジュール(チャンネル)だけで設計した場合、位相反転/非反転の2モジュールがシングルエンド(アンバランス)と共有されることになります。しかし、シングルエンド信号はDAC出力から差動アンプを使って合成されるため、そこに抵抗が関与します。これによりノイズが発生します。
さらに、反転信号を生成する方法として、DAC出力から別の差動アンプを使うか、あるいはシングルエンド出力の後に反転アンプを入れる(A90 Discreteが採用した方法)のどちらかになります。結果として、ノイズは基本的に2倍以上になってしまいます。
一方、バランス回路とシングルエンド回路を完全に分離した6モジュール構成(DX9 Discreteが採用した方式)にすることで、バランス出力はDAC出力から直接バッファ(またはゲイン付きバッファ)で受け取ることができます。つまり、DAC出力に対して最も最小限の干渉しか加えません。これにより、バランス出力の純度が大幅に向上します。
クロストークについては、シングルエンドへの変換を行うたびに、クロストークを追加するリスクが生じます。この性能レベルでは、変換を実施すればクロストークの増加は避けられません。6モジュール構成にすることでこの変換工程を完全に回避できるため、クロストークが大幅に改善されます」


つまりまとめると、以下のようになります。
DAC部(PSRM): 1ビットDACの1本で済むフィルタを16本に冗長化し、平均化してエラーを相殺(FPGA自体のノイズも回避、低コスト化も実現)
アンプ部(NFCA): 4チャンネルで済むところを6チャンネルに冗長化し、バランス/アンバランスの信号経路を完全分離・個別最適化することで音質向上

* 操作感など

デスクトップではなくラックタイプなのでDX5IIに比べればかなり広いスペースが必要となりますが、一般的なラックタイプの据え置き機材に比べるとスリムで独立したデザインなので、一体型機として単独で置くことができます。上部開放型が特徴なのでインテリア的に棚とかに置くのも良いかもしれません。
基本的に操作感はDX5IIと同じメニューが使えます。操作は付属のリモコンでも、フロントパネルのスタンバイボタンとボリュームノブの押し込みと組み合わせて操作できます。

IMG_6343.jpg
操作系メニュー

背面は入出力系がぎっしりと配置されていて、かなり多様な入出力に対応しています。USB、Bluetooth、光デジタル2系統、同軸デジタル2系統、AES、I2S(HDMI)が一通り揃っています。

IMG_6366.jpg

追加機能で面白いのはDSPの「Convolution」(複雑演算/畳み込み演算)モードで、頭部の形状による音の伝わり方を加味したHRTFを取り入れたというクロスフィードモードです。これはなかなか面白く、通常だと左右に分かれた音があたかも立体音響のように包まれ感がするようになります。ただ前方定位というよりは拡散された音に近いように感じます。「Simple」(単純演算)モードだと普通のクロスフィードに近くなります。いずれも音の解像感低下もさほど変化ないのが優れものです。

このほかにもパラメトリックイコライザー搭載などの機能があります。
また細かい点ですが、保護回路なのかリレーがカチッと小さい音を立てるのが、とても丁寧に作り込まれている感はあります。

* 音のインプレッション

いくつかのタイプのヘッドフォン、イヤフォンを組み合わせて音を確認してみました。

Sendy Audio「Peacock」 ー 平面型フラッグシップヘッドフォン・XLRバランス接続

IMG_6349.jpg
DX9 DiscreteとPeacock

まずここではDX9 DiscreteがSendy Audio Peacockを軽々と鳴らすのに驚きます。暗さや曇り感などの鳴らしにくさの弊害を感じさせずに、まるで低インピーダンスのヘッドフォンのように明るく朗々と音楽が奏でられます。PeacockはDAPだと暗い音になってしまいがちですが、さすがに10W/chの大出力です。NFCAの制動力の高さもあるのでしょう。
そして低域の制動感がかなり高く、GoGo Penguin「Call to the Void」の冒頭のようにエフェクトを効かせて低音を派手にした曲でも過剰に膨らむことがほとんどありません。制動力の強さはいままでヘッドフォンアンプで聞いた中でもトップクラスでBenchmark「HPA4」と並ぶと思う。

一方でとても低い領域まで超低音が出ているので、低音に底しれぬ深みを感じます。例えば「青少年のオーケストラ入門」の冒頭のオーケストラの強奏部(トゥッティ)の部分では圧倒的な迫力とスケール感を感じます。ここは据え置き機で聴くヘッドフォンならではの愉悦でしょう。
超低域ということではHeadFiの試聴用音源の「Heartbeat」の最も低い心臓の鼓動を模した20Hzのビート音でもよく聴こえます。質の高いワイドレンジ、というべきでしょう。
Lowゲインでも音量的には十分鳴らせるが、ヘッドフォンはHighゲインにした方がより音が研ぎ澄まされて先鋭的になり、より力感を感じます。

音はとても細かくSN感が高い点は予想通りですが、低音に深みがあり、かつ躍動感があるのがNFCAらしいところです。強NFB設計というとSNは高いけど、だるい音というのがオーディオ通念でしたが、NFCAはそれを覆してくれます。
村上ゆきの「Bang Bang」では疾走するようなスパニッシュギターとベース、そして歌声の絡みが感動的。アコギとハスキーヴォーカルのデュオ、Fried Prideの楽曲でも、超絶テクのギタリスト横田氏のロックを取り入れた叩きつけるようなアコギの歯切れ良さが気持ちよく、かつ刺激的な角が少ないのが圧巻です。解像力が高くシャープな音であり、かつ痛くないように角が丁寧に取れている感があります。この辺はPSRMの美点なのでしょうか。
細かい音ではアコースティックギターを手や指でラビングやスクラッチして出すような微細な音のニュアンスも鮮明に再現して描き出します。細かい音が積み重なって音の凄みになっているほど情報量は豊かです。
試聴用音源「Audiophile Jazz」では同じ曲を44/16,96/24,192/24と変えた音の違いもよく分かります。相対的に44/16の音が軽く薄く聴こえてしまうほど。

音色はニュートラル基調で着色感はあまりありませんが、無機的ではありません。女性ヴォーカルSHANTI「メモライズ」では、色着けがなく、素の声の細かな発声が魅力的だということがよく分かります。
SN感がかなり高いので、ピアノの強い打鍵音は明瞭感がとても高く、響く音が美しく感じます。音色などの脚色がないけれども、響く音が正しければ美しいということがよくわかる、正確ゆえに美しい音です。

奥行き表現がとても深いのも特徴で、細かな音再現と相まって、ホールに響く細かいリバーブが小さな音までよく聴こえます。こうした細かな音が積み重なって音楽の厚みができていくというのがよく分かる。
低音の深み、空間の奥行きが相まって、立体音響ではないけれど、平板的ではなく広がるような空間に包まれているような感じがあります。

Campfire Audio 「Fathom」ー 高感度マルチBA IEM・4.4mmバランス接続

IMG_6357.jpg
DX9 DiscreteとFathom

DX9 Discreteは背景ノイズが極めて低く、こうした高感度IEMを使用しても背景のホワイトノイズはまったく聴こえません。音楽の再生停止状態では背景ノイズは全く聴こえず、徐々に音楽を再生していくと、背景の暗がりから音が徐々に増えていく様子が鮮明に浮き上がるように聴こえます。
SNが高いので、音の先鋭感が高く、とてもシャープな音質です。音の立体感も高く、音響系の音楽では左右で音が飛び回るのがはっきりと感じ取れます。

VOLK Audio「ETOIRE」ー スタジオモニターIEM・4.4mmバランス接続

IMG_6362.jpg
DX9 DiscreteとETOIRE

細かい音表現ということでは、こうしたハイエンドIEMが白眉だと思う。細かい音が洪水のように襲いかかるような感覚で、ゾクゾクと鳥肌が立ちます。
ETOIREはミキシングエンジニア向けのスタジオを母体とするハイエンドIEMで、DX9 Discreteとは相性が良いです。複雑な曲でも音が整理されて、かつ躍動的に音楽を鳴らします。
VOLK Audioのスタジオの正確性とミュージシャンの情熱を同時に再現するという理念がわかりやすいともいえますね。

Ultrasone「Signature Pure」ー  低インピーダンス、DJタイプヘッドフォン・6.3mmアンバランス接続

IMG_6350.jpg
DX9 DiscreteとSignature Pure

DX9 Discreteと低インピーダンスのヘッドフォンでも、制動力が遺憾なく発揮されていて、引き締まってパンチのある低音が楽しめます。Signature Pureでは、DJヘッドフォン譲りのかなり低音がたっぷりとして迫力あるライブ感あるサウンドが楽しめます。
クリムゾン「Radical Actionライブ盤」ではトリプルドラムの暴力的なロックサウンドが炸裂したようにパワフルで、かつ破壊的な迫力が楽しめます。決してDX9 Discreteがおとなしい弦楽四重奏向けのアンプではないことがわかりますね。これ聴くと名曲Redよりもむしろ二期クリムゾン以降のVROOMなどの方が暴力的で破壊力抜群なのが、はっきりとした違いで分かって個人的に感慨深い感があります。
ただSignature Pureだとクラス的にちょっと物足りない感はあります。

Fitear「Oriigin-1 」ー スタジオモニター・ヘッドフォン・6.3mmアンバランス接続

IMG_6351.jpg
DX9 DiscreteとMonitor-1

「Oriigin-1 」はFitear初の民生用ヘッドフォンで、スタジオの正確性とリスニングの良さを兼ね備えます。これ実はかなりDX9 Discreteと相性が良いです。
同じクリムゾンのライブで聴き比べると、やはりSignature Pureよりもだいぶ整って音が整理されて聴こえます。低域はより引き締まり、かなり細かい音まで出ます。高域はあまり刺激感はなく自然です。低音域は誇張されずに、適度な量感がありますが、とても強いパンチやアタックを感じます。これはダイナミック・ドライバーならではの魅力です。
音の立体感も高く、チーガムドライバーらしい明瞭感の高いクッキリとした音像が楽しめます。Oriigin-1だとクリムゾンでは二期曲よりもサックスやヴォーカルがフィーチャーされたStarlessが聴きたくなります。

でもそれよりもゾクゾクとしてくるような重み感とか厚み感がすごいんです。凄みというべきか。冷静に試聴しているつもりだけど、躍動感の高さで勝手に手足がリズムを刻み出すのを止められません。モニターというと無機的なイメージが湧くけれども、そういうつまらない音ではありません。DX9 Discreteも、Oriigin-1も。
6.3mmアンバランスだけど、音の重みとか厚みという部分でそうバランスに比べて劣るという感じでもないのも考えてみると不思議です。もしかするとバランス・アンバランス分離方式はアンバランスにとって良いことなのかもしれません。

クリストファー・ティン「窓から見える」を聴くと、数人のヴォーカリストの声質がみな聴き分けやすく、合いの手のはっという小さな声もとても鮮明に聞こえます。声や音の強弱がとても滑らかで、ラストに向かって壮大な盛り上がるスケール感も感動的。
こうしていると、曲の感想を書いているんだか、オーディオのインプレをしているんだか分からなくなってくるけど、本来正しく音を出すというのはそういうものかもしれません。DX9 Discreteも、Oriigin-1も。

ただ、Oriigin-1は謎のメクラ穴を取り去り、オッドアイの封印を解き放って真の力を解放するバランス・ケーブルでリケーブルしたいと切実に思います。

* まとめ

Topping DX9 Discreteは、PSRMによる「構造でノイズを消し去る正確性」と、6チャンネル独立NFCAによる「最適化された力強い躍動感」が1台に凝縮された、現時点でのTopping究極のオールインワンです。
DACは極めて細やかで奥行き感ある再現性を、アンプは強力であり躍動感ある駆動力をもたらします。結果として生まれるのは、「正確でありながら冷たくない」サウンドです。

こうしたPSRMの正確性とNFCAの躍動感を兼ね備えるDX9 Discreteは、スタジオの正確性とリスニングとしての側面を兼ね備えるという「方程式」のヘッドフォンやイヤフォンがとても合うように思います。
ふと思い出したのは、かつてのBenchmark「DAC-1」です。音質レベルはDX9の方が遥かに上ですが、スタジオの正確性と音楽の熱量という点では似た性格を有しているように感じられます。

DX9 Discreteは一体型で単独で完結した外観デザインなので、使い方もさまざまに考えられると思います。DX5IIを使っていて、もう少し細かい音が欲しいと思う人のステップアップにも良いでしょう。いきなりDX5IIからDX9 Discreteでも良いと思いますが、ケーブル類も変えた方が良いでしょう。
PC上でRoonやAudirvanaに繋げても良いし、SP4000など高性能DAPを上流に使うとストリーミング(Apple Music)と内蔵音源の差もかなりはっきりわかるレベルです。上流やヘッドフォンの性能を浮き彫りにする側面もあり、たぶんケーブルも良いものを使えば使うほど良くなると思います。

なにより正確でかつ情熱的という音は、実のところ音楽再生の本質そのものかもしれない、DX9 Discreteはそんなオーディオの本質を、確かに思い出させてくれます。

IMG_6335.jpg
posted by ささき at 12:01 | TrackBack(0) | ○ ホームオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年02月23日

ミニモンスター・スティック型DAC、Astell & Kern「HC5」レビュー

もとはスマホからイヤフォン端子がなくなったことに端を発したスティック型DAC(またはドングルDAC)ですが、最近ではハイエンドタイプの機材も増えています。
Astell & Kern 「HC5」はそうしたハイエンドタイプのスティック型DAC(ポータブル USB DAC)です。2月21日(土)発売、直販価格は税込 84,700 円です。3.5mmと4.4mmバランスのイヤフォンが使用できます。
まずHC5の特徴から説明していきます

IMG_2315.jpg

* HC5の特徴

HC5はダウンサイズしたSP4000とでも呼べそうなミニモンスターで、ハイエンドDAPの設計をコンパクトにした点がポイントです。

IMG_5589.jpg IMG_5590.jpg

1. ハイエンド並みのDAC
まずスティック型DACとしては初めてAKM AK4191EQとAK4499EXのDACペアを採用しています。AKM AK4191EQとAK4499EXの組み合わせは、従来は1つのチップだったDACを、透明感とクリアさを追求するために、デジタルとアナログの境界線で物理的に切り離し、あえて2つのチップに分けた贅沢なセパレート型DACです。HC5ではこのペアを1組搭載しています。(SP4000では4組)

ブロック図.jpg

2.強力なアンプ
また、HC5ではイヤフォンの駆動力を高めるための「High Driving Mode」を搭載しています。これもSP4000に搭載された機能で、アンプ回路を二倍にして並列動作させることで、ノイズの低さとイヤフォンを駆動する力を両立させた方式です。いままでは駆動力を上げるとノイズが増えてクリアさが失われがちですが、並列にして負荷分散するという工夫で解決したわけです。ただしSP4000ではオンオフができますが、HC5ではデフォルトでオンでオフはできません。

3. DARの搭載
また、AK DAPの上位機種に搭載されているDAR(Digital Audio Remaster)機能も搭載されています。
DAR機能は、CD品質の音源でもハイレゾにリアルタイムに変換できる機能です。DARでは従来のようにソフトウエアではなく専用ICのハードで実現しているのがポイントです。IC処理なので、CPUに負担をかけないので低ノイズでハイレゾ化できます。

4. 低ノイズ化の工夫
またHC5はスティックDACならではの機能として、優れた PSRR(電源ノイズ除去比)、CMRR(コモンモードノイズ除去比)性能を備えた専用アンプを搭載しています。簡単に言うと、PSRRは電源からのノイズ、CMRRは周囲の電磁波ノイズを打ち消す力のことです。これによって、HC5はスマホやPCのバスパワー電源から伝わってくるノイズや、周囲のスマホなどからのノイズの放射など電気的な雑音を効果的にシャットアウトすることができます。これでスティックDACの宿命だった、無音時の「サー音(ホワイトノイズ)」を低減できますので、高感度IEMにも向いています。

これらはAstell & Kernらしい低ノイズ化の取り組み、それによってDACだけに頼らずに地道にSN比を上げて音を鮮明にするための工夫が随所になされているわけです。

このほかの特徴としては細かいところではDACのフィルターを変えることで音の味付けを変えることができます。また、UAC2.0/1.0 切替機能がついているのでゲーム機でも使えます。
細かいところではボタンをダブルクリックするとボリュームホイールがキーロックされます。

そして1.62 型 OLED ディスプレイを搭載、サンプリングレートやモード設定がわかりやすいのもポイントです。HC5では多機能なので、こうしたディスプレイがあると助かります。
音量調整はボリュームホイールにより、150ステップの細かい音量調節が可能です。これによりセンシティブな高感度IEMなどでもきめ細かく音量の調整ができます。

IMG_5594.jpg

接続ケーブルとしてはUSB-C と Lightning の 2 本の着脱式デュアルノイズシールドケーブル付属していますので、iPhone 15以前のiPhoneでも使用できます。
それでは実際に音を聴いてみます ... が、その前に携帯しやすい工夫をしてみます。

*Mag Safe化

大きさはDC Eliteと変わらないので、DAC Pocket ラージで入りますが、せっかくのディスプレイが見えず、サイドボタンが押せないという問題があります。

IMG_5602.jpg

そこで自分でMagsafe仕様としました。

IMG_5610.jpg IMG_5617.jpg IMG_5618.jpg

Amazonで売ってるエレコム「マグネットパッド MAGKEEP」を使って、中の付属の両面接着剤を使ってMagsafe対応磁石に接着します。この接着剤は剥がすことも可能です。なかなか良い感じにできました。

これは他のものでもよく使っています。ただスティックDACだとはみ出した部分がゴミを拾いやすいので、iFi hip DACなど広いものにより有効です。

IMG_3184.jpg
hip DACとマグネットパッド

さて、実際に音を聴いてみます。

* HC5のインプレッション

試聴はiPhone 17 Proに接続して行いました。静かな部屋でHC5の着脱前後で比較しても、背景ノイズは高感度IEMでもほとんどなく、スマホにつけたスティックDACにありがちなチリチリいう電波輻射のノイズも通常はほとんど感じません。たまにちょっと感じる程度です。

写真 2026-02-10 7 11 08.jpg
HC5とXIO

端的に言うと、HC5の音質はスティックDACとは思えないほど素晴らしい音質が堪能できます。
もう少し分解して言うと、HC5の音質では驚く点が4つあります。

1 スティックDACとは思えないほど、音がとても細かいこと
アコースティック音楽の良録音だと、静かな黒い背景から細かい音がぞわぞわと浮き上がるさまがぞくぞくとしていきます。
2 スティックDACとは思えないほど、音場がとても広いこと
DACスペックから音が細かいだろうことは予想してましたが、これは新鮮な驚きです。コンパクトなDACアンプは音場も狭いという常識があったけど、これは裏切ります。包まれ感を感じるほど。
3 スティックDACとは思えないほど、とてもワイドレンジ
低音がとても深く沈み、高域はシャープに伸びていきます。Campfire Audio Claraとか使うと驚くほどの沈み込みと、突き抜けるような高音が際立ちます
4 スティックDACとは思えないほど、パワフルなこと
まるでSP4000のハイドライビングモードのような躍動感が味わえます。そしてパーカッションなどの打撃感がとてもタイトで小気味良いのも特徴です。

写真 2026-02-10 7 53 24.jpg

もう少し細かく語ると、HC5の音傾向としては、低音はタイトでよく引き締まっています。誇張感はなく、全体にDAC自体の音はフラットです。音色はニュートラルで着色感はかなり少なくAKMらしい感じ。シンプルなせいか、DAPよりも着色感は少ない感じがします。
透明感が高く、歪み感もスティックDACとは思えないくらい低く、端正で透き通った音が楽しめます。これは音像をきりりと引き立たせて、立体感が高く感じられる要因でもあります。
音質が優れていると言う点ではロスレス・ストリーミングよりもローカルの音源の方が音質よく感じます。これはApple Musicアプリより、ローカル音源で使用しているHiBy Musicアプリの方が音が良いせいかもしれないけど、そのくらい感じるほど音質が高いと思います。

とにかくSNが高いのが際立っていて、単に解像度が高いのではなく、楽器音が一音一音が空間にくっきりと浮かび上がるSN感が高いと言うべきだと思う。音が彫り込まれたように鮮明で鮮やかで、地下鉄に乗っていても「ハアッ」というヴォーカルのため息が掠れる音が聴こえるくらい。これはノイズが低いと言うこともポイントになっていると思う。

DARやDACフィルターの効き具合もわかりやすいので、DAR PCM、DAR DSD、DAR offの組み合わで音を試してみると良いと思う。DARのアップサンプリングの品質が高いのも分かりやすい。アップサンプリングしても音が軽薄になりにくいです。

IMG_5593.jpg

*まとめ

音質レベルの高いHC5は10万とか20万のイヤフォンを持っているが、数十万のDAPはさすがに、と言う人のための良い選択肢です。高感度IEMを使う人にもおすすめですね。

ちなみにHC5は、いままでのA&K製品と異なり、持っていると多少熱くなります。オーディオ機器で熱いのはマイナスではなく、頑張って増幅しているなと感じさせてくれます。SP4000も同じですが、この辺は体制が変わって考え方が少し変化したことを窺わせます
一方で変わらぬものもあります。それは細かな設計、特にノイズ対策を徹底していると言う点です。
HC5は価格的には同価格帯のDAPよりは音質はだいぶ上のように思います。しかしそれは単にすごいDACを使ったからだけではなく、それを活かすためのノイズ対策までしっかり気を配ったトータルな設計の伝統が生きているからです。それはとてもAstell & Kernらしいことです。
posted by ささき at 18:19 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年02月15日

Astell & Kernと64AUDIOのコラボの結晶「XIO」レビュー

「XIO」(ジオ)は、Astell&Kernと64 Audioのコラボレーションによって誕生した、ハイブリッド形式の10ドライバー機です。
Astell & Kernはこれまでさまざまなイヤフォンメーカーとコラボし、その技術を利用して自社DAPの力を引き出すためのイヤフォンを開発してきました。例えばPATHFINDERではCampfire Audioの音響チャンバーや高品質ケーブルでDAPの広帯域再生・音場の自然さを実現、AK T8iEではBeyerdynamic TESLAドライバーでDAPのスピード感と低歪・ワイドレンジ再生を実現したことなどが挙げられます。

IMG_4805.jpg
XIOとSP4000

いずれのコラボモデルも、単にブランドロゴの組み合わせではなく、各社の独自技術を取り入れている点が共通しています。
今回の64 AudioとのコラボはAstell & KernのDAPになにをもたらすのでしょうか。

* XIOの特徴 : アイソバリックとAPEXによる圧力制御の連携

XIOを語る上で最も特徴的な64 Audio独自の技術が、まずAPEX (エイペックス、Air Pressure EXchange)です。外観的にも特徴的なバルブがポイントで、これは以前ADEL(アンビエントフィルター/第二の鼓膜)と呼ばれていた技術をさらに進化させたものです。
ADELは64 Audioが1964earsと呼ばれていた頃に開発され、もともとはRealLoud技術と呼ばれていました。APEXとADELは細かな動作原理は異なりますが、互換可能で、基本的には「半透過の薄膜や多孔質を用いて、外気と耳道を繋ぐバルブ」という役割は共通しています。これは筐体内部ドライバー前方の圧力を外へ逃がし、鼓膜にかかる過度な圧力を調整する役目を持ちます。最近ではFitEarのリリオールが採用したDEC社のアンビエントフィルターも同様の思想を持つ技術です。

IMG_4782.jpg IMG_4783.jpg
XIOに付属するAPEXバルブ

この技術は「耳に優しい」と表現されますが、実質的には遮音性のコントロールと音質向上の効果が高いものです。また、この圧力を可変することで音をチューニングでき、XIOには4種類のバルブモジュールが付属しています。中でも標準のm15モジュールは筐体と同じ904Lステンレス製という凝った仕様です。筐体とバルブを同一素材で統一することは、不要な共振を制御することに繋がります。リファレンスモジュールであるm15には、あえて加工の難しい904Lステンレスをモジュールにまで採用したのでしょう。
普通のダイナミックドライバーのベント穴は背圧を調整しますが、APEXは「前の空間」を調整します。それでは「後ろ(背圧)」はどうするかというと、低音ドライバーの仕組みがそれを解決しています。

低音域を受け持つ「トゥルー・アイソバリック・ドライバー」は、2基のドライバーを同方向に並べて配置(直列配置)しています。この方式の最大のメリットは、コンパクトなイヤホンでもサイズの限界を超えて、深く正確な低音が出せることです。
なぜサイズの限界を越えることができるのかというと、2基が同じ向きに同期して動くことで、前のドライバーが凹んで背後の空気を圧縮しようとする瞬間に、後ろのドライバーが凹んで下がり、その圧力を逃がします。これにより、2つの振動板の間にある空気の体積が維持され、気圧が常に一定に保たれる(アイソバリック=等圧)状態になります。この巧妙な連携により、フロント側は空気バネの反発から解放されます。
つまりアイソバリック方式のデュアルドライバーは、普通のデュアルドライバーのように両方が力を足しているのではなく、後方が犠牲になることで前方のドライバーがより大きな力を発揮しているのです。これがサイズの限界を越えられる仕組みで、まるで2倍の容積を持つ巨大なキャビネット内で鳴らしているような効果を得ます。
(ただしリア側ドライバーはやはりベント穴が必要ですのでXIOにもベント穴があります)

この方式は空気が逃げるベントに大きく依存しないため、ドラムのキックやベースの弦が止まった瞬間に音がピタッと消えるような、キレのある制動感と高い解像度が生まれます。そして空気バネの反発で動きが鈍ることがないため、微細な信号(音の余韻や質感)までしっかり描き出されます。
また、ダイナミックドライバー特有の動きの遅さが抑えられ、中音域のBAとのつながりという点においても向上すると推測できます。

つまりXIOは、アイソバリックドライバーで2基が連携して空気バネの制約を打破し、ドライバーの前ではその生み出されたエネルギーをAPEXで鼓膜に優しく、かつクリアに届けるという、前後で連携された巧妙な圧力管理設計になっています。しっかりとした内部の圧力管理をして空気を支配下においているため、音楽信号が鈍らずに、音の芯が太く実体感のある密度の濃い響きが得られるというわけです。
アイソバリックで濃密な音の実体感を作り、APEXでコンサートホールのような広い音場を同時に実現する。そしてAPEXモジュールという「排気系」を交換することで、そのバランスをユーザーが自由に調整できる点に、XIOの真の面白さがあると言えます。これはインプレでまた触れます。

内部展開図.jpg
XIO内部構造

また64 Audio由来の技術では高音域にtia ウェーブガイドも使われています。tia(Tubeless In ear Audio)とはノズル内に配置されているドライバーからノズルに通じるチューブ(音導管)を廃してチャンバーにした、いわゆるチューブレスのことです。これは開発に聞いてみるとチューブ自体が問題というよりも、むしろチューブに通すためにBAユニットの音の出る穴が小さいのに無理やりつめるというのが問題ということのようです。
DAPとの相性としてはAstell & Kern DAP の 高S/N比・高解像度出力が持つ微細情報を、tia の空間表現と併せていっそう際立たせることが期待できます。

XIOはデュアルダイナミックドライバー、ミッドレンジ用BAドライバー6基、中高域用BAドライバー1基、高域用に「tia」カップリングのドライバーを採用し、トータルで10基のドライバーを搭載しています。

一方でXIOのAstell & Kernらしさはやはりプレミアム性です。
XIOはハウジングにDLCコーティングを施した904Lステンレスを採用していますが、これはロレックスのような高級腕時計と同じ材質です。SP3000、SP4000にも採用されているので、マッチング性もあります。m15モジュールも同じ904Lステンレスです。
アイソバリックとAPEXの連携という巧妙な仕組みが内部に搭載されているので、筐体もしっかりとした剛性感を持つのは理にかなっていると言えます。

IMG_4794.jpg

このほかにもXIO用に特別調整された銀メッキUP-OCCリッツケーブル、またMade in USAという点もXIOの特徴です。

IMG_4742.jpg IMG_4767.jpg

パッケージ内には本体、ケースのほかにAPEXバルブが4種類(m15は取り付け済み)、イヤピースが格納されています。

IMG_4774.jpg IMG_4778.jpg
イヤピースとAPEXバルブ

*インプレッション

まずステンレス904Lの筐体が、とてもイヤフォンとは思えない質感でずっしりとした感触です。まるで工芸品か精密機械のようです。ステンレスはスプリッタや端子にまで使われています。m15バルブも同じステンレスで、これはデザイン的な統一感だけではなく、共振という点でも考えられています。
10ドライバーだけどコンパクトなのがポイントで、装着性がとても良好です。ここはアイソバリックドライバーも効いていますね。総金属ですが、重さはさほど感じられません。

IMG_4804.jpg
SP4000とXIO

イヤピースは3種類あります。空間表現はフォームでわかりやすく、シリコンは中高域が伸びる感じです。ちなみにイヤーピースはSednaEarfit Mithrylが一番合います。独特の空間表現力と音の細かさを両立できます。

主にAK SP4000を用いて、まず標準バルブ(m15)で聴きました。m15は外音を-15dB減衰し、バランスが良く、低域の沈み込みと開放感を両立します。

一番特徴的なのは音場、というか空間表現です。
透明感が高く、音場が深く三次元的な立体感が高いサウンドでSP4000などで聴くと息を呑むほどです。左右というより前後奥行きの立体感が独特で、滑らかに立体的に広がる感じが音楽に没入感を与えてくれます。これはとてもAPEXらしい個性であり、他のイヤフォンでは得られない感覚です。初期のADELの頃から良いと思っていた個性がしっかりと受け継がれています。
細かい音再現で、解像力もかなり高いのも特徴です。ここはハイエンドイヤフォンらしいところです。

低音の解像度が高い。ウッドベースの弦の鳴りがリアルで細かい。低音の誇張感がとても高いわけではない。ウッドベースのビチカートも鋭くタイトで、低音が強い印象だがその実は低音の質が高く誇張しているわけではない。ここはアイソバリックが効いているんでしょう。
ドラムロールのような連打がとてもキレがよく小気味良いという感じです。

音調はほぼニュートラルです。ジャズの女性ヴォーカルは艶やかで生々しく、滑らかな音がここでとても生きています。また、低音はヴォーカルにまったくかぶさっていないのも特徴的で、とても明瞭に声が聞こえます。これも低音がだらだらと尾を引かないので中音域に被さりにくいアイソバリックの利点です。
高い女性の音はやはり抑えめでキツさが少なく、高音域がつんざくような傾向の音ではありません。ここはtiaの長所ですね。
中高音域は十分に伸びやかですが、刺激成分が少ないので聴きやすい音です。楽器の音は鮮明で美しく正しく感じます。弦が擦れるような細かい音はよく聴こえます。
高音域のベルやハイハットの音も響きはきれいで歪み感は少なく、芯がかっちりと強い金属らしい鳴りがします。
刺激的な音が少ないので、「アイドル」のような録音がキツめなポップもキツさが少ないので安心して聴ける。躍動感が高く、SP4000のハイドライビングモードの良さを堪能できます。

IMG_4796.jpg

* バルブによる音の違い

標準で付属する4種類のうち、さきに書いたm15以外の3種類を替えて音を確かめてみます。
抜き差しはスムーズにできます(はじめだけ少し硬い)。ただし静かな部屋で聴き比べたので、外音の減少はあまりわかりません(電車の中で抜き差ししたくない汗)。引き抜く時には爪をかける窪みがあるので、それを見て引き抜くと楽に取れます。

* シルバー「m20」:外音を-20dB減衰(低域強く、密閉感最大)

低域がかなり重みを増して、地鳴りのような低音が楽しめます。これ結構良い感じで、かなり超低域まで出るように感じられます。200Hz前後よりも特に超低域が増える印象です。ただしヴォーカルの艶かしさがやや減退するようにも感じます。
中高域の伸びはm15よりもやや曇りが出るようにも思いますが、これでも悪くないレベルです。低音はたっぷりあるのに高音域も出るのでワイドレンジに感じます。楽器の鮮明さはやや減退しますが、ドラムの打撃感は迫力が出ます。メタルなどに良いですね。

* ゴールド「m12」:外音を-12dB減衰 (低域やや弱く、開放感強め)

標準よりも低音が軽く感じられます。ヴォーカルはからっと軽やかな感じになり、艶かしさはないがこれはこれで良いというか、ヴォーカルにはちょうど良いかもしれません。低域の被りも全く感じません。女性ヴォーカルの声はm15よりも鮮明できれいです。ポップの女性ヴォーカルはm15よりも向いているように思います。ジャズヴォーカルはm15の方が艶かしく感じます。
中高域はキラキラとした鮮やかな感じが出てきます。とても伸びやかでシャープです。やや刺激的ですが、ハイハットやシンバルはより響きが綺麗になり、鮮明さを増します。
音場感も開放的な感じになり、ミュージシャンの立つステージが広くなるように感じます。女性ヴォーカル主体の時や、アニソンなどに向いてます。

* ブラック「mX」 :外音を-10dB減衰(低域弱く、開放感最大)

低域はさらに軽く弱くなりウッドベースがウッドベースらしくなくなります。中高音域の鮮明さは強くなり、やや刺激的な音になります。
おそらくこのプラグはミュージシャンがステージ上で外の音を聞きたい時やなど、なにかの理由で使うものではないかと思います。

ちなみにバルブを完全に外しても音は普通に聴こえます。この時はブラックに近い音になります。そういう意味ではブラックは穴のダストフィルター的なものかもしれません。

IMG_5093.jpg
バルブを外した状態

* LUNAとの比較

同じAstell & KernブランドのLUNAとも比較してみました。どちらもかなりレベルの高い音ですが、それぞれの違いは設計の特徴を体現しています。
LUNAは平面型なのでより中高域で音のキレが高く速く、躍動感というかキレの良さというか、独特のスピードの速さがあります。
一方でXIOはやはり独特の深みのあるAPEXらしい音空間が魅力的で、これはLUNA(というか他のIEM)でも再現しにくいものです。ただしLUNAでは別の意味で鮮明な音像により立体感が高く、声もより明晰に聴こえます。もちろんXIOであればプラグを交換することで音を変化させることができます。

IMG_5090.jpg
LUNA(左)とXIO

全体的な音の印象はLUNAは平面型にしてはユニポーラ型設計により低音が出るのでリスニング寄りですが、XIOはやはりダイナミック型ハイブリッドらしくよりリスニング的な音を聴く楽しみがあります。これもプラグを変えるとより変化するでしょう。
実のところ基本的な音性能では甲乙つけ難いとは言えますが、それぞれの個性、LUNAなら平面磁界型、XIOならAPEXとバルブ交換式という特徴の差が大きいと感じます。このように両者はどちらが良いというよりも、個性が違うものという感じが強いですね。

また両者ともAKオリジナルらしい造形の魅力もあります。LUNAのチタン削り出しの金属感、XIOの高級腕時計のようなステンレスの金属感はそれぞれに個性的です。ただSP4000と合わせるときにはXIOの方が見た目の一体感はあります。

IMG_4787.jpg

* まとめ

XIOは音楽的でかつ音性能が高いというサウンドです。64 AUDIOが与えてくれたAPEXとアイソバリックドライバーの連携力をしっかりと活かした「圧力と音響を耳元で操る精密機械」という側面もあります。
APEXベントの他にない音の個性に加えて、イヤフォンの基本性能がとても高いこと、そして904Lステンレスの魅力的な持つ楽しみがXIOにしかないという魅力を作り上げています。モジュールを交換するたびに音が変わる楽しさは、まさに自分好みのサウンドを「チューニング」している実感があり、いじりがいのある製品とも言えます。64 AUDIOの個性とA&Kの個性がうまく融合した、Astell & Kernのコラボ製品らしいイヤフォンと言えるでしょう。
posted by ささき at 07:57 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年02月13日

SONY WF-1000XM6登場

ソニーから待望のWF-1000XM6が発表されました。

IMG_5668.jpeg

まずノイキャンですが、新しい高速化されたQN3eプロセッサで中高音域のノイズキャンセリングを向上させたとあります。
これはプロセッサが高速化することでより高い周波数の帯域までノイキャンをカバーすることができるからです。
以前Philewebに書いたこちらの記事をご覧ください。
https://www.phileweb.com/news/audio/202412/10/25996.html

IMG_5669.jpeg

WF-1000XM6ではANCの向上を咀嚼音などの「体内ノイズ」を減らすために通気構造を設けたとありますが、この分で外部ノイズが入ってくるのをANCでカバーしているのでしょう。いわばDEC社のアンビエントフィルターをデジタルでやっているような感じです。これもエンジニアとの共同の成果かもしれません。

次に音質ですが、インプレを読むとナチュラルな音というコメントが目立ちます。
今回採用された新しい振動板はエッジがノッチ状というか階段状になっていますが、これはスピーカーのコルゲーションと同じ役割をすると考えられます。共振を抑えてスムーズな振動ができるので、音もよりナチュラルになるのではないかと考えられます。

IMG_5667.jpeg
posted by ささき at 11:44 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年02月12日

真空管アンプ搭載のワイヤレスヘッドフォン登場

真空管アンプ搭載のワイヤレスヘッドフォン「écoute」が登場します。
https://ecouteaudio.com

IMG_5646.jpeg

真空管はNutubeで、デュアルモノというところが凝っています。DACもSoCとは別搭載のようです。
ドライバーは40mmのチタンコート、有線接続もサポートします。
またパーソナライズを専用アプリで行えるようで、ソフトのEQではなくファームを直接書き換えるとしています。
Kickstarterでクラファンをするとのこと。
posted by ささき at 07:12 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

アップルが新しいアダプティブANCの特許を取得

Patently Appleによると、アップルが新しいアダプティブANCの特許を取得しました。

これはハイブリッドANCの装着の違い(音漏れ)での効率低下を防ぐ技術です。
音漏れ(低周波応答)の敏感さがフィードバック(内部マイク)とフィードフォワード(外部マイク)で違いがあるので、音漏れに敏感なフィードフォワードを指標にして両方のバランスを取って効率化する方式。

いわゆるアダプティブANCですが、クアルコムの方式が直接マイクで音漏れ検知するのに対して、アップルはフィードフォワードとフィードバックのズレを指標にする点が異なります。
クアルコムは風切り音対策も含めて快適性重視で、アップルは安定性重視といえるでしょう。
posted by ささき at 05:47 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年02月04日

アップルがMEMSスピーカー搭載AirPodsに取り組む

Patently Appleのレポートで、アップルがMEMSドライバー搭載AirPodsを示唆するような技術を公開しています。

IMG_5450.jpeg
画像はPatently appleから引用

これはxMEMSのCypressと似た超音波変調・復調を前提として、復調した際の残存超音波を音響チャンバーで減衰させる技術です。調べるとアップルは市場のMEMSドライバーとは異なり、圧電型ではなく静電型のMEMSスピーカーを開発してるようです。

補足すると、超音波変調して復調するのはMEMSスピーカーが高周波領域に強いので、振動板が小さくて音圧を上げられないのを超音波帯域で音圧を稼ぐためです。つまりこれはツイーターではなくフルレンジ向けの技術と言えます。だからMEMSドライバー搭載のAirPodsがでたら、シングルMEMSドライバーだと思う。
また、この技術は音圧を稼ぐための技術なので、言い換えるとANC搭載フルレンジドライバーを前提にしてます。このことから、けっこう真面目に製品化を見据えているのが分かります。
ただし実際出るかは不明ですが。
posted by ささき at 07:04 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年01月20日

Astell&Kernの新たなフラッグシップ「SP4000」レビュー

Astell & Kernのフラッグシップ機は、常に特別な意味を持ってきました。AK240、AK380、SP1000、SP2000、そしてSP3000。
これらのモデルは、Astell & Kernというブランドの枠を超え、デジタルオーディオプレーヤーというジャンルそのものの頂点として、圧倒的なステータスと支持を集め、業界に大きな影響を与えてきました。そしてSP3000の発売から約3年。満を持して発表された新たなフラッグシップが、SP4000です。

IMG_4748.jpg

SP3000は、Astell & Kernの10年という節目にあたるモデルとして、先進的なA&futuraラインで培われた成果を取り込みつつ、「徹底したノイズ低減」というテーマを極限まで突き詰めた集大成として登場しました。
それからAstell & Kernは大きな体制変化を迎えます。SP4000に先行して登場したPD10が聴かせた抑えつつも押し出しの良いダイナミックなサウンドは、同社のサウンドデザインにおいて何かが変わったことを明確に示唆するものでした。
では、その変化はフラッグシップであるSP4000において、どのようなかたちで結実したのでしょうか。本機の進化を、順を追って見ていくことにしましょう。

SP4000の特徴 1 ー アンプ部の革新、ハイドライビングモード

いつもはDAC部分の話から始めるのですが、今回はアンプ部分に着目しました。なぜかというと、本機のサウンドキャラクターを決定づけている要素は、むしろその後段、すなわち出力アンプの設計思想にあると考えたからです。その兆候は、SP4000に先行して登場したPD10ですでに現れていました。従来のA&Kが得意としてきた静けさや解像感に加え、より積極的でダイナミックな駆動感が前に出てきたと感じたからです。
SP4000に搭載された「ハイドライビングモード」は、そうした変化を設計思想として裏付ける存在と言えます。

hidriving.png

これまでは音を力強く鳴らそうとして出力を上げると、どうしてもノイズや歪みが増えやすくなり、逆にノイズを徹底的に抑えようとすると、今度は音の押し出しやパワー感が物足りなくなる、というジレンマがありました。つまり静かさと力強さを同時に満たすのが難しかったわけです。
SP4000に搭載された「ハイドライビングモード」は、このジレンマに正面から取り組んだ仕組みです。簡単に言うと、アンプをより余裕を持って使える構成にすることで、無理をさせずに大きな力を出せるようにしています。
具体的には、SP3000の約2倍にあたる数のオペアンプを並列に配置しています(これがSP4000が少し大きくなった理由のひとつでもあります)。
さらに、1つ1つのアンプ自体もSP3000よりパワーアップしていて、それを2系統並べて使うことで、音を押し出すための余力が大きく増えています。
その結果、音量を上げなくても余裕のある鳴り方になり、低音は深く沈み込み、音場には奥行きが生まれ、全体として力強く立体的なサウンドが得られる、というわけです。

SP4000の特徴 2 ー フルAndroid化

もうひとつSP4000の大きな特徴というか変化は、AK240から続くカスタマイズAndroidからフルAndroidになったことです。AK240ではそれ以前とは異なり、主に全面タッチスクリーンとなったUI操作とWiFi対応、そしてソフトウエアの保守容易性といった観点からOSがAndroid化しました。しかしAndroidがそのまま出てくる機種とは異なり、軽量化をほどこして外からはAndroidが見えないようになりました。これによって今に続くリッチなAK DAPの機能も生まれたわけですが、反面でAndroid用のアプリインストールは制限されてOpenAPPという形でしかインストールできませんでした。
AK240は2014年に登場したわけですが、Apple Musicがハイレゾ化するのは2021年であり、時代はすっかりストリーミング時代となっています。そこでSP4000ではアプリを普通にGoogle Playストアからインストールできるようになりました。

IMG_0180.jpg IMG_0194.jpg
SP4000でのGoogle Play画面

そのためSP3000ではサービスメニューのあった項目が、SP4000ではアプリドロワーになっています。フルAndroidといってもデスクトップ画面はないのですが、ここからGoogle Playストアにアクセスができます。インストールしたアプリはこのドロワーに表示されます。Google Playストアのアプリを立ち上げるとログインできます。
つまりSP4000のフルAndroid機能では、ストリーミングアプリだけでなく、音楽再生アプリも入れ替えられるので、大幅に楽しみ方が増えたわけです。実際にNeutron Playerもインストールが可能で、内蔵音源も読み込むことができます。
フルAndroid化されたと言ってもAndroidのミキサーによる音質の低下を避けるような工夫(ミキサーバイパスのようなもの)はされているようです。

SP4000の特徴 3 ー DAC部分のさらなる高精度化

SP4000ではアンプだけでなく、DACまわりも着実に手が入っています。
使われているDACチップ自体は、SP3000と同じAK4191EQとAK4499EXの組み合わせですが、音を処理する中身の構成が見直されています。
SP4000ではAK4191EQとAK4499EXの組み合わせのバランスを1:1に揃え、よりシンプルで効率のよい構成に改められています(この方式は、SP3000の後に登場したSP3000Tで先に採用されていました)。

sp4000dac.png

この見直しによって、デジタルとアナログの干渉がさらに抑えられ、結果としてノイズの少なさや見通しの良さがいっそう高まっています。数値的にも131dBという非常に高いS/N比を実現しているとのことです。
さらにSP4000では、新たにESAと呼ばれる技術が導入され、DAC内部で起こりがちな「時間のズレ」にも対処しています。
音には高い音から低い音までさまざまな成分が含まれていますが、DACの処理によっては、それぞれがわずかに違うタイミングで出てしまうことがあります。これがいわゆる「群遅延」と呼ばれる現象です。
ESAは、このわずかな時間差をできるだけ揃えることで、音のまとまりや芯の強さを高める仕組みです。その結果、低音はより密度感を持って沈み込み、音の立ち上がりやダイナミクスも、より自然で力強く感じられるようになります。

IMG_4814.jpg

SP4000の特徴 4 ー さらなる低ノイズ化

SP3000では、徹底した低ノイズ化によって、あの独特の静けさを持つサウンドを実現していましたが、SP4000ではその路線がさらに一段突き詰められています。
まず電源まわりでは、新たにLDO(Low Dropout)レギュレーターを採用しています。これは電源から入り込む微細なノイズを抑えるための回路で、特に音質に影響しやすい部分に対して、よりクリーンな電力を供給する役割を担っています。これで電源由来のノイズを従来構成に比べて大幅に低減しているとのことです。
さらにSP4000では、Astell & Kernとしては初となる純度99.9%の銅製シールド缶を採用しています。これでデジタル回路や電源回路から発生する不要なノイズを物理的に遮断することで、アナログ信号への影響を極力抑える狙いです。

こうした電源設計とシールドの見直しによって、SP4000はSP3000のノイズレスな傾向をしっかり引き継ぎながら、より情報量が増え、音の輪郭や奥行きがいっそうはっきりと感じられる仕上がりになっています。単に「静か」なだけではなく、静けさの中に音がくっきりと立ち上がる、その質感が一段上がった印象です。

SP4000のそのほかの機能

第一世代のDARは音源をアップスケーリングすることで滑らかで自然な音表現を狙った仕組みでした。ハイレゾ音源では効果がありましたが、MP3やAACといったロッシー(非可逆)音源の場合、元データの段階で多くの情報が失われているため、DARによって補える範囲にはどうしても限界がありました。
そこでSP4000で新たに搭載された「Advanced DAR」では、まず音声データを解析し、失われた高周波成分や微細な音のニュアンスを推定・復元。そのうえでアップスケーリング処理を行うという二段階のプロセスが採られています。単純に情報量を引き延ばすのではなく、「どのような音がそこにあったか」を推測したうえで処理するため、結果として不自然さの少ない仮想倍音が加わり、音の輪郭や空気感がより明瞭に感じられます。

また、PD10用クレードルに対応したことで、SP4000はポータブル用途にとどまらず、デスクトップ環境でも実用的に使えるようになっています。加えてハードウェア・ロックボタンが新設されました。これは誤操作防止という点では理にかなった変更ですが、従来モデルに慣れているユーザーほど、最初は少し戸惑うポイントかもしれません。

IMG_4755.jpg

ハウジング素材には、Stainless Steel 904Lが採用されています。これは高級腕時計にも使われることで知られる素材で、耐食性や強度に優れるだけでなく、独特のしっとりとした質感を持っています。手に取った瞬間に伝わる重量感と冷たさは、SP4000が単なるオーディオ機器ではなく、工業製品としても高い完成度を目指して作られていることを実感させます。実際に手に持った感覚はSP3000とはまた別の感触を受けますが、のちにまた触れます。

パッケージもまた、このクラスの製品にふさわしい作り込みです。外装の輸送箱を開けると、その下にはまるでケースのような内箱が現れ、アクセサリー類は用途ごとに整理された専用スペースに収められています。開封のプロセスそのものが「高級機を迎え入れる体験」として設計されており、SP4000がフラッグシップモデルであることを強く印象づけます。
付属するケースは、ドイツ製のプレミアム・シュランケンカーフを使用したレザーケースです。

IMG_4730.jpg IMG_4734.jpg IMG_4764.jpg



* インプレッション

qdc WHITE TIGER(マルチBA)

まず全体的な音の印象を探るために、慣れたqdc White Tigerで聴いてみました。
いきなり圧倒されるような音再現の高さですが、圧倒されると感じる要因の一つは、SP4000は全体的な音傾向がSP3000とは変わっていて、よりPD10に近いような力強さがあるからだと思います。これまでのモニター的な中庸感よりもダイナミックな感覚です。それだけではなく、よりオーディオ機器らしい豊かさ、厚みといったところが本格的なオーディオ機器らしさと感じられます。やはりこの辺は設計だけではなくチューニングに関しても組織再編で変化があったようには感じられます。あとでSP3000とSP4000の細かい違いを書きますが、通常でもSP3000よりもアタック音が鋭いけれども、ハイドライビングモードにするとさらに鋭くなります。アタック感というよりも押し出しの強さというべきかもしれません。
ただし一方で全体的な音傾向でSP3000から引き継いだ感覚も多く、他のDAPと一線を画する独特のノイズレスの浮かぶような空間表現はSP3000と似ていて、さらに強まっています。この点でSP3000の系統にあることは明白です。

IMG_0193.jpg
SP4000とWhite Tiger

端的にいうと、音の性能という点ではSP4000はSP3000のノイズレスで高SNの点においてはSP3000を引き継ぎつつもさらに強化され、音の個性という点ではモニター的な感じが薄れてよりダイナミックなサウンドになっていると思います。
また、これらの点が複合的にあわされて、ワイドレンジ感もひときわ高くなっているように感じます。


Astell & Kern LUNA(平面型IEM)

SP4000と合わせたLUNAはSP4000のポテンシャルを存分に発揮します。思わず声が出るほど細かな音が複雑に世界を作り上げるような、圧倒的な音世界を構築します。LUNAの低音の凄みも恐ろしいほどに唸りをあげ、高域は日本刀のように鋭く研ぎ澄まされてシャープ。音のディテールがこれでもかというほど細片化され、きらきらと光り輝いているようなサウンドです。
SP3000で同じ曲を聴いても、これだけ情報量の飛沫がキラキラと飛び交うような音ではなく、SNは高いけれどももっと抑えめな表現です。
LUNAが滑らかで高性能ながらリスニング寄りのサウンドなので、本格オーディオのようなSP4000の厚みのある音と相性が良いと感じます。特にハイドライビングモードとの相性が良いようです。
IMG_5085.jpg
SP4000とLUNA

普通平面型はモニター寄りになりがちだけれども、LUNAは独自のユニポーラ型のドライバー設計でがんがん低音が出るので、ダイナミック的な躍動感も持ち合わせていることも良くわかります。

DITA VENTURA(シングルダイナミック)

VENTURAはSP4000とはこれ以上ないくらい相性が良く、この組み合わせは脳がやられそうなほど。VENTURAの持ち味の深みのある音空間とか高解像度というだけではなく、ダイナミック型らしい躍動感とパワフル感、滑らかで温かみがあります。ワイドレンジとか高解像度という性能面だけではなく、美しく音楽的なサウンドに魅力があります。SP4000のワイドレンジ感の高さと相まって、聴く限界を超えるような音空間を作り上げるのです。
特にアンビエントのような静かな曲でも、細かな音が複雑な音楽を作り上げるのにはぞくぞくとした感覚を覚えるほど。
IMG_5087.jpg
SP4000とVENTURA

VENTURAの良さはあくまでダイナミック型の躍動感の良さを持っていること、LUNAの良さは平面型の速さと切れ味であることがわかりやすいのもSP4000の特徴で、この違いはSP3000よりもはっきりと感じられます。試しにハイドライビングモードを切ってみると、この差が少し減退するので、この良さはハイドライビングモードが大きく寄与しているのがわかります。つまり従来のAK DAPに比較するとSP4000は単に細かく解像するDAC部分の魅力だけではなく、アンプ部分の魅力が大きいということがわかりますね。

*SP3000との比較

SP3000と比べるとまず筐体が一回り大きく重くなりましたが、同時に手触り感覚での筐体の面取り造形・デザインも複雑になった感じがします。手に持っているとかなり別物感があります。同じ904Lステンレスでも加工精度が上がったのかもしれません。より高級腕時計(持っていませんが)の印象に近くなった感があります。

IMG_0182.jpg
黒い方がSP3000

音質では前に書いたようにSP3000の独特の高いSN感の音性能をより拡張しながら、よりダイナミックな躍動感があります。
特に中高音でこの差が顕著で、例えばウッドベースと女性ヴォーカルのジャズヴォーカル曲では、前奏のウッドベースでは解像感や音の切れ味の高さなど、音性能的な点でSP4000の方が上回ると感じますが、ヴォーカルが入ってくると声の実在感がかなり違います。表現力がSP4000ではだいぶ良くなっている。中高域はSP4000では華やかになり、心奪われる感じの魅力があります。一言で言うとSP4000は華やかな高音質です。

ジャズ・R&Bヴォーカルのアーロンネヴィル「Summer time」をSP3000とSP4000で同じく再生します。
まずハイドライビングモードなしで比較します。
SP4000の音はちょっと聴くとSP3000に似ていますが、SP4000ではアーロンネヴィルの声を振るわせるコブシのような歌い方の細かな声が振るえるテクスチャがSP3000よりも細かくよく伝わってきます。またSP4000では曲のピアノの音がSP3000よりも明瞭でSN感が高いと感じます。
SP4000で聴いてからSP3000で聴くと曲が軽く薄めに聴こえるほどです。SP4000はより据え置きオーディオ的で音に豊かさと余裕があるという感じですね。
IMG_0189.jpg

次にハイドライビングモードで試してみます。
ハイドライビングモードをオンにするとよりアタック感が強く、より濃厚なサウンドになります。ドラムスを叩くインパクトがより鋭くなり、声がより前に出てきます。力感も上がりますが、音の濃密度も上がる感じです。こちらの方がよりSP4000らしく、音数が多くなり、濃くなります。ピチカートも鋭く、より音場感も広く感じられます。

*PD10との比較

PD10もかなり性能が高いが、SP4000よりも落ち着いた感じがする。あまり強く自己主張をしない実力派というべき。端的にいうとSP4000は華やかで美しく、PD10は質実剛健、です。
よく聴くとPD10よりもSP4000の方がやはり解像力とか鮮明さは上だけども、違いはそこよりも上に書いた音の個性だと思う。こうした点はLUNAがよくわかりやすく感じられます。

IMG_5079.jpg IMG_5081.jpg
手前と右側がPD10

例えばVOLK Audio EtoileをSP4000で聴いてみると、たしかに良いけれどもモニター的な性格が出てくるので、Etoileに関してはPD10の方が合うように思います。VENTURAとかLUNAのように高性能だけれどもリスニング向けのIEMがSP4000にはよくあうと思います。VOLKに関してはより華やかなSTELLAの方がSP4000向けのような気はしますね。

Astell & KernのDAPはプロ用にも使うことを前提としてきたけれども、組織変更後のPD10とSP4000から、プロ用にはPD10系、リスニング用にはSP4000系のように別れたのかもしれません。

* Neutron Playerアプリ

Neutron Playerでも使ってみたのですが、面白いことにやはりNeutron Playerの方が音は良いけれども、標準プレーヤーとの音の差は他のAndroid DAPほど大きく感じません。
IMG_0195.jpg

それだけ標準の音が良いということは、AKのカスタムAndroidの効果が高い(まだ高い)と言うことのように思います。他のAndroid DAPだとよくOSを高音質モードに切り替える機能があったりしますが、AK DAPはもともとそうした高音質モードのような設定で使っていたと言うことではないかと思います。

*まとめ

SP3000を「完成形のモニターDAP」だと感じていた人ほど、SP4000の変化には驚かされると思います。
SP3000は、とにかく静かで、正確で、ノイズという概念を忘れさせるような完成度の高さが魅力でした。音楽を正しく聴くための基準機として、これ以上はない存在だったと思います。
一方でSP4000は、その高いSN感やノイズレスな空間表現をしっかり引き継ぎ、さらに改良しながらも、そこに明確な「躍動感」と「華やかさ」を加えてきました。
つまり、SP3000がモニターの完成形だったのに対し、SP4000は本格オーディオの快感をポータブルで味わえる方向へ進化したモデルです。音を整然と並べるだけでなく、前に押し出し、鳴らし切る方向に踏み込んできた印象です。ここに、SP3000との大きな違いがあります。
SP3000の完成度に満足していたとしても、音楽をより鳴らして聴きたい、より音楽的な快感を求めるようになっているなら、SP4000はまったく別の価値を提示してくれるでしょう。

IMG_5086.jpg

その変化をもっとも端的に体感できるのが、ハイドライビングモードです。
ハイドライビングモードOFFの状態では、SP4000はSP3000の延長線上にある非常に高SNでクリーンなサウンドを聴かせてくれます。もしかするとモニター寄りのイヤフォンや試聴のときには、この状態がちょうどいいと感じるかもしれません。
しかしハイドライビングモードをONにすると、SP4000は一気にそのキャラクターをあらわにします。音の立ち上がりが鋭くなり、押し出しが強くなり、低音の密度と全体の濃厚さが増します。
特にリスニング寄りで高性能なイヤフォンや、平面型・ダイナミック型のポテンシャルを引き出したいときには、このモードがとても魅力的です。個人的には、一度ONにしてしまうとほとんど戻す理由が見つかりません。

確かにSP4000は大きくて重く、ハイドライビングモードではバッテリーの消費も早くなります。しかしそれは、利便性よりも音質を優先した結果でもあります。
SP3000が「完成されたモニター機」だとすれば、SP4000は「本格オーディオの快感を持ち出せるDAP」だと言えるでしょう。

また、SP4000は、単なる性能向上モデルではありません。Astell & Kernが今後どの方向に進もうとしているのか、その意思をはっきりと感じさせるフラッグシップです。
音楽を正しく聴くことに満足していた人ほど、SP4000がもたらす変化は新鮮で、そして抗いがたいものになるでしょう。
posted by ささき at 09:14 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年01月19日

AV WatchにHIFIMAN Arya WiFiとHE1000 WiFiのレビュー記事を執筆

AV WatchにHIFIMAN Arya WiFiとHE1000 WiFiのレビュー記事を執筆しました。
そもそもWiFiヘッドフォンとは何かというところから、BTとの根本的な違い、ホームオーディオへのシステム展開など幅広い視点で書いています。

https://av.watch.impress.co.jp/docs/review/review/2078118.html#

IMG_5280.jpeg
posted by ささき at 19:42 | TrackBack(0) | ○ PCオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする