Music TO GO!

2026年06月07日

ダンクラークAEON COREと改良型ハーマンカーブ

DAN Clark Audioから新しい密閉型の平面型ヘッドフォン「AEON CORE」が発表されました。

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画像はホームページから引用

https://danclarkaudio.com/aeon-core.html

$899とダンクラークにしては低価格で、高い能率の鳴らしやすさが特徴です。

ポイントは、AEON Coreが「改良型ハーマンカープ」を採用していることです。
これはAESで発表された論文に基づいています。

https://aesshow2025lb.sched.com/event/28vg6

これは元ハーマンだったSean Olive博士との共同研究によるもので、Sean Olive博士はオリジナルの「ハーマンカーブ」の提唱者です。
つまり正統的な「改良型ハーマンカーブ」と言えるものです。(現在は引退して独立しているようです)

https://news.harman.com/blog/celebrating-a-legacy-of-sound-dr-sean-olive-retires-after-32-years-at-harman


元の開発者による正統的なハーマンカーブの後継が登場、かたやKnowlesが新時代の好みに合わせてノウルズ・カーブを提唱、元ゼンハイザーのアクセル氏がOAE2で画期的なターゲットカーブの概念を打ち出し、final tonaliteのTDASのようにパーソナライズド・ターゲットカーブが可能となる、など、さまざまなアプローチにより、現在は時代の節目の一つのような気がします。


posted by ささき at 08:48 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年05月29日

アップルがカメラ付きAirPodsをナビに活用する特許を公開

Patently Appleによれば、アップルが噂されているカメラ付きAirPodsを用いた新しいナビゲーションの特許を公開しました。

これは従来のように「100メートル先で右折」ではなく、「ポストのところで右に曲がって」「コーヒーショップの横を通り過ぎて」といった、ユーザーが今見ている実世界の物体を基準にしたナビの指示が出せるというものです。

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画像はPatently Appleから引用

また、既に物体が見えていても近づくまで指示を待つというスマートなナビ指示の制御も行えます。

posted by ささき at 08:29 | TrackBack(0) | ○ 日記・雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年05月19日

パーソナライズDAP側搭載、音を自分で造るDAP、Astell & Kern「PD20」レビュー

まずPD20はPD10の後継機ではありません。
まったく異なる思想のもとに開発されたもので、旧ラインナップのA&futuraに近いアプローチだと思います。

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PD20とWhite Tiger

そのアプローチとは「音をカスタマイズする」ということです。PD20の音作りは大きく3段階に分かれています。
Audiodoによる「聴覚補正」、サウンドマスターホイールによる音色調整、アンプモード/Current制御による駆動特性変更です。
つまりPD20は、単に力技でイヤフォンを鳴らすDAPではなく、こうしたカスタマイズをして「自分専用の音」を構築していくDAPです。

また、その基本となるべき本体仕様もかなり高いレベルで設計されています。なおPD20はフルアンドロイドDAPです。

* PD20の特徴

1 パーソナルサウンド機能

PD20の目玉です。この機能のポイントは二つあります。
まずこの分野ではつとに知られているAudiodo社との共同開発であること、そして初めてDAP側にパーソナライズ機能がついたということです。
通常のオーディオ製品はお店で売られているものを使いますが、聞こえというのは人によって個人差があります。その個人差を機器側で調整するのが、パーソナライズ機能です。
これまでパーソナライズ機能はイヤフォン(DSPの内蔵されたTWS)に搭載されてきました。その技術の大手がAudiodo社です。PD20のポイントはそのパーソナライズ機能がプレーヤー側についたということです。つまりどんなイヤフォンでもパーソナライズの恩恵を得ることができるということです。

PD20でのAudiodo技術は、「パーソナルサウンド(聴覚パーソナライズ)」、「オーディオスフィア(立体音響機能)」、「Audiodoイコライザー(トーンコントロール機能)」です。

パーソナルサウンド機能は人の耳の聞こえ方の調整をするための機能です。これはいままでTWSなどに搭載されることはありましたが、DAP側に搭載されたことはPD20が初めてです。PD20にはこの測定をするための専用イヤフォンが付属されています。

オーディオスフィアは擬似的な立体音響を可能とするものです。「Subtle(繊細)」、「Balanced(バランス)」、「Immersive(没入)」、「Echoic(響き)」の4つのプリセットによって簡単に広がりのある音を擬似的に再現できます。

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AudiodoイコライザーはBass/Mid/Trebleの周波数別に自由に可変できるトーンコントロールのような機能です。これはサウンドマスターホイールというハードつまみでも調整ができます。Bass/Mid/Trebleの各帯域を-8.0dBから+8.0dBまでの160段階で微調整が可能というもので、チルティング機能を使えば、元のサウンドの特性を保ちながら、低音域または高音域のいずれかに向けて、全体の音色バランスを自然に調整することができます。

なお、パーソナルサウンド機能は最大192kHz/32bitまで、オーディオスフィアは最大96kHz/32bitまでのオーディオ再生に対応しています。
DAR機能と組み合わせた場合には、これらの機能が先に適用されてからDARが適用されます。つまりDARで352kHzにアップサンプリングされてパーソナルサウンド機能が効かなくなるということはありません。

2. 高いDAC性能

DACにESS ES9027PROをクアッド使用しています。DAC ICを並列使用すると、S/N比やダイナミックレンジを向上させやすくなり、クアッドDACではデュアルDACよりもさらにSN比を向上させることができます。
またフラッグシップのSP4000同様にESA機能を搭載しています。信号がDACを通る時に、低い周波数と高い周波数で時間が異なってしまいます。この群遅延と呼ばれる問題を低減するのがESAです。これにより、周波数歪みを最小限に抑え、音の明瞭度と純度を向上させるとされています。

3. 3つのアンプモードを切り替え可能

通常アンプは滑らかなA級増幅や、パワーのあるAB級増幅などでアンプの性格が変わりますが、PD20では「トリプルアンプアーキテクチャ」としてこれをユーザーがハードボタンで切り替えることが可能です。
具体的にはClass Aモード、Class ABモード、ハイブリッドモードの3つです。

ハイブリッドモードは具体的にどう働くかということを、A&Kに直接問い合わせてみました。
それによると、PD20ではClass A回路とClass AB回路は構造的に独立しており、最終出力段でアンプを通じて結合されるとのこと。
ただし、単純にこの2つの信号を合算させると、タイミングのズレや位相のズレが発生し、歪み(THD)の増加やノイズ性能(SNR)の劣化を招く可能性があるとのこと。 これを防ぐため、PD20ではClass AとClass ABの音声経路をそれぞれ独立して制御して、タイミング、位相補正、ゲインを最適化することで、違和感のない一貫性と滑らかさを持ったサウンドを実現しているということです。


4 アンプ動作電流を調整可能なClass A Current機能

上記のClass Aモードとハイブリッドモードの際にのみ適用されるモードです。High、Mid、lowの3種あります。この機能はPA10でもありましたが、この機会にAstell & kern開発に話を聞いたので少し詳しく解説します。

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PD20のCurrent制御機能は、出力段のバイアス電流(動作電流)を制御する仕組みです。まずなぜClass Aモードとハイブリッドモードの際にのみ適用されるかということを説明します。
Class Aモードでは、出力デバイスが常に一定のバイアス電流で動作するため、この電流値を安定して調整することが可能です。そのため、バイアス電流のレベルを変更することで、アンプの駆動特性や音のキャラクターを精密にチューニングできます。 それがHigh/Mid/Lowの切り替えです。
一方、Class ABモードは効率を重視した設計で、信号の振幅に応じて電流が動的に変化します。つまり、Class Aのような一定のバイアス電流を維持していないため、同じ方法での電流制御は構造的に難しく、効果も非常に限定的になります。 そのためにClass ABモードでは動作しません。
HybridモードはClass AとClass ABの構造を組み合わせたもので、Class Aの信号経路を通るため、Current制御機能が効果的に動作します。

次にClass A Current機能を調整することで、異なるヘッドフォンやIEMにどのような利点があるかということを説明します。
Current制御機能は単なる出力パワーの調整ではなく、アンプが負荷(ヘッドフォンやイヤフォン)をどのように駆動するかの特性を変化させるものです。
300Ω以上などの高インピーダンスヘッドフォンは、この動きにくい振動板を素早く・正確に動かすためには、勢いよく押す力である高い電圧と、途切れずに押し続ける力である安定した電流が必要です。この電流が足りないと複雑な音楽(ベースの強い曲やオーケストラなど)で急に大きな音が出たときにアンプが息切れを起こします。つまり音が歪んだり音が緩くなります。
Class A Current機能をHighにすると、アンプに「電流の余裕(ヘッドルーム)」をたくさん与える状態にできるわけです。つまり高インピーダンス・ヘッドフォンを鳴らしやすくします。
低域のコントロールが良くなる(ドンが引き締まる)、音場(空間)が広くなるなどの利点があるはずです。

それではClass A Current機能をLowにすると、どういう利点があるかというと、高感度IEMは少しの電流でも大きく鳴るため、電流を多く流しすぎるとノイズが増え、音が硬くなったりします。つまりノイズフロアが下がり、背景が黒くなり、微細な音のディテールが聞き取りやすくなります。

言い換えると、Class A Current機能とは「負荷(ヘッドフォンやイヤフォン)の特性に合わせてアンプの動作を最適化する」機能ということになります。

アンプの動作として具体的に何が変わるのかという点をまとめると、以下の通りです。
High Current:駆動力が向上、ダイナミクスが向上、低域の締まりが向上。
Low Current:ノイズフロアが低下、背景の黒さが向上、微細表現も向上。
ただしHigh Currentにすると消費電力と発熱が増えます。

ちなみにPA10の同機能と比較すると、基本的な仕組みはPA10と同じです。しかしPD20では電源部を全面的に再設計したことで、電流供給能力と安定性が大幅に向上しています。その結果、さまざまなヘッドフォンやイヤフォンを接続した時の駆動力と安定感がより優れているとのことです。
PD20については電源も含めてアンプ機能がかなり力が入れられていることがわかります。

* インプレ

PD20の箱は細長く、中にDAPと測定イヤフォンが添付されています。

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まず実機を持った時の第一印象は、軽くて画面が広いということです。表示品質も高くて、アルバムも美しく表示できます。

PD20の特徴として、側面のハードスイッチが再生停止の一つだけになり、サイズが大きくなりました。これは片手で持って押しやすい位置にあり、自然に指がかかって使いやすく感じられます。SP4000だとなかなか持ち出しにくいという人は多いでしょうが、PD20は持ち出して使うことを前提に設計されていることが伺えます。ボタンはダブルクリックするとスキップになります。

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上面にはボリュームつまみと新設のサウンドマスターホイールが設けられています。サウンドマスターホイールを押し込むとBass/Mid/Trebleを切り替えて、画面にアクセスしなくても調整可能です。Bassにしておいて、曲がメタルに変わったら低音をモリモリとあげるなんてことは簡単にできます。
一方でノブがいくつかのL字コネクタに干渉する可能性があります。ただ音量の方がやや低いようで、そちら側でクリアできる場合もあります(例えばqdc White Tiger)。

アプリはかなりさくさく動くので、ストリーミングをしていてもあまりもたつくことはありません。

音質はパーソナライズをする前と後でそれぞれ確認しました。

* 音質:パーソナライズをする前

まずqdc White TigerをABモード、Current Lowで聴き始めました。音質はモニターライクなWhite Tigerとは思えないくらい有機的で滑らかで温かみのある音です。音楽的でリスニング寄りに感じられます。
音質レベルは極めて高く、調節なしでデフォルトでも低音がたっぷりあると感じられます。音に深みがあり、特に何も調整しなくても奥行き感があります。
DACとアンプの基本性能はかなり高いようです。
聴き始める前は乾いた感じのESSらしい音がベースかと思っていたけれど、それとは随分違う温かい音に感じます。ただ着色感はなく音色自体はニュートラル、コンデンサーの付帯音みたいのはありません。温かみというよりも滑らかという印象です。

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Janis Crunchのシンプルな女声とピアノとベースの曲「melancholic magic」を聴いてみると、平面的ではなく抑揚があり、シンプル曲とは思えないほど、複雑な音のハーモニーを感じます。いい感じですね。PD20はとにかく女声ヴォーカルが魅力的で、ピアノもウッドベースも良いけれども、声の豊かさを再認識させてくれます。

Class A Current機能の音の変化を試してみます。
CurrentをHighにすると、音が濃くなる感じで、感覚的に画像のコントラストを上げて像が鮮明になる感じです。
例えばサックスの音を、息を吐く時に微妙に震わせる感じがcurrent HighだとLowよりもよくわかります。声の細かな表情もよくわかるようになります。
ロックだとHighにするとより激しく感じられ、Lowにすると少し落ち着いて聞こえます。
Lowが自然ではあるけれど、Highで女声ヴォーカルの声の掠れや発声のニュアンスの豊かさを味わう妙味もあります。Highにしたからといってノイズフロアがそう極端にあがるわけではなさそうです。もともとAK DAPはかなり低ノイズですからね。
Class A Current機能の音の変化はPA10と似てますが、PA10よりも効きがわかりやすいと思います。これは上で書いたように電源の強化もあるのでしょう。

次にサウンドマスターホイール(トーンコントロール)を使ってみます。
サウンドマスターホイールは効きが微妙というかとても細かく調整ができます。またバッファのせいか少し遅れて効くのでゆっくり調整した方が良いと思います。
女声ヴォーカルがいいなあと思った時にMidをプラスにしていくといい感じになります。
かけすぎると人工的になりますが、いわゆるイコライザーを起動して音質が劣化する感じはあまりありません。
たとえばWhite Tigerだとやや低音が出過ぎる傾向はあるので、Bassコントロールで低音を減らすとフラットに近く感じるようになります。
イヤフォンの特性や、音楽に応じて自在に変更できる感じです。

3つのアンプモードを切り替えしてみます。
ABからAにするとより滑らかになるとともに音に深みが出ます。Current HでクラスAモードにすると、かなり濃い音になります。
音の印象は、クラスAだと暗くて陰影がある感じ、ウッドベースはより深くなるように感じられ、声もより豊かで厚みが増します。
クラスABだと明るく快活な感じでロックでの切れ味が鋭くなります。
Hybridだとその中間といえば中間ですが、もっと複雑な音になる感じです。AとBで迷ったらHybrid固定でも良いと思うほどには完成度は高いです。例えばクラシックの四重奏しか聞かないなど明確に聴く音楽が偏っていない場合などはそうしても良いかもしれません。
こちらもSE300の同じモードよりも違いは大きくわかりやすいと思います。

というか、ここまで書いてて、え、これパーソナライズ必要か?と思います。
実のところ完成度が高い音で、特にアンプ性能が高いのが秀でています。
PD20はSP4000やHC5のようなハイカレントモードはないけれども、かなり音の歯切れがよいアタックが強いDAPで、特にロックやポップスに向いたDAPだと思います。

* 音質:パーソナライズをした後

添付イヤフォンもしっかりエージングして使いましたが、実は音が結構良いです。低音から高音までしっかりと出ています。
解像感も高く感じます。これ筐体デザインをちゃんとしたら普通に売れると思います。finalのA3000かA4000に近い音という感じでしょうか。

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測定イヤフォンとPD20

パーソナライズの手順は、サウンドマスターホイール(上部ボタン)の長押しでSound Studioモードに入る。またはホーム画面の耳の形の左側のアイコンをタップし、パーソナライズで+をタップします。テストトーンが聞こえてくるので聞こえるかどうかをYES/NOで答えていくだけ (音量は変えられない)です。

結果としてパーソナライズ音にするとかなり明瞭感が上がり、クリアで鮮明な音になります。左右差も改善されるせいか、音場・立体感も高くなります。これは測定イヤフォンではっきりわかります。
かなり効果は高いのですが、その分で正しいというか、自然に聞こえるプロファイルを作るのが多少コツがいります。これは自動測定ではなく、微妙な聞こえの部分で個人の判断が入ることによると思います。それと一律に行われる年齢加算です。
一回目の結果でイマイチと思う場合は何回か試行錯誤してみると良いと思う。測定時の状態も変化するかもしれません。

何回か試行錯誤して分かったのですが、これは自然に聞こえるプロファイルを作るコツの個人的な見解です。
まず年齢を誤魔化すことですw
はじめに作ったときには高域が強すぎました。マスターホイールで高域を落とすとともにバランスをheavierに傾ける手もありますが、それよりも再測定をした方が結果が良かったです。パーソナライズ手順の最後に年齢入力があるのですが、そこでサバ読むわけです。
たぶんオーディオを常に聞いてる人は一般人よりも、聴き取り能力が高いと思うので、若い人はともかく特に中高年で普通に年齢加算すると高音が高くプラスされすぎて不自然になると思います。
このやり方で再測定した場合、イコライザーで傾ける必要なく、かなりフラットに聞こえるようになりました。
もう一つは左右差です。たしかに個人差はあるはずですが、あまり左右の特性に違いがある場合には測定誤差の可能性の方が大きいと思います。それで左右差があまり大きい場合には、なるべく揃うまでやった方が良いと思います。もちろん個人の左右差はあるはずので、ある程度までで良いと思います。
また、テストをするときに、聞こえるか・聞こえないかという判断をあらかじめ決めておくことです。微妙な時はNOとするなどです。
これらの「高域がきつすぎる時は年齢をサバ読む」、「左右差が大きすぎる場合は測定誤差を疑う」、「微妙な音はNOにするなど判断基準を事前に決めておく」を考慮してやり直してみると、かなり良いプロファイルが出来上がると思います。イコライザーで追加補正を使わなくてもフラットに聴こえ、とてもクリアに音が聞こえるようになります。

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ある程度納得したプロファイルを使って、いろいろなイヤフォンで試してみました。

パーソナライズ前に使っていたWhite Tigerで使うと、別物かという感じの音になります。特に透明感・クリアさがとても向上します。
ピアノなどアコースティック楽器の音の表情がとても掴みやすく、ヴォーカルの声の表情など微妙なところが掴みやすくなります。パーソナライズすると声のクリアさも一層鮮明になり、アニソンで女性ヴォーカルが明瞭に浮き上がり、かつバックバンドのパワフルな演奏も楽しめます。

PD20はここからさらにカスタマイズが効くのがすごいところです。
好みの音を見つけるために、始めはClass A Current機能をMにしておいて、パーソナライズした後に、音の表面の質感を微妙に調整するためにHやLに移動させると良いと思います。個人的にはマルチBAのIEMの場合にはパーソナライズするとクリアさが強くなるので、きつさを中和するためにLにする機会が多くなるのではと思います。
もう一つはパーソナライズしてから、イコライザーのバランスをheavier側に倒しても、クリアさに生じるきつさとのバランスが取れます。

このようにパーソナライズ機能をDAP側に持つといろんなイヤフォンに適用できます。イヤフォン差はサウンドマスターホイールで調整できます。プロファイルは固定して機種ごとにサウンドマスターホイール(イコライザー)を変えて機種名つけて保存しておくのが良いと思います。

さらにClass A Current機能切り替えで音の表情をLowにするとやや穏やかになり、Highにするときつめになります。
アンプのクラスAやABの切り替えはパーソナライズした後でも音楽の感じ(ABならロック)に合わせていいと思います。Aだと落ち着いて滑らか、ABだと明るく快活の印象になります。

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PD20とLuna

他にパーソナライズの効果が著しく高いのは平面型のAK Lunaです。特に立体感が極めて向上して、ありえないような音空間になります。左右バランスがパーソナライズで取れることで、立体感が向上するのだと思います。パーソナライズのオンオフではまったく違う音で、元には戻せない感じです。
この状態でaudiosphereを組み合わせると、かなり聞いたことのないような音場感覚になります。上下方向にかなり音が広がる感じもします。頭外にはならないまでも平板感が少なくなります。チル系統の音楽や電子的に作った曲は立体感の恩恵が大きいように思います。ジャズトリオのような純粋アコースティック曲はaudiosphereを効かせると、やや不自然さがあります。

カスタマイズはかなり効果が大きいので、どちらかというとLunaのようにはじめから先鋭的なイヤフォンよりも、White Tigerのようにややおとなしいモニター的なイヤフォンをより先鋭化させたり、ダイナミックに揺るがすと言うカスタマイズが向いているように思います。
慣れてきたら、いろいろなイヤフォンに適用できるようになると思います。

* まとめ

総じて、PD20は基本性能が非常に高く、特にアナログアンプ周りが強力です。
そこにAudiodoのパーソナライズとサウンドマスターホイールによるカスタマイズを加えることで、自分好みの音に仕上げることができます。「Craft Your Sound」というコンセプトをしっかり体現したDAPだと思います。
持ち運びやすさ、音質、カスタマイズ性などDAPとしてのバランスが良く、たくさんイヤフォンを持っていて、それらをひとレベル上の音にしたいというユーザー向けのDAPといえます。
posted by ささき at 10:31 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年04月29日

iPhoneに高音質コーデックをもたらすドングル、Noble「SCEPTRE」レビュー

iPhoneでワイヤレスイヤフォンを使用している最大の問題は高品質コーデックに対応していないことです。特にLDACやaptX系統が使えないので歯痒い思いをしていたiPhoneユーザーは多いでしょう。
それに対しての福音となるのがドングル型Bluetoothトランスミッター、Noble「SCEPTRE(セプター)」です。希望小売価格は税込14,300円、4月18日に発売開始されています。

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SCEPTREとは笏(王が持つ杖)の意味です。この杖のようなデバイスを使えば音が格式高くなると言うわけですね、Nobleらしいネーミングです。

* SCEPTREの特徴

SCEPTRE はワイヤレスデバイスとしてはQualcomm QCC5181 Bluetoothチップセットを搭載し、Bluetooth 5.4をサポートしています。
ドングル型でスマホのUSB-C端子に接続するだけでiPhoneをLDACやaptX対応に変えます。使用するコーデックを明示的に指定することができます。
特徴としては本体底面にUSB-Cポートが設けられているので、充電しながらの使用も考慮されています(PD3.0準拠)。またPCなどのために使用するUSB-Aアダプター(SCEPTRE専用とされています)も付属しています。

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対応コーデックはLDAC / aptX Adaptive / aptX HD / AAC / SBCです。BTクラシック(A2DPなど)のみの対応で、LE Audioには対応していません。
母機としてはiPhone 15/16/17、Androidの他にMacやWindows 11以降のPCに対応しています。またコンシューマーゲーム機としてPS5、Switch 2にも対応しています(ゲームモードがあります)。

* SCEPTREの仕組み

SCEPTREは手軽に使えるのですが、実際に使うのは戸惑うこともあります。そこで仕組みを頭に入れておくとスムーズに使えると思います。以下、挙動からの推測ではありますがSCEPTREの仕組みを解説していきます。

以降はiPhoneを例に取ります。
仕組みとしては、従来はiPhoneからワイヤレスイヤフォンに直接接続されていたものを、SCEPTRE経由にするわけです。SCEPTREはクアルコムのチップを搭載しているのでaptX系統も使えます。

[従来]
iPhone
↓ (Bluetoothワイヤレス / 主にAAC)
TWSイヤホン (Noble FoKusなど)

[SCEPTRE]
iPhone
↓ (USB-C 有線接続)
SCEPTRE (Qualcomm QCC5181)
↓ (Bluetoothワイヤレス / AACに加えて、高品質コーデックLDACやaptX系統)
TWSイヤホン (Noble FoKusなど)

そして、SCEPTREは画面がありませんから、ペアリングやコーデックの指定などはiPhoneにNoble FoKusアプリをインストールして行います。この時に、SCEPTREとiPhoneの通信も必要になりますので、SCEPTREとiPhoneはBluetoothで接続します。iPhoneからSCEPTREへの音楽伝送はUSB経由です。                

これを頭に入れておくと混乱しないで使えると思います。

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パッケージ

* 接続手順

例えばfinal TONALITEでLDACを使いたいとします。

この時に(絶対ではないが確実にするために)することは
1. TONALITEのEQやPersonalizeなど設定を固定して決めておく (SCEPTRE使用中はTONALITEアプリが使いにくい)
2.(重要) iPhoneユーザーは忘れがちですが、TONALITEのLDAC使用設定をオンにしておく
3. iPhoneのBluetoothのTONALITEの設定をいったん削除(iPhoneがSCEPTREより先にTONALITEに接続しないため)
4. TONALITEをいったんケースにしまう
5. SCEPTREをiPhoneに接続
6. Noble FoKusアプリを立ち上げて、ドングルに接続を選択
7. Noble FoKusアプリのBluetooth接続でSCEPTREを選択
8. TONALITEをケースから出す、ペアリングモードになる
9. Noble FoKusアプリのペアリング画面でSCEPTREとTONALITEのペアリングをする、またはMy deviceでTONALITEを選択
10. Audio decoderメニューからLDACを選択、TONALITEは最高品質でも安定しています

これ以降は簡単に使えるはずです。またこれ以降はiPhoneにTONALITEのBluetooth設定があってもかまいません。前回使ったSCEPTREが優先されるはずです。

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LDACの品質選択画面とaptX adaptiveの選択画面

もちろん他のイヤフォンでも同じです。FALCON MAXなども専用アプリにaptXのオンオフ設定があるので注意してください。iPhoneユーザーは日頃これらの設定を意識しないので忘れがちになると思います。

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*実際の使用

実際にfinal TONALITEでSCEPTREを使用してiPhoneからLDACで使ってみました。

SCEPTRE 上でコーデックをAACからLDACに変えると、音の細かさ、情報量、力感、パーカッションの打撃、広がりなどの感覚がかなり向上するのがわかります。ヴォーカルはより表情豊かになり、特にスケールの大きなシネマティックな音楽のスケール感が圧倒的になります。
LDACの最高音質で接続しても音が途切れることはありません。

ドングルを取ってiPhone直に戻すとかなり物足りなくなります。
元の音のバランスのままでそのまま良くなる感じだけど、全体的に少し強めに出るので、オリジナルの状態で好みの音にしておいた方がよいです。
ちなみにiPhone直のAACとSCEPTREのAACでも、SCEPTREのAACの方が音は良いです。

FALCON MAXではaptX Adaptiveも使用できます。最高レートでも安定しています。
さらにLDACとaptX Adaptiveの聴き比べもできます。音楽的で滑らかなLDACと多少硬質感があるがソリッドなaptX Adaptiveのらしさがでているのが面白いところ。

QCY N70でもLDACで接続できましたが、LDACの最高音質にすると音が少し途切れます。他ではでないのでQCYの問題のようですね。Androidではわかりませんが。

*まとめ

Noble SCEPTREは、iPhoneユーザーが長年抱えてきた「高音質コーデックが使えない」という不満を、シンプルなドングル1つで解決してくれる優れたアイテムです。一度設定してしまえば、お気に入りのイヤホンをひとグレード上にできるのが魅力です。ワイヤレス体験の質を高めてくれるアイテムと言えるでしょう。


posted by ささき at 14:15 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年04月24日

アップルがiPhoneスピーカーの「機械的な」音質向上に取り組む

Patently Appleによると、アップルがiPhoneの内蔵スピーカーのイコライザーやDSPではない「機械的な」音質向上に取り組んでいます。

下図はアップルの特許で、iPhoneのスピーカーの低音を中心にした音質をイコライザーではなく機械的に向上させる技術です。
空気バネを独自のスプリングで減少させるもので、請求項の中心は非線形の剛性を持たせる形状と構造で、記事中の添付図のAからEまで様々な形状のスプリングが図示されてます。

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図はPatently Appleより引用

また少し前に出たのは「機械的」な曲がったヒンジ(図の252b)を「逆バネ」として使い、空気バネを相殺するものです。機械的なワザと曲がったヒンジをドライバーに設置することで、振動板が動くとこのヒンジがあたかも膝カックンされたように「逆バネ」として働きます。この逆バネの力で空気バネを相殺するわけです。

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図はPatently Appleより引用

従来は空気バネはベント穴で弱くするが、iPhoneは小さすぎてそれができないからの技術といえます。これらはイヤフォンにも応用できると思います。

これらの特許のポイントは、他のメーカーならそんなのはDSPで無理矢理やれば簡単で安く済むじゃない、と思うところを、アップルは得意のメカ設計で実現することで歪みを減らしてより音質を上げれるので、得意分野で差別化(高付加価値化)できるという点ですね。
つまり、この特許は「DSPで誤魔化すか、物理で正すか」、という点でアップルは後者を選べる数少ない会社であるということを改めて知らしめたと思います。

また、よく「イコライザーかければ低域や高域の出方はいくらでも加減できる」みたいな論説がありますが、この辺を見てもそんな単純なものじゃないというのはわかるのではないかと思います。

posted by ささき at 08:19 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年03月22日

コンパクトでユニークなDAP、ONIX 「Tocata XM2」レビュー

ONIX 「Tocata XM2」(以降XM2)はパッと見するとコンパクトで手頃な価格のDAPですが、その中に高性能の秘密を秘めています。また、いまどき珍しいAndroid搭載でないDAPですが、ここにも秘密があります。本記事ではその見える特徴と見えない特徴を解き明かしていきます。

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XM2のUSB DACモード

ONIXでは以前「Mystic XP1」の記事を書きました。http://vaiopocket.seesaa.net/article/503758608.html
ONIXはイギリス発祥のブランドですが、現在ではShanlingと強い提携を結んでいます。XP1は音質的には「ブリティッシュサウンド」として黒箱時代のLINNを思わせるような陰影あるトーンの音と、最新のShanlingのファームを組み合わせた、質実剛健な面と近代的な機能性を併せ持つDAC一体型のヘッドフォンアンプでした。

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XM2とAzla Trinity

XM2は四角形のコンパクトDAPというユニークな形がまず特徴です。3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを搭載、800mWと高い出力性能を誇ります。1Wあるとだいたい据え置きヘッドフォンアンプくらいと言っても良いので、コンパクトDAPにしてはかなり高い出力性能です。
またワンタッチで画面を90度変えるスクリーン回転機能ができるので接続に応じて様々な使い方ができます。これは後でUSB接続するときに大きく意味を持ちます。

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* XM2の特徴

XM2はDAC部分にCirrus Logic社のCS4308Pを搭載、I/V変換にはBrighton I/V変換ステージでデュアルOPA1612オペアンプを採用、アンプ回路には、デュアルSGM8262-2オペアンプを採用しています。
なんのことやらと思う人も多いかもしれませんが、まずここからXM2の見えない特徴を解き明かしていきます。

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DACに使われているCS4308PはESS Sabreシリーズのように8chの出力を持つ、シーラスロジックの最新DACです。
8チャンネルある意味は何かというと、まず8chもあるとフルバランス構成に必要な4chをクリアして、さらに4chあまります。つまりチャンネルあたりデュアルDAC相当でフルバランスできるということです。
この利点はSNの向上です。なぜかというと、二つのDAC出力を加算すると、信号は単純に2倍になりますが、ノイズ成分はルート2(√2)でしか増えないからです。
これは一般的なデュアルDACの効果ですが、シーラスロジックではこのCS4308Pを出すときにこの点をCS4308P推奨設計ガイドとして公開してドキュメントにしています。これは秘密主義のESSとはちょっと対照的です。
[CS4308P推奨設計ガイド 参照リンク]
このドキュメントによると、XM2のフルバランス構成でデュアルDACとしているのは、つまりOUT_SUM_MODE(Output Summing mode)というDAC出力加算モードであり、このときXM2はこのガイドの「OUT_SUM_MODE=0x1」の設定になります。(0x1は16進数の1というプログラム的な意味です)

これで出力電流が二倍になるので、ここでデュアルOPA1612オペアンプの「Brighton」I/V変換ステージが生きてきます。並列で電流が倍になり、I/V変換がより低ノイズで正確になります。
XM2は、さらに出力段もSGM8262-2がデュアル搭載されて強力です。SGM8262-2自体がデュアルオペアンプなので、それが二つで4chのバランス駆動が成り立ちます。つまりXM2は小さいけれどもDACからアンプまでフルバランス構成であり、アンプのSGM8262-2は出力電流能力が高く負荷駆動に余裕があります。
端的に言えば、XM2の構成は低ノイズでかつ低インピーダンスに強いということです。つまり高感度マルチBAやハイブリッド構成にとても向いています

言い換えると、XM2はコンパクトなのに低インピーダンスIEMも、フルサイズヘッドホンも余裕で鳴らすというのが、「DAC部分にFPGAとCirrus Logic社の CS4308Pを搭載、IV変換にはBrighton I/V変換ステージでデュアルOPA1612オペアンプを採用、アンプ回路には、デュアルSGM8262-2オペアンプを採用」という「電流マシマシ音カラメ」みたいな呪文の効能であり、XM2の全体のSN値としては121dBなので、他のハイエンド機と比較してもさほど遜色ない値です。これが「コンパクトなのにフラッグシップクラス」という売り文句の理論的な根拠でもあります。
さらにXM2はAndroid非搭載なので、音質的には重いAndroid搭載DAPよりは上となるでしょう。

しかしながら、Android非搭載ということはいまどきのストリーミング時代では問題となりそうに思えます。
XM2ではそこをコンパクトなフォームファクター、回転式スクリーン、マグネット付きの専用ケースというギミックでカバーしているのが次の秘密です。つまりストリーミングに関してはスマホに寄生して、USB DACとなることで解決しています。
つまり、最新型のDAC ICを生かすために非Android DAPとして音質を向上させ、その分でストーリーミングに対応できないのをコンパクトさを生かして、(大きな)スティックDACのようにスマホに接続して使えるわけです。

* インプレッション

実機を触ってみると、とても手に馴染みやすく、コンパクトな筐体です。さきに書いたようにMagsafe対応のケースが付属します。(ただしOTGケーブルは付属していないので別途用意が必要です)

XM2はAndroidではない独自OSを搭載しています。Android DAPは多機能だけれど動作が重く音質が良くないというジレンマがあります。そのため多くのAndroid DAPはAndroidの各種サービスを切った音質専用モードのようなものを設けています。XM2は音質を取ったというわけですね。
UIはAndroidではないけれども、とてもスムーズに動作します。これはいわゆる軽量な組み込みOSですが、タッチUIで動作します。一時期のDAPのようなメニューを上下に動かすようなものではなく、タッチが可能で動きはサクサクとしています。ShanlingはCDプレーヤーに組み込みOSを搭載しているので、そのノウハウがあるのかもしれません。ちなみにメイン画面のUIの他にAndroidのように上からプルダウンさせるメニューもあります。USB DACにするときはここでモードを変えます。

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XM2の画面回転機能(ファンクションキーに回転機能を割り当て可能)

Androidベースではないですが、WIFIもサポートしています。
WIFIでできることは、まずEddict Player接続です。Shanling系のユーザーにはお馴染みのEddict Playerアプリからポケットに入れたまま、リモコンのように操作ができます。
そして、AirPlay、DLNA、ファイル転送(ただし内蔵メモリはありません)。この他にもOTAでファームアップができる予定とのこと。
USB出力もできます。その際には固定と可変ボリュームが選べます。

独自OSなので、ストリーミングアプリは直接XM2ではインストールできませんが、XM2をスマホのUSB DACとして扱いやすくすることで対応できます。ただしTIDALははじめから入っていますので、単体でもTIDALならばストリーミングはできます。
USB DACとしての音質などは後で別に書きます。

電池は公称8.5時間、実測ではエージングの時に測りましたが7時間くらい連続再生が可能です。

* 音質

音はまず透明感が高く、細かく解像してSN感が良い音と感じます。また音の響きが美しく、とても整っています。
XP1のときに感じた陰影感あるトーンはさほど強くなく影を潜めていますが、無機質的な感じではなく、心地よさはあります。シーラスDACの音とこのチューニングの相性が良いですね。黒箱LINNが現代LINNになった感じでしょうか。実際、先に書いたSN優先の設計ゆえではありますね。

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XM2とqdc White Tiger

もう一つの音の特徴はパンチが強い音だということです。低音の力感とパンチがあります。音は左右に広く、コンパクトなDAPながら音のスケール感は大きいと感じます。後で書きますが、実のところUSB DACモードでスティックDACと比べた場合に、スケール感は利点として感じられます。
XM2の最大の強みは透明感あるSNの高さとパンチの強さです。リスニング寄りにチューニングしてあり、低音はパンチが強く中高域は音色が美しいという感じのサウンドですが、これはつまりハイブリッドにとても向いています。

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* イヤフォンとの相性

イヤフォンの相性としてはShanling のハイブリッド構成IEM「Regal」とすごく相性が良い感じです。ShanlingとONIXが関連企業ということもあって、もしかするとリファレンスに使ったのかもしれないけれども、あつらえたようによく合います。RegalはShanling 「M7T」とも相性良かったけど、ONIX/ShanlingはDAPとイヤフォンの相性確認をきちんとやっているのかもしれません。あるいは開発ポリシーがきちんと整合しているのかもしれません。

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XM2とRegal

ハイブリッドらしく中高域は鮮明で、低域はパンチが強いというXM2の良さを両方楽しめ、音の広がり、細かさともによくXM2の良さを引き出しています。高音域もかなりシャープに伸びるけれども、キツくならないのが良い点です。
低音はかなり強めになりますが、ヴォーカルにはあまり被さりにくいと思います。全体的にリスニング寄りで、かつ性能が高いサウンドです。


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そしてRegalとの組み合わせで面白いのは、Regal側のスイッチ設定の使い方です。
スイッチは標準のバランスモードでもだいぶ低音は出るけれども、低音強調の「アンビエントモード(1をオン)」にすると、かなり誇張されているくらいに低音がたっぷりと出ます。とはいえそれほど中高域も被されて埋もれている感が少ないのは、XM2の音がシャープだからかもしれません。曲によっては、けっこう頭蓋骨がゆれるくらい、どばっと低音が出ます。これはなかなか快感です。
さらに全域強調した「ビューティフルモード(両方オン)」はポップのようなうるさい曲だと疲れる感もありますが、チルとかアンビエントに使うと良い味出してくれます。

ディップスイッチは爪楊枝で簡単に変えられるので、ちょっとやって色々と味変してみるのも面白いですね。

* USB DAC として

USB DACとして使うと、力強さ・パワー感が一層高く感じられます。バスパワーのスティックDACだと、どうしてもパワー感という点では限界があるので、電池内蔵のDAPをUSB DACとしてスマホにくっつけて使うのは意味があるように思います。

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XM2とRegal

XM2とアンビエントモードにしたRegalをスマホのUSB DACとして使うと、正確な音ではないけどその破壊力・迫力はなかなか変え難いものがあります。しかも音が意外と崩れずに鮮明な中高音も両立しています。XM2とアンビエントモードの組み合わせはちょっとクセになります。
USB DACとしてスマホの背面に乗せる時には回転機能を使うと表示が正立して見えます。

* まとめ

XM2は最新CS4308Pをフル活用するためにAndroidを潔く捨てた結果、透明感抜群・SNの高いクリアな音と、800mWのパンチが詰まった本気で鳴るサウンドを実現したDAPといえます。四角いフォルムに回転画面、マグネットケースでスマホにピタッとくっついて「でかいスティックDAC」に変身するというユニークな使い方も魅力です。

そして本機の面白さは、「なぜこれだけ小さいのに強いのか」という点にあります。CS4308Pのマルチ出力を合算してS/Nを稼ぎ、デュアルのI/V変換と余裕のある出力段でしっかり駆動力を確保する、つまり回路全体を通して電流をしっかり扱う設計が貫かれていることが、このサイズからは想像できないスケール感とパンチの理由です。
さらにAndroidを搭載しないシンプルな構成とすることで音質を高める一方で、それで失うストリーミング機能はUSB DACとしてスマートフォンと組み合わせることで解決する。この割り切りも含めて、XM2は単なる小型DAPではなく、音質を優先した結果としての形を持ったプロダクトです。

つまりXM2は、単体DAPとしても、スマホと組み合わせた「でかいスティックDAC」としても使える一台です。ユニークな外観の中に詰め込まれた緻密な設計と、その設計がしっかり音として現れている点こそが、XM2の最大の魅力と言えるでしょう。

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2026年03月05日

二つのディスクリート設計、Topping「DX9 Discrete」レビュー

Topping DX9 Discreteは今年の1月30日に発売された据え置きタイプのDAC内蔵型ヘッドフォンアンプで、価格は228,690円(税込)です。
以前レビューしたDX5IIは低価格ながら測定性能の高さと躍動感ある音質を楽しませる製品でしたが、その最上位版ということになります。DX5IIで興味を持った人には大注目でしょう。
"Discrete"の名の通りにディスクリート設計がポイントで、本記事ではそこを中心にToppingの開発チームに直接メールインタビューした結果を元にして、DX9 Discreteの実像を浮かび上がらせていきます。

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* DX9 Discreteとは

まず位置付けについて解説すると、Toppingのラインナップで、DX9 Discreteは一体型のDAC内蔵型ヘッドフォンアンプのフラッグシップとなります。先代のDX9からはDAC部分が大きく異なり、DAC部分はD900譲りのPSRMを16要素にして採用、アンプ部分はA90 Discreteをさらに発展したモジュールを搭載という良いところ取りをした一台完結型製品という位置付けです。
さらにそれを誇示するかのように、天板部分が透明で中の回路がそのまま見え、液晶表示が左右別に用意されているという新しいデザインも独特です。

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先に書いたように、DX9 Discreteのポイントはその名の通り、大きく分けて「二つのディスクリート設計」がポイントです。
ディスクリート(個別という意味)設計とは、普及価格帯では市販のオペアンプ(IC)で済ませる回路を、トランジスタなどパーツごとに分けた設計のことで、オペアンプよりも設計の自由度が高く、限界を高くできます。一方で問題もあり、パーツが多くなるので精度の管理が難しくなり、たいていは高価格品となります。このことを少し頭の隅に置いておいてください。
ちなみにDX5IIではDAC部分はICを採用、アンプ部分はオペアンプとディスクリートのハイブリッド方式でした。

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* ディスクリート設計のDAC

DX9 Discreteのまず一つ目の「ディスクリート設計」はDAC部分のPSRM(Phase-Switching Reference Modulator)技術です。
端的にいうと、これはディスクリート方式の1bit形式DACです。ポイントはその設計です。1bit DACはDSD(PDM)信号を通すDACです。DSDはそのままでもアナログ信号に近いのですが、特に高周波ノイズが大きいのでその除去をしなければなりません。このDSDに適用するフィルタをアナログ信号に戻すためのフィルターという意味で再構成フィルタとも呼びますが、この出来が大きく音質を左右します。
普通はこの部分はチャンネルあたり1組のローパスフィルタであり、RCフィルタと呼ばれる抵抗とコンデンサを組み合わせたものになっています。
ところがPSRMではこの部分がチャンネルあたり16組の「移動平均再構成フィルタ」になっています。つまり1chあたり1本あれば信号は通りますが、それが16本あります。ちょっとエンジニアリング的にいうと冗長化(余分に加える)設計されています。

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PSRM部分

それはなぜなのか、移動平均とはなにか、というと、1chあたり16組の信号を少しずつタイミング(位相)をずらして出力し、平均化することで精度の高いフィルターとしているのです。タイミングをずらすのはエラーを分散させるためです。
つまり複数の1ビットストリームの出力を平均化することで、コンポーネントの個体差やエラーをランダム化して相殺するということです。もう少し噛み砕くと、1本の信号線でも信号は伝わるけれども、複数本にした冗長系を平均化した方がより正しく伝わる(線によってばらつくため、それを平均化した方が良い)というわけです。これはさきに書いたディスクリート設計における部品の質がばらつくという課題点をきれいに解決しています。
そして私ははじめ高周波ノイズのみの対応かと思っていたのですが、Toppingの開発チームに聞くと、この方式の優れた点は、高周波ノイズを減らすと同時に、低周波の熱雑音にも効果があるということです(熱雑音はランダムノイズだから平均化で効率的に低減できる)。結果として単なるRCフィルターのようなローパスフィルターではなく、広い帯域でSNを上げることができるわけです。

また、これはFPGAを使用するDACとは別の考え方であり、ノイズを平均化して消せるので、他のFPGA方式のDACのようにFPGAによる複雑なノイズシェーパーに頼らずにもっと軽量に高周波ノイズを低減できるというわけです。
高価なFPGAも不要なので、全体にコストパフォーマンスの高い設計ができます。さらに高速動作するFPGA自体が出すノイズもありません。Toppingの開発チームに、このPSRMはFPGAを不要とするものかという質問をしたところ、「目標とする性能をすでに達成しています。そのため、より複雑な解決策は必要ありません。」と回答してくれました。

これまでのDACが計算でノイズをねじ伏せてきたのだとすれば、DX9 DiscreteのPSRMは並列化(冗長化)という構造でノイズを消し去っています。ノイズを消すために自らがノイズ源となっていたFPGAのジレンマからも、オーディオ回路を解き放てるオーディオ的に美しい解法です。
高価なパーツを使えば良くなるのは当たり前ですが、設計の妙でそれを超えるというのがコスパを誇るToppingらしい手法とも言えますね。だからTopping製品は測定性能が良いのにコスパも高いというわけです。

* ディスクリート設計のアンプ

次にもう一つのディスクリート設計はアンプの部分です。そして、もう一つの冗長化設計の妙がここにも見てとれます。
まずToppingのアンプ技術のキーはNFCAです(DX5IIのページも参照)。NFCAとは「Nested Feedback Composite Amplifier(入れ子型複合フィードバックアンプ)」の略で、端的に言えば複数のNFB(負帰還)ループを多段式に組み合わせることで、極めて高いS/N比と低歪みを実現する設計です。こうした過度な負帰還はトランジェント(立ち上がり)が鈍くなり、音の勢いを失わせるという問題がありましたが、NFCAは最新の設計によりNFBの欠点を克服したアンプ設計です。このポイントは単に古い欠点を克服しただけではなく、トランジェントをより向上させる可能性も有しています。またNFCAは多段NFBによって出力段の動作がより安定することで出力インピーダンスを極めて低く抑えることができます。このようにNFCAは高SN、低出力インピーダンスを実現できるなど、ヘッドフォンアンプとして優れた資質を備えています。これは、TOPPING製品が「測定値と聴感の両立」を実現している理由の一つになっています。

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ヘッドフォンアンプ部分

DX9 Discreteのポイントは、4チャンネルではなく、6チャンネルのアンプ回路モジュールを使っていることです。これはバランス(4チャンネル)とアンバランス(2チャンネル)を分離するためです。その目的はノイズとクロストークの低減です。
これもToppingの開発から聞いたのですが、増幅モジュール自体はA90 Discreteで使用されているものと同一なのですが、周辺回路とより上位レベルのトポロジー(回路構成)に違いがあり、その理由は主にバランス回路とシングルエンド回路の分離によるものだそうです。
これはNFCAのポイントはフィードバックなので、フィードバックのかけ方が、回路の出力形態(バランスかアンバランスか)によって最適値が異なるということです。バランス(4ch)とアンバランス(2ch)を分けたことで、フィードバックの設定を「バランス寄り」か「アンバランス寄り」のどちらかに合わせる必要がありません。それぞれ最適のチューニングができます。

ノイズとクロストークの低減についてはToppingの開発から補足説明をいただきましたので、翻訳してそのまま引用します。
「もし4モジュール(チャンネル)だけで設計した場合、位相反転/非反転の2モジュールがシングルエンド(アンバランス)と共有されることになります。しかし、シングルエンド信号はDAC出力から差動アンプを使って合成されるため、そこに抵抗が関与します。これによりノイズが発生します。
さらに、反転信号を生成する方法として、DAC出力から別の差動アンプを使うか、あるいはシングルエンド出力の後に反転アンプを入れる(A90 Discreteが採用した方法)のどちらかになります。結果として、ノイズは基本的に2倍以上になってしまいます。
一方、バランス回路とシングルエンド回路を完全に分離した6モジュール構成(DX9 Discreteが採用した方式)にすることで、バランス出力はDAC出力から直接バッファ(またはゲイン付きバッファ)で受け取ることができます。つまり、DAC出力に対して最も最小限の干渉しか加えません。これにより、バランス出力の純度が大幅に向上します。
クロストークについては、シングルエンドへの変換を行うたびに、クロストークを追加するリスクが生じます。この性能レベルでは、変換を実施すればクロストークの増加は避けられません。6モジュール構成にすることでこの変換工程を完全に回避できるため、クロストークが大幅に改善されます」


つまりまとめると、以下のようになります。
DAC部(PSRM): 1ビットDACの1本で済むフィルタを16本に冗長化し、平均化してエラーを相殺(FPGA自体のノイズも回避、低コスト化も実現)
アンプ部(NFCA): 4チャンネルで済むところを6チャンネルに冗長化し、バランス/アンバランスの信号経路を完全分離・個別最適化することで音質向上

* 操作感など

デスクトップではなくラックタイプなのでDX5IIに比べればかなり広いスペースが必要となりますが、一般的なラックタイプの据え置き機材に比べるとスリムで独立したデザインなので、一体型機として単独で置くことができます。上部開放型が特徴なのでインテリア的に棚とかに置くのも良いかもしれません。
基本的に操作感はDX5IIと同じメニューが使えます。操作は付属のリモコンでも、フロントパネルのスタンバイボタンとボリュームノブの押し込みと組み合わせて操作できます。

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操作系メニュー

背面は入出力系がぎっしりと配置されていて、かなり多様な入出力に対応しています。USB、Bluetooth、光デジタル2系統、同軸デジタル2系統、AES、I2S(HDMI)が一通り揃っています。

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追加機能で面白いのはDSPの「Convolution」(複雑演算/畳み込み演算)モードで、頭部の形状による音の伝わり方を加味したHRTFを取り入れたというクロスフィードモードです。これはなかなか面白く、通常だと左右に分かれた音があたかも立体音響のように包まれ感がするようになります。ただ前方定位というよりは拡散された音に近いように感じます。「Simple」(単純演算)モードだと普通のクロスフィードに近くなります。いずれも音の解像感低下もさほど変化ないのが優れものです。

このほかにもパラメトリックイコライザー搭載などの機能があります。
また細かい点ですが、保護回路なのかリレーがカチッと小さい音を立てるのが、とても丁寧に作り込まれている感はあります。

* 音のインプレッション

いくつかのタイプのヘッドフォン、イヤフォンを組み合わせて音を確認してみました。

Sendy Audio「Peacock」 ー 平面型フラッグシップヘッドフォン・XLRバランス接続

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DX9 DiscreteとPeacock

まずここではDX9 DiscreteがSendy Audio Peacockを軽々と鳴らすのに驚きます。暗さや曇り感などの鳴らしにくさの弊害を感じさせずに、まるで低インピーダンスのヘッドフォンのように明るく朗々と音楽が奏でられます。PeacockはDAPだと暗い音になってしまいがちですが、さすがに10W/chの大出力です。NFCAの制動力の高さもあるのでしょう。
そして低域の制動感がかなり高く、GoGo Penguin「Call to the Void」の冒頭のようにエフェクトを効かせて低音を派手にした曲でも過剰に膨らむことがほとんどありません。制動力の強さはいままでヘッドフォンアンプで聞いた中でもトップクラスでBenchmark「HPA4」と並ぶと思う。

一方でとても低い領域まで超低音が出ているので、低音に底しれぬ深みを感じます。例えば「青少年のオーケストラ入門」の冒頭のオーケストラの強奏部(トゥッティ)の部分では圧倒的な迫力とスケール感を感じます。ここは据え置き機で聴くヘッドフォンならではの愉悦でしょう。
超低域ということではHeadFiの試聴用音源の「Heartbeat」の最も低い心臓の鼓動を模した20Hzのビート音でもよく聴こえます。質の高いワイドレンジ、というべきでしょう。
Lowゲインでも音量的には十分鳴らせるが、ヘッドフォンはHighゲインにした方がより音が研ぎ澄まされて先鋭的になり、より力感を感じます。

音はとても細かくSN感が高い点は予想通りですが、低音に深みがあり、かつ躍動感があるのがNFCAらしいところです。強NFB設計というとSNは高いけど、だるい音というのがオーディオ通念でしたが、NFCAはそれを覆してくれます。
村上ゆきの「Bang Bang」では疾走するようなスパニッシュギターとベース、そして歌声の絡みが感動的。アコギとハスキーヴォーカルのデュオ、Fried Prideの楽曲でも、超絶テクのギタリスト横田氏のロックを取り入れた叩きつけるようなアコギの歯切れ良さが気持ちよく、かつ刺激的な角が少ないのが圧巻です。解像力が高くシャープな音であり、かつ痛くないように角が丁寧に取れている感があります。この辺はPSRMの美点なのでしょうか。
細かい音ではアコースティックギターを手や指でラビングやスクラッチして出すような微細な音のニュアンスも鮮明に再現して描き出します。細かい音が積み重なって音の凄みになっているほど情報量は豊かです。
試聴用音源「Audiophile Jazz」では同じ曲を44/16,96/24,192/24と変えた音の違いもよく分かります。相対的に44/16の音が軽く薄く聴こえてしまうほど。

音色はニュートラル基調で着色感はあまりありませんが、無機的ではありません。女性ヴォーカルSHANTI「メモライズ」では、色着けがなく、素の声の細かな発声が魅力的だということがよく分かります。
SN感がかなり高いので、ピアノの強い打鍵音は明瞭感がとても高く、響く音が美しく感じます。音色などの脚色がないけれども、響く音が正しければ美しいということがよくわかる、正確ゆえに美しい音です。

奥行き表現がとても深いのも特徴で、細かな音再現と相まって、ホールに響く細かいリバーブが小さな音までよく聴こえます。こうした細かな音が積み重なって音楽の厚みができていくというのがよく分かる。
低音の深み、空間の奥行きが相まって、立体音響ではないけれど、平板的ではなく広がるような空間に包まれているような感じがあります。

Campfire Audio 「Fathom」ー 高感度マルチBA IEM・4.4mmバランス接続

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DX9 DiscreteとFathom

DX9 Discreteは背景ノイズが極めて低く、こうした高感度IEMを使用しても背景のホワイトノイズはまったく聴こえません。音楽の再生停止状態では背景ノイズは全く聴こえず、徐々に音楽を再生していくと、背景の暗がりから音が徐々に増えていく様子が鮮明に浮き上がるように聴こえます。
SNが高いので、音の先鋭感が高く、とてもシャープな音質です。音の立体感も高く、音響系の音楽では左右で音が飛び回るのがはっきりと感じ取れます。

VOLK Audio「ETOIRE」ー スタジオモニターIEM・4.4mmバランス接続

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DX9 DiscreteとETOIRE

細かい音表現ということでは、こうしたハイエンドIEMが白眉だと思う。細かい音が洪水のように襲いかかるような感覚で、ゾクゾクと鳥肌が立ちます。
ETOIREはミキシングエンジニア向けのスタジオを母体とするハイエンドIEMで、DX9 Discreteとは相性が良いです。複雑な曲でも音が整理されて、かつ躍動的に音楽を鳴らします。
VOLK Audioのスタジオの正確性とミュージシャンの情熱を同時に再現するという理念がわかりやすいともいえますね。

Ultrasone「Signature Pure」ー  低インピーダンス、DJタイプヘッドフォン・6.3mmアンバランス接続

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DX9 DiscreteとSignature Pure

DX9 Discreteと低インピーダンスのヘッドフォンでも、制動力が遺憾なく発揮されていて、引き締まってパンチのある低音が楽しめます。Signature Pureでは、DJヘッドフォン譲りのかなり低音がたっぷりとして迫力あるライブ感あるサウンドが楽しめます。
クリムゾン「Radical Actionライブ盤」ではトリプルドラムの暴力的なロックサウンドが炸裂したようにパワフルで、かつ破壊的な迫力が楽しめます。決してDX9 Discreteがおとなしい弦楽四重奏向けのアンプではないことがわかりますね。これ聴くと名曲Redよりもむしろ二期クリムゾン以降のVROOMなどの方が暴力的で破壊力抜群なのが、はっきりとした違いで分かって個人的に感慨深い感があります。
ただSignature Pureだとクラス的にちょっと物足りない感はあります。

Fitear「Oriigin-1 」ー スタジオモニター・ヘッドフォン・6.3mmアンバランス接続

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DX9 DiscreteとMonitor-1

「Oriigin-1 」はFitear初の民生用ヘッドフォンで、スタジオの正確性とリスニングの良さを兼ね備えます。これ実はかなりDX9 Discreteと相性が良いです。
同じクリムゾンのライブで聴き比べると、やはりSignature Pureよりもだいぶ整って音が整理されて聴こえます。低域はより引き締まり、かなり細かい音まで出ます。高域はあまり刺激感はなく自然です。低音域は誇張されずに、適度な量感がありますが、とても強いパンチやアタックを感じます。これはダイナミック・ドライバーならではの魅力です。
音の立体感も高く、チーガムドライバーらしい明瞭感の高いクッキリとした音像が楽しめます。Oriigin-1だとクリムゾンでは二期曲よりもサックスやヴォーカルがフィーチャーされたStarlessが聴きたくなります。

でもそれよりもゾクゾクとしてくるような重み感とか厚み感がすごいんです。凄みというべきか。冷静に試聴しているつもりだけど、躍動感の高さで勝手に手足がリズムを刻み出すのを止められません。モニターというと無機的なイメージが湧くけれども、そういうつまらない音ではありません。DX9 Discreteも、Oriigin-1も。
6.3mmアンバランスだけど、音の重みとか厚みという部分でそうバランスに比べて劣るという感じでもないのも考えてみると不思議です。もしかするとバランス・アンバランス分離方式はアンバランスにとって良いことなのかもしれません。

クリストファー・ティン「窓から見える」を聴くと、数人のヴォーカリストの声質がみな聴き分けやすく、合いの手のはっという小さな声もとても鮮明に聞こえます。声や音の強弱がとても滑らかで、ラストに向かって壮大な盛り上がるスケール感も感動的。
こうしていると、曲の感想を書いているんだか、オーディオのインプレをしているんだか分からなくなってくるけど、本来正しく音を出すというのはそういうものかもしれません。DX9 Discreteも、Oriigin-1も。

ただ、Oriigin-1は謎のメクラ穴を取り去り、オッドアイの封印を解き放って真の力を解放するバランス・ケーブルでリケーブルしたいと切実に思います。

* まとめ

Topping DX9 Discreteは、PSRMによる「構造でノイズを消し去る正確性」と、6チャンネル独立NFCAによる「最適化された力強い躍動感」が1台に凝縮された、現時点でのTopping究極のオールインワンです。
DACは極めて細やかで奥行き感ある再現性を、アンプは強力であり躍動感ある駆動力をもたらします。結果として生まれるのは、「正確でありながら冷たくない」サウンドです。

こうしたPSRMの正確性とNFCAの躍動感を兼ね備えるDX9 Discreteは、スタジオの正確性とリスニングとしての側面を兼ね備えるという「方程式」のヘッドフォンやイヤフォンがとても合うように思います。
ふと思い出したのは、かつてのBenchmark「DAC-1」です。音質レベルはDX9の方が遥かに上ですが、スタジオの正確性と音楽の熱量という点では似た性格を有しているように感じられます。

DX9 Discreteは一体型で単独で完結した外観デザインなので、使い方もさまざまに考えられると思います。DX5IIを使っていて、もう少し細かい音が欲しいと思う人のステップアップにも良いでしょう。いきなりDX5IIからDX9 Discreteでも良いと思いますが、ケーブル類も変えた方が良いでしょう。
PC上でRoonやAudirvanaに繋げても良いし、SP4000など高性能DAPを上流に使うとストリーミング(Apple Music)と内蔵音源の差もかなりはっきりわかるレベルです。上流やヘッドフォンの性能を浮き彫りにする側面もあり、たぶんケーブルも良いものを使えば使うほど良くなると思います。

なにより正確でかつ情熱的という音は、実のところ音楽再生の本質そのものかもしれない、DX9 Discreteはそんなオーディオの本質を、確かに思い出させてくれます。

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2026年02月23日

ミニモンスター・スティック型DAC、Astell & Kern「HC5」レビュー

もとはスマホからイヤフォン端子がなくなったことに端を発したスティック型DAC(またはドングルDAC)ですが、最近ではハイエンドタイプの機材も増えています。
Astell & Kern 「HC5」はそうしたハイエンドタイプのスティック型DAC(ポータブル USB DAC)です。2月21日(土)発売、直販価格は税込 84,700 円です。3.5mmと4.4mmバランスのイヤフォンが使用できます。
まずHC5の特徴から説明していきます

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* HC5の特徴

HC5はダウンサイズしたSP4000とでも呼べそうなミニモンスターで、ハイエンドDAPの設計をコンパクトにした点がポイントです。

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1. ハイエンド並みのDAC
まずスティック型DACとしては初めてAKM AK4191EQとAK4499EXのDACペアを採用しています。AKM AK4191EQとAK4499EXの組み合わせは、従来は1つのチップだったDACを、透明感とクリアさを追求するために、デジタルとアナログの境界線で物理的に切り離し、あえて2つのチップに分けた贅沢なセパレート型DACです。HC5ではこのペアを1組搭載しています。(SP4000では4組)

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2.強力なアンプ
また、HC5ではイヤフォンの駆動力を高めるための「High Driving Mode」を搭載しています。これもSP4000に搭載された機能で、アンプ回路を二倍にして並列動作させることで、ノイズの低さとイヤフォンを駆動する力を両立させた方式です。いままでは駆動力を上げるとノイズが増えてクリアさが失われがちですが、並列にして負荷分散するという工夫で解決したわけです。ただしSP4000ではオンオフができますが、HC5ではデフォルトでオンでオフはできません。

3. DARの搭載
また、AK DAPの上位機種に搭載されているDAR(Digital Audio Remaster)機能も搭載されています。
DAR機能は、CD品質の音源でもハイレゾにリアルタイムに変換できる機能です。DARでは従来のようにソフトウエアではなく専用ICのハードで実現しているのがポイントです。IC処理なので、CPUに負担をかけないので低ノイズでハイレゾ化できます。

4. 低ノイズ化の工夫
またHC5はスティックDACならではの機能として、優れた PSRR(電源ノイズ除去比)、CMRR(コモンモードノイズ除去比)性能を備えた専用アンプを搭載しています。簡単に言うと、PSRRは電源からのノイズ、CMRRは周囲の電磁波ノイズを打ち消す力のことです。これによって、HC5はスマホやPCのバスパワー電源から伝わってくるノイズや、周囲のスマホなどからのノイズの放射など電気的な雑音を効果的にシャットアウトすることができます。これでスティックDACの宿命だった、無音時の「サー音(ホワイトノイズ)」を低減できますので、高感度IEMにも向いています。

これらはAstell & Kernらしい低ノイズ化の取り組み、それによってDACだけに頼らずに地道にSN比を上げて音を鮮明にするための工夫が随所になされているわけです。

このほかの特徴としては細かいところではDACのフィルターを変えることで音の味付けを変えることができます。また、UAC2.0/1.0 切替機能がついているのでゲーム機でも使えます。
細かいところではボタンをダブルクリックするとボリュームホイールがキーロックされます。

そして1.62 型 OLED ディスプレイを搭載、サンプリングレートやモード設定がわかりやすいのもポイントです。HC5では多機能なので、こうしたディスプレイがあると助かります。
音量調整はボリュームホイールにより、150ステップの細かい音量調節が可能です。これによりセンシティブな高感度IEMなどでもきめ細かく音量の調整ができます。

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接続ケーブルとしてはUSB-C と Lightning の 2 本の着脱式デュアルノイズシールドケーブル付属していますので、iPhone 15以前のiPhoneでも使用できます。
それでは実際に音を聴いてみます ... が、その前に携帯しやすい工夫をしてみます。

*Mag Safe化

大きさはDC Eliteと変わらないので、DAC Pocket ラージで入りますが、せっかくのディスプレイが見えず、サイドボタンが押せないという問題があります。

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そこで自分でMagsafe仕様としました。

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Amazonで売ってるエレコム「マグネットパッド MAGKEEP」を使って、中の付属の両面接着剤を使ってMagsafe対応磁石に接着します。この接着剤は剥がすことも可能です。なかなか良い感じにできました。

これは他のものでもよく使っています。ただスティックDACだとはみ出した部分がゴミを拾いやすいので、iFi hip DACなど広いものにより有効です。

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hip DACとマグネットパッド

さて、実際に音を聴いてみます。

* HC5のインプレッション

試聴はiPhone 17 Proに接続して行いました。静かな部屋でHC5の着脱前後で比較しても、背景ノイズは高感度IEMでもほとんどなく、スマホにつけたスティックDACにありがちなチリチリいう電波輻射のノイズも通常はほとんど感じません。たまにちょっと感じる程度です。

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HC5とXIO

端的に言うと、HC5の音質はスティックDACとは思えないほど素晴らしい音質が堪能できます。
もう少し分解して言うと、HC5の音質では驚く点が4つあります。

1 スティックDACとは思えないほど、音がとても細かいこと
アコースティック音楽の良録音だと、静かな黒い背景から細かい音がぞわぞわと浮き上がるさまがぞくぞくとしていきます。
2 スティックDACとは思えないほど、音場がとても広いこと
DACスペックから音が細かいだろうことは予想してましたが、これは新鮮な驚きです。コンパクトなDACアンプは音場も狭いという常識があったけど、これは裏切ります。包まれ感を感じるほど。
3 スティックDACとは思えないほど、とてもワイドレンジ
低音がとても深く沈み、高域はシャープに伸びていきます。Campfire Audio Claraとか使うと驚くほどの沈み込みと、突き抜けるような高音が際立ちます
4 スティックDACとは思えないほど、パワフルなこと
まるでSP4000のハイドライビングモードのような躍動感が味わえます。そしてパーカッションなどの打撃感がとてもタイトで小気味良いのも特徴です。

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もう少し細かく語ると、HC5の音傾向としては、低音はタイトでよく引き締まっています。誇張感はなく、全体にDAC自体の音はフラットです。音色はニュートラルで着色感はかなり少なくAKMらしい感じ。シンプルなせいか、DAPよりも着色感は少ない感じがします。
透明感が高く、歪み感もスティックDACとは思えないくらい低く、端正で透き通った音が楽しめます。これは音像をきりりと引き立たせて、立体感が高く感じられる要因でもあります。
音質が優れていると言う点ではロスレス・ストリーミングよりもローカルの音源の方が音質よく感じます。これはApple Musicアプリより、ローカル音源で使用しているHiBy Musicアプリの方が音が良いせいかもしれないけど、そのくらい感じるほど音質が高いと思います。

とにかくSNが高いのが際立っていて、単に解像度が高いのではなく、楽器音が一音一音が空間にくっきりと浮かび上がるSN感が高いと言うべきだと思う。音が彫り込まれたように鮮明で鮮やかで、地下鉄に乗っていても「ハアッ」というヴォーカルのため息が掠れる音が聴こえるくらい。これはノイズが低いと言うこともポイントになっていると思う。

DARやDACフィルターの効き具合もわかりやすいので、DAR PCM、DAR DSD、DAR offの組み合わで音を試してみると良いと思う。DARのアップサンプリングの品質が高いのも分かりやすい。アップサンプリングしても音が軽薄になりにくいです。

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*まとめ

音質レベルの高いHC5は10万とか20万のイヤフォンを持っているが、数十万のDAPはさすがに、と言う人のための良い選択肢です。高感度IEMを使う人にもおすすめですね。

ちなみにHC5は、いままでのA&K製品と異なり、持っていると多少熱くなります。オーディオ機器で熱いのはマイナスではなく、頑張って増幅しているなと感じさせてくれます。SP4000も同じですが、この辺は体制が変わって考え方が少し変化したことを窺わせます
一方で変わらぬものもあります。それは細かな設計、特にノイズ対策を徹底していると言う点です。
HC5は価格的には同価格帯のDAPよりは音質はだいぶ上のように思います。しかしそれは単にすごいDACを使ったからだけではなく、それを活かすためのノイズ対策までしっかり気を配ったトータルな設計の伝統が生きているからです。それはとてもAstell & Kernらしいことです。
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2026年02月15日

Astell & Kernと64AUDIOのコラボの結晶「XIO」レビュー

「XIO」(ジオ)は、Astell&Kernと64 Audioのコラボレーションによって誕生した、ハイブリッド形式の10ドライバー機です。
Astell & Kernはこれまでさまざまなイヤフォンメーカーとコラボし、その技術を利用して自社DAPの力を引き出すためのイヤフォンを開発してきました。例えばPATHFINDERではCampfire Audioの音響チャンバーや高品質ケーブルでDAPの広帯域再生・音場の自然さを実現、AK T8iEではBeyerdynamic TESLAドライバーでDAPのスピード感と低歪・ワイドレンジ再生を実現したことなどが挙げられます。

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XIOとSP4000

いずれのコラボモデルも、単にブランドロゴの組み合わせではなく、各社の独自技術を取り入れている点が共通しています。
今回の64 AudioとのコラボはAstell & KernのDAPになにをもたらすのでしょうか。

* XIOの特徴 : アイソバリックとAPEXによる圧力制御の連携

XIOを語る上で最も特徴的な64 Audio独自の技術が、まずAPEX (エイペックス、Air Pressure EXchange)です。外観的にも特徴的なバルブがポイントで、これは以前ADEL(アンビエントフィルター/第二の鼓膜)と呼ばれていた技術をさらに進化させたものです。
ADELは64 Audioが1964earsと呼ばれていた頃に開発され、もともとはRealLoud技術と呼ばれていました。APEXとADELは細かな動作原理は異なりますが、互換可能で、基本的には「半透過の薄膜や多孔質を用いて、外気と耳道を繋ぐバルブ」という役割は共通しています。これは筐体内部ドライバー前方の圧力を外へ逃がし、鼓膜にかかる過度な圧力を調整する役目を持ちます。最近ではFitEarのリリオールが採用したDEC社のアンビエントフィルターも同様の思想を持つ技術です。

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XIOに付属するAPEXバルブ

この技術は「耳に優しい」と表現されますが、実質的には遮音性のコントロールと音質向上の効果が高いものです。また、この圧力を可変することで音をチューニングでき、XIOには4種類のバルブモジュールが付属しています。中でも標準のm15モジュールは筐体と同じ904Lステンレス製という凝った仕様です。筐体とバルブを同一素材で統一することは、不要な共振を制御することに繋がります。リファレンスモジュールであるm15には、あえて加工の難しい904Lステンレスをモジュールにまで採用したのでしょう。
普通のダイナミックドライバーのベント穴は背圧を調整しますが、APEXは「前の空間」を調整します。それでは「後ろ(背圧)」はどうするかというと、低音ドライバーの仕組みがそれを解決しています。

低音域を受け持つ「トゥルー・アイソバリック・ドライバー」は、2基のドライバーを同方向に並べて配置(直列配置)しています。この方式の最大のメリットは、コンパクトなイヤホンでもサイズの限界を超えて、深く正確な低音が出せることです。
なぜサイズの限界を越えることができるのかというと、2基が同じ向きに同期して動くことで、前のドライバーが凹んで背後の空気を圧縮しようとする瞬間に、後ろのドライバーが凹んで下がり、その圧力を逃がします。これにより、2つの振動板の間にある空気の体積が維持され、気圧が常に一定に保たれる(アイソバリック=等圧)状態になります。この巧妙な連携により、フロント側は空気バネの反発から解放されます。
つまりアイソバリック方式のデュアルドライバーは、普通のデュアルドライバーのように両方が力を足しているのではなく、後方が犠牲になることで前方のドライバーがより大きな力を発揮しているのです。これがサイズの限界を越えられる仕組みで、まるで2倍の容積を持つ巨大なキャビネット内で鳴らしているような効果を得ます。
(ただしリア側ドライバーはやはりベント穴が必要ですのでXIOにもベント穴があります)

この方式は空気が逃げるベントに大きく依存しないため、ドラムのキックやベースの弦が止まった瞬間に音がピタッと消えるような、キレのある制動感と高い解像度が生まれます。そして空気バネの反発で動きが鈍ることがないため、微細な信号(音の余韻や質感)までしっかり描き出されます。
また、ダイナミックドライバー特有の動きの遅さが抑えられ、中音域のBAとのつながりという点においても向上すると推測できます。

つまりXIOは、アイソバリックドライバーで2基が連携して空気バネの制約を打破し、ドライバーの前ではその生み出されたエネルギーをAPEXで鼓膜に優しく、かつクリアに届けるという、前後で連携された巧妙な圧力管理設計になっています。しっかりとした内部の圧力管理をして空気を支配下においているため、音楽信号が鈍らずに、音の芯が太く実体感のある密度の濃い響きが得られるというわけです。
アイソバリックで濃密な音の実体感を作り、APEXでコンサートホールのような広い音場を同時に実現する。そしてAPEXモジュールという「排気系」を交換することで、そのバランスをユーザーが自由に調整できる点に、XIOの真の面白さがあると言えます。これはインプレでまた触れます。

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XIO内部構造

また64 Audio由来の技術では高音域にtia ウェーブガイドも使われています。tia(Tubeless In ear Audio)とはノズル内に配置されているドライバーからノズルに通じるチューブ(音導管)を廃してチャンバーにした、いわゆるチューブレスのことです。これは開発に聞いてみるとチューブ自体が問題というよりも、むしろチューブに通すためにBAユニットの音の出る穴が小さいのに無理やりつめるというのが問題ということのようです。
DAPとの相性としてはAstell & Kern DAP の 高S/N比・高解像度出力が持つ微細情報を、tia の空間表現と併せていっそう際立たせることが期待できます。

XIOはデュアルダイナミックドライバー、ミッドレンジ用BAドライバー6基、中高域用BAドライバー1基、高域用に「tia」カップリングのドライバーを採用し、トータルで10基のドライバーを搭載しています。

一方でXIOのAstell & Kernらしさはやはりプレミアム性です。
XIOはハウジングにDLCコーティングを施した904Lステンレスを採用していますが、これはロレックスのような高級腕時計と同じ材質です。SP3000、SP4000にも採用されているので、マッチング性もあります。m15モジュールも同じ904Lステンレスです。
アイソバリックとAPEXの連携という巧妙な仕組みが内部に搭載されているので、筐体もしっかりとした剛性感を持つのは理にかなっていると言えます。

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このほかにもXIO用に特別調整された銀メッキUP-OCCリッツケーブル、またMade in USAという点もXIOの特徴です。

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パッケージ内には本体、ケースのほかにAPEXバルブが4種類(m15は取り付け済み)、イヤピースが格納されています。

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イヤピースとAPEXバルブ

*インプレッション

まずステンレス904Lの筐体が、とてもイヤフォンとは思えない質感でずっしりとした感触です。まるで工芸品か精密機械のようです。ステンレスはスプリッタや端子にまで使われています。m15バルブも同じステンレスで、これはデザイン的な統一感だけではなく、共振という点でも考えられています。
10ドライバーだけどコンパクトなのがポイントで、装着性がとても良好です。ここはアイソバリックドライバーも効いていますね。総金属ですが、重さはさほど感じられません。

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SP4000とXIO

イヤピースは3種類あります。空間表現はフォームでわかりやすく、シリコンは中高域が伸びる感じです。ちなみにイヤーピースはSednaEarfit Mithrylが一番合います。独特の空間表現力と音の細かさを両立できます。

主にAK SP4000を用いて、まず標準バルブ(m15)で聴きました。m15は外音を-15dB減衰し、バランスが良く、低域の沈み込みと開放感を両立します。

一番特徴的なのは音場、というか空間表現です。
透明感が高く、音場が深く三次元的な立体感が高いサウンドでSP4000などで聴くと息を呑むほどです。左右というより前後奥行きの立体感が独特で、滑らかに立体的に広がる感じが音楽に没入感を与えてくれます。これはとてもAPEXらしい個性であり、他のイヤフォンでは得られない感覚です。初期のADELの頃から良いと思っていた個性がしっかりと受け継がれています。
細かい音再現で、解像力もかなり高いのも特徴です。ここはハイエンドイヤフォンらしいところです。

低音の解像度が高い。ウッドベースの弦の鳴りがリアルで細かい。低音の誇張感がとても高いわけではない。ウッドベースのビチカートも鋭くタイトで、低音が強い印象だがその実は低音の質が高く誇張しているわけではない。ここはアイソバリックが効いているんでしょう。
ドラムロールのような連打がとてもキレがよく小気味良いという感じです。

音調はほぼニュートラルです。ジャズの女性ヴォーカルは艶やかで生々しく、滑らかな音がここでとても生きています。また、低音はヴォーカルにまったくかぶさっていないのも特徴的で、とても明瞭に声が聞こえます。これも低音がだらだらと尾を引かないので中音域に被さりにくいアイソバリックの利点です。
高い女性の音はやはり抑えめでキツさが少なく、高音域がつんざくような傾向の音ではありません。ここはtiaの長所ですね。
中高音域は十分に伸びやかですが、刺激成分が少ないので聴きやすい音です。楽器の音は鮮明で美しく正しく感じます。弦が擦れるような細かい音はよく聴こえます。
高音域のベルやハイハットの音も響きはきれいで歪み感は少なく、芯がかっちりと強い金属らしい鳴りがします。
刺激的な音が少ないので、「アイドル」のような録音がキツめなポップもキツさが少ないので安心して聴ける。躍動感が高く、SP4000のハイドライビングモードの良さを堪能できます。

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* バルブによる音の違い

標準で付属する4種類のうち、さきに書いたm15以外の3種類を替えて音を確かめてみます。
抜き差しはスムーズにできます(はじめだけ少し硬い)。ただし静かな部屋で聴き比べたので、外音の減少はあまりわかりません(電車の中で抜き差ししたくない汗)。引き抜く時には爪をかける窪みがあるので、それを見て引き抜くと楽に取れます。

* シルバー「m20」:外音を-20dB減衰(低域強く、密閉感最大)

低域がかなり重みを増して、地鳴りのような低音が楽しめます。これ結構良い感じで、かなり超低域まで出るように感じられます。200Hz前後よりも特に超低域が増える印象です。ただしヴォーカルの艶かしさがやや減退するようにも感じます。
中高域の伸びはm15よりもやや曇りが出るようにも思いますが、これでも悪くないレベルです。低音はたっぷりあるのに高音域も出るのでワイドレンジに感じます。楽器の鮮明さはやや減退しますが、ドラムの打撃感は迫力が出ます。メタルなどに良いですね。

* ゴールド「m12」:外音を-12dB減衰 (低域やや弱く、開放感強め)

標準よりも低音が軽く感じられます。ヴォーカルはからっと軽やかな感じになり、艶かしさはないがこれはこれで良いというか、ヴォーカルにはちょうど良いかもしれません。低域の被りも全く感じません。女性ヴォーカルの声はm15よりも鮮明できれいです。ポップの女性ヴォーカルはm15よりも向いているように思います。ジャズヴォーカルはm15の方が艶かしく感じます。
中高域はキラキラとした鮮やかな感じが出てきます。とても伸びやかでシャープです。やや刺激的ですが、ハイハットやシンバルはより響きが綺麗になり、鮮明さを増します。
音場感も開放的な感じになり、ミュージシャンの立つステージが広くなるように感じます。女性ヴォーカル主体の時や、アニソンなどに向いてます。

* ブラック「mX」 :外音を-10dB減衰(低域弱く、開放感最大)

低域はさらに軽く弱くなりウッドベースがウッドベースらしくなくなります。中高音域の鮮明さは強くなり、やや刺激的な音になります。
おそらくこのプラグはミュージシャンがステージ上で外の音を聞きたい時やなど、なにかの理由で使うものではないかと思います。

ちなみにバルブを完全に外しても音は普通に聴こえます。この時はブラックに近い音になります。そういう意味ではブラックは穴のダストフィルター的なものかもしれません。

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バルブを外した状態

* LUNAとの比較

同じAstell & KernブランドのLUNAとも比較してみました。どちらもかなりレベルの高い音ですが、それぞれの違いは設計の特徴を体現しています。
LUNAは平面型なのでより中高域で音のキレが高く速く、躍動感というかキレの良さというか、独特のスピードの速さがあります。
一方でXIOはやはり独特の深みのあるAPEXらしい音空間が魅力的で、これはLUNA(というか他のIEM)でも再現しにくいものです。ただしLUNAでは別の意味で鮮明な音像により立体感が高く、声もより明晰に聴こえます。もちろんXIOであればプラグを交換することで音を変化させることができます。

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LUNA(左)とXIO

全体的な音の印象はLUNAは平面型にしてはユニポーラ型設計により低音が出るのでリスニング寄りですが、XIOはやはりダイナミック型ハイブリッドらしくよりリスニング的な音を聴く楽しみがあります。これもプラグを変えるとより変化するでしょう。
実のところ基本的な音性能では甲乙つけ難いとは言えますが、それぞれの個性、LUNAなら平面磁界型、XIOならAPEXとバルブ交換式という特徴の差が大きいと感じます。このように両者はどちらが良いというよりも、個性が違うものという感じが強いですね。

また両者ともAKオリジナルらしい造形の魅力もあります。LUNAのチタン削り出しの金属感、XIOの高級腕時計のようなステンレスの金属感はそれぞれに個性的です。ただSP4000と合わせるときにはXIOの方が見た目の一体感はあります。

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* まとめ

XIOは音楽的でかつ音性能が高いというサウンドです。64 AUDIOが与えてくれたAPEXとアイソバリックドライバーの連携力をしっかりと活かした「圧力と音響を耳元で操る精密機械」という側面もあります。
APEXベントの他にない音の個性に加えて、イヤフォンの基本性能がとても高いこと、そして904Lステンレスの魅力的な持つ楽しみがXIOにしかないという魅力を作り上げています。モジュールを交換するたびに音が変わる楽しさは、まさに自分好みのサウンドを「チューニング」している実感があり、いじりがいのある製品とも言えます。64 AUDIOの個性とA&Kの個性がうまく融合した、Astell & Kernのコラボ製品らしいイヤフォンと言えるでしょう。
posted by ささき at 07:57 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年02月13日

SONY WF-1000XM6登場

ソニーから待望のWF-1000XM6が発表されました。

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まずノイキャンですが、新しい高速化されたQN3eプロセッサで中高音域のノイズキャンセリングを向上させたとあります。
これはプロセッサが高速化することでより高い周波数の帯域までノイキャンをカバーすることができるからです。
以前Philewebに書いたこちらの記事をご覧ください。
https://www.phileweb.com/news/audio/202412/10/25996.html

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WF-1000XM6ではANCの向上を咀嚼音などの「体内ノイズ」を減らすために通気構造を設けたとありますが、この分で外部ノイズが入ってくるのをANCでカバーしているのでしょう。いわばDEC社のアンビエントフィルターをデジタルでやっているような感じです。これもエンジニアとの共同の成果かもしれません。

次に音質ですが、インプレを読むとナチュラルな音というコメントが目立ちます。
今回採用された新しい振動板はエッジがノッチ状というか階段状になっていますが、これはスピーカーのコルゲーションと同じ役割をすると考えられます。共振を抑えてスムーズな振動ができるので、音もよりナチュラルになるのではないかと考えられます。

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posted by ささき at 11:44 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする