さきに書いたタイムロード・Dynaudioの合同試聴会でスタジオクオリティ、マスター品質というものに興味をもったので高品質のソースデータを試してみたくなりました。これは44.1kHzをアップサンプリングのハードやソフトで96Khzに補完するということではなく、マスターの音に近いようにそのまま96k/24bitに落としているようなものがほしくなったわけです。
ちなみに44Khzや96Khzというのはサンプリング周波数のことで一秒間をどれだけ細かく区切るかということ、16bitや24bitは量子化ビット数といいますがサンプリングで区切った時点での音の強さを示します。量子化ビット数が大きければそれだけ強弱の幅が再現できるので、オーディオ的に言うとダイナミックレンジに相当すると言われます。ダイナミックレンジはCDの16bitだと96dBですが、24bitだと144dBと広がります。それだけの余裕の違いがあるというところでしょう。
そこで96KHz/24bitの音楽配信をいろいろと調べてみました。もうひとつのポイントは標準のFLACで配信しているということです。FLACはロスレス圧縮の標準フォーマットですが、これはわたしはポータブルでの使用を念頭に入れているのでRockboxで動作させるためです。その点でe-onkyoのような国内の高品質配信だとWMAロスレスになってしまいます。
そしてLINNレコードのサイトにたどり着きました。アドレスはこちらです。
http://www.linnrecords.com/
LINNレコードはオーディオメーカーのLINNが持っているレコード会社で、ジャズ/クラシックやスコットランド/ケルト系の音楽に強いところです。LINNはオーディオだけではなく、トータルに音楽を見ているわけです。
マスタークオリティの配信についてはLINNレコードはいわば蔵元ですので、自分でマスターを保持しているわけでうってつけです。
実際に配信しているStudio Quality(88.2や96KHz/24Bit)のデータはLINNが製品版のCDを作る時のものと同じと書かれています。良心的な社風のLINNらしく、やっかいなDRMもありませんので「ポータブルプレーヤーにはコピー二回まで」などの制限もありません。
とはいえ、まだまだStudio Qualityのラインナップは少ないようですが、こちらにStudio Quality品質の配信の一覧があります。
http://www.linnrecords.com/linn-help-downloads-studio-master-quality-album-downloads.aspx
とりあえず一曲をStudio Quality品質(96KHz/24Bit)とCD品質(44KHz/16bit)でダウンロードして比較してみることにしました。まずここはLINNレコードの看板のひとりといえるクレア・マーチン(Jazzヴォーカル)の新作"He never mentioned love"を選びました。こちらの5曲目、The music that makes me dance (6分04秒)です。
http://www.linnrecords.com/recording-he-never-mentioned-love.aspx
Studio Quality品質はFLACで132.7MBあります。うちの環境ではダウンロードに1時間半くらいかかりました。。CD品質のFLACは36.4MBです。
Studio Quality品質はアルバム全体だと1.3GBあります(CD品質だと355MB)。このため、ダウンロードにはダウンロードマネージャーのようなソフトがあった方がよいです。わたしはGetRightを使用しています。これは途中で中断と再開が容易にできますし、接続も安定しています。
プリント用の画像データやブックレットのPDFもダウンロードできます。買った曲やアルバムは自分のアカウントページからいつでも参照してダウンロードしなおせますのでデータをいったん失っても安心です。
Studio Quality品質を使うには再生環境も重要です。わたしはPCよりもむしろポータブルで使ってみたかったのでiHP-140->Headroom Micro 2007を念頭に入れていました。iHP-140にインストールしたRockboxはFLACをサポートしていますし、Headroom Micro 2007もDACは96K/24対応です。上記ファイルはDRMもないので問題なくiHPにコピーができます。
結果として無事にiHPのRockboxで再生できました。ここで液晶表示に違和感があったのでよく見てみるとStudio Quality品質の再生ビットレートがなんと2779K..表示の桁がずれていたので驚きました(笑)。すごいデータ量です。普通の44K/16bitのFLACだと再生ビットレートは同じ曲で821Kですね。
これではあまりバッテリーがもたないかもしれません。とはいえ、こうなると標準OSであるRockboxを積む強みが発揮されます。
比較してみると女性Voは差が分かりやすく、96Kの方が質感が高く重厚に感じます。Jazzヴォーカルのかすれた表現の微妙なところがよくわかり、音のテクスチャは肉質感あふれて繊細にしてリアルです。細かいニュアンスがよく伝わるという感じです。CD品質で再生すると(比較してですが)軽く薄く感じられます。
小林貢氏のマスターテープとの聴き比べほどではありませんが、近い感覚です。MP3とロスレスの差にもちょっと似ているかもしれません。Studio Quality品質の質感の高さはすばらしく、CDの世界に戻れるかが心配になります。
なかなか良かったのでこちらのコンピレーションも購入してみました。ジャズからクラシックまで多彩なので、これはお勧めです。
サンブラーなので価格も安く抑えられています。
http://www.linnrecords.com/recording-super-audio-surround-collection-vol-3-sampler.aspx
クラシックもStudio Quality品質で聞いてみると、楽器の擦れる音のリアルさ、はじく音の生々しさというのはさきに通じるところがありますが、アンサンブル再現の立体感や音空間の奥深さについても独特の向上があるように思えます。十分な声量のある人が発声しているというか、音の出し方に余裕があるというか、、。この辺は24bitのダイナミックレンジが増えた効果もあいまっているのかもしれません。
かなり気に入ったので次に下記のタリスの声楽曲を買いました。こちらは$30とやや高くなりますが、国産のCDと比するとさほどでもありません。
http://www.linnrecords.com/recording-thomas-tallis--spem-in-alium-sacd.aspx
これはかなり気持ちが良いですね。通勤の車内が教会堂に変わったように心が洗われます(笑)。高い女声と低い男声が多数複雑にからみあうところは圧巻です。
また器楽曲としてはこのスパニッシュギターを使用した古楽演奏アルバムから"Folia"を買いました。Las Foliasは代表的な中世の器楽曲の一つですが、Foliaの主題にのって躍動感あふれる演奏でギターの弦のはじけるさまが手に取るようです。
http://www.linnrecords.com/recording-la-guitarra-espanola.aspx
面白いのはこれらのダウンロード販売をLINNではなんとNAS(ハードディスク内蔵のネットワーク・サーバー)に入れて全部入りで販売しているところです。NAS本体込みで10数万円というところでしょうか。これをLINNのデジタルプレーヤーのDSシリーズに接続するとそのままLINNレコードの全曲が聴けることになります。
http://www.linnrecords.com/artist-various-classical.aspx
このようにLINNは音源のみではなくもちろんオーディオ機器の方でも提案をしていて、最近DSというデジタルオーディオプレーヤーのシリーズも開発しています。価格がやや高いのが難ではありますが、ハードディスクを外に出しているところで陳腐化は少なく長いこと使えるかもしれません。
http://www.linn.jp/products/detail/ds.html
こうした高価なものだけではなく、たまたまですがLINNはつい先週末にSNEAKY MUSIC DSという廉価版を発表しました。昨年のオーディオショウでKlimax DSが発表されたばかりなので、高い方から低い方まで同時にラインナップを開発していたということでしょうね。
http://www.linn.jp/news/press/index.html
むこうでの予価は995英ポンドくらいのようなので直接換算だと19万円くらいです。ただしUSD$2000という情報もありますので実際はもう少し高くなるでしょう。ちなみにこれはアンプも内蔵している一体型です。チャクラ技術のアンプだったらMUST BUYです(^^
iTransportと同様に楽しみな新機軸のソース機器と言えるかも知れません。
LINNというと保守的なイメージもありますが、この辺はさすがでトータルに音楽を捉えて地道にもしっかりと先を見ているように思います。