Music TO GO!

2023年12月30日

FitEarの新旧交代についてのインタビュー記事をアスキーに執筆

FitEarの新旧交代についてのインタビュー記事をアスキーに執筆しました。

https://ascii.jp/elem/000/004/167/4167222/
posted by ささき at 14:00 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月21日

アスキーに「イヤピースにシリコンを詰めて簡易カスタム化、FitEarのインスタチップ」の記事を執筆

アスキーに「イヤピースにシリコンを詰めて簡易カスタム化、FitEarのインスタチップ」の記事を執筆しました。

https://ascii.jp/elem/000/004/065/4065598/
posted by ささき at 13:34| __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年04月28日

FitEar TG334インプレ

初代のFitEar To Go! 334は2012年に発売されました。その時のブログ記事は下記です。
須山ユニバーサル、FitEar TO GO!334登場
http://vaiopocket.seesaa.net/article/253318386.html

「須山ユニバーサル」と書いたのはこの時はFitEarという名よりも須山カスタムという言い方のほうが一般的だったからです。
この名称の「To Go!」というのはこの「Music To Go!」から取られた名称でもあります。"To Go"というのは(海外のハンバーガーショップなどで)外に持ち出すという意味の英語で、ポータブルの意味であると同時にカスタムとは異なる店頭でそのまま持ち帰られるという製品だという意味もあります。

TG334イヤピース外し.jpg  TG334クローズアップ.jpg
FitEar TG334

今回のTG334はカスタムIEM「FitEar MH334 Studio Reference」をベースモデルとしたユニバーサルIEMです。ユニット構成自体は以前のMH334/TO GO!334と全く同じで、ネットワークはMH334 Studio Referenceを踏襲しています。
しかしこの10年でFitEarも進化を続け、それらが採用されてリニューアルされたのがTG334です。付属するケーブルは013ケーブルで信号線にはオヤイデ電気様精密導体102SSCを採用、また今回からイヤーピースが変更となり、AZLA SednaEarfit SE1000がSS/S/MS/M/ML/Lの6サイズ添付されます。また試供品として同じくAZLAのSednaEarfit XELASTECもSS/MS/MLの3種類が同梱される予定です。
発売は5月13日の予定です。

* インプレッション

ブログ記事では主にインプレを多く書いていきます。
筐体の大きさはコンパクトだったTo Go 334に比べるとやや大柄で、サイズ的にはTo Go 335と同じ程度。楕円形ノズルのステムなのでイヤーピースはやや装着しにくいところはあります。
青い半透明のシェルはFitEarらしく造形も美しいですね。遮音性は高く、装着感はTo Go 335とほぼ同じです。標準ケーブルはしなやかで細身なので使いやすいと思います。To Go 334の時の001ケーブルは音質はわりと良かったけど、固かったのがやや難だったのを思い出します。いろいろと改良されていますね。

箱の中のTG334.jpg

ぱっと聞くと音的にはTo Go 335とやはり似ていて、To Go 335から低音を減らしたような感じを受けます。ただし低音は初代To Go 334でもそれなりにあったけれども、TG334でも少し多め程度にあると思います。これはカスタムからユニバーサルになったことで遮音性が減る分を足したわけですね。低音はたっぷりとしていて、かなり低音の迫力があります。ただしTo Go 335ほどではありません。
全体的にまとまっていてバランス良く音がなっている感じは元がMH334であるということを十分思わせてくれると思います。高音域は解像感が高くマルチBAを感じさせるけれども、落ち着いていて刺激的なところは感じられません。

左からTOGO334初代_TOGO335DW_TG334.jpg
左からTOGO334初代 TOGO335 TG334

性能的にはかなり高く、To Go 334当時はまだなかったようなSE200やSP1000のようなハイエンドDAPを使うと本来の実力が発揮されるように感じます。情報量が多く複雑な曲を鳴らす感じで、SE200であれば文句なくAKM側を使いたいイヤフオンですね。AKMの高い音再現を受け止めてエネルギッシュに聞かせたり、静寂の中の細かな音表現も聞かせてくれます。イヤフオンの方の強調感が強くてシャーブすぎたりすると、AKMの音だと全体にきつくなりすぎるけれども、TG334はモニターベースの音なので余裕があり、DAP側の音を受け止めてくれます。SE200でアニソンのようなきつい録音を聴くときはESS側にすることが多いけれども、TG334だとAKM側で聴きたくなります。
パワフルな表現も十分にできるのは低音側にでかいBAドライバーを選んだ須山氏の見識によるものもあると思います。またベースがモニターなのでよいのは様々なタイプのDAPに合わせてその個性を引き出せることだと思います。そういう意味ではDAPに合わせやすいイヤフォンですね。To Go 335では同じMH334から派生したものにしても低音が強すぎてイヤフオンの個性が出すぎていたので、こうした元のモニター的な良さというのは感じにくくなっていた点はあったと思います。TG334は自分を抑えて他を活かすというモニター本来の美点が発揮されやすいと感じます。それでいて(初代ToGo334も同じだけど)低音はそれなりに強調されているのでリスニングとしても使いやすいというバランスがうまくできています。

*To Go 334とTG334

左TOGO334初代_右TG334 .jpg
左TOGO334初代   右TG334

ケーブルを同じものにしてTo Go 334とTG334を比較してみます。このコネクタ形状が同じという点もFitEarらしい継続性ですね。プロだったらもっとありがたいでしょう。
To Go 334とTG334の音はBAドライバーなど基本的構成が同じなので全体的な印象はかなり似ているんですが、細部に違いがあって、TG334の方がより洗練されているように感じられます。それは周波数特性がよりスムーズであったり、ジャズのソロパートでのドラムの歯切れの良さがTG334の方が鋭かったりというような細部がより音質が良くなっているということです。楽器の音や声はTG334の方が明瞭感が高くなっています。その点でTG334の方がより解像感は高くなって聴こえます。音場感はほぼ同じだと思います。ただTG334の方が明瞭感が高くクリアなので感覚的に音場は見通しがよくて広く感じられます。
BAドライバーが同じでもこれだけ音に差があるのは細かな改良の積み重ねということなんでしょう。

* To Go 335とTG334

左TOGO335_右TG334 .jpg
左TOGO335  右TG334

To Go 335とTG334を比べてみると、全体の音の感じは同じだがTo Go 335の方がかなり低音が強く出ている。このためにTG334の方がよりすっきりとした感じがあります。ただTo Go 335はこんなに低音が出てるのにきちんと中音域があまりマスクされないでヴォーカルがよく聞こえるのはなかなかだと思いますね。ただアカペラを聞くとやはりTG334の方が声を聴きやすいとは思います。
音の細部表現はTG334とほぼ同じですが、低音が少ない分でTG334の方が全体にクリアに聞こえます。音場についてはTo Go 335の方が低音が出ているのでスケール感はより大きいと感じます。

*まとめ

モニターベースのMH334をベースにして基本は素直な音ながら、低音がより強調されていてその高い音レベルをコンシューマー的にも楽しめるサウンドをもたらしたのが、プロ用のカスタムに対してコンシューマーもより楽しめるユニバーサルイヤフオンの形(のひとつ)といえるかもしれないですね。
ちなみにTo Go 334はAK240の時代です。TG334は基本設計は同じだから、今の最先端のDAPでより楽しめるということは先見性を感じられます。DAPやソース機器は速く進化するのだから、長く使いたいイヤフォンはそれを見越して音性能には余裕を持ったものを選んだ方がよいということでしょう。

posted by ささき at 16:52| __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月07日

待望のユニバーサルモデル、FitEar TOGO! 335レビュー

リリースから引用すると、FitEar TOGO! 335は、ベーシスト、ドラマーからの「より低音域部の情報量とリニアリティを」という声に応え開発されたユニバーサルタイプのイヤーモニターということです。つまりカスタムイヤーモニターMH335DWをベースに、BAドライバーの構成は同じです。本稿はそのレビューです。

IMG_0220_filtered_s.jpg  IMG_0211_filtered_s.jpg

* TOGO!334からTOGO!335へ

2011年に発売されたFitEar TOGO! 334はカスタムイヤフオンとユニバーサルイヤフォンの音質がはじめて同じになったという点で、イヤモニ・ハイエンドイヤフオンの記念碑的な製品でした。それまでは我々のようなマニア層にとっては最高音質を得るのはカスタムイヤフォンだったんです。

IMG_9649_filtered.jpg  port.jpg
FitEar TOGO! 334

カスタムイヤフォンのイヤピース版をいまユニバーサル(万能という意味で)イヤフォンと言いますが、それはそもそもTOGO334が初めてでした。つまりカスタムと同じ製法で製作して、イヤピースを付けられるイヤフォンのことです。
この件についてはジェリーハーピーがヘッドフォン祭に来た時に直々に須山さんをほめていたことが私には印象的でした。彼のtriple.fi 10 proもたしかにハイエンドイヤフオンではありましたが、カスタムとは同次元で語られてはいませんでした。それまではユニバーサルイヤフォンというのはソニーなど大手が開発して量販店で売っているようなイヤフォンのことを言っていたわけです(米でも)。

こうしたユニバーサルイヤフォンはカスタムのデモ機にも似ていますが、それは間に合わせ的なもので、カスタムとユニバーサルの違いを踏まえてもっと単体としてチューニングされている必要があります。もちろんカスタムには内部ドライバー配置も耳に合わせて変更されたりする場合があるという違いはあるのですが、TOGO334の登場は画期的でした。ちなみにこの名前はうちのブログ名にインスパイアされたそうですのでありがたいことです。(TO GOにはカスタムと違って店からすぐお持ち帰りできるなどの意味もあります)

ちなみに当時の須山カスタムの名称には意味があり、334の場合は3Way + 3 units + 4 driversという意味です。これはひとつのBAユニットに2つのドライバーが入っているものもあるためです。335だと(Low 2, Low-Mid 2, High 1)で、DWはダブルウーファーの意味です。大型のBAドライバーを2基使っています。
MH334のダブルウーファー版としてMH335DWというカスタムはずいぶん前からあったのですが、この二基の大型BAドライバーにこだわったことで優れた低域再現性を得る半面で、ユニバーサル版を作るという段になるとその大きさが災いしてしまいます。また低域が増えると高域もそのままというわけにもいかないようです。そうして335ユニバーサル版はひとまず据え置かれて、カスタム版が335DW SRなどに進化を続けます。(TOGO!334でもコンパクトにするのはかなり大変だったそうです)

そうしている間にイヤフオン技術も進歩を続け、3Dプリンターの導入も含め、さらに最近開発のFitEar Universalの楕円形ステムの開発もあり、総合的にTOGO! 335を開発する素地が整ったというわけです。
ユニバーサルイヤフォンはカスタムとは違い、イヤピースを付けなければなりませんが、そのステム(ノズル)の部分の太さが制限となってしまい、音質に悪影響を与えたりもします。特徴的な楕円形ステムは、Universalでの開発から生まれたもので、これは外耳道が楕円形をしているということで、そこに円形のものを通すよりも楕円形のものを通すほうがよりフィットしやすいということだそうです。これも工作難易度が高いので実現には時を待つ必要があったそうです。
TOGO!335ではUniversalで得た知見をもとに形状と角度が考えられて遮音性と装着性に優れたメリットを得ているということです。

IMG_0210_filtered_s.jpg

* インプレッション

パッケージングはペリカンケースで提供されています。

IMG_0202_filtered_s.jpg  IMG_0203_filtered_s.jpg

本体は黒かソリッドだったこれまでのFitEarユニバーサル製品とは異なり、スモーク半透明の美しいシェルに覆われてドライバーも透けて見えます。

IMG_0212_filtered_s.jpg

TOGO!335の使いこなしはせっかくの低音を漏らさないためにも、まずイヤピース選びから始まります。標準イヤピースははまりやすいのですが、やや耳にうまくはまっていない感があるので最近はやりの別売りイヤピースをお勧めします。しかしこの楕円形のステム形状のためにややイヤピース選びはてこずります。
私はしばらく指とイヤピースを格闘させてコツがわかったのですが、TOGO!335のイヤピースをはめるコツは楕円形ステムの短辺ではなく長辺の方からいれることで、短辺からだと入りにくいです。ケーブル端子側の長辺に親指を端子方向からあてがって、他の指で支えて押し込む感じです。

いくつか試して一番良かったのはAET07です。はまると標準イヤピースよりもだいぶ遮音性が改善され、たっぷりの低域が得られます。またAET07の良い点は音の輪郭が鮮明な点で、高性能イヤモニに向いています。AET08もより低域を太くしたい人にはよいでしょう。
SednaEarfitLightは装着感は標準よりも良い感じで、やはりたっぷりとした低域を得られます。ただし低域を抑えめにしたいときはひとサイズ小さ目のほうが良いと思います。
emiraiさんのところの新しいe-proはわりと楽に入ります。軸が柔らかいのと、傘をひっぱって変形させやすい点が良いですね。また音バランスが標準に近い感じで、音の広がり感に良い感じです。

いずれにせよイヤピースが決まると、装着感は極めてよく耳にもフィットします。大型すぎて座りが良くないということもないし、重いということもないです。この辺は長い開発の効果が出ているのだと思います。


音質は極めて高く、特にポイントである低域の存在感が高いのが特徴的です。これは単に低音がポンと盛り上がっているというのではなく、中低域から低域、超低域にかけての厚みと豊かさ・量感があるという感覚です。低音の質が良く量感もあり、かつ自然に聴こえるという、他のイヤフォンではなかなか味わいにくい世界を楽しむことができます。
これは低域ダイナミックのハイブリッドではなく、オールBAならではのことだと思います。そして大型BAドライバーの2発でなければ実現できないことでもあると思います。これは大型スピーカーで小口径ウーファー2基よりは大口径ウーファー1基でなければ得られない音があるというのと似ていて、ラージモニターをリファレンスとした音作りを掲げるFitEarらしい音作りでもあると思います。

IMG_0214_filtered_s.jpg

低域の量感があるためにスケール感も大きくオーケストラやクラシックを聴くのにもよいと思います。打ち込み系の電気的なベースの打撃感も気持ちよくパワフルです。またヴォーカルもやはり男声ヴォーカルの太さの再現の良さが印象的ですね。
低域が多めと言っても中音域にかぶるようなものではなく、発音自体は明瞭に聴き取れます。ゲーム・オブ・スローンズ挿入曲のザ・ナショナルが演奏するThe Rains of Castamereなど渋いヴォーカルにベースがかぶさる曲などは感動的です。また厚みを活かしながらもあくまで自然に聴こえるというのがわかります。
音再現は有機的でしっとりとした美しい音楽を聴くのにもよい。無機的という意味ではモニター的でないですね。

また声がかすかに聴こえていく小さなレベルまで良く聴こえる。こういうのこそハイレゾ向けと言いたくなります。細かい音の明瞭感が高い点に関しては隠し味にこっそりESTが入っているかと思ったくらい、とても細かい音がたくさく聴こえます。
能率はやや高めですので、ボリュームは少し絞ってから再生したほうが良いと思います。ただしホワイトノイズが気になるほどではないと思います。

IMG_0204_filtered_s.jpg

アコースティック楽器の音色がとてもリアルであり、特にウッドベースは弦の鳴りや響きの音再現が良いですね。ピチカートの切れもよいし、バスドラの音も迫力あります。低域の太さ、解像力など低域の質の部分はやはりこのイヤフォンならではというものがあるでしょう。良録音のジャズとか、例えばヘルゲリエンなどは特にToGo335DWが光る部分です。
また低域に埋もれずにハイハットなど高域が鮮明な点も注目ポイントだと思います。音の定位感・立体感も高いので、楽器の配置もわかりやすいのではないかと思います。
この辺りはイヤモニらしい正確さもきちんと把握された点だと思います。エンジニアの杉山氏、原田氏の助力も的確なのでしょう。MH334やTOGO! 334に比べてもこちらはいわゆるベースプレーヤー用ですが、カールカートライトにもちっょと聴いてもらいたい気がしますね。

* まとめ

もっと低音がほしいけれども、質の良い低音が欲しくて、もちろん全体に的確な音再現がほしいというユーザーに向いていると思います。
オールBAのポテンシャルを再認識させてくれるイヤフォンであるともいえるでしょう。

posted by ささき at 11:19| __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月20日

FitEarの意欲作、静電型ツィーター搭載のFitEar EST UIEMレビュー

ESTとは静電型ツイーター(Electro Static Tweeter)の略称で、FitEar ESTは形式としては静電型ツイーターとフルレンジのBAユニットのハイブリッド・イヤフォンです。FitEar ESTにはカスタムとユニバーサルがありますが、本稿はユニバーサル版(UIEM)のレビューです。

DPP_0465[1].jpg

*静電型ドライバーのしくみとは

静電型ドライバーではSTAXが有名ですが、磁石による力を利用した動電型(Electrodynamic)とは根本的に異なる駆動方式で、固定電極(バックプレート)と発音体となる振動膜間に生じる静電気の吸引反発力によって振動膜を振動させるもの(静電型:Electrostatic)です。

静電型では固定電極と振動膜の間に静電気を生じさせる必要がありますが、これには2つのタイプがあります。STAXで採用される方式は外部電源ユニットから振動膜に一定の高電圧が供給されます(直流バイアス型)。振動膜に対する固定電極にはトランスで昇圧され高電圧となった音楽信号が送られ、振動膜と固定電極間に生じる静電気力の変化により振動膜が吸引反発し発音体として作動します。STAX製品では振動膜を二つの固定電極で挟む形で構成され、振動膜が片方の電極に対してはプッシュ、もう一方の電極に対してはプルの関係で動作します(プッシュプルタイプ)。

DPP_0464[1].jpg DPP_0463[1].jpg

振動膜に外部から直流電圧をかける方式に対し、半永久的に電荷を蓄える高分子化合物を用いるエレクトレット方式(エレクトレット型)があります。固定電極にエレクトレット素子をもつものをバックエレクトレット方式と呼び、ダイヤフラムの材質に制限がないため特性的に有利になります。同方式の採用メリットとしては高電圧を供給する外部電源ユニットを必要とせず、音楽信号の昇圧のためのトランスのみで動作させることができる点が挙げられますが、振動膜の駆動力や再生周波数に対しては制約もあります。

FitEar ESTの場合は静電型のエレクトレットタイプで、トランス内蔵の静電型イヤフォンと言えます。このタイプは過去にはヘッドフォンではAKG K340のような採用例もありますが(こちらのうちの記事を参照)、イヤフォンのサイズに小さくしたのは例がないと思いますが、ここはかなりユニットメーカーが開発で苦心したのではと思います。
(エレクトレットタイプで外部にトランスを持つというヘッドフォンも過去にはありました)

DPP_0466[1].jpg

基本的にスピーカー(イヤフォン)とマイクは向きが逆なだけでこうした原理は同じです。静電型のスピーカーの記事は少ないので、原理的に興味がある人はマイクを調べるとよいと思います。Shureではコンデンサマイクの技術があったからKSE1500が実現できたのでしょう。

ちなみに振動膜と固定電極の関係から言うとFitEar ESTで利用される静電型ツイーターはプッシュプルタイプではなくシングルタイプとなります。通常は吸引反発力の非線形性が生じますが、振動膜と固定電極の位置関係が逆となったもう一つのユニットと組み合わせて同時に動作させることでこの問題の解消とゲイン上昇を得ているということです。

*静電型ドライバーの利点とは

静電型では振動板が軽いために音が細かいとか音の立ち上がりが速いなどの利点があります。たいてい静電型では振動板の薄さが何ミクロンというところが競い合いになりますよね。
また振動個所が点となる通常のダイナミック型とは異なり、静電型の場合は振動個所は面ですから全面(平面)駆動としての良好な周波数特性も得られます。なぜかというと一点で振動板を振動させると、その点から離れた場所は振動板の物性でたわみますので、均一な振動が得られにくいからです。全面(平面)で振動すればそうした問題はなくなります。これは分割振動と呼ばれる問題です。

DPP_0461[1].jpg

静電型に対して最近よく言われる平面駆動型はダイナミックタイプのものが多く、オルソダイナミックやアイソダイナミックと呼ばれます(呼び方はメーカーに寄る)。これは全面(平面)駆動としての良好な周波数特性は同じですが、振動板に磁石のためのコイルのパターンが組み込まれる必要があるために、静電型ほどは振動板を薄く軽くは作れません。
ただし静電型・直流バイアス型のような専用ドライバーは不要です。

*FitEar ESTの特徴

FitEar ESTにおいて静電型ツイーターはハイパスフィルタを介して6kHzよりも上の高音域を担当するということなので、フルレンジスピーカー&補助ツィーターの組み合わせに近いとも言えます。この形式ではほとんどの可聴帯域の音はフルレンジユニット(FitEar ESTの場合はBAユニット)で出すのですが、それを静電型ツィーターのスムーズな中高域特性(倍音特性)で補うという考え方です。

ESTの特徴としては先に書いたようにピークのないスムーズな周波数特性にありますが、その結果中・高周波数帯域において音響フィルターの利用を排することができたということです。
通常イヤモニは周波数特性のチューニングにおいて、ユニットが持つピークを抑制するために音響抵抗というメッシュのようなフィルタを音導孔にセットしていますが、これはマスクをしながら少し甲高い声で話すことで、あたかも「丁度良い」バランスに聞かせるアプローチです。

FitEar ESTはBA側には不要なピーク抑制のための音響抵抗を使用していますが、ESTドライバーの方には音響抵抗がありません。これがESTイヤフォンの鮮烈で高い透明感の高域表現の理由のひとつと言えるでしょう。
FitEar Universalで開発されたオーバルホーンステムと同様の形状のステムにはサウンドポート(音導孔の開放口)は2穴空いているように見えますが、静電型ツイーターに対してはホーン形状、BAフルレンジユニットについてはストレートな開口部形状に整形され、それぞれに独立したアコースティック条件が付与されています。

DPP_0470[1].jpg

もう一つのESTのポイントはこれが密閉型だということです。
今回のステム(ノズル)がやや短いのはミドルレッグ・シェルと言われるもので、AirのようにショートレッグシェルではありませんがこれはBAとダイナミックというメインドライバの違いによるものだということです。この方式の利点の一つは耳穴の個人差を減らして、万人に最適に近い音響特性を得られるとも言います。

またこうした特殊ドライバーを採用したイヤフォンでは普通は感度が低くなりがちですが、ESTでは感度(能率)が高いのも特徴です。プレーヤーのボリュームはさほど上げる必要はありません。これは静電型ユニットをフルレンジではなくツイーターとしての用途に限定したユニット開発によるところが大きく、BAユニットとのバランスを取り、日常の音楽鑑賞利用において十分に高い能率を確保することができたということです。


* 音質について

FitEar ESTではケーブルの006ケーブルが標準でついてきます。標準でも装着感はよいと思いますが、AZLA SednaEarfitがはまって私の耳によくフィットしたのでこれを使用しました。ケーブルはメーカー推奨の006のまま使用しました。006は音に関してはよいのですが、硬いので取り回しはしずらいほうかもしれません。

DPP_0460[1].jpg

FitEar EST UIEMは端的に非常に優れた音で、ハイエンドクラスの音世界を堪能させてくれます。音のレベル的に言うと、AK380では物足りずに、SP1000クラスがあいふさわしいレベルにあると思います。特に音の高い透明感と、音の抽出の細かさの点においてですね。特にSP1000CPがお勧めです。能率は高く、あまりボリュームを上げる必要はありません。
全体的な音の印象はとてもすっきりとして、周波数特性は高中低ともバランスよく思えます。ワイドレンジで特に高い方の伸びが今までのイヤフォンとは一線を画すほどのレベルだと思います。ヴァイオリンも含めてほとんどの楽器音が実のところは中音域なんですが、純粋に高音域であるベルの音の透明感の高さ、純度の高さにはハッとさせられます。

IMG_4884[1].jpg  IMG_4902[1].jpg

中高域の音再現力は圧倒的で、独特の高い透明感と高い解像力、輪郭のはっきりとした明瞭感の高い音像を聴かせてくれる楽器音はSP1000の音性能をいかんなく発揮して感動的です。
またそれでいてきついかというと、そうではなく、特にギターやピアノなどアコースティック楽器の音再現の自然で滑らかな点も特筆かもしれません。これは全体的な帯域バランスの良さ、ピークやディップの少ないESTの素直な特性も大きく貢献していると思います。
ただしそれなりにエージングはしっかりしたほうが良いと思います。

DPP_0471[1].jpg  DPP_0467[1].jpg

また優れた透明感・解像感のほかに、音空間の広がりと独特の開放感もFitEar ESTのポイントだと思います。まるで開放型のような気持ちの良い開けた音世界は透明感と相まって独特の心地よさを感じさせてくれます。
音空間の深みと濃さもとても魅力的に感じられます。

DPP_0469[1].jpg

iFI Audio xDSDのようなハイパワーのDAP/アンプのシステムで聴いてもパーカッションやドラムの切れの良い打撃感が半端なく、ロックやポップスを聴いても楽しめるイヤフォンだと思います。女性ヴォーカルも透明感あふれて、感動的なほどです。
音の立ち上がりの良さも楽器音のリアルさに直結しているようで、まさに音の水道管のような音源を生で楽しめるような感覚が味わえます。

とにかくDAPやアンプが高性能なら高性能なほど良い音がどんどん飛び出してくるような楽しみがFitEar ESTにはあると思います。

* まとめ

FitEar ESTは意欲作ですが、全体的な音のバランスの良さから感じられる完成度の高さはやはり手慣れたFitEarならではのまとまりの良さも感じさせてくれます。そのベースがあって、圧倒的な透明感の高さや開放感の良さという個性の部分が際立っているのでしょう。

DPP_0462[1].jpg

またFitEar ESTではESTドライバの特性の良さそのものもさることながら、ディップやピークを減らして音響フィルターを排せたというのが実のところは効果として大きいとも思えます。そうした点ではアコースティックチャンバーなどで音響フィルターレスにしたAndromedaなどの人気モデルにも通じるところはあるかもしれません。

FitEar ESTではこのESTドライバーの可能性を示してくれ、さらなる展開にも期待を持たせてくれます。個性的でこれならではの音世界を持たせしてくれるという面もありながら、そのESTという要素技術を音レベルの高さにうまく結びつけたのがFitEar ESTです。

それはこれまでにはなかったアプローチによる個性的で高性能の新しい意欲作と言えるのではないでしょうか。
posted by ささき at 09:43| __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月17日

チタンカスタム、FitEar TITANレビュー

FitEar TITANはチタン製のシェルを使ったユニークなカスタムIEMです。

IMG_0514[1].jpg

TITANはAIRをベースにしていますので、まずAIRの解説をします。

* FitEar Air

Fitear Airはハイブリッドカスタムで、BAとダイナミックを採用しています。ダイナミックドライバーはFOSTEX提供です。ダイナミックをフルレンジとして使用し、BAを補助的に高音域に使う構成です。
またポイントは閉鎖空間でのダイナミックの動作効率の問題を改善するために普通は遮音性を犠牲にしてベント穴を使用しますが、遮音性を同時に満たすためにショートレッグシェルと言う工夫をしました。ショートレッグシェルによりステムの断面積が上がったため、逆に装着性や音導穴の形状などの工夫の余地もできています。

IMG_0659[1].jpg

外観的には空気ばねを減らすために工夫されたショートレッグが目を引きます。私みたいにカスタムをずっと使いこんでる人ほど違和感を抱くかもしれませんが、見た目の印象よりはきちんと耳にはまります。また実際に電車でもつかいましたが、普通のカスタムと同じくらいの遮音性があると思います。ダイナミックドライバーでかつカスタムの遮音性があると言うのがAirの特徴ですが、これは生きていると思います。

IMG_0663[1].jpg

音質はまずぱっと聴きはダイナミックの音が支配的と感じます。文字通りダイナミックで迫力のある音はダイナミックドライバーならではのもので、BAだと低音域のインパクトがか細くなりがちですが、骨太で厚みのある音再現はダイナミックドライバーらしいところだと思います。全体の音のつながりもよいですね。AK70みたいな元気でパンチがあるプレーヤーと合わせてロックポップが楽しく聴けます。
また聴きこんでいくとダイナミックの音ではあっても、独特の音再現も持っているのがAirのポイントだと思います。普通のダイナミックだと丸く鈍く聞こえるようなところが、鮮明に明瞭感があって、楽器の音再現もクリアに聞こえます。ここはBAの隠し味が効いているように思います。
今までのFitearというかカスタムIEMにはなかった音で、そうした点でも楽しめます。反面でいままでの須山カスタムの整ってバランスのよい音に慣れていると、ダイナミックの太い音にやや荒削りさを感じるかもしれませんが、ここはTITANで変わります。

* FitEar TITAN

TITAN(チタン)は名の通りに金属製のチタンで出来たシェルを持つユニークなカスタムIEMです。須山歯研はチタンの加工でもノウハウが豊富で強みがあります。

IMG_0504[1].jpg  IMG_0507[1].jpg
Air(黒)とTitan

TITANはベースモデルがFitEar AIRです。なぜAIRがベースモデルかと言うと、他のBAカスタムではもともと密閉されたシェルであり金属化してもメリットが大きくないのではないかと言うこと、またチタンAIRを試作したさいに金属シェルが音質的にも低域の芯を締める効果があり、中高域にも良い影響がありそうなので決定されたということです。

IMG_0492[1].jpg  IMG_0496[1].jpg  IMG_0500[1].jpg

ただし、、現在のTITANはAIRをベースにしてはいますが、実はちょっとした秘密があり、ベースのAIRとはかなり異なるものとなっているようです。ここは書けないのですが、これは音質的にかなりTITANをAIRと差別化しています。そのため、AIRがベースと言うのはいったん忘れても良いのではないかと思います。

* ドイツケーブル

TITANはケーブルなしでの販売が基本です。おそらくTITANを買う人は一個目のFitEarカスタムと言うことはないと思いますのであまり問題はないと思いますが、ケーブルのついたキットモデルも用意されています。
そしてこのキットモデルがもうひとつのTITANの特徴です。それは「ドイツケーブル」です。これは正式には009というタイプのもので、名前からしてすごそうですがまさに加速装置がついているような速さも効かせてくれます。

IMG_0651[1].jpg

「ドイツケーブル」は正式発売がなされないまま、あちこちでささやかれてたんでひとつ幻のケーブルのようになっていますが、ここで公に出てきたわけです。これはドイツ製のビンテージ線を採用したハイエンドケーブルです。某所で発見されたものですが、数量はビンテージ線なので限定されています。そのため単体販売は行わず、TITANへの付属での提供となります。

IMG_0652[1].jpg
上は001、下はドイツケーブル。

私もしばらく前から使っているのですが、これは音質に与える影響ではこんなに大きなケーブルがあるかと驚愕したものです。現在でもCrystal Cable Nextと一二を争うレベルのハイエンドケーブルだと思います。音質についてはあとでまたカバーしますが、TITAN専用と言うわけではなく、私は335DWに使用していましたが、好評の335DWをさらに別の次元に引き上げてくれる性能を持っています。

* TITANの外観

傷つかないように別々の袋に梱包されてきます。
チタン製のシェルは質感が高く、はじめてJH Audioのカーポンシェルを見たときのように新鮮で豪華な感じがします。ちょっと重くて金属のアクセサリーのようにかっこよいですね。Ayaからの音導穴のホーンのようなテーパー加工もなされているのは芸の細かいところです。

IMG_0511[1].jpg

装着感も冷やっとした感じ。Airのショートレッグもあって、すっと耳にはまります。ショートレッグなのであまり耳の中が冷っとすることはありません。
実際に使ってみて気がついたことは、アクリルの普通のシェルとは遮音性が違うということです。音楽を止めた時だけでなく、カスタムに慣れてる人なら再生中でも「あれっ」と気がつくと思います。感覚的には周辺音がよりマイルドになる感じで、特に高音域のきつい音が抑えられて周囲の音やアナウンスがマイルドに聴こえます。
より静粛で、イヤフォンの細かい音を聞き取るのに良いといえるでしょうね。もしかすると金属シェルは意外とカスタムに向いているかもしれません(加工面を除けば)。

* TITANの音質

しかしながら本当の真価はチタンシェルの中身です。都合で書けないけど、ショートレッグ以外の秘密が隠されています。ヘッドフォン祭で聴いた時も、Airとは音の傾向が違うと感じたんですが、その時はドイツケーブル効果かと思っていました。しかし、実際に使ってみて、慣れたAirと慣れたケーブル(001)を使って同じ条件で聴き比べてみるとたしかに音が違ってより洗練された音質に進化しています。

IMG_0642[1].jpg

Airとは違うのだよ、Airとは。とついつい書きたくなってしまいますが、特に中低域の改善が劇的ですが、高域も良くなってます。前のAirはある意味ダイナミックらしい骨太で元気がありますが、ある意味で古いJBLスピーカーのようなぼんぼんと鳴る音でしたが、このTITANではより引き締まって現代スピーカーのような洗練された音質に変わっています。低域のぼわっとしたぶよつきがなくなり、まるでBAのようなすっきりした感じになっています。
このため、AirはFitEarの中では異色だったけど、TITANはよりいつものFitEarに近く334とか335のバランスの良さに近くなっています。Airのようにダイナミックドライバーの音が支配的というわけではなくなり、全体のつながりもよく、おそらくマルチBAと比較してもそれほど違和感はないでしょう。同じ001ケーブルで比べると、手持ちの335DW(SRなし)よりもむしろ明瞭感は高い感じがします。

IMG_0526[1].jpg

女性ヴォーカルがAirのように太めにならずに細身でしっかり芯があり、発声も明瞭でなめらか。アコースティック楽器の音も同様でアコギも音が太くあいまいにならずに、きりっと鮮明でシャープな音が楽しめます。
低域はレスポンスが速くパンチが気持ち良い感じ。
能率がAirよりはやや低いのでアンプはつけた方が良いかもしれません。お勧めはAK380+AMPです。

IMG_0516[1].jpg

Airのときは銅線のMoon Audio BlackDragonを使ってたんですが、ケーブルとしてはむしろ銀ベースのWhiplash TWagなどの方が合うようになった感じはあります。
TITANは001ケーブルでも高音質はよくわかりますが、やはりもっと良いケーブルを使いたくなります。

IMG_0520[1].jpg

やはりTITANの真価はドイツケーブルを使った時です。ドイツケーブル(009)は硬くて太いケーブルではありますが、音質の改善効果は並外れていると思います。001でも優れているTITANにマジックをかけてくれ、ちょっとありえない世界を作ってくれます。
レビュー的に書くと高域と低域の伸びがさらに高くなり、ワイドレンジ感が際立ちます。また音のクリアさが高くなり、エレクトロでもヴォーカルでも生楽器でもひときわ鮮明に再現してくれます。またビンテージ線らしく音にドライさが少なく、音楽的にも美しく聴かせてくれます。
また良録音だと水の流れる音、ベルの音、さまざまな楽器音がまさにマジックと言いたくなるようなリアルさを聴かせてくれます。試聴を終えても音楽を聴き続けたくなるような魅力を加えてくれます。

私が価格度外視でイヤフォン向けのいままで聴いたベストケーブルを上げるとすると、このドイツケーブルかCrystal Cable Nextだと思います。この二者はそれぞれビンテージと現代ケーブルの良さがあり甲乙が付けられないですね。あとはこの前聴いたWagnusのFrosty Sheepもハイエンドケーブルの雄と言えるでしょう。
こうしたハイエンドケーブルはみな、単にワイドレンジや透明感だけで語れない優れた個性を持っているのもまた興味深いことで、それが高性能イヤフォンにさらなる魅力を与えてくれます。

IMG_0973[1].jpg

もし価格的にドイツケーブルはちっょと、という場合には006ケーブルをお勧めします。これも立体感が際立つなかなかよい組み合わせです。

* まとめ

はじめはネタかとも思えましたが、実際に聴いてみると音的にもきちんとした意義と納得感があります。また重みや質感など官能的な良さもありアクセサリー的な魅力も兼ね備えているのもユニークです。かなり個性的でかつ音もよいカスタムIEMだと思います。

IMG_0856[1].jpg

また金属シェルカスタムの可能性を感じることもできるユニークな製品だと思います。
posted by ささき at 22:13 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月25日

FitEar彩(あや) - 3DプリンタによるカスタムIEM

FitEar彩(あや)はFitEar初の3Dプリンター出力シェルのカスタム製品です。

3DプリンターをカスタムIEMに使用した際の利点ですが、以下のようなものです。
従来の手法で樹脂を化学工程で硬化させるシェルの制作においては、複雑な整形をする際にシェルの部分によって硬化のタイミングが異なってしまい、それで不均一が生じるという問題がありました。この問題によりシェルの成型に悪影響をする場合があるわけです。
しかしながら積層する3Dプリンタを使用する場合には原理的にこの問題を生じません。そのためより正確で複雑な設計が可能となります。
その一例は彩に採用されたホーン形状の高域音導孔です。BA型ではどうしても高音域の伸びに制約が出てしまいますが、この形状によって最高域の拡大とともに、肩特性の緩やかな減衰を得られる特性を得ています。
また3Dプリンターの採用により、最悪ひとつしか音導孔をあけられない場合でも、それをホーン形状に形成し、ホーン開口部あたりにもう一本の音導孔を合流させるといった複雑な設計も可能になったということです。

IMG_4913_filtered[1].jpg

彩のもうひとつのポイントは改良された新設計のネットワークです。これは過度の帯域重複を避けて特にヴォーカル域での特性に注目したもののようです。

また、彩は事前にうわさされていたようにパルテールのカスタム版ではありません。彩ではウーファーにはアコースティックローパスフィルタはなく、基本広い帯域を担当させているということです。

実際に使ってみたところブラックペイントがカッコ良く、思わず写真をいっぱい撮ってしました。軽くて装着感良く、かなりぴったりフィットします。ちなみにこの感想メモは、彩が3Dプリントと聞く前のメモでバイアスはありません。

音質はきれいな音鳴りで、一つ一つの音は細身で贅肉が取れたすっきりとした音です。他のカスタムIEMと比べたときの特徴は抜けの良い清涼感とも言える透明感です。プレーヤーなどの組み合わせもあるかもしれないけど、この二点は個性として感じられます。
録音の良いジャズトリオのドラムやウッドベースの音の鮮明さ、生っぽさとリアルさは特筆モノかと思います。特にAK120IIと組み合わせたときですね。濁りのないピアノの純な響きも気持ちよく感じられます。
ヴォーカルもとても明瞭で聞き取り安く、特に声の透明感や高域方向の伸びが良い感じです。女性ヴォーカルにはかなり向いたイヤフォンと言えます。特にAK120IIと組み合わせたときの女性ヴォーカルは逸品だと思いますね。


3Dプリンターの採用はよく製作が簡単にできるという誤解を生みますが、実はむしろ手間がかかるという面が大きいようです。つまり3Dプリント化は我々が普通考える簡素化よりも、今までできなかったことをするというプラスの要素が高いということになります。ユニバーサルタイプはすでに3Dプリンター化しているということですが、カスタムにおける3Dプリンターの効果も可能性が感じられます。
posted by ささき at 17:10 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月08日

須山FitEarの春のヘッドフォン祭での新作

先日ヘッドフォンブック2014というかカスタムイヤフォンブック付録の打ち上げがありまして、モツ鍋飲み会をして来ました。こちらレバカツ。

IMG_3493.jpg

そこで今後のヘッドフォン・カスタムIEM世界についての陰謀戦略をいろいろ討議したんですが、それは置いといて、そこで須山さんから3つほど新しいイヤフォンを見せてもらいました。

一つはこれ、FitEarのエイプリルフールネタを飾ったFitEarガトリング(海外ではFitEarガンダムと呼ばれてる)ですが、これ実はちゃんと聴けます。というかけっこう良い音でした。メタル3穴って、これネタのように見えて...

IMG_3496.jpg     IMG_3497.jpg

もう一つはこれ、こちらはカスタムですがポイントはシェルを3Dプリンタで作成したものです。

IMG_3498.jpg     IMG_3495.jpg

ここまではtwitterですでにポストしたんですが、実はもう一つあります。これは一番製品に近いリアルなんで黙っていましたが、部分開示許可をもらいました。
これは春のヘッドフォン祭に出品されるFitEar新作です。

IMG_3540.jpg  IMG_3542.jpg  IMG_3545.jpg

これ飲み会の席でポンと手渡されて、なんの説明もなく先入観なしで聴いてくださいと言われたものです。
そこで予備知識ゼロでちょっと聴いてみた感想をきのう須山さんにメールで送ったのですが、本記事では解説に替えてそれを一言一句変えずにここに書きます。

「飲み会の時にもらったユニバーサルですけど、かなり音のレベルは高いと思います。
際立って感じるのは音空間の広がりの良さ、立体感の高さですね。AK240で聴いてますが、バランスでなくともかなり秀でています。またiPod classicなんかでも同じように感じるのでこのIEMの良さだと思います。パルテールと比べるとこの点はかなり向上してます。
またパルテールなみの透明感もあるし楽器の音のリアルな再現力も高いと思います。」


この後に設計内容・構成について須山さんから教えてもらいました。しかしながらはじめのインプレが面白いというか興味深いので、あえてそのまま掲載しました。
また構成・設計内容についてもここに書きません。ユニバーサルですがパルテールとToGo334のどちらとも違う新設計です。
ヘッドフォン祭でみなさんもぜひ聴いてみてください。

名称と価格はだいたい決まっているようですがまだ公開できません。
付属品で決まっているのは
* 黒シェル/001ケーブル/ペリカン黒
の標準セットですが、隠し球もあるかもしれません。
それと3Dプリンタカスタムももしかすると春のヘッドフォン祭に出展できるかもしれません(未定)。

ヘッドフォン祭ではFitEarブースへGo!
posted by ささき at 06:10 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月06日

FitEar Parterre(パルテール) レビュー

国産カスタムの雄というか、いまや海外でも評価の高い須山さんのFitEarブランドからまた新しいイヤフォンが登場しました。ユニバーサルタイプのイヤフォンで、名はFitEar Parterre(パルテール)です。
ユニバーサルタイプは耳型に合わせるカスタムではなく普通のイヤチップを使うイヤフォンのことです。カスタムの高音質技術を応用して普通のイヤフォンを設計するというのはFitEar togo 334が嚆矢でその音質は海外cnetでも認められて世界最高のイヤフォンと評されたこともあります

今回のパルテールもそのユニバーサルタイプのイヤフォンです。ただし今回は今までのFitEarブランドでは通常付記されている334とか111というドライバー数や帯域分割(way)数を表す型番がないのに気がつかれると思います。これはドライバーの数やタイプにとらわれずに先入観なしで試して欲しいからだそうです。本記事でもドライバー構成には触れません。

パルテールとは劇場の中でも最上の席でステージから程よい距離で音響的にも優れた最高のシートだそうです。そのような席で聴いているような音を届けたいということですね。
こちらに製品ページがあります。
http://fitear.jp/music/product/parterre.html

IMG_1148_filtered.jpg

製品のポイントはマルチドライバー(バランスドアーマチュア型)でありながら、担当する周波数レンジを完全に独立させるアコースティックフィルタ&ネットワークにより、澱みの無いピュアで伸びやかな音質を実現したということです。

普通スピーカーのクロスオーバーはコンデンサ(ツイーターのローカット)とコイル(ウーファのハイカット)でそれぞれツイーターとウーファの最適周波数で鳴らすわけですが、イヤフォンの場合はサイズの問題でコイルによる効果的なローカットが出来ないという問題があります。そのためローからミッドに帯域重複が出てしまいます。
これはスピーカーでも往年の名器JBL4312みたいに意図的にハイカットしない例もあり、いわゆるああいう厚みの演出には良いのですが、現代スピーカーのような整理された音再現が苦手だったとのことです。
そこにメスをいれて新機軸のネットワークで挑戦したのがこのパルテールです。パルテールではツイーターのローカットはコンデンサですが、ウーファのハイカットをアコースティックフィルタで行っているということです。ドライバー構成に触れないという理由の一つはこの新システムがとても効いているからだと思います。

もう一つのパルテールの特徴はF111で採用された純チタン削り出しのテーパードポートステムを音導口に採用しているということです。これで高域が伸びやかに改善されますが、このチタン削り出しの技術を持っているというのもプロ用イヤモニの実績と共にFitEarが差別化できる点ですね。
これらの特徴によって従来とは一味違う音になっているのがパルテールというわけです。

* 実機試聴

最近よく使ってるAK100の改造モデルであるRWAK100で試聴しました。これなら上で書いているパルテールの長所を引き出しやすいでしょう。
パッケージにはいつものようにペリカンケースと、ユニバーサルですのでチップがいくつか付属します。

IMG_1146_filtered.jpg     IMG_1150_filtered.jpg

はじめに音の広がりの豊かさにはっとすると、FitEar Togo 334の系統かなとも思わせますが、聴いているといままで感じたことのないようなピュアな透明感のある音再現に気がつきます。

音が綺麗で瑞々しく淀みないという感覚で、山のきれいな清流を思い起こします。特に楽器音の再現力は秀逸で、ピアノの響きは素晴らしく美しく感じられます。ピアノ曲専用にこれ買ってもいいんじゃないかと思ったくらいですね。ハープの音もとても澄んで音空間に響きます。いわゆる美音系のように演出しているのではなく、逆に混じり気なく純粋だから美しいという感じでしょうか。音色自体はニュートラルで着色は感じられません。弦もとても良く、ぜひハイレゾで聴いて欲しいと思いますね。

このピュアで透明感のある純粋な再現力はあまり聞いたことのないレベルで、togo 334と比べてもはっきり違いがわかります。ここにパルテールならではの独特の音世界があります。
この透明感を反映してか、解像力も良くライブ録音の細やかな環境音も明瞭にわかります。演奏のニュアンスも伝わりますね。このリアルな音はたしかにコンサートの一番良い席というネーミングもうなづけます。

高域はチタンチューブらしくクリアでシャープ、とてもキレが良くそれでいてキツさを感じないうまいバランスになっていると思います。低域は適度な量感がありタイトでキレ良く、ロックの畳み掛けるようなドラムスのインパクトは気持ち良く感じます。ローエンドはかなり深く沈む印象で、キレの良いシャープな高域と合わせてワイドレンジであると感じます。
パルテールの低域の良さはソリッドでシャープなアタック感、インパクトの鋭さでしょう。ピュアな音再現の他にパルテールのもう一つの長所はこのキレの良いテンポの良さです。音の歯切れが良くスピード感がありますね。低域の量感は比べてみるとtogo 334同等以上にあるので普通は十分満足できると思います。

FitEar Togo 334とパルテールの音の比較をもう少し続けますと、全体的にtogo 334の方がやや濃く厚めで音場もやや広め、Parreteはすっきりとピュアで細身、アタック感はより鋭く軽快感があります。
togo 334はカスタムのベースモデルが存在することもありますが、カスタムの性能をユニバーサルに持ち込んだということで画期的でした。パルテールはさらに独自の世界に挑戦したと思います。
価格はオープンですがtogo 334の下になると思います。このことからtogo 334の弟と思えるかもしれないけど、実際はtogo 334とは上位・下位というより好みで切り分けるべきものかと思います。
ぜひヘッドフォン祭で試聴してみてください。須山さんのブースは7F No2(いつものところ)です。
posted by ささき at 20:46 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年08月06日

CNETがFit Ear To Go 334を世界一のインイヤー・イヤフォンとして紹介

CNETのオーディオコラムのAudioholicにて須山さんのFit Ear To Go 334が世界一のインイヤー・イヤフォンとして紹介されています。
http://news.cnet.com/8301-13645_3-57486297-47/the-best-in-ear-headphone-in-the-world-the-fitear-togo-334/
書いた人は自分のJH13とも比較してto go 334の方がより透明感があり、音の広がりもあるとしています。他方でJH13の方が音的に豊かであるなど差はあるけれども総合的にto go 334の方がより良いとしています。
いまは須山FitEarはケンさんのALOを通してアメリカで販売されていますので、ALOからのデモ品の提供となったようです。

ヘッドフォン祭って単に外国から人が来るだけではなく、そこで日本の良いものを見つけて持ち帰り、世界的に広めてほしいという期待があったんですが、それがうまく機能し始めたようにも思いますね。
オリンピックではありませんが、どんどん日本のものが世界の舞台で認められていってほしいものですね。
posted by ささき at 22:43 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月21日

須山ユニバーサル、FitEar TO GO!334登場

English version here.
http://www.head-fi.org/t/597534/suyama-universal-fitear-to-go-334

須山カスタム、というと国産のカスタムイヤフォン(イヤモニ)の代名詞でもありますが、その須山さんがユニバーサルタイプの高性能イヤフォンを開発しました。K3003の向こうをはる堂々たるハイエンドイヤフォンです。ユニバーサルイヤフォンというのはいわゆる普通のイヤフォンのことで、自分の耳型で作るカスタムに対して誰でも使える汎用(universal)という意味で使用しています。

IMG_9649_filtered.jpg

この新型イヤフォンはMH334と同じBAユニットを使用した、3ウエイ3ユニットの高性能イヤフォンで、ユニット構成もケーブルも同じです。いわばMH334のユニバーサル版です。しかしカスタムの試聴用にラバーチップをつけたものとは根本に異なります。
名称は仮称(決定?)"FitEar TO GO!334"ということです(どこかで聞いたような)。このFitear TO GOというのはユニバーサルのブランド名となり、To Goというのは(マクドナルドなんかでの)持ち帰りという意味もあるので、カスタムとは違ってそのまま持ち帰れるという意味も含むそうです。
こちらにホームページがあります。
http://fitear.jp/music/sp/togo334sp.html

IMG_9646_filtered.jpg

FitEar TO GO!334は他のカスタム同様にハードケースとしてペリカンケースがついています。ユニバーサルなのでイヤチップが付属しています。チップは大・中・小の黒ラバーチップと白のダブルフランジが付属しています。わたしはダブルフランジが良いと思いました。
イヤフォン本体はやや大柄ですが、同じユニットを詰めているカスタムに比するとコンパクトに仕上がっています。そもそも3Wayで3ユニット別というユニバーサルはほかにないですね。しかもローユニットにはかなり大きなサイズのBAドライバが入っています。表面はとてもきれいに仕上げられています。ブラックも艶っぽくていい感じです。
耳にかける部分にはチューブとメモリーワイヤーがあるので、カスタムと同じで耳にかけて使用します。ケーブルは着脱式です。ハウジング自体は大柄でも耳にかけてしまうと、装着感は他のBAイヤフォンとあまり変わりません。重さもさほどは感じません。

試聴機がくる前に自分のカスタムMH334で少し聴き込んで置いたのですが、たしかにぱっと聴いた大まかな音の印象はカスタムMH334と似たところがあるように思いました。
しかし驚いたのはカスタムMH334よりもかなりクリアで透明感が大きく増していると言う点です。これはわずかの差ではないですね。思わずFitEar TO GO!334を外して再度カスタムMH334で聞き直してしまいましたがやはりそうです。
正直言ってカスタムよりは音質は落ちるんではないかと思っていたのが逆だったので思わず須山さんに連絡してどこが改良点なのか聞いてしまいました。
聞いてみるとやはりカスタムMH334とケーブルとかBAユニットは同じだそうで、改良のポイントは内部構造のようです。

マルチのBA(バランスド・アーマチュア)カスタム、ユニバーサルイヤフォンは高域に弱いと言うのは前に書いたんですが、どうやらこの問題のポイントはユニットではないようです。
K3003もはじめはすごい新型BAユニットかと思ったけど、意外と一般的なTWFKらしいようでWestone3なんかと同じやつですね。それでもあれだけの音を出すのはユニットと言うよりは、ユニットのポート(音導孔)やステム構造の差で周波数特性はだいぶ左右されるようです。ユニットからの音を合流させてさらに耳に導くという点でどうしても高域特性が悪くなってしまうよう。特にマルチユニットタイプはそうらしく、効率的な音導孔設計が各社のキーポイントと言うことです。
K3003は小型のBAユニット(TWFK)をステンレスのステムに突っ込むという工夫であれだけクリアさと高域レスポンスを得ているようです。ただこれは1ユニット2way(+ウーファ)の比較的小サイズだから可能なことで、FitEar TO GO!334ではさらに意欲的に3ユニット3wayを目指して、大サイズのローユニットなどを組みこんでいるのでかなり苦労があったとか。
このFitEar TO GO!334では3ポート別で高域専用の音導孔として出口方向にテーパーを付けた純チタンのチューブを使用していると言うのが一つのポイントです。須山さんのところはチタン加工もノウハウを持っているようです。

port.jpg

また、ユニットの最適配置を見直して効率的かつダイレクトに音が導かれるような設計をしたとのこと。細かいところでは、カスタムではないので遮音性が減った分を補うための低域の調整を行っているそうです。
これらのことから、単にカスタムの試聴用にユニバーサルチップをつけたものとはまったく異るということがわかると思います。

FitEar TO GO!334の音に戻りますが、もともとバランスの良かったMH334の音がさらにクリアになったということでかなりレベルは高いです。
特に気に入ったのがFostex HP-P1との組み合わせで、これは驚異的ですね。iPod classicとDirigent USBを組み合わせるのが自分の定番システムひとつで、これでFitEar TO GO!334を組みあわせて聞きます。
まずはっきりと際立つのは明るく軽やかですっきりとした中高域のクリアさと空間表現の立体感です。優れたポート設計の効果でしょうか、とくに立体感と空間の広がりはいままであまり聴いたことがないくらいですね。あとでJH13なんかとも比較しましたが、多分この二点に関してはいままで聴いたイヤフォン(カスタム・ユニバーサル問わず)の中でもトップクラスでしょう。
また線が細く緻密で微細な音の印象は紛れもなくハイエンドBA機の特徴を受け継いでいます。帯域バランスはとてもフラットで低域は張り出し感はなく、素晴らしく良くコントロールされていてタイトです。
低域はK3003などとは違い量感は抑えられていますが、別に書いたようにカスタムMH334とは調整しているので、それ自体はきちんとレスポンス・インパクト感あり、とくに低域表現に物足りなさを覚えることはないと思います。
実際にこの音のタイトさ、インパクト感のある切れのよさっていうのはもう一つのFitEar TO GO!334の特徴の一つです。音がタイトで輪郭が明瞭、もやっとした曖昧さがありません。他のイヤフォンだとなんだかなまったようなパーカッションのインパクトでもFitEar TO GO!334だとぴしっと決まる気持ちよさがありますね。普通にロックとかポップも聴けますし、むしろボワっとだるくなくビシッと気持ち良いくらいですね。ただ膨らみとか脚色感がないというだけですが、もちろんここは好みもあるでしょう。もしさらに低域がほしい人はコンプライがつくので(T400)それを使う手もあるでしょう。これでかなり量感は増えますね。自分でチップで音を調整できるというのもユニバーサルの良いところです。
そしてマルチBAということで期待する微細さ・解像力はJH13やUE18などのハイエンドカスタムと同等以上です。おそらく全体の音における印象もそうしたハイエンドカスタムを持っている人はK3003よりもそれらに近いと感じるでしょう。生楽器の音の鮮明さと正確さ・リアルもトップレベルですね。高い音のレスポンスは強く、芯が強固なように鳴りますが痛さ・きつさはあまりないのも良い点です。

HifiMan HM801と組み合わせると、正確な再現性の高さの中にも低域のインパクトはしっかりあるのがわかり、同時にHP-P1の時にはニュートラルと思ってた音調にほのかな暖かみが乗っているのがわかります。これはHM-801の良さでもあるけれども、こうしたアンプの違いを明確に描き出す能力もむろんあります。

たぶんK3003と比べろと言われると思うので書いておきますが、K3003と比べると音の立体的な広がりと微細な情報量の多さ、音のタイトさにおいてFitEar TO GO!334が上のように感じます。比べるとK3003はこじんまりとしていますね。
低域の量感という点ではK3003の方が量感の豊かさを感じます。この辺はぶおっとしたベースの迫力がよいか、ばしっとしたタイトで切れよいベースラインがよいかで好みが分かれるところかもしれませんが、逆に言うと二つ持っていても使い分けられるという恐ろしい結論にも導かれます(笑)。ボリュームレベルに関してはK3003の方が能率はやや低い感じです。

たぶん他のハイエンドカスタムとも比べろと言われると思うのでそれも簡単に書いておきますが、現在最高レベルのJH13+WhiplashのTWagリケーブルで比べてみました。これはちょっと似た感じになって近しい勝負ではありますが、はっきり差がつくところでは音の広がりと立体感はやはりFitEar TO GO!334が上ですね。ただこのレベルになるともう少し聴きこんでみますが、FitEar TO GO!334は標準ケーブルですから標準同士だと334を取るでしょうね。

販売に関してはフジヤさんですでに予約を開始して、店頭に試聴機も設置しています。通販でも買えるので都市部ではなく「カスタム良さそうだけど耳型とってくれる人がいない」という人にも福音でしょう。
販売に関してはフジヤさんホームページをご覧ください。
http://www.fujiya-avic.jp/products/detail11577.html

私もカスタムイヤフォンを声を大に広めてきた立場上ユニバーサルがカスタムを超えたとは言いづらいところはありますが(笑)、少なくても音質に関してはもうどちらが上とは言えませんね。設計次第です。もちろんフィット感はカスタムの方が良いです。特にシェルの造形とフィット感は須山さんとこが一番だと思います。これは私もカスタムいっぱい持ってますが、シェルの透明感もさることながら細かい造形の巧みさは他にないと思います。
いずれにせよカスタムとユニバーサルは単に音質や価格の松と梅ではなく、本来的な使い方で分けられる時代になったのかもしれません。

posted by ささき at 01:12 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月22日

須山カスタムの新型、FitEar MH334

さきの2010秋のヘッドフォンショウでの目だったトピックのひとつにカスタムイヤフォンが一般化しつつあることがあげられます。国産でカスタムというとやはり須山さんのところですが、今回はショウにも初参加され、またInterBEEにも出展していました。

以前コンシューマー用のPrivate 333の記事を書きましたが、今回新たな製品として334のデモ機をいただきましたので、レポートします。
ちなみに須山カスタムの名称には意味があり、334の場合は3Way + 3 units + 4 driversという意味です。これはひとつのBAユニットに2つのドライバーが入っているものもあるためです。

2692.jpg

この334はもとはProAudio用として開発されたもので、333とは異なるラインということです。334はもとあった335(Low 1, Low-Mid 2, High 2)を引き継ぐものとなります。335は業務用途での高域ヘッドルーム確保のために同じドライバー2基を高域として使用したというものです。ただし、これにより位相の問題か、低位があいまいになるデメリットなどがあったため、335のクロスオーバーを見直して、Highのドライバーの受け持ちを狭くして負担を減らした結果、Highを一基で済ませ、334(Low 1, Low-Mid 2, High 1)として位相特性や対入力特性の向上を図ったというものということです。このおかげで内部もコンパクトになったので、製作可能な耳穴の形状やサイズに余裕ができたということです。あとで書きますが実際に音のバランスはよく仕上がっていると思います。

2680.jpg

334はまずはProAudio 334として販売開始をするそうですが、ケーブルなどの見直しをしてのちに新シリーズ、FitEar MH334として来春ころ一般販売をするということです。
わたしがいただいたものはこの新シリーズ版に近いものですが、最終版とは音が異なるかもしれませんのでお断りをしておきます。

*機能的な面について

シェルの造りのよさ、透明度・装着感は問題なく世界トップでしょう。シェルの指かけなど細かい造形はまさに日本人が作ったものですね。

2676.jpg 2670.jpg

UE18ではUE11よりシェルの造形品質が落ちたように思えますし、JH13/16はシェル的には元からあまり良くないので、他よりもはっきりと優れています。ただシリアルなどがシールになっているのがちょっと残念ではあります。
使い勝手で言うとケーブルが硬くて柔軟性がないので、使用中にも気になることがありますが、ケーブルの品質はなかなかによいように思えます。メモリーワイヤーのない点は改良されると思います。

*音質面について

全体的なレベルはとても高くてUE18とかJH13/16など海外トップクラスと比肩できるレベルにあると思います。差は音の好みや使い方に出ると思います。実際に試用中は主に13/16や18とどういう違いがあるのか、自分の使い方ではどうなのか、ということに重点を置いていました。
個人的にざくっというと、UE18よりも全体的に優れていて、JH13/16とは好みにより分かれる、という感じに思えます。

帯域特性にはプロ用としてもコンシューマー用としても通用するようなバランスの良さをまず感じました。
JH16などと比べると、低域の充実感は引けを取らないくらい十分にありますが、JH16のように低域だけ膨らんでいるという感じはありません。そのため低域の充実感が他の帯域をマスクするということなしに、全体的なソリッド感というか、よい音の厚みがあるように感じられます。そのため、バランスが良いといってもいわゆるニュートラルフラットのモニター調のようなつまらない音ではなく、聴いて楽しい音になっています。また334では中域に独特の厚みがあり、全体的なバランスのよさに貢献しているかと思います。特にヴォーカルの聴きやすさ・充実感はJH13/16と比べた大きな334の利点のように思います。全体にJH13/16よりも良い意味で厚み・重み・芯があるソリッドな音と感じます。

もちろん細かい音もよく聴こえますが、音の再現性・音色に忠実さを感じます。
たとえば古いロックで録音のよいもの(Band on the runとか)を聴くと、JH13/16などでは現代モノのように先鋭的に聴こえますが、334だともともとの音がこう録音されていたか、という感じに脚色無しに伝わってくるような感じです。JH13/16は中高域の明るさと明瞭感が特徴的でそれはよいのですが、ややそこが強調されて聞こえるのかと思います。
JH13/16のほうが音がはっきりと明確に描き出される明瞭感はあります。ただしJH13/16ではやや軽さを感じます。この辺が好みの差と前に書いた点です。
JH13だとヘルゲリエンのような現代ジャズトリオのようなものは音が明瞭でかっちりとしてよく聴こえますが、334は自然でバランスが良く厚みがあるので、ビートのあるサウンドでもジャンルを問わず良く聴こえます。

UE18と比べると全体的にソリッドで芯があり、楽器の音もシャープで明瞭に聴こえます。UE18にある音のあいまいさがなく、音のインパクト・アタック感をしっかりと感じられます。UE18も音色の美しさとか音場感のよさはありますが、あまり決定的な差とは感じられないので、客観的には全体的に334の方が良いと感じられます。

他のカスタムとの差が一番出るのはプレーヤーとの相性のように思えます。
おそらくiPhone4単体と組み合わせるイヤフォンとしてはいままでで一番良いでしょう。特にFLAC Playerを使ってiPhone4で334を使うとバランスも良く、欠点をあまり感じさせないすばらしい音を楽しめます。おそらくiPhoneでこれだけの音が出せるということに驚く人は多いでしょう。iPhoneはポータブルアンプとは組み合わせにくいので、単体で十分なよさが引き出せるというのはなかなかに魅力的です。JH13/16やUE18と比べてもiPhone4単体との相性は優れていると思います。またこれだけで完結しています。
ポータブルアンプの組み合わせとかHM801なんかとあわせたときにも良いのですが、ただ334は少し能率が高すぎてパワーを生かしきれないというか、そうしたもどかしさがあるかもしれません。たとえばゲインが低であってもボリュームの余地が取れなさ過ぎる気もします。ただ音の相性が悪いというわけではなく、HM602なんかとの組み合わせが個人的には一番気に入っています。

334はとてもバランスがよくて、かついろんなジャンルで楽しく聴くことが出来るイヤフォンに仕上がっていると思います。自分のお気に入りのひとつです。特にiPhoneだけ持って出かけたいというときはこれがベストチョイスという感じですね。
posted by ささき at 23:10 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月16日

須山カスタムIEM FitEar Private 333 レビュー

カスタムイヤホンというと外国製品がほとんどですが、須山カスタム(FitEar)は国産のカスタムIEMとして知られています。

333d.jpg

これまでのラインナップはプロ用途を念頭に置いたものが多かったということですが、このPrivate 333はコンシューマー用に考えられた最新モデルです。
須山さんのカスタムイヤホンはモデル番号が数字で示されていますが、それぞれに意味があります。333とは3Way、3ユニット、3ドライバー(レシーバー)という意味です。これはたとえばWestone3のように3Wayであってもハイとミッドがひとつのユニット(TWFK)で兼ねられている場合もあるからです。つまりWestone3ならば須山さん流に言うと323、ES3Xは333となります。JH13は336ということになりますね。

使用感について

フィットはわたしがいままで試したUE11/ES3X/Freq show/Sleek customのすべての中でベストだと思います。
わたしはすべての耳型は須山さんのところで取っています。つまり個体は厳密には違いますが、ほとんど耳型自体はすべて同じようなものでした。それを考えると須山カスタムのレベルの高さは伺えます。

333a.jpg

333はぴったりと耳に吸い付くようにはまり、動いてもずれません。また、遮音性もきっちりしています。耳型を同じところで取っていても、シェルの製作に違いがあるのは興味深いと思います。シェル自体もJH13のように気泡がはいることなく、きれいなものです。
小さめのシェルはコンパクトで良く、取り外すときは耳下に親指の爪をかける切れ込みがあるという点もなかなか細かい工夫です。下の写真で指をかけているところです。

333b.jpg

また333の特徴は音の出るポートが3つ別にドライバーごとに分かれていることです。それも上の写真でよく分かると思います。
他のほとんどのカスタムは3Wayであってもポートは2つです。シェルの出来のよさとあわせてこの辺は須山カスタムの造形におけるアドバンテージがあります。

ケーブルに関してはちょっと取り回しに困り、わたしのものはメモリワイヤがないのも少し不便ですがこの辺はまだ改良されると思います。

333e.jpg     333f.jpg


音質について

全体的な音の印象は忠実性というよりは演出感を重視して、あくまで正しく音楽をモニターするというよりは、楽しく音楽を聴くということを重視しているようです。
高い音を中心に繊細で音色がきれいな華やかさと、強調間のある低域を中心としたダイナミックなインパクトも兼備えてある、という感じです。きれいなシェル造形のように、音の透明感もなかなか高いと思います。

この他に333で感じるもうひとつの音の特徴としては重なり合う立体感
のある空間表現が特徴的だということです。音と音の重なりが絡み合う様が明確に分かり、音の混濁感がありません。
音場の横の広さはUE11ほど広くはないけれども、この独特の立体感で空間表現が豊かに聞こえます。
ここは3ポートの効果なのか、他の高性能機にはない独自の良さだと思います。複雑な音の波をうまくさばくのが得意という感じで、高性能なアンプと組み合わせると、複雑に絡み合う音の再現に感銘します。

基本的な性能面でもなかなかよく、解像感は上から下までかなり高く感じられます。ウッドベースのテストとなる前に書いたhandsでもベースの音は生々しく、楽器だけでなく背景のプレイヤーの息遣いも細かくうき彫りにします。
高域の繊細さはかなり高く、ベルの音のきれいに伸びた響きは鮮明です。きつさはP-51では気になりませんが、シャープさがあるので聴くほうの環境にもよるかもしれません。


前述したように低域は強調されていますが、これはコンシューマー向けとして意図的なものでしょうし、ロックなどのインパクトには寄与しています。たとえばJH13のように正確性優先なタイプだとロックポップでものたりないところは333では過不足なく感じられます。
強調されているといっても、ジャズトリオの軽快さを損なうようなこともありません。またインピーダンスの違いかJH13などに比べると特に低域で緩めに感じられるところはあります。
アンプについてはUE11ほど依存されるわけではありませんのでiPod単体でもわりと悪くはありませんが、P51のようなアンプをつけるとドラムの音の締まりが見違えるようによくなりリズムのきざむ小気味よさが大きく改善されます。

J-Popのような音学は得意で、今風の複雑なアレンジで音が複雑に絡んでいても、混じらずに整理して楽曲の構造が見えやすく、低域のパワフルさがあり音楽にノリよく没入できます。
全体にポップ、ロック向けに上手くチューニングされているが、いろんなジャンルにもあうようにバランスよく設計されているところもあります。全体的なレベルも他社の高性能機と比較できるようなものを持っています。
きれいな繊細さと技巧的な複雑さ、それにダイナミックさを兼ね備えています。特にP-51とSXCケーブルとの組み合わせでは華やかで演出的なきらびやかさを堪能できます。
アンプはやはり低インピーダンス傾向のようなのでUE11と似てP-51、ALO SXCとiModがわたしは好みです。ただUE11ほどはアンプ依存がないので、DAP直でも楽しめると思います。

333c.jpg

きれいなシェル造形、指かけや3つの独立ポートなど日本製らしい芸の細かさもありますし、音の傾向もPrivateというプロではなくコンシューマー向けとしてよく考えられています。
ちなみにFit-Earのページは最近リニューアルされて、こちらのアドレスです。
http://fitear.jp/music/
須山さんのカスタムはまだ正式発売という形を取っていませんので、興味のある方はこちらから問い合わせください。
posted by ささき at 21:32 | TrackBack(0) | __→ 須山カスタム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする