ES80はWestoneの新しいフラッグシップとなるカスタムイヤフォンで、W80同様に8つのドライバーを採用しています。それぞれ4つが高音域、2つが中音域、2つが低音域を担当する3Way方式です。
W80同様にALOの高品質ケーブルが付属するところもポイントです。本稿ではWestoneの音質の「ゴッドファーザー」である先日来日したカールとクリスのカートライト兄弟のインタビューを交えて、ES80とWestoneのカスタムIEMを解説、レビューしていきます。
カートライト兄弟(WestoneのWサインを出しています)
カールとクリスのカートライト兄弟は陽気で面白く、なかなか会話がはずみます。
関連レビューは下記のものがあります。
Westone W80
Westone ES60
テックウインドさんのWestoneホームページではES80について、「高域のドライバーが4基になったことでさらに明瞭な高域を得られ、またステージ上のミュージシャンの望むダイナミックな低域を維持しながら、高音域のディテールを提供している」とあります。
本稿ではES80を解き明かすため、まずこの解説内容を詳しく補足する形で、カートライト兄弟へのインタビューから始めます。
* ES80設計のポイント
まず「ES80の開発のポイントはどこか」という点についてカートライト兄弟に聴いてみました。
これについてまずカール・カートライトが答えると、まずW80では空間表現とハーモニックコンテントを出したいというところに焦点を当てていたということです。(W80のレビューを参照してください)
兄のカール・カートライト(主に音決め)
カール・カートライトが言うにはES80ではドライバーのコンビネーションを考えるうえでクロスオーバーデザインでは振り出しに戻る必要があったということです。ひとつにはW80の評価がとても高くて、みながそのESバージョンを聴きたいという要望が強かったということ、そしてもうひとつはカスタムIEMはミュージシャン向けであるため、コンシューマー向けのW80とはおのずと異なるということです。
カスタムではオーディオファイルというだけではなくミュージシャンの要件を満たす必要があるというのは、ひとつにはダイナミックレンジの要件を満たすということで、例えばだれかかバスドラを強く打った時に、低域ドライバーが音のエネルギーを保ったまま音を生かして(歪まずに)再現しなければならないことを意味しています。
私のES80をいじる弟のクリス・カートライト(主に構造設計)
これはなぜかというと、ステージ上で自分たちの音を聴く場合には我々音楽愛好家がすでにマスタリングされているアルバムの曲を聴くのと違って、音圧の差が大きいからということです。このためES80では中音域と高音域を等しく保つことに苦心したそうです。これはつまり(マスタリングされていない生の音の)ライブの音の影響は低域と中高域では違うため、(マスタリングされた音に適したコンシューマー向けの)W80での設定はES80ではうまく働かなかったということです。そのため、クロスオーバーと音導管の集中するアコースティックカプラー部分を再設計したということです。
彼らはよく紙に書いて説明してくれます
アコースティックカプラー部分の設計は音管の長さ、太さとともに位相をそろえるために必要であり、それは音楽が録音された空間(スタジオ)の反響までの時間の大小(ディケイ)を再現するのに必要で、ハーモニックコンテントの再現のポイントの一つとなるということです。
このようにES80ではW80と同様のハーモニックコンテント(端的に倍音再現)に加えて、プロ用という観点からダイナミックレンジの確保にも設計のポイントがあったことがうかがえます。
* ES80の音のインプレッション、「音の凄み」
ES80はプロ用のカスタムなので化粧箱ではなくケースに入って送られてきます。
W80で好評だったALOケーブルも付属されているのがES80の魅力の一つです。これは音質レベルをさらに高めてくれます。
ES60では人の声の鮮明さに感嘆したけれども、ES80では「色彩感・音色」の描き分けが優れているという点で感嘆します。楽器の音色表現のリアルさではカスタムの中でも随一ではないかと思います。これはW80でも良かった点ですが、より洗練されてかつ自然に聞くことができます。ES80でSP1000 SSとCPを聴き比べると、金属の違いだけでこんなに音が違うということに驚いてしまいます。
伊福部昭の琴とピアノだけの器楽曲があるんですが、ずっとこのシンプルな音楽に聴き入ってしまいました。楽器の音を聴いているだけで心地よくなるのです。これはカートライト兄弟の言うハーモニックコンテントの再現、そしてES80では特にダイナミックレンジの改良によってオーディオを聴く側にとってもより自然な音が聞くことができるということも関連しているように思えます。
ベルが鳴り響く音楽をSP1000 SSで聴いてみると、一瞬どこから音が鳴っているんだろうと、耳の錯覚を感じてしまうほどです。次に低い音の電子音がそれにかぶさると、今度は地鳴りのように響いてくる音に恐ろしさすら感じます。ただ音がスケール感があるというだけではなく、SP1000でのこの音の立体感はこのクラスでもかなり優秀な方と思います。次に女性ヴォーカルに切り替わると、目の前にシンガーがいるかのような自然な音楽を聴くことができます。
こうしたまるでDSPで行うような感覚を純粋にアコースティックに行うというのも、ES80の優れた点だと思います。
カートライト兄弟がいうには、W80での目的は達成したが、この先を考えるともっと低域を増やす言うのでもなく、ドライバーを増やすのではなく、もっと楽器の音色を正確に再現したいというのが目標となったということです。
その目標というのはたとえば音楽を聴くときに鳥肌が立つというようなもので(ここでカールはとても科学的だろ?と冗談)、言い換えると音楽の情熱を伝えるというようなものです。それはプレスリーの時代の音楽も電子音楽もひとしく時代と空間を再現するというものです。
それには音楽が録音された空間(スタジオ)の反響までの時間の大小(ディケイ)を再現するのに必要で、ハーモニックコンテントの再現のポイントの一つとなるということです。
この実現には特に高音域ドライバーが重要だが、単に高域を上げると疲れてしまい倍音に逆に鈍くなってしまう。そこでドライバーの音自体を生かす、音のエネルギーを取り出すというところが重要だそうです。
解像力が恐ろしく高くシャープなのにSP1000SSで聴いてもきつさをあまり感じさせないのもWestoneらしい音だと言えます。単に正確と言ってもドライなわけではなく美しいのもWestoneならではです。
カートライト兄弟にふつうBAだけの音はドライになりがちだがWestoneでは暖かみさえ感じられるのはなぜかと聞いてみたところ、やはり音導管の太さ長さやクロスオーバーでチューニングしてそのようにしているということです。
解像度とか周波数特性というほかに、そうした「感覚的なすごみ」に踏み込んでいる音の良さがES80の良さと言えるのではないかと思います。
* ES60からES80への「深化」
次に実際に音が具体的にES60からどう進化したかということを聴くために同じALOのケーブルでES60とES80を試聴しました。これはまずAK380+AMPで比較しました。ES80のほうがやや能率が低いので音量合わせが必要(AKの目盛りで5-6程度)でした。
比較すると、ES60のほうが中高域は強調気味でシャープかつやや薄味、ES80は自然に豊かに濃く聞こえます。ES80は澄んで伸びていく中高域のように聴こえます。バロックバイオリンの倍音豊かな響き・音色はやはりES80のほうがよくわかります。ここにもハーモニックコンテントの目指したところがわかるでしょう。
低域表現もES60のほうが強調されて大きめです(言い換えるとコンシューマライク)。ES80はそれ自体は量は十分あるのですが、より抑えめです。
ジャズヴォーカル曲を聴いてみると、音の自然さがES80では抜きんでいて、ダブルベースは前に出すぎずに適度な位置を保っています。ES60ではベースの強調感があって少し目立ちます。この辺にES80のもうひとつのテーマである(特に低域方向での)ダイナミックレンジの拡大が感じられます。ES80での低域は強さというよりも深みに重点がおかれているようにも思えます。
左がES60、右がES80
ヴォーカルではES80のほうが艶があって、女声であればより官能的に聞こえる感じで、暖かみのある艶っぽさが感じられます。厚みのある豊かな肉声という感じですね。ES60では前回のレビューでも書いた独特のクリアさ・明瞭感があって発声がとてもはっきりと聴こえるのですが、やや艶っぽさに欠けて冷ややかに聞こえます(比較的ということですが)。これはアカペラを聴いた時により明確にわかります。ES80では音の自然で厚みのある再現度の高さが特徴で、ES60では各発声がより際立つクリアさが特徴です。
ここもやはりカートライト兄弟のインタビューにあったように、ES80では高域はきつくせず、低域も強すぎるとダイナミックレンジに入らなくなるため、ES60よりも高低の強調感は少なくなるように設計していると思います。
そのかわりに、より広いダイナミックレンジと、より豊かなハーモニックコンテントを持つような設計にしているのがES80だと思います。ES80では低域は抑え目のように感じられる反面で、地鳴りのような震えるほどの深みのある低域表現ができているのはハーモニックコンテントが低域にも聞いているのかもしれませんが、それはわかりません(インタビューの時に聞けばよかったかも)。
つまりES60に比べるとより自然で、豊かな音色、声色が分かるのがES80ということが言えると思います。
ES80
ES80とES60でのもうひとつ興味深い差はSP1000SS/CPのようにさらにひとレベル高い音再現力をもったDAPを使った時だと思います。SP1000はさらにAK380よりもよりハイエンドのDACを搭載しており、より細かでより高級感のある音再現ができますが、その「より細かで、より高級感のある」という部分を感じさせてくれるのはES80のほうです。ES60も独特のクリアさと打撃感の強さがありますが、ES80では説明しにくいような独特の空気感というべきハイエンドDAPの持つ豊かで厚みのある音楽の世界を再現してくれます。これはSP1000SSよりも音に深みのあるCPのほうでよりわかりやすい差となります。
これもカール・カートライトが言ったように「ES80では鳥肌が立つのが目標」という目標を満たしたように思えます。
私がES80ではベルの音が物理的なドライバーではなくどこか空間から聞こえてくるようだとカートライト兄弟に言ったら、それはまさしく目指していたことで、1956のプレスリーのライブであれ、デジタル録音であれ、壁を持った音響空間を再現したかったということを言っていました。
ES80
ES60とES80を比べるとやはり音の質感表現、忠実度、完成度という点ではES80のほうに軍配があがりフラッグシップらしい凄みを利かせてくれます。また一方で音の個性がES60とES80では違うという点もあります。これはクロスオーバーをはじめいちから設計し直したということもあるのでしょう。
カートライト兄弟のインタビューでもあったようにES80ではハーモニックコンテントという他にダイナミックレンジの改良がなされていて、抑えめの低域はそのポリシーに沿っているようにも思われます(低域が強すぎてゆがまないようにするため)。
ただしES60は(比較すると)よりコンシューマライクであり、独特のクリアさと高域と低域の強調感があります。組み合わせる機器によってはES60のほうが良いという人もいるかもしれません。一例をあげるとWestoneのBTワイヤレスアダプタにつけた時です。これではES80のもつハーモニックコンテントの強みがあまり発揮できない反面で、ES60の先鋭さと強調感が音を良く聴こえさせ、贅沢ではありますがとてもBluetoothで聴いているとは思えないような音再現を聴かせてくれます。
これらのことからES60を持っている人はそれに足してES80が欲しくなるかもしれません。
* W80からES80へ、カスタムならではの強み
もうひとつES80を聴いていて気が付いたのは、W60とES60が違うように(ES60のレビュー参照)、W80とES80もやはり違うということです。これは同じハーモニックコンテントというテーマを持っていても、やはりES80の方がよりよく優れた音再現を聴かせてくれます。Westoneはユニバーサルでは音質と快適性の両立が絶対条件だと語っていましたが、そのコンパクト縛りというリミッタを外したのがES80と言えるかもしれません。
そしてなによりも、ユニバーサルは万人に合う中庸の作りですが、カスタムはカートライト兄弟が自分のためにチューニングしてくれているということです。
カールが持っているのはW80、ES80と比べて説明しています
それを裏付けるため、直球でユニバーサルよりもカスタムのほうが良く聴こえるのはなぜか、とカートライト兄弟に聞いてみました。
カール・カートライトが言うにはまずそれはカスタムのほうがユニバーサルよりも大きいからであるということです。W80ではひとつしか音のでる穴がありませんが、ES80は2つあります。カスタムでは人それぞれの耳の形をとってそれに合わせた穴を設けるため、よりよく聴こえるということです。
クリス・カートライトはそれに続けて、ドライバーをコンマ・ミリミーター単位で動かして人それぞれの耳に正しい周波数特性が伝わるように調整するということを語ってくれました。
つまりカスタムというのは耳型に合わせて正しいフィットを得るというだけではなく、ドライバーを動かして人それぞれに合わせた調整をしてくれるというわけです。耳型の「耳の形」だけではなく、「音の形」も人に合わせるために、カートライト兄弟のような音のプロがワタシの耳に合わせて調整してくれるというわけです。(ここでカールとクリスが声を合わせて私のES80を持ちながら、これは君のためにやったんだよ、と言ってくれました)
これにはイヤーカプラーを使って調整器を使いながら行うそうです。それには人によって数分で済む場合もあるし、一時間(それ以上)もかけて行うときもあるということ。
つまりカスタムというのは、カートライト兄弟の考えるリファレンスの音があり、人の耳によってそれが違う風に聞こえるのを吸収するために、プロのカートライト兄弟が正しく音が聞こえるように個人に合わせたチューニングをするということです。人は右と左の差もあるので、それも同じになるようにチューニングするそうです。そのため位相や音のフォーカスもより正確になるのでしょう。
つまりユニバーサルよりもカスタムが音が良いというのはそういうことです。
ここで、ユーザーの好みによって低域を上げるとかヴォーカルを明瞭にという依頼はできるかと聞いてみたら、カールが言うにはそれは検討してみたがクロスオーバー回路の設計を一つごとに行わなければならないので見送ったということです。(ちなみにJust earはクロスオーバー回路はありません)
* Westoneのフレックスカナル
ES80を使うと耳に吸い付くフレックスカナルと、カスタムIEMの中でも抜きんでて優れている遮音性がよくわかります。遮音性が高いということはより細かな音がノイズに埋もれないで聴くことができるということです。Westoneの場合には本当に使用して歩くのは注意を要するので念のため。このフレックスカナルについてもカートライト兄弟に聴いてみました。
カートライト兄弟に聞いてみると、フレックスカナルは実のところカスタムIEMのために考案されたのではなく、それより前の補聴器時代のデジタル化される以前の時代に、こうしたフレックス素材を使っていたということ。理由は二つあり、ひとつはアナログ手法(音響)だけで難聴に対応する正しい周波数に合わせるためには確実な遮音が必要だったということ、もう一つは補聴器のマイクの干渉を防ぐためにも確実な遮蔽が必要だったからだそうです。これは1970年代から使っていたということ。(素材は多少変化しているそうです)
それからステージのミュージシャンのためにカスタムIEMを作るときに、ステージの環境はとてもうるさいのでフレックス・カナルを流用することを思いついたということです。
(前回の「イヤモニ初めて物語」参照)
これは口を開けて歌うときに耳の穴が変形するわけですが、それにも追従してきちんと低音を逃がさない働きがあるということです。
つまりフレックスカナルもWestoneならではの技術だということです。これも完全に手作りで製作をしているからできるそうです。いまの3Dプリント手法だとこれはできないだろうね、と言ってました。
* まとめ
これはいままで書いたことの繰り返しですが、「新開発のXXドライバーやZZテクノロジーを採用して高音質を目指した」、という言い方はWestoneではしません。
長い経験の歴史、補聴器から軍事分野までの広範な取り組み、膨大な人の耳のノウハウ、それをまとめあげるカートライト兄弟の手腕こそがWestoneの独自技術というものでしょう。Westoneならではのフレックスカナルもその歴史から生まれたものです。
ES80でカートライト兄弟の目指したものは、より豊かなハーモニックコンテント、ミュージシャン向けのダイナミックレンジ、リアルな空間再現などです。
それらはレビュー中に書いたように見事に結実していると思います。
カートライト兄弟は自分たちはとにかくそういう作りたい目標があってイヤフォンを作る利己的な設計者だが、聴いた人にそれを喜んでもらえれば幸いだ、と語っていました。
そうした彼らがまさに「自分のために」作ってくれる最高のカスタムIEM、ES80をぜひ試してみてください。
Music TO GO!
2017年12月26日
2017年12月04日
Westoneインタビュー、今後の新体制について
先日ヘッドフォン祭でWestoneのBlakeマネージャーが来日して、インタビューしました。そこで最近のWestoneの組織上の変化と、その影響について答えてくれました。
WestoneのMusic部門担当マネージャー、Blake氏
それによると、Westoneはいまや業界では世界最大であり、オーディオロジストへの供給でもアメリカ最大です。全ての領域に手が回らなくなってきたので音楽産業とヒアリングヘルスケアの二つに分社化(分社化は正確な言い方ではないかもしれませんが)したということです。Music部門とHearing Healthcare部門にわかれました。Military(パイロット用の耳栓など)はHearing Healthcare部門です。
これで我々の知ってるWestone(テックウインドさん扱いイヤフォンとイヤモニ)はMusic部門にとなって独立し、イヤフォンに特化しやすくなったということです。Blake氏はここを統括してみることになります。これによって前はBlakeさんは40%しか音楽分野にさけなかったが、いまは100%工数をさけるようになったそうです。
またMusicが独立したことにより「音のゴッドファーザー」カートライト兄弟はヒアリングケアから離れてイヤフォンに専念できることによって、よりイヤフォン開発に集中でき、権限も従来のシニアからチーフになったことでより強固になったということです。
またこれによって、カートライト兄弟は開発だけでなく製作も統括できるようになったため、かれらがカスタムについては一個づつ検品できるようになりました。これで音決めだけでなくトータルで製品の品質を高められるようになったわけです。
またユニバーサルも同様で、例えばBlakeさんがテックウインドさんのような世界のカスタマーの声を拾い上げ、それをカートライト兄弟がフィードバックしやすくなったということです。すでにこのアプローチはUM Proから始まっていて、品質向上に貢献しているということです。
一方で、ヒアリングケアと分離したといっても、その情報にはアクセスできるので、膨大なノウハウの蓄積というWestoneの長所も保てるということです。Westoneは膨大な耳型の蓄積があるため、ユニバーサルをコンパクトでかつ高音質に作れるわけです。
実際に"Comfortable(快適性)"と"Sound good(音が良いこと)"を両立するのがWestoneの目的でその両立なしでは製品を出さないということです。これはまた以前の記事で書いたように、音のカールと形のクリスの兄弟が密接に協力するからこそできることです
最後に次の製品はW90かW100かって聞くと、W1じゃないかとはぐらかし、ドライバー数ではないよと言っていました。そこで次はチャンバー方式かと水をむけると、また我々はすべての領域で研究してるよとはぐらかされました。Westoneって大きい会社だけになかなかそういうところは明かしてはくれません。
ただし上で書いたように今後はWestoneのリソースが一層オーディオ分野に集中されやすくなったので、製品は楽しみであると言えますね。
ちなみに上はジェネラルマネージャーのBlakeのカスタムです。これフレックスカナルがなく、なぜかというと撮影用にサウンドチューブを見やすくするためです。フェイスプレートもマグニファイ(拡大)・アクリルという素材で中が見やすくなってます。
WestoneのMusic部門担当マネージャー、Blake氏
それによると、Westoneはいまや業界では世界最大であり、オーディオロジストへの供給でもアメリカ最大です。全ての領域に手が回らなくなってきたので音楽産業とヒアリングヘルスケアの二つに分社化(分社化は正確な言い方ではないかもしれませんが)したということです。Music部門とHearing Healthcare部門にわかれました。Military(パイロット用の耳栓など)はHearing Healthcare部門です。
これで我々の知ってるWestone(テックウインドさん扱いイヤフォンとイヤモニ)はMusic部門にとなって独立し、イヤフォンに特化しやすくなったということです。Blake氏はここを統括してみることになります。これによって前はBlakeさんは40%しか音楽分野にさけなかったが、いまは100%工数をさけるようになったそうです。
またMusicが独立したことにより「音のゴッドファーザー」カートライト兄弟はヒアリングケアから離れてイヤフォンに専念できることによって、よりイヤフォン開発に集中でき、権限も従来のシニアからチーフになったことでより強固になったということです。
またこれによって、カートライト兄弟は開発だけでなく製作も統括できるようになったため、かれらがカスタムについては一個づつ検品できるようになりました。これで音決めだけでなくトータルで製品の品質を高められるようになったわけです。
またユニバーサルも同様で、例えばBlakeさんがテックウインドさんのような世界のカスタマーの声を拾い上げ、それをカートライト兄弟がフィードバックしやすくなったということです。すでにこのアプローチはUM Proから始まっていて、品質向上に貢献しているということです。
一方で、ヒアリングケアと分離したといっても、その情報にはアクセスできるので、膨大なノウハウの蓄積というWestoneの長所も保てるということです。Westoneは膨大な耳型の蓄積があるため、ユニバーサルをコンパクトでかつ高音質に作れるわけです。
実際に"Comfortable(快適性)"と"Sound good(音が良いこと)"を両立するのがWestoneの目的でその両立なしでは製品を出さないということです。これはまた以前の記事で書いたように、音のカールと形のクリスの兄弟が密接に協力するからこそできることです
最後に次の製品はW90かW100かって聞くと、W1じゃないかとはぐらかし、ドライバー数ではないよと言っていました。そこで次はチャンバー方式かと水をむけると、また我々はすべての領域で研究してるよとはぐらかされました。Westoneって大きい会社だけになかなかそういうところは明かしてはくれません。
ただし上で書いたように今後はWestoneのリソースが一層オーディオ分野に集中されやすくなったので、製品は楽しみであると言えますね。
ちなみに上はジェネラルマネージャーのBlakeのカスタムです。これフレックスカナルがなく、なぜかというと撮影用にサウンドチューブを見やすくするためです。フェイスプレートもマグニファイ(拡大)・アクリルという素材で中が見やすくなってます。
2017年09月05日
WestoneからワイヤレスアダプターとシングルBAイヤフォンのセット、WX登場
先日WestoneからBluetoothのワイヤレスアダプターが発売されました。iPhone7からイヤフォン端子がなくなったことで、Bluietoothの注目度が高まっていますが、このアダプタはMMCXのコネクタに汎用にイヤフォンを接続できるものです。
今回はそのアダプタにシングルBAドライバのIEMがセットになった「WX」が発売となります。9/12発売予定で、予定価格は23,000円です。アダプタ単体で実勢価格が19,800円くらいですから、お得なセットと言えます。
基本的な使い方は現行のBluetoothアダプタと同じで、Apt-Xにも対応しています。
持続時間は8時間ということでかなり長持ちです。BT4.0対応で10m届くと言うことで距離的には十分でしょう。エージングするときにとなりの部屋にこのワイヤレスアダプタをおいて音がうるさくないようにしたのですが、数メートルは余裕で届きます。身につけるものなのでIPX4防滴対応がなされています。
ケーブルはしなやかで平たいもので、首の後ろに回して、余りをチョーカーで締める方式です。
完全ワイヤレスほどではないけれど、かなり自由度はあります。左右分離の完全ワイヤレスではないので首の後ろに感触はありますが、私のように始終スマホ持ってると、手が自由ということがうれしいですね。
完全ワイヤレスだとまだ左右接続が音切れする問題がよくあるので、そうしたことが嫌いな人にも向いています。
本機はBT4.0対応なので電池残量はiOS9.0以降では通知センターとステータスバーで分かります。
都内をぐるっと回って実際に使ってみると音の途切れは場合によってごくまれに出ますが、おそらくWiFi干渉とかいう理由によるものだと思います。このアダプタ自体は優秀で、けっこうな距離届きますし、iPhoneを尻ポケットにいれたり、iPhone側もアダプタ本体側もアンテナ部分を手で覆ってみてもなかなか途切れません。
操作性も特に問題ないと思います。
ただ装着に関しては耳に回す方式(Shure方式というとカール兄弟に怒られそうですが)よりもストレートに入れるほうがネックバンド方式だと装着しやすいかなとは思います。
このタイプのBTのみ機はエージングしづらいのですが、電子部品が多いのでエージングした方がいいとは思います。
このモデルが良いところはなかなか音が良いところです。
低価格モデルという先入観を持っていたんですが、実際に音を聴いてみると、ちょっと驚くくらいには思ってたより音が良いというのが実感です。
シングルBAとは思えないくらい高い音から低い音までよく出てますが、イヤフォン部分はなにか従来モデルがベースになっているのかわかりませんが、BT部分になにかアンプのような電子機器があってそれが音質を高めているようにも思えますね。音の均一感の良さを考えるとこのアダプタに合わせてなんらかのチューニングをしているようにも思えます。
普段使いなら十分かと思えるくらい。立体感もわりといい感じです。イヤチップはStarだと少し腰高になるのでフォームのほうが良いと思います。
パンチもあってロック聴くにも良いし、Westoneらしい温かみも少しあって、Westoneファンも音に納得できるでしょう。
わたしだとiPhoneから直で聴きたいのはBandcampで新曲のチェックとか、この人がこういうの買ったのかとかSNS的側面でチェックしたいことが多いので、BTイヤフォンはそういう風にスマートフォンをカジュアルに使いこなす時に向いています。
イヤフォンとアダプタは分離することができ、BTアダプタとして他のイヤフォンと使うこともできるそうです(ただしその取り付けたイヤフォンについては保障外)。なのでこのBTアダプタが気になってた人は、付属イヤフォンのついたお得モデルとして買っても良いと思います。ただそういう意図で買ってもおそらくこのWXのまま使い続けてしまうのではないかというくらいには音にアダプタとの一体感があって満足できると思います。
今回はそのアダプタにシングルBAドライバのIEMがセットになった「WX」が発売となります。9/12発売予定で、予定価格は23,000円です。アダプタ単体で実勢価格が19,800円くらいですから、お得なセットと言えます。
基本的な使い方は現行のBluetoothアダプタと同じで、Apt-Xにも対応しています。
持続時間は8時間ということでかなり長持ちです。BT4.0対応で10m届くと言うことで距離的には十分でしょう。エージングするときにとなりの部屋にこのワイヤレスアダプタをおいて音がうるさくないようにしたのですが、数メートルは余裕で届きます。身につけるものなのでIPX4防滴対応がなされています。
ケーブルはしなやかで平たいもので、首の後ろに回して、余りをチョーカーで締める方式です。
完全ワイヤレスほどではないけれど、かなり自由度はあります。左右分離の完全ワイヤレスではないので首の後ろに感触はありますが、私のように始終スマホ持ってると、手が自由ということがうれしいですね。
完全ワイヤレスだとまだ左右接続が音切れする問題がよくあるので、そうしたことが嫌いな人にも向いています。
本機はBT4.0対応なので電池残量はiOS9.0以降では通知センターとステータスバーで分かります。
都内をぐるっと回って実際に使ってみると音の途切れは場合によってごくまれに出ますが、おそらくWiFi干渉とかいう理由によるものだと思います。このアダプタ自体は優秀で、けっこうな距離届きますし、iPhoneを尻ポケットにいれたり、iPhone側もアダプタ本体側もアンテナ部分を手で覆ってみてもなかなか途切れません。
操作性も特に問題ないと思います。
ただ装着に関しては耳に回す方式(Shure方式というとカール兄弟に怒られそうですが)よりもストレートに入れるほうがネックバンド方式だと装着しやすいかなとは思います。
このタイプのBTのみ機はエージングしづらいのですが、電子部品が多いのでエージングした方がいいとは思います。
このモデルが良いところはなかなか音が良いところです。
低価格モデルという先入観を持っていたんですが、実際に音を聴いてみると、ちょっと驚くくらいには思ってたより音が良いというのが実感です。
シングルBAとは思えないくらい高い音から低い音までよく出てますが、イヤフォン部分はなにか従来モデルがベースになっているのかわかりませんが、BT部分になにかアンプのような電子機器があってそれが音質を高めているようにも思えますね。音の均一感の良さを考えるとこのアダプタに合わせてなんらかのチューニングをしているようにも思えます。
普段使いなら十分かと思えるくらい。立体感もわりといい感じです。イヤチップはStarだと少し腰高になるのでフォームのほうが良いと思います。
パンチもあってロック聴くにも良いし、Westoneらしい温かみも少しあって、Westoneファンも音に納得できるでしょう。
わたしだとiPhoneから直で聴きたいのはBandcampで新曲のチェックとか、この人がこういうの買ったのかとかSNS的側面でチェックしたいことが多いので、BTイヤフォンはそういう風にスマートフォンをカジュアルに使いこなす時に向いています。
イヤフォンとアダプタは分離することができ、BTアダプタとして他のイヤフォンと使うこともできるそうです(ただしその取り付けたイヤフォンについては保障外)。なのでこのBTアダプタが気になってた人は、付属イヤフォンのついたお得モデルとして買っても良いと思います。ただそういう意図で買ってもおそらくこのWXのまま使い続けてしまうのではないかというくらいには音にアダプタとの一体感があって満足できると思います。
2017年01月16日
Westone W80・現行製品とカートライト兄弟のポリシー
カールとクリスのカートライト兄弟のインタビューではメインになったイヤモニ黎明期の話以外にもW80など製品話もカバーしました。また別ルームでWestoneのトークセッションも行われました。そうしてカートライト兄弟のインタビューやトークセッションを通じて彼らのサウンドポリシーを知った後でW80を聴いてみるとまた新たな興味を持つことができます。
本記事ではそうした意味でW80を聴き直したインプレと、インタビューやトークセッションでの現行製品の内容をカバーしたいと思います。
左からカール・カートライト、ハンク・ネザートン、クリス・カートライト
W80はコンパクトでプラスチック筺体という見た目がコンシューマーライクではありますが、羊の皮をかぶったオオカミと言うかW80は音的にはハイエンドイヤフォンの領域に入ると思います。それはやはりカール・カートライトいわく、ハーモニックコンテント(倍音)再現の追求というところが結実しているからでしょう。それは音色の細かな色彩感・グラデーションを緻密に表現して楽器音色の違いを明確にすることです。実のところW60とドライバーで大きく異なるのは高域くらいですが(クロスオーバーも別物)、W60とは別物に聴こえるくらい性能が良くなっています。
このように音色再現の細やかさが追及されたW80ではそれゆえALOの標準添付ケーブルが効果的に音質を高めてくれます。
W80,AK380
前は時間がなくてALOケーブルは軽く試したくらいだったのですが、改めてじっくり使ってみるとW80はALOケーブルで生きてくるというか、標準のepicだと物足りなさ感があります。伸びしろの大きいW80のポテンシャルの高さにまた驚かされる感じですね。ALOの付属ケーブルはタッチノイズがややあるのが残念ではありますが、音傾向はW80にあっていてエージングをたっぷりやるとWestoneらしい温かみもよくわかります。
W80がこれまでのシリーズと違う点はこのALOケーブルの標準添付のほかに箱が豪華になったというところもあります。こうしてW80がいままでのWestoneと少し違うように思えるのは、オーディオ系のマーケッティングの方針がよりアグレッシブに変わったからだそうです。ALOのケーブルを付属したのもこの新しい方針によるもので、これからのWestoneの打つ手もまた面白いものになっていくと思います。
ちなみにインタビューの時にW80の箱にカールさんの言葉が書いてますよね、とカールに行ったら「あー、あれねー」みたいに恥ずかしそうにしてました。
カール・カートライト
カール・カートライトはW80はW60の後継として一つの達成感があると述べています。W80で感銘するのはやはりW60でもすごいと思ったコンパクトな筐体にさらに2基の高域ドライバーを足してそのハーモニックコンテントの追求をしたという点です。これは別の記事でも書きましたが、まさにカールとクリスのカーへとライト兄弟の緊密さのたまものという感じで、機関銃を耳に刺したものから、二人でいっしょに作業して楽しみながら、これなら耳にはまると試行錯誤を重ねていくということです。
試作品はたくさん作成して、ファイナルプロトタイプをは2つに絞り、一つ目はクロスオーバーに独自性を加え、2つ目は無難にしたところ、やはり一番目のものが良かったのでこれが採用されたということ。
このようにW80で高域のドライバーを4つにした理由は高域の伸びを拡張することで、テーマであるハーモニックコンテント(倍音)を引き出すという狙いです。基音があって倍音があるわけで、倍音が加わることで楽器の音がわかることになるのが目的というわけですね。
手を叩いて、反響までわかるのが目標ということですが、実際に私がインタビューしたときも、カールにわたしが「W60でもコンパクトなのに音の広がりがすごいけど、さらにW80は音の広がりがすごいですね」と言ったら感極まった感じで感銘してくれて、「やった、やはりおれの狙い通りだった。そのコメントが実証してくれる。」と泣いてくれたということがありまして、W80の音質の良さというのはやはりそのハーモニックコンテントの追求という点に結実していると思います。
音質の他のWestoneの特徴はやはりコンパクトで装着感が良いことです。普通ハイエンドクラスのイヤフォンは2つとか3つの音導孔が空いていて、先端のノズル(ステム)の部分が太くなってしまい音はよくても装着性に難をきたすことが良くあります。しかしWestoneの場合は細いノズルにこだわっていて、耳のどこにも痛みがないものが作れたと言っています。
多ドライバのチューニングにも内部で彼らがブーツと呼んでいる部分(詳細は企業秘密ということ)のノウハウなど、多くのテクニックがあるようです。筺体設計的にW80のターゲットはW60のノズルであり、この細いノズルの形がウエストンの回答ということです。
クリス・カートライト
Westoneはイヤピースにもこだわりがあり、フォームもシリコンもWestoneオリジナルです。シリコンはクリスが作ったということです。シリコン(スターチップ)はオレンジの輪切りからインスピレーションを得たとか。フォームはうるさい環境に向いていますが、高域はやや犠牲になるということ。
W80, Oppo HA2SE
W80のチューニングは帯域特性もバランスよく、ワイドレンジで低域は膨らみはないけれども量感はたっぷりあって歯切れよく緩みがありません。下にもよく沈んでいきます。モニターにも使えそうな帯域特性と言えますね。
ちなみにWestoneイヤフォンの大まかな帯域特性の傾向は大きく3つあり用途で分けられます。UMシリーズは低域がやや多めでライブ用、Wはオーディオファイルやマスタリング向けでもっとフラット、カスタムのESはその中間くらいです。
ES60
カスタムの話をすると、ES60についてはW60とドライバーが同じなのにさらに音質が良くなっていますが、どうしてですかとカールに聞いたところ、カスタムであるES60はW60よりもサウンドチューブが長く引き回せるのでチューニングの自由度が高く、やりたいことができたということでした。
Westone 30
また日本限定品であるWestone 30についても聞いてみました。彼らはWestone 30のことはJ30と呼んでいました、コードネームなのでしょう。一番聞きたかったのはどの曲を聞いたかですがこれはJPOPやアニメの曲などで、アーティストはベビーメタルとかアジアンカンフージェネレーションなどということ。日本の曲は高音域がキラキラとしていることが特徴で、低域は抑えめと言っていました。こうした周波数的なものが開発ターゲットだったようです。
アンビエントモデルについては時間がなくてほとんど触れられなかったのですが、特殊ベントについては音質的なものよりもやはり外の音を聴くという点にターゲットがあったそうです。
日本の市場についてはみな真剣でまじめ、彼らのやることを真摯に受け止めてもらっていると好評価でした。これはどの海外の開発者に聞いても同じですが、日本市場は他をリードするパイロット的な役割を果たしていると考えられています。これもみな日本のユーザーの熱意のたまものだと思います。
本記事ではそうした意味でW80を聴き直したインプレと、インタビューやトークセッションでの現行製品の内容をカバーしたいと思います。
左からカール・カートライト、ハンク・ネザートン、クリス・カートライト
W80はコンパクトでプラスチック筺体という見た目がコンシューマーライクではありますが、羊の皮をかぶったオオカミと言うかW80は音的にはハイエンドイヤフォンの領域に入ると思います。それはやはりカール・カートライトいわく、ハーモニックコンテント(倍音)再現の追求というところが結実しているからでしょう。それは音色の細かな色彩感・グラデーションを緻密に表現して楽器音色の違いを明確にすることです。実のところW60とドライバーで大きく異なるのは高域くらいですが(クロスオーバーも別物)、W60とは別物に聴こえるくらい性能が良くなっています。
このように音色再現の細やかさが追及されたW80ではそれゆえALOの標準添付ケーブルが効果的に音質を高めてくれます。
W80,AK380
前は時間がなくてALOケーブルは軽く試したくらいだったのですが、改めてじっくり使ってみるとW80はALOケーブルで生きてくるというか、標準のepicだと物足りなさ感があります。伸びしろの大きいW80のポテンシャルの高さにまた驚かされる感じですね。ALOの付属ケーブルはタッチノイズがややあるのが残念ではありますが、音傾向はW80にあっていてエージングをたっぷりやるとWestoneらしい温かみもよくわかります。
W80がこれまでのシリーズと違う点はこのALOケーブルの標準添付のほかに箱が豪華になったというところもあります。こうしてW80がいままでのWestoneと少し違うように思えるのは、オーディオ系のマーケッティングの方針がよりアグレッシブに変わったからだそうです。ALOのケーブルを付属したのもこの新しい方針によるもので、これからのWestoneの打つ手もまた面白いものになっていくと思います。
ちなみにインタビューの時にW80の箱にカールさんの言葉が書いてますよね、とカールに行ったら「あー、あれねー」みたいに恥ずかしそうにしてました。
カール・カートライト
カール・カートライトはW80はW60の後継として一つの達成感があると述べています。W80で感銘するのはやはりW60でもすごいと思ったコンパクトな筐体にさらに2基の高域ドライバーを足してそのハーモニックコンテントの追求をしたという点です。これは別の記事でも書きましたが、まさにカールとクリスのカーへとライト兄弟の緊密さのたまものという感じで、機関銃を耳に刺したものから、二人でいっしょに作業して楽しみながら、これなら耳にはまると試行錯誤を重ねていくということです。
試作品はたくさん作成して、ファイナルプロトタイプをは2つに絞り、一つ目はクロスオーバーに独自性を加え、2つ目は無難にしたところ、やはり一番目のものが良かったのでこれが採用されたということ。
このようにW80で高域のドライバーを4つにした理由は高域の伸びを拡張することで、テーマであるハーモニックコンテント(倍音)を引き出すという狙いです。基音があって倍音があるわけで、倍音が加わることで楽器の音がわかることになるのが目的というわけですね。
手を叩いて、反響までわかるのが目標ということですが、実際に私がインタビューしたときも、カールにわたしが「W60でもコンパクトなのに音の広がりがすごいけど、さらにW80は音の広がりがすごいですね」と言ったら感極まった感じで感銘してくれて、「やった、やはりおれの狙い通りだった。そのコメントが実証してくれる。」と泣いてくれたということがありまして、W80の音質の良さというのはやはりそのハーモニックコンテントの追求という点に結実していると思います。
音質の他のWestoneの特徴はやはりコンパクトで装着感が良いことです。普通ハイエンドクラスのイヤフォンは2つとか3つの音導孔が空いていて、先端のノズル(ステム)の部分が太くなってしまい音はよくても装着性に難をきたすことが良くあります。しかしWestoneの場合は細いノズルにこだわっていて、耳のどこにも痛みがないものが作れたと言っています。
多ドライバのチューニングにも内部で彼らがブーツと呼んでいる部分(詳細は企業秘密ということ)のノウハウなど、多くのテクニックがあるようです。筺体設計的にW80のターゲットはW60のノズルであり、この細いノズルの形がウエストンの回答ということです。
クリス・カートライト
Westoneはイヤピースにもこだわりがあり、フォームもシリコンもWestoneオリジナルです。シリコンはクリスが作ったということです。シリコン(スターチップ)はオレンジの輪切りからインスピレーションを得たとか。フォームはうるさい環境に向いていますが、高域はやや犠牲になるということ。
W80, Oppo HA2SE
W80のチューニングは帯域特性もバランスよく、ワイドレンジで低域は膨らみはないけれども量感はたっぷりあって歯切れよく緩みがありません。下にもよく沈んでいきます。モニターにも使えそうな帯域特性と言えますね。
ちなみにWestoneイヤフォンの大まかな帯域特性の傾向は大きく3つあり用途で分けられます。UMシリーズは低域がやや多めでライブ用、Wはオーディオファイルやマスタリング向けでもっとフラット、カスタムのESはその中間くらいです。
ES60
カスタムの話をすると、ES60についてはW60とドライバーが同じなのにさらに音質が良くなっていますが、どうしてですかとカールに聞いたところ、カスタムであるES60はW60よりもサウンドチューブが長く引き回せるのでチューニングの自由度が高く、やりたいことができたということでした。
Westone 30
また日本限定品であるWestone 30についても聞いてみました。彼らはWestone 30のことはJ30と呼んでいました、コードネームなのでしょう。一番聞きたかったのはどの曲を聞いたかですがこれはJPOPやアニメの曲などで、アーティストはベビーメタルとかアジアンカンフージェネレーションなどということ。日本の曲は高音域がキラキラとしていることが特徴で、低域は抑えめと言っていました。こうした周波数的なものが開発ターゲットだったようです。
アンビエントモデルについては時間がなくてほとんど触れられなかったのですが、特殊ベントについては音質的なものよりもやはり外の音を聴くという点にターゲットがあったそうです。
日本の市場についてはみな真剣でまじめ、彼らのやることを真摯に受け止めてもらっていると好評価でした。これはどの海外の開発者に聞いても同じですが、日本市場は他をリードするパイロット的な役割を果たしていると考えられています。これもみな日本のユーザーの熱意のたまものだと思います。
2017年01月10日
バランスドアーマチュア・イヤモニはじめて物語 - Westoneカートライト兄弟のインタビューから
来日していたWestoneの音作りのキーパーソンである"ゴッドファーザー"カールと"テーラー"クリスのカートライト兄弟のインタビューを12月17日に行いました。
左: カール・カートライト 右:クリス・カートライト
はじめは一時間の予定でWestoneの歴史的なところと、W30やW80など新製品の話題など一通り質問するシナリオを用意していったんですが、はじめの歴史のところで私がとても興味ありそうにしていると見抜くや、イヤモニの黎明期の話だけで一時間半も話があり、たっぷりとこの時期の話を聞くことができました。
W80などの話はまたあとで時間を作ったりトークセッションでカバーしたりしたのですが、このイヤモニの黎明期の話がとても興味深く、なぜいまのイヤモニの標準的な形がカスタムシェル+BAドライバーの形式になったのか、そこにWestoneがどう関わっていったのかがよく分かったのでここを中心に本稿では書いていきます。
1. カートライト兄弟
まずカールとクリスのカートライト兄弟は双子でカールの方が11分だけお兄さんなのだそうです。この二人は1979年からWestoneで働いています。Westoneでは補聴器用のカスタムイヤピースを作るところから仕事を始めています。いまでは音楽分野だけではなく、通信(軍事・パイロット向け)関係にも携わっています。(ちなみにWestoneは1959年から聴覚関連の仕事をしている老舗メーカーです)
Westoneでの役割はカールが音決めでクリスが筺体設計と言われますが、実際はそうはっきり決まったものではなく、ひとつのチームとして一体で設計しているというほうが正しいようです。その関係はとても緊密なものです。カールがこういう音にしたいのでこういうプロトタイプ(線がはみ出していたり汚い)を作った、というとクリスはそれを受けてもっと筐体にドライバーを上手に詰めて現実的なものにしたり、その音をより上手に引き出すというようなことをします。実際に話を聴いていても話をリードしていくのはカールですが、クリスがそれを受けてフォローして器用に絵を描いて説明する、という具合にこの役割がよくわかります。
カール・カートライト
ふたりは子供のころからオーディオや音楽が好きで、ミュージシャンとしてもカールがベースでクリスがドラムを担当していたということで、カールは(ベースミュージシャンの多くがそうであるように)エンジニアもしていたということ。子供のころはみなのように部屋を共有していたのですが、オーディオ(ステレオ)も二人で一つだったが、メインで音を聴いていたのはカールで、その本体に絵をかいたりしてたのはクリスということ。
実際Westoneでもカールとクリスはやはり兄弟で競争心もあるので、どちらが何個カスタムイヤピースを作るかという競争をしたりしたそう。数えるのは25万個まで数えてやめたそうですが、これによってイヤピースの作り方にはかなり経験を積んだそうです。
2. カスタムイヤチップからクローズシェルへ
まずオーディオ界に起こった画期的な出来事はWalkmanの登場です。これでいままで肩にラジカセ担いでいたようなものが大きく変わりポータブルの時代となった。(Walkmanの登場は1979ですが、おそらくアメリカに入ったのはちょっとあと)
当時アメリカではエクササイズがはやっていて、イヤフォンが耳からずれるのが問題だったとのこと(Ollivia Newton Johnの“Let's Get Physical”を例に出してました)。これを解決するためにイヤフォンにはめるカスタムのイヤーチップを製作しました(1985)。
これは今で言うとWestone UM56のようなものです。これはペア$ 40〜50(当時)ということで、実際に補聴器屋さんを通して一般に販売したということ。これがWestoneの初めての音楽用の製品だそうです(ミュージシャンともつながりはなかった)。
クリス・カートライトとWalkman用イヤチップの絵
いままでWestoneは(補聴器メーカーなので)ベージュのものしかイヤーチップはなかったが、これはネオンタイプのカラフルなものも作ったそうです(これは補聴器業界としては画期的なことだったそう)。
このイヤピースはエクササイズのために始めたのですが、それが今度はスイミングでも使えないかということになり、そのために防水のため全体を覆う完全クローズのシェルになっていったということです。これがいまのクローズシェルを備えたカスタムIEMのはじまりと言えそうですが、当時はスイミングイヤピースと呼んでいたそうです(多少販売したそうです)。しかし中のドライバーはまだWalkmanの標準のダイナミックドライバーを使っていて音は良くなかったそう。
次に登場するのが缶詰工場です。あるとき缶詰工場の生産ラインの監督から相談があったそうです。缶詰工場はうるさいのでモトローラ製の通信機を指示に使うのだそうですが、これはダイナミックで音質は良くなかったそうです。しかし実際に完全クローズで作るとダイナミックでは(ベントがなく密閉されていると)低音が落ちて聞きにくくなってしまいます。
そこでスイミングイヤピースと補聴器の経験が使えるのではないかと考えたそうです。つまり補聴器のバランスドアーマチュアドライバーと、スイミングイヤピースのクローズシェルを組み合わせれば(ダイナミックには必要な)ベント穴も不要で完全クローズのモニターが作れるのではないかということです。
この辺でカスタムシェル+BAという図式が定まってきます。ただしまだ音楽用途ではありません。
3. ステージ用のカスタムイヤモニへの進化
そうしていくうちにビルクライスラーという音楽プロデューサーから相談がありました。彼はデフ・レパードとラッシュを手掛けていたんですが、デフレバードではフロアモニターの音をヴォーカルが自分の声が聞こえなくなっていたという問題がありました。それを解決するためにそのころすでにイヤーモニターを使っていたけれども、それは開放型のようなものだった。それを解決するためにBAを応用したクローズシェルのモニターをBAメーカーと共同で開発して、音楽特性にも向いたモニターを開発していったということです。(1990)
ラッシュはまた別の「遅延」の問題があったと言います。なにかというと、バンドもレッドツェッペリンなどの時代はステージが狭かったが、20年もたつとステージがとても広くなっていったということです。こうなるとたとえばドラマーがワン・ツー・スリーとカウントしても聴いているほうで遅延があるということ。このとき、足元にモニターがあればよいけれども、ミュージシャンは動くのでミリセカンド単位では遅延が起こるということ。
これはラッシュのように複雑・テクニカルなバンドではかなり問題となるそうです。それを解決するためにやはりこのクローズシェルとBAの組み合わせのイヤーモニターを応用したということです。
クリスの書いたステージの絵
しかしながら当時(1991年ころ)はこうしたイヤモニとレシーバーはとても高価で一人一人が持つとは考えにくく、市場が大きいとは思えなかったそう。カートライト兄弟も自分でも使うような趣味の延長としてとらえていて、Westoneが取り組むような市場があるとは思ってなかったとのことてです。
4. UE by Westoneの誕生
そのうちリーボディシステムというところから電話がありました(1995)。そこはVan Halenのツアーにモニター機材の貸し出しを行う会社でした。ツアーでVan Halenがイヤモニをよく飛ばしてしまうという(壊してしまう)という問題があり、そちらでDef LeppardやRushで使った解決策が使えないかということをワールドツアー前にエンジニアから電話していいかということでした。
そのエンジニアこそがJerry Harveyでした。そこでJerryとすぐに意気投合したそうです。
調べてみるとリーボディはガーウッドという会社のダイナミックドライバーのイヤモニ(と無線レシーバー)を使っていたんですが、それはダイナミックドライバーを使っていたためベントホールがあったそうです。そうするとベントから騒音が入ってきて音が聴き取りにくくなり、音量を上げて結果としてドライバーを飛ばしてしまうということが続いたそう。
これに対してWestone(カートライト兄弟)は二つの提案をし、ひとつはフェイスプレートを外せる方式にしてドライバーの交換を容易にするという方法、もう一つは根本的にドライバーをバランスド・アーマチュアにするという方法です。結局BAの導入によって飛ばすことがなくなりこのクローズシェルとBAの方式が成功したということ。
これ以降ジェリーハービーとカートライト兄弟が意気投合して友人となったということです。
これでクローズシェルとBAのイヤモニがビジネスになるということが分かり、ジェリーの提案で「Ultimate Ears by Westone」という会社をジェリーハービーとWestoneで共同で立ち上げたということです。ジェリーはミュージシャンとのつながりが強く、Westoneは資金力と技術があったのでこの関係はうまくいったということ。UEの初期製品であるUE1,2,3,5をこの枠組みで作っていったということです。
5. マルチドライバーへ
そのうちカールがジェリーと電話でブレインストーミングをした際にPAシステムのようなスピーカーみたいにイヤモニもマルチドライバーで作れるのではないかという思い付きをしたそうです。これはなにか問題を解決すると言うよりもスピーカーで出来ることはイヤモニでもできるのではないかという発想だったそう。ただし補聴器の世界では難聴には低域が聞こえない人や高域が聞こえない人などさまざまで、それに対しての解決策があるということもまた知っていたということです。それを発展させて作っていったということ。
ジェリーはこのとき低音域をダイナミック、高音域をBAというハイブリッドの提案をし、カールは高域も低域もBAを使うという提案をしたそう。カールとクリスで試作をしてみて結果として2BAタイプの方がよく、これがUE5となったようです。
6. Shureとの関係
Shureがジェリーにコンタクトをしてきて、ShureのPSM600というイヤモニの無線レシーバーの評価をしてもらったということ。Shureはダイナミックドライバーを使おうとしていましたが、WestoneがSHUREにステージでの使用はBAのほうが利点があると説明し、カールとクリスは二つのプロトを設計したということです。ひとつはShureから要求がありダイナミックバージョンと、もう一つはBAタイプです。後者が採用されてShure E1となります(1997)。
Westone UM1(旧タイプ)、Shure E1と見た目はほとんど同じだがロゴとカラーが異なる
このE1はNAMMに間に合わせるために時間がなく、ちょっと雑な外観となってしまったと述懐していました。これには2つの重要な点があります。ひとつは傾いた先端のチップ・ステムの部分です。これは耳にはまりやすい初の傾いたステムを持ったイヤモニだそう。もうひとつはこれによって、ケーブルを耳の後ろにかけられるようになったということです。そう、いまShureがけと言われる方式ですが、実際はカール&クリスがけと言うべきではというと笑ってました。販売したのはShureだけれども、作ったのはWestoneというわけです。
その後にデュアルドライバーのE5もカールとクリスが手掛けたそうです。ですのでShureもUEも初期のモデルはカールとクリスがJerryとのコラボレーションして設計していました。UEの製品(カスタムイヤモニ)とShureの製品(ユニバーサルフィット)は両方とも「by Westone」のタグライン(キャッチコピー)で両社から販売されました。
6. その後
その後はビジネスのことでもあり互いに距離を置いて、Westone、ジェリー(UE)、Shureとも独自の道・開発を行くようになります。
そして他のメーカーに供給していたWestoneも自分でブランドを持つようになり、これからが好きなようにやれて面白いんだとクリスが言っていたんですが、インタビューはさすがに時間が無くなりここまでとなりました。
右がWestone 3、左は10年後のWestone 30
ここからは我々の時代につながります。やがてShureがE5、UE(ジェリー)がTriple.fi 10 pro、そしてWestoneが初の3wayのWestone 3を出すというビッグ3の戦国時代となっていき、日本ではMusic To Goなるブログがそれらに刺激されて記事を書き、そしていまのイヤフォン全盛時代となっていきます。
この流れはテックウインドのホームページに年表にまとめて掲載されています。
とても興味深い話で面白いインタビューとなりました。Westoneのトークセッションに出ていた人も分かったと思いますが、とにかく話し出すと止まらない感じで、まずカールに聴くと話し出すと止まらず、クリスもあれはこうだったと乗ってきて絵を描きだして、ひとつの話題でどんどん膨らみだします。
Westoneは軍事関係にも携わる大きい会社だけあって硬いイメージでしたが、この二人と接するととても人間味があって面白い印象に変わると思います。ジェリーハービーがJH Audioの顔であり、モールトンがNobleの顔であるように、このカートライト兄弟もまたWestoneの顔となると思います。
インタビューのはじめにこれは聞きたいと思っていたのは、どうやったらWestoneではW60やW80のコンパクトなボディにあの6個も8個ものドライバーを詰めてかつハイエンドの音を達成できるのかということでした。これは結局聴かなかったんですが、時間がなかったというよりも、インタビューを聴いているうちにこのことは聞かなくてもよいと思えてきたからです。
この二人の仲良く緊密な連携、そしてこの長い経験があればこそ、この一見無理に見えることが可能になったのでしょう。
Westoneの音の良さの秘密というのはカールとクリスのカートライト兄弟によるもので、それゆえここが他社にはないWestoneの強みなのだと実感しました。
左: カール・カートライト 右:クリス・カートライト
はじめは一時間の予定でWestoneの歴史的なところと、W30やW80など新製品の話題など一通り質問するシナリオを用意していったんですが、はじめの歴史のところで私がとても興味ありそうにしていると見抜くや、イヤモニの黎明期の話だけで一時間半も話があり、たっぷりとこの時期の話を聞くことができました。
W80などの話はまたあとで時間を作ったりトークセッションでカバーしたりしたのですが、このイヤモニの黎明期の話がとても興味深く、なぜいまのイヤモニの標準的な形がカスタムシェル+BAドライバーの形式になったのか、そこにWestoneがどう関わっていったのかがよく分かったのでここを中心に本稿では書いていきます。
1. カートライト兄弟
まずカールとクリスのカートライト兄弟は双子でカールの方が11分だけお兄さんなのだそうです。この二人は1979年からWestoneで働いています。Westoneでは補聴器用のカスタムイヤピースを作るところから仕事を始めています。いまでは音楽分野だけではなく、通信(軍事・パイロット向け)関係にも携わっています。(ちなみにWestoneは1959年から聴覚関連の仕事をしている老舗メーカーです)
Westoneでの役割はカールが音決めでクリスが筺体設計と言われますが、実際はそうはっきり決まったものではなく、ひとつのチームとして一体で設計しているというほうが正しいようです。その関係はとても緊密なものです。カールがこういう音にしたいのでこういうプロトタイプ(線がはみ出していたり汚い)を作った、というとクリスはそれを受けてもっと筐体にドライバーを上手に詰めて現実的なものにしたり、その音をより上手に引き出すというようなことをします。実際に話を聴いていても話をリードしていくのはカールですが、クリスがそれを受けてフォローして器用に絵を描いて説明する、という具合にこの役割がよくわかります。
カール・カートライト
ふたりは子供のころからオーディオや音楽が好きで、ミュージシャンとしてもカールがベースでクリスがドラムを担当していたということで、カールは(ベースミュージシャンの多くがそうであるように)エンジニアもしていたということ。子供のころはみなのように部屋を共有していたのですが、オーディオ(ステレオ)も二人で一つだったが、メインで音を聴いていたのはカールで、その本体に絵をかいたりしてたのはクリスということ。
実際Westoneでもカールとクリスはやはり兄弟で競争心もあるので、どちらが何個カスタムイヤピースを作るかという競争をしたりしたそう。数えるのは25万個まで数えてやめたそうですが、これによってイヤピースの作り方にはかなり経験を積んだそうです。
2. カスタムイヤチップからクローズシェルへ
まずオーディオ界に起こった画期的な出来事はWalkmanの登場です。これでいままで肩にラジカセ担いでいたようなものが大きく変わりポータブルの時代となった。(Walkmanの登場は1979ですが、おそらくアメリカに入ったのはちょっとあと)
当時アメリカではエクササイズがはやっていて、イヤフォンが耳からずれるのが問題だったとのこと(Ollivia Newton Johnの“Let's Get Physical”を例に出してました)。これを解決するためにイヤフォンにはめるカスタムのイヤーチップを製作しました(1985)。
これは今で言うとWestone UM56のようなものです。これはペア$ 40〜50(当時)ということで、実際に補聴器屋さんを通して一般に販売したということ。これがWestoneの初めての音楽用の製品だそうです(ミュージシャンともつながりはなかった)。
クリス・カートライトとWalkman用イヤチップの絵
いままでWestoneは(補聴器メーカーなので)ベージュのものしかイヤーチップはなかったが、これはネオンタイプのカラフルなものも作ったそうです(これは補聴器業界としては画期的なことだったそう)。
このイヤピースはエクササイズのために始めたのですが、それが今度はスイミングでも使えないかということになり、そのために防水のため全体を覆う完全クローズのシェルになっていったということです。これがいまのクローズシェルを備えたカスタムIEMのはじまりと言えそうですが、当時はスイミングイヤピースと呼んでいたそうです(多少販売したそうです)。しかし中のドライバーはまだWalkmanの標準のダイナミックドライバーを使っていて音は良くなかったそう。
次に登場するのが缶詰工場です。あるとき缶詰工場の生産ラインの監督から相談があったそうです。缶詰工場はうるさいのでモトローラ製の通信機を指示に使うのだそうですが、これはダイナミックで音質は良くなかったそうです。しかし実際に完全クローズで作るとダイナミックでは(ベントがなく密閉されていると)低音が落ちて聞きにくくなってしまいます。
そこでスイミングイヤピースと補聴器の経験が使えるのではないかと考えたそうです。つまり補聴器のバランスドアーマチュアドライバーと、スイミングイヤピースのクローズシェルを組み合わせれば(ダイナミックには必要な)ベント穴も不要で完全クローズのモニターが作れるのではないかということです。
この辺でカスタムシェル+BAという図式が定まってきます。ただしまだ音楽用途ではありません。
3. ステージ用のカスタムイヤモニへの進化
そうしていくうちにビルクライスラーという音楽プロデューサーから相談がありました。彼はデフ・レパードとラッシュを手掛けていたんですが、デフレバードではフロアモニターの音をヴォーカルが自分の声が聞こえなくなっていたという問題がありました。それを解決するためにそのころすでにイヤーモニターを使っていたけれども、それは開放型のようなものだった。それを解決するためにBAを応用したクローズシェルのモニターをBAメーカーと共同で開発して、音楽特性にも向いたモニターを開発していったということです。(1990)
ラッシュはまた別の「遅延」の問題があったと言います。なにかというと、バンドもレッドツェッペリンなどの時代はステージが狭かったが、20年もたつとステージがとても広くなっていったということです。こうなるとたとえばドラマーがワン・ツー・スリーとカウントしても聴いているほうで遅延があるということ。このとき、足元にモニターがあればよいけれども、ミュージシャンは動くのでミリセカンド単位では遅延が起こるということ。
これはラッシュのように複雑・テクニカルなバンドではかなり問題となるそうです。それを解決するためにやはりこのクローズシェルとBAの組み合わせのイヤーモニターを応用したということです。
クリスの書いたステージの絵
しかしながら当時(1991年ころ)はこうしたイヤモニとレシーバーはとても高価で一人一人が持つとは考えにくく、市場が大きいとは思えなかったそう。カートライト兄弟も自分でも使うような趣味の延長としてとらえていて、Westoneが取り組むような市場があるとは思ってなかったとのことてです。
4. UE by Westoneの誕生
そのうちリーボディシステムというところから電話がありました(1995)。そこはVan Halenのツアーにモニター機材の貸し出しを行う会社でした。ツアーでVan Halenがイヤモニをよく飛ばしてしまうという(壊してしまう)という問題があり、そちらでDef LeppardやRushで使った解決策が使えないかということをワールドツアー前にエンジニアから電話していいかということでした。
そのエンジニアこそがJerry Harveyでした。そこでJerryとすぐに意気投合したそうです。
調べてみるとリーボディはガーウッドという会社のダイナミックドライバーのイヤモニ(と無線レシーバー)を使っていたんですが、それはダイナミックドライバーを使っていたためベントホールがあったそうです。そうするとベントから騒音が入ってきて音が聴き取りにくくなり、音量を上げて結果としてドライバーを飛ばしてしまうということが続いたそう。
これに対してWestone(カートライト兄弟)は二つの提案をし、ひとつはフェイスプレートを外せる方式にしてドライバーの交換を容易にするという方法、もう一つは根本的にドライバーをバランスド・アーマチュアにするという方法です。結局BAの導入によって飛ばすことがなくなりこのクローズシェルとBAの方式が成功したということ。
これ以降ジェリーハービーとカートライト兄弟が意気投合して友人となったということです。
これでクローズシェルとBAのイヤモニがビジネスになるということが分かり、ジェリーの提案で「Ultimate Ears by Westone」という会社をジェリーハービーとWestoneで共同で立ち上げたということです。ジェリーはミュージシャンとのつながりが強く、Westoneは資金力と技術があったのでこの関係はうまくいったということ。UEの初期製品であるUE1,2,3,5をこの枠組みで作っていったということです。
5. マルチドライバーへ
そのうちカールがジェリーと電話でブレインストーミングをした際にPAシステムのようなスピーカーみたいにイヤモニもマルチドライバーで作れるのではないかという思い付きをしたそうです。これはなにか問題を解決すると言うよりもスピーカーで出来ることはイヤモニでもできるのではないかという発想だったそう。ただし補聴器の世界では難聴には低域が聞こえない人や高域が聞こえない人などさまざまで、それに対しての解決策があるということもまた知っていたということです。それを発展させて作っていったということ。
ジェリーはこのとき低音域をダイナミック、高音域をBAというハイブリッドの提案をし、カールは高域も低域もBAを使うという提案をしたそう。カールとクリスで試作をしてみて結果として2BAタイプの方がよく、これがUE5となったようです。
6. Shureとの関係
Shureがジェリーにコンタクトをしてきて、ShureのPSM600というイヤモニの無線レシーバーの評価をしてもらったということ。Shureはダイナミックドライバーを使おうとしていましたが、WestoneがSHUREにステージでの使用はBAのほうが利点があると説明し、カールとクリスは二つのプロトを設計したということです。ひとつはShureから要求がありダイナミックバージョンと、もう一つはBAタイプです。後者が採用されてShure E1となります(1997)。
Westone UM1(旧タイプ)、Shure E1と見た目はほとんど同じだがロゴとカラーが異なる
このE1はNAMMに間に合わせるために時間がなく、ちょっと雑な外観となってしまったと述懐していました。これには2つの重要な点があります。ひとつは傾いた先端のチップ・ステムの部分です。これは耳にはまりやすい初の傾いたステムを持ったイヤモニだそう。もうひとつはこれによって、ケーブルを耳の後ろにかけられるようになったということです。そう、いまShureがけと言われる方式ですが、実際はカール&クリスがけと言うべきではというと笑ってました。販売したのはShureだけれども、作ったのはWestoneというわけです。
その後にデュアルドライバーのE5もカールとクリスが手掛けたそうです。ですのでShureもUEも初期のモデルはカールとクリスがJerryとのコラボレーションして設計していました。UEの製品(カスタムイヤモニ)とShureの製品(ユニバーサルフィット)は両方とも「by Westone」のタグライン(キャッチコピー)で両社から販売されました。
6. その後
その後はビジネスのことでもあり互いに距離を置いて、Westone、ジェリー(UE)、Shureとも独自の道・開発を行くようになります。
そして他のメーカーに供給していたWestoneも自分でブランドを持つようになり、これからが好きなようにやれて面白いんだとクリスが言っていたんですが、インタビューはさすがに時間が無くなりここまでとなりました。
右がWestone 3、左は10年後のWestone 30
ここからは我々の時代につながります。やがてShureがE5、UE(ジェリー)がTriple.fi 10 pro、そしてWestoneが初の3wayのWestone 3を出すというビッグ3の戦国時代となっていき、日本ではMusic To Goなるブログがそれらに刺激されて記事を書き、そしていまのイヤフォン全盛時代となっていきます。
この流れはテックウインドのホームページに年表にまとめて掲載されています。
とても興味深い話で面白いインタビューとなりました。Westoneのトークセッションに出ていた人も分かったと思いますが、とにかく話し出すと止まらない感じで、まずカールに聴くと話し出すと止まらず、クリスもあれはこうだったと乗ってきて絵を描きだして、ひとつの話題でどんどん膨らみだします。
Westoneは軍事関係にも携わる大きい会社だけあって硬いイメージでしたが、この二人と接するととても人間味があって面白い印象に変わると思います。ジェリーハービーがJH Audioの顔であり、モールトンがNobleの顔であるように、このカートライト兄弟もまたWestoneの顔となると思います。
インタビューのはじめにこれは聞きたいと思っていたのは、どうやったらWestoneではW60やW80のコンパクトなボディにあの6個も8個ものドライバーを詰めてかつハイエンドの音を達成できるのかということでした。これは結局聴かなかったんですが、時間がなかったというよりも、インタビューを聴いているうちにこのことは聞かなくてもよいと思えてきたからです。
この二人の仲良く緊密な連携、そしてこの長い経験があればこそ、この一見無理に見えることが可能になったのでしょう。
Westoneの音の良さの秘密というのはカールとクリスのカートライト兄弟によるもので、それゆえここが他社にはないWestoneの強みなのだと実感しました。
2016年10月13日
待望のWestoneの新フラッグシップ、W80レビュー
"Harmonic content is what defines the sound of an instrument, and that was the goal with W80"
- Karl Cartwright
W60の発売いらい2年ぶりとなる待望のWestoneのユニバーサルIEM新ハイエンドモデルが発表されました、Westone W80です。W60とほぼ同じコンパクトな筺体にさらに強力な8ドライバーを採用したハイエンドイヤホンで、「Signature」シリーズではW60の上のトップモデルとなります。
店頭発売開始日は10月22日、予約受付開始日は10月15日です。 価格はオープンですが、市場想定価格は217,800円(税込)ということです。
本記事はW80のプリプロダクションモデルを使用していますので、製品版では変更があるかもしれないことを念のため書いておきます。
* W80の特徴
- 8ドライバ構成
高域・中域・低域がそれぞれBA2基のW60に対して、W80では高域が4基となります。 つまり8ドライバ構成で3Wayです。この4つの高域ドライバーにより、20kHzを超えても淀みない特性を実現したということです。BAドライバを複数配置する点は一基に対しての負荷を減らすことでドライバーの性能が向上するということがあげられます。
- Westone 独自の「クライオ処理」を施した「Westone byALO プレミアムケーブル」を同梱
箱を開けると標準ケーブルは従来通りのリモコンの付いた細いものがついていますが、ポーチの中にALOの見た目も豪華な高級ケーブルが入っています。
これはALO製のReference 8というタイプで8芯導体の本格的な交換ケーブルです。使ってみると8芯なのにしなやかで扱いやすいのも特徴です。またWestoneの端子は独特の深いMMCXプラグなので、いままでMMCXの互換リストにWestoneはありませんでした。つまりこれは特注品と言うことになりますね。いわば純正で高音質ケーブルにリケーブルができるということになります。
追記: ALOのKenさんに聞いたところ、MMCX端子側は標準品のReference 8と同じだそうです。
ただし、プレーヤー端子側が異なるということです。
(ちなみにWestoneのカスタムIEMオーダーで極細ケーブルを指定するとEstron LinumケーブルがきますがこれもWestone向けの特注MMCX端子になっています)
- 今までのWシリーズとは一線を画したパッケージ
今回パッケージを見て驚いたのは従来のWシリーズの小さな箱とは異なって、箱が豪華で大きいということです。外箱を上下にスライドさせるとオレンジの内箱が現れ、その中にこれもまた大きなケースが入っています。
これはプレーヤーや小物などのアクセサリーも収納可能な仕切り調整可能なバリスティックナイロン製ケースです。この中にさらにイヤホンのみ持ち歩くためのスモールケースとしてコンパクトなポーチがついていて、当初はその中にALOケーブルが入っています。このパッケージングから従来のSignatureシリーズとは別ものを感じさせます。
なおアクセサリーではフェースプレートでこれまでの 3 色(ガンメタリックシルバー、メタリックレッド、ゴールド)に加え、メタリック ブルーが追加され4色になっています。このメタリックブルーがW80の標準カラーです。
W60同様にたくさんのイヤチップがついていて自分の好みに合わせられるようになっています。ここも装着性を重視するWestoneらしいところです。
- コンパクトなシェルを継承
Westoneの良いところはカスタムにしろユニバーサルにしろ、装着性を重視しているところです。ユニバーサルシリーズではコンパクトな点も特徴で、W60ではそのコンパクトさをそのままに6ドライバーをつめたところに驚きましたが、W80ではほぼ1mm程度の違いのみのコンパクトさに8ドライバーを詰めています。実際に使ってみてもW60とは装着性がほとんど買わりません。試聴のさいに何回もW80とW60を取り換えましたけど、まったく違和感がなかったですね。
W60とW80
そうすると、もしかするとコンパクトさと音質を妥協したのではないかと勘繰る人もいるかもしれません。しかしながらそれを見透かすように、豪華なW80のパッケージの内箱にWestoneのサウンドマイスターであるカール・カートライトのサインが印刷されています。
"The Quality of the sound is the most important consideration. Without that first priority met, no other consideration is relevant"
「音質は最重要の設計項目だ。その実現なしに他の設計項目を考えるのは適切なことではない」
* カール・カートライト
カール・カートライトはWestoneのサウンドデザイナーであり、Westoneのイヤフォン設計のキーパーソンです。いままでは裏方のような存在でしたが、W30ではカール自らが日本向けに(日本の曲を聴きながら)チューニングしたことが書かれ、W80ではパッケージにもカールのサインと共にこの言葉が記されています。本来はWestoneのアイコン的な存在でもあるので表に出てきても良いように思えます。
ジェリー・ハービーを「イヤフォンの神様」、ジョン・モールトンを「魔法使い」と呼ぶならば、カール・カートライトは「ウエストンのゴッドファーザー」と呼ぶべきかもしれません。実際に社内でも「ゴッドファーザー」と呼ばれているとのことです。
Westoneのブログより、右がカールカートライト(左はサックスプレーヤーのMICHAEL LINGTON)
W60のときにカールにこのようなコンパクトサイズに6個ものドライバーを内蔵してさらに位相まで整えるためにはなにか工夫があったのではないかと聴きました。なにか特別な技術があるのではないかと思ったからです。
カールの答えは「根気強さ、実験検証、おおくのプロトタイプ、インスピレーション、そしてどのように進歩したいのかという明確な絵を描くこと。」ということでした。歴史と経験に裏付けれらたWestoneのサウンドマイスターらしい答えです。おそらく今回も聞いたならば同じ答えが返ってくるでしょう。
たしかな経験と、確固とした信念は上のW80のボックスに書かれた言葉からも感じられます。
そうして作られたのがW80です。
* W80の音
そのカール・カートライトの言葉を受けてW80の音を聴いてみました。
はじめはウェストン標準ケーブル(リモコン付き)で聴きました。AK380+AMPを使いました。
はじめの予想はW60の音の高音域を伸ばした感じだろうと思っていたんですが、W80を聴いてみてはじめに感じたのは音の厚み・スケール感がW60よりも豊かなことです。これはW60を聴きこんでいる人ならば比較はなくても分かるくらいの違いがあります。私もぱっと聴いて、これは違う、と気が付きました。これにより単にW80がW60を小改良したモデルではないということが感じられます。
W60のレビュー記事を前に書いた時にはやはりコンパクトな筐体でスケール感があるのに驚きましたが、W80はさらに上を行きます。W80からW60に同じケーブル、同じイヤチップで変えてみるとW60の音が薄く軽く感じられてしまいます。音空間もW80の方が余裕があり広く感じられます。
聴き進めて中高域で比較すると確かに中高域はW60よりも鮮明さが増していて、より明瞭感がありますが、最近国産でよくある「ハイレゾ対応モデル」のように不自然に高域が強くてきついということはありません。そのためあくまで自然に高域の鮮明さが感じられます。W80の高域4ドライバーは純粋に倍音表現に聴いて厚みを出しているというか、あるべき形なのかもしれません。
今までのウエストンサウンドに中高域をきらびやかにした感じではあると思いますが、W60よりもやや明るめには感じられます。
厚みや空間の広さはエージングしなくてもよくわかりますが、(ケーブル込みで)エージングが進むと立体感もよく描き出し、特に中高域でW60との解像力・明瞭感の差が大きくなっていきます。
この差は楽器音の鮮明さ・音色表現にあらわれ、音色表現もはっきりとわかるようになったと思います。弦楽器は鳴りが際立ち、ハープやピアノ、パーカッションでも音より鮮明に聴こえることで音色表現の差がW60よりもよくわかります。
全体的な印象は標準ケーブルでは暖かみがあって聴きやすいWestoneサウンドです。やはりなめらかで有機的な音で、音性能の高さがきつさではなく音楽の感動に直結するような鮮明さに結びついているのはさすがカール・カートライトというべきなのかもしれません。
スケール感のある、シネマティック・ドラマティックな曲にはひときわ優れています。たとえばいわゆるエピック系のReally Slow Motion のYou wil be this legendです。試聴で流し聴きしてたんですが、これは思わず止めて二回聞き返してしまいました。イヤフォンで音楽を良く聴かせてくれるという見本のようで、なかなか感動的に盛り上げてくれます。ここもW60に変えて聞き返したんですが、W60の音だとそこまで感動的には思えませんでした。やはりW60はよいんですけれども、W80は上の上を行くという言葉が当てはまると思います。それとスケール感・厚みの感覚でもやはりW80の方が豊かというだけでなく、さらによく整った音に聴こえます。
カールはW80について「W80が目指したものはW60の良さを引き継ぐことだけではなく、これまでにない臨場感という新たな美点を楽しめるようにした」と語っていますがそれも分かります。より細かな音表現、より広い音場、それが音楽を聴くと言うことに見事に結実しています。
ただ標準ケーブルだとウェストンらしい音楽性という点では十分文句ないのですが、クリアさやワイドレンジ感でW80の真価を生かすにはやはり物足りなくなってしまいます。そこで、次にALOの付属交換ケーブルを使用して聴いてみました。
ALOにすると高域も低域もワイドレンジで一段と音質は上がり、さきほどのW80の良いバランスの音からはバランスは大きく崩れない感じです。標準ケーブルからALOケーブルに変えると、ケーブルのおかけでがらっと印象が変わるのではなく、さきほどの個性のままクリアさ・透明感がぐっと向上し、高域がさらに鮮明に、低域がより深くなるという感じで個性的にはウェストンの音楽性を保ったまま性能が全域に高くなるという感じです。雰囲気が明瞭感が上がるので少し明るめになりますが、あいかわらずきつさはないように思います。
さきほどの標準ケーブルではあまり感じなかったが、ALOでひときわ感じられるようになったのはスピード感が出て楽器の音の切れ味が良くなるという点で、リズム感の良い曲では標準ケーブルの時よりも自然とタップを踏みたくなったり指で机をたたきたくなるようによくのれるようになります。
アクセサリーではW60で作ったカスタムイヤチップのUM56もそのまま使うことができます。これによってさらに音質を上げることもできます。
W80はWestone純正のBluetoothアダプターも役に立ちます。
たとえば今回実際にあったんですが、AK380+AMPで高音質でW80を楽しんでいるとき、同時にiPhone 7のストリーミングサービスのSNSでお気に入りのアーティストの新曲がアップされたというニュースを見たときに、すぐに聴きたいがW80をちょっとiPhone7につなぐことができないのがやはり不便ではあります。そこで、Bluetoothアダプタをバッグに入れておくとW80をBluetoothアダプタにつなぎ変えてiPhone7のストリーミングから新曲を聴くことができます。
* まとめ
W80はW60と同じ装着感のよいコンパクトなボディの中にW60よりも一段高いレベルの音を実現しています。音も音楽を気持ちよく再現するウエストン・サウンドを継承したうえで進化させたものとなっています。ALOのケーブルもWestoneの音と端子に合ったもので純正リケーブルのような付属品となっています。
カール・カートライトは「W80ではドライバー数が多くなっているが、数を増やすことが目的ではなく、より良い調和性を追求した結果である。」とも述べています。調和性(harmonic content)とはその楽器の特徴を明確にし、演奏した部屋の広さや反響音まで分かること、という意味のようです。
彼が言うには反響音や余韻の中に音の特徴が聴こえること、それで楽器の音を特徴づけると言うことがW80で目指したゴールであり、これが冒頭に書いたカールの言葉です。そしてそれはみごとに結実しているのではないかと思います。
「秋のヘッドフォン祭 2016」では Westone ブースを出展し、ブースでは「W80」を含む、Westone の全モデルを試聴できるということです。 また、本イベント内の 23 日(日)14 時〜 中野サンプラザ 7 階研修室 11 にて「Westone 新製品発表会」を開催するそうです。 ぜひこのカール・カートライトの新たな作品を試してみてください。
- Karl Cartwright
W60の発売いらい2年ぶりとなる待望のWestoneのユニバーサルIEM新ハイエンドモデルが発表されました、Westone W80です。W60とほぼ同じコンパクトな筺体にさらに強力な8ドライバーを採用したハイエンドイヤホンで、「Signature」シリーズではW60の上のトップモデルとなります。
店頭発売開始日は10月22日、予約受付開始日は10月15日です。 価格はオープンですが、市場想定価格は217,800円(税込)ということです。
本記事はW80のプリプロダクションモデルを使用していますので、製品版では変更があるかもしれないことを念のため書いておきます。
* W80の特徴
- 8ドライバ構成
高域・中域・低域がそれぞれBA2基のW60に対して、W80では高域が4基となります。 つまり8ドライバ構成で3Wayです。この4つの高域ドライバーにより、20kHzを超えても淀みない特性を実現したということです。BAドライバを複数配置する点は一基に対しての負荷を減らすことでドライバーの性能が向上するということがあげられます。
- Westone 独自の「クライオ処理」を施した「Westone byALO プレミアムケーブル」を同梱
箱を開けると標準ケーブルは従来通りのリモコンの付いた細いものがついていますが、ポーチの中にALOの見た目も豪華な高級ケーブルが入っています。
これはALO製のReference 8というタイプで8芯導体の本格的な交換ケーブルです。使ってみると8芯なのにしなやかで扱いやすいのも特徴です。またWestoneの端子は独特の深いMMCXプラグなので、いままでMMCXの互換リストにWestoneはありませんでした。つまりこれは特注品と言うことになりますね。いわば純正で高音質ケーブルにリケーブルができるということになります。
追記: ALOのKenさんに聞いたところ、MMCX端子側は標準品のReference 8と同じだそうです。
ただし、プレーヤー端子側が異なるということです。
(ちなみにWestoneのカスタムIEMオーダーで極細ケーブルを指定するとEstron LinumケーブルがきますがこれもWestone向けの特注MMCX端子になっています)
- 今までのWシリーズとは一線を画したパッケージ
今回パッケージを見て驚いたのは従来のWシリーズの小さな箱とは異なって、箱が豪華で大きいということです。外箱を上下にスライドさせるとオレンジの内箱が現れ、その中にこれもまた大きなケースが入っています。
これはプレーヤーや小物などのアクセサリーも収納可能な仕切り調整可能なバリスティックナイロン製ケースです。この中にさらにイヤホンのみ持ち歩くためのスモールケースとしてコンパクトなポーチがついていて、当初はその中にALOケーブルが入っています。このパッケージングから従来のSignatureシリーズとは別ものを感じさせます。
なおアクセサリーではフェースプレートでこれまでの 3 色(ガンメタリックシルバー、メタリックレッド、ゴールド)に加え、メタリック ブルーが追加され4色になっています。このメタリックブルーがW80の標準カラーです。
W60同様にたくさんのイヤチップがついていて自分の好みに合わせられるようになっています。ここも装着性を重視するWestoneらしいところです。
- コンパクトなシェルを継承
Westoneの良いところはカスタムにしろユニバーサルにしろ、装着性を重視しているところです。ユニバーサルシリーズではコンパクトな点も特徴で、W60ではそのコンパクトさをそのままに6ドライバーをつめたところに驚きましたが、W80ではほぼ1mm程度の違いのみのコンパクトさに8ドライバーを詰めています。実際に使ってみてもW60とは装着性がほとんど買わりません。試聴のさいに何回もW80とW60を取り換えましたけど、まったく違和感がなかったですね。
W60とW80
そうすると、もしかするとコンパクトさと音質を妥協したのではないかと勘繰る人もいるかもしれません。しかしながらそれを見透かすように、豪華なW80のパッケージの内箱にWestoneのサウンドマイスターであるカール・カートライトのサインが印刷されています。
"The Quality of the sound is the most important consideration. Without that first priority met, no other consideration is relevant"
「音質は最重要の設計項目だ。その実現なしに他の設計項目を考えるのは適切なことではない」
* カール・カートライト
カール・カートライトはWestoneのサウンドデザイナーであり、Westoneのイヤフォン設計のキーパーソンです。いままでは裏方のような存在でしたが、W30ではカール自らが日本向けに(日本の曲を聴きながら)チューニングしたことが書かれ、W80ではパッケージにもカールのサインと共にこの言葉が記されています。本来はWestoneのアイコン的な存在でもあるので表に出てきても良いように思えます。
ジェリー・ハービーを「イヤフォンの神様」、ジョン・モールトンを「魔法使い」と呼ぶならば、カール・カートライトは「ウエストンのゴッドファーザー」と呼ぶべきかもしれません。実際に社内でも「ゴッドファーザー」と呼ばれているとのことです。
Westoneのブログより、右がカールカートライト(左はサックスプレーヤーのMICHAEL LINGTON)
W60のときにカールにこのようなコンパクトサイズに6個ものドライバーを内蔵してさらに位相まで整えるためにはなにか工夫があったのではないかと聴きました。なにか特別な技術があるのではないかと思ったからです。
カールの答えは「根気強さ、実験検証、おおくのプロトタイプ、インスピレーション、そしてどのように進歩したいのかという明確な絵を描くこと。」ということでした。歴史と経験に裏付けれらたWestoneのサウンドマイスターらしい答えです。おそらく今回も聞いたならば同じ答えが返ってくるでしょう。
たしかな経験と、確固とした信念は上のW80のボックスに書かれた言葉からも感じられます。
そうして作られたのがW80です。
* W80の音
そのカール・カートライトの言葉を受けてW80の音を聴いてみました。
はじめはウェストン標準ケーブル(リモコン付き)で聴きました。AK380+AMPを使いました。
はじめの予想はW60の音の高音域を伸ばした感じだろうと思っていたんですが、W80を聴いてみてはじめに感じたのは音の厚み・スケール感がW60よりも豊かなことです。これはW60を聴きこんでいる人ならば比較はなくても分かるくらいの違いがあります。私もぱっと聴いて、これは違う、と気が付きました。これにより単にW80がW60を小改良したモデルではないということが感じられます。
W60のレビュー記事を前に書いた時にはやはりコンパクトな筐体でスケール感があるのに驚きましたが、W80はさらに上を行きます。W80からW60に同じケーブル、同じイヤチップで変えてみるとW60の音が薄く軽く感じられてしまいます。音空間もW80の方が余裕があり広く感じられます。
聴き進めて中高域で比較すると確かに中高域はW60よりも鮮明さが増していて、より明瞭感がありますが、最近国産でよくある「ハイレゾ対応モデル」のように不自然に高域が強くてきついということはありません。そのためあくまで自然に高域の鮮明さが感じられます。W80の高域4ドライバーは純粋に倍音表現に聴いて厚みを出しているというか、あるべき形なのかもしれません。
今までのウエストンサウンドに中高域をきらびやかにした感じではあると思いますが、W60よりもやや明るめには感じられます。
厚みや空間の広さはエージングしなくてもよくわかりますが、(ケーブル込みで)エージングが進むと立体感もよく描き出し、特に中高域でW60との解像力・明瞭感の差が大きくなっていきます。
この差は楽器音の鮮明さ・音色表現にあらわれ、音色表現もはっきりとわかるようになったと思います。弦楽器は鳴りが際立ち、ハープやピアノ、パーカッションでも音より鮮明に聴こえることで音色表現の差がW60よりもよくわかります。
全体的な印象は標準ケーブルでは暖かみがあって聴きやすいWestoneサウンドです。やはりなめらかで有機的な音で、音性能の高さがきつさではなく音楽の感動に直結するような鮮明さに結びついているのはさすがカール・カートライトというべきなのかもしれません。
スケール感のある、シネマティック・ドラマティックな曲にはひときわ優れています。たとえばいわゆるエピック系のReally Slow Motion のYou wil be this legendです。試聴で流し聴きしてたんですが、これは思わず止めて二回聞き返してしまいました。イヤフォンで音楽を良く聴かせてくれるという見本のようで、なかなか感動的に盛り上げてくれます。ここもW60に変えて聞き返したんですが、W60の音だとそこまで感動的には思えませんでした。やはりW60はよいんですけれども、W80は上の上を行くという言葉が当てはまると思います。それとスケール感・厚みの感覚でもやはりW80の方が豊かというだけでなく、さらによく整った音に聴こえます。
カールはW80について「W80が目指したものはW60の良さを引き継ぐことだけではなく、これまでにない臨場感という新たな美点を楽しめるようにした」と語っていますがそれも分かります。より細かな音表現、より広い音場、それが音楽を聴くと言うことに見事に結実しています。
ただ標準ケーブルだとウェストンらしい音楽性という点では十分文句ないのですが、クリアさやワイドレンジ感でW80の真価を生かすにはやはり物足りなくなってしまいます。そこで、次にALOの付属交換ケーブルを使用して聴いてみました。
ALOにすると高域も低域もワイドレンジで一段と音質は上がり、さきほどのW80の良いバランスの音からはバランスは大きく崩れない感じです。標準ケーブルからALOケーブルに変えると、ケーブルのおかけでがらっと印象が変わるのではなく、さきほどの個性のままクリアさ・透明感がぐっと向上し、高域がさらに鮮明に、低域がより深くなるという感じで個性的にはウェストンの音楽性を保ったまま性能が全域に高くなるという感じです。雰囲気が明瞭感が上がるので少し明るめになりますが、あいかわらずきつさはないように思います。
さきほどの標準ケーブルではあまり感じなかったが、ALOでひときわ感じられるようになったのはスピード感が出て楽器の音の切れ味が良くなるという点で、リズム感の良い曲では標準ケーブルの時よりも自然とタップを踏みたくなったり指で机をたたきたくなるようによくのれるようになります。
アクセサリーではW60で作ったカスタムイヤチップのUM56もそのまま使うことができます。これによってさらに音質を上げることもできます。
W80はWestone純正のBluetoothアダプターも役に立ちます。
たとえば今回実際にあったんですが、AK380+AMPで高音質でW80を楽しんでいるとき、同時にiPhone 7のストリーミングサービスのSNSでお気に入りのアーティストの新曲がアップされたというニュースを見たときに、すぐに聴きたいがW80をちょっとiPhone7につなぐことができないのがやはり不便ではあります。そこで、Bluetoothアダプタをバッグに入れておくとW80をBluetoothアダプタにつなぎ変えてiPhone7のストリーミングから新曲を聴くことができます。
* まとめ
W80はW60と同じ装着感のよいコンパクトなボディの中にW60よりも一段高いレベルの音を実現しています。音も音楽を気持ちよく再現するウエストン・サウンドを継承したうえで進化させたものとなっています。ALOのケーブルもWestoneの音と端子に合ったもので純正リケーブルのような付属品となっています。
カール・カートライトは「W80ではドライバー数が多くなっているが、数を増やすことが目的ではなく、より良い調和性を追求した結果である。」とも述べています。調和性(harmonic content)とはその楽器の特徴を明確にし、演奏した部屋の広さや反響音まで分かること、という意味のようです。
彼が言うには反響音や余韻の中に音の特徴が聴こえること、それで楽器の音を特徴づけると言うことがW80で目指したゴールであり、これが冒頭に書いたカールの言葉です。そしてそれはみごとに結実しているのではないかと思います。
「秋のヘッドフォン祭 2016」では Westone ブースを出展し、ブースでは「W80」を含む、Westone の全モデルを試聴できるということです。 また、本イベント内の 23 日(日)14 時〜 中野サンプラザ 7 階研修室 11 にて「Westone 新製品発表会」を開催するそうです。 ぜひこのカール・カートライトの新たな作品を試してみてください。
2015年05月15日
WestoneからAstell & Kern2.5mm向けの極細バランスケーブル登場
AK第二世代プレーヤーでWestone製品を楽しむために極細のバランスケーブルが発売されます。Astell & Kern向けにチューニングされたiriver社公認のケーブルです。超軽量・極細で、銅線をシルバーコートしたデュアルツイストケーブルです。
日本での販売開始は2015年5月30日(土)からを予定しています。
市場想定売価は27,800円(税込)です。詳細についてはテックウインドさんのホームページをご覧ください。
http://www.tekwind.co.jp/products/WST/entry_12402.php
MMCXは同一規格のようでいて、機種・メーカーによって互換性があったりなかったりもします。Westoneユニバーサルはプラグが細いため、こうした公認の交換ケーブルは安心といえます。ESシリーズ、Wシリーズ、UM Proシリーズに使用ができます。
WestoneのカスタムES60のレビューを書いた際に、極細ケーブルについて書きましたが、その2.5mmバランス版です。Estron Linumタイプですが、Westoneのものはプラグとか長さなど独自仕様となって、Westone製品向けに使いやすくなっています。ただしこのバランス版は通常の極細ケーブルとは多少異なっていてLinumでいうとBaXのようなツイストペアのケーブルになっています。2.5mmプラグも高品質のように見えますね。
このタイプはケーブルの存在を感じさせない軽さと細さがよいのですが、半面で絡みやすい難があります。しかし、このバランス版はタングルレス(絡みにくい)という新仕様のケーブルとなっています。
ES60とAK240で合わせて聴くと、バランスらしい音の広がりが見事ですが、もともとES60も空間的な音の広がりが素晴らしいカスタムIEMでもあり、まるで包み込まれるような感覚にもおそわれます。透明感が高く、ES60のしっかりした遮音性による高い静粛性ともあわさって細かな音の抽出も見事なくらいです。
音調はニュートラルで着色感は少ない感じです。
またこの極細ケーブルのよいところとして音の滑らかさにも長けていると思います。この極細ケーブルはWestoneの持つ音楽的な魅力をより高めてくれているようにも思います。W60でも音楽的な柔らかい音が楽しめます。
通常の極細ケーブルと取り替えて比較してみると、空間的に広がりが増すだけではなく、迫力も増し中高域の伸びがあるように思われます。ここはそもそも極細とは異なる設計だからなのでしょう。
このケーブルで聴くとES60はやはりよいカスタムIEMだと思いますね。音が細かく、クリアで、空間表現が良く、遮音性は随一です。ES60の良さを一段と引き出してくれるでしょう。
今週末のヘッドフォン祭でも展示がありますので、テックウインドブースにお越しください。
日本での販売開始は2015年5月30日(土)からを予定しています。
市場想定売価は27,800円(税込)です。詳細についてはテックウインドさんのホームページをご覧ください。
http://www.tekwind.co.jp/products/WST/entry_12402.php
MMCXは同一規格のようでいて、機種・メーカーによって互換性があったりなかったりもします。Westoneユニバーサルはプラグが細いため、こうした公認の交換ケーブルは安心といえます。ESシリーズ、Wシリーズ、UM Proシリーズに使用ができます。
WestoneのカスタムES60のレビューを書いた際に、極細ケーブルについて書きましたが、その2.5mmバランス版です。Estron Linumタイプですが、Westoneのものはプラグとか長さなど独自仕様となって、Westone製品向けに使いやすくなっています。ただしこのバランス版は通常の極細ケーブルとは多少異なっていてLinumでいうとBaXのようなツイストペアのケーブルになっています。2.5mmプラグも高品質のように見えますね。
このタイプはケーブルの存在を感じさせない軽さと細さがよいのですが、半面で絡みやすい難があります。しかし、このバランス版はタングルレス(絡みにくい)という新仕様のケーブルとなっています。
ES60とAK240で合わせて聴くと、バランスらしい音の広がりが見事ですが、もともとES60も空間的な音の広がりが素晴らしいカスタムIEMでもあり、まるで包み込まれるような感覚にもおそわれます。透明感が高く、ES60のしっかりした遮音性による高い静粛性ともあわさって細かな音の抽出も見事なくらいです。
音調はニュートラルで着色感は少ない感じです。
またこの極細ケーブルのよいところとして音の滑らかさにも長けていると思います。この極細ケーブルはWestoneの持つ音楽的な魅力をより高めてくれているようにも思います。W60でも音楽的な柔らかい音が楽しめます。
通常の極細ケーブルと取り替えて比較してみると、空間的に広がりが増すだけではなく、迫力も増し中高域の伸びがあるように思われます。ここはそもそも極細とは異なる設計だからなのでしょう。
このケーブルで聴くとES60はやはりよいカスタムIEMだと思いますね。音が細かく、クリアで、空間表現が良く、遮音性は随一です。ES60の良さを一段と引き出してくれるでしょう。
今週末のヘッドフォン祭でも展示がありますので、テックウインドブースにお越しください。
2015年04月23日
Westoneインタビュー掲載
昨年Westoneのハンクさんにインタビューした内容がテックウインドさんのホームページに掲載されました。カスタム・ユニバーサルイヤフォン製品について広く深くカバーしてるのでぜひご覧ください!
【対談】オーディオライター佐々木氏 × WestoneAudio Hank Netherton氏
http://www.tekwind.co.jp/specials/WST/entry_170.php
ほとんど同時期にJH Audioのジェリーにもインタビューしてそちらはヘッドフォンブック2015に載ってます。ハンクともジェリーとも直接英語で話したわけですが、面白いと思ったのは、彼らと直接話してみると印象も大きく違うという点です。ジェリーとアンディーとの会話はアメリカらしいカジュアルで自由闊達ですが、ハンクは日本のように真面目で実直な感じです。この辺もJH AudioとWestoneの個性というものをちょっと感じさせてくれ、面白いですね。
【対談】オーディオライター佐々木氏 × WestoneAudio Hank Netherton氏
http://www.tekwind.co.jp/specials/WST/entry_170.php
ほとんど同時期にJH Audioのジェリーにもインタビューしてそちらはヘッドフォンブック2015に載ってます。ハンクともジェリーとも直接英語で話したわけですが、面白いと思ったのは、彼らと直接話してみると印象も大きく違うという点です。ジェリーとアンディーとの会話はアメリカらしいカジュアルで自由闊達ですが、ハンクは日本のように真面目で実直な感じです。この辺もJH AudioとWestoneの個性というものをちょっと感じさせてくれ、面白いですね。
2015年02月22日
Westoneのカスタムイヤチップ、UM56
WestoneのUM56はユニバーサルIEMのイヤチップとして使用する耳型から作るカスタム・イヤーチップです。国内ではテックウインド経由で提供されます。
イヤーチップ部分のみをカスタムオーダーすることで、付属のイヤチップよりも高い装着感を得られます。素材はシリコン(またはビニール)を使用しています。水洗いが可能です。
カスタムなので、作成には各ユーザーの耳型(インプレッション)の採取が必要です。
またWestone社製のイヤフォンだけでなく、オーダー時に指定することで他社製のイヤフォン用に作ることもできます。ステム径が同じであればもちろんイヤフォン間で流用ができます。
作成可能なイヤフォンの対応表は下記の通りです。
http://www.tekwind.co.jp/faq/WST/entry_284.php
カラーバリエーションが豊富で、好きな色を選択可能です。追加料金なしで左右別々に選ぶこともできるので右は赤系など選んでもわかりやすいでしょう。下記のテックウインドのページをご覧ください。
http://www.tekwind.co.jp/products/WST/entry_11190.php
価格は23,000円(シリコンモデル、税込、耳型別)です。
注文はカスタムIEMに準じますが、すでにWestoneに耳型がある人は送付の要はありません(ただしあまり古くないもの)。注文はフジヤエービックとかeイヤのような専門店に問い合わせてください。
カスタムの注文と耳型の取得については下記のES60の記事を参照ください。個人的には東京ヒアリングケアセンターがお勧めです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/406543132.html
まず耳型を採取して、オーダーフォームに色と材質の指定をします。また使うイヤフォンの種類(機種名とメーカー名)も明記してください。
私はW60の音をさらに良くしたかったので、Wシリーズの径で注文し、色はSmokeを選びました。すでにES60でWestoneに耳型があるので耳型を送る必要はありませんでした。
だいたい4週間くらいで届きました。
カスタムの一種なので、簡単な紙の箱に入ってきます。中にはポーチなどが入っています。
UM56のシリコンチップはなかなかきれいな出来で、私は半透明のSmokeを選びましたが透明度もわりと良いと思います。
装着もスムーズにできます。私はバイトブロックの採取法の耳型ですが、かなりぴったりはまりカスタムっぽい装着感です。
ただしカスタムとは違ってイヤピースと本体が別なので、カスタムでやるようにシェルを持ってひねって入れるという感じではなくて、あらかじめイヤチップ部分を耳穴にあてておいて、全体をフィットするように調整するという感じです。
耳道に入れるのでカスタム初めての人はやや違和感を感じるかもしれません。
* 試聴
W60はPONOと良く合わせているので、PONOでレビューします。
まずW60に標準ケーブルでPONOで聴いてみます。
初めの予想は、カスタムチップによって遮音性が高まることで低域の逃げがなくなり、低域の量感がぼんっと増えでボンボンのベースヘビーのバランスになるのではないかということでした。
実際に聴いてみるとたしかに低域も増えていますが、それよりも中高域の鮮明さが上がって、音場が開けた感じになることに驚きました。低音域だけでなく、全体的に音が向上する感覚ですね。
低域は腰がどっしりと座るように安定しますが、ただ低域が漏れずにしっかり出るだけではなく、荒い表現だった中高域もよりスムーズに再現されるように思える。高音域のきつさもやや低減されます。
全体に一ランク上がったように思えますね。また余分な着色はないので、そのまま音質向上された感じです。
次にMoon AudioのBlackDragonバランスケーブルでPONOバランスで聴いてみます。このW60 + BlackDragon+PONOバランスが、鮮明でいながらちょっとメロウで暖かくなかなか音楽的で気に入っているので、この音をそのまま良くしたいと思っていたのがW60を選んだ理由でもあります。
普通のチップからUM56に変えて聴いてみると、細かい音がよりハッキリクッキリと聞こえる感じがします。ベースは芯がしっかりとして、重みのあるベースラインとなります。低域はずぅっと深くなり、パーカッションの打撃感も良くなります。加えて音の一つ一つがより鮮明で、中音域は楽器やヴォーカルの音のこもった感じが取れてあいまいさが少なくなり明瞭に聞こえるように感じられます。やはり全体に整って聞こえますね。
高音域は刺さるようなとげとげしさはやや減退し少し和らぐように感じられます。
全体にすっきりと少しクリアに晴れあがり、音場もぱっと開けるように思えます。広がるというより開けるような感じです。イヤファンをクラス上にした感じはありますね。
例えば低音だけあげたいならフォームチップも良いですが、UM56では明瞭感が損なわれずにより鮮明になり、バランスの崩れもないように思います。ケーブル交換と違って固有の音がつかないので、元のイヤフォンの音調というか個性は変わりません。
帯域バランスは多少変わりますが、特にベースヘビーになるなどの極端な変化はなく、いままでの音が全体に良くなったと感じると思います。
遮音性が良くなったことで良いベースを下支えにしたピラミッドバランスになるためか、あるいはふさがれた耳穴内でのピーク特性も変わっているのではないかと思います。
またステム径が同じShureやUltrasone IQなどにも使えます。
音はやはり音が明るくぱっと広がる。こもっていたのが明瞭感がますという同じ効果が得られると思います。
上の写真はSE215SpeとUltrasone IQです。SE215だと本体に対してやや高価なチップとなってしまいますが、SE846なんかはなかなかよさそうな気がします(ないので試せませんが)。Shureはカスタムがないし、なんていうShureファンも試してみると良いかもしれませんね。
* まとめ
私みたいなカスタムジャンキーからすると、こうした製品はややバカにしてた面もあったけど、良い意味で驚いたというか新たな発見がありました。これは思った以上に効果的だと思います。特にカスタムとユニバーサルでも音が違いますので、気に入ったユニバーサルの音をそのまま上げたいというときに効果的です。
どういう人に向いているかというと、すでにカスタム持ってる人は耳型取らなくて良いので、たとえば私だったら、ES60持っていても、W60の音の個性が好きなのでPONOはあえてW60と合わせてるという場合に良いですね。
そのまま音を良くしたいというと、もうリケーブルはやってるし、あとはチップを変えるくらいですからね。リシェルしたりするとちょっとおおごとになります。またUM56だと中古価値も損なわれません。W60を仮に売ってしまっても、Shureにも使えます。
やはりW60とES60でも違う音なので、W60が気に入っていてこれをもう一段よくしたい、リケーブルなんかとっくにやった、という人にもオススメです。
また標準ケーブルで気に入ってる人はケーブルのように固有のクセがないのでリケーブルよりもまずこちらを試したほうが外れなく良いかもしれません。カスタムをやりたいけど価格的に、という方もまずこれで耳に合わせてみてもよいでしょう。普通のチップでは耳に合わないという人にも良いですね。
Westoneに聞くと、W60は単なるES60のユニバーサル版ではないと言いますが、UM56をつけるとそれが良くわかります。ES60もカスタム版のW60ではありません。
ES60もW60+UM56も個性が違っていてそれぞれの良さがあるという感じなので、W60買ってからステップアップと思ってES60を買ったという人は、Westoneに保存してある耳型を活用してW60の良さを再発見できると思います。
イヤーチップ部分のみをカスタムオーダーすることで、付属のイヤチップよりも高い装着感を得られます。素材はシリコン(またはビニール)を使用しています。水洗いが可能です。
カスタムなので、作成には各ユーザーの耳型(インプレッション)の採取が必要です。
またWestone社製のイヤフォンだけでなく、オーダー時に指定することで他社製のイヤフォン用に作ることもできます。ステム径が同じであればもちろんイヤフォン間で流用ができます。
作成可能なイヤフォンの対応表は下記の通りです。
http://www.tekwind.co.jp/faq/WST/entry_284.php
カラーバリエーションが豊富で、好きな色を選択可能です。追加料金なしで左右別々に選ぶこともできるので右は赤系など選んでもわかりやすいでしょう。下記のテックウインドのページをご覧ください。
http://www.tekwind.co.jp/products/WST/entry_11190.php
価格は23,000円(シリコンモデル、税込、耳型別)です。
注文はカスタムIEMに準じますが、すでにWestoneに耳型がある人は送付の要はありません(ただしあまり古くないもの)。注文はフジヤエービックとかeイヤのような専門店に問い合わせてください。
カスタムの注文と耳型の取得については下記のES60の記事を参照ください。個人的には東京ヒアリングケアセンターがお勧めです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/406543132.html
まず耳型を採取して、オーダーフォームに色と材質の指定をします。また使うイヤフォンの種類(機種名とメーカー名)も明記してください。
私はW60の音をさらに良くしたかったので、Wシリーズの径で注文し、色はSmokeを選びました。すでにES60でWestoneに耳型があるので耳型を送る必要はありませんでした。
だいたい4週間くらいで届きました。
カスタムの一種なので、簡単な紙の箱に入ってきます。中にはポーチなどが入っています。
UM56のシリコンチップはなかなかきれいな出来で、私は半透明のSmokeを選びましたが透明度もわりと良いと思います。
装着もスムーズにできます。私はバイトブロックの採取法の耳型ですが、かなりぴったりはまりカスタムっぽい装着感です。
ただしカスタムとは違ってイヤピースと本体が別なので、カスタムでやるようにシェルを持ってひねって入れるという感じではなくて、あらかじめイヤチップ部分を耳穴にあてておいて、全体をフィットするように調整するという感じです。
耳道に入れるのでカスタム初めての人はやや違和感を感じるかもしれません。
* 試聴
W60はPONOと良く合わせているので、PONOでレビューします。
まずW60に標準ケーブルでPONOで聴いてみます。
初めの予想は、カスタムチップによって遮音性が高まることで低域の逃げがなくなり、低域の量感がぼんっと増えでボンボンのベースヘビーのバランスになるのではないかということでした。
実際に聴いてみるとたしかに低域も増えていますが、それよりも中高域の鮮明さが上がって、音場が開けた感じになることに驚きました。低音域だけでなく、全体的に音が向上する感覚ですね。
低域は腰がどっしりと座るように安定しますが、ただ低域が漏れずにしっかり出るだけではなく、荒い表現だった中高域もよりスムーズに再現されるように思える。高音域のきつさもやや低減されます。
全体に一ランク上がったように思えますね。また余分な着色はないので、そのまま音質向上された感じです。
次にMoon AudioのBlackDragonバランスケーブルでPONOバランスで聴いてみます。このW60 + BlackDragon+PONOバランスが、鮮明でいながらちょっとメロウで暖かくなかなか音楽的で気に入っているので、この音をそのまま良くしたいと思っていたのがW60を選んだ理由でもあります。
普通のチップからUM56に変えて聴いてみると、細かい音がよりハッキリクッキリと聞こえる感じがします。ベースは芯がしっかりとして、重みのあるベースラインとなります。低域はずぅっと深くなり、パーカッションの打撃感も良くなります。加えて音の一つ一つがより鮮明で、中音域は楽器やヴォーカルの音のこもった感じが取れてあいまいさが少なくなり明瞭に聞こえるように感じられます。やはり全体に整って聞こえますね。
高音域は刺さるようなとげとげしさはやや減退し少し和らぐように感じられます。
全体にすっきりと少しクリアに晴れあがり、音場もぱっと開けるように思えます。広がるというより開けるような感じです。イヤファンをクラス上にした感じはありますね。
例えば低音だけあげたいならフォームチップも良いですが、UM56では明瞭感が損なわれずにより鮮明になり、バランスの崩れもないように思います。ケーブル交換と違って固有の音がつかないので、元のイヤフォンの音調というか個性は変わりません。
帯域バランスは多少変わりますが、特にベースヘビーになるなどの極端な変化はなく、いままでの音が全体に良くなったと感じると思います。
遮音性が良くなったことで良いベースを下支えにしたピラミッドバランスになるためか、あるいはふさがれた耳穴内でのピーク特性も変わっているのではないかと思います。
またステム径が同じShureやUltrasone IQなどにも使えます。
音はやはり音が明るくぱっと広がる。こもっていたのが明瞭感がますという同じ効果が得られると思います。
上の写真はSE215SpeとUltrasone IQです。SE215だと本体に対してやや高価なチップとなってしまいますが、SE846なんかはなかなかよさそうな気がします(ないので試せませんが)。Shureはカスタムがないし、なんていうShureファンも試してみると良いかもしれませんね。
* まとめ
私みたいなカスタムジャンキーからすると、こうした製品はややバカにしてた面もあったけど、良い意味で驚いたというか新たな発見がありました。これは思った以上に効果的だと思います。特にカスタムとユニバーサルでも音が違いますので、気に入ったユニバーサルの音をそのまま上げたいというときに効果的です。
どういう人に向いているかというと、すでにカスタム持ってる人は耳型取らなくて良いので、たとえば私だったら、ES60持っていても、W60の音の個性が好きなのでPONOはあえてW60と合わせてるという場合に良いですね。
そのまま音を良くしたいというと、もうリケーブルはやってるし、あとはチップを変えるくらいですからね。リシェルしたりするとちょっとおおごとになります。またUM56だと中古価値も損なわれません。W60を仮に売ってしまっても、Shureにも使えます。
やはりW60とES60でも違う音なので、W60が気に入っていてこれをもう一段よくしたい、リケーブルなんかとっくにやった、という人にもオススメです。
また標準ケーブルで気に入ってる人はケーブルのように固有のクセがないのでリケーブルよりもまずこちらを試したほうが外れなく良いかもしれません。カスタムをやりたいけど価格的に、という方もまずこれで耳に合わせてみてもよいでしょう。普通のチップでは耳に合わないという人にも良いですね。
Westoneに聞くと、W60は単なるES60のユニバーサル版ではないと言いますが、UM56をつけるとそれが良くわかります。ES60もカスタム版のW60ではありません。
ES60もW60+UM56も個性が違っていてそれぞれの良さがあるという感じなので、W60買ってからステップアップと思ってES60を買ったという人は、Westoneに保存してある耳型を活用してW60の良さを再発見できると思います。
2014年10月07日
WestoneのカスタムIEM、ES60レビュー
Westone ES60とは
Westone ES60は老舗のイヤフォンメーカーであるWestoneのカスタムIEMです。IEM(In Ear Monitor)は日本で言うところのプロ用のイヤモニですが、高性能なのでオーディオマニアにも好まれています。IEMは基本的にはイヤフォンですが、設計目的がミュージシャンのモニター用と言う点に特徴があります。
カスタムIEMとは個人の耳型に合わせて特注するもので、それに対して店で一般的に売られているイヤフォンはユニバーサル(汎用)タイプと言います。ES60は現行のWestoneカスタムIEMのフラッグシップモデルです。W60はユニバーサルタイプのフラッグシップです。カスタムIEMは単にシェルを耳に合わせるだけではなく、音導菅の長さも個人に合わせて作るので最高の音質が得られます。
ES60の発音体の構成は片側6ドライバーの3Wayです。これはつまり高音域、中音域、低音域の3つの周波数帯域(3Way)にそれぞれ2つの発音体(ドライバー)が割り当ててあるということです。この方式自体はユニバーサルのWestone W60でも取られていますし、他のカスタムIEMでも採用されていますので珍しいことではありません。ひとつの帯域に2つのドライバーを割り当てるメリットとしては、ひとつのドライバーの負担が減るので歪み感も少なくなることだといわれています。
6ドライバーのカスタムはWestoneでは初となります。ちなみに周波数特性は8kH - 20kHz、インピーダンスは46Ωです。インピーダンスはカスタムIEMとしては高めですが鳴らしやすさに問題はありません。
私はこのひとつ前のWestoneのカスタムIEMとしてES3Xを使用していました。ES3Xは2009年1月頃に発表されたものでこの当時のフラッグシップモデルです。わたしの書いた記事はこちらです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/114308257.html
もともとカスタムIEMはプロ用とは言われていますが、WestoneではこのES3Xからイヤモニをプロ用とコンシューマー用を両立させるとしていました。(次の年の2010年にはShureもSE535で同じようなプロ・コンシューマーラインの統一を表明しています)
また同時期のカスタムとユニバーサルは兄弟関係になることも多く、ES3XがWestone3の兄弟であったようにES60もまたW60の兄弟であろうことは型番やドライバー構成からも推測ができます。ただしWestoneに聞いてみたところ、ES60とW60のドライバーは同じだけれども、音質は直径や長さ、音の出口など設計のさまざまな要因により変わるものであり特にES60のようなカスタムはユーザーに合わせて設計するためにまったく異なったデザインアプローチが必要になる、ということです。
実際にES60は単にW60のカスタム版なのか、ということについては続く記事をご覧ください。
注文について
カスタムIEMは個人の耳型を取得して個人に合わせて製作するので、まず耳型の取得が必要です。またシェルにはさまざまな色やデザインの指定が可能です。これはもともとステージで他のバンドのIEMと間違わないためでしたが、いまではカスタムIEMの個性を発揮する魅力ともなっています。
このようにカスタムは特徴品であるゆえに、カスタムの注文と言うと耳型の取得と英語でのやり取りが大きな障害になっていたと思います。しかしWestoneについては代理店のテックウインドが注文を受けてくれますので安心して注文することができます。もちろんオプションの指定も日本語でかまいません。
こちらにテックウインドの注文ページがあります。
http://www.tekwind.co.jp/products/entry_11576.php
また大きなニュースとしては大手販売店のビックカメラでもWestoneのカスタムIEMの注文を受けてくれるようになったということがあります。これはビックカメラの3店舗に限られますが、カスタムiEMを身近なものにしたという点は大きいと思います。詳しくは下記のテックウインドさんのホームページをご覧ください。
http://www.tekwind.co.jp/information/WST/entry_294.php
オプションについて
まず上記注文ページからオーダーフォームをダウンロードして、プリントして注文を書きこみます。これはES60だけではなくESシリーズでは共通の手順です。
1.本体カラー
全62色から好みの色を選ぶことができます。また左右違うものにすることもできますので右を赤系にするなど即座に分かりやすくすることも可能です。
私は前回のES3Xでもそうだったので左右ともSmokeを選びました。
2.ケーブル
標準ではWシリーズと同じWestoneのEPICケーブルですが、オプションで極細132mm MMCXというのも選べます。
EPICはW60に付属していたので、ここは別な極細ケーブルのオプションを頼んでみたところ、来たのはなんと私がよく書いているところのデンマークのEstron Linumでした(Westoneではオリジナル製品としています)。W60とLinumの相性は良く、もともとこれにリケーブルしようと思っていたのでちょうど良い選択でした。ケーブルは好みもありますが、このオプションはお勧めです。これも後で書きます。
3. フェイスプレート
オールクリアのシンプルなものを好む人もいますのでこれは完全に見た目の問題ですが、フェイスプレートもあった方がデザイン的にはカスタマイズされた感は強まります。
カーボンやウッドなどさまざまな素材や、Abloneなど貝をイメージさせる鼈甲のようなシェルもあります。また表面にはロゴがプリントできます。カスタムロゴもここで指定できます。素材がReflectionの時はロゴもレーザーエッチング(彫り物)となり、この時はカスタムアートは指定できないなど組み合わせで注意事項がありますので注意してください。
実際、カスタムIEMの注文ではここが一番悩ましく、一番面白いところでしょう。カーボンは最近のはやりですが、私はちょっと変わったSilver Carbonにしてみました。
4. ロゴ
私は両方ともWestone+モデル名でロゴカラーはカーボンの黒に映える白としました。
しかし、Silver Carbonだとちょっと白と干渉することがあるので、フェイスプレートは黒のみのカーボンの方が良かったかもしれません。
またロゴの代わりにイメージを送ってそれをペイントしてもらうこともできます。
耳型取得について
もし販売店から耳型取得について指示があった場合にはまずそれに従ってください。
私の場合は東京ヒアリングケアセンターの大井町店に行きました。東京ヒアリングケアセンターは青山と大井町にありますが、もともとは大井町店の方がはじまりで、店長さんは某大手企業出身でこの道19年のベテランです。大井町店はちょっと駅からは遠いのですが、青山より予約は取りやすく行ったさいにいろいろとオーディオ話をするのも楽しみの一つです。
耳型を採取するときには口の開け方に工夫が必要です。これで出来上がる耳型のフィットが変わってきます。これには採取するところでいろいろと方法があります。以前は東京ヒアリングケアセンターではお箸を使って口をあけていたのですが、今回は1インチのバイトブロック(バイトは噛む)を使いました。これはメーカーであるJH AudioやUEが文書で指定してきた方式で、1インチのブロックを縦に噛みます。なおヴォーカリストが採取する場合にはこれではなくもっと大きなブロックを使うそうです。
なお耳型取得をする際には行く前にまず耳掃除をすることと、絶対に自分では耳型を取らないということが重要です。
到着と開封
9/2に注文して、届いたのは9/27でした。
カスタムはプロ向けなので化粧箱には入っていません(他のメーカーも同じです)。段ボールに直接オレンジ色のケースが入ってきます。
同梱物はオーナーズマニュアル、クリーニングクロス、クリーニングキットなどです。またケーブルはマネジメントリングというプラスチックのループに巻きついて入っています。
オプションは指示通りに抜けもれなくされてきました。さきにも書いたようにオプションで極細ケーブルを選んだところ、私のよく使うEstronのLinumケーブルと思われるケーブルが入っていました。ただメーカーに聞いてみるとあくまでWestoneモデルだということなのでなにかOEMとして特注のポイントがあるのかもしれません。いずれにしろチョーカー(ケーブルを締める部分)についた赤青のLR表示などベースモデルはあきらかにEstron LinumのMMCX仕様だと思います。Estronは下記リンクでも記事にしましたが、軽くて音もよいのでW60にもよく使っていました。そういう意味ではW60+Estronの音に慣れているので比較もしやすかったと思います。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/393184677.html
カスタムでいつも届く前に心配するのはシェルがうまく耳にはまるかということです。これはうまくぴったりとはまりました。はめるときは3次元的に少しひねるようにするとうまく入ります。作る時の1インチバイトブロックの使用も良かったかもしれませんが、Westonならではの工夫もあります。
Westoneでは耳に入る部分が体温で柔らかくなる独自のフレックスチューブを採用しています。これがフィット感を一層増しているポイントです。フレックスチューブは耳にはいる部分が体温によって変化する素材を用いているため、耳に挿入するとその部分が柔らかくなり耳穴に密着します。これは快適性と遮音性をともに向上させます。
またフレックスチューブのメリットはリスナーが動いた時に発揮されます。人の体ではあごや頭が動くと耳の穴も同時に変形します。通常の硬いシェルであれば耳穴が変化しても追従できませんが、フレックスチューブの場合はリスナーが動いて耳穴が変形してもそれに追従して柔らかくフィットするというわけです。これで抜群の遮音性を確保します。
実際使ってみるとES60はおそらくカスタムIEMの中でも随一の遮音性を持っていると思います。いかにもカスタムIEMを使ってる感を堪能できるでしょう。反面でかなりまじめに周りの音が聞こえなくなるので注意してください。
ES3Xでもそうでしたが、他のメーカーと比べるとES60はシェルのフェイスプレートにやや厚みがあるのが特徴ですが、これは多少かさばりますが外す時に指がかりになるのでとても着脱はしやすくなります。
フェイスプレートのシルバーのはいったカーボンはなかなか個性的です。フェイスプレートからはMMCXプラグも出ています。
UEは2007年に私がUE11を注文した時に比べると2010年のUE18ではシェル作成では劣化した感があったので、ジェリー離脱の影響があったのかもしれませんが、Westoneは2009年のES3Xとはそう変わっていないように思います。ただフレックスチューブ部分にやや気泡がありますが、これは素材上仕方ないのかもしれません。他の部分のシェルは良い出来だと思います。
音が出る穴は2穴ですが、出口ではまとまって一穴で少し深くなって二穴になるタイプです。
音質
最近はWestone W60をEstronでリケーブルして、AK240で聴くというのが定番でした。そこでW60をそのままES60に変えて、ES60に付属してきたオプションの極細ケーブル(Estron)でAK240で聴いてみました。ケーブルとDAPは同じということになりますね。(ケーブルは少しエージングさせてから聴いています)
そうした意味で純粋にイヤフォンとしての性能変化がよく分かったと思います。
ES60で聴くと、一聴してハッとするほどの高音質だということがすぐに分かります。音が想像より良すぎてちょっと驚くって言った方が良いくらいです。
はじめはドライバー構成も同じであろうW60にカスタム化して毛が生えたものかと想像していたんですが、すぐにそれはちょっと違うぞ、と思いました。つまりW60も音質面では相当評価は高いし、中身のドライバーは同じ構成だろうからそれ以上は難しいだろう、W60をカスタムにして低音のシーリングが良くなって、というくらいに考えていたわけです。しかしW60からの音の変化はよく聞けば違うというレベルではなく、かなりはっきりと良くなっています。特に音のクリアさ・透明感の高さと空間表現力はまるでDSP信号処理機能が追加されたかと思うほど大きく違います。
そして聴き進めていくと、基本的な中高域での解像力の高さ・情報量の多さ、バランスの良さを崩さない低域の豊かな迫力と言ったW60の良さも兼ね備えていることが分かります。
まずES60を特徴づけているのは一聴して気がつく際立つ透明感の高さと独特の立体的な音場再現です。これは他のIEMと比べてもトップレベルだと思います。W60でも音の広がりの良さに圧倒されましたが、ES60はさらに左右が平面的に広いだけではなく、3次元的な包まれる感じが独特です。立体感とヴォーカルや楽器の位置にかなり奥行きがあります。空間の広がりが三次元的でコンサートホールに居るみたいというか、DSPでホールモードを選んだようです。それでいて遠くに聞こえるかというと、そうではなく耳との距離は近めで迫力があります。ライブ会場にいるかのような生々しさと芯のある力強さを感じます。大編成のアカペラヴォーカルなどは重なり合わせが感動的で、バランスでないのにバランスのようなというか、イヤフォンをつけてるというよりヘッドフォンのような感じでもあります。ちょっと独特ですね。
おそらくはこの音の広がりと楽器の立体感はなにか音導管の長さかなんかで位相の調整をやってるのかもしれません。この辺はカスタムの利点を生かしてなにか個人個人の耳に合わせてあるのではと思います。
そしてW60を大きく超えるのは抜群の透明感です。このクリアさと鮮明な音再現がES60の際立った特徴と言ってよいかもしれません。透明感が高いだけではなく、さきの空間表現ともあいまってとてもクリアで見通しの良い音空間が広がっているという感じです。またW60よりも音調がやや明るめに聞こえます。
中高域の解像度はW60的に良く、全体に厚みを与えています。この情報量の豊かさと、空間の透明感の高さ、そしてカスタムならではの遮音性が高くなったおかげでさらに細かく小さな音まで分かるようになったと思います。よく雑踏の音が音楽の効果音で入っていますが、その街の音のざわめきや雑踏や金属音など情報量に圧倒されます。
また音と音との間の空隙が分かりやすくなったことで、音の立ち上がりと立ち下がりがよりスムーズに分かるようになりました。楽器の鳴り、ヴォーカリストがふうっと息を継ぐ音、ちっと唇を鳴らす音の艶かしさ、艶っぽさは一級だと思います。
ピアノの響きの良さは音質の良さを測るものさしのひとつでもありますが、ES60でも鳴りが鮮明で歯切れよくかつ美しく感じます。楽器音はニュートラルからちょっと美音がかったとても良い鳴り方をします。ただこれはケーブルの個性も入っていて、もっと音色をニュートラルにしたければケーブルを変えるとそのように変わりますので、もともとの着色感はあまりないと思います。
全体的に滑らかで音楽的でもあり、ここはW60というかES3Xでもそうでしたし、Westoneの良い伝統を引き継いでいると思います。
これは透明感の高さにも関係しますが、ヴォーカルというか人の声がものすごく聴きやすいというのもES60の特徴です。
後で書くようにiPhoneでも音楽再生を試聴してみたのですが、そのとき英語の勉強にも取り組んでたので、音楽ばかり聞かないでiPhoneアプリで英語の聴き取り問題もやらなきゃと思って、イヤフォンをW60に戻すのもなんだからそのままES60で聴いたんですが、これがびっくりしました。すごく明瞭に発音の違いがわかります。いままで使ってたW60との差は唖然とするほどです。これは冗談でなく、くっついて聞こえがちな細かい発音のニュアンス(特に慣れてないイギリス英語など)がはっきりわかります。空間の見通しがよく晴れ上がっていることもありますが、ひとつひとつの発音の音の形が明瞭で鮮明さがあります。これだけ人の声が明瞭に聞けるイヤフォンは他にはないんではないかとさえ思いますね。
低域もW60よりさらに改良されています。W60のようにベースのインパクトもあるのでロックもカッコ良く、オーバーになりすぎずパワーを感じられます。カスタムになって低域が多くなったわけではなく、あくまでW60の良さであったバランスの取れた音です。そしてカスタムのシーリングの高さゆえか、ベースの深みはより深く沈んで聞こえます。
あとでも書きますが全体にガッチリとソリッドなので、ドラムスのインパクトがあります。W60でのウイークポイントはややベースが膨らみがちな低音域でしたが、ES60はシャープというか、かちっとしています。パーカッションやドラムの打撃音は鋭いですね。ここもW60から良くなったところです。
高音域がよく伸びてきつくないのはW60でもあった美点ですが、ES60はその上品な高音域に加えてさらに輝き感が感じられます。これは高音域だけがシャープなのではなく、全体的にW60に比べると音がソリッドというか強固になっているからのように思えます。
W60に比べると全体に音がよりソリッドに芯が強くなっているので、高域では輝きが増し、中音域では発声が明瞭となり、低音域ではインパクトがあるように感じられます。そのため音楽のテンポのきざみもしっかりとしてよく、ノリも良く感じられます。低域が歯切れよくなった感もあります。
激しいロックを聴いてもオーバーパワーになりすぎずにインパクトフルでスピード感も良いですね。
全体に能率はよく、ならしやすさに問題はありません。W60よりボリューム位置は低いのですが、カスタムで遮音性は良いのであげなくても良いということもあります。
私はレコーディングとかアーティストに向いているかは分かりませんが、余分な誇張感がなく、これだけ明瞭に録音の機微まで洗い出せるなら十分使えるのではないかと思います。
最近ES60で聴いていて思ったのは音源の質がよくわかるということです。MP3やAACなどのロスする圧縮音源とCDリッピングなどのロスレスではヴォーカルや楽器の鮮明さ、全体の空気感が違うのがはっきりわかります。配信のハイレゾでは音楽の豊かさからより音楽が描き出す世界に没頭できます。
実のところそれがこの前のうちのブログで「ハイレゾとは」の記事を書くきっかけとなりました。BAドライバー機は高域で20kHzを超えることは難しいため、ハイレゾ対応のロゴがつくことはないでしょう。しかしカスタムIEMの抜群の遮音性がもたらす静粛性とBAドライバーの細かな音の描写はハイレゾ音源の良さを堪能させてくれます。
ES60は真の意味で「ハイレゾ対応機」と言って良いのではないでしょうか。
リケーブルとDAPとの相性
DAPとの相性でいうと、やはりAK240がベストです。これは特にEstron Linumをベースにしたと思われる標準ケーブルのときにはやや暖かみが乗るのでAK240と合いやすいということもあります。EstronでもBaXなどを使うときはAK120IIが良い選択となってきます。
また、このときにはZX1やCalyx MのようなHiFi硬め系もあうようになります。これらにはニュートラル系のケーブルか、銀線系を合わせることでDAPの性能が上がったかのような感覚を得られるでしょう。
iPhone6から直で聴いてみたところ、まるでiPhoneが高性能DAPになったかと錯覚するくらいです。iPhoneでもよくあいますね。
EPICケーブル
またWeston標準のEPICケーブルにすると音場再現は減退してしまいますが、音のシャープさはそう悪くはありません。また着色感はEstronより少ないこともありますし、ケーブルは好みの問題なのでEPICのほうが好きという人もいるかもしれません。ただ個人的には極細オプションをオススメします。Estronは独特の軽さも良いですが、絡みやすくなるので注意ください。
他のカスタムIEMとの比較
それではES60は音質レベル的にはどのくらいか、ということで他のトップクラスのカスタムIEMと比べてみます。
まず同じく片側6つドライバーということで音に慣れているUltimate EarsのUE18を使います。比較で同じ条件にするために2pinのEstron Linumをつけて、同じケーブルで同じAK240で比べてみます。
比べてみるとES60のほうが音空間が広く、楽器の明瞭さも上です。UE18はES60と比較すると全体に透明感が劣って曇り感があり、音のエッジも鈍って甘く聞こえます。低音域もES60のほうがインパクトが強く迫力があります。また装着感もES60のほうが上で、遮音性もより高いとおもいます。これはES60のほうが最近の耳型ということもあるかもしれませんが、やはりフレックスチューブなどの良さだと思います
まあUE18も音は悪くないと思っていたんですが、最新のES60と比べるとやはり音質はひと世代分は違いますね。
ES60とUE18
それでは最新のものと比べてみたら、ということで同様に2pinのEstronをつけてケーブルとAK240を同じくして、1964EarsのV6-Stageと比べてみます。
こちらも最近ES60と同じところで取った耳型ですが、比較するとややV6-Stageがフィットが甘く感じられます。ただV6-Stageだけで考えるとそうは感じません。耳の中でそう感じるので違いはやはりWestoneのフレックスチューブかもしれません。ただシェルはV6Sのほうが薄くコンパクトに作られているように思います。ややWestoneはシェル大きめなのがわかります。
音ではES60と比べるとV6-Stageは全体にこじんまりと音空間が小さめです。V6-Stageはそれだけ聴くとかなりクリアに思えましたが、ES60と比べるとややクリアさに劣り、楽器音のシャープさに関してはES60のほうがかなり明瞭ではっきりとわかります。ES60は電気オーディオ的にいうとSN比が高いという感じですね。音のあるところとないところがすごく鮮明です。もしかすると遮音性の高さもかなり貢献しているように思います。
ES60とV6-Stage
前の記事でV6-Stageはヴォーカルが聴き取りやすいって書いたんですけど、それを上回るES60のヴォーカルの明瞭さはちょっと別格レベルかもしれません。低域はV6-Stageのほうが控えめで、これは好みもあるかもしれません。
V6-Stageもシェルの作りの良さも含めてコストパフォーマンスはよいとは思いますが、絶対的な音性能ではやはりES60に軍配が上がります。シェルはES60の方がややかさばりはしますが、遮音性はES60のほうがかなり上です。
まとめ
けっこう気に入ったので長々と書いてきましたが、簡単バージョンで書くと、Westone ES60は現行カスタムでもトップレベルの音質で、音がクリアで立体的、楽器や声がメリハリがあってシャープで鮮明に聴こえる点が特徴です。またカスタムIEMとしての遮音性も抜群です。
少し付け加えると、ES60は音的にはW60の生々しい中高域の解像感や低域の迫力をうけついで、音場はさらに立体的で、そしてW60にない明るくクリアな音空間を提供しています。またW60より音がタイトで締まっています。
はじめはW60をカスタムにして毛が生えたようなものだろうと思っていましたが、実際のES60はそんなものではない凄さがあります。W60の遺伝子はあるけど別のレベルのモンスターです。AK240とよくあい、あのAK240の能力をさらに一回りアップさせられます。
W60との比較でなしに聴いても、際立つのは透明感の高さと音の明瞭さ、独特の音場再現です。カスタムとしてのフィットも抜群で遮音性はおそらくカスタムIEMの中でもトップでしょう。W60から引き継いだ美点の大きなものは音楽性です。もっともこれはW60というより、Westoneの良さであり、WestoneのDNAです。
私は前にも書いたようにES3Xを2009年から使っているのですが、Westoneにそのころから今までのカスタムIEM製作においての進歩は何かと聞いてみたところ、やはりドライバーとクロスオーバー設計の複雑さはかなり大きく変わったと言っていました。つまりはよりノウハウが必要なわけです。
改めて思ったのはカスタムイヤフォンの設計はドライバーだけではないということです。
なんでES60ではこんな良い音が出るのか、なんでこんなにクリアなのか、よくわかりません。私は最近はW60を気に入ってよく聴いてただけにちょっとショックを受けたくらいです。W60とどうせドライバーは同じだろうなんて思っていた私みたいな技術おたく系は敗北感を味わってしまいます。普通入手できないような特殊レアメタルを内部線材に使ったんじゃないかとか、小さいDSPが隠してあるんじゃないかとさえ思いますね。
ここにはカタログの売り文句となるような「スーパーXXサウンド技術」というものはなく、Westoneの音質担当者は単にひとこと、「それは経験さ」と言うでしょう。
W60の記事でも書きましたが、それはWestoneの歴史、膨大な数のイヤピースを製作してきた経験ですね。老舗のWestoneならではの熟練した設計の妙と経験を改めて感じさせます。
今年はWestoneの当たり年でした。
W60の記事を書いていた時は、音はよいけど高いし地味なので販売は大丈夫かなと思ったこともあったのですが、W60はかなりバックオーダーを抱えるほど売れているようです。派手なカタログ言葉がなくても良いものが売れる日本の市場は成熟していると思います。そしてES60も聴けば良さがわかると思います。ヘッドフォン祭などの機会にぜひ試聴してみてください。
2009年03月15日
Westone ES3X 国内販売 !
なんと画期的な出来事です。
カスタムイヤホンの正規品を国内で買うことが出来るようになりました。しかも、わたしが少し前に書いたWestoneの最新モデル、ES3Xです!
これはHeadfiでも最近盛り上がってますが、まさにUE11かES3Xか、というような現在入手できる最高峰のカスタムIEMが、英語での注文も不要で正規品で入手できます。うーん、カスタムもここまで来たか。。
これはWestoneの代理店のミックスウェーブさんとフジヤさんとのコラボで、フジヤさんのみでの取り扱いになると思います。
詳しい手順はこちらのフジヤさんのホームページをご覧ください。ブログでもそのうちに掲載されると思います。
http://www.fujiya-avic.co.jp/d-style/innerear.html
耳型を取る前に診断書が必要なところがありますが、ここは正規品で保障が受けられるということが前提なので仕方がないところでしょう。また耳型取得は決められたところで行います。
ちなみに店頭のみでの受付になるそうですのでご注意ください。
価格は耳鼻科の診断料や交通費を除く、すべて込み(耳型代も含むということ)の値段ということです。
また前に書いたようにES3XはWestoneとしてはコンシューマーを視野に入れています。そのためES3Xはフジヤさん扱いになり、もともとプロ仕様のES3(オリジナルの方)はミックスウェーブさん扱いになるとのことです。
さて、これでカスタムの世界が身近になるということで楽しみなことです。
カスタムイヤホンの正規品を国内で買うことが出来るようになりました。しかも、わたしが少し前に書いたWestoneの最新モデル、ES3Xです!
これはHeadfiでも最近盛り上がってますが、まさにUE11かES3Xか、というような現在入手できる最高峰のカスタムIEMが、英語での注文も不要で正規品で入手できます。うーん、カスタムもここまで来たか。。
これはWestoneの代理店のミックスウェーブさんとフジヤさんとのコラボで、フジヤさんのみでの取り扱いになると思います。
詳しい手順はこちらのフジヤさんのホームページをご覧ください。ブログでもそのうちに掲載されると思います。
http://www.fujiya-avic.co.jp/d-style/innerear.html
耳型を取る前に診断書が必要なところがありますが、ここは正規品で保障が受けられるということが前提なので仕方がないところでしょう。また耳型取得は決められたところで行います。
ちなみに店頭のみでの受付になるそうですのでご注意ください。
価格は耳鼻科の診断料や交通費を除く、すべて込み(耳型代も含むということ)の値段ということです。
また前に書いたようにES3XはWestoneとしてはコンシューマーを視野に入れています。そのためES3Xはフジヤさん扱いになり、もともとプロ仕様のES3(オリジナルの方)はミックスウェーブさん扱いになるとのことです。
さて、これでカスタムの世界が身近になるということで楽しみなことです。
2009年02月16日
Westone ES3X到着 !
Westoneの新型カスタムイヤホンのフラッグシップ機、3Way・3ドライバーのES3Xを注文していましたが、本日(2/15)届きました。
前の記事はこちらです。このときにインプレッションを送って、いま届きました。現在はだいたいインプレッション(耳型)の到着後に5-9日で作業をしているそうです。わたしは直接Westoneに頼みました。
http://vaiopocket.seesaa.net/category/6097847-1.html
出荷通知がなく突然来たので驚いてしまいましたが、むこうにインプレッションが届いたとの連絡はきちんとありました。Westoneのカスタムは質問の回答やこうした連絡がかなりきちんとしていると思います。
UEのカスタマーサポートもフレンドリーで悪くはなかったですが、Westoneはビジネスライクで的確です。こうした几帳面さは日本人にあっていそうです。
ES3Xの価格は$850とやや高価ですが、なにぶん昨年FreQで懲りたので今回は安心感を取りました。これはよかったように思えます。
ブランドの与える安心感は一夜にして築かれるものではなく、ブランドを守るためのたゆまぬ努力により育まれる、と高名なワイン評論家の遠峰一青氏も言っています。
それはともかく、インプレッションは再度須山補聴器さんにお願いしました。もう耳型も6個目になります。フィットは今回もまさにぴったり、とてもいい感じでした。口の動かし方も板についてきたかも(笑)
左の写真はiBasso D10とiHP140、右の写真では左側がUE11です。かなりケーブルは痛んできてますね。
ES3Xのシェルは2ピースになっていて、メインのシェルはアクリルのハードで、イヤチューブ(透明部分)はソフトの体温感知素材です。
音の印象はとりあえず簡単に。
しかしUE11を聴いてさえ、かなり驚きました。まずES3Xはスケール感が素晴らしいと感じます。単に音場が広い、立体的というだけではなく、開放的な空間感覚が新鮮です。フルオーケストラはまさに圧巻です。ここはUE11の独壇場だと思っていたんですが、、
また、細かい音の抽出が独特で、漆黒の背景から細かい楽器の音が沸きあがってくるさまは聴いたことがない感覚です。やはりインピーダンスは高めですが、これも良い要因のひとつでしょう。
全体にとても透明感があり、シャープでタイトでソリッドです。クラシックにしろジャズにしろ、アコースティックな音はとにかくリアルで、ロックはインパクトがあります。
これはHeadFiでも書いたんですが、"UE11 meets ER-4S"というのがぱっと思いついたフレーズです。
音の広がり・開放感とか、SNの高さ・クリアさはIEMでは新鮮な感覚です。しかし、これ、なんだかUE11が普通のイヤホンみたいに聞こえるんですけど(笑)
ある意味ちょっと複雑な気持ちが..
とはいえ低域は量感だけではないUE11の良さを改めて感じるし、音傾向も違うので、またあとでもう少し書いてみます。
前の記事はこちらです。このときにインプレッションを送って、いま届きました。現在はだいたいインプレッション(耳型)の到着後に5-9日で作業をしているそうです。わたしは直接Westoneに頼みました。
http://vaiopocket.seesaa.net/category/6097847-1.html
出荷通知がなく突然来たので驚いてしまいましたが、むこうにインプレッションが届いたとの連絡はきちんとありました。Westoneのカスタムは質問の回答やこうした連絡がかなりきちんとしていると思います。
UEのカスタマーサポートもフレンドリーで悪くはなかったですが、Westoneはビジネスライクで的確です。こうした几帳面さは日本人にあっていそうです。
ES3Xの価格は$850とやや高価ですが、なにぶん昨年FreQで懲りたので今回は安心感を取りました。これはよかったように思えます。
ブランドの与える安心感は一夜にして築かれるものではなく、ブランドを守るためのたゆまぬ努力により育まれる、と高名なワイン評論家の遠峰一青氏も言っています。
それはともかく、インプレッションは再度須山補聴器さんにお願いしました。もう耳型も6個目になります。フィットは今回もまさにぴったり、とてもいい感じでした。口の動かし方も板についてきたかも(笑)
左の写真はiBasso D10とiHP140、右の写真では左側がUE11です。かなりケーブルは痛んできてますね。
ES3Xのシェルは2ピースになっていて、メインのシェルはアクリルのハードで、イヤチューブ(透明部分)はソフトの体温感知素材です。
音の印象はとりあえず簡単に。
しかしUE11を聴いてさえ、かなり驚きました。まずES3Xはスケール感が素晴らしいと感じます。単に音場が広い、立体的というだけではなく、開放的な空間感覚が新鮮です。フルオーケストラはまさに圧巻です。ここはUE11の独壇場だと思っていたんですが、、
また、細かい音の抽出が独特で、漆黒の背景から細かい楽器の音が沸きあがってくるさまは聴いたことがない感覚です。やはりインピーダンスは高めですが、これも良い要因のひとつでしょう。
全体にとても透明感があり、シャープでタイトでソリッドです。クラシックにしろジャズにしろ、アコースティックな音はとにかくリアルで、ロックはインパクトがあります。
これはHeadFiでも書いたんですが、"UE11 meets ER-4S"というのがぱっと思いついたフレーズです。
音の広がり・開放感とか、SNの高さ・クリアさはIEMでは新鮮な感覚です。しかし、これ、なんだかUE11が普通のイヤホンみたいに聞こえるんですけど(笑)
ある意味ちょっと複雑な気持ちが..
とはいえ低域は量感だけではないUE11の良さを改めて感じるし、音傾向も違うので、またあとでもう少し書いてみます。
2009年01月29日
Westoneの最新カスタムIEM - ES3X
ウエストンはこの15日に新型のカスタムイヤホン、ES3Xを発表しました。
http://www.westone.com/content/287.html
これはWestoneのプロ用カスタムIEMであるEliteシリーズの新作で、現在のフラッグシップであるES3の新型となる3WayのカスタムIEMです。
テスターのギタリストによるレビューがすでに掲載されていてES3との違いがいろいろと書かれています。
ES3にあったヴォーカル帯域の強調を取って全体にフラットにしたという点が主になるようです。そのため、ES3の後継機というのではなく別バージョンとして売られるのでしょう。その代わり高域を少し抑え目にしてヴォーカル帯域が埋もれないようにしているとのことで、低域も支配的にならない程度に十分あるとのこと。
Headfiなんかのスレッドを読むとチューニングを変えただけではなく、ES3とはドライバやクロスオーバーから異なっていて新しいBAユニットを用いているということです。統合されたミッド・ハイユニットを持つWestone3やFreQ showとは違って、ES3はミッド・ハイ・ロウで完全に分離された3つのユニットを持っていますが、ES3Xではどうなのかは分かりません。ただしWestone 3とも異なるドライバー構成とクロスオーバーということですので、少し言われていたカスタム版のWestone3とも違います。
フラット基調だからプロ用かというとそうでもなく、従来はこのライン(Eliteシリーズ)はプロ用でしたが今回のES3XはWestoneとしてははじめて、プロ用とコンシューマー用を両方意識したものということです。またインピーダンスがマルチドライバとしては珍しく56Ωと高めなのも気を引くところです。何回も記事に書いていますが、UE11の低インピーダンスに悩まされる自分としては気になります。
これらのことから総合するとUEカスタムではUE10と対になりそうなコンセプトで、UE11キラーというよりはUE11とは良い対照になりそうです。
というわけでさっそくインプレッション(耳型)を発送しました。
さて、今回はどうなるか、、
http://www.westone.com/content/287.html
これはWestoneのプロ用カスタムIEMであるEliteシリーズの新作で、現在のフラッグシップであるES3の新型となる3WayのカスタムIEMです。
テスターのギタリストによるレビューがすでに掲載されていてES3との違いがいろいろと書かれています。
ES3にあったヴォーカル帯域の強調を取って全体にフラットにしたという点が主になるようです。そのため、ES3の後継機というのではなく別バージョンとして売られるのでしょう。その代わり高域を少し抑え目にしてヴォーカル帯域が埋もれないようにしているとのことで、低域も支配的にならない程度に十分あるとのこと。
Headfiなんかのスレッドを読むとチューニングを変えただけではなく、ES3とはドライバやクロスオーバーから異なっていて新しいBAユニットを用いているということです。統合されたミッド・ハイユニットを持つWestone3やFreQ showとは違って、ES3はミッド・ハイ・ロウで完全に分離された3つのユニットを持っていますが、ES3Xではどうなのかは分かりません。ただしWestone 3とも異なるドライバー構成とクロスオーバーということですので、少し言われていたカスタム版のWestone3とも違います。
フラット基調だからプロ用かというとそうでもなく、従来はこのライン(Eliteシリーズ)はプロ用でしたが今回のES3XはWestoneとしてははじめて、プロ用とコンシューマー用を両方意識したものということです。またインピーダンスがマルチドライバとしては珍しく56Ωと高めなのも気を引くところです。何回も記事に書いていますが、UE11の低インピーダンスに悩まされる自分としては気になります。
これらのことから総合するとUEカスタムではUE10と対になりそうなコンセプトで、UE11キラーというよりはUE11とは良い対照になりそうです。
というわけでさっそくインプレッション(耳型)を発送しました。
さて、今回はどうなるか、、