Music TO GO!

2023年04月21日

個性ある実力派「qdc Hybrid Folk-S」レビュー

Hybrid Folk-S(以下Folk)はプロ用オーディオではよく知られるqdcのユニバーサルIEMです。Folkは3ドライバーのハイブリッド設計のユニバーサルIEMです(カスタムバージョンのHybrid Folk-Cもあり)。
代理店アユートの製品ページはこちらです。カスタム版は既に受注開始で、ユニバーサル版は本日4月21日から販売開始です。
https://www.aiuto-jp.co.jp/information/entry_1817.php
価格はユニバーサル版が税込66,000円、カスタム版は税込79,200円とハイエンド機にしてはお手頃な価格です。


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* 特徴

特徴としてはまずqdcで初めて平面ドライバーを使用したということで、超高音域に平面型ドライバーが使われ、中高音域にBAドライバー、低域にダイナミックドライバーが使用されています。周波数レスポンスは10 Hz-40000 Hzとかなり広く再現が可能のようです。

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ホームページのドライバー構成図をみると平面ドライバーはダイナミックと同軸配置されているようです。(図はイメージとのこと)
この辺も位相の良さの理由なのかもしれません。

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もう一つの特徴はFolkが名の通りにフォークソング(民族音楽)をターゲットに開発されたということです。これは実際のある音楽グループのためのものが端緒になったようです。Folkでは特にヴォーカル域に重点を置いたようで、qdcによると向いている音楽はジャズ、フォークソング、室内楽とされています。

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そしてフェイスプレートがとても美しくデザインされていることで、これは開発が始まった秋をイメージしているようです。ユニバーサル版のフェイスプレートにはゴールデン・メープルの意匠が施されています。ちなみに英語での紅葉・黄葉はゴールデンで形容されることが多いです。
標準ケーブルにはTIGERなどと同様に端子の差し替えで3.5mm/2.5mmバランス/4.4mmバランスが選べる仕様です。線材は銀コート銅線のようです。

* インプレッション

パッケージは竹製の箱が使われて、布製のケースと共にフォークという名の温もりを感じさせます。小箱にはイヤーピースが入っています。イヤーピースはダブルフランジとシングルフランジのシリコンタイプがニ種類入っています。TIGERではダブルフランジが良かったんですが、Folkではシングルタイプを使用しました。

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Folkは美しく、コンパクトなユニバーサルIEMです。フェイスプレートのゴールデンメープルもシェルの色によく映えています。小さいのは3ドライバーのみの利点でコンパクトで耳に入れやすい。表面には特徴的なメッシュ状のベントホールがありますが、このベントホールは他と違いベントした空気が後室から流れ出して緩衝作用があるため、低音の響きを調整できるということです。

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Folkの音をA&K SP3000で聞いてみると、ちょっと聞いてすぐわかるくらい個性的な音で、広がりがあって鮮明な楽器音が楽しめます。やや暖かみがあるのも特徴です。能率は中程度くらい。
Folkは楽器の音色が驚くほど美しく、美音系と言っても良いと思います。バロックバイオリンみたいな古楽器のように倍音がたっぷりあると、音楽に厚みが乗って豊かになり、弦の擦れる音が極めて美しく楽しめます。バロックバイオリンがあまり気持ちよかったのでもう一回聞き返したくらい、癖になるようなサウンドです。もちろん声も良いです。特に女性の声が甘くて甘美ですね。前に出て、声が音楽の中心にあるように聞こえます。

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楽器の音や声の輪郭が鮮明なのは平面型をスーパーツイーターのように使用した効果ではないかと思います。音場感も良いのですが、これはドライバーのまとめ方が良くて位相特性も優れているように思えます。
低音域は少し多めくらいでちょうど良い感じです。低域もタイトで良く、超低域もけっこうあります。Folkの名のように土俗的なパーカッションの打撃感が楽しめると思いますが、ジャズやロックのドラムスなどでも軽快でスピード感があります。民族音楽のみに向いたIEMというだけでもなく、わりと万能に使えます。
それはqdc TWXと組み合わせた時にイコライザーを使用することでさらに万能性を広げられると思います。TWXとFolkはとても相性が良よい組み合わせです。TWXのイコライザーと組み合わせて、Folkの強みを伸ばすようにも、少し味付けをますこともできます。

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解像力も高くて、背景にあるこまかな擦れる音やかすかな物音もよく聞こえます。それが多重的な立体感を産んでいます。SP3000のような高SN解像力モンスターでも十分再現できる能力を持ってこの値段だとかなりコスパがいいと言わざるを得ないと思う。性能が高い味系という感じなので、SP2000Tの真空管モードともとても相性がいい。
全体的にマルチドライバー機というよりは質の良いシングル機を効いているようなまとまりの良さがあります。

* Folkとフォークソング

名の通りフォークソングを聞くためにアイリッシュ音楽研究家である、おおしまゆたか氏のアイルランド音楽本の付属CDを聞いてみました。
民族楽器のアイリッシュホイッスルの音が素朴な音色に温かみがのって朗々と鳴り、深みがあると同時にシンプルで素朴な民族音楽という感じを味わえます。解像力も高いのでこうしたアコースティック楽器の音色がダイレクトに伝わってきます。長いこと使われて擦り切れたような楽器の質感が伝わるような感じです。
女性の声も温もりがあって冷たい感じがしないのもポイントです。土の温もりが伝わってきて、大地と太陽と風を歌い上げているのがよく伝わってきます。
こうした古い音楽ではいくつかのテンポの違う曲がつながってメドレーのようにセットとして演奏されることも多いんですが、曲調が一曲の演奏中にがらっと変わってもテンポ良く鳴らし切ってしまう力もあります。民族音楽はおとなしく退屈なわけではなく、祭りのときに踊るためのリールやジグと呼ばれるようなダンス曲でもとてもハイスピードで軽快にノレる音楽として楽しませてくれます。
実際に民族音楽をターゲットにしただけあって、こうした音楽にはとても向いていると思います。



* まとめ

qdcというとプロ向けというイメージがあってTIGERの音はよくわかるのですが、Folkはプロメーカーとしては挑戦的なほど個性的で音楽的なサウンドです。モニター系ではなく、味系で良い意味での着色感があります。全体的に暖かみがあって滑らかだけど、鮮明に聞こえるのは基本性能の高さも伺えます。実際にFolkは音楽系という他にとてもコスパの良いIEMという面もあると思います。Folkが向いているのは小編成で楽器の音色や声の美しさを楽しむ音楽ですが、基本性能が高いので万能性もあります。
暖かみがあって音楽的で美しい、qdcのプロ用というイメージからはFolkは挑戦的なイヤフォンに思えます。でも素朴な民族音楽グループの再生に特化させたという意味ではやはりプロ用と言えるかもしれません。Folkは個性的でかつ性能が高くコスパに大変優れたIEMと言えると思います。

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2021年08月21日

アスキーに「肉球のようにプニっとしたジェル封入イヤーピース〜カナルワークス」の記事を執筆

アスキーに「肉球のようにプニっとしたジェル封入イヤーピース〜カナルワークス」の記事を執筆しました。

https://ascii.jp/elem/000/004/062/4062333/
posted by ささき at 13:26| ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月15日

Beat Audio Signalの8芯タイプレビュー

Maverickカスタムに相性抜群というか、私のマベカスさんにつけっぱなしになっているBeat AudioのSignalケーブルに8芯版が登場しました。
「Beat Audio Signal 8-Wired」です。ホームページはこちらです。
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=Beat+Audio&cell003=Signal+8-Wired&id=127

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ミックスウエーブの今週末の秋葉原ポタフェス会場限定商品で、MMCX/2pin/FitEarのタイプに3.5mmと2.5mmバランス、および3.5mmの4極分離タイプの端子を選べます。この選択の豊富さも自製パーツを得意とするBeat Audioならではのものです。
http://www.e-earphone.jp/blog/?p=49870

Signalはその名の通りに信号を正確に送るために銀にレアメタルを混合すると言う手法を採用しています。外観は黒一色で飾りがなく音に飾りがないことも示しています。ケーブルは柔らかくて取り回しが楽なことも特徴です。基本的な音の特徴は透明感が高く、さらに楽器の音の歪感が少なく正確に聞こえる点です。また楽器の位置関係がつかみやすく、ある意味素直な特性ですが音楽の熱気をそのまま伝えるかのようなリアルさをも感じることができます。
この8芯モデルは通常の4芯モデルを倍にしたということになります。

上のホームページでは8芯にすることで得られる点は低域の高い再現度であると書いています。解像度を保ちつつも、より深く、より太い低音域が得られるということです。
ただ聴いてみるとその効果は全域で大きく、Signalをさらに1レベル上に引き上げています。

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8芯モデルは通常のシグナルよりかなり太いというか、二本が対の依り線となっています。
太いけれども、しなやかなので取り回しにはそれほど難は感じません。私はWhiplashの上級モデルの8芯も持っているんですが、それは取り回しが硬すぎて普段使いがちょっとできないくらいです。それに比べるとSignal8芯は通常版よりは取り回しにくいですけど、これくらいなら普段使いできる程度のものだと思います。
SuperNovaだと線が硬いんですが、Signalの良い点の一つは線が柔らかいと言うことなので8芯に向いてるかもしれません。

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左4芯タイプ、右8芯タイプ

さっそく2pin/3.5mmタイプをMaverickカスタムにつけてAK380+AMPで聴いてみました。

まず感じるのは音が空間に広がる感じがちがうということで、音のスケールが一レベル大きくなったという感じです。広がりという意味のスケール感だけではなく、より全体には音がクリアで豊かになったように感じられます。より微細な音が感じ取れるようになったように思えます。これらがあいまってSignalが1レベルブーストされた感じです。低域だけが改善される訳ではありません。通常モデルと聴き比べるまでもなく、全体的により鮮明になり聴いて差はすぐにわかります。

さらに通常の4芯モデルと聞き比べてみると、細かいところでは楽器の音がより鮮明となり、より音の輪郭が鋭くなるのが分かります。もとの4芯ケーブルに戻すとやや甘く感じられるほどです。
また周波数帯域的によりワイドレンジになり、高域がよりシャープに伸び、低域はより深く聴こえます。
女性ヴォーカルの声はより聴き取りやすくなり、より細かいニュアンスがよくわかるるたとえばジャズヴォーカルのささやくようなヴォーカルは4芯よりもよりリアルで明瞭感が高く感じられます。環境音の入ってる音楽ではさらにぞくっとするほどリアルです。

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聴き比べるとやはり4芯よりも8芯の方がよりリアルで鮮明に音楽を楽しむことができます。Maverickカスタムの持つ音像型としての魅力を引き出すと思うし、Signalという信号をストレートに再現するという意味でもよりリアルな音再現ができるようになったと思います。
日頃聴いてるハイエンドIEMの音をさらに一段リアルに引き出したい人にお勧めです。ぜひミックスウエーブさんのブースでチェックしてみてください。
posted by ささき at 08:13 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月11日

UM Mavisカスタムレビュー

MavisカスタムはMavisユニバーサルをベースにカスタム化したものです。Maverickカスタム同様にUnique Melodyと日本のミックスウェーブとの共同で開発された製品です。

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ミックスウェーブに聞いてみたところ、MaverickとMavisは同格のモデルとなると言うことです。個性の異なるモデルを同じ価格帯に二つ用意したという感じです。
ミックスウェーブのホームページはこちらです。
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=Unique+Melody&cell003=MAVIS&id=124

* Mavisカスタムの特徴とMaverickとの差異

Mavisカスタムの基本的な仕様は3Wayの4ドライバーで、高域xBA1、中域xBA1、低域x2ダイナミックのハイブリッド構成です。
ダイナミックドライバーを使用しているのでベント穴(またはバスレフポート)がフェイスプレートに空いていますが、Maverickとは異なり二つ設けられています。これはドライバーが二基あるからというよりも、二穴合わせて大きな面積を取るためのようです。ベントにはなにか弁の機構があるようなので、ベント機構を大型化するのは難しいので二基にしたという感じでしょうか。これも試行錯誤の結果だそうです。ダイナミックドライバーはMaverickとは異なり、小口径のものが2基採用されています。
スピーカーでも30cmウーファー一発か、より小さいのを二発かという選択がありますね。スピーカーの場合は小口径二発の方がスピードとか正確さでは上だけれども、大口径一発には独特の迫力があるという選択だと思います。ただイヤフォンの場合にはまずサイズ制約があるので必ずしもこう通りというわけではないでしょうけれども。

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Maverickカスタム(左)とMavisカスタム

MaverickとMavisの関係は、ある意味兄弟ともいえ、また異なるものだともいえるでしょう。
MaverickとMavisは低域(20-40Hz)の質の向上というテーマに関しては、それを異なる手段(Maverickなら大口径ダイナミック+BA、Mavisなら小口径ダイナミック2発)で実現した兄弟機ともいえる面もあります。しかしながら、それよりも違いはむしろ全体的に異なった音の個性を目標に作られたと言う方が正しいようです。(中高域のBAドライバーもMaverickとは異なるようです)
それはMaverickでは楽器音を鮮明に聞くと言うことを目指しているのに対して、Mavisでは音楽全体を楽しく聴くというコンセプトのもとに設計されているからだそうです。

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また新規投入された技術もあります。それは音導管に金属の合金チューブを採用している点です。これはマルチドライバーIEMを作る上で音導管が増えてくるとそれ自体が曲がったり劣化したりするリスクがあるため、音を正しく出す保障として合金製を使っているということのようです。つまり、音を設計通りに確実に出すためであり、音を変えて良くするためではないということです。またカナル部分の強度を上げるという意味もあるようです。


* パッケージと外観

Mavisカスタムは立派なボックスに入ってきます。

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カスタムの場合はプロ用(つまり業務用)になるので大抵は簡素に段ボールにくるまってきたりしますが、ユニバーサルのような立派な店売りのパッケージに入っていました。

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このカスタムシェルはDalbergiaというウッドフェイスプレートを使っています。
http://www.mixwave.co.jp/c_audio/caudio_product/unique_melody.html

* Mavisカスタムの音質、Maverickとの音の差

ダイナミックが二発入っているのでたっぷり一週間くらいエージングしてから、AK380単体と標準ケーブルで聴きました。
ぱっと聴いて思うのは音の広がりがとても三次元的で空間に広がるようだ、ということです。はじめて聴いたのはヴァイオリンのソロなんですけれども、広い教会の響きの良いホールで朗々と音が響きながら鳴っている感じがよくわかります。全体にきつさも少なく、スムーズな感じです。

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次に思ったことは低音がとても深く豊かであるということ。とてもワイドレンジで堂々たる音再現です。上に透明によく伸び、下に深くよく沈みます。この低音の質感は独特の重みを感じられます。低域が豊かといっても、低音が誇張されているというのではないと思います。低音の質感が優れているという感じでしょうか。ヴォーカルは埋もれずに鮮明に浮き上がるように聞こえてきます。

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またMavisではとても線が細く繊細に聴こえます。これは弱弱しくか細いという意味ではなく、細いペンで鮮明に美しく文字を書いている感じでしょうか。音の細かさ、情報量の豊富さという点でももちろんとても優れていますが、Mavisカスタムで特徴的なのはそうした細かな音のつふつぶが全体的に広がりの良い音空間を滑らかにスムーズに作り上げているという感覚です。Mavisはやや客観的で少し引いた感じの音再現で、音楽を俯瞰的に見せるように聴かせてくれます。たとえばエンヤのような雰囲気感を生かしたい曲を聴くにはうってつけではあります。美しい音楽を美しく聴ける優美さがあるといいましょうか。

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MaverickカスタムとMavisカスタム

この点でMaverickとは好対照かもしれません。Maverickではもっと耳に近くステージの中に入り込むように音を体験させてくれる感じです。Maverickはもっとエネルギッシュで、Mavisは冷静で静的です。
ただMavisとMaverickで共通してるのは楽器音のキレがシャープで鋭く、音の明瞭感が高いという点だと思います。違いは音全体の表現が音象の描き方で積極的に出てくるか(Maverick)、少し客観的的で空間的か(Mavis)、という点でしょうか。ですからMavisの音が音楽的とか空間的と言ったとしても、それが甘いスローな音ではありません。いわゆるウォーム感のある音ですが、鈍いとか甘いではなく、きりっとシャープで柔らかいという感じです。

はじめにMavisで聴いたバイオリンのソロ(Beyerのバロック・バイオリン)をMaverickで聴くと、ホールにバイオリンが間接音で響いているというよりも、アーティストの近くから直接音でダイナミックに音の響きを受けているという感じになります。バロック・バイオリンという古楽器らしい特別な響きをもった音を近くから直接楽しむのがMaverickなら、ホール全体の音の広がりを楽しみながら良い席で音楽を聴くのがMavisという感じでしょうか。

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こう書いてくるとMavisはクラシック向けのように聞こえるかもしれません。それはそれであっていますがMavisでメタルを聴いてみるのもいいです。ダイナミック二発の威力か、やや能率が高いせいかパワフルさもかなり良いと思います。また音がかたまりのように飛んでくるのではなく、迫力のある中にもやや整理されて聴こえるので、メタルをあくまで音楽として聴ける感じですね。ドラマーとかギタリストの神プレイにこだわりがある人にもよいでしょう。

冒頭でMaverickとMavisの違いを少しかきましたが、Maverickでは楽器音を鮮明に聞くと言うことを目指しているのに対して、Mavisでは音楽全体を楽しく聴くというコンセプトはそのまま生かされていると印象を受けます。その中で、MaverickとMavisの低域アプローチの違い(ダイナミック2発かダイナミック+BAか)がうまくいかされているという感じです。

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もうひとつMavisで特筆すべき点は意外と標準ケーブルが良いということです。Maverickではすぐにリケーブルしたほうが良い(Beat Signalがお勧め)ですが、Mavisでは標準ケーブルのままでとても優れた音再現を楽しめます。

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やはりリケーブルしたいという際にはMavisは2ピン端子ですが旧UEのようにケーブル端子は引っ込んでいる点に注意してください。Maverickは引っ込んでいません。
Beatはうまく端子に入ります。SignalよりもSuperNovaなんかがよりワイドレンジにしてくれるようで透明感も上がります。ただちょっと硬めになるので好みはあるかもしれません。

* Mavisカスタムとユニバーサルの比較

次にMavisユニバーサルと比較してみました。

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Mavisユニバーサル

ユニバーサルの方が筺体としては一回りコンパクトに感じられますが、イヤフォンとしてはやや大柄ではありますね。イヤチップを手元にある自分の耳に合うものに変えて試聴してみました。
だいたいの音の個性はカスタムと似たような音ですが、カスタムとユニバーサルではMaverickで感じたように音質はかなり違います。ドライバーは同じで異なるのはチューニングのみという点はMaverickの時と同じですが、音はやはり違います。
低域がより深く沈み、より細かい音が聞こえる感じはカスタムという遮音性の高さから予想される通りの差ですが、この差はスケール感の差となって、カスタムの方がより広い感じが際立ちます。

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MavisカスタムとMavisユニバーサル

またMaverickのときもカスタムとユニバーサルを比べた時に感じたのですが、Mavisでもカスタムの方が全体により鮮明で濃く感じられます。この違いがよくわかりやすいのは低域の違いで、Mavisユニバーサルだと軽く聞こえるペースやドラムスがカスタムではより重く、よりパンチが感じられます。ただし良く聴くと低域のふくらみという点ではカスタムもユニバーサルもそう変わりはないように思います。たぶんカスタムでもより鮮明でキレ良く感じられるという点でそうしたパンチの違いも出てくると思います。なおベントはチューニングには使われないということです。

* まとめ

スピーカーの世界には音像型と音場型という言葉がありますが、それを借りて言うとMaverickが音像型でMavisは音場型であると言えます。
そうした設計のアプローチの違いがそのまま聴覚的にも現れている感じです。Mavisカスタムはホールトーンを感じさせる音場の広がりがあって上質感を感じられます。

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音楽のジャンルはMaverickスタムがハイスピードのジャズトリオに向いてるのに対してMavisカスタムはクラシックのオーケストラという感じですが、実のところMavisカスタムはわりといろいろとジャンルに合います。ジャンルというよりはリスナーの音楽へのアプローチというべきでしょうか、音楽に飛び込むのか(Maverick)、音楽を俯瞰的に楽しむのか(Mavis)という感じです。

そうした意味ではMaverickが優れていたのと同様にMavisも優れたモデルであり、冒頭に書いたようにMaverickとMavisは同格のモデルとなり個性の異なるモデルを同じ価格帯に二つ用意したという意味が分かるのではないかと思います。

posted by ささき at 22:24 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月06日

Maverick(マーヴェリック)・カスタム レビュー

Maverick(マーヴェリック)はいまや人気のUM・ミックスウェーブのユニバーサルIEMですが、そのカスタム版であるマベリック・カスタムが発売されました。

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AK380+Maverick CIEM

本稿は開発者であるミックスウェーブ・宮永氏にインタビューした情報をもとにまとめたレビューです。
製品内容・販売についてはミックスウェーブさんのホームページをご覧ください
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=Unique+Melody&cell003=MAVERICK&id=94

*Maverickのおさらい

まず簡単にもともとのオリジナルのMaverickのまとめをしておこうと思います。
Maverick(マーヴェリック)はカスタムIEMで知られるユニークメロディ(UM)が開発したユニバーサルIEMとして登場してきました。
UMが考えるカスタムイヤフォンのゴールとは、文字通りの「フルカスタム」のようなもので、エンドユーザーが自分で音決めができ、ユーザーが自分でチューニングするということです。それをユニバーサルタイプで実現するためにUMの取ったアプローチは国ごとの代理店と共同開発でその国の事情に「カスタム化」した音決めや開発をするということです。日本からはミックスウェーブの宮永さんがUMに赴いて開発に参加しました。普通代理店はメーカーに意見を言うくらいの影響力のように思いますが、このUMのユニバーサルIEM開発においては代理店とメーカーの共同開発と言ってよいほどかなり深く関与しているのが特徴です。
たとえばまず音決めに関与して、周波数特性、位相について聴きながら各帯域のチューブの長さを決めていきました。UM側がドライバーの選択枝を用意してくれ、Maverickのドライバー構成についても宮永氏が決めたということです。このユニークなドライバー構成がMaverickの一大特徴です。
MaverickはダイナミックとBAのハイブリッドで5ドライバー。ネットワークは4Wayです。高域がBAx2、中音域がBAx1、そして特徴的なのは低音域にBAとダイナミックを両方配置しているということです。

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Maverick IEM

Maverickの特徴は低域をBAとダイナミックでともに担当しているということです。ハイブリッド構成では繊細なBAが中高域、迫力のダイナミックが低域という分担が一般的で、同じUMの既存CIEMであるMerlinはそうなっています。Maverickもはじめの予定ではMerlinのようにダイナミック一発で低域を担当する予定だったそうですが、開発していくうちに20〜40Hz辺りのバスドラムのアタック感が関係してくる箇所がダイナミック一発では再現出来ず、結果的にBAでその部分を補ったということです。
これが音質的に低音域の質を向上させる大きな特徴となり、「独自路線を歩む人」のような意味である"maverick"という名前の由来ともなっています。

*Maverick・カスタムへの進化

こうして登場したMaverickですが、ヘッドフォン祭で披露したときに、その音質の良さに驚いたお客さんから「ぜひこれのカスタム版がほしい」という要望をたくさんもらったということです。そこでユニバーサルIEMとして生まれたマーヴェリックをカスタム化する開発がはじまりました。
(以降もともとのユニバーサルIEM版マーヴェリックをマベユニさん、カスタムIEMマーヴェリックをマベカスさんと略称します)

ユニバーサルIEMであったマーヴェリックをカスタム化IEMするうえでは、まずマベユニさんをそのままカスタム化するという手法も試してみたということです。つまりはユニバーサルIEMをリシェルしたことになりますね。しかし、マべユニさんをただ単にリシェルしただけだと、シェルがカスタムシェルになることにより、マべユニさんよりも低域がかなり増し、それによって全体のバランスが大きく崩れてしまったということです。これは単に低域が膨らんでしまったというだけではなく、低域の増加で低域の倍音が中高域にも影響を与えていたということではないかということです。
また、カナルの長さがカスタムシェルのほうが長いために、イヤーチップが必要なマベユニさんとはボア(音導孔)から鼓膜までの距離が異なります。それで、音の位相やスピード感がバラバラになり、全くといっていいほど意図していない音になったということです。

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そこでMaverickをユニバーサルからカスタムに再設計するにおいては、ドライバーをそのままにしてチューニングを徹底して行うという方針を立てたということです。具体的にいうと、マベカスさんではカスタムシェルにした状態での位相調整、低域の量感調整、4ウェイのスピード調整等を行ったということです。これは主にフィルター、レジスタ(クロスオーバー)、チューブの長さの3点をマベカスさん向けに調整したということです。これに7か月の時間をかけて行ったということです。マベユニのドライバーユニットは変更していません。
チューニングの方向としては元々宮永氏がドラムなど楽器をやっていたこともあり、楽器の音(特にドラムなどリズム隊)を中心にチューニングしたということです。このことから是非ともインストの曲などを聴いて真価を図ってほしいということです。

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またチューニングの際にポイントになったのはカスタムとユニバーサルの根本的な違いであるダイナミックレンジだそうです。カスタムでは遮音性が高いために静音がより聞こえる、つまり大きな音と小さな音の差のダイナミックレンジが大きくなるわけです。
マべユニさんの時も楽器メインでチューニングを行っていますが、マべカスさんとでは使えるダイナミックレンジが異なるため、その点はマベカスさんがかなり有利になります。これがカスタム化の大きなメリットであり、それを生かしたということですね。
ただし、単純にカスタム化するとベースヘビーになってしまい、おまけに位相なんかも狂うので、カスタム化のメリットを享受するにはきちんと開発期間をかけてチューニングせねばならない、というわけです。

ちなみにドライバーを変えるという選択肢を最終的に取らなかった理由ですが、実のところ開発期間中に何度か違うダイナミックドライバーを使用した試作機は作成したそうです。さきに書いたようにリシェルすることで低域が過多になったため、口径が小さいダイナミックドライバー、アルミ製などもともとマベユニさんに使用しているダイナミックドライバーよりもタイトでレスポンスが良いダイナミックドライバーなどを採用して試作機を作ったそうです。
確かにダイナミックドライバーを上述した仕様のモノに替えた際、低域の量感は減らせたようですが、元々マベユニさんに採用していたBAドライバーとの相性が悪く、それはそれで全く意図しない音になり、結果的にドライバーは変えず調整だけすることにしたということです。

*マベカスさんの到着

今回も耳型は東京ヒアリングケアセンターの大井町店で取得しました。
耳型を送ったのが6月頭で、マベカスさんが届いたのが7月頭なのでだいたい一か月くらいの期間だったと思います。

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シェルはクリアでしたが、クリアシェルの真ん中に大きなダイナミックドライバーがハイブリッドを主張するかのように見えるのが面白いところです。フィットもよく、遮音性も良好です。シェルの透明度も高いと思います。

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Maverick CIEM

ボアはなんと4穴で、それぞれ高音域BA、中音域BA、低音域BA、ダイナミックドライバーに通じています。
透明シェルに透けて見える大きなダイナミックドライバーがハイブリッドの個性を示す特徴と言えますね。

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ハイブリッドなのでダイナミックドライバー用のベントがついています。透明なシェルごしに見ると単に穴が開いているだけではなく、なにかベント機構のようなものが入っていますね。この辺は詳細は分かりませんがなんらかの工夫がなされているのだと思います。実際に穴が開いていることによる遮音性の悪化ということはありません。静粛性は保たれています。


*マベカスさんの音質

まずはAstell & KernのAK240で聴いてみました。ノーマルケーブルでAK240の3.5mmプラグに直結です。
まず感じるのはベースの厚みを感じさせながら、とても情報量が高い、密度感がある濃い音です。全体的な音質の高さはマルチBAカスタムとしてもトップクラスにあると思います。全体の帯域バランスは良好で、低域の量はJH13的というか、多すぎない適度に量感あるベースのレスポンスがあると思います。

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Maverick CIEM + AK240

特徴的なのはやはり低音域の質の高さで、UE18など他のマルチBA機と聴き比べるとベースのインパクトはハイブリッドを思わせるもので、ダイナミック的な厚み・豊かさが感じられます。BAだとすっきりしすぎて物足らないという感じがする場合がありますが、ハイブリッドのマベカスさんでは豊かなベースを楽しめます。同時にドラムスやベースギターなどは分厚い量感がありながら、鋭くインパクト感のあるところはユニバーサル版のマーベリックを継ぐ音を感じさせてくれます。この辺がオリジナルの長所でもあったマーヴェリックの個性であり、それがマベカスさんにも引き継がれていると感じます。
低音域の魅力はダイナミックさだけではなく、畳み掛けるようなパーカッションのスピード感にも聞くことができます。

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Maverick CIEM + AK240

また低音域とともに特筆すべき点は高域の伸びの良さです。きれいに高く伸び切る感じとともに、音の芯が強くクリアで明確な高域は高音域を明瞭に聞かせてくれます。それでいてきつさを感じさせないのは上手にチューニングがなされているからだと思います。少なくとも自分が聴いた範囲のDAPや音楽の組み合わせではS音のきつさは感じられませんでした。
高音域の良さを示すベンチマーキングはベルの音ですが、マベカスでは情報量を豊かに伝えるためキーンという鳴りの鮮明さとともに余韻の微妙な消え入りも感じられます。これはつまりダイナミックレンジの高さによる微小音の再現力の高さでしょう。
楽器の再現はそれゆえひとつの音が鮮明でクリアな背景に浮かび上がり、細かなニュアンスをよく伝えます。これはヴォーカルのため息やハミングをもリアルに聴かせてくれます。

ギターにしろバイオリンにしろ、アコースティック楽器の微妙な余韻、胴鳴りのリアルさは一品です。
マベカスさんで聴いていると音楽が楽しいと感じられますが、その理由の一つは楽器の音がわりと耳に近く、客観的に遠く引いたわけではなく耳に近くなってるのも迫力とライブのリアル感を感じさせてくれるからだと思います。
音場の左右の広さは標準的ながら、前後奥行は立体的で音のシャープさと相まって楽器の重なりが明瞭に重なって聴くことができます。密度感が高い音、という感じでしょうか。

こうした情報量の豊かさはハイクラスのイヤフォンを聴いている満足感を与えてくれるでしょう。後で比較しますが、マベユニから情報量もあがってより生々しくなったように思いますが、これもカスタム化のメリットで表現できるダイナミックレンジが広いからですね。
マベカスさんの一番の売りは独特のダイナミック+BAのハイブリッド構成による低音域の豊かさと鋭さの両立ですが、マベカスさんの良い点はそれだけではなく、高域の明瞭さ、情報量の豊かさが調和してレベルの高さを感じさせるところです。
また単にモニター的な引いた客観性というよりも、音楽的な魅力もあって主観的に音楽を楽しめます。

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Maverick CIEM + AK380

AK240でも最高レベルの音を聞かせてくれますが、AK380でも驚くことに性能がこのままアップしていっそうありえないような音空間を聞かせてくれます。
実際にAK380の性能を引き出すために第一に考えるべきイヤフォンだと思います。AK380の最新DACの音の鮮明さを余すところなく伝えてくれるでしょう。
PAW Goldでもモニターリファレンス機的なとても整った音の世界をそのまま再現してくれ、マベカスのバランスの良さを聞かせてくれます。

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Maverick CIEM + PAW Gold, CDM

また、こうした高性能機だけではなくiPhoneと組み合わせても十分に楽しめる鳴らしやすさも兼ね備えています。Apple Musicをカジュアルに聴きたいときにiPhoneに直でつないで「はじめてのディープパープル」プレイリストなんか聞いても冒頭のスモーク・オン・ザウォーターの特徴的なベースリフを楽しめることでしょう。
マベカスさんとContineltal Dual Monoはまた別に記事にする予定です。

*マベカスさんとマベユニさん

マベカスさんの進化を聴くために、マーヴェリック・カスタムとマーヴェリック・ユニバーサル(もとのマーヴェリック)をAK240を用いて、同じ曲で比べてみます。
まず感じるのは細かなところよりもまず全体的な音質レベルがマベカスの方がレベル上であるということが感じられます。ここではひとレベル違うと言っておきますが、ひとによっては二段違うと言うかもしれません。マベユニでも全体のまとまりは良いのでマベカスと比べなければ、やはり良いイヤフォンだと思います。しかし同じドライバーとはいえ、カスタム化と巧みなチューニングはそれほどの差をもたらしてくれます。

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Maverick IEM & CIEM

まずマベユニではパーカッションの連打などで音の鈍さを感じます。またマベカスの持つ圧倒的な情報量もユニバーサルでは減退して聞こえます。
高音域はマベユニでも綺麗ですが、マベカスのような音の芯の強さ(SN感の良さ)が感じられません。そのため上に伸びていく感じがちょっと劣ります。
ただ二者を比べると音の個性が異なる点もあります。たとえば楽器やヴォーカルの密度感についてマベカスが濃く高く、マベユニはぱらっとして薄めに聞こえることです。このためマベカスは主観的でマベユニは客観的に聞こえます。また能率もやや違い、マベカスのほうが少し鳴らしやすく感じます。
マベカスの場合は音の主張が強いので、曲によってはちょっと薄口のマベユニの方が曲の構成が見えやすいということはあるかもしれません。一方でやはりマベカスさんの音再現の密度感・濃さは音楽を躍動的な魅力を伝え、オーディオマニアとしても圧倒的な再現力のありえなさが楽しめると感じられます。

*マベカスさんとリケーブル

マベカスさんはカスタムでは一般的な2ピンタイプのプラグでリケーブルができます。このさいにオリジナルのマーヴェリック(マベユニさん)ではプラグ面が凹の旧UEタイプでへこんでいるタイプしか選べませんでしたが、マベカスさんではフラットなものと従来通りの凹タイプが選べます。私のはフラットです。
RE1000のところでは書きましたが、凹タイプだとたまに使えないケーブルがあります。はまれば凹タイプのほうが安定性は良いと思いますが、マベカスを買うようなマニアの人はいろんなケーブルを持っているのでフラットタイプをお勧めします。またここが選べるのも実質的なマベカスでの改善点といえると思います。

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Maverick CIEM + AK380 + Beat Super Nova

ケーブルをBeat Super Novaと変えてみましたが、まずノーマルのマベカスさんでもう少しほしいと思っていた横方向の音の広がりが大きく改善されるとともに、よりクリアで音質のリアルさがさらに生々しく感じられるようになりました。良録音アカペラの合唱曲なんか聴くと生々しさに、口を唖然と開けたままになってしまいますね。ヴォーカルのハミングやため息など細かいニュアンスの再現は自然でいてかつ高度な再現力です。ひとことでいうと「リアル」ですね。
またマーベリック兄弟の長所であるベースインパクトの鋭さもいっそう磨かれます。良い面はさらに伸びて、改善点はきちんとカバーされるというなかなか良い組み合わせです。

このほかにもJabenのSpiral Strandの2.5mmバランス使用などもバランスの効果ともども一ランク音質を向上させてくれ、全体の帯域バランスを崩さずに整っている良い組み合わせでした。
このクラスのIEMを買ってリケーブルしない人はあまりいないと思いますが、マベカスさんはリケーブルの期待にも存分に応えてくれる伸びしろもあります。ノーマルでも十分すぎるほど良いんですが、さらに音を自分好みに変えるられ素性の良さもありますね。

* まとめ

端的にいってマベカスさん(+Beat)はいまの私のAK380とのお気に入りペアになって持ち歩いています。AK380とマベカスさんの組み合わせは今年のハイエンドクラスでのスタンダードになるのではないでしょうか。

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この組み合わせはぜひ一度聞いてみてあごを外してほしいですね。こんな人を驚かすような再現力があるのに、音のなり方があくまで自然なこともよい点です。
宮永さんは「求めたものは、"リアル"。これに尽きます。」と言っていました。さらに「チューニングがリアルに近づくと、"良い音源""悪い音源"というのが露わになってしまいますが、"良い音源"を遜色なく"リアル"に聴くというのが、私個人としての一つの愉しみでして、音楽との出会いに感動を覚えるので、下手にイヤホンの中で"フィルター"を作るような事は避けました。」と語っていました。
そのリアルさという、シンプルでいて高い目標はマベカスさんにおいて十分に達成されたのではないかと思います。
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2015年07月23日

HiFimanのダイナミックドライバー採用カスタムIEM、RE1000

HiFiman RE1000はHiFimanブランドでは初のカスタムIEMです。HiFimanではいままでにもRE600のような高性能イヤフォンを活溌してきましたが、このカスタムIEMを出すにあたってはUnique melodyとの共同開発となります。

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*RE1000の構成

RE1000の大きな特徴はフルダイナミックドライバーを採用しているということです。最近ではBAとダイナミックのハイブリッドは増えてきましたが、ダイナミックドライバーだけでのカスタムIEMの構成は珍しいといえるでしょう。

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RE1000では9mmと8.5mm口径のダイナミック・ドライバーを2個使用しています。この二つは100hzという低い領域ででクロスオーバーでつながれるのがポイントです。つまりスピーカーに例えるとフルレンジ+サブウーファーという構成になるわけです。
つまり一基のドライバーはメインとなり、メインは事実上フルレンジと考えてよいわけです。こちらはたしかRE600のドライバーをベースにしていると思います。もう一方の100Hz以下を担当するベースドライバーは新設計です。

*なぜハイブリッドではなくフル・ダイナミックなのか

この方式では音質的にはスピーカーの世界で得られるようなサブウーファーのメリットも享受できます。つまり単に低域の量感が確保できるということだけではなく、中高音域の音質向上や音場感の向上にもつながるということです。

なぜハイブリッドではなくフル・ダイナミックを選んだのかという理由をCEOのFang Bienに聞いてみたところ、HiFimanはダイナミックドライバーで高性能を追及してきており、RE600ではシングルドライバーでトップクラスの高性能の評価をHeadFiなどでは獲得している、そこに超低域用(サブウーファー的)にドライバーを加えることで可能性を感じたということです。さきに書いたように低域だけではなく音場や中高域も改善されるだろうというわけです。

そしてBAに対してダイナミックドライバーはより音楽的であり、歪みの低さも十分にBAに対抗できるとのこと。
また周波数特性の狭いBAに対して、ダイナミックならば2個のドライバーでBAの5〜6ドライバーモデルよりもコンパクトに設計できるということです。これは快適性も向上させることができます。

この方式のメリットのひとつはハイブリッドに比べると特製の同じドライバーを組み合わせることによるクロスオーバーのカバー範囲がスムーズであるということが挙げられます。(下図)
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左がハイブリッド機のイメージ、右がRE1000

* なぜいままでダイナミックドライバーを用いたカスタムIEMは少ないのか

これはハイブリッドでも同じですが、カスタムIEMでダイナミックというのは意外とありそうでなかったのには理由があります。それは端的にいうとカスタムIEMのような構造上完全にクローズしたシェルの場合にはダイナミックドライバーのベント問題があるからです。
一般的なイヤフォンでもカナル型でダイナミックドライバーならばベントは必要ですが、デザイン的に違和感ないように処理することができます。ところがカスタムのような、あるいはカスタム系の造形のユニバーサルの場合には構造上密閉されたシェルになるため、ベントのための穴をあける工夫が必要となります。反面でBAドライバーであればこうした問題はないので、特にベントをあける必要はなくなります。つまりカスタムIEMでBAドライバーがよくつかわれるのは音を細かく再現するという点のほかに、BAでなければならないベントの問題があったということも言えます。

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RE1000のベント孔

なぜダイナミックだとベント穴が必要かというと、閉鎖空間における鼓膜とダイアフラムの剛性の問題のようです。通常PET(マイラーなど)で作成されるダイナミックドライバーのダイアフラムは弱いので閉鎖空間での鼓膜と空気の剛性の問題があり十分な振動ができなくなってしまいます。そのため空気をベントで逃がしてダイアフラムの動ける余地を作ってあげるわけです。いっぽうでBAドライバーの場合はダイアフラムが金属で剛性が高いのでこうした問題が起きにくいということのようです。
イヤフォンにおいて鼓膜とダイアフラムの関係は見過ごされがちですが重要です。たとえばCardasはダイナミックドライバーの直径が鼓膜と同じ大きさの時にもっとも効率的であるという特許を出していたと思います

RE1000ではフェイスプレート部分にベント穴が開いています。この問題はハイブリッドでも同様で、前に書いたJustear MH1も背面にベント穴が5つ開いています。Marverickでもベント穴があります。
このようにカスタムシェルにダイナミックドライバーを採用すると完全密閉にはできませんが、これを利用して音の調整を図ることもできます。

* RE1000到着

RE1000はカスタムなので耳型を取得しますが、ここはまた東京ヒアリングケアセンターの大井町店で取ってきました。
実際の製品ではHiFiman JAPANが取り扱いを始めるまでは、直接HiFimanに耳型を送りますがここでは英語でやりとりが発生すると思います。HiFiman Japanが取り扱いを始めてからは日本のHiFiman Japanに日本語でやりとりをして送付するということになると思います。私はデモ用ですが、直接中国に送りました。

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実際に届いたユニットは艶消し黒で中のドライバー等はわかりませんが、ベントは空いていますね。
すでに手慣れたUM製ということもあり、シェルの出来はよくて耳へのフィットもよく遮音性も高くできています。ベントがあるので外の音が筒抜けで聞こえるということはありません。ここはなにか処理がなされていると思います。

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製品版では多種なカラー指定ができます。

そしてRE1000で感じるのはとても軽いということですね。これは快適性を上げています。
また、音の出るポートは一穴ですがかなり広く開口部が製作されています。

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* RE1000の音質

はじめはAK240などで聴いてみました。RE1000で聴いてみてまず感じるのはベースが重い、ということです。ベースの量感が多いというのはよくありますが、RE1000の場合は多いというより重いと感じます。低音域の質がやはりいつも聞きなれているマルチBAとは違いますね。低音域がヘビーでパワフルです。これはいままでのマルチBAではなかった感じで、CIを2基使ってもこういう感じにはならないでしょう。やはりダイナミックらしい個性を感じられます。新開発というサブウーファーも効いているんでしょうね。ドラムスやパーカッションの打撃感が個性的で重厚さと迫力があります。
ヘビーロック、エレクトロ・クラブ系の音楽だと今までマルチBA機では感じたことがないくらいのベースやドラムスの破壊力に打ちのめされる感じでしょう。
一方で高音域も十分シャープで、中音域も明瞭な再現性があります。ここはRE600譲りの高性能でしょうか。

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RE1000とAK Jr.

全体的な音の印象ではBAに比べると線は太めですが、シャープで切れ味が良く、音の歯切れも気持ちよくシャープです。また音がスムーズで滑らか、暖かみがあります。この辺もBAに比べたダイナミックの良さと言えますね。中域は肉感的に艶っぽく、女性ヴォーカルが心地よく聴こえます。ただ曲によっては少しベースがかぶるかもしれませんが、ヴォーカル自体は鮮明です。
全体的な音のレベルでも同価格帯のマルチBA機と勝るとも劣らないでしょう。

そして立体感・空間表現もなかなかすぐれています。音場も程よく自然に広がり、バーンイン後はかなり広く感じられます。オール・ダイナミックなのでエージングで音はかなり変化しますが、はじめのころの荒々しさもちょっと取っておいてほしいところでもあります。
この立体感の良さはメインがフルレンジ一発で位相の問題が少ないからか、あるいはサブウーファーの謎の効果か、ちょっと面白いところです。以前オーディオショウでソロバイオリンの曲でサブウーファーの有り無しという聴き比べをやっていて、ソロバイオリンだけでもサブウーファーの効果があるのにちょっと興味を持ちましたが、そうした倍音かなんかの効果というのはありかもしれません。

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プレーヤーやアンプの性能差が分かりやすいので、いろいろとプレーヤーを変えても楽しめると思います。
全体に文字通りダイナミックでメリハリがあるのでiPhone直でも十分楽しめます。iPhone直でも太いベースラインと迫力を楽しみたい人にはお勧めです。AK240との組み合わせではバランスの取れた感じがします。AK Jr.も良いですね。

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iPhone + Astell&Kern AK10との組み合わせもなかなか良好で、Apple Musicを楽しく聴かせてくれます。ダイナミックなのでDENON DA10のようなパワーのある外付けポータブルアンプを使うことでより迫力あり、さらに暖かみのあるオーディオらしい音を出すこともできます。
もちろんAK380やPAW Goldなど高性能のDAPと合わせることで、なかなか個性的で迫力のある音世界を演出することができます。

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* RE1000とリケーブル

RE1000は2ピンでリケーブルすることができます。プラグ穴が凹んでいる旧UEタイプなのでちょっと気を付ける必要はあるかもしれません。
BEATはOKでした。Beat SuperNovaを使ってみたところ、音がさらに洗練されて高品質になり低音域はよりバランスが良く、帯域バランスも改善したように思います。標準のケーブルも新設計のものでなかなか悪くないのですが、帯域バランスにいささか影響があるようには感じられます。リケーブルすると優等生感が増しますね。
Estron Linumは残念ながら入らないようです。Whiplashは入ります。ここはさすがHeadFi文化の製品です。TWagなんかはもう少し透明感がほしいというときに良いかもしれません。

* まとめ

RE1000の市場想定価格は予価90800円(税込)です。海外価格は$699ですが、為替と日本語サポートを考えるとなかなか良い値段ではないでしょうか。日本ではHiFiman Japanが取り扱います。HiFiman JapanのFacebookページは下記リンクです。
https://m.facebook.com/HIFIMANJapan?refsrc=https%3A%2F%2Fwww.facebook.com%2FHIFIMANJapan

マルチBAとは音の個性も違うので一味違うカスタムIEMを求めている人、ダイナミックの音でカスタムがほしい人、重厚なベースを望む人などにお勧めです。
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2015年05月19日

Just ear MH1テイラーメイドオーダーの実際

私のシンガポールの知り合いがヘッドフォン祭に来たついでにMH1をオーダーしたいというので日本語サポートがてら付き合うことにしました。その始終をJust ear MH1フルカスタムオーダーのレポートとして書きました。一部撮影不可の部分もありますので念のため。

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Just earはソニーのカスタムIEMということで話題となった製品で、XJE-MH1はいわばテイラーメイドのフルオーダー、設計者の松尾氏自らがユーザーの好みに合わせてチューニングをしてくれるモデルです。XJE-MH2はあらかじめ決められた3タイプの中から選ぶことができるモデルのことです。
当初の想定とは異なって高価ながらMH1の引き合いがとても多いということです。MH1はすでに国内はもとより、アジアを中心にした海外からも多く引き合いが来ているということで、今回の彼が海外第一号ではないようで残念そうでした。
Just ear 製品は東京ヒアリングケアセンター青山店でのみ注文ができます。Just earは正確にいうとソニーエンジニアリングの製品ですが、ソニーエンジニアリングはもともとソニーグループの中で設計を担当する部門であり、営業や販売部門をもっていません。その点を東京ヒアリングケアセンターがカバーしてくれるということです。東京ヒアリングケアセンターは私もカスタムの耳型をとるときにはお願いしているところで、この分野においては日本でも随一だと思います。

まず初めは他のカスタムと同様に予約を取ります。下記のホームページにオーダーの概略が載っています。
http://vernalbrothers.jp/just-ear.html

注意すべきはMH1オーダーの場合は二回来店する必要があるということです。まずは他のカスタムと同じく耳型の採取です。ただしMH1の場合はこの際に松尾氏自身が同席して、音の好みを細かく調査してそれに合わせたチューニングをしてくれます。
この1回目はその音の方向性を決めるのがメインで、二時間ほど要します(実際は一時間半ほどでした)。このときはシミュレータソフトを使用します。
この際は松尾氏も同席する必要があるため、予約は平日夜か土曜になるそうです。たとえば今回は月曜の18:00-20:00でした。

そして二回目は納品時で、このときに実際のイヤフォンを調整し、アコースティックチューニングを行います。それで最終納品となるわけです。

* インプレッション採取と試聴機レポート

一回目の予約にもとづいて店を訪問するとまず注文を行って支払いをすませます。次にインプレッション採取を行います。

今回の発注者がインプレッションをとってるときに、私は試聴機を聞きながら松尾氏に話をうかがいました。

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Just earの開発のきっかけをお聞きすると、松尾氏はソニーのイヤフォン開発において耳型職人をやりながら人の耳の形は様々なので、一種類のヘッドフォンで全てのお客様をカバーするのは難しいと考えていたそうで、それがカスタム開発のきっかけとなっていくそうです。

Just ear MHシリーズの技術的な特徴ですが、まずBAとダイナミックのハイブリッドであるということです。
BAとダイナミックドライバー間では通常のマルチウエイカスタムのような電気的なクロスオーバーはなく、音響フィルターと音導管などアコースティック要素のみで周波数調整をしているということです。
もうひとつハイブリッドタイプでポイントとなるのはダイナミック側のベント機構です。Just earでは背面にベントのポートが6穴あります。これで音のチューニングが可能です。つまりJust earでの各モデル間の音の違いは主に背面ベントと音響フィルターなどのアコースティックパラメーターを調整することで行われるということです。

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背面のベント穴

Just earのクロス帯域や各ドライバー間の遅延時間を考慮したうえで、(たとえばFreqPhase的な)位相に対しての特別な配慮というのはないそうですが、BAドライバーをあえて一基としているのは位相に対しての配慮でもあるということです。

試聴機はまずMH2モニターから聴いてみましたが、音が自然でバランス良いという印象でつながりがスムーズに感じられます。また音の広がり方も自然で好ましく感じられます。音楽を聴きやすくあわせやすい素材感の良い音、という感じです。モニターとは言いますがハイブリッドの良さからか、普通に音楽をきいて楽しめる音です。
次にMH2リスニングを聞いてみると、ベースがややゆるく量感は多めであることに気が付きました。モニターのベースはタイトでバランス良い感じですが、リスニングでも過剰な演出は感じられません。
これが面白いというMH2クラブを聴いてみると、たしかにこれはモニターとリスニングとはかなり異なった音で、全域でかなり元気な音になっています。ベースも量感が増えていますが、それでも切れがあってゆるさはあまりありません。迫力あるといったほうがよいでしょうか。低域ボンボンのクラブではなく完成度の高いクラブサウンドという感じです。
全体に完成度が高いというかバランスが良い感じですね。たとえクラブであっても破綻なくHiFiで元気という感じです。
こうしてMH2の各タイプを聴くとすごく音の再現幅が広いので、この中でMH1で自分の音をひとつ定めるというのは面白そうな気がします。

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MHシリーズではまず中域ありきのソニー的な考え方があって、中域と低域の境目に注目してヴォーカル帯域にかかるのを防ぐという方針があり、それからモニターは音楽製作者向け(CD900STライク)、リスニングはより広く一般的、ロック・クラブやアニソンなどポップはクラブモデルという考えで個性を作っていったようです。松尾氏はまたスピード感も大切にしたと語っていました。
モニターとリスニングは兄弟のような感じですが、松尾氏によるといまはプロ用もリスニングに寄ってきて、低域の量感も増えているのではないかということでした。ですので、いわばモニターはちょっと前の日本、リスニングはいまのロンドンのスタジオのようだとも言えるのではないかということです。


さて、試聴を終えてインプレッションは出来たかいなと戻ってみると、なんと今回ユーザーの彼が謎のヘッドギアのようなモノをかぶっているので驚きました(撮影不可)。私もかなり多くインプレッションを取ってきましたが、はじめてみました。ちなみにバイトブロックを噛むのは同じです。
これは耳の中でドライバーの位置などを配慮してインプレッションを取るための装置ということで、これをかぶせて位置決めをし、これもまた見たことないピストル型の注射器のようなものでインプレッションを取るということです(撮影不可)。

* 松尾氏によるユーザーへのヒアリング

さてインプレッション取得が終わると松尾氏によるユーザーへのヒアリングに移ります。これは前に書いたように一回目の音の方向決めのためです。(調整は二回目訪問時)。
ヒアリングの前にまず飲み物はコーヒーにするか、お茶にするかを聞かれます。理由はあえて書きませんが、ここはコーヒーを取ることをお勧めします。

そして松尾氏からいくつか質問をします。たとえば「どんな音楽をいつも聴くか?」、答えはたとえば「ジャズやクラシックなどのアコースティック系」など。次には「どんな再生環境・プレーヤーを使うか?」。答えはたとえば「家ではデスクトップPC、外ではAK240」などです。
その次には松尾氏がノートPCに某社オーディオインターフェースがついた機材を用意します(撮影不可)。オーディオインターフェースにはMHユニバーサルIEMが接続されています。
これはアコースティック変化をシミュレートする機材で、ノイズキャンセルヘッドフォンのソニー開発機を応用しているということです。ソニーグループのアドバンテージを使ってるということですね。
そしてそのオーディオインターフェースに手持ちのポータブルプレーヤーがあればそれをアナログ接続します。もし手持ちにない場合にはJust ear側で再生機の用意はあるということですが、MH1をオーダーするときはいつもの音源をいつものDAPに入れて持ってきた方が良いと思います。
次にMHユニバーサルIEMをユーザーが耳につけ、さきほどのDAPを再生し、松尾氏がPCを操作します。これで再生音をそのPC(シミュレータ?)で信号処理され、その結果をユニバーサルMH機で聴いて、ある決まった個性の音が出るようです。その好みを松尾氏に伝えるということになります。
たとえば「この音源の印象はどうですか?」、ユーザーが「超低域がもっと出て欲しい」と答えます。松尾氏がそれを調整します。「これでよいですか?」「はい、良いです」という感じです。
また次には「高域はどうですか?クリアですか?」。そこで答えがあり、松尾氏がパラメーターを変え、「この前の音といまの音のどちらが良かったですか?」。それにユーザーが答えるという感じです。

こうした受け答えがあり、このヒアリングとシミュレーター?による調整でだいたいの音の方向性を決めて実機のカスタムIEM本体を製作し、二回目に実物をいじりながらアコースティックチューニングにより調整するとのこと。二回目はだいたい1.5ヶ月後で、また松尾氏が担当するということです。
松尾氏が多忙な中、直接個人のために出向いて自分だけの音を設定してくれるということを考えるとプラス10万円というMH1の価格も納得できるのではないでしょうか。

実際には、"ソニーのあの機種は私が担当したんですよ","そうですか、私はあれ持ってますがいいですよね〜"、などと和気あいあいと雑談も交えつつ進めていきますので、このヒアリング自体楽しみながらできるのではないかと思います。このときの彼などはメモ帳にステムの形状違いなども書き出して熱弁をふるって松尾氏とお話していました。これもソニー好きならではの楽しみな時間ですね。この彼は訪問前も店から出た後もしきりにエキサイティング!と言っていました。
終わった後にこの彼とも話をしたんですが、彼がJust earを注文した理由というのは作りも含めた製品トータルとしての魅力があるからだそうです。そうした大手の強みと、テイラーメイドという松尾氏の理想が結実したMH1カスタムはあらたな国産カスタムの選択として面白いものとなるでしょう。
posted by ささき at 22:28 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月20日

新興カスタムブランド、EarWerkzのKickstarterユニバーサル

最近AurisonicsのRocketsや1964ADELのKickstarter記事を書きましたが、新興カスタムブランドであるEarWerkzもKickstarterキャンペーンを展開しています。
EarWerkzはアメリカの新しいカスタムIEMブランドで下記のHeadFiに記事があります。
http://www.head-fi.org/t/737233/earwerkz-a-new-ciem-company-discussion-thread
EarWerkzはProject Supraという名前で、一番売れているというカスタムiEMのEP2(2wayで1high,1low)のユニバーサル版をKickstarterで展開しています。
https://www.kickstarter.com/projects/512959633/earwerkz-supra-the-universal-custom-in-ear-monitor?ref=nav_search
一日で目標額を達成していますが、目標額自体が低く設定されているとは言えます。

EarWerkzはProという普通のカスタムIEMのブランドと、Heroというスポーツ用のイヤフォンのブランドがあって、それぞれに独自のプラグを採用しています。Proは耳巻き式でHeroはストレートで高耐久性です。Project Supraではrewardにどちらかのタイプを選べます。
またイヤチップにはComplyのT400を使うということです。
早割の$279が少し残っていますが、$299がKickstrter値段のようです。ただしもとのEP2が$399という値段ですからユニバーサルで$299は少し高いように思えますね。Rocketsとか1964ADELではもっと安く設定してありますので、リスク含みのKickstarter価格としてはやや高めです。目標額も低いし、クラウドファンディングというよりは普通のプリオーダーに近いように思いますが、イヤフォンのクラウドファンディング利用が増えてきたということ自体は興味深いものがあります。
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2014年11月09日

1964earsのKickstarterキャンペーンと耳を守るRealLoud技術

1964earsがKickstarterでクラウドファンディングのキャンペーンを始めています。
https://www.kickstarter.com/projects/1043330169/realloud-technology-that-saves-your-hearing-and-yo
これはADELのRealLoudという聴力保護を目的とした"第二の鼓膜"をショックアブソーバーにするパテントが採用されているところが目玉です。

これは下記のパテントの解説リンクによると3年ほど前に開発されたようですが、このリンクでは商品化の予定はないと書いていますので、それが今回実現したのがこのKickstarterキャンペーンなのでしょう。
このページによるとイヤフォンで塞がれた耳穴内で音を上げると鼓膜から内耳の蝸牛を通じて筋肉が過剰に反応することで実際の音のレベルを最大50dBは下げているということで、ユーザーはさらにボリュームを上げてしまうことになります。その耳の筋肉の緊張を取ることにより実際はより小さい音で聴くことができるので耳に与える悪影響が少ないとのことです。
http://www.gizmag.com/adel-could-eliminate-listener-fatigue/18653/

ただ上のリンクを見るとその仕組みは耳道に差し込む風船のようなものになっていますが、今回用いられているのはそうではなく"第二の鼓膜"はイヤフォン内の音導孔に据え付けられた可変式のベントのような実用的なものとなっているようです。これはADELモジュールというベントのようなもので、下記のように可変式の調整ノブがついています。
adel2.png   adel1.png   adel3.png
Kickstarterの解説動画より

これは1964ADELの下記ホームページの動画を見るとわかりますが、実際の音信号(Acoustic)の成分は通して、耳の筋肉を委縮させることになる音の空気圧(pneumatic pressure)は逃がすという仕組みによるもののようです。下の図で赤いのがpneumatic pressureで緑がAcoustic signalです。左の図が今までのイヤフォンで赤と緑が同時に鼓膜に到達して鼓膜に悪影響するものが、右のADELのベントを使うと、赤いpneumatic pressureがベントで外部に逃げているのがわかると思います。
http://www.1964adel.com/

adel5.png   adel4.png
1964ADELページの動画より

この技術は上の1964ADELページの動画の中でも言ってますが、耳を保護するというほかに音質を上げるということも述べています。それはさきに書いた耳の筋肉が委縮することが音質を下げる方向に働くからということのようです。Kickstarterの下の方のQAで音場がひろがるとか声が聞きやすいことが書いてあります。
HeadFi読むと追加情報がわかりますが、この薄膜の入った可変ベントを開けていくと外の音が聞こえるようになり、アイソレーションは落ちるようですが、このADELの効果を得るためにはいくらかは開けておかないとならないようです。完全に締めることでアイソレーションも得られますが完全に締めるとADEL効果は得られないようです。


それで今回のKickstarterの投資に対する対価ですが、1964ADELの製品としてかなり多くのラインナップが用意されています。
ADEL Ambient(2-12ドライバー)はAmbient12だと中高域6つ、低域6つというすごい構成です。ADEL Controlは9mmダイナミックでチップをひねることでベントの調整と低域の調整ができるようです。
1964|ADEL U-Seriesはいままでの1964earsのVシリーズカスタムをユニバーサル化したものです。よく考えると1964earsのユニバーサル自体が特記ものだったかも。またそのことでAmbientシリーズとは区別できると思います。U6だったら2low/2mid/2highという通常構成です。Ambient4だと早割で$250、U4だと$300です。U6はV6かV6Sのどっちに近いかというのはFacebookでV6Sに近いと答えています。
そしてカスタムの1964|ADEL A10/12も用意されています。いまだとまた早割が適用されているので、通常$1600のA12が$1200になっています。ただ早割残りがA12で470以上あるのでわずかというわけではありません。ちなみにもう最低限ゴールはクリアしているので商品化は確実です。時期はユニバーサルはみなCGなのでもわかるように、2015年5月です。ただしカスタムに関しては2015年2月には入手できそうです。
全体的にKickstarter早割で正規商品になったときのの50%オフ程度のようです。ところで早割のearly birdっていうのは"The early bird catches the worm"(早起きは3文の得)っていう英語のことわざからきています。

さて、耳の保護だけでなく音質向上的な意味もあるというならちょっと面白そうなのでなにかいってみたいところではありますね。
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2014年08月12日

カスタムIEMとダイナミックレンジ

先日須山さんFitEarの銀座ラボにお邪魔していろいろ話を伺いました。その興味深い話題のひとつに、ポータブルオーディオにおいてカスタムIEMがいかに録音の良さを引き出すかということがありました。

まず下の画像ですが、これはMacのWavelab7である音楽ファイルを取り込んで、オリジナル(左の方)とコンプレッサー(limitter AUプラグイン)をかけたもの(右の方)です。

dyna-1[1].jpg     dyna-2[1].jpg

オーディオを知っている人はコンプをかけてないオリジナルの左の方がダイナミックレンジが広くてよい録音であると言うでしょう。それは小さな音の情報と大きな音の情報の差が大きくて表現幅が広いからです。
これは確かにその通りです。ただし一つ条件があります。それは静かな部屋で聞く場合、ということです。

例えば戸外で聴く場合を想定して、ここに外来ノイズを入れてみます。外来ノイズの影響はリモコンで隠したところです。この小さな音の部分はノイズで埋れて情報がマスクされて聞こえなくなります。
これを防ぐためには音圧のかさ上げをします。つまりコンプレッサーをかける必要があります。そうすると小さい音の情報が表れて来ます(右図)。

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音楽は様々なところで用いられます。例えば有線放送でうるさい飲食店で音楽をかけるさいに歌詞がはっきり聞き取れるためには、このノイズに隠されたところを底上げするコンプレッサーをかける必要があります。つまりコンプレッサーをかけるのはよく言われる力感を出すという他にこうした意味合いもあり、一概に悪いとは言えないわけです。

では戸外でのリスニングにおいて、良録音のダイナミックレンジの広さを生かして、かつ小さな音も埋れさせないためには、外来ノイズを減らす、つまり遮音性を上げるのが最善であることがここからわかってきます。
だから遮音性の高いイヤフォンが外で聞くポータブルオーディオには必須となります。繊細な情報が詰まったハイレゾ音源を外で聴くなら特にそうです。そのベストな選択は個人の耳型に合わせられるカスタムIEMです。

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FitEar335DW + BlackDragon

実際のところカスタムIEMのように30dBも落とせるなら優れた防音室なみと言えます。このことから、戸外で高音質を楽しむためのカスタムIEMの必要性がわかってもらるのではないかと思います。
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2014年04月20日

台湾のカスタムIEMディーラー JM Plus(加煒電子)がヘッドフォン祭に登場

毎回国際色豊かなのもヘッドフォン祭の特徴の一つですが、今回はカスタムイヤフォンに強い台湾のJM Plus Electronics(加煒電子)が初登場します。ここは台湾に限らずさまざまな海外ヘッドフォン関係品やカスタムイヤフォンを扱っています。こちらにFacebookページがあります。
https://www.facebook.com/jmplus

今回持ってきてくれるのは下記の予定です。

1.Rhines custom monitors (Germany)
https://www.facebook.com/rhinescustommonitors

2.Clear Tune Monitors (USA)
https://cleartunemonitors.com/

3.Tube Fan Audio Design Cables (Taiwan)

4.Custom Art (Poland)
https://www.facebook.com/thecustomart

それと今日の最新情報ではRoothのユニバーサルタイプを持ってきてくれるようです。当初はLivezoner41 (Italy)も持ってきてくれる予定だったのですが、これは残念ながら見送りになったようです。

* Roothのユニヴァーサルは新型のLSX3?(ダイナミックx1, BAx2)だそうです

ヘッドフォン祭では3つのテーブルを使って10人くらいのスタッフとイヤフォンメーカーの偉い人も連れてきてくれるかもしれません。またスタッフには日本語の堪能な人を連れてくるそうなので、いろいろ聞いてみてください。日本のカスタムイヤフォン系のブログなどもよく見ているようで、いろいろと期待に応えてくれるかも。

下記にJM Plusから送ってもらった各メーカーの日本語解説を掲載します(私が訳したのではなく、はじめから日本語です)。

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Clear Tune Monitors

CTMの創設者Cesar は音楽プロデューサー及びコンサート会場の現場監督者であり、レコーディングやロックミュージシャンを手掛けていました。
Cesarの音楽における専門的な理解力や、様々な楽器に対する深い知識をはじめ、更には発表会場での音の調整や空間表現への熟練した経験を持っています。並びにレコーディングへの要求と使用機材の運用に対するこだわりが、多様な音楽性を持つカスタマイズヘッドホンに詰まっています。高品質で特色あるアーティキュレーション、そして良心的な価格でミュージシャン・DJ及び様々な音楽に携わる方へご提供致します。

CTMは中南アメリカでは既に誰もが知っているブランドとなっていますが、アメリカのロックミュージック界では新ブランドとして注目を集めています。その他のブランドがあまりにも商品を重視し販売設計している事に対し、CTMは特に音楽や感情を伝える事に重きを置いています。

最も魅力的な点はCTMには一般的なブランドの純粋なウッドシリーズとは一線を画した商品があることです。木質の特性を活かし、爽やかで温かなサウンドフィールドは自然な音で満たされることでしょう。

彼と芸術家が共にした努力は、唯一無二の芸術を生み出しました。近日中にメタリックグロッシー、艶消し等の特殊素材プレートもご選択頂けます。

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Custom Art

優れた心地よさのシリコン素材を採用し、自然で豊かな音を提供。
皆様にこれまでと違った体験をもたらします。Custom Art
一般のカスタム製品との最大の違いは防音効果がより優れている点です。精巧なシリコンが外部の雑音を大幅に低減するものの、製作の上でも非常に困難であるため、市場のごくわずかのブランドがこれを採用しています。Custom Art の創設者Piotr Granickiが長い時間をかけて研究とテストを繰り返し、プロフェッショナルな規格と一般のシリコンイヤホンカバーを発売。快適な環境で最高の音楽を楽しむことができ、カスタムイヤホン界にハイクオリティの新感覚をもたらしました。

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Rhines Custom Monitors

reach for perfection
Rhines Custom Monitorsはドイツのケルン(Cologne)にて設立され、ここに位置します。ケルンは歴史ある有名な文化都市で、文化的な下地が非常に深く根付き、現地の音楽はクラシックとモダンの要素が融合しており、同時に優れた血統のRhines Custom Monitorsを育みました
Rhines Custom Monitorsは音楽に対する幅広い経験を自負し、また長きにわたり、突出した精巧な手作業のクオリティによる信頼を誇りとしています。
Rhinesは競争ではなく、これまでにない完璧なものを創造し、イノベーションに力を注ぐことを重視し、デザインと技術の両側面において、ドイツ人の名誉を賭け、極限に挑戦しています。
Rhinesは現在の業界において広く知られ、精巧なドイツの工芸カスタムイヤホンを展開しています。Felix Reinschとそのチームは、プロの音楽業界をターゲットに最も信頼でき、極めて高いクオリティの精巧なイヤホンシリーズを生み出し、Rhinesは音と芸術が融合した素晴らしい模範となっています。
Rhines は魂のこもった製品を作るだけでなく、お客様に寄り添ったサービスを提供し、お客様と心から親しみ、そして喜びを分かち合います。
どの製品も心を込めて出来上がったもので、Rhinesの情熱と受け継がれる音楽を感じることができます。
Rhinesは至高の製品で音楽愛好家の皆様にご満足いただけるよう、研究とイノベーションに尽力し続けます。
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2014年03月02日

1964 Ears V6 stageレビュー

カスタムイヤフォンで最近人気を集める1964 EarsのV6 Stageを試す機会がありましたので、以下レビューを書いていきます。

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まず記事に入る前に簡単におさらいをしますと、ここでいうカスタムイヤフォンというのは個人の耳型をベースに最適なシェルを受注生産して製作するものをさします。対してユニバーサルイヤフォンというのは一般的なお店で買えるイヤフォンです(ユニバーサルとは汎用のという意味です)。そのためカスタムイヤフォンは一般にユニバーサルタイプより高価になる反面で最適な装着感と遮音性を実現できます。カスタムイヤフォンはプロミュージシャンが主に使うものでイン・イヤー・モニター(海外ではIEM、日本では通称イヤモニ)とも言います。しかしながらプロでなくてもオーディオ向けにもカスタムイヤフォンの高音質が人気を博してきます。

私がカスタムイヤフォンというものを始めて注文したのは2007年のUE11にさかのぼります。世界的にみるとミュージシャン以外でもUE10あたりからやっていた人も多いので早いわけではありませんが、それでもUE11のころから比べると現在のカスタムイヤフォンの情勢は大きく様変わりしています。そのころからHeadFiなどでもカスタムの世界は注目されてきました。
HeadFi的に海外のカスタムイヤフォンの世界を俯瞰してみると、大きく二つに分けられると思います。まず一つ目は老舗のグループです。この世界を創始したのはUEにいたジェリーハービーであり、ヴァン・ヘイレンのドラマーに制作した新しいイヤーモニターに端を発しています。
また、古くからイヤーチップの製作をしていたWestoneも老舗といえるでしょう。つまりUltimate Ears,WestoneそしてUEを出たジェリーが率いるJH Audioなどがこの老舗(あるいは大手)グループにあたるでしょう。カスタムではありませんがイヤモニという点ではShureも入れたほうがよいかもしれません。
もう一つは新興のグループです。これは2008年あたりにはじめはFreQとかLiveWirersなどが老舗グループに対して低価格を打ち出してはじまりました。しかしながら、これらはとても品質やサービスの点で問題が多く、そうそうに店じまいをしています。わたしもカスタムイヤフォンの出来には寛容なほうだと思いますが、FreQでは何度も手直しが必要でありうんざりした覚えがあります。
この辺の経験があったので、私は老舗グループ以外にはあまり手を出してはいなかったのですが、その間もカスタムイヤフォンの世界は進化していき、Unique MelodyやHeir、Nobleそのほか多くのメーカーが参入してきました。

HeirもユニバーサルのTZar 350などは試してみましたが、カスタムに手を出さなかったのはその辺もあります。
1964earsもそうした新興のブランドですが、今回1964earsのトップモデルであるV6 stageを試してみたところ音質・品質が共にとても高く上の新興ブランドへの考えが大きく変わりました。
こちらは代理店のMixwaveさんのサイトです。
http://www.mixwave.jp/audio/1964ears/1964ears.html

*1964 Earsとは

まず1964 Earsというユニークなブランド名称ですが、これは1964年がビートルズやローリングストーンズ、あるはフェンダーに代表されるように音楽のモニュメンタルな年だからです。つまり1964 ears(イヤーズ)を1964 year(イヤー)にかけているということですね。

創設者のVitaliy Belonozhkoはプロデューサー・サウンドエンジニアでありまた音楽家でもありました。彼自身がさまざまなブランドのカスタムイヤフォンを試しているうちにさまざまな長所や欠点に気がつき始めました。たとえばダイナミックドライバーでは中高音域に弱点があるが、バランスド・アーマチュアなら低域に問題があるという感じです。その辺を独自コンポーネントで解決する策を模索し始めたということです。つまり会社の成り立ちは既存のカスタムイヤフォン(あるいはイヤモニ)ブランドに不満があったということですね。そして独自に研究調査を開始したのが2008年で、1964 Earsとしてブランドを立ち上げたのは2010年の7月ということです。
ちなみにUE11が2007年で、JH13は2009年、UE18は2010年なのでカスタムイヤフォンがオーディオマニアにも盛り上がってきたあたりです。

会社の理念としては高品質のカスタムイヤフォン(イヤモニ)を手ごろな価格でミュージシャンとオーディオマニアに提供するというものです。1964 earsはカスタムイヤフォンが一部のロックスターのものではなく、高音質を求めるものだれしもが入手できるものにしたいということです。望むところはカスタムイヤフォンの標準となることです。

*V6 Stage

V6 stageは現在の1964 Earsのトップモデルです。
1964 Earsにはいくつかのモデルがあります。ここではV6 stageをレビューしますが、もうひとつV6というモデルもあります。このV6とV6 stageの違いというのは帯域レスポンスでV6 stageはwarmerということ。メーカーのほうではV6 stageはミュージシャン向けで、V6はオーディオマニア向けと考えているようです。(私はV6は試していないのでなんとも言えませんが)

V6 stageで採用されているCenterDrive技術というのはバランスド・アーマチュアドライバーにおいて、アーマチュアからダイアフラムに振動を伝えるドライブピンが従来のBAドライバーでは端のほうにあるのに対して、CenterDriveでは中心に近い位置にドライブピンを置いているというのが特徴で、それでセンタードライブと称しているようです。この効果としては低音域を効率的に出すことができるということです。
3D SoundというのもこのCenterDriveが寄与しているということです。

*インプレッション

届いたイヤフォンはペリカンケースに入っていてオリジナルの紙バンドで止められているのもユニークだしブランド性を感じます。ステッカーがついているのはアメリカ製品によくあるので、これもアメリカ製をよくあらわしていると思います。

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ケースにはクリーニングキットや標準プラグアダプタ、ケーブルクリップなどが入っています。ケーブルのコード長は1.2mです。プラグはカスタムイヤフォンとしては一般的な2ピンタイプで幅広いリケーブルも可能です。またこのプラグの精度もかなり高く、しっかりはまっているのでふつうはなかなか外れにくいと思います。この点リケーブルにも多少しんどいんですが、ミュージシャンなんかは抜けにくいので安全でしょう。

V6Stageを手に取ってみるとまず驚くのはシェルの透明度がかなり高いことです。気泡もなく完成度が高いと感じますね。

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実際にUE18と比べてみましたがこのくらいの差があります。まあUE18は年季が入ってはいますが。

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1964 Earsではシェルはドイツ製のアクリル素材を使用していて、何工程かのパフ研磨で仕上げているそうです。また音導孔の穴もトリプルボア(3穴)を実現しています。これは音の立体感などに大きく貢献しますね。かなり技術力の高い会社だと思います。

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まえがきでも書きましたが、私はカスタムイヤフォンの新興グループの初期の失敗からいささか偏見を持っていたところがありましたが、この時点でかなり見方が大きく変わりました。標準ケーブルも見た目になかなか品質が高そうです。シェルやプラグなどはUEやWestoneに比べてさえトップレベルです。
装着してみると、すっと気持ちよく耳にフィットします。ここがカスタムでは肝心なところですが、シェルのモールドは作りも装着感もかなりハイレベルだと思います。

音質は第一印象からかなり良いものです。透明感が高くすっきりして、曇りがなくクリアで見通しの良さが印象的です。解像力も文句ないですね。音の個性としては軽快感も感じられます。
いくつかDAPを試してみましたがAK100MKIIがお勧めです。

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AK100MKII + V6 stage

次に気が付いた点は音の広がりが良く立体感があるというところです。特に楽器の音が鮮明かつ明瞭でわかりやすいということと、定位感がきっちりと感じられることで楽器の位置関係がつかみやすいということです。このことによって三次元的な音の遷移も明確になります。特に気に入ったのはヴォーカルが際立って浮き上がって聴きやすい点です。歌詞の明瞭感も高いですね。
ミュージシャンのことは分かりませんが、音はバランス良く、ヴォーカルが聴き取りやすいのでモニターにも良いかもしれません。

もうひとつのV6Stageの良さは帯域バランスが程よいことです。標準ケーブルだと適度なピラミッドバランスで適度な低域の量感により音楽の雰囲気表現も厚みが出てきます。ベースが強い印象はあまり大きくなく、JH13同等か少ないくらいです。十分な量感はあるが誇張されて中音域に悪さをしているようではありません。超低域はよく低いところまで沈んでいるようです。本来的には軽快な音調のイヤフォンだと思いますが、このことにより音楽表現に多彩さが加えられます。中高音域はきれいな印象ですっきりと上に伸びていきます。アコギやヴァイオリンの音色もよいですね。

楽器の音は低域でも立体感を感じられます。ベースはタイトでアタック感、インパクトが十分あります。私がよく低域のリファレンスに使うBraian BrombergのHandsのソロアコベースで聴いてみると細かな解像力の高さとともにソリッドなベースの重みとインパクトもしっかりと伝わってきます。低域は豊かな感じですね。
ヘルゲリエンのジャズトリオでは楽器の分離感と定位感に優れ、楽器の位置がよくわかります。またさきに書いたようにピラミッドバランス的な程よい帯域バランス感が音楽を心地よく感じさせます。標準ケーブルだと低域に重心があるように思います。ジャズトリオのノリの良いリズム感も良好で、気持ち良くグルーブ感に浸れますね。

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iPhone5s + V6 Stage

次にAK100MKIIのように高性能なDAPではなく、iPhone5Sでも聴いてみました。再生アプリはNeutronで聴いてみましたが、やはり豊かでインパクト感のあるベースがよい下支えとなって音楽を豊かにします。また中音域や高音域もよく、クエンティン・サージャックの新作Piano Memoriesのプリペアドっぽい硬質なピアノの響きも美しく再現してくれます。ちょっとごちゃごちゃしたポップ曲なんかでも楽器やヴォーカルが埋もれずによく聞き分けられます。渋谷慶一郎のThe End - Aria for Deathなんかも電子音のビートとたどたどしいボーカロイドの描き分けがよくできていてかっこいいですね、かつリズム感もよく音楽に乗っていくことができます。
iPhoneで圧縮音源でも悪くありません。音の作りがよくまとまっているのでiPhoneから直でアンプなどを通さずでも満足できると思います。V6 Stageの空間表現の巧みさはiPhoneでも十分発揮されます。

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V6 stageの標準ケーブル

ここまでは標準ケーブルでの試聴ですが、次にリケーブルして聴いてみます。
ケーブル差し替え時のピンのはまりは固めで作りの良さと加工精度の高さを感じます。Heirのようにゆるいかきついかばらつくというのではなしに、適度な硬さであると思います。おそらくリスニング中や演奏中に不意に外れるということはないでしょう。

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ケーブルをWhiplashのTWagに変えると全体に透明感が増してよりシャープになるとともに、やや低域が抑えられるのがわかります。おそらく標準ケーブルが低域を少し増していると思います。素のV6 Stageはもっとフラット傾向なんでしょう。

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HiFi M8 + Beat SuperNova + V6 stage

Beatのバランスケーブルを使ってみても面白いですね。ただでさえ広いV6Stageの表現力がHIFiM8+バランスで加速するかのように豊かな音空間を作り出してくれるのもなかなか独特の世界です。

いろいろ試すとEstronケーブルのVocal(2pin)が相性が良いと思いました。Estron Vocalケーブルは中音域だけではなく全域のレスポンスが巧みで透明感も高いのでV6Stageとはよく合いますね。楽器の音がきれいに広く伸びて行く感じが秀逸です。低域もこの程度が程よい感じだと思います。
また、より切れ味が鋭くなる感もあります。パーカッションのインパクトも切れよく、打撃感がよく伝わってきます。もちろん名の通りにすっきりとして聴きやすいヴォーカルはV6stageの魅力をよく引き出します。
V6 Stage+Estron(Voval)とiPhoneなんかもかなり良い組み合わせで、iPhone単体でこれだけの音が出ることに驚くでしょう。もちろん超高性能のAK240でも優れた性能を聞かせてくれます。AK240で再生すると楽器の音再現がとても美しく、中高音域でありえないような音空間が再現できますが、低域の迫力も一級でワイドレンジを感じさせます。(Estronの中ではBassとVocalがワイドでMusicがナロウです)

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AK240 + V6 stage + Estron vocal

標準ケーブルの音バランスも好ましいので、ここは好みではありますが、本来のV6Stageの良さはEstronとの組み合わせのような気がします。V6Stageはこのように少しいじっていくだけでもカスタムイヤフォンの中でもかなりトップクラスの音になると思います。

他のメーカーと比較すると価格も手ごろさと、音の透明感や軽快感、シェルの透明感などで優位感があると思います。
いままでは老舗グループのUEやJHA以外には手を出さなかったんですが、知らなかったのがもったいなかったと自戒しました。1964 Earsは音質・品質ともそうした老舗グループに立派に匹敵する優れたカスタムイヤフォンだと思います。


    
posted by ささき at 11:17 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月16日

ACS T1 - ソフトシェルのカスタムIEM

数年前はカスタムイヤフォンというとポータブルアンプと並んでかなりマニアックな製品でしたが、最近はどちらもずいぶんと市民権を得てきたように思います。とくにカスタムが取り上げられる機会が多いのには驚きます。そうならばより様々な製品が出てきても良いでしょう。

多くのカスタムイヤフォンはアクリルのハードシェルによって耳の形にシェルを成形します。ところが最近Jabenで取り扱いを始めたイギリスACSのTシリーズはソフトタイプで、医療グレードのシリコンを使用しています。
http://www.acscustom.com/uk/index.php?option=com_content&view=article&id=30&Itemid=45
耳道は顎の動きによっても変形するので、ソフトタイプのシリコンはハードタイプのシェルに比べるとそうしたズレを吸収してよりピッタリとしたシーリングを提供するというわけです。
今回紹介するのはACS T1というトリプルドライバーの上級モデルです。

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カスタムイヤフォンらしくこうしたケースと付属品がついてきます。
手入れ用のジェルがついてるのが珍しいですね。

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カスタムというとカラーリングも楽しみの一つですが、ACSでもさまざまなオプションがあります。
今回はマーブル模様で右がレッドとイエロー、左がターコイズとイエロー。表面にはACSのロゴをいれてくれとオーダーしましたが、その通りの仕上がりです。
以前の低価格カスタムのようなバタバタはなく、思った通りのものが来ました。Jabenを通していますけれども、品質は安定しているようです。FreQとかLive Wiresなどはなかなかひどい目にあったので大手・国産以外のカスタムには不信感があったんですけど、ACSはそういう問題もなさそうです。

*シリコンによるソフトシェル

さて注目のソフトシェルですが、ゴムラバーのような柔らかいシェルでいままでにない不思議な触感があります。装着もハードシェルよりも耳全体にゆっくりはめ込んで行く感覚でいれて行きます。慣れが必要ですが私の場合は上側から始めて耳穴にはめ込んでいくとうまく装着できました。もちろんカスタムですからここは人によって違うでしょう。
装着すると耳に吸盤で密着するようなフィット感があります。吸い付くような感じで隙間がピッタリなくなる感じですね。実際外すときにはピッタリはまって外せないかと焦ったくらいです。アクリル製の普通のタイプはうまく耳型ができてないと隙間感や痛さがあるけど、これはそうした多少の遊びを柔らかさで吸収してくれる感じですね。かなりぴったりとした装着感を得られます。

耳に巻くメモリーワイヤーはないのですが、ケーブルが柔らかいので無理なく耳に巻けます。残念なことにケーブルは交換は出来ません。

*音質

T1は音質もかなり上質です。とても滑らかで適度なウォーム感があります。音楽的に聴いて楽しいタイプですね。高能率なのでアンプはLOWゲインをお勧めします。
それでいて高域は繊細でバランスド・アーマチュアらしい細やかさと切れの良さがあります。音色も良く、ギターの音色もリアルでピアノの響きも美しく再生します。低域もパンチがあって適度なタイトさと十分な量感があり、弾むベースが心地よく響きます。帯域バランスも過度な強調はなく、適度に聞きやすい感じですね。ヴォーカルは適度に甘くて肉感的で、囁くようなヴォーカルの手島葵の「さよならの夏(コクリコ坂のテーマ)」も魅力的に表現します。

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音楽的にも聴きやすいけど再現性も高いのでiPodベースのポータブルアンプよりもiPodデジタルとかHM602のようにDACが強力な方が合うように思います。HM602なんかにもよく合います。ロックでもうるさすぎず、かっこ良く楽しめます。

*

耳にピタッとつくところはある意味カスタムらしいカスタムと言えますね。ソフトシェル独特の吸い付くようなフィット感と音楽的な音の良さで個性的なカスタムIEMと言えるでしょう。
ケーブル交換が出来ない点が残念ではありますが、大きく物足りなさを感じるわけではないと思います。前はカスタムイヤフォンというと、とにかく究極の音を目指すという感じがありましたが、いまはもっといろんなアプローチがあってよいかも知れません。
posted by ささき at 23:00 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月04日

UE11とES3X 、クロスレビュー

いままでES3XとUE11を何度も引き合いに出していましたが、きちんとしたレビューをしてなかったので、ここでクロスレビューということで両者を考えてみようと思います。
とはいえ端的にいって両方ともかなりレベルが高いカスタムイヤホンです。それに多少の優越をつけるということは難しいことです。
ですので結論をはじめに書いておくと「どちらもよいところがあるし、好みによる」となります。

これ以降はその結論以外のところが知りたいという方のために書いてみました。

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1. UE11とES3Xの違いを考える

この両者をぱっと聴くと性格的な違いがまず大きいということがわかります。
そこでまずはじめにお互いの違いを見極めてみようと、ES3X、UE11とも、D10(8397)+iHP140の組み合わせにつけて比べてみました。

それぞれ端的に言うと、
UE11は相対的に明るめで良い意味の軽さと空気感があり、精細感が高く豊かな低域を基調にしたスケール感豊かに鳴らします。
ES3Xはより立体的で明瞭感がありタイトでかつシャープです。動的なダイナミックさがあり、低域も十分にありますが支配的な低域の強さはありません。
まずこの違いがわかりやすい帯域バランスあたりから考えていくことにします。

1-1 帯域バランスの違いを考える

ES3Xはオリジナルのプロ向けES3に比べてもよりフラット化を目指したIEMであり、低域が支配的とよく指摘されるUE11とは対照的といえます。そのため、帯域的な意味でのバランス感覚はES3Xの方がよく感じられます。
UE11はTF10ほどではなくともES3Xに比べるとヴォーカルが埋もれがちです。またES3XはES3に比べれば中域はフラットとはいえ、UE11に比べると明確に浮き上がり、ES3X独特の滑舌の良さ、歯切れのよさとあいまってヴォーカルは力強く明瞭です。
しかし、低域が強いからUE11が悪いというのではありません。

1-2 低域の違いをもうすこし考える

低域はオーディオのかなめになります。
あるイベントでサブウーファーをつけはずししてバイオリンのソロを聞くという試聴をやっていました。バイオリンのソロにサブウーファーが必要とは普通思わないでしょう。しかし、実際にはバイオリンのソロであってもサブウーファーのつけはずしをすると音に違いが生じます。スーパーツィーターの逆みたいなものでしょうか。
UE11についてはスケール感の豊かさというところにサブウーファー的な強みがあるように思います。3Wayというよりもサブウーファーを備えた2+1構成と言う感じでしょうか。

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また量感のほかに重要なのは、低域の質があります。
よく言われるようにUE11の低域は豊かで支配的ですが、低域における解像力も高くコントラバスやウッドベースの音はかなり生々しく感じられます。またかなり低く沈むように感じられます。このことからUE11が単に量感だけではなく、質も充実した低域を持っていることが分かります。

UE11の低域で問題になるのはコントロールの甘さから来る緩さにあると思えます。これは量とかバランスではなくインピーダンスの低さから来ていると思います。
ES3Xの低域は量感に関してはこうした比較をするときはUE11に比較すると相対的に控えめのようにも感じられますが、ES3Xだけで聴いているときはそうした感じはなく、むしろたっぷりとした量感があります。支配的に過剰な感じではないというだけです。
ES3Xではタイトさもあって、低域のアタックがシャープでソリッドに感じます。ソリッドというのは低域にたっぷりの重みが乗っているからです。この辺はインピーダンス的なところも関係しているでしょう。

このようにUE11とES3Xの低域での鳴りの違いというのは、帯域バランスというよりもむしろインピーダンスの違いから来ている相違のように思います。

1-3 解像感の違いを考える

高性能機といった場合に、おそらく焦点は解像力という点に注目がくると思います。ただ、耳は測定器ではないのであくまでこれも感覚的なものです。

聴覚より見る世界のほうが分かりやすいと思うので、ここで少しカメラの話をさせてください。
カメラの世界などでも解像力という言葉はよく使われますが、その実はわりと主観的なものです。
たとえば「シャープさ」という言葉はよく使われますが、「シャープさ」を客観的に測定はできません。また測る単位もありません。
その代わり「コントラスト差」は測定できます。これはMTFという基準があり、ミリあたりの黒白の並び(コントラスト)が確認可能な本数で表され、顕微鏡などで計測します。
しかしMTF=シャープさではありません。MTFには高周波(ミリあたり30本とか40本)と低周波(10本とか20本)の数値があり、本来は高周波数の数値が良好なものが解像力が高いといえそうですが、人がシャープと感じる定評ある名レンズには実は低周波数での数値が優秀なものが多く存在します。実際人がシャープと感じるのはかなり複合的な理由があり、そのためよく解像力ではなく、解像感と書いています。ここではそれにならいます。

つまりシャープさ、と言うと客観的な差のようにも思えますが、実はかなり主観的な判断基準と言えます。
解像力とかシャープネスというのは一見専門用語に見えるけれども、実はあいまい、といういわゆるバズワードの一種であるのかもしれません。

話を戻すと、ES3XとUE11は両者とも解像感はかなり高いものがありますが、その表現はいささか違うものに思えます。これも感覚的な表現です。

UE11では細かく微細な音の粒子を感じさせ、緻密さ、繊細さ、線の細さといった言葉が思い浮かびます。
たとえば背の高い草の草原で、風が吹くとさわさわとさざめき、ざわめきが次第に高まるような情報量の豊かさがあるといえます。

ES3Xはソリッドでシャープ感を感じさせ、明瞭さ、鮮明さ、という言葉が思い浮かびます。ソリッドでシャープな感じです。
たとえば夜の街で、暗い背景から夜に光る細やかなネオンの文字がはっきりと明確に浮き上がってくるいう感じで小さな音が明確に見えてきます。

解像感がある、と一口に言っても言葉で表現すると意外と異なるものです。

1-4 音場の違いを考える

UE11とES3Xをぱっと聴いたときに違いを感じるもとは音場の表現かもしれません。またここは音場というよりも空間表現の違いと言ったほうがよいかもしれません。UE11は音場も広く、二次元的な横方向にはES3Xよりも広く感じられますが、ES3Xは独特の空間の開けた感覚があり、開放感があります。
これと後述する音色のリアルさをあわせてES3Xはかなり際立った表現力があります。


2 それぞれの適用を考える

個性の差という点に着目して、もう少し両者を比較して感覚的に聴いてみます。

ES3Xはタイトで切れ味よくシャープでリアルに聞こえます。UE11はやや全体によくも悪くも甘くやわらかく感じます。明るめで低域の量感とともにいろんな意味で豊かさというのを感じます。
ES3Xの方がスピード感があり、比較するとUE11はややゆったりと感じられます。全体にUE11は情報量とか低域の量感ではすばらしいのですが、ES3Xと比べると音が全体にあいまいな傾向があります。
ES3XはHiFiであり音楽がリアルに聴こえ、UE11はウォーム感があり音楽性がよく聴こえるとも思います。
ただしES3Xはドライで分析的というのではなく、ノリがよくスピードとインパクトがあり躍動的な意味で音楽性をよく引き出します。


比較というならば本来は同じ環境、機材につけてA/Bで比較というのが妥当かもしれません。前の章ではそうしてみました。
しかしはじめに書いたようにこのくらいのハイレベルのものを比べて、どちらが幾分か上かと考えるのはあまり意味がないように思われます。どちらが上かというよりは、どちらが感覚的にフィットするか、という点に着目した方がよいように思えます。
つまり自分がどういう風に音楽を聴きたいか、ということと、この機材がそれにどう役立つのか、ということです。もちろんその質問の解答欄にはいくつもの選択肢があるでしょう。

説明しやすい例はアンプの相性かもしれません。

2-1. ES3Xを考える

よくいま一番聞いているポータブルの組み合わせはなんですか、と聞かれることもあります。でも、それは一概には言えません。
ES3Xを買ってからしばらくはES3X+iHP140/D10で聴いていました。これはD10+iHP140のように高い次元の再現力のソースと組み合わせたときにES3Xがかもす音楽のリアルさ、という点にいままでにない魅力を感じていたからです。

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ある曲にバイノーラルかなにかで赤ん坊の鳴き声が効果音で入ってたんですが、これ電車の中で思わず振り向いてしまいました。
ちょっとそれに自分で苦笑して、たまたま比較用にUE11を持っていたときだったので同じところをかけてみたんですが、UE11では再現性は高いんですが、そうした本物らしいリアルさは感じませんでした。
このリアルさというところがひとつのES3Xの特筆すべき点のひとつです。単に高い再現性というよりもいろんな意味でのリアルさという感じです。

そしてES3Xのよいところは、リアルだからといって分析的とかドライとかそうしたことはなく、音楽の躍動感にも優れた再現力を発揮するというところです。
iHP140/D10でしばらくずっと聴いていて、ちょっとiPodベースの組み合わせも考えようとSR71Aと組み合わせたときにまたハッとさせられました。ES3Xの立体感や先鋭さといった性能的な長所がSR71Aの音楽性とマッチして生かしあうということで良好な音のマリアージュを楽しめます。ケーブルはわりと広く合うんですが、特に銅系のケーブルが良いように思います。

もちろんSR71Aの高性能さとあいまってかなりハイレベルの音質ではありますが、音の精密さではやはりiHP/D10のシステムに一歩譲るかもしれません。しかしトータルではSR71A+ES3Xをを好む人も多いでしょう。わたしもこの組み合わせはすばらしいと思います。

またES3XのHiFiな音傾向を生かしたいときはiQubeもよい感じです。こういうときは旧世代iPodのウルフソンDACより、iPhoneや新世代iPodのシーラスDACの音調がよりマッチするように思えます。ケーブルはiPhone用のQables Silver Cab proがよく合います。
iQubeとES3Xの組み合わせは高度なHIFiな高い再現性とダイナミックな音楽性が調和した良さを感じます。

いずれにせよES3Xはかなりいろいろなアンプに、やわらかめからシャープさの追求まで、いろいろな方向で合わせられると思います。
ES3Xはプロ用だけではなく、コンシューマーも視野に入れて設計されたといいますが、かなりバランスよく考えられて設計されているといえます。

2-2 UE11を考える

一方でUE11ですが、これはまたES3Xとは別の側面を見せます。

UE11といま一番お気に入りの組み合わせというとRSA P-51です。これはRSAアンプとしてはP51はややウォーム感が押さえ気味なので、UE11のウォーム感と重なりすきない程度に、かといってドライにならないように、UE11の持ち味を生かしつつ程よいレベルにシステムを持っていけると思います。
これとALO Cryo SXCの組み合わせはUE11のポテンシャルを最大に高め、演出系と性能系をうまくミックスしたような音に向いているように思えます。そうするとUE11の持ち味のウォーム感を生かしつつ高性能を引き出して、全体を高い次元に持っていけるように音楽性と高い再現性を高次元で両立させています。
こうなるとUE11の豊かな低域は全体的な音の下支えになり、マイナス要因ではなくなります。しかし、これを引き出すにはアンプにもそれなりのものが要求されます。

過去の気に入っていた組み合わせというとMOVEがありましたが、P-51とはハイカレント・低ノイズフロアという共通点があります。
UE11がハイカレント・低ノイズフロアのアンプと合うというのは、UE11はインピーダンスの低さがハイカレントを要求し、非常に高い能率が低ノイズフロアを要求しているからです。
ES3Xの場合はやはり能率は高いのですが、全体にアンプ依存性は低く、あわせやすいというわけです。

たとえば低域において、実際はUE11の方が低域の解像力など上回っているのに、やはりインピーダンスの異常な低さというところでUE11は低域に緩さを感じてしまい損をしているように思います。
UE11は若干要求が多くわがままで個性が強いので、高いレベルの音にはなるにしろ、アンプにもそれを引き出す能力が求められます。

反面でES3Xはいろいろなアンプと音楽性にふったりHiFi系にふったりといろいろな相性で楽しめる、素直さというか素性の良さがあり、システムのベースとして捕らえやすいところがあります。


3. 結論を考える

端的にまとめるとUE11は音の繊細さ、緻密さ、明るさ、低域の豊かさとスケール感で荘厳な音世界を表現するのに適していると思います。
またES3Xは音のリアルさ、メリハリが利いてエッジがきりっと立った明瞭さ、ダイナミックさ、タイトで締まった音楽表現から生っぽい白熱した演奏などに向いています。ヴォーカルのよさもそれに寄与します。

つまりは「どちらもよいところがあるし、好みによる」と、なります。

そして結局のところどちらも捨てられない人は、両方買う、ということになります。わたしみたいに。
そして、また個性の異なるIEMをも探すわけです。この結論の解答用紙の選択欄はたくさんあるわけですから。
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2009年05月20日

UEの新カスタムIEM、UE4のレビュー記事

Ultimate EarsからカスタムIEMの一番低価格モデルとなるUE4が発表されました。
http://www.ultimateears.com/_ultimateears/store/custom/ue4pro.php
デュアルドライバーで$399とユニバーサルIEM並みに低価格なところは最近の低価格カスタムイヤホンに対抗してのことでしょうか。ちなみにカラーはクリアのみでカスタムペイントはなくUEロゴがペイントされるようです。

そこで、さっそくここにJudeさんのレビューが乗っています。最近は大活躍ですね。

http://www.head-fi.org/forums/f103/ultimate-ears-ue4-pro-review-well-mini-review-anyway-poor-mans-ue10-pro-425108/

記事はUE4のプロトタイプの試聴から始まっています。
ドライバーも異なるAタイプとBタイプというのを試したようですが、AというのがUE11のような低域重視タイプで楽しいけれどもクリアさにかけていたとのこと、Bの方がUE10のようにもっとニュートラルに近かったということ。またBの方がよりクリアで解像感が高かったようです。結局Judeさん他のすすめもあって、UE4はBタイプを採用したようです。
ちなみにJudeさんはUE10とUE11を持っているんですけど、最近HD800を聞いた影響でよりニュートラルなUE10にまた傾きつつあるということです。

UE10と比べるとさすがにUE10の方が一回り性能は良いようですが、UE4の$399という価格はかなりコストパフォーマンスが高いようです。なにせTF10と同じ価格でカスタムですからね。

はじめはUE11持ってるんでパスしようかと思ったんですけど、"Poor man's UE10"と聞いてはぐっと来ます。インピーダンスは低いんですけど、感度はUE10やUE11に比べて低いのでノイズは案外あまり拾わないかもしれません。レビューにもUE10よりも感度が低いように書いています。
とりあえずUE11で送った耳型がまだ使えるかを聞いてみようかなぁと、まあ聞いてみるだけですけど(笑)
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2008年09月17日

FreQが注文受付を停止

わたしのFreQ showはいま2度目の調整に出しているのですが、ちょっとFreQに関しては製造・サポートとも細かい点まで書くと問題が多すぎてここに簡潔に書けないくらいです。HeadFiなんかを見てもTube kinkなどで音が偏るのもありますし、また一見正常に出荷されているように見えてもクロスオーバー間違いなどがあるようです。この辺は分かりにくいので困り者です。またFreQでは横の連絡もうまくいっていないらしく、わたしは送料の二重取りをされるところでした。

そこでFreQに関してはコメントを凍結することにしたんですが、そうこうしているとアナウンスがあり、とうとうFreQは注文の受付を停止したようです。少なくとも年内は凍結して、新年から出直しということのようです。下記ホームページにもアナウンスが出ています。

http://www.freqonline.com/
"Please excuse us, while we improve our products and service"
とあります。

また、LiverWiresはなんと耳型をなくしてしまったと連絡がありました。。ちょっと考えられないので注文はキャンセルして代金のほかに耳型代も含めて返金してもらうことにしました。

とはいえ悪気でやっているわけではなく、これらは本業の傍らにやっているところに(わたしも含めてですが)最近の低価格カスタム需要でどっと注文が来て混乱しているのでしょうね。
ちなみにUEではなんの問題もありませんでした。Sleek customに関してはプラグ注文間違えがありましたが、大きな問題ではないので特に直しは入れていません。ほかはスムーズでした。

本来は今年の自由研究はカスタムIEMクロスレビューというのをやろうと思って原稿も用意していたんですが、ちょっと残念です。
ただSleek customはいま日常的に一番使っているIEMですし、カスタムがいいということは間違いないと思います。
こうしたマイナーな趣味の世界の成熟はやはり時間が少しかかるのかもしれません。

まあ当分はApuresoundのUE11とかSleekのカスタムケーブルを楽しみにして、少し様子見ということになりそうです。
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2008年09月02日

ベイヤーからカスタムIEM

Philewebによると、IFA2008では、なんとベイヤーダイナミックからDTX50 IndividualというカスタムIEMが出展されているようです。
http://www.phileweb.com/news/d-av/200809/02/21866.html

ベイヤーはホームページでカラーなんかのカスタム受注をしたりというのはありました、またカスタムIEMというよりはDTX50にカスタムチップをつけたもののようですが、けっこうな大手がカスタムイヤホンを出すというのは驚きです。

実際にベースのDTX50にアップグレードキットという形でカスタムチップをつけられるというもののようですね。
http://shop.beyerdynamic.de/hifi/portable-headphones/dtx-50-individual-black-499307.html?lang=1
ドイツ国内のみということですが、DTX50込みで180ユーロというと約2.8万円くらいですか、、
posted by ささき at 17:46 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月09日

カスタムIEM、ステータスアップデート

FreQ Showですが、不具合の確認依頼のためいったん送り返しました。
FreQはHeadfiにも書かれているようにサポートや製造においてちょっと問題がありそうです。

それとLiveWiresも頼んでいるのですが、こちらはひと月ほど待っていますがなかなか届きません。これは現在ドライバーが在庫切れということで少し待ちが長くなっていると言うことです。
こちらはメールレスポンスはよいと思います。

カスタムIEMも低価格化で最近人気が出ていると言うこともあるかもしれませんが、ポータブルアンプの世界以上にちょっと手ごわいかも...
posted by ささき at 08:35 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月21日

カスタムIEMとは -

昨年書いたUE11の記事をベースにしていますが、この機会にまとめなおしました。
一般的に書いていますので、製品ごとの違いは各記事を参照ください。

1. カスタムIEMとは

IEMはインナー・イヤー・モニター(あるいはイン・イヤー・モニター)の略でいわゆる耳にはいるイヤホンを総称的にいう言葉です。iPod付属のような普通のイヤホンを指すこともありますが、普通は耳の穴に挿入するカナルタイプのイヤホンを言います。ここでは以降IEMというとカナルタイプのイヤホンについて言います。

もともとカナルタイプはミュージシャンがステージ上でモニターとして使用するもので、それがコンシューマー向けに転用されてきました。カナルタイプはステージ上で目立たない、遮音性が高いという利点がありますが、耳の中に入れるため耳道(カナル)の形・大きさが人によって異なり、カナルタイプのフィット感はイヤチップやIEMの形状が合うかどうかという製品との相性に左右されてしまいます。
そこで個々人の耳の型を取って、それに合わせてIEMを作成するものを「カスタムIEM」と呼びます。これは量販店で購入するのではなく、メーカーや代理店に直接依頼して作成します。

sleek6.jpg
Sleek Custom

UE Triple.fi 10 proやShure SE530など量販店の店頭で売っているものはカスタムIEMに対して一般に「ユニバーサルIEM」とも呼ばれます。これは特にそうした専門用語があるというわけではありませんが、ユニバーサル(Universal)は"一般的、自在・万能"というような意味です。たとえばユニバーサル・ジョイントなどの言葉が使われていると思います。だれにでも合うという意味です。

2. カスタムIEMの利点

カスタムIEMの利点としてはぴったりと耳に合うことによる装着感の高さと、遮音性が高くなるため音質が上がるということです。遮音性が上がるため、超低域はかなり改善されます。また細部の解像力も外部雑音からアイソレートされてないと発揮できません。
もともとはミュージシャンが現場で他人のものと区別するためのものですが、一部のモデルではパーソナルペイントをすることで独自性を持たせられます。また、一部のモデルでは音の傾向も多少カスタマイズができます。

3. カスタムIEMの注文について

3-1 インプレッション(耳型)の採取

インプレッションは補聴器関係のお店(audiologist)で採取できます。約5000円くらいだと思います。わたしはIEMのノウハウに通じている須山補聴器(link)でやってもらいました。
関東近辺でない人は近くで探さねばなりませんが、採取方法は補聴器とは少し違うようので注意が必要です。
耳型を取る方法についてはこちらにUEの例が詳述されていますので、お店とよく相談のうえ採取した方が良いと思います。
http://www.ultimateears.com/_ultimateears/products/custom/audiologist_instructions.php?we_editDocument_ID=400
FreQ, LiveWires, Sleekなど各メーカーとも、基本的にはUEの方式で問題ないようです。

ue11d.jpg
インプレッション

またメーカーによっては耳型を自分で取れるキットを提供しているところもありますが、リスクがあるので避けた方が無難です。

3-2 注文

ここでは国外に個人発注することを前提にしています。
(国内ではUE/Westone/Sensaphonicsなどの各代理店さんや須山補聴器さんのオリジナル品などが入手できます)

はじめてカスタムIEMを頼む時はなにをどの順番でやるのかがわからないと思いますが、整理すると大きくは次のようになると思います。

インプレッションの採取 -> 注文 -> 支払 -> インプレッションの送付

インプレッションの採取に関しては予約で時間がかかることもあるので、はじめにやっておいた方が良いと思います。そこでまずカスタムIEMがほしいと思ったら、耳型の採取予約をして、耳型を取ってもらったら耳型の送付用の箱を用意します。
そしてその夜にでも希望メーカーのホームページで注文をします。(ここは各機種の記事をご覧ください)
また同時に支払いも済ませ、その注文確認シート(それと支払確認シート)がメールされると思いますので、それをパソコンでプリントして耳型の送付用の箱に同封します。ここは要求されていないところも多いのですが、そうした方がよいと思います。
ホームページなどでインプレッションの送付先を調べます。UEのようにカスタム窓口が総合とは違う場合もあるので、セールス担当の人に送り先をあらかじめ聞いておくのがベストです。

そして郵便局に行ってEMSで送付します。EMSは専用の依頼シートがあります。アメリカ宛てで約1200円くらいだと思います。
(ここは各自の都合でDHLなどにしてもよいと思います)
メーカーにもよりますが、あまり混んでいなければ2-3週間で製作して戻ってくると思います。耳型が到着したことや発送したことの知らせは出すところと出さないところとまちまちです。

連絡などで英語力が必要な場面もありますが、決まり切ったものを買うときは読めればよいという場合も多いと思います。ただしなにかトラブルがあった場合には書く方のコミュニケーションが必要になるかもしれませんので、考慮しておくことは必要です。


4. カスタムIEMのテストについて

カスタムIEMに関してはできあがったときに、それが正しく出来ているかということがひとつポイントだと思います。よく言われていることは、装着したときに一か所に集中した不自然な圧力がかからないか、ということです。また耳型が正しく出来ていても、完全に装着できていないということもあります。
そこで感覚的だとわかりにくいので、次のようにトーンを使って調べる方法があります。

http://www.sensaphonics.com/test/index.html

これはゼンザフォニックスのホームページに書かれている方法ですが、シーリングが悪いと低音が漏れるので、それを利用しています。50Hzと500Hzのトーンが交互に聴こえるMP3(WAV)データを聴いて、50Hzと500Hが等しい音圧で聴こえればOKというものです。
アンプとかIEM自体の特性、個人差もあるのですが少なくとも50Hzが小さく聞こえると正しくない可能性があります。
posted by ささき at 22:03 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月17日

FreQ カスタムIEM - FreQ Show

FreQのカスタムIEM、FreQ Showが到着しました。高・中・低が分離した3Wayのトリプルドライバーで、価格は約$350です。

freq1.jpg

FreQのホームページ

FreQはいまやLiveWiresと双璧をなす低価格カスタムIEMのブランドですが、LiveWiresが基本的にT1というモデル一つなのに対して、FreQはラインナップも豊富なところが特徴です。

1. FreQのラインナップ

FreQは大きくMusic Lovers(ML)ラインとMusic Makers(MM)ラインに分けられます。Music Loversは初期の製品群で、Music Makersは最近出てきた上級機です。簡単に言うとMusic Loversはコンシューマー向けで、Music Makersはミュージシャン向けです。オーディオファイルとしては、iPodから直で聴く人はMusic Lovers、ポータブルアンプユーザーなどはMusic Makersが推奨されています。

MLとMMの違いはMMが着脱式のケーブルを持つということとクロスオーバーの回路です。ただしクロスオーバーは後で書きますが、MLでもMMのモデルでも両タイプを好きに選択ができます。バランスドアーマチュアのユニット自体はMLとMMの2wayとか3wayで対応するモデルは同じもののようです。
また、ポストを読むと分かりますが初期のMLはシェルの製作品質がやや劣っていたようです。

Music Loversラインではシングルドライバー(Control FreQ)、デュアル(FreQ of Nature)、トリプルドライバー(SuperFreQ)の選択があり、それぞれ$99.9、$189.9、$239.9とかなり低価格です。カッコ内は愛称ですが、この辺もユニークです。ちなみにはじめはSuperFreQは$189という価格だったようです。
Music Makersはデュアル(Tour de FreQ)とトリプルドライバー(FreQ Show)があります。価格はそれぞれ$249.9と$349.9です。
トリプルドライバーはWestone3/ES3のように高域・中域・低域の3wayの3ドライバーです。

本体価格のほかにかかる費用は耳型採取に約5000円、耳型の送付にEMSで1200円(箱で変わります)ですので、本体価格のほかにだいたい約$60くらいプラスされると考えておけばよいのではないかと思います。(実際にはそれプラスで送料($37)と輸入に関して税が請求されます)
一番高いFreQ Showで込みでも約$410ですからSE530やTriple.fiと比べればお得感はあります。一番安いControl FreQだとなんと約$160ちょっとですからカスタムも安くなったものです。SuperFreQだとケーブル交換できませんが、3Wayのトリプルドライバーでも、耳型込みで約$310です。

2. FreQ Show

こうしてラインナップを見てみるとWestone3なきいま、3WayのFreQ Showが魅力的に思えて来ました。
Sleek customは4ドライバーのUE11に対してシングルという点でシンプルさの魅力がありました。UE11を基点に考えると、そういう意味ではFreQ Showはtriple.fi,UE11ときてやや物足りない中域に魅力があります。(本来westone3がカバーすべきところでしたが)
MLのSuperFreQとの大きな差は交換ケーブルくらいとも言われますが、将来的なリケーブルも視野に入れてMMのFreQ Showの方にしました。(コネクタとケーブルはwestone仕様のようです)

以下オプションについて解説して行きます。

3. クロスオーバーの選択

FreQの大きな特徴はここですが、クロスオーバーが選択できて、Music Makersタイプ(MM)とMusic Loversタイプ(ML)を選択できます。たとえばMusic MakersラインのFreQ ShowにMusic Loversタイプのクロスオーバーを指定できます。また逆も可能なようです。
実際むこうのコメントを読むと分かりますが、FreQではこのクロスオーバー選択がひとつのキーになるようです。クロスオーバーは単にドライバーごとに最適な周波数を割り振るというだけでなく、イコライザーとしての側面もあるので、この選択で音の個性も変わってくるようです。
基本的にはMusic Makersタイプは音楽制作者・ミュージシャンとかアンプを使っている人むけで、iPod直などの人にはMusic Loversタイプを勧めているようです。ただしこれはそう単純な選択ではないようです。
コメントを読むとMusic Loversタイプは低域を中心にやや強調感があり、Music Makersタイプはよりフラットでニュートラルになります。ただ透明感とか性能的なところでもコメントを読むとMusic Makersタイプが後にできただけに進歩しているようにも思えます。

わたしはいずれにしろ中域重視でFreQ Showにしたので、他を強調すると中域が埋もれるのでMMでよいというわけです。またシングルのSleekだとやや強調した方がよいかと思ったんですが、マルチの場合は十分な帯域性能があるので抑え目で選びました。
この辺は人それぞれだと思いますので、悩んで個人の好みに合わせたものを考えるというところがカスタムのおもしろいところです。

4. カスタムカラーとペイント

FreQはこの価格でもカスタムペイントができます。この辺の体系はUEカスタムより明確で、あらかじめ用意されているものは追加で$20(単色)、さらに$10追加で4色まで色を増やせます。自分の好きな画像も使えて、この場合は$30(単色)、$10追加で4色まで色を増やせます。
また標準でもペイントも部分(裏側、表側、ケーブル)別に明確に指定できます。色は濃淡(shade)も指定が可能です。またMixedMutch($10)というオプションを選ぶとさらに細かい組み合わせができるようです。

UEカスタムなどはもともと業務用なのであまり丁寧ではないですが、この辺ははじめからコンシューマー向けに作られたカスタムIEMならではかもしれません。
それとちょっとはっきりは分かりませんが、どうやらFreQのロゴは取れない(取るのは有料)ようです。FreQブランドを広めたいということらしいのですが、なんとIEMもとうとう広告収入で安くする時代か、という感じもしますがこの辺は気になる人は確かめた方がよいかもしれません。

*FreQに関しては2008/9現在、headfiにも報告されているようにbass tube kink、オーダー間違いなど製造の問題、サポート不備などあまりにトラブルが多いのでコメントは当面凍結いたします
posted by ささき at 21:49 | TrackBack(0) | ○ カスタムIEM全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする