Music TO GO!

2008年02月20日

Graham Slee Voyager

VoyagerはイギリスのGraham Slee Project(GSP)というプリアンプやフォノイコライザーを製作しているオーディオメーカー(というかガレージメーカー)が製作しているポータブルアンプです。GSPはHeadFi界隈ではGraham Slee Soloというヘッドホンアンプでも知られています。

GSPのVoyagerのページはこちらです。
http://www.gspaudio.co.uk/preamps/voyager.htm

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このVoyagerというアンプ、一見してプラスチッキーな外観です。電源も9V一個でスナップ接続、中身は普通の穴あき基盤、となんの変哲もない手作りアンプのように見えます。USBポートがついていますが、DAC機能はなくて電源として使えるというだけです。そうしたDAC機能のように華々しい特徴もありません。まあいいところ見た目からは$100か$150のよくあるDIYアンプというところでしょうか。
ところがなんと、価格はドル換算で約$300以上もします。ちなみに現地価格は180GBPですのでさらに高いのです。さきの価格は日本からの購入のためにVATを抜いてもらうようお願いした価格です。出たのは昨年の10月くらいだと思いますが、外見はともかくとにかく音は良い、と徐々に好評を博してきているアンプです。

実際に手にしてみるとやはりプラスチッキーで、ハモンドケースのようなものです。電池はなつかしいスナップ式で簡素なものですが、中はやや余裕がありMAHA 9.6Vも使用できます。電池の持ちも良い方だと思います。重さは180gで大きさはiPodと同じ大きさです。軽くて適度な大きさというのも悪くはありません。ACアダプターとミニミニケーブルが付属してきます。

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またゲインにはむこうのフォーラム(Rock Grotto)を読むとHighとLowがありますが、現在出荷されているのはLowのみのようです。これはメールで確認しました。ゲインスイッチはありませんし、切り替えもできません。
このように外観からはさほど多弁をふるうことはできません。

音のコメントですが、実はいま到着したわけではなくて、ついたのは二週間以上前です。
この記事自体も実は書いたのは二週間前ですが、ここの音のコメントをどう書くか、ということを思案しているうちに時間が経ってしまいました。
わたしはあんまり「なんでもバーンイン」というほうではないですが、Voyagerについてはやはりバーンインが必要と感じました。
USBで給電できるのはオフィスでも使えるため、ということですがGrahamさんによるとどこでもバーンインしやすいようにとのことです。それだけできればバーンインしてほしいとのことです。

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いま二週間ほど経って改めていろいろなアンプと比べてみましたが、たしかに他のトップクラスのアンプと比べても音の広がりの豊かさや楽器・声の明瞭感は優秀です。また音楽的な艶っぽさもなかなかよくて、GoldXSilverと合わせた音色の良さは格別です。ただし高性能のiQubeと比べると音の洗練さとか音の引き締まったコントロールなどではVoyagerも一歩譲るとは思います。
ついたときのメモには「音の立体的な広がりの豊かさと音楽の細部再現に十分な解像力を持っているが、全体に緩めで性能系より味系か」と書いていたのですが、HiFiという程の正確な音再現ではなく、ぱっと広がるようにオープンで明瞭感や肉質感の上手なまとめ方と音楽的なきれいさで演出的にリアルに感じるというところでしょうか。

いずれにしろiMod/GoldXSilver/Voyager/ESW9がいまのお気に入りのひとつでもあります。HiFi的に性能系に振るよりもやや味系に演出を加えたセットアップが良いように感じますね。
相性はIEMともまずまずですが、背景がそれほどすっきりと黒く感じるようではないために最高というわけでもないと思います。やはりESW9では音の美しさとあいまって生楽器再現の立体感や女性ヴォーカルの肉質感なんかはちょっと離れられない良さがあります。
Voyagerの要求仕様はHeadFiで数年前にやったアンケートの結果をもとにしているということで、そういうところからも聴いて聴感的に気持ち良いタイプのアンプに仕上がっていると思います。


大きな特徴はないと書きましたが、唯一ともいえる特徴的な機能はContourスイッチです。しかしこれがけっこう効きます。
オフの場合はFlatモードと呼ばれますが、このスイッチをオンにするとFlatモードよりも全体にかなり強調された音になります。GrahamさんによるとContourモードは+80dB Fletcher-Munsonカーブというのをベースにしていて、通常のラウドネスのようなものとは異なるとのこと。
こうしたスイッチはおまけ的なものかいい加減なものが多いんですが、Voyagerが評価される理由の一つはこのContourスイッチの切り替えで、かなり異なる音の個性を得ることができるところです。
実際にcontourスイッチオンだと、強調されるというよりもむしろ全体にかなり荒々しくなり、ある意味暴力的です。単に低音が盛り上がるBass boostよりかなりロックに向いた感じで、特にヘビメタ系にあうように思います。ESW9でもこれだけ荒々しい表現ができるというのは驚きです。これは意外といままでなかったかもしれません。

購入についてGraham Sleeはオンラインショップがありますが、現在Voyagerはオンラインショップにはまだ出ていないのでメールして問い合わせてからPaypalで払います。その際には日本からということを言ってVAT(EUの消費税)を抜いてもらうことが必要です。
価格や外観も含めるとMOVEみたいに黙って万人にお勧め、というわけではないかもしれませんが、contourスイッチも含めてちょっと個性的なアンプであると言えます。
posted by ささき at 22:15| Comment(1) | TrackBack(0) | __→ GSP Voyager, mSeed Spirit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月07日

mSEED Labsのポータブルアンプ Spirit

これはmSEED LabsのSpiritという新型ポータブルアンプです。この会社は以前Faithというアンプを出していますので二作目になるようです。最近ALOのサイトで見るようになったので、気になっていた人もいると思います。

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ぱっと見るとGV6風のシャーシで$150アンプというちょっと食傷気味のパッケージなので読み飛ばすところでしたが、音楽性を強調しているところがちょっと気になって細かく見てみるといろいろと気になる点があります。
最近はいろんなポータブルアンプがある中でなぜこれに興味を持ったかということを整理すると、

1. unity gainがある

ユニティ・ゲインは入力と出力が同じということで、簡単に言うとx1倍(0dB利得)のゲインということになります。TomahawkはIEMむけに1倍のLow gainを持っていますがこれがunity gainです。
アンプ設計においてunity gainは長短あるようですが、少なくともTomahawkにおいてはIEMとの組み合わせで良い結果が得られていたのでここでもIEM用としていいのではないかと興味を持ったわけです。

ここでちょっと面白い考察は、unity gainで使うときにはゲインがない(音量がソースと同じで大きくならない)のだからポータブルアンプというよりポータブルバッファと呼んだほうがより適切なのではないかということです。
こうして対象をより単純化するとよく見えてくることがあります。よくiPodにポータブルアンプを加えると音量が取れるだけでなく音質もよくなるのですか?という質問がありますが、これがひとつの答えにはなると思います。
たとえばiPodのラインアウトの品質はヘッドホン出力に比べるとかなり高いのですが、ヘッドホン出力に比べるとラインアウトの出力インピーダンスは100Ω近辺とかなり高くなっているようです。しかしSpiritを介することでそれを2Ω以下と小さくできます。つまりiPodとヘッドホンの間にSpiritを挟むことでインピーダンスのロー出しハイ受けができることになり、歪みを減らしてクリーンな音が得られるわけです。その代わり電流は増えなければなりませんので、ハイカレントのポータブルアンプがiPodとは別の電源を持ったバッファとして存在する意味があるということが言えると思います。
また逆にバッファだけに割り切ったコンセプトの機器というのも面白いような気がしますね。たとえば鬼才ネルソン・パスの新作のFirst Watt F4はパワーアンプですがPower Bufferというコンセプトで、たとえば小出力の真空管アンプの後ろにつけてスピーカーの駆動力を上げる役割を果たします。

ちょっと話がそれましたが、Spiritにおいてゲインは電池ベイ内のディップスイッチで切り替えて、Hi-gainでは15dBゲインになります。これだと、TomahawkのHi-gainとほぼ同じくらいだと思うので普通のヘッドホンはこちらで大丈夫でしょう。
ただドライバーが必要なのでちょっと設定しづらいとはいえます。

2. 音楽的な鳴りを強調している

アンプというとニュートラルで色付けがないことを強調するものが多いんですが、音楽的であるとはじめから言っているものは個人的には好感が持てます。こういう風にはっきりとテーマを持って作っているというのは使うほうにも分かりやすいし、こうしたポータブルアンプの多様化の流れの中では居場所を見つけやすいでしょうね。

3. BlackGateとかWimaのcapなどの良いパーツを使い、JFETなどのユニークなデバイスを使っている

JFETはMOSFETの一種ですが、ここでは出力段ではなく入力段に対して使っているようです。ここはメールで説明を聞いてもよくわかりませんでしたが、これによりかなりスムーズな音になるとのこと。

XinもSolid Tubeで真空管っぽい半導体を模索していますが、Spiritの方がかなり徹底して「真空管の音を実現する半導体アンプ」を目指しているように見られます。Millett Hybridもハイブリッドという形態で双方のよさを追及していますが、Spiritはまた別の解法といえるでしょう。

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さっそくiModとtriple.fiで聴いてみました。iModとTomahawkは組み合わせるのに難がありますが、こちらはほどよく重なります。電池はアルカリ9Vがおまけでついてきますが、Maha 9.6Vに替えました。230mAHで持ちは約14時間ということです。
またAC電源用のアダプタが裏フタ交換でついてきますが、ACアダプタ自体はついてきません。また充電機能もないようです。

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だいたいはじめの10時間くらいの感想です。
音はたしかにスムーズで柔らかい感じがしますが、同時に意外とくっきりとしてかなり普通に性能がいいという感じです。楽器の音色がきれいで、triple.fiの低音も豊かでパワフル、かつタイトです。この辺はハイカレントの効果でしょうか。
ただ音場の広がりはそれほどでもありません。Hi gainにするとよりパワー感が出る感じでHD25にもよく合いそうです。
もう少しバーンインしてからまたコメントします。(と、記事をひっぱる)


購入はeBayでも可能でそちらの方が$20ほど安価ですが、こちらはアメリカ国内価格です。またALOのサイトでも販売しています。わたしは聞きたいこともあったのでmSEEDにメールしたところ、mSEEDのサイトから購入すれば$149で海外送料は無料にしてくれるということで手を打ちました。普通のエアメールですが、きちんと出荷通知をくれてわりとすぐつきました。

ちなみにメーカー名のmSEEDとは"Mustard Seed"の略でPaypal上ではMustard Seedという社名になっています。Mustard Seedは「マスタード(からし)の種」という意味です。
これはホームページのaboutに書いてありますが、直接的にはマタイの福音書の一説(17章20節)から取られています。

17:20
"イエスは彼らに言われた「もしあなたがたにひとつぶの小さなからし種ほどの信仰があるならば、この山に「動け」と命令すれば動くだろう、そしてあなたがたに不可能はなくなるのだ」"


日本人には分かりにくいのですが、調べてみるとからしの種というのはとても小さいもののたとえに使われるそうです。また上記の一節が有名なので、キリスト教的信仰を象徴的に表すものとしての意味もあります。そのためポケットに入る豆聖書のことを俗に"Mustard Seed"とも呼ぶようです。このことからポータブルアンプを隠喩していると思われます。実際にこのアンプの利益のいくぶんかは寄付に使われるようです。
mSEEDのアンプの名前も第一弾がFAITH(信仰)で力のある音、第二段がSpirit(精神・魂)で感性的な音、ということでよく考えられていますね。
posted by ささき at 22:35| Comment(6) | TrackBack(0) | __→ GSP Voyager, mSeed Spirit | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする