Music TO GO!

2013年05月10日

Shureの新フラッグシップSE846発表会とインプレッション

昨日はShureの新フラッグシップイヤフォンの発表会に行ってきました。
今回発表されたのはSE846という3Way 4ドライバーのモデルで高域1、中音域1、低域2のドライバー構成です。

SE846CL_Beauty_01_LR.jpg     SE846CL_Highlight_01_LR.jpg

プレゼンはイヤフォン部門のマットエングストロームとショーンサリバンによって行われ、技術解説は主にショーンサリバンによって行われました。いままで5xxだったのになぜ8xx?という問いに対しては特に意味はないけどすごいのができたから8にした、ということでした。

IMG_0729.jpg     IMG_0757.jpg
ショーンサリバンとマットエングストローム、右はショーンとSE846

今回の製品に関するひとつのキーは新技術ということです。プレゼン的にもかなり濃い技術的な解説が満載でした。下はShureのポリシーに関するプレゼンです。フラットというのはスタートであってゴールではないということなどが語られました。そして新技術のキーとなるのは下記でも書かれていますがイヤフォンの物理的な制約です。そうして生まれたのが今回の新フラッグシップであるSE846です。開発には数年を要したということ。

IMG_0730.jpg   IMG_0731.jpg

ティーザーのシェルのサイズから4ユニットになるのは事前に噂されてたんですが、予想外だったのは新機構の低域ドライバーのローパスフィルターです。席についてリリースを読むと、あれ、このローパスフィルターってFitearパルテールの考え方と似てる、ということに気が付きました(ローパスはつまりハイカットということ)。実際にイヤフォンにはサイズ的制約がある、という点からマルチウエイでのネットワークの最適化を図るという発想は同じですね。

IMG_0734.jpg   IMG_0737.jpg

ローパスフィルターの技術解説ではまずイヤフォンに使用される技術をエレクトリカル、メカニカル、アコースティックの各領域(ドメイン)にわけて解説されました。エレクトリカルドメインはつまりクロスオーバー・ネットワークで絵画の絵の具に例えていました。メカニカルドメインはドライバーでこれは絵画のブラシ、アコースティックドメインでこの新方式であるローパスフィルターを採用しているわけです。ここは絵画ではアーティスト自身の画力に相当するということ。
いままで低域ドライバーの領域で効果的な周波数の最適化(つまりハイカット=ローパス)ができなかったのはこの前パルテールのところで書いたのと同じでイヤフォンの物理的サイズの制約でスピーカーのようなかさばるクロスオーバーが使えないということによるとのこと。
この新設計のローパスフィルターはとても複雑な仕組みであり、構造的に最近まで作ることはできなかったとのこと。ステンレス板にレーザーカッティングされた迷路のような回廊は4.5インチ(11.3cm)の長さとなるそうです。この仕組みによって90Hz近辺からなだらかにハイカットするとのこと。90Hzというポイントは試行錯誤で決められたようです。
図の青い線はSE535のような通常のイヤフォンの低域ドライバーのもので、このように高い周波数も低域ドライバーに入ることで低域ドライバーの不得意な領域を再生してしまうことで歪みが生じてしまいます。これはつまり他のドライバーの音域とオーバーラップして中音域に悪影響を与えたりします。赤はSE846のものでゆるやかにロールオフしています。つまり他の音域には影響を与えずに低域だけ担当すればよいというわけです。

IMG_0740.jpg   IMG_0744.jpg   IMG_0743.jpg

もう一つのポイントは音の個性を変えるために交換式の音響フィルターを採用したということです。これは交換式のノズルインサートという機構を採用しています。このノズルインサートは高域ドライバーと中音域ドライバーの経路だけに関係します。ここで1kHz-8kHzにおけるサウンドを調整します。これは2.5dB程度の違いがあるようです。このフィルターの後で低域ドライバーのローパスフィルターから出た音と合流するとのこと。

IMG_0747.jpg     IMG_0749.jpg

この精密なノズルインサートの交換については下記のHeadFi-TVの中で実際に動画でJudeが解説してます。ちょっとすごいですね。4:20あたりからです。



ローパスフィルターともどもShureの精密工作にかける情熱にも頭が下がります。
このサイズでこれだけの技術を詰め込めたのは開発者自身が驚きだったということ。イヤフォンの開発というのはまず物理的な制約から始まるということも思わせてくれます。
SE846のスペック上のインピーダンスは9オームと低いけれども、マルチウエイBAの場合は周波数でのインピーダンス変動が大きいため目安程度に考えてほしいという感じでした。ちょっと本題とはなれますが周波数とインピーダンス変動に興味ある方は下記のTylのinner fidelityのMeridian Explorerの記事をご覧ください。
http://www.innerfidelity.com/content/meridian-explorer-case-study-effects-output-impedance
これはMeridian Explorerの出力インピーダンス高い問題(AK100みたいな)があってその解説です。見るとLCD2が周波数によるインピーダンス変動がなく平面型の長所の一つが見て取れると思います。

IMG_0761.jpg

さて、この新技術がSE846ではどう音に反映されているのか、音をRWAK100で聴いてみました。
全体の音の個性はSE535の延長であり、SE530の音はもう過去の話という感じです。SE535と比べてみましたが、音質のレベルは一クラス以上は上であり特にスケール感では際立ってよいですね。低域のレスポンスも強すぎない程度に十分あります。フラッグシップらしい堂々とした素晴らしい音質です。
そしてやはりパルテールに似て音が整理されているというかSE535と比べてすっきりとした音ぬけの良い印象もあります。SE846を試聴したあとでショーンサリバンにローパスフィルターの効果から期待される音質は?って聞いてみたらやはり上図の青線で示される領域(中音域など)でmuddy(濁り)にならないpurity(純粋さ)ということでパルテールの狙いと同じような答えでした。

IMG_0763.jpg
SE846とパルテール

ただし独特の透明感・ピュアな音色はパルテールの方が際立っているようには思えます。SE846でのこのローパスフィルターの効果はむしろ4ユニットものマルチドライバーのスケール感や豊かさを殺さずに、つながりも良く上手に自然な音の一体感を作り出しているというように感じました。大味にならず繊細で自然な音を実現しています。つまり同様な技術を採用していてもSE846とパルテールではベクトルが異なるのかもしれません。

前出のHeadFi-Tvの動画中でもJudeはSE846の音のコメントとして中音域のclarity(透明感)が素晴らしく、ベースは中音域に悪影響(harm)せずにソリッドでインパクトフル、そしてvisceral(理屈抜き, 心の底からの)であると言っています。ベースが強すぎないのでジャンルは選ばないだろうとも語っています。

SE846CL_detach_onblack_LR.jpg     SE846CL_full_length_onblack_LR.jpg

SE846はこのように単にShureの新フラッグシップで音が良いというだけではなく、パルテールともども今後のイヤフォンの進化を考える上での重要なマイルストーンとして興味深いと思いました。想定価格は12万円前後と安くはありませんが、さまざまな意味で注目製品と言えるでしょう。

Shureももちろんヘッドフォン祭に出展します。ぜひこの新技術を志向したフラッグシップを体験しに来てください !
posted by ささき at 08:38 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月13日

Shure SE215 Special Editionレビュー

少し前の記事でShureの新製品であるSE215 Special Editionの発表会報告を書きましたが、実機を使うことができましたのでそのレビュー記事です。なお"SE215SPE"は商品型番であって紹介記事のなかでは正式名称の"SE215 Special Edition"と表記してほしいとShureの方から言われてますので文中はSE215 Special Editionと表記します。

IMG_0512_filtered.jpg

SE215 Special Editionは2011年4月に登場したShureラインのエントリーモデル、SE215のスペシャルバージョンです。SE215はダイナミックドライバーを採用していますが、バランスド・アーマチュアドライバーはやはり性能を発揮するにはマルチウエイありきなので、このくらいの価格帯ではダイナミックタイプの方がより良い選択なのではないかとも言えます。

1. SE215 Special Editionの特徴

SE215 Special Editionのオリジナルモデルとの違いはまず美しいトランスルーセント(透明)ブルーのカラーです。実物を見てもなかなかセンスの良い仕上がりで、ブラウンよりもコンパクトに見えます。iMacみたいと言う人もいますが、私にはeMateに見えました(ちなみにeMateからがジョナサンアイブのデザインです)。ただしShureの人に聞いてみると、特になにかを意識したわけではないとのこと。スマートフォン市場や女性ユーザーなど新しいターゲットを意識したとも言います。

IMG_0504_filtered.jpg

またケーブルはSE535 Special Editionと同様にオリジナルモデルの1.6mから1.16mと短くしています。SAECの交換ケーブルでも短いものが人気でしたね。もともと1.6mという長さはステージで使うイヤモニに合わせたということです。またケーブルカラーが黒ではなくダークグレーというのも変更点です。線材はオリジナルと同じということですが、このケーブルは交換可能なうえになかなかに質が良く、隠れたSE215のポイントの一つです。

IMG_0490_filtered.jpg

このほかにもパッケージが刷新されています。後でまた触れますがShureではプロ・コンシューマー統一ブランドですが、Special Editionは全体によりコンシューマー向けを意識したものになっているのが分かります。

IMG_0546.jpg     IMG_0543.jpg

そしてオリジナルモデルとの違いは音の作りこみにあります。どう変えたかというと、20Hzから1kHzまでの低域から中音域にかけての範囲を2dB増やしています。(上左図参照、画像は発表会の資料)
1kHzというと通常のヴォーカル帯域はほぼカバーされていると思います。さらに高域は変化させていません。これはコンシューマーのフィードバックをもとにロックポップ向けにチューニングしたということです。実際にどこを変えたかというと、ドライバー後方の音響抵抗スクリーンのチューニングを変えて行っているということです(上右図参照)。以降書いていきますが、これは単に低域を盛り上げたベースブーストモデルというのとは違うようです。

2. SE215 Special Editionの音の印象

最近人気のiriverのハイレゾDAPであるAK100と組み合わせてみました。(AK100の記事はこちら)
SE215 Special Editionは低価格のダイナミックドライバー機だからといってこもったような音ではなく、クリアで明瞭感が高く楽器の音もきちんと分離しています。音のリアルさも感じられ、あまり人工的な感じがなく自然な再現性を感じます。ただしバランスド・アーマチュアに比べれば線は太めで、ダイナミックドライバー機らしく全体に暖かみがあって骨太の印象です。

ak100-se215.jpg

AK100で聞くとベースが膨らんだとか誇張されたという印象ではなく、ロックでのベースやドラムスの重みと量感がほどよく再現され、AK100のよく整った音表現のバランスを崩していません。AK100はフラット基調であり、イヤフォンによってはベースが物足りないと思えることもありますが、SE215 Special Editionでは気持ち良いベースのレスポンスがありますのでちょうど良いですね。ヴォーカルものを聴いても明瞭感は十分にあって低域によって中域がマスクされてしまうということはありません。かつ、さきに書いた中域での2dBプラスの効果もあるのか、音の厚みが適度な甘さとなって良い感じです。


AK100とはお勧めの組み合わせといえるでしょう。AK100は音がかなり細かくローノイズフロアなのでバランスド・アーマチュアとの相性が良いのですが、反面で音がドライな方にいきやすいので、SE215 Special Editionを使って暖かみのあるダイナミックな良さを引き出してみるというのもお勧めです。AK100のまた別な良さも発見できるでしょう。
落ち着いた音で高域などのきつさも少なく感じられます。またAK100に見合うくらいの性能もSE215 Special Editionは備えています。ハイレゾ音源の良さもわかりますね。

SE215 Special Editionでは他のペース志向イヤフォンのように低域が盛り上がっているというよりも、中低域の範囲の全般的に厚みが増えてベースの充実感につながっていると感じられます。全体的な音傾向は通常モデルSE215とほぼ変わらないのが興味深い点です。ベース志向だから低域をポンと盛り上げて全体のバランスが崩れたり中域がへこんでしまうというようなものではありません。
たとえばアカペラ曲を聴いても印象は異なります。声だけにおいても中域の増強が厚みや豊かさにつながっていて好印象を受けます。通常SE215に戻して聴くと、音傾向はやはり同じで音が痩せたというかすっきり細身になるという感もあります。

3. SE215 Special Editionの位置づけ

SE215 Special Editionは今年聴いた中では一万円前後の一押しのイヤフォンです。
従来品も併売されますが価格的には従来品よりやや高めであるようです。細身ですっきりした音が好きな人はあえて従来品を選ぶ手もあるけれども、一般にはロック・ポップだけではなくさまざまなジャンルで豊かな厚みのあるSpecial Editionの方が良いと感じることも多いと思います。従来品と比べると多少高くても私はSpecial Editionをお勧めします。もともとSE215でも線は太いほうなので、細身ですっきりした音が好きな人はBAタイプを選んだほうが良いでしょうね。
逆にいままで高級機のBAモデルを聴いている人もSE215 Special Editionはダイナミック型としてのもうひとつの選択肢として選べるイヤフォンとなる魅力があると思います。単にエントリークラスの良品というだけではなく、上級ユーザーにもお勧めでダイナミック型らしい良さが楽しめるでしょう。

フジヤさんの販売リンクはこちらです。
http://www.fujiya-avic.jp/products/detail14555.html

Shureはやはりプロ機材のブランドであるというのがポリシーのようです。そのためSE215の前任のSE115あたりでは多少コンシューマーサイドに降りすぎたという反省もあるようです。2011年あたりではさらにプロラインとコンシューマーラインとの統一をモデル的にも音的にも考えていて、SE535ではSE530とはやはり音傾向も違うし、SE215もSE115とは違います。ハイクラスもエントリーでも極端な音作りよりはバランスのとれたプロ向きの音作りが前提にありますね。そして現在では基本的にプロとコンシューマーを分けるという製品開発はしていないということです。裏を返すとコンシューマーが使うイヤフォンでも耐久性も含めたプロ向けの基準を満たしているというわけですね。

一方でコンシューマー向けにはやはりそれなりの味付けのモデルが必要ということで、SE215 Special Editionではカラバリを取り入れたり、ロックポップ向けの音の味付けを試行したのだと思います。しかし上で書いたように実際に聞いてみると他のメーカーのベースヘビーイヤフォンとは異なるアプローチを取っているのが分かります。単に低域を盛りつけないで、上手にチューニングすることで全体のバランスは崩さずに中低域での物足りなさを解消させています。
これがコンシューマー向けとはいえ、他のメーカーとは一線を画したShureのプロメーカーとしての矜持なのでしょう。SE215 Special Editionはエントリー価格帯とはいえ、そういう点から見て他のブランドとは一味違ったShureならではの品質と魅力を楽しめるイヤフォンであると思います。
posted by ささき at 23:11 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月07日

Shure SE215 Special Edition試聴会

本日行われたShureのSE215 Special Editionの試聴会レポートです。

IMG_0535.jpg     IMG_0536.jpg
Shure SE215は2011年4月に登場したShureラインのエントリーモデルです。こちらにその時のレポートがあります。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/197880353.html

ShureはもともとエントリーモデルにはBAタイプを擁していたのですが、SE215の特徴はあえてダイナミックタイプのドライバーを使用したことです。音の特徴はその前モデルのSE115に比べるとダイナミック型らしい厚みのある音ながらベースヘビーだったSE115よりはバランスのとれた音にしたことです。
SE215SPの色選択でも出てきますが、SE115はプロサウンドをむねとするShureとしては音傾向もカラバリもかなりコンシューマーを意識したものでしたが、SE535のあたりからプロラインとコンシューマーとの統合も考慮してその両立を目指したものとなってきたようです。

IMG_0542.jpg     IMG_0547.jpg
SE215 Special EditionとSE215通常モデルの違いは上の表にまとめられていますが、まず色あてコンテストも行われた独特のトランスルーセント(透明)・ブルーの本体カラーです。下画像の右は持参の自分のSE215です。

IMG_0560.jpg

これは女性も考慮したということですが、スマートフォンユーザーが少し良いイヤフォンを選びたいというときにアピールすることも考慮したということ。青を選んだ理由というのは特になにかを意識としたというわけではありませんが、上でも書きましたがSE115のピンクがShureとしては少しやりすぎ感があったためイメージを考慮したということ。また製造工程も考慮したということです。

またケーブルはSE535 Special同様にShureとしては短めにケーブルの長さを1.16mとしています。線材は同じですが、カラーはダークグレーとしています。

IMG_0548.jpg
以前はステージ用のイヤモニに合わせていたため長めであった(1.6m)ということですが、短めにしたのは日本を含めたアジアの声を反映したということです。またパッケージにも工夫したということ。

そしてSE215 Special Editionでは音のチューニングが異なります。
IMG_0543.jpg     IMG_0546.jpg
低域と中域を増やしたということが特徴で、これはユーザーのアンケートに基づいてPOP・ロックにむいた音に合わせたということです。実際には20Hz-1kHzの範囲で2dB増えてるのがポイントで、これより上の高域は変えていないということです。意図的にテイスト・キャラクターは同じにしたということです。
音の変更はダイナミックドライバー後方の音響抵抗スクリーンのチューニングを変えて行っているということです。上左の図ではBがダイナミックドライバーです。

IMG_0557.jpg
なぜイヤフォンの試聴会にスピーカーがあるかというと、60hzのトーンを出して低域のチューニングの難しさを部屋を歩って体験するという実験をやったからです。

IMG_0551.jpg

実際に音を通常モデルと比べて聴いてみると低域が盛り上がってるというよりも中・低域方向の厚みがあってベースの充実感に繋がってる感じです。例えばアカペラ曲を聴いても印象は異なります。通常モデルに戻すと音傾向は同じで痩せたというかすっきりと細身になった感があります。
この辺はSOUL by Ludacrisなどの低域をぐっと盛り上げたベースヘビー志向のイヤフォンとは異なる考え方かもしれません。
また能率が増えたようにも感じられますが、実際はスペックは変わっていないので2dBレスポンス上げたからかもしれません。

説明を一通り聞いてみて、まずShureはプロ機材の会社であるというスタンスが感じられました。ただしコンシューマーは大事であり特に日本・アジア市場に注目しているということです。ヘッドフォン祭も参考にしてるということでした。
ちなみに「カスタムは出さないんですか」とふってみましたがノーコメントでした。。

SE215 Special Editionはスペシャルとは銘打っていますが、レギュラー製品でありオリジナルのSE215もも併売するということです。こちらはフジヤさんの予約ページです。
http://www.fujiya-avic.jp/products/detail14555.html
11下旬から12月頭に発売ということです。
posted by ささき at 23:43 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月06日

Shureの開放型ヘッドフォン製品発表会レポート

今日はShureの初となるオープンタイプのヘッドフォン、SRH1840とSRH1440の発表会に参加してきました。SRH1840とSRH1440の写真と製品ページはこちらです。

SRH1840_3 Qtr_OnWhite_withcable_LR.jpg     SRH1840_Left_OnWhite_with_Cable_LR.jpg
SRH1840(プレス写真)
http://www.shure.co.jp/ja/products/headphones/srh1840

SRH1440_View_OnWhite_with_Cable_LR.jpg     SRH1440_Left_OnWhite_with_Cable_LR.jpg
SRH1440(プレス写真)   
http://www.shure.co.jp/ja/products/headphones/srh1440

この発表会は実は日本が世界初となるそうです。実際のところ、日本市場から日本にはこういうハイエンドの市場があると言うことで、オープンタイプの高級ヘッドフォンモデルが欲しいという要求が出たのは、SRH840などクローズのヘッドフォンがShure初のヘッドフォンとして投入される前の話だそうです。
しかしやはりスタジオ用途を考慮してまずクローズタイプのヘッドフォンが開発され、それから二年たちクローズタイプも充実してきたということでオープンタイプが開発されたとのこと。
ただしオープンとクローズのどちらが良いかということではなく、ユーザーに選択の幅を持たせたいとのことです。
また発表会ではすでに市場に出ていますがSE535 Special editionの説明も行われました。実はこのSE535 specialも日本市場からの要求によるものだそうです。

製品解説にはShureからマイケルジョーンズ(ヘッドフォン担当)とマットエングストローム(イヤフォン担当)が来日し、それぞれSRH1840と1440、SE535 specialの説明を担当しました。

IMG_7393.jpg     IMG_1105.jpg
左の写真はiPhone4S+olloclip、右とこれ以降の写真はすべてPowershot s95です。右の写真で左がマットエングストローム、右がマイケルジョーンズです。

こちらマイケルジョーンズによるSRH1840のプレゼンです。SRH1840はフラッグシップだがShureというよりすべてのオープンバックに対抗できるよう作ったと言うことで、その自身のほどが伺えます。

IMG_1109.jpg   IMG_1112.jpg   IMG_1118.jpg

周波数フィルターをドライバーの内外に重ねて周波数特性を最適化し、さらに内部のエアフローを最適化したということです。周波数特性は低域を抑え目にディテールを再現し、おもちゃっぽくなるブーミーさを排したとのこと。ミッドレンジをフラットに整えたのもバランスの良さを取るために重要だそうです。また高域はきれいに伸びるように設計されています。左と右の特性(赤と青の線)が揃って均一であると言うこともポイントです。
ターゲットユーザーはまずサウンドエンジニアでこの点ではニアフィールド、モニタースピーカーに近い音場特性を目指したそうです。

SRH1840_HomeStudio.jpg
プレス用のSRH1840イメージ写真

そしてオーディオファイルがターゲットで正確でかつバランスの取れたリスニングをしたいユーザーに聴いて欲しいとのこと。余計な色付けや歪みのない原音に忠実な再生を目指し、軽量かつフィット感に優れたデザインにより長時間楽しんで欲しいそうです。
アクセサリーで面白いのはケーブルとイヤパッドは同じものが二つ入っている点でこれもニーズの調査からそうしたようです。
インピーダンスと能率はアンプでもiPadで聴いても使えるようなバランスとしたとのこと。周波数特性は10-30kHzとだいぶワイドレンジです。
重量は268gと軽量ですが、これは航空機用のアルミ素材で剛性と軽さを両立させたそうです。
1000mW(1W)の最大入力も十分というのもポイントだそう。実は私6W出力できるアンプ(LYR)持ってるんですけど、とは言いませんでしたが^^

こちらはSRH1440のプレゼンです。

IMG_1121.jpg   IMG_1125.jpg

こちらは1840に比べてオープンバックながら適度な遮音性があるということ。また1840より能率が高く鳴らしやすいところを狙ったと言うことでこちらはよりポータブル用を考えたと言うことです。ケーブルは1840と1440は同じそうです。
周波数特性からは豊かな低域だがバンプはなく生き生きとするよう少し強調された中域と高域を持たせたそう。また特性は全体的に高感度になっています。オープンバックとしてはかなり高い鳴らしやすさを確保したとのこと。
ちなみに1840と1440のドライバーユニットは見た目は同じですが、コイルの巻き方など細かい点は異なるそうです。
SRH1440でも同じくケーブルとイヤパッドがセットされてきます。重量の343gはあえて少し重くしたと言うことで、外で使える丈夫さを重視したそうです。

HPASCA2_Dual_Exit_Detachable_Cable_OnWhite_LR.jpg
ケーブル(プレス写真)

着脱式のSRH1840とSRH1440のケーブルプラグはSEシリーズとは似ていますがプラグに互換性がないそうです。聞いてみると、互換性を取るように調査も検討もしたが、ヘッドフォンとイヤフォンはメカ的にも異なるのでだめだったそうです。
ただし両出しになった理由は左右の音のバランスを取ると言うことの他に、リケーブルのための交換ケーブル市場も考慮にしたからと言うことです。この辺も含めてよくユーザーニーズを吸い上げてますね。ぜひケーブルメーカーの皆さんは交換ケーブル作ってください!
発売時期と価格は年内に生産できればよく、来年一月に販売できれば良いかと言うところで、価格は未定ですがSRH1840が7万前後、SRH1440が4万前後とのこと。

こちらはマットエングストロームによるSE535 special editionのプレゼンです。

IMG_1129.jpg   IMG_1130.jpg

SE535 Specialは日本市場に向けたサウンドチューニングを施しているそうです。聞くのを忘れましたがカラーの赤も日本をイメージしたのかも。
右図では(C)で示されるダクトの音響フィルターで音のチューニングをしているそうで、3-4kHzにかけて持ち上げている のはヴォーカルに明瞭感を与えているそうです。周波数帯域も少し拡張して0.5kHz伸びています。
ケーブルが短いのもアジア市場の要求のようです。

IMG_1137.jpg     IMG_1138.jpg
上は近くにいたマイケルジョーンズに頼んでSRH1840を装着してもらったところです。

実際にデモ機を試してみました。
SRH1840はデザインもオープンを強調したグリッドがかっこよく、装着するとたしかに軽く感じられます。側圧は適度にあるのでしっかりと抑えられます。
試聴はデモのラックスマンのP-1uと自分のHifiMan HM801で聴いてみました。

IMG_1133.jpg   IMG_1135.jpg
左SRH1840、右SRH1440

SRH1840は高品質な音で音場が広く、抜けが良いスッキリした音空間を感じます。クラシックのスケール感もなかなか良いですね。楽器のかちっとした解像感が良く音がきれいに感じられます。細かいニュアンスも再現し、ヴォーカルも明瞭感が高いですね。ギターなどの音の切れ味も良い感じです。
周波数特性の印象について、SRH940は本当にモニターという感じの超フラットでしたが、それに比するとベースも十分あり パンチも感じられます。音も程よく耳に近く、ポップロックも良いですね。やはりSRH940のようなスタジオ向けという感じではなく、オーディオファイルに向いていると思います。

ここでSRH1440に変えるとちょっとこじんまりして聞こえます。また見通しはちょっと下がる感じです。
ヴォーカルも個人的には1840の方が埋もれないで明瞭かと思いました。
ベースは少し1840よりパンチを感じますし、1840より周波数的な差の分だけ脚色を感じますが、全体にそれほど脚色というか強調感は強くないですね。
音のレベルは1440も高くコストパフォーマンスは良さそうです。1440は見た目からもゼンハイザーのHD590系とかあのあたりの対抗かと思えます。

iPhoneで聴いても音は良いですが、SRH1840はiPoneだとちょっと音量とりずらいですね。振り切り近くなります。SRH1440は大丈夫だけどそれでもけっこうボリュームが高めで必要です。ポータブルでのSRH1440の遮音性はテストし忘れました、すいません。

IMG_1140.jpg  IMG_1144.jpg
SRH1840とiPhone4S

さきほどtweetで気が付いたらJudeさんもHeadFiにレポートをあげています。
http://www.head-fi.org/t/583950/shure-srh1840-and-srh1440-unveiled
ただこの情報公開も日本のプレゼンを考慮して時間を設定したようです。
今回の製品は日本市場に力を入れているのがわかりますし、Shure Japanもよく日本のヘッドフォン事情を吸い上げて製品に反映させてくれてるのがわかります。
Shureの製品展開が今後とも楽しみになりますね!
posted by ささき at 22:57 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月20日

Shure SEシリーズの国産交換ケーブル登場!

以前Shureの新製品発表会の記事を書きましたが、そのときにShure SE215のデモ機を試して以来、けっこうSE215にはまっています。ダイナミック型らしい骨太の厚みと、高い性能を備えたなかなかコストパフォーマンスの高いイヤフォンです。
SE215の魅力のひとつはケーブル交換が出来るということで、上位機種SE535のケーブルが使えます。SE535も前のShureの新製品発表会でこちらの記事に書きましたが、ユニバーサルタイプとしてはWestone4と並んで最高クラスの3ウエイ・バランスドアーマチュア機です。

このSE215とSE535はなかなか魅力的なイヤフォンですので、私は当然SE用の交換ケーブルをどこかで出してないかとHeadFiあたりをチェックしてました。SE535発表会のところでも書きましたがプラグは汎用品なので交換ケーブルは可能なはずですが、残念ながらいままで見た中ではありませんでした。
しかしなんと待望のリケーブルが国内のSAECから発売されました !
ケーブル大手SAECですので、もちろん国内で普通に買えますしサポートも安心です。下記リンクのページのSAEC「SHC-100FS」です。
http://www.saec-com.co.jp/product/c_stereo/shc-100fs.html

shc.jpg

対応機種はSE535、SE425、SE315、SE215となります。ケーブル長は0.8m、1.2m、1.6mと細かく選択ができます。ポータブル用というとバッグの位置の好みや体格で適切な長さは結構異なり、従来の1.6mひとつとか選択が少なかった点には不満を持つ人もいたことでしょう。そうした点でも選択の幅があって良いですね、ちなみにプラグはLではなくストレートです。
線材はPCOCCで独立ツイストペアケーブルとすることで対ノイズ特性も向上しているとのこと。Shureというと独特の耳にかける装着法がありますが、その耳に回す部分も同じ使い勝手が考慮されています。(この部分に関しては純正と同じものだそうです)
価格は税込みでそれぞれ0.8mが11,235円、1.2mが12,600円、1.6mが14,700円です。

実際にデモ品を提供してもらってこの週末に試してみました。これは1.2mのタイプです。
まずケーブル自体の作りですが、しなやかで軽いという点が特徴です。純正だと太くて硬いと思ってる方には取り回しも良くなるのがまず良いところですね。

3034.jpg     3036.jpg

また純正ケーブルはSE535とはぴったりなのですがSE215とは今ひとつ使いにくい点があります。このケーブルは柔軟なのでSE215と相性は良いです。
それとケーブルは先端までLR別になってるのが分かります。これは左右の音の分離も良くなりそうです。

3041.jpg

次に実際に聴いて見たインプレッションです。
プレーヤーはiPod直やFostex HP-P1との組み合わせ、HiFiman HM602、ポータブルアンプ+iModなどなどいろいろな組み合わせで試して見ました。

SEシリーズの純正ケーブルも悪くないと思ってたけど、やっぱりこのケーブルは音が変わります。
まず感じるのは空間の広がり方が別物で、ステージがより広く、オーケストラならよりスケール感があります。
また楽器の音の明瞭感があがり、SE215では少し甘めと思っていたウッドベースのピチカートのエッジもシャープに立つようになります。ヴォーカルの発声がより明瞭になりますね。ガチャガチャとしたポップ系の録音ではより整理されて楽器やヴォーカルの関係が分かりやすく感じます。SE215ではより低域は深く量感も湧き上がるようにたっぷりと聴こえます。
SE535では純正より洗練されて滑らかな鳴りに聴こえるのがより明確にわかります。
特に楽器の音色が整ってきつさが減り、端整に響くようになりますね。おそらく一段高性能なソース プレーヤーが使いたくなることでしょう。
純正に戻すと、全体に音場もコンパクトになり詰まって聞こえます。

まとめると純正に比べて以下の長所があります。
*長さの好みが選べる
*ケーブルの取り回しが柔軟である
*音質の向上がある

SEシリーズを気に入ってる人にはおすすめですね。つけ外しも簡単ですし、リケーブル入門にも良いでしょう。しかし数年前ならマニアックのきわみだったリケーブルがいまではこんなに手軽に購入できるというのもヘッドフォン市場の充実を感じます。
posted by ささき at 12:35 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月26日

Shureイヤフォン・ヘッドフォン発表会

少し前にSE535の発表会に行ってきた記事を書きました。下記リンクです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/156170083.html
今日はヘッドフォンのトップモデルSRH940、イヤフォンのエントリーモデルSE215、DJヘッドフォンSHR550DJの発表会に行ってきました。前回と同様に原宿表参道というロケーションのCafe Studioというとてもオーディオの発表会が行われるとは思えないような場所で発表会は行われました。会場にはいると人数もかなり多く、来ている業界も多様に思えます。

IMG_0698.jpg     IMG_0699.jpg

Shure Japan代表の岩崎さんの軽妙で面白い司会で進行して行きます。
米国Shure代表のコメントはビデオのみです。もともとこの発表会はもっと早く予定されていたのですが震災の影響で延期されていたものです。

SE215K_Straight_onwhite_LR.jpg     SE215_ExpView_onwhite_LR.jpg
SE215

SE115の後継で同様にダイナミックドライバーを使用しています。ドライバーの径は8mmからさらに6.2mmに小口径化しています。ダイナミックにした理由とてしはモニタースピーカーと同じ鳴りのダイナミック型にして欲しいというスタジオからの要望があったということです。
またSE535と同じケーブルを使った着脱式のケーブルを奢っています。つまりSE535と同様の回転式のプラグを使用していますので、Shure巻きのしやすさも継承しているわけです。
これで価格はSE115より安い9500円程度ということです。これはSE115のセールスが良かったので、戦略的な値段をつけて、たくさんの人に試してほしいということでした。


SRH940_Angle_LR.jpg     SRH940_Beauty_Left_LR.jpg     SRH940_Beauty_Front_LR.jpg
SRH940

従来のSRH840の上のクラスになるShureのトップモデルとなるヘッドフォンです。
クローズタイプのモニターですが開放的な音を目指したということです。ポイントとしてはサウンドエンジニア向けですが、オーディオファイルにも聞いてほしいと言うことで、これがフラットでクセがない音だと言われるようなリファレンス的なものを目指しているとのことです。
実際に840に比べても低域特性を抑えていて、かつ20k以上など高い周波数特性はドロップしないようにしているようです。
ケーブルもカールとストレートの二つが入ってるのでぜひ違いを試してください(と、岩崎さんに名指しでふられてしまいました)。

SRH550DJ_Angle_LR.jpg
SRH550DJ

DJタイプとしては750DJの下になります。ポイントとしては安価なDAPで使っても音痩せがしないように、750DJにたいして低域から中域にかけて3-6dBあげていると言うことです。
またDJタイプなので耐入力をあげているのもポイントで3Wまで大丈夫と言うこと。他社でもないだろうとのことですが爆音向きと言えますね。

940も550DJもプロのDJに試作機を12週間預けてチューニングをしたと言うことです。


IMG_2274.jpg     IMG_2275.jpg
左: 百瀬さん、山田さん  右: 小宮山さん、岩井さん

続いてイヤフォントークセッションでライターの山田翔平さん、百瀬みのりさんが登場し、Shure巻きについての大激論が交わされました。

ヘッドフォントークセッションではホフディランの小宮山さんとライターの岩井さんでSRH940についてディスカッションが行われました。印象としてはバランスが良くなっている。特に低域が抑えめなところが他に領域とのバランスが良いと感じさせるとのこと。また小宮山さんからはヘッドフォンっぽさがない、軽くなって装着感も良いとの意見が出されました。


その後実際にデモ機を聴いてみました。SE215はサンプルをもらったので、帰りに電車で聴いてきました。試聴にはFostex HP-P1を使ってます(ALO USBケーブル使用)

IMG_2280.jpg

SE215は低域にたっぷりと重みが乗った太い音でSE115の直系を思わせますが低域偏重だった115に比べるとバランスは良くなってるように思います
帰りの電車ではSE215とHP-P1で聞いてきたんですが、来るときに聴いてきたカスタムIEMに比べれば音の精密感などの再現性は比べられませんが、違った意味で楽しく音楽を楽しむことが出来ました。黒フォームチップで聴くと楽器の音も良く、たしかにBA機に比べて文字通りのダイナミックさとか迫力が楽しめます。ケーブルがSE535のものになってるのでその影響もあるでしょう。価格的にはけっこう良いように思いますね。ダイナミックだからエージングによってさらに良くなるでしょう。

IMG_2278.jpg

SRH940(ストレートコード)は試聴機を使って、となりのSRH840と比較してみました。
840(カールコード)に比べるとすっきりとした端正な音に聞こえるというのが第一印象です。840に比べると低域の膨らみがなくスリムで明瞭感のある音です。整った音鳴りで、音の形もより正確に聞こえます。細身にも聞こえますが、実際は音の曖昧さが少ないので芯はしっかりしています。ヴォーカルも明瞭さが高いですね。また「オープンのような良さを目指した」という点についてはたしかに840に比べてクラシック・オーケストラもののスケール感が良く再現されると思います。
840に比べて低域のブーミーさがないので高い楽器の音がより明確にわかりやすいと言うのは言えると思います。低域も無いわけではなく、ウッドベースのピチカートはタイトでキレが良いので存在感があります。またパーカッションのスナップも気持ち良くぴしっと決まります。
試しに以前のオーディオベーシックの付録にあったローカットのあるなしがわかるパイプオルガンのテスト曲で比べると、940の方がローカットのあるなしが明確に分かります。ちょっと聞くと強調感がないので物足りないかもしれませんが、超低域での性能はむしろ優れているかもしれません。

最近出たフラッグシップはHD650に対してのHD800とか、SR007に対してのSR009とか、周波数レスポンスの直線性・平坦性については似たような進化の傾向があるのかも、とふと思いました。
posted by ささき at 23:15 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月12日

Shure SE535、発表会とインプレッション

SE535V_Bronze_Amp_iPod.jpg     SE535V_iPod_onwhiteLR.jpg 

今日はShure Japanさんの新製品発表会に参加してきました。
まず発表会の場所に驚きます。表参道の裏道で地図を表示させたiPhone片手にウロウロしましたが、青山のCOPON NORPというおしゃれなイベントスペースが会場です。ダイニングバーがあってドリンクやサンドイッチのサービスもあります。ちょっとオーディオの発表会とは思えない雰囲気です。

IMG_1478.jpg

今日の発表会の目玉はしばらくフラグシップだったSE530がいよいよ刷新されて新型SE535が出ると言うことです。CESでお目見えしてたものですね。
また中級機のSE425も発表されています。SE115はカラバリがクリアが増えて、SE115mという携帯電話向けモデルが出ます。(以下プレス用画像です)

SE535V_Straight_onblackLR.jpg     SE535CL_Straight_onblackLR.jpg
左:SE535(ブロンズ)、右:SE535(クリア)

SE535V_Comp_onblackLR.jpg
SE535とパッケージ内容

SE425V_Straight_onblackLR.jpg     SE425CL_Straight_onblackLR.jpg
左:SE425(シルバー)、右:SE425(クリア)

SE115mp_iPhone.jpg     SE115mp_straightwpod.jpg
SE115m(携帯用マイクとリモコンつき)

SE115clear_coil_onblackLR.jpg     SE115clear_straight_LR.jpg
SE115の新色(クリア)

ちょっと脱線しますが、このブログも元々は携帯プレーヤー(URLになってる当時のVAIO Pocket)でShureのIEM(E2cとかE3c)を使って、日々外で楽しむ好きな音楽を紹介するというコンセプトでスタートしたものでした。
いろいろあって今はなんだかいろいろやってますがそれはともかく、つまりはShureってずいぶん前からER-4なんかとならんでこの分野のパイオニアでした。当時はShureの音の良さって画期的でしたが、それはプロ用のインイヤーモニター(IEM)をコンシューマーでも売るという点も大きかった訳です。
今回のプレゼンもその辺を踏まえた会社紹介は世界ではじめてIEMを開発してコンシューマ用に流通させたという点を強調していました。

その当時を知ってる人はShureのイヤホンってE5cとかcが末尾についてたのを覚えていると思いますが、これはプロ用とは別なコンシューマー用の流通経路という意味です。
今回のポイントのひとつはプロとコンシューマーの二本立てではなく、販売ルートのみならず製品開発も統合して行くということのようです。

まず販売ルートを刷新して、コンシューマーには七月から代理店を完実電機さんにするということです。もともと完実電機さんはShureのアナログカートリッジはやっていたようですが、ヘッドホンやイヤホンもやるということです。完実電機さんは大手なので一層の販売力強化がはかれるでしょう。

IMG_1482.jpg

製品開発的には従来のコンシューマールートだったSEのラインとプロルートだったSCLラインを統合させるなどです。SE535ならSE530とSCL-5のクラスを一本化させたものと言うことです。

また派手な外観ではなくプロ仕様のシックな外観デザインを基調にする反面で、パッケージに商品説明を書いて売りやすくするなどの工夫をするということです。

*新製品の特徴

新製品の特徴ですが、まずケーブルが着脱式になっています。メモリーワイヤーはワイヤーフォームフィットという新機構になっています。ケーブル自体もケブラーによる強化ケーブルです。これらはまず断線に対する配慮でしょうが、もちろんケーブル交換することもできます。
Shureとしてはマイク付きの携帯用のケーブルを出すようですが、やはりHeadFi筋の人間としては高音質のリケーブルが欲しいところです。
そこでプラグの入手しやすさを香港からきたマネージャーのチャンさんに聞いてみたら、generic(一般品)であってproprietary(独自規格)ではないということでした。MMCXというやつのようです。

SE425CL_Detach_onwhiteLR.jpg     IMG_1503.jpg

またもう一つポイントとしてプラグのところが回転するようになっています。これはあとでも書きますが、耳の後ろに回すshure巻した時に回転式のロックでテンションが変えられるのでやりやすいと言うことです。
いまは一般的だけど、耳の後ろに回すのは当時は独特だったのでShureのトレードマークでした。ミュージシャンがケーブルを目立たなくするためにするものですが、タッチノイズを減らすというので一般にも広がりました。
ちなみに「Shure巻き」って私が始めにこのブログに書いたような気がします。あんまり表現が思いつかなかったんで、ぐるっと巻くんでそう書いたような覚えが。。

そしてドライバーですが、SE530とSE535のドライバーは違うということです。まず高域特性を改良していると言うことです。ここはShureでは高域がちょっと丸めでしたから、そこへの改良と言うことでしょう。また全体的にバランス重視の音にしてフラットになるようにしたようです。

クロスオーバーは他社では外注したりするところもあるが、Shureは自社デザインで、より小さいものにしたということです。またノズルの位置と角度の最適化を行っているとのこと。
この辺は実際に音を聴いたほうがよいでしょう。

*インプレッション

では実際に音を聴いたコメントですが、試聴機のSE535と比較にSE530も貸してもらいました。また試聴用にサンプル品をもらったので帰りにiPhone4やHM801でも聴いてみました。

IMG_2450.jpg     IMG_1472.jpg

ケーブルはやや太めでE2cをちょっと思わせます。従来のこうしたタイプのものは耳にかけるところはメモリーワイヤー(耳にまるく絡める針金)が入ってるんですが、この新型ケーブルではワイヤーフォームフィットという機構(というかメモリーケーブルカバーみたいなもの)でよりしなやかでスムーズにケーブルを曲げられます。耳の後ろに回すShure巻きをするときには回転するプラグ部分がうまく動いてとても楽です。
Shureのブラックフォームチップの良さもあって快適性は高いように思えます。だれでも無理なくぴったりフィットできそうです。あのE2cとかE5cで巻き方に悩んだのはいまは昔です。(E3cはストレートでも使えました)


SE535はさすがにトップモデルらしい高い音の再現力を感じます。上から下まできれいに伸びてスムーズです。
立体感や音の広がりもiPhone単体でも申し分ないですね。HM801だといっそう際立ちます。音の細かさの抽出もよく声の肉質感を感じさせます。低域もたっぷり充実して高域のシャープさとうまく対比されています。
この高域の伸びきり感にいままでのShureと違うものを感じます。

IMG_1507.jpg     IMG_1510.jpg
左画像は上がSE535、右画像は左側がSE535

実際に530と535を比べて聴くとかなり音が違うのが分かります。
やはり高域が伸びるのは特徴的です。530の高音は綺麗ですが鈍く丸っこい感じですが、535はさらにシャープで芯があります。
反面で低域は530より抑えめで、530のように不自然に張り出した感がなく、バランスが良いというのもうなずけます。530に変えると重心がずいぶん下がるように感じて、低域過剰と感じます。
535は530と比べると低域は抑えられているように思えますが、比較なしで535だけ聴くとむしろたっぷりと低音も出ていて深みもあります。

また、535は全体的に530よりもより洗練されていると感じます。
たぶんクロスオーバーもよくて、530より全体的に少しクリアですっきりスムーズに感じます。ここは音のバランスをフラット調にしたのとうまくあいまってます。

全体により洗練された感がありますが、バランスが変わったことで曲によっては530とは好みの差が出るかもしれません。ただし別のメーカーの音ではなく、音の色はShureのもので、高い方がよりシャープになり、低域の強調が抑えられたということです。
逆にいうと530持ってる人はこれも追加で買いたくなるかもしれません。

下記はモデルさんが装着したところです。耳のアップのほうがイヤホンが見えやすいという意見は却下します(笑)。

IMG_1496.jpg

SE425の基本的な考え方は535と同じなんで省きますが、SE115mについてちょっと触れておきます。
これは携帯用マイク付きのリモコン対応です。つまりiPhone対応というわけです。Shureはマイクのメーカーなので内蔵マイクの品質には自信があるとのことで、マイク穴は見えないんですが内蔵をしてます。

**

今回のポイントはプロ製品とコンシューマー製品を共通化して合理的に商品展開を図るというところにあるように思えました。音のフラット傾向の変更もそうしたプロとコンシューマーの融合戦略の一環に思えます。始めに書いたようにプロの品質をコンシューマーに提供するというのがShureらしくもあります。
価格は代理店さんか販売店さんから発表されるということです。フジヤさんではさっそく試聴機を店頭に出しているようですね。

ぜひ、この新しいShureの音に触れてみてください。
posted by ささき at 22:16 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月13日

Shure SE115 - 新型ダイナミックドライバーのエントリー機

se115e.jpg

今年のCESで発表されたさまざまな新製品が徐々に登場しつつありますが、このShure SE115もそのひとつです。
SE115は名の示す通りに従来のSE110と同じクラスでおそらく同程度の価格となると思います。また昨年発売されたSE102kのひとつ上位機種という位置づけです。基本的にはSE110と代替することになり、店頭発売は6月12日からを予定しています。

1. SE115の特徴

従来機のSE110との大きな違いはSE110がバランスド・アーマチュアのシングルドライバーであったのに対して、このSE115はダイナミックドライバーを採用しているということです。
バランスド・アーマチュアの方が高級であるとのイメージもありますが、ダイナミックドライバーの採用は低価格ではなく、あくまで音質にこだわった故とのことです。SE115ではMicro SpeakerIIという新型のドライバーが採用されています。

バランスド・アーマチュアドライバーは小型で精細な音を可能にしますが帯域特性が狭い特徴があります。上位機のSE530/420のように2つ、3つとドライバーがあり高い音、低い音と帯域別に特性を分担できるのであればバランスド・アーマチュアは力を発揮します。しかし価格が高くなってしまいますし、小型化というバランスド・アーマチュアのメリットと相反してしまいます。
このSE115が担当するところはエントリークラスです。つまりこの価格帯でいかに高い性能を両立するかというShureの回答がこの新型のダイナミック型ドライバーを採用したSE115といえます。これは特に低域性能において音質面でのメリットをもたらします。
またダイナミックドライバーを採用したことでエントリーのSE102kからステップアップがなじみやすいものとなっていると思います。

SE115のもうひとつのキーは小型化と遮音性です。実際にエントリーレベルのSE102kの10mmよりも小さな8mm径の新型ドライバーが採用されています。ダイナミック型というと高音質を得るために大型化する傾向があり、SONYなんかでは縦にドライバーを配置したりして苦心していますが、SE115では逆に小さくするという発想でこれを解決しています。
実のところ小型化と遮音性と音質は密接に関係しています。SE115では小型化されたドライバーにより耳にフィットしやすく、さらに最近のShureの秘密兵器であるソフトフォーム(海外では黒オリーブとか弾丸チップと呼ばれてます)のイヤチップを採用が可能になっています。

se115_kit2.jpg

こうして得られた遮音性は二点のメリットがあります。まずノイズキャンセリングのような高価なデバイスを使わなくてもよいため価格を抑えられます。次に遮音性をあげることで低域を逃がさないため、より低い音のたっぷりした量感を確保することができます。


またエントリークラスの対象となるカジュアルユーザーにいかにアピールするかということがもうひとつのポイントになります。
この点でSE115はファッション性を重視してカラーバリエーションを4色(ブルー、ピンク、レッド、ブラック)に増やしています。また小型化することでさらに女性ユーザーに使いやすいものとなっています。

se115blue.jpgse115pink.jpgse115red.jpgse115black.jpg

低域を志向した音の作りもこうしたカジュアルユーザー層を意識して、ロックや洋楽ポップなどにあったものです。それらの少しきつめの録音やMP3などの圧縮音源の対応も、音をウォームで柔らかな方向にするというダイナミックドライバーの特性に適合します。


2. SE115の印象

実際にSE115を入手しましたのでその印象をレポートします。
ただしこれは製品版そのものではなく、プリプロダクションモデルですので音や外観は異なることがあるかもしれませんことを留意ねがいます。

se115a.jpg     se115c.jpg

箱はかなりがっしりとしています。アクセサリーはポーチやイヤチップなど一式がそろっています。またShure独特の耳の後ろを通す装着の仕方も説明シートがついています。

se115b.jpg     se115_kit1.jpg

わたしはE2cを持っていたんですが、カナルタイプをE2cからはじめたという人は多いと思います。E2cで広まった耳の後ろを回すというケーブル処理はタッチノイズの軽減として言われていたんですが、こうしてきちんとケーブルを処理することでイヤホンの音導ポートが耳道の方を自然に向くという効果もあります。

新型ソフトフォームの遮音性は高く、電車の中でもかなりの静粛性を確保できます。また装着も柔らかでぴったりとはまります。

se115d.jpg

ケーブルは基本的に短いもので、別に延長ケーブルがついてきます。小型のMP3プレーヤー(DAP)を使うときは短いままポケットや襟にクリップして使えるでしょう。iPod nanoのときは短いままで胸ポケットに挿して使えます。
延長ケーブルはかなり太めでE2cを思わせます。このためケーブルをつけるとやや取り回しづらくなりますが、しっかりした太目のケーブルのせいか延長ケーブルをつけた音質低下はさほどではないようです。


試聴はiPod video(5.5G)とnano(2G)でポータブルアンプ等は使わずに聴きました。イコライザーはFLAT(なし)です。

SE115はこれらのiPodとの相性はよくて、シングルドライバーらしからぬ重厚で豊かな低域に圧倒されます。
低域方向からヴォーカル帯の中域までたっぷりと重みの乗るところが印象的で、中域の甘みのあるヴォーカルやきれいな楽器再生の下支えとなっています。
SE115のよい点は、たしかに低域は強調されていますが単に低域がボンボンとあまり深くないところだけを誇張してチューニングされているのではなく、かなり低いほうまで重く沈んで聞こえるため、重厚感があって厚みを感じるという点です。
ドライバーの低域方向のレスポンスもよいと思いますが、これには遮音性の高さも関係しています。特にソフトフォームとあわせた遮音性の高さで低域が漏れないので、重低音というような成分がたっぷりとのっています。

こうして豊かな量感のある低い音の波が中域のヴォーカルの音を支えて、ウォーム感のある音調とあいまって上手な音楽表現を聴かせます。ヴォーカルはリッチで厚みがあり、細かいところもよく出ていて十分な肉質感や潤いを感じます。
高域はきつくなく、子音が刺さるということはありません。実際圧縮音源やきつめの曲でも聞いて見ましたがほとんど痛さはありません。柔らかめなのでバランスドアーマチュアほどシャープさは強調されませんが、楽器の細かい表現はよくできていると思います。
いずれにせよダイナミック型なのでそれなりにエージングをしてやったほうがよりはっきりとした音が出てきます。

音楽としてはやはりロックやポップ、特に電気系の打ち込みのはいったものがよく合います。またポータブルゲームをする人にも良いと思います。
ドラムのインパクトもパワフルで重みがあり気持ち良く、エレキベースのはじける勢いもよく伝わります。


バランスド・アーマチュアと比べると明瞭さとか切れは譲るかもしれませんが、書いたように低域を中心に幅広いレンジをうまくカバーしてロックとか洋楽の文字通りダイナミックで音楽的な表現力は一枚上手になっていると思います。音の広がり自体も悪くないんですが、低域の深みがそれ以上に堂々としたスケール感を与えていると思います。この辺がエントリークラスといっても薄さやチープさを感じない点かもしれません。
小型化、遮音性、低域表現というポイントはうまく絡み合っているように思いますし、エントリークラスとしてひとクラス上の音をダイナミック型ドライバーで作るという目的は十分達成されているのではないでしょうか。
posted by ささき at 22:35 | TrackBack(0) | __→ Shure イヤフォン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする