Music TO GO!

2012年11月18日

The Producers - Made in Basing Street

The Producersは文字通り著名な英音楽プロデューサーがバンドを結成したというおじさんバンドです。タイトルのBasing Streetも文字通りスタジオのある番地のことだそうです。
中心はトレヴァーホーンで、他に10cc/ゴドレイ&クレームのロルクレームなど。プロデューサーとは言いますが実際はミュージシャンあがりの人たちですね。

メンツから想像つくように音は古いです。80年代くらいのポップロックという感じ。でもそこがオールドロックファンにはしっくりくると思いますね。タイトル曲がFreewayというように疾走感もあるアップテンポの曲と落ち着いた曲のバランスも良い感じ、ここはさすがにプロデューサーズ。全体にトレヴァーホーン色を感じますが、たしかに10CCも入ってるかというところもあるかも。
国内版ではボーナストラックが2曲ついてきますが、実はもう一曲クレジットされてない曲が入っています。CD2の最後の曲が終わった後(国内版ではボーナス曲の前)にしばし空白の後にシークレットトラックとしてフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのTwo Tribesがプロデューサーズ・バージョン(ライブ)で入ってます。これもトレヴァーホーンらしいところで、知らない人はこれなに?って感じだと思いますが、なかなか心憎い隠れボーナストラックです。
下記のYoutubeにこの演奏のプロモーションビデオがはいってます。トレヴァーホーンはベースを担当しています。


今の音楽シーンにこういう音楽が受け入れられるかは分かりませんが、大人のロックコーナーにはぴったりのアルバムです。実際このアルバムちょっと面白いのは現地では自らのインディーズレーベルで販売してるようですが、国内では大手ソニーミュージックが扱ってることです。こういう通好みの音楽を国内紹介してくるあたりは素直に称賛してあげたいですね。
今年はPIL、デッドカンダンス、キリングジョーク、ウルトラヴォックス、ヒカシューなどなど80年代バンドがこの2012年に新作を出してきたわけですが、このプロデューサーズもその延長にあるとはいえるかもしれません。

iTunesでも扱いがありますので試聴はiTunesで出来ます。
https://itunes.apple.com/jp/album/made-in-basing-street/id571836869
Amazonリンクは左が国内版で右が輸入盤です。それぞれ二枚組みで、輸入盤は1枚のものもありますが、上で書いたTwo Tribesは入っていません。

     

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2012年08月15日

ディスモータルコイル・リマスター再発とNazim Hikmetの詩

4ADを代表するアーティストであるディスモータルコイルの3作品がリマスター再発されました。
http://tower.jp/article/feature_item/2012/06/15/0106
このすばらしい作品世界の美しさに合わせるかのように紙ジャケットも日本の一九堂印刷所で限定生産の高級な画集のような素晴らしい印刷と紙を使用しています。従来の紙ジャケットとは一線を画していますね。リマスタリングもオリジナルマスターからのものでHDCD仕様です。よりクリアで空間の広がりも深みが増しています。耽美的で吸い込まれるかのような世界観がより磨かれた感があります。このディスモータルコイルの3作品も音楽史に燦然と輝く作品ですが、それにふさわしいクオリティの再発CDです。購入はAmazonにはないようなので、上のタワレコリンクからどうぞ。

80年代に輝いた4ADというレーベルはゴシック的世界観の美学を持ったアーチストの集うところとなり、コクトーツインズやデッド・カン・ダンスのような後に影響を与える優れたアーチストを生み出しました。現在の4ADはいささか様変わりしていますが、その美学はアメリカのProjektというレーベルに受け継がれています。Projektについては以前こちらに記事を書いています。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/30956262.html
しかし、4ADは創設者のアイヴォ自身が作りあげたユニットであるディスモータルコイル(This Mortal Coil)のためにあったとも言えます。
ディスモータルコイルは様々なポピュラーミュージックをアイヴォ流の世界をもってカバーしたユニットです。再掲になりますが、やはり今日はそのラストアルバムから"I come and stand at every door"を紹介したいと思います。
Youtubeでは次のリンクで聴くことが出来ます。上がディスモータルコイルがカバーしたもので、下のオリジナルはバーズです。




オリジナルの曲のメロディーは伝承音楽から取ったもので、歌詞はトルコの詩人Nazim Hikmetの詩を英訳したものを使っています。
その詩を訳出して曲の紹介にかえたいと思います。

"
だれの家の前にも私は立っています
でも声なき祈りはだれにも聞こえません
わたしが死んでいるから

わたしはそのときまだ七歳でした
ずいぶん前の広島でのことです
わたしはいまでも七歳です
死んだ子供は歳をとりませんから

わたしの髪は燃え盛る炎に焼かれました
ぼやけてなにも見えなくなり
死が訪れ、わたしの骨は塵となり
そして風に吹かれて消えました

わたしはもうご飯はいりません
お菓子も果物もいりません
わたしはなにもいりません
もう死んだのですから

わたしがただ望むのはあなたが平和のために立ち上がること
世界の子供たちが笑い、すこやかに育つために
"


この詩にはまたオリジナルとも言えるトルコ語の朗読とヴォーカル曲があります。歌っているのはあのジョーンバエズです。

「ドナドナ」はだれもがご存知の曲と思いますが、元はあまり知られていない民謡でした。しかしジョーンバエズがベトナム戦争に従軍していく兵士になぞらえて歌いヒットして、いまのように広く知られるようになりました。

この詩の日本語で歌われているものでは、坂本龍一がオリジナルの作曲をつけ、元ちとせが歌う「死んだ女の子」という曲があります。

元ちとせのアルバムOrient収録ですが、いまの時期になると特別配信がなされ、収益は寄付金となるとのことです。
http://mora.jp/package/80307744/ESXX00413B00Z/


戦争は望むときに始めることができる
しかし戦争は望むときに終わらせることはできない
- マキャベリ
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2012年07月29日

Isles of Wonder - ロンドンオリンピック開会式音楽集

ロンドンオリンピック開会式音楽集のコンピレーションアルバムが発売されています。さすがブリティッシュロックの地らしい開会式でしたね。
下記リンクはiTunesです(曲はすべてが網羅されてるわけではありません)。
http://itunes.apple.com/jp/album/isles-wonder-music-for-opening/id548480746

開会式は「エルサレム」から始まりましたが、いきなりELPかよというわけでもなく、これはもともとウイリアムブレイクの詩に曲をつけて一次大戦のころに作曲されたものです。後で出てくる炎のランナーのなかでも使われてます。(イスラエルの)エルサレムのことを歌った歌ではなく、イギリスのことを聖地に例えたものです。ELPはFanfare For The Common Manなんかでも現代曲のカバーをしてますね。またブレイクの詩に曲をつけたものではタンジェリンドリームのタイガーなんかもあります。

開会式ではイギリスのなりたちと歴史を解説していきました。イギリス人を英語でEnglishと言ってはいけません。イギリスというのはイングランドとウエールズ、スコットランドの国からなる連合国家のようなもので、イングランドはひとつの地域ですね。それを統合してグレート・ブリテンと言います。ですのでイギリスの人はBritishの方が妥当でしょう。ブリティッシュロックと言うのはこの辺から来ているわけですね。さらに北アイルランドを含めるとUK - United Kingdomとなります。
ちなみにイギリスの古名はアルビオン(Albion)と言います。白子をアルビノといいますが、アルビオンはドーバーの白い崖から来ているということです。アイルランドの古名はエリン(Erin)です。この辺はファンタジー小説を読むと出てきます。

開会式典の医療制度からファンタジーの演出のときにはチューブラーベルズが使われ、マイクオールドフィールド本人がギターを持って演奏したのには驚きました。以前書いたマイクオールドフィールド初期作の記事はこちら。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/154656059.html
バンクーバーオリンピックの開会式典のときにはやはりうちのブログででよく書いてるロリーナマッキニットが出て来たのを思い出しました。

ヴァンゲリスの炎のランナーはプログレバンド御用達のロンドンシンフォニーオーケストラ(LSO)が演奏していました。ヴァンゲリスはギリシャ人ですが、リックウエイクマンの後釜にイエスに加入するという話があったことがあり、ブリティッシュロックと無関係ではありません。
驚くのはセックスピストルズのGod Save the Queenが女王陛下列席の場所で流されたことです。これはイギリスらしいですね。ジョニーロットン(ジョンライドン)ではPILが最近新作を出したのでそちらも取り上げてほしかったところ。

聖火点灯のクライマックスではピンクフロイドのDark Side of the Moonがドラマティックに使われ、ハイライトはポールマッカートニーがヘイジュードを熱唱すると選手たちも会場も合唱するというライブかよという盛り上がり。そのほかフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやデュラン・デュラン、ツェッペリンなどなどもあってNHK FMじゃないけどブリテッシュロック三昧な開会式でした。

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posted by ささき at 19:09 | TrackBack(0) | ○ 音楽 : アルバム随想録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月25日

LIFE - フライド・プライド

女性ヴォーカルとアコースティックギターによるデュオ、フライドプライド9枚目の作品。
前作がジャズスタンダード回帰で上質感を意識したトーンで仕上げられていたのに対して、本作ではもっと生き生きとしたフラプラが聴けるものになっているように思います。サマータイムやテイク5などジャズスタンダードのカバーとオリジナル曲による構成はかわらず、shihoさんのハスキーヴォイスと横田さんのスピード感あるギターのからみなど、フライドプライドらしさのあふれるアルバムで、ここからフライドプライドに入るという人にもお勧めです(試聴は下記Amazonリンクよりできます)。今回はジャズじゃないけどエアロスミスのウォーク・ディス・ウェイのカバーも聴きものです。

異色なのは最後の曲。これは宮城県の民謡、大漁唄い込みをカバーしています。おそらくは震災を意識していて今作のテーマであるアルバムタイトルもそこに関係しているのでしょう。
大漁唄い込みは斎太郎節とも呼ばれますが、松島の出てくる一番の歌詞はもしかすると他県の人でも知っているかもしれません。しかし、石巻(いしのまき)の出てくる三番は地元の人間以外にはほとんど知られていないでしょう。

松島のさーよー 瑞巌寺(ずいがんじ)ほどの 寺もないとえー あれはえーえ えとそーりゃー 大漁だえー
石巻さーよー その名も高い 日和山とえー  あれはえーえ えとそーりゃー 大漁だえー


この日和山(ひよりやま)から見る北上川河口に広がる石巻の眺めは格別に素晴らしく、この歌で取り上げられることに恥じません。しかし、いまではそこにあったものは流され消えています。
ただこの歌を口ずさむといまでも、記憶にある美しい光景でその空白を埋めることができます。それが歌の力というものかもしれません。

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2012年07月10日

Apollo - Icebreaker/BJ Cole (Brian&Rodger Eno)

本作はブライアン・イーノの代表作の一つであるApolloをイギリスの音楽集団Icebreakerがアコースティックアレンジした作品です。
ブライアン・イーノは多彩な音楽家でロキシーからはじまってさまざまなジャンルで活躍していますが、一時期は「環境音楽」の祖としても知られていました。環境音楽とは「家具の音楽」とも呼ばれましたが、音楽自体が強い主張をしないで周りに溶け込むような音楽のことです。これはいまでいうアンビエントにつながりますが、ペンギンカフェなんかもこの一派に入れられます。
実のところ弟のロジャーイーノの方が室内楽的なセンスが高かったと思いますが、その兄弟合作での傑作がこのApolloの原曲です。もとはNASAの月着陸のドキュメンタリーフィルムのサントラとして制作されました。このフィルムは全編セリフとか音声が入っていません。
オリジナルのApolloは電子楽器での作品ですが、それをアコースティック楽器でアレンジをしてライブで演奏可能にしたものが本作です。(ちょっとマニュエル・ゲッチングのE2-E4のライブ盤のほうを思わせるかもしれません)
もともとはロンドンのサイエンス・ミュージアムが月着陸40周年を記念しておこなったイベントのための音楽のようです。IcebreakerはDavid LangとかMichael GordonあたりのいわゆるBang on a Canあたりの先鋭的な現代音楽家グループということです。

ライブには“moving and sublime” (感動的で荘厳)というサブタイトルがついていますが、実際に原曲の瞑想的でゆったりとした優雅さと美しさをそのままに、アコースティック楽器の深み、色彩感と豊かさを兼ね備えた素晴らしいアレンジとなっていると思います。
こちらはライブ風景のyoutube映像です。



下のアルバムは左がIcebreaker版で、右がオリジナル(リマスター版)です。

    
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2012年07月05日

21世紀の精神正常者 - モルゴーア・カルテット

本作は東京フィルハーモニー交響楽団のコンマス荒井英治氏率いるモルゴーアカルテットによるプログレ名曲の弦楽四重奏アレンジ版です。荒井氏はプログレファンであると自認していて、以前にもモルゴーアQはロックアレンジアルバムを出しています。選曲は正攻法でメジャーバンドの有名曲をカバーし、変化球はメタリカくらいです。このアルバムは私が買った時点で、なんとタワレコクラシックフロアのウイークリーチャートの一位になってました 。すごいカバーアートはもちろん宮殿のパロディですがメンバーの顔写真の合成だそう。

まずこのアルバムで良いのはカバーアルバムとしてきちんとオリジナルへのリスペクトがあることです。ジェネシスの月影の騎士はリリシズム溢れ、クリムゾンの宮殿は感動的なまでにドラマティック、締めにスターレスを持ってくるのは通っぽいまとめ方です。原曲のアナリーゼが完璧で、荒井氏はかなりのマニアとみました。フロイドの太陽讃歌なんかはシドバレット的な危うさを演出しているのも良いですね。実のところ太陽讃歌もウマグマに入ってるのはいいんですが、セカンドの原曲はいまいちだったように覚えてます。しかし、ここではシドバレットっていう狂気のイメージを使ってうまくアレンジしてると思います。太陽讃歌は他にサイキックTVがカバーしてるバージョンがあって、それもジェネシスPオーリッジのキレてるヴォーカルがやはり同じ感があったのを思い出しました。

またもう一つ言えるのはこれがやはり系統的には吉松タルカスからの流れである「ロック的なクラシック」アプローチって言うのがあると思います。吉松隆はその流れを自分で「平清盛」サントラで昇華させたけど、荒井英治氏もその流れを意識してるのでしょう。ライナーではショスタコーヴィチからの影響をあげていますが、荒井英治氏がコンサートマスターを務める東京フィルハーモニー交響楽団は吉松隆のタルカスを演奏したバンド、じゃなくオーケストラです。また吉松氏はモルゴーアQのさきにかいたロックアレンジアルバムではオリジナル曲(アトムハーツクラブ)を提供しているので、思えば吉松タルカスを東京フィルハーモニー交響楽団が演奏したというのはそうした流れがあるのでしょう。
モルゴーアカルテットには吉松隆が平清盛で自分なりに昇華させたように、この骨太のカッコよさをオリジナル曲に発展させてくれることを願います。

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2012年05月28日

Silfra - ヒラリーハーン & ハウシュカ

ヒラリーハーンとハウシュカという異色の組み合わせの作品。ヒラリーハーンはあの世界的バイオリニストで説明不要だと思います。もうひとりのハウシュカはエレクトロニカで最近注目されて来ているアーティストで、ダンサブルでポップなセンスを生かしたアーティストです、というのが私の理解でした。しかし、もともとはハウシュカ(aka フォルカー・ベルテルマン)はプリペアードピアノを駆使する現代音楽の作曲家と言うことでポストミニマル的な立ち位置のアーティストだったようですね。このアルバムでは弾き手としても楽曲提供もしています。
プリペアードピアノはピアノに木や金属を噛ませて音を変えるもので現代音楽の人が使う手法です。プリペアードピアノに関しては下記のYoutube動画を見るとわかりやすいと思います。


ハウシュカの東京公演

私もハウシュカっていうと最近注目のエレクトロニカ系アーティストという印象だったんで、それとヒラリーハーンというと異色と思ったんですが、実のところ現代音楽家っていう側面でみるとそう異色というわけでもないかもしれません。いずれにせよユニットのユニークさから想像出来るとおり、以前紹介したクロノスカルテットのUNIKOのような現代音楽とポピュラーのボーダー的な面白さを聞かせてくれます。プリペアドピアノの変わった音色と透明感のあるヒラリーハーンのヴァイオリンの組み合わせも斬新です。UNIKOが全編緊張感に溢れているのとはまた違って、難解そうに思えても少し明るめで聴きやすい顔も見せるのはハウシュカならではの持ち味といえるでしょう。
ドイツグラモフォンからのリリースですが、グラモフォンというと例のスティングのヴォーカル作品も思いだしますね。

こちらにこのユニットのホームページがあります。
http://hahnandhauschka.com/

こちらはアルバムからBounce BounceのPVです。


エレクトロニカってゼロ年代以降出て来た新しい音楽の総称っていうくらい幅が広いジャンルです。ポップなヴォーカルものの延長で軽く聴けるのもあるし、電子楽器がなくてもこの前のゴールドムンド(aka Helios)みたいにエレクトロニカのコーナーにあるものもあります。もちろんエフェクトどろどろの音響系みたいなものもあり、シューゲイザー、アンビエントと来るとイーノあたりともオーバーラップします。
Silfraはさすがにヒラリーハーンのネームバリューが大きいのでクラシック(現代音楽)コーナーにありましたが、音楽的にはエレクトロニカのコーナーにあってもおかしくはありません。エレクトロニカだとプリペアードピアノが混ざってても違和感ないので、そうした自由さがハウシュカが惹かれて活躍のフィールドを移していったのかもしれませんね。

ちなみにSilfraとはアイスランドにある地名だそうですが、大地のプレートの境の裂け目が透明な湖となっているとのこと。これはアメリカ(ヒラリーハーン)とヨーロッパ(ハウシュカ)の合作ということを示し、実際にアイスランドで録音されたということです。
Amazonリンクではハウシュカの近作もあげておきます。またSilfraはアナログ盤(右側)も出ています。

        
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2012年03月12日

友川カズキ・花々の過失(DVD) - ヴィンセント・ムーン

これはフランスの映像作家ヴィンセント・ムーンが異才のフォークシンガー友川カズキを描いたドキュメンタリー映画です。この作品はコペンハーゲンドキュメンタリー映画祭2009部門で「音と映像」部門最優秀賞を受賞しました。国内公開は昨年のいまころだったのですが、3/1にDVDが発売されました。このDVDのレビューです。
こちらにホームページがあります。作品原題は"La faute des fleurs"ですが、これは友川カズキのアルバムのタイトル「花々の過失」を訳したものです。
http://lafautedesfleurs.com/

友川カズキ(以前は友川かずき)は強い秋田なまりと叫ぶ詩人の強烈な個性を持った人で、フォークシンガーと書きましたが実のところ詩人、絵画、音楽、競輪など多様な活躍の場があって、戦場のメリークリスマスの坂本龍一がやった役はもともと友川かずきがやる予定だったんですが、秋田弁を矯正すると言われて辞退したといういわくもあります(実話)。それで表現者かというと、人にゆだねてしまう表現者であるより、自分で完結する競輪が好きとうそぶいてしまいます。
とても長い経歴を持つ人で、うちのブログでも取り上げようとは思っていたんですが、この機会に紹介いたします。

まず彼の演奏を見るのが一番良いと思います。こちらは映画のアウトテイク(カット集)からの映像ですが、友川カズキのライブ演奏が2分ほどあとで始まります。
「ピストル」という曲です。


http://www.youtube.com/watch?v=85mnIzJ50_g

映画はストーリーというのはなく、ドキュメンタリーかというと特に明確なテーマがあるわけでもありません。友川自身の言葉、彼の別居している息子あるいは友人のインタビュー、また友人の詩人の言葉が、まるで森山大道の写真のようにコントラストと粒状感の強いヴィンセント・ムーンの映像のなかに散らし書きのようにちりばめられていきます。
こちらに予告編があります。


http://www.youtube.com/watch?v=0gB4f2H7zDk

友川カズキはとてもキャリアが長く70年代あたりからやっているので、曲全体に筋は通ってますがやはり時代なりの傾向はあります。自分はうんとしずかな曲か、うんとうるさい曲のどちらかした書かないと言ってますが、彼の曲を聞くには順番をつけると親しみやすいと思います。
はじめは彼が影響されたという中原中也の詩を使用した「サーカス」や「ワルツ」などから聴き始めて大人向けのいい感じの音楽だな、と思ったら次に「生きているって言ってみろ」や「一切合財世も末だ」あたりで、強力な主張のメッセージソングだなと思い、さらに「トドを殺すな」とか「桜の国の散る中を」、「歩道橋」みたいなアングラ演劇の劇伴かよ、みたいな世界にどっぷりつかるというのが良いルートかもしれません。(ちなみに歩道橋の曲中の朗読に弟に捧ぐとありますが、これは彼の自殺をした弟のことです)
アルバムとしてはCDはゴールデンベストがだいたい代表曲をカバーしていて良いと思いますが、平均的にみな良い曲なのでタイトルの花々の過失なんかもお勧めです。

こちら友川カズキのホームページです。
http://kazukitomokawa.com/j/
ほんと、音楽の世界は深いのでいろんなアーティストを聴くのが良いと思いますよ。

          

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2012年02月05日

平清盛(とタルカス) - 吉松隆

今回紹介するのは現在放送中のNHK大河ドラマである平清盛のサウンドトラックです。これは作曲家の吉松隆さんによるもので、ドラマを見てると分かりますが番組中には彼のオーケストラ版のタルカスがそのまま使われていて、ゴールデンタイムのタイトルバックに堂々とキースエマーソンのクレジットも出るという画期的なものです 笑。NHKでは坂本龍馬で元デッドカンダンスのリサジェラルドがヴォーカルに起用されたりしましたが、意外とマニアックです。
吉松隆とタルカスはこちらのリンクで記事を書きました。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/157314621.html

私はこの手のサントラはまず買わないんですが、このアルバムは吉松隆さんの作品として魅力的です。吉松隆さんはタルカス演ったときはオーケストラの破壊力という言葉を使ってましたけど、この平清盛を聴くとタルカスに通じるオーケストラの破壊力と言うかダイナミズムが感じられます。タルカスのさらに吉松オリジナル版のようなものを作曲したかったんでしょう。
このアルバムを録音するときも、テーマ曲は変拍子炸裂で緩急もあり演奏側にとってもテンポの掴みがすごく難しく、どうしても尺が伸びるんだそうですがドラマの挿入曲だから時間ピッタリ演奏しなければなりません。オケのメンバーがこんなの演奏できないって言ったらしいんですが、そこで吉松さんがこう言ったそうです。
このテーマ曲はロックなんだ。丁寧に一個一個の音符を弾くから長くなるんだ。ロックのように感じればいいんだ。とにかく感じてくれ。
早い部分は端正なクラシックではなく、壊れる寸前のロック風で!

ドラマは兵庫県知事のピントずれた発言が話題となったりしましたが、平清盛という歴史ドラマの持つ武家社会の台頭というテーマがこのオーケストラの破壊力によるダイナミックさで良く表されてるように思います。

そして吉松隆さんのもう一つの持ち味である詩情性を担うテーマ曲のピアノに舘野泉さんを起用してるのもこのアルバムのポイントです。吉松隆さんは舘野泉さんに以前にも曲を提供しています。
舘野さんは病気で右手麻痺になりましたが左手のピアニストとして奇跡の復帰を果たしたピアニストです。でも、あるインタビューで、左手っていうとすぐラベルのあれをやってくれと言われるのが逆に面白くなかった、と気骨あるところを語っていたのが印象的でした。

このテーマ曲に引用されていて清盛の生みの母(役:吹石一恵)が歌った「遊びをせんとや生まれけむ」は今様(いまよう)という当時の流行歌で、いわば伝統音楽に対するポピュラーです。
清盛の生みの母は白拍子(しらびょうし)という設定ですが、この白拍子と言うのは舞いながら流行歌を歌うと言うことで、当時のポップシンガーのようなものだったんでしょう。源義経の恋人だった静御前が白拍子だったことで知られています。義経はこの大河ドラマの最終回あたりに平家の幕引き役で登場するでしょうが、静は当時の京で一番の踊り手だったと言われます。義経と静の恋と言うのは日本一のヒーローと日本一の流行歌手の恋というわけですから、後世に長く語り継がれるのも良く分かります。

紅白歌合戦とか運動会みたいにいまの日本では二つに別れるときに赤と白に別れますが、これは源平合戦から始まったと言われます。(源氏が白旗で平氏が赤旗)
いわば日本中を二分する始めての大歴史ドラマの始まりがこの大河ドラマでやってる題材です。
冒頭の館野泉さんのピアノの情感、あるいはダイナミックなオーケストラの破壊力、そのリリシズムとかっこよさを兼ね備えた素晴らしいテーマ曲を楽しみながら、毎週ドラマでいにしえに思いをはせると言うのもよいものです。

iTunesで購入することもできます。こちらの方が少し長く試聴ができます。
http://itunes.apple.com/jp/album/nhk-da-hedorama-ping-qing/id495916068

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アコースティック・アストゥーリアス教会ライブ

昨年開催されたアコースティック・アストゥーリアスの教会ライブの第二弾があったのでまたいってきました。アコースティック・アストゥーリアスはいま最も精力的にやってる日本のプログレバンドの一つであるアストゥーリアスのアコースティックユニットです。
昨年のリンクはこちらです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/195222965.html

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池袋のシャロンゴスペルチャーチと言うところで、ホールの響きが素晴らしい音楽演奏用の教会です。特にピアノに響きがよく乗りますね。ライブではギターはPAを通しますが、他のピアノ、ヴァイオリン、リコーダーは生音です。
前回もオーボエを加えたゲストコーナーが良かったんですが、今回もチェロの星衛(ほし まもる)さんを迎えたゲストコーナーが素晴らしく充実していました。星さんのチェロも素晴らしいんですが、ユニットに低音楽器が加わることでアンサンブルの厚みがましてバランスが良くなります。前回のオーボエと一緒に常設にして夜長オーケストラみたいに大所帯になってくのも良いかもと思いますね。星さんに関しては篠笛も都の無形文化財指定を受けてると言うことで、篠笛アレンジの曲も披露しましたがこれも和風テイストで感動的でした。
なお初期CDのマーチンググラス..は高値プレミアがついてるようですが、これは再発の予定があるとのこと。


アコースティック・アストゥーリアス 「凍てついた記憶」(アルバム : Legend of Gold Wind)

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2012年01月08日

バッハ無伴奏ソナタとパルティータ - アマンディーヌ・ベイエール

バッハの無伴奏バイオリンのためのソナタとパルティータというとバイオリン独奏曲としてはもっとも有名なもののひとつです。全曲だとかなり長いのでシャコンヌなんかはよく単独で取り上げられます。わたしはクレーメルが好きなこともあって、バイオリンのリファレンスとしてテストなどで使う曲は新録音のクレーメルのソナタとパルティータ(下Amazonリンクの一番右)を使ってました。もちろん言うまでもなくすでにたくさんの名録音がありますが、もう一枚それに加えても良いかもしれません。

本アルバムはフランスのアマンディーヌ・ベイエールという古楽演奏者のアルバムで、バロックバイオリンを使用しています。バイオリン自体はビンテージではなく現代製作のバロックバイオリンのようです。
これ、試聴機で聴いた時点ではっとするくらい透明でかつ鮮やかという音色の美しさに魅了されました。聴いていてちょっとした快感ですね。無心に音の響きだけに身を任せられ、音楽を聴くのがむずかしいことではなく、単に音に身をゆだねるのが気持ちが良いことだと気付かせてくれます。演奏もわりと現代的な解釈だと思いますが退屈ではないですし、音楽堂での録音も古楽器らしい響きの良さを生かした素晴らしいものです。演奏・楽器の音色・録音と三拍子そろった素晴らしいアルバムだと思います。加えてジャケットのデザインも良いですね。

またこのアルバムがちょっと変わっているのはバッハの無伴奏バイオリン全曲集だというのに最後にヨハン・ゲオルク・ピゼンデルというバッハ同時代の演奏家・作曲家の曲も含まれているところです。この演奏をしているベイエールという人が古楽の教授のようでピゼンデルとバッハのバイオリン作曲対比というのがこのアルバムのひとつのテーマになっているようです。マーキュリー輸入の国内版の日本語ライナーはバッハのソナタとパルティータについての音楽学校の論文とかアナリーゼみたいな濃い解説がたっぷりと書かれています(その割にはこのアルバムについてはあまり書かれていませんが)。そういう意味では音楽の難解で深いところにも触れていけるのでしょう。

音楽の原初的な楽しさに深い解釈が加わった、なかなかの好アルバムだと思います。試聴は下中のAmazon MP3のリンクで可能です。CDは左リンクです。また国内版がほしい方はこちらのタワレコなどでどうぞ。

          
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2011年11月27日

All Will Prosper - Goldmund

Goldmundはオーディオメーカーとは関係なく、Keith Keniffの音楽ユニットです。彼は一般的にはエレクトロニカ系のアーティストとしてHeliosなどのユニットで知られてますが、Goldmundはアコースティックユニット名です。従来はピアノのみでしたが、今回はギターも加わってます。
今作は彼の長年のテーマだったと言う南北戦争の時代の音楽を取り上げたアルバムです。シンプルなメロディとアコースティック楽器のみの素朴なアルバムですが、特徴的なのは楽器の擦れる音やペダルを踏む音など、楽器自体の出す環境音をわざと積極的にいれて音を作ってる点です。Goldmundでは以前のアルバムでもそうした試みを取り入れてますが、エレクトロニカで電子的にノイズをいれる手法のアコースティック版とも言えるでしょう。ただシンプルでは終わらないというエレクトロニカアーティストらしい進取の試みと言えそうです。そのため録音法も独自の技術を駆使しているということです。そういう点でこのアルバムはヘッドフォンやイヤフォンの方が楽しめると思います。
こちらiTunesリンクで試聴ができます。
http://itunes.apple.com/jp/album/all-will-prosper/id474044338

南北戦争と言うのはアメリカが南部と北部に別れて戦った内戦で1861年-1865年にわたり戦われました。以前アメリカで南北戦争を扱ったドキュメンタリーTVシリーズがありましたが、そのサントラはこの当時の音楽を収集したものの代表としても知られています。All Wil Prosperには伝統曲ではありませんが、そのTVシリーズのテーマ曲も収められています(Ashokan Farewell)。私もアイリッシュとアメリカ伝統音楽に興味あってこのサントラを買いました。
このころの曲で日本で一般的なのはアメージンググレースくらいですが、他の曲もメロディを聴くとなんかどこかで聞いたことあると思うでしょう。その理由はアイリッシュの道程シリーズとして前に書いたことがあります。興味ある方は下記リンクをご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/260143.html
http://vaiopocket.seesaa.net/article/292064.html
http://vaiopocket.seesaa.net/article/31098795.html

しかし"all will prosper"(みなに栄えあれ)と言うのは皮肉なタイトルです。南北戦争は第二次世界大戦を経たいまでも米国人の戦死者数では上位を占めているほど血生臭い戦いでした。
南北戦争の後半、コールドハーバーの戦いでは南軍の堅牢な陣地に北軍が無謀な突撃をかけ、暴雨風の中を人がなぎ倒されるように死んで行ったと言われます。戦争ではなく虐殺だと後に評された戦いですが、ある後日談でも知られるようになりました。
コールドハーバーの戦いのあと、戦場に倒れていた北軍兵士のポケットから血にまみれた日記が見つかりました。その日記の最後のページにはこう記されていました。
June 3. Cold Harbor. I was killed
「6月3日、コールドハーバー。私は殺された。」

過去形で書かれたのはもう今日の日記は書けないことを覚悟してみずから日記を締めくくろうと前夜に書いたのでしょう。この戦いの前夜、兵士たちはみな日記や手紙を書いていたと言います。そうした背景をこの静かな曲を聴きながら想うのも良いかもしれません。
国内版にはピアノソロ曲のダウンロードリンクがついています。右はドキュメンタリー"The Civil War"のサントラです。

     
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2011年07月02日

Songbook3 - セシル・コルベル

「借りぐらしのアリエッティ」のテーマを担当したことで日本での知名度がぐっと上がったセシルコルベルの新譜です。
内容はキープコンセプトで、トラッドをベースにした聴きやすく優しいポップ音楽を提供しています。トラッドの哀愁を帯びた美しい旋律にセシルのちょっとフレンチポップ風の甘いヴォーカルがからんでちょっと面白い独特の世界を作っています。
前作のSongbook1、2に比べてもこの人は軸がぶれないという印象です。Songbook3というネーミングもまさにシンプルにしてその通りです。(実際にはSongbook2の後に「アリエッティ」のイメージアルバム"karigurashi"も作っています)

アリエッティのテーマを担当したことで、ずいぶんいろんな面でインパクトはあったと思いますが、そうしたことによる音楽性が変わるということはないようです。
トラッドのアレンジという点で似たタイプのロリーナマッキニットは全米ヒットの前後でけっこう音楽的な振れ幅があって、最新作ではまたシンプルにトラッドベースに回帰するという変化を見せてますが、セシルコルベルはそういうのが感じられないですね。
たとえばセシルコルベルのこのSongbook3にも、ロリーナマッキニットの最近のアルバム(wind that shakes the barley)にもトラッドの"Brian Boru"がアレンジされて入っているんですが、聴き比べてみると今回のロリーナマッキニットはマッキニット節を付けながらもシンプルでストレートにアレンジしていますが、セシルコルベルはやはりヴォーカルを入れてポップに味付けしています。
ひとくちにケルト系と言ってもかなり広い範囲があるのですが、ロリーナマッキニットの場合はそれを旅しながらケルト音楽を見つめ直していきたいという思いがあり、セシルコルベルの場合は自分の作りたいファンタジーの世界観をしっかりと持っていてそれをひたすら実現しようとしているというように感じます。

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2011年06月17日

Piano Trios (Kissine/Tchaikovsky) - ギドン・クレーメル

Piano Triosはピアノ三重奏曲集ということですが、このアルバムについてはジャズのピアノトリオという言葉をそのまま使いたくなります。まさにジャズのピアノトリオ・アルバムのようなプレーヤー間の緊張感のあるインタラクションというのを想起するからです。その「トリオ」はギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、ギードゥレ・ディルヴァナウスカイテ(チェロ)、カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)の三人です。
チェロのディルヴァナウスカイテはクレーメル自ら率いるクレメラータ・バルティカのベテランメンバーということですが、このアルバムで注目は新鋭のカティア・ブニアティシヴィリというピアニストです。クレーメルとアルゲリッチの両巨匠に絶賛されたと言うことで注目されてきているピアニストということです。クレーメルは他のベテランアーティスト同様に若手登用に力を入れていますのでこのアルバムもその一環と言えるかもしれません。

特に素晴らしいのは二曲目のチャイコフスキー「偉大な芸術家の思い出」でまさに圧巻で、三人がつむぎ出しぶつかりあう緊張感にあふれています。クレーメルのいつもの冷徹な鋭利さも切れてますが、ブニアティシヴィリのピアノはそれに負けないような存在感をみせています。またこれだけのものを引き出す録音もよいと思います。マイク配置などが巧みなのではないでしょうか。
室内楽なんてオーケストラの迫力がなくてつまらないとか、品があるけど退屈と思っている人にぜひ聴いて欲しいですね。

一曲めの「鏡」はクレーメル得意の現代音楽です。これは前に紹介した聴きやすいUnikoと違い、いわゆるゲンダイオンガクです。ただこれもプレーヤーのつむぐ音の存在感がそうした難解さを忘れさせるように音に集中させてくれます。
例えば無音からいきなりピアノを強打するとか伝統音楽ではあまりあり得ないので、フォルテシモのピアノの打鍵音の歪み感、消えゆく残響音のかすれ方、弦の微かな唸りなどオーディオのテスト曲として通用するような面白さもちょっとありますね。クレーメルは言わずもがな、ブニアティシヴィリの打鍵の正確さなど、プレーヤーの技量発揮のショウケースとしても機能している曲なのでしょう。

最近のクレーメルの録音で現代曲としてはアルバム"Silensio"収録のペルトのダブラ・ラサが素晴らしいものでした。これはクレーメル自身のオリジナル録音よりも良いと思います。ブニアティシヴィリなど若手も素晴らしいですが、クレーメルも録音のたびに凄みを増していると言うのも素晴らしいところです。
こうしたアーティストの技を楽しむのもまた室内楽の楽しみといえるのでしょうね。

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2011年06月07日

Voice - 上原ひろみ

こちら上原ひろみの新作です。今回ドラマーにサイモンフィリップス(ex TOTO)を迎えて、特に冒頭から2曲目にかけてはロックテイストを加えたジャズロックと言っても良いような仕上がりになっています。ジャズトリオのスピード感のあるかけあいと、ロックの畳み掛けるようなリズムのカッコ良さがあります。
また7曲目のピアノの美しい流れるようなメロディーをフューチャーしたスムーズジャズ的な仕上がりの曲も聴かせてくれます。

グラミー賞受賞した後のアルバムとはいえ震災直後くらいにリリースされたのであまり話題になりにくかったのですが、ジャズファンだけではなく、広い層にアピールできる多彩な魅力のあるアルバムだと思います。


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2011年05月02日

UNIKO - クロノスカルテット

このアルバムはクロノスカルテットという現代音楽を代表するユニットの新作です。もちろん現代音楽の棚にあったんですが、聴くと現代音楽というよりエレクトロニカ作品でもあり、ジャンルを超えた世界があります。
このUnikoはストリングカルテットとアコーディオン、そしてサンプリング・パーカッションによる作品です。ストリングカルテットとアコーディオンの組み合わせだけでもユニークですが、これもうまくはまっていますし、アコーディオンのポーヨーネンはシガーロスとかクリムゾンメンバーとも親交があるというと音楽性も納得できてきます。さすがクロノスQという演奏の緊張感も一級ですが、それにサンプリングパーカッションやヴォイスを載せて独特な電子音楽作品に仕上がっているのが面白い点です。エレクトロニカの棚においても作品のイメージとしては違和感はないんですが、このクリエイティブなかっこ良さというのは本来現代音楽が持つ良さかもしれません。難しく退屈という作品ではなく、全編緊張感とスピード感にあふれていて飽きさせません。

試聴はクロノスのホームページからできます。こちら期間限定で全曲試聴できるようです。
http://www.kronosquartet.org/recordings/detail/286

またこちらライブ映像がYoutubeに載っています。CD収録とはやや異なっているようです。Youtubeのほうにはさらに続きがアップされています。




しかし現代音楽のように伝統音楽に祖をもつ音楽の先端とエレクトロニカというポップ音楽の先端とが似たような音になるというのは面白いものです。生物学では祖先の異なる生物が,似た環境に適応して似た特徴を持つことを収れん進化といいます。(例えばイルカとサメなど)
音楽の分野でも時代に合わせて収れん進化が見られるというのはちょっと面白いと思いました。あるいは収れんしているのではなく、逆にノンジャンルになっていくのかもしれません。
このUNIKOの魅力はジャンルという枠には当てはまりませんね。


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2011年04月23日

Schole HOPE Project

東日本大震災の義援金のための音楽からのアプローチは下記のSongs For Japanをはじめとしていくつもあります。
http://itunes.apple.com/jp/album/songs-for-japan/id428415201

Songs for Japanなどはよく知られていると思いますので、ここではScholeのHope Projectを紹介します。ホームページはこちらです。
http://www.scholecultures.net/hope/
Schole(スコーレ)は日本のエレクトロニカのレーベルでさわやかで明るい色彩感が特徴のレーベルです。Scholeでは毎月一曲無料ダウンロード曲をアップして、寸志として義援金を募集しています。義援金は赤十字を通して送られるとのことです。
第一弾としてはschole主宰、小瀬村晶氏の"HOPE"です。(このためのオリジナルではありませんが以前非売品として配布された曲のようです)
室内楽風の美しい小品でとても良い曲です。品の良さの中にも前向きな力強さを感じられます。

またScholeレーベルのサンプラーとしてはこの"note of seconds"がお勧めです。試聴はこちらのYoutubeでどうぞ(収録曲のダイジェストムービーです)。



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2011年04月10日

Legend of Gold Wind - アコースティック・アストゥーリアス

アコースティック・アストゥーリアスは日本のプログレバンドであるアストゥーリアスのアンプラグドユニットで、アコースティックギター、ピアノ、ヴァイオリン、クラリネット/リコーダーの4人で編成されています。前作ではメジャーデビューを果たしたのですが、今回通算三作目の新作が出ました。
その発売記念ライブがあったので行ってきました。場所はライブハウスではなく、池袋のシャロンゴスペルチャーチと言うところです。ここは名の通り音楽演奏を考慮にいれた教会のようでホールとチャペルの2会場があって今回はチャペル(礼拝堂)のほうでした。
http://www.bridalmission.co.jp/sharon/index2.html
ここは音響効果が素晴らしく良くて、リバーブエフェクト強でかけたみたいに残響がたっぷり乗ります。音合わせで軽く音だしてるだけでも感動しますね。チャペル据付のスタインウエイもいい音でした。ギターだけアンプ入れてあとは生音のみですが、とても心地よい音色にひたれる演奏でした。
当日は立ち見が出て当日客断ったくらい大盛況だったようです。

曲も基本的にはキープコンセプトですけど、リコーダーが今回は多めに入ってるんで中世音楽的な味も増え、音楽テイストもちょっとワールドがあちこちに入ってます。プログレバンドらしい「組曲形式」の長尺物もいい感じです。室内楽ファンにも広くお勧めです。
こちらホームページです。下記のYoutubeにPVがアップされています。

http://www.geocities.jp/gonzo1go/home.html



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2011年04月09日

Natsukashii(懐かしい) - ヘルゲリエン・トリオ

オーディオファンにもおなじみのノルウェーのジャズピアノトリオ、ヘルゲリエン・トリオの新作がリンレコーズから192kHzのスタジオマスター品質ダウンロードで発売されました。
面白いことに「懐かしい」という日本語タイトルです。これはふと思い出される記憶・思い出、というあたりがテーマになっているからのようです。ちょっとMAあたりを思わせる叙情的な一曲目がそれを思わせます。

ヘルゲリエンの作品は音楽性も良いけれども録音が良いので私もよく試聴曲にtake fiveなどを使っています。そろそろ192kHz対応の書き物も多くなってきたのですが、いままではHRX176kHzのブリテン「青少年のための交響曲入門」をよく使ってたんですが、これでまた192k対応機器試聴のヴァリエーションが増えます。

昨晩ダウンロードして、今日は外出時に聴こうとColorfly C4にFLACのままつめたところ再生できなかったので、dBpowerampでいったんWAVにサンプルレートそのままでファイル形式変換だけしてつめたところきちんと192/24で再生できました。
JH16+piccolinoケーブルで聴いてますが、鮮烈で生っぽい演奏が楽しめます。音の実体感が良いですね。

リンレコーズのリンクはこちらです。192の他に96k版もあります。

http://www.linnrecords.com/recording-natsukashii.aspx

CD版のリンクはこちらです。なお上記で書いたtake fiveの収録アルバムも添えてリンクしておきます。

     
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2011年03月29日

夜長オーケストラ5周年記念ライブ

夜長オーケストラの5周年記念ライブをみてきました。時勢的に自粛ムードの中、明るく前向きの楽曲で楽しませてくれました。

こちらに公式ブログの写真が更新されています。
http://tlno.exblog.jp/15747551/

これは昨日のものではありませんが、同じ高円寺HIGHでの昨年のライブです。


CDではソプラノ+ストリングス+電子楽器というところが印象的なんですが、ライブで聴いてみるとホーンセクションがとてもかっこよかったですね。
こちらはそれが楽しめるPV"Phantom Blue"で、昨晩はアンコールラストの曲でした。


新曲三曲も披露され、コンミス貴恵さんのソロヴァイオリンがカッコ良い二曲目のTime,take your timeがけっこう気に入ったので早く新アルバムもほしいところです。昨日は二曲入りのCDRが得点として渡されました。
集まった人も高円寺という印象よりは大人が多めで、ライブハウスで大人が楽しむ音楽という感じでしょうか。

こちらはラピュタの主題歌のカバーです。この虫の音は実際に公園で録音した時に入ったものだそうです。


それと夜長オーケストラのCD購入はインディーレーベルなので公式サイトか目白のWorld Diskのようなマニアックなところくらいでしたが、Disk Unionやタワレコ、HMVや山野でも取り扱うことになったそうです。またAmazonでも取り扱うようになりました。
よいアーティストはますます活躍していってほしいものですね。

試聴はMySpaceでどうぞ。
http://www.myspace.com/thlongnightorchestra

      
posted by ささき at 23:14 | TrackBack(0) | ○ 音楽 : アルバム随想録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする