Music TO GO!

2020年03月25日

Chord 2go国内発売!

Chord Hugo2のネットワークモジュールの2goがいよいよ国内でも発売されます! アユートさんから3月28日に直販価格税込149,980円で発売されます。色はブラックとシルバーです。2goはすでにCanJamレポートなどでお伝えしたようにMojoに対するPolyのような存在ですが、いくつか進化もあります。

2go メイン_sv.jpg 2go サブ5_sv.jpg 2go サブ3_sv.jpg

私はデモ機を試用しているのですが、簡単にコメントを。やはり一体型で専用設計なので扱いやすく、Hugo2がより自由になった感じです。音質も鮮烈でとくにTidalをストリーミングで使う音が良いのが快感です。まさにHugo2の力が開放された感じです。

IMG_5853_s.jpg


プレイモードにオートができて、Mpjo/PolyではRoonとDLNS/AirPlayはリブートが必要でしたが、交互に再生が可能となっています。

2.png

Hugo2側に突起部を取り付けてしっかりと2goと合体できるようになっています。

IMG_5311_filtered_s.jpg  IMG_5331_filtered_s.jpg

ちなみにすでにGoFigureを使っている人はいったん今のを削除してから最新版(2.02)を再インストールすることは確認したほうが良いです。

IMG_5909.PNG

また続報します。

posted by ささき at 11:01| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

AZLA AZELの記事をASCII.jpに書きました

AZLA AZELの記事をASCII.jpに書きましたのでご覧ください。

https://ascii.jp/elem/000/004/006/4006816/?topnew=3

posted by ささき at 09:27| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月22日

Jaben Japanから新ブランドのイヤフオンと高級交換ケーブル登場

Jaben Japanからポタ研で展示していたイヤフォンと、リケーブル用の高級交換ケーブルの新ブランドが発売されています。

オンラインショップはこちらです。
https://jabenjapan.thebase.in/
Jaben Japanでは2/22から3/2までの期間に全品10%オフというクーポンをJaben Japanのtwitter(@JabenJapan)とfacebook(Jaben Japan)のアカウントで配布していますので興味ある方はどうぞ。

○ 1 Custom Universal

イヤフオンの新ブランドは1 customという名前ですがカスタムではなくユニバーサルイヤフォンです。customというのはスイッチによって音色が変えられるというところからきているようです。BAマルチドライバーのMR,SRとハイブリッドのJRの3モデルが販売されています。
スイッチはデフォルト、Vocal, Detailed, Bassの4種類が可能で、これは各機種に共通の特徴です。スイッチを切り替えるための小さなピンが付属しています。

IMG_3798_filtered_s.jpg IMG_3799_filtered_s.jpg IMG_3804_filtered_s.jpg

以下は機種ごとのインプレッションです。試聴はAK380を使用しています。

* MR(4Hi, 2Mid/low, 1Low) 27Ω 68,000円 (発売記念特価 58,000円 税込)

IMG_3811_filtered_s.jpg IMG_3812_filtered_s.jpg

マルチドライバーなので大柄なシェルだけれども、軽くて耳にぴったりとフィットして装着感はよいと思います。おそらくシェルの形が良いと思いますね。まずデフォルトで聴いてみます。
音数が多い感じで情報量が豊富という印象です。透明感もわりと高く、高域は響きが美しいけれども、あまりきつくなりすぎないよい特性だと思います。低域は多くなりすぎずに程よくいい感じ。周波数特性のバランスはわりと優等生的です。
ヴォーカルは少し前に出る感じで、明瞭感も高く聴きやすいと思います。あまり低域が中域をマスクしている感も少ないと思います。
全体に厚みがあって、音楽を聴く魅力があります。この価格でのマルチドライバー機としてはなかなか良いと思います。

次にVocalモードにしてみます。添付のピンで1番を左右ともONにすることでVocalモードになります。ちょっと細かいのでやりにくい点はありますね。変えるとVocalというよりも全体が前に出る感じではあり、全体にやや甘めな感じになります。次にDetailedにするVocalよりはやや引いた音になって聴きやすくなる感じですね。Bassにすると低域が盛り上がるというよりはヴォーカルが少し引いた感じになると思います。

試聴ではデフォルトのバランスが良いのであまりスイッチで変える必要性はないように思うけれども、いろいろと自分の音楽で聴いてみてモードを使い分けるとよいのかもしれません。テイストが少しずつ異なるような感じだと思います。これはもうちょっと激変したほうが面白いのではなかったかと思います。

* SR(2HI,1Mid,1Low) 14.8Ω 42,000円 (発売記念特価 38,000円 税込)

IMG_3800_filtered_s.jpg IMG_3803_filtered_s.jpg

装着感としてはMRよりも小さい分で耳へのおさまりはよいという感じです。
音は高域が少し強めでややきつい感じはあります。実のところ高域ドライバー数の多いMRの方が質が良くなめらかな高域表現であると思います。
低域はMR同様にわりと穏やかであまり強くはないですね。SRでもBASSモードを試してみたけれども、あまり激変する感じではなくやや低域が盛り上がる感じです。こちらもMR同様に基本のデフォルトモードのバランスがよいので、スイッチでもっと味付けしてもよかったと思います。

* JR(ハイブリッド、1Hi,1Mid,1DD) 8.6-9.5Ω  26,000円 (発売記念特価 18,000円 税込)

IMG_3816_filtered_s.jpg IMG_3818_filtered_s.jpg

JRのみダイナミックドライバーとのハイブリッドでベント穴があります。
高域はあまりきつくなく聴きやすい感じです。伸びも悪くないのですが、MRと比べると情報量には欠ける感じがします。
低域はハイブリッドらしくたっぷりとしていてSR/MRよりもだいぶ低域が多いように感じられます。躍動感があって、音楽を楽しく聴くことができます。低価格でハイブリッドらしい楽しさを感じられる良い機種だと思います。
スイッチの切り替えもこのモデルが一番違いが分かるような気はします。

3機種ではMRとJRが価格にしては音が良い感じがするので、この二機種のどちらかがお勧めです。


○ Creator Cable (香港)

こちらは高級な交換ケーブルのブランドです。2010年よりハンドメイドにより交換ケーブルのOEM展開をしていたブランドで、2018年にそのノウハウを生かした自社ブランドの「CREATOR」を立ち上げたということです。

IMG_3820_filtered_s.jpg IMG_3823_filtered_s.jpg

特徴としては音色に分けたケーブルの展開をしていることで、リファレンス的な位置づけのSilver4、ボーカル表現に重きを置いたVocal cable、音楽のたたずまいの再現と高品位な高域に重点を置いたというMusical cableの3種類があり、それぞれに2pin、MMCX、Fitearの3タイプが用意されています。アンプ側は4.4mmバランスです。

IMG_3827_filtered_s.jpg
FitEar (335univ)

IMG_3840_filtered_s.jpg
MMCX (HS1675SSS)

IMG_3843_filtered_s.jpg

2pin (Maverick3 CIEM)

またアダプターも多種類用意されています。

IMG_3832_filtered_s.jpg

音は代表してMMCXタイプをAcoustune HS1670SSで聴いてみました。されざれ自分でのエージングはしていない状態です。共通して高級ケーブルらしく重く硬いケーブルで、耳にかけるところの癖が付けられていないので耳にかける使い方はやややりにくいところはあります。タッチノイズはかなり少ないと思います。

* Silver4 (特殊処理、最高級高純度、純銀線) \ 235,000税込

リファレンスというだけあって、音のバランスが良いと思います。たしかに純銀らしい上質感があると思います。
ちょい聞きには低域が多いようにも感じますが、高域もよく伸びていて、とてもワイドレンジに感じられます。音の広がりも3本の中で一番広いですね。透明感が高く解像力が高いが、軽いとかきついという感が少ない感じです。
音に厚みと重みがあってよくある「銀線です」というようなシャープさのみを主張するケーブルではないと思います。上質な銅線にも思えるくらいです。それでいて低域のインパクトに切れあじがあって音の歯切れが良いところは銀線らしいですね。低域の深みと重さもよい感じです。
ヴォーカルもよく聞き取れるので、全体的に明瞭感が高い上質なケーブルだと思う。これはかなりレベルが高いケーブルです。

* Vocal (特殊処理、銀メッキ高級OFC) \ 118,800税込

Silver4と比較すると高域と低域のワイドレンジ感が少なくなり、やや小さくまとまった音になりますが、低域のインパクト感も高域も悪くはありません。
特徴はやはりヴォーカルがとにかく明瞭感が高いとともにとても前に出てくる感じです。相対的にヴォーカルに注意が行くような音です。Silver4のヴォーカルも明瞭感は高いが、少し奥にいて客観的な感じがします。

* Musical (特殊処理、銀メッキ高級OFC) \ 173,000税込
特殊処理銀メッキ特殊OFCという点でヴォーカルと同じですが、こちらは各パートにバランスが取れていると思います。全体的に厚みや程よい暖かみがあって、いわば銅線的な鳴りのケーブルです。きつさも少ないので音楽を長い時間楽しく聴くことができると思います。Silver4よりも再現力ではやや劣るけれども、わりとオールマイティに使えると思います。

3機種では再現力はSilver4ですが、Musicalも悪くありません。
個人的には特にSilver4はかなり気に入りました。純銀線のお手本的な音の良さがあると思います。銀コートはときにハイや子音がきつくなるのですが、ほんとによい純銀線はSilver4みたいにきつくないのですよね。
もう一つヴォーカルは癖がありますが、特徴的なのでヴォーカルものをよく聞くという人にお勧めしたいと思います。他の二本はオールマイティに使えると思います。
posted by ささき at 15:12| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月21日

Chordのホームページに見る2goと2yu

先週のCanJam NYで披露されたChordのPoly相当の2goと、2goのデジタル出力モジュールである2yuですが、Chordのホームページに情報が公開されています。2goはTo Goとうちのブログ名と同じく、日本語の「テイクアウト」と同じで外に持ち出すという感じの名前です。

2go
https://chordelectronics.co.uk/product/2go/
2yu
https://chordelectronics.co.uk/product/2yu/

2goの方は予想通りにPoly相当で、Polyとの違いはMIcroSDが2基あるということと、有線イーサネットのRJ45の口があるということ。
それと特徴的なのはオートスイッチングという機能で、PolyではDLNAとRoonを切り替えが必要でしたが、おそらく2goではこれが不要なんではないかと思います。

2yuの方ですが、基本的には2goと組み合わせてデジタル出力端子を提供してネットワークブリッジとして使い、Hugo2以外にも使えるようにした機種です。CanJamではHugo TTと組み合わせてデモしていました。
ただ説明をよく読むとなかなか興味深い機能があり、2yu内部にもプロセッサーが内蔵されていて接続するDACに応じたダウンサンプリング機能が用意されています。
またこのプロセッサーはPLLにも使用していると書かれています。PLLというかこのリサンプル機能はおそらくASRCとして働いてジッターを低減させるのではないかと思います。ここは推測なので後で確かめてみたいですね。
それと注目は2yuは単に2goのデジタル出力モジュールというだけでなく、2yu単独でPCと繋ぐことができるようですね。おそらく2goと接続するMicroUSBの口を直にPCに繋げるんではないかと思いますが、これも確かめたいところ。

2yuは思ってたより深い...
posted by ささき at 19:17| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月06日

セラミック・フルレンジ振動板のハイエンドイヤフオン Simphonio VR1レビュー

Simphonio VR1はシングルドライバーダイナミックのハイエンドイヤフォンです。VR1は昨年の春のヘッドフォン祭に出展されて好評を得ています。この時はCHORD DAVEのシステムでデモされていて驚くほど高い音質を味わわせてくれました。

IMG_3771_filtered_s.jpg

私はその後に雑誌の記事を書くために再度借りたのですが、その時はまずAK380と組み合わせてみると、良いけれどもさすがにDAVEで聴いたほどではないか、とはじめは考えました。その後にSP1000と組み合わせたところ、あのDAVEと組み合わせたようなものすごい音質を再生して、えっなんでこんなにプレーヤーで違うのとあらためて驚いたのを覚えています。
それでVR1に興味を持ち、また貸し出してもらって今回詳細にレビューを書いているというわけです。VR1は七福神商事から発売が決定されて、フジヤさんで専売されます。今度のポタ研に出展されますので参考になればと思います。

IMG_3775_filtered_s.jpg

*Simphonioについて

この開発者の方とは随分前からメールでのやり取りをして知ってはいました。聞いた話によるともとは有名メーカーのOEMを手がけていたのですが、Sunriseという自社ブランドを立ち上げて製品を作ってもいました。私がまだヘッドフォン祭で自分のブースを持っていたとき(2011年頃)にデモ機を送ってもらって参考展示したりしていたのですが、ここにちょっと書いています。(自分のブースを持っていると他に参加できないので、のちに自分でブースを持つのはやめましたが)
http://vaiopocket.seesaa.net/article/199951950.html

その後にSimphonioという会社を立ち上げています。Simphonioはとにかく音質を第一に提供するというブランドで、他の要素は二次的に考えるというオーディオファイル的なブランドということです。VR1の他にはDragon3というハイインピーダンスのインイヤー型のイヤフオンもありますが、こちらも見た目はスマホの付属イヤフォンだが音はよいというものなのでコンセプトがわかってもらえると思います。
他の製品などについては公式ホームページをご覧ください。
http://www.simphonio.com/index.html

IMG_3795_filtered_s.jpg

*VR1とセラミック振動板

VR1は形式的にはシングルドライバーのダイナミック型イヤフオンです。
ユニークなのはセラミックを積層させて形成した「セラミック振動板」を採用していることです。普通セラミックは陶器みたいなものなので成形して焼き入れして加工しますが、ここではまったく新しい方式でセラミックをあるベース素材に積層を繰り返すことで成形するという研究所レベルの技術をもちいて製作されています。良い例えかわかりませんが、セラミックの3Dプリントみたいなものでしょうか。

これはSimphonioの件の開発者の知人にこうした研究者がいて、その要素技術をなにかに応用できないかということで、 開発者がイヤフオンの振動板に応用することを思いついたということのようです。つまり他でこの技術が使われるということはないでしょう。

いままでもVSTのようにイヤフォンでいわばスーパーツィーターでのセラミック応用はあったのですが、この技術を採用することで14.2mmという大型のフルレンジ振動板が可能となりました。そしてもう一つ重要なポイントがありますが、これはもう少し後で書きます。

このセラミック振動板はセラミックなので軽くて硬いという、振動板に好適な特徴を持っています。硬くてたわみにくいので、ダイナミックドライバーが中央の一点で振動していても場所によって振動が異なるということが生じにくいわけです。このことで全面が均等に動きやすいので平面型のような特性を持つことができます。
また軽くてすぐ動けるので入力信号に正確で動きが早いという利点もあります。また止めたいときに止められるので余分な附帯音もつきにくいというわけです。
それなりの解像力だとそれなりの音になるし、解像力が高いとすごい音になるというのもこの辺から推測ができます。

そして先に書いたもう一つのポイントはこの積層方式の成形によって、振動板の厚みを局所的に自由に変えることができるということです。このことで振動板の周辺部・縁の部分を薄くすることで、あたかもスピーカーのエッジを持ったようにここだけ柔らかく作ることができるというわけです。
このことにより振動板の動きの自由度が高くなり、イヤフォンというよりはスピーカーのように深みのある音を出すことが可能になるということです。

vr1d.jpg  vr1c.jpg
公式サイトから

このセラミック振動板のデメリットはやはり高価について、まだ大量生産に向かないということです。まだ研究室レベルの技術の応用ですからそれは仕方のないところでしょう。

*VR1の他の特徴

他のVR1のイヤフオンとしての特徴はダイナミック型なのでベント穴がありますが、ベントが二個あるという点です。これは振動板を挟むように前と後ろにいわゆるアコースティックチャンバーのような空気室があってそれぞれについているということです。一つは耳穴の内側に空いていて耳内の空気室と連動しているということです。これらのことにより振動板がより自由に、かつ最適に動くことができるので豊かな音を実現できるということです。
こうしたイヤフオンの工夫はさきに書いたような開発者の長年の経験からくるもので、けっしてセラミック振動板だけのアイディア企業ではありません。

またVR1の外観を特徴付けているのはサファイア製のフェイスプレートです。サファイアも硬いので強度を上げるためということもありますが、一番の理由は見た目の良さで、開発者の意向として宝石のような製品を作りたいので加工しやすく強度を稼げる宝石としてサフアイアを選んだということです。

* VR1とケーブルについて

このVR1の音を引き出すには、このブログを見ている人にはいうまでもなく良いケーブルが必要です。
VR1は発売形態としてケーブル無しと推奨ケーブル付きの二種類があります。

推奨ケーブルにはCS1とCS10があり、それぞれ3.5mm端子と4.4mm端子のモデルがあります。
IMG_3783_filtered_s.jpg
青いほうがCS10、黒いほうがCS1

CS10(いちぜろ)は単結晶の銅線と、銀メッキではなく無垢の銀線と、無垢の金線をよった線材を使用しています。

CS1は単結晶の銅線をクライオ処理したものと、シルバーの上にパラジウム(レアメタル)コーティングした線材を採用しています。

* インプレッション

Simphonio VR1は緑色の立派な化粧箱に入っています。中にはケーブルはなく、先に書いたようにオプション扱いになっています。イヤチップはいくつか入っていて、今回は標準添付のシリコンチップを試聴に使いました。

SVR1_017.jpg  tips.jpg
公式サイトから

またイヤチップと共にユニークな形状のイヤフォンバッグもついてきます。

IMG_1932_filtered_s.jpg  IMG_1933_filtered_s.jpg  IMG_1935_filtered_s.jpg

VR1本体は14.2mmの大口径ということもあってそれなりに大柄な筐体ですが、耳に入れた時の装着感は悪くありません。金属製なのでずっしりとくる感じですね。ケーブルはCS1とCS10を使いましたが、どちらも凝った線材のわりには取り回しはしやすい感じです。ポータブルで使いにくいような硬いものではありません。この点で他の8芯線などの高級交換ケーブルなどに比べると使いやすい方だと思います。

はじめにAK380を使用してCS1で聴き始め、時折CS10に変えて違いをみてみます。

IMG_3766_filtered_s.jpg

まずいままで聞いたことがないくらいの高いレベルの透明感と解像力の高さに驚きます。解像力というよりも情報量の多さというべきかもしれません。音の響きというか余韻、いわゆる楽器の松ヤニがとびちるような感覚ですね。このVR1の音を特徴付けているのはこの豊富な情報量からくる緻密な音の再現力です。一音一音の音の余韻によって、ものすごく小さな音が積み重なって豊かな音空間を作り上げているという感じです。

例えばバロックバイオリンは典型的な例ですが、古楽器らしい倍音というか音の響きのこまかな音がよく聞こえて来ます。中高域はとてもシャープで鋭いのですが、ベルの音が整っていて淀みのない美しい音色を聴かせてくれるのも特徴的です。この辺はハイエンドでなければとうてい味わえないレベルの音楽体験といえるでしょうね。

IMG_3792_filtered_s.jpg

低音域もとても深く、ダイナミックドライバーらしい重みもあります。このため、ポップやロックのようなジャンルでもパンチのある音楽が楽しめます。ここはCS10に変えてみるとやや様子がことなり、CS1ではよりワイドレンジでより低い方の超低域が豊かであり、CS10はいわゆる低音を感じるところのやや上の方がやや強調されているように感じられます。

中域はもちろん声の明瞭感が高くはっきりと歌詞が聞き取れますが、ここでも情報量の多さがかなり効いていて、アカペラを聞くとよくわかるけれども、音の広がりと重なりが音のよいホールで聴いているようにリアルで鮮明に感じられます。
細かい音の重なりがとても立体的ですが、これはシングルらしい良好な位相特性による影響も大きいと思います。また楽器音が正確で、音色がそれぞれ違うのがよくわかるのも特徴です。

このVR1とCS1の組み合わせはおそろしく透明感が高く、解像力があるけれども、ずっと聞いていたくなるような豊かさがあって、この無数の音の粒子に包まれるような気持ち良さにいつまでも浸っていたい感じになります。
またCS1の特徴として透明感の高さ、ワイドレンジという他にわずかな心地よい味付けがなされているように感じられます。AK380はSP10000SS/CPなどのような特殊筐体とはことなり、それ自体に付帯音がないのでわかりやすいのですが、ちょっと隠し味的な味付けがなされているように思います。それがちょっと音を麻薬的な美しい魅力あるものにしているように思います。このために性能が高いからといって音楽を無機的に感じることはありません。CS10はもっと着色感は少なくプレーンな感覚です。

IMG_3763_filtered_s.jpg

次にSP1000に変えてみると、いっそう音レベルが高くなるのがわかります。特に立体感は顕著に良くなり、音の細かさも一層上がってきます。よく聞くSpanish Harlemもあまり聞いたことがないくらいの高いレベルの再現力で楽しめます。こういう試聴曲は文字通り飽き飽きするほど聞いているのですが、新しい魅力を感じさせてくれます。
またSP1000では鋭いベースパーカッションのインパクト・アタック感など打撃感がより高く感じられます。この辺はスピーカーオーディオでも再現が難しいところですが、AK380だと音の良さはよくわかるけれども、こうした音再現の凄みというところまでは及ばないように思いますね。
SP10000ではSSとCPの違いもかなり明確にわかるのですが、特にVR1ではCPがおすすめです。低域の深みと重みを堪能でき、高性能ながら美しい音色で長い時間でも聞いていたくなります。

IMG_3761_filtered_s.jpg

AK380にHugo2を加えてみてもさらに生き生きとした迫力ある音世界を聞かせてくれます。なにしろミニDaveのようHugo2ですから、再現レベルは東京インターナショナルオーディオショウに出てくるようなハイエンドスピーカーをきいているようなかなり高いものです。
情報量がたっぷりとしていて、それが音楽的に魅力的な音の豊かさ厚みにつながっているのがよい点ですが、こうしてみると普通のイヤフオンで拾いきれない小さな音はずいぶんあるものだと感心します。

IMG_3760_filtered_s.jpg

* ケーブルの違いについて

ケーブルの違いについてもう少しまとめてみます。ただし両方ともエージングはあまりしていない状態ですので、使い込むとまた印象は変わるかもしれません。

3.5mmと4.4mmのバランスを比べてみるとCS1/CS10ともに、バランスにすると音の広がり、音の力感ともに向上します。これは一般的なバランスとシングルエンドの差と同じですが、CS10の方がややバランスとシングルエンドの差が大きいように思います。これはおそらくCS10の低域の出方によるものだと思います。双方ともシングルエンドに戻すと音が軽めに感じられますが、線材がよいせいかあまり音が薄くなる感じはありません。

IMG_3785_filtered_s.jpg

またCS1とCS10の違いをいうと、CS1の方はより透明感が高く、周波数特性が良くてフラットに近く聞こえ、よりハイエンドで高域と低域がより広がって聞こえます。CS1はより声とか楽器の違いがわかる感じですね。またさきにも書いたように着色感というよりはより音が美しく聞こえます。
特に透明感の高さが顕著で、いままで聞いたケーブルの中でもかなり高いレベルです。
CS10の方はやはり高いレベルですが、先に書いたように少しですが低域に強調感があってよりポップやロックには向いている感じがします。 CS1はより良録音のジャズやクラシックに向いているような音再現です。

* まとめ

このVR1は音への追従性能が高く、かつポテンシャルが高いので、プレーヤー側のレベルを上げたり、よいケーブルを使うとそれがわかりやすいと言えます。ただし相性はあると思います。自分でもいろいろと手持ちのケーブルを使ったけれども、これだけVR1の能力を引き出せるものは実はあまりないので、推奨ケーブルセットをおすすめします。あるいは試聴会でいろいろと試してみるのがよいでしょう。

IMG_3791_filtered_s.jpg

このVR1に関しては「スマホで聴いても良い音を再生してくれる」と書くつもりはありません。持っている最高のプレーヤーを使ってみてください。ハイエンドプレーヤーを持っている人が、さらに高みを目指すためのイヤフォンといえるでしょう。

posted by ささき at 10:35| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月03日

ニールヤングがMacbookの音質を批判

先週のトピックにニールヤングがvergeのインタビューに答えてMacbookの音質を批判するということがありました。
この辺はASCII.JPの記事に書きましたのでこちらをご覧ください。
https://ascii.jp/elem/000/004/001/4001655/?topnew=6
posted by ささき at 21:14| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月26日

音質志向のBTレシーバー、Oriolus 1795レビュー

Oriolus 1795はイヤフォンブランドのOriolusの開発したBluetoothレシーバーです。

IMG_4494_s.jpg

最近はストリーミング音源への移行やiPhoneでのイヤフォン端子の廃止など、ますますBluetoothを使う機会が増えていますが、流行りの完全ワイヤレスではどうしても音質的に満足できないというマニアの方々も多いと思います。そうした時には従来のイヤフォンにBluetoothレシーバーを使いますが、今度はBluetoothレシーバーに音質の良いものがあまりないというジレンマに悩まされます。

そうしたユーザーに向いているのが、この音質重視のBluetoothレシーバーであるOriolus 1795です。イヤフォンメーカーが作ったポータブルアンプっていうと、Heirのアナログ入力時代のRenditionとか、RHAのデジタル入力のDacamp 1などがありましたが、Oriolus 1795はBluetooth入力でストリーミング時代に即して良い音で聴いてほしいという提案なのでしょう。

* 特徴

Oriolus 1795はコンパクトなBluetoothレシーバーでクアルコム製Bluetoothチップを搭載してBluetooth5.0に対応しています。SBC、AACの他にLDACにも対応しているのでWalkmanユーザーにも向いています。

IMG_2689_filtered_s.jpg

最大の特徴はその高音質設計です。たいていのBluetooth機器はBTチップ内の付属品的なDACでDA変換されていて、コーデックの問題以上にそこで音質が悪くなってしまうのですが、Oriolus 1795ではBluetoothチップからデジタル信号を抜いてそれを本格的なDACでDA変換して、内蔵のアンプで増幅することで高音質を実現しています。
注目すべきはそのシグナルパスの強力さです。Bluetooth信号は普通最大でも48kHzですが、Oriolus 1795ではまず入力した信号を192kHz/24bitにアップサンプリングします。これのためにサンプル変換専用のチップであるAK4125が搭載されています。それを据え置きオーディオ機器でもよく使われる高性能DACチップであるPCM1795(名の由来)に送って高音質の音を再現します。

しかもそのあとにバランスアンプ回路があつて、4.4mm端子でバランス出力ができます。またそれとは別に3.5mm端子専用のシングルエンドアンプ回路も備えています。こんな小さな筐体にこんな本格的な設計がなされています。

この他にも機能的にはマイクを備えているので会話が可能で、NFCペアリング、ワイヤレス充電も備えています。(USB DAC機能もあるようです)
再生時間は7時間ということです。サイズは95.9x50.7x15.4mm、重さは109gです。

* インプレッション

以下はiPhone Xを組み合わせています。
本体はアルミ筐体+両面高強度強化ガラスでなかなかにきれいです。上面に開いた4.4mmバランス端子がコンパクトな筐体になかなかの迫力かあります。

IMG_2694_filtered_s.jpg  IMG_2690_filtered_s.jpg  IMG_2692_filtered_s.jpg

本体側面にはハードの操作キーがあります。ボリュームはiPhone側よりも細かいのでこちらで操作したほうがなめらかな音量調整ができます。
Bluetooth機器としての接続性は良く、電車で使っても特に問題になることはありません。

IMG_2698_filtered_s.jpg

音はCampfire Audio Solaris(4.4mmバランス)、Acoustune HS1670SS(3.5mm)を組み合わせてみました。

Oriolus 1795を普通のBTレシーバーと考えて聴き始めると、音が良いのにちょっと驚きます。まず音場が広くホールのように立体的に広がりのある音空間が楽しめます。ただ幅が広いだけではなく豊かで厚みがある音再現が堪能できますが、これはBluetoothイヤホンではちょっと無理な音です。また緻密で解像感が高い音で、ギターのピッキングでも単にシャープなだけでなく余韻の響きや音の厚みが美しいのも特徴的です。マルチBAのハイエンドIEMでも普通のDAPと遜色ないレベルの高い音が楽しめます。
全帯域でクリアで鮮明であり、解像力も高くハイエンドマルチBAでの音の繊細さも活かせます。加えてダイナミックドライバーでのパンチもあり躍動感もあります。

IMG_2697_filtered_s.jpg

特に4.4mmでの音は良好で、力感があって駆動力が高く感じます。音の広がりも一段と良く、バランスらしい一段レベルの高い音が楽しめます。Solarisでは音の細かさと低音のパンチがよく生かされていてハイエンドハイブリッドイヤフオンにもよく合います。
またHS1670SSとの組み合わせでは3.5mmシングルエンドでも十分以上の良好な音質が感じられます。HS1670SSの持ち前の中高域のきれいな伸びやかさの再現はもちろん、低域ではミリンクス振動板らしいパンチの良さと厚みがあって打撃音が気持ちよく深く感じられます。

iPhoneの中のロスレス音源だけではなく、ロッシーのストリーミングで聴いていても滑らかでキツさがあまりありません。ロスレス音源もBTのコーデックでいったんロッシーになるのですが、ワイヤレスとかロッシーの音は有線とかロスレスに較べるとどうしても粗くて乾いた薄い音になってしまいます。しかしこうしたソースの音がロッシーで濁っていても適切なフィルターで濾過すればきれいにできるという感じですね。
わたしみたいにiPhoneに100GB以上のロスレス音源を入れてる人も、ストリーミングオンリーという人も問題なく使えます。

IMG_4468_s.jpg

前に雑誌でレビューを書いたときにLDACでWalkmanから聴いたことがあって、その時はワイヤレスとは思えない音と思いましたが、iPhoneで聴いてもやはりワイヤレスで聴いているとは思えません。これもコーデックというよりも内蔵アンプの音質が良いからだといえるでしょう。
Oriolus 1795は単にワイヤレス化するだけのBTレシーバーとは別物で、積極的に音を良くするBT入力ポタアンと言ってほうが良いでしょう。BTレシーバーとしては音が良いと言うのでなく、十分DAC内蔵ポタアンに匹敵する音です。BTレシーバーとしては大柄かもしれませんが、DAC内蔵ポータブルアンプとしてはバランス対応をはじめ、かなりコンパクトにこれだけの音をまとめ込んだと感心します。

* まとめ

AtlasからSolarisに変えると音質の差がはっきり分かるのもイヤフォンの違いを楽しめることを示しています。せっかくハイエンドイヤホンのためにBTレシーバー使うならこのクラスの音でないともったいないと思います。いまの時代は超高性能イヤフオンに向かうベクトルと、手軽なBTワイヤレスみたいなベクトルの分断が起こっていますが、Oriolus 1795はそのジレンマを解消する良い解法になると思います。

IMG_4512_s.jpg

ハイエンドイヤホンを使ってるけど、ストリーミングやスマホ内蔵音源も生かしたいというハイエンドイヤホンユーザーにおすすめのワイヤレス機材と言えるでしょう。

posted by ささき at 16:11| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月12日

イヤフォン向けの「シリコンスピーカー」、MEMSドライバー

イヤフォン向けの新しいドライバーが下記に紹介されています。いわゆる「ヒアラブル」というウェアラブルのイヤフォン版の流れです。
https://techxplore.com/news/2019-10-in-ear-silicon-speakers-internet-voice.html

これはMEMSという「シリコンスピーカー」で従来の振動板ではなく、無数のNEDアクチュエーターという薄膜が電圧に応じて動くことで空気を振動させ音を出すようです。薄膜というか静電アクチュエーターという帯電の異なるもの同士の力を使って動くもののようです。記事中の動画を見るとわかりやすいと思います。電圧で動くので普通にイヤフォンに使えそうですね。効率が高いのが特徴で、実験的には音は出せてるそう。
MEMSってリボン型をシリコンでやってるように思いますが、参照リンクをクリックしたらネイチャーに飛んだので読むのやめました 笑
posted by ささき at 08:07| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月26日

Bluetooth 5.0でのロングレンジモード

Bluetoothの到達距離について、新しい動画が投稿されています。



こちらはBluetooth 5.0で導入されたロングレンジモード(Coded)を用いて1.5kmまで届くという実験です。動画の後半ではロングレンジモードの説明がなされています。ロングレンジモードはLE Codedとも呼ばれていますが(というかLong Range modeが俗称か)、誤り訂正をコード化することによってデータレートが低くなるのと引き換えにより長距離届くことを保証するというモードです。コード化に応じて500K(bps)と125Kのモードがあります。

前にも書いた到達距離計算機を用いて、同条件でLE 1Mを500Kまたは125Kと変えると距離が長くなりますがこの二つがロングレンジモードです。

posted by ささき at 17:45| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月25日

Bluetoothは「近距離通信技術」か?

下記はBluetoothの誤解はBTが近距離通信技術と認識されてることで、実際の到達距離は1kmから1mまで機器の実装や環境によるよ、というBluetooth SIGによる記事です。なかにBluetoothの到達距離計算ツールと様々な要因が書かれてます。
ちょっと要素はむずかしいですが、Path Loss(経路ロス)を屋外とか家とか変えるだけでも面白いですね。

https://www.bluetooth.com/bluetooth-technology/range/?utm_source=tw&utm_medium=social&utm_term=social&utm_content=tw-btrange-boost&utm_campaign=range

これは下記のBluetooth Smart(BLE)機器はどこまで届くか、という動画投稿のフォローアップだと思います。

https://twitter.com/BluetoothSIG/status/1187075479569866752

ようはBTも普通の電波だっていうところですね。そこで思うんですが、Bluetoothも電波ならアンテナが重要になると思います。アンテナには波長に応じで効率的な長さが決まっています。
ちょっと計算すると2.4GHzでの波長は12.4cmとなるので、必要なアンテナ長は1/2波長の6.2cm、あるいは1/4波長の3.1cmのはずです。たいていのスマホは上部にWIFI/BTアンテナがあるので1/4波長だと思います。
ただ問題は受け手の機器が完全ワイヤレスみたいに小さいとアンテナがそんな長く取れないことですね。
仮に5GHz帯だと波長は6cmなので必要なアンテナ長は3cmまたは1.5cmです。これなら小型機器でも向いてるように見えます。
ただ到達距離は波長が半分になるとだいたい1/4になるので、逆に高出力が求められてしまいますね。

また屋内で使われることが多いBluetoothでは反射が重要になりますね。アマ無線やってた(やってる)人はEスポとかぱっと出てくると思いますが(月面反射っていう人も中にはいるかも)、BTも反射を考慮した設計が求められるでしょう。完全ワイヤレスでもEarinの頃から言われてました。
posted by ささき at 08:14| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月22日

スピーカーメーカーのヘッドフォン、DALI iO-6レビュー

DALIは良く知られたデンマークのスピーカーメーカーです。幅広いラインナップと音色の美しさ、北欧らしい美しいデザインが特徴です。日本ではディーアンドエムホールディングスが輸入販売しています。最近ではコスパの良いオベロンシリーズなんかが話題です。

IMG_2843_s.jpg

そのスピーカー専業だったDALIがヘッドフォン分野に参戦した初の製品がiO-6とiO-4です。今年のドイツハイエンドショウで発表されました。本稿はそのDALI iO-6のレビューです。これはDALI本社からレビユーしてほしいということで送ってもらったものです(技適はメーカーで取得済み)。ちなみにiO-6とiO-4の違いはiO-6がANC(アクティブノイズキャンセリング)機能を持っているということですので、以下はANC以外はiO-4でもほぼ同じだと思います。また振動板など技術内容等はDALIの担当に問い合わせて確認したものです。

*特徴

1. Bluetoothワイヤレス対応

iO-6は密閉型のワイヤレスヘッドフォンです。これは外で使うため、ストリーミングソースを主としたスマートフォンとの親和性のためです。そのためワイヤレスはBluetoothを採用しています。BLuetoothバージョンは5.0に対応して、対応コーデックはAAC、AptX、AptX HDです。

IMG_1328_s.jpg

3.5mmステレオミニ端子の付属ケーブルを使用してアナログの有線接続もできます。これは飛行機などで便利でしょう。この場合は電源オフでも使用できます。

2. 高い遮音性

iO-6は外で使うことを想定した密閉型で日本市場に向いています。実際にiO-6を使いながら電車に随分乗ってみましたが、気がつくのはiO-6がこうした密閉型ヘッドフォンの中でもかなり遮音性が高いということです。あとで書くANCなしでもかなりしっかりと音が聞こえなくなり、遮音性はトップクラスだと思います。

3, 美しいデザイン

iO-6を手に取った時に感じるのはとてもデザインが美しいということです。キャラメルホワイトとブラックがあり、本機はキャラメルホワイトですが、北欧家具のようにセンスがよいカラーリングとデザインでここはさすがデンマーク製です。これなら装着して外に出たくなることでしょう。

IMG_1326_s.jpg

人間工学的にも大きなサイドボタンや装着感の良さなどよく考えられていて、ヘッドフォン第一号とは思えません。これはFocalのときにも感じましたが、かなり開発を重ねてきて作ったもののように感じます。

Dali003.jpg

3. ANC(アクティブノイズキャンセリング)機能搭載(iO-6のみ)

iO-6にはANC(アクティブノイズキャンセリング)が搭載されています。またオーディオ・トランスペアレント機能がついているので逆に周囲の音をよく聞くこともできます。

iO-6を立ち上げるとまずANCオフではじまり、下部のボタンを押下することでANCがオンになります。たとえば電車の中でオンにすると周囲からすうっと電車のゴーっという音が引いていきます。しかし車内アナウンスははっきり聞こえます。というか車内アナウンスはANCオフよりも明瞭に聞こえます。iO-6は遮音性が高いので本来車内アナウンスも聞こえにくいのですが、ANCオンにすると周波数を選択的に通したりノイズを減らしています。音楽に集中して乗り過ごすことはないわけですね。ノイズ低減効果もかなり高いと思います。
ANCオンではあまり音量をあげなくても良いので音漏れも少なくなるでしょう。

IMG_1323_s.jpg

もう一度ANCボタンを押すと、完全ワイヤレスなどにもあるいわゆるオーディオ・トランスペアレント機能で周囲の音が普通に聞こえるようになります。ANCオフよりもこれも明瞭に聞こえますので、つまりパッシブの遮音性よりも聞こえるようになります。ヘッドフォンをつけたままレジの人などと会話するのに向いています。

ちなみに家の中でもANCが有効に使えます。家でPCにBT接続してANCオンにすると、PCのうるさいファンノイズの近傍にいてもファンのノイズがすうっと引いていきます。家でも夜はけっこう便利に使えるでしょう。

4. ミニチュアスピーカーのようなドライバー設計

ワイヤレスやノイキャンは他社でもありますが、オーディオメーカーたるDALIらしいこだわりはここです。
iO-6は50mmのダイナミック型ドライバーを採用していますが、特徴的なのはスピーカーのミニチュア版のようなドライバー設計がなされていることです。ヘッドフォンは小さなスピーカーのようなものと考えがちですがも実は一般的なヘッドフォンのトライバーはスピーカーに比べると簡略設計されています。

Dali002_s.jpg

DALIはヘッドフォンを設計するにあたって、「基本的にヘッドフォンは頭の両側に取り付けられたスピーカーである」というポリシーを立てたそうです。これは当たり前そうで、実はなかなか実現しにくいことです。
普通のヘッドフォンは振動板のエッジが固定されていますが、iO-6ではスピーカーのようなフリーエッジが採用されています(分解図)。またマグネットではスピーカーのようにボビン(芯材)を採用し、最適な磁力特性を持たせているということです。
こうした設計は以前ではAudioQuestのNighthawkを想起させますし、デノンの高級機でも採用されていますが、こうした低価格帯(400-500ユーロ)のモデルに採用された例はないということです。

dali001.JPG

振動板は非常に軽量で強固なペーパーファイバーを使用して良好な内部損失特性を持っています。DALIのスピーカーではウッドファイバーを採用しているのだそうですが、ヘッドフォンでは重すぎるのでペーパーファイバーとしているそうです。
iO-6はこうしたDALIらしいDNAをきちんとうけついだヘッドフォンだということですね。

5. 長時間駆動できる電池

60時間(iO-4)持続できます。iO-6は30時間程度持ちます。実際にエージングするときに丸一日以上つけっぱなしにしていてもまだ再生していたのでなかなかの持ちだと思います。実際には毎日充電しなくてもたまに充電すれば十分という感じです。充電にはUSB-C端子を使用します。

6. 機能性

iO-6はワイヤレスの利便性を保つために音量変更や再生指示はヘッドフォン側で可能です。このためのサイドボタンは極めて大きく、操作は単純です。ロゴの部分をクリックすると再生やスキップ、サイドボタンの上下を押下するとボリュームの上下ができます。
操作していると男声による英語音声ガイドが聞こえてきます。電源ボタンを押し下げ続けると"Bluetooth paring",接続すると"Bluetooth connected"、また電源投入時に"Battery level 90%"などです。ちなみにバッテリーが100%のときには"Battery full"と言います。
電源オンで既に接続されているスマホとは自動でつながります。もちろんマイク内蔵で通話も可能です。

*インプレッション

iO-6はパッケージのデザインもなかなかセンスが良く、デニム地のヘッドフォンケースも洒落ています。iO-6はカップをひねって平たくしてたたむことができます。内容物は有線ケーブル、USB-Cケーブル、航空機アダプターなどです。

IMG_1313_s.jpg  IMG_1314_s.jpg  IMG_1330_s.jpg

中にはスタートガイドも付属していますが操作はそれほど難しくありません。電源ボタンを押し続けてペアリング、ANCボタンでANC機能変更、右側面はメカスイッチになっていて押すとタップで再生停止、ダブルタップで曲スキップ、トリプルタップでバックします。そのボタンの上下のリム部分を押すと音量調整などです。サイドボタンは指を二本添えると軽くタップしやすいと思います。

IMG_1324_s.jpg

本体は品が良いという感じのデザインで大人がつけても違和感はないでしょう。また肌触りがよく高級感がとても高いと感じます。サイズ調整のスライド機構もしっかりしています。
重さは325g(iO-6)、320g(iO-4)で重いというほどではなく装着感は快適です。側圧もきつめでDJタイプっぽいしっかりとした装着感です。ANCを使わなくても遮音性がとても高く周りの音はかなり聞こえなくなります。

IMG_1331_s.jpg

音は主にiPhone Xを使い、Windows10とも組み合わせています。
音も上質感が高くスムーズで深みのあるかなり高いレベルの音質です。たしかにNighthawkに似た独特の滑らかさがあり、音質はコンシューマー向けの安いモデルとは一線を画しています。

中高域は透明感がかなり高く、明瞭で歪みも少ないすっきりした質の高い音です。
密閉型だけどもDJタイプのようなバフバフいうこもった音ではなく、開放型を感じさせるようなすっきりした音でオーディファイル的な美音系に近い音を出します。海外のメーカーらしく個性を持った音にチューニングで、デンマーク製のスピーカーに期待するような感じの音ですね。
低域はパワフルで密度感のある密閉型らしい重みがあって深みもあり、男性ボーカルは深く渋さを感じさせます。この辺の音バランスはよくできてると思いますね。スピード感のあるパーカッションでは足踏みしたくなるくらいで、この辺の迫力はやはりイヤホンでは味わいにくいと思います。音にはまってしまい、しばらくは外出時はiO-6をずっと使ってましたね。

ANCのありなしで音が変わるかというと、静かなところでANCオンオフで聴き比べると多少音は違うが大きく差がないので常時オンでも良いと思います。

IMG_3100_s.jpg

Bluetooth機器としては遅延も大きくなく、iPhoneでNetflixなど映画を見ても違和感はとくにありません。

*まとめ

ワイヤレスやノイズキャンセリングで今風の機能性を持つとともに、オーディオメーカーらしい音質へのこだわりも兼ね備えたヘッドフォンがiO-6です。デザインも北欧家具のように上質感があり、音も上質感があります。音質にコストパフォーマンスは悪くないと思う。
100ユーロの違いはあるが、やはりANCの効果は大きいのでありのiO-6を勧めます。ただ遮音性が高いのでiO-4でもかなり良いと思います。

IMG_2844_s.jpg

密閉型なので外に持って行ってストリーミングを高音質で楽しみたいという要望に応えるヘッドフォンです。操作性や電池の持ちなどそつなく上手に練られています。
posted by ささき at 13:24| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月21日

HIFIMANの完全ワイヤレスイヤフォン、TWS600レビュー

TWS600は音質では定評のあるHIFIMANが開発したTWS(True Wireless Stereo)、つまり完全ワイヤレスイヤフォンです。
8月23日から発売開始され、価格はオープン(予想売価13,800円程度)です。BluetoothイヤフオンとしてコーデックはAAC,SBCに対応しています。

IMG_7891_filtered_s.jpg  IMG_7889_filtered_s.jpg

* 特徴

1. HIFIMAN独自のトポロジーダイヤフラムを採用

高級機RE2000でも採用されているHIFIMAN独自のナノ技術を応用した「トポロジーダイヤフラム」技術を採用しています。振動板自体はTWS600向けの専用設計です。
トポロジーダイヤフラムとは何かというと、ダイヤフラムの表面に幾何学的な特殊なメッキを施したものです。目的はこの幾何学模様の形状、素材、厚さを変化させることで音の周波数特性の調整を可能にすることです。トポロジーダイヤフラムは「異なるナノ素材は構造が違い、特性も違う」という点から着目されたものです。このようにダイヤフラムの異なる表面構造の特性を適切に調整することで、振動の伝搬をコントロールしているわけです。こうした技術によってTWS600においては従来の完全ワイヤレスイヤフォンよりも、より自然で解像力の高い音質が得られるということです。

TWS600においては他にも先進的な合金製ヴォイスコイルやハイテク・マグネットの採用など高音質のための技術が詰め込まれています。ちなみにエージングは40時間が推奨されています。

2. 長距離再生が可能
TWSの大きな特徴の一つは150mもの距離での通信が可能であるということです。これについてはHIFIMANが検証する動画を公開しています。



また使っていても左右ユニット、ユニットとスマホ間でも接続が切れにくいと思います。電車などで普通に使っていて左右切れすることは少なく、片耳を手で覆ってもひと昔前の完全ワイヤレスみたいに接続切れになりません。


3. 合計38.5時間の再生が可能長時間の再生が可能
本体が5.5時間、バッテリー内蔵ケースを使用してさらに33時間の長時間再生が可能です。
HIFIMANによれば38.5時間の再生時間があれば、アメリカ大陸の端から端まで6回のフライトが可能であり、ジムで一日1時間使用しても一か月以上も持つということです。
バッテリー内蔵のケースは充電器も兼ねていて、USB-Cタイプのケーブルをケースの充電端子に接続します。充電中はケース内側の充電用LEDが赤く点滅し、その4個のLEDが点滅することで残りの充電レベルを知ることができます。
充電は実測で4-5回ほどケースから充電が可能です。ただしケースが透明ではないので充電中のライトが見られないのが残念ではあります。

4. 人間工学的なデザイン
完全ワイヤレスは片方だけ取れてしまうという不安がある人が多いのですが、TWS600においては運動をしていてもわりとしっかりとフィットします。実際にイヤフォンとしての装着感がとても良いのもポイントが一つで、5.9gの軽さとともに使用感は快適です。
こちらにスポーツで使われている動画があります。




他にもIPX4防水で汗と埃を防ぐことができます。

5. 左右どちらでも片側で使用可能
TWS600は片側使用が可能であるところにこだわっているのも他の完全ワイヤレスとは異なる点です。左だけでも、右だけでも使えます。これは通常どちらか親機のみが片方使用可能な完全ワイヤレスとしては珍しい特徴だと思います。

ただし左と右では少し使い方が異なります。
左のみ使うときは右側のイヤフォンはケースに収納したままにしておくと、左側のイヤフォンは自動的に片側専用モードになります。ステレオモードに戻すには単に右側のイヤフォンをケースから取り出します。
右のみの時は右側のイヤフォンをケースから取り出してから、”Power Off”と音声が聞こえるまでボタンを押し続けるというものです。そしてさらに”Power On”と音声が聞こえるまで押し続けます。ただしこちらの方はなかなかうまくいかないようです。

* インプレッション

IMG_7876_filtered_s.jpg  IMG_7882_filtered_s.jpg
TWS600のパッケージ

スマホはiPhone Xを使用しています。
TWS600はケースから取り出した時に自動的に電源がオンになりますが、取り出してすぐ電源オンされるのは良いですね。またTWS600はケースに収納した時に自動的に電源がオフになり、充電を開始します。
ケースから取り出した時に自動的に右ユニットが左ユニットとペアリングをします。それからイヤフォンはペアリングモードになり、LEDの赤と青が交互に点滅します。スマホとのペアリングに関しては普通のBTイヤフォンと変わりません。ちなみに3分間以内に他のデバイスとの接続がない場合にイヤフォンは自動的に電源オフになります。

IMG_7888_filtered_s.jpg  IMG_7886_filtered_s.jpg

英語での音声ガイド機能があり、取り出すと"power on"、左右接続された時は"TWS connected"、スマホと接続されると"connected"とガイド音声が流れます。

IMG_7884_filtered_s.jpg

イヤフォン側面のボタンによる操作が可能で、タップ(クリック)の回数で一回なら再生/一時停止、二回なら左右ボタンに応じて音量調整、三回なら左右ボタンに応じて前の曲/次の曲にスキップができます。
またマイク内蔵で、2秒押し続けることでヴォイスアシスタントを起動可能です。

前述したようにTWS600は装着感が良く、耳に密着してぴったりとはまります。静粛性は高くて電車の中でも遮音性は高いと思います。
音質は中高域寄りの音で、生ギターの音色やピッキングの切れなど立体感と解像感はなかなか良いと思います。他方で低域はタイトですが軽いので、使用する際にはスマホのイコライザーを使って低域を持ち上げた方が良いと思います。基本的な音質は悪くないので、たとえばEQuアプリのバスブーストで聞くとかなり違った面を聞かせてくれます。

IMG_2283_s.jpg

低遅延をうたっていて、実際にNetflixアプリで映画をみてみましたが、口とのシンクロは違和感が少ないレベルで、特に映画を見ていて気にはならないと思います。ゲームは私はあまりやらないので明確には言えませんが、遅延はわりと少ない方だと思います。

* まとめ

わりと低価格で装着感も良好、長距離送信可能で切れにくいという特徴を持った使いやすい完全ワイヤレスイヤフオンだと思います。今週末(8/24)はフジヤさんにてHIFIMANの試聴会を行うそうですので興味ある方はいらしてください。
音質に関してはイコライザーを使用して大きく低域を持ち上げるとかなり変わりますので、ぜひ試してみてください。
posted by ささき at 10:45| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月12日

Andromeda Gold海外発表

Campfire Audioの人気モデルAndromedaに1000本限定のGoldバージョンが登場するということです。違いは外見だけではなく、低域ドライバーが2つから4つに増え、さらにクロスオーバーレスのデザインになっています。かなり大きく違いますね。

Headfi TVでさっそくレビューがあげられています。
https://www.head-fi.org/threads/campfire-audio-introducing-2-new-models-hello-andromeda-and-nova.805107/page-501#post-15113948



音に関しては低域はAtlasなどより誇張していないが、しっかりある感じで、増えた低域とバランスをとるために高域も少し上がっているようです。上のビデオで新旧の周波数測定値が公開されています。
また最近のCampfire Audioの大きな特徴として、左右のマッチングがかなり良いことがここでも触れられています。マルチドライバーモデルとしてはかつてないくらいに左右のマッチングが取られているということです。
またインピーダンスが8Ωとなったことで、センシティブと言われるAndromedaがさらにセンシティブになっているようです。
posted by ささき at 22:49| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月05日

Campfire Audioの新製品、Polaris IIとIOのレビュー

Campfire Audioの新製品が国内発売されました。その中から今回はPolarisの改良型であるPolaris IIと、新ラインナップのエントリー機であるIOのレビューをしていきます。

IMG_6630_filtered_s.jpg  IMG_7569_filtered_s.jpg

まず、この前のヘッドフォン祭でKenさんが来た時に簡単に今回の製品についてインタビューしたものがあるのでそれを掲載します。

* Campfire Audio Kenさんとのインタビュー

- PolarisIIについて

ささき: これはPolarisの新バージョンですか?

Kenさん: そうです。いくつか改良をしたものです。
まずダイナミックドライバーが大口径化しています。8.5mmから9.2mmに変更しています。

ささき: それはAtlasとは違うものですね?

Kenさん: そうです。新規開発したものです。
ドライバー以外ではクロスオーバーも異なってます。また筐体を前は3Dプリントしていたところをステンレススチールにしています。
MMCX端子も改良され、ケーブルも新しくなっています。メモリーワイヤではなくメモリータイプのヒートシュリンク(被覆)を使っています。
ケースも改良されています。もちろん音質もよくなっていますよ。

ささき: ケーブルはSolarisと同じものですか?

Kenさん: ゲージはより細いもので、線材は同じですが拠り方は異なります。

- IOについて

ささき: IOはまったく新しいデザインですね。

Kenさん: Campfire Audioのエントリーモデルとして低価格を目標にしたんです。2ドライバーで大きなBAドライバーと小さな高域BAドライバーの組み合わせで、クロスオーバーを介しています。またインピーダンスの変動が少ない設計を施しています。
もちろん低価格でも音質はよいものを目指しているので、コストパフォーマンスは高いですよ。
ケーブルは新Polarisと同じで、ケースも新Polarisと同じです。

ささき: 高域ドライバーはTAECを採用しているのですね?

Kenさん: はい、音響抵抗も使用していません。TAECは音響抵抗を省略できる理由の一つですが、すべてではないのですよ。
音的にはJupiterに似ています。特に高域の伸びがそう感じさせると思います。

ささき: 改良されたJupiterのような感じですか?

Kenさん: まあそういう感じかな(sort of that)。
(改良されたというよりは)似た感じといったほうが良いかもしれません。


* Polaris IIインプレッション

以前のPolarisのレビューはこちらです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/453783142.html
旧タイプとの差は見た目がフェイスプレートが青に変わっているということが異なっていますが、印象はかなり似ていますね。

IMG_7560_filtered_s.jpg  IMG_7561_filtered_s.jpg
PolarisIIパッケージ

音が細かく高域は鮮烈でこまかな響きもよく再現している。かなりレベルが高い音と言えますね。低音はかなり深く量感あり、EDMなどを聴いた時のベースの重さがすごく迫力があふれます。
旧タイプよりも低音が強いのが特徴で、よりハイブリッドらしいとも言えます。旧タイプとの比較でなく、絶対的にもかなり低域の量感があって、重みがあります。あくまで大口径ダイナミックらしい重みのある迫力あふれる低域表現です。

IMG_7567_filtered_s.jpg

ここが前のPolarisとは一番異なる点で、以前はつながりがよくシングルのようなある意味ハイブリッドらしくない完成度を目標にしていたように思えるけれども、新Polarisではあくまでハイブリッドらしい低域のパンチの強さを売りにしています。
ただし中域はクリアで低域にあまりマスクされていないように思えますね。ボーカルは男性も女性も明瞭感があって歌詞が聴き取りやすいように聴こえます。

イヤピースとケーブルをPolaris IIのものに統一して旧Polarisと比較するとかなり大きく音が違います。音の個性自体は似ていますが、旧タイプでは低音がかなりばさっとローカットフィルターをかけたように減ります。能率自体はあまり変わっていないように思えます。旧Polarisも低音がないわけではなく、深くて抑えめのバランスのよい低音ですが、量感がまるで違います。旧Polarisはわりとフラットですっきりとした(ある意味BAよりの)音再現ですが、新しいPolarisはいかにもハイブリッドという感じの低音です。これによって迫力がだいぶ違います。
ただ新Polarisはこんなに低域が増えたのに中域があまり埋もれないのはなかなかのチューニングの冴えと言えると思います。

旧タイプのPolarisはCampfireの技術の総集編的な投入をしつつ、コストパフォーマンスの高いモデルを作ることを目指したと言えるでしょう。それに対して新タイプはよりハイブリッドらしい高性能イヤフオンを作ることを念頭に置いたと思います。

IMG_1435_s.jpg

*IOインプレッション

Campfire Audioは天文の名称を付けてきましたが、IOは木星の月であるイオ(英語だとアイオー)からつけています。木星は以前Jupiterという製品があったということがポイントです。

IMG_6620_filtered_s.jpg IMG_6623_filtered_s.jpg
IOのパッケージ

Campfireの低価格モデルだけども、ケンさんがシンプルイズベストを極めたって言ってたんですが、透明感というか鮮明さが独特で価格が安いだけではなく他にない個性がある。チューブレス構造の極み、みたいな音の気持ち良さがありますね。

中高域の透明感、鮮明さはIOならではの個性があります。低価格モデルということを忘れて、この気持ちよさの魅力で思わずIOを持ち出したくなることでしょう。良録音のアコースティック・アンサンブル、女性ヴォーカルの良さはひとしおです。
帯域的にはわりとフラット、ニュートラルで低域の量感も十分にあります。低域も質は良くタイトで解像感のある低域で超低域(サブベース)もそれなりにあると思います。アコギの胴鳴りの豊かさ良いですね。
とはいえダイナミックドライバー機やハイブリッド機と比べるとやや軽めには感じられるかもしれません。言い換えると全体にBAらしい音の作りであり、あたかもシングルBA機のような感じを覚えるのがひとつのポイントだと思います。

IMG_6633_filtered_s.jpg

もうひとつのIOの特徴はこれも独特の立体感が良いことです。Campfire Audioは前作のSolarisから一皮むけた立体感の良さが感じられますが、Kenさんに聴いてもあまりなにか特別の技術云々というわけではないようです。
関連するのかどうか、HeadFiでJudeがCampfire Audioを測定したグラフが公開されていますが、いままで測定した中でも最も左右の周波数特性とTHDがマッチしたイヤフォンの一つと言っています。
https://www.head-fi.org/threads/campfire-audio-io.905408/page-27#post-14972084

これもあってか、IOはものすごく性能の良いシングルBAイヤフォンって感じに思えるのが面白いと思います(実際はデュアルですが)。

シンプルイズベストを単なる低価格というのではなく音の魅力にした点はさすがです。BAらしいイヤフォンがほしい人で、ダイナミックと差別化したいならこれをお勧めできますね。

IMG_0764_s.jpg

まとめ

ひと言でいうと、IOがBAらしいさわやかな明瞭感を出しているのに対して、Polarisはハイブリッドらしい高域の鮮烈さと低域の重さを両立させていると思います。
それぞれらしさ、個性を明確にしているというのは海外製品らしい個性的な魅力を感じさせてくれることでしょう。


posted by ささき at 14:46| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月03日

Acoustune HS1670SSレビュー

Acoustuneは香港に拠点を置くイヤフォンメーカーですが、スタッフは日本でオーデイオ産業に従事していたベテラン技術者が含まれているようです。Acoustuneは日本ではアユートが代理店となり、イヤフォンとともに交換用のイヤピースでも知られるようになりました。本稿はHS1670SSのレビューです。下記は製品ページで、価格は7万円を切るくらいです。
https://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_2498.php

IMG_8123_filtered_s.jpg

* 特徴について

1. 医療技術を用いた独自のMyrinx(ミリンクス)振動板

HS1670SSを聞く前に中高域が美しいという評判はすでに聞いていました。しかし実際に自分で聞いてみて驚いたのは評判通りの中高音域の美しさと伸びの良さに負けずにきちんと量感もある質の良い低域表現が聴けたという点です。シングルダイナミックにしてはかなりのワイドレンジ再生力です。

そのひとつの理由は振動板に使われているミリンクスという素材です。ミリンクスは医療分野で人工皮膚や手術縫合糸などに使われる合成素材ということです。ミリンクスとは医療用語で鼓膜という意味だそうですが、HS1670SSはミリンクスを薄膜化した10mm径のダイナミックドライバーを採用しています。HS1670SSには改良された第4世代ドライバーを採用しています。

IMG_8131_filtered_s.jpg

ミリンクスの振動板としての特徴としてはまず軽いということ、これは入力に対して素早くかつ正しく振動できるというメリットをもたらします。そして大事なのはミリンクスが強度と柔軟性を両立している(言い換えるとムチのように強靭でかつよくしなる)ということです。振動板の素材としては強度、つまり変形しにくさは音を正しく伝えるのに重要ですが、ミリンクスでは加えて柔軟性を両立しているというわけです。ここが広いダイナミックレンジをもたらす秘密のようで、振動板として一般的なPETとの違いでもあるようです。またこれは残響音の再現においても優れているということです。
こうしたミリンクスの特質がHS1670SSの中高域のみならず優れた低域再生力を支え、かつ強度を保ったまま薄膜化できることで音の細かさや速さも再現できるのでしょう。
実際に聴いてみるとその音は単に立体感というよりも、独特な彫りのある音の深みを感じられる個性的な音再現を感じますが、そうした特性ゆえなのかもしれません。

IMG_8120_filtered_s.jpg

もうひとつ面白いのはミリンクスが安定性が高いということです。これはエージングをあまり必要とせずに、長期間にわたる使用で音質劣化が少ないというメリットがあるということです。
かなり特徴的なメリットを持つミリンクスですが、なかなか製造は難しいようで独自のノウハウをもっているのがAcoustuneであると言えるのでしょう。

2. 共振を減らしたモジュラー構造

HS1670SSの大きな特徴のひとつはやはりその見た目の良さです。金属製CNC加工でまるで精密機器のようなカッコ良いイヤフオンで、私もいつになく気合をいれて、箱を開けてしばらくいつまでも写真を撮ってしまいました。特にマクロレンズで撮っていると細部の緻密さに惹かれます。
IMG_7840_filtered_s.jpg

特にいつくかのモジュールが組み合わされたメカ感が良いですね。これは機能美でもあり、HS1670SSではモジュラー構造で音響チャンバー部と機構部が分離されています。
この仕組みのメリットは共振の防止で、筐体のパーツを最小化することで振動するユニットから生じる悪影響を減らすことができるということです。音響チャンバーは効果的な音場感とソリッドな低域を実現しているということですが、モジュラー構造により低域で生じる歪みが中高域に伝わることを抑えるということです。
HS1670SSの場合にはステンレススチールの特性とこのモジュラー構造がすっきりとした純度の高い音を生み出しているのでしょう。

IMG_8116_filtered_s.jpg

3. 多種のイヤピースが付属

最近ではさまざまなメーカーが音を変えるタイプのイヤピースを出して話題となり、イヤピースに対しての注目度も上がってきていると思います。
Acoustuneはイヤピースを単体発売もしていて、こだわりを見せています。標準となるのはAET07ですが、AET08はAET07にくらべて軸の直径が太く長めです。これは音響的に低域を増強するということで、組み合わせることでイヤフォンの音をいろいろと変えて楽しむことができます。HS1670SSには他にダブルフランジタイプのAET06とフォームチップが付属してくるのでイヤピースについては選択の余地はかなりあると言えると思います。

IMG_1513_s.jpg
HS1670SS付属のイヤピース

イヤピースで音が変わるかというと、変わります。これにはいくつかの要素があります。まずイヤピースの傘の部分の遮蔽によって漏れやすい低域の音が失われないできちんと出ること、それと同時に低域のマスキング効果によって中高域の特性が影響を受けるということです。これにはイヤピースの傘の長さやサイズがポイントになります。
次にイヤピースの軸の長さと太さ、材質などによって帯域の出方が異なります。このためにAcoustuneではAET07の他にAET08という軸の異なるタイプを用意しています(AETとはAcoustune Ear-Tips)。これもイヤフォンのチューニングが音導管の長さ・太さで行われるということを想起すると納得できると思います。
ちなみに各タイプの詳細はメーカーによると以下の通りです。

AET06
遮音性を重視しダブルフランジ形状を採用。S+とM+でフランジ形状を若干変更し最適化。遮音性を確保し低域の減衰を最小化。
AET07
acoustuneイヤホンの開発工程でも使用するベンチマーク。ノズル開口部を可能な限り広く短く設計。更にノズル軸部の硬度を高めに成形する事で、特に中高域の減衰を抑え、再生周波数全域における高い解像度と抜けの良さを実現。(サイズ表のM-は単体販売のみ)
AET08
ノズル内径を狭く長めに設計。意図的に高音域を減衰させる事で、相対して低音域を押し上げる音響を実現。

AET06.jpg ATE07.jpg AET08.jpg
AET06,AET07,AET08のサイズ表

イヤピースについてはHS1670SSではAET07が合うと思いました。特にHS1670SSでイヤピースを選ぶコツは合うちょうどくらいを選ぶことであり、あまり大きなサイズを使わないということだと思います。大きすぎて低音が多くなると低域のマスキング効果で中高域にも影響を与えてしまうことがあるので、独自の美しい中高域が消えてしまう場合もあります。あまり高い音がきれいに出ないと思ったら、ひとつ下のサイズのイヤピースにしてみるのも良いと思います。
もちろんロックやEDMなどの低音がほしい音楽の時は逆にそうした大きめのイヤピースで音を変えてみるのも面白いですし、低音が欲しい時はAET08を使うのも良いかもしれません。こうしていろいろと変えたり試したりできるというのも面白さの一つです。

4. 高品質な標準ケーブル

HS1670SSの見た目の美しさはイヤフォン本体だけではなく、ケーブルも太くて高級感があります。中身もシルバーコート銅線とOFC線材のハイブリッド設計というユニークなもので、8芯ケーブルを3重にシールドしたものです。端子はMMCXでリケーブル可能です。
このケーブルは太いわりにはタッチノイズが少ないのも長所としてあげられるかもしれません。

IMG_7837_filtered_s.jpg

* インプレッション、使用感、音質

HS1670SSはまず見た目のかっこよさに惹かれてしまいます。手に取るとずっしりと重みがあり精密機器らしいメカの美しさの魅力がよくわかります。特にHS1670SSはステンレススチール製なので、金属製の高級感と持った感触が価格以上のものを感じさせてくれます。
またメカニカルで武骨な形ですが、実のところはするっと耳におさまってぴったりと確実に耳穴に固定される装着感の良さも意外とポイントだと思います。装着してしまうと重さはさほど気になりません。

IMG_7831_filtered_s.jpg  IMG_7835_filtered_s.jpg
HS1670SSパッケージ

さきにも書きましたが、まずHS1670SSではイヤピース選びがポイントになります。多種のイヤピースが付属しているので自由度が高いということと、音の良さを引き出すためです。

ここはもちろん個人差があるところなんですが、私の場合にはAET07のMサイズを主に使用しました。AET07だとリファレンス的なサウンドでHS1670の良さを引き出すのに向いていると思います。
AET08だと低音が太く迫力を感じるとともに、全体に重みが乗ってくるので低音がほしいビート系音楽にはAET08がよいですね。中高域を活かしつつ低音域によりパンチがほしいときはAET08の同じサイズを使うのが良いと思います。ただし中高域はやはりAET07が良く出ると思います。
一番低域を引き出すのはひとサイズ上のAET08となるでしょう。

またAZLAのSednaEarfitも試してみました。SednaEarfitはやはりよくフィットし、Mサイズで十分に低域が出ます。
音的にはAET07の同サイズのほうがやはり中高域はきれいに出ていますが、SednaEarfitはAET08に近い感じでより低域寄りの音になるように思いました。SednaEarfit lightではよりよくフィットして低域はより出てくるようです。ただしAET08とSednaEarfitを比べるとよりAET08のほうが低域が出ている感じなので、この辺はいろいろ試してみるのがやはり面白いところでしょう。

IMG_8122_filtered_s.jpg  IMG_8126_filtered_s.jpg

音はやはり中高域が美しいのが特徴であり、強みでしょう。高い音が美しくベルやハイハットの音もピュアできれいに響き、よく上に伸びる感じです。歯切れよく明るく明瞭な音調で、音の歯切れよさもよいんですが、特に痛さを感じずに鈍くならない点もポイントです。また音の倍音成分がたっぷりと豊かに聴こえる中高域も魅力的です。たとえばバロックバイオリンの音など古楽器系の再現力の豊かさです。
しかしそれと同時にソリッドで質の良い低域も実現していて軽さがありません。

女声ヴォーカルと合わせた時の美しさはひとしおで、試聴でよく聞く混声アカペラグループのRajatonを聴いて、こんなにいい曲だったかと改めて感動してしまいました。女声のメインパートは声質が良く伝わり抒情的で、男声のサブパートも太く豊かに曲全体の豊かさと深みをよく表現しています。ヴォーカルよりも帯域の広い器楽曲を聴いても同様に思います。これらのことがシングルドライバーで再現されているのだから、かなり優れたドライバーと筐体設計だと思います。

着色感は少なく、暖かくも冷たくもない感じです。たぶんドライバーの特性もありますが、ケーブルも良いと思います。着色感は少なくとも無機的にならずに音楽が美しく感じられるのはなかなか得がたいものがあります。

IMG_8106_filtered_s.jpg

シングルダイナミックにしてはかなりワイドレンジでダブルベースを聴くと低い方にもよく沈みこみ、ロックでも低域は十分にあってパンチがあります。もしEDMとかもっと低音が欲しい時にはイヤピースをAET08とかもっとサイズの大きいものに変えると良いと思います。
中高域が美しいのが特徴なんですが、低域の方も厚みがあって音が豊かに聴こえるのがトータルの音の再現性を上げていると思います。

IMG_8125_filtered_s.jpg

特にMojoとかSP1000など高性能の機材を使用した時の深みがある音空間が特徴的で、同じ曲でAK380からSP1000に変えた時の情報量の増加がよくわかります。高級オーディオを聞いているような感じです。細かい音の再現力の高さも含めて、音再現力の高さも価格を超えているように思います。

* まとめ

見た目の美しさと音の良さは価格を超えていて、価格が10万円を超えていてもおかしくない気はしますね。
音の美しさなど優れた長所を持つ一方で、ケーブルのタッチノイズもかなり少なく、全体にそつなく弱点も少なく設計されています。オーディオ業界のベテランによって創立された会社というのもうなづけます。トータルの完成度も高く、コストパフォーマンスもよいイヤフオンだと言えるでしょう。


IMG_1202_filtered_s.jpg
posted by ささき at 16:54| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月25日

ラズベリーパイ4登場

ラズベリーパイの新型、ラズベリーパイ4が発表・発売開始(海外)となりました。
これにともなって前モデルがなくなるということはありません。
https://www.raspberrypi.org/blog/raspberry-pi-4-on-sale-now-from-35/

今回はモデルBだけとなりますが、これはいままでのようにAモデルを作ってもそれほど安くならないという判断のようです。
そのかわりメモリがいくつか選べます。またCM3のような拡張カードタイプのモデルは検討中ということのようです。

ラズパイ4のオーディオ的な特徴としては、今回はUSB3を搭載し、かつUSBとネットのバスが分離されたという点です。これはもともと搭載されていたギガビットイーサの通信速度をフルに発揮するためですが、USB的にも通信中の干渉がなくなります。
いままではUSBとネットのバスが供用されていたことがオーディオ的な問題で、ラズパイ2あたりではMPDでアートワークを取り出しているとUSBにノイズが乗ったりしました。ただ3ではCPUの速度が速くなったこともあるのか、かなりそうした障壁は少なくなり、4で論理的に解消されたということになりますね。

また電源がUSB-Cとなっているので最近の進歩著しいポータブルデバイスと組み合わせた場合の可能性も面白そうです。以前はポータブルストリーマーを作った時は3でもかなり暑くなりましたが、発熱はどうなんでしょうか。冷却用のペルチェ素子がほしい。。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/437948475.html

ただ根本的なオンボード音源はあまり変わってないようですね。DAC ICはいままでも低価格化のために搭載されていませんでしたが、今回も見送られているようです。映像で4K60PのハードデコードができてデュアルHDMIが搭載された割にはオーディオには冷たいですが、IQAudioとかHiFiBerryとか下記リンクのようなHAT DACが増えているのであまり関係ないかもしれませんね。HAT互換性は高いようです。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/435943475.html



posted by ささき at 07:49| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年06月04日

final E1000がまるっと入ったHeadphone Book Special Edition発売

Headphone BookのSpecial Editionとして人気のfinal E1000の特別版(グリーン)がそのまま入ったSpecial Editionが発売されました。あのピアノフォルテの入った号を思い出しますね。しかも市価より安く入手できるというのがポイントです。すでにお持ちの人ももう一個ぜひどうぞ。


IMG_7820_filtered[1].jpg  IMG_7821_filtered[1].jpg

ちょっと隔月刊F1マシンコレクションとかを思わせるように、箱に冊子が付いた形となります。

IMG_7822_filtered[1].jpg  IMG_7823_filtered[1].jpg

なかにはそのままE1000SE(グリーン)がはいっています。
冊子にもE1000の魅力をはじめ、細尾社長にインタビューして聴いたEシリーズの開発コンセプトなど私もいくつか書いて盛りだくさんですので、この機会にぜひお買い求めください。

posted by ささき at 15:12| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月22日

DITAの新機軸、Project71レビュー

DITAはAnswerからDream、Twinsと様々な製品ラインナップを広げていき、シリアスで硬派なダイナミック型イヤフォンの代表格の一つになりました。PROJECT 71は同社の記念モデルであり、全世界で300個の限定生産販売となります。
Project71の名の由来はDITAの親会社であるシンガポールのPackager Pte Ltd.が1971年に創業されてから47年目を意味するということです。この会社は自動包装機械のメーカーであり、DITAイヤフォンの優れた機械加工技術はこの会社あってのものです。

IMG_4257_filtered[1].jpg

* Project71の哲学

他のDITAイヤフォン同様にこのProject71もCEOであるダニー・タン氏の理想の実現と言えます。ダニー氏がProject71の秘話を教えてくれたんですが、まずそのキーワードは"enjoyable"、つまり楽しめることです。
彼がProject71のアイディアを思いついた当初、2つのことを考えたということです。

まずひとつは昔ながらのイヤフォンの形を取りながらも、他から大きく違う個性を持つものです。使いやすく楽しみやすいということですね。彼は高品質なものこそ、マニアだけではなく多くの人に楽しめるものでなければならないと考えているということです。
この場合は耳に回すいわゆるShure掛けタイプのイヤフォンはプロやマニア向けであり、一般の音楽愛好家にはあまりなじみがないので、普通に耳にストレートに装着できるものを目指しているわけです。

マルチドライバーのように手段が目的になりがちな、あまりマニア的なものに陥らずにいかに音質をよくするかというところに注力したい、音楽を楽しむのに手段を忘れるようなものを作りたいというわけです。
つまり良い靴がそれを履いていことを忘れるようにしたいというわけですね。

もうひとつは従来のDITAのラインナップとは別のラインナップを作りたいということです。AnswerからTwinsのようにどこかメカニカルでオーディオファイル的なものもよいけれども、もっと別のアナログ的なものを作りたかったということですね。

* 特徴

そうした点で今回は素材・材料を重要だと考えたということです。Project71では真鍮とマッカサルエボニーという楽器にも用いられる木材を組み合わせています。
このように真鍮や木材が使われるのには音質的な意味が必要であり、よくある木製のイヤフォンのように表面だけ木材で中身がプラスチックというようなものは作りたくなかったということです。ただしここがかなり難関となります。Project71のポイントの一つはこのように真鍮と木材を組み合わせたという点で、独特の音響効果を生み出せますが、金属と木材という加工の難易度はかなり高いということです。

IMG_4262_filtered[1].jpg

Project71ではパーツを個々に製作されて重ねられていきますが、双方の加工中の熱膨張率の違いなどで精密な加工は難易度が高かったようです。特にMMCX端子の部分の接合が難しかったということです。またベント穴を設けるのも大変で、Project71では大きな独自の音響チャンバーを作ってエアフローのコントロールをしているのですが、その設計も難しかったようです。
また、音響的な効果だけではなく、この筐体は使い込むほどに味が出てくるということで、まさに持ち主の個性が出るでしょうとのこと。

ドライバーには複合材を採用した第3世代の新しいもので、音楽的な情感に訴えるような特性を持たせたということ。

IMG_4252_filtered[1].jpg

木材と真鍮製の筐体、新型のドライバーに加えてProject71のさらなるポイントは独自開発のOSLOケーブルです。
従来のVan Den Hulのケーブルは硬いこともあり、今回の製品には向いていないので、日本のケーブルメーカーと共同で開発したのがOSLOケーブルです。

IMG_4260_filtered[1].jpg

OSLOはまったく新しいケーブルでOil Soaked Long Oxygen Free cableのことです。Oil Soakedはオイルに浸したという感じの意味で、金と銀の粒子がサメ油に浮いているような感じです。これによって顕微鏡的な大きさでのPC-tripleCの高品質線材表面の不規則さを整えて、信号伝達を高めて豊かな音と細かなニュアンスの再現に貢献するということです。たぶん接点活性剤のようなものではないかと推測しています。

端子は今回はMMCXであり、ノッチがあって不要なMMCXの回転をロックするメカニズムがついています。もちろん好評のAwesomeコネクターが引き続き採用されてリケーブルを簡単にしています。このAwsomeコネクターはかなり便利で、3.5mmと2.5/4.4mmバランスをすぐに交換できるのでDAPとスマホを使い分けて聞いているときなどに便利です。端子だけポケットに入れておけばいいですからね。

* パッケージ

記念モデルということもあって、パッケージもなかなか豪華なものです。

IMG_4238_filtered[1].jpg  IMG_4241_filtered[1].jpg

IMG_4244_filtered[1].jpg  IMG_4245_filtered[1].jpg  IMG_4248_filtered[1].jpg


* 音質

Project71の最大のポイントはその独特の音質です。
音はこれまでのDITAの硬質なイメージとは変わって、暖かみのある滑らかなものです。いわば聴いていて楽しく美しい、音楽的というべきものですが、DITAらしい切れ味の良さは残していて、ダイナミックにしては解像力もかなり高いと思います。音楽的で甘いというと、クリアではなく鈍い音のように聴こえますが、Project71の場合はそうしたことはなく、甘くて滑らかな音ですが、透明感が高く歯切れの良さ・解像力はtwinsと比べてもそうひけをとらないでしょう。
基本的な性能が高く、ハイエンドDAPの底力も引き出しています。AK380よりもSP1000でより実力を発揮できるのはDITAならではで、楽器の響きが豊かで、音楽の情熱を伝えてくれると言えますね。
能率は低めですが、スマホやBTアダプターで鳴らせないほどではありません。

IMG_0010[1].jpg
SP1000CPとProject71

Project71の音の個性で際立っているのは音の滑らかさ・スムーズさの部分で、なかなか書いて説明がむずかしいのですが、ほかのイヤフォンと比べてもわりと差がわかります。バターのようにスムーズ、シルクのように滑らか、という感じです。美しくきもち良いのでもっと聞いていたくなるという感じの音です。

IMG_0114[1].jpg
Mojo+PolyとProject71

DITAはダイナミック型らしい低域の充実感が良さの一つでしたが、Project71でも低域の迫力はいっそうパワフルです。低域の量感はわりとある方ですが、膨らんで贅肉がついている感じはなく、すっきりとしてパンチがあります。音は低音に迫力があり暖かみのあるダイナミックドライバーらしい音ですが、低域の細かな再現力もDITAらしく情報量が多く、楽器の響きがよく聴こえます。中音域でのヴォーカルの深みも良いですね。

Awesomeプラグで簡単に2.5mm/4.4mmに変えることでバランス駆動でよりスケール感も楽しめます。SP1000でバランス駆動で使った音の迫力と躍動感の魅力は格別です。
音はケーブルを変えてもこうした傾向があるのでOSLOのみの効果ではありません。

* 別売りのOSLO交換ケーブル

OSLOケーブルにはリケーブル用の単体売り交換ケーブルが用意されています。MMCXと2pinです。ちなみにMMCX仕様でもProject71に付属しているケーブルとは端子部分の形状が異なり、またメモリーワイヤになっています。
MMCXはどのイヤフォンでもあまり問題がありませんが、2ピン版は最近の2ピンが出たり引っ込んだりしているので適合するのがなかなか見つからないかもしれないので、店で試着させてもらったほうが良いでしょう。

IMG_0145[1].jpg
SolarisとOSLOケーブル

MMCX版をCampfire Audio Solarisにつけてみました。Solarisの標準ケーブルもかなりよいものが付属していますが、OSLOケーブルの効果は高く、いわゆるすべての音源を聴きなおしたくなるくらい向上効果があります。
音がよりリアルで滑らかに聴こえ、音の深みが増して濃くなるという感じです。また音場がさらに少し大きくなります。適度に暖かみは加わりますが、着色感が大きいわけではないようです。

IMG_4264_filtered[1].jpg  IMG_4265_filtered[1].jpg

ケーブル替えたというよりDACを変えたような感じでもありますね。一枚ベールをはがすというよりも、音色が別な感じになるという感もあります。
標準ケーブルに戻すと少しこじんまりとして、あっさりとした感じに聴こえます。

* まとめ

Project71のポイントは、普通でありながら個性的であること。
ストレートに耳に入れられる簡単な取り扱いで、真鍮と木材、そしてOSLOケーブルのもたらす音楽的で絹のように滑らかな音質、その材料がもたらす経年変化など持つ喜びもあります。
個性的という点ではDITAの中で個性的というだけではなく、シングルダイナミックの高性能イヤフォンの中でも個性的です。
DITAのラインナップに新しい魅力が加わったと言えますね。
SP1000などのハイエンドDAPでダイナミックドライバーの音楽性を楽しみたい人に薦めたいですね
月末のヘッドフォン祭にてぜひ試してみてください。
posted by ささき at 16:14| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月13日

Poly 2.0アップデートとPolyでのAirPlay使用のヒント

Chord PolyがVersion 2.0となりました。
今回からアップデート方法が変更されましたので注意してください。まずGoFigureを最新版にする必要があります。
まず1.0.41というバージョンにいったん更新してから、GoFigureからDevice Settings→Firmware Updateです。あとはつけっぱなしでP-Statusが青赤黄色の点滅をするとファーム更新中です。今回から自動でリブートを行うようになりました。

2.0ではBluetoothやWiFiドライバーなどがより安定するとともに、今回から正式にRoonの認証を受けてRoonReady機器となりました。
Roonでつなぐと384kHzアップサンプリングをRAATで受けられるので、とてもポータブルで聴いているとは思えません。

IMG_0037.JPG

またDLNAアプリからTIDALやQobuzのストリーミングの使用が可能となりました。MQA対応していないのでTIDALではハイレゾストリーミングできませんが、FLACで送ってるQobuzならハイレゾストリーミングもいけそうです。
方法はGoFigureから下にあるUserをクリックするとログイン画面が出ますのでストリーミングサービスのアカウントを入力します。次にPolyをOther(DLNA/MPD)モードにします。
コントロールはDLNAアプリから行うので、8playerアプリにいって、Polyをサーバー(DMR/DMS)として追加。
TIDAL(またはQobuz)というタブができているのでそこから階層を辿ってジャンルとかMyMusicで曲リストが出てきます。

IMG_0041.JPG

また新規にRadio機能がついています。GoFigureからRadioを立ち上げることができます。BBCのラジオがプリセットされてますが、自分で追加できます。

ところでPolyはiPhoneを使っているときはAirPlayで接続できるのが強みです。Bluetoothと比べてみるとやはり音質的には一枚上で、特にハイエンドイヤフォンを使っているときはかなり差が出ます。Bluetoothと違ってロスレスのALACで送信していますからね。
とはいえAirPlayはWiFi環境下でないとつなげないので、外出時にはモバイルルーターを使わなければなりません。しかしPolyにはHotspotモードがあり、GoFigureが出てからはピンでつかなくてもGUIで変更できるようになりましたので、外出時でもPolyをHotspotモードに入れればAirPlayを使えます。Hotspotモードに入れて、Poly-xxxというネットワークにつなげばPoly自身が持っているローカルWiFiにつなげます。
ところが、、このままだとiPhoneがインターネットにつながらなくなり、Polyに音楽は流せますがネット作業がなにもできなくなります。
この時はWiFiとセルラー4Gを同時に使う方法があります。(以下iOS12の場合)
1.WiFiでPoly-xxxxにつないだら、その右の(i)を押下してください。
2.ipアドレスとサブネットマスクをメモって下さい。(たぶん192.168.1.xと255.255.255.0です)
3.その画面の「IPを構成」を"手動"に変えてください。
4. さきのIPアドレスとサブネットマスクを入力してください
5.画面を戻ります。これで右上に4Gと出ていたらインターネットがセルラーで使えています。音楽はいままでどおりにPoly-xxでつながっています。

IMG_0035.JPG
posted by ささき at 15:39| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月27日

プレミアム限定モデル、Luxury & Precision、LP6 Tiレビュー

先日の春のポタ研では70万円近くの高価なDAPが話題となりました。これはLuxury & PrecisionのLP6 Tiという機種です。(正確な価格は販売店に確かめてください)
Luxury & Precisionは中国のオーディオブランドで、HeadFiなど海外フォーラムを見ている人にはおなじみでしたが、昨年からサイラスさんが国内でも扱いを始めました。昨年L3-GT、L4、L6、LP5 Ultraの記事を書きましたのでそちらもご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/460897457.html

IMG_5035_filtered[1].jpg
Luxury & Precision LP6Ti

Luxury & Precision(以下L&P)はうちのブログでもおなじみだった、ColorFly C4の流れを汲むということです。実際L&Pで話題となったのがColor Fly C4によく似たクラシカルな形をしたLP5 Ultraという限定生産モデルでした。これは上のレビューを持ていただくとわかるように音質的には据え置きなみで、ポータブルよりも格上の印象さえ受けるものでしたが、デザインや操作性も含めてクラシカルで現代的なDAPとは言い難いものでした。
L&Pでは一方でL4やL6のような現代的なタッチUIのDAPを出していましたが、この現代的なラインの延長でLP5 Ultraのような究極のDAPを目指して開発したのがLP6 Tiです。Tiはチタンのことで、ボディがチタン製であるところから名づけられています。

*LP6 Tiの特徴

インテル製のFPGAの採用

ハードウエア的にLP6Tiを特徴づけているのはまずインテル製のFPGAの採用です。これはポータブルオーディオでは世界初ということです。FPGAを採用したDACではChord社製の製品が良く知られていますが、こうした例ではいままでザイリンクス社製のFPGAがよく使われていました。LP6Tiではインテル製の「フルサイズ工業グレードの大型FPGA」が採用されているということです。これはメーカーによるとザイリンクスの上位バージョン以上の性能を持つということです。ただし消費電流に関してはすべての部分を使用してはいないので電力消費を抑えているということです。
L&Pでインテル製のFPGAを使用したのはL&PがPCパーツ由来の仕事をしていた関係もあると思いますが、中国市場でのサポートの良さもあるということです。またL&PのCTOであるWan氏はかつてAMDの中国支社で活躍していたこともあり、こうした分野には長けていると思います。

FPGAとはプログラム可能なICのことで、FPGAを用いたDACと言ってもFPGAでデジタル・アナログ変換をしているわけではありません。そのため当然のことながらDA変換を行うDAC部分が必要です。FPGAの機能としては主にDAC部分に入る信号をきれいに整形するためのデジタルフィルタがメインですが、LP6Tiではそのほかに高音質のEQ機能、ロスレスDSD/PCM変換、超低ジッターSPDIF出力、高精度のクロックソース、ワイドバンド高速通信などの機能も含まれているということです。
ちなみにロスレスDSD/PCM変換というのはこのFPGAの効率が良く他社のようにDSD/PCM変換チップやIPコアを使用する方式に比べて、インテル製のDSP並行処理能力が高いことからそう名付けているということです。

医療用R2R DACの採用

次にLP6Tiのキーとなるのは医療用R2R DACの採用です。R2R DACとはマルチビットDACとも呼ばれ、いわゆる1ビットのデルタシグマ方式ではなく、PCMの各ビットを直接変換できることから特にPCMの再生においてはデジタルっぽさが少なくアナログライクで自然な音質に優れていると言われている方式です。ただし最近では効率の良いデルタシグマ方式が席巻しているため、ほとんど採用されなくなっています。
しかしオーディオマニア向けのDACでは音が良いことからよく採用されるのですが、多くの場合はバーブラウン(TI)のPCM1704というDAC ICが使われます。ただしこのPCM1704はすでに生産が終了していて市場デッドストックの品が使われるのですが、L&PではこのPCM1704を超えるようなR2R DACを作りたかったので医療用R2R DACを採用したということです。

この医療用R2R DACはMRIなどに使われるもので、非常に高精度です。メーカーはADI製ですが、モデルはメーカー非公開品ということです。LP6TiではこのICを4基使用しています。このDAC ICの単価はわかりませんが、MRIは数億円の製品なのでそのDACも推して知るべしというところでしょうか。LP6Tiの価格の高さもちょっとわかります。
R2R DACは精度を高めるのが難しいのですが、このICはPCM1704に比べてはるかに高精度で変換誤差が非常に少なく、低歪みで温度差のばらつきも非常に少ないということです。高精度というのはICのDA変換のエラー自体が極めて少なくリニアリティ(信号の入出力の比例性が高い)があって温度変化に強いという意味です。

image2.jpg

これによって、LP6TiのダイナミックレンジはPCM1704UK(選別品)を32個搭載したDAPに相当し、SN比はPCM1704UKを8個搭載したDAPに相当するということです。また歪率でのTHDもPCM1704UK搭載DAPの約半分ということです。
つまりR2R DACというのは音は自然でよいが性能的には最新のデルタシグマDACに負けてしまいます。LP6Tiでは医療用の高精度DACを採用したことで、音の自然さも性能の高さも両立できたということですね。

そもそもオーディオ用DACでなくてもよいのか、と素人考えしてしまいますが、その点について出てくるのが先ほど説明したインテル製のFPGAです。このデジタルフィルターの性能が良いために、オーディオ用にこの医療用DACを採用できたということもあるということです。
つまりハードウエアとしてのキーはインテル製FPGAの採用とR2R DAC ICの採用で、面白いことにこの二つは関連しているということです。

購入者による音のカスタマイズが可能

LP6Tiのユニークな点のひとつはDAPに自分の音の好みを反映できるということです。カスタムイヤフォンのJust earっぽい感じのサービスです。ポータブルマニアなら電力消費はもっと多くてもよいから音質を上げてほしい、ということを思ったことのある人は多いと思いますが、それが実現できるというわけです。
これには大きく分けて2種類あって、カスタムリストの1-2はFPGAの設定で、こちらは一回程度は後で無料で変更してくれるということです。これはメーカーによるファームの直接の変更で、ユーザーが自分で変更できるわけではありません。

image3.png
カスタムリスト

1:音楽ジャンル(POP・アニソン・演歌・EDMなどなど)
2:ボーカル調整(ボーカルの遠さ近さ・横音場の広さ)


3-7の項目はハード設計を直接変えるために納品後の変更はできないということです。

3:ヘッドフォン回路オペアンプ選定(電力消費と音質の兼ね合い)
4:LPF入力電圧の調整(LPF電圧の上下で信号の歪みと動作時間の兼ね合い)
5:出力インピーダンスとZobelフィルター(出力インピーダンスの大きさと保護フィルター設定)
6:ヘッドフォン回路オペアンプ入力電圧と出力電圧(音質と電力消費の兼ね合い)
7:LPFの調整(クラシック音楽で効く信号と位相の兼ね合い)


このほかにもLP6TiではTC4チタニウムを採用したチタン製の筐体や、デジタルとアナログ別でそれぞれ高品質な電源部、高出力のヘッドフォンアンプの搭載なども特徴的です。4.4mmのバランス出力も備え、バランス出力では特に低能率のヘッドフォンでの性能を高め、シングルエンド出力では通常のヘッドフォンやイヤフォンに向けた設計をしているようです。コンデンサーなども軍用グレードの高品質品を使用しているとのこと。(オペアンプのExcelsというのは既製品オペアンプをL&Pがリブランドしたもののようですが、詳細は不明です)
このためにHD800用の専用ケーブルも開発しています。
音源はマイクロSD(FAT32のみ)と64GBの内蔵ストレージです。スペック上の再生時間は7時間となっています。

* HD800専用ケーブル(別売)について

IMG_5025_filtered[1].jpg

LP6TiではHD800を開発リファレンス機として使ったということもあり、LP6Tiの能力をフルに発揮するために高純度金メッキPCOCC銅線+らせん状の銀メッキという線材を用いた別売りのケーブルも用意されています。これはUltimate Zone U75というケーブルで4.4mmのバランス仕様です。

* インプレッション

試聴用にはマルチドライバー機のCampfire Audio Solaris(4.4mmバランス)とヘッドフォンにはHD800(6.3mm)を使いました。

IMG_5026_filtered[1].jpg IMG_5027_filtered[1].jpg

パッケージは木製の化粧箱が採用されていて、ふたをスライドして開ける方式です。開けると中にLP6Ti本体とUSBケーブル、ヘッドフォン用の標準端子アダプター、保証書が入っています。

本体はL&Pらしくいかにも精密機器というか精巧な金属の塊という感じのデザインですが、持ってみると意外に軽いのに驚きます。チタンは非常に硬くて薄く作ることができるので航空機の軽量化にもよく使われています。材質感はアルミとも違った硬質感がありますが、両側面は木製のプレートがはめ込まれていてよいアクセントになっています。

IMG_5029_filtered[1].jpg

上部には端子が並んでいます。ヘッドフォン用6.3mm、バランス用の4.4mm、ラインアウト専用(固定出力)の3.5mm端子があります。ボリュームはガード付きで適度なトルク感があるところが好印象です。

IMG_5030_filtered[1].jpg

側面には電源ボタン、再生、バック、先送りのハードボタンがあります。

IMG_5031_filtered[1].jpg

底面にはSPDIF出力のRCA端子、マイクロSDスロット、USB端子がありUSB DACとしても使えます。

IMG_5036_filtered[1].jpg

UIはタッチ操作が可能で独自OSらしいきびきびとしてとても反応が速く感じられます。
設定項目としては基本的なリピートなどの再生設定、グライコ的なEQ設定(プリセットもあり)、またかなり詳細な音質に関する設定があります。デジタルフィルター設定ではおなじみのSLOW/FAST roll-offなどのほかに低遅延やNON Over Samplingなども選択できます。
DACモードに並列モードとタイムシェアリングというのがありますが、並列モードはチャンネルごとにDAC二つが同時に動作、タイムシェアリングは1つのサンプリング周期内でDAC二つが交互に動作するということのようです。
またDCオフセットのオンオフはオンにすると直流信号の修正をするが電力消費がかさむという設定ということです。

IMG_5028_filtered[1].jpg

はじめにSolarisで4.4mmバランスで聴き始めました。ゲインは設定項目にあります。
音質はとても透明感が高くて美しく、かつパンチがあって歯切れが良いのが特徴的です。現行品と比べてみると、LP5 Ultraなみの据え置きに近いクラス上のアンプ性能と、L6のような洗練されたサウンドを併せ持つ感じですが、実のところ音質はずっと上のレベルにあることに驚きます。
静かな曲を聴くと消え入るような小さな細かい音の再現にも優れているのがわかります。透明感がとても高く、楽器の音が美しく聴こえます。またヴォーカルの声の艶やかさとリアルさも秀逸です。アコースティック楽器の音色がとても端正で澄み切った感じがするのはR2R DACの美点でもありますが、加えて回路の良さ、歪の少なさで雑味のない端正な音が出ているとも感じます。

ダイナミックレンジを強調しているだけあって、試聴曲のパイプオルガンの音域の広さは圧倒的です。Solarisのような空間再現性に長けたイヤフォンでは音の迫力に圧倒されます。低音域もかなり深く下に沈み込み、高域はどこまでも伸びていくかのようです。
パンチがあってロックやアニソンなど動的な曲での打楽器が気持ちよく、躍動感にたいへい優れています。かなりアンプのパワーがあってトランジェントにも優れているので歯切れが良いですね。おそらく電源の良さもあると思います。必要な時に素早く電流が出ている感じです。
またこうして歯切れの良さやパンチを強調してもきつくなりにくいのもR2R DACでPCM音源を聴くときの良い点だと思いますね。
かなりパワフルで高出力志向であることがうかがえます。どちらかというとヘッドフォン向けの設計がなされていると思います。

そこで次にヘッドフォンのHD800で聴いてみました。まずノーマルのケーブルを使って聴きます。
たしかにリファレンスとしてHD800を使ったというだけあってかなり良い組み合わせだと思いますね。HD800の独特の空間表現力がとてもよく再現され、自然で広い音空間が楽しめます。
また音の自然でリアルな再現力にちょっと驚かされます。アカペラコーラスなどはまさに耳元で本当に歌っているようなリアルさです。もちろんパワーもあって躍動感も楽しめます。HD800でパンチのあるベースや打ち込み音が出るのがちょっとすごいと思いますね。音の細かな残響、ホールトーンの表現も優れて聴こえる。
たしかにHD800とLP6Tiの組み合わせはR2R DACの面目躍如というか、リアルさがちょっとすごいレベルにあると思います。まさにHD800が生き生きとしているようで、おそらくLP6TiのDACもかなりハイエンドに近いようなレベルににあるのではないかとも思いますね。据え置きのヘッドフォンアンプでもなかなかこのレベルのDAC内蔵アンプはないように思います。

IMG_5039_filtered[1].jpg

HD800の別売りケーブルを付けてみると、冷っとしていた音にやや温かみが加わります。標準のケーブルが冷たく客観的な音だとすると、こちらはより音楽的な楽しみを持った音と言えるように思います。楽器音がより美しく、ベルの音も澄んで聞こえます。また楽器音もヴォーカルも滑らかで気持ちよいですね。標準ケーブルとは使い分けてみてもよいでしょう。

また平面型ヘッドフォンとしてHIFIMAN HE580を使ってみました。これはHD800よりもやや鳴らしにくいのですが、十分に音量は取れてよい音で鳴らすことができました。ただ相性としてはHD800のほうが良いと思います。

まとめ

音質の高さは圧倒的で、間違いなく現行DAPトップクラスの一つですが、LP6Tiではダイナミックレンジやトランジェントといった性能面の高さと、楽器の音色の良さといった感覚的な良さの両面に優れている点が素晴らしいですね。特に音再現の美しさ・細かさなどDACのレベルはポータブルを超えている感じで、もし試聴会に行くときはイヤフォンで日頃聞いているにしてもぜひHD800を持って行って試してみてください。

image1.jpg

カスタマイズは使用イヤフォンやヘッドフォン、また好みにもよるのでまず試聴したほうが良いでしょう。
わたしなら3はdefault、4は(2)、Zobelフィルターは3か4、出力インピーダンスは1か2、7は1か2、入力電圧は4か5、出力電圧は3か4にするかなと思います、まあオーダーできませんが(笑)考えるのもちょっと面白いですね。

LP6Tiはたしかに高価格も納得できるような高品質・高精度の設計と面白いカスタマイズのサービスですが、日本向けの数は少ないそうです。3/30(土曜日)にフジヤエービックで試聴会を行うそうなので興味のある方はどうぞ参加してこの音を確かめてください。

posted by ささき at 22:48| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする