Music TO GO!

2015年12月23日

ポタ音スタイル2016に記事を書きました

発売中のCDジャーナルムック、ポタ音スタイルにいくつか記事を書きました。
プレーヤー・アンプとヘッドフォンイヤフォン徹底ガイドのレビューでAK Jr、Continental Dual Mono, AK T1p、Campfire Audio Lyra、Chord Mojo、ちょんまげ3号を書いています。
アプリガイドではHF Player、USB Audio Player pro、FLAC Playerとともに新しいRelistenも書いています。
またP146から「ポタ音放談」として私とフジヤの根元さんの対談でポータブルアンプやプレーヤーに関する不満点やこうあるべきという形を話していますので、ぜひご覧ください。


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2015年12月18日

日本向け限定モデル、Westone30

Westoneから新製品Westone30が12/26日に発売されます。バランスド・アーマチュアを採用していて3Way・3ドライバーのイヤフォンです。詳細はテックウインドさんのホームページをご覧ください。価格はオープンで市場推定価格は49,800円前後です。
http://www.tekwind.co.jp/information/WST/entry_450.php

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特徴

Westone30には二つの大きな特徴があります。
まずひとつは日本市場向けにサウンドデザインがなされている、日本限定モデルであるということです。これはWestone社のサウンドマイスターであるところのカール・カートライトが日本人好みにチューニングしたものです。
そのためにカールが日本のロック・ポップ、アニメ音楽などを研究したということ。

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Westone30

もうひとつはこれがあのWestone 3のオマージュになっているということです。筐体デザインは似ていますね。本体ロゴも数字の意匠化が踏襲されています。ドライバはWシリーズとは少し異なり、ネットワーク調整を一から日本向けに作っているということです。(つまり現行のW30とは異なります)

昔話を少しすると、2006年初頭のCESに3ドライバーという画期的なスペックを持ち、$500という「驚くほど」高価格のShureのE500がE5系の後継としてデビューして話題となりました。いまでいうハイエンドイヤフォンのはしりですね。それを同じ2006年にUE(というより当時のジェリー)が3ドライバーで追いかけて当初は別のコード名でしたがtriple.fi 10の発表をし、続いて2007年にWestoneが3ドライバーで3Wayという画期的なWestone 3を発表して追いかけるという展開になりました。それまではカスタムには3wayがありましたが、普通のイヤフォンでは2wayが一般的でした。
特にWestoneはこのモデルで一気に高性能コンシューマーイヤフォンの分野に躍り出た記念すべきモデルですね。モデル名もそれまでとは変わりました(Westone 2はこの後)。日本市場ではShureやUEの陰にあった感のWestoneがこのWestone 3で一気に表舞台に登場した感じでした。なかなか発売されずにユーザーがやきもきして待ち焦がれていたのを覚えています。
この後E500はさらにSE530となり、高性能イヤフォンの戦国時代がはじまります。それは「普通の市販イヤフォン」がカスタムに追いつく時代でもありました。そしてジェリーはUEを離れますが、それはまた別の物語です。

それからほぼ10年が立ち、この2015年末というタイミングにJH AudioがジェリーのUE時代のtriple.fi 10のオマージュであるTriFiを発表し、WestoneがWestone3のオマージュであるWestone30を出すというのは面白い符合であると思います。

音質

ここではWestone30とWestone 3を聴き比べてみました。たしかに似ていますね。ロゴはそれぞれ3と30の意匠化です。フィット感もほぼ同じです。ただ30の方はケーブルは新しいepicです。
試聴する時はチップは両方とも形とサイズを合わせてますが、同一のものではないので多少そこで違いが出るかもしれません。

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左がWestone30、右がWetone3

いままでのアルバム随想録を見てもらうと分かるように私はきわめて洋楽偏重な人なんですが、日本向けモデルということで今回は邦楽で選曲してみました。日本人アーティストで有名どころというと戸川純とかヒカシューですか、とか、アニメ関連なら再発されたYBO2でもいいよね、とか言わないで素直に狙ったあたりと思われる音楽でiPhoneで試聴してみました。

志方あきこ: Arcadia
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ヴォーカルにはさまざまな言葉を駆使して言語感覚を大事にする人ですが、Westone30では特に日本語歌詞の部分の明瞭さが高いように思いますね。Westone3よりも全体に音が整理されていてヴォーカル部分が良くわかります。また楽器パートはよりきれいに聴こえる感じがあります。

アンジェラ: 騎士行進曲
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最近のアニソンはヒーロー名連呼型が少なくなって寂しいんですが、これは合格。複雑な曲ですが、Westone30ではスケール感もよく表現され、スピード感も軍歌っぽい高揚感も魅力的に聞こえます。

中村桜: パンツアーリート
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こちらはリアル軍歌がベースですが、原曲の勇壮感とJ-pop編曲されたビートのスピード感がカッコ良く表現されてます。やはりヴォーカルが聞き取りやすく低域はWestone 3よりもわずかに抑えられているように思います。

Babymetal: アカツキ
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最近ようやく新アルバムの発表あったBabymetalのヴォーカルソロパート定番曲。これは武道館ライブ盤ですが、Westone30ではリードするピアノの音色がWestone 3よりもより好ましくなっているように思います。ヴォーカルはあきらかにWestone30の方が明瞭で声質がきれいに聴こえます。

遊佐未森: ロカ
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これはよくドライブでかけるんですが、Westone30では曲の持つ爽やかな雰囲気と遊佐未森の独特な歌声の気持ち良さがよく表れていて気持ち良く聴くことができます。3だとちょっとごちゃごちゃした音楽になってしまいます。

まとめ

Westone30は全体に高域のきつさが少なく全体的に音がうるさくなく整理されていて、かつ低域が中域にかぶらずにヴォーカル域を重視したチューニングがなされているように思います。また楽器の音色もより正しくきれいに再現されているようですね。
30はJ-Popあたりの録音のきつさを和らげるチューニングとも言えます。もともと低価格イヤフォンのためにきつめに強調した録音を、高性能イヤフォンで聴くときつ過ぎるのでそれを和らげると言ってもよいかもしれません。

また女性ヴォーカルがWestone3より明瞭感があり、好ましく聴こえます。ちょっと興味深いと思ったのはヴォーカルの発声は同じヴォーカルでも特に日本語歌詞の場合に好ましく感じられたことです。これは外国語は子音型が多いのに対して日本語は母音型であるというところとか、日本語の発声周波数帯域が低めということに関連しているように思いますがよくわかりません。
マスマーケット用のTVなんかは国別にスピーカーの音を変えることもあるようですが、こうしたあたりも突き詰めていくと面白そうです。

Westone30はJ-Popやアニソンなどを良く聴く人にお勧めだと思います。また洋楽でもロックポップには好みの合う人もいると思います。ぜひお店で自分の音源でも試聴してみてください。そしてこのイヤフォンという分野にも歴史があること、そして日本市場が大きくそこに貢献してWestone30があることもちょっと思い出してみてください。
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2015年12月08日

Astell & Kernとベイヤーのコラボイヤフォン、AK T8iEレビュー

AK T8iEはベイヤーダイナミックとAstell & Kernの共同開発による高性能イヤフォンです。
構成はシングルダイナミックを採用していて、最近トレンドのハイエンド・ダイナミックの流れの一つともみなすことができます。

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Astell & Kernはこれまでもハイエンドイヤフォンを販売してきましたが、JH AudioとコラボのAKR03がAK240をリファレンスとしてロクサーヌUFをチューニングしたのに対して、AK T8iEは一からの新規設計がなされています。今回はAK380をリファレンス機として使用したようですが、特定の機種に対してのチューニングというはされていないようです。

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ベイヤーとAstell & KernのコラボレーションはA200P(日本ではAK10)の開発から始まり、T5pを2.5mmバランス化したAKT5p、T1 2ndをAstell & Kern向けにアレンジしたAK T1pなどが行われています。
AK T8iEもその延長ですが、特筆すべき点はこれがイヤフォンであるということです。ベイヤーは戦前から続く伝統を受け、ずっとヘッドフォンのメーカーとしてやってきたわけです。ですからこうしてハイエンドのイヤフォンを開発すると言うこと自体画期的なことと言えるでしょう。あのベイヤーダイナミックがノウハウを活かした高性能イヤフォンを開発したこと自体がAstell & Kernとのコラボの大きな成果と言えるでしょう。

AK T8iEの製品紹介ページは下記リンクです。
http://www.iriver.jp/products/product_114.php

* 特徴

AK T8iEの特徴はまずイヤフォンとして初のテスラ・テクノロジーを搭載したことです。テスラ・テクノロジーとはT1ではじめて採用されたベイヤーの独自技術です。

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T1に限らずスタジオや放送局向けのプロ仕様ヘッドフォンはインピーダンスが高く設定されています。こうした高インピーダンスのヘッドフォンは音量を上げるためには大きな出力が必要で鳴らしにくくなってしまいます。そこで、鳴らしやすくするためにドライバーの磁束密度を上げて能率を高めると言う手法がこのテスラテクノロジーです。T1は1テスラを超える磁束密度をもった初めてのヘッドフォンです。これはそれまでの二倍くらいの強度です。
マグネットは大型化するため一般的な中央ではなく、コイルを囲むようにリング状に配されて、これがテスラドライバーの特徴ともなっています。

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その後この磁束密度を高める手法は他のヘッドフォンメーカーでも高音質化のキーとして採用するようになり、ベイヤーでもT51pのようにインピーダンスの高くないコンシューマーヘッドフォンでも高音質化のために採用されるようになってきました。

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しかしながらそれらは大きなヘッドフォンでの話であり、それよりはるかに小さなイヤフォンにこの技術を収めるには単なる思い付き以上の高度な技術力が必要となります。例えばテスラドライバーはマグネットを大型化することですから、そのリングマグネットも小型化しなければなりません。
AK T8iEではT1比で1/16もの小型化を実現したということです。その磁力はサイズを考慮するとT1/T5よりも強力なほどだといいます。
ダイアフラムは11mmの大型のもので、豊かな低音をもたらしています。ダイアフラムは髪の毛の1/5という1/100mmの薄さです。

テスラテクノロジーはまた単にマグネットを大きくするだけではなく、いかに効率的に磁束を利用するかということにも注力されています。例えばギャップ部分に磁力を集めるなどですが、これは逆に言うと磁力を無駄に外に放出しないということも意味していると言います。

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ハウジングは重厚感があり、非常になめらかでキズに対しても強いクロム合金で、表面には3層コーティング(銅+クロム+企業秘密)がなされていて、鏡面仕上げになっています。
AK T8iEで特徴的なものの一つはイヤチップです。良く言われるようにダースベイダーのヘルメットのような(わたし的にはフリッツメットと呼びたいですが)非対称形のユニークなイヤチップを採用しています。これは耳への装着性を重視して設計され、チップをはめこむステムは面積を最大にして音質を稼ぐために楕円形をしています。

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ケーブルシースにはKevlar素材を採用し、細くて軽いケーブルを実現しています。またTPE(熱可塑性エラストマー)によるタッチノイズ軽減も工夫されています。ケーブルは40,000回、プラグ部分は100,000回もの屈曲テストを実施したそうです。
ケーブルはMMCXでリケーブル可能となっています。Astell & Kern製品らしく2.5mmバランスケーブルが付属してきます。

もちろんAK T8iEはベイヤーのプレミアム製品らしくドイツ製で最高の機能とワークマンシップを実現しています。

* 開封と装着感

箱はこれもAtell & Kernらしく高級感を感じさせる豪華なものです。内箱にはイヤフォン本体と3.5mm、2.5mmバランスの両方が格納されていて、保証書がはいっています。

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さらに内箱には側面に引き出しが設けられていて、そのなかには5タイプのオリジナルイヤーチップと3種類のコンプライイヤーチップ、そして革製のキャリングケースが入っています。ケースは箱型のシンプルなものです。またケーブルクリップもなかなか高級なものが同梱されています。

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イヤーチップの装着は向きに注意する必要があります。フランジの長い方をL/Rの刻印と反対側にします。これはかなり遮音性に影響するので、チップの向きは細かく調整したほうが良いと思います。
耳への装着はカナル型と呼ばれるインイヤータイプと、耳に置くイヤフォンの中間的な装着方法だと思います。ただしきちんと装着しないと低音が出ないだけでなく、外からノイズがはいりますので装着については試行錯誤して個人のベストを見つけるのが良いと思います。

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基本は大きめのチップを使い、耳に置くだけでなくちょっとねじ込むと良いように思います。するとチップのフランジがかぱっとはまるポイントが見つかるように思います。ここは人それぞれですが、このイヤフォンのツボは確実な装着方を見つけることかもしれません。
この方式は快適性が高いのもまた事実で、イヤフォンもケーブルも軽量なのと合わせて付け心地はかなり快適です。音のきつさが少ないのと合わせると長時間リスニングにも良いでしょう。
メモリワイヤーはないけれども耳に回しやすく、ワイヤーに適度な摩擦力があるので問題はないと思います。ただしチョーカー(スライダー)はきちんと締めた方が良いでしょう。


* 音質

試聴は主に開発にも使われたというAK380AMPで聴きました。基本的にはシングルエンド(3.5mmケーブル)で聴いています。
エージングなしでも耳にした瞬間にいままでのイヤフォンとは鳴り方が違うと感じられます。ダイナミックでは今までにない音で、一言で言うと余裕がある音と言う感じです。イヤフォンだけど、ヘッドフォンで聴いてるみたいというか、そういう意味で音に余裕がありますね。広がりというよりは余裕という感じでしょうか。
音自体はダイナミックらしい音で、暖かみや柔らかさがあり、ドライとか分析的という音ではありません。音が滑らかで階調再現力が高いのも特徴で、マルチBAだとこういう滑らかでスムーズな音って出ないように思います。
音はヘッドフォンで例えたくなりますが、Dita AnswerやLyraをEdition 8とするなら、AK T8iEはEdition 5でしょうか。ベイヤーでいうとT1に対してのT5pですね。

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スピーカーだと良く音像型と音場型って言う分類があります。この定義自体が曖昧で感覚的なものだと思いますが、あえてこの例えを使うと、AK T8iEは音場型のイヤフォンという感じでしょうか。最近のIE800、Answer, Lyraなんかは目の前にくっきりと楽器の音の形を描き出すという意味では音像型って言ってもよいでしょう。
シングルダイナミックでここまで音世界の奥深さを再現できるのは少ないと思います。空間表現力だけではなく、豊かな情報量もその音世界の構築に寄与してますね。音の余韻が豊かで美しく、ヴォーカルが艶っぽい感じです。たっぷりとある低域も音に重厚感をもたらしています。

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端的に言うと音楽的なイヤフォンとも言えます。もしかすると柔らかさとか音楽的と言うと、甘くてにぶい音質の丁寧表現じゃないか、と裏読みされるかもしれません。しかし、AK T8iEに関してはそういう事はなく、たくさんの細かい音が次々に湧き上がってくる感覚が味わえます。ただLyraなどの先鋭なタイプのダイナミックに比べると柔らかくなだらかな印象です。
AK T8iEの音を聴くと思うんですが、解像力というか情報量もとても高いんだけど、表現力をそれに頼ってなく、音世界を豊かにする補助的な意味で情報量が豊富にあると言う感じです。
AK T8iEは柔らかいという音表現がにぶいの丁寧語とは違うことだと教えてくれます。
ダイナミックだからエージングすることで甘さはだいぶ消えますが、ただAK T8iEはエージング前の音もなかなか甘い感じがプラスに働いて良いと思うので、ゆっくり楽しんで聴くと良いと思います。

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もうひとつAK T8iEを聴いていて思ったのはシングルエンドとバランスでかなり音が変わり、それぞれ良いという点です。同じAK380AMPで聴いても、ケーブルを変えることで2つの味が楽しめると言う感じです。
シングルエンドだと柔らかめでふわっとした感じ、緩め、低音域はピラミッド型で重厚感があってゆったりして多め、迫力やスケール感を重視したいとき、などの印象です。
バランスにすると横方向というより奥行き感が出て、低域はよりコントロールされて抑制されるようになります。音場だけでなく音像もきちっとしてタイトになり、低音域も締まってタイトなパンチを感じます。スピード感や切れの良さも感じられます。
AK T8iEの場合はシングルエンドとバランスのどちらが良いというより好みの問題に思えます。
シングルエンドで普通に音が良いのでいろんなDAPにも合わせられるのも良い点です。

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AK JrではJr特有の低域のパンチと中高域のきらびやかさを活かして楽しく音楽を聴くことができるのもダイナミックならではだと思いますね。
音が耳に近く感じられ、迫力を一層感じます。楽器再現の正確性とかキレの良さ、音の細やかさでは上位機種に譲りますが、華やかな魅力があります。なにより軽くて音が良い組み合わせです。
また、こうしてプレーヤーのグレードの差が明確に出てくるというのもAK T8iEが高い能力を持っている証拠だと思います。

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Linumバランス

もともとのケーブルもわりと良いと思うけど、リケーブルしてみるのも新たな面を発見できます。
ただAK T8iEの場合はコンパクトさと独特の装着性がポイントなので、ゴツいのよりなるべく軽量ですっきりしたケーブルが合うと思います。
そういう点では細いEstron Linumシリーズが好適だと思いますし、音質的にも楽器音の明瞭感を高め、透明感をいっそう引き上げてくれるように思います。AK T8iEの隠れてた能力が聴こえてくるようです。
ただ一方でややキツさも聴こえてくるようになるので、標準ケーブルはAK T8iEの穏やかな周波数特性の調整にも一役買っていたのかもしれません。
またLinumではプラグ部分がストレートなので装着性に影響するかもしれません。標準ケーブルのプラグ部分はだいぶコンパクトに出来ていると改めて気付かされます。


* まとめ

装着が独特なので、それを自分なりにうまくこなせると、他のイヤフォンにはない情報量豊かで余裕ある上質な音世界を堪能できます。高性能イヤフォンらしい細かく緻密で、かつ迫力ある空間の両立はAK T8iEならではのものだと思います。
またダイナミックらしい暖かく豊かでパンチのある中低域も魅力です。モニター的に分析的に聴くと言うより音楽を楽しむと言う聴き方が向いていると思います。軽量であり、深く差しこまないこともあって、長時間のリスニングも快適にこなせるという利点もあります。
一方でバランスで聴いたりリケーブルすることで性能を高めていくようなポテンシャルの高さも持ち合わせています。
パッケージはAstell & Kernらしい高級感が演出され、AKハイエンドDAPとあわせて音質でも作り込みでも満足できる組み合わせとなります。

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AK T8iEはダイナミック型らしいダイナミック型イヤフォンとも言えるでしょう。
世界初のダイナミック型ヘッドフォンであるベイヤーダイナミックのDT48は1937年以来ほとんど変わらず最近まで生産がおこなわれていました。それだけはじめから高い能力を持っていたわけです。ベイヤーダイナミックの初の本格的イヤフォン製品であるAK T8iEもまたはじめから高い能力を持っています。それはAK T8iEはベイヤーの長い伝統とノウハウ、そして最新の技術をそのまま凝縮した、ベイヤーの強みを活かしたヘッドフォンのミニチュアのようなイヤフォン製品だからと言えるのかもしれません。
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2015年11月25日

Campfireのチューブレス設計のJupiterと、シンプルイズベストのOrion登場

JupiterとOrionはALOのKenさん率いる新ブランドであるCampfire AudioのLyraに続く新製品です。Lyra(こと座)と同様に、それぞれJupietr(木星)、Orion(オリオン座)と、キャンプファイヤーを囲む夜空に見える星から名前を取っています。
Lyraはシングルのダイナミックドライバーでの性能をつきつめたイヤフォンでしたが、JupiterとOrionはバランスド・アーマチュアドライバーを採用しています。JupiterはBAを4ドライバー搭載で、OrionはBAのシングルです。

*2016/7/8
Orionについて改稿しました

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Jupiter(左)とOrion

KenさんがはじめにLyraでシングルのダイナミックドライバーでの高性能をつきつめたのは、Kenさんがダイナミックドライバーの音が好みであるというほかに、複雑化するマルチBAイヤフォンへのアンチテーゼと言う点もありました。つまりオーディオはシンプル・イズ・ベスト(less is more)というわけで、それがKenさんの信条にもなっています。

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右が設立者のKen Ball

今回JupiterとOrionでBAを採用したのは、バランスド・アーマチュアにはやはりダイナミックにない良さがあるので、それにless is moreの思想を盛り込みたいという思いがあったようです。そしてそのために新機軸を採用しています。それがJupiterに採用されたレゾネーター・チャンバーをもちいたチューブレス設計です。

* BAドライバーの本来の音を出すチューブレス設計とは

チューブレス設計というのは文字通りチューブがないということですが、ここでは音導管(サウンドガイド・チューブ)がないということです。
通常見るBAユニットには四角い箱に出っ張った突起がついています。これは音導管(チューブ)につないで音を外(耳内)に出します。
しかしJupiterに採用されているBAドライバーユニットにはこの出っ張りがなく、すっぱりと切られています。Jupiterにはいわゆる音導管がなく(チューブレス)、その通常の音導管の代わりに、BAユニットには「レゾネーターチャンバー(またはアコースティック・チャンバー)」という音響室(空間)がくっつけられています。レゾネーターチャンバーからイヤフォンの音の出る穴(ポートまたはボア)まではストレートです。ちなみにこのチャンバーは3Dプリンタで実現されています。この構造を「Resonator assembly( レゾネーター・アセンブリー)」と呼んでいるとのこと。

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ヘッドフォン祭の時に書いてもらったレゾネーターアセンブリーの模式図の一部
真ん中の四角がレゾネーター・チャンバー、上の四角がBAドライバ、下側がポート(ボア)

このレゾネーターチャンバーの目的は音響空間を設けることで帯域特性の改善と拡張をすることです。これによってシンプルにワイドレンジ化が可能となります。
ポイントは従来のサウンドガイド・チューブを使用しないことで音響フィルターも省くことができ、高周波域のレスポンスを向上させる働きがあるということです。つまり従来のチューブによる周波数特性の変化をふせぎ、音響フィルターを使わないことによって高周波域の劣化を防ぐわけです。音響フィルターは帯域特性を改善しますが音を濁らせてしまいます。

チューブレス設計ではBAドライバーの音が直で出るのでバランスド・アーマチュアドライバーが本来持つ周波数特性をより正確に再現することができます。その成果として、高域に角が立たない(歪の少ない)明瞭感ある高域が得られるということ。高域の特性が改善されたことにより、中域(ヴォーカル領域)の表現がより開放的でリアルになり、より自然な階調再現性が得られています。特に中高域の伸びがスムーズで自然になり、能率も改善されると言うことです。

* Jupiter

Jupiterは4基のBAドライバーを採用しています。4基のBAドライバーは2Wayで、低音域に2基、高音域に2基のBAドライバーが配置され、クロスオーバーでつないでいます。低域用は中低域をカバーするもので、高音域用は新型だと言うことです。
国内ではミックスウェーブから発売され、メーカー希望小売価格は税別で114,500 円です。

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筺体はニッケルメッキのアルミ製です。やや大柄ですが、見た目より軽くて耳への装着感も良好です。
チップはフォームとラバーがついていますが、Jupiterについてはフォームを主に使いました。
箱はLyraと共通の簡素なものですが、アウトドア志向のブランド名を考えると環境対応の一環と思えます。なかにはLyraのようなレザーケースと2.5mmバランスケーブルがはじめから付属しています(バランスケーブルはJupiterのみの付属品です)。またレザーケースの質感もLyraやJupiterに比べるとより年季の入ったような枯れたというかエージングされた感じの質感がある革を使っています。全体に高級モデルと言うことを意識させてくれます。
イヤホン側端子にはLyra同様にベリリウム銅で加工されたMMCX 端子を採用していてかなりがっちりとしています。

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主にMojoと標準ケーブルで聴きましたが、Jupiterは正確で緻密な音再現のMojoが向いていると思います。わりと能率は高い方です。
Jupiterはまず透明感が際立ち、ベールをはぐって言う言葉がふさわしいような、ちょっと独特の鮮度感と言うか生々しさを感じます。ぱっと聴きにLyraでも独特の音の質感表現を感じましたが、やはりJupiterでも独特の音像の質感再現理があります。ナレーションなどの話し言葉がとてもリアルというか自然に聴こえます。本当に耳元でささやかれてる感じがしますね。特に中高音域が透明感があって、よく上に伸びていく感じです。それでいて子音のきつさなどはあまり感じられません。
解像力も高くよくMojoの情報量を引き出すようです。振動版が良く軽く動いているという感じです。


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次に感じられるのはとても広い帯域再現力、ワイドレンジ感ですね。高い音は突き抜けるように伸びてシャープです。中高域にかけての鮮明さは印象的です。低い音は深く沈み、超低域の量感もたっぷりあります。このためスケール感があって音に余裕がある感じます。高域もきつさは抑えられていて、低域が張り出して膨らむような感じはなく、良好な周波数特性を感じます。
プレーヤーをAK380AMPに変えるとインパクト感もあり、ダイナミックさも伝わってきます。ぱっと聞くとLyraにも似た音調を感じます。
またiPhone直でApple Musicなんか聞いていてもシャープでのびやかな透明感あふれる音が楽しめます。

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JupiterはユニバーサルながらトップグレードのカスタムIEMを超えるほどの音質があり、その音の新しさはベテランの6ドライバー機であるUltimate EarsのUE18と比べるとよくわかります。ここでまず両方とも標準ケーブルで聴き比べてみます。
UE18と比べると、UE18は帯域的に寸詰まりに感じられ、音濁りが感じられます。UE18ではギターのピッキングの切れは鈍く感じられます。Jupiterでは特にヴォーカルが耳の近くにいるように生々しく鮮烈に聞こえるのが特徴的です。Jupiterでは音空間もより広く感じます。UE18はいまでもハイレベルのIEMで、これだけ聴くと良い音です。しかしJupiterと比べるとやはり差は歴然としてあります。
標準ケーブル同士で比較すると、ややケーブルでUE18が不利かとも思ったので、今度はUE18をWhiplashの8芯ケーブルに付け替えてみました。国内価格だと10万円くらいするでしょう。対してJupiterは標準のままで聴き比べてみました。Jupiterで標準として採用されているALO Tinselは26000円くらいですから今度はだいぶ差が逆転してしまいますが、こうするとたしかにUE18の音場の広さやシャープさは向上して差は縮まったようにも聴こえます。しかしこれでもまだJupiterの音の持つ鮮明さ・生っぽさには及びません。Jupiterと比較すると一枚ベールをかんでいるように聞こえますね。ここはもう設計の違いというしかないと思います。

マルチドライバーにする理由の一つは高音域を伸ばすことです。3Wayの6ドライバーよりも2Wayの4ドライバーの方がそれに関しても上に感じられますから、このように高い音の伸びや鮮明さではこのチューブレス方式はかなり効いていると思います。

* Orion

Orionは1基のみのBAドライバーを採用している求めやすい価格のモデルです。シンプルイズベスト(less is more)の設計思想のもとに開発されたと言えるでしょう。
メーカー希望小売価格は税別で38,700 円です。

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BA1基にしてはLyraより大きくやや大柄です。ただ装着感を阻害するほどではなく、装着感は良好です。
チップはフォームとラバーがついていますが、Orionについてもフォームを主に使いました。
箱はLyraやJupiterと同じものです。Orionには帆布製のケースが付属します。

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たしかにJupiterと比べると音がコンパクトになり、高低の余裕がなくなるように思えますがシングルにしてはかなり優れているように思います。Jupiterで書いたような鮮烈さも持ち合わせています。
低域のアタック感や高域の伸びが両立してるのはシングルBAにしてはかなりワイドレンジだと思います。シングルダイナミックと違って、シングルBAは守備範囲が狭いのでたいてい高域よりか低域よりのどちらかになってしまいますが、Orionはよくバランスが取れていると思います。
様々な楽器のショーケースであり、ワイドレンジ性能が要求されるブリテンの青少年のための管弦楽入門なんか聞いても破綻なくまとまって聴こえます。
なおOrionにはチューブレス設計はなされてなく、音響フィルターや音導管の最適化設計でこの音質を達成しているということです。

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Skyバージョン

またOrionにはSkyという日本のみのスカイブルーの限定カラーがあります。200個限定ですので販売店に確かめてくださしい。

* まとめ

Jupiterは上にすっきりときれいに伸びていく中高音域の美しさと、深みがあってソリッドな低音が魅力です。全体的な音質レベルはカスタムを入れてもかなり上位にあると言えるでしょう。BAドライバーの濁りのない純な魅力はこういうことかとも思います。
OrionはJupiterにも似た透明感と、シングルBAでこれだけ帯域が広い点がポイントでコストパフォーマンスは高いと思います。

3way以上が当たり前のようないまでも、2Wayやシングルでこれだけできるということが証明できたのはCampfire Audioの理念の正しさを感じます。
両モデルともワイドレンジであるとともに、独特の鮮度感の高い生々しい質感表現が特徴的です。ここでちょっと思い出したのはBursonのヘッドフォンアンプです。Bursonもシンプルイズベストをテーマにして最小の部品で構成して鮮度の高い生々しい音を可能にしています。Campfire Audioはイヤフォンのメーカーですが、どこか似たところがあるように感じられました。オーディオにおける洗練さ、シンプルさの価値を教えてくれます。
Lyraのときも思いましたが、Campfire Audioって新しい体験があると思います。

こと座(Lyra)は夏の夜空を代表する星座でしたが、オリオン座(Orion)と木星(Jupiter)は冬の夜空を飾る代表的な星ぼしです。これからひときわ明るく輝くことでしょう。
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2015年11月12日

茶楽音人(音茶楽)の新機構A.I.R.採用の「ちょんまげ3号」

このユニークなネーミングのイヤフォンはTTR株式会社のブランドであり、音茶楽が技術提供した茶楽音人(サラウンド)の新作です。春のヘッドフォン祭でプロトタイプが展示されていたので覚えてる人も多いでしょう。

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「ちょんまげ3号」の特徴は「トルネード・ターボ・A.I.R.」機構を採用したことです。
「トルネード・ターボ」は高音域のきつさを抑えるトルネード・イコライザーと、低音域を向上させるアコースティック・ターボ方式の複合技術で、これは前作dunguriなどにすでに採用された技術です。
今回新しく採用されたのはA.I.R.という技術ですので本稿ではまずそこを解説します。

ダイナミック型ドライバーを効率的に動かすためには、完全な密閉にしないで適度な空気抜きのベントを設けて外気と通じさせるのがドライバーを動きやすくさせ高音質を得るためのキーであることは、最近のハイブリッド方式のカスタムIEMでもよく出てくる話題です。
実際にちょんまげ3号も完全な密閉に見えますが、この下のリングのところに空気抜きのベント穴があります(下図のMc)。

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ベントは外気と通じてるので、ドライバーが動きやすくなって高音質が得られるメリットと引き換えに、外からノイズとなる音が入ってくると同時に中の音楽が外に漏れてしまうというデメリットもあります。
そこで、ドライバーと外との空気の流れの経路に音響フィルターとなるチャンバー(気室)を設けてそのデメリットを軽減するのがこのA.I.R.技術です。

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上図を見てもらうとまずドライバーユニットの前後が音響抵抗Ma,Raで連結されることでユニットの動きが軽減されますが、さらにドライバーの背圧を逃す必要があります。単に外部にベントで出すと先のデメリットの問題があるので、A.I.R.ではまず第一のチャンバー(Cb)に逃げた空気がダクトMbを通って第二チャンバー(Cc)に逃げ、さらにベント穴のMcを通って外に出ます。
Mb,Mcはハイカットフィルターとして機能して外向きと内向きのノイズを低減します。これで低音域が伸びるということです。またドライバーがより自由に動けることで音場を改善できるそうです。
春のヘッドフォン祭でプロトタイプをいくつか出展してユーザーの意見を聴いていたのは、このチャンバーの形などをいろいろと変えて工夫していたということのようです。

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A.I.R.の応用で面白いのは今回同時にリリースされた「ちょんまげ君」です。これは語学学習に最適というイヤフォンですが、これはA.I.R.の特性を逆に利用してMb,Mcをふさぐことにより低音域を弱めているということ。さらに高域フィルターを使用して声の帯域に特化させているようです。

* 試聴

チップは好評のSpinfit大中小の3セットとコンプライが1セットはいっています。
中には金属ケースがあり、布に包まれてイヤフォン本体が入ってます。パッケージングは価格にすると丁寧な感じはしますね。

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音に関してはチップはSpinfitのほうが特徴ははっきり分かるように思います。
iPhoneで聞いてみましたが、「ちょんまげ3号」でまず感じるのは、音の鳴り方というか、音色がちょっと独特だということ。抜けが良いというかこもり感が少ない感があります。ダイナミックだと厚みがあるようで実は重く濁った感があることも多いんですが、これはすっきりとして雑味が少ないという感じです。
密閉型ヘッドフォンでこもる感じが嫌な人に良いと思いますし、この辺が独特の開放感があります。

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Spinfitでは帯域的にドンシャリっぽさは少なく洗練された帯域再現で、音茶楽さんらしいピーク低減の効果もあってか高音域のささり感も少ないですね。低音域は膨らみすぎず質の良いベースの音がします。低域は量感も結構ありますが、ワイドレンジというか超低域の低いほうの量が多い感じで中低域のベースの演出感は少ない方だと思います。音茶楽さんのイヤフォンに共通しますが、楽器の音色再現も自然でリアルだと思います
ただSpinfitだとロックポップでやや物足りない感はあります。
コンプライだとベースの量感もたっぷりにロックポップに向いてる感じで、ヴォーカルもコンプライの方が良いように思います。

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ちょんまげ3号

遮音性についてはたしかに電車で使ってると普通のカナルインイヤータイプのように周りの騒音が低くなるだけではなく、マイルドというか柔らかく優しく聞こえるように思います。特に高域の尖った感が少ないですね。ここもちょっと面白い特徴だと思います。

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ちょんまげ君

ちょんまげ君の方も試してみました。iPhoneに入っているTOEIC対策のリスニングアプリを使ってみました。すると英語の発音がとても明瞭にわかるようになり、理解度が上がります。低音域がなくなることで、音声にかからなくなって発音のごにょごにょしたところがすっきりする感覚です。
難易度が上がると噂の来年から始まる新新TOEIC向けにもちょんまげ君で学習しておくと言うのは良いかもしれません。また語学だけでなく、ラジオ聴いたりいろいろと応用ができると思います。

ユニークなネーミングのちょんまげ3号は音もなかなかユニークなところがありますので、ぜひ試してみてください。

   

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2015年10月15日

Chordの新しいポータブルDAC内蔵アンプ、Mojoレビュー

ハイエンドメーカーであるCHORDが世に出したポータブルオーディオ製品、HugoはDAC内蔵アンプとしては最高クラスの音質を誇り、それゆえにアナログ部を強化したHugo TTなど"HUGOファミリー"ともいうべき製品展開もされていきました。
しかしHugoはポータブルというよりは「トランスポータブル」ともいうべき大きさで、常に持ち運ぶポータブル製品としては不満も残りました。

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そして再びCHORDがHugoの小型版ともいうべきDAC内蔵ポータブルアンプを開発しました。Mojoです。
日本での価格はオープン(想定75000円前後)、アユートから11月に発売される予定です。アユートの製品ページはこちらです。
http://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_1701.php#1

* Mojoとは

MojoはHugo同様に鬼才ロバートワッツにより設計された製品で、FPGAを用いたパルスアレイDACを採用したCHORDらしい製品です。あのパルスアレイDACがこんなに小さなアンプに入ってしまいました。その秘密のひとつはXilinx(ザイリンクス)の第7世代FPGAのArtix-7を採用したことによります。Mojoで採用されているのはさらにワッツによりカスタマイズされ、この8月に本格的にロットが出荷され始めたばかりの最新モデルです。Artix-7の採用は小型化とともにより多くの機能の提供ができるようになり、デジタル入力の自動選択やボリューム位置の記憶などにも活用されています。
そういう意味ではMojoはやはりHugoのときと同様に最新の技術が可能にしたハイエンドメーカー渾身の製品です。

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また、Hugoの時はChordが初めてポータブルに取り組むということもあり、イヤフォンプラグの相性問題などがありましたが、Mojoはいわゆるポタアン製品として違和感のないものに仕上がっています。

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以降実機を使用して説明していきますが、私の持っているものは製品版ではなく生産前モデルなので承知おきください。
Mojoは旧AK100とほぼ同じ大きさの筐体サイズでとても小さく感じられます。とはいえ、そのがっしりとしたつくりの良さと手に適度な重みの感じられる本体から安っぽさは感じられません。小さくとも本物感がありますね。本体は航空機グレードの切削アルミニウムで「戦車のような」強さを持っています。重さは180gです。

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Mojoのユニークなところは電源ボタンと音量ボタンがプラスチックのボールでできていて、カラフルに色が変わり、そしてくるくると動くという点です。

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このボールが動くこと自体に機能というのはないのですが、開発責任者のJohn Franksに聞いてみたところ、彼はMojoをユーザーが手で触って感じられるもの(tactile)にしたかったということです。それはあたかも小石をポケットに詰めるようにポケットに入れることができ、子供が小石をこすり合わせて遊ぶようにMojoを楽しんでほしいという願いからきています。
MojoではHugoにあったCHORDの「窓」のようなアイコンはなくなりましたが、かわりにこのカラフルなボールが新しいMojoのアイコンとなるでしょう。
ボールの色については意味があり、音量ボタンの色はdb単位の音量変化、電源ボタンの色はロックしたデジタル入力の周波数を示しますが、製品版とは異なるかもしれないというのでここでは詳細には色の変化については書かないことにします。だいたいHugoを知っていればわかるでしょう。
カラフルなボールがくるくる回るのはおもちゃ感覚もあって面白いんですが、こうしたJohn Franksの「遊び心」が生きているのはCHORDらしい点だと言えると思います。ちなみにMojoとは"Mobile Joy"の略称です。
Mojoは設計のみならず製造もイギリスで行われています。

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Mojoはスマートフォンをターゲットにして多彩なデジタル入力が可能な点が特徴です。操作がシンプルで簡単であるというのも特徴で、入力選択は自動で行われます(優先順はUSB->同軸->光)。
本体にはUSB入力と光入力、そして同軸デジタル入力が装備されています。出力はミニのヘッドフォン出力が2つです(Hugoと同様に同一のものです)。ヘッドフォンは4オームから800オームまで対応していてかなり駆動力の必要なヘッドフォンでも対応が可能です。
入力はPCMが44kHzから768kHzまで入力できます(光では192kHzまで)。DSDはDoP入力でDSD64/128/256(11.2MHz)のネイティブ再生が可能です。
MojoをDACとして使用したい場合には二つの音量ボタン(音量ボール)を電源投入時に同時に押すことにより、固定出力のラインレベルアウトとして使用することができます。

またMojoのポイントの一つは電池で4時間という短時間で充電が可能なことで、8時間の使用が可能とされています。
バッテリー入力ポートには入力中のインジケーターが点灯します。これは使用中はバッテリーのレベルメーターになります。

箱はシンプルで基本的にはUSBケーブルのみ入っています。もし私なんかのようにすでにケーブルを持っている人はこれで十分なはずですが、ケーブルなどアクセサリーについてはまた案内があるかもしれません。
ちなみにHugoから省略されたものはBluetoothとクラス1専用のUSBポートとクロスフィード機能、RCAアナログ出力、同軸デジタルのRCA端子などです。

* Mojoの音質

Mojoを手に持つとその小ささが良くわかります。Hugoの小型版が出るというのは聞いてはいたんですが、予想よりもずいぶん小さいサイズです。筐体は高級感があり、その強靭さをうかがうことができます。

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サイズが旧AK100と合わせるとぴったりということもあり、私はAK100の光出力を使用してMojoと組み合わせて聞いてみました。ケーブルはタイムロードの光ケーブルもありますが、慣れているSys-Opticのhugo用ケーブルを使いました。こうするとちょっと大きいんですが、プラグ向きが同じなのでだいたい使えます。
ポケットにMojoを入れてる時には独特のボールボタンのおかげで手探りでわかりやすく操作はしやすいですね。

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これだけ小さいと音はどうなんだろうと思いますが、ダイナミックレンジ(SN比)は125dBを誇り、数値的にもハイエンドオーディオ並みの性能があります。出力インピーダンスは0.075オームという低さです。低インピーダンスのカスタムでも無問題ですね。
ただ数値以上に驚かされるのは価格レベルを超えた音の良さです。これは誰もが驚くでしょう。
John FranksはFPGAはあくまで絵画をはめこむ枠に過ぎず、その絵画は我々の技術であると言います。そうしたいままでのスピーカーの世界の頂点で磨かれたハイエンドメーカーの技術力が、この小さなポータブルアンプにも詰め込まれているのが音を聴けばわかります。

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まず感じるのは音の透明感の高さで、クリアに澄み切った音空間に端正で明瞭な楽器音が鳴りわたります。楽器の音は引き締まって贅肉がまったくなく弛んだところがありません。音像は非常に正確で鮮明です。
どんな高感度イヤフォンでも背景は非常に静粛で黒く、とても細かい音が粒立つように聞こえてきます。とにかくケーブルもイヤフォンも最高のものを使って細かい音が抽出されてくるのを聞きたくなるでしょう。

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良録音のアコースティック楽器の音源だと細かな擦れ合う音など、すごく細かい音がはっきりと鮮明に聴こえます。リマスターしたアルバムの音も光りますね。
音楽の再現力は素晴らしく、音の立体感、楽器やヴォーカルの重なり合わせの明瞭さは値段を忘れてしまうくらいのクラスにあります。たとえば女性ヴォーカルがふっとため息をつき、ささやくようなヴォーカルのリアルさ、なまめかしさは逸品ですね。

次に感じたのはHugoにも通じる、ベースのパワフルさやダイナミックさ、つまりアンプとしての音楽性の高さです。Mojoは音の再現性能が高いのですが、味気ない音を奏でるいわゆるモニターライクな機器ではありません。
打ち込み系でもアコースティックベースでも低音域の重みが伝わってきます。ドラムやパーカッションの打撃感にパワフルな力がこもり、音楽的にも躍動感が伝わってきます。スピード感も一流ですね。
DACもさることながら、アンプ部分のすばらしさが光ります。音像のたるみの無さは力強いインパクトやアタックの鋭さにも繋がっています。

Mojoは小さいながら十分すぎる駆動力があり、平面型のHifiman HE560を存分に鳴らすことができます。HE560はゼンハイザーHD800より鳴らしにくいヘッドフォンです。Mojoでは単に音量が取れるというだけでなく、HE560の性能を発揮できるくらい良い音でならせることができます。

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Mojoの正確な音再生能力からはクラシックやジャズ向きにも聞こえるかもしれませんが、実のところロックやエレクトロニカが非常によく楽しめました。力強く鋭いインパクトが音楽のカッコ良さを感じさせます。

イヤフォンでは私はCampfire AudioのLyraがとてもよく合うように感じました。あとは最高のリケーブルをしたカスタムイヤフォンでもいうことはありません。
ピアノの打撃音の正確さ、ウッドべースのピチカートの鋭さと引き締まりの良さ、あくまで静かな背景には感嘆の声が出てしまいます。このAK100+Lyraで聞いてるMojoの音は、10万円以下の機材の音とはちょっと思えません。おそらく10万円台のDACやプレーヤーでもこの音質はむずかしいのではないかと思います。
音質のレベル的にはさらにHugoにかなり肉薄するレベルの素晴らしい音質があります。このサイズで、です。

* スマートフォンとの接続

Mojoの狙いの一つはスマートフォンとの親和性です。
実際にiPhoneとは非常によく適合します。iPhone/iPadとはカメラコネクションキットを介してデジタル接続をします。標準の音楽アプリからも再生ができるのでApple Musicなどストリーミングの再生機にも良いですね。試したOSはiOS9.0.2ですが、ほかでも最近のものなら問題ないでしょう。
またHF Playerなどを使えばハイレゾ音源の再生も可能です。DSDは11.2MHz(DSD256)まで実際にロックしてスムーズにDSDネイティブ再生できることを確認しました。DoPですが、切り替え時のノイズなどはないように思います。

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またAndroidとはNexus 9(OS 5.1.1)で試してみましたが、Androidの標準ドライバーだと音が割れてしまうことがあってあまりよくありません。このためGoogle PlayやNeutronなどは使えません。これは他のDAC機材でもそうなので、MojoではなくAndroid側の問題だと思います。この辺はそろそろ予定されているAndroid OS5.2に期待です。
*2015/10/21追記:Nexus9にAndroid 6.0 (Marshmallow)を入れて試しましたが、結果は変わらないようです。

一方でUSB Audio Player ProやAndroid版のHF Playerのようにアプリ内蔵ドライバーを持っているアプリは問題ないようでした。スムーズに再生ができ、ハイレゾもロックしています。
またSONY ZX1ともNWH10を使用して接続ができました。これはiPhoneとカメラコネクションキットを介して繋ぐのと同じですね。

ちなみにUSBはオーディオクラス2ですのでWindowsではドライバーのインストールが必要となります。

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* まとめ

"No Compromise"(妥協なし)
Mojoの資料には誇らしげにそう書かれています。そしてMojoを聴いたものは誰しもそれを認めざるを得ないと思います。
Chord Mojoは数年前ならポータブルの世界からは遠いハイエンド機材にしか採用されなかったパルスアレイDACを、手のひらに入る大きさと手頃な価格で実現し、価格帯を超えた音質を達成しています。
Mojoを手にしてもらえれば、このポータブルの世界にChordが参入した意義がわかるでしょう。

Mojoはヘッドフォン祭にて試聴ができます。ぜひ15階リーフのアユートブースにお越しください。
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2015年08月20日

Campfire Audioの第一弾、Lyraレビュー

新しいイヤフォン・ヘッドフォンのブランドが誕生しました。ALOのKen Ballが立ち上げたCampfire Audioです。日本ではミックスウエーブさんが取り扱いします。
本稿はその第一弾であるハイエンドクラスのダイナミック型イヤフォン、Lyraのレビューです。

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まずはKenさんがALOという確立したブランドではなく、なぜ新しいブランドを立ち上げたのか、そこに込めた思いをKenさんへのインタビューから解説していきます。

* 新ブランドCampfire Audioについて

Campfire Audioという新しいブランドについて、Kenさんは次のように答えてくれました。
もともとALO(Audio Line Out)というブランドでケーブルを作り始めたのはIEMやヘッドフォンの音をよくするための要素の一つを自分で作りたい、ということだったということです。しかし、ケーブルというのはやはり部品の一つでしかないので、次にヘッドフォンの改造を手がけました。この作業はヘッドフォンを解体して手を加えてまた組みなおすというちょっと非効率な方法です。それにくわえてそもそもドライバーや基本設計には手を付けることはできません。
それゆえKenさんはもっと根本的に自分で一からヘッドフォンやIEMを設計・製作するという選択をしました。もちろんいまはたくさんのヘッドフォンのブランドがあるので、自分ならではの考えをそれに盛り込まねばなりません。そうして自分の考えを試しながら進んでいきたいと考えたわけです。
こうして初めてケーブルを手がけた日から持ち続けてきたオーディオへの情熱を実現するというのがCampfire Audioの目的だそうです。

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Campfire Audioロゴ

ALOのある西海岸ポートランドは自然に恵まれた土地でKenさん自身もアウトドア好きだそうです。このアウトドアのひとつの象徴はキャンプファイヤーの灯りです。ぱちぱちとはぜる音や揺らめく光など、このともしびは音楽にも似て瞑想的です。つまりヘッドフォンやIEMはKenさんにとって、Campfireにも似ています。そうした思いを込めて、ブランド名をCampfire Audioとしたということです。
そしてこの西海岸の夜空を見上げた時、文字通り宇宙にいるようにも思うそうです。その美しさの中にあるひとつひとつの小さな星々がCampfire Audioの製品名になっています。
Jupiter(木星)、Orion(オリオン座)そしてLyra(こと座)です。

* Campfire Audioの第一弾、Lyra

Campfire Audioのイヤフォンの第一弾はダイナミック型のLyraです。BA型のJupiterとOrionは少し後に発売される予定です。

Lyraは2年ほど前からIE800をおおよそのターゲットとして始めたということです。IE800は使用感やデザインはもちろん、なによりもダイナミックドライバーとしての音が気に入っていて、その当時は一番使っていたイヤフォンだったということです。
人にはいろいろと好みの要素があり、ダイナミックドライバーの音を好む人もいれば、BAの音を好む人もいます。kenさん自身はダイナミックドライバーが持つ深みがあって自然で疲れ感のない音が好きだということです。
また昨今の10個も12個もあるような複雑化するマルチBAの流れに対しては懐疑的で、オーディオ的なシンプル・イズ・ベスト(less is more)のアプローチをするという意味でもシングルのダイナミックドライバーを選んだということです。
もちろんBAはBAでよいところがあるので、今回はダイナミックのLyraとともにBAのJupiterやOrionも作ったということです。

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基本的な紹介をすると、Lyraはシングルドライバのダイナミック型イヤフォンです。MMCXコネクタによりリケーブルができます。
なによりLyraにはユニークな特徴があります。
ドライバーにスピーカー世界のハイエンドオーディオで使われるベリリウム・ドライバー(8.5mm径)を採用したということ、音質的な見地からのセラミック・ハウジング採用、そしてALOらしい高性能ケーブルを標準ケーブルに採用したことなどです。

* ベリリウム・ドライバー採用

やはりLyraの最大の特徴はイヤフォンにベリリウム・ドライバーを採用したということです。ベリリウムと言っても削り出しではなく、極薄のPET(プラスチックフィルム材)にベリリウムをCVD(化学蒸着法)で蒸着させたものです。オーディオにおいては特性の高さから、ベリリウムがハイエンドオーディオにつかわれてきました。たとえばかつての名器であるYAMAHA NS-1000やNS-2000などです。これらはベリリウムを真空蒸着で製作していました。フォーカルなども採用していますね。
一方でベリリウムは扱いの難しい材質ですが、Lyraにおいては国際機関における検査に合格しているということです。

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ベリリウムは大変硬度の高い素材であり、これを振動板に使うことで音の伝搬において不要な偽信号を排除して、結果的に高音域をより上に伸ばし、低音域においてはひずみを減らすことができます。
正確に音の信号を伝えるということはどういうことかというと、たとえばDACがアナログ信号を正しくデジタル信号に変えるように、ドライバーでも電気信号を正しく音の信号に変えるということで例えて考えることができます。ベリリウムはこの「変換」プロセスにおいて、構造的な強み、音の速さ、高い硬度(ヤング率)において形が変わりにくいため、音も正しく伝えられるというわけです。
(ちなみにCampfireではCVDによるダイヤモンド・ドライバーのヘッドフォンも開発しているそうです)
もちろんダイアフラムだけではなく、日本製のボイスコイルなど高品質部品を組み合わせてドライバーが形成されています。

* セラミック・ハウジング採用

このセラミック素材はZrO2(Zirconium Oxide Ceramic)というもので、高密度のセラミックです。これで音響室を作ることにより、解像力が高くひずみの少ない自然な音が得られます。

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ハウジング(シェル)に関してはポリカーボネイトから流体金属に至るまでさまざまな素材を試したのですが、セラミックが最高だったということです。測定した周波数特性(50Hz - 20kHz)は似たようなものだそうですが、実際に聞いた時の音は大きく違ったということ。ほかの素材の音が薄かったのに対してセラミックは深くて自然だったそうです。もちろんコストは高くなってしまいますが、音質向上は十分それに見合うということです。これは実際にポリカーボネイトと流体金属でまったく同じシェルを作成して聴き比べてみた結果で、そう判断したそうです。

* ALO品質の高性能ケーブルを標準ケーブルに採用

もちろんALOらしくケーブルははじめから優秀なケーブルが標準ケーブルとして付属しています。これは高純度銀メッキ銅のTinsel Earphone cableで、普通ならばリケーブルするための高性能交換ケーブルです。
標準でついてくるのは3.5mmですが、4芯線なので音の広がりの良さが期待できます。
またTinsel Earphone cableには2.5mmのバランスケーブル版もあります(後述)。これはAstell&Kern 第二世代以降DAPやALOのCDMで真価を発揮します。

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普通の標準ケーブルはPVC(塩化ビニール)被膜をしていますが、これはFET(テフロン)を使用していて、電気的にも耐久性でも優れています。MMCXプラグなどはカスタムメイドでブラスなどではなく、焼き入れしたベリリウム銅を採用しています。このためとても高い硬度を持っています。普通のブラスを使ったMMCXパーツは使っているうちに柔らかくなってはまりが悪くなりますが、このケーブルはそうしたことのない強い硬度を持っています。

* Lyraの質感

Lyraは簡素な紙製の箱に入ってきます。シンプルなパッケージですが、これはさきに書いたようにアウトドアというところからCampfireの理念が来ていますので、環境対応ということだと思います。
箱を開けると中から革製のケースが出てきますが、これはなかなか高級感あってよくできています。

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ケースを開けるとまずケーブルが出てきますが、標準ケーブルの枠を超えるような高品質ケーブルがはじめからついているのが目で見てもわかります。MMCXで交換可能ですが、しばらくは必要ないようにも思いますね。
本体はコンパクトで、セラミックらしくかなりガッチリと硬い感じがします。全体的に質感は高いと思います。プラグ周りも含めてモノとしては精密感さえ感じる、という感じですね。

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チップはフォームチップが二種類で、一方は柔らかくフィルター付き、もうひとつはやや硬めで高反発です。デフォルトは後者で、下記の音質はほとんどデフォルトのチップを使っています。またフォームに加えてシリコン(ラバー)チップもついています。

コンパクトなので装着感は悪くはありませんが、標準的というところだと思います。
能率はそれほど低くなく、iPhoneでも余裕をもって音量を取ることができます。

* Lyraの音質

Lyraの魅力はやはり音質にあると思います。全体的な音質レベルの高さもDita AnswerやIE800なみにダイナミックとしてはトップクラスにあると思いますが、Lyraはその独特な音再現に特徴があります。

一番初めに箱からだして聴いてみて、その独特の聴いたことがないような音再現に耳を奪われました。
これはどう表現すればよいかちょっと困るんですが、はじめに思ったのは、もし「これが新発明のバランスド・アーマチュア型ダイナミックドライバーです」と言われていたらそのまま信じたかもしれないという感じです。
ダイナミックの音ではあるけれども、バランスド・アーマチュアと比べたときにダイナミックに欠けているような細やかさ・繊細さ、たとえば弦楽器がこすれる松やにが飛ぶようなという感じの繊細さ、楽器音のエッジの鋭さをも兼ね備えているような感じです。

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はじめは慣れてるはずのAK240で聴いたんですが、ちょっと驚きました。あまり独特で面白かったので、いつもならここでダイナミックだからエージングに入れるとこですが、Lyraはしばらくエージングしないで聴いていくことにしたくらいです。まずはじめの時点で十分いい音だし、音の変化をリアルタイムで聴きたいからです。後になってレビューするのでエージングしなきゃな、と思ってからしたくらい。
とくにバイオリンやヴォーカルなどでよくわかります。ホーミー(喉声)のような細かく震える特殊な唱法ではいっそうリアルさが感じられます。
Ditaがストレートなダイナミックらしい音を突き詰めていってかつ洗練させた感じとすると、こっちは今までにない感じの高品位なダイナミックの音だと思います。

レビュー的に書くと、Lyraの音はかなり高いレベルの音色表現力、空間表現の深みがあります。音のインパクトもビシッと力強くシャープで歯切れよく聴こえます。楽器音はかなり鮮明に再現されます。また音色はニュートラルで余分な着色感はありません。(たしかベリリウムは内部損失が大きく固有着色が少なかったと思います)
楽器音はとてもきれいですが、脚色的に味付けがあってきれいなのではなく、ひずみなく澄んだ音だからきれいに響くという感じです。特にピアノの音がきれいです。透明感が高く、かつヴォーカルの声はかなり明瞭に聞き取れます。

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音調は明るく鮮明で、解像力がとても高いと感じられます。それはあたかもほかのイヤフォンで聴いたときには埋もれていた微小情報が立体感を丁寧に再現しているかのようです。また空間表現も深く立体感があり、独特の彫りの深さがあります。音の輪郭のあいまいさというのがありません。この辺はシングルゆえの位相の正しさもあると思います。

帯域的には高音域が強いとか、低音域が盛り上がってるとか、そうした誇張感はなく、普通に音楽を聴くのにバランス良い感じ。気持ち低音域が少し強目でロックポップを楽しく聴けるバランスで、この辺はチップでも調整できます。高域や子音のきつさは私が聞いた範囲ではあまりないと思いますが、シャープ感は強いので音源やDAPの組み合わせによっては少し出るかもしれません。そういう時はソフトフォームのチップで緩和できると思います。

思うんですけど、Lyraは音源の良さやDAPの良さをそのまま再現する感じです。これは簡単なことではなく、KenさんがDACの例を出したように、音の電気信号を音の空気の信号にイヤフォンが「変換」する際に、変換しきれない微小情報や、正しく変換できないひずみがあります。
Lyraはその間に挟まった時の濁りが極めて少ないように思います。
私であればカメラのレンズで例えたいですね。高級レンズならばシャープで歪みない像と同時に、途中の光のロスが少ないので透明感が高く濁りない絵を見せてくれます。そうしたすっきりとした細部の見通しの良さです。

DACの優れたDAPでは音再現が凄まじいのはいうまでもなく、iPhoneだとはじめは、おっiPhoneの音がこんなに良くなった、と思うと同時に、しばらく聴くとiPhoneのDACのあらがいやでも聞こえてきてしまうという感じですね。普通のイヤフォンだと再現しにくい、または埋もれてしまうようなDAC性能の微少なニュアンスを引き出す感じです。

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音楽的にはロックポップ系では、インパクトが強いのでドラムやベースは歯切れ良く気持ちよく聴けます。ヴォーカルも明瞭で聴き取りやすく、ノリやスピード感もよいですね。
しかしながらLyraの真価は24bitでの良録音を再生したときです。たとえばLINNの24bit クリスマスアルバムなどです。おそらくは安易なハイレゾ主張ではない本当の音源の良さを再認識させてくれるイヤフォンの性能がわかると思います。
もちろん16bit CDリッピングでも生楽器の良録音の生々しさには感動するでしょう。ぜひ良録音を良いDAPで聴いてみてください。

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美は細部に宿ると言いますが、24bitハイレゾ音源でその細部をもたらすのは拡張された最下位8bitの部分です。しかしそれは-96dBから-144dBというものすごく微細な音の成分で、引き出すのは容易ではありません。いわばなくても音楽は聴けるけれども、上質の音楽体験には欠かせない8ビット、それを引き出すのが優れたイヤフォンであり、Lyraにはそれができると思います。

* バランス化

次にもう一段階の高みに行くためにLyraをバランス化してみました。他の条件を合わせてバランス化の効果をはかるために、これにはAk380と、ALOのTinsel eaphone cable balanced(2.5mm)を使用しました。これならば線材やケーブル設計は同じです。

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Tinsel balanced

実際この組み合わせで使ってみると、Lyraがバランスでこそ真価を発揮するというのがわかります。
同じタイプのケーブルでバランスにしただけですが、Lyraの表現力に滑らかさと暖かみが加わってより音楽的でダイナミックドライバーらしい魅力がわかります。より自然な音になっているようにも思います。比較するとシングルエンドでは硬さというかほぐれなさが残ってたかもしれません。

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シングルエンドではわりとモニターライクな実直な側面を聴かせますが、バランスでは余裕があってその分が別な良さを引き出している感じです。
おそらくはLyraに能率とはまた別な鳴らしにくさがあって、バランスで駆動力が高くなったことでよりスムーズになるようになったという感覚でしょうか。
いずれにしろLyraにバランスはおすすめです。

* まとめ

Lyraは全体にとても完成度が高く、ダイナミックのハイエンドクラスの新顔といってよいと思います。装着感の良さはもう少しほしい気がしますが、音的には申し分がないですね。
帯域バランスよく、音場感・立体感も素晴らしく、楽器の音再現は抜群です。また独特の解像感の高さはポイントになると思います。
ベリリウムドライバーとセラミックハウジング、そしてALOケーブルの相乗効果は高いと言えるでしょう。

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Lyra + Tinsel balanced + AK380

ダイナミック型イヤフォンをAK380やAK240、PAW Goldのようなハイエンド機で使いたい人にはDita Answerともどもぜひ第一選択にお勧めします。AK380の高い解像感を生かしながらダイナミック型を楽しみたいという贅沢な要求にもこたえてくれるでしょう。
また日頃シングルドライバーのダイナミックなんて、と思っているハイクラスのマルチBAカスタムユーザーにも聴いてほしいですね。Kenさんが言うようにシングルなのでクロスオーバーのないシンプルさ・位相の正しさというのもプラスであると思いますが、そうした良さも発見できるでしょう。
私にとっては新しい音の世界を聴かせてくれるという期待感があり、楽しみにAK380とカバンに入れています。Lyraを高性能DAPと良録音に組み合わせるとマジックのような凄みのある音再現を聴かせてくれます。

しかし、Campfire Audioのラインナップは一作目から全開で来たっていう感じです。まさに意欲作ですね。
LyraはCampfire Audioブランドここにありというメッセージを十分に発信してくれたと思います。

MixwaveさんのLyraのページはこちらです。
http://www.mixwave.co.jp/dcms_plusdb/index.php/item?category=Consumer+AUDIO&cell002=Campfire+Audio&cell003=Lyra&id=30
Lyraは本日から予約開始、発売日は明日(8/21)です。
価格はオープンで、市場想定価格は92,500円です。
ぜひこの意欲作を店頭で聴いてみてください。
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2015年07月09日

ALOの真空管ポータブルアンプ、Continental Dual Mono登場

Continental Dual Mono(CDM)はALOの最新のDAC内蔵ポータブルヘッドフォンアンプです。真空管を採用している点からはあの評判の良かったContinentalを想起するでしょう。CDMはより大型でポータブルでの究極を目指した製品と言えます。

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ALOのCDMホームページはこちらです。
http://www.aloaudio.com/amplifiers/continental-dual-mono

CDMはこの週末にポタ研のミックスウェーブさんのブースで試聴することができますが、それにさきだって今回はポタ研予習としてCDMを考えてみようと思います。まずはCDMがどういう製品か、ということです。

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DAC内蔵ポータブルアンプと言っても、私が思うにCDMはアンプとしての性格がとても強いと思います。まず入出力を見るとデジタルに比べてアナログの入出力がとても豊富であるということがあります。2.5mmバランス入力まであります。対してみるとHugoはDACとしての性格が強いと言えましょうか。
たとえばアンプ部分はバランス設計がなされています。アンプとしては真空管アンプでサブミニ管の6111を採用しています。6111は双三極管(1本でステレオ)なので、二本で4ch対応していることになります。
また回路の特徴としてはDC/DC回路やステップアップトランスがなく、ノイズレスであるという特徴があります。またマイクロフォニックノイズも低く抑えられています。実際にシャーシをがしがしたたいてもマイクロフォニックノイズはまったく出てきません。旧Continentalはパワーがありましたがノイズとマイクロフォニックの影響がありました。CDMではそれを改良することでよりイヤフォン向けに適性があります。
そしてCDMの一番の特徴は「真空管交換(真空管転がし)」がポータブルなのに可能であるということです(セルフバイアス)。マニアックなこだわりが感じられますね。

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私が思うには、CDMは単にContinentalの改良というよりも、ALOの誇る真空管アンプであるStudio Sixのポータブル版を目指した、ポータブルの最強真空管アンプを作るというところにあると思います。
DACもWolfsonフラッグシップのWM8741を採用するなどかなり強力ですが、ここも真空管アンプの良さを引き出すためにWM8741を採用したということです。実際にESSも試したそうですが真空管の音に合わなかったそうです。これはKenさんのめざすアナログ的な音ですね。

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実際に軽く聴いてみました。RWAK120をソースとしてアナログ入力で聴いてみましたが、驚くほど豊かで厚みのある音です。ポータブルでは聴いたことがないレベルですね。アナログ入力でこそ生きるアンプかもしれません。後でまたいろいろな運用をして記事を書いてみたいと思います。

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そうしたALOのKenさんの理想と思う音を、あのRed WineのVinnieさんが設計して実現したCDMをどうぞ週末はポタ件で聴いてみてはいかがでしょうか。
ミックスウェーブさんではほかには同じくKenさんのCampfire Audioのイヤフォンや1964のV6ユニバーサル、マベリックなども展示されます。
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2015年06月04日

ワイヤレス・ネットワークシステムをポータブルに、Celsus Sound Companion 1

Celsus SoundのCompanion1は世界初(米国発売は今年の1月)のWiFiによるワイヤレス再生を実現したDAC内蔵のポータブルアンプです。ひとことでいうと、DLNAのネットワークオーディオプレーヤーがポータブルになったということです。ただし正確に言うとDLNAは商標なので、その技術規格であるuPnPに対応したDLNA互換の製品です。

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Celsus SoundはもとNuForceのJasonがNuForceから分かれて設立したいくつかのブランドのひとつです。そのため技術力に関してはNuForce譲りと言えるので信頼できると思います。(ほかのプロダクトには開放型イヤフォンのGramoがあります)
国内ではフューレンさんが代理店となります。昨年の秋のヘッドフォン祭で参考に持ってきてくれていたのですが、そのときにプロトを少し使ってみて、いろいろと調べてきたのですが、今度は正式に国内発売となります。ちなみに国内では接続機種のサポートはiOSのみになりますのでご注意ください。
以下の記事はJasonから少し前に提供してもらったデモ機(生産版)によるもので、最新のものとは違うかもしれませんので念のため。

* 特徴

Companion1はデジタル入力専用のDAC内蔵型のポータブルアンプです。入力はUSBとWiFiの二系統あります。DAC ICはES9018K2Mです。
出力はヘッドフォン端子のほかにラインアウトと光デジタルアウトがあります。

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WiFi接続はさらにDLNA互換(uPnP対応)接続とAirPlay接続の二通りに対応しています。
これは比喩ではなく、そのままの意味でCompanion1はDLNAネットワークシステムの一員となれます。DLNAではCompanion1はレンダラーの役割になることができます。
またDLNAだとプレーヤーアプリが限られるので、AirPlayでつなぐこともできます(iOSのみ)。
たとえばDLNAを使う場合はPlugPlayerを使用し、AirPlayならば標準プレーヤーやNeutronが使えます。

WiFi無線ネットワークで使用するので通常はWiFiルーター(ハブ)が必要ですが、Companion1はiPhoneとダイレクトにつなぐモードも備えています。
そのためWiFi接続はAP(Access Point)とClientの二つのモードがあります。APというのはいわばダイレクトモードでルーターは不要、ClientというのはすでにあるWiFiネットワークに参加するもので、ルーターが必要です。このどちらかでWiFi経由でiOSやAndroidとワイヤレスで接続します(国内ではiOSのみサポート)。最近カメラなどでSDカードに無線LANが内蔵されたものがありますが、APモードはそうした感覚です。

APとClientの切り替えはボタンで行いますが、このときにイヤフォンから"Direct Mode"とか"being join in wifi network"とか女声で確認音声が聞こえるのが新しいところです。Clientモードではいったんローカルアドレス(198.x)に入ってCompanion1の設定画面からWiFiネットワークの情報を入力します。
(* ClientとAPの切り替えなどで接続が不安定な時は、いったんiPhoneの登録ネットワークを削除することをお勧めします)
uPnP(DLNA)ではサーバー一覧においてメディアレンダラー(DMR)としてCompanion1が見えますのでそれを指定します。AirPlayではAirPlayでの出力切り替えでCompanion1を指定します。

ヘッドフォン祭の後にプロトタイプでテストをしたんですが、接続はかなり簡単になっています。またAirPlayの音質が上がって、DLNAと同じ程度になりました。

Companion1はUSB DACとしても使えます。ライトニング-USBケーブルが付属しているので接続はシンプルにできます。

*使用例と音質

パッケージングはきれいでシュリンクラップまでなされています。箱も中箱のなかにさらにアンプとケーブルが分かれて入っていて、ケーブルはビニール梱包、アンプはカバーされていてかなりしっかりとしたパッケージングです。

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USBのポートはへこんでいるので普通のケーブルが入らないのですが、Jasonいわくこれも指摘したところ安全性との考慮のうえで決定したということで、専用のケーブルを添付したということです。

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Companion Oneを使用してみてまず思うのはCompanion OneがWiFi機能だけのアンプではないということです。
たしかにはじめの興味はWiFiによるスマートフォンとの接続で、USB DACはおまけ的なものかと思っていました。しかし実際のところはUSB接続の音質は極めて高く、ライトニングケーブルなどのアクセサリーもよく出来ています。Companion1はWiFi接続ができるというだけの色物的な製品ではなく、音質がかなり高いのが特徴といってよいと思います。

Westone ES60で聴いてみましたが、uPnPでの接続はいままでKleerもいれてワイヤレスでは聴いたことがないくらい良い音で驚きました。透明感があり、とても細かい音まで鮮明に聞こえます。ポータブルアンプとしての音も良いと思います。というか有線のDAC内蔵ポータブルアンプと比べても十分にトップクラスの音と言えると思います。多少大柄な筐体ですが、音を聴くとちょっと納得します。音の性格がドライにならずに音楽的に楽しく聴けるのはnuForce譲りの良いところでしょう。
惜しむらくはWiFi使用時に背景で少しポップ音がはいることで、これは音楽が鳴っていると気にならない程度ではありますが、もし気になる場合はUSB接続がよいでしょう。

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実際に使ってみるとケーブルのない自由さをあらためて感じますね。iPhone6/iOS8という組み合わせで試しましたが、この組み合わせだとAPモードで接続しながら4Gにも接続することができます。まさにスマートフォンの利点をまったく阻害しません。
私が思うにはポータブルアンプはもともとiPodの音質を向上させるためにはじまったわけです。しかしいまでは音源が格納されるiPodの機材ポジションはiPhoneなどのスマートフォンに変わっています。スマートフォンではさらにストリーミングなどの新たな音源を扱うことが可能です。
iPodの時代にはiPodにミニミニケーブルをつけて背中合わせでバンドで固定するのでよかったものが、いまの全面タッチのスマートフォンにおいて同じかたちでよいものか、という疑問があります。つまりポータブルアンプも時代につれてちがうかたちがあるのではないかということです。
もしスマートフォンに合わせた形のポータブルアンプがあるとすれば、それはワイヤレスでの接続になると思います。
しかしながらBluetoothは音質が劣り、Kleerは余分なドングルが必要となります。それを考慮すればあるべき形はWiFiでの接続になると思います。それがCelsus Companion 1です。

Astell & KernのAK380もDLNA互換で出てきましたが、もはやPCオーディオにできてポータブルではできないということはないと感じます。
むしろWiFiによる無線のネットワークオーディオというのはポータブルのほうが上手に発展させていくでしょう。こうして新たなオーディオの形というものが少しずつ作られていくのではないかと思います。
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2015年02月12日

Shanling(シャンリン) M3レビュー

Shanling(シャンリン)は中国の大手オーディオメーカーで、1989年に創業してCDプレーヤーやDAC、真空管アンプなどスピーカーオーディオからPCオーディオまで多様なラインナップがあります。以前は真空管アンプなどが日本でも販売されていたと思います。

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M3はシャンリンのハイレゾプレーヤーで192/24対応です。
メモリーは内蔵が8GB、MicroSDスロットがひとつ装備されています。最近のFWアップデートでexFATが読めるようになり、最大で128GBまで認識できます。
ファームウエアのアップデートが多いのですが、レビューは音と機能は一番使ったFW1.08、UIは大きく刷新された最新のFW1.15ベータを使用しています。またハード的に昨年の古いユニットといまの新しいユニットがあって、新しいユニットではイヤフォンプラグや音質が改善されているようです。下画像は主に新しいユニットです。

電池の持ちは公称で9時間程度だと思います。重さは220gです。色はブラックとシルバーがあります。

* M3の回路設計

まず私がM3に興味をもった点は、オペアンプ構成がAD8610+BUF634ということです。つまりこれはあのサミュエルズさんのSR71と同じ構成だからです。聞いてみるとやはりSR71同様にデュアルモノを意識して設計しているということです。この辺は音に効いていると思います。
DACチップはシーラスのCS4398で、CS8422によって192kHzアップサンプリングが可能です(中の設定で行います)。最近のファームでは24bit拡張も同時に行っています。またこのCS8422によってジッター制御も行っています(おそらくASRC)。

またM3のタオバオの広告を見ていて興味を引いたのはこれが台湾の有名な博士によって設計されたとうたっていることです。広告に載せるくらい向こうでは有名なのかと、これもShanlingの人に聞いてみたところ、その人はDr Choiという人で台湾のオーディオ世界では名の知られた設計者であるということです。この人は回路設計と音質解析のエキスパートで、38°やESTiなどのブランドを立ち上げたことでも知られているということです。
設計者を広告に使うというのもちょっと興味深いことです。

* M3の操作系と機能

M3のはじめの特徴はユニークな操作系です。M3はAndroidではなく独自ファームウエアを採用しています。そのためタッチパネルではなくキーでの操作になりますが、その操作は右上のコントロールホイールを使用します。これはボリュームと十字キーを合わせたような機能を持ち、回転させるとボリュームの上下、ジョイスティックのように倒すと十字キーのような機能を持ちます。

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これは使ってみるとなかなか便利です。よく曲を変えると録音レベルが違ったり、静かな曲とかうるさい曲で音のボリュームをすぐ変えたくなることがありますが、この仕組みだとそれが簡単に可能です。
このほかにある操作系は電源ボタンだけで、これは操作ロックも兼ねています。

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シャンリンの人に聞いてみると、普通のハイレゾプレーヤーはボタンが多くてデザインに制約を与えてしまい発想の余地がない、そこで彼らはジョイスティックひとつとボタン一つというシンプルな形にしたかったということです。これによって片手だけでの操作が可能だということ。
このスティック自体はジッポライターから発案したという話で、今後もこのミニマル志向で設計していきたいということです。

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画面は2.4インチ液晶でタッチではありません。前はメニュー階層が分かりにくかったし、デザインがいまひとつだったのですが、最新ファームではUIが大きく変わって メニュー階層も分かりやすく、デザインも洗練された感じです。

もうひとつのM3の特徴は入出力が豊富だということです。光出力もついています。入力はアナログインと光イン、出力もアナログアウトと光アウトがついています。ラインアウトがついててるDAPはいろいろありますが、アナログインがついているのはあまりないように思いますね。通常の音楽はDAPに入れておけばよいですが、たとえばiPhoneで動画をみてたりゲームをやってるときに、より迫力ある音で楽しみたいというときにも使えます。

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ハイレゾDAPというより、TEACのようにハイレゾDAP+ポータブルアンプととらえることもできるような汎用性も期待できそうです。


* M3の音質

M3はファームウエアで音がよく変わるので、よく覚えてるFW1.08でのレビューです。
イヤフォンはFitEar fitearが良い感じでお勧めです。キレの良さと細かさを堪能できます。私は001ケーブルをつけてチップを変えて使用しています。JVCのFX1100やJH Audioアンジーなんかもお勧めです。ワイドレンジ感や空間表現など、これらの高性能イヤフォンの性能を十分に生かしている感じですね。

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M3でまず印象的なのはバランスでなくてなにがわるい、と言いたくなるような広大な音の広がりの良さです。これはバージョン問わずM3の基本的な長所だと思います。おそらくデュアルモノの設計が効いているのでしょうね。
ワイドレンジで高低の帯域バランスはクセがないので、組み合わせたイヤフォンの性格が素直に出ると思います。音色もニュートラルでクセがない方だと思います。
素直な素材感のある一方で、モニター的というよりはコンシューマーライクでメリハリがあって迫力があってパワフルです。耳に近い感じで迫力もありますね。音の良さがわかりやすく、MP3でも音が良いのでエントリーユーザーにも向いてると思います。
楽器音は明瞭感が高くクリアですが、加えて滑らかさがあって、そこが価格以上に上質に感じさせるところでもあります。情報量とか音の正確さはこの価格帯ではかなり良い方だと思います。
それとM3で良いと思うのはいわゆるモニターライクではなく、聴いていて音楽的にきれいな音と感じられる点ですね。

周波数特性は低域が張り出してないでバランスよくフラットに聞こえるけれど、低いほうまでよく出て量感が確保されているのでベースが強いように聞こえると思います。またワイドレンジ感があり、高域も透明によく上に伸びる感じですね。この辺はFWバージョンでも少し異なるかもしれません。

Fitear fitearの空間再現の良さ、雰囲気感、クリアな細かさがよく発揮できます。この組み合わせでは躍動感とかインパクトも良いですね。
fitearだとキレの良さとかスピード感があって、ノリの良いジャズではフットステップ踏みたくなるくらいです。

* まとめ

総じてコストパフォーマンスが良く、価格以上の内容が楽しめると思います。またジョイスティック方式の操作はなかなか良くできていますが、多少慣れは必要かもしれません。
ホタ研では上の新UIでデモするということなので、当日は須山さんブースにどうぞ。
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2015年01月24日

GloveAudio S1プリプロダクションモデルレポート

GloveAudio S1はGloveAudio A1のSONY ZX1バージョンです。SONY ZX1と一体型でケーブルレスで接続(合体)できるDAC内蔵のヘッドフォンアンプです。

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以下プリプロダクションモデルをCEntranceから貸与してもらいましたのでレポートします。情報はGloveAudioならびにCEntrance CEOのマイケルから直接聞いたものです。ただしプリプロダクションモデルでのレポートであり、製品版では変わるかもしれませんので注意ください。
たとえばプロトタイプではX1と表示されていますが、製品版ではS1となる予定です。

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サイズはZX1に合わせてA1よりもやや大きくなっていますが、今回もぴったりと一体にはまります。ZX1のシルバーと合わせて、メカ的にカッコよいですね。なおこのS1のシルバーカラーは日本国内仕様になる予定で、国際仕様はブラックのようです。

このプリプロダクションでは組み立てはA1での六角レンチから普通のプラスドライバーに変わっています。ZX1とは底面プレートの電極プラグを経て接続します。

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端子をみるとわかりますが、ZX1とはUSB経由で接続します(A1ではAK100/120と光でつないでいました)。これでオーディオ信号の伝達と電力供給ができます。ご存知の方もいると思いますが、CEntranceはドライバーでも知られるようにPCオーディオでのUSB接続のプロであり、USB接続でのS1は彼らの能力をいかんなく発揮できると思います。オーディオ回路設計が優れていることもA1で実証済みです。

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S1の側面にはマイクロUSB B端子がひとつあります。これでS1とZX1を同時にチャージできます。またZX1へのデータ転送もできます。USB DACとしては機能しません。
充電はA1のように二股のUSBケーブルでなく、ひとつのケーブルで同時に充電が可能です。このためにはまずS1とZX1を両方電源を落としてからS1のUSB端子にケーブルを接続します。S1が動作状態ではZX1に充電できません。
充電状態はLED点滅で表示されますが、点滅の意味は製品版で変わることが確実なので書かないでおきます。

ボリュームはS1側面のボリュームを使用します。動作中はZX1のボリュームは使用できません。出力は3.5mmバランスとKobiconn(RSAタイプ)バランス、2.5mmA&Kバランスです。
DACチップはA1と同じく標準タイプのES9018です。標準タイプのES9018は一般に使われている省電力型ES9018K2Mに比べても性能が高いのが長所で、K2MがDNR 127dBのところ、標準タイプでは133dBあります。これは現時点でのDAC ICの最高レベルの性能と言ってよいでしょう。他の回路は少し改良されていますがほぼA1と同等だと聞いています。

音はA1からも想像できると思いますが大変に素晴らしく、特にバランスで素晴らしい再現性を聴かせてくれます。GloveAudio A1と比べてみると音質レベルは同じくらいだと思いますが、S1の方がややクリアで硬質に感じられます。この辺はもとのZX1の音を少し引き継いでいる感もあり興味深いところです。もちろんZX1にくらべると大幅に音質は良くなっていて、別物と考えてよいと思います。
彩との001バランスでの相性がとてもよかったですね。ちょっとあり得ないくらいの音再現を聴かせてくれました。AKR03なんかも2.5mmバランスで素晴らしい音質を聴かせてくれました。

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FitEar 彩とGloveAudio S1

問題点は電池の持ちが短いことです。これはS1の問題ではなくZX1のデジタル接続での電池消費が多いことによるもので、これは他のHPA-2などでもデジタル接続なら同じはずです。実際にここがZX2で電池が倍増された理由でしょう。ただS1では普通のUSB MicroB端子を使って手軽に5V USB充電できるので、普段使いにはあまり問題にならないと思います。

ZX2とどちらを取るかは悩むひともいるかもしれませんが、うちのブログを読むような方はGloveAudio S1でしょうね。私見ですが、ZX2での音質の改良はアナログ回路の範囲であり、肝心のS-MasterはZX1と同じです。かたやS1では最高のDACチップであるES9018を採用しています。おそらくS-MasterはASICで実装されているので、ZX2だけのリリースのタイミングでは書き換えが難しかったのではないでしょうか。ASICはFPGAに比べると書き換えに生産量が必要になります。おそらく次のS-Masterの書き換えは生産量が確保できる次のWalkmanの発表のタイミングではないかと個人的には思います。そうした意味で言うと、良くも悪くもS-Masterに束縛されてしまうZX1を音質面で大きく改善するにはS1のような外部DACアンプが最善ではないかと思います。

S1の価格と国内提供経路は後日発表になると思います。
このユニットはすでに返却しましたが、来月2/14のポタ研で試聴できるようになりそうです。興味のある方はチェックしておいてください!
posted by ささき at 12:47 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月12日

SONY ZX1用のGloveAudio S1登場

人気のハイレゾプレーヤー、SONY ZX1用の画期的な外付けアンプが登場しました
AK100用の一体型DACアンプ、GloveAudio A1を紹介しましたが、そのZX1版です。これは生産前版なので外観は変更があると思います。名称はX1ではなくS1になります。日本国内でも販売予定です。

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FitEar 彩バランスとGloveAudio S1

ヘッドフォン祭の時にちらっと見せてもらったんですが、そのときは前面シルバーでした。このモデルではさらに磨かれてなかなかかっこよく、高い質感はZX1に合わせてもまったく見劣りしません。

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ケーブルレスでの一体型の取り付けは六角レンチから普通のプラスドライバーになったようです。背面はZX1のふくらみに合わせて段が付けられています。A1とは異なりUSBでの接続になります。内部の回路はほぼA1に沿ったもので、出力も同じで2.5mmとKobiconnのバランス対応です。つまりZX1ユーザーも2.5mmバランスが使えるようになります。S1素晴らしい音質を聴かせてくれ特にバランスは圧巻と言える音再現です。
またあとで詳しくレポートします。
posted by ささき at 23:33 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月09日

ESSから新しいDAC/アンプ統合型ICが登場

おなじみESSの新しいラインナップが発表されました。SABRE9018Q2Cです。

ESSは少し前にヘッドフォンアンプチップも発表しました。
これは低電圧用で最近はよく使われてるDACチップrのES9018K2Mと組み合わせるためのICですが、こんどのQ2Cはこの二つを統合したもののようです。全部入り、という感じで一発で使うものなのでしょう。名前もESxxではなくSABRExxが冠されてます。

用途としては高音質スマホがまず考えられますが、低電圧で従来よりコンパクトに設計できると思うので、iPhoneのライトニングポートにさしてMMCXコネクターを持った交換ケーブル、なんてのも欲しいところです。

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2014年12月18日

ユニークメロディのユニバーサルIEM、MaverickとMason

カスタムIEMで知られるユニークメロディ(UM)からユニバーサルIEMが発売されました。
単にユニバーサルIEMがUMから発売されたという以上に注目すべき点はその開発手法です。ここにUMのイヤフォン戦略がかいま見えます。

* UMのイヤフォン戦略とユニバーサル化の開発手法

戦略と言うのは理想的なゴールがあって、そこに到達する道のりを決めるというようなものです。まずUMが考えるカスタムイヤフォンのゴールとは、文字通りの「フルカスタム」のようなもので、エンドユーザーが自分で音決めができ、ユーザーが自分でチューニングするということが目標となっているようです。具体的にはUEのパーソナルリファレンスモニターのようなシステムで周波数特性や位相調整までを個人が行えるようにするというものがひとつ考えられると思います。つまりはユーザーにたいしてのカスタム化の完全な自由を与えるというものですね。
しかし、それをユニバーサルタイプに適用した場合、個人個人が作るわけにはいきません。そこでUMの取ったアプローチは国ごとの代理店と共同開発でその国の事情に「カスタム化」した音決めや開発をするということです。実際には日本からはミックスウェーブがメーカーに赴いて開発をしたということで、その成果が今回紹介するユニバーサルIEMのMaverickとMasonです。
他にはシンガポールやロシアの代理店も同様な開発をしているということです。ロシアについては一部要求が厳しすぎたようでちょっと中止しているようですが、シンガポールについてはLegacyという名前で商品化されています。下記はlegacyについてのリンクです。
http://www.head-fi.org/t/736935/unique-melody-legacy-latest-flagship-12ba-ciem
この国別のユニバーサルタイプはその国でないと買えないということで、Legacyはシンガポールでないと買えませんし、MaverickとMasonは日本でしか買えません。

普通代理店はメーカーに意見を言うくらいの影響力のように思いますが、このUMのユニバーサルIEM開発においては代理店とメーカーの共同開発と言ってよいほどかなり深く関与しているのが特徴です。この辺は実際に開発に参加したミックスウェーブの宮永氏に話を伺いました。
具体的には6日間ほど向こうに滞在して共同作業をしたということです。まずイヤフォンを製作するための技術・ノウハウを伝授してもらったそうで、これには測定機器や3Dプリンタ関連の技術も含まれているということです。

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UM社:写真宮永氏提供

実際の開発はまず音決めの関与で、周波数特性、位相について聴きながら各帯域のチューブの長さを決めていくような感じだそうです。UM側がドライバーの選択枝を用意してくれ、MaverickとMasonのドライバー構成についても宮永氏が決めたということです。また外観のデザイン、名称も宮永氏が決定しました。名称については基本的にはUMのネーミングルールであるイニシャル"M"を踏襲したそうですが、シンガポールがLegacyなように絶対的なルールではないということです。

* MaverickとMason

そうして開発されたMaverickとMasonはUMの初のユニバーサルIEMです。それぞれは全く異なる設計で、使用しているドライバーも異なります。さきにも少し触れましたが、どちらも3DプリンタによるユニバーサルIEMです。UMではカスタムは3Dプリンタを導入していませんが、ユニバーサルで3Dプリンタを採用した理由はまずコスト・生産性で、3Dプリンタを採用すると週で100台は生産できるということ。
次はシェル強度で、3Dプリンタを採用するとシェルの厚みが均質になり、一か所の薄いところに応力集中することがないのでシェル強度が上がるということです。

MasonもMaverickもコンパクトで装着感も悪くありません。ケーブルのプラグは2ピンの一般的なものでリケーブル可能ですが、旧UEのようにはめ込み部分がやや深めなのでケーブルのプラグには注意が必要です。下記の試聴はどちらもケーブルはストック(リケーブルなし)で聴きました。
価格は定価はオープンで、参考価格はMasonが13,0000円(税別)で、Maverickが10,8000円(税別)です。

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UM Mason

Masonは片側12ドライバーのBA機で、構成は低中高にそれぞれ4ドライバーずつの3Wayです。ロクサーヌと同じですね。
宮永氏によるとMASONは「石工」とか「れんが職人」という意味あいですが、「ブランドイメージの再構築」、「また一から立て直す・やり直す」という意味で付けたそうです。MASON、MAVERICKともに、メーカーが開発してきた今までの音とは異なるキャラクターを持っているということで、これはUMのサウンドは「こう新しく生まれ変わったんだ」ということをフラッグシップモデルであり、かつ誰でも使えるユニバーサルであることを利用して広く伝えたかったからということです。

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MasonとAK120II

発売後にチューニングがし直されたということでも話題となりましたが、これはチューニング後のタイプです。たしかに先日のヘッドフォン祭で聴いたときにはMasonが元気よくベース過多な印象でしたが、それがおちついて良い帯域バランスになったと思います。全体的な音質も洗練されてフラッグシップらしくなかなか優れています。
相性としては端正なAK120IIと相性が良く、優等生的なそつのない感じで忠実感の高い再現力を感じます。能率も問題なく普通にハイレゾDAP単体でオーケーです。

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UM Maverick

MaverickはダイナミックとBAのハイブリッドで5ドライバー。ネットワークは4Wayとされています。ダイナミックドライバーの大きさは10mmで、担当音域は非公表ということ。UMにはMerlinというカスタムの5ドライバー・ハイブリッド機がありますが、設計は異なるものです。
Maverickの特徴は低域をBAとダイナミックでともに担当しているということです。ハイブリッド構成では繊細なBAが中高域、迫力のダイナミックが低域という分担が一般的で、Merlinはそうなっています。Maverickもはじめの予定ではMerlinのようにダイナミック一発で低域を担当する予定だったそうですが、開発していくうちに20〜40Hz辺りのバスドラムのアタック感が関係してくる箇所がダイナミック一発では再現出来ず、結果的にBAでその部分を補ったということです。一方で反応が良く口径が小さいダイナミック一発でスピード感を上げて、ダイナミック一発で済ますという選択肢もテストしたそうですが、BAを足した方が結果的には良かったので、ダイナミック+BAという形式にしたということです。
Maverickは「一匹狼」という意味がありますが、ダイナミック型ともBA型とも言えないサウンドに仕上げたため、その名前にしたそうですがたしかに分かります。

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MaverickとPAW Gold

Maverickはインパクトやアタック感が良くキレが鋭いイヤフォンという印象です。特にベースのアタック、インパクトが力強さとシャープさが両立しています。ベースの膨らみ感は少なく、かなり低い深い低域で量感がある良い感じです。そして中高音域もキレが良く明瞭感が高い点も良く、チェロの低く重い弦の唸りも、ヴァイオリンの軽やかな鋭さも両立できています。
普通ハイブリッドっていうと低域のダイナミックのぶわーんという迫力を強調するものですが、Maverickは引き締まって鋭いベースが特徴的です。ベースにBAを加えたのがその目的なら十分達成できてると思います。
Maverickはやや鳴らしにくい(インピーダンスは51Ω)ので、ゲイン高めのオーディオ機器の方が音的な相性もあり良い感じがします。そのためどちらかというとハイレゾDAPよりポータブルアンプ別で力感のあるシステムが良いと思います。Portaphile Micro Muses01みたいにゲイン高めでも良いですね。あるいはハイレゾDAPならゲイン切り替えがついているもので、たとえばPAW Goldのハイゲインなどがキレがよく緩みない低域を楽しめます。

個人的にはMarverikがなかなか魅力的でした。Masonの優等生的な音質の高さも良いのですが、Maverickには個性があり、ちょっと独特のインパクト感と切れの良さがあります。


カスタムIEMメーカーがユニバーサル版を出すというにはさまざまな理由があると思います。これはユーザーのメリットと言い換えてもよいかもしれません。たとえばカスタムに比べて価格を下げるため、カスタムではリセールバリューがないのでそれを防ぐため、また1964ADELのように新技術を投入するテスト用、拡販のため、などなど。UMの場合は大きな戦略のなかのユニバーサルの位置付けというものを考慮して、現地代理店との共同開発を取ったという手法が興味深いものです。
今後のUMの製品に関しても、特にユニバーサルモデルに関しては同様な手法を取るということでまた面白いユニバーサル機が出てくるかもしれません。



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2014年11月25日

JVCのウッドシリーズイヤフォンの新フラッグシップ、FX1100登場

JVC(旧ビクター)のFX1100はウッドシリーズのイヤフォンの新しいフラッグシップで12月上旬に発売となります。5万円台後半という高価格帯のハイエンドイヤフォンです。

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*FX1100の特徴

JVCは木を振動させて音楽再生するウッドコーンのスピーカーの要素技術を持っていましたが、イヤフォン市場にその技術を導入して2008年2月に初代であるHP-FX500を発売しました。その後ウッドドームユニットの大型化などの改良で技術を上位機種のFX700を2010年の2月に発売します。
その後4年ほどたって今年の2月に最新技術を投入した待望の新製品が3機種ラインナップします。これがHA-FX650/750/850です。
これは好評を持って迎えられましたが、その上位機種となるのがこの12月に発売予定のFX1100です。

1. ウッド振動板の利点

他のウッドシリーズと共通しますが、FX1100の特徴はまずウッド振動板をはじめウッド素材にこだわった設計です。ウッドイヤフォンシリーズではウッドをハウジングと振動板だけではなく、ウッドダンパー、ウッドディフューザー、振動板の背面ウッドプレートなどウッド素材で音の作り込みをしています。
木製ハウジングというのはヘッドフォンの世界ではオーディオテクニカやGRADOなどでつかわれてきました。木の独特の響きの乗った美しい音が特徴です。しかし振動板まで木製というのはありません。

前述のウッドハウジングのヘッドフォンのように木という素材は楽器のように美しく響くというイメージがありますが、このJVCのウッドシリーズで着眼されているのはむしろ振動板として木が優れた特性を持っているという点です。それは木は伝搬速度が高いので、スピード感がよく広がりのある音を再生することができ、さらには木は内部損失特性が高いので、付帯音がなくピュアな音になる、という従来の素材に比べた利点があるからです。もうひとつ木には紙や金属素材と違って木目があるため、正円形である振動板で均一素材にある共振がないという利点もあります。
(ただイヤフォンはスピーカーと違って木目方向を計算した音場設計ができないのでおのずと異なる点はあるそうです)

2. FX1100と従来製品の違い

従来のFX650/750/850とFX1100の違いは大きくは以下の通りです。
- 黒木目仕様の外装色
- 新しい6N OFC編組ケーブル(L型プラグ採用およびプラグのアルミエンドの採用)
- MMCXでリケーブルできること(FX850もMMCXを採用しているがケーブルのグレードはFX1100の方が高い)
- 入力プラグからドライバーユニットまでの信号伝送経路に音響ハンダを採用して音質を向上させたこと
- スパイラルドットイヤピースの別サイズ(ML/MS)がはいっていること

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新旧のイヤフォンプラグの違い(L型がFX1100)

またこれらの他に、イヤホン本体の最適化チューニングも行われています。
JVCに聞いてみたところ、FX1100はFX850が完成した後で、この完成度の高い母体を活かして更に追求していけばもっと良い音になるはずというエンジニアの意見から密かに試作を重ねたということで、出来た試作機を企画や営業に聞かせたところ、これを世に出さないのは勿体無いということで急遽商品化を進めることとなったということです。
従来のトップモデルであるFX850とは振動板は同じですが最適化チューニングとして各種音響ダンパーの調整と追加を行っているそうです。なお追加された部品はパッケージ等に記載されてる分解図には載っていないそうです。
この最適化チューニングで得たかった事としてはウッドイヤホンの特徴である美しく自然な響きと広がりをもっと高次元で再現したかったということだそうです。響きの部分は音としてデリケートであり、あらが出易く再現が難しい。それを実現させるためによい母体(つまりイヤフォン本体)、高純度なケーブルと高品位なハンダを使用し、これら最高の素材を殺すことなく、よい部分だけを引き出す考えでチューニングした結果、より滑らかで、生々しい再生音を響かせることに成功したということです。

なおウッドシリーズはハイレゾ対応を掲げていますが、日本オーディオ協会の定義とロゴではなく、独自の基準で再生周波数帯域評価や聴感評価を含めた社内基準で実施しています。特に聴感評価におけるハイレゾソースの再現性に重点を置いているということです。

*使用感

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FX1100は手に取るとミニチュアの工芸品のように精密感があり、高級感と質感の高さを感じられます。ちょっとずっしりとした質感が良いですね。比べてみるとFX850はある意味ウッド素材であることを主張していますが、FX1100は玄人好みで黒檀のように渋く仕上がっていると言えると思います。

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反面でちょっと大きめで装着感はいまひとつのところもあります。分解図をみるとかなり複雑な設計になっているので、小型化するのはむずかしいかもしれませんが、もう少し先端部分に工夫があると良いようにも思えます。装着感はイヤピースでも変わりますので、FX1100になって新たにイヤピースにMS/MLのサイズが追加されたのはFX850からの実質的な装着性の改良とは言えるでしょう。

*音質

1. ハイレゾプレーヤーとFX1100の組み合わせ

まず音の個性を確かめるために慣れているAK240を使ってFX1100を聴いてみました。イヤピースはスパイラルドットのMLで、ケーブルは標準の6Nケーブルです。イヤピースはフォーム(低反発)の方がベースは出ますが、スパイラルドットの方がこのイヤフォンらしい音だと思います。
ちなみにスパイラルドットイヤピースとはJVC独自のイヤピースで、イヤーピースの内壁にディンプルを設けて音質劣化の原因となるイヤーピース内の反射音を拡散させ、音のにごりを制御するということです。その結果としてクリアで自然な音が再現できるようになったとのこと。

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まず感じるのは音の広がりの豊かさで、見通しが良くクリアでよく広がる感じです。これはイヤフォンではかなり上位にランクすると思います。
次に感じるのは音色がピュアで濁りがなくきれいな点です。ワイドレンジで高域の伸びも鮮烈で、低域もかなり低いところまで出ていて低い方の量感がしっかりある感じです。低域はかなりたっぷりあって後述するようにFX850よりもあるけれども、全体的にベースヘビーという感じではなく、いわゆるドンシャリ感は少ないと思います。音の高域での伸びてゆく感じ、ベースがよどんで重いのではなくクリーンでしっかりしているのが良い感じです。反面で他のウッドヘッドフォンにあるような木の響き(レゾナンス)というのはあまりなくて、むしろすっきりとしてニュートラルで無着色だと思います。
アタックは適度にあって柔らかすぎるということはなく、パーカッションの打撃を聞くと音のスピードが速くてトランジェントが高い感じが分かります。音の立ち上がりと立ち下りが急峻という感じですね。それが自然でかつ音色がきれいな楽器音の再現につながっています。

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ヴォーカルは聴きやすく、女性ヴォーカルに透明感のある瑞々しさがあります。
弦楽四重奏が美しく、弦の重なりと情報量の多さが印象的で音の消え入る余韻まで聞こえます。この辺は試聴しててもしばし聴き惚れてしまいました。
このへんの音のピュアで純度の高い美しさというのはなかなか他のイヤフォンではない、さきの木の振動板の利点をもったウッドイヤフォンならではの魅力ではないかと思います。

また聴いてみてFX1100と相性が良かったのはSONY Walkman ZX1です。
FX1100の透明で鮮明な楽器音、きれいに音が整ったまま伸びていくところはデジタルアンプのZX1はうまく再現しています。
またFX1100の良いところはチタンなど金属振動板にありがちな硬さがないので、高音域もきつくなりすぎずにZX1の良さも引き出しているように思います。細かい音の粒立ちが鮮明に分かるので、解像力の高さも良くわかります。ベースはたっぷりあって音楽のよい下支えとなり、FX1100の広い音再現がZX1の空間再現力をうまく後押ししてスケール感を演出しているようで、良い組み合わせだと思います。

2. ポータブルヘッドフォンアンプとFX1100の組み合わせ

今回はFX1100やFX850といっしょにJVCのポタアンであるSU-AX7も貸し出してもらいました。SU-AX7はJVC得意のK2技術を採用したDAC内蔵ポータブルアンプで、iPhoneとのデジタル接続を意識しています。また音質追求を考えたフローティングシャーシや光デジタル入力も可能である汎用性なども特徴的です。

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いきなりFX1100とSU-AX7で聞くとどっちの音支配か分からなくなるので、慣れてるWestone W60ではじめにSU-AX7の音を確かめてみました。iPhoneをソースとしてUSB Aを使用したいわゆるiDeviceデジタル方式で接続し、ケーブルはVentureCraftのオーディオ用USBケーブルを使用しています。
音の印象としてはSU-AX7は帯域再現がフラットでかつワイドレンジ、透明感があって音が速いという印象です。どちらかというと玄人好みの音作りだと思います。これはイヤフォンとも共通していると気がついたのですが、JVCらしさ、JVCの音というのはワイドレンジで透明感があって音が歪み感少なくピュアなところではないかと思います。

実際にSU-AX7とFX1100の相乗効果は高く、ひときわ澄んで気持ちよく上も下も伸びるワイドレンジの音空間が広がります。どちらかの音支配というよりは伸ばし合うタイプです。オーケストラものではかなりスケール感を感じられますね。SU-AX7の帯域バランスは良いと思うけれども、人によってはもう少しベースが欲しいと思うかもしれません。そういう意味ではベースを少し足したFX1100はより適合するでしょう。
この組み合わせはかなりオススメ出来ると思います。同じメーカーの同じ思想がうまく噛み合ったという好例と言えるのではないでしょうか。

FX1100ではL字プラグのケーブルになったのでハイレゾプレーヤーやiPhoneではよいんですが、ポータブルアンプだとややボリュームなどの干渉に気を使います。ただしSU-AX7との組み合わせでは特に問題とはなりません。

3. iPhone単体とFX1100の組み合わせ

FX1100は能率は問題なく音は鳴らしやすいほうですので、iPhone単体で聴いても良い音で楽しめます。ただしハイレゾプレーヤーやポータブルアンプで聴いた後だとかなり物足りなく感じられます。特にFX1100の良いところであるピュアでどこまでも伸びていく気持ちよさがなくなり、生楽器再現の音の立ち上がりでかなり甘さを感じます。
言い換えるとFX1100はハイレゾプレーヤーやポータブルアンプで聴いたときの伸びしろが大きいということも言えますね。やはり高性能のポータブル機材をもっているマニア層に聴いてほしいイヤフォンだと思います。

今回はFX1100の他にFX850とFX750も借りました。聴いてみるとFX850は定評のある良い音として、FX750が意外と健闘しているように思いました。iPhone主体で聴くカジュアルユーザーには実売価格を考慮するとFX750がコストパフォーマンスの高い選択ではないかと思います。

4. FX1100とFX850との比較試聴

おそらく多くの人が興味を持つところはFX850との音の違いではないかと思います。そこでAK240を使用してFX1100とFX850の比較試聴をしてみました。ちなみに曲はジャズヴォーカルのTiffanyのBut not for meを使用しています。またイヤピースもたっぷり借りたのでイヤピースはFX1100とFX850とも同じスパイラルドットのMLを使っています。はじめはFX1100、FX850ともそれぞれの標準ケーブルです。(それぞれエージングは十分されていると聴いています)

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FX1100(左)とFX850(右)

はじめにFX1100で曲をしばらく聴いてからFX850に変えると、音が全体に味が薄くなったように感じられます。なにか失ったようで、厚みがなくなり音が粗くなると言っても良いです。全体の音の印象はほぼ同じでキャラクター的には似ていますが、FX850はベースが軽めに感じられます。
ふたたびFX1100に戻すと、ベースがグッと重みが出て迫力が増し、さらに全体の密度感が向上して芯がしっかりとするのが分かります。おそらく差はひとレベル違うのはわかると思います。

では、この差はケーブルだけのものかと言われるかもしれないので、今度はイヤフォン部分のみの違いを聴くために、FX1100の6NケーブルをFX850につけてみました。同様に聴き比べてみると、差は確かに縮まりますが同じにはなりません。ベースの量感は近くなりますのでこれはケーブル影響に思われますが、軽さと粗さの差は縮まりますがまだあります。やはり音響ハンダやさらなるチューニングによって音の荒さが取れて高級感が一段上がってるようには思いますね。
たとえばハイレゾ音源を楽しむというのは細部にこだわるということですから、より高音質の音源を聴いてみようというハイエンドユーザーにはこうした細かい差が意味を持ってくると言えるでしょう。

5. FX1100のリケーブルについて

FX850から引き継いでFX1100でもMMCXでのケーブル交換が可能です。
ただFX1100の6Nケーブルはなかなか優れていると思いますので、音質を上げるという意味ではケーブル交換の必要性は少ないかもしれません。FX1100のキャラクターによく合っているようにケーブルが作られていますし音もよいので、これ以上を求めるとちょっと高くつくでしょう。FX850を買ってはじめからリケーブルしようと思ってたハイエンドユーザーにはお得なモデルがFX1100となるでしょう。
一方でケーブルは好みの部分もあるので、銀線に変えて音色の違いを楽しむというのはありだと思います。

*まとめ

FX1100は高級感を感じさせる工芸品のような質感高い作りの良さがまず魅力的です。少し大きめで装着感に難もありますが、音質はかなり良いイヤフォンです。
木を使ったというと古くはGRADO、または最近のEdition5やKuradaのように木の響きを特徴とするものを想像してしまいますが、FX1100では木を振動板に使うことで得られる内部損失の高さという点に着目してピュアで混じりけのない音を再現することに成功しています。ウッドシリーズは変わり種として見られることもありますが、木の響きによる変わった音色が特徴と言うのではなく、ウッドの採用でストレートな音の良さを可能にしたということがポイントだと思います。
ですからウッド振動板でハイエンドを狙ったイヤフォンを設計するのは理にかなってると言えます。

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そうしたウッドイヤフォンの長所を踏まえると本来ウッドイヤフォンはハイエンドユーザーにもアピールできる音質のポテンシャルをもっていたと言えるでしょう。そこでFX1100は評判の良かったFX850からも音質的にさらに向上していて、音響ハンダの採用もピュアな音再現の追求という点でその思想を突き詰めていると思います。そこがこだわりの要素なのでしょう。
またSU-AX7も使ってみて、アンプとイヤフォンの違いがあってもブランドとしての音の作りが一貫しているのも感じられました。JVCならではの音、というのをイヤフォンの市場でも追求する姿勢もよいですね。
FX1100とFX850の違いはケーブルだけではないと思います。天然シルクと合成繊維のようなもので、ひとクラス上の音を求めるハイエンドユーザーにアピールするポイントだと思います。ウッドイヤフォンの音が好きで、その音を突き詰めたいユーザーにはFX1100はお勧めだと思います。

いわば好評のFX850をベースにして、FX850以上を欲する人のためにオフィシャルで最適なリケーブルをしてさらに音響ハンダやチューニングを詰めてチューンナップしたスペシャルモデルがFX1100ということも言えるかもしれません。他モデルとは違う黒のボディは一味違うスペシャルモデルであることを示しているように思います。
posted by ささき at 08:55 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年10月21日

DENONのDAC内蔵ポータブルアンプ、DA-10 レビュー

まえに今年のポタ研でDENONのDA-10の発表会の記事を書きました。今回はDA-10を実際に使用してみてのレビューと解説などを書きます。

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DA-10は国産オーディオメーカーの老舗であるDENONが開発したDAC内蔵のポータブルヘッドフォンアンプです。入力はアナログ入力のほかに2系統のUSB入力をもっています。

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DA-10底面

Appleが30pinドックコネクタを採用していた時はアナログのラインアウトがあったので、アナログ入力で済んだのですが、Appleがライトニングコネクタに変えてからはアナログの出力が出せなくなったので、iPhoneから品質の良い音の取り出しをするためにはこうしたDAC付きのポータブルアンプが必要となってきたという経緯があります。
DA-10のUSB端子はUSB AとUSB microBの二つあります。これは簡単に言うとUSB AがiPhoneとのデジタル接続をする端子で、USB MicroBはPCと接続をするための端子となります。これについて詳細は以降書いていきます。DACチップはいまやバーブラウンの主力であるPCM1795です。DSD再生など最新の技術動向に向いています。

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DA-10正面

出力はミニステレオ端子ひとつで、ヘッドフォン出力です。ただしこれは出力を固定することでアクティブスピーカーなどデスクトップでも使えるようにしてあります。
DACの入力はDA300に準じたもので、最大でPCMが196kHz/24bitまで、DSDは5.6MHz(DSD128)までのネイティブ再生が可能です。iPhoneとの接続では48kHz/24bitが上限です(例外はあとで)。

* 技術的特徴 - Advanced AL32ありき

いわく、アーキテクチャの踏襲という意味ではSX1をデスクトップにしたのがDA300で、町に持ち出すのがDA-10ということです。
DA-10はポータブル版のDA300ともいうべき多くの特徴を持っています。まずDENONの看板でもあるAdvanced AL32(以下AL32)です。
これはまずビット拡張で32bitにしてからアップサンプル(時間軸拡張と言っている)をしています。
特徴的なのは搭載するPCM1975 DACチップの特性を生かして、出来合いのPCM1975のデジタルフィルターをバイパスして、より高精度のAdvanced AL32をデジタルフィルターとして置き換えているということです。
このようにまずアルファプロセッシングありきで設計がなされ、このアップサンプリング・32ビット拡張とフィルター部分の置き換えによってPCM1975の能力を最大限に発揮できるというわけです。アップサンプリングはDA-10に入力されるサンプリングレートによって調整が行われ、ハイレゾデータを生かすことができます。
この効きと言うのはデータの下位ビットに相当するところで、例えば静寂の部分から音の立ち上がりが滑らかと言うことです。前の記事でも書きましたが、この下位ビットの処理が実のところハイレゾのかなめですね。

ちなみにAdvanced AL32はFPGAで実装されています。またAL32はPCM向けのものですから、DSD再生時ではAL32はバイパスされます。

* 技術的特徴 - ちいさくともオーディオ機材

それとDA300と同様にオーディオ機器らしいこった設計もDA-10のポイントです。
DA300のレビューのときも書きましたが、DA-10でもDACマスタークロックデザインを取り入れています。これはDACのクロックを主(マスター)と明示することで、周辺回路との正しい同期を取るというものです。クロックというのはデジタル機器の基本ですから、これによってより正確なクロックタイミングが得られることが期待できます。
ピュアオーディオ製品ではクロックのマスター・スレーブというのは良くありますが、ポータブルでは初めて聞くように思います。ポータブルの場合にはスペースのために実装的にも難があって、例えば他のDAC内蔵ポータブルアンプではUSBコントローラの近くにクロックがあったりしますが、DA-10ではDACの近くにクロックがあり、DACのクロックがあくまでマスターとして周辺機器であるところのUSBコントローラが従になるわけです。
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アンプ部分は±6.5Vの高電圧で駆動し、後段(バッファ部分)がディスクリートで設計されて十分な性能を確保しています。パーツもオーディオグレードコンデンサーの採用や、ポータブルヘッドホンアンプでは標準的な角型チップ抵抗よりも低ノイズ、低歪みのメルフ抵抗(丸いやつ)を採用するなど考慮がなされています。
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また独立電源回路基板もポータブルにしてはかなりこっています。一般的なポータブルアンプだとオーディオ回路と同一基盤に電源があるわけで、これはある意味仕方無いですが、DA-10ではDC-DCコンバーターのノイズの影響を低減させるために基盤構成を2階建てとして電源を別基盤化しています。GNDもデジタルとアナログ部分を分離してノイズを考慮したレイアウトを行っています。
つまり回路・電源別、デジタル・アナログ別という基本も守っています。
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* 技術的特徴 - 小型化への挑戦

まさにDA-10は小さくともオーディオコンポーネントらしいという感じです。DA300が手のひらに入ったというイメージでもありますが、小さくすることはそう容易ではありません。
実際に設計は音質にかかわる主要部品をDA300同等にするというところからスタートしたということです。まずCADなどでシミュレーションを行いますがこの時点で部品の占める面積が多すぎるという問題に直面します。そこで従来ならば基盤構成は4層ですが、DA-10では6層ビルド基盤を採用します。これはウエハースのように基盤を組み合わせたもので、これによりGNDのポテンシャルの向上や、クロックラインの最短接続、パターン干渉の低減などの効果がうまれました。
コスト的にはかなりアップしましたが、音質やサイズの相反する問題をこれで解決できたということです。
DA300みたいなサイズのUSB DACならともかくも、スペースに制約のあるポータブルまでこうしたオーディオの基本を実直に守るのには頭が下がります。これもDENONがまじめなオーディオメーカーである証なのでしょう。

* DA-10のさまざまな機能

DA300からの改良という点では、DA300ではゲインがなくてHD800などが音量が取れなかった問題をDA-10では改良しています。DA300ではHD800は音量的に苦しかったのですが、DA-10ではうるさいくらいに音量が取れます。これで録音レベルの低い高音質録音の音源にも十分対応できます。スペック的には8-600オームまで駆動できます。

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DA-10側面

ラインアウト端子はないのですが、ヘッドフォン出力は可変(var)と固定(Fix)が選べるので、外部出力機器に接続するときは固定で出力することができます。三段システムでDACとして使いたい人もいますからね。
なお可変と固定の切り替えには電源をいったんオフにしなければなりませんので、注意してください。

電池の持ちに関しては、大容量(3200mAh)のリチウムイオンバッテリーにより、iPod接続時(USB AでのiDevice接続時)で7.5時間の再生が可能ということです(USB microBで電池使用した場合には6.5時間ということです)。アナログだけなら24時間は持つのもなにげにすごいところです。この辺は電源管理が徹底されていることもうかがえますね。
電源を投入するときにチャージランプの色点灯でだいたいの残量がわかります。

* DA-10の使いこなしと音質インプレ

パッケージを見ると、箱や梱包の時点で満足感が高いですね。パイオニアのU05でも思ったけど、こういうところはさすが国産で、私みたいに海外の怪しいものに慣れてるとこういうのが新鮮です。なにしろ保証書の代わりに名刺が一枚入ってるというのが当たり前だと思ってましたので(それもない場合がほとんど)、化粧箱に入ってアンプがくるだけで新鮮です。

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iPhoneと合わせるためのケースが付属してきます。ケースを使用した時にはケーブルをガードしてくれるので、入力と出力が逆側なのでバッグの中で収まりにくいという問題を緩和してくれます。

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筐体はデザインや質感は高く高級感があります。DA-10のデザインは表面がヘアライン、テーパー部分が梨地仕上げとなっており、その違いを強調するために処理の境目に段差を設けています。この辺はかなり試行錯誤をしたということで、たしかにすばらしい高級感のある仕上げとなっています。ヘアラインはプレートを張っているのではなくアルミの一枚板です。
金属のシャーシはRFノイズ対策にもなるでしょう。中ではさらにパネルと基板の導通を工夫することでシールド効果を生じさせています。実際に電波を輻射させる状態でiPhoneを置いても全くと言ってよいほどノイズはDA-10に影響しません。

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サイズ的にはやや大きめですが、軽いので携帯にはそれほど苦になりません。デザインはiPhone5に合わせたようですが、iPhone6でも大丈夫です。

DA-10はスマートフォンに向いたアンプということが言えます。それゆえにまたDA-10を手にしたときに、これをどうやって使いこなすかというのが悩みどころなのではないでしょうか。いままでのアナログ入力だけのポータブルアンプだと話は簡単なのですが、デジタル接続ではさまざまな決めごとがあります。これはまずソースであるプレーヤーになにを使うかというところから始まると思います。
そこでソースの場合分けをしながら以降の記事を書いていきます。

1. DA-10とアナログ接続

プレーヤーが旧iPodやAK100などの場合は、いままで通りに3.5mmミニ端子の付いたラインアウトドック(LOD)やミニ・ミニケーブルでアナログ接続が可能です。
DA-10の場合にはアナログ入力端子とヘッドフォン出力端子が反対側にあるので、バックのなかで立てておきたい場合にはケーブルにストレートではなくL字型の端子をもったものを使うとよいでしょう。(あるいはケースとの兼ね合いです)

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iPod ClassicとDA-10

付属のケースを使うこともできますが、私は慣れた背面直置きでバンド留めを使っています。アルミボディの黒いポッチはラバーで、そのままiPhoneをおいてクッションになります。黒いポッチはデザイン的なアクセントにもなってます。海外製品だと両面テープが入ってくれば良い方なので、この辺の細かさは国産メーカー品ですね。

この場合のスイッチ設定は以下のようになります。
出力モード切り替えスイッチ: Varにします
充電モード切り替えスイッチ: OFFにします
入力ソース切り替えスイッチ: AUXにします


ゲインはほとんどの場合はノーマルで良いでしょう。
iPod classicにラインアウトドックを使ってアナログ出ししてDA-10のAUXに接続し、Ultrasone Edition8で試聴しました。
分厚い力強い音で、Edition8のベースを十分生かして迫力を生んでくれます。滑らかでほどよく暖かいところが良いですね。
高音域から低音域までしっかりと再現され、アナログアンプとしての解像力もかなり良く、Edition8クラスでも文句がないくらいの音質です。楽器の音の明瞭感も良く、音色は優しい鳴り方です。ヴォーカルの再現も同様に良いですね。小さくてもデノンらしい厚みがあって力強いデノンサウンドが楽しめます。
iPodソースにしてはかなり良く、アンプ単体としても良い出来だと思います。ただ音の広がりは悪くないけど標準的です。


2. DA-10とデジタル接続

ソース機器がiPhone/iPadやPCに接続する場合にはデジタル接続が向いています。(iPodでも可能です)
この場合、DA-10では2系統のデジタル接続があるため、デジタル接続では二つのUSB端子をどう使い分けるかが問題となるでしょう。主にソースと端子の組み合わせで3通りが考えられます。普通の使い方が2通りと、マニアックな使い方がひとつです。(下記の2-1,2-2,2-3です)
まず簡単に話を始めると、USB AはiPhone/iPad用(2-1)で外で使いたいとき、USB microBはPC用(2-2)で家で使いたいときに使います。

2-1 USB Aを使用する - 外でiPhone/iPad/iPodを使う

これはいわゆるiDevice接続というやつで、ケーブルは同梱のライトニング - USB Aケーブル(10cm)またはApple 30pinドックコネクタ - USB Aケーブル(10cm)を使います。
この接続方式は旧iPod時代からありましたが、最近Appleでは30pinコネクタを排してライトニングになり、アナログラインアウトがライトニングではなくなったので必要性が増したと言えます。また最近この方式は拡張されてPhilipsのM2Lみたいにデジタル接続のヘッドフォンも現れています。iPodでは5.5世代(iPod Video)以降でサポートされていますがDENONの保証はClassic以降です。

この場合のスイッチ設定は以下のようになります。
出力モード切り替えスイッチ: Varにします
充電モード切り替えスイッチ: OFFにします
入力ソース切り替えスイッチ: iPod/iPhoneにします


入力をiPod/iPhone位置に切り替えてから同梱のケーブルでDA-10のUSB AにiPod/iPhoneをつないでください。
ゲインはほとんどの場合はノーマルで良いでしょう。

試聴はiPhoneに標準の白いケーブルを使ってDA-10のUSB Aに接続し、Edition8で試聴しました。
デジタル接続にすると透明感とクリアさがぐっとまして、情報量もかなり増えます。楽器の音鳴りがシャープになり、キレが良く、音色が鮮明にわかります。低域も深くなり、かつ膨らみがあまりなくタイトですね。
全体にかなり音質は向上し、このDAC(+AL32)部分の性能は高いと思います。4万円とは思えないくらい。細部は荒くなくなめらかに音像の面取りが丁寧にされているようで、DAC部分の上質さが分かります。
iPodとのアナログ接続だとやや中低域寄りでしたが、デジタルだと少し高音域にあがって帯域バランスが良くなり、全体も引き締まる感じです。デジタルただとワイドレンジ感もあります。
力強いがやや荒削りのアナログに比べると、デジタルでは上質で整ってHiFiチックに感じられます。けれどもやはり濃厚さと元気さは残り、分析的とかドライさはないですね。

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iPhone6+DA-10+ベンチャークラフトケーブル

標準の白ケーブルでもこのくらいデジタルの良さはわかりますが、さらにケーブルが変えられます。このライトニング - USB Aのタイプのオーディオグレードの交換ケーブルはVentureCraftとフルテックが出しています。
白ケーブルをVentureCraftにするとさらに一・二枚ベールが剥がれたように音空間が晴れあがってクリアになります。いっそう滑らかで音に重みが出る感じで、細部のなめらかさがさらに上質となり、粗さはほぼ消えます。低音域もさらに深く、低い音が自然にぶおっと出てくる感じです。豊かさが増して、全体に音質のかさ上げがあります。このくらいになるとかなりのマニアでも納得する音だと思います。42000円のアンプに15000円のケーブルを足すのかという話もありますが、15000円のケーブルを加えてもコストパフォーマンスはかなり良いと思いますね。
またVentureCraftのケーブルだとL字プラグなので、ケーブル側を下にしてバッグに入れることができます。入力と出力が逆側についているDA-10ではこれがとても便利ですね。

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iPhone5S+DA-10+iQube V3

専用のラインアウト端子はありませんが、出力をFixにして3段重ねの別ポータブルアンプに入れることもできます。(Fixにしたらいったん電源オフが必要です)
こうするとDA-10のDAC部分の音の上質さもよくわかると思います。

また、このようにiPhoneをプレーヤーとして使ったシステムで面白いのはアプリを使って音を変えられるという点だと思います。
たとえば、素直に高音質で聴きたいときはNeutron Playerがお勧めです。iPhoneのライブラリの音源も、FLACなどの音源も聴くことができます。もちろんこれは好みでもあります。
音を変えたいときはAudiophile Playerがお勧めです。これはMaXX AuidoというDSPで信号処理をするので大胆に音が変わります。もちろんRadsonやTxDolbyやCanOpenerなどが良いという人もいるでしょう。この辺ができるのもスマートフォンならではだと思いますね。

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AudioPhileアプリ

最近ではプレーヤー+ポータブルアンプという形態は話題性でハイレゾプレーヤーに押され気味だと思いますが、スマートフォン+ポータブルアンプって面白い展開があると思います。ハイレゾDAPのハード・CPUに比べると最新スマートフォンははるかに強力な演算性能があります。HF Playerの記事でも書きましたが、ソフトウエアの方が柔軟で高精細に信号処理ができます。あるいはアプリでHF Playerのようにアップサンプリングも可能だし、そのうちリアルタイムDSD変換なども可能になるかもしれません。ハイレゾDAPだと機能は固定ですので、アプリを入れ替えられるスマートフォン+ポータブルアンプは面白い展開ができるかもしれません。

2-2 普通にUSB MicroBを使用する - 家でPCで聴く

DA-10は家ではPCにつないでUSB DACとして使えます。このときはUSB MicroBを使用します。
Macではドライバーが不要で、Windowsではドライバーが必要です。オーディオクラス2ですね。下記ページからダウンロードできます。
http://www.denon.jp/jp/Product/Pages/Product-Detail.aspx?Catid=382c2279-a153-4d3c-b8fa-81b930454f67&SubId=USBDAC&ProductId=DA-10

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この場合のスイッチ設定は以下のようになります。
出力モード切り替えスイッチ: Varにします。ただしアクティブスピーカーにつなぐときはFixが良いでしょう。
充電モード切り替えスイッチ: 充電したいときはONですが、OFFにして電池給電にすると充電のノイズが減ります。
入力ソース切り替えスイッチ: USB DACにします

ゲインはほとんどの場合はノーマルで良いとおもいますが、HD800などをつなぐときはHighにします。
USB microB端子のケーブルが同梱されているので、これでPCと接続できますが、オーディオ用のUSBケーブルを使うことでここでも音質をあげられます。

microB端子をPCに接続するときはPCMが192/24まで、DSDは5.6MHzまでです。なお352kHzがソフトによっては見えることがありますが、これはDoP 5.6MHzを通すための一時措置でPCMで352kHzは使えません。(DA300でも同じです)

2-3 マニアックにUSB MicroBを使う - ハイレゾ・DSD対応をポータブルで使う

この辺はちょっとマニアックな世界です。DA-10の場合にはUSB microBもiPhoneで使えました。ただしiOS7.0以上が必要です。

この場合のスイッチ設定は以下のようになります。
出力モード切り替えスイッチ: Varにします
充電モード切り替えスイッチ: OFFにします
入力ソース切り替えスイッチ: USB DACにします


iPhoneにLightningUSBカメラアダプタ(カメラコネクションキット)を接続して、それにUSB A - micro BのUSBケーブルを接続するか、直結アダプタを使ってmicroBに接続します。

スマートフォンをプレーヤーとして使った場合のUSB microBとUSB Aの使い分けはハイレゾ再生とプレーヤーの再生時間のトレードオフ、または自由度の高さと便利さのトレードオフになります。
これは簡単にいうとmicroBのときは基本的にPCと同じ理屈だからで、USB Aのときはいわゆる専用のiDevice接続だからですね。むずかしくいうとプレーヤー(iPhone)をアクセサリーモード(USB A)とホストモード(USB microB)で使う場合の違いによるもので、下記のリンクをご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/404882406.html

* 2-1方式(いわゆるiDevice接続)の利点は次のようなものです。
簡単にケーブル一本で使える(高音質ケーブルもある)。
iPhone側の電池消費が少ない(理屈では)。
音源が48/24までのPCMのみ。

* 2-3方式(ホストモード接続)の利点は次のようなものです。
ケーブルにLightningUSBカメラアダプタ(または30ピンのカメラコネクションキット)が必要。(これはOTGケーブルとおなじです)
iPhone側の電力消費が多い(理屈では)。
入力レートの規制がない。ハイレゾ再生が可能。PCMで192kHzまで、DSDネイティブ再生も可能。

もうひとつの利点としてAndroidでも接続できると書きたかったんですが、やってみたらAndroidはWalkman ZX1+NWH10でもUSB Audio Player Pro+OTGでも対応できないようです。たぶんドライバーとDA-10ファームの問題かと思います。Android 5.0ではどうなるかは分かりません。

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iPhone5S+DA-10+LightningUSBカメラアダプタと直結プラグ

というわけでiPhoneにLightningUSBカメラアダプタと直結プラグを使って、ハイレゾ再生をしてみました。まずアプリはHF Playerを使ってヘルゲリエンの192/24を聴くとちょっとポータブルで聴いてるとは思えないくらい豊かな音を楽しめます。DA-10の場合はAdvanced AL32でアップサンプリングをしているのですが、入力サンプリングレートが高いほど低いリサンプリング率で済みますので(改変が少ない)、やはりハイレゾ音源の効果はあると思います。HF Playerでアップサンプリングしたら、というときにはどちらの補完性能が高いかによると思いますが、この辺はもう自分でいろいろ変えて確かめてみる、という世界だと思います。ちなみにPCM1795のスペック上の最大値は768kHzです。

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Hibikiを使ったDoPによるDSDネイティブ再生

次にアプリにHibikiを使ってDoPでDSDネイティブ再生をしてみました。これは丸くアナログ的なDSDネイティヴ再生オンで、DSDの良さがポータブルでも楽しめます。DSDはAL32を通りませんので純粋にDACの良さです。

3. DA-10のお勧めの使い方

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DA-10の一番のお勧めの使い方はUSB Aを使用したいわゆるiDevice接続でのポータブル使用だと思います。簡単に高音質で聴けます。電車の中でiPhoneでSNSやネットニュースを見終わってから、さあゆっくりしようというときにDA-10にiPhoneをつないで寝ながら音楽タイム、という感じで使えます。
あるいはiPod Touchと化した以前モデルのiPhoneを専用機として有効活用という手もあります(私は主にこれ)。

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DA-10 + HD800

音質が良いので家に帰ったらPCにUSB microBでつないでmini/標準変換のアダプターを使って大きなヘッドフォンで聴くということもできます。ゲインがついたのでゼンハイザーHD800クラスを使うこともできます。
ポータブルでもハイレゾやDSDネイティブを試してみたい人にはポータブルでのUSB microB使用がよいですね。ただケーブルの取り回しがちょっと難です。

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iPhone + DA-10 + LightningUSBカメラアダプタとUSBケーブル

ヘッドフォンの相性で言うと、Edition8はDENONらしい躍動感とDA-10の緻密さを堪能させてくれます。またW60+Estronが滑らかで音楽的、かつ緻密な側面を再現してくれます。Aurisonics Rocketsはダイナミックで動感あふれる側面を再現してくれます。

* まとめ

長く書いて来ましたが、簡易バージョンで言うと、DA-10は力強いアンプ部分と上質なDAC部分があいまって、価格以上の音を出しています。ボディもアルミの仕上げが上等でカッコ良いですね。ポータブルオーディオの初心者でも簡単なiPhoneとのデジタル接続で手軽に高音質が取り出せます。マニアなら、さらにDSDネイティブ再生をしてみたり、三段重ねのシステムに使ったりという拡張性もあります。
価格を考えるとかなりオススメのDAC内蔵ポタアンと言えるでしょう。

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あらためて普通の量販店に行って国産オーディオメーカーのポータブルヘッドフォンアンプが買えて保証もきちんと受けられるという時代になったんだなあと感銘します。私みたいに個人輸入してSR71とかXinとか言ってた昔からやっている人には隔世の感があります。今回いろいろと調べてみてさらにその感を強くしました。

DENON DA-10はスマートフォンに向いたDAC内蔵のポータブルアンプで、私みたいに海外マニアック製品マニアでも納得してしまうくらいの音質の高さがあります。また音へのこだわりがきちんと音質につながっていると思います。はじめはDENONもポータブルアンプを出したかと思ったくらいでしたが、中を調べて音を聞くとよく作られているので納得しました。
DA300でもなかなかと思ったんですが、DA-10では感服するくらい良く出来てると思います。特に音質レベルと価格を考えると、かなりコストパフォーマンスは高いと思います。

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DA-10ではちゃんとデノンらしい音が楽しめるのもよいと思いますね。同じD&Mでもマランツがポータブルアンプを作ったらまた音は違うのではないでしょうか。DA-10とは別のラインをマランツブランドで出すという展開もあってよさそうです。
ただ有線でアンプ接続時はやはりiPhoneは使いづらくなりますので、DA-10がAirplay対応でこの音質だったら、とも思います。Airplayはライセンス問題とかもあると思いますが、DENONはAirplayに強いのでぜひトライしてもらいたいですね。

これから長年使うとさらに国産ブランドの信頼性の高さ・故障のなさという良い面も見えてくるかもしれません。これはパイオニアのU-05でも思ったんですが、たぶん国産メーカーは技術的には地力はかなりあると思うので、あとは企画の問題だと思います。さらにはトレンドを作っていくということも期待したいですね。
これからもこのポータブルの世界に国産の品質の高いが出てくることを期待しています。

      
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2014年10月06日

CHORD Hugoケースの装着例 (iPhoneとCCK編)

この前のCHORDファンミーティングでHugoケースの発表があり、そこでさっそくAK100MK2と光ケーブルの接続例を紹介しました。下の記事です。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/405968825.html
そこで今回はiPhone5Sとカメラコネクションキットを使った時の装着例を紹介します。
まずこちらがHugoケースでボタンとベルクロテープで留めるようになっています。それぞれにはバンパーの役目とケーブルリールの役目も兼ねています。背面にはベルトがついています。

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こちらがiPhone5Sにカメラコネクションキットを付けてUSBケーブル(須山さんケーブル)でHugoに接続した例です。iPhoneの上下をバンドで固定させるので操作性は損なわれません。iPhoneのアプリはNeutronです。右側は接続がわかるようにあえてだらっとさせています。

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下がケーブルを巻き付けた例です。巻取りはケーブルにも寄ると思います。イヤフォンケーブルもライトアングル(L字)だとうまく収まります。ちなみにケーブルはロクサーヌケーブルです。

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またグリップは親指かけも兼ねていてこんな感じでグリップできます(右手でカメラ持ってる都合上やや不自然ですがご容赦)。

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Hugoをガードしながらきれいに保つHugoケースはなかなか機能的で便利でもあります。
これで私もせっかくもらったサインが消えないというものです ^^)


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2014年09月18日

クラウドファンディング開発のイヤフォン、AurisonicsのRocketsレビュー

話題となったPONOをはじめ、PS AudioとかLight Harmonicsなどクラウドファンディングによるオーディオ製品開発も増えてきましたが、本記事で紹介するRocketsはAurisonicsがKickstarterで募集したイヤフォンのクラウドファンディング開発による製品です。
Kickstarterでは私は$129で投資したのですが、最安は$99でした。そのうち$250くらいで市販されると思います。Kickstarterのページはこちらです。(すでに終了しています)
https://www.kickstarter.com/projects/1285259404/aurisonics-rockets-next-gen-iems-made-in-usa

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Rocketsの特徴はまずその名のようにロケットの形をした独特の3枚のタブです。また筐体はチタン製で、ケーブルはケプラーの特注品です。開発中はクラウドファンディングなので開発経過が出資者に報告されていましたが、このケーブルの遅れが出荷の遅れにかなり影響していたようです。

Aurisonicsはイヤモニの会社で、ダイナミックドライバへのこだわりで知られています。ふつうイヤモニはBAを使うことが多いわけですが、この会社はASG-1という大口径ダイナミック15mm一発のイヤモニで知られています。ちなみに他のモデルでは中高域にBAを採用したハイブリッドモデルもありますが、よく知られているのはこの大口径ダイナミック使いのメーカーということです(現行は14.2mmドライバーに変更されています)。
RocketsはShureやゼンハイザーのように最近流行りの小口径ダイナミックドライバーを採用しています。やはりダイナミックにこだわったわけですが、大口径ダイナミックドライバーでならしたメーカーが今度は小口径のダイナミックを採用したわけです。

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コンパクトな金属カンに入ってきます。私の場合はスペアのイヤチップが入っていました。
ケプラーのケーブルは赤と青のユニークなデザインがなされています。ケーブルの表面のビニールはやや摩擦があるタイプです。ここは意図的な設計だと思いますが好き嫌いがあるとは思います。またマニアック系ケーブルほどではないけれどもやや硬めです。残念ながらケーブルの交換はできません。ミニプラグがかなりがっちりしていて、はまりも上々です。ケーブルの質はこだわっただけあって価格的に考えてもかなり高いと思います。
装着についてはストレートも耳巻きも両方できると言うのがうたい文句だけどここが曲者ではあります。また特徴のタブは効果があいまいで、HeadFiなんかではよくはずされてます。

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音を聞いてまず感じるのは能率低いってことです。ボリュームは高めが必要ですがiPhoneでも音量は取れます。
音はわりと硬質でシャープ、柔らかいとか甘い音ではありません。全体にアタックやパンチはかなり鮮明で歯切れがよく、明瞭感があり、引き締まった感じです。音色はニュートラルで着色感はあまりないけれども、無機質にはそれほどなっていないのは良いところです。
低域は出すぎずに意外とあります。高音域も明瞭なので、ワイドレンジ感があります。標準の三角チップだとやや刺さる機種もあると思います。AK120IIはそれほどでもありません。
イメージングが良くてDAPによっては楽器の三次元感覚が楽しめると思います。深み、奥行き感があって、この点でAK120IIによく合うと感じます。音場の二次元的な広さ自体はそこそこですね。
ダイナミックにしては解像度高い方で、iPhoneでもオッと思うくらいですね。
解像力・情報量たっぷりのWestone W60なんかで日ごろ慣れてると、それほどでもないように思えてしまうけれども、やはりダイナミックのシングルドライバー機としてはかなり高いと思います。

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端的に言うと、硬質な明瞭系、シャープ系、スピードある系、イメージングやピントが決まる系でしょうか。音的にはチタンの筐体が利いていると思います。
相性が良く、Rocketsの魅力を引き出すと思ったDAPはAK120II、ARM1、Calyx M(FW0.97以降)でしょうか。Calyx Mは以前のファームだとややハイがきつめだと思います。iPhone5sの直も悪くないです。
HeadFiでははじめはER4Sとよく比べられていたんですが、ちょっと違うようには思います。

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イヤチップは標準のやや尖ったタイプがひとつ(M)と先端がやや丸いタイプが3つ(S/M/L)付属してきます。(わたしのには丸いタイプが一袋予備についてきました)。やや音が違っています。私の耳での変化ですけど、尖った方がやや高域が出てシャープ、丸い方はやや全体が穏やかになって低域が少し出る感じですね。アンプと合わせてきつすぎるときは丸いタイプが良いけど、どちらかというと尖ったタイプがこのイヤフォンらしい音のような気はします。ケーブルで調整できないのでチップで音を調整するとよいでしょう。

全体にかなりコストパフォーマンスが高いと思います。この価格帯にはないような高級な音が楽しめます。Kickstarterの$129だと格安ですね。$250でもかなりよいと思います。
クラウドファンディングなので開発経緯が分かるのも面白いところです。ただクラウドファンディングはプリオーダーではありませんので、あくまでリスクもあるし、納期の遅延やデザイン変更なんかは茶飯事ですから、くれぐれも注意してください。Rocketsは多少遅れはしましたが、クラウドファンディングではよいほうだと思います。
RocketsはKickstarterのみではなく、そのうち市販(予価$250)がなされると思いますのでこの記事で興味を持った人は情報に注意していてください。

いずれにせよ、クラウドファンディングによるオーディオ機器の開発も2014年のトレンドと言えるでしょう。
posted by ささき at 23:30 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年09月13日

"Meaty Monster" - iFI iDSD micro レビュー

*iDSD microとは

iDSD nanoでDAC内蔵ポータブルアンプの世界を席巻したiFIが満を持して発売したのがこのiDSD Microです。nanoに比べると筐体が大きくなり、第一世代のiFi機器に近いサイズとなっていますが、単にnanoの上位機種というラベルにはとどまらない高い汎用性と高い性能を兼ね備えています。基本的にはバッテリー内蔵のポータブル機器と言えますが、据え置きとしても高い能力を持っています。

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iPhone5sからCCKで接続

まず驚いたはiPhoneからのカメラコネクションキット(CCK)でのUSB入力がアダプタなしで接続できるという点です。iPhoneからDACに接続する際にはカメラコネクションキットを使用する必要がありますが、さらにカメラコネクションキットからアダプターを使うなどしてDACのB端子に入力する必要がありました。ところがiDSD microでは機器側が直接CCKのUSB端子を受けることのできる端子となっているため、アダプタを必要としません。かなりすっきりとシンプルに接続ができます。いままでのいかにも裏技でやっている感がありません。またSONYのZX1などのWalkmanでも同様にカメラコネクションキットに相当するNWH10を使用することで直接接続が可能です。まさにマニアがほしかった製品と言えます。

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実のところiDSD microはその構想をクラウドデザインとして始めました。クラウドデザインとはいまはやりのクラウドファンディングにも似たコンセプトで、ユーザー参加によって開発を進めていくというものです。クラウドファンディングとは違ってお金を出資するわけではありませんが、こういうものがほしいというアイディアを出してもらうわけです。クラウド(crowd)とは雲ではなく「皆が集まって」という意味です。その「みながほしいもの」公募はHeadFiに投稿されました。またその進捗を設計日記ということでHeadFiに書きこむというユーザーと一体になる手法を取っていました。(日本語でこの翻訳を読むことができます)
http://www.head-fi.org/t/711217/idsd-micro-crowd-designed-phase-2-smartpower-please-feed-the-meaty-monster-page-124
日本語ではこちらの開発ブログをご覧ください。
http://ifi-audio-jp.blogspot.jp/search/label/%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%83%85%E5%A0%B1

いままでのオーディオはいわばメーカーからトップダウンに開発されてきたわけですが、このヘッドフォンやポータブルオーディオの世界はボトムアップの文化と言えるでしょう。その違いを積極的に取り入れていくというiFIの姿勢は、ハイエンド(AMR)の技術をコンシューマーに届ける、というiFIの理念に沿うものと言えます。

* ポータブルでのiDSD micro

まずこの驚きのスマートフォン直結のポータブル形態で音を聞いてみることにしました。

WalkmanとNWH10をiDSD microに直結してEdition8で聞いてみました。
後でも書きますが、このタイプの接続ではセルフパワーでバッテリーを使うために、はじめにボリュームをオンにしてからUSB ケーブルをつなぐことが必要なことに注意してください。

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Walkman ZX1からNWH10で接続

まず感じられるのは透明感が高くクリアな音空間です。ノイズレスで、純粋な雑味のないピュアな楽器の音色表現に感じ入ってしまいます。余計な付帯音がなく、着色感も少なく正確な音再現といえるでしょう。
オーディオ的には周波数特性もワイドで、高いほうはすっと上まで伸びていき、ベルの音もきれいに響きます。これだけ美しく響くならばSNも相当良いのでしょう。帯域の低いほうはロックでもかなり深いベースが絞り出されてきます。ヴォーカルは透き通ったように美しい歌声が堪能できますね。
据え置きレベルと言ってよいかなりレベルの高い音で、これがポータブルで出てくるのなら相当なマニアでも満足でしょう。Edition8のような高性能のヘッドフォンで聴きたくなるような音です。
できればこの音に見合うような高品質なUSBケーブルを作ってほしいところです。

またiDSD microは別に電源出力用のUSBポートを側面に備えていて、バッテリーはスマートフォンの外部バッテリーとしても使用することができます。いまからのインフラでもあるスマートフォンにまじめに取り組んでいると言えるでしょう。

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それに加えてiDSD microは前面に3.5mmミニのアナログ入力端子を備えています。これで聴くとDACだけではなくアンプの能力を切り出してもなかなかすぐれていることがわかります。最近はこうしたDAC内蔵のヘッドフォンアンプでは入力がデジタルだけという割り切りも多いのですが、あえてアナログを設けたのはたしかクラウドデザインでの要求だったと思います。なかなかマニアックな着眼ですね。

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真ん中の小さなプラグがアナログ入力端子

* 据え置きとしてのiDSD micro

次にiDSD microはバッテリー内蔵のポータブルヘッドフォンアンプであると同時に、PCオーディオにおいて高性能なUSB DACとしても使用することができます。この時はバッテリーからクリーンな電源を取り出すこともできます。iDSD microはバッテリーを使用するセルフパワーと、USB経由で電力を受けるバスパワーを任意で切り替えることができます。これは説明書に書かれていますが、パワーオンとUSB接続のタイミングで自分で任意に設定ができます。
もとろんiFIですからバスパワーの品質がなおざりにされているわけではなく、バスパワーでは得意のiPurifierが内蔵されています。これでUSB入力の信号をきれいに整えるわけです。据え置きのデスクトップに置いてはヘッドフォンアンプとしてだけではなく、プリアンプ、またはDACとしても使えます(出力の固定や可変が底面スイッチで設定可能です)。
クリーンな電源とそのパワフルなアンプでポータブルだけではなく、デスクトップでも能力を発揮できます。

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赤いスイッチがパワーモード切り替え

またiDSD microの大きな特徴として出力機器へのパワーを調整する機能を通常のゲインではなく、パワーモードというスイッチで電力の管理をしています。これもおいおいと説明していきます。

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Sennheiser HD800

USB DACとしての音を聴いてみました。WindowsのJRiver19をプレーヤーとしてUSB DACとして接続してバスパワーで聴いてみました。ヘッドフォンはHD800を使用しています。
音質はポータブルの時と同様にピュアでクリアな音ですが、それが一層研ぎ澄まされて、解像感が絞り出されたように情報量が多くなり、さらにダイナミックにかつスピード感のある切れのあるシャープな音が楽しめます。パワーモードはノーマルですが、HD800を十分にドライブしていると思います。バスパワーでも十分ピュアな音なのはiPurifierが効いているのでしょう。
ここでパワーをターボにするとやや力感過剰になりますが、実はこのモードの真価は...後に続きます。

* iDSD microを語るキーワード "OTW"

iDSD microを語るキーワードというか、テーマは“Outta this World (OTW)”(この世のものとは思えない)です。つまり他の機種に比べての大きなアドバンテージです。ちなみにOutta this WorldはOut of this worldのくだけた表現です。

OTWその一はPCMでの768kHz(DXDx2)、DSDでの22.6MHz(DSD512)対応です。
現状ではPCオーディオでの据え置きの先進的な機種でさえごく一部のみに11.2MHz(DSD256)が採用されているにすぎないのですが、iDSD microはコンパクトなパッケージでそれらを凌駕する22.6MHz対応を実現したわけです。
これはiDSD microの開発日記の日本語訳(下記リンク)にその詳細を見ることができます。
http://ifi-audio-jp.blogspot.jp/?m=1
上のリンクの記事で「オーディオは新しい序列を持った」とありますが、新しい序列というと意味がよくわかりません。ここの原文を読むと"New Order"であり、これを翻訳するならば「新秩序」ですね。新秩序のもとの意味は政治的なものもあるので調べていただくとして、いまでは一般的には新しい基準・新しい世界の意味として使われます。"New Standard"でも意味は通じますが、New Orderと言ったのは有名なニューウェーブのバンド名にかけてると思います。
つまりはいままでのPCMは192kHzかすごくても384kHz、DSDは進んでるといっても5.6MHz、最高でも11.2MHzだったのですが、ここで768kHz、22.6MHzという新しい基準を打ち立てたということです。標準と思われていたバーを引き上げたといってよいでしょう。iDSD microの底面には誇らしげにロゴとスペックが所狭しと印字されています。

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22.6MHzはもちろん、11.2MHzのDSD音源さえ入手がまず困難ですが、NetAudio誌のNo15に11.2MHzの音源が付録でついてきます。まずファイルサイズで一曲945MBというところに驚きますね。個人的に言うと、普通のDSD64(2.8MHz)のDSD音源だと192kHzハイレゾと比べて音が柔らかく滑らかという違いがあるくらいですが、DSD128(5.6MHz)となると音の情報量がぐっと違ってより濃密で精細な音質が楽しめるようになります。OTOTOYのCojok+徳澤青弦カルテットのQUANTなんかはよいですね。
http://ototoy.jp/_/default/p/32369
11.2MHz、さらには22.6MHzというとまた可能性が広がることでしょう。ちなみにたいていの再生ソフトは5.6MHzまでしか再生できないので、その辺から立ち上げる必要があります。この11.2MHz音源はFoobarのASIO(+SACDコンポーネント)を使わないとうまく再生できませんでしたが、これはラフに設計されたソフトの方がなまじチェックがないのでかえって柔軟性があるということかもしれません。
(9/16 追記) iOSのhibikiアプリがiDSD microとの11.2MHz(DSD128)でのDoPによるDSDネイティブ再生に対応したということです。
PCMの384KHzを超える世界についてはソフトウエアでアップサンプリングして試してみることができます。Ardivana Plusでアップサンプリングをし、表示ディスプレイで705.6kHzとか見ると新鮮です。この感覚が"OTW"ですね。

OTWその二はヘッドフォンのパワーモードに完璧にマッチしたiEMatchです。
ヘッドフォンアンプの場合には高能率でノイズを拾いやすいイヤフォンから、逆に能率が低くパワーがないと鳴らしにくいヘッドフォンまで多様な再生機器を最適にドライブする必要があります。とはいえ、多くのヘッドフォンアンプはよいところゲイン切り替えがある程度です。
iDSD microではパワーモードに小出力用のecoを設けることで電池の持ちを優先させつつ小出力のイヤフォンなどに対応ができます。さらにそれに加えてIE Matchという機能で高能率、あるいは超高能率のモードを切り替えで選択することで高能率のイヤフォンに対応しています。ここまでやるか、というレベルまで最適化を考えるのがOTWなのでしょう。
最近はやりのカスタムイヤフォンなどはみな高能率なのでこの機能は大いに役に立つでしょう。

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JHA ロクサーヌ カスタム(iPod Classicからアナログ入力)

OTWその三は8v/4000mWのターボヘッドフォン出力、上とは反対に高出力の必要性への対応です。最近のヘッドフォンのはやりの一つは平面型ヘッドフォンです。これらは音質は高いのですが、能率が低く鳴らしにくいという欠点をもっています。そこでiDSD microではパワーモードにターボモードを設けてこの高出力に対応しています。別名で平面駆動ヘッドフォンモードと言っても良いでしょう。中でも特に名指しで対応を表明しているのはHiFiMan HE6です。HE6はK1000と並び称されるほど能率が低いヘッドフォンで、下手なヘッドフォンアンプを使うとクリップさせてしまいます。
私はこのHE6も持っています。こちらについては下記のレビュー記事があります、
http://vaiopocket.seesaa.net/article/171206322.html

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HiFiMan HE560

まず同じHiFiManの最新の平面型であるシングルエンドマグネット方式を採用した平面型HE560を使ってみるとノーマルモードでは物足りなかった力感が生き返ったように生き生きと音楽を奏でてくれます。しかもバッテリー駆動でもその音が出せるのは痛快な感覚さえありますね。単にハイゲインで鳴らすというのとはパワー感も異なるように思えます。

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Audeze LCD-2

次に平面型を復活させるきっかけともなったAudezeが設計したLCD2を使ってみます。ノーマルでも音はならせますが、ターボモードではまるで音が跳ねていくように軽快にパワフルにドライブできます。低音の震える様子もターボではより明瞭に聞こえます。

さて、HE6です。これはEF6のバランスでないとふつう音量を取ることさえかなわないのでバランスプラグを付けたままなんですが、それを外してHE560のシングルエンドケーブルで聴いてみます。
普通のヘッドフォンアンプではフルに回し切っても音量が取れないほどのHE6でも意外とパワーモードがノーマルでもなんとか音量が撮れるくらいはあるので、実はノーマルでもかなりのパワーがあることがわかります。ただしこのモードでは曇り感やだるさ感が感じられます。

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HifiMan HE-6

パワーをターボモードにすると驚くことに息を吹き返したようにあのHE6がスピード感のあふれるジャズやロックを演奏してくれます。いつもはラックサイズのEF6でHE6を使っていますので、このサイズのアンプがこれだけの駆動力を持っているということにただ驚きます。

そしてiDSD microは同時に繊細なカスタムイヤフォンもIE Matchできめ細やかに鳴らすこともできるのです。それに気が付くとまた驚きますね。パワーモード切替は単なるゲインを超えたドライブコントロール力をiDSD microに与えてくれています。

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iPhoneとHE560

このようにIEmatchとパワーモードでHE6(平面型ヘッドフォン)から高感度イヤフォンまで、さきに書いたようにスマートフォンでのポータブルから家でのPCオーディオのUSB DACまで、万能に使えてハイスペックであるのがiDSD microのOTWです。

* ソフトウエアの最適化

iDSD microでは先に書いたようにターボモード、ecoモードのように電源管理を行っています。またユニークな光/SPDIF入力の兼用端子、そして入力の自動切り替えなどこれらはソフトウエアでモニタリングされています。

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SPDIF入力

このように高度なソフトウエア処理をしているのもiDSD microの隠れた特徴ですが、中でも特筆すべきものはXMOSの最適化でしょう。

データの入出力の流れの制御をつかさどるXMOSチップはそれ自体が小さなコンピュータなのでソフトウエア(ファームウエア)が重要になります。XMOSははじめに標準のプログラムコードがついてきますが、それはおまけのようなもので十分ではありません。
以前フェーズテックさんがUSB DACであるHD-7A 192のXMOSのファームウエアを書き変えて、元のコードと切り替えて試聴できるようにしたプロトタイプを聞いたことがあります。新しいXMOSコードは最適化(高音質化)をかなり考慮したものですが、おまけについてきたコードとは低域の実在感や全体の解像力が大きく向上していて、ファームウエアの違いだけでこんなに違うのかと驚いたことがあります。(下記記事)
http://vaiopocket.seesaa.net/article/205289553.html

この点でも参考にする設計チームの日本語訳があります。ただし下記の日本語訳に「ストックされているXMOS USBのプラットフォーム」とありますが、ここも実は適切な訳ではなく意味が通じなくなっています。
http://ifi-audio-jp.blogspot.jp/2014/06/micro-idsd4-2.html
原文は"stock XMOS USB platform"なのですが、ここでのstockは(手が加えられていない)標準添付のとか、(カスタムではない)出来合いのという意味です。つまりここでいう「標準添付(stock)のXMOS USBのプラットフォーム}とは上で言うおまけではじめから付いてくるXMOSのファームウエアのことです。つまりこの標準コードだけでは十分ではありません。
iFIでは標準(stock)状態のXMOSコアの負荷状況を解析して、その最適化をしています。
下図の上が標準(stock)の状態で、不自然な負荷ピークがありますが、最適化後は下図のように自然な負荷分散に改善されています。

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またiFIではスター・クロッキング方式という独自のタイミングを考慮したファームウエアを書きあげています。
これは幾つものXMOSソフトウェアモジュールが単一の高精度マスタークロックによってタイミングコントロールされるというもののようです。解説では軍用のリアルタイム制御システムが例に取られていますが実際にメンバーはそうしたところで豊富な経験を持っているようです。

ちなみに上の記事ページに使われているミサイルの画像は最新のMBDAミーティアです。ミーティアはロケットエンジンではなくジェット(ラムジェット)エンジンです。普通ミサイルは目標に当たる時には燃料が切れて慣性で飛んでるだけですが、ミーティアはジェットで燃費制御出来るので命中時にさらに加速して目標の回避に追従できます。その点でリアルタイム制御はよりシビアなんでしょう。

* iDSD microのこだわり

iDSD microは別な言葉で言うと、これまでのiFI製品の集大成的な製品ということもできます。それは電源・信号のクリーン化へのこだわり、AMRの技術継承などです。

たとえばユニークなこだわりは極性反転スイッチにあると思います。これはなんの役に立つかというと、レコーディングの極性が間違っているときに修正ができるということだと思います。
実際のところ、XTCが極性反転エラーを修正したCDを出し直したのは有名な話で、彼らによると「極性エラーはマスターリングの世界では良くあることで、マルチとミックス間にたった一本の間違ったケーブルがあるだけで発生する」ということだそうです。本当かどうかはわかりませんが一説によるとアルバム約4枚の内1枚に起こるとも言われているとか。音が怪しいと思ったらスイッチを試してみるのもよいかもしれません。
ちなみにXTCの極性を修正したCDはこちらです。
http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/B00IXL18OU?pc_redir=1404837414&robot_redir=1

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XTC - Skylarking (corrected polarity edition)

もちろん高品質パーツも、超低ノイズ&超低歪みの酸化タンタル薄フィルム、あのハイエンドオーディオで使われるテフロンにも近いというC0G絶縁体を採用したコンデンサー、無酸素銅線による金メッキ4層ボードなど第一級の品質にこだわっています。

ハイエンドAMRの技術継承という点で言うと、例えば下記のリンク記事にある電源の正負反転の精密制御などがあります。普通こんな細かいところならコストのために手を抜いて、、とするところが、iFIではすでにコスト転嫁したハイエンドオーディオから持って来てあくまでこだわるわけです。
http://ifi-audio-jp.blogspot.jp/2014/06/micro-idsd15i.html?m=1

また3つのデジタルフィルターもAMRの継承によるものです。Minimum PhaseはAyreでも有名なように他のメーカーでも使われていますが、Bit PerfectはAMR独自のデジタルフィルターです。

iFIのこだわりのひとつ、アナログによる3Dエンハンスもおなじみになりましたが今回も採用されています。iFIの3Dやベースエンハンスは自然な効果があり、実際に使えるエフェクトスイッチだと思います。これらはコンシューマー用の「ベースブースト」などとは一味違います。
またこの3DがiFIのこだわりの理由というのはこの機構がミッドサイド・ステレオ(MS処理)を利用しているからだと思います。Mid-Sideステレオ処理(MS処理)については下記に書きましたので参考までにご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/386365476.html
いまはiFIのシンボルとなった3D機能ですが、iFIのトルステン博士とインタビューしたときにもブルームレインの著書を見せて雄弁にステレオ技術の伝統について語ってくれたのを思い出しました。これはブルームレインと古き良きステレオの時代へのオマージュであるのかもしれません。

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アラン・ブルームレインと著書

普通はカタログにかけないような電源とかはコンシューマ製品ではこだわらないものですが、そこまでやるか、というのがこだわりであり、また英国の技術の伝統への誇りも感じられます。それが技術者集団としてのiFIの矜持と言えますね。

* まとめ

iFI Audioの日本語ホームページはこちらです。
http://ifi-audio.jp/
FacebookにもiFIのページがありますのでご覧ください。最新情報がわかります。
https://www.facebook.com/pages/Ifi-audiojp/449735338455976?fref=nf

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iDSD microは別名を"Meaty Monster"と呼ばれています。中身がいっぱい詰まった怪物という感じでしょうか。これはこれまでの説明からわかっていただけたと思います。
iDSD microはカメラコネクションキットのアダプタ不要での入力や、外部バッテリー機能などスマートフォンとの親和性も考慮しながら、PCM768KHz対応・DSD22.6MHz(DSD512)対応と最先端のスペックを持ち、平面型を鳴らし切ってしまうハイパワーを備え据え置きとしても一級の性能を持つ万能なオーディオ機器と言えます。スマートフォン、DSD、平面型ヘッドフォン、カスタムなどの高能率イヤフォンなどなど、業界のトレンドをとらえて上手に対応しています。
そうしてクラウドデザインによって先端のマニアのこだわりを吸い上げる一方で、極性反転や電源へのこだわりなどiFIらしいハイエンドメーカーの遺伝子を感じさせる自らのマニアックなこだわりも備えています。
まさにiDSD microはiFIのいまを感じさせる集大成的なオーディオ機器と言えるでしょう。


今年はiDSD micro、AK240、Hugoとポータブルの高性能製品が目立っていますが、これらは単に「ポータブルでは音が良い」というところにとどまっていません。AK240によってはじめてDSDの無線ネットワーク再生が実用のものとなりましたし、Hugoは据え置きのハイエンド機さえ凌駕する演算性能を持っています。そしてiDSD microは据え置き機でさえ実現していないDSD22.6MHz対応を実現しました。もはや据え置きのPCオーディオではなく、まずポータブルから革新が始まるというのが2014年に見え始めたトレンドと言えるのかもしれません。
posted by ささき at 12:13 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年06月25日

Westoneの新しいフラッグシップモデル、W60レビュー

インイヤーモニターではUEやShureと並ぶ老舗であるWestoneがそのフラッグシップであるW60をCES2014で発表しました。そして2014年CESのヘッドフォン部門で『BEST of CES 2014』アワードを受賞しています。
日本ではテックウインドから発売され、予約は6月13日から開始されています。発売日は6月28日、想定価格は約119000円です。

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特徴はWシリーズのコンパクトな筐体に片側6つのドライバーを搭載したことです。今回試聴してW60は単に6つのドライバーを採用したという話題性だけではない高い実力を持つことがわかりました。
本稿では実際にしばらくW60を使ってみたレビューを書いていきます。

* Westoneについて

まずはじめにWestoneの背景を簡単に解説します。
ウエストンは1959に創業しました。はじめは補聴器の分野で使用するようなカスタムイヤーピースを製作していましたが、80年代後半あたりからインイヤーモニタの製作をはじめました。WシリーズはWestoneシリーズを継ぐWestoneのユニバーサル(カスタムではなく普通のタイプ)イヤフォンです。
以前Westoneのインタビューをした際にはWestoneの強みはまず人の耳に対する我々の長い経験だと言っていました。Westoneは50年にわたって1500万以上のイヤピースを製作してきています。そのためライバルたちよりも人の耳に対して多くのことを知っているという点、どのようにフットし、どのように快適に装着ができ、ステムの角度などさまざまな要素があり、その知見の深さをまず強みとして挙げていました。それは抜群に耳の装着感が良いWシリーズに表れています。シンプルでいて効果的です。
次の特徴はと聞くと、Westoneならではの暖かみがあって滑らかで聴き疲れのないバランスのとれたアナログ的な音であると答えていました。これもWestone4から、W60にわたって引き継がれていると思います。
これらのことについてはまた後で触れることになります。

* 開封した印象

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まず開封して気が付くのはイヤチップの種類が豊富であるということです。また大きさが色別に分類されているのもわかりやすいところです。イヤフォンは装着してうまく耳に合うというのが良い音質を得る条件ですので、これだけの種類があれば耳にぴったりと合うものがあるでしょう。またさきに書いたように耳にフィットするというのがWestoneの強みでもあります。
チップの出来も良く、標準サイズでも低音が漏れてる感が少ないですね。

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またWシリーズの特徴でもありますが、着脱式のカバーもユニークな点です。これはレッド/ガンメタルシルバー/シャンパンゴールドの3色が用意されていて、付属の小さなドライバーで取り外しが簡単に行えます。決められたカラーバリエーションではなく自分で気分に応じて選ぶというのも面白いことだし、右側だけをレッドにして判別しやすくするということもできます。
さきほどのイヤチップともあわせて、カラフルというのが箱を開けた時の印象です。

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ケースはペリカンケース風のオリジナルケースが付属してきます。

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W60の本体を手にしてまず驚くことはそのコンパクトさで、なかに6ドライバーものユニットが入っているとは思えないサイズです。装着はそのためこのクラスにしては考えられないくらい快適で、装着したまま寝ても気にならないと思います。

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後で書きますが、このレベルの高い音質を実現しているユニバーサルタイプはたいていはカスタムIEMをベースにしたもので、あまりコンパクトとは言えません。しかしW60はイヤモニというよりも普通にイヤフォンと呼べる気軽さでこの音質を実現しているのだから感心します。ユニバーサルの手軽さ、気軽さと高性能を併せ持つ。良い意味でイヤフォンと呼べます。

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ケーブルは2本入っています。リモコン付とリモコンなしでツイスト線を使っているものです。上はリモコン付のケーブルです。ケーブルも柔らかくて使いやすく、音の品質も良いと思います。標準の状態でも満足できるのがW60のよいところだと思いますが、W60はMMCXケーブルでリケーブルすることが可能です。
ただ装着部分が傾いていて細身なのでプラグが太いものを使うときには事前に確認したほうが良いと思います。

* 音の印象

箱を開けてとりあえず聞こうとAK240につなぐと「おっ」と思わず言ってしまいました。そのくらいはじめからとても良い音です。小さいのに迫力を感じたので、おっと言ってしまったのかもしれません。まず音の広がりのよさが印象的で、音が広大です。カスタムを入れてもトップレベルかもしれません。ベースも豊かなので迫力があります。特にW60+AK240で聴くクラシックは圧倒的な迫力のある音再現がよく伝わってきます。
おそらくこんなに小さなイヤフォンがこんなにスケールの大きな音が出てくるのは実際に聴いてみないと信じられないでしょう。楽器の立体感もなかなかすぐれていて、おそらく位相もよく揃ってないとこんなにフォーカスがピッタリあって空間表現の雄大な音はできないと思います。
シンプルなシングル孔のステムで音が曇ったり濁ってないのも驚きです。ステムの太さが装着を犠牲にしないで細いのに音質も確保されてるのは、その仕組みについて興味を覚えてしまうほどです。実際これは後でWestoneのサウンドエンジニアに質問をしてみました、その回答は後述します。

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中高音域はシャープで鮮明でありながら、きつさがないのも良いところです。クリアで楽器音の分離も良いですね。解像力・情報量もかなりのもので、しゃがれたようなヴォーカルとかハスキーなヴォーカルの肉質感の豊かさに感心します。また効果音として入っている木の椅子がきしむ音などはとてもリアルで電車で聞いていて思わず振り向いてしまったほどです。

低音域は少し強調感があります。ロックでもエレクトロでもどんどん低音が出てくるのは良いところですが、パーカッションやドラムスでキレが欲しいところではやや緩めです。ここは賛否あるかもしれません。打撃音で柔らかさが出てしまうのが問題といえばそうですが、好みの問題でもあるからです。
低音域の下のほうも十分低い領域まで出てると思います。オーディオテスト用のパイプオルガンのローカットあるなしの音源で聴いても違いがはっきりわかるので、十分な低いレスポンスは出てるはずです。
全体的な帯域バランスは上手によく取れていると思います。

W60の音の全体的な印象はWestoneらしく柔らかみと温かみがフレーバー的に足されて音楽的です。実のところこれが一番気に入った点です。音が滑らかで聴きやすく美しいですね。
わかりやすく言うと、音の性格はWestone4の延長でいながら、ずっと高いレベルの音とも言えるかもしれません。楽器の音も分離感もくっきりとして鮮明で、音色もきれいです。ウエストンらしいよさで音楽をもっと聴いていたくなるような魅力があります。
帯域バランスも良く、AK240のような音楽的DAPに向いています。AK240のスケール感をよく引き出すイヤフォンでもあります。最高のDAPであるAK240にまったく負けていませんね。また別に書きますがAK100IIともよい相性です。

交換ケーブルも用意してたんですが、標準ケーブルと標準チップでずっと聴いてしまいました。標準で完成度が高いのもよいところです。リケーブルするなら快適性をそこなわないEstronなんかが良いですね。MMCX Musicが良かったと思います。

* W60と他機種の比較

片側6基ドライバーの機種では先にEarSonicのS-EM6がありますが、S-EM6は音が混ざって濁る感じで、あまり整理されてません。それに比べるとすっきりクリアなWestoneの設計の巧みさはさすが老舗です。
特にこんなシンプルなほそい一穴ステム、コンパクトなサイズでこれだけの性能が出るのは驚きでさえあります。

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価格の近いユニバーサルのK3003とAK240で比べると端的に言うとW60の方が上だと思います。
まず音場の広さはかなり差がついてW60の方が良く、空間的・立体的な広がりが感じられます。
帯域的な音のバランスの良さでもW60の方が整っています。中高音域はW60は群を抜いていてヴァイオリンのソロなんかを聞くと、高音域に優れると思っていたK3003が薄く軽く思えるくらいですね。W60はK3003に対して伸びがあるだけではなく、高音域の美しい煌めき、音の立体感、充実度合いがずいぶんW60が優れています。
おそらく高音域の厚み豊かさってあまり言われないことではありますが、W60はそれを教えてくれます。ヴォーカルを聴くとW60がK3003に比べていかに豊かで厚みがあるかがよくわかります。K3003は軽薄な印象を受けます。まあ前はK3003は良いと思ってたんですが、上のものが出るとこうなりますね。

ベースはさすがにダイナミックのK3003の方がパンチがあり量感豊かです。ダイナミック対BAだからというよりWestone4もSE535に比べるとそうでしたが少しベースが緩めです。DTECドライバーのくせかWestoneのチューニングかはわかりませんが、W60も少しベースの柔らかさを感じます。ただ量感は意外なほどあって、ぱっと聴くとベースはむしろW60の方が多めと感じるかもしれません。それでもK3003はベースヘビーでW60は全体的にバランスが取れてるように聞こえるので、いかに中高域ではW60が低域に負けないほど充実してるかがわかります。
解像力も驚くことにはW60の方が上ですね。情報量とか音数の豊かさというべきでしょうか、録音の良いアコースティック楽器の音源ではW60の良さを感じるでしょう。さらにW60ではK3003に加えて音数の豊富さが音の厚みに繋がってるように思えます。
ただハウジングの豪華さではやはりK3003が良いところです。W60は見た目よりも音の中身と快適性を重視する人のためのイヤフォンと言えます。

おそらく直接のライバルはShure SE846だけれども、SE846は持ってないので比較できません。
おそらく推測するにWestone4とSE535の比較に近いと思います。ただし進化の方向性はSE846ではユーザーチューニングやローパスフィルターなどの方向に行ったのに対して、Westone W60ではドライバー数を増やして行くという方向性が面白いですね。SE846でもドライバーは増えてますが。

同じWestoneのW50も聴いてませんが、Wファミリー上位機種の住み分けはあると思います。
W60のドライバー構成はおそらくWestone4から推測すると、TWFKx2とDTECみたいな感じでしょうか。おそらくW50は低域一個というのはロードライバーが大きいCIのようなユニットなんでしょう。そうするとW60とW50は単に松竹梅というよりもぶわっとした低域の量感重視の人ならW50で、バランスの取れた音ならW60という切り分けなんでしょう。

* W60の高音質の秘密とは

今回W60がシンプルでコンパクトなデザインなのにもかかわらず、6ドライバー搭載と高音質が可能になった背景に興味を持ったので、テックウインドさん経由でWestoneのサウンドデザイナー、カール・カートライト氏(Westoneサウンドの"ゴッドファーザー"だそうです)にいろいろと質問してみました。

まず普通ひとつ穴のステムでは音が濁り、穴3つが良いとされていますが、W60ではシンプルな一穴のステムで高音質を確保する秘密はと聞いてみたところ、下記のような回答をもらいました。

カートライト:「穴3つはイヤーピースのアウトプットをイヤーカナルに伝える一つのオプションではありますが、物理的なサイズという部分で欠点があります(穴3つはより大きなステムが必要になるため)。
また太いステムにすると、イヤチップのクッション効果が犠牲になり快適性を損なってしまいます。
私は何百何千ものカスタムイヤーピース作成において人々の耳道を見てきましたが、結果として細い口径のステムの方がより良いと信じるようになりました。
このような小口径のステムで高音質を実現するためにはイヤピース内のドライバー相互の物理的位置関係や役割に基づいたクロスオーバーの位相設計、そして直径と長さについて細心の考慮が必要です。」


またステムの中をみると金属チューブが見えますが、これは音響ダンパーだそうで、イヤーピース設計の最終的な共振ピークを「ならす」働きをしているそうです。この辺はきつさの無い高音域に貢献しているのだと思います。

次にこのようなコンパクトサイズに片側6個ものドライバーを内蔵し、さらに位相を揃えるための工夫はどうしたか、と聞いてみました。

カートライト:「根気強さ、実験検証、インスピレーション、多くのプロトタイプ、そして私たちはどのように改善(進歩)したいのかという明確な絵を描くことです。」

Westoneの長い経験、ノウハウに基づいた回答ですね。これはS-EM6と比べるとよくわかります。
実のところドライバー的なスペックではS-EM6の方が上かもしれないんですが、トータルの音性能ではW60はずっと上手です。最終的にはドライバー云々というよりも経験とノウハウに基づいた設計が大事ということなのでしょう。

* まとめ

W60は音のレベル的にはイヤフォン・イヤモニのなかでもトップクラスと言ってよいと思います。
AK240の性能もかなり上手に引き出しますし、RWAK120-B+Portaphile micro Muses01のホームアンプなみの音質でも十分に受け止められる性能レベルがあります。
実際にこのくらいのレベルのアンプでもW60のアラがわかりませんし、このクラスのアンプでないと出ないような強い打撃音でもそのまま再生できる伸び代があります。

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W60は音質の良さを考えるとステムを太くしたり、ハウジングを大きくしたり、やたら太いケーブルを使ったりとマニアックな方向に行っていないというのが面白い点であり、それで高音質を実現した驚きがあります。

高音質だけではなく、快適性も両立させたW60の良さは使ってみて分かると思います。
ぜひこの素晴らしいコンパクトモンスターを試してみてください。
posted by ささき at 22:26 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする