Music TO GO!

2023年09月01日

多機能なヘッドフォンアンプ、Shanling H5レビュー

Shanling(シャンリン)は中国の大手オーディオメーカーで、1989年に創業して多様なラインナップのオーディオ製品を販売しています。最近ではポータブルオーディオにも進出してさまざまな製品を日本市場でも販売されています。例えば今年1月に発売された「H7」は高機能のDAC内蔵ヘッドフォンアンプです。「H7」は高機能ですが少し大柄で10万円前後とやや高価な製品でした。いわゆるポータブルというよりはトランスポータブルというタイプです。
今回レビューする「H5」は「H7」の小型廉価版とも言えるDAC内蔵ポータブルアンプ製品です。「H7」が搭載していたポタアンながら内蔵音源(ローカルファイル)を再生できるという多機能性を引き継ぎながらも、より小型でほぼ半分の価格となったものです。高機能性を保ちつつ、モバイル用途にも向いたモデルと言えます。

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Shanling H5とM2 Macbook Air、SUPERIOR

カラーはブラックとチタニウムの2色が用意されてサイズは102×85×25mm、重さは270.4g、市場価格は現在52000円前後です。

* 特徴

筐体は航空機グレードのアルミニウムを使用した金属筐体で、シンプルな液晶ディスプレイがついています。背面には各種端子が並び、前面にはダイヤルが二個ついています。右側は主に音量を変更し、左側はモード変換や操作などを行います。これは「H5」の各モードでも異なります。

写真 2023-08-04 7 33 55_s.jpg スクリーンショット 2023-08-07 15.38.05.png  スクリーンショット 2023-08-07 15.37.51.png

まず「H5」は多機能なアンプです。入力はDAC内蔵なのでデジタルのみ、光デジタル/同軸デジタル/USB入力(USB DAC)とマイクロSDカードによる内蔵音源の再生(ローカルファイル再生)も可能です。このローカルファイル再生で使われるTFカードというのはマイクロSDカードの中国呼称です。この他にBluetoothレシーバーとして使うことができ、LDACに対応しています。再生可能コーデックはLDAC、AAC、SBCですので、iPhoneとの組み合わせではAACを使うことになります。
出力は3.5mmアンバランス/4.4mmバランスの他にRCAラインアウト出力です。つまり「H5」の光入力やRCA出力を組み合わせるとホームオーディオ機器と繋ぎたい場合に便利に使えます。
USB DACとしてはPCM 768kHz/32bit、DSD512、MQAに対応しています。
また設定でUSB接続をUAC1.0モードにすることができるので、ゲーム機などと接続したい時はこちらにした方が接続しやすいと思います。UACとはUSB Audio Classのことで、UAC1.0ではほとんどの場合にドライバー不要だから相手を選びません。ただしUAC1.0にするとハイレゾが使えません。
付属品もケーブル類が充実していて、USBで接続する際のOTGケーブルやSPDIFケーブルなど入出力系が初めから付属しています。

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また「H5」は基本性能も優れていて、DAC ICに10万円を超えるDAPのShanling H6 Ultraでも搭載されたAK4493SEQをデュアルで搭載しています。アンプ部分はヘッドフォンアンプでよく使われるTIのヘッドフォンアンプ用ICのTPA6120A2を採用、最大出力840mW@32オーム(バランス時)と大出力です。後でも書きますが、実のところアンプICとしてTPA6120を採用している点がH5の機材としての性格を決めているように思います。ヘッドフォンアンプで1W近くあるとほぼ据え置き並みと言って良いくらいですのでポータブルとしては十分すぎるくらいです。イヤフォンだけではなくヘッドフォンにも向いているでしょう。ゲインはLow/Middle/Highと3段階あります。
またUSB入出力にXMOSチップを採用しているのも本格的です。このほかにもPanasonicのタンタルコンデンサ、ELNA社のオーディオ用アルミ電解コンデンサなどパーツの選択もしっかりしています。

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このように「H5」は据え置きアンプとして便利な側面もあれば、バッテリー駆動ですのでポータブルとしても使えます。H7よりは小さくなったのでその点で使いやすくなったと言えるでしょう。3500mAhのバッテリーで4.4mmバランスでは最長8時間、3.5mmでは最長12時間持つとのこと。ちなみに急速充電規格のQC3.0にも対応しています。
「H5」をポータブルとして使う際にはUSBでスマホに接続することもできますが、便利なのが「ローカルファイル再生」機能です。これはマイクロSDカード内に格納した音源を再生するもので、スマホでのリモート再生と組み合わせるとDAPのように使用できます。マイクロSDカードによるローカルファイル再生はPCM 384kHz/32bit、DSD256まで対応します。MicroSDは2TBまで対応しています。
操作は液晶で表示して左右のダイヤルで音量とコントロールというもので、慣れないとやりにくいように思いますが、「H5」にはスマートフォンとのBluetoothを使用したリンク機能があります。スマホ側にShanlingの「Eddict Player」アプリをインストールしてペアリングを行うことでリモートで設定や再生操作が可能となります。この場合はローカルファイル再生モードにして(Bluetoothモードでなく)、スマホからEddict Playerを立ち上げてSync LinkメニューからH5を選択してください。

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Eddict Player画面(iPhone)

その後にファイルのスキャンをするとH5のマイクロSDカードの中身がEddict Playerから再生指示ができるようになります。ここまでくるとほとんどDAPです。アルバムごとやアーティストごとの表示が可能です。ただボリュームのコントロールはBluetooth経由なので遅延がありますから上げすぎに注意が必要です。ボリュームに関しては本体のダイヤルを使用した方が良いでしょう。
この方式は使いやすいのですが、少し接続が切れやすい点は難ではあります。ただ接続はコントロール信号だけだから接続が切れても再生が止まるということはありません。本体側で再生操作を継続できますし、アプリを立ち上げ直すとすぐに接続が復帰します。
Eddict Playerアプリでは設定もより簡単に行えます。設定で大事なことですが、設定の中でDAC使用の初期設定がSingleになっているので、まずここをDualモードにしてください。飛行機によく乗るなど長時間使いたい人は別ですが、音が全然違います。戻せなくなると思います。DACをDUAL設定にすると、音の解像感もかなり上がってハイクラスのイヤフォンでも十分以上に楽しめるようになります。

* インプレッション

まず価格的に組み合わせやすく、音の相性も良いのは最近発売されたqdcのSUPERIORです。特に4.4mmのオプションケーブルがおすすめです。
「H5」とバランス駆動で組み合わせたSUPERIORは低音が深く重いパンチが感じられます。低音の量がたっぷりとあり、左右の広がりも十分に広く感じられスケール感を感じる音です。ロックではバスドラのパンチが力強く、躍動感があります。高音域も端正な音再現でなかなか好印象です。SUPERIORの音の素性の良さをアンプの力で十分に引き出している感じです。
据え置きアンプから聞いているような雄大で押し出しの強い力強さを感じられ、持ち運びにはあまり小さなアンプではないですが、これくらいの音が得られるならば持って行く気になると思います。

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H5とSUPERIOR

音的には基本的にDAPではなくポタアンなのでパワフルですから、シングルダイナミックによく合います。高価格帯ではfinalのA8000を4.4mmケーブルに付け替えて試してみると、低音の力強さと深さもひときわ高く、切れ味抜群のA8000の音にダイナミックさがより加わるように感じられます。
A8000の持ち味の歯切れの良さとスピードの速さがH5のパワー感とあいまって、見事な躍動感に変わっていきます。高域の再現力も高いので、ワイドレンジな音を感じます。これはかなり良いですね。特にゲインをMiddleにしてやるとさらに音が引き締まるように思えます。音の細かい調整はデジタルフィルターが6種類あるので、少しきつめな時などはデジタルフィルターを変えても調整ができます。

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H5とA8000

またハイブリッドではqdc Folkなどが価格的にも同じくらいで組み合わせやすいと思います。弦楽器の響きも美しく、洗練されたFolkの音色再現をうまく引き出していると思います。音の細部は滑らかで荒さが少なく、回路設計やパーツがきちんと使われている感じがします。

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H5とFolk

USB DACモードでもノートPCに繋ぐなどして良い音で楽しめます。ノートPC用としてはやや大きいと思いますが、廉価なスティックDACの音に飽き足らないユーザーにはおすすめです。
またiPhoneなどスマートフォンでも接続できます。この点ではバッテリー内蔵なのでスマホ側に負担をかけないので、こちらの用途の方が向いているとは思います。標準のOTGケーブルはなかなか品質は悪くないと思います。
ライトニングに対応したOTGケーブルがあればiPhoneに接続することができます。画像ではLEDが黄色で点灯していてiPhoneからハイレゾがきちんと再生されていることが分かります。

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iPhoneをOTGケーブルでH5に接続

* まとめ

多彩な使い方ができる機材ですが、個人的に気に入ったのはマイクロSDを音源としたローカルファイル再生で、スマホでコントロールするモードです。音質は倍くらいの価格帯のDAPなみにはあると思うので、リモート操作であることを割り切ればコスパの良いプレーヤーとして5万円前後の予算で良い音を求める人にも良いと思います。
また一般的にDAPはどちらかというとDAC部分の方に重きが置かれていますが、「H5」は音的にはアンプらしく細やかさというよりは力感に重点があるのでやはりアンプが主体であることを感じます。たとえばDAC ICが同じDAPのM6 Ultraでは出力段がBUF634ですが、H5ではTPA6120を採用しています。この辺りの性格の違いも選択のポイントになり、普段DAPを使っている人も力強いアンプらしい音が堪能できる機材として考えるのも良いでしょう。パワーがあるのでヘッドフォンを主に使っている人にも良いと思います。
入出力が豊富なので、自宅に既にオーディオやAV環境のある人が光デジタルやSPDIFをRCA出力にしたい場合にも向いています。
液晶画面のDAPのように万能性を求めるというよりは、使い方がわかっている人がコスパの良いプレーヤーを欲しい時に良い機材です。

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アスキーにPlayStation初の完全ワイヤレス登場とAUDEZEの買収についての記事を執筆

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アスキーにMEMSドライバー採用、未来の完全ワイヤレス開発でクリエイティブとxMEMSが協業の記事を執筆

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アスキーにDolby Atmosに対応したLive ExtremeのAndroid版アプリについて執筆

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2023年07月31日

qdcのユニバーサルイヤフオン、TIGERとWHITE TIGER比較レビュー

先日qdcの新製品であるWHITE TIGERが発売されました。まずWHITE TIGERのことを語る前に共通部分を説明する意味でもTIGERについて述べます。

* TIGER

TIGERは中国のプロフェッショナル・オーディオ市場において大きなシェアを持つqdcが昨年の寅年を記念して開発したハイエンドのマルチドライバー・ユニバーサルイヤフォンです。
2022年10月8日に発売された製品で直販価格は247,500円 (税込)です。

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TIGER

TIGERではシェルが通常のアクリルではなく、硬度の高い金属のチタン製です。フェイスプレートの部分が虎縞の模様に繰り抜かれてローズゴールドの中層が透けて見え、虎を想起させる独自性のあるデザインもユニークです。
TIGERでは6 基の BA ドライバーと 2 基の静電(EST)ドライバーによる片側合計 8 基のハイブリッド構成を採用しています。TIGERにおいては低域部分もBAドライバーが担当しています。クロスオーバーはAnole V14 と同じ 4wayタイプで、これにより10Hz - 70kHzというかなり広い帯域特性を得ているとのことです。

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TIGERの内部構成図

標準ケーブルは3in1タイプの交換式プラグを採用し、3.5mmアンバランス・2.5mm4 極バランス、4.4mm5 極バランスの三種類に交換が可能です。イヤフォン側の端子は2ピンでソケットを使用して確実に装着するタイプです。

TIGERはダブルフランジ・イヤーピースの出来が良く、ノズルの部分がうまく耳穴にフィットするので、イヤーピースがいつもよりひとサイズ小さくても良いくらいです。わたしはダブルフランジが苦手なのだけど、これはシングルみたいにうまくフィットしますね。
この装着性の良さと金属のシェルのおかげでTIGERは極めて遮音性の高いユニバーサルイヤフォンになっています。電車内で使うとANCなみに音が低減できるほど。これは音量をあまり上げなくて済むとともに、入ってくるノイズを小さくできるので細かな音の再現性でも有利となりますね。

* オリジナルTIGERの音質

音質はとても先鋭的な音で透明感が高く感じられます。また音場がとても広い感じがします。オールBAという印象よりはずっと低域はたっぷり出ている感じです。全体的にはすっきりと端正で原音忠実度の高いサウンドだと思います。
中高音域はシャープで切れ味が良いけれども、刺さるようなきつさを感じないのはチューニングの巧みさを感じさせます。楽器音はきわめて美しく鮮明で、それできつさが少なく感じられます。このため弦楽器の鳴りが極めて美しく響き、演出的とか音楽的というのではなく、音が極めて純粋で澄んでいると感じさせます。中高音の上に伸びる感じがすうーっと上にどこまでも引き上げられる感じが気持ち良く感じられます。
高域のベルやハイハットの音は鮮明で倍音が感じられる鳴りの良さがあるように思います。この辺はESTの効果なのでしょうか。美しくカーンと響き、歪みが少なく端正です。高域特性は数字の上だけではなくかなり良いと思います。

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TIGERとSP3000

ハイエンドイヤフォンらしく解像力の高さも特筆もので、楽器音のゴリゴリ感やヤニが飛び散る感じだけではなく、ジャズの中でミュージシャンがヤアっていう声が浮き上がって聞こえるほどです。この辺りは先に書いた外来ノイズの遮音性の高さも寄与しているでしょう。ジャズトリオの演奏などでは楽器音の切れ味の良さとともに足で思わずリズムをとってしまうほどにスピード感のノリが良い。この辺の音の特性はBAドライバーがメインであると思わせてくれます。
反面でBAドライバーがメインだと低音が物足りないかと思うかもですが、TIGERは低音の量感がたっぷりと感じられて音の深みと迫力が堪能できます。それでいて膨らまずにソリッドで引き締まって強いパンチが楽しめるのは逆にBAドライバーならではの低域表現の良い点です。

TIGERとWHITE TIGERではドライバー構成自体は同じで、音の大まかな点はTIGERとWHITE TIGERで共通しています。しかし、シェル素材が異なることと、ノズル部分の材質が異なることで音には違いが出ています。それを以降で解説していきます。


* WHITE TIGER

WHITE TIGERは2023年7月14日に発売されたTIGERのバリエーションモデルで、日本限定300台の限定製品、直販価格は198,000円(税込)とTIGERよりも低減されています。
WHITE TIGERはドライバー構成が同じですが、シェルをチタンからアクリルに変更したモデルです。カラーリングも変更されて、WHITE TIGER(白虎)という名前にふさわしいデザインになっています。

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WHITE TIGER

またノズルがチタンシェルと一体成形だったTIGERと比べると、WHITE TIGERのノズルは別成形の金属ノズルになっているのでこれでも音質は異なってくると思います。これはStudioシリーズのエッセンスが生かされているとのこと。つまりWHITE TIGERはデザインだけではなく、音質も異なっています。

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WHITE TIGERノズル形状

もう一つ重要な改良点はケーブル交換用の端子がqdc独自形式から、一般的な2ピンに変更されたことです。人によってはこの変更の方が魅力的に思えるかもしれません。qdc独自端子はかなりしっかりはまるのですが反面で抜けにくく、交換用のケーブルも少ないので、リケーブルを楽しむというよりは断線対策というプロ用途に考えられていたと思います。
TIGERと同じく3.5mmアンバランス・2.5mm4 極バランス、4.4mm5 極バランスの三種類に交換が可能です。また内箱には竹製ハンドメイドパッケージが使われています。

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WHITE TIGER パッケージ


* TIGERとWHITE TIGERの音の比較

実際にTIGERとWHITE TIGERを比較してみます。

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TIGER(右)とWHITE TIGER

比較するのに手に持っただけで、WHITE TIGERはだいぶオリジナルのTIGERより軽量に感じられます。シェルはきれいな樹脂製でフェイスプレートの紋様もきれいに浮き出るように見えます。チタンのTIGERとはまた違って、好みの問題かもしれません。イヤーピースは付け替えてみたけれども、やはりオリジナルと同じようにダブルフランジタイプが良いように思います。ポイントは装着感ですが、オリジナルよりも耳にピッタリはまるように思います。これはやはり手慣れた樹脂の造形だからなのでしょうか。オリジナルでもかなり装着感は良好だと思っていたので、これは驚きです。まさにユニバーサルイヤフォンという感じです。
遮音性は静かな部屋でファンの音に聞き耳を立てて、比べてみるとオリジナルとほぼ変わらないか、わずかにホワイトタイガーの方が良いように思います。はじめは金属シェルのオリジナルの方が良いかと思ったのだけれども、おそらくはホワイトタイガーの方がより密着性が高いので音を遮断できているのかもしれません。

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TIGER(上)とWHITE TIGER

A&K SP3000でTIGERとWHITE TIGERを聴き比べてみると、オリジナルのTIGERよりもWHITE TIGERの方が硬質感は和らいでより聞きやすく、モニター的よりもリスニング寄りになった印象をうけます。WHITE TIGERの方がより音の広がり感があって、聴き比べるとオリジナルのTIGERの方がやや音が細身でコンパクトな感じを受けます。反面でオリジナルのTIGERの方がより先鋭的に感じられます。
高音域の伸びや、細かな音の解像力などはほぼ同じに聴こえるので、性能的にはやはり同等だと思います。音量位置も同じですね。

機材との相性で言うと、A&K SR35ではWHITE TIGERの方がより適合するように感じられます。これはポップやロックでより迫力が感じられ、リスニング的に少し甘く柔らかく感じられるからだと思います。

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WHITE TIGERとSR35

A&K SP3000だとオリジナルのTIGERの方が良録音の弦楽四重奏を顕微鏡でモニターするような点も魅力ではあるのですが、よりリスニング寄りのSR35の場合にはWHITE TIGERの方がポップ音楽の魅力を引き出せるように思います。
SR35でメタルを聞くとオリジナルのTIGERの方がよりシャープで鋭く感じられるが、少しドライに感じられます。WHITE TIGERの方がより開けて迫力があって躍動感が感じられます。こうした硬めの録音ではWHITE TIGERの方が許容範囲は広いので好ましく聴こえる感じでしょうか。ヴォーカルも聞き取りやすいですね。特にメタルのライブのMCで比べると、WHITE TIGERの方が”カモン、メイク、ファッキング、ノイズ”とか叫んでいるのがきちんと聞き取れます。
オリジナルのTIGERの方はジャズトリオや弦楽四重奏の良録音の時に真価を発揮できる感じですね。
また両者ともおすすめはSE300のNOS/Aモードで楽しむことで、両者とも性能レベルが高いのでSE300の隠し持っている細かい音を引き出し、そのアナログ感のある音の滑らかさでオリジナルのTIGERではより硬さが解れ、WHITE TIGERではより柔らかく音楽をリラックスして楽しめるように感じられます。

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WHITE TIGERとSR35

* WHITE TIGERでのリケーブル

そしてWHITE TIGERの魅力はなんと言っても業界標準的な2ピンでリケーブルができるということです。
例えばDITA AudioのDreamに付属していたVan Den Hulのケーブルではより明瞭感が感じられ、パッと晴れあがるようにより鮮明なサウンドが楽しめます。
Beat AudioのSignal(8芯)を使うとよりニュートラルで高域と低域が拡張されてワイドレンジ感が生まれるように思います。

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左 WHITE TIGERとDITAケーブル、右 WHITE TIGERとBeat Signal(8芯)

やはりリケーブルすることでサウンドの個性を変えることができます。WHITE TIGERにおいては、イヤーピースはあくまで遮音目的に考えて、音を変えたいときはリケーブルすると言うのが良さそうです。
ただ標準ケーブルも音質は悪くなく、やはり合わせて設計しているので音の相性は良いと思います。つまり買ったらまずリケーブルすべきというのではなく、このケーブルをつけて音をこうしたいというビジョンを持って音をカスタマイズしたいという人には良いと思います。

WHITE TIGERに2ピンケーブルを色々差し替えて試してみたのですが、わりとみなうまくはまる印象です。2ピンは癖あるものも多いけど、この端子自体悪くないです。qdcはこういうところもなかなかしっかりしていますね。

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* WHITE TIGERのまとめ

オリジナルのTIGERとWHITE TIGERではデザインだけではなく、音にもはっきりとした違いがあります。解像力やワイドレンジ特性など性能的には同じレベルで、個性や合う音楽や機材が異なります。
価格的にもかなり安くなっているので、同じレベルの音性能でリスニング寄りの音が欲しいユーザーに向いていると言えると思います。また2ピンケーブルを持っているマニアにもおすすめです。
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2023年07月29日

アスキーにqdc SUPERIORのレビュー記事を執筆

アスキーにqdc SUPERIORのレビュー記事を執筆しました。

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アスキーに「MMCXや2pin対応のイヤホンをワイヤレス化できる、iFi audio GO pod」のレビュー記事を執筆

アスキーに「MMCXや2pin対応のイヤホンをワイヤレス化できる、iFi audio GO pod」のレビュー記事を執筆しました。

https://ascii.jp/elem/000/004/144/4144495/
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アスキーに「第2世代のSnapdragon Soundを、LE Audio採用で低遅延化」の記事を執筆しました

アスキーに「第2世代のSnapdragon Soundを、LE Audio採用で低遅延化」の記事を執筆しました。

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2023年05月22日

独自ICを搭載した高性能スティック型DAC、L&P W4/W4EXレビュー

以前LUXURY&PRECISION W2-131を下記記事で紹介しました。これは同社W2の進化系でした。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/485813717.html
その後継機として開発されたのが、「W4」74,800 円(税込)、「W4EX」52,800 円(税込)の 2 機種です。これらは5月24 日に発売となります。このWシリーズは形式的にはスティック型DACですが、LUXURY&PRECISION製品の位置付けとしては同ブランドのエントリー級DAPとなるようです。つまり低価格の製品が多いスティック型のDACとは一線を画すものという意味合いのようです。

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L&P W4

W4シリーズの最大の特徴はW2-131ではDAC ICにシーラスロジック製のCS43131(CS43198のアンプ内蔵版)を2基搭載していたのに対して、W4シリーズではどちらの機種も L&P 独自開発の DAC チップが搭載されている点です。W4はLP5108、W4EXはLP5108-EXを使用しています。
これにより端的にいって出力はW4の場合にはバランスで420mWと据え置き並みの高出力となり、W2の1.7倍のパワーを誇ります。ダイナミックレンジ(134dB)と低歪率はW2をさらに超えています。しかもW2の半分の電力消費という点がポイントです。
W4EXの場合にはSN比はW2同等、バランスの出力がW2とほぼ同じで、歪みはW4には劣るがW2よりは優れているということになります。カスタムチップのアンプ部分はAB級ということです。

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L&P W4 正面と背面

また筐体デザインも変更されています。液晶は斜めに設置されてアクセントになっています。また調整用のつまみがアップダウンボタンからロータリー式に変更されています。イヤフォン端子は3.5mmアンバランスと4.4mmバランス端子に対応しています。3.5mm端子はSPDIF出力用にも使われます。
PCMは384kHzまで、DSDはネイティブでDSD256形式まで再生可能です。

機能的にもW2シリーズ同様に01と02の音質モードを切り替えることができます。メーカーの説明では01ではポップスのようなヴォーカル主体の音楽に向いたリラックスした音で、02ではより洗練されて複雑なシンフォニーなどに合うということです。
この他にもイコライザーのプリセットモードとして、Normal / CLASS / JAZZ / ROCK / POP / BASS / MOVIE / GAMEが用意され、機種向けイコライザー設定として Xelento / IE800S / SE846 / IER-Z1Rが用意されています。サイズは63 x 24 x 12.5mm、重さは24gと軽量です。

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W4の内容物

箱にはW2シリーズ同様にUSB-Cのケーブルとライトニングケーブル、USBアダプター端子が同梱されています。これによって、PC、Android、iPhoneなどさまざまな接続が標準で可能です。なおケーブルはメーカーのプレゼント扱いということなので保証対象からは外れるということになると思います。

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左からW2-131、W4、W4EX

以前レビューしたW2-131と比較してみると、筐体はやや大きくなっていますが、重さはほぼ同じです。ディスプレイが斜めになっていてより現代的な感じのデザイン的なアクセントになっています。輝度などディスプレイの視認性はほぼ同じくらいだと思います。
またW4では従来のアップダウンボタンではなく、独立したボリュームつまみがついたのが大きな違いです。これはモード変更ダイヤルもかねています。このおかげで操作性が向上して上質感も増しています。
W4とW4EXは外観状は色が違うだけのように見えます。W4はシックなグレーで、W4EXは若々しいブルーを基調にしています。

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左W4と右W4EX、iPhoneとARAの組み合わせ


W4を前回のW2での記事と同じくiPhoneとCampfre Audio ARAで聴いてみると、とてもクリアで透明感が高いサウンドです。SN感が高く、音の歯切れが良く細かい音がよく聞き取れます。クールでニュートラル、フラット基調なのはW2同様ですが、より洗練されてプロサウンドのような感じがします。シャープで線が細い音です。空間的な広がりが良く、アコースティック楽器音の鳴りがリアルで、ヴォーカルは発音がとても明瞭でわかりやすいですね。
音がフラットでシャープなのでイコライザー設定を変えると音が大きく変わります。この辺で味付けしてみても良いでしょう。チューニングモードの01と02はそう大きく変わりませんが、たしかに変わりますのでこれは音の微妙な表情を変えたり、イヤフォンに合わせて好みで変えるのが良いと思います。

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左W2-131、右W4

W4の音をW2-131と比較すると、以前よりもさらにクリアになって、楽器音の音がより鮮明でシャープに聞こえます。アコースティック楽器の歯切れ良さがより鋭く、パーカッションはより打撃力があって、叩いている音の鋭さが鮮明です。W2-131よりもフラットになり低音が抑え気味に感じられます。スタジオ的とかモニター的な音により近い感じですね。
W4とW2-131は聴き比べて十分わかるくらいの差がありますが、W2-131ユーザーならば聴き比べなくても音の違いはわかると思います。比較するとW2-131の音がやや緩く聞こえるほどです。

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上W4、下W4EX

W4とW4EXを比較すると、音のクリアさではほぼ互角ですが、音の広がりや厚みという部分でW4の方がやはり上回ります。またW4の方が力強い感じです。これはDAC部分というよりもアンプ部分の性能の差が出ていると思います。ただ透明感や解像力での差はわかりにくいくらいではあります。
W2-131とW4EXを比べると、音の透明感やシャープさではW4EXの方が優っているように感じられますが、音の広がりなどではあまり差は大きくないと思います。

確かに製品のイメージとしては、よりクリアで鮮明なL&PのDAPの音に近づいたように思います。比較してみるとW2はやはりやや温かみがあるシーラスロジックの音の着色感は感じられます。おそらくは自家製のICを作れたことでよりL&Pのイメージに近い音にすることができたのだと思います。

なおW4 シリーズ専用のレザーケース「W4 Leather case」5,500 円(税込)とWシリーズとデジタル接続が可能なケーブル「WP2」26,400円(税込)をも販売するということです。「WP2」はU58(銀箔巻き高純度銅)と U75(金箔巻き高純度銅)のハイブリッ ド構成、低誘電率被膜の採用で外部電波の干渉が抑えられるとのこと。アクセサリーは直販サイト(CYRAS DIRECT)でのみ販売ということです。
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2023年04月26日

「ついに登場、MEMSドライバー採用の高級イヤホン、Singularity Audioの「ONI」」の記事をアスキーに執筆

アスキーにずっとMEMSスピーカーの情報を報じながら、やっと来た感じです。今回はヘッドフォン祭でxMEMSの日本の方が展示します!
なんか面白いもの持ってくると思います。シリコンが出す音ってどんなのだって思う人はぜひ14FのxMEMSブースへどうぞ。担当の方は日本語OKです。

https://ascii.jp/elem/000/004/134/4134155/

MEMSスピーカーについておさらいすると、ウエハーから切り出すシリコンチップがそのままイヤフォンのドライバーになります。パーツから組み立てるのではありません。その一部がメカ動作するのがMEMSと呼ばれる技術で、この動きで空気を振動させ、圧電型ドライバーになります。
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2023年03月27日

アスキーに執筆しました「類を見ないマニアックな組み合わせで聴く、スティック型USB DAC」

PhatLab RIOとUSB OTGケーブルの試聴レポート「類を見ないマニアックな組み合わせで聴く、スティック型USB DAC」をアスキーに執筆しました。

https://ascii.jp/elem/000/004/130/4130121/
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2022年12月30日

コンピュテーショナル・オーディオとしての完全ワイヤレス、Apple AirPods Pro2 レビュー

Apple AirPods Pro2 (第二世代AirPods Pro)を使い始めました。興味の対象は空間オーディオを含むコンピュテーショナル・オーディオです。
そこで普通のレビューでなぜか中心的に書かれるANCの効きとかはすっ飛ばして、結局のところ新時代のオーディオ機器とはなにかというあたりをレビューしてみたいと思います。

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*AirPods Pro2の特徴

1 H2チップの搭載

AirPods Pro2を語るためにはH2チップが欠かせません。初代AirPodsはW1というBT通信用のアップル製SoCを搭載していましたが、それがAirPods Pro初代でH1というヘッドフォン機能の加わったSoCに発展進化しました。この時にノイズキャンセリングモードや空間オーディオ、 アダプティブイコライゼーションなどが加わっています。実際には製品ごとにカスタマイズされたSiPの中核にH系SoCが内蔵されているというのがより正確だと思います。

H2はH1に比べると10億個のトランジスタが集積されていますが、これはH1の約二倍でアップル公表の仕様では初代Proが毎秒6000回とされていた処理が毎秒4万8000回と増えています。10億個のトランジスタということはA7プロセッサ程度の集積密度があるということで、直接比較は意味がないとしてもかなりの能力が感じられます。

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あまり書かれないH2での改良点の一つはまずBluetoothが5.3に変更されたことです。
この理由はおそらくLE Audioのサポートにあると思います。LE AudioにおいてはLC3コーデックをサポートするだけではなく、基本仕様自体が進化してアイソクロナス転送になった点があります。アイソクロナス転送とはデータロスがあっても決まった時間ごとに送ることが優先される転送方式で、音楽に向いていてUSBなどでもサポートされています。
このサポートのためにはBluetoothの基本仕様として5.2が最低必要となります。これは高レベルのプロファイルではなく低レベルの部分が変更されたからです。
ただしLE AudioをサポートするためにはLC3のデコード(と、おそらくTMAPプロファイルの対応)が必要になるので、この辺は後でファームの更新があるかもしれませんし、Pro2以降になるかもしれません。なおLE Audioの使用にはiPhone側も当然BT5.2対応が要るのでいずれ使えるのはiPhone14以降となります。(いま自分が使っているのはiPhone 12 Pro)

またもう一つのH2での隠れた改良は特許回避があるようです。アップルは現在ANC特許で係争中で、このためにH1チップを使用するAirPods Pro初代とAirPods MaxではあるファームウエアからANCの効き目が減ったというテスト結果もあります。それによるとH2ではこの問題が解決されているだろうとのことです。これはノイズ低減とマイク入力に関係するところらしく、もしかするとPro2でフィードバックマイクの位置が変更されたのはこれが関係しているのかもしれません。

またPro2では初代に比べてレイテンシーも改善されているようです。ある報告ではAirPods Pro2はPro初代の167msに対して126ms程度と40msほど性能が向上しているようです。(これはH2単体というより全体での話です)

ちなみにH2もOppoのMariSilicon YのようにTSMCのN6RFプロセスで製造されていると言われています。OppoがMariSilicon Yの発表時に比較に書いた「従来品」とはおそらくH2のことだと思います。

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2 音響部分の改良

これにはエアフローの改善が関係してます。「What's HiFI」にアップルの開発者であるEsge Andersen氏のインタビューが載っていますが、彼は第2世代AirPods Proについて「ポケットに入るようなAirPods Max」を目指したと語っています。AirPods Maxは以前アスキーに掲載した私のレビューにおいてもオーディオ性能は同種のヘッドフォンでは群を抜いていると評価した製品です。このことからもAirPods Maxがやはりアップルで音質ではリファレンス的な位置付けだったことがわかります。ちなみにAirPods MaxもAirPods Pro2同様に「What's HiFI」誌の5つ星評価を得ています(以前のモデルは4つ星)
Esge Andersen氏はその目標を達成するためにまず音響設計の基本に立ち戻ることにしたといいます。実のところAirPods Proの第1世代と第2世代ではベント穴の位置とマイクの位置が変更されただけですが、そのベント穴の位置の変更がエアフローの最適化のために重要なポイントであり音質向上のキーになったということです。
第2世代AirPods Proでは前面と背面にあった二つのベント穴を背面の一つにまとめてよりシンプルにして、このことでより高音が伸びて低音が深く沈むようになったとのこと。Esge Andersen氏は特に高音のレスポンスを得ることが難しかったが、エアフローを改善したことでドライバーがより動作しやすくなったとしています。

振動板のサイズはiFixitの分解動画から推測するに6mm径だと思います。ダイナミックとしてはバランスの良いサイズではあります。
ドライバーはアップルの国内の仕様では高偏位ドライバーを搭載と記述されてますが、ここは元の英語仕様では”high excursion driver"になっています。このexcursionとはオーディオ英語ではスピーカーの振動板のピストンモーションの振幅のことですので、より振動板が大きく動いて空気を動かせるということでしょう。だから日本語は本来は高振幅ドライバーの方がわかりやすかったと思います。
おそらくは大口径よりも振幅が大きい方が制御を細かくできるので、振動板もH2による「コンピュテーショナル・オーディオ」を実現しやすいように設計されているのではないかと思います。

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3 デザインその他

電気系統はステムの方にまとめられていて、ステムはマイクの幅を確保すると共にノイズを隔離するにも役に立っていると思います。
このデザインはうどんと言いますが、このAirPodsのカタチには原型(初代iPhone向けのBTマイク)があるのですよね。私もこれ持っていたんですが、どこかに行ってしまいました。
https://arigato-ipod.com/2012/07/apple-iphone-bluetooth-headset.html

またAirPods Pro2の黒い部分はメッシュになっていてここにベントやマイクがあります。この部分はホコリを溜めてしまうので定期的に清掃することが音質やANC効率の向上にもなると思います。後で述べるインスタチップの作成時にはここをシールなどで保護しておく必要があります。念のため。
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ちなみにAirPods Pro2の製造は従来通り中国のゴアテックがやってましたが、不良率が上がってきたので他の拠点に移るとも言われてます。

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またAirPods Proのファームウエアアップデートについては、MacにAirPodsをケースごと充電するようにUSBケーブルで接続するとすぐに行われる。(Magic Mouseなどのリセットと同様)


*インプレの前に

はじめに端的に書くとAirPods Pro2は音は良いです。ただし設定に左右されます。それとエージングはやはり必要です。AirPods Pro2で音が良くないというコメントはたぶんエージングがなされていないことと、設定がされていないことによると思います。
おそらくAirPods買っていきなりエージング50時間する人は稀だと思いますが、AirPodsも大方デジタルで音作ってると言っても、ダイナミックドライバーだし、実際に箱から開けたばかりのアコースティックな部分がエージングされてない初期状態だと音は曇っていて甘く音は悪いです。たいていの人はそこからスタートしてしまうでしょう。ダイナミックドライバーなのできちんとドライバーの慣らしが必要だと思います。
ちなみに今のiOSだと設定を変更しないと耳から離すと音が止まりますが、昔のiOS7とかのiPhone使うと耳から離しても音が止まらないので普通にエージングできます。

また設定で見るところは何箇所かありますが、最低でもアクセシビリティ>オーディオビジュアル>ヘッドフォン調整(iOS14以降) をオンにしておく必要があります。ここのバランスの取れたトーンなどの弱めから強めが一番音が変わります。アニソンとかヘビメタとかコンプ強いのは弱めにして少しボリュームあげると柔らかくなって良い感じになります。良録音の時に強くしてもキツくなるので、強目はブートレッグとか古い録音など甘い録音の時に使うといい感じになるように思います。ちなみにこの感覚はノイキャンをオフにしてもやや強くなります。また後で書くようにイヤーピースを変えた時の音の調整にもこの中とか強が役に立ちます。

加えてカスタムオーディオ設定のオージオグラムでも変化します。オージオグラムとは個人の耳を測定したグラフのことで、iOSではヘルスアプリで電子的に管理できます。これはいくつかのアプリで聴覚テストをすることでiOS内に作成することができます。
カスタムオーディオ設定ではオージオグラムを調整用に選択することができます。オージオグラムを使うと音が良くなると言うより音が自然になり、デフォルトではキツく感じてた成分がなくなるように思います。おそらく音が良くなると言うより耳の健康に良いように調整するという方が正しいような気もします。ここはあまり見てないので後でまた詳しくやってみるつもりです。

AirPods関連の設定で見るところは以下のように分散されています(iOS16)。
○設定第一階層のイヤホンの名前(ANC設定や装着テスト)
○アクセシビリティ>AirPods(主にコントロール)
○アクセシビリティ>オーディオビジュアル(AV基本設定)
○アクセシビリティ>オーディオビジュアル>ヘッドフォン調整(音質など)
○コントロールセンター画面の音量部分(ANCと空間化)
○コントロールセンター画面の耳のアイコン(イヤフォン設定や音量レベル)
○ヘルスケアアプリの聴覚(オージオグラム)


またAirPods Proでは装着も独特です。いまでは多くのイヤフォンに採用されることになったイヤーピースをあまり耳に差し込まないタイプで、イヤーピースは他との互換性はありません。AirPods Pro用のイヤーピースがいくつか販売されています。また正式リリースではAirPods Pro2と初代Proでは違いがあるように書かれていますが、試してみると物理的には互換性はあります。
それとやはり密着テストです。iOSでは設定のところで密着テストが用意されているので、これを行うことでイヤーピースがきちんとはまっているかを確認ができます。このテストはわりとシビアなので微調整にも役立ちます。
このAirPodsをはじめ最近流行ってきた「耳穴に挿入しないで置くだけ方式」の装着も、ER4SやE2cからずっと耳穴に差し込み続けてもう20年とか言う自分にはどうも馴染めないのではありますが、まあそれだけ市場が広がったということなんでしょう。ただジムなどでは上下が逆さまになるような器具もあるのでやはり不安ではありますね。

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*インプレ

実際に使ってAirPods Pro2のなにが使いやすいかというと、本体にベタベタ触ってもセンサーが反応しないことです。押してハプティックレスポンスがあった時だけ機能します。私はポジション決めるのによくイヤフォンを細かく触るので、普通の完全ワイヤレスではそれでタッチセンサーが反応して機能が起動するのに閉口してしまうのですよね。特にイヤーピース交換するときにそうです。メカボタンは防水とかあるので難しいかもしれませんが、できればこうした感圧スイッチにしてほしいところです。この辺は逆に細かく調整したいマニア向けとも言えそうです。
ケースもコンパクトでポケットに入れたままで良いし、詳述しませんがペアリングも含めて使い勝手としては文句のつけようがありません。

肝心の音質ですが、ちょっと書いたように少なくともエージングして、ヘッドフォン調整がオンになって、きちんとイヤーピースが装着されていれば、AirPods Pro2は完全ワイヤレスの中でも音質が良い方です。というかかなり特徴的な音質が感じられます。
その特徴は極めて明瞭感が高くて鮮明だということです。デジタルっぽさはありますが、音が極めてクリアでくっきりはっきり聴こえます。音の静寂部と音の差が明確で音像が切り立って聴こえます。SN感の高さによりピアノの打鍵の音がきわめて美しく鋭く響きます。これは他のイヤフォンではなかなか聴けないサウンドです。これはオーディオ設定で大きく変わるのでコンピュータ処理してる音だと思います。
空間オーディオ確認しようと、Brian Enoの最新アルバムを聴いてみると、それよりも音に明瞭感があって細かい音がとてもよく聴こえるのに驚きます。ギターの細かな弦の震えも聞こえるほどで解像力は極めて高く聴こえます。ノイキャン効果も含めて背景ノイズ感がとても低いと感じられます。独特の奥行きと立体感があって、特に空間オーディオなしでも立体感はかなりある方だと思います。
低音は映画を見てる時もズーンというかなり迫力があるので、音楽だけではなくさまざまな用途に向くと思います。これは音調がとてもニュートラルな点もそうですが、後でまた触れます。空間オーディオ対応してるiPhone/iPadならば、設定の「iPhoneに追従」をオフにすると常にiPhone方向から音が聴こえる体験ができます。Apple TV+アプリだとわかりやすいと思います。映画の「グレイハウンド」なんかみていると船酔いしそうな感じにもなりそうです。

もう一つ良い点はパンチがあって躍動感が感じられる点です。量感は適度で出過ぎないが、パンチはあってバスドラもベースも重くて密度感があってダイナミックらしいサウンドで、ロックなどでいい感じに楽しめます。ワイドレンジ感は高く、中高音域の伸びやシャープさ、低音の深みも十分あります。低音域の解像感もかなり高く、なかなか質の良い低温だと言えます。
またボリューム位置には余裕があって、多くの完全ワイヤレスのように振り切るくらいではありません。単純には比較できませんが、これは内蔵アンプの出力が十分高いように感じられる特徴です。

そして音が先鋭的で良く聴こえるのであまり音量を上げる必要がないということも書くべきかもしれません。これはノイキャンの効きの優れた点と相まって、低い音量で聴くのにも適していますので人の迷惑になりにくいとともに耳のためにも良いことではあります。明瞭感の高い音傾向はセミナー聞いていても声が聞き取りやすく便利です。
オーディオマニアにおいてもアナログアンプの暖かい音よりデジタルアンプの鮮明でクリアな音が好きな人はAirPods Pro2は良いと思います。

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すっ飛ばすとはいいましたがANCについて少し書くと、まず外音取り込み機能は、もはや外音取り込み機能ではなく聴覚増強装置だと思います。
AirPods Pro2で外音取り込みモードを常時オンにしてると、鳥の声や街の環境音が自分の聴覚が高くなったように聞こえて目の前に別な世界が見える感じです。そしてノイキャンをオンにするとその世界が一瞬で消失する喪失感を味わいます。

*AirPods Proでのイヤーピース交換

標準でもかなり音質は良いんですが、もう一歩なにか欲しいという感じのときはイヤーピースで調整する手があります。これは装着感だけではなく音質にも関係しますが、前に書いた設定のヘッドフォン調節の幅を広げるのにも役立ちます。これについてはいくつか試してみて、イヤーピースケースをAirPods Pro2ケースのストラップにしてしまうくらいちょっとハマりました。

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AirPods Pro2は独自のイヤーピース規格ですが、このノズルの形が楕円形なのにも注目したいところです。ノズルが耳穴の形に合わせて楕円形なのは知ってる限りではAIrPodsとFitEarくらいだと思います。イヤーピースはサードパーティー品がたくさん出ていてAirPods Pro1と2は物理的には互換性があるようですので選択幅はわりと広い市場です。変更したら密着テストできちんと装着されているかどうか確認できるのもAirPods Pro2の良い点です。意外と装着できたように思えてもNGを出されることもあるのでやった方が良いですね。

いまメインに使用しているのはSednaEarfit MAX、Comply TRUEGRIP PRO、ePro Horn-Shapedです。これらは傘の部分とAirPodsのノズルに装着するアダプターのセットになっています(後述)。

SednaEarfit MAXは純正よりワンサイズ小さくても遮音性は良好で、イヤーピース密着テストでNGが出たことがないくらい優秀です。AirPods Pro2でイヤーピース変えたら設定も変えた方良くて、標準イヤピだと「オーディオビジュアル>ヘッドフォン調整」でバランスの取れたトーンの強だときつかったけど、SednaEarfit Maxだと強で良いくらいで、素晴らしい音になります。解像感、ワイドレンジさと打撃感、音の立体感も優れて驚くくらいです。
またヴォーカルものを聞くときにはやはりこの設定を音声にした方が声がはっきりと聞こえます。このようにAirPods Pro2の音はイヤーピースと設定項目の組み合わせを変えることで自分の好みに変えていくことができます。(このほかにカスタム設定もある)

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SednaEarfit MAX(M)

ePro Horn-Shapedはヘッドフォン調整のバランスの取れたトーンでデフォルトの中だといまいちの印象ですが、強にすると見違えるくらい良くなります。広がりがあって開放的で、華やかさはないけど、刺激成分がないので落ち着いて聴きやすく良いです。
ちなみにこうしたAirPods Pro用のイヤピの多くは銃声とは違い傘とアダプターが別パーツになっており、アダプターを流用して普通のイヤピを取り付けることができます。ただしケースに入れる都合上で極めて傘の短いTWS用のものしか使えません。ePro Horn ShapeのTWS用はこの用途に使えるのでこちらも試してみました。実際に使用できましたが、音質的にはこちらのAirPods版を使用した方が良いように思います。

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ePro Horn-Shaped(左)、右はTWS版の流用(潰れているのは保存のせい)

Comply TRUEGRIP PROはコンプライらしくフォームですが、イヤピまで耳穴に合わせて楕円形なのが良い。フォームなのでAirPodsみたいに耳に挿入しないイヤフォンでも広がって抑えるのでフィット感は極めて優れています。音は重心が下がってロックポップにとても好適ですが、打撃感は緩めになります。ヘッドフォン調整がバランスの取れたトーンだとちょいヴォーカルが奥に行くので音声の帯域でも良いかもしれません。

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Comply TRUEGRIP PRO(L)

そしてFitEarインスタチップも試してみました。これは自分でセミカスタムイヤピを製作できるキットです。
ケースに格納できることが必須なので、ベースになるイヤーピースはMサイズでもフィットできるSednaErafir Maxを使用しています。作成の際には外側の黒いメッシュ部分を保護するためにシールを貼ってください。
結果として密着テストもパスしてケースに入れて閉じて充電も可能です。音も広い音場でリアルなサウンドが楽しめます。

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インスタチップ(SednaEarfit Max)

できあがったイヤーピースはやはり楕円形になります。AirPods Pro2のように装着の浅いタイプでもやはり楕円形が理想なのは興味深いところです。これはつまりイヤピが重要である点は変わりないということだと思います。
いずれにせよ、イヤーピースで音質を向上するというというよりも、オーディオ設定のヘッドフォン調整の幅を広げるために使用すると考えても良いかもしれません。つまりイヤーピースというアコースティックな部分とデジタルの部分を合わせて調整するという考え方です。

*まとめ

端的に言ってAirPods Pro2はデジタル臭さはありますが、他では得られない鮮明なサウンドを楽しめる音の良い完全ワイヤレスイヤフォンです。
しかしいくつか条件があります。まずエージングを数十時間はすること、iPhone(iOS)で聴くこと、イヤーピースを選ぶこと、選んだイヤーピースでiOSの設定からヘッドフォン調整をすること、聴く前に密着テストをすることです。
おそらくAirPodsを買うほとんどの人ははじめの段階でもったいない評価をしてしまうと思います。そして装着も適当なまま使ってしまうでしょう。
それも仕方ないのはほとんどの人にとってはAirPodsはオーディオ機器と言うよりはiPhoneのアクセサリーなわけです。一般的な多くのレビューが音質よりもANCの効きの方に重点をおいてることからも伺えます。
最近では特に海外でAirPods Proを補聴器(ヒアリングエイド)の代わりに用いようという動きがあります。高いと言っても補聴器としては安いからです。これはLE Audioの元になった動きのひとつですが、論旨が外れていくのでやめておきます。
このように確かにAirPodsはイヤフォンというよりはIT機器と捉えられても仕方はないし、そのインパクトから使われ方は多様性を帯びてきています。

いささか逆説的なようですが、これは音にも表れます。
AirPods Pro2の良いけれども硬めでデジタル的な音傾向はAirPodsが音楽イヤフォンというよりこうした汎用ITデバイスだからだと思います。そのため柔らかい暖かみのあるオーディオ的な音にすると音声が聴きづらくなるので、硬めの明瞭感が高い音にせざるを得ないでしょう。
もちろんこれはこれで素晴らしく音が良いのだけれども、好みが入る余地はあります。逆に言うと音楽専用のイヤフォンとしてならば、AirPods以外を選択する余地はあるかもしれません。完全ワイヤレスイヤフォンを選ぶ時はこの辺も考えると良いように思います。

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面白いのは大抵のイヤフォンはiPhoneよりMacで聴く方が音は良いんですが、AirPods Pro2 に関しては逆にiPhoneの方がいいと感じる点です。Macだと力感は出るけどSNが低い感じで曇り感があります。これはおそらくMacOSにiOSの音質調節相当の機能がないからではないかと思います。
AirPods Pro2の音の良さはDSPという枠を超えて「コンピュテーショナル・オーディオ」というべきだと思うけど、それはイヤフォン側のH2だけではなく、iOS側もあってのことだと思います。コンピュテーショナル・オーディオという言葉はカメラの最近のトレンドの一つであるコンピュータ処理を前提としたコンピュテーショナル・フォトグラフィーからきたものです。つまりDSPというのは既に成り立ってるサウンドを計算でより良くするものなのに対して、コンピュテーショナルオーディオというのはそもそもサウンドが計算なしでは成り立たないというものです。
イヤーピース交換にしてもAirPods Proでイヤピ変えるのはそれ自体で音質高めるというより、設定のヘッドフォン調整の幅を広げると考えた方がいいかもしれません。例えばこの記事に表示している画像も全てiPhoneで撮ったものですが、画像調整しないとこんなに鮮明で綺麗ではありません。

つまりのところ、イヤフォンの音質を考えるには、もはやイヤフォンだけの問題ではないのではないかということです。
完全ワイヤレスがもたらしたものは、単に利便性というだけではなく、音的にもZE8000のように信号処理ありきの音作りや、UW100やFW5のようにDACと振動板の超ショートシグナルパスなんてのもありますが、イヤフォン側だけでなく処理能力の高いスマホ側にまでそれが拡張されるべきなのかもと思ったり考えてしまいますね。
AirPods Pro2の数少ない欠点の一つは意外とバッテリーがもたないと思うことです。けっこう使い込んでるとケースの残量が思ったより減ります。これも本体の計算量が多くて電池消費が多いからだと思います。バッテリー容量については初代AirPods Proの15%増しと言われていますが、おそらく増大した消費電力のためだと思います。

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AirPods Pro2は装着感も良いし、使いやすい「デバイス」です。外音取り込みも良いしANCも良い、おまけにデザインもいい。アップル製品エコシステムでの親和性は言わずもがなです。AirPods Pro2を使うようになるとずっと耳につけっぱなしになるし、逆に耳から外す理由がありません。
EarinとかBragiのような先駆者はあったけれども、完全ワイヤレスを今のように隆盛にしたのはアップルのAirPodsでしょう。しかしAirPodsが契機となった完全ワイヤレスがイヤフォンの世界を根本から変えたものは、単に利便性ではなくプレーヤーからイヤフォンへの伝送の主役がアナログからデジタルになったことではないでしょうか。これは単に便利になったことより根本的な革新であり、イヤフォン世界のパラダイムシフトの種となるものです。やがてOPPOのMariSilicon Yのようにこの分野にもあのAIという登場人物が加わってきます。
こうして単なるデジタル化というよりも計算を前提としたコンピュテーショナル・オーディオにより、イヤフォンはただのアナログオーディオ機材から進化の階梯を上がることでしょう。
その先にあるものは私にもわかりません。ただ問いかけるだけです、老いたペテロのように。


"聖ペテロは夜明けの光の中から人の姿を見た。それは主イエスの姿であった。
ペテロは膝まずいて手を差し伸べ、こう問うた。
「クオ・ヴァディス」(どこに向かわれるのですか)"

ー新約聖書より
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2022年12月26日

qdcイヤフォンを完全ワイヤレス化する、qdc TWXレビュー

ハイエンドイヤフォンをワイヤレス化するBluetoothアダプターはいくつか市場に出ていますが、qdc のイヤフォンは2ピンの独自コネクタを使用しているために従来のこうしたBTアダプターを使用できませんでした。そこでqdcが純正品として発売したBTアダプターがこのqdc TWXです。逆に他のメーカーは使えないのでqdc専用と言えるでしょう。
TWXを使用することで、TIGERなどqdcの誇るハイエンドイヤフォンをワイヤレス化することができます。

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* 特徴

TWXはBTアダプターとしてはSoCにQCC3040を搭載し、Bluetooth 5.2対応しています。左右別なので完全ワイヤレスとして使うことが可能です。コーデックはSBC/AAC/aptXに対応しています。特徴としては30mW出力のアンプを搭載しているのでパワーがあります。ヘッドフォンアンプとしてはUW100などに搭載されているAK4332なみの出力があるというわけです。高性能イヤフォンを使うわけなのでこのくらいの出力があるのはありがたいところです。再生時間は本体が約8時間、充電ケース併用で最大40時間とされています。実測では再生時間7時間から7時間半くらいだと思います。
またタッチ操作に対応してミュージックモード(通常)、トランスペアレントモード(外音取り込み)、ゲームモード(低遅延)の切り替えができます。専用アプリも用意され、アプリでもこうした切り替えができます。

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ハイエンドイヤフォンなのにゲームモードか、と思われるかもしれませんが、最近ではハイエンドイヤフォンがゲーム市場でも求められていてAUDEZEなどはそれに向けた製品も出しています。

* インプレ

TWXの第一印象は大きな完全ワイヤレスですが、実際にTWXのポイントはまず大きいながらも専用ケースにイヤフォン装着したまま入れられることです。完全ワイヤレスの使いやすさはケース込みなので、アダプターとイヤフォンを別々に持ち運ぶと便利さは減ってしまうわけです。
TWXは端子の関係で自社製とのみ接続出来るけど、そのためイヤフォンのケース込みの格納が確保しておけます(カスタムはこの限りではないので事前に確認し方がよいです)。そうは言っても普通の完全ワイヤレスよりは大きいので少し気を使いますが、ケースから出す時はイヤフォン本体をつまんで出すと不用意にタッチセンサーにふれずに済むと思います。
特に荷物が多い時はケーブルが絡まる有線イヤフォンは使いにくいので、ハイエンドイヤフォンを使いたい場合にこうしたBTアダプタが重宝します。

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もちろんこのタイプのアダプタの利点はやはり音質の高さです。普通の完全ワイヤレスではとても得られないような本格的なポータブルオーディオサウンドが得られます。
圧倒的な情報量の洪水、たくさん空気が押されてる迫力あるスケール感、ズシーンという低音の唸り、これらはハイエンドイヤフォンならではのもので、マルチドライバーの完全ワイヤレスであっても有線イヤフォンとしてはミドルクラスくらいだからやはり音響的な差は大きいと思いますね。

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そしてTWXはよくハイエンドイヤフォンのポテンシャルの高さを引き出しています。音が良く、クリアでハイエンドイヤフォンを使うための解像力やパワーが十分にあります。TIGERしかないので判断はしずらいけれども、TMX自体は帯域特性もいいと思う。特に音がクリアで透明感が高い点が良いです。低価格なのでそれなりの曇り感はあるかと思ったんですが、予想以上に音がクリアなのはちょっと驚きます。思わずケーブルがないこと確かめるのに首振ってしまうくらいです。もしかするとケーブルがない点もプラスに働いているかもしれません。
音に関しては、試す前にはSoCベースの回路でこれほどハイエンドイヤフォンの性能を引き出せるとは思わなかったというのが正直なところです。このくらいハイレベルの音が出るなら緊急避難的に使うんでなく常用したくなる、というかハマる音質です。

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そしてこれで十分か、というよりこの音がいいみたいな感じを受けるTIGERの良さを引き出すのが上手いチューニングがTWXの魅力です。シャープで楽器音の歯切れがよく、低音も豊かで強いパンチが味わえ、それでいてわずかな暖かみがあってドライにならないところとか、あんたTigerの良さがよく分かってるねと言いたくなるような。この辺はqdc純正というチューニングの妙もあるのだと思います。ある意味でqdc純正のDAPに似た感覚はあり、自社のイヤフォンの能力を発揮させるために設計されたハードであるみたいな感じです。
もちろんハイエンドDAPを使えばもっと透明感やワイドレンジ感は出るけど、それはそれとしてTIGER+TWXの組み合わせで聴きたいみたいな感じもあります。TWXのパワーとか対混信性能はOEM先の力だと思うけど、qdcの人たちが音決めとかチューニングにも参加しているのでしょう。

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完全ワイヤレスとしてみると、ノイキャンがないんですが、TIGERには優秀なパッシブノイキャンがあります。TIGER+TWXで外音取り込みモード使ってからミュージックモードに戻したとき、すうっと静寂になったんでノイキャンまでついていたかなと一瞬思ってしまったくらい。もちろんこれはTWXというよりはTIGERのデザインに負うものですが、気軽にハイエンドイヤフォンを使用できるとメリットではありますね。
また遮音性が高すぎるこうしたイヤフォンはつけっぱなしにしていると音が聞こえなさすぎるので注意が必要ですが、TWXによって外音取り込み機能がついたのも良い点です。ただ外音取り込み機能はどちらか片方のタッチですぐ起動できる方が便利だったとは思います。

* まとめ

やはりTIGER+TWXの組み合わせは、でかい完全ワイヤレスとして普通に使えて、音質は完全ワイヤレスではとても及ばないレベルという点が良いですね。
完全ワイヤレスはケースと組み合わせで使うものだけど、ケースも大きいながらスリムなのでジーンズの前ポケットに入るので夏になっても大丈夫だと思う。DAPと有線イヤフォンだと今の厚着の時期は良いけどポケットにスポッと入れられるわけではないですからね。

qdcのイヤフォンを持ってるけど、DAP込みで持ち出すのもおっくうでつい完全ワイヤレスになっていた人にはぜひオススメしたいと思います。もちろん使いやすいと言ってもそれなりに大きいので、ちょっと出かける時に出がけにポケットに入れてくものではないけど、少し長く電車に乗る時には選ぶ手がこっちに伸びる製品ではあります。少なくともTiger買う時はアクセサリーだと思って一緒に買ってもいいくらいだと思います。
またAK HC2もそうだけど、かなりコスパの高い再生機としても使えます。ハイエンドイヤフォンを買ってしまってなかなか再生機の予算がないという方とか、低価格でハイエンドイヤフォンを堪能したいという人には向いているかもしれません。

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いずれにしろTWX+TIGERの音はなかなか魅力的で、はじめはこうしたアダプタは荷物の多い時とか必要な時に使うと思ってたけど、しばらくこのままつけっぱなしで使ってもいいかとさえ思ってしまう組み合わせと言えます。
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2022年12月23日

finalの新基軸サウンドの提唱、ZE8000レビュー

final ZE8000はfinalがZE3000/2000に次いで発表したハイエンドの完全ワイヤレスイヤフォンです。
finalではZE8000をゲームチェンジャーと呼称して価値観を根底から変えるものと位置付けています。8000というナンバリングは革新的ななにかがあるという意味だということで、例えばA8000はトゥルーベリリウムを振動板に採用しただけではなく、音の良さについての考え方でトランスペアレントな音を軸に据えたという点が画期的なこととしています。

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ZE8000における価値観は「8K SOUND」という新しい音の世界の提案ということになるでしょう。

*ZE8000の特徴

ZE8000はサウンドもデザインも個性的な製品で初見では戸惑ってしまう点もありますが、理解するために要素に分解していくと大きくは4つの特徴に分けられるように思います。

1 新理論に基づく「8K SOUND」

「8K SOUND」とはfinalでは映像の8Kのようにどこを見てもフォーカスが合うような音としています。これについては新しい感覚なので装着から数分くらいは困惑の時間があり、しばらく聴き続けてほしいということです。
やや漠然とした表現ではありますが、特許に関することなので詳しくは言えないということのようです。一方でこれについては同時に今回「新たな物理特性」の発見ともリリースでは書かれています。はじめはオーディオで新たな物理特性というので、振動板の新たな物性かとも思ったのですがいろいろ発表会で聞いていくと、音圧周波数特性の教科書を裏切るようなとも言います。おそらくこれは音響、つまりは音の物理特性に関することでしょう。ただし心理的な要素ではなく、測定できるものということです。
いままでピークやディップを駆使して解像度がありそうに見せかけて(チューニングして)いたものをもっと本質的なやり方を考えたもので、 これは測定的なものなので 新しい物理特性といっているように思います。

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また「8K SOUND」を考えるヒントはfinalとfinal LABの8K SOUNDに関してのツイートです。
これらを読むとおそらく今回の発見(特許的に言うと発明)は音場感に関することではないかと想像できます。8Kサウンドという言葉を聞くと私のようなカメラもやる人にはドットが細かいということから解像感に関するものではないかとも思いますが、8Kサウンドという意味はおそらく映像から少し離れてみた場合の自然でリアルな没入感をサウンドでイメージするということではないかと思います。そうした本来は自然なものだけれども、今までの技術からすると異質感も覚えるような音場感というのが8Kサウンドということではないかと思います。それは何によって起こされているかはわかりませんが、それが新たな音の物理特性ではないかと思います。
そしてもうひとつのキーは従来のターゲットカーブの考え方に縛られない新しい考え方を導入したことだと思います。
つまりはZE8000は今までにない設計コンセプトによって開発されたイヤフォンとも言えるでしょう。そしてそれが今回初めてぽんと出てきたわけではなく、これまでのfinalの研究の積み重ねでもあるということがツイートから伺えます。

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そして今回もうひとつキーポイントとなるのは音響のエキスパートであるシーイヤー社(https://www.cear.co.jp)との協業です。シーイヤーは音の物理特性を研究して空間音響技術に長けた会社のようです。
finalのツイッターの細尾社長のコメントによると求める物理特性をどのくらいの精度でイヤフォンに適用できるかで音の印象が異なるとあります。これはアコースティックな調整では得られないような制度がデジタル信号処理によって実現できるようです。
つまりZE8000での「8K SOUND」について一つ考えられるのは、それを実現するためには信号処理がキーになってるのではないかということです。これは今回の音が有線では実現できないと言われていたこと、8K+モードのように8K感覚が電池と計算量のトレードオフがあったりすることにも付合します。つまり「8K SOUND」とは音響的だけでは実現できず、電気的にも実現できない、デジタル(つまり演算処理)でのみ実現できるものだからでしょう。
このためZE8000ではインテンシブな信号処理が行われ、それによりノイズもそれなりに出るので回路部分の分離型スティックデザインが生まれたのではないかとも解釈ができます。
これは私見ではありますが、ZE8000およびその「8K SOUND」とはおそらくfinalなりの一種のコンピュテーショナル・オーディオではないでしょうか。

2 finalらしい凝った設計

ZE8000は「8K SOUND」のほかにもZE3000からの進化がみられます。ここはfinalの今までの強みを活かした部分のように思います。
ドライバーはZE8000のために新規開発されたもので、この新設計のf-CORE for 8K SOUNDドライバーは10mm(ZE3000は6mm)にサイズが拡大しています。エッジ部を狭くできたことで実質的なサイズは12mmにも相当するといいます。イヤフォンとしてはかなり大口径の部類になりますが、単に低域に強くなるという他に大きい方が逆に振動量が小さくて済むので歪みが少ないなどの利点があるようです。振動板のドーム部はアルミ製のようで、振動板とエッジ部分は接着剤レスで接合して軽量化と厚みの均一さを実現したとのこと。
ボイスコイルからの引き出し線も接着剤レスで空中配線化したことでスムーズな動作を可能にしているとのことです。これにより低歪を達成、特に低域で歪みの低減を実現しているということです。
アンプは普通はD級アンプを使用するところをAB級アンプを採用、また大型ながら音響用部品である薄膜高分子積層コンデンサ(PMLキャップ)も採用するなど細かいところでも音にこだわりを見せています。

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これらの改良によってもたらされた滑らかでスムーズな音と豊かな低域の下支えは「8K SOUND」の音場感にも貢献していると思います。いわば「8K SOUND」とはfinalの強みであるアコースティックの部分と演算処理によるデジタルの部分を合わせたものによって実現されていると言えるように思います。

3 斬新なデザインの合理性

ZE8000は斬新なデザインも目をひきますが、これは奇をてらったわけではなくさまざまな合理的な理由があります。
まず装着性ですが、ZE3000などの耳に差し込むカナル型から最近流行りの負担が少ない耳穴に置くタイプに変わっています。この装着部は小さいほどよいということで、耳に挿入される部分は実はkotsubuより小さいということです。奇異な形のように見えますが、挿入部とスティックの両端で3点支持するのでここはいままでのfinalの形に沿っています。
このように挿入部を小さくしてアンテナ・バッテリーを分離して音響空間と回路部を切り離したことで音質も向上したということです。バッテリーを音響とデジタル部の間に挟んだセパレート形状はバッテリー部分をシールドにも使えるとのこと。スティックが長いことでビームフォーミングマイクに必要な長さも確保できています。

4 トレンドに沿った取り組み

ZE8000ではこれまでのようなfinalらしい個性的な設計の他に、使いやすさを向上するためのトレンドに沿った取り組みもなされています。
まずノイキャンを採用しています。これは一般のメーカーのようにできあいのキットを使わずに一からfinalで設計したものだそうです。ノイキャンだと低音がにじみやすいので、自社でアルゴリズムをオリジナルで開発して搭載。外部との共同開発で効きと音のバランスを取ったとのこと。ノイキャンの違和感を減らすように快適性を重視したとのこと。
ノイキャンと外音取り込みのモードはノイキャンモード、ウインドカットモード(風切り音)、ながら聴きモード、外音取り込みモードなどがあります。

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また専用アプリも用意されています。特徴はこのアプリを併用してボリュームステップの最適化が可能です。よく聴くレベルの周囲だけ細かいステップにすることができるというユニークなものです。
アプリではイコライザーを使いやすくしたProイコライザーも用意されています。
また8Kモードの効きを変えることができる8K+モードが用意されています。これはより細かい計算をすると電池の持ちが悪くなるからで、8Kの効きが演算量に左右されるということをうかがわせます。これを実際にオンオフさせてみると、やはり「不思議な感覚」の量が変化するように感じられます。
またZE8000はSnapdragon Sound対応です。aptX Adaptiveに対応しています。このことからSoCはクアルコム製でしょう。

イヤーピースはカスタムイヤーピース化を踏まえた新形状で、来年の春までにカスタムイヤピースが登場するとのことです。ここもいずれはiPhoneで撮った写真でカスタム化をやりたいと意欲的です。

* インプレ

インプレには主に試聴機ファーム(8K+モードが常時オン)を使用しています。
カラバリには白と黒があり、これは白モデルです。ケースは大きいのですがこれはカスタムイヤーピースを入れても入るようにとの配慮からです。そのためにスライド開閉型になっています。表面はシボ模様になっていて高級感があります。ケースはカスタムイヤーピースの関係で大きいのですが、平たいのでポケットには思ったより入れやすいように思います。
装着感は今風の耳に突っ込まないタイプになっていることで快適で軽い感じがします。スティック部分をちょっとひねると確実に収まります。

連続再生時間は試聴機ファームで4時間半から5時間前後だと思います。フル充電の時間は40分から50分くらいのように思います。ケースは二回充電するとほぼ最後のLEDが点くのでケース側の電池が小さいのか、本体側の電池がかなり大きいようには思います。

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肝心の音ですが、これはなかなかに斬新な感覚です。
発表会で少し聞いた感想は端的にいうと音が端正で、特に低域の再現性が良いという印象です。
でも、もう一つどうもある種の違和感というか聴いたことのない感覚があって、それがなにか、エージングして自分の環境で確かめるまで音のコメントはできないかなと思ってました。
それでしばらくエージングして聴いて思ったその感覚の正体はおそらく「イマーシブさ、没入感」なんじゃないかと思います。音場感や立体感、特に奥行きや定位感がちょっと聴いたことないほど独特です。
特に音の定位感が従来とは異なるように感じられます。例えばジャズヴォーカル曲を聴くと、ヴォーカルの音とバックのベースやドラムスなどの楽器の音が、従来の高音質イヤフォンの場合には「ヴォーカルが浮き上がるように」などと書きますが、ZE8000の場合には広い空間にヴォーカルと楽器音が入り混じって、かつ分離して聴こえるというちょっと不思議な感覚です。今までの楽器の定位感をいったんシャッフルし直したといいましょうか。
こうした感覚としてはイヤフォンよりもヘッドフォンの方がわかりやすいと思うので、ZE8000のヘッドフォン版のような新製品も期待したいところです。

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ZE8000の音のもう一つの特徴は楽器音の自然な音色と豊かで質の高い低域表現です。これは大口径ドライバーの効果が生きていると思います。特にアコースティック楽器のパーカッションの音色はリアルで自然に感じられます。また低音がたっぷりとしているので音空間の豊かさにも貢献しているようです。
音のチューニングとしては声の自然さに重点を置いたそうで、時間応答という点にも気を配ったとのこと。この辺は自然な音色再現力に生きているでしょう。

実際に電車でZE8000使ってみるとノイキャンは騒音がマイルドになる感じで、電車が図書館みたいになるわけではないです。外音取り込みなくても十分アナウンスは聞けます。一方で細かい音は十分聴こえますし、ボリューム下げても音楽は楽しめるのでノイズ下げて音質を担保する効果はあると思います。
外音取り込みはよく効くと思います。実際にレジで使ってみてイヤフォンを外したり付けたりで確認したけど、つけてないよりむしろよく聴こえる気がしますね。声の輪郭を強調してるような感覚です。


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* まとめ

ZE8000は今までの表現(定番のレスポンスカーブ等)に単に従うのではなく、新しい聴き方を提案する(あるいはユーザーに考えてもらう)イヤフォンのfinalからの提唱と言えるでしょう。

発表会での細尾社長のいつになく緊張しているというコメントから、この発表が特別であるということが感じ取れました。
finalは基礎研究に投資することが大事と思ってきた会社だそうですが、実際に全社員の50%が開発で1割は基礎研究に専従しているとのこと。この規模の会社でこれほどの研究投資はなく、まさに技術の会社です。
しかし基礎研究はなかなか成果が上がらないものです。それが待てるかどうかというところに会社の違いがあるということで、finalの強さはそれがあるということです。ここが本当の意味で他社との差別化なのでしょう。スケートボード選手とのコラボについても、スケートボードは失敗の連続から成功に導くもので、派手なところの裏の部分が似て共感したとのことです。
これらのことから、ZE8000の独自のサウンドを生み出す陰には幾多の失敗や苦労、試行錯誤があったのだろうと細尾氏の発表を考えながら、次の先人の言葉を思い出しました。

"けがを怖れる人は大工にはなれない
失敗をこわがる人は科学者にはなれない
科学もやはり頭の悪い命知らずの死骸の山の上に築かれた殿堂であり
血の川のほとりに咲いた花園である"
ー寺田寅彦

posted by ささき at 08:15 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする