これまでこのブログではLUXURY&PRECISIONのスティックDACをいくつか紹介してきました。「W2」,「W2-131」,「W4」,「W4EX」です。
LUXURY&PRECISION(LP楽彼)は中国のオーディオブランドで、はじめはHeadFiなど海外マニアックフォーラムで人気を集めていましたが、2018年からサイラスが国内でも扱いを始めました。
W2UltraとHD800 (液晶にHD800設定が表示されている)
今回紹介するのはW2-131の後継機である「W2Ultra」です。W2-131とDAC構成は同じくシーラスロジック製「CS43131」のデュアルですが内部回路の再設計や特注パーツの新規作成、追加機能などがあります。
まずW2Ultraの特徴はハイパワーを可能にして鳴らしにくいヘッドフォンにも対応したことです。
W2Ultraの製品情報のページはこちらです。
https://cyras.myshopify.com/products/w2ultra
* W2Ultraの特徴
まずヘッドフォンへの対応ということですが性能面で言えば、W2Ultraの最大出力は32Ω負荷時890mWを実現しているということなので、スティック型DACながら据え置きアンプに近いくらいのハイパワーを出すことができます。だいたい1W(1000mW)くらい出力があれば据え置きなみと言って良いと思います。
これはデータシートに載せるためだけの瞬間ピーク値ではなく機器の持続的で安定した真の駆動力を重視しているということで、800mW持続可能高出力アンプを搭載するほかに特性の大型ヒートシンクも採用しています。小型ながらコンパクトな据え置きアンプのような設計です。
かなり電力を消費するようですが、PAV±6V時に60分の再生ではスマートフォンのバッテリーは4%程度の消費ということです。
W2Ultraのヒートシンク
しかしながらW2Ultraのポイントはハイパワー版という特別モデルではなく、あくまで応用範囲が広がったという点です。つまり単に「パワー番長」のようなスティックDACではなく、様々なイヤフォン・ヘッドフォンに対応できるスティックDACということができます。
ハイパワー版というと今まで上手く相性があった高感度マルチBAには今度は合わなくなるような印象を受けますが、W2Ultraではそれを設定の多様さを活かして解決しています。
それを実現するためには出力先に合わせたいくつかの設定を組み合わせて最適なイヤフォン・ヘッドフォンを使い分けることができます。
例えば従来からある「ゲイン切り替え」、そして新しい機能のイヤフォンとヘッドフォン向けに電圧を最適化する「PAV切り替えモード」、特定のイヤフォン/ヘッドフォンの特性に合わせたサウンドスタイルに切り替えられる「SDF切り替えモード」があります。SDFは従来からありましたが、ゼンハイザーHD800、FOCAL Utopiaなどのヘッドフォンが加わっています。LP楽彼ではSDFとHigh Gainを組み合わせるとフラッグシップ級ヘッドホンですら完全に駆動するとしています。
W2Ultra
このほかにも曲に応じたTUNE01、TUNE02のカスタム設定も継続して搭載されています。LP楽彼ではTUNE01ではより広がりのある音で人の声を特徴とする楽曲に最適、TUNE02は精巧な音で交響曲や複雑な楽曲に最適としています。わたしの受けた印象としてはTUNE01は音に着色感がなく広がりのあるハイファイ系・モニター系の音で、TUNE02はやや温かみがあって密度感のあるリスニング寄りの音に感じます。試聴は主にTUNE01で行いました。
* 実機インプレッション
大きさやサイズ感は以前のW2/W4シリーズとほぼ同じで、外観デザインと操作性はW4譲りのものとなっています。前機種に慣れているとマニュアルを読まずにも操作できますが、設定項目が増えています。
パッケージも同じですが同梱品からライトニングケーブルがなくなっています。これはライトニング端子の制限および電流の不安定さがW2Ultraの本来のスペックを十分に発揮できず、接続の想定外となったためということです。
まずゼンハイザーHD800を使用してみました。(設定 SDF:HD800 Gain:High PAV:6.0V)
たしかにW2Ultraの駆動力は高く、鳴らしにくいハイインピーダンスのHD800を軽々と鳴らしているのが分かります。単に音量が取れるというのではなく、軽々と駆動しているようで苦しそうな歪みも重苦しさもありません。HD800の性能と個性を十二分に引き出している感じです。
ジャズヴォーカル曲のウッドベースのピチカートはBAイヤホンのように繊細で細かな鳴りが楽しめ、ヴォーカルは鮮明で声質の細かいところまでよく聴くことができます。空間表現も奥行き感があって立体的です。低音の打撃力もきちんと制動がきいていてタイトでかつ鋭いアタック感です。またHD800はわりと低域がフラットで軽めですが、そういう感じがなくパンチのある量感たっぷりの音楽が楽しめます。
小さなDACから出ているとは思えないようなパワーが出ているのがわかります。目を瞑って目の前のスティックを見なければ優秀なアンプで駆動しているように思える感覚です。
W2UltraとHD800
ここで試しにSDF設定を「HD800」ではなく「Normal(汎用)」にしてみると音量は取れていますが全体的な整った音が減退して少し雑に感じられます。SDFの設定をもどすと高性能アンプから出ているようなとても高い整った音質レベルに感じられます。またこれも試しにPAV設定を4.5Vにすると音が少し薄く軽く感じられるので、やはり6.0Vの方が良いようです。
HD800の独自端子に合う4.4mmケーブルがなかったので3.5mmで試聴しましたが、これでも相当満足できるレベルです。おそらく4.4mmで聴くとさらに素晴らしい音質になるでしょう。
W2UltraとWHITE TIGER
次にマルチBAイヤホンであるqdc「White Tiger」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:4.5V)
これまで同様に解像力は高く、弦楽器の鳴りが細やかでリアルです。音の切れ味の鋭さ、周波数特性のフラットさ、歪みが少ないすっきりとした音の端正な感じもW2/W4と同系統であり、LP楽彼のDAPにも通じる音作りだと思います。フェイキーやFRIED PRIDEのようなシンプルなヴォーカルとギターデュオの音で音質の高さの本領を聴かせてくれます。
PAV設定を6.0Vにするとゲインと違って音量は変化しませんが、音に力強さが加わります。好みの部分もありますが、適正でいうとやはりマルチBAイヤフォンにはPAV:4.5の方が繊細な音を取り出せる感じがあって良いと思います。
W2Ultraと3T-154
次にダイナミック型で駆動力が必要なiBasso「3T-154」を4.4mmで試聴しました。(設定 SDF:Normal Gain:Low PAV:6.0V, TUNE02)
3T-154では線が太く重みのあるダイナミックドライバーらしさをたっぷり味わえるような濃厚なサウンドを楽しめます。ウッドベースも鳴りっぷりがよく聞こえます。3T-154ではTUNE02にするとより雰囲気のある温かみが楽しめます。
また3T-154ではPAVを6.0Vにすることでより力強いパワフルな音が楽しめます。これはなかなかよく3T-154の良さを引き出しています。音もより端切れがよくパンチの強さが向上します。かなり相性の良い設定だと思います。PAV:6.0Vで聴いてからPAV:4.5に戻すと物足りなさが感じられます。
ちなみにゲインを変えると音量自体が大きくなりますが、PAVだと音量は変化せず力強さが変わります。
W2UltraとW2-131(左)
前モデルのW2-131とマルチBAイヤホンのWhite Tigerを用いて比較試聴しました。W2-131の設定はSDF:Normal Gain:Lowです。
W2-131でも同じ設定にするとパッと聴きにはほとんど同じ音質と感じます。少し詳細に聴き比べるとW2-131の方が少しおとなしい感じで、ややW2Ultraの方が解像力が高いようには感じます。特にハイパワーだからW2Ultraではホワイトノイズが大きいと言うこともないと思います。
いずれにせよW2-131で感じたハイエンドのマルチBAイヤフォンとの相性の良さと言うのは、設定さえ変えればW2Ultraでもそのまま引き継がれていると言うことが言えると思います。
そう言う意味ではW2Ultraが特別なバージョンではなく、W2-131の後継機に当たると言うのは正しいと思う。以前のものはきちんと引き継がれた上で、さらにハイパワーのヘッドフォン対応がなされているわけです。
* まとめ
W2Ultraは音の傾向は従来を踏襲していますが、パワーと音のカスタマイズの自由度が格段に向上したモデルです。W2Ultraのポイントは単にヘッドフォンに特化したのではなく、設定によりさまざまな種類のヘッドフォン・イヤフォンにむいているということです。ハイエンドヘッドフォンが鳴らせるようになったと言っても、従来相性の良かったマルチBAイヤホンとの相性がなくなったわけではありません。イヤホンで使ってもまったくこれまで同様に使えます。ハイパワーすぎてイヤホンではボリュームの調整が難しいということもありません。
イヤホンでもハイエンドヘッドフォンでも使用できるだけではなく、イヤフォンもマルチBAとダイナミックで音を変えて最適な音を引き出せます。ハイエンドヘッドフォンをスティックDACで楽しみたいというユーザーだけではなく、自慢のダイナミックドライバーイヤフォンをきちんと鳴らしたいというユーザーにも向いています。マルチBAイヤホンとはいままで通りに相性は良いので、色々な種類のイヤホン、ヘッドフォンを所持しているマニアのユーザーに一番向いているといえるでしょう。特にHD800ユーザーで手軽にHD800を楽しみたい人には特におすすめだと言えます。
Music TO GO!
2024年09月17日
2024年09月10日
AppleがAirPodsを刷新、AirPods Pro2にOTC補聴器モードを搭載
日本時間9月10にAppleの恒例の発表会があり、iPhone 16/16 Proと共にAirPods 4が発表されました。
AirPods 4ではH2が搭載され、ANC採用のモデルもラインナップされています。カナルタイプではなく、オープンイヤータイプでANCが入ったのはポイントかもしれません。音響部分や装着感にも手が入っています。
なおAirPods Maxはカラバリが増えてUSB-C化されましたが、USB-C化はEU要求で必須ですので最小限度のみということのようです。この辺の匙加減には売り上げも影響しているのかもしれません。
今回注目点はAirPods Pro2に(OTC)補聴器モードが搭載される案内があったことです。国制限がありますが、日本にもこの秋にアップデートで提供されるようです。
Appleでは「聴覚の健康をサポートする体験」と呼んでいますが、これはつまり噂されていたAirPods Pro2のOTC補聴器モードです。
リリースでは「軽度から中程度の難聴が認められる方向けに処方箋不要のヒアリング補助機能」がAirPods Pro2に追加されるとありますが、この説明はアメリカにおけるOTC(Over The Counter)補聴器の説明と同じです。ちなみにOTC補聴器はアメリカの法に基づく呼称なので、Appleのようなグローバル企業では言い方は変えるでしょう。
ここ2-3年でアメリカからの情報では完全ワイヤレスイヤフォンを巡る話題に補聴器が絡むことも多くなっていました。この背景としてはアメリカで2022年の8月に米国FDAが医療従事者(オーディオロジストなど)の関与しないOTC補聴器が認可されたことが理由です。OTC補聴器とは店頭販売が可能な補聴器のことです。それまではアメリカでは補聴器の購入にオーディオロジストの処方箋が必要でした。
これによって軽度から中程度の難聴者にとっては従来よりもかなり安価に補聴器が入手できるようになったわけです。これは全米人口の15%に関係するというのでかなり大きな市場の話になります。
OTC補聴器は本格的な補聴器に比べるとかなり安価ですが、完全ワイヤレスイヤホンに比べると価格を上げることができます。
実際に世界的にはオーディオメーカーと補聴器メーカーが協業する動きが近年進んでいます。例えばSONOVAに買収されたゼンハイザー、ソニーもデンマークのWS Audiologyとの協業で業界参入をしています。JAVARAもすでにOTC補聴器を市場導入しています。
これは流通や互いの分野のノウハウの問題でどうしても協業体制が必要となるからのようです。
このようにOTC補聴器と完全ワイヤレスイヤホンの相互関係も注目したい流れの一つと言えます。
もともとLE Audioも補聴器をワイヤレス化するために低消費電力化しなければならないのでBluetoothオーディオ機能にBLEを適用するというところから始まっていますから。
アップルのアナウンス
https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/09/apple-introduces-airpods-4-and-a-hearing-health-experience-with-airpods-pro-2/
AirPods 4ではH2が搭載され、ANC採用のモデルもラインナップされています。カナルタイプではなく、オープンイヤータイプでANCが入ったのはポイントかもしれません。音響部分や装着感にも手が入っています。
なおAirPods Maxはカラバリが増えてUSB-C化されましたが、USB-C化はEU要求で必須ですので最小限度のみということのようです。この辺の匙加減には売り上げも影響しているのかもしれません。
今回注目点はAirPods Pro2に(OTC)補聴器モードが搭載される案内があったことです。国制限がありますが、日本にもこの秋にアップデートで提供されるようです。
Appleでは「聴覚の健康をサポートする体験」と呼んでいますが、これはつまり噂されていたAirPods Pro2のOTC補聴器モードです。
リリースでは「軽度から中程度の難聴が認められる方向けに処方箋不要のヒアリング補助機能」がAirPods Pro2に追加されるとありますが、この説明はアメリカにおけるOTC(Over The Counter)補聴器の説明と同じです。ちなみにOTC補聴器はアメリカの法に基づく呼称なので、Appleのようなグローバル企業では言い方は変えるでしょう。
ここ2-3年でアメリカからの情報では完全ワイヤレスイヤフォンを巡る話題に補聴器が絡むことも多くなっていました。この背景としてはアメリカで2022年の8月に米国FDAが医療従事者(オーディオロジストなど)の関与しないOTC補聴器が認可されたことが理由です。OTC補聴器とは店頭販売が可能な補聴器のことです。それまではアメリカでは補聴器の購入にオーディオロジストの処方箋が必要でした。
これによって軽度から中程度の難聴者にとっては従来よりもかなり安価に補聴器が入手できるようになったわけです。これは全米人口の15%に関係するというのでかなり大きな市場の話になります。
OTC補聴器は本格的な補聴器に比べるとかなり安価ですが、完全ワイヤレスイヤホンに比べると価格を上げることができます。
実際に世界的にはオーディオメーカーと補聴器メーカーが協業する動きが近年進んでいます。例えばSONOVAに買収されたゼンハイザー、ソニーもデンマークのWS Audiologyとの協業で業界参入をしています。JAVARAもすでにOTC補聴器を市場導入しています。
これは流通や互いの分野のノウハウの問題でどうしても協業体制が必要となるからのようです。
このようにOTC補聴器と完全ワイヤレスイヤホンの相互関係も注目したい流れの一つと言えます。
もともとLE Audioも補聴器をワイヤレス化するために低消費電力化しなければならないのでBluetoothオーディオ機能にBLEを適用するというところから始まっていますから。
アップルのアナウンス
https://www.apple.com/jp/newsroom/2024/09/apple-introduces-airpods-4-and-a-hearing-health-experience-with-airpods-pro-2/
2024年08月30日
新機軸を投入したiBassoの高性能DAP「DX260」レビュー
本記事はiBasso Audioの新製品DX260のレビュー記事です。
その前に簡単にiBasso Audioとポータブルオーディオの歴史を振り返ります。
DX260とCampfire Fathorm
わたしはiBasso Audioの製品は2007年のiBasso D1から使っていますが、これはポータブルヘッドフォンアンプに初めて本格的なDACが搭載されたことで当時は画期的な製品でした。それだけではなくD1は2007年当時からMCU (Micro Controller Unit)を入出力コントロールに使用するなど先進的な技術を搭載していました。そしてiBassoは大型だったD1をよりコンパクト化したD10でこのカタチを進化させ、iPodとアンプ二段重ねのポータブルオーディオ世界を牽引していきます。
次に画期的だったのは2012年のDX100で、これは今で言うハイレゾDAPです。これはAndroidをOSに使いながらもAndroidの制限であるミキサーをバイパスしてハイレゾ再生を可能とし、当時最新だったDACであるESS ES9018の性能を引き出しています。これがDX260の直接の先祖にあたります。このAndroidのミキサーバイパス方式は今は普通ですが、iBassoが先駆けで極めて先進的で画期的なDAPでした。
このようにiBassoは10年以上もこのポータブル業界を牽引してきた会社で、先進的でかつマニアックなメーカーです。
iBasso D10(左、2009)とiBasso DX100(2012)
そしてDX100の最も進化したものが最新作のDX260そしてDX180です。両者の違いは簡単にいうとDACの種類・数と価格で、それぞれDX240、DX170の後継機にあたります。
この他にiBassoにはMAXラインモデルがありますが、MAXラインが物量投入型の直球勝負のフラッグシップであるのに対してこのDX260/DX180は最新技術を投入したラインナップです。
すでに述べたようにiBasso Audioはこの分野では常に先進的な技術を導入する会社で、DX260、DX180もその例外ではありません。DX260、DX180を外見からパッとみるとカジュアルなDAPのように見えますが、その実はかなり高度な機能を内に秘めています。
DX260とPathfinder
* DX260の特徴
1. 8基のDAC ICを組み合わせた高音質設計、ディレイパラレルの採用とアナログFIRフィルター
DX260はシーラスロジックのフラッグシップDACチップのCS43198を8基搭載しています。しかしDX260のポイントは数ではなくその使い方です。iBassoらしくFPGAとの組み合わせで8基のDAC ICをピコ秒レベルでデータ送信を制御、従来的な「シンクロナス・パラレル出力」に加えて新しい「ディレイ・パラレル出力」を可能としています。
ディレイパラレル図
それぞれのDACの波形のギザギザの部分が重なり合ってスムーズになっています
DX260での特徴は「ディレイ・パラレル出力」で、これはDACチップの出力を少しずつずらしながら合算する方法です。これにはDACチップをグループ化するためにx2とx4のモードがあります。(DX180ではx2のみ)
これは出力波形のギザギザになっている部分を重ね合わせることで滑らかにする効果があります。こちらはiBasso開発に「ディレイ・パラレル出力」について聞いたコメントです。
"Delay-parallel is our FIR filter. You can imagine that several identical waveforms with a little delay are superimposed. As a result, the analog signal is more accurate and smoother."
(ディレイパラレル は当社のFIRフィルターです。 少し遅延した複数の同じ波形を重ね合わせることを想像してください。その結果、アナログ信号はより正確で滑らかになります)
言い換えるならば、デジタルカメラに最近よく搭載されているピクセルずらしによる超解像出力に似ているかもしれません。ただしiBasso開発に「これは解像力(resolution)を向上させるものですか」と聞いたところ、"resolutionというのはデジタルでの概念ですが、この機能はいわばアナログ領域のものです"と返答が返ってきました。この辺りが本機能をアナログFIRフィルターと呼んでいるゆえんかもしれません。つまり「ディレイ・パラレル出力」という機能はあくまでアナログでの音をスムーズに改善する機能ということのようです。
iBassoでは最大4基までの「ディレイ・パラレル」により、ハードウェア・アナログFIRフィルターを形成し、複数のDAC間の差異を無くすことで性能を向上させると書いています。DX260ではこうした機能によりSN比が最大133dBと驚くほどの性能を実現しています。
DX260とFathorm
2. Androidのミキサーのバイパス、および独自OSの切り替え方式の採用
DX260は基本的にAndroid 11をそのまま使用したDAPで、ストリーミングを再生したいときにはApple MusicやAmazon Musicなどのアプリをそのままインストールできます。またのちに述べますが、USB Audio Player ProやNeutronなどマニアックなAndroidらしいアプリもインストールすることができます。ローカル音源の再生にはMango PlayerというiBassoの音楽再生アプリがプリインストールされていてすぐに使用できます。
基本はAndroid端末そのものなので、例えばDX260のマニュアルをダウンロードしてAdobe readerをインストールして開くことができます。SNSアプリをインストールすればフィードで流れてきた気になる曲をそのままクリックしてすぐ良い音で聴くことができます。
ただしAndroidをそのまま使う時にはAndroid 14以降の「ロスレスUSBオーディオ」機能を使用しない限りはミキサー制限のためにハイレゾ・ロスレスでの再生はできません。そのためにiBassoでは冒頭で書いたようにDX100からそれをバイパスする仕組みを有しています。DX260でももちろんミキサーをバイパスできるのでハイレゾ・ロスレスで出力できます。
この件についてどのようにしてロスレス出力を実現しているのかをiBasso開発に聞いてみました。
"We modified Android's mixer, audio flinger, and audio hardware abstract layer. Android's SRC issues have been resolved since DX100"
(Androidのミキサー、audio flinger、オーディオハードウェアアブストラクトレイヤーに手を加えています。こうしてAndroidのSRC問題はDX100以降解決されています)
解説するとミキサーはDAP上で使われる音源のサンプルレートを一つに変更するソフトのこと(でないとDACに送れない)、audio flingerとはAndroidにおける基本音声システム(Core Audioのこと)、ハードウェアアブストラクトレイヤー(通称HAL)は音をドライバーに送る前段です、
これによりMango Player以外のApple MusicやAmazon Musicアプリでストリーミングを再生する時にもAndroidのミキサーをバイパスしてハイレゾ・ロスレス音源を再生できると開発は言っています。こうしたOSに近い仕組みに手を加えたからでしょう。
そしてDX260はMango Playerと同じ操作感で使用できる独自OSの音楽再生専用OSのMango OSがインストールされているので、Androidと切り替えて使うことができます。ただしMango OSではWi-FIとBluetoothは使えないので、多機能が使いたい時はAndroid、音質を重視したいときはMango OSと切り替えて使うことができます。
* インプレッション
DX260の魅力の一つはサイズ感です。大きさの割には軽く、それでいて金属のシャーシの高級感を感じるデザインが採用されています。標準添付のケースは透明のスマホケースのような樹脂製で、高級感はありませんがとても実用的です。大きさが適度でシャツの胸ポケットやジーンズの前ポケットにも入れることができます。
ボリュームのトルク感は軽めですがクリックはしっかりあって回しやすい設計です。設定で画面が消えている時は回らないようにすることができます。ボリューム付近の整備用の背面パネルがメカらしく、デザインのポイントになっています。
バックパネル
ユニークなのは付属品にエージング用のケーブルが入っていることです。エージングケーブルはインピーダンスを持ったケーブルで、実際にイヤフォンを接続しなくてもエージングができます。実際にイヤフォンを繋ぐと音漏れがするので便利に使えると思います。推奨エージング時間はメーカーによると200時間ということですが、私は50時間ほどエージングしてから聴き始めました。
電池の持ちが良いのも特徴で、エージングしてる時に測ったら連続で13-14時間ほど持つようです。
まず透明感の高いCampfire Audio Fathomを用いて聴き始めました。AndroidのMango Playerで初期設定です。エージングなしでまず少し聴いてみましたが、いきなり透明感の高い鮮烈な音が出てきたのでちょっと驚きです。
それからのエージングには付属のエージングケーブルを使ってみたんですが、エージング中に音漏れがしないのは良いですね。エージングの進み具合も良好に思えます。エージングを進めると粗さが取れて滑らかになっていく感じです。
DX260の音は、中高域の鮮烈なほどのクリアな鮮明感と低域のパンチの強さの気持ちよさがまず特徴的です。音調はニュートラルで着色感がなく、いつもの少し暖かみのあるシーラスロジックの音ではなく無着色のESSの音のように感じられます。というかCS43198の音というよりもAKMやESSの最上位機種のような音です。この辺はマルチDACの効果かもしれません。
透明感の高さは印象的なほどで、とても細かい音が聞こえます。SN比が極めて高い感じです。音像が鮮明でくっきりはっきりとしています。くっきりはっきり系に振り切ったような鮮烈でクリアなサウンドです。研ぎ澄まされた日本刀のような切れ味で、このSN比の高さは価格帯を超えた音質だと思います。
中音域のヴォーカルの歌詞はかなり明瞭に聞こえ、どちらかというと女声の方が得意だと思います。
高音域は突き抜けるようにシャープに伸びていく。金属が擦れる音のシャープさはあまり聴いたことがないほどの鋭さがあるけれども、それほどきつさは感じられません。高音域のベルの音が澄んで美しいので歪み感も少ないと思う。
とてもワイドレンジで低域は深く、低音はタイトでパンチが鋭く重いのでロックでも思わず聴き入ってしまいます。DX260の低域は解像感のある質の高い低音を楽しむスピード感あるスリリングな低音再現が楽しめます。
音場が立体的で昔のロックを聴いても音に奥行き感が感じられる点も良いです。
DX260とFathorm
* イヤフォンを色々と変えてみる
次にいろいろとイヤフォンを変えて聴き比べてみました。
Campfire Audio Pathfinder
オールBAのFathomと異なりハイブリッドモデルです。
ハイブリッドらしく低音がうなりを上げ、かなり迫力があります。少しモニター寄りだったFathomとの組み合わせよりもさらにリスニング寄りの音に感じられ、低音のパワー感が一層感じられます。DX260のアンプ部分のパワーもかなりあると思います。ジャズを聴くとギターの端切れがとてもシャープで気持ち良い。元気があるサウンドです。
音の広がりがやはり立体的で、奥行き表現に長けていて空間が感じられます。
qdc White Tiger
2EST+6BAモデル。プロ御用達のqdcブランドらしくモニター的で原音忠実的に聞きたい時に向いた組み合わせです。低域もよくコントロールされて全体に明瞭感が高く、スピードがあります。低域も深くパンチがありますが、Pathfinderよりは抑えめとなります。
iBasso 3T-154
15.4mm大口径シングルダイナミック。例えると暴れん坊の3T-154をうまく慣らしてテームしているという感じです。低音は弛まずうまくコントロールしています。ミドルゲインにするとより暴力的なパワフルさが再現できます。男声の時はダイナミックモデルがより合うかもしれません。
ちなみに付属ケースの端子の切り欠きは3T-154の太めの端子のサイズに合わせたようで、ぴったりと装着できます。
DX260とFathorm
DX260自体はフラットでニュートラルかつアンプのコントロール力もあるので、イヤフォンの個性を引き出しています。イヤフォンを変えることでモニター的に聞きたいか、リスニング的に聞きたいかを選べます。
強いてあげるなら、DX260に向いているのはハイブリッドかマルチBAモデルです。BAの音のシャープさを特にうまく引き出すDAPと言えます。
* Androidモードで音楽アプリを色々と変えてみる
Androidモード、Mangoプレーヤー画面
DX260の基本的な使い方は、Androidモードで標準のMango Playerを使って内蔵メモリやSDカードの音楽を楽しみます。また、そうしたSDカードなどローカル音源を聞きたい時はMango OSモードにするとさらに音質よく聴くことができます。しかしMango OSではWiFiやBluetoothが使えないのでストリーミングを聞きたい時はAndoidモードにしてApple MusicやAmazon Musicをインストールすることになります。
DX260はAndroid OSモードにしている時はGoogle Playストアが使用できるAndroid11端末と同じなので、多彩なアプリをインストールできます。標準でインストールされている「アプトイデ」も3rdパーティーのアプリストアです。またAmazonも独自のアプリストアを持っています。いろいろとアプリを変えて楽しめるのがAndroidの良い点ですが、その自由な分でリスクもあるので注意は必要です。
まずストリーミングを楽しめたい場合には「Apple Music」や「Amazon Music」のようなストリーミングサービス純正のアプリをインストールできます。
Apple Musicアプリ
Apple Music画面
画面も広く操作感も軽いので、スマホを使っているのとさほど変わらない感覚で使用ができます。搭載しているSoCはSnapdragon660なのでミドルクラスのスマホなみです。スマホと比べると少し画面が狭くて本体の厚みがある感覚です。画面はスマホよりは小さいものの、フォントも見やすく画面遷移も十分に早いと感じます。ストリーミング用としては文句ない使い勝手だと思う。
Amazon Musicアプリ
Amazon Music音質設定画面
Amazonアプリはやや遅く感じますが、これはアプリの問題だと思います。Amazonのアプリはなんでもアプリ内に入れるので重いのですよね。
オーディオ品質を見ると96kHz/24bitの曲はデバイスでも96/24でデコードされているので、先に書いたように3rdパーテイーのアプリによるストリーミングでもハイレゾ対応がなされているようです。
音質も良く、クラシックでのフルートや楽器の音色がとても正しく再現されているように感じられます。
Bandcampアプリ
これは私がいつも新曲をチェックするために使っているインディーズ・マイナーアーティスト用の配信サイトです。これも十分に使用でき、かつiPhoneとは違ってこのアプリから直で買うオプションが見えているのはオープンなAndroidらしいところです。
またAndroidの魅力は自由度が高いことなので、オーディオマニア向けの音楽再生アプリも選べます。例えば高音質に振ったマニアックな「Neutron Player」や、多機能な「USB Audio Player Pro」です。多機能という点では「PowerAmp」アプリなども定番ですが、オーディオマニア向けというのとはちょっと違うかもしれません。
Neutron Playerアプリ
Neutronプレーヤー、オーディオハード画面
これは高音質に特化したアプリでAndroidのMango Playerよりも高音質で再生できるように思います。再生タブで64bit処理、リサンプリングでオーディオファンモードを選んでおくと良いと思う。
前に使っていた時よりもDAPの性能が上がっているせいか、より音が良くなっているように思いますね。より音が細かく濃く聞こえます。
上のようにハードウエア画面でARMアーキテクチャの隣に+NEONと表示されてあればそのプロセッサではNEON対応しています。NEONとは音楽データのような大量データを高速に処理するための専用部分です。DX260ではNEON対応されています。
Mango Playerとはまた異なる高音質が楽しめるので、切り替えて使ってみるのもよいかと思います。
USB Audio Player Pro(UAPP)アプリ
USB Audio Player ProのTIDAL画面
通常Android(Android13まで)はミキサー制限でハイレゾ・ビットパーフェクト出力ができませんが、アプリ側で独自のハイレゾ・ロスレス出力ができるようにしたアプリです。
以下はDX260での設定の例です。
設定→「内部オーディオドライバ」=ハイレゾダイレクトドライバ(DAP内蔵DACを使用)
設定→「ハイレゾドライバ」→「ビットパーフェクトモード」=オン
またUSB Audio Player Proアプリ内でRoonやAurdivanaのようにTidalとQobuzを呼び出すことができます。
TIDALアプリは日本ではGoogle Playストアではダウンロードできないので、TIDALをAndroidアプリで聞きたい時に使えます。またTIDALを聴きながらUAPPの機能もフルに使えます。MQAデコードもできますが、TIDALはMQAを廃することを決めたのであまり意味がないかもしれません。さらにuPnP(DLNA)サーバーの音源も再生できるなど多機能な音楽再生アプリです。
このようにAndroidでアプリを変えて音質を変えたいとか弄っていきたいというときに、iOSにはないAndroidらしさが楽しめるので、iPhoneユーザーがDX260を買うと新鮮な楽しみ方ができると思います。
DX260とPathfinder
* 音質設定での音質変化を楽しむ
設定変更はゲイン、デジタルフィルター、FIRモードなどが変更できます。デジタルフィルターはDACのデジタルフィルターを変更することで、これは他のDAPでも可能です。
DX260独自なのはFIRモードです。これは特徴のところに書いたマルチDACの使い方を変更するモードです。FIRモードをnormalからx2、x4と変えていくと音が滑らかになり、より濃くなっているように思います。x4からNormalに戻すと音が軽く硬めに感じます。やはりx4がもっとも音質が良く感じられます。
* Mango OSモードに変更して音質変化を楽しむ
DX260ではAndroidの他にiBasso独自のMango OSという軽量OSが搭載されています。音質設定や使い方はMango Playerと同じで戸惑うことはありません。他のアプリは動かないMango Player専用のOSモードみたいな感覚です。ただしBluetoothやWiFiサポートもないので、ストリーミングはできません。単体でSDカードや内蔵音源などローカル音源を楽しむ時のモードです。
音質はAndroidモードのMango Playerよりも、Mango OSモードの方が鮮烈でちょっと驚くほど鮮烈な高い音質を味わえます。Androidモードから一枚ペールを剥がした感じです。
FIRモードの差もMango OSの方がより違いが分かります。Mango OSモードでFIRのx4モードの音質は価格以上の性能を感じさせると思います。
* USB DACモードを使う
USB DACモードでの使用例
DX260はUSB DACにもなります。注意点はこのときケーブルに関してはOTGではなく、通常のUSB-Cデータケーブルを使用することです。iBassoの開発によると、DX260においてUSB-DACとして使用する際には、USB SLAVEとして認識されるのでOTGではない普通のUSB-Cデータケーブルを使用するということです。
USB DACモードを使うにはプレーヤーの設定画面から切り替えて使用します。特徴的なのはこの時に充電するかどうかを選択できることです。充電しないにするとノートPCと接続する時はノートPC自体のバッテリーを使わないでDX260側のバッテリーを使うことができるので、ノートPCでもバッテリーの持ちを気にせずに使用できます。DX260自体がコンパクトなのでMacbookと合わせてもそんなに邪魔にならずに使用できます。
音質もかなりレベルの高いものです。MacのAudio Midi画面を見ると384kHz対応のようです。
macOSのAudio MIdi画面
* Bluetoothレシーバーモードを使う
Bluetoothレシーバーでの使用例
iPhone 15 Pro MAXと接続してみました。接続自体は普通のBluetooth機器と同様に簡単にペアリングすることができます。レシーバーとしてのコーデックはAACとSBCのみとなります。
音質もそれほど劣化を感じせずに使うことができるので音質も十分に実用的です。ただしDX260本体がストリーミング可能で多機能なので出番は少ないかもしれません。
* まとめ
DX260は第一に鮮明でクリアな音が堪能できるDAPです。パンチがあって躍動感のある点も良いと思う。
そして第二にとにかくモードが多く使い出があるDAPです。デジタルフィルターも多彩、Androidでアプリを変えたり、Mango OSモードもあるのでものすごく多彩な音質オプションが選べます。もちろんこの他にイコライザーも使えます。ノートPC側の電池を使わないUSB-DACにもなりますし、Bluetoothレシーバーとして使用すればWi-Fiやテザリングのできない環境でもストリーミング再生が使用できます。SPDIFがついているのもD1から知ってる私にとってはiBassoらしい感じはします。その点でぶれてないですね。
DX260とFathorm
そしてDX260の良さは圧倒的な音質の良さとサイズ感がうまく組み合わされているところです。最近は完全ワイヤレスイヤフォンの進化で有線イヤフォンの出番が減る傾向にありますが、その中でもDAPを持ち出して使いたいという気にさせてくれるDAPといえます。わかりやすい鮮烈なサウンドで、完全ワイヤレスでは到達できないレベルの音質を明示することで、有線イヤフォンの有意さを示しています。サイズ的には日本の事情に即しているDAPのように思います。やはり手持ちの有線イヤフォンを高性能DAPで活かしたいけど、DAPが重いと持ち出すのに躊躇するという方にはおすすめです。
その前に簡単にiBasso Audioとポータブルオーディオの歴史を振り返ります。
DX260とCampfire Fathorm
わたしはiBasso Audioの製品は2007年のiBasso D1から使っていますが、これはポータブルヘッドフォンアンプに初めて本格的なDACが搭載されたことで当時は画期的な製品でした。それだけではなくD1は2007年当時からMCU (Micro Controller Unit)を入出力コントロールに使用するなど先進的な技術を搭載していました。そしてiBassoは大型だったD1をよりコンパクト化したD10でこのカタチを進化させ、iPodとアンプ二段重ねのポータブルオーディオ世界を牽引していきます。
次に画期的だったのは2012年のDX100で、これは今で言うハイレゾDAPです。これはAndroidをOSに使いながらもAndroidの制限であるミキサーをバイパスしてハイレゾ再生を可能とし、当時最新だったDACであるESS ES9018の性能を引き出しています。これがDX260の直接の先祖にあたります。このAndroidのミキサーバイパス方式は今は普通ですが、iBassoが先駆けで極めて先進的で画期的なDAPでした。
このようにiBassoは10年以上もこのポータブル業界を牽引してきた会社で、先進的でかつマニアックなメーカーです。
iBasso D10(左、2009)とiBasso DX100(2012)
そしてDX100の最も進化したものが最新作のDX260そしてDX180です。両者の違いは簡単にいうとDACの種類・数と価格で、それぞれDX240、DX170の後継機にあたります。
この他にiBassoにはMAXラインモデルがありますが、MAXラインが物量投入型の直球勝負のフラッグシップであるのに対してこのDX260/DX180は最新技術を投入したラインナップです。
すでに述べたようにiBasso Audioはこの分野では常に先進的な技術を導入する会社で、DX260、DX180もその例外ではありません。DX260、DX180を外見からパッとみるとカジュアルなDAPのように見えますが、その実はかなり高度な機能を内に秘めています。
DX260とPathfinder
* DX260の特徴
1. 8基のDAC ICを組み合わせた高音質設計、ディレイパラレルの採用とアナログFIRフィルター
DX260はシーラスロジックのフラッグシップDACチップのCS43198を8基搭載しています。しかしDX260のポイントは数ではなくその使い方です。iBassoらしくFPGAとの組み合わせで8基のDAC ICをピコ秒レベルでデータ送信を制御、従来的な「シンクロナス・パラレル出力」に加えて新しい「ディレイ・パラレル出力」を可能としています。
ディレイパラレル図
それぞれのDACの波形のギザギザの部分が重なり合ってスムーズになっています
DX260での特徴は「ディレイ・パラレル出力」で、これはDACチップの出力を少しずつずらしながら合算する方法です。これにはDACチップをグループ化するためにx2とx4のモードがあります。(DX180ではx2のみ)
これは出力波形のギザギザになっている部分を重ね合わせることで滑らかにする効果があります。こちらはiBasso開発に「ディレイ・パラレル出力」について聞いたコメントです。
"Delay-parallel is our FIR filter. You can imagine that several identical waveforms with a little delay are superimposed. As a result, the analog signal is more accurate and smoother."
(ディレイパラレル は当社のFIRフィルターです。 少し遅延した複数の同じ波形を重ね合わせることを想像してください。その結果、アナログ信号はより正確で滑らかになります)
言い換えるならば、デジタルカメラに最近よく搭載されているピクセルずらしによる超解像出力に似ているかもしれません。ただしiBasso開発に「これは解像力(resolution)を向上させるものですか」と聞いたところ、"resolutionというのはデジタルでの概念ですが、この機能はいわばアナログ領域のものです"と返答が返ってきました。この辺りが本機能をアナログFIRフィルターと呼んでいるゆえんかもしれません。つまり「ディレイ・パラレル出力」という機能はあくまでアナログでの音をスムーズに改善する機能ということのようです。
iBassoでは最大4基までの「ディレイ・パラレル」により、ハードウェア・アナログFIRフィルターを形成し、複数のDAC間の差異を無くすことで性能を向上させると書いています。DX260ではこうした機能によりSN比が最大133dBと驚くほどの性能を実現しています。
DX260とFathorm
2. Androidのミキサーのバイパス、および独自OSの切り替え方式の採用
DX260は基本的にAndroid 11をそのまま使用したDAPで、ストリーミングを再生したいときにはApple MusicやAmazon Musicなどのアプリをそのままインストールできます。またのちに述べますが、USB Audio Player ProやNeutronなどマニアックなAndroidらしいアプリもインストールすることができます。ローカル音源の再生にはMango PlayerというiBassoの音楽再生アプリがプリインストールされていてすぐに使用できます。
基本はAndroid端末そのものなので、例えばDX260のマニュアルをダウンロードしてAdobe readerをインストールして開くことができます。SNSアプリをインストールすればフィードで流れてきた気になる曲をそのままクリックしてすぐ良い音で聴くことができます。
ただしAndroidをそのまま使う時にはAndroid 14以降の「ロスレスUSBオーディオ」機能を使用しない限りはミキサー制限のためにハイレゾ・ロスレスでの再生はできません。そのためにiBassoでは冒頭で書いたようにDX100からそれをバイパスする仕組みを有しています。DX260でももちろんミキサーをバイパスできるのでハイレゾ・ロスレスで出力できます。
この件についてどのようにしてロスレス出力を実現しているのかをiBasso開発に聞いてみました。
"We modified Android's mixer, audio flinger, and audio hardware abstract layer. Android's SRC issues have been resolved since DX100"
(Androidのミキサー、audio flinger、オーディオハードウェアアブストラクトレイヤーに手を加えています。こうしてAndroidのSRC問題はDX100以降解決されています)
解説するとミキサーはDAP上で使われる音源のサンプルレートを一つに変更するソフトのこと(でないとDACに送れない)、audio flingerとはAndroidにおける基本音声システム(Core Audioのこと)、ハードウェアアブストラクトレイヤー(通称HAL)は音をドライバーに送る前段です、
これによりMango Player以外のApple MusicやAmazon Musicアプリでストリーミングを再生する時にもAndroidのミキサーをバイパスしてハイレゾ・ロスレス音源を再生できると開発は言っています。こうしたOSに近い仕組みに手を加えたからでしょう。
そしてDX260はMango Playerと同じ操作感で使用できる独自OSの音楽再生専用OSのMango OSがインストールされているので、Androidと切り替えて使うことができます。ただしMango OSではWi-FIとBluetoothは使えないので、多機能が使いたい時はAndroid、音質を重視したいときはMango OSと切り替えて使うことができます。
* インプレッション
DX260の魅力の一つはサイズ感です。大きさの割には軽く、それでいて金属のシャーシの高級感を感じるデザインが採用されています。標準添付のケースは透明のスマホケースのような樹脂製で、高級感はありませんがとても実用的です。大きさが適度でシャツの胸ポケットやジーンズの前ポケットにも入れることができます。
ボリュームのトルク感は軽めですがクリックはしっかりあって回しやすい設計です。設定で画面が消えている時は回らないようにすることができます。ボリューム付近の整備用の背面パネルがメカらしく、デザインのポイントになっています。
バックパネル
ユニークなのは付属品にエージング用のケーブルが入っていることです。エージングケーブルはインピーダンスを持ったケーブルで、実際にイヤフォンを接続しなくてもエージングができます。実際にイヤフォンを繋ぐと音漏れがするので便利に使えると思います。推奨エージング時間はメーカーによると200時間ということですが、私は50時間ほどエージングしてから聴き始めました。
電池の持ちが良いのも特徴で、エージングしてる時に測ったら連続で13-14時間ほど持つようです。
まず透明感の高いCampfire Audio Fathomを用いて聴き始めました。AndroidのMango Playerで初期設定です。エージングなしでまず少し聴いてみましたが、いきなり透明感の高い鮮烈な音が出てきたのでちょっと驚きです。
それからのエージングには付属のエージングケーブルを使ってみたんですが、エージング中に音漏れがしないのは良いですね。エージングの進み具合も良好に思えます。エージングを進めると粗さが取れて滑らかになっていく感じです。
DX260の音は、中高域の鮮烈なほどのクリアな鮮明感と低域のパンチの強さの気持ちよさがまず特徴的です。音調はニュートラルで着色感がなく、いつもの少し暖かみのあるシーラスロジックの音ではなく無着色のESSの音のように感じられます。というかCS43198の音というよりもAKMやESSの最上位機種のような音です。この辺はマルチDACの効果かもしれません。
透明感の高さは印象的なほどで、とても細かい音が聞こえます。SN比が極めて高い感じです。音像が鮮明でくっきりはっきりとしています。くっきりはっきり系に振り切ったような鮮烈でクリアなサウンドです。研ぎ澄まされた日本刀のような切れ味で、このSN比の高さは価格帯を超えた音質だと思います。
中音域のヴォーカルの歌詞はかなり明瞭に聞こえ、どちらかというと女声の方が得意だと思います。
高音域は突き抜けるようにシャープに伸びていく。金属が擦れる音のシャープさはあまり聴いたことがないほどの鋭さがあるけれども、それほどきつさは感じられません。高音域のベルの音が澄んで美しいので歪み感も少ないと思う。
とてもワイドレンジで低域は深く、低音はタイトでパンチが鋭く重いのでロックでも思わず聴き入ってしまいます。DX260の低域は解像感のある質の高い低音を楽しむスピード感あるスリリングな低音再現が楽しめます。
音場が立体的で昔のロックを聴いても音に奥行き感が感じられる点も良いです。
DX260とFathorm
* イヤフォンを色々と変えてみる
次にいろいろとイヤフォンを変えて聴き比べてみました。
Campfire Audio Pathfinder
オールBAのFathomと異なりハイブリッドモデルです。
ハイブリッドらしく低音がうなりを上げ、かなり迫力があります。少しモニター寄りだったFathomとの組み合わせよりもさらにリスニング寄りの音に感じられ、低音のパワー感が一層感じられます。DX260のアンプ部分のパワーもかなりあると思います。ジャズを聴くとギターの端切れがとてもシャープで気持ち良い。元気があるサウンドです。
音の広がりがやはり立体的で、奥行き表現に長けていて空間が感じられます。
qdc White Tiger
2EST+6BAモデル。プロ御用達のqdcブランドらしくモニター的で原音忠実的に聞きたい時に向いた組み合わせです。低域もよくコントロールされて全体に明瞭感が高く、スピードがあります。低域も深くパンチがありますが、Pathfinderよりは抑えめとなります。
iBasso 3T-154
15.4mm大口径シングルダイナミック。例えると暴れん坊の3T-154をうまく慣らしてテームしているという感じです。低音は弛まずうまくコントロールしています。ミドルゲインにするとより暴力的なパワフルさが再現できます。男声の時はダイナミックモデルがより合うかもしれません。
ちなみに付属ケースの端子の切り欠きは3T-154の太めの端子のサイズに合わせたようで、ぴったりと装着できます。
DX260とFathorm
DX260自体はフラットでニュートラルかつアンプのコントロール力もあるので、イヤフォンの個性を引き出しています。イヤフォンを変えることでモニター的に聞きたいか、リスニング的に聞きたいかを選べます。
強いてあげるなら、DX260に向いているのはハイブリッドかマルチBAモデルです。BAの音のシャープさを特にうまく引き出すDAPと言えます。
* Androidモードで音楽アプリを色々と変えてみる
Androidモード、Mangoプレーヤー画面
DX260の基本的な使い方は、Androidモードで標準のMango Playerを使って内蔵メモリやSDカードの音楽を楽しみます。また、そうしたSDカードなどローカル音源を聞きたい時はMango OSモードにするとさらに音質よく聴くことができます。しかしMango OSではWiFiやBluetoothが使えないのでストリーミングを聞きたい時はAndoidモードにしてApple MusicやAmazon Musicをインストールすることになります。
DX260はAndroid OSモードにしている時はGoogle Playストアが使用できるAndroid11端末と同じなので、多彩なアプリをインストールできます。標準でインストールされている「アプトイデ」も3rdパーティーのアプリストアです。またAmazonも独自のアプリストアを持っています。いろいろとアプリを変えて楽しめるのがAndroidの良い点ですが、その自由な分でリスクもあるので注意は必要です。
まずストリーミングを楽しめたい場合には「Apple Music」や「Amazon Music」のようなストリーミングサービス純正のアプリをインストールできます。
Apple Musicアプリ
Apple Music画面
画面も広く操作感も軽いので、スマホを使っているのとさほど変わらない感覚で使用ができます。搭載しているSoCはSnapdragon660なのでミドルクラスのスマホなみです。スマホと比べると少し画面が狭くて本体の厚みがある感覚です。画面はスマホよりは小さいものの、フォントも見やすく画面遷移も十分に早いと感じます。ストリーミング用としては文句ない使い勝手だと思う。
Amazon Musicアプリ
Amazon Music音質設定画面
Amazonアプリはやや遅く感じますが、これはアプリの問題だと思います。Amazonのアプリはなんでもアプリ内に入れるので重いのですよね。
オーディオ品質を見ると96kHz/24bitの曲はデバイスでも96/24でデコードされているので、先に書いたように3rdパーテイーのアプリによるストリーミングでもハイレゾ対応がなされているようです。
音質も良く、クラシックでのフルートや楽器の音色がとても正しく再現されているように感じられます。
Bandcampアプリ
これは私がいつも新曲をチェックするために使っているインディーズ・マイナーアーティスト用の配信サイトです。これも十分に使用でき、かつiPhoneとは違ってこのアプリから直で買うオプションが見えているのはオープンなAndroidらしいところです。
またAndroidの魅力は自由度が高いことなので、オーディオマニア向けの音楽再生アプリも選べます。例えば高音質に振ったマニアックな「Neutron Player」や、多機能な「USB Audio Player Pro」です。多機能という点では「PowerAmp」アプリなども定番ですが、オーディオマニア向けというのとはちょっと違うかもしれません。
Neutron Playerアプリ
Neutronプレーヤー、オーディオハード画面
これは高音質に特化したアプリでAndroidのMango Playerよりも高音質で再生できるように思います。再生タブで64bit処理、リサンプリングでオーディオファンモードを選んでおくと良いと思う。
前に使っていた時よりもDAPの性能が上がっているせいか、より音が良くなっているように思いますね。より音が細かく濃く聞こえます。
上のようにハードウエア画面でARMアーキテクチャの隣に+NEONと表示されてあればそのプロセッサではNEON対応しています。NEONとは音楽データのような大量データを高速に処理するための専用部分です。DX260ではNEON対応されています。
Mango Playerとはまた異なる高音質が楽しめるので、切り替えて使ってみるのもよいかと思います。
USB Audio Player Pro(UAPP)アプリ
USB Audio Player ProのTIDAL画面
通常Android(Android13まで)はミキサー制限でハイレゾ・ビットパーフェクト出力ができませんが、アプリ側で独自のハイレゾ・ロスレス出力ができるようにしたアプリです。
以下はDX260での設定の例です。
設定→「内部オーディオドライバ」=ハイレゾダイレクトドライバ(DAP内蔵DACを使用)
設定→「ハイレゾドライバ」→「ビットパーフェクトモード」=オン
またUSB Audio Player Proアプリ内でRoonやAurdivanaのようにTidalとQobuzを呼び出すことができます。
TIDALアプリは日本ではGoogle Playストアではダウンロードできないので、TIDALをAndroidアプリで聞きたい時に使えます。またTIDALを聴きながらUAPPの機能もフルに使えます。MQAデコードもできますが、TIDALはMQAを廃することを決めたのであまり意味がないかもしれません。さらにuPnP(DLNA)サーバーの音源も再生できるなど多機能な音楽再生アプリです。
このようにAndroidでアプリを変えて音質を変えたいとか弄っていきたいというときに、iOSにはないAndroidらしさが楽しめるので、iPhoneユーザーがDX260を買うと新鮮な楽しみ方ができると思います。
DX260とPathfinder
* 音質設定での音質変化を楽しむ
設定変更はゲイン、デジタルフィルター、FIRモードなどが変更できます。デジタルフィルターはDACのデジタルフィルターを変更することで、これは他のDAPでも可能です。
DX260独自なのはFIRモードです。これは特徴のところに書いたマルチDACの使い方を変更するモードです。FIRモードをnormalからx2、x4と変えていくと音が滑らかになり、より濃くなっているように思います。x4からNormalに戻すと音が軽く硬めに感じます。やはりx4がもっとも音質が良く感じられます。
* Mango OSモードに変更して音質変化を楽しむ
DX260ではAndroidの他にiBasso独自のMango OSという軽量OSが搭載されています。音質設定や使い方はMango Playerと同じで戸惑うことはありません。他のアプリは動かないMango Player専用のOSモードみたいな感覚です。ただしBluetoothやWiFiサポートもないので、ストリーミングはできません。単体でSDカードや内蔵音源などローカル音源を楽しむ時のモードです。
音質はAndroidモードのMango Playerよりも、Mango OSモードの方が鮮烈でちょっと驚くほど鮮烈な高い音質を味わえます。Androidモードから一枚ペールを剥がした感じです。
FIRモードの差もMango OSの方がより違いが分かります。Mango OSモードでFIRのx4モードの音質は価格以上の性能を感じさせると思います。
* USB DACモードを使う
USB DACモードでの使用例
DX260はUSB DACにもなります。注意点はこのときケーブルに関してはOTGではなく、通常のUSB-Cデータケーブルを使用することです。iBassoの開発によると、DX260においてUSB-DACとして使用する際には、USB SLAVEとして認識されるのでOTGではない普通のUSB-Cデータケーブルを使用するということです。
USB DACモードを使うにはプレーヤーの設定画面から切り替えて使用します。特徴的なのはこの時に充電するかどうかを選択できることです。充電しないにするとノートPCと接続する時はノートPC自体のバッテリーを使わないでDX260側のバッテリーを使うことができるので、ノートPCでもバッテリーの持ちを気にせずに使用できます。DX260自体がコンパクトなのでMacbookと合わせてもそんなに邪魔にならずに使用できます。
音質もかなりレベルの高いものです。MacのAudio Midi画面を見ると384kHz対応のようです。
macOSのAudio MIdi画面
* Bluetoothレシーバーモードを使う
Bluetoothレシーバーでの使用例
iPhone 15 Pro MAXと接続してみました。接続自体は普通のBluetooth機器と同様に簡単にペアリングすることができます。レシーバーとしてのコーデックはAACとSBCのみとなります。
音質もそれほど劣化を感じせずに使うことができるので音質も十分に実用的です。ただしDX260本体がストリーミング可能で多機能なので出番は少ないかもしれません。
* まとめ
DX260は第一に鮮明でクリアな音が堪能できるDAPです。パンチがあって躍動感のある点も良いと思う。
そして第二にとにかくモードが多く使い出があるDAPです。デジタルフィルターも多彩、Androidでアプリを変えたり、Mango OSモードもあるのでものすごく多彩な音質オプションが選べます。もちろんこの他にイコライザーも使えます。ノートPC側の電池を使わないUSB-DACにもなりますし、Bluetoothレシーバーとして使用すればWi-Fiやテザリングのできない環境でもストリーミング再生が使用できます。SPDIFがついているのもD1から知ってる私にとってはiBassoらしい感じはします。その点でぶれてないですね。
DX260とFathorm
そしてDX260の良さは圧倒的な音質の良さとサイズ感がうまく組み合わされているところです。最近は完全ワイヤレスイヤフォンの進化で有線イヤフォンの出番が減る傾向にありますが、その中でもDAPを持ち出して使いたいという気にさせてくれるDAPといえます。わかりやすい鮮烈なサウンドで、完全ワイヤレスでは到達できないレベルの音質を明示することで、有線イヤフォンの有意さを示しています。サイズ的には日本の事情に即しているDAPのように思います。やはり手持ちの有線イヤフォンを高性能DAPで活かしたいけど、DAPが重いと持ち出すのに躊躇するという方にはおすすめです。
2024年08月22日
JBLが液晶UIでAuracast対応のTour Pro 3を発表
JBLのケースに液晶画面搭載の完全ワイヤレスイヤフォンシリーズでTour Pro 3が海外発表されました。
注目点はこれがJBLとしては初の完全なAuracast機能を備えているという点です。
スマート充電ケースのディスプレイのAuracastボタンを使用して、Auracast対応デバイスとオーディオコンテンツを簡単に共有でき、ケースと付属のアプリをタップするだけで既存のブロードキャストに参加できるとあります。
これがなぜ注目かというと、以前アスキーに書いた記事でAuracastアシスタントの記事を書いたのですが、それが実際にTWSのケースで実現されたからです。
TWSはスマホからの伝送を受けるのが常識ですが、Auracastでの大きな変化はそれがスマホ外からの伝送をTWSで受ける点です。しかしTWSには画面がないので複雑なUIを持てません。そこで代理でUIを提供するのがAuracastアシスタントです。
Auracastアシスタント概念図
Auracastアシスタントはスマホのアプリが提供することが普通ですが、もちろんスマホでなくても構いません。そこでJBL Tour Pro3ではケースの画面がそのUIの役割を果たしているようです。下の画像はJBLホームページの画像ですが機内映画を見ている人がJBL Tour Pro 3で
さらに画面を拡大すると、液晶にはAuracastボタンの他に、BluetoothアイコンとAuracastアイコンが描かれてその切り替えができるという点に注目できます。
Auracastアシスタントではチャンネル選択の他に、まずスマホから聴いているのか(ユニキャストモード)と、Auracastのブロードキャストモードを切り替える必要があります。そうでないとストリーミング音楽を楽しんでいるTWSを、電車内のAuracast放送に切り替えることができません。
こうしたユニキャストとブロードキャストの切り替えが実際に実装されているのを見るのは興味深いことです。
ちなみにTour Pro 3では従来機種よりも30%画面が大きくなっているとのこと。
実際にTWSがAuracast対応されたと言ってもそれが使えなければ意味がありません。こうして実用的な機能を見るとAuracast普及に一歩近づいた感があります。
JBLの製品ページ
https://news.jbl.com/en-CEU/239681-enjoy-everywhere-entertainment-with-jbl-tour-pro-3-leading-the-next-generation-of-tws-earbuds
注目点はこれがJBLとしては初の完全なAuracast機能を備えているという点です。
スマート充電ケースのディスプレイのAuracastボタンを使用して、Auracast対応デバイスとオーディオコンテンツを簡単に共有でき、ケースと付属のアプリをタップするだけで既存のブロードキャストに参加できるとあります。
これがなぜ注目かというと、以前アスキーに書いた記事でAuracastアシスタントの記事を書いたのですが、それが実際にTWSのケースで実現されたからです。
TWSはスマホからの伝送を受けるのが常識ですが、Auracastでの大きな変化はそれがスマホ外からの伝送をTWSで受ける点です。しかしTWSには画面がないので複雑なUIを持てません。そこで代理でUIを提供するのがAuracastアシスタントです。
Auracastアシスタント概念図
Auracastアシスタントはスマホのアプリが提供することが普通ですが、もちろんスマホでなくても構いません。そこでJBL Tour Pro3ではケースの画面がそのUIの役割を果たしているようです。下の画像はJBLホームページの画像ですが機内映画を見ている人がJBL Tour Pro 3で
さらに画面を拡大すると、液晶にはAuracastボタンの他に、BluetoothアイコンとAuracastアイコンが描かれてその切り替えができるという点に注目できます。
Auracastアシスタントではチャンネル選択の他に、まずスマホから聴いているのか(ユニキャストモード)と、Auracastのブロードキャストモードを切り替える必要があります。そうでないとストリーミング音楽を楽しんでいるTWSを、電車内のAuracast放送に切り替えることができません。
こうしたユニキャストとブロードキャストの切り替えが実際に実装されているのを見るのは興味深いことです。
ちなみにTour Pro 3では従来機種よりも30%画面が大きくなっているとのこと。
実際にTWSがAuracast対応されたと言ってもそれが使えなければ意味がありません。こうして実用的な機能を見るとAuracast普及に一歩近づいた感があります。
JBLの製品ページ
https://news.jbl.com/en-CEU/239681-enjoy-everywhere-entertainment-with-jbl-tour-pro-3-leading-the-next-generation-of-tws-earbuds
2024年08月21日
xMEMSがMEMS空冷ファンを発表
xMEMSがMEMS技術を応用した空冷ファンを発表しました。
https://xmems.com/press-release/xmems-introduces-1mm-thin-active-micro-cooling-fan-on-a-chip/
このxMEMS XMC-2400 μCoolingチップはおそらく熱くなる一方のスマホの空冷に使われるのではないかと思えます。MEMSはチップなので、SoCやCPUとの実装の相性がよいでしょう。MEMSベースなので超薄、静音でCPU/SoCの冷却ができるというわけです。
同種のファンに比べると96%もコンパクトということです。
あと特筆すべきは超音波技術を使用したxMEMSサイプレスと同じ製造プロセスのようです。サンプル出荷は2025/Q1とのこと。
(xMEMSホームページより)
公開された動画を見ると、チップでチップを冷やすMEMS空冷ファンの様子がわかりやすいと思います。サイズ的には10mmx7mmなのでSoCよりもやや小さいくらいですね。
https://xmems.com/press-release/xmems-introduces-1mm-thin-active-micro-cooling-fan-on-a-chip/
このxMEMS XMC-2400 μCoolingチップはおそらく熱くなる一方のスマホの空冷に使われるのではないかと思えます。MEMSはチップなので、SoCやCPUとの実装の相性がよいでしょう。MEMSベースなので超薄、静音でCPU/SoCの冷却ができるというわけです。
同種のファンに比べると96%もコンパクトということです。
あと特筆すべきは超音波技術を使用したxMEMSサイプレスと同じ製造プロセスのようです。サンプル出荷は2025/Q1とのこと。
(xMEMSホームページより)
公開された動画を見ると、チップでチップを冷やすMEMS空冷ファンの様子がわかりやすいと思います。サイズ的には10mmx7mmなのでSoCよりもやや小さいくらいですね。
2024年08月08日
Campfire Audioのひとつの集大成「Fathom」レビュー
Campfire Audio「Fathom(ファゾム)」はCampfire Audioの最新モデルで、6つのバランスド・アーマチュアドライバーを搭載したオールBAモデルです。約10年積み重ねてきた経験の集大成として開発されています。
Fathomの設計目標は「レコーディングされたオリジナルの音に忠実なサウンドを提供し、音楽を明瞭かつ深みをもって音楽を奏でること」とされていますが、それはどういうことかということを紹介していきます。
そのドライバー構成は高域(超高域)にBAドライバー2基、中音域にBAドライバー1基、低域にBAドライバー2基とAndromedaに似たオールBAドライバーの設計です。ただし最新の成果を取り入れて、新しいドライバーを採用している点が異なります。特に高域は新しいKnowlesのドライバーを使用して、クロスオーバーポイントを低く取ってツィーターのカバー領域を広く取っています。
A&K SP3000とFathom
* Ken Ball氏インタビュー
Fathomは設計者のKen Ball氏のLess is more(シンプルイズベスト)の設計哲学が反映されたものであり、ドライバー数が多くなりすぎないように工夫されたイヤフォンでもあります。
直接開発者のKen Ball氏に聞いてみました。
Q: 今回の名前の「Fathom」の由来を教えてください
KB : Fathomは6feetの深さ(日本語で一尋)という意味ですが、これは6つのドライバーを意味しています
Q: Fathomのページに「フェイズ・ハーモニー・エンジニアリング/Phase Harmony Engineering」という新しい言葉を見つけたのですが、これを説明してください
KB :フェイズ・ハーモニー・エンジニアリングとは、CampfireのIEMを設計する様々な方法の一つです。ご存知の通り、Campfireの設計はすべて、2人のメカニカルエンジニアの協力を得て、私が100%自社で行っています。CampfireのIEMを作る興味深い方法の1つは、ドライバーを慎重に選択し、すべてのドライバーが互いにどのように機能するかということです。
他の多くの音響エンジニアは、信号経路に多くのパッシブコンポーネントを追加したり、ローパスフィルターやハイパスフィルターを追加したりして、無理やり調和(ハーモニー)を取ろうとします。私はドライバーのマッチングに多くの時間を費やし、機械的なアナログ空間のフロントエンドとバックエンドの負荷(音響ボアと空気室)、音響ダンパーを使用して、位相が問題にならないことを確認します。BAドライバー、平面型ドライバー、ダイナミックドライバーど、ドライバーから始める場合、私はまずドライバーが本来持っている自然な位相に対してドライバーをマッチングさせたいと考えます。最初から位相に問題があるドライバー同士を使うことはしません。こうすることで、よりクリーンなオーディオマニア向けIEMのために、たくさんの不要な部品の使用を避けることができます。
これは、私が長年かけて学んだ音響の「黒魔術」のひとつです。
Q : FAHTOMに使われている高・中・低域のBAドライバーとless is moreの設計思想の関係について教えてください
KB : 私たちは位相特性が互いに競合しないBAドライバーを選ぶことに多くの時間を費やしています。周波数特性がうまくカバーできるBAドライバーを選ぶのも一つの方法ですが、位相が問題にならないようにするのも一つの方法です。そうしないと、ドライバーの固有周波数出力がキャンセルされてしまいます。さらにフロントエンドの負荷(アコースティックボア)とバックエンドの負荷(空気量)の3Dモデリングによって、位相と周波数を操作することができます。私は抵抗、コンデンサー、インダクターなどの電子部品によって何かを強制する必要がないように、これらすべてを行うようにしています。
私はクロスオーバーの少ない設計が好きなのですが、Fathomの場合、2基のツィーターBAには高い値のコンデンサーが付いていて、このコンデンサーによって高域の伸びと出力を向上させています。また、ミッドドライバーも高い低域をカバーするように調整しています。
パッシブコンポーネントが少なければ少ないほど、音質ははるかにクリーンで信号の劣化や色付けが少なくなります。よりオーディオマニア的なピュアリストアプローチ(ショートシグナルパスなどを好むこと)ですが、3Dモデリングでボアの前面を空間的に操作する方法について十分な知識を持っていなければ、優れた周波数特性を得るのははるかに困難です。私たちの内部3Dプリント構造はモノリシック3Dプリントであり、3Dモデリングが得意なので、このバランスを達成することができます。
このようにFathomではこれまでのCampfire Audioの集大成とも言えるシンプルイズベスト、いわゆるピュアリストアプローチを突き詰めて、余分なものを極力取り払い地味に調整することで、最新ドライバーのもつ能力をさらに引き出しています。またFathomではTAECが採用されていないのですが、それはこうしてドライバーの能力を最大限に引き出した結果のようです。
また周波数特性では2Kから10Kにかけてピークがなくフラットな点がポイントだと教えてもらいました。シンプルでかつ素直という基本的なことを極限まで突き詰めたのがFathormの設計思想だと思います。
* インプレッション
外形的には虹色に輝くパーツが特徴的で、シェルが美しくブラックのアルミニウム筐体に良いアクセントになっています。アルミニウム筐体はファセットカットと呼ばれるCampfire Audio独自の多面体です。
Fathomにはポルトガルの工房にて手作りで作られているレザーケース、 3.5mm、4.4mm の2本のTime Stream Cable、イヤーチップ各種、クリーニングアイテムが付属しています。パッケージはAndromeda Emerald Seaあたりの流れに沿ったものです。
本体はコンパクトで女性でも十分に装着できると思います。これも多ドライバーになりすぎない長所です。
イヤーピースはフォームとシリコンチップが同梱されていて、どちらもよくフィットします。Kenさんはシリコンチップがおすすめとのこと。フォームもよくできていて、こちらの方が中間サイズの調整がしやすいのでより広いユーザーにハマりやすいと思います。フォームだから高域が落ちるということも少ないよくできたフォームチップです。
能率は高めでAndromedaほどではないけれども、ボリュームは絞ってから聞き始めた方が良いでしょう。
A&K SP3000とFathom
まず驚いたのは、Astell & Kern SP3000でエージングしようとして音量合わせるためにちょっと聴いた時に心が震えたということ。音の純度が高く、透き通るような山奥の清流のようです。
エージングして聴き進めると、とても歪みが少ないサウンドで、音は端正ですっきりとしています。着色感も少ないんですが、わずかに温かみがあって無味乾燥には感じません。
古楽のバロックバイオリンを聞いてみると、シンプルな音でも豊かで濃い倍音成分がたっぷりと入っています。おそらくレコーディングしたスタジオかホールに響くようなトーンもよく聞こえます。音楽的でいながらも、とてもHi-Fi的なオーディオ再現性が高いことがわかります。
A&K SE300とFathom
楽器音はとても美しくリアルで、特にピアノの音色がとても良く、グリッサンドで連続的に撫でるように響く音がとても心地が良い。フォルテの強い打鍵が力強さだけではなく音の美しさが伝わります。ピアノはSNの差がよく出る楽器の一つですが、聴覚的なSN感の高さとともに歪み感もとても少ないと感じられます。アコースティック楽器に強いはもちろんですが、実のところ電子楽器の音再現も美しく感じられます。付帯音で美しく感じさせる美音系ではなく、正確に音が出ていて歪み感が少ないから美しいというべきかもしれません。
高域表現はベルの音が息を呑むようなリアルさで感じられます。またハイハットの細かいシャープさもよく再現されて、刺さるようなキツさはあまり感じません。この辺はよく調整されていますね。
中音域の楽器再現とヴォーカルは出過ぎず引っ込みすぎずちょうど良い位置にあると思う。そのためバックバンドとのバランスが良く感じられます。
女性ヴォーカルの透明感がとてもよく再現されて、声質がとても美しく再現できます。反面で男性ヴォーカルはやや綺麗すぎるかもしれません。
低域表現はパンチがあって力強い、BAのベースの音です。例えばメタルを聴くと上品すぎるきらいはあるが、パワフルで躍動感がある音楽をうまく表現します。ただし上品すぎるけらいはあるので、この手の音楽を聴くときに好き嫌いはあると思う。低音の量感はなかなか上手いところにあって、フラットなほど少なくはないが多すぎるわけではないです。
音の純度の高さという他にFathomの良さのもう一つのポイントは立体感に優れているということで、位相特性が揃っているからだと思う。これはジャズトリオのように配置がわかりやすいというだけではなく、高木正勝やSaycetなど打ち込み系やエレクトロニカのよう電子音が散りばめられた音楽でも音場の気持ち良い立体感と囲まれ感を感じることができます。
ジャンル的には上品な感じの音なので室内楽やジャズトリオがよく合いますが、中域が良いのでヴォーカルものも良いですね。またスピード感があって、ロックでも躍動感が感じられます。これもピュアな設計の一環だと思う。
DX260とFathom
DAPの相性で言うと能率が高めなので、やはり一番向いているのは背景ノイズの極めて少ないSP3000です。SP3000持ってる人には特におすすめです。音的な相性ということで言うと次に良いのはR2R DACで音色が美しいAstell & Kern SE300とやはりSN感がよく透明感が高いiBasso DX260です。
* まとめ
Campfire Audio Fathomはピュアな音色表現と、立体感に秀でたハイエンドIEMで、中高域だけではなく低音も良くオールBAモデルらしくタイトで切れ味が良い音が楽しめます。プレーヤーによってはダイナミックとのハイブリッドかと思うような迫力も楽しめます。
Andromeda Emerald Seaとも音質は異なりますが、系統としてはAndromedaが好きな人は好むタイプだと思います。
そういえばCampfire Audioももう10年になるんだと気がつきました。
Kenさんに色々と聞いて思ったんだけど、イヤホンの設計ってほんとに細かな努力と経験が必要だと思います。前にウエストンのカールカートライトに話を聞いた時にも思ったけど、ほんとイヤフォンの音質って細かい部分のちょっとした工夫、でも豊富な経験に裏付けられた工夫が大事なんですよね。
FathomはそうしたKenさんのLess is moreのオーディオ哲学と、10年の経験が生んだ傑作ということができると思います。
Fathomの設計目標は「レコーディングされたオリジナルの音に忠実なサウンドを提供し、音楽を明瞭かつ深みをもって音楽を奏でること」とされていますが、それはどういうことかということを紹介していきます。
そのドライバー構成は高域(超高域)にBAドライバー2基、中音域にBAドライバー1基、低域にBAドライバー2基とAndromedaに似たオールBAドライバーの設計です。ただし最新の成果を取り入れて、新しいドライバーを採用している点が異なります。特に高域は新しいKnowlesのドライバーを使用して、クロスオーバーポイントを低く取ってツィーターのカバー領域を広く取っています。
A&K SP3000とFathom
* Ken Ball氏インタビュー
Fathomは設計者のKen Ball氏のLess is more(シンプルイズベスト)の設計哲学が反映されたものであり、ドライバー数が多くなりすぎないように工夫されたイヤフォンでもあります。
直接開発者のKen Ball氏に聞いてみました。
Q: 今回の名前の「Fathom」の由来を教えてください
KB : Fathomは6feetの深さ(日本語で一尋)という意味ですが、これは6つのドライバーを意味しています
Q: Fathomのページに「フェイズ・ハーモニー・エンジニアリング/Phase Harmony Engineering」という新しい言葉を見つけたのですが、これを説明してください
KB :フェイズ・ハーモニー・エンジニアリングとは、CampfireのIEMを設計する様々な方法の一つです。ご存知の通り、Campfireの設計はすべて、2人のメカニカルエンジニアの協力を得て、私が100%自社で行っています。CampfireのIEMを作る興味深い方法の1つは、ドライバーを慎重に選択し、すべてのドライバーが互いにどのように機能するかということです。
他の多くの音響エンジニアは、信号経路に多くのパッシブコンポーネントを追加したり、ローパスフィルターやハイパスフィルターを追加したりして、無理やり調和(ハーモニー)を取ろうとします。私はドライバーのマッチングに多くの時間を費やし、機械的なアナログ空間のフロントエンドとバックエンドの負荷(音響ボアと空気室)、音響ダンパーを使用して、位相が問題にならないことを確認します。BAドライバー、平面型ドライバー、ダイナミックドライバーど、ドライバーから始める場合、私はまずドライバーが本来持っている自然な位相に対してドライバーをマッチングさせたいと考えます。最初から位相に問題があるドライバー同士を使うことはしません。こうすることで、よりクリーンなオーディオマニア向けIEMのために、たくさんの不要な部品の使用を避けることができます。
これは、私が長年かけて学んだ音響の「黒魔術」のひとつです。
Q : FAHTOMに使われている高・中・低域のBAドライバーとless is moreの設計思想の関係について教えてください
KB : 私たちは位相特性が互いに競合しないBAドライバーを選ぶことに多くの時間を費やしています。周波数特性がうまくカバーできるBAドライバーを選ぶのも一つの方法ですが、位相が問題にならないようにするのも一つの方法です。そうしないと、ドライバーの固有周波数出力がキャンセルされてしまいます。さらにフロントエンドの負荷(アコースティックボア)とバックエンドの負荷(空気量)の3Dモデリングによって、位相と周波数を操作することができます。私は抵抗、コンデンサー、インダクターなどの電子部品によって何かを強制する必要がないように、これらすべてを行うようにしています。
私はクロスオーバーの少ない設計が好きなのですが、Fathomの場合、2基のツィーターBAには高い値のコンデンサーが付いていて、このコンデンサーによって高域の伸びと出力を向上させています。また、ミッドドライバーも高い低域をカバーするように調整しています。
パッシブコンポーネントが少なければ少ないほど、音質ははるかにクリーンで信号の劣化や色付けが少なくなります。よりオーディオマニア的なピュアリストアプローチ(ショートシグナルパスなどを好むこと)ですが、3Dモデリングでボアの前面を空間的に操作する方法について十分な知識を持っていなければ、優れた周波数特性を得るのははるかに困難です。私たちの内部3Dプリント構造はモノリシック3Dプリントであり、3Dモデリングが得意なので、このバランスを達成することができます。
このようにFathomではこれまでのCampfire Audioの集大成とも言えるシンプルイズベスト、いわゆるピュアリストアプローチを突き詰めて、余分なものを極力取り払い地味に調整することで、最新ドライバーのもつ能力をさらに引き出しています。またFathomではTAECが採用されていないのですが、それはこうしてドライバーの能力を最大限に引き出した結果のようです。
また周波数特性では2Kから10Kにかけてピークがなくフラットな点がポイントだと教えてもらいました。シンプルでかつ素直という基本的なことを極限まで突き詰めたのがFathormの設計思想だと思います。
* インプレッション
外形的には虹色に輝くパーツが特徴的で、シェルが美しくブラックのアルミニウム筐体に良いアクセントになっています。アルミニウム筐体はファセットカットと呼ばれるCampfire Audio独自の多面体です。
Fathomにはポルトガルの工房にて手作りで作られているレザーケース、 3.5mm、4.4mm の2本のTime Stream Cable、イヤーチップ各種、クリーニングアイテムが付属しています。パッケージはAndromeda Emerald Seaあたりの流れに沿ったものです。
本体はコンパクトで女性でも十分に装着できると思います。これも多ドライバーになりすぎない長所です。
イヤーピースはフォームとシリコンチップが同梱されていて、どちらもよくフィットします。Kenさんはシリコンチップがおすすめとのこと。フォームもよくできていて、こちらの方が中間サイズの調整がしやすいのでより広いユーザーにハマりやすいと思います。フォームだから高域が落ちるということも少ないよくできたフォームチップです。
能率は高めでAndromedaほどではないけれども、ボリュームは絞ってから聞き始めた方が良いでしょう。
A&K SP3000とFathom
まず驚いたのは、Astell & Kern SP3000でエージングしようとして音量合わせるためにちょっと聴いた時に心が震えたということ。音の純度が高く、透き通るような山奥の清流のようです。
エージングして聴き進めると、とても歪みが少ないサウンドで、音は端正ですっきりとしています。着色感も少ないんですが、わずかに温かみがあって無味乾燥には感じません。
古楽のバロックバイオリンを聞いてみると、シンプルな音でも豊かで濃い倍音成分がたっぷりと入っています。おそらくレコーディングしたスタジオかホールに響くようなトーンもよく聞こえます。音楽的でいながらも、とてもHi-Fi的なオーディオ再現性が高いことがわかります。
A&K SE300とFathom
楽器音はとても美しくリアルで、特にピアノの音色がとても良く、グリッサンドで連続的に撫でるように響く音がとても心地が良い。フォルテの強い打鍵が力強さだけではなく音の美しさが伝わります。ピアノはSNの差がよく出る楽器の一つですが、聴覚的なSN感の高さとともに歪み感もとても少ないと感じられます。アコースティック楽器に強いはもちろんですが、実のところ電子楽器の音再現も美しく感じられます。付帯音で美しく感じさせる美音系ではなく、正確に音が出ていて歪み感が少ないから美しいというべきかもしれません。
高域表現はベルの音が息を呑むようなリアルさで感じられます。またハイハットの細かいシャープさもよく再現されて、刺さるようなキツさはあまり感じません。この辺はよく調整されていますね。
中音域の楽器再現とヴォーカルは出過ぎず引っ込みすぎずちょうど良い位置にあると思う。そのためバックバンドとのバランスが良く感じられます。
女性ヴォーカルの透明感がとてもよく再現されて、声質がとても美しく再現できます。反面で男性ヴォーカルはやや綺麗すぎるかもしれません。
低域表現はパンチがあって力強い、BAのベースの音です。例えばメタルを聴くと上品すぎるきらいはあるが、パワフルで躍動感がある音楽をうまく表現します。ただし上品すぎるけらいはあるので、この手の音楽を聴くときに好き嫌いはあると思う。低音の量感はなかなか上手いところにあって、フラットなほど少なくはないが多すぎるわけではないです。
音の純度の高さという他にFathomの良さのもう一つのポイントは立体感に優れているということで、位相特性が揃っているからだと思う。これはジャズトリオのように配置がわかりやすいというだけではなく、高木正勝やSaycetなど打ち込み系やエレクトロニカのよう電子音が散りばめられた音楽でも音場の気持ち良い立体感と囲まれ感を感じることができます。
ジャンル的には上品な感じの音なので室内楽やジャズトリオがよく合いますが、中域が良いのでヴォーカルものも良いですね。またスピード感があって、ロックでも躍動感が感じられます。これもピュアな設計の一環だと思う。
DX260とFathom
DAPの相性で言うと能率が高めなので、やはり一番向いているのは背景ノイズの極めて少ないSP3000です。SP3000持ってる人には特におすすめです。音的な相性ということで言うと次に良いのはR2R DACで音色が美しいAstell & Kern SE300とやはりSN感がよく透明感が高いiBasso DX260です。
* まとめ
Campfire Audio Fathomはピュアな音色表現と、立体感に秀でたハイエンドIEMで、中高域だけではなく低音も良くオールBAモデルらしくタイトで切れ味が良い音が楽しめます。プレーヤーによってはダイナミックとのハイブリッドかと思うような迫力も楽しめます。
Andromeda Emerald Seaとも音質は異なりますが、系統としてはAndromedaが好きな人は好むタイプだと思います。
そういえばCampfire Audioももう10年になるんだと気がつきました。
Kenさんに色々と聞いて思ったんだけど、イヤホンの設計ってほんとに細かな努力と経験が必要だと思います。前にウエストンのカールカートライトに話を聞いた時にも思ったけど、ほんとイヤフォンの音質って細かい部分のちょっとした工夫、でも豊富な経験に裏付けられた工夫が大事なんですよね。
FathomはそうしたKenさんのLess is moreのオーディオ哲学と、10年の経験が生んだ傑作ということができると思います。
2024年08月07日
Campfire Audioがデュアルプラナードライバーの新IEMを海外発売開始
Campfire Audioがデュアルプラナー構成の新製品「Astrolith」を8月6日から海外発売開始しました。価格は$2199とハイエンド製品です。
ホームページはこちらです。
https://www.campfireaudio.com/pages/astrolith
(画像は上記ホームページより)
Campfire Audioは宇宙関係のネーミングなのでAstrolithとはカナダのモントリオールで開発中の月面探査機を意味していると思われます。
Astrolithは14.2mm低中域用のプラナードライバーと6mmの高域用のプラナードライバーの2基の平面磁界型ドライバーが搭載されています。
14.2mmのドライバーはSupermoonに搭載されたドライバーの改良型で、6mmの方は新規開発のようです。特に6mmのドライバーはPPRと呼ばれる新しいレゾネーターチャンバーを組み合わせているようです。Particle Phase Resonator (PPR)が採用された理由は新開発の6mmプラナーがとても高速な過渡応答特性を有していることによるようです(atypicalと書いているのでかなり特殊なようです)。その6mmドライバーを"smooths and tempers"とあるので音をスムーズに調整して和らげる働きをしているようです。TAECは高域を伸ばすように調整しますが、PPRはきつさを和らげるように調整するように思えます。
14mmドライバーはAAOIと呼ばれる音響チャンバーを兼ねた半透明のシェルに格納されています。
このPPRと6mmドライバー、14mmとAAOIがそれぞれ独立したコンポーネントに格納されていて、チャンバーによる音響的な調整がなされクロスオーバーレスで使用されています。Kenさんはシンプルイズベストが信条なのでクロスオーバーレスを好んで採用していますね。
性能的にはとてもインパルスレスポンスが高いのでグラフを見てもダイナミックドライバー(赤)と比べて音の正確性が高いことが見て取れます。またプラナーは帯域によるインピーダンス変動が極めて少ないので音が低域で膨らむということもないでしょう。
音質はいくつか海外でレビューが出ていますが、Astrolithはワイドレンジでスピードが速く解像力が高いが、高音域はとても洗練されてるという感じのようです。
イヤフォンにおける平面磁界型ドライバーのひとつのリファレンスとなりえるかもしれません。
2024年07月25日
AMPACSがヘッドフォン向けMEMSスピーカー技術を発表
7月23日にダイナミックドライバーのOEM/ODMメーカーである台湾のAMPACS Corporationは、MEMSスピーカーを組み込んだ2wayヘッドフォンのリファレンスモデルを発表しました。リファレンスモデルとは製品ではないが、ヘッドフォンメーカーが手本にして製品を作るためのヘッドフォンです。
このAMPACS製40mmのダイナミックドライバーとxMEMS社のCowelを組み込んで2way、2ユニットのモデルは、従来の50mmのシングル・ダイナミックドライバーのヘッドフォンよりも音の明瞭さと空間オーディオ向けの広い音場に優れるとAMPACSでは述べています。
AMPACS リファレンスモデル
ヘッドフォン向けのMEMSスピーカーのソリューションとしては、xMEMS社がCESに出品したPresidio(プレシディオ)というリファレンスモデルがあり、Philewebにその試聴記を書きました。
https://www.phileweb.com/review/article/202407/03/5659.html
xMEMS Precidio
Presidioに対して今回のAMPACSのモデルは、MEMSスピーカーの能率を上げるためにホーン型のユニットに反射させるために背面でMEMSスピーカーを設置している点では同じですが、MEMSスピーカーに最新のMuirではなくすでに実績のあるCowelを組み込んでいるという点と、Presidioでは2基搭載しているのに対してAMPACSのモデルでは1基のみであるという点が異なります。
このモデルは9月に提供可能になるということです。おそらくdigikeyにアップされると思います。
xMEMS搭載ヘッドフォンのイメージ
このAMPACS製40mmのダイナミックドライバーとxMEMS社のCowelを組み込んで2way、2ユニットのモデルは、従来の50mmのシングル・ダイナミックドライバーのヘッドフォンよりも音の明瞭さと空間オーディオ向けの広い音場に優れるとAMPACSでは述べています。
AMPACS リファレンスモデル
ヘッドフォン向けのMEMSスピーカーのソリューションとしては、xMEMS社がCESに出品したPresidio(プレシディオ)というリファレンスモデルがあり、Philewebにその試聴記を書きました。
https://www.phileweb.com/review/article/202407/03/5659.html
xMEMS Precidio
Presidioに対して今回のAMPACSのモデルは、MEMSスピーカーの能率を上げるためにホーン型のユニットに反射させるために背面でMEMSスピーカーを設置している点では同じですが、MEMSスピーカーに最新のMuirではなくすでに実績のあるCowelを組み込んでいるという点と、Presidioでは2基搭載しているのに対してAMPACSのモデルでは1基のみであるという点が異なります。
このモデルは9月に提供可能になるということです。おそらくdigikeyにアップされると思います。
xMEMS搭載ヘッドフォンのイメージ
2024年07月22日
Softearsのフラッグシップモデル「Softears Enigma」レビュー
Softears は中国を拠点とする若いブランドで、創業者は2014年にオーディオの仕事を始め、2017年に中国のシリコンバレーである深センにスタジオを設立。2019年には成都に研究開発のための独立したラボと自社工場を設立しています。究極の音楽再生をスローガンとしているとのこと。本稿はJaben Japanから借りた試聴機によるレビューです。
* 特徴
Enigmaは4年かけて開発したというSoftearsのフラッグシップモデルで、2基の10mmのダイナミックドライバー、6基のBAドライバー、4基のESTを搭載したハイブリッドのマルチドライバーIEMです。
低音域ドライバーは"Composit Woofer"と呼ばれていて、ダイナミックドライバー1基とBAドライバー2基が低音を担当することで量感と鋭さを両立させる仕組みになっています。また2基のダイナミックドライバーのうちの1基はパッシブラジエーターです。これは直接音は出しませんが低音ドライバーと共鳴することで定在波を減らしてクリーンな低音再生に寄与するという仕組みが採用されています。このパッシブラジエーターはフェイスプレートの透明なサファイアガラスカバーから見えていて外観上のアクセントにもなっています。
ダイナミックドライバーはウールペーパーというバイオ素材を採用しています。
中音域は4基のフルレンジのBAドライバーをまとめて搭載しています。この仕組みはSoftears独自のものだそう。高音域には4基のESTドライバーが搭載されています。ノズル先端には4つのボア(音導孔)があり、ひとつにはダストカバーがされています。
ケーブルはEFFECT Audioと共同開発によるもので、3.5mmと4.4mmバランスの二組が添付されています。それぞれ線材が異なっているという点がなかなか凝っています。
* インプレッション
Enigmaはパッケージも凝っていて、大きく黒いキューブ状の箱に入っています。
中にはレザーの内箱がひとつとさらにキューブ型の内箱が詰まっています。このうちレザーのケースは保証書などが入っていますが、キャリングケースだと思います。
もう一つの内箱が特徴的でカラクリ箱のようになっていて、折りたためるルービックキューブのような構造になっています。この箱を折り返して広げると8個の引き出しのある小さなキューブから構成されています。この折り畳み方には行く通りかあるようで、畳み方によっては中身が出せなくなることがあり、まさにEnigma(謎という意味)を象徴していると思う。
それぞれに引き出しにはクリーニングキット、謎のキューブ、3.5mmケーブル、本体L、本体R、4.4mmケーブルと6.3mmアダプター、謎の耳型のオブジェ、イヤピースとドライバーがバラバラに入っていて、それを組み立ててイヤフォンにしますが、謎のキューブと耳型は単なる遊びで、キューブは組み立てるとルービックキューブのようになるようです。ちなみに付属のドライバーはこのキューブを組み立てるためのものです(組み立て動画があります)。イヤーピースはフォームSML、シリコンSML、シリコンラバーの透明SMLが入っています。
イヤフォンはユニバーサルタイプのシェルで大きさの割には割と軽く感じます。フェイスプレートには透明で中のドライバー(パッシブドライバー)が見えているのがユニークです。ケーブルは高級線材のような外観でしなやか、タッチノイズはあまりありません。
イヤフォンはかなり大柄ですが、軽量でユニバーサル形状のため装着感は悪くないです。装着感としてはノズルが太いので気になる程度です。女性だと少しはめにくいかもしれません。
能率はやや低めなのでパワーのあるDAPを使用した方が良いと思います。ハイエンドモデルに相応しくAstell & Kern SP3000とKANN Ultraで聴いてみました。
Enigamaの音はハイエンドイヤフォンとしてかなり優秀で、立体感があり三次元的、とてもクリアで音の分離が明確になされています。ワイドレンジで解像力が高くSN感が高く感じられます。様々なドライバーの集合体でもあり箱から出した後は初めはまとまりなく聞こえるのですが、エージングをすると全体の音がまとまって溶け合い一つの濃密な音空間となります。独特の端正でいて重厚な音表現です。
このように音が濃厚というのがいちばんの音の特徴で、音の密度感がいままであまり聴いたことがないくらいのレベルで芳醇で厚みがあります。本格的なオーディオ機器の音のように感じられます。
低音では量感はありますが誇張感は少なく、リスニング目的でも低音が物足りなくならないように適度な量感にしています。それでいてあまり出過ぎないで曲の印象を大きく変えないのも特徴です。GoGoPenguinのようなユーロジャズではドラムスのタイトさが印象的でBAとダイナミックの相乗効果は出ていると思います。
中高音域はよくコントロールされていてキツさが少なく滑らかで美しい音です。ベルの音は歪みすくなく綺麗に響きます。ヴォーカルは肉質感があって厚みがあり、音のバランスが適度で男声も女声も良い感じです。古楽器の良録音音源を聞いてもかなり細かい音がよくはいっていて、楽器の音色が美しく響くのも特徴の一つです。
様々なドライバーが使われているのですが、溶け合うようにうまく調整されていると思います。例えばアニソンの「アイドル」を聴くとがちゃがちゃとしたバックの音の中でも歌詞がよく聞き取れていて、低音によって中音域がマスクされている感は少ないですね。
この音の聞きやすさにはケーブルの品質の高さも貢献していると思います。ケーブルは2ピン端子で交換できますので、他のケーブルに変えても印象は異なるでしょう。
付属のイヤーピースを透明ラバー製に変えると音はやや軽めに出ます。フォームチップは低音寄りになります。イヤーピースでよく考えられているのは、イヤーピースを変えると音が大きく変わるものも多いのですが、Softearsの場合には全体の音調はあまり変わらずに、透明(軽め)-シリコン(中間)-フォーム(重め)と音の調子がやや変わることで選択できるということです。わりと考えてイヤーピース選びをしていると思います。ただ個人的にはやはり中間のシリコンがもっともEnigmaらしいと思います。まず標準で試してみると良いでしょう。
* まとめ
全体的に高性能ですがモニター的な味気ないものではなく、濃厚で美しい出音で音楽リスニング寄りに聞いて楽しく感動するような音作りがなされていると思います。特に本機の濃厚な音再現はあまり他にはないようなものなので、他にない個性を求めるハイエンドユーザーにお勧めです。
Jaben Japanの販売リンクはこちらです。現在セール中だそうです。
https://jabenjapan.thebase.in/items/88424923
またPhatLab RIOのEnigma向け特別チューニング版(カッパ)同梱版もあります。
カッパとはRIOが河の意味だからということのようです。
https://jabenjapan.thebase.in/items/88657275
なお今週末のヘッドフォン祭miniにJaben Japanのブースで展示するということです。興味ある方は試してみてください。
最後に付属のミニルービックキューブの組み立て動画を添付します。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
* 特徴
Enigmaは4年かけて開発したというSoftearsのフラッグシップモデルで、2基の10mmのダイナミックドライバー、6基のBAドライバー、4基のESTを搭載したハイブリッドのマルチドライバーIEMです。
低音域ドライバーは"Composit Woofer"と呼ばれていて、ダイナミックドライバー1基とBAドライバー2基が低音を担当することで量感と鋭さを両立させる仕組みになっています。また2基のダイナミックドライバーのうちの1基はパッシブラジエーターです。これは直接音は出しませんが低音ドライバーと共鳴することで定在波を減らしてクリーンな低音再生に寄与するという仕組みが採用されています。このパッシブラジエーターはフェイスプレートの透明なサファイアガラスカバーから見えていて外観上のアクセントにもなっています。
ダイナミックドライバーはウールペーパーというバイオ素材を採用しています。
中音域は4基のフルレンジのBAドライバーをまとめて搭載しています。この仕組みはSoftears独自のものだそう。高音域には4基のESTドライバーが搭載されています。ノズル先端には4つのボア(音導孔)があり、ひとつにはダストカバーがされています。
ケーブルはEFFECT Audioと共同開発によるもので、3.5mmと4.4mmバランスの二組が添付されています。それぞれ線材が異なっているという点がなかなか凝っています。
* インプレッション
Enigmaはパッケージも凝っていて、大きく黒いキューブ状の箱に入っています。
中にはレザーの内箱がひとつとさらにキューブ型の内箱が詰まっています。このうちレザーのケースは保証書などが入っていますが、キャリングケースだと思います。
もう一つの内箱が特徴的でカラクリ箱のようになっていて、折りたためるルービックキューブのような構造になっています。この箱を折り返して広げると8個の引き出しのある小さなキューブから構成されています。この折り畳み方には行く通りかあるようで、畳み方によっては中身が出せなくなることがあり、まさにEnigma(謎という意味)を象徴していると思う。
それぞれに引き出しにはクリーニングキット、謎のキューブ、3.5mmケーブル、本体L、本体R、4.4mmケーブルと6.3mmアダプター、謎の耳型のオブジェ、イヤピースとドライバーがバラバラに入っていて、それを組み立ててイヤフォンにしますが、謎のキューブと耳型は単なる遊びで、キューブは組み立てるとルービックキューブのようになるようです。ちなみに付属のドライバーはこのキューブを組み立てるためのものです(組み立て動画があります)。イヤーピースはフォームSML、シリコンSML、シリコンラバーの透明SMLが入っています。
イヤフォンはユニバーサルタイプのシェルで大きさの割には割と軽く感じます。フェイスプレートには透明で中のドライバー(パッシブドライバー)が見えているのがユニークです。ケーブルは高級線材のような外観でしなやか、タッチノイズはあまりありません。
イヤフォンはかなり大柄ですが、軽量でユニバーサル形状のため装着感は悪くないです。装着感としてはノズルが太いので気になる程度です。女性だと少しはめにくいかもしれません。
能率はやや低めなのでパワーのあるDAPを使用した方が良いと思います。ハイエンドモデルに相応しくAstell & Kern SP3000とKANN Ultraで聴いてみました。
Enigamaの音はハイエンドイヤフォンとしてかなり優秀で、立体感があり三次元的、とてもクリアで音の分離が明確になされています。ワイドレンジで解像力が高くSN感が高く感じられます。様々なドライバーの集合体でもあり箱から出した後は初めはまとまりなく聞こえるのですが、エージングをすると全体の音がまとまって溶け合い一つの濃密な音空間となります。独特の端正でいて重厚な音表現です。
このように音が濃厚というのがいちばんの音の特徴で、音の密度感がいままであまり聴いたことがないくらいのレベルで芳醇で厚みがあります。本格的なオーディオ機器の音のように感じられます。
低音では量感はありますが誇張感は少なく、リスニング目的でも低音が物足りなくならないように適度な量感にしています。それでいてあまり出過ぎないで曲の印象を大きく変えないのも特徴です。GoGoPenguinのようなユーロジャズではドラムスのタイトさが印象的でBAとダイナミックの相乗効果は出ていると思います。
中高音域はよくコントロールされていてキツさが少なく滑らかで美しい音です。ベルの音は歪みすくなく綺麗に響きます。ヴォーカルは肉質感があって厚みがあり、音のバランスが適度で男声も女声も良い感じです。古楽器の良録音音源を聞いてもかなり細かい音がよくはいっていて、楽器の音色が美しく響くのも特徴の一つです。
様々なドライバーが使われているのですが、溶け合うようにうまく調整されていると思います。例えばアニソンの「アイドル」を聴くとがちゃがちゃとしたバックの音の中でも歌詞がよく聞き取れていて、低音によって中音域がマスクされている感は少ないですね。
この音の聞きやすさにはケーブルの品質の高さも貢献していると思います。ケーブルは2ピン端子で交換できますので、他のケーブルに変えても印象は異なるでしょう。
付属のイヤーピースを透明ラバー製に変えると音はやや軽めに出ます。フォームチップは低音寄りになります。イヤーピースでよく考えられているのは、イヤーピースを変えると音が大きく変わるものも多いのですが、Softearsの場合には全体の音調はあまり変わらずに、透明(軽め)-シリコン(中間)-フォーム(重め)と音の調子がやや変わることで選択できるということです。わりと考えてイヤーピース選びをしていると思います。ただ個人的にはやはり中間のシリコンがもっともEnigmaらしいと思います。まず標準で試してみると良いでしょう。
* まとめ
全体的に高性能ですがモニター的な味気ないものではなく、濃厚で美しい出音で音楽リスニング寄りに聞いて楽しく感動するような音作りがなされていると思います。特に本機の濃厚な音再現はあまり他にはないようなものなので、他にない個性を求めるハイエンドユーザーにお勧めです。
Jaben Japanの販売リンクはこちらです。現在セール中だそうです。
https://jabenjapan.thebase.in/items/88424923
またPhatLab RIOのEnigma向け特別チューニング版(カッパ)同梱版もあります。
カッパとはRIOが河の意味だからということのようです。
https://jabenjapan.thebase.in/items/88657275
なお今週末のヘッドフォン祭miniにJaben Japanのブースで展示するということです。興味ある方は試してみてください。
最後に付属のミニルービックキューブの組み立て動画を添付します。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
2024年07月21日
アスキーにNTTソノリティ「nwm ONE」の開発者に聞く音の秘密の記事を執筆
アスキーにNTTソノリティ「nwm ONE」の開発者に聞く音の秘密の記事を執筆しました。
「nwm ONE」透明モデルやPSZが音響的な技術であることが明かされています。
https://ascii.jp/elem/000/004/211/4211068/
「nwm ONE」透明モデルやPSZが音響的な技術であることが明かされています。
https://ascii.jp/elem/000/004/211/4211068/
2024年07月20日
L&Pの新たなフラッグシップシリーズ「E7 4497」PREMIUMレビュー
8月にLUXURY&PRECISIONの新しいDAP「E7 4497」が登場する。限定モデルを除き、L&Pの新DAPとしては5年ぶりの注目製品となる。全世界499台限定で、E7 4497 PREMIUMとE7 4497 STANDARDの二つのモデルがあり、搭載しているDACチップは同じですが、PREMIUM版はDACチップの選別品を使用しています。
発売日は2024年8月17日ですが、すでにPREMIUM版は5月17日からフジヤさんで販売しています。本稿ではPREMIUM版を借りてレビューしています。
E7 4497とAK ZERO2
* 特徴
LUXURY&PRECISIONというと、うちのブログではたくさん扱ってきましたし、HeadFiなど海外フォーラムを見ている人にもおなじみのブランドです。このブランドは、AMDのチップ開発に携わったエンジニアや「COLORFLY C4」の開発者たちによって、2014年に中国で創立されました。
今回LUXURY&PRECISIONは新たにEシリーズを立ち上げていくというのが一つのポイントで、「E7 4497」のPREMIUMとSTANDARDが最初のEシリーズとなります。Eシリーズは「L&Pフラッグシップの原点」に立ち返るというスローガンの元に開発され、EはECONOMY(経済性)や、EXCHANGE(交換)の意味を有しています。これはモジュール交換機構を備えることで、将来的な新技術や新DACチップに素早く対応できるという意味合いを含んでいます。
このモジュール着脱機構は他の取り外し可能なDAPよりも取り外し可能な基盤面積が広いのが特徴で、モジュール基盤にはヘッドフォン端子などのパーツは含まれていません。重量は300グラムと比較的軽量かつコンパクトですが、交換基盤にしたのでL6よりは大きくなっているとのこと。
「E7 4497」の名の由来はDACチップにAKM AK4497をデュアルで使用しているということです。AK4497はLINNのKLIMAX DS/3などにも使われたチップで、ポータブル向けのICではなく据え置き機材にも採用されるようなハイエンドDACチップです。
LUXURY&PRECISIONによると、AK4497チップは、AKMのフラッグシップチップの中で最もバランスが取れており、聴感も優れて電力消費が少ないことなどポータブル機器との相性が最適とのことです。ポータブル機器との相性が良いということの一つには現在のAKMフラッグシップのAK4499が電流出力であるのに対し、AK4497は電圧出力であることが挙げられます。オーディオ機器では最終的に信号として電圧が必要なので、電圧出力であるAK4497は電圧変換のためのI/V回路が不要であるという特徴があるからです。
またもう一つの「E7 4497」の特徴はAK4497の選別品を使用しているということです。AK4497はチップのばらつきが大きく、データシート上のTHD+Nの代表値は-116dBですが、最低値は-108dBにまで下振れすることがあり、選別品を使用することで公称性能を4dB上回る性能を得たということです。
DAPとしての基本ソフトウエアにはLE OSという新しい独自開発のOSを搭載しています。これは可能な限り小型で軽量に設計したというもので、軽量なので音質に寄与するというだけではなく、デジタル部の電力よりもアナログ部分により多くの電力を割り当てるという「E7 4497」の開発方針が反映されたものでもあります。
またPREMIUM版ではFPGAを活かしたLP Tuneという音質変更モードがあり、これは普通のイコライザーとは再現性、聴感の差異、原理が完全に異なるということです。LP Tuneには3つのモードがあり、「High Dynamic」は華やかでエネルギッシュ、「Harmonic Tune」では柔らかな温かみ、「Low Distortion」は標準の低歪みモードと切り替えて使うことができます。STANDARD版では「Low Distortion」のみとなります。
LP Tune比較図
回路部分ではLPFオペアンプ電圧調整機能というユニークな試みがあり、これはダイナミックドライバーや、BAドライバー、ハイブリッドなど各種ドライバーがLPFオペアンプの電圧に対して異なる感度を持つことがわかったということが開発のきっかけだったということです。固定電圧では「このイヤホンでは良いが、あのイヤホンではダメだ」という現象が起こってしまうので、E7は広範囲で0.1V刻みの細かい電圧調整ができるように設計し、調整と試聴を通じて様々なイヤホンの特性を最適に引き出すことができるようにしたとのことです。
また「E7 4497」ではWi-Fiが搭載されていないので直接ストリーミングを再生することはできませんが、その代わりにBluetoothレシーバー機能を凝ったものにするというアプローチが行われています。コーデックはaptX、aptX HD、aptX LL、そしてAACとSBCに対応しています。
ちなみに「E7 4497」では内蔵メモリはなく、外付けのMicroSDカードに音源を格納します。
* インプレッション
デザインはL&Pらしくメタリックで鋭角的なデザインで、装着していた革製のケースを外すとブラックのシャープな造形のシャーシが現れます。サイズ的には片手で持てるので、フラッグシップモデルとしてはそう大きくはないように思う。側面に凹みがあるのがユニークで、持った時の指かかりになっています。
ちなみに写真の革製ケースは今後発売を予定している別売り品で、フジヤエービックの発売分にはプレゼント品として同梱されているものだということです。
底面にはビスが見えて交換が可能であることを示しています。どちらかというと頻繁にモジュールを差し替えて機能を変えるような目的ではなく、アップグレードのためなのですぐには外せないけれども、確実に固定できるような方式となっていると思います。
E7 4497とWhite Tiger
ボリュームにはガードがデザインされ、ノブを回すとカチカチと適度なクリック感があります。
電源ボタンを押下してからのブート時間はロゴ表示後までほぼ8秒でAndroid系より早いですね。電源オフのたち下げは瞬時です。
画面は質実剛健というかシンプルなデザインで、これも軽量OSという感じで音質優先ということがわかります。
基本的には音楽画面と設定画面のタブを切り替えるだけで音楽画面も最小限のデザインですが、画面をフリックするとVUメーターが現れ、ボリューム表示もグラフィカルでわかりやすいなど凝った点もあります。
ちなみにグラフィックのボリューム表示のホイールは一周以上回るので、一周で音量が足りないと思ってはいけません。ボリューム表示のホイールは指でなぞってクルクル回すことができますが、これは細かい音量の調整がしやすく便利です。
液晶表示は鮮明で色は鮮やかに感じられます。画面を横にフリックするとVUメーターが現れ、音源のサンプリングレートの表示も行われます。
VUメーター表示モード
音源はexFATのMicroSDカードを使用し、カードの直下に音源を格納して再生しました。ちなみに音源の格納はMicroSDカードのみです。カードを挿入したらメディアライブラリの更新を行うと音源が反映されます。
E7 4497とqdc White Tiger
まずqdc White Tigerで聴いた。ゲイン位置はLowですが、ボリューム調整がとても細かく行えるので高感度IEMでも使いやすいと思う。
音は解像力がとても高く、細かい音がよく聞こえる割には子音の音のキツさなどがほとんどないのは、とてもよくチューニングされた音であり、高級オーディオ機器のような高品質な音を感じます。
従来のL&Pに比べても硬質感が抑えめで滑らかでスムーズな音だと思います。音調はやや温かみがあるニュートラルで、低音や高音の誇張感はないです。
ジャズヴォーカルでの女性の声が艶やかでかつ滑らか、囁くような小さな声から叫ぶ声までスムーズに再現されます。楽器音や声質に厚みがあって、豊かな音楽を奏でる感じです。
全体的に音が上質でよく調整された感じがします。
E7 4497とDITA Perpetua
イヤフォンをダイナミックイヤフォンの最高峰であるDITA Perpetuaに変えるとダイナミックらしく力強く鳴らしてくれ、E7がパワーもあることが分かります。マルチBAでは繊細さがよくわかったが、Perpetuaでは力感と解像力の高さがよく両立している感じですね。
上原ひろみのジャズのようにスピード感あふれる曲もスムーズでかつパワフルに鳴らしてくれます。AK4497らしく解像力が高く、ウッドベースでは細かな鳴りや響きをよく表現します。叩きつけるようなドラムスやパーカッションでも歪み感が少なく、打撃力の強さと切れ味の良さをよく伝えてくれます。おそらく電源なども強力だと思いますが、E7 4497は基礎体力というか基本性能が高いDAPと言えます。
DSDネイティブ再生だけではなく、PCM音源を聴いても音が滑らかでキツさが少ないのは全体的に上質な回路設計がなされていることを窺わせます。この辺は上級機ならではの良さがよく出ているところです。
E7 4497とAK ZERO2
ハイブリッドのAK ZERO02を使うと、中域から高音域にかけてはバロックバイオリンが倍音豊かになる音もよく再現されて厚みがあり、音色の美しさがよくわかります。これはZERO2の高音域のプラナーとピエゾドライバーが活き活きと動いているようです。低音ではダイナミックドライバーらしいたっぷりとした低音が楽しめます。
消え入りそうになるヴォーカルの歌唱の表現も解像感高く、艶やかに描き出す点はなかなか心地よく見事だと思います。
このようにマルチBAやハイブリッドなどさまざまな形式、さまざまなタイプのドライバーのイヤフォンで聴いていくとE7 4497がイヤフォンの適応範囲が広く苦手なイヤフォンがないという印象を受けます。マルチBAはマルチBAらしく、シングルダイナミックドライバーはシングルダイナミックらしく、ハイブリッドもハイブリッドらしいサウンドで高品質に楽しむことができます。
E7 4497とDITA Perpetua
次にBluetoothレシーバーのモードを試してみるとiPhoneで簡単にペアリングできました。
iPhoneからAAC での接続ですがBluetoothでの音も極めて高いと思う。これまで書いてきたような厚みがあるオーディオらしい音がワイヤレスでも十分に楽しめます。内蔵音源とそう遜色ないというと言い過ぎだが、たぶん聴いていて不満を持つことは少ないと思う。かなり高品質なBuetooth回路が搭載されていると思う。
E7 4497にはストリーミング機能は内蔵されていないので、 ストリーミングを楽しむ時にはスマホでストリーミングを再生してBluetoothでE7 4497に送って楽しむということが想定されてよく考えられています。
まとめ
E7 4497は基本的には原音忠実に音源をよく再現するDAPですが、いわゆるモニター的な味気ない音ではなく適度な温かみと滑らかさで音楽的な心地よさもよく表現していると思います。音の細かさも低音のパンチも必要な時に必要なだけ出てくる感じして、そこがチューニングがよくなされている音だと感じます。カタログに基板の設計改良を重ねたように記されている気持ちがわかります。
開発での設計改良
高性能機というとシャープだがきつい音になることも多いが、E7 4499は良い音を長時間聴いていられるDAPだと思う。
DACが強力なだけではなく、アンプも力強くかつイヤフォンに適切に出力を出し電源も強力と、全ての回路がバランスよく性能が高いフラッグシップらしい完成度の高いDAPです。
E7 4497は様々な種類のハイエンドイヤフォンを使いこなしたいという上級者に向いているDAPです。
E7 4497とDITA Perpetua
発売日は2024年8月17日ですが、すでにPREMIUM版は5月17日からフジヤさんで販売しています。本稿ではPREMIUM版を借りてレビューしています。
E7 4497とAK ZERO2
* 特徴
LUXURY&PRECISIONというと、うちのブログではたくさん扱ってきましたし、HeadFiなど海外フォーラムを見ている人にもおなじみのブランドです。このブランドは、AMDのチップ開発に携わったエンジニアや「COLORFLY C4」の開発者たちによって、2014年に中国で創立されました。
今回LUXURY&PRECISIONは新たにEシリーズを立ち上げていくというのが一つのポイントで、「E7 4497」のPREMIUMとSTANDARDが最初のEシリーズとなります。Eシリーズは「L&Pフラッグシップの原点」に立ち返るというスローガンの元に開発され、EはECONOMY(経済性)や、EXCHANGE(交換)の意味を有しています。これはモジュール交換機構を備えることで、将来的な新技術や新DACチップに素早く対応できるという意味合いを含んでいます。
このモジュール着脱機構は他の取り外し可能なDAPよりも取り外し可能な基盤面積が広いのが特徴で、モジュール基盤にはヘッドフォン端子などのパーツは含まれていません。重量は300グラムと比較的軽量かつコンパクトですが、交換基盤にしたのでL6よりは大きくなっているとのこと。
「E7 4497」の名の由来はDACチップにAKM AK4497をデュアルで使用しているということです。AK4497はLINNのKLIMAX DS/3などにも使われたチップで、ポータブル向けのICではなく据え置き機材にも採用されるようなハイエンドDACチップです。
LUXURY&PRECISIONによると、AK4497チップは、AKMのフラッグシップチップの中で最もバランスが取れており、聴感も優れて電力消費が少ないことなどポータブル機器との相性が最適とのことです。ポータブル機器との相性が良いということの一つには現在のAKMフラッグシップのAK4499が電流出力であるのに対し、AK4497は電圧出力であることが挙げられます。オーディオ機器では最終的に信号として電圧が必要なので、電圧出力であるAK4497は電圧変換のためのI/V回路が不要であるという特徴があるからです。
またもう一つの「E7 4497」の特徴はAK4497の選別品を使用しているということです。AK4497はチップのばらつきが大きく、データシート上のTHD+Nの代表値は-116dBですが、最低値は-108dBにまで下振れすることがあり、選別品を使用することで公称性能を4dB上回る性能を得たということです。
DAPとしての基本ソフトウエアにはLE OSという新しい独自開発のOSを搭載しています。これは可能な限り小型で軽量に設計したというもので、軽量なので音質に寄与するというだけではなく、デジタル部の電力よりもアナログ部分により多くの電力を割り当てるという「E7 4497」の開発方針が反映されたものでもあります。
またPREMIUM版ではFPGAを活かしたLP Tuneという音質変更モードがあり、これは普通のイコライザーとは再現性、聴感の差異、原理が完全に異なるということです。LP Tuneには3つのモードがあり、「High Dynamic」は華やかでエネルギッシュ、「Harmonic Tune」では柔らかな温かみ、「Low Distortion」は標準の低歪みモードと切り替えて使うことができます。STANDARD版では「Low Distortion」のみとなります。
LP Tune比較図
回路部分ではLPFオペアンプ電圧調整機能というユニークな試みがあり、これはダイナミックドライバーや、BAドライバー、ハイブリッドなど各種ドライバーがLPFオペアンプの電圧に対して異なる感度を持つことがわかったということが開発のきっかけだったということです。固定電圧では「このイヤホンでは良いが、あのイヤホンではダメだ」という現象が起こってしまうので、E7は広範囲で0.1V刻みの細かい電圧調整ができるように設計し、調整と試聴を通じて様々なイヤホンの特性を最適に引き出すことができるようにしたとのことです。
また「E7 4497」ではWi-Fiが搭載されていないので直接ストリーミングを再生することはできませんが、その代わりにBluetoothレシーバー機能を凝ったものにするというアプローチが行われています。コーデックはaptX、aptX HD、aptX LL、そしてAACとSBCに対応しています。
ちなみに「E7 4497」では内蔵メモリはなく、外付けのMicroSDカードに音源を格納します。
* インプレッション
デザインはL&Pらしくメタリックで鋭角的なデザインで、装着していた革製のケースを外すとブラックのシャープな造形のシャーシが現れます。サイズ的には片手で持てるので、フラッグシップモデルとしてはそう大きくはないように思う。側面に凹みがあるのがユニークで、持った時の指かかりになっています。
ちなみに写真の革製ケースは今後発売を予定している別売り品で、フジヤエービックの発売分にはプレゼント品として同梱されているものだということです。
底面にはビスが見えて交換が可能であることを示しています。どちらかというと頻繁にモジュールを差し替えて機能を変えるような目的ではなく、アップグレードのためなのですぐには外せないけれども、確実に固定できるような方式となっていると思います。
E7 4497とWhite Tiger
ボリュームにはガードがデザインされ、ノブを回すとカチカチと適度なクリック感があります。
電源ボタンを押下してからのブート時間はロゴ表示後までほぼ8秒でAndroid系より早いですね。電源オフのたち下げは瞬時です。
画面は質実剛健というかシンプルなデザインで、これも軽量OSという感じで音質優先ということがわかります。
基本的には音楽画面と設定画面のタブを切り替えるだけで音楽画面も最小限のデザインですが、画面をフリックするとVUメーターが現れ、ボリューム表示もグラフィカルでわかりやすいなど凝った点もあります。
ちなみにグラフィックのボリューム表示のホイールは一周以上回るので、一周で音量が足りないと思ってはいけません。ボリューム表示のホイールは指でなぞってクルクル回すことができますが、これは細かい音量の調整がしやすく便利です。
液晶表示は鮮明で色は鮮やかに感じられます。画面を横にフリックするとVUメーターが現れ、音源のサンプリングレートの表示も行われます。
VUメーター表示モード
音源はexFATのMicroSDカードを使用し、カードの直下に音源を格納して再生しました。ちなみに音源の格納はMicroSDカードのみです。カードを挿入したらメディアライブラリの更新を行うと音源が反映されます。
E7 4497とqdc White Tiger
まずqdc White Tigerで聴いた。ゲイン位置はLowですが、ボリューム調整がとても細かく行えるので高感度IEMでも使いやすいと思う。
音は解像力がとても高く、細かい音がよく聞こえる割には子音の音のキツさなどがほとんどないのは、とてもよくチューニングされた音であり、高級オーディオ機器のような高品質な音を感じます。
従来のL&Pに比べても硬質感が抑えめで滑らかでスムーズな音だと思います。音調はやや温かみがあるニュートラルで、低音や高音の誇張感はないです。
ジャズヴォーカルでの女性の声が艶やかでかつ滑らか、囁くような小さな声から叫ぶ声までスムーズに再現されます。楽器音や声質に厚みがあって、豊かな音楽を奏でる感じです。
全体的に音が上質でよく調整された感じがします。
E7 4497とDITA Perpetua
イヤフォンをダイナミックイヤフォンの最高峰であるDITA Perpetuaに変えるとダイナミックらしく力強く鳴らしてくれ、E7がパワーもあることが分かります。マルチBAでは繊細さがよくわかったが、Perpetuaでは力感と解像力の高さがよく両立している感じですね。
上原ひろみのジャズのようにスピード感あふれる曲もスムーズでかつパワフルに鳴らしてくれます。AK4497らしく解像力が高く、ウッドベースでは細かな鳴りや響きをよく表現します。叩きつけるようなドラムスやパーカッションでも歪み感が少なく、打撃力の強さと切れ味の良さをよく伝えてくれます。おそらく電源なども強力だと思いますが、E7 4497は基礎体力というか基本性能が高いDAPと言えます。
DSDネイティブ再生だけではなく、PCM音源を聴いても音が滑らかでキツさが少ないのは全体的に上質な回路設計がなされていることを窺わせます。この辺は上級機ならではの良さがよく出ているところです。
E7 4497とAK ZERO2
ハイブリッドのAK ZERO02を使うと、中域から高音域にかけてはバロックバイオリンが倍音豊かになる音もよく再現されて厚みがあり、音色の美しさがよくわかります。これはZERO2の高音域のプラナーとピエゾドライバーが活き活きと動いているようです。低音ではダイナミックドライバーらしいたっぷりとした低音が楽しめます。
消え入りそうになるヴォーカルの歌唱の表現も解像感高く、艶やかに描き出す点はなかなか心地よく見事だと思います。
このようにマルチBAやハイブリッドなどさまざまな形式、さまざまなタイプのドライバーのイヤフォンで聴いていくとE7 4497がイヤフォンの適応範囲が広く苦手なイヤフォンがないという印象を受けます。マルチBAはマルチBAらしく、シングルダイナミックドライバーはシングルダイナミックらしく、ハイブリッドもハイブリッドらしいサウンドで高品質に楽しむことができます。
E7 4497とDITA Perpetua
次にBluetoothレシーバーのモードを試してみるとiPhoneで簡単にペアリングできました。
iPhoneからAAC での接続ですがBluetoothでの音も極めて高いと思う。これまで書いてきたような厚みがあるオーディオらしい音がワイヤレスでも十分に楽しめます。内蔵音源とそう遜色ないというと言い過ぎだが、たぶん聴いていて不満を持つことは少ないと思う。かなり高品質なBuetooth回路が搭載されていると思う。
E7 4497にはストリーミング機能は内蔵されていないので、 ストリーミングを楽しむ時にはスマホでストリーミングを再生してBluetoothでE7 4497に送って楽しむということが想定されてよく考えられています。
まとめ
E7 4497は基本的には原音忠実に音源をよく再現するDAPですが、いわゆるモニター的な味気ない音ではなく適度な温かみと滑らかさで音楽的な心地よさもよく表現していると思います。音の細かさも低音のパンチも必要な時に必要なだけ出てくる感じして、そこがチューニングがよくなされている音だと感じます。カタログに基板の設計改良を重ねたように記されている気持ちがわかります。
開発での設計改良
高性能機というとシャープだがきつい音になることも多いが、E7 4499は良い音を長時間聴いていられるDAPだと思う。
DACが強力なだけではなく、アンプも力強くかつイヤフォンに適切に出力を出し電源も強力と、全ての回路がバランスよく性能が高いフラッグシップらしい完成度の高いDAPです。
E7 4497は様々な種類のハイエンドイヤフォンを使いこなしたいという上級者に向いているDAPです。
E7 4497とDITA Perpetua
2024年07月16日
分厚くダイナミックな音の個性派イヤフォン「iBasso 3T-154 」
iBasso 3T-154はiBasso Audioの個性的なシングルダイナミックイヤフォンです。使用されている技術、出音、アクセサリーの全てにわたって個性的なのがポイントです。現状で市場価格が20,750円程度と求めやすい価格帯でもあります。
特徴
3T-154という名前はそのまま特徴を表していて、3T-154の3Tとは磁気回路が強力で3T(テラ)もの磁束密度を実現していることをしめしています。これまでは1Tあると強力と言われていましたから、3Tというのはかなり強大なマグネットが使われていることになります。これは振動板を動かす力が優れているということです。
また154というのは振動版の口径が15.4mmあることを示しています。普通は10mmを超えると大口径と言いますので、15.4mmというのは超大口径です。また口径に比較するとかなりコンパクトに設計したということです。以前ソニーに16mmの振動板を搭載したXBA-Z5やMDR-EX1000というモデルがありましたが、これは振動板が大きいので傾けたレイアウトを採用していましたので、大口径イヤフォンの設計が難しいことがわかります。15.4mmの3T-154が普通のイヤフォンのように設計されているのは特筆ものといえるでしょう。12mmダイヤフラムを採用したドライバーユニットと比較した際に、ユニットサイズが65%で済んでいるということです。
振動板が大口径だと迫力がありそうなのは直感的にも想像はつきますが、実は大口径だと振動版の移動距離が短くて済むので歪みも低減できるという側面もあります。ただし振動板が大きい場合にはその面積が広いため、動かすためにより多くのエネルギーが必要となります。そこで3T-154では3T(テスラ)というマグネットを組み合わせているのでしょう。
振動板はベリリウムメッキが表面に施されています。また3T-154は大柄ですが、シェルは軽量なマグネシウム合金で片側9gと軽量に設計されています。
ケーブルとは2ピン端子でリケーブルが可能です。面白いのはプレーヤー側の端子が3.5mmと4.4mmで交換可能なのですが、これがビス留めされていることです。これは普通よりも太い端子を使用しているので確実に固定するためのようです。
3T-154はシルバーとブラックの2色展開。付属品が豊富です。特にイヤーピースはシリコン4種類(各3サイズ)、フォーム1種類(2サイズ)が標準で添付されています。またノズルが着脱可能で、スペアノズルまで添付されています。
インプレッション
イヤフォン本体は大きめですが意外と軽く、耳にはめてしまうとそれほど違和感は感じられません。ただしシェルが大柄なので女性や耳の小さい人は店で試した方が良いかもしれません。
ケーブルはしなやかでタッチノイズ等はあまりありません。太い割には使いやすいケーブルです。イヤフォン端子もかなりごつい大きなものですが、これも不都合を感じるケースはあまりないでしょう。4.4mmと3.5mmの交換式プラグはビスで締め付けるので確実ですが、ビスが小さいので気を使ってしまいます。
添付のケース
まず標準チップの柔らかいシリコンで聞いてみます。チップ別の音質変化については後で触れます。
3T-152はとても第一印象が独特で、あまり聴いたことがないくらい低音が分厚く重い音です。迫力があって音場も広いと感じられます。バスドラとベースギターは低音のアタックが腹にくるほど半端ないほど響きます。ロック、ポップにはとても相性が良く、音にやや暖かみがあるのが過激な音を聞きやすくしています。
一方で少し聞き込むと、それでいて中高域もしっかりとしています。意外とヴォーカルに大きく被らないのも良いと感じます。多少は被りますが、第一印象の低音の重さから思っているほどではありません。この辺が単なるベースヘッドの低価格機とも異なっていて、歌詞もわりとよく聴こえます。ポップの歌ものも良いと思えますね。楽器音も鮮明でクリアに聞こえます。ハイエンド機に比べると荒さは残っていますが悪くありません。BA機のように整っているわけではないですが、シャープに感じられます。
ロックポップ向けではあるが、音が骨太で空間に太いペンで音像を書いたような独特のサウンドで静かな器楽曲を聴いても意外と鮮明な音で悪くない。
A&K SR35と3T-154
分厚く太い音ですが、曖昧さという意味での甘さは少なく、大口径振動板ででかい音が出るけれどもそれを3T(テスラ)の強力マグネットでグイグイとコントロールする感じですね。ただし打撃感はやや甘く出ることがあるのでパワーのあるアンプを使うのがおすすめです。
例えばAstell & Kern KANNシリーズや同じiBassoのスティックDACであるDC-Eliteです。KANN Ultraで聞くと余裕のある音空間が楽しめ、パワー感と共に音の広がりも堪能できます。
DC-Eliteと3T-154
またスティックDACにしてはパワーのあるDC-Eliteと組み合わせると、メタルのドドドドドとかダガダガダガダガというドラムロールがあまり聴いたことがないくらい激しく打ち付けられ、破壊力と言って良いほどでちょっとクセになるほどです。またDC-Eliteの搭載するローム社のDACは音楽志向で柔らかな聴きやすさがあるので、メタルでもあまりキツくならないと言うことで良い組み合わせといえます。
A&K SR35で聴く時はハイゲインモードにして聴くとパワフルな音になって良いです。個性ある音だが鳴らすにはそれなりに必要です。やはりパワーが必要なので4.4mmバランスで聴くのがベストです。
各チップの相性
3T-154にはイヤーチップがたくさん付属してくるのが特徴です。特徴的な音なので個人的には標準チップで少し聞き込んだ方が良いと思いますが、慣れてきたらイヤーチップを変えてみると個性あふれるサウンドにあった音傾向を見つけられるかもしれません。
白いシリコンチップ
標準チップよりも少し音が明るく、音がややシャープになります。少し抜ける感じで、女性ヴォーカルやポップスに良いと思います。
黒いフォームチップ
より低音が強く出るようになりますが、一方で高域も十分シャープで悪くありません。
濃い青のシリコンチップ
より中高域が伸びるようになり、少し低域を抑えたい時に使うと良いと思います。
黒の硬いシリコンチップ
標準よりは低域が抑えられますが、少し超低域が出にくくなります。音傾向は標準と似ていますが、耳の相性で選ぶと良いと思います。
柔らかい黒いシリコンチップ
他のシリコンチップと音傾向は似ていますが、低音の出方が硬いシリコンと標準の中間くらいです。
まとめ
3T-154は他にない個性が楽しめるユニークなイヤフォンです。A&K KANNのパワフルさはマルチBAなどではもてあましてしまうんですが、こうしたパワーを要求するイヤフォンにはよく適合します。
3T-154は安価ではありますが、しっかりとしたアンプやスティックDACを使ってきちんと鳴らし込んでユニークな音を楽しむことができます。高音質でちょっと変わった個性のイヤフォンが欲しいというユーザーにおすすめです。
特徴
3T-154という名前はそのまま特徴を表していて、3T-154の3Tとは磁気回路が強力で3T(テラ)もの磁束密度を実現していることをしめしています。これまでは1Tあると強力と言われていましたから、3Tというのはかなり強大なマグネットが使われていることになります。これは振動板を動かす力が優れているということです。
また154というのは振動版の口径が15.4mmあることを示しています。普通は10mmを超えると大口径と言いますので、15.4mmというのは超大口径です。また口径に比較するとかなりコンパクトに設計したということです。以前ソニーに16mmの振動板を搭載したXBA-Z5やMDR-EX1000というモデルがありましたが、これは振動板が大きいので傾けたレイアウトを採用していましたので、大口径イヤフォンの設計が難しいことがわかります。15.4mmの3T-154が普通のイヤフォンのように設計されているのは特筆ものといえるでしょう。12mmダイヤフラムを採用したドライバーユニットと比較した際に、ユニットサイズが65%で済んでいるということです。
振動板が大口径だと迫力がありそうなのは直感的にも想像はつきますが、実は大口径だと振動版の移動距離が短くて済むので歪みも低減できるという側面もあります。ただし振動板が大きい場合にはその面積が広いため、動かすためにより多くのエネルギーが必要となります。そこで3T-154では3T(テスラ)というマグネットを組み合わせているのでしょう。
振動板はベリリウムメッキが表面に施されています。また3T-154は大柄ですが、シェルは軽量なマグネシウム合金で片側9gと軽量に設計されています。
ケーブルとは2ピン端子でリケーブルが可能です。面白いのはプレーヤー側の端子が3.5mmと4.4mmで交換可能なのですが、これがビス留めされていることです。これは普通よりも太い端子を使用しているので確実に固定するためのようです。
3T-154はシルバーとブラックの2色展開。付属品が豊富です。特にイヤーピースはシリコン4種類(各3サイズ)、フォーム1種類(2サイズ)が標準で添付されています。またノズルが着脱可能で、スペアノズルまで添付されています。
インプレッション
イヤフォン本体は大きめですが意外と軽く、耳にはめてしまうとそれほど違和感は感じられません。ただしシェルが大柄なので女性や耳の小さい人は店で試した方が良いかもしれません。
ケーブルはしなやかでタッチノイズ等はあまりありません。太い割には使いやすいケーブルです。イヤフォン端子もかなりごつい大きなものですが、これも不都合を感じるケースはあまりないでしょう。4.4mmと3.5mmの交換式プラグはビスで締め付けるので確実ですが、ビスが小さいので気を使ってしまいます。
添付のケース
まず標準チップの柔らかいシリコンで聞いてみます。チップ別の音質変化については後で触れます。
3T-152はとても第一印象が独特で、あまり聴いたことがないくらい低音が分厚く重い音です。迫力があって音場も広いと感じられます。バスドラとベースギターは低音のアタックが腹にくるほど半端ないほど響きます。ロック、ポップにはとても相性が良く、音にやや暖かみがあるのが過激な音を聞きやすくしています。
一方で少し聞き込むと、それでいて中高域もしっかりとしています。意外とヴォーカルに大きく被らないのも良いと感じます。多少は被りますが、第一印象の低音の重さから思っているほどではありません。この辺が単なるベースヘッドの低価格機とも異なっていて、歌詞もわりとよく聴こえます。ポップの歌ものも良いと思えますね。楽器音も鮮明でクリアに聞こえます。ハイエンド機に比べると荒さは残っていますが悪くありません。BA機のように整っているわけではないですが、シャープに感じられます。
ロックポップ向けではあるが、音が骨太で空間に太いペンで音像を書いたような独特のサウンドで静かな器楽曲を聴いても意外と鮮明な音で悪くない。
A&K SR35と3T-154
分厚く太い音ですが、曖昧さという意味での甘さは少なく、大口径振動板ででかい音が出るけれどもそれを3T(テスラ)の強力マグネットでグイグイとコントロールする感じですね。ただし打撃感はやや甘く出ることがあるのでパワーのあるアンプを使うのがおすすめです。
例えばAstell & Kern KANNシリーズや同じiBassoのスティックDACであるDC-Eliteです。KANN Ultraで聞くと余裕のある音空間が楽しめ、パワー感と共に音の広がりも堪能できます。
DC-Eliteと3T-154
またスティックDACにしてはパワーのあるDC-Eliteと組み合わせると、メタルのドドドドドとかダガダガダガダガというドラムロールがあまり聴いたことがないくらい激しく打ち付けられ、破壊力と言って良いほどでちょっとクセになるほどです。またDC-Eliteの搭載するローム社のDACは音楽志向で柔らかな聴きやすさがあるので、メタルでもあまりキツくならないと言うことで良い組み合わせといえます。
A&K SR35で聴く時はハイゲインモードにして聴くとパワフルな音になって良いです。個性ある音だが鳴らすにはそれなりに必要です。やはりパワーが必要なので4.4mmバランスで聴くのがベストです。
各チップの相性
3T-154にはイヤーチップがたくさん付属してくるのが特徴です。特徴的な音なので個人的には標準チップで少し聞き込んだ方が良いと思いますが、慣れてきたらイヤーチップを変えてみると個性あふれるサウンドにあった音傾向を見つけられるかもしれません。
白いシリコンチップ
標準チップよりも少し音が明るく、音がややシャープになります。少し抜ける感じで、女性ヴォーカルやポップスに良いと思います。
黒いフォームチップ
より低音が強く出るようになりますが、一方で高域も十分シャープで悪くありません。
濃い青のシリコンチップ
より中高域が伸びるようになり、少し低域を抑えたい時に使うと良いと思います。
黒の硬いシリコンチップ
標準よりは低域が抑えられますが、少し超低域が出にくくなります。音傾向は標準と似ていますが、耳の相性で選ぶと良いと思います。
柔らかい黒いシリコンチップ
他のシリコンチップと音傾向は似ていますが、低音の出方が硬いシリコンと標準の中間くらいです。
まとめ
3T-154は他にない個性が楽しめるユニークなイヤフォンです。A&K KANNのパワフルさはマルチBAなどではもてあましてしまうんですが、こうしたパワーを要求するイヤフォンにはよく適合します。
3T-154は安価ではありますが、しっかりとしたアンプやスティックDACを使ってきちんと鳴らし込んでユニークな音を楽しむことができます。高音質でちょっと変わった個性のイヤフォンが欲しいというユーザーにおすすめです。
2024年06月17日
iBassoのハイエンド・スティックDAC「DC-Elite」の記事をPhilewebに執筆
iBassoのハイエンド・スティックDAC「DC-Elite」の記事をPhilewebに執筆しました。
「DC-Elite」はDita Perpetuaを鳴らすことができるハイエンドスティックDACです。またあまり書かれることのなかったロームの音楽用DAC IC「BD34301EKV」についても詳細に書いています。興味のある方はぜひご覧ください。
https://www.phileweb.com/review/article/202406/15/5621.html
「DC-Elite」はDita Perpetuaを鳴らすことができるハイエンドスティックDACです。またあまり書かれることのなかったロームの音楽用DAC IC「BD34301EKV」についても詳細に書いています。興味のある方はぜひご覧ください。
https://www.phileweb.com/review/article/202406/15/5621.html
2024年06月08日
PhilewebにNoble「Apollo」と「Fokus」インタビュー記事を執筆
PhilewebにNoble「Apollo」と「Fokus」インタビュー記事を執筆しました。
https://www.phileweb.com/interview/article/202405/11/981.html
https://www.phileweb.com/interview/article/202405/11/981.html
アスキーにJBLによる2つの新提案「LIVE BEAM 3」と「Fit Checker」発表会の記事を執筆
アスキーにJBLによる2つの新提案「LIVE BEAM 3」と「Fit Checker」発表会の記事を執筆しました。
https://ascii.jp/elem/000/004/201/4201883/
https://ascii.jp/elem/000/004/201/4201883/