本稿はfinalの新フラッグシップTWS「TONALITE」の音質を中心にしたレビュー記事です。TONALITEの特徴は端的にいうとDTASという技術で「音色のパーソナライズ」ができるという点と、ハードウエア的にfinalの最新最強のTWSであるということです。

まず「音色のパーソナライズ」から説明します。
* パーソナライズとTONALITE世の中に「パーソナライズ」ができるイヤフォンは今や珍しくありません。しかし、それらのほとんどは補聴器の延長的な「聞こえ・聴力のパーソナライズ」ができるタイプです。また一部のものは空間知覚(空間オーディオ)をパーソナライズできるものもあります。それらに対してfinalの技術がパーソナライズするのは「音色」です。
このようにイヤフォンの「パーソナライズ」とは分類すると、聴力(パーソナライズの多く)、空間知覚(パーソナライズの一部)、音色(finalのみ)の3種類に分けられます。つまりfinalの技術は
補聴器技術や映画視聴の延長ではなく、「音色」という
ハイファイオーディオのための本質的な「音質のパーソナライズ」ができる唯一の存在です。
もう少し補足しましょう。
同じ楽器でも音が違うのは「音色」が異なっているからです。ただし、その感じ方は人の身体形状で変わります。なぜかというと、例えば直進性が強い高い周波数の音は耳穴に直接入るわけではなく、耳たぶにあたって反射した音が耳穴に入ります。低音は直進しないで曲がるので、顔かたちに沿って直接耳穴に入ります。このように音の聞こえ方は個人の外形の影響を受けますが、それでもピアノの音が個人ごとに違わないのは脳が補正しているからです。これは人間が生まれ持った機能の一つです。
しかし、イヤフォンは直接耳に挿入するので、そうした耳たぶや顔の形が影響するはずの現実の音とは異なる聞こえ方となり、脳が補正できません。それでもヘッドフォンやイヤフォンの音がスピーカーのように正しく聞こえるのは、イヤフォンの音を現実に似せて補正する仕組み、いわゆるハーマンカーブに代表されるターゲットカーブ(特性曲線)を使用して本来聞こえるはずの音に補正するからです。しかしこれは万人向けであり、個人の外形差は反映できません。つまりターゲットカーブでだいたいは補正できますが、完全には補正できません。その足りない個人差まで完全に補正ができるのがfinalの技術(JDH/DTAS)となるわけです。
簡単に例えるとハーマンカーブなどは万人向けの店頭売りの既成品メガネであり、0.5度くらい違うけどなんとなく合うのでOKなメガネです。それでもメガネがないよりはずっとマシです。それに対してfinalの技術は個人の眼球を測定して作る完全オーダーメイドのメガネなのでピッタリと度数が合い、ものがよりピントが合ってはっきりくっきり見えるわけです。
これは後述のDTASありなしの聞こえ方の違いにも関係してくると思います。DTASは細部がよく見える(解像力が上がる)のではなく、今までズレていた世界の輪郭を正しい位置に戻してピッタリ見えるようにするわけです。
そのfinalの技術の第一弾がZE8000に適用する「自分ダミーヘッド(JDH)」と呼ばれる技術で、測定して自分に似せた仮想のダミーヘッドを作り、それをコンピューター内で物理シミュレーションするという技術です。
これについては私が以前体験した記事をアスキーに以前に書いているので参照してください。
https://ascii.jp/elem/000/004/177/4177228/
しかし効果は高かったものの、「自分ダミーヘッド」はオプション価格も高価で、final本社の測定機器を使うために手軽なものとは言えませんでした。finalはそれをより手軽に自分の家でスマホを使って測定可能として、「DTAS」という第二世代技術を開発しました。また中の技術もJDHから改良されているようです。
そして「DTAS」を適用した新規開発のフラッグシップTWSが「TONALITE(トナリテ)」です。パーソナライズは手持ちのスマホ(iPhone/Android)で、finalのアプリを使用して行います。
TONALITEとDTASを用いたパーソナライズの手順についてはAV Watchに書いた先日の体験会の記事を参照ください。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/review/review/2060103.html 
少し補足するとGeneral(一般)とPersonalized(パーソナライズ)の二通りがありますが、PersonalizedはGeneralから個人カスタマイズするのではなく、一から毎回作り直すとのことです。

簡単に手順を再掲すると、まずARマーカー付きのヘッドバンドを頭に被り、自分のスマホのインカメで顔・頭部の撮影を上下左右行います。これはスマホの顔認証と似ていて簡単です。
次に耳のアップの撮影をします。ここが自分ではスマホ画面が見えないので多少やりにくいかもしれませんが、コツはスマホを持つ手を動かさないで頭だけ動かすことだと思います。自分で思うよりも手前で撮影されるようです。
今度はTONALITEをイヤーピースを取り付けて耳に装着します。すると耳にキュイーンというスイープ音が強弱で聞こえ、すぐ測定は終わります。これは簡単です。
この次は普通に聞いている状態を再現するためイヤーピースを外して耳に付け直します。同様にスイープ音で測定します。このときには周囲は静かでなければなりません。コツとしては始めに二本の指で挟んできっちりと耳穴に位置決めしてから一本指で軽く抑えた方が良いでしょう。
こうした作業が終わるとサーバーにデータが送られて、コンピューターの中でシミュレーションが行われ、データが作成されます。終わるとTONALITEに書き込みが行われます。
自分ダミーヘッドの時は大学の実験室で研究しているようなものものしい感じでしたが、それに比べるとだいぶ簡単です。とても厳密に行わなければならないものでもなく、やり直しもできます。慣れない体験だと思いますが気軽にやってみるのが良いと思います。
* TONALITEのイヤフォンとしての特徴次のTONALITEの特徴であるハードウエア的にfinalの最新最強のTWSであるということを説明します。
DTAS Personalizedの音を正確に再現するには、計算結果をイヤフォンのドライバーユニットの出力に0.1dBレベルで正確に反映させる必要があるとのこと。つまりイヤフォンの性能が高くなければなりません。ドライバーユニットは「f-CORE for DTAS」という新規設計です。
この精度を実現するために通常は接着される振動板とエッジを一体化。コイルの引出しも空中配線を採用するなど、接着剤を削減することで高い精度を実現しています。この辺りはダイナミック型ドライバーユニットを設計から製造まで自社開発できるfinalの強みなのでしょう。

またインナーベント機構によって筐体内部の空気圧を最適化と密閉性を両立させたとありますが、これはTONALITEの特徴の一つである「トリプル・ハイブリッドノイズキャンセリング」にも関係してきます。
一般的なANCはデュアルハイブリッド方式と呼ばれ、フィードバック方式(内部マイク)とフィードフォワード方式(外側マイク)がミックスされたという意味です。TONALITEの場合はトリプルなのでもう一つはというとそれは筐体自体の遮音性での「パッシブ・ノイズキャンセリング」です。これはカナルイヤフォンでは一般的ですが、finalの場合はここに秘密があります。
ダイナミックドライバーではドライバーの最適動作のためにベント穴が必要ですが、それは同時に遮音性を落としてしまうことにもなります。そこでTONALITEではそのベントの仕組みに長いチューブを組み合わせて減衰させることで密閉度を上げることに成功したということです
そしてこの「ダイナミックドライバーで密閉度を上げる」という発想は、フラッグシップ有線イヤフォン「A10000」での開発ノウハウを元にしたものであり、密閉状態で低域を稼ぐことで振動板の動きを抑制して低域の歪みを小さくするという効果があります。
ちなみにANCはアプリ内の設定で「音質優先」と「ANC優先」が選択可能ですが、DTASを有効にしている時は音質優先のみとなります。
イヤーピースにはシリコンの柔軟性とフォームの遮音性を兼ね備えたFUSION-Gを採用、イヤーピースは交換可能ですがDTASの仕組み上で測定時と異なるものを使用するとあまり良くないでしょう。ワイヤレスのコーデックはSBC、AAC、LDACです。
* 実機のインプレッション
パッケージには本体の他にARマーカーシールや布製のヘッドバンドなど測定用具一式が入っています。

本体はオカリナのような形状で、表面にシボ加工が施してあり高級感があります。ヒンジが金属なのも耐久性がありそうです。イヤーピース部分にはZE8000のイヤーピースのような耳掛けが設けられていてしっかりと耳に装着できます。やや大きめですが装着感は良好です。本体を掴みやすく、ケースから取り出しやすい形状でもあります。
* TONALITEの音質 - DTAS適用前まずDTAS適用前にしっかりと音傾向を確認しました。この時はGeneralプロファイルで聴くことになるのでTONALITE(General)と記します。
今回は時間があるので数十時間エージングしてから聴き始めましたが、はじめに思ったことはさきの体験会の時はおそらくエージングがあまりされていなかったのではないかということです。TONALITE(General)はあの時に感じた音よりもだいぶ良い音です。
パーソナライズ前の音ですが、普通にTWSとしてかなり良い音です。解像力が高くかなり細かい音が聞こえます。
低音の誇張はあまり大きくはなく、ここは「finalの3000番」っぽい音でもあるのでしょう。音調としては軽い温かみがあり、いわゆるモニターっぽいドライな音ではありません。どちらかというとリスニング寄りの音です。
また、ヴォーカルの発音がとても明瞭で、ウッドベースが鳴っていてもあまり声に被りません。中高域の伸びが良くハイトーンボイスが気持ち良く聴こえます。高域のベルやシンバルの音の響きがよく整っていて歪み感が少なく、刺激分も少ないので良くチューニングされているようです。
ZE3000(初代)と比べると、TONALITE(General)を聴いた後だとZE3000の音が軽くこじんまりと聴こえます。また解像力が物足りなく感じられます。音場感もTONALITE(General)の方がZE3000(初代)より広く感じられます。ZE3000(初代)は中高音の伸びが今ひとつで、TONALITE(General)よりもワイドレンジ感が低いと感じます。
ZE3000の音調自体はTONALITEと似ていて、同じメーカーが作ったサウンドという感じがあります。基本的にはやはりTONALITEはZE3000の進化系という感じです。
このように音傾向はZE3000の正統進化系という感じなので、この点で賛否両論のあったZE8000のようなことはなく、今回は普通に受け入れられるでしょう。もっとも今回はDTAS適用の障壁がないので、TONALITEを買った人の多くはANCが必要な時以外はDTAS適用で聴くと思われます。
具体的な比較としては、レゼ(CV 上田麗奈)が歌うアカペラ曲「ジェーンは教会で歌った」をTONALITE(General)で聴くと、かなり耳に近く解像感が高く感じられます。背後のリバーブもよく感じられて、大きな空間で歌っているように感じられます。このリバーブはZE3000(初代)だとやや気がつきにくいです。さらにTONALITE(General)では音が少し温かみがありレゼに残っている人間性を感じられます。ZE3000(初代)よりもTONALITE(General)の方が温かみが強いようです。またZE3000よりもTONALITE(General)の方が耳に近く感じられます。
TWSとして高音質なTONALITE(General)ですが、この時点でZE8000(JDH)と比べるとTONALITE(General)は少しクリアさに欠けるように思います。これは比較しないとわからないようなものではありますが、音のエッジが少し丸みを帯びて感じます。標準のTONALITE(General)でもかなり優秀だけれども、さらに上があるなという感じもあります。そこでいよいよDTASの適用をしました。
* TONALITEの音質 - DTAS適用後DTASデータをTONALITEに書き込んでアプリからPersonalizedに変更したものをTONALITE(DTAS)と呼びます。
TONALITE(DTAS)は切り替えた瞬間にハッとするくらいクリアになり(元々クリアだったのだが)、鮮明度が増します。先ほどZE8000(JDH)とTONALITE(General)を比較して物足りなかった成分がTONALITEにもやってきた、という感覚です。DTASのオンオフはJDHのオンオフに似ています。
例えていうと、接続機器のDAPかアンプのSN比が上がったようにも感じられます。感覚的には「より生々しくなった」という言葉が一番しっくりきますね。
さきほどの「ジェーンは教会で歌った」を聞くとDTASのありなしでは大きく音質が違います。TONALITE(General)だとイヤフォンを通して歌を聞いている感じですが、TONALITE(DTAS)だとレゼに羽交い締めにされて耳元で歌を囁かれているような、ある意味でASMR的なティングル感覚を感じるほどです。生々しく怖いほどですね。
クリアさの向上の他には、TONALITE(DTAS)ではTONALITE(General)と比較すると低音の打撃感が強くなります。ウッドベースの荒っぽいピチカートでも打ち込みのような電子音でもそう感じます。例えていうとDACのジッターが大きく低減されたような感じで、音が引き締まります。
ものすごく高域がキツめの音源を再生してみると、音のキツさはGeneralでもPersonalizedでもさほど変わらないように思います。Personalizedだと先鋭的に聞こえるので、より高域が刺激的かというとそうでもないようです。低域は激変して打撃が鋭くなりますが、こちらも量感が変わるわけではありません。周波数バランスが変わるわけではないようです。

面白いのはTONALITE(DTAS)からアプリで切り替えて、TONALITE(General)に戻したときで、さきほどはかなり良いと思えたのだけれども少し曇りが生じたように感じられます。低音の打撃感も軽く甘く感じられます。
聞けば聞くほどPersonalizedとGeneralの差が大きくなるように感じられ、脳がより自然な方(こうあるべき方)に慣れていってるんだと思います。
JDHとの違いはRef +、Ref -という設定があることです。JDHの時はRF noneとRF +nという選択肢がありました。それぞれ対になるものかは分かりません。また「再計算」というメニューがあります。
個人的な感覚ですが、Ref -にすると低域に寄るように感じられ、Ref +だと高域に寄るように感じられますが、曲によっても異なります。個人的にはReferenceでちょうど良いと感じましたが、もし+あるいは-の方がより自然と感じられたら「再計算」をするとそちらが今度はReferenceの基準となるようです。プロファイルを調整して、標準よりもっとギリに攻めてチューニングするみたいな感じでしょうか。
あるいは聴く楽曲がメタルとかEDMみたいなものを聞く場合にも好きな方に寄せて再計算しても良いように思います。

ZE8000(JDH)とTONALITE(DTAS)で比べると、少し音傾向が異なっていてZE8000(JDH)はよりニュートラルで薄味、全体におとなしめでいわゆるモニターライクに感じます。TONALITE(DTAS)はそれに対すると少しリスニング寄りで濃い音に聴こえます。
性能的にはやはりTONALITE(DTAS)の方がベールを剥がしたようにより鮮明でクリアであり、現時点ではやはりTONALITE(DTAS)の方がfinalのフラッグシップにふさわしいという音レベルではあると思います。ただ好みの違いは残るかもしれません。
* まとめTONALITEはハードウエアとDTASの両面から現行TWSの中でも間違いなくトップクラスの音質と言えるでしょう。またDTASの効果はJDHと同等以上のものがあると思います。
DTASの応用はTONALITEだけのものではなく、さらにDTAS用のヘッドフォンも検討されているようです。ヘッドフォンもイヤフォン同様にDTASの効果が期待できるでしょう。またイヤフォン以外にも応用ができるようです。
有線イヤフォンはマイクとSoCがないので難しいかもしれませんが、もしかするとパーソナライズされたDAPによって様々なイヤフォンが同様の効果を得られるという可能性もあるのかもしれません。
TONALITEの入手は現在クラウドファンディングを実施中です。価格は39,800円ですがクラウドファンディングでは先行で安く買えます。また現在のところクラウドファンディングページは製品ページも兼ねているようです。
https://greenfunding.jp/final/projects/9005
ところで、今朝早く家を出ようとすると静けさの中に小鳥の清涼な囀りが聞こえてきました。その時にこの透明感がTONALITEの音に近いかも、と思わず考えてしまいました。
先日のfinal LIVE配信ではfinal社内に蔓延するTONALITE病なるものが紹介されていましたが、わたしも感染してしまったのかもしれません。