アスキーにApple AirPods Maxのレビュー記事を執筆しました。
https://ascii.jp/elem/000/004/044/4044475/
Music TO GO!
2021年02月24日
2020年08月13日
PhilewebにBenchmark HPA4記事を書きました
こちらPhilewebに記事を執筆しました。HPA4は音質と駆動力の高さの両面で優れたヘッドホンアンプです。ピュアな音質の高さもさることながら、あのHE6を軽々と鳴らすのには驚きますよ。
2019年12月23日
Spirit Trino Radianteのレビュー記事執筆
パッシブラジエーターを持つユニークな密閉型ヘッドフォン、Spirit Trino Radianteの記事をPhilewebに執筆しました。ご覧ください。
2019年11月05日
MrSpeakersがDan Clark Audioに改名
MrSpeakersがDan Clark Audioと名称変更しました。経緯が下記ページに書いてあります。
https://www.headphone.guru/mrspeakers-changes-name-to-dan-clark-audio/
簡単に言うと、ヘッドフォンを作っていてスピーカーを作っていないのでユーザーに混乱を与えてしまうから、ということです。もともとDan Clarkはヘッドフォン(Fostex mod)の前にはスピーカーを制作していて、MrSpeakersはそのときの名前のようです。Danの経歴を見ると、スピーカーだけではなくアンプや電子機器にも強いようですね。
https://www.headphone.guru/mrspeakers-changes-name-to-dan-clark-audio/
簡単に言うと、ヘッドフォンを作っていてスピーカーを作っていないのでユーザーに混乱を与えてしまうから、ということです。もともとDan Clarkはヘッドフォン(Fostex mod)の前にはスピーカーを制作していて、MrSpeakersはそのときの名前のようです。Danの経歴を見ると、スピーカーだけではなくアンプや電子機器にも強いようですね。
2019年10月29日
平面型の高コスパモデル、HIFIMAN Aryaレビュー
Aryaは平面型ヘッドフォンの先駆であるHIFIMANの平面駆動型ヘッドフォンです。これはオルソ・ダイナミック、アイソ・ダイナミックと呼ばれる普通のヘッドフォンアンプを使えるタイプの平面型ヘッドフォンです。
HE1000seのレビューでも書いたように、現在のようにこのタイプの平面型ヘッドフォンが隆盛を極めた理由の一つはマニアックメーカーであるHIFIMANのおかげでもあります。AryaはそのHIFIMANの最新の平面駆動技術を投入したもので、わりと入手しやすい価格の高いコストパフォーマンスを持った製品です。
* 特徴
平面型では振動板の薄さが解像力につながるためのキーとされていますが、HIFIMANではナノテクを駆使してナノメーター厚の振動板をHE1000seに採用し、Ayraでもその技術が採用されています。
同様に耳に向いているほうが小さい非対称型のマグネットを採用しています。これはエアフローをブロックせずにスムーズに流せるという利点があります。
またHE1000seと同様にドライバー保護とエアフローをスムーズに流すためのウインドウ・シェードデザインのハウジングを採用しています。
ケーブルはリケーブル可能で、3..5mmステレオミニ端子を使用しています。標準ケーブルも品質は高くCrystallineの単結晶銅線材を採用しています。
* インプレッション
箱の外観デザインはコンシューマープロダクトらしいかっこよいデザインです。
内の化粧箱にはヘッドフォンとケーブルが収まっています。
材料には金属と高品質プラスチックが用いられており、高級感が感じられます。
装着感は良好で重さも昔の平面型に比べるとかなり軽量化された気がします。感覚的にはHD800と大差ない程度ですね。
能率はそれほど低くはなく、DAPでも十分鳴らせます。A&KのSP1000だと120目盛り前後で大丈夫です。実際にハイエンドのSP1000とAryaの組み合わせはお勧めしたいほど素晴らしい音質を堪能できます。
音がわりとHE580など昔の平面型に比べると明るめであり、能率もかつての平面型よりもだいぶ改善されているように感じられます。最近のオルソダイナミックタイプのトレンドの一つは高能率化ですが、Aryaにもしっかりと高能率化が施されています。
音質は主にシングルエンドのデスクトップハイエンド機と言えるChord Hugo2とRoonを使用しています。主にリファレンス機であるHD800と比較していきます。
中高域性能はHD800はいまでもかなり良くて自然ですが、Aryaの高域はより鮮烈でシャープであり、かつ痛さが少ないのが特徴です。かなりHD800よりも情報量が多い感じもしますね。倍音成分がたっぷりある感じです。
低音域はモニター的なHD800に比べるとあきらかに量感が多く、より音楽リスニングに適した周波数特性です。かといって誇張されてはなく自然な感じで低域のボリューム感があるように感じられます。またAryaは超低域の深みもかなりあります。全般的に低音域の質が高いのでタイトなウッドベースの鳴りの良さも楽しめます。
全体的には整った音調で過度に色付けはされていません。音場もHD800よりもさらに広いのは驚きます。またより立体的な感じもしますね。透明感もAryaのほうがかなり高いと感じられます。
解像力はHD800よりもだいぶ高く、バロックバイオリンなど古楽器ではとても豊かな音数の多さを堪能できる。良録音で細かな擦れの音までよく聴こえます。この辺は最新の高性能ヘッドフォンだと実感できるでしょう。
音楽的には特にヴォーカルが魅力的です。ワイドレンジで全体に整った音が背景に奏でられる中で、男声のしわがれた渋さ、女声の鮮烈で美しい声、ファルセットの魅力、それらが輝いて聞こえます。音が整っていてがちゃがちゃとうるさいわけではないので、高品質なリスニング体験が楽しめます。
また平面型らしく音の歯切れが良いので、弦楽器の鳴りが美しく響きが豊かであるとともに、現代アンサンブルのようなハイテンポの弦楽器の演奏でもリズムの刻みが秀逸で足踏みしたくなるようなスピード感あふれる演奏が楽しめます。
密閉型の普通型ヘッドフォンに比べると密度感や荒々しさはなく上品な音再現で端正な音のヘッドフォンなのでジャズやクラシックファンにお勧めしたいですね。
まとめ
全体的にHE1000seの技術を生かしながらローコスト化に成功したという感じで、もし上にHE1000seなどがなければフラッグシップと言っても過言ではないような端正で情報量の多い素晴らしい音質を聴かせてくれます。
音は一言で言うととても整った上品な音ですが、平面型の特徴は周波数でインピーダンス特性が変動しないということもありますが、手ごろな値段でそうした整った音の高性能ヘッドフォンが得られるということがもしかすると平面型の利点と言えるのかもしれません。
かなり高音質で、価格的にはお勧めなモデルだと思います。SE1000seもいいけれども、Aryaを買って良い交換ケーブルを買うという手もあるかもしれませんね。手ごろな平面型の高コスパモデルを探している方にお勧めです。
HE1000seのレビューでも書いたように、現在のようにこのタイプの平面型ヘッドフォンが隆盛を極めた理由の一つはマニアックメーカーであるHIFIMANのおかげでもあります。AryaはそのHIFIMANの最新の平面駆動技術を投入したもので、わりと入手しやすい価格の高いコストパフォーマンスを持った製品です。
* 特徴
平面型では振動板の薄さが解像力につながるためのキーとされていますが、HIFIMANではナノテクを駆使してナノメーター厚の振動板をHE1000seに採用し、Ayraでもその技術が採用されています。
同様に耳に向いているほうが小さい非対称型のマグネットを採用しています。これはエアフローをブロックせずにスムーズに流せるという利点があります。
またHE1000seと同様にドライバー保護とエアフローをスムーズに流すためのウインドウ・シェードデザインのハウジングを採用しています。
ケーブルはリケーブル可能で、3..5mmステレオミニ端子を使用しています。標準ケーブルも品質は高くCrystallineの単結晶銅線材を採用しています。
* インプレッション
箱の外観デザインはコンシューマープロダクトらしいかっこよいデザインです。
内の化粧箱にはヘッドフォンとケーブルが収まっています。
材料には金属と高品質プラスチックが用いられており、高級感が感じられます。
装着感は良好で重さも昔の平面型に比べるとかなり軽量化された気がします。感覚的にはHD800と大差ない程度ですね。
能率はそれほど低くはなく、DAPでも十分鳴らせます。A&KのSP1000だと120目盛り前後で大丈夫です。実際にハイエンドのSP1000とAryaの組み合わせはお勧めしたいほど素晴らしい音質を堪能できます。
音がわりとHE580など昔の平面型に比べると明るめであり、能率もかつての平面型よりもだいぶ改善されているように感じられます。最近のオルソダイナミックタイプのトレンドの一つは高能率化ですが、Aryaにもしっかりと高能率化が施されています。
音質は主にシングルエンドのデスクトップハイエンド機と言えるChord Hugo2とRoonを使用しています。主にリファレンス機であるHD800と比較していきます。
中高域性能はHD800はいまでもかなり良くて自然ですが、Aryaの高域はより鮮烈でシャープであり、かつ痛さが少ないのが特徴です。かなりHD800よりも情報量が多い感じもしますね。倍音成分がたっぷりある感じです。
低音域はモニター的なHD800に比べるとあきらかに量感が多く、より音楽リスニングに適した周波数特性です。かといって誇張されてはなく自然な感じで低域のボリューム感があるように感じられます。またAryaは超低域の深みもかなりあります。全般的に低音域の質が高いのでタイトなウッドベースの鳴りの良さも楽しめます。
全体的には整った音調で過度に色付けはされていません。音場もHD800よりもさらに広いのは驚きます。またより立体的な感じもしますね。透明感もAryaのほうがかなり高いと感じられます。
解像力はHD800よりもだいぶ高く、バロックバイオリンなど古楽器ではとても豊かな音数の多さを堪能できる。良録音で細かな擦れの音までよく聴こえます。この辺は最新の高性能ヘッドフォンだと実感できるでしょう。
音楽的には特にヴォーカルが魅力的です。ワイドレンジで全体に整った音が背景に奏でられる中で、男声のしわがれた渋さ、女声の鮮烈で美しい声、ファルセットの魅力、それらが輝いて聞こえます。音が整っていてがちゃがちゃとうるさいわけではないので、高品質なリスニング体験が楽しめます。
また平面型らしく音の歯切れが良いので、弦楽器の鳴りが美しく響きが豊かであるとともに、現代アンサンブルのようなハイテンポの弦楽器の演奏でもリズムの刻みが秀逸で足踏みしたくなるようなスピード感あふれる演奏が楽しめます。
密閉型の普通型ヘッドフォンに比べると密度感や荒々しさはなく上品な音再現で端正な音のヘッドフォンなのでジャズやクラシックファンにお勧めしたいですね。
まとめ
全体的にHE1000seの技術を生かしながらローコスト化に成功したという感じで、もし上にHE1000seなどがなければフラッグシップと言っても過言ではないような端正で情報量の多い素晴らしい音質を聴かせてくれます。
音は一言で言うととても整った上品な音ですが、平面型の特徴は周波数でインピーダンス特性が変動しないということもありますが、手ごろな値段でそうした整った音の高性能ヘッドフォンが得られるということがもしかすると平面型の利点と言えるのかもしれません。
かなり高音質で、価格的にはお勧めなモデルだと思います。SE1000seもいいけれども、Aryaを買って良い交換ケーブルを買うという手もあるかもしれませんね。手ごろな平面型の高コスパモデルを探している方にお勧めです。
2019年04月08日
MEZEの新フラッグシップ、平面型のEmpyreanレビュー
MEZE Empyrean(エンピリアン)はMEZE Audioの新しいフラッグシップ・ヘッドフォンで、平面駆動のダイナミック型ヘッドフォンです。このタイプは一般的に静電型と区別してマグネット設計からアイソ・ダイナミック型と言います(オルソ・ダイナミック型とも言います)。日本語で等磁力型と言っているのはこの翻訳だと思います。
MEZE Audioは工業デザイナーでありオーディオマニアでもあるMeze Antonio氏が創設したブランドで、99 Classicは昨年度の音楽出版社のヘッドフォンアワードを受賞した名機です。
しかしMEZE Audioと言えば99 Classicなどの手ごろな価格でデザインと音質の調和したヘッドフォンのブランドというイメージでしたが、なぜ一足飛びのように平面型のフラッグシップを出したか少し疑問に思いました。これについてはもう一社、RINARO社の存在がポイントになります。EmpyreanではあちこちにRINARO社のブランド名も記載がされていますね。
この点については昨年Meze Antonio氏とRINAROの責任者とお会いして直接話を聞いてきました。
* Empyreanのはじまり
RINAROは旧ソビエト時代からある会社でウクライナ政府出資の会社です。さまざまなエリアでヘッドフォンやカーオーディオの経験があるそうですが、なかでも平面駆動型は30年もの経験があるということです。平面ダイナミック型で30年前というとあれですか、と聞いてみたところ口を濁していたので、もしかするとその辺に関係があるのかもしれません。このようにずっとOEMのように開発してきたので、自社の名を出した製品はEmpyreanが初となるそうです。
Empyreanでの担当はRINAROがドライバー部分と音響設計の担当で、MEZEはそれ以外すべて(構造設計やハウジングデザインなど)となるそうです。
つまりMEZEが急に平面型を出したわけではなく、他社の技術ベースがあるということです。この協業は2016の秋にドイツのショウで出あったことで、MEZEは最高の技術がほしかったし、RINAROは自分の技術を世に出したかったので協業体制が始まったということです。つまりEmpyrean(天国とか最高という意味)の始まりです。
もともとMEZEは99クラシックのようなデザインと音のバランスの良いヘッドフォンが評判だったので、実のところディーラーも99クラシックの続きのようなものを望んでいたそうです。しかし、ここでRINAROと出会ったことで、デザイナーとして最高のものを作りたい夢がかなうという機会が訪れたと考えたそうです。デザイン(快適性)と音質という最高のシナジー(相乗効果)が達成できるというわけですね。ビジネスよりも作りたいという情熱だとMEZE Antonio氏が言っていました。この情熱という部分が音質面でのチューニングにもポイントになると思います。
* Empyreanの特徴
1. ハイブリッドのコイルパターンとマグネット
平面型では振動板すべてが動くために、振動板にプリントされたボイスコイルパターン(形状)が音のキーの一つとなります。これがEmpyreanの革新なのですが、Empyreanではスイッチバック(ジクザク)とスパイラル(らせん)の組み合わされたハイブリッド型のコイルパターンが採用されています。等磁力ハイブリッド配列ドライバーと呼ばれています。
もちろんボイスコイルだけではなく、マグネットもパターンに応じたハイブリッド形状をしています。この平面型ドライバーはMZ3と呼ばれています。
スイッチバック(ジグザグ)は低域に特化し、スパイラル(らせん)は中高域に特化したコイルパターンだそうです。ポイントは中高域用のパターンは耳に近い位置に置かれているということです。これによって耳の中での不要な反射を抑えて耳に直接入れるという考えです。これによって不要な共振を抑えて元の音を忠実に再現しているとのこと。低域の方はあまり指向性がないので、そこを分けたということでしょう。
従来の平面型と比べての長所としては、聴覚的に音場が良くなるとかハーモニックディストーションが低くなる。またワイドレンジが実現できるということだそうです。
2. 軽量化設計と高能率化
平面駆動型と言えば鳴らしにくいヘッドフォンの代名詞ともなっているように、アンプ側の駆動力も必要になるのが普通です。そこで高能率化、つまり鳴らしやすくすることが特に最近の平面型ダイナミックヘッドフォンのキーとなっています。Empyreanでもこの点に注意が払われています。
Empyreanではまずドライバーを楕円形にして有効ドライバー面積を広くし、振動板を軽量化することで高効率化が図られています。
また振動板には特殊なポリマー材料を使って超軽量になりひずみも下げています。振動板の厚みは非公開なため書けませんが、だいたいこのタイプでは標準的だと思います。そのためキーはこの素材がとても特殊だということです。なぜかというと、同じ平面型と言ってもアイソ・ダイナミック型ではコイルが必要なために静電型ほど振動板は薄く作れないので、素材が軽いというのは大きく有利な点です。
このように軽量なため高音域が110kHzまで出せるという点がもうひとつのポイントです。
普通のヘッドフォンではシンプルなバーマグネットを使いますが、より高能率なマグネットを作れたので軽く済んでいる(従来他社製品の1/2くらい)ということです。これも軽量化に貢献しています。
イヤパッドは磁石がないのに磁石のようにくっつくのですが、これはドライバー用のマグネットをうまく使っています。このイヤパッドの金属はフェライトで知られるフェロ磁性体というもので、このネットのおかげで磁場を拡散させずにドライバーに効率よく閉じ込めて12%ほど効率化し、またこの金属ネットのために人に届くような強い磁界を95%もさえぎってくれる優れた設計です。
* インプレッション
MEZEといえばやはり美しいデザインですが、Empyreanもまるで未来ガジェットを見るように優れたデザインです。
HeadFiでも発表された当時はMEZEホームページに発表されたEmpyreanの背景のレインボウカラーのデザインがスタートレックのイメージデザインと似ているので、かなりスタートレックを意識したのではないかと書かれていましたね。まさに宇宙船をほうふつとさせる美しくて頑丈なデザインです。ドライバーハウジングのメッシュもCNC加工され、デザイン性とエアフローを両立させているようです。機能的にもよく考えられている点が工業デザインという感じです。
ハイブリッド平面型コイルパターンがRINARO社の功績であるのと同様に、Empyreanの外形デザインは工業デザイナーたるMeze Antonio氏の面目躍如と言えるでしょう。
ヘッドフォンはアルミのトランクに格納されていますが、このトランクはなかなか高級感があって優れたものだと思います。
ヘッドレストは独特の形状で頭によくフィットします。これは装着した時に頭に沿うように密着することで圧力が分散されます。頭に装着した時に感じる軽量感は手に持った時よりも高いので、圧力を分散させるヘッドバンドの設計が優れていることが良くわかります。
サイズ調整はスライドバーを使うのですが、この感触も高級感があって、がっちりと固定されます。
また側圧は開放型にしてはわりと高い方で、頭にしっかりと密着します。装着感に関してはかなり良好で、最近ではAudioquestのNighthawkと同様に人間工学的によく考えられたヘッドフォンであると思います。
試聴で長時間聴いていても耳が痛くなるとか疲れてしまうということはありませんでした。これは音の優しさという点もあります。
ケーブルはミニXLRで接続する方式で、この方式は他でも採用されているので交換ケーブルも見つかるかもしれません。ケーブルは購入時にいくつかの端子のタイプが選べます。
鳴らしやすさに関してはHD800と同じボリューム位置だとより大きな音になるので、平面型にしては能率もよく鳴らしやすい方だと思います。ここは最近の平面型らしい点ですね。アンプのLowゲイン位置でも音量は取れるくらいです。
ポータブルプレーヤーでも十分音は取れますが、Empyreanの性能を引き出すにはハイエンドのDAPかまたはやはり据え置きのシステムを使ったほうが良いと思います。一般的なヘッドフォンアンプでも音量は問題ないと思います。
* 音質
第一印象は楽器音や声のリアルさと、音の豊かさや厚み、音の立体的な広がりに圧倒されるということで、多声のアカペラヴォーカルを聴くと感動的です。
思っていたよりも低域の量感がたっぷりとあるのが第一印象ですが、低域に重みが感じられ質感表現に優れています。特にAudiophile Recordingsなど試聴によく使われる良録音ではかなり良質な低域を堪能できます。
高域もどこまでも伸びる感じでかなりワイドレンジ感があります。試聴のさいにはMeze Antonioもいたのですが、コメントを言うとハイはロールオフしないだろう、と言っていました。
また110kHzという領域では聴覚的には感じられませんので、倍音成分が豊かという方向に効果が出ていると思います。実際に音の厚みとか豊かさからくる音楽性というのがEmpyreanの大きな特徴だと思います。音の厚みというか濃さがスーパーツイーターのついたスピーカーに近いものを感じさせるような気がします。
また音の立体感に優れていて、音が空間を移動するタイプの録音では気持ち悪くなるくらいリアルに感じます。マルチドライバーイヤフォンだとこのイヤフォンは位相がよく合っていると言いたくなるタイプの音だけれども、この場合はおそらくこのリアルさはハイブリッドコイルパターンの良さのように思いますね。
HD800と比較して平面型を実感するのは音のトランジェントが速いことで、音の立ち上がりと立ち下がりが速く歯切れがよい音です。この辺もMeze Antonio氏にコメントを言うと、振動板の軽さが効いているんだ、と言っていました。振動板が軽いことと、剛性が高くたわまないということの両立は難しく、この実現はかなり大変だったようです。
しかし反面でシャープな音のヘッドフォンにありがちな高音域やサ行の音の痛さが少ない感じですね。これは実にHD800と比べてもより顕著で、音の高級感というようなものを感じさせます。
楽器音やヴォーカルがリアルで、細かい音の明瞭感が高く感じられます。細かい音が消え入りそうな表現にも長けていて、解像力が高いということもあるけれども、それよりも情報量が多いという言葉を使いたいですね。
バイオリンの音や楽器音がきれいで澄んでいるのも特徴的で、おそらく歪感がとても少なく正確な音が出ているのだと思います。楽器の擦れる音や金属を叩く音などの響きの良さがとても印象的です。
また開放型の典型的なHD800と比べると、少し密閉型に近い密度感のある音を感じます。モニターではなくリスニング寄りの音で、アナログ的なやさしさと滑らかさがありデジタル的に硬くてきついのではありません。音楽を楽しむタイプですね。ただ楽器の音や声など音自体はとてもリアルで高忠実に思えます。
イヤパッドは主にアルカンターラで聴いたのですが、レザータイプにも交換してみました。、Empyreanでは着脱がとても簡単なために音を変えたいというときに手軽にできるのが隠れた魅力かもしれません。
レザータイプはとても革の高級感がありかつ装着感も柔らかい仕上がりです。高級ヘッドフォンを使用しているという満足感が得られるでしょう。レザータイプでは少し密閉型に近いようなやや重みを増した低音域のインパクトが感じられます。ただ音の広がりと開放感らしさはアルカンターラのほうが良いように思えますね。ここは着脱の容易さもあるので音楽の好みやジャンルで手軽に取り換えて使うのが良いと思います。
オーケストラや多声アカペラなど複雑で多彩な音楽で光るヘッドフォンだと思います。よく試聴に使うアカペラグループThe Real GroupのWordsではそれぞれの声の音域の広さ、豊かさに驚くとともに、声が空間のあちこちに浮かび上がり、それがまとまってひとつの厚いハーモニーを奏でるさまがよく分かります。こういう曲では空間に音のないところと、あるところがかなり明瞭にわかります。
またGo Go PenguinのようにEDMっぽいユーロジャズなどでは躍動感や重み・パワー感が楽しめます。最新アルバムのA hundrum StarのRavenでは冒頭のピアノの叩きつけるような響きが感動的なほどに美しく響き、続くハイスピードなドラムスやベースの低音の豊かさ・体が動き出すような躍動感に圧倒されてぞくぞくとする感動が味わえました。音に密度間があって躍動感があるのでこうした音楽にも良く向いてますね。
これだけ音が分厚くて濃い音で、かつ軽やかに躍動感を感じるヘッドフォンは他にあまり例を見ないほどではないかと思います。重くて量感のある低域から、リアルな中音域、美しく伸びあがる高域までワイドレンジ感も圧倒的です。
Empyreanについては設計の様々な要素がうまく調和して最高の音を奏でているという感じです。聴いているうちに音の厚みや豊かさ、リアルさやスケール感にどんどんのめりこんでいって、音楽に引き込まれていく感じがします。豊かで深みのある音空間に音楽の感動が感じられますね。
聴くほどに良さがわかるので、じっくりと聴くと聴くたびに発見があると思いますし、それだけ手間をかけて丹念に設計した成果だと思います。
月末のヘッドフォン祭ではぜひテックウインドさんのブースで聴いてみてください。
2019年02月03日
HIFIMANの平面駆動型、HE1000seレビュー
HE1000seはHIFIMANの平面駆動型のハイエンド・ヘッドフォンです。
HE1000seは平面型としてはオルソダイナミック、アイソダイナミックと呼ばれるダイナミック型のタイプで、静電型とは異なって専用ドライバを必要としない特徴があります。このタイプは最近のハイエンドヘッドフォンの潮流の一つですが、最近開発された技術ではなく、もともとはオーディオの黄金期と呼ばれる数十年前の時代には珍しくなかった形式です。
平面駆動型のヘッドフォンでは振動板の全面が振動することにより、一点でしか振動しない普通のヘッドフォンに比べて理想的な音質が発揮できます。しかし普通のタイプに比べると平面駆動型はコストのかかる方式で、オーディオ販売が低迷する時代になるとこうした価格度外視で音質を追求する技術はあまり採用がなされなくなってきたという事情があります。
しかし、そのいったんは忘れさられかけた技術を現代によみがえらせた功績はAudezeのLCD-1とHIFIMANのHE-5の登場にあります。どちらもマニアックなメーカーであり、ヘッドフォン人気の隆盛に従ってさらなる音質追及のためにこの形式を現代によみがえらせたわけです。
HE1000は海外では高い評価を得てきたモデルで、HE1000se(SEはSpecial Editionの略)はその第三世代の製品です。HE1000seでは、フラッグシップであるSUSVARAの技術を受け継ぎ、さらなる音質向上と高能率化が図られています。
HE1000seの特徴
* 高能率化
平面駆動型ヘッドフォンは音質はよいのですが、一般に能率が低く鳴らしにくいのがネックです。「平面駆動型でも鳴らせる」がうたい文句のヘッドフォンアンプが多いことでもそれはわかります。このHE1000seでは能率を前の91dBから96dBに大幅に効率を高めています。感度(能率)の5dBアップは大幅な効率改善と言ってよいでしょう。
* 薄い振動板
最近は中国も先端技術では日米に迫り、追い越すレベルに来ている分野も多くあります。つまり売りが先進技術というのは、もうおかしいことではありません。
HIFIMANはナノテクノロジーに強いメーカーで、イヤフォンにおけるトポロジーダイヤフラムなどさまざまな技術を取り入れてきました。HE1000seではわずか1ナノメーターという薄さの振動板を採用しているため、素早いレスポンスが可能となっていくす。
オルソダイナミックタイプでは静電型とは異なり振動板にダイナミック型のコイルが必要となりますが、それもサブミクロンという薄さです。
* ステルスマグネット
従来の平面型ヘッドフォンにおけるマグネットはマグネット自体が回析減少で空気の流れを乱してしまい、音質を劣化させてしまいまうということです。
HE1000seでは特殊形状の「ステルス・マグネット」を採用して、空気の流れをあまり乱すことなく透過させることで音質劣化を防いでいるということです。つまり透過的なエアフローを、見えないステルスに例えているわけです。
これによって歪みの少ない、ピュアでハーモニーを阻害しない音楽再現を実現するということです。
下の図を見てもらうとわかりますが、従来のマグネットは四角く、HE1000seのマグネットは丸くなっています。回析というのは波が回り込む現象をいいます(写真レンズでもありますが)。回り込みが多いということは直進する成分が減っているということですので、これによってエアフローが最適化されているということでしょう。
* ウインドウシェイド・デザインのオープンバック
これもエアフローをスムーズにすることを目的としていて、オープンバックタイプの最適化を図った「ウインドウ・シェード”」システムを採用しています。これはまたドライバーの保護にも貢献しています。これも下図を見てもらうと独特の形状がわかります。
これらの技術によってHE1000seはとても広い周波数レンジを有していて、再生周波数帯域は8Hz - 65kHzです。
他の仕様としてはインピーダンスは35Ω、感度は96dB、質量は440gです。
インプレッション
HE1000seは立派な木箱に入っていて、パッケージは高級感があります。ケーブルはとてもしなやかで扱いやすいタイプです。
ヘッドフォン側のケーブルコネクタはミニ端子となっていてケーブル交換が可能です。製品版では3.5mmミニケーブル、6.35mm標準ケーブル、4.4mmバランス用ケーブルが同梱されています。(画像のXLR4ピンはデモ用に貸し出してもらったものです)
まずリファレンスであるゼンハイザーHD800と比較するために1/4標準端子でシングルエンドで聴きました。
ヘッドフォンアンプはバランス端子の豊富なパイオニアU-05を使用しました。U-05はなかなか駆動力もあって、なみのヘッドフォンアンプをクリップさせてしまうような超低能率HE-6も鳴らせます。DACもU-05内蔵DACを使用して、音楽再生ソフトはRoon(1.6)を使用しました。
HE1000se本体は金属製でメタリックで現代的なデザインが感じられます。手磨きという表面の質感もよいですね。イヤーカップは耳に自然にフィットするという非対称デザインを採用ということですが、なかなか快適性が高く、スペック上はより軽量なHD800(369g)と比べても感覚的に軽量に感じられます。
能率に関してはボリューム位置としてはHD800よりも能率が良いと思います。U-05のLowゲイン位置でも普通に鳴らせます。これでさまざまなヘッドフォンアンプが使えると思います。
音的にも能率の低いヘッドフォン特有の暗さがなく、明るめで軽やかにリズムを刻む気持ちの良い音です。
HE1000seの音はひと言でいうと、自然でかつ壮麗な音です。
HD800もかなり音の広がりはよいのですが、HE1000seはさらに横にも広く、奥行きもより深みが感じられます。このため、オーケストラ物のクラシックや、サントラのような壮大な音楽ではかなり豊かなスケール感が感じられるます。
また高低のワイドレンジ感も驚くほど優れていて、特筆したいのはその超低域の豊かさです。単なる低域、ではなく。あまり聞いたことがないくらい、かなり低い音が豊かに出てきます。ここはHD800とは比較にならないくらい優れています。これは単に低域が張り出しているのではなく、HE1000seも周波数特性はフラット傾向ですが、超低域がとても豊かに出ているのです。高域も気持ちよく上に伸び、かつ音の痛さが少ない優れた再現です。
ウッドベースでは不自然な低域強調感がなく、周波数特性がフラットで良好であるとともに、HD800よりもかなり低域が深く下に沈むので豊かさという意味で量感があります。この良好な低域はくせになりそうな魅力的なものです。
アコースティックな楽器だけではなく、電子楽器や打ち込み系でもこの良さは感じられますが、この曲のウッドベースをちょっと見直した、という感覚が味わえるのはちょっと魅力的ですね。
HE1000seの良さはそうした壮麗さというマクロ的なほかに、ミクロ的な音の細かさでも感じられます。
音の立ち上がりが極めて高く、楽器音の歯切れがよくスピード感が感じられます。ダイナミック型というよりは静電型に近い感じですね。
解像力も極めて高く、さざ波のような音の細やかさが感じられます。これもダイナミックというよりは静電型に近い感じがしますね。ナノメーター振動板というのはかなり効いているように思います。
192kハイレゾのストリングカルテットを聴いていても、HD800と比べてもまだ音と音の間に別の音があるような情報量の高さが感じられます。またピアノソロを聴いていると、HD800に比べて音の響きがより豊かで、これも音と音の間にホールの反響音とか残響音が聞こえてくるような豊かさを感じます。
またヴォーカルはやや耳に近く迫力が感じられます。いわゆるHD800のような「プロデューサーのためのモニター」のような一歩引いた音ではなく、ライブステージの近くのような音楽の迫力を感じられる音です。
全体にニュートラルな音だが、音に冷たさが少なく、わずか暖かみがのっています。これはたぶんケーブルの色のように思います。
こうした点では音楽的でもあり、フラットで自然な音調ととてもに音楽に真摯に取り組みたい人のヘッドフォンと言いましょうか。
HE1000seがよいのは楽しむジャンルを問わないことで、ジャズやクラシックの良録音盤を楽しむのはもちろん、ロックを聴いてもスピード感があり、アタックが激しく、ボリューム感のある低域を感じられます。ただし周波数特性がかなりフラット傾向なので、メタル等ではやや物足りなさを覚えるかもしれません。しかし抜群のスピード感やアタックの鋭さでまた別に曲の良さを感じ取れると思います。
XLRバランスで聴いてみると、バランスでは期待したように音の広がりがさらに増すとともに、より立体感も増して音の重なり感が明瞭になります。ストリングカルテックを聴いても楽器音の鮮明さがさらによくなり、全体がより華やいだ感じとなります。
また音のアタックがより強くなり歯切れ感も増します。これらがすべて整理されていて、ごちゃごちゃとしていないのは高級感がある音という印象です。
まとめ
HD800も今聞いてもすごく良いんだけれども、HE1000seを聴くとCEO Fang氏の言うところの「ベストよりベターなものがある」という感じでしょうか。
とてつもないワイドレンジ感、静電型のように錯覚する高精細感と音の早さ、音の広がりの良さなど、ヘッドフォンで最高の音を求めたい方にお勧めしたい製品です。
静電型はほしいけどいまのヘッドフォンアンプが気に入っていて、という人にも静電型的なテイストの音も楽しめるためお勧めですね。
HE1000seの価格はオープンですが、だいたい390,000円前後での実売を想定しているということ。昨年のヘッドフォン祭で公開され、昨年の12月から発売されています。
HIFIMANのホームページはこちらです。
http://hifiman.jp/products/detail/296
HE1000seは平面型としてはオルソダイナミック、アイソダイナミックと呼ばれるダイナミック型のタイプで、静電型とは異なって専用ドライバを必要としない特徴があります。このタイプは最近のハイエンドヘッドフォンの潮流の一つですが、最近開発された技術ではなく、もともとはオーディオの黄金期と呼ばれる数十年前の時代には珍しくなかった形式です。
平面駆動型のヘッドフォンでは振動板の全面が振動することにより、一点でしか振動しない普通のヘッドフォンに比べて理想的な音質が発揮できます。しかし普通のタイプに比べると平面駆動型はコストのかかる方式で、オーディオ販売が低迷する時代になるとこうした価格度外視で音質を追求する技術はあまり採用がなされなくなってきたという事情があります。
しかし、そのいったんは忘れさられかけた技術を現代によみがえらせた功績はAudezeのLCD-1とHIFIMANのHE-5の登場にあります。どちらもマニアックなメーカーであり、ヘッドフォン人気の隆盛に従ってさらなる音質追及のためにこの形式を現代によみがえらせたわけです。
HE1000は海外では高い評価を得てきたモデルで、HE1000se(SEはSpecial Editionの略)はその第三世代の製品です。HE1000seでは、フラッグシップであるSUSVARAの技術を受け継ぎ、さらなる音質向上と高能率化が図られています。
HE1000seの特徴
* 高能率化
平面駆動型ヘッドフォンは音質はよいのですが、一般に能率が低く鳴らしにくいのがネックです。「平面駆動型でも鳴らせる」がうたい文句のヘッドフォンアンプが多いことでもそれはわかります。このHE1000seでは能率を前の91dBから96dBに大幅に効率を高めています。感度(能率)の5dBアップは大幅な効率改善と言ってよいでしょう。
* 薄い振動板
最近は中国も先端技術では日米に迫り、追い越すレベルに来ている分野も多くあります。つまり売りが先進技術というのは、もうおかしいことではありません。
HIFIMANはナノテクノロジーに強いメーカーで、イヤフォンにおけるトポロジーダイヤフラムなどさまざまな技術を取り入れてきました。HE1000seではわずか1ナノメーターという薄さの振動板を採用しているため、素早いレスポンスが可能となっていくす。
オルソダイナミックタイプでは静電型とは異なり振動板にダイナミック型のコイルが必要となりますが、それもサブミクロンという薄さです。
* ステルスマグネット
従来の平面型ヘッドフォンにおけるマグネットはマグネット自体が回析減少で空気の流れを乱してしまい、音質を劣化させてしまいまうということです。
HE1000seでは特殊形状の「ステルス・マグネット」を採用して、空気の流れをあまり乱すことなく透過させることで音質劣化を防いでいるということです。つまり透過的なエアフローを、見えないステルスに例えているわけです。
これによって歪みの少ない、ピュアでハーモニーを阻害しない音楽再現を実現するということです。
下の図を見てもらうとわかりますが、従来のマグネットは四角く、HE1000seのマグネットは丸くなっています。回析というのは波が回り込む現象をいいます(写真レンズでもありますが)。回り込みが多いということは直進する成分が減っているということですので、これによってエアフローが最適化されているということでしょう。
* ウインドウシェイド・デザインのオープンバック
これもエアフローをスムーズにすることを目的としていて、オープンバックタイプの最適化を図った「ウインドウ・シェード”」システムを採用しています。これはまたドライバーの保護にも貢献しています。これも下図を見てもらうと独特の形状がわかります。
これらの技術によってHE1000seはとても広い周波数レンジを有していて、再生周波数帯域は8Hz - 65kHzです。
他の仕様としてはインピーダンスは35Ω、感度は96dB、質量は440gです。
インプレッション
HE1000seは立派な木箱に入っていて、パッケージは高級感があります。ケーブルはとてもしなやかで扱いやすいタイプです。
ヘッドフォン側のケーブルコネクタはミニ端子となっていてケーブル交換が可能です。製品版では3.5mmミニケーブル、6.35mm標準ケーブル、4.4mmバランス用ケーブルが同梱されています。(画像のXLR4ピンはデモ用に貸し出してもらったものです)
まずリファレンスであるゼンハイザーHD800と比較するために1/4標準端子でシングルエンドで聴きました。
ヘッドフォンアンプはバランス端子の豊富なパイオニアU-05を使用しました。U-05はなかなか駆動力もあって、なみのヘッドフォンアンプをクリップさせてしまうような超低能率HE-6も鳴らせます。DACもU-05内蔵DACを使用して、音楽再生ソフトはRoon(1.6)を使用しました。
HE1000se本体は金属製でメタリックで現代的なデザインが感じられます。手磨きという表面の質感もよいですね。イヤーカップは耳に自然にフィットするという非対称デザインを採用ということですが、なかなか快適性が高く、スペック上はより軽量なHD800(369g)と比べても感覚的に軽量に感じられます。
能率に関してはボリューム位置としてはHD800よりも能率が良いと思います。U-05のLowゲイン位置でも普通に鳴らせます。これでさまざまなヘッドフォンアンプが使えると思います。
音的にも能率の低いヘッドフォン特有の暗さがなく、明るめで軽やかにリズムを刻む気持ちの良い音です。
HE1000seの音はひと言でいうと、自然でかつ壮麗な音です。
HD800もかなり音の広がりはよいのですが、HE1000seはさらに横にも広く、奥行きもより深みが感じられます。このため、オーケストラ物のクラシックや、サントラのような壮大な音楽ではかなり豊かなスケール感が感じられるます。
また高低のワイドレンジ感も驚くほど優れていて、特筆したいのはその超低域の豊かさです。単なる低域、ではなく。あまり聞いたことがないくらい、かなり低い音が豊かに出てきます。ここはHD800とは比較にならないくらい優れています。これは単に低域が張り出しているのではなく、HE1000seも周波数特性はフラット傾向ですが、超低域がとても豊かに出ているのです。高域も気持ちよく上に伸び、かつ音の痛さが少ない優れた再現です。
ウッドベースでは不自然な低域強調感がなく、周波数特性がフラットで良好であるとともに、HD800よりもかなり低域が深く下に沈むので豊かさという意味で量感があります。この良好な低域はくせになりそうな魅力的なものです。
アコースティックな楽器だけではなく、電子楽器や打ち込み系でもこの良さは感じられますが、この曲のウッドベースをちょっと見直した、という感覚が味わえるのはちょっと魅力的ですね。
HE1000seの良さはそうした壮麗さというマクロ的なほかに、ミクロ的な音の細かさでも感じられます。
音の立ち上がりが極めて高く、楽器音の歯切れがよくスピード感が感じられます。ダイナミック型というよりは静電型に近い感じですね。
解像力も極めて高く、さざ波のような音の細やかさが感じられます。これもダイナミックというよりは静電型に近い感じがしますね。ナノメーター振動板というのはかなり効いているように思います。
192kハイレゾのストリングカルテットを聴いていても、HD800と比べてもまだ音と音の間に別の音があるような情報量の高さが感じられます。またピアノソロを聴いていると、HD800に比べて音の響きがより豊かで、これも音と音の間にホールの反響音とか残響音が聞こえてくるような豊かさを感じます。
またヴォーカルはやや耳に近く迫力が感じられます。いわゆるHD800のような「プロデューサーのためのモニター」のような一歩引いた音ではなく、ライブステージの近くのような音楽の迫力を感じられる音です。
全体にニュートラルな音だが、音に冷たさが少なく、わずか暖かみがのっています。これはたぶんケーブルの色のように思います。
こうした点では音楽的でもあり、フラットで自然な音調ととてもに音楽に真摯に取り組みたい人のヘッドフォンと言いましょうか。
HE1000seがよいのは楽しむジャンルを問わないことで、ジャズやクラシックの良録音盤を楽しむのはもちろん、ロックを聴いてもスピード感があり、アタックが激しく、ボリューム感のある低域を感じられます。ただし周波数特性がかなりフラット傾向なので、メタル等ではやや物足りなさを覚えるかもしれません。しかし抜群のスピード感やアタックの鋭さでまた別に曲の良さを感じ取れると思います。
XLRバランスで聴いてみると、バランスでは期待したように音の広がりがさらに増すとともに、より立体感も増して音の重なり感が明瞭になります。ストリングカルテックを聴いても楽器音の鮮明さがさらによくなり、全体がより華やいだ感じとなります。
また音のアタックがより強くなり歯切れ感も増します。これらがすべて整理されていて、ごちゃごちゃとしていないのは高級感がある音という印象です。
まとめ
HD800も今聞いてもすごく良いんだけれども、HE1000seを聴くとCEO Fang氏の言うところの「ベストよりベターなものがある」という感じでしょうか。
とてつもないワイドレンジ感、静電型のように錯覚する高精細感と音の早さ、音の広がりの良さなど、ヘッドフォンで最高の音を求めたい方にお勧めしたい製品です。
静電型はほしいけどいまのヘッドフォンアンプが気に入っていて、という人にも静電型的なテイストの音も楽しめるためお勧めですね。
HE1000seの価格はオープンですが、だいたい390,000円前後での実売を想定しているということ。昨年のヘッドフォン祭で公開され、昨年の12月から発売されています。
HIFIMANのホームページはこちらです。
http://hifiman.jp/products/detail/296
2018年12月10日
静電型ヘッドフォンシステム、HIFIMAN SHAGNRI-LA jr
SHAGNRI-LA jr(シャングリラ・ジュニア)は超ド級の静電型ヘッドフォンアンプであるSHAGNRI-LA の弟であり、入手しやすい価格とした静電型ヘッドフォンと専用アンプのシステムです。
HIFIMAN JapanのSHAGNRI-LA jrページはこちらです。
http://hifiman.jp/products/detail/297
HifiManはRE2000で採用された振動板の表面に幾何模様を描いたトポロジー・ダイアフラムのようにナノテクノロジーを得意としているのですが、SHAGNRI-LA jrの振動板にもナノテクノロジーが生かされています。静電型の強みは振動板の薄さですが、SHAGNRI-LA jrでは薄さ0.001mm以下のたいへんに薄いナノテク振動板を採用しています。これによって歪率ほぼゼロでかつ素早い動きを実現しているとのこと。
また振動板はナノ粒子コートされているため帯域特性に優れているということです。
またHifimanではナノテクを活用してエアフローの改善も行っています。HE1000seではステルスマグネットという技術にそれが表れていますが、SHAGNRI-LA jrのヘッドフォンにおいても電極のメッシュ幅はわずか50マイクロミリで、100万ヘルツ以下の音の振動を問題なく通すために音の振動についてメッシュが阻害することを最小限に抑えています。これによりエアフローの気流が乱れにくいということになります。ダストカバーなど他のパーツにおいてもこの技術は応用されています。
帯域特性は7Hzから120kHzまでの超ワイドな帯域再現を実現しているということです。
静電型においては通常バイアス電流を必要とするため専用のアンプが必要とされます。SHAGNRI-LA jrの専用アンプはマッチドペアされたHifiman特注品の6SN7Nを採用しています。増幅は前段が真空管 後段が真空管とICのハイブリッドということです。
DAC機能はなくてアナログ入力だけです。RCAとXLRの入力があります。正面に二つヘッドフォン端子があり、STAX Pro規格ですので、片方には手持ちのSTAXをつないでもよいでしょう。
ボリュームの部分ではディスクリートの24段アッテネーターを採用しています。
アンプ部分のデザインもなかなかすぐれています。
実機の試聴はHifimanのオフィスで行いました。
ヘッドフォンには専用のデスクトップスタンドがあるなど細かいところも凝ってますね。ヘッドフォン部分はかなり軽く、快適感は高いので長時間の装着に向いていると思います。ハウジングの削り出しの品質も高く高級感があります。
アンプ前面のLEDはボリュームに応じて光ります(左右は続いている)。
DACが必要なので近くのデスクトップDACを使おうとしたのですが、R2R2000をDACモードで使ってほしいとのことでそちらを使ってみました。まあ試しに使ってみるかと思ったところ、実のところそのデスクトップDACよりもR2R2000のほうがずっと正確で緻密な再生音が出るのに驚きました。後でそのDACと実際に比較してみて、結局ずっとR2R2000を使いました。
この小さいプレーヤーから弩級のアンプとヘッドフォンに聴き劣りしない堂々とした音が出るのは驚きですね。
左側にR2R2000があります
そのR2R2000をPCにUSB DACとして接続して使用しました。
そのSHAGNRI-LA jrシステムの音質は極めて高く、音がまるで宙に浮くような浮遊感のある立体感がちょっと驚くほどです。音場は広く開放感のある気持ちの良い音ですね。
音調はニュートラルで着色感はなく、帯域特性はかなりフラットです。伸びやかな高音域はきつさがなく、音は分析的に細かいがあまり聞き疲れはしなさそうに感じます。
中音域のヴォーカルは聞き取りやすく、肉声は静電型らしい艶めかしく生々しい感じですね。ささやく声の艶かしさに真空管っぽい滑らかな魅力を感じられます。
ただし真空管っぽい甘さは少なく正確で端正な音ですが、あまり無機的になりすぎてないのは真空管を上手に使用しているからのように思います。
低域は強調されてはいませんが鋭いパンチがあり、たっぷりと空気を動かしているような音圧で迫力とスケール感を感じられます。大編成オーケストラの曲も聞きたくなりますね。パーカッションやドラムスは歯切れ良く静電型らしい解像力もあってかなり良質な低域と思います。
音の立ち上がりと立ち下げがとても速く、音の歯切れが良いので静電型らしさが存分に楽しめるでしょう。音の細かさは一級品で、情報量に圧倒されます。特に良録音のジャズやクラシックでは特筆ものの音再現が味わえます。STAXのSR009あたりと比べてみると面白いかもしれません。
今回は静電型ヘッドフォンと静電型アンプの単体販売を行うということで、端子はSTAX Proを使用しているためにSTAXをお持ちの人にも気になる製品だと思います。
販売は12月12日から開始されます。SHAGNRI-LA jrシステムの店頭予想価格は85万円前後で、ヘッドフォンが42万円前後、アンプが52万円前後ということです。
HIFIMAN JapanのSHAGNRI-LA jrページはこちらです。
http://hifiman.jp/products/detail/297
HifiManはRE2000で採用された振動板の表面に幾何模様を描いたトポロジー・ダイアフラムのようにナノテクノロジーを得意としているのですが、SHAGNRI-LA jrの振動板にもナノテクノロジーが生かされています。静電型の強みは振動板の薄さですが、SHAGNRI-LA jrでは薄さ0.001mm以下のたいへんに薄いナノテク振動板を採用しています。これによって歪率ほぼゼロでかつ素早い動きを実現しているとのこと。
また振動板はナノ粒子コートされているため帯域特性に優れているということです。
またHifimanではナノテクを活用してエアフローの改善も行っています。HE1000seではステルスマグネットという技術にそれが表れていますが、SHAGNRI-LA jrのヘッドフォンにおいても電極のメッシュ幅はわずか50マイクロミリで、100万ヘルツ以下の音の振動を問題なく通すために音の振動についてメッシュが阻害することを最小限に抑えています。これによりエアフローの気流が乱れにくいということになります。ダストカバーなど他のパーツにおいてもこの技術は応用されています。
帯域特性は7Hzから120kHzまでの超ワイドな帯域再現を実現しているということです。
静電型においては通常バイアス電流を必要とするため専用のアンプが必要とされます。SHAGNRI-LA jrの専用アンプはマッチドペアされたHifiman特注品の6SN7Nを採用しています。増幅は前段が真空管 後段が真空管とICのハイブリッドということです。
DAC機能はなくてアナログ入力だけです。RCAとXLRの入力があります。正面に二つヘッドフォン端子があり、STAX Pro規格ですので、片方には手持ちのSTAXをつないでもよいでしょう。
ボリュームの部分ではディスクリートの24段アッテネーターを採用しています。
アンプ部分のデザインもなかなかすぐれています。
実機の試聴はHifimanのオフィスで行いました。
ヘッドフォンには専用のデスクトップスタンドがあるなど細かいところも凝ってますね。ヘッドフォン部分はかなり軽く、快適感は高いので長時間の装着に向いていると思います。ハウジングの削り出しの品質も高く高級感があります。
アンプ前面のLEDはボリュームに応じて光ります(左右は続いている)。
DACが必要なので近くのデスクトップDACを使おうとしたのですが、R2R2000をDACモードで使ってほしいとのことでそちらを使ってみました。まあ試しに使ってみるかと思ったところ、実のところそのデスクトップDACよりもR2R2000のほうがずっと正確で緻密な再生音が出るのに驚きました。後でそのDACと実際に比較してみて、結局ずっとR2R2000を使いました。
この小さいプレーヤーから弩級のアンプとヘッドフォンに聴き劣りしない堂々とした音が出るのは驚きですね。
左側にR2R2000があります
そのR2R2000をPCにUSB DACとして接続して使用しました。
そのSHAGNRI-LA jrシステムの音質は極めて高く、音がまるで宙に浮くような浮遊感のある立体感がちょっと驚くほどです。音場は広く開放感のある気持ちの良い音ですね。
音調はニュートラルで着色感はなく、帯域特性はかなりフラットです。伸びやかな高音域はきつさがなく、音は分析的に細かいがあまり聞き疲れはしなさそうに感じます。
中音域のヴォーカルは聞き取りやすく、肉声は静電型らしい艶めかしく生々しい感じですね。ささやく声の艶かしさに真空管っぽい滑らかな魅力を感じられます。
ただし真空管っぽい甘さは少なく正確で端正な音ですが、あまり無機的になりすぎてないのは真空管を上手に使用しているからのように思います。
低域は強調されてはいませんが鋭いパンチがあり、たっぷりと空気を動かしているような音圧で迫力とスケール感を感じられます。大編成オーケストラの曲も聞きたくなりますね。パーカッションやドラムスは歯切れ良く静電型らしい解像力もあってかなり良質な低域と思います。
音の立ち上がりと立ち下げがとても速く、音の歯切れが良いので静電型らしさが存分に楽しめるでしょう。音の細かさは一級品で、情報量に圧倒されます。特に良録音のジャズやクラシックでは特筆ものの音再現が味わえます。STAXのSR009あたりと比べてみると面白いかもしれません。
今回は静電型ヘッドフォンと静電型アンプの単体販売を行うということで、端子はSTAX Proを使用しているためにSTAXをお持ちの人にも気になる製品だと思います。
販売は12月12日から開始されます。SHAGNRI-LA jrシステムの店頭予想価格は85万円前後で、ヘッドフォンが42万円前後、アンプが52万円前後ということです。
2017年10月17日
Cavalli Audioが解散、昨年のインタビュー公開します
Headfi関係の情報に精通している方にはおなじみのCavalli Audioが残念ながら今月末で解散するということです。細かい事情はよくわかりませんが、下記のHeadFi記事に正式なアナウンスがあります。
https://head-fi.org/threads/cavalli-audio.862917/
サポートもなくなりますが、Avenson Audioというところが引き継いでくれるということです。
Cavalliは昨年のヘッドフォン祭にも来ていて、そのさいに機会を得たのでCavalliの海外向けの販売担当(当時)であるスタン・アン氏にインタビューができました。
本格的に日本参入する際に公開しようと思っていたのですが、その機会もなくなったのでここで公開いたします。下記は2016年10月の情報となります。
Cavali ポータブルとかをオークションでもどうしてもほしいとか、いまからCavalliに興味を持ったという人もいると思いますので、情報として参考までにそのときの内容を公開しておきます。
私自身はこのインタビュー以外はCavalliになんのコネクションもありませんので念のため。
Cavalli SPARK ポータブルアンプ
会社名は「カ・バ・リー オーディオ」で、もとはイタリアの馬の名前ですが創立者の名前です。
成り立ちは2000年の初頭にさかのぼり、ヘッドフォンアンプを作成しようと集まったネットでのグループがあった。静電型がはじめであったが、それから普通のアンプを作り、真空管とICのハイブリッドを作り、とラインナップを広げていったということ。Dr Cavalliはリーダー的な存在で、その後に販売を考えるようになったそうです。
Liquid Fireがはじめての製品(真空管ハイブリッド)で、次にLiquid crimson(真空管ハイブリッド)、Liquidライトニング(静電型)を作った。みながチューブローリング(真空管交換)したいというのでLiquid グラスを作ったそうです。これは前段がICで後段が真空管で変えられるものです。CavalliはICはディスクリートでクラスAでフルバランス、フルディファレンシャルをモットーにしているということです。Liquidグラスはチューブローリングで8pinと9pinを間違えないように上手に配置した点が特徴だそうです。
次がいま(当時)のフラッグシップのLiquid GoldでこれはICでフルバランス、フルディファレンシャル、XLRx2を持っているものです。
次に当時の現行製品ですが、製品ラインナップはアナログアンプに特化しています。
カバリーのアンプはLiquidなんとかという名前ですが、これはアンプを音楽的に滑らかにしようとしたのでLiquidとよんでいたそうです。
ポータブルのSPARCはディスクリートでフルディファレンシャル、クラスA。LIquid Goldのミニチュア版として作ったそうです。
LiquidカーボンもLiquid グラスと Goldをベースにして、フルバランス、トランスポータブルでSEアウトもバランスから変換しているということ。
LiquidタングステンはSE(フルバランスではない)だけどフルディファレンシャル、ダイレクトカップル、アウトプットトランスフォームレス、チューブが直接ドライバーにつながっているそう。昔のチューブらしくなく、とても精密で解像力も高い。フルチューブ。EL509(549?)。真空管変更はできません。
カバリーの強みは設計力。DR Cavalliはプラズマ物理博士(PHD)、引退して趣味で作り始めた。他とはとても明確な音の差があるということ。レアなパーツに重きを置く会社もあるが、我々はあくまでdrカバリーの回路設計に重きをおいている。彼の哲学はレア部品ではなく、標準の部品でも良い音を出すこと。フルディファレンシャル、クラスAはすべてに通じる。オペアンプは使わない。
他のアンプは解像力に走るあまり、とてもきつくてブライトになりがちだが、Cavalliは解像力を待ちながら滑らかな音が特徴。真空管だけどICのように感じる音も特徴。真空管の味を売りにしていないが、ただしウォームで滑らかを目指しているとのこと。
またカバリーのアンプはぎりぎりのスペックで出力を公表しないで、そこにマージンがあり、出力に余裕があるので平面型などでもよくデモに使われたそう。測定値が良いアンプではなく、音が良いアンプをモットーとしているということです。
昨年のいまころはCavalliの転換点で、それまでのビジネスモデルはオーダーを取って、作り、売るというもの(DIY的)。大量生産に向かず、長期的な使用や信頼性なども考えた製品に移行が必要となったと言っていました。Liquidカーボンの成功を契機にCavalliは自社販売から代理店販売形式に変更し、これを契機にラインナップを刷新するといっていました。カーボンもこれで最後でLiquid Goldやクリムゾンはもう売らないといってました。
この方針変更がうまくいかなかったのでしょうか。Cavalliは上にあるように設計者がコミュニティで有名になって、他から求められて、というHeadFiというかDIY世界ならでは成り立ちでした。それを継続するビジネスにつなげるのはむずかしいのでしょうね。
https://head-fi.org/threads/cavalli-audio.862917/
サポートもなくなりますが、Avenson Audioというところが引き継いでくれるということです。
Cavalliは昨年のヘッドフォン祭にも来ていて、そのさいに機会を得たのでCavalliの海外向けの販売担当(当時)であるスタン・アン氏にインタビューができました。
本格的に日本参入する際に公開しようと思っていたのですが、その機会もなくなったのでここで公開いたします。下記は2016年10月の情報となります。
Cavali ポータブルとかをオークションでもどうしてもほしいとか、いまからCavalliに興味を持ったという人もいると思いますので、情報として参考までにそのときの内容を公開しておきます。
私自身はこのインタビュー以外はCavalliになんのコネクションもありませんので念のため。
Cavalli SPARK ポータブルアンプ
会社名は「カ・バ・リー オーディオ」で、もとはイタリアの馬の名前ですが創立者の名前です。
成り立ちは2000年の初頭にさかのぼり、ヘッドフォンアンプを作成しようと集まったネットでのグループがあった。静電型がはじめであったが、それから普通のアンプを作り、真空管とICのハイブリッドを作り、とラインナップを広げていったということ。Dr Cavalliはリーダー的な存在で、その後に販売を考えるようになったそうです。
Liquid Fireがはじめての製品(真空管ハイブリッド)で、次にLiquid crimson(真空管ハイブリッド)、Liquidライトニング(静電型)を作った。みながチューブローリング(真空管交換)したいというのでLiquid グラスを作ったそうです。これは前段がICで後段が真空管で変えられるものです。CavalliはICはディスクリートでクラスAでフルバランス、フルディファレンシャルをモットーにしているということです。Liquidグラスはチューブローリングで8pinと9pinを間違えないように上手に配置した点が特徴だそうです。
次がいま(当時)のフラッグシップのLiquid GoldでこれはICでフルバランス、フルディファレンシャル、XLRx2を持っているものです。
次に当時の現行製品ですが、製品ラインナップはアナログアンプに特化しています。
カバリーのアンプはLiquidなんとかという名前ですが、これはアンプを音楽的に滑らかにしようとしたのでLiquidとよんでいたそうです。
ポータブルのSPARCはディスクリートでフルディファレンシャル、クラスA。LIquid Goldのミニチュア版として作ったそうです。
LiquidカーボンもLiquid グラスと Goldをベースにして、フルバランス、トランスポータブルでSEアウトもバランスから変換しているということ。
LiquidタングステンはSE(フルバランスではない)だけどフルディファレンシャル、ダイレクトカップル、アウトプットトランスフォームレス、チューブが直接ドライバーにつながっているそう。昔のチューブらしくなく、とても精密で解像力も高い。フルチューブ。EL509(549?)。真空管変更はできません。
カバリーの強みは設計力。DR Cavalliはプラズマ物理博士(PHD)、引退して趣味で作り始めた。他とはとても明確な音の差があるということ。レアなパーツに重きを置く会社もあるが、我々はあくまでdrカバリーの回路設計に重きをおいている。彼の哲学はレア部品ではなく、標準の部品でも良い音を出すこと。フルディファレンシャル、クラスAはすべてに通じる。オペアンプは使わない。
他のアンプは解像力に走るあまり、とてもきつくてブライトになりがちだが、Cavalliは解像力を待ちながら滑らかな音が特徴。真空管だけどICのように感じる音も特徴。真空管の味を売りにしていないが、ただしウォームで滑らかを目指しているとのこと。
またカバリーのアンプはぎりぎりのスペックで出力を公表しないで、そこにマージンがあり、出力に余裕があるので平面型などでもよくデモに使われたそう。測定値が良いアンプではなく、音が良いアンプをモットーとしているということです。
昨年のいまころはCavalliの転換点で、それまでのビジネスモデルはオーダーを取って、作り、売るというもの(DIY的)。大量生産に向かず、長期的な使用や信頼性なども考えた製品に移行が必要となったと言っていました。Liquidカーボンの成功を契機にCavalliは自社販売から代理店販売形式に変更し、これを契機にラインナップを刷新するといっていました。カーボンもこれで最後でLiquid Goldやクリムゾンはもう売らないといってました。
この方針変更がうまくいかなかったのでしょうか。Cavalliは上にあるように設計者がコミュニティで有名になって、他から求められて、というHeadFiというかDIY世界ならでは成り立ちでした。それを継続するビジネスにつなげるのはむずかしいのでしょうね。
2017年04月02日
ヘッドフォンブック 2017に執筆しました
3/31発売のヘッドフォンブック 2017にいろいろと執筆しました。
いろいろ書かせてもらいましたが、まずヘッドフォンブックの10周年記念として、「この10年、私の印象に残った一台」でUltrasone Edition9を選びました(P62)。やはりいまのヘッドフォン世界をここまで持ってきた嚆矢だったと思うし、この辺はうちのブログを前から見てもらっている方には納得の選択だと思います。
またAstell & Kernの軌跡(P78)は営業S氏監修のもとに書き上げた4ページの大作です。文字数の多い原稿ですが、書いてみると足りないくらいで、Astell & Kernもここまできたかと思いながら書いてました。
ヘッドフォンアワード(P34)でも選定委員として参加しています。これはまた春のヘッドフォン祭で表彰式を行う予定です。
機材紹介では、CampfireAudioの新製品・ブランド紹介(P6)、64 Audioの18ドライハーのA18 Tzar(ツァー)の2ページレビュー(P18)はボリュームがあり、このほかでもNighthawkインタビューとレビュー、K10encoreやROSIEのレビューなどもあります。
このほかにも読みどころがたくさんありますので、ぜひ購入して読んでみてください。
いろいろ書かせてもらいましたが、まずヘッドフォンブックの10周年記念として、「この10年、私の印象に残った一台」でUltrasone Edition9を選びました(P62)。やはりいまのヘッドフォン世界をここまで持ってきた嚆矢だったと思うし、この辺はうちのブログを前から見てもらっている方には納得の選択だと思います。
またAstell & Kernの軌跡(P78)は営業S氏監修のもとに書き上げた4ページの大作です。文字数の多い原稿ですが、書いてみると足りないくらいで、Astell & Kernもここまできたかと思いながら書いてました。
ヘッドフォンアワード(P34)でも選定委員として参加しています。これはまた春のヘッドフォン祭で表彰式を行う予定です。
機材紹介では、CampfireAudioの新製品・ブランド紹介(P6)、64 Audioの18ドライハーのA18 Tzar(ツァー)の2ページレビュー(P18)はボリュームがあり、このほかでもNighthawkインタビューとレビュー、K10encoreやROSIEのレビューなどもあります。
このほかにも読みどころがたくさんありますので、ぜひ購入して読んでみてください。
2017年01月27日
ロバートワッツの到達点、処理能力100万タップのCHORD Blu MkII
CHORD社のCDトランスポート、Blu MkIIの製品発表会が行われました。
これはロバートワッツが当時のCDの音に納得できなかったという1980年代からの研究の成果として、処理能力100万タップというひとつのマイルストーンに到達したものです。
発表会にはジョンフランクスとロバートワッツが来日して開発についての話を聞くことができました。
左:ジョン・フランクス、右:ロバート・ワッツ
いまなぜCDなのかという疑問が湧くと思いますが、ひとつにはChordの情熱、そしてひとつには技術のブレークスルーという要因があるということです。
Blu MkIIの外観は前モデルと同じですが、中には最新のFPGAであるザイリンクスXC7A200Tを搭載しています。
これは本来カスタムICとしてはより処理能力の高いASICで処理するようなデジカメの映像エンジンでも使われているそうです。オーディオでも映像並みの処理能力を発揮できるということですね。
手に持っているほうが旧Blu
それによって100万タップ(1015808タップ)という マジックナンバーに到達したということ。タップ数は無限が理想だが、100万タップが16bitオーディオとしては現実のマイルストーンとなるそうです。
デジタル処理能力をタップ数(細かさ)で測りますが、これまでは以下のように進歩を遂げてきましたがついにここまできたわけです。
DAC64当時の他のDAC 100タップ
DAC64 1024タップ
QBD76 18000タップ
Hugo 26000タップ
Dave 164000タップ
この処理能力が高くなると利点は時間当たりのトランジェントが良くなることで、奥方向に広がり空間性が良くなるということです。
ではこの処理能力をDaveのようにDACに載せれば良いかというとそうではないということです。
Blu MkIIのポイントはこの高性能FPGAは処理能力は高いがノイズが大きいので本来ノイズを嫌うDACに採用は難しい、ただしDACと切り離してセパレートなら可能ではないか、ということでCDトランスポートに採用ができたというわけです。
左:44kモード、右:705kモード
DACであるDaveとの組み合わせではDaveのWTAフィルター初段をバイパスしてWTAフィルター後段に直接入れてノイズを減少できるそうです。つまりDaveの外側で100万タップの処理能力を使えるというわけです。
このためには705.6kアップサンプルで出力してBNCをデュアルで二本使います。また44kのみの出力もあります。
この他にBNCのデジタル入力もあるのでスタンドアロンでアップサンプラーとしても使えます。
実際に試聴してみました。
44kではヒラリーハーンのヴァイオリンはシャープだけど硬めできつめでしたが、705kデュアルモードではスムーズで自然に感じられます。合唱のドイツレクイエムでは705kでより奥行きが感じられ24bit音源のように聞こえ、より広いホールで鳴ってるように感じます。ティファニーのヴォーカルでは705kでベースのピチカートにより実体感があり豊か、ボーカルもよりリアルで生っぽく感じます。
前にはASICでしかできなかった処理がFPGA(開発費がより安い)でもできるようになったというのが技術的なブレークスルーになりますね。
ASICでも同じことが可能ですが、その時には開発費が高騰してとても買えないような価格となるでしょう。またこの処理をソフトウエア(つまりPC)でできないかと聞いたところ、ワッツが実際に計算したところリアルタイム処理が不可能などころか最新のプロセッサでも10時間かかるとのこと。
やはり現時点ではFPGAがベストな解法と言えるのでしょう。
ロバート・ワッツ
ワッツが100万タップにこだわるのは、昔デジタルの音は硬いと思ったがその当時から自分の研究の一環としてその音質は聴覚に影響されると思ったことがあります。聴覚を踏まえた場合、
楽器音の立ち上がり立ち下がりのトランジェントが悪いと再現が悪く、その時に100万タップが目標となったそうです。
35年を経て初めてCDの16bitのマイルストーンが達成ができたというわけです。言い換えるとCD誕生数十年を経てやっと理想のCDの音にたどり着いたと言えるのでしょう。まあ44/16も奥が深いと言えますね。
次のマイルストーンはと聞くと、同様にいうと24bitなら2億タップが必要だそう。そこまでいけるかどうかわからないが、いま別のアプローチも考えていて、それで比べてまた考えるということです。
ロバートワッツはBlu MkIIを作ってから古い録音がよりストレートに楽しめるようになったそうです。今ではあまり分析的に聞かなくなったということで、それが到達点に至ったひとつのあかしなのかもしれません。
CHORD Blu MkII
価格:140万円税別(予価)
発売時期:2017年3月下旬
2/3追記 - USB入力オプションが用意されてUSB経由のアップサンプリングが可能となったようです。(海外発表)。
これはロバートワッツが当時のCDの音に納得できなかったという1980年代からの研究の成果として、処理能力100万タップというひとつのマイルストーンに到達したものです。
発表会にはジョンフランクスとロバートワッツが来日して開発についての話を聞くことができました。
左:ジョン・フランクス、右:ロバート・ワッツ
いまなぜCDなのかという疑問が湧くと思いますが、ひとつにはChordの情熱、そしてひとつには技術のブレークスルーという要因があるということです。
Blu MkIIの外観は前モデルと同じですが、中には最新のFPGAであるザイリンクスXC7A200Tを搭載しています。
これは本来カスタムICとしてはより処理能力の高いASICで処理するようなデジカメの映像エンジンでも使われているそうです。オーディオでも映像並みの処理能力を発揮できるということですね。
手に持っているほうが旧Blu
それによって100万タップ(1015808タップ)という マジックナンバーに到達したということ。タップ数は無限が理想だが、100万タップが16bitオーディオとしては現実のマイルストーンとなるそうです。
デジタル処理能力をタップ数(細かさ)で測りますが、これまでは以下のように進歩を遂げてきましたがついにここまできたわけです。
DAC64当時の他のDAC 100タップ
DAC64 1024タップ
QBD76 18000タップ
Hugo 26000タップ
Dave 164000タップ
この処理能力が高くなると利点は時間当たりのトランジェントが良くなることで、奥方向に広がり空間性が良くなるということです。
ではこの処理能力をDaveのようにDACに載せれば良いかというとそうではないということです。
Blu MkIIのポイントはこの高性能FPGAは処理能力は高いがノイズが大きいので本来ノイズを嫌うDACに採用は難しい、ただしDACと切り離してセパレートなら可能ではないか、ということでCDトランスポートに採用ができたというわけです。
左:44kモード、右:705kモード
DACであるDaveとの組み合わせではDaveのWTAフィルター初段をバイパスしてWTAフィルター後段に直接入れてノイズを減少できるそうです。つまりDaveの外側で100万タップの処理能力を使えるというわけです。
このためには705.6kアップサンプルで出力してBNCをデュアルで二本使います。また44kのみの出力もあります。
この他にBNCのデジタル入力もあるのでスタンドアロンでアップサンプラーとしても使えます。
実際に試聴してみました。
44kではヒラリーハーンのヴァイオリンはシャープだけど硬めできつめでしたが、705kデュアルモードではスムーズで自然に感じられます。合唱のドイツレクイエムでは705kでより奥行きが感じられ24bit音源のように聞こえ、より広いホールで鳴ってるように感じます。ティファニーのヴォーカルでは705kでベースのピチカートにより実体感があり豊か、ボーカルもよりリアルで生っぽく感じます。
前にはASICでしかできなかった処理がFPGA(開発費がより安い)でもできるようになったというのが技術的なブレークスルーになりますね。
ASICでも同じことが可能ですが、その時には開発費が高騰してとても買えないような価格となるでしょう。またこの処理をソフトウエア(つまりPC)でできないかと聞いたところ、ワッツが実際に計算したところリアルタイム処理が不可能などころか最新のプロセッサでも10時間かかるとのこと。
やはり現時点ではFPGAがベストな解法と言えるのでしょう。
ロバート・ワッツ
ワッツが100万タップにこだわるのは、昔デジタルの音は硬いと思ったがその当時から自分の研究の一環としてその音質は聴覚に影響されると思ったことがあります。聴覚を踏まえた場合、
楽器音の立ち上がり立ち下がりのトランジェントが悪いと再現が悪く、その時に100万タップが目標となったそうです。
35年を経て初めてCDの16bitのマイルストーンが達成ができたというわけです。言い換えるとCD誕生数十年を経てやっと理想のCDの音にたどり着いたと言えるのでしょう。まあ44/16も奥が深いと言えますね。
次のマイルストーンはと聞くと、同様にいうと24bitなら2億タップが必要だそう。そこまでいけるかどうかわからないが、いま別のアプローチも考えていて、それで比べてまた考えるということです。
ロバートワッツはBlu MkIIを作ってから古い録音がよりストレートに楽しめるようになったそうです。今ではあまり分析的に聞かなくなったということで、それが到達点に至ったひとつのあかしなのかもしれません。
CHORD Blu MkII
価格:140万円税別(予価)
発売時期:2017年3月下旬
2/3追記 - USB入力オプションが用意されてUSB経由のアップサンプリングが可能となったようです。(海外発表)。
2016年07月14日
Headroomの帰還
Headroomは長らく独自製品の開発を止めてましたが、ここに新製品を発表しました。据え置き型ヘッドフォンアンプのHeadroom Standardです。
Headroom Standard (画像は上記ページから転載)
Headroomは"headphone.com"というアドレスでも推察できるようにこのヘッドフォンオーディオ、ポータブルオーディオ界隈の老舗と言えます。
バランス駆動ヘッドフォンアンプもHeadroomのBlockheadが始まりです。バランスプラグがなぜケーブル二本という変則的なものかというと、Blockheadが二個のアンプを物理的にくっつけたブリッジ構成だったからです。その後これがデファクトスタンダードになりました。
もともと「バランス駆動」という言葉は、私が2006年に下の記事を書いた時にHeadroomが使っていた"balanced drive"という言葉を日本語に訳したものです。
ポータブルアンプでもコンパクトで世界初のUSB DAC内蔵型ポータブルヘッドフォンアンプのBitheadあたりから大型まで幅広く手掛けていました。
しかしHeadFiを中心に盛り上がりを見せたこの業界ですが、一時期アメリカが不況の底になって創設者のアロハシャツで有名なTyll Hertsensが去り、新規開発は凍結されてきました。
古くからのファンにはそうした寂しい状況が続いてきたわけですが、新製品のHeadroom Standardをもってこの古巣に帰還した訳です。
Headroom StandardはHeadroom創設時のアンプの名称ですが、それをまた使用してやり直すということでしょう。
もちろんこのStandardは最新の平面型ヘッドフォから高感度イヤフォンまで広く対応できるように新設計され、それでいてスタンダードという名のようにシンプルにストレートに設計されているようです。機能もゲインとプリアウト設定など最小です。ダイアモンドバッファの採用も伝統のものだったと思います。
ただHeadroomというとクロスフィードが有名だったんですがこれは今回は省いたようです。さっそくブログのコメント欄でも突っ込まれてますが、回路設計をクリーンにするためということ。
Headroom Standardは期間限定で$299ということです。
そういえばしばらく前にJeremyがヘッドフォン祭の視察に来てたのを思い出しました。
Headroomの音はいわゆるアメリカンサウンド的な元気の良い音なんで、その元気良さの復活が楽しみです。
2016年04月25日
新星、シンガポールのBTヘッドフォン Pendulumic S1+レビュー
ヘッドフォン祭がまた今週末に開催されますが、新登場の紹介です。
昨年の12月に行われたJabenのMookヘッドフォンショウでも取り上げたBluetoothヘッドフォンの注目株であるPendulumic(ペンデュラミック)の製品が出展されます。また国内でも販売となります。
Pendulumicは海外でも音質の良いBluetoothヘッドフォンとして最近注目されてきています。開発者は某大手ヘッドフォンメーカーのためにイヤフォンを開発していた経歴があるそうです。
PendulumicはT1というDJスタイルの方で注目を集めたのですが、本稿では前モデルのS1を紹介します。製品名はPENDULUMIC STANCE S1+(以降S1)です。T1とS1はほぼ機能は共通して、用途がT1がベース強めのDJタイプに近く、S1はより整った音調のオーディオリスニング的なものになると思います。
(初出時にS1が後と書きましたが、実際はS1が先だそうです)
S1は端的に言うとアンプ内蔵のBluetoothヘッドフォンです。特徴としては充電式のバッテリーのほかに乾電池(単4)も搭載していることです。このことにより、両方を併用してBTでの使用時間を延ばすことができるとともに、いざ使いたいときに充電していない、というミスを防ぐことができます。このすぐに使えるという機能をInstantONと称しています。また無線の使用時間は最大30時間(メーカー公表値)を確保しています。
またS1/T1は無線でも有線でも使うことができ、モードの切り替えによって、無線モード(BT)、有線モードのアンプあり、有線モードのアンプなしで使うことができます。有線でもアンプを入れたほうが音質は高まりますが、バッテリーも消費するためにこのような使い分けが可能となっています。またそれぞれのモードでスマホなどでの電話通話に切り替えることができます。
ハウジングには操作つまみがついていて、これをプレスすることでリモコンの働きをして再生・一時停止や曲送りが可能です。またこのつまみを回すことで音量を手元で調整できます。これ以上上がらなくなると音で警告します。
そのほかの機能としてはBluetoothは4.0に対応していて、Apt-Xコーデックも使用ができます。
ドライバー口径は40mmで周波数特性は15Hz-22kHz(apt-x時は10Hz-24kHz)、インピーダンスは32オームです。
箱はなかなか立派なもので、内箱にケースとともにヘッドフォンが入っています。ヘッドフォンはハウジングを回転させて平たく畳むことができます。
作りもなかなか良くできていて質感も高いと思います。S1は側圧は適度でイヤパッドもなかなかか快適です。
左ハウジングのボタンで電源オンオフと充電池/乾電池を切り替えます。
まずiPhoneで試しましたが、ペアリングは無問題でした。S1の音質はかなり良く高音域はよく伸び低音域はふくらみ過ぎない適度な量感があります。ベースのピチカートの切れもよく、低域の解像力や切れもそれなりにあります。周波数的には良く整っている感じでいわゆるジャズ・クラシック向けの音です。とはいえ、低域もしっかりしていてインパクト感もあるのでロックでもなかなかかっこよく聴くことができます。わりとジャンルは選ばないようです。
ヴォーカルの再現力もよく、適度に耳に近いので迫力もあります。楽器の音は明瞭感も高く、きれいに分離されています。iPhoneでも使うプレーヤーでの音質差はかなりはっきりわかるくらい、音を描き分けることができます。iPhoneでいえばFLAC Playerのような音の忠実再現度が高いプレーヤーを使いたくなるような品質の高い音が楽しめます。
有線でもよい音質が楽しめます。有線でもアンプなしとアンプありを選ぶことができ、アンプを使うと押しが強く迫力が上がります。アンプありの状態で有線と無線を比べてもそれほどの大きな差はないくらい無線での音質は高いものがあります。
iPhoneやAndroidスマートフォンだけではなく、Astell & Kernシリーズプレーヤーと組み合わせてもよい音質で楽しめます。たとえばAK320はApt-Xを採用しているので、AK320とS1をペアリングさせるとAPT-Xで接続しましたというロゴが表示されます。これは音質的になかなか素晴らしい組み合わせで、無線ヘッドフォンでよい音を聴きたいと思っている人にはぜひ試してもらいたい組み合わせです。
同価格帯の他社の有線ヘッドフォンと比べても、S1の方が音が良いようにも感じます。よりクリアで楽器も明瞭感があり、よりワイドレンジに聴こえます。無線だからこそ下手なケーブルの質に足を引っ張られずに済むのでは、と思えるような音質の良さですね。実際にS1をAPT-X無線と有線アンプありで切り替えて比較してみると気持ちですが無線の方が良いようにも思えます。なかなか興味深いことではあります。
PENDULUMIC S1はBluetoothヘッドフォンで高音質のもの、特に楽器や声が明瞭でベースのふくらみ過ぎない音のバランスの良いものを探してる人にオススメです。
ぜひヘッドフォン祭でチェックしてみてください。場所は11FロビーのJabenのとなりです。
昨年の12月に行われたJabenのMookヘッドフォンショウでも取り上げたBluetoothヘッドフォンの注目株であるPendulumic(ペンデュラミック)の製品が出展されます。また国内でも販売となります。
Pendulumicは海外でも音質の良いBluetoothヘッドフォンとして最近注目されてきています。開発者は某大手ヘッドフォンメーカーのためにイヤフォンを開発していた経歴があるそうです。
PendulumicはT1というDJスタイルの方で注目を集めたのですが、本稿では前モデルのS1を紹介します。製品名はPENDULUMIC STANCE S1+(以降S1)です。T1とS1はほぼ機能は共通して、用途がT1がベース強めのDJタイプに近く、S1はより整った音調のオーディオリスニング的なものになると思います。
(初出時にS1が後と書きましたが、実際はS1が先だそうです)
S1は端的に言うとアンプ内蔵のBluetoothヘッドフォンです。特徴としては充電式のバッテリーのほかに乾電池(単4)も搭載していることです。このことにより、両方を併用してBTでの使用時間を延ばすことができるとともに、いざ使いたいときに充電していない、というミスを防ぐことができます。このすぐに使えるという機能をInstantONと称しています。また無線の使用時間は最大30時間(メーカー公表値)を確保しています。
またS1/T1は無線でも有線でも使うことができ、モードの切り替えによって、無線モード(BT)、有線モードのアンプあり、有線モードのアンプなしで使うことができます。有線でもアンプを入れたほうが音質は高まりますが、バッテリーも消費するためにこのような使い分けが可能となっています。またそれぞれのモードでスマホなどでの電話通話に切り替えることができます。
ハウジングには操作つまみがついていて、これをプレスすることでリモコンの働きをして再生・一時停止や曲送りが可能です。またこのつまみを回すことで音量を手元で調整できます。これ以上上がらなくなると音で警告します。
そのほかの機能としてはBluetoothは4.0に対応していて、Apt-Xコーデックも使用ができます。
ドライバー口径は40mmで周波数特性は15Hz-22kHz(apt-x時は10Hz-24kHz)、インピーダンスは32オームです。
箱はなかなか立派なもので、内箱にケースとともにヘッドフォンが入っています。ヘッドフォンはハウジングを回転させて平たく畳むことができます。
作りもなかなか良くできていて質感も高いと思います。S1は側圧は適度でイヤパッドもなかなかか快適です。
左ハウジングのボタンで電源オンオフと充電池/乾電池を切り替えます。
まずiPhoneで試しましたが、ペアリングは無問題でした。S1の音質はかなり良く高音域はよく伸び低音域はふくらみ過ぎない適度な量感があります。ベースのピチカートの切れもよく、低域の解像力や切れもそれなりにあります。周波数的には良く整っている感じでいわゆるジャズ・クラシック向けの音です。とはいえ、低域もしっかりしていてインパクト感もあるのでロックでもなかなかかっこよく聴くことができます。わりとジャンルは選ばないようです。
ヴォーカルの再現力もよく、適度に耳に近いので迫力もあります。楽器の音は明瞭感も高く、きれいに分離されています。iPhoneでも使うプレーヤーでの音質差はかなりはっきりわかるくらい、音を描き分けることができます。iPhoneでいえばFLAC Playerのような音の忠実再現度が高いプレーヤーを使いたくなるような品質の高い音が楽しめます。
有線でもよい音質が楽しめます。有線でもアンプなしとアンプありを選ぶことができ、アンプを使うと押しが強く迫力が上がります。アンプありの状態で有線と無線を比べてもそれほどの大きな差はないくらい無線での音質は高いものがあります。
iPhoneやAndroidスマートフォンだけではなく、Astell & Kernシリーズプレーヤーと組み合わせてもよい音質で楽しめます。たとえばAK320はApt-Xを採用しているので、AK320とS1をペアリングさせるとAPT-Xで接続しましたというロゴが表示されます。これは音質的になかなか素晴らしい組み合わせで、無線ヘッドフォンでよい音を聴きたいと思っている人にはぜひ試してもらいたい組み合わせです。
同価格帯の他社の有線ヘッドフォンと比べても、S1の方が音が良いようにも感じます。よりクリアで楽器も明瞭感があり、よりワイドレンジに聴こえます。無線だからこそ下手なケーブルの質に足を引っ張られずに済むのでは、と思えるような音質の良さですね。実際にS1をAPT-X無線と有線アンプありで切り替えて比較してみると気持ちですが無線の方が良いようにも思えます。なかなか興味深いことではあります。
PENDULUMIC S1はBluetoothヘッドフォンで高音質のもの、特に楽器や声が明瞭でベースのふくらみ過ぎない音のバランスの良いものを探してる人にオススメです。
ぜひヘッドフォン祭でチェックしてみてください。場所は11FロビーのJabenのとなりです。
2016年01月14日
AK T1p 製品版とHD800比較レビュー
Astell & Kern AK T1pは2015年に発売のあったベイヤーの第二世代テスラドライバーを使ったT1 2ndをベースにしたもので32オームのインピーダンスとしたモデルです。またケーブルもT1 2ndの仕様に基づいて根元からリケーブルができます。付属のケーブルも短いもので、2.5mmバランスと3.5mmミニプラグの二本が入っています。
AK T1pはヘッドフォン祭の解説をしたときにデモ機を聴いてコメントもしたのですが、また製品版を聴いてさらに音質が良くなってるのに気が付きました。
ハイエンド・ヘッドフォンはゼンハイザーのHD800が嚆矢となり、長い間この音質がハイエンドのスタンダードでしたが、最近の平面型時代になり、さらに一段階性能が上がってきたと思います。いわばハイエンドヘッドフォン第二世代といいましょうか。
オリジナルのT1はだいたいHD800相当くらいの音質レベルでしたが、このT1改良版のテスラ第二世代モデルではそうしたハイエンドヘッドフォン第二世代クラスの音質が期待できると思います。
そこで、手持ちの2009年に買ったオリジナルのHD800と聴き比べてみることにしました。平面型とくらべるとなんですが、普通のダイナミックヘッドフォン同士を比べることで2009年から2015年へのハイエンドヘッドフォンの音質の向上に興味があったからです。
機材は最近メインで使っているUSB DAC付ヘッドフォンアンプのGeek Pulse Si(フェムトクロックモデル)です。どちらも標準ケーブルを使い、音源はLINNの最新のクリスマスアルバムのハイレゾ版です。
実際に聴いてみると、比べてみると音質に大きな差があるので驚いてしまいました。
違いとしてAK T1pのほうが音量が取りやすいのは当たり前だけれども、まず音の透明感が大きく異なり、AK T1pのほうがベールを1-2枚はがしたくらいクリアです。
前のT1のときは音の広さはHD800の勝ちかなと思っていたけれども、AK T1pはさらに上回るくらい横方向の広がりがあり、さらに独特の立体感が高く感じられます。クラシック音楽ではスケール感もひときわ高いですね。
ジャズヴォーカルで聴くと声の質感もAK T1pのほうがリアルに肉感豊かに声を描き出します。特に声の消え入るかすかな音、ヴォーカルのしゃがれ具合などこまかいところの解像感がとても高いですね。HD800の方は全体に音が軽く感じられます。
また楽器のはじく音の切れの鋭さ、スピード感もHD800よりも上で明瞭感も高いと感じられます。高域はAK T1pはやや強く出ていますが、上に伸びる感じはHD800よりも良く、低域の重みもより感じられます。
またHD800はやや引いた落ち着いた音で、AK T1pはそれより前に出る音なので個性の差による好みはあるでしょう。HD800には独自のフラットさがあり、プロ用に使うには適している点もあると思います。一方でAK T1pはオリジナルT1よりも音楽的に聴くことができます。
ただ音質のレベル的にいうと、オリジナルHD800に比べるとやはり一クラスレベルアップした第二世代ともいえるところにこのAK T1pはあると思います。透明感、解像力の高さ、立体感の良さなどがAK T1pの強み、テスラ第二世代の強みでしょうか。
また上の音の個性という点でいうと、AK T1pの音を聴いたときに思ったのはオリジナルのT1から音質的に向上しているとともに、音の個性でも異なると言うことです。もともとT1の音はT5pと比べた時に顕著ですが、かなり引き締まった音で贅肉がなく、端的に言うとクールでモニター的な感じでスタジオエンジニア向きかと思ってました。AK T1pでは少し柔らかで低音域が豊かです。音楽を聴くのが楽しく、オーディオリスナー向けになったように思います。
私はベイヤーのテスラシリーズはT1オリジナル、T5pオリジナル、AKT5pと使っています。Jabenのリケーブル版のT1とT5pを使ってこれらオリジナルテスラを同じケーブルで聴き比べたこともあるのですが、T1がHD800に近いプロ的な性格なのに対してT5pはもっと緩めで音楽的に聴きやすい感じでした。AK T1pは性格的にはその両者の間という感じです。
この差は32オームの違いと言うのもありますが、T1 2ndで変えた点ではないかとも思います。直接T1 2ndと比較していないのではっきりとは言えませんが。。
持ち運びできるとは言え、セミオープンなので電車では使えません。AK T1pはまずAK380AMPのような高性能プレーヤーを家で使いたい人にお勧めではあります。バランスケーブルもついています。Ak380AMPなどでイヤフォンでは高音質で聴いているが、家でヘッドフォンで聴きたいと言う人に向いていると思います。
もうひとつお勧めなのはPCオーディオでシステムをUSB DACで組んでいる人です。ケーブルの長さは今回のようにPCにUSB DACを付けた場合などや、せまいうちだと短いAK T1pのほうが良いという気がしますね。
Astell & Kernが手掛けたヘッドフォンでショートケーブルということで、ポータブルという先入観で見てしまうかもしれませんが、普通に家で使うヘッドフォンとして現在トップクラスの音質が得られますので、高価なヘッドフォンアンプを持っている人もぜひ聴いてみてください。
2015年03月02日
AudioQuestのヘッドフォン、NightHawkレビュー
2/14に開催されたポタ研の中でもひときわ注目を引いていたのが、D&Mホールディングスから発表されたAudioQuest社のヘッドフォンであるNightHawkです。
NightHawkはセミオープンタイプで基本的に家で使うフルサイズ・ヘッドフォンです。日本での価格はオープンプライスでだいたい7万円台後半、発売時期は3月下旬です。こちらにD&MのNightHawkサイトがあります。基本データは重さは346gで、インピーダンスは25Ω、能率は100dBSPL/mWです。
http://dm-importaudio.jp/audioquest/
* AudioQuestとNightHawk
まずはじめの疑問は、そもそもなぜケーブルで知られるAudioQuestがヘッドフォンを作ったのだろうか、という点ではないでしょうか。
実のところNightHawkがAudioQuestにとって初めての本格的なケーブル以外の製品というわけではありません。コンパクトなUSB DACであるDragonflyを発売した点でも注目されていました。このDragonflyは前にも書いたように米国PCオーディオ界の雄であるGordon Rankinによって設計されたものです。
AudioQuestは多様化するこのオーディオ業界の中で、顧客がほしいと思う製品を提供していきたいというポリシーがあるということで、このDragonflyの成功により、これに続いたのがNightHawkです。Dragonflyでも外部のエキスパートを登用したように、NightHawkではWestoneに在籍していたSkylar Grayによって設計されました。
NightHawkのイメージ画像
このAudioQuestのポリシーは単に業界のトレンドに迎合していくという意味ではありません。実のところAudioQuestのCEOであるBill LowはAudioQuestブランドでヘッドフォンを出すという考えをずっと持っていたそうですが、安易なものは出したくなかったので製品化はしていなかったということです。
一方でSkylar氏の方も10年近くヘッドフォンに関するアイディアを暖めていたということです。そして2012年にBill LowがたまたまSkylar氏と食事を一緒に取ったさいに4時間もヘッドフォンの理想について話し込んだ結果、数ヵ月後にSkylay氏がWestoneを辞めてAudioQuestに入社して、それからのち2年間をNightHawk開発にかけたということです。
ポタ研では残念ながらSkylar氏は生産現場の最終指揮でこれなかったのですが、今回はメールでもSkylar氏に直接いろいろ伺ったり、Skylar氏の解説ビデオを参考にしながらこの記事を書きました。
* NightHawkの特徴 - ドライバー設計
Skylar氏の考えていたヘッドフォンのあるべき姿を具現化したものとして、またAudioQuest社の初のヘッドフォンとしてNightHawkはユニークな観点からの設計がなされているのがポイントです。これはヘッドフォンメーカーではない同社が過去に縛られないゆえの利点とも言えます。
その特徴はまずNightHawkが、スピーカーから着想を得た設計がなされているという点です。ヘッドフォンはそもそもスピーカーの小さいものではないかと思うかもしれませんが、その実は随所に相違があります。
その例は一番重要なドライバー設計にも見られます。NightHawkのドライバーはまったく一から考えられたもので他の流用ではありません。
NightHawkのドライバーユニット
NightHawkにおいては振動版の外周部にラバーのサラウンドと呼ばれる部分がありますが、これはスピーカーで言うエッジです。対して一般的なヘッドフォンでは振動版がエッジなしで一体化されていることが多いということ。このエッジがあることで正しく振動版を保持することができます。
またボイスコイルにはボイスコイルフォーマーという芯にコイルが巻きつけられています。ボイスコイルフォーマーというのはスピーカーで言うボビン(コイルの糸巻き上の芯材)のことです。普通のヘッドフォンではコイルの線材自体を接合してそのまま振動版に接着しているものも多いということですが、NightHawkではコイルが補強材であるボビンに巻きつけられてから振動版に接着されています。これでボイスコイルを強固に正しい形に保つ働きがあり、正確なドライバーのピストンモーション(前後振動)のコントロールができるということです。
また、このピストンモーションの良好な制御はマグネットでも独自の工夫が生かされています。ここにはスプリットギャップ・マグネットという途中に切り込み(ギャップ)のあるマグネットが使われています。マグネットの磁力は1.2テスラの強力なものです。
ギャップを挟んで二つの磁界があることで、あたかも二つのマグネットがあるかのように広くカバーできることになり、コイルが大きくピストンモーションで振動しても磁力のコントロールができるようになるわけです。この磁力線図は最近のソフトウェアの進化で解析が可能になったということです。
これは低音域での歪みを下げるとともに、重要なのはインターモジュレーション歪み(混変調歪み)を低減させるということです。混変調歪みとは二つの信号が混じった時にもとの信号にない信号ができることで、音質を劣化させます。これらの歪みが低ければタイトでクリーンな低音域のレスポンスが得られるということです。
振動版の材質は音の着色に大きな影響があります。一般的なヘッドフォンはマイラーというポリエチレン素材を使用していますが、NightHawkではバイオセルロースを使用しています。バイオセルロースがマイラーより優れているのは良好な内部損失特性で、つまり固有の色を持ちにくいということです。
これは上の図を見てもらうと分かるのですが、縦軸はstiffness(硬度)で高い方がピストンモーションでたわまず正確に動きます。横軸はself damping(内部損失)で、高い方がレゾナンスでの着色がないわけです。つまりこの図の右上に位置する素材が両方の要所を兼ね備えているわけです。
バイオセルロースはその位置にあるということがわかると思います。これは100種類のヘッドフォンを分析して得たことだそうです。
左:混変調歪み(intermodulation Distortion) 右:THD
振動版の素材の効果とともに、前述した歪みの低減効果については測定的に設計者自身が驚くほど良い値が出たということで、上の図に他の機種との比較表が出ています。
右のTHDで他のヘッドフォンで5-7KHzにピークがあるのはマイラーを使用したダイアフラム設計によるものということで、赤線で示されるNigtHawkではピークが出ていないことが分かると思います。
* NightHawkの特徴 - ハウジング設計
NightHawkでの独自性と最新技術の採用はハウジングにも活かされています。
イヤカップはリキッドウッドというパルプから作られた素材を採用しています。リキッドウッドは名の通りに木でありながら流体であり、自由な形に成形できるのが特徴です。硬くて木材の良さとしてダンピング特性に優れています(振動板でのバイオセルロースのようにやはり理想的な素材に成功したということ)。これも最新の素材であり、5年前には存在していなかったものだそうです。
リキッドウッドのおかげで木の素材を生かしながら人間工学的な外耳に合わせた形を作ることが可能となり、裏側の補強リブなど複雑な構造も可能となっています。また音響特性に優れているだけではなく環境配慮もあります。
イヤーカップ内はドライバーのところでも書いたようにスピーカーの考え方が生かされ、補強材や吸音構造などスピーカーのキャビネット内に似ています。このようにNightHawkはヘッドフォンというより、むしろスピーカーのミニチュアのような設計がなされているわけです。
これらの利点は振動解析によって明らかになっています。上の図で左の一般的なイヤカップではカップデザインがよくないので、一か所に振動が集中する結果として振動が高いところと低いところができてしまいます。図の赤い部分が振動の大きい部分で青が振動の少ない部分です。
NightHawkではさきに書いたイヤーカップ(エンクロージャー)内の補強材やスピーカーのようなポリウールのダンピング材により振動を最適化させ、その結果として均一に振動のないイヤカップとなっています(全面が振動が少ない青となっている)。
リキッドウッドの他に特筆すべき点は、セミオープン構造のためにイヤカップの背面に設けられたエアダクトのグリルです。これはダイアモンド・キュービック・ラティス・グリル(ダイアモンド・立体形状・格子グリル、略してDCLグリル)という複雑な形状をしています。
このDCLグリルは上の図のように実は昆虫の蝶の翅の細部の形状から着想したディフューザー(かくはん機)です。蝶の羽のメタリックでキラキラしているところは拡大すると上の図のような構造をしていて効率的に空気をかくはんできるのです。これで振動版の背圧に適度な空気抵抗を与えることができます。
その効果をSkylar氏に聴いてみましたが、これは定在波が出て着色の要因となるのをさけるとともに、DCLグリルが音響抵抗となり特定周波数の調整などチューニングの自由度が増すということです。ここはイヤフォンにおいて音響抵抗で音を調整するのに似ているのかもしれませんが、Skylar氏のWestoneでの知見が生きているのかもしれません。
この多孔質で複雑な形式は従来のモールドや機械加工の製造方法では製作が不可能であり、近年出た3Dプリンターの採用によりようやく作ることができるようになったものだということです。
またハウジング内では、バスケットと呼ばれる空気抜きのベント穴の保持部分にも工夫がされています。一般的なヘッドフォンでは上の図の左のようにこのベント穴は不均等に配置されています。
これはコストを低減するために多くのヘッドフォンはボイスコイルのサーキットボード設計の端子配置で仕方なくこうなるそうです。しかし不均等だとエアがバスケットを傾けてしまい歪みがでてしまいます。NightHawkではコストより音質を取りたかったので、その端子をベントホールに影響ない位置に移したということです。結果として均等なベント穴が実現できています。またエアフローも最適にスムーズに流れてよどみないように計算がなされています。
* NightHawkの特徴 - 装着性
NightHawkは快適性にも最大限に注意を払って設計されています。
ここでもNightHawkの独自性が発揮されているのが分かります。NightHawkのデザインの特色として側面からみるとクロスバー(側面から見ると×になっている部分)のような部分でヘッドバンドとイヤカップはバーで支持されて結合されています。これがサスペンションです。
このサスペンションシステムはプロ用マイクのショックアブソーバーから着想を得た独自の構造で特許出願中です。よくプロ用マイクが複雑なかごに入っているように見えますが、あれですね。
この効果は音質的なものと、快適性の両方に効果的です。音質的にはサスペンションでイヤカップの振動を分離できるので、位相的な干渉の問題に効果的だそうです。もっとも効果的なのは快適性についてで、強い側圧で締め付けないでも、弱くて快適な側圧でもぴったりと頭に合わせて固定できます。これによって側圧を弱めに設定することができたので、頭に負担がかかりにくくなっています。このサスペンションは105個もの試作を経て完成したそうで、均一に負荷がかかるように設計された自動調整式のヘッドバンドと合わせて、実物よりも軽いような感覚を与えています。
イヤパッドはプロテイン・レザー(人工皮革)であり、イヤカップ同様に外耳の形状に合わせています。これはなんと卵の殻から作られている天然素材だそうで、そのため人肌にも優しく作られているそうです(日本の会社との協業によるものだそう)。イヤパッドは簡単に取り外しができてメンテナンスにも優れています。
またNightHawkではパッドの後部を厚くすることでダイアフラムを外耳にあたるような角度にすることに成功しています。これにより空間表現に優れた音再現ができるわけです。上の右図で青がイヤパッドで、赤がドライバーです。
* NightHawkの特徴 - ケーブルそのほか
もちろんケーブルはAudioQuestですから下手なリケーブル用の交換ケーブルよりも優れたケーブルが採用されています。
NightHawkのケーブルはスピーカー用のキャッスルロックという高級線材をベースにしているということで、ヘッドフォンだけではなくケーブルもスピーカーオーディオ用のもののミニチュアとして考えているわけですね。基本はミニ端子ですが付属の標準変換プラグは特注の独自設計で、一般的なブラスではなく音響的な配慮もしています。
このようにNightHawkはさまざまな新技術を採用し、独自のアイディアで設計されています。
そのため開発では35のデザインモデル、50を超えるドライバー試作、100を超えるサスペンションの試作、100を超えるイヤカップの試作、10,000を超えるプロトタイプのパーツ作成(ヘッドバンドやグリルなどなど)という試行錯誤を行い、多数のプロトタイピングと施策を重ねた結果NighHawkが生まれたということです。
* 試用と音質
これはプロトタイプでの試聴です。外観や音はほぼ完成版ですが多少の変更があるかもしれません。
リキッドウッドの質感はなかなか高く仕上げも丁寧です。サスペンション支持のイヤカップの形状もユニークです。また自動調整式のヘッドバンドは金属ノッチのようなアジャスターが見えないので高級感があります。
NightHawkのユニークさはまず装着してみて分かります。いままでにない柔らかく軽い装着感で、気持ち良く装着できます。いままでに使った中でも独特で心地よい装着感です。弱めの側圧も良い感じですね。ケーブルはちょっと硬めです。
NightHawkとDENON DA300
まずUSB DAC内蔵のヘッドフォンアンプとしてDENON DA300と接続してみました。
全体的には音楽的に滑らかさと抑揚のあるDENONのUSB DACと、音楽的なNightHawkとの相性がなかなか良い感じです。DA300はゲインがないのがネックですが、NightHawkは能率が高いので十分な音量が取れます。
音の第一印象としてはセミオープンということもあり、密閉型のような密度感と抜けの良さを両立して、疲れにくい聴きやすさも兼ね備えているように思います。実際に側面のDCLグリル穴を手で塞ぐと詰まって開放感に欠ける音になります。
LINNの24bitクリスマスアルバムを聴いてみましたが、ヴォーカルがリアルで立体的、音は左右に広いよりも立体感・奥行きがある感じですね。細かさの抽出もHD800あたりとそう変わらない気がします。性格が違うかもしれないとは思いつつ、HD800と比べてみたのですが、たとえばHD800のピアノの音は乾いて平板的だけれど、NightHawkは艶っぽくて音に陰影のような立体感を感じます。SHANTIのヴォーカルでも同じ感じで、HD800は音場は広いけど乾いて平板的、NightHawkは艶っぽくて立体的です。NightHawkでは音の広がりとか定位というよりも、一つ一つの音が彫りが深く立体的に陰影があるように感じられます。
中低域にかけての厚みが豊かで、高音域は落ち着いてきつさはない感じです。中低域が豊かと言っても低域が膨らんで突出した音ではなく、十分な量感を確保しながらスムーズにベースが出てくる感じですね。着色はないと思いますが、いわゆるやや暖かみがあってしっかりとしていながら立体感があるように聞こえます。
中音域から中低域にかけては抜群の再現力で音楽を聴くのが楽しくなるような音の鳴り方です。高音域はきれいに楽器の音やベルの鳴りを再現するがきついという感じはないですね。NightHawkでは意図的に調整しているように思いますが、好みの問題で高音域はHD800が良いという人もいると思います。
NightHawkの低域の量感は多めですが適度にタイトで、膨らんでぶよっとしているわけではありません。コントラバスソロなどでは低域の解像力も高く、ベースではピチカートの切れもよいと思います。すごく硬くタイトというわけではなく聴きやすさもあります。
次にDA300をDACとして使い、専用のヘッドフォンアンプSoloist SLを使うとさらに音質は上がってダイナミックさが堪能できます。解像力も高くかなり細かい音を拾っているのがわかります。Soloistの分析的な感じも緩和されるのでなかなか良い組み合わせかもしれません。NightHawkの音支配を感じますので、個性が生きているのでしょう。
NightHawkとDENON DA10
ケーブル自体はミニプラグなのでポータブルでもよく鳴らせます。背面ポートから音漏れはあるので電車ではお勧めしませんが、お散歩とか家でもポータブル機器を使っている人には良いかもしれません。
DENON DA10と合わせてみましたが、これもDA300同様になかなか良い組み合わせです。厚み・暖かみがあってダイナミックなDENONの音キャラによく合う感じで、意図的ではないかもしれませんがD&Mで扱うには良いラインナップですね。マランツのHD-DAC1と組み合わせるとどうなんでしょうか。
DA10のiPhoneデジタル接続だとかなり細かい音を拾っているのもわかります。楽器音のきれいさ、鮮明さもかなり高いものがあります。なんか家でもこれでよいかなと思える優れたレベルの再生です。能率がわりと高めなのもよいですね。
もちろんAK240などでもよい音を鳴らしてくれます。2.5mmバランスケーブルもあるとよいかもしれませんが、クローズのNightOwlに期待です。
左:AQ特製 中:フルテック 右:一般品
最後にNightHawkの隠れたポイントのケーブル端子変換プラグを変えて少し聴いてみました。
NightHawk付属のAudioQuest特製と一般品だとAudioQuestの方がブランデンブルグ協奏曲のような室内楽でより高域がきれいにのびて全体に上質に感じられます。またパーカッションでも音のエッジが上質に思えますね。それとAudioQuest特製のほうがよりしっかりとはまって接続ができます。
フルテックの高音質変換プラグF63とAudioQuest特製だとフルテックが透明感にやや優れますが多少ドライ感が出ます。AudioQuest特製のほうがより暖かみがある感じですね。ここは好みもあるのでNightHawk買った人はフルテックプラグも買ってみると音を少し変えられて面白いと思います。
* まとめ
音はなかなかよく作りこんであると思います。HD800のように分析的ではなく、オーディオ機器の高い音質を生かしながら音楽的に聴くのにお勧めのヘッドフォンです。快適性と高い音質を両立させているのも長い時間楽しく音楽を聴くのに良いですね。
価格的にも音質を考えると高すぎずに抑えていると思います。
NightHawkは3Dプリンタ、リキッドウッド素材、最新の解析ソフトウエアなど最新技術を採用した今でなければできなかったヘッドフォンです。それにSkylar氏の暖めていた、スピーカー技術を適用して簡略化ではない、真にHiFiスピーカーのミニチュアを作るというアプローチがなされたものです。
ここで説明によく出てきたピストンモーションという言葉もあまりヘッドフォンの世界では使わないと思いますが、主にスピーカーで振幅の大きなウーファーなどで使う言葉で海外文献を読んでいるとよく出てきます。Skylar氏はサブウーファーを作るkickerという会社にもいたのですがその低音域再現のノウハウも十分に生かされているのでしょう。
そう考えるとNightHawkがスピーカーオーディオの世界にいるAudioQuestから出てきたのはそう不思議なことではないように思えます。
今回NightHawkを見て教えられたことはヘッドフォンの進化です。いままでもヘッドフォンは小さなスピーカーであると例えられてきました。しかし、実のところではスピーカーとは異なるところが多々あることに気がつかされます。それはおそらくエッジを省力したり、ボビンを省力したりとヘッドフォンでここまでは不要だろうという考えと、ヘッドフォンは単なるアクセサリーだから安くせねば、という考えがあったと思います。ヘッドフォンケーブルがグランドが共通でいいやと考えられてきたのとも通じるかもしれません。
しかしいまでは時代は変わりそうした考えは変えるべきなのでしょう。いままでのヘッドフォンメーカーではどうしても伝統にしばられてしまうこともあったかもしれません。しかしそれができたのは新規参入のAudioQuestだからであり、そのうえで妥協ないものを作るという同社ポリシーによりエッジとかサスペンションのような細かなこだわりがあったからです。Skylar氏はこのような時代の変化をヘッドフォンによって伝えたいと語っていました。
それがこのNightHawkです。
ヘッドフォンオーディオ流行りといいますが、HD800やEdition8などの高性能ヘッドフォンの熱狂は後退して、実態は高性能イヤフォンに傾倒していたというのがここ数年のヘッドフォンオーディオ市場の実情であったと言えます。
いままでにないアプローチで設計されたこのNightHawkが新しいヘッドフォン時代の担い手になれるかが今年の注目点の一つであると言えるでしょう。
NightHawkはセミオープンタイプで基本的に家で使うフルサイズ・ヘッドフォンです。日本での価格はオープンプライスでだいたい7万円台後半、発売時期は3月下旬です。こちらにD&MのNightHawkサイトがあります。基本データは重さは346gで、インピーダンスは25Ω、能率は100dBSPL/mWです。
http://dm-importaudio.jp/audioquest/
* AudioQuestとNightHawk
まずはじめの疑問は、そもそもなぜケーブルで知られるAudioQuestがヘッドフォンを作ったのだろうか、という点ではないでしょうか。
実のところNightHawkがAudioQuestにとって初めての本格的なケーブル以外の製品というわけではありません。コンパクトなUSB DACであるDragonflyを発売した点でも注目されていました。このDragonflyは前にも書いたように米国PCオーディオ界の雄であるGordon Rankinによって設計されたものです。
AudioQuestは多様化するこのオーディオ業界の中で、顧客がほしいと思う製品を提供していきたいというポリシーがあるということで、このDragonflyの成功により、これに続いたのがNightHawkです。Dragonflyでも外部のエキスパートを登用したように、NightHawkではWestoneに在籍していたSkylar Grayによって設計されました。
NightHawkのイメージ画像
このAudioQuestのポリシーは単に業界のトレンドに迎合していくという意味ではありません。実のところAudioQuestのCEOであるBill LowはAudioQuestブランドでヘッドフォンを出すという考えをずっと持っていたそうですが、安易なものは出したくなかったので製品化はしていなかったということです。
一方でSkylar氏の方も10年近くヘッドフォンに関するアイディアを暖めていたということです。そして2012年にBill LowがたまたまSkylar氏と食事を一緒に取ったさいに4時間もヘッドフォンの理想について話し込んだ結果、数ヵ月後にSkylay氏がWestoneを辞めてAudioQuestに入社して、それからのち2年間をNightHawk開発にかけたということです。
ポタ研では残念ながらSkylar氏は生産現場の最終指揮でこれなかったのですが、今回はメールでもSkylar氏に直接いろいろ伺ったり、Skylar氏の解説ビデオを参考にしながらこの記事を書きました。
* NightHawkの特徴 - ドライバー設計
Skylar氏の考えていたヘッドフォンのあるべき姿を具現化したものとして、またAudioQuest社の初のヘッドフォンとしてNightHawkはユニークな観点からの設計がなされているのがポイントです。これはヘッドフォンメーカーではない同社が過去に縛られないゆえの利点とも言えます。
その特徴はまずNightHawkが、スピーカーから着想を得た設計がなされているという点です。ヘッドフォンはそもそもスピーカーの小さいものではないかと思うかもしれませんが、その実は随所に相違があります。
その例は一番重要なドライバー設計にも見られます。NightHawkのドライバーはまったく一から考えられたもので他の流用ではありません。
NightHawkのドライバーユニット
NightHawkにおいては振動版の外周部にラバーのサラウンドと呼ばれる部分がありますが、これはスピーカーで言うエッジです。対して一般的なヘッドフォンでは振動版がエッジなしで一体化されていることが多いということ。このエッジがあることで正しく振動版を保持することができます。
またボイスコイルにはボイスコイルフォーマーという芯にコイルが巻きつけられています。ボイスコイルフォーマーというのはスピーカーで言うボビン(コイルの糸巻き上の芯材)のことです。普通のヘッドフォンではコイルの線材自体を接合してそのまま振動版に接着しているものも多いということですが、NightHawkではコイルが補強材であるボビンに巻きつけられてから振動版に接着されています。これでボイスコイルを強固に正しい形に保つ働きがあり、正確なドライバーのピストンモーション(前後振動)のコントロールができるということです。
また、このピストンモーションの良好な制御はマグネットでも独自の工夫が生かされています。ここにはスプリットギャップ・マグネットという途中に切り込み(ギャップ)のあるマグネットが使われています。マグネットの磁力は1.2テスラの強力なものです。
ギャップを挟んで二つの磁界があることで、あたかも二つのマグネットがあるかのように広くカバーできることになり、コイルが大きくピストンモーションで振動しても磁力のコントロールができるようになるわけです。この磁力線図は最近のソフトウェアの進化で解析が可能になったということです。
これは低音域での歪みを下げるとともに、重要なのはインターモジュレーション歪み(混変調歪み)を低減させるということです。混変調歪みとは二つの信号が混じった時にもとの信号にない信号ができることで、音質を劣化させます。これらの歪みが低ければタイトでクリーンな低音域のレスポンスが得られるということです。
振動版の材質は音の着色に大きな影響があります。一般的なヘッドフォンはマイラーというポリエチレン素材を使用していますが、NightHawkではバイオセルロースを使用しています。バイオセルロースがマイラーより優れているのは良好な内部損失特性で、つまり固有の色を持ちにくいということです。
これは上の図を見てもらうと分かるのですが、縦軸はstiffness(硬度)で高い方がピストンモーションでたわまず正確に動きます。横軸はself damping(内部損失)で、高い方がレゾナンスでの着色がないわけです。つまりこの図の右上に位置する素材が両方の要所を兼ね備えているわけです。
バイオセルロースはその位置にあるということがわかると思います。これは100種類のヘッドフォンを分析して得たことだそうです。
左:混変調歪み(intermodulation Distortion) 右:THD
振動版の素材の効果とともに、前述した歪みの低減効果については測定的に設計者自身が驚くほど良い値が出たということで、上の図に他の機種との比較表が出ています。
右のTHDで他のヘッドフォンで5-7KHzにピークがあるのはマイラーを使用したダイアフラム設計によるものということで、赤線で示されるNigtHawkではピークが出ていないことが分かると思います。
* NightHawkの特徴 - ハウジング設計
NightHawkでの独自性と最新技術の採用はハウジングにも活かされています。
イヤカップはリキッドウッドというパルプから作られた素材を採用しています。リキッドウッドは名の通りに木でありながら流体であり、自由な形に成形できるのが特徴です。硬くて木材の良さとしてダンピング特性に優れています(振動板でのバイオセルロースのようにやはり理想的な素材に成功したということ)。これも最新の素材であり、5年前には存在していなかったものだそうです。
リキッドウッドのおかげで木の素材を生かしながら人間工学的な外耳に合わせた形を作ることが可能となり、裏側の補強リブなど複雑な構造も可能となっています。また音響特性に優れているだけではなく環境配慮もあります。
イヤーカップ内はドライバーのところでも書いたようにスピーカーの考え方が生かされ、補強材や吸音構造などスピーカーのキャビネット内に似ています。このようにNightHawkはヘッドフォンというより、むしろスピーカーのミニチュアのような設計がなされているわけです。
これらの利点は振動解析によって明らかになっています。上の図で左の一般的なイヤカップではカップデザインがよくないので、一か所に振動が集中する結果として振動が高いところと低いところができてしまいます。図の赤い部分が振動の大きい部分で青が振動の少ない部分です。
NightHawkではさきに書いたイヤーカップ(エンクロージャー)内の補強材やスピーカーのようなポリウールのダンピング材により振動を最適化させ、その結果として均一に振動のないイヤカップとなっています(全面が振動が少ない青となっている)。
リキッドウッドの他に特筆すべき点は、セミオープン構造のためにイヤカップの背面に設けられたエアダクトのグリルです。これはダイアモンド・キュービック・ラティス・グリル(ダイアモンド・立体形状・格子グリル、略してDCLグリル)という複雑な形状をしています。
このDCLグリルは上の図のように実は昆虫の蝶の翅の細部の形状から着想したディフューザー(かくはん機)です。蝶の羽のメタリックでキラキラしているところは拡大すると上の図のような構造をしていて効率的に空気をかくはんできるのです。これで振動版の背圧に適度な空気抵抗を与えることができます。
その効果をSkylar氏に聴いてみましたが、これは定在波が出て着色の要因となるのをさけるとともに、DCLグリルが音響抵抗となり特定周波数の調整などチューニングの自由度が増すということです。ここはイヤフォンにおいて音響抵抗で音を調整するのに似ているのかもしれませんが、Skylar氏のWestoneでの知見が生きているのかもしれません。
この多孔質で複雑な形式は従来のモールドや機械加工の製造方法では製作が不可能であり、近年出た3Dプリンターの採用によりようやく作ることができるようになったものだということです。
またハウジング内では、バスケットと呼ばれる空気抜きのベント穴の保持部分にも工夫がされています。一般的なヘッドフォンでは上の図の左のようにこのベント穴は不均等に配置されています。
これはコストを低減するために多くのヘッドフォンはボイスコイルのサーキットボード設計の端子配置で仕方なくこうなるそうです。しかし不均等だとエアがバスケットを傾けてしまい歪みがでてしまいます。NightHawkではコストより音質を取りたかったので、その端子をベントホールに影響ない位置に移したということです。結果として均等なベント穴が実現できています。またエアフローも最適にスムーズに流れてよどみないように計算がなされています。
* NightHawkの特徴 - 装着性
NightHawkは快適性にも最大限に注意を払って設計されています。
ここでもNightHawkの独自性が発揮されているのが分かります。NightHawkのデザインの特色として側面からみるとクロスバー(側面から見ると×になっている部分)のような部分でヘッドバンドとイヤカップはバーで支持されて結合されています。これがサスペンションです。
このサスペンションシステムはプロ用マイクのショックアブソーバーから着想を得た独自の構造で特許出願中です。よくプロ用マイクが複雑なかごに入っているように見えますが、あれですね。
この効果は音質的なものと、快適性の両方に効果的です。音質的にはサスペンションでイヤカップの振動を分離できるので、位相的な干渉の問題に効果的だそうです。もっとも効果的なのは快適性についてで、強い側圧で締め付けないでも、弱くて快適な側圧でもぴったりと頭に合わせて固定できます。これによって側圧を弱めに設定することができたので、頭に負担がかかりにくくなっています。このサスペンションは105個もの試作を経て完成したそうで、均一に負荷がかかるように設計された自動調整式のヘッドバンドと合わせて、実物よりも軽いような感覚を与えています。
イヤパッドはプロテイン・レザー(人工皮革)であり、イヤカップ同様に外耳の形状に合わせています。これはなんと卵の殻から作られている天然素材だそうで、そのため人肌にも優しく作られているそうです(日本の会社との協業によるものだそう)。イヤパッドは簡単に取り外しができてメンテナンスにも優れています。
またNightHawkではパッドの後部を厚くすることでダイアフラムを外耳にあたるような角度にすることに成功しています。これにより空間表現に優れた音再現ができるわけです。上の右図で青がイヤパッドで、赤がドライバーです。
* NightHawkの特徴 - ケーブルそのほか
もちろんケーブルはAudioQuestですから下手なリケーブル用の交換ケーブルよりも優れたケーブルが採用されています。
NightHawkのケーブルはスピーカー用のキャッスルロックという高級線材をベースにしているということで、ヘッドフォンだけではなくケーブルもスピーカーオーディオ用のもののミニチュアとして考えているわけですね。基本はミニ端子ですが付属の標準変換プラグは特注の独自設計で、一般的なブラスではなく音響的な配慮もしています。
このようにNightHawkはさまざまな新技術を採用し、独自のアイディアで設計されています。
そのため開発では35のデザインモデル、50を超えるドライバー試作、100を超えるサスペンションの試作、100を超えるイヤカップの試作、10,000を超えるプロトタイプのパーツ作成(ヘッドバンドやグリルなどなど)という試行錯誤を行い、多数のプロトタイピングと施策を重ねた結果NighHawkが生まれたということです。
* 試用と音質
これはプロトタイプでの試聴です。外観や音はほぼ完成版ですが多少の変更があるかもしれません。
リキッドウッドの質感はなかなか高く仕上げも丁寧です。サスペンション支持のイヤカップの形状もユニークです。また自動調整式のヘッドバンドは金属ノッチのようなアジャスターが見えないので高級感があります。
NightHawkのユニークさはまず装着してみて分かります。いままでにない柔らかく軽い装着感で、気持ち良く装着できます。いままでに使った中でも独特で心地よい装着感です。弱めの側圧も良い感じですね。ケーブルはちょっと硬めです。
NightHawkとDENON DA300
まずUSB DAC内蔵のヘッドフォンアンプとしてDENON DA300と接続してみました。
全体的には音楽的に滑らかさと抑揚のあるDENONのUSB DACと、音楽的なNightHawkとの相性がなかなか良い感じです。DA300はゲインがないのがネックですが、NightHawkは能率が高いので十分な音量が取れます。
音の第一印象としてはセミオープンということもあり、密閉型のような密度感と抜けの良さを両立して、疲れにくい聴きやすさも兼ね備えているように思います。実際に側面のDCLグリル穴を手で塞ぐと詰まって開放感に欠ける音になります。
LINNの24bitクリスマスアルバムを聴いてみましたが、ヴォーカルがリアルで立体的、音は左右に広いよりも立体感・奥行きがある感じですね。細かさの抽出もHD800あたりとそう変わらない気がします。性格が違うかもしれないとは思いつつ、HD800と比べてみたのですが、たとえばHD800のピアノの音は乾いて平板的だけれど、NightHawkは艶っぽくて音に陰影のような立体感を感じます。SHANTIのヴォーカルでも同じ感じで、HD800は音場は広いけど乾いて平板的、NightHawkは艶っぽくて立体的です。NightHawkでは音の広がりとか定位というよりも、一つ一つの音が彫りが深く立体的に陰影があるように感じられます。
中低域にかけての厚みが豊かで、高音域は落ち着いてきつさはない感じです。中低域が豊かと言っても低域が膨らんで突出した音ではなく、十分な量感を確保しながらスムーズにベースが出てくる感じですね。着色はないと思いますが、いわゆるやや暖かみがあってしっかりとしていながら立体感があるように聞こえます。
中音域から中低域にかけては抜群の再現力で音楽を聴くのが楽しくなるような音の鳴り方です。高音域はきれいに楽器の音やベルの鳴りを再現するがきついという感じはないですね。NightHawkでは意図的に調整しているように思いますが、好みの問題で高音域はHD800が良いという人もいると思います。
NightHawkの低域の量感は多めですが適度にタイトで、膨らんでぶよっとしているわけではありません。コントラバスソロなどでは低域の解像力も高く、ベースではピチカートの切れもよいと思います。すごく硬くタイトというわけではなく聴きやすさもあります。
次にDA300をDACとして使い、専用のヘッドフォンアンプSoloist SLを使うとさらに音質は上がってダイナミックさが堪能できます。解像力も高くかなり細かい音を拾っているのがわかります。Soloistの分析的な感じも緩和されるのでなかなか良い組み合わせかもしれません。NightHawkの音支配を感じますので、個性が生きているのでしょう。
NightHawkとDENON DA10
ケーブル自体はミニプラグなのでポータブルでもよく鳴らせます。背面ポートから音漏れはあるので電車ではお勧めしませんが、お散歩とか家でもポータブル機器を使っている人には良いかもしれません。
DENON DA10と合わせてみましたが、これもDA300同様になかなか良い組み合わせです。厚み・暖かみがあってダイナミックなDENONの音キャラによく合う感じで、意図的ではないかもしれませんがD&Mで扱うには良いラインナップですね。マランツのHD-DAC1と組み合わせるとどうなんでしょうか。
DA10のiPhoneデジタル接続だとかなり細かい音を拾っているのもわかります。楽器音のきれいさ、鮮明さもかなり高いものがあります。なんか家でもこれでよいかなと思える優れたレベルの再生です。能率がわりと高めなのもよいですね。
もちろんAK240などでもよい音を鳴らしてくれます。2.5mmバランスケーブルもあるとよいかもしれませんが、クローズのNightOwlに期待です。
左:AQ特製 中:フルテック 右:一般品
最後にNightHawkの隠れたポイントのケーブル端子変換プラグを変えて少し聴いてみました。
NightHawk付属のAudioQuest特製と一般品だとAudioQuestの方がブランデンブルグ協奏曲のような室内楽でより高域がきれいにのびて全体に上質に感じられます。またパーカッションでも音のエッジが上質に思えますね。それとAudioQuest特製のほうがよりしっかりとはまって接続ができます。
フルテックの高音質変換プラグF63とAudioQuest特製だとフルテックが透明感にやや優れますが多少ドライ感が出ます。AudioQuest特製のほうがより暖かみがある感じですね。ここは好みもあるのでNightHawk買った人はフルテックプラグも買ってみると音を少し変えられて面白いと思います。
* まとめ
音はなかなかよく作りこんであると思います。HD800のように分析的ではなく、オーディオ機器の高い音質を生かしながら音楽的に聴くのにお勧めのヘッドフォンです。快適性と高い音質を両立させているのも長い時間楽しく音楽を聴くのに良いですね。
価格的にも音質を考えると高すぎずに抑えていると思います。
NightHawkは3Dプリンタ、リキッドウッド素材、最新の解析ソフトウエアなど最新技術を採用した今でなければできなかったヘッドフォンです。それにSkylar氏の暖めていた、スピーカー技術を適用して簡略化ではない、真にHiFiスピーカーのミニチュアを作るというアプローチがなされたものです。
ここで説明によく出てきたピストンモーションという言葉もあまりヘッドフォンの世界では使わないと思いますが、主にスピーカーで振幅の大きなウーファーなどで使う言葉で海外文献を読んでいるとよく出てきます。Skylar氏はサブウーファーを作るkickerという会社にもいたのですがその低音域再現のノウハウも十分に生かされているのでしょう。
そう考えるとNightHawkがスピーカーオーディオの世界にいるAudioQuestから出てきたのはそう不思議なことではないように思えます。
今回NightHawkを見て教えられたことはヘッドフォンの進化です。いままでもヘッドフォンは小さなスピーカーであると例えられてきました。しかし、実のところではスピーカーとは異なるところが多々あることに気がつかされます。それはおそらくエッジを省力したり、ボビンを省力したりとヘッドフォンでここまでは不要だろうという考えと、ヘッドフォンは単なるアクセサリーだから安くせねば、という考えがあったと思います。ヘッドフォンケーブルがグランドが共通でいいやと考えられてきたのとも通じるかもしれません。
しかしいまでは時代は変わりそうした考えは変えるべきなのでしょう。いままでのヘッドフォンメーカーではどうしても伝統にしばられてしまうこともあったかもしれません。しかしそれができたのは新規参入のAudioQuestだからであり、そのうえで妥協ないものを作るという同社ポリシーによりエッジとかサスペンションのような細かなこだわりがあったからです。Skylar氏はこのような時代の変化をヘッドフォンによって伝えたいと語っていました。
それがこのNightHawkです。
ヘッドフォンオーディオ流行りといいますが、HD800やEdition8などの高性能ヘッドフォンの熱狂は後退して、実態は高性能イヤフォンに傾倒していたというのがここ数年のヘッドフォンオーディオ市場の実情であったと言えます。
いままでにないアプローチで設計されたこのNightHawkが新しいヘッドフォン時代の担い手になれるかが今年の注目点の一つであると言えるでしょう。
2015年01月15日
Burson Soloist SLレビュー
Soloist SLは国内ではアユートが販売しているヘッドフォンアンプです。こちらに製品リンクがあります。
http://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_1500.php
DACは内蔵していませんので、他にCDプレーヤーとかDACが必要になります。アユートさんではAstell & kernシリーズがUSB DACとしても使えますので、それを使用してさらに発展させるためのキーとしてSoloist SLを提案するという形になります。
たとえば話題の平面型ヘッドフォンを試してみたい、というときにはこうした専用の高出力のヘッドフォンアンプがあった方が良いわけです。
もちろんAKシリーズでなくても、普及価格のヘッドフォンアンプとして優れていますので、すでにUSB DACをもっている人で、DAC内蔵アンプを使用している人にもお勧めです。音を一ランク上げてくれます。
* Bursonのオーディオ哲学とSoloist SL
BursonはHeadFiでもよく見かけるブランドで、オーディオマニアに支持されるオーディオブランドです。もともとがオーストラリアのオーディオコミュニティがあって、その代表者がMark Bursonという人だったのですが、オーディオマニアがほしがるような製品をみんなで作ろうということでできたのがこのBursonブランドです。ですので、製品はマニアック志向で、ショートシグナルパス、オペアンプをきらったディスクリート回路設計や強力な電源が特徴です。
Bursonの哲学としては、シンプルな回路で高品質パーツで音質を引き出し、オペアンプや既成トランスなどを使わないということです。
Bursonのホームページに掲げられている"Less is more"というのは日本語で言うとシンプルイズベスト、ということです。オペアンプを使う方がシンプルじゃないかと突っ込まれることもありますが、オペアンプはもともとPC用の汎用パーツであり、中には複雑な構成物がはいっいるので結局シンプルではなく、またオーディオに必要ない部分も通ってしまうので、はじめからディスクリートで必要なパーツだけ組んだ方がよいというわけですね。
Bursonいわく、機材が透明で音に忠実であれば、テンポ、ダイナミクス、音色は自然に生じてくるもので、元の音に不必要な着色をする必要はないということだそうです。こうした理想を達成するためにはオペアンプは排すべきだというのがBursonの主張です。
実のところ、はじめのHA-160では信号経路に32個の部品を使っていましたが、Soloistではさらに設計を突き詰めて、FETをベースに21個のみのシンプルなコンポーネントで設計されています。これも設計中に少しずつパーツを減らしていくたびに透明感が出てきたということです。
パワーサプライでもきちんとノイズを抑える工夫がなされていますが、そこでもオペアンプが使われていないという徹底ぶりです。
この辺からもBursonがマニアが立ち上げて理想を追求するメーカーと言うことが分かってくるのではないかと思います。
Soloist SLはSoloistからプリアンプ機能をはずしてヘッドフォンアンプに特化したものです。またステップアッテネーターをはずしてAlpsボリュームにすることで低価格化も行っています。普通のメーカーだと性能を高めるためにAlpsを採用しましたと書くところも多いので、低価格にするためにAlpsにしたっていうところからもこのメーカーの真摯な姿勢が分かると思います。他にシャーシのアルミ外装も少し簡易化していますが、まだまだがっちりとしています。もともとオーバースペックだったものを適性化したという方が正しいと思います。
最大出力も4W/chから2W/chに変更されていますが、2W/chでもまだまだヘッドフォンアンプ全体からみると高出力な方です。実際に平面型のHE560でも十分駆動できます。
* Soloist SLの使用例と音質
今回はAK240をUSB DACとして使用して以下のようなシステムをセットアップしてみました。
まずPC上にオーディオ再生用の音楽再生ソフトが必要です。私は高機能で慣れているのでJRiver Media centerを使っていますが、Foobar 2000でもかまいません。この場合はASIOドライバーならば対応するコンポーネントのインストールが必要になります(JRMCでははじめから組み込んでます)。
次にPCとAK240をUSBケーブルで接続します。これは別売りで購入する必要がありますがUSBマイクロB端子が付いた高音質のUSBケーブルがお勧めです。私はFitear microを使用しました。他にはWireWorldなどでも用意されています。
AK240とSoloistを接続するケーブルはアナログ部分なのでこれも良いケーブルを使いたいところですが、このSoloist SLに添付されているRCAケーブルも意外とよいので、はじめはこれを使っていてもよいと思います。ただしAK240のイヤフォン端子に接続しますので、ミニプラグとRCAの変換プラグが必要です。これはお店とかAmazonで安く購入できます。AK240では設定においてライン出力を選択し、USBの用途をMTPではなくDACにします。
システムとしてはこんな感じです。
PC(JRiver) - USB cable(FitEar) - AK240 - RCA cable(付属) - Soloist SL - HE560
このシステムにおいてゼンハイザーHD800とHiFiman HE560で聴きました。音楽をありのままに聞きたいときはHD800、少し強調して聞きたいときはHE560などの選択が良いですね。Soloistはパワーがあるので平面型であるHE560もぐいぐいとならせます。仮に音量が十分あったとしても、軽々と朗々となるような感じでないと駆動力不足だと思います。
まず感じる音の印象は透明感の高さで、気持ちよいくらい透明感のひときわ高い音質が堪能できます。
透明感というのも他で感じる単なるクリアさとは少し異なっていて、Soloistの良いところは鮮度感が高いということです。鮮度感というとあいまいではありますが、音に直接触れるような生々しさ、という感じでしょうか。音がベールなしでダイレクトに届く感じです。この辺はBursonの開発哲学のシンプルさが効いているんでしょう。また音色も雑味がなくすっきりとピュアに感じられます。音の立ち上がりとスピードが早いのも特徴でリズムの速い曲も軽快に鳴らしてくれます。
HE560あたりだと低音が深く重く、どっしりとした重量感もあります。中高音域はシャープで突き抜けるように上に伸びてゆく感じで、ヴォーカルはわりと近めに感じられます。楽器やヴォーカルの音は鮮明でヴォーカルの歌詞もよく聴き取れます。
周波数的な帯域バランスは整っていて、強調感をあまり感じません。音色はニュートラルで暖かみや脚色感はありません。もちろん無機的ではなく、味気ないという音ではありません。こうしたアンプはいわゆるモニター的というか客観的に感じられやすいものですが、Soloistは聴く人に近く、音楽の躍動感を届けてくれます。音の広がりは標準的ですが、ここはほかの要素を調整してゆくことでも伸ばすことが可能かもしれません。
他のUSB DACを使用してもまたいろいろと音を変えていけると思います。CHORD Hugoを持っている人にもお勧めです。Hugoは内蔵アンプも強力ですが、Soloist SLを使うことでさらに迫力のある音を楽しめます。
ハイレゾプレーヤーからオーディオ入門してイヤフォンしか聴いていなかったという方、USB DACを購入したけれども専用のヘッドフォンアンプをもっていない方には特にお勧めです。また手ごろな価格でヘッドフォンアンプを探していたという人にもお勧めです。そしてBursonの音に興味があったけれどもいままで高くて躊躇していた、というマニアの方にもBursonサウンドのエッセンスを届けてくれることでしょう。
http://www.aiuto-jp.co.jp/products/product_1500.php
DACは内蔵していませんので、他にCDプレーヤーとかDACが必要になります。アユートさんではAstell & kernシリーズがUSB DACとしても使えますので、それを使用してさらに発展させるためのキーとしてSoloist SLを提案するという形になります。
たとえば話題の平面型ヘッドフォンを試してみたい、というときにはこうした専用の高出力のヘッドフォンアンプがあった方が良いわけです。
もちろんAKシリーズでなくても、普及価格のヘッドフォンアンプとして優れていますので、すでにUSB DACをもっている人で、DAC内蔵アンプを使用している人にもお勧めです。音を一ランク上げてくれます。
* Bursonのオーディオ哲学とSoloist SL
BursonはHeadFiでもよく見かけるブランドで、オーディオマニアに支持されるオーディオブランドです。もともとがオーストラリアのオーディオコミュニティがあって、その代表者がMark Bursonという人だったのですが、オーディオマニアがほしがるような製品をみんなで作ろうということでできたのがこのBursonブランドです。ですので、製品はマニアック志向で、ショートシグナルパス、オペアンプをきらったディスクリート回路設計や強力な電源が特徴です。
Bursonの哲学としては、シンプルな回路で高品質パーツで音質を引き出し、オペアンプや既成トランスなどを使わないということです。
Bursonのホームページに掲げられている"Less is more"というのは日本語で言うとシンプルイズベスト、ということです。オペアンプを使う方がシンプルじゃないかと突っ込まれることもありますが、オペアンプはもともとPC用の汎用パーツであり、中には複雑な構成物がはいっいるので結局シンプルではなく、またオーディオに必要ない部分も通ってしまうので、はじめからディスクリートで必要なパーツだけ組んだ方がよいというわけですね。
Bursonいわく、機材が透明で音に忠実であれば、テンポ、ダイナミクス、音色は自然に生じてくるもので、元の音に不必要な着色をする必要はないということだそうです。こうした理想を達成するためにはオペアンプは排すべきだというのがBursonの主張です。
実のところ、はじめのHA-160では信号経路に32個の部品を使っていましたが、Soloistではさらに設計を突き詰めて、FETをベースに21個のみのシンプルなコンポーネントで設計されています。これも設計中に少しずつパーツを減らしていくたびに透明感が出てきたということです。
パワーサプライでもきちんとノイズを抑える工夫がなされていますが、そこでもオペアンプが使われていないという徹底ぶりです。
この辺からもBursonがマニアが立ち上げて理想を追求するメーカーと言うことが分かってくるのではないかと思います。
Soloist SLはSoloistからプリアンプ機能をはずしてヘッドフォンアンプに特化したものです。またステップアッテネーターをはずしてAlpsボリュームにすることで低価格化も行っています。普通のメーカーだと性能を高めるためにAlpsを採用しましたと書くところも多いので、低価格にするためにAlpsにしたっていうところからもこのメーカーの真摯な姿勢が分かると思います。他にシャーシのアルミ外装も少し簡易化していますが、まだまだがっちりとしています。もともとオーバースペックだったものを適性化したという方が正しいと思います。
最大出力も4W/chから2W/chに変更されていますが、2W/chでもまだまだヘッドフォンアンプ全体からみると高出力な方です。実際に平面型のHE560でも十分駆動できます。
* Soloist SLの使用例と音質
今回はAK240をUSB DACとして使用して以下のようなシステムをセットアップしてみました。
まずPC上にオーディオ再生用の音楽再生ソフトが必要です。私は高機能で慣れているのでJRiver Media centerを使っていますが、Foobar 2000でもかまいません。この場合はASIOドライバーならば対応するコンポーネントのインストールが必要になります(JRMCでははじめから組み込んでます)。
次にPCとAK240をUSBケーブルで接続します。これは別売りで購入する必要がありますがUSBマイクロB端子が付いた高音質のUSBケーブルがお勧めです。私はFitear microを使用しました。他にはWireWorldなどでも用意されています。
AK240とSoloistを接続するケーブルはアナログ部分なのでこれも良いケーブルを使いたいところですが、このSoloist SLに添付されているRCAケーブルも意外とよいので、はじめはこれを使っていてもよいと思います。ただしAK240のイヤフォン端子に接続しますので、ミニプラグとRCAの変換プラグが必要です。これはお店とかAmazonで安く購入できます。AK240では設定においてライン出力を選択し、USBの用途をMTPではなくDACにします。
システムとしてはこんな感じです。
PC(JRiver) - USB cable(FitEar) - AK240 - RCA cable(付属) - Soloist SL - HE560
このシステムにおいてゼンハイザーHD800とHiFiman HE560で聴きました。音楽をありのままに聞きたいときはHD800、少し強調して聞きたいときはHE560などの選択が良いですね。Soloistはパワーがあるので平面型であるHE560もぐいぐいとならせます。仮に音量が十分あったとしても、軽々と朗々となるような感じでないと駆動力不足だと思います。
まず感じる音の印象は透明感の高さで、気持ちよいくらい透明感のひときわ高い音質が堪能できます。
透明感というのも他で感じる単なるクリアさとは少し異なっていて、Soloistの良いところは鮮度感が高いということです。鮮度感というとあいまいではありますが、音に直接触れるような生々しさ、という感じでしょうか。音がベールなしでダイレクトに届く感じです。この辺はBursonの開発哲学のシンプルさが効いているんでしょう。また音色も雑味がなくすっきりとピュアに感じられます。音の立ち上がりとスピードが早いのも特徴でリズムの速い曲も軽快に鳴らしてくれます。
HE560あたりだと低音が深く重く、どっしりとした重量感もあります。中高音域はシャープで突き抜けるように上に伸びてゆく感じで、ヴォーカルはわりと近めに感じられます。楽器やヴォーカルの音は鮮明でヴォーカルの歌詞もよく聴き取れます。
周波数的な帯域バランスは整っていて、強調感をあまり感じません。音色はニュートラルで暖かみや脚色感はありません。もちろん無機的ではなく、味気ないという音ではありません。こうしたアンプはいわゆるモニター的というか客観的に感じられやすいものですが、Soloistは聴く人に近く、音楽の躍動感を届けてくれます。音の広がりは標準的ですが、ここはほかの要素を調整してゆくことでも伸ばすことが可能かもしれません。
他のUSB DACを使用してもまたいろいろと音を変えていけると思います。CHORD Hugoを持っている人にもお勧めです。Hugoは内蔵アンプも強力ですが、Soloist SLを使うことでさらに迫力のある音を楽しめます。
ハイレゾプレーヤーからオーディオ入門してイヤフォンしか聴いていなかったという方、USB DACを購入したけれども専用のヘッドフォンアンプをもっていない方には特にお勧めです。また手ごろな価格でヘッドフォンアンプを探していたという人にもお勧めです。そしてBursonの音に興味があったけれどもいままで高くて躊躇していた、というマニアの方にもBursonサウンドのエッセンスを届けてくれることでしょう。
2014年12月12日
アユートからBurson AudioのSoloist SLが登場
Astell&Kernで知られるアユートからBurson(バーソン) AudioのSoloist SL(ソロイスト・エスエル)が登場します!
マニアックな凝りようで知られるバーソン製品をお求めやすい価格で販売がなされます。店頭価格は6万を切ると思います。
アユートではAKシリーズでオーディオに興味を持った方に、家でのヘッドフォンリスニングを提案するという形でBurson Audioの販売をするようです。AKシリーズは高音質でかつ高機能ですから、外だけで使うのはもったいないですね。AKシリーズを核としたオーディオシステムと言うのがあっても良いと思います。AK第2世代ならば、無線でNASやPCとも接続できますし、USB DACとしても活躍できます。
BursonはHeadFiでもよく見かけるオーディオマニアに支持されるオーディオブランドです。もともとがオーストラリアのオーディオコミュニティがあって、その代表者がMark Bursonという人だったのですが、オーディオマニアがほしがるような製品をみんなで作ろうということでできたのがこのBursonブランドです。ですので、製品はマニアック志向で、最短の信号経路の追求、オペアンプをきらったディスクリート回路設計や強力な電源が特徴です。
BursonはHA160というヘッドフォンアンプで一躍有名となりましたが、シンプルイズベストを実践して信号経路にわずか部品を21個として設計を一新したプリ・ヘッドフォンアンプがSoloistです。そのプリ機能などを取ったヘッドフォンアンプ専用バージョンがSoloist SLです。
普通はDAC付きのヘッドフォンアンプをお勧めしますが、Astell&Kernをお待ちの方はすでにAstell&Kernが良いUSB DACとしても機能しますので、ヘッドフォンアンプ専用機を買った方がムダ感がなくてよいかもしれませんね。
特にパワーが強力なので、最近はやりの平面型ヘッドフォンでも鳴らせます。日頃はイヤフォンだけという方にも、ハイエンドヘッドフォンの性能と高い再現力の世界を手に入れやすくなったと言えるでしょう。
聞いてみるとたしかにベールを何枚かはがしたような、生々しい音再現です。またHD800であっても、ベースがかなり深く絞り出されるように迫力のある再現力を聴かせてくれます。
AK240とパッケージに付属してくるケーブルのシンプルなシステムでもわりと良い音で聴くことができます。上の写真ではミニ/RCAアダプタを別に追加していますが、ケーブルは付属のものです。このケーブルは付属品にしては悪くないです。
ヘッドフォンでは平面型HE560を軽々と鳴らし、HE560がダイナミックに透明感高く音楽を再生します。さすがパーソンだけあってコスパ良い音質です。
安くて音質の良いヘッドフォンアンプを探してた人にオススメです。
マニアックな凝りようで知られるバーソン製品をお求めやすい価格で販売がなされます。店頭価格は6万を切ると思います。
アユートではAKシリーズでオーディオに興味を持った方に、家でのヘッドフォンリスニングを提案するという形でBurson Audioの販売をするようです。AKシリーズは高音質でかつ高機能ですから、外だけで使うのはもったいないですね。AKシリーズを核としたオーディオシステムと言うのがあっても良いと思います。AK第2世代ならば、無線でNASやPCとも接続できますし、USB DACとしても活躍できます。
BursonはHeadFiでもよく見かけるオーディオマニアに支持されるオーディオブランドです。もともとがオーストラリアのオーディオコミュニティがあって、その代表者がMark Bursonという人だったのですが、オーディオマニアがほしがるような製品をみんなで作ろうということでできたのがこのBursonブランドです。ですので、製品はマニアック志向で、最短の信号経路の追求、オペアンプをきらったディスクリート回路設計や強力な電源が特徴です。
BursonはHA160というヘッドフォンアンプで一躍有名となりましたが、シンプルイズベストを実践して信号経路にわずか部品を21個として設計を一新したプリ・ヘッドフォンアンプがSoloistです。そのプリ機能などを取ったヘッドフォンアンプ専用バージョンがSoloist SLです。
普通はDAC付きのヘッドフォンアンプをお勧めしますが、Astell&Kernをお待ちの方はすでにAstell&Kernが良いUSB DACとしても機能しますので、ヘッドフォンアンプ専用機を買った方がムダ感がなくてよいかもしれませんね。
特にパワーが強力なので、最近はやりの平面型ヘッドフォンでも鳴らせます。日頃はイヤフォンだけという方にも、ハイエンドヘッドフォンの性能と高い再現力の世界を手に入れやすくなったと言えるでしょう。
聞いてみるとたしかにベールを何枚かはがしたような、生々しい音再現です。またHD800であっても、ベースがかなり深く絞り出されるように迫力のある再現力を聴かせてくれます。
AK240とパッケージに付属してくるケーブルのシンプルなシステムでもわりと良い音で聴くことができます。上の写真ではミニ/RCAアダプタを別に追加していますが、ケーブルは付属のものです。このケーブルは付属品にしては悪くないです。
なおケーブルについてはORBさんと共同でミニ-RCAケーブルを用意するようです。
ヘッドフォンでは平面型HE560を軽々と鳴らし、HE560がダイナミックに透明感高く音楽を再生します。さすがパーソンだけあってコスパ良い音質です。
安くて音質の良いヘッドフォンアンプを探してた人にオススメです。
2013年12月17日
CHORD Hugoのインタビュー動画がアップされました
前にCHORDの高性能ポータブルアンプ、Hugoの内覧会の記事を書きましたが、そのときの動画が下記のフジヤさん作成のもと、Youtubeにアップされました。
2部に分かれていて、一部ではかなり細かい技術的なところにも踏み込み、2部では私とのインタビューが収録されています。
一部
http://www.youtube.com/watch?v=trypeVPenSE&feature=youtu.be
二部
http://www.youtube.com/watch?v=fJWnhIRw9HM&feature=youtu.be
お楽しみください!
2部に分かれていて、一部ではかなり細かい技術的なところにも踏み込み、2部では私とのインタビューが収録されています。
一部
http://www.youtube.com/watch?v=trypeVPenSE&feature=youtu.be
二部
http://www.youtube.com/watch?v=fJWnhIRw9HM&feature=youtu.be
お楽しみください!
2013年10月24日
Shureの新クローズタイプのフラッグシップ、SRH1540登場
本日Shureのヘッドフォンの新製品発表会がありました。新製品はShureの新しいクローズタイプヘッドフォンのフラッグシップとなるSRH1540です。
発表会はShureのヘッドフォン担当であるマイケルジョーンズ(MJ)によるプレゼンで進行しました。
SRH1540はカーボンファイバーのキャップ、APTIVEのダイアフラム、Alcantaraのイヤパッドなど新素材の採用とSRH1840からの改良がポイントとなります。
またデザインは従来のクローズタイプのSRH940やSRH840から大きく変わりオープンのSRH1840に近いものとなりました。それをクローズタイプにするためのハウジングのキャップにはカーボンファイバーが採用されて、1840同様の航空機グレードのアルミニウムフレームとともに大幅な軽量化がはかられています。
見た目も含めて密閉型の新しいフラッグシップと言えますね。
* SRH1540の特徴
特徴としてはまずAPTIVという新素材フィルムを使った40mm後継の新型ドライバーがポイントです。
APTIVはヘッドフォンやスピーカーに従来使われているマイラーとは違うPEEK(ポリ・エーテル・エーテル・ケトン)という樹脂で作られています。
APTIVダイアフラムの長所は優れた強度と弾性です。一般にヘッドフォンのダイアフラムは薄くしたいものですが、薄くすると歪みやすくなります。その点でPEEKは強度と弾性に優れ、リニアな周波数特性とTHDが良いということです。また温度や環境変化に強いのももう一つのポイントです。
またドライバーではセンターポールピースの採用で空気の流れと筐体の鳴りを防いでいます。下の写真は穴の空いているセンターポールピースのエアフローによるアコースティックレジスタンス(こもる空気による抵抗)を説明するMJです。
外観上の特徴はカーボンファイバーのハウジング(キャップ)です。これは本物のカーボンファイバーでUVコーティングにより変色を防ぐ工夫も施しているということです。
カーボンファイバーを採用した理由はデザイン的な良さもさることながら、筐体の剛性を高めて不要な鳴りを減らすという音質的なメリットもありますし、クローズタイプを軽量化させるにも貢献しています。また耐久性も優れています。
SRH1540はサーカムオーラル(いわゆるオーバーイヤー)のタイプですが、イヤパッドにも新素材が採用されています。これはAlcantara(アルカンタラ)という素材で、スペイン製と日本の東レの合弁開発ということです。
Alcantaraは形状復元性が高く、耐久性と快適性が高いので採用したそうですが、実際に試すと音響的にも良かったということです。これはMJもいたく気に入ってるようでした。
フレームの部分には地道な改良が見られます。ヘッドバンドはプロテインレザーで本物っぽく仕上げ、1840より少し厚くして快適性をあげたとのこと。
SRH1540のフレームはSRH1840とおなじ航空機グレードのフレーム(ヨーク)を採用しています。ここも細かな改良があってSRH1840よりも角を取ってスムーズにしたということです。またヨークの部分にもスチルバネを入れて動作をスムーズしているのも1840からの改良点です。
これらの改良点はいずれ1840にもフィードバックすることになるということです(1840Aとか)。
ケーブルはMMCXコネクタのケーブル(1840で評判が良かった)で、これは後述のようにオーディオファイル向けのリケーブルを考慮したからだそうです。
細かいところではケースもデザイン変更していて、ケーブルやスペアパッドなども一緒に入れられるようになっています。
* ターゲットユーザー
SRH1540のターゲットユーザーは第一にオーディオファイルです。
これは単に音楽を聴くよりクリティカルリスニング(録音や音の鳴り方を聞き見極める)を求めるユーザーのことと定義したということ。
また、電車で音楽をカジュアルに聴くようにも考えられています。
もちろんプロフェッショナルでもサウンドエンジニアにモニターとして使えるように考慮はしています。
しかしケーブルをプロに好まれる方だしではなく両出しにしたように、どちらかというとオーディオファイル向けでケーブル交換も視野に入れているからだそうです。
音作りについてはSRH1840ではバランスを良くしているが、SRH1540ではオーディオファイル向けに少し低域を強調しているということでした。
能率とインピーダンスは99dBと46Ωということで、やや能率低めだけど直さしでもオーケーに作ってるということです。
* 使用感と音質
まずSRH1540を手に持った瞬間に軽いと感じます。クローズとしては軽いですね。装着感はSRH1840と変わらないように思えます。
他のShure機と比べてみると、SRH1840は260g、SRH1540は286g、SRH940は320gですからクローズとしては軽くなっています。
似た構造の1840と比べるとクローズなんでキャップの分ちょっと重いようですが、それはカーボンファイバーで軽く出来たということのようです。
ケーブルは弾力性がありからみにくいように作られています。長さの1.8mはポータブルとプロの折衷を取ったっということです。ポータブル用にはMMCXのリケーブルが良さそうです。
聴いてみるとクローズとは思えないくらい広がりがあり、空間の深みもあります。楽器の分離も良く、高レベルの音再現です。スピード感も高くリズムのノリも良いですし、解像感も高く低域の深みも低さもある。全体的な音はSRH1840をクローズにしたように思わせます。ただしクローズにあるこもり感は少なくクリーンですね。
本当にスタジオモニターみたいなSRH940よりは味付けがあると思いますが、低域は強調されていると言うほどではない思います。
* まとめ
1540にしたのは単にクローズの三桁が940で尽きたのと、価格が1440と1840のあいだだからだそうです。(予価は5万円前後のよう)
位置づけはあくまでオープンの1840と同格のクローズのフラッグシップです。
SRH1540はフラッグシップとしてのデザインの良さと質感を備え、素材と見た目に凝っているプレミアム性があります。またクローズとしては軽く出来ています。
音質も良く、SRH1840同等以上だと思います。ここはもう少し細かく聴かないと細かなニュアンスまではわかりませんが。
新素材の積極的な採用と1840からの地道な改良が結実したのがこのSRH1540です。この華やかさと地道さの両立がさすがShureで、新製品がうまく仕上がっています。価格も抑えめでコストパフォーマンスも高いと思います。
もちろんヘッドフォン祭ではShureのブースで展示しますのでぜひお越しください。
発表会はShureのヘッドフォン担当であるマイケルジョーンズ(MJ)によるプレゼンで進行しました。
SRH1540はカーボンファイバーのキャップ、APTIVEのダイアフラム、Alcantaraのイヤパッドなど新素材の採用とSRH1840からの改良がポイントとなります。
またデザインは従来のクローズタイプのSRH940やSRH840から大きく変わりオープンのSRH1840に近いものとなりました。それをクローズタイプにするためのハウジングのキャップにはカーボンファイバーが採用されて、1840同様の航空機グレードのアルミニウムフレームとともに大幅な軽量化がはかられています。
見た目も含めて密閉型の新しいフラッグシップと言えますね。
* SRH1540の特徴
特徴としてはまずAPTIVという新素材フィルムを使った40mm後継の新型ドライバーがポイントです。
APTIVはヘッドフォンやスピーカーに従来使われているマイラーとは違うPEEK(ポリ・エーテル・エーテル・ケトン)という樹脂で作られています。
APTIVダイアフラムの長所は優れた強度と弾性です。一般にヘッドフォンのダイアフラムは薄くしたいものですが、薄くすると歪みやすくなります。その点でPEEKは強度と弾性に優れ、リニアな周波数特性とTHDが良いということです。また温度や環境変化に強いのももう一つのポイントです。
またドライバーではセンターポールピースの採用で空気の流れと筐体の鳴りを防いでいます。下の写真は穴の空いているセンターポールピースのエアフローによるアコースティックレジスタンス(こもる空気による抵抗)を説明するMJです。
外観上の特徴はカーボンファイバーのハウジング(キャップ)です。これは本物のカーボンファイバーでUVコーティングにより変色を防ぐ工夫も施しているということです。
カーボンファイバーを採用した理由はデザイン的な良さもさることながら、筐体の剛性を高めて不要な鳴りを減らすという音質的なメリットもありますし、クローズタイプを軽量化させるにも貢献しています。また耐久性も優れています。
SRH1540はサーカムオーラル(いわゆるオーバーイヤー)のタイプですが、イヤパッドにも新素材が採用されています。これはAlcantara(アルカンタラ)という素材で、スペイン製と日本の東レの合弁開発ということです。
Alcantaraは形状復元性が高く、耐久性と快適性が高いので採用したそうですが、実際に試すと音響的にも良かったということです。これはMJもいたく気に入ってるようでした。
フレームの部分には地道な改良が見られます。ヘッドバンドはプロテインレザーで本物っぽく仕上げ、1840より少し厚くして快適性をあげたとのこと。
SRH1540のフレームはSRH1840とおなじ航空機グレードのフレーム(ヨーク)を採用しています。ここも細かな改良があってSRH1840よりも角を取ってスムーズにしたということです。またヨークの部分にもスチルバネを入れて動作をスムーズしているのも1840からの改良点です。
これらの改良点はいずれ1840にもフィードバックすることになるということです(1840Aとか)。
ケーブルはMMCXコネクタのケーブル(1840で評判が良かった)で、これは後述のようにオーディオファイル向けのリケーブルを考慮したからだそうです。
細かいところではケースもデザイン変更していて、ケーブルやスペアパッドなども一緒に入れられるようになっています。
* ターゲットユーザー
SRH1540のターゲットユーザーは第一にオーディオファイルです。
これは単に音楽を聴くよりクリティカルリスニング(録音や音の鳴り方を聞き見極める)を求めるユーザーのことと定義したということ。
また、電車で音楽をカジュアルに聴くようにも考えられています。
もちろんプロフェッショナルでもサウンドエンジニアにモニターとして使えるように考慮はしています。
しかしケーブルをプロに好まれる方だしではなく両出しにしたように、どちらかというとオーディオファイル向けでケーブル交換も視野に入れているからだそうです。
音作りについてはSRH1840ではバランスを良くしているが、SRH1540ではオーディオファイル向けに少し低域を強調しているということでした。
能率とインピーダンスは99dBと46Ωということで、やや能率低めだけど直さしでもオーケーに作ってるということです。
* 使用感と音質
まずSRH1540を手に持った瞬間に軽いと感じます。クローズとしては軽いですね。装着感はSRH1840と変わらないように思えます。
他のShure機と比べてみると、SRH1840は260g、SRH1540は286g、SRH940は320gですからクローズとしては軽くなっています。
似た構造の1840と比べるとクローズなんでキャップの分ちょっと重いようですが、それはカーボンファイバーで軽く出来たということのようです。
ケーブルは弾力性がありからみにくいように作られています。長さの1.8mはポータブルとプロの折衷を取ったっということです。ポータブル用にはMMCXのリケーブルが良さそうです。
聴いてみるとクローズとは思えないくらい広がりがあり、空間の深みもあります。楽器の分離も良く、高レベルの音再現です。スピード感も高くリズムのノリも良いですし、解像感も高く低域の深みも低さもある。全体的な音はSRH1840をクローズにしたように思わせます。ただしクローズにあるこもり感は少なくクリーンですね。
本当にスタジオモニターみたいなSRH940よりは味付けがあると思いますが、低域は強調されていると言うほどではない思います。
* まとめ
1540にしたのは単にクローズの三桁が940で尽きたのと、価格が1440と1840のあいだだからだそうです。(予価は5万円前後のよう)
位置づけはあくまでオープンの1840と同格のクローズのフラッグシップです。
SRH1540はフラッグシップとしてのデザインの良さと質感を備え、素材と見た目に凝っているプレミアム性があります。またクローズとしては軽く出来ています。
音質も良く、SRH1840同等以上だと思います。ここはもう少し細かく聴かないと細かなニュアンスまではわかりませんが。
新素材の積極的な採用と1840からの地道な改良が結実したのがこのSRH1540です。この華やかさと地道さの両立がさすがShureで、新製品がうまく仕上がっています。価格も抑えめでコストパフォーマンスも高いと思います。
もちろんヘッドフォン祭ではShureのブースで展示しますのでぜひお越しください。
超弩級の平面駆動ヘッドフォン、Abyss AB1266
昨年CanJamで披露されてから話題の超ド級の平面駆動ヘッドフォンがこのJPS Labsが開発したAbyss AB1266です。
私もシンガポールのショウで聴いたときは感動しましたが、それがヘッドフォン祭でも聴くことができます !
ホームページはこちらです。
http://www.abyss-headphones.com/
会社のJPS Lab自体は基本的にはケーブルメーカーで、Abyssの設計者は米国B&Wにいた人のようです。
AbyssはAB1266という型番でダイナミック型の平面駆動ヘッドフォンです。AudezeのLCDやHiFimanのHEシリーズに似た形式です。しかし設計のキー技術については秘密とされています。
静電型ではないこうしたダイナミック型の平面型はオルソ・ダイナミック(またはアイソ・ダイナミック)とひとくくりで呼ばれますが、Abyssは普通のオルソ・ダイナミックとは異なる技術がつかわれているようです。
パッケージの段ボール箱には多数のアクセサリーがおさめられています。ケーブルは3pinx2バランス型が基本で、4pinXLRと標準シングルがアダプター経由で付属してきます。この辺の豪華さはケーブルメーカーならではです。またヘッドフォンスタンドが付属してきます。高価格なものなのでこれはうれしいですね。
さらに中には木箱があり、その中に皮のキャリングバッグが入ってます。バッグの出来も良いですね。アクセサリーもさすがアメリカ製ということで細かいところもよく作られてます。
さらにその中にパッドがない状態でAbyssが入ってます。面白いのはなぜパッドが別パーツかというと、ハウジング側にマグネットピンがあり、それに自分で好きな位置に装着することでユーザーの好みの位置にセットできるからです。微妙にパッドの形状が傾斜していますので、どこが正しいかは自分で見つけることになります。これはヘッドバンドも同様で、真中のピボットで角度を可変して装着位置を変えられます。
なかなかデザインはごつくて金属製のヘッドフォン本体は重量感がありますが、重すぎるほどではありません。Audezeよりも気にならないくらいかもしれません。装着はすぽっと頭にはめる感じで、初めは違和感がありますが聴いてるとしっくりはまってきます。パッドの出来がとても良い感じです。
これは新品のデモ品なのでエージングなしで聞いた感想です。
能率は85dBと異常に低いのでHE6むけの超ハイパワーアンプEF6とDACはChord QuteHDで聴きました。実際にAbyssのインプレでいまひとつというのも見かけますが、アンプによると思います。バランスだから良いというものではなく、私もシンガポールで聴いたときははじめいま一つでしたが、RP030に変えたら驚くほどの音を出してくれました。単にバランス駆動と言うだけでは不足で、平面型用とうたっているハイパワーアンプが必須です。AudezeのLCDを鳴らすよりもひとレベル上のアンプを目安にしてHE6レベルの要件が望ましいと思います。
音源はおもにE-onkyoのHOFF ENSEMBLEのQuiet Winter night 192kHzで聞きました。これはお勧めの音源です。
e-Onkyoのハイレゾダウンロードリンクはこちらです。
http://www.e-onkyo.com/music/album/twl0873/
バーンインなしなのできつさは割り引いて考えてますが、それでもきつすぎずに十分聞ける状態です。
一曲目を再生してすぐに、まるでスピーカーで聴いているような音空間の深みに圧倒されます。そう、圧倒されるという表現が正しいですね。あのシンガポールでRP030と聴いた感動です。実際にはスピーカーのような音場ではありませんが、こうした音空間の深みと言うのはあまり聞いたことがないレベルです。逆に言うとスピーカーでも得られない独特の表現ですね。
音の細かさもSTAXレベルで感じられ、192kHzでは足りないぞと言わんばかりの解像力です。録音の違いもあいまいにしないで明瞭に再現するので良録音のソースがよいでしょう。
高域はバーンインなしでも尖りすぎずにかつ上に伸びてます。高域楽器のキレの良さ、分離感は最高レベルです。Blue CoastのGarett BrennanのDog Song 96Kではギターのピッキングでの硬質感と音の芯の強さが印象的です。楽器は広い空間に深さを持って三次元的に浮いています。ベースも量感たっぷりで迫力とインパクト、タイトな小気味良さを両立しています。
ヴォーカルはゾクっとするくらいリアルで思わず目を閉じて聴き入ってしまいたくなります。特にQuiet Winter nightでの男性ヴォーカルと女性ヴォーカルが交互に歌う箇所では男声と女声の対比が明確で驚きました。こんなに違うんですね、といまさら言いたくなるくらい音程・声質の違いを鮮明に教えてくれます。
もちろんDSD再生させても独特の滑らかさと優しさを良く表現してくれます。音楽ジャンルではクラシックやジャズのようなアコースティックの音楽だけではなくロックなども低域のインパクトがあってかっこ良く聞くことができます。録音に凝っていてうまく空間の深みを活かせるとエレクトロニカなどの電子音系でも意外といけます。
同じようにケーブル改造したT1と比べてもやはり差はあります。Abyssの深み、豊かさ、濃さ、音の重みはクラス上だと感じます。そして音楽的で滑らか、わずかに暖かみがあって分析的ではありません。性能だけではなく音楽性も良いのが印象的です。
平面型と言うことでSTAXと比べると、記憶にあるSTAX SR009はもっと細身で分析的です。EF6+Abyssはもっと厚くて豊かな音再現を持ってます。ダイナミック型の良さも兼ね備えていますね。音の性格的にはSR009よりSR007に近い感じで、SR007をダイナミックにした感じでしょうか。ただ音空間はもっと深く広く、解像力がありながら骨太と言う感じでSR007のようなベール感はありません。
たしかに高価ですが、SR009に36万円を出すならば、Abyssが50万と言うのは納得できる価格だと思います。ただし繰り返しますが、条件としては強力なアンプを使うことです。もちろんソース機材も優秀なものが必要でしょう。
CanJamでは平面型祭りと言う感じでしたが、このAbyss、Jabenのブースで公開、試聴できます。Jabenブースの場所は10F大部屋の中央で、今回は2テーブル使用します。
またヘッドフォンアンプはなんとCanJamでも出ていた真空管アンプCavalli(カバリオ)の予定です。Abyssとの組み合わせはJudeもお勧めと言っていましたね。Cavalliだけでもトピックになりそうです。
日本で聴けるこの機会にぜひ聴いてみてください。
私もシンガポールのショウで聴いたときは感動しましたが、それがヘッドフォン祭でも聴くことができます !
ホームページはこちらです。
http://www.abyss-headphones.com/
会社のJPS Lab自体は基本的にはケーブルメーカーで、Abyssの設計者は米国B&Wにいた人のようです。
AbyssはAB1266という型番でダイナミック型の平面駆動ヘッドフォンです。AudezeのLCDやHiFimanのHEシリーズに似た形式です。しかし設計のキー技術については秘密とされています。
静電型ではないこうしたダイナミック型の平面型はオルソ・ダイナミック(またはアイソ・ダイナミック)とひとくくりで呼ばれますが、Abyssは普通のオルソ・ダイナミックとは異なる技術がつかわれているようです。
パッケージの段ボール箱には多数のアクセサリーがおさめられています。ケーブルは3pinx2バランス型が基本で、4pinXLRと標準シングルがアダプター経由で付属してきます。この辺の豪華さはケーブルメーカーならではです。またヘッドフォンスタンドが付属してきます。高価格なものなのでこれはうれしいですね。
さらに中には木箱があり、その中に皮のキャリングバッグが入ってます。バッグの出来も良いですね。アクセサリーもさすがアメリカ製ということで細かいところもよく作られてます。
さらにその中にパッドがない状態でAbyssが入ってます。面白いのはなぜパッドが別パーツかというと、ハウジング側にマグネットピンがあり、それに自分で好きな位置に装着することでユーザーの好みの位置にセットできるからです。微妙にパッドの形状が傾斜していますので、どこが正しいかは自分で見つけることになります。これはヘッドバンドも同様で、真中のピボットで角度を可変して装着位置を変えられます。
なかなかデザインはごつくて金属製のヘッドフォン本体は重量感がありますが、重すぎるほどではありません。Audezeよりも気にならないくらいかもしれません。装着はすぽっと頭にはめる感じで、初めは違和感がありますが聴いてるとしっくりはまってきます。パッドの出来がとても良い感じです。
これは新品のデモ品なのでエージングなしで聞いた感想です。
能率は85dBと異常に低いのでHE6むけの超ハイパワーアンプEF6とDACはChord QuteHDで聴きました。実際にAbyssのインプレでいまひとつというのも見かけますが、アンプによると思います。バランスだから良いというものではなく、私もシンガポールで聴いたときははじめいま一つでしたが、RP030に変えたら驚くほどの音を出してくれました。単にバランス駆動と言うだけでは不足で、平面型用とうたっているハイパワーアンプが必須です。AudezeのLCDを鳴らすよりもひとレベル上のアンプを目安にしてHE6レベルの要件が望ましいと思います。
音源はおもにE-onkyoのHOFF ENSEMBLEのQuiet Winter night 192kHzで聞きました。これはお勧めの音源です。
e-Onkyoのハイレゾダウンロードリンクはこちらです。
http://www.e-onkyo.com/music/album/twl0873/
バーンインなしなのできつさは割り引いて考えてますが、それでもきつすぎずに十分聞ける状態です。
一曲目を再生してすぐに、まるでスピーカーで聴いているような音空間の深みに圧倒されます。そう、圧倒されるという表現が正しいですね。あのシンガポールでRP030と聴いた感動です。実際にはスピーカーのような音場ではありませんが、こうした音空間の深みと言うのはあまり聞いたことがないレベルです。逆に言うとスピーカーでも得られない独特の表現ですね。
音の細かさもSTAXレベルで感じられ、192kHzでは足りないぞと言わんばかりの解像力です。録音の違いもあいまいにしないで明瞭に再現するので良録音のソースがよいでしょう。
高域はバーンインなしでも尖りすぎずにかつ上に伸びてます。高域楽器のキレの良さ、分離感は最高レベルです。Blue CoastのGarett BrennanのDog Song 96Kではギターのピッキングでの硬質感と音の芯の強さが印象的です。楽器は広い空間に深さを持って三次元的に浮いています。ベースも量感たっぷりで迫力とインパクト、タイトな小気味良さを両立しています。
ヴォーカルはゾクっとするくらいリアルで思わず目を閉じて聴き入ってしまいたくなります。特にQuiet Winter nightでの男性ヴォーカルと女性ヴォーカルが交互に歌う箇所では男声と女声の対比が明確で驚きました。こんなに違うんですね、といまさら言いたくなるくらい音程・声質の違いを鮮明に教えてくれます。
もちろんDSD再生させても独特の滑らかさと優しさを良く表現してくれます。音楽ジャンルではクラシックやジャズのようなアコースティックの音楽だけではなくロックなども低域のインパクトがあってかっこ良く聞くことができます。録音に凝っていてうまく空間の深みを活かせるとエレクトロニカなどの電子音系でも意外といけます。
同じようにケーブル改造したT1と比べてもやはり差はあります。Abyssの深み、豊かさ、濃さ、音の重みはクラス上だと感じます。そして音楽的で滑らか、わずかに暖かみがあって分析的ではありません。性能だけではなく音楽性も良いのが印象的です。
平面型と言うことでSTAXと比べると、記憶にあるSTAX SR009はもっと細身で分析的です。EF6+Abyssはもっと厚くて豊かな音再現を持ってます。ダイナミック型の良さも兼ね備えていますね。音の性格的にはSR009よりSR007に近い感じで、SR007をダイナミックにした感じでしょうか。ただ音空間はもっと深く広く、解像力がありながら骨太と言う感じでSR007のようなベール感はありません。
たしかに高価ですが、SR009に36万円を出すならば、Abyssが50万と言うのは納得できる価格だと思います。ただし繰り返しますが、条件としては強力なアンプを使うことです。もちろんソース機材も優秀なものが必要でしょう。
CanJamでは平面型祭りと言う感じでしたが、このAbyss、Jabenのブースで公開、試聴できます。Jabenブースの場所は10F大部屋の中央で、今回は2テーブル使用します。
またヘッドフォンアンプはなんとCanJamでも出ていた真空管アンプCavalli(カバリオ)の予定です。Abyssとの組み合わせはJudeもお勧めと言っていましたね。Cavalliだけでもトピックになりそうです。
日本で聴けるこの機会にぜひ聴いてみてください。