TOPPING(トッピング)は、中国・広州に拠点を置く2008年設立のオーディオブランドです。
デスクトップ向けDACやヘッドフォンアンプを中心に展開、測定性能が高く、高コストパフォーマンスのブランドとして知られています。
その中核技術が「NFCA」です。DX5IIはそのNFCAをベースに、さらに発展させた「X-Hybrid Triple-Stage Hybrid Amplification」を採用したフルバランスDAC内蔵ヘッドフォンアンプです。市場価格は約49,500円と手頃ながら、内容は上位機にも迫る完成度を持っています。
1 NFCAとは何か
TOPPING社の基幹技術はNFCA(Nested Feedback Composite Amplifier)技術です。しかしNFCAとはなにかということに触れた記事があまりないのでTOPPINGの開発に直接聞いてみました。
NFCAとは「Nested Feedback Composite Amplifier(入れ子型複合フィードバックアンプ)」の略で、端的に言えば複数のNFB(負帰還)ループを多段式に組み合わせることで、極めて高いS/N比と低歪みを実現する設計です。NFBとは回路の出力を反転させて戻し、その差分から歪みを取る仕組みのことで、NFB自体は古くからある技術です。しかし、過度な負帰還はトランジェント(立ち上がり)が鈍くなり、音の勢いを失わせるという問題がありました。例えばドラムの瞬発的な立ち上がりで、音の立ち上がりが鈍くなることで音が生き生きとしていないなどということです。これはオーディオ設計のトレードオフとして古くから知られた問題の一つです。
しかし最近では設計の進歩や優れたパーツのおかげでこの欠点を克服するアンプ回路がいろいろと出てきました。例えば日本でよく知られているTHX AAAもその一つで、最近話題にのぼるフィードフォーワード方式もその一つです。
NFCAもそうした最新の設計によりNFBの欠点を克服したアンプ設計です。例えば、位相の補償や電圧・電流ハイブリッド型の帰還方式(Voltage-Current Hybrid Feedback)など現代的な設計手法で、古い欠点を克服したわけです。こうした方式のポイントは単に古い欠点を克服しただけではなく、トランジェントをより向上させる可能性も有するということです。
結果として、NFCAは高い測定性能だけでなく応答速度や音の立ち上がりにも優れ、TOPPING製品が「測定値と聴感の両立」を実現している理由の一つになっています。
また、NFCAは多段NFBによって増幅動作を高精度に制御できるため、出力段の動作がより安定することで出力インピーダンスを極めて低く抑えることができます。これはヘッドフォンアンプに向いた特徴であり、このことによりヘッドフォンのインピーダンス変動に対しても安定した駆動を可能にしています。特にダイナミック型ヘッドフォンのように周波数ごとにインピーダンスが変化しやすいタイプでも、しっかりと制動を効かせます。つまりダイナミック型にありがちな低域が膨らまずに、それが引き締まるわけですね。
これは出力インピーダンスが小さいほど、ヘッドフォン側の揺らぐ抵抗値に影響されずに必要な電流を供給できるからです。結果的に音の信号である電圧に正しく沿ってヘッドフォンの再生ができます。
このようにNFCAは高SN、低出力インピーダンスを実現できるなど、ヘッドフォンアンプとして優れた資質を備えています。
次にDX5IIにおいてX-HybridとNFCAがどう関係しているのかを説明します。
2 X-Hybrid Triple-Stage Hybrid Amplificationとはなにか
TOPPINGではNFCAを基底技術としていますが、DX5IIでは、このNFCA技術をさらに安価な価格帯に落とし込むために「X-Hybrid Triple-Stage Hybrid Amplification(以下X-Hybrid)」を採用しています。
これは名前の通り、3段構成のハイブリッドアンプ構造で、「入力段」と「出力段」にディスクリート設計、「ゲイン段」にはオペアンプを用いる設計のことです。
入力と出力をディスクリート設計にする主な理由は設計の自由度の高さで、オペアンプよりも限界を上げられるということです。入力段・出力段をディスクリート化することで高い自由度と理想的なインピーダンス特性(ハイ受け・ロー出し)を確保し、ゲイン段に高性能オペアンプを採用することでコストと性能のバランスを取っているという設計がX-Hybridです。
つまりX-HybridがNFCAに代わるという説明は正しくありません。NFCAがX-Hybridになったわけではなく、過去にTOPPINGが開発したTanggulaアンプのようにコスト度外視で性能を追求したモデル向けに開発されたのがNFCAですが、そのエッセンスを5万円という手頃価格に落とし込むための工夫がX-Hybridというわけです。(例えば上位機種のA90 Discreteでは全てディスクリートです)
つまりTOPPING DX5IIがコスパが高い理由は、高価なパーツを使うのではなく、NFCAをX-Hybridで実現したような「巧みな回路設計の工夫」によって音を良くしているからです。測定性能が高いのは、NFCAという多段NFBを効果的に設計に活かしているからというわけです。
ここまででDX5IIの性能の高さの理由がわかってもらえたと思います。
次にDX5IIのDAC内蔵ヘッドフォンアンプとしての説明をします。
3 機能と設計
DX5 IIのDACには最新の ES9039Q2Mをデュアル搭載してフルバランス回路を構成しています(2chx2個)。
入力はUSB、光、同軸SPDIF、Bluetooth(LDAC対応)を備え、出力は4ピンXLR、4.4mm、6.3mm、RCA/XLRライン出力と充実しています。3.5mmはアダプタで対応します。
電源はACアダプターではなく、AC100Vを直接入力できるIECコネクター式というのが隠れたポイントです。中に巨大なトランスがあるわけではないかもですが、ケーブル交換の利便性が高いですね。なにげに12Vトリガーにも対応しています。
また、2.0インチのフルカラースクリーンを備え、再生状態、再生周波数表示(FFT)、VUメーター表示などが可能です。FFT表示は実際に再生中の楽曲の周波数分布を視覚的に確認できるなど、実用性も高く、UIデザインも洗練されています。これはなかなかみやすく使いやすいです。UIはボタン押しによるメニューの上下移動ですが、慣れれば簡単です。
また音質傾向を調整できるDACフィルターや、10バンドのパラメトリックEQ(PEQ)も搭載しています。NFCAによる高SN・低歪み設計はときに「分析的すぎる」と感じるユーザーもいますが、PEQによって好みに合わせた音色を変えられ、低音をやや強調したいユーザーにも柔軟に対応できます。
4 音質インプレッション、基本的な音質傾向について
主な試聴はMacBook Air M2をUSB接続し、まずモニター的性格のqdc「White Tiger」で音の全般的な確認をしました。
試聴して驚かされるのはノイズフロアの低さと着色感の少なさ、そして透明感の高さです。音の立ち上がりが早く、全帯域がフラットで、過剰な演出を感じさせません。強めのNFB構造でありながら、音がだるい印象はなく、躍動感をしっかりと感じさせます。
高域はスムーズで刺激が少なく、中域は端正で自然。低域は深く引き締まり、量感よりもコントロールを重視した鳴り方です。特に低域は抜群で、当然誇張感はありませんが、正確で深く引き締まる音です。
やはりTHX AAA系のクリーンな傾向に似ていますが、THX系よりもわずかに温度感があり、冷たすぎない感じです。
相性としてはジャズやクラシックなど上品な音楽が合いますが、アニソンのようなきつい録音の曲でもコントロールがうまくできているので、そつなく鳴らし切ってしまう良さもあってポップにも良いです。例えば「アイドル」のような複雑な曲でも破綻なく鳴らします。
ただ標準だと少し上品な鳴らし方なので、荒くしたい人はPEQを有効にして色をつけても面白いでしょう。プリセットでは「アイドル」にはAiry(EQ3)がよく合うと思いました。ヴォーカルの声がとてもきれいに通ります。
ただしPEQはXMOSを使用して32bitで演算しているようですが、オンにするとやや音が曇ります。標準の音が透明感が高いので余計に感じるが、おそらく計算の桁落ちなどの影響と考えられますが、PEQは必要な時だけに入れた方が良いと思う。
5 音質インプレッション、組み合わせと相性について
DX5IIは非常に駆動力が高く、高感度IEMからハイインピーダンスヘッドフォンまで幅広く対応します。いくつか、White Tiger以外にも試してみました。
* Campfire Audio 「Fathom」- 高感度イヤフォン(ノイズチェック)
かなり高感度のイヤフォンだが、ボリュームを動かす余地がかなり広くて、きめ細かい音量調整ができます。ゲインLはかなり低い設定に感じますね。ボリュームをかなり回しても無音では背景ノイズはほとんど聴こえません。DX5IIはかなりノイズフロアは低いですね。
Fathomの透明感の高さ、解像力の高さも十分引き出せます。ヘッドフォンアンプというとヘッドフォンと考えますが、デスクトップにおいてイヤフォン用としても使えます。
* Ultrasone 「Signature Pure」- ダイナミック型ヘッドフォン(制動感チェック)
3.5mm/6.3mmでの接続ですが、これはとても良い組み合わせです。ジャズヴォーカルではウッドベースがとても引き締まり、かつ鋭いパンチがあり、ダイナミック型ヘッドフォンにはとても向いているのを実証できます。そして解像力の高さも引き出してくれます。ウッドベースの支配的な音の中でもヴォーカルの音が埋もれずに聴こえます。
低域だけではなく、全域をしっかりとコントロールしてます。荒っぽく高い音量で鳴らすアンプではなく、こういうアンプを駆動力が高いというべきだと思う。DX5IIはダイナミック型ヘッドフォンにとても向いています。
Signature PueとDX5II
* Sennheiser「HD800」 - 高インピーダンス・ヘッドフォン(駆動力チェック)
これもかなり良い組み合わせです。鳴らしにくいと言われるハイインピーダンスのHD800ですが、ゲインHではうるさいくらいの音量が取れます。低域が出にくいと言われるHD800ですが、十分に量感があり、かつぴしっと引き締まるベースサウンドが楽しめます。空間の広がりが三次元的で、HD800の美点の空間再現性もよく発揮できます。楽器音の端切れ良さも優れています。
また上品な音楽だけではなく、アニソンやポップスなどの打ち込みが複雑で派手な録音の音楽でも破綻せずにしっかりと立体的に鳴らしてくれます。
DX5IIは駆動力もかなり高いと感じます。
6 ケーブルについて
なかなか隙のない良い製品のDX5IIですが、残念なのはUSB入力がType-Bである点です。Type-C端子が前面にもあれば文句なかったところです。
添付ケーブルにアダプターをつける手もありますが、試しに高音質タイプのUSB-C to Bケーブル(ELECOM DH-CB10)を使用しましたが、これはなかなかおすすめです。単価1700円ほどのケーブルですが音場が広がりよりクリアで解像力も上がるように感じます。
低価格のDX5IIはオーディオマニアだけではなく、ガジェット系のユーザーも気になるでしょう。ガジェット系の人はケーブル交換に抵抗がある人も多いと思いますが、この辺から始めると良いかもです。音質を抜きにしても、取り回しは確実に良くなるので損はしません。
まとめ
TOPPING DX5IIは、NFCA技術を核とした高度な回路設計と、最新DACチップES9039Q2Mの組み合わせにより、価格帯を超えた性能を実現したDAC内蔵ヘッドフォンアンプと言えます。冷静で高精度な測定派サウンドながら、わずかに温かみを残した自然な聴き心地を兼ね備えています。
低価格ながら強力な駆動力、低ノイズ、豊富な入出力、視認性の高いUI、そしてユーザーの好みに合わせられるPEQなど、据え置き機としての完成度は非常に高いと思います。
普通は据え置きアンプというとヘッドフォンで、DX5IIもたしかにヘッドフォンにも良いですが、特に価格が安くイヤフォンに使いやすいので、家で本格的にハイエンドイヤフォンを使いたい人にも向いています。特に高感度マルチBAイヤフォンに良いですね。
ヘッドフォンであれば低インピーダンスの手頃な価格のヘッドフォンに向いています。そうしたヘッドフォンは緩んだ音になりやすいのですが、DX5IIは抜群のコントロール力(ダンピング)で引き締まった音が楽しめます。
いまどきのDAPと比べると解像力で勝るとは言えないけれども、やはり音に力強さがあります。電源の違いからなのでしょう。据え置きヘッドフォンアンプのエントリーとして長く使うことができると思う。
イヤフォンからヘッドフォンまで幅広く対応できる万能機であり、初めての本格据え置きアンプとしてお勧めです。

