Music TO GO!

2008年12月21日

マラード復活?

前に真空管の記事でEL34の記事を書いたときに、いま流通しているMullardブランドのもの(いわゆる復刻マラード)はアメリカのNew Sensor社がロシアの工場で作っているものだと書きました。

ところが下記の記事を見るとBlackburn MicroTechというところがECC81、ECC82、ECC83の生産をなんとイギリスのBlackburnにあったマラードのオリジナルの工場を使って生産しているとのことです。

http://www.techtubevalves.com/index.php

ここはもともとのマラードの工場があったところですが1984年に真空管生産は打ち切られています。しかし、近年の真空管人気を受けて再開をしたとのことです。
New Sensorが持っている商標の関係でマラードブランドは使えないので、TechTubeというブランドのようです。それぞれE811CC、E812CC、E813CCという商品名とのことです。

価格は20-30ポンドのようですが、個人に売っているかどうかは分かりません。メーカーでもこれを使うところも出てくるのではないでしょうか。

TechTubeの方は生産設備自体は黄金時代のものとはことなるものをつかっているけれども、材料は同じものがまだ入手できるそうです。(ブラウン管、CRTチューブがまだ生産されているので)
前に書いた記事ではGroove TubeがGEの6CA7(EL34とピン互換)の完全復刻を作る予定と書いたのですが、その後に聞いたところによるとオリジナルの生産設備をそのまま使う予定だったけれども、やはり難しいとのことでした。
しかし、TechTubeの方はショウでのフィードバックはなかなか良好でマイクロフォニックの少なさや特性のばらつきのなさはロシアや中国の工場製のものより小さいとのことです。

ECC82(12au7)はわたしも使うのでこれはちょっと気になります。ECC83を使っている人も多いでしょう。
計画ではなんと、EL34、EL84、KT66、KT88もロードマップにはあるそうです。マラードのオリジナル工場で作られたEL34が出てくると、これは真空管市場にインパクトがあるかも。

真空管アンプ向きの冬の暖かい話ではあります(^^
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2007年02月07日

S6とEL34 (真空管交換)

EL34はかつてはオーディオではマランツ、ギターアンプではマーシャルがそのアンプに装備していたことで勇名をはせた真空管です。おそらくもっとも有名な真空管のひとつでしょう。
EL34はPhilips系で開発された真空管で1940年後半に生まれました。EL34が他の真空管と違うところの一つはこれがオーディオ(ラジオ等も含む)の専用球というところです。つまり他の真空管に比べてより音質ということも考えて作られているといえます。


ECC82とちがってEL34は現行管が選択の中心となります。
それは前球と違って出力管はビンテージものが高いということがあります。S6の場合は6本ものEL34を替えねばならないというところで、ヴィンテージのEL34メタルベースなんかを6本も買った日にはマークレビンソンくらいの値段になってしまいます。
それとマッチドペアの扱いがやっかいで2本ならともかくクアッド(4本)以上のペアをビンテージでそろえるのはかなり難儀です。ちなみにS6の場合はマッチドペアは右・左の3本ずつのマッチが必要です。

もうひとつはEL34がまだ生産が盛んだからです。
真空管というと骨董趣味的にも感じますが、一説によると全世界で数百億円程度の市場があり10%程度成長を続ける市場だそうです。ただしその90%はHiFiオーディオアンプではなくギターアンプです。
もともとEL34が今日にメジャーになったのは二つ大きな理由があって、ひとつはさきに書いたようにマランツ#8Bで採用されたのをはじめとしてオーディオアンプとしての音の良さがありますが、もうひとつはEL34の丈夫な特性を使用して軍用、またギターアンプとして使われたということがあります。
ギターアンプはゆがませるのがひとつの眼目でそのためにいまでも真空管が主流なわけですが、消耗もはげしいようです。そのために常に供給が必要です。逆に言うと現代管はそうした市場に主に供給しているわけなので、耐久性や音質よりも価格を優先される傾向にあるとは言えるでしょう。

そこで管球王国の現代EL34の聴き比べを見てみると、現代管でわりと良さそうなのではJJ、燭光(トライオード選別品)、スヴェトラーナ、ナショナルエレクトロニクス(クラシックコンポーネンツ企画品)などがレポートから読み取れます。
ちょっと注釈するとスヴェトラーナは複雑で、もともとスヴェトラーナという名前のペテルスブルグにあった会社はいまはSED(Svetlana Electron Devices)というブランド名で販売されています。現在Svetlanaという名前で販売されているのはNew Sensorというアメリカの会社がロシアのRefrektor(サラトフ)などに発注している企画品だそうです。
ちなみにこれはカメラの世界でも同じですが、ロシアはもとは国営だったので工場名で区別されます。Refrektorは工場名であり、現在は会社名でもあります。


現行管で考えた方がよいとはいえ、EL34というとやはりマラードが代表格といえます。ただしEL34のビンテージというととてつもなく高価なものになってしまいます。でもやはりマラードのEL34がほしい、というとそこで出てくるのが復刻ものという選択です。これは当時の設計をベースに忠実に再現したものです。

実は復刻マラードにはふたつのタイプがあります。
ひとつは日本ではこれが復刻マラードと呼ばれているものですが、さきのNew Sensorという商社が企画してReflector工場で製作しているもので、これが公式な復刻マラードになります。日本の店頭でマラードブランドの箱でMade in Russiaと記載されているものはこれです。公式というのはNew Sensor社が正式にMullardという商標の使用権を得ているからです。
音は評判は悪くないのではじめはこれを考えましたが、もうひとつ見つけました。

それはギターアンプで有名なGroove Tubeが企画して作成したEL34Mです。これはブランド名は使えませんので暗に復刻ということを示しています。これはわたしが入手したときはまだ日本では正式に入っていなかったのですが、わたしがこの件をGroove Tubeの営業の人とメールしていたらその人の好意で代理店さんから正式に入手することができました。

el34m1.jpg

マラードのEL34にはXF1、XF2、XF3、XF4というタイプがありますが、New SensorもGroove TubeもXF2をベースにしています。XF2は量産型の基本が固まったモデルですのでこれを手本にしているのでしょう。
XF2は上部の放熱板の下が平らでヒーターの温度がやや高いのが特徴で普通の管より明るくなるそうです。実際に使ってみるとたしかに前のスヴェトラーナより明るくなっているのできちんとコピーされていると思います。

el34m2.jpg

ちなみに差し替えにはアンプがセルフバイアス(またはオートバイアス)でなければ手動での調整が必要です。S6は問題ありません。
スヴェトラーナと比較するとGT EL34MはややSNが良くなった感じがして厚みがでます。
音数が増えて空気感があり、アコースティック楽器の擦れる音が生々しくリアルに聴こえます。
上はやや抑え気味ですがきつさはまったくありません。低域はスヴェトラーナより量感は減った感じがしますが、ボワついた感じが減ったともいえてバランスはかえってよい感じはします。下には十分沈んでいます。
やはり全体に上品といわれるマラードのイメージのように思えます。(わたしはビンテージ管を聴いてないのであんまり言えませんが)
音は暖調で柔らかみがあります。これらのGTレイティングは5(中間)ですが、これを高くするともう少しかっちりすると思われます。ただ真空管アンプとしてはこのくらいがよさそうにも思えます。(Groove Tubeはハードレイティングという値があって高いほどHiFiむけで低いほどギター向けでゆがみやすくなります)
全体にEL34Mはかなりお勧めな真空管だと思います。


EL34Mとクリアトップだとやや細身ですが、低音はスレンダーでバランスよくより下に沈む感じがします。
EL34Mとビューグルボーイだと低音はややふくらみがあり沈み込みが少し足りなく思います。コントロールはクリアトップの方が上手かもしれません。
その代わりビューグルボーイの方が広がりが豊かで彫りも深く感じます、ただしやや荒れ気味のところがあり低音も膨らみます。
クリアトップは広がりと奥行きに欠けますが、低域は膨らまずにより深く沈み重低音まで感じます、またより高くきれいな高域が豊かな倍音の響きとともに感じられます。帯域バランスの整いと豊かな倍音をより感じます。スヴェトラーナのときは低域が出力管のほうで膨らんでいたのでクリアトップの低域の良さに気が付かなかったという感じです。
なんといってもIKEMI->クリアトップ->EL34Mの組み合わせは美音の極地で感動的な中高域を堪能できます。前に書いたようにEL34自体が中高域が得意な管なのでこれはまさに絶妙の組み合わせです。
ここに至るとたしかにS6がシングルで無理してパラレルでパワーを稼いだという意味が感じられます。真空管の響きとやわらかさとタイトな低域のコントロールを両立させています。

いまはEL34Mは固定してたまにクリアトップとビューグルボーイを差し替えています。より繊細で美音のクリアトップとよりダイナミックなビューグルボーイでアンプがちょっと変わったものに聞こえ、気分や曲に合わせてけっこう楽しめます。

次の興味としてはGroove TubeがGEの6CA7の完全復刻というプロジェクトがあるのですが、ちょっと難儀しているようです。
真空管は電気的な互換性があればかならずしも同じタイプでなくてもかまいません。EL34と6CA7は構造はかなり異なりますが電気的互換性があります。
(ちなみに互換性はこちらのサイトで確認できます)
http://www.nostalgiaair.org/Tubes/
ちょっと上品なEL34に比べると野太く力があるといわれる6CA7はまた面白そうではあります。
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2007年02月06日

S6とECC82研究 (真空管交換)

真空管アンプの楽しみの一つは球を交換することで好みの音にすることができることです。

わたしはカメラ趣味ではレンズについてうんちくを傾けるのが好きでカメラのムック本に解説記事を書いたりもしたんですが、道具としてのカメラ・レンズに興味をもつとその歴史や背景文化まで興味を持ってしまいます。そうして多面的に世界を広げるのがおもしろいわけです。
オーディオでレンズに相当するものというと真空管かなあと思います。実際のところ同じ規格の真空管ならだいたい似た音を出しますが、それでもメーカーや年代で異なる微妙な違いがあって、そこを突き詰めるのが面白いわけです。レンズも同じで明るさと焦点距離が同じなら似たような写りなわけですが、やはり微妙な違いがあります。そこを国産だツァイスだと言いながら、それを歴史や背景まで話を広げるのが趣味としては面白いわけです。


それはともかく話を真空管の交換に戻すと、S6において替えられるのは前球(電圧増幅管)と出力管ですが、一般に前球を替えるほうが効果が高いといわれているのと安いということでまず前球から替えることにしました。信号が小さい前段での効果が大きいというわけです。

S6は電圧増幅管にECC82を指定しています。電圧増幅管はプリアンプのようなものでアンプの前段にあたります。
真空管を替えるには同じタイプであわせますが、ブランドを変えてもかまいません。ただし左右二本の性能がマッチしていることが望ましく、これをマッチドペアといいます。さらにECC82の場合は双三極管なので中の二つの三極管のマッチも望ましいことになります。

この前球を交換するには同じECC82というタイプで選びますが、12AU7という管も使うことが出来ます。12AU7とECC82は互換性があり、おなじものを別な言い方をしているといえます。もともとECC82はRCAが開発した12AU7がもとになっています。
真空管には米式と欧州式の呼び方がありECC82というのは欧州式です。またECC82というのはメーカーの型番ではなく、真空管のタイプを表しています。ECC82は"E・CC・82"に分解でき、それを読み解くと、Eはヒータータイプ、CCは双三極管のこと、82はソケットのタイプが分かります。そのためECC82といっても各社からさまざまなものが出ていて、会社によってさまざまな個性や性能差があるというわけです。
出力管に関しても同様ですが、300Bというのは例外でこれはタイプではなくウエスタン・エレクトリックの型番です。

真空管の交換をする際に大きくはビンテージ管(過去に生産された残り)を使うか、現行管を使うかという選択があります。
またビンテージ管にはNOS(New Old Stock)といわれる新品(新古品)と中古品があります。現行管は安いので中古というのはあまり使われません。ビンテージ管にはアメリカ製やイギリス製、ドイツ製がありますが、現行管はほとんどロシアか中国または東欧生産です。
どちらが良いかというのは答えの出ない選択ですが、一般には高価でもビンテージ管が良いといわれます。
真空管の黄金期は戦前から50-60年代くらいであって70年代でも品質が落ちるといわれます。この当時は良い材質に良い職人が生産にあたっていたということもあります。材質ならば現代のほうが進んでいそうですが、現行管はロシアや中国で作られているというほかに、あとでEL34編でも書きますが主にギターアンプに用いられるため消耗品的な性格があるからです。

実はもうひとつ現行管には復刻ものという選択があります。これはEL34編でまた書きますが、いまではプレミアがついているような真空管を復刻して再生産するというものです。
ECC82の系ではJJがプレミアもののECC802Sを復刻したというのが少し前の話題になっています。


真空管のブランドというとイギリスのマラードとドイツのテレフンケンがひとつの頂点でこれらは特に人気があります。
たとえばECC82系統で一番人気があるのはテレフンケンのECC802Sですが、これはECC82の特別仕様品でかなり高値で取引されたりします。いまではテレフンケンのECC802Sはペアで$1000以上します。JJの復刻ECC802Sならばペアで$20-30程度です。
またテレフンケンではECC82にはスムーズプレート(プレートに補強リブの無いもの)、マラードであればロング(ナロー)プレートというやはり50-60年代に生産されたものに人気があるようです。またマラードの場合はCV4003というイギリスの軍用規格ものも人気があるようです。
これらはだいたいNOSだと一本$100から$200はするでしょう。ただし音質的な評価は現行管よりかなり優秀といわれます。

テレフンケンとマラードなどのかなり高価なヴィンテージ物については価格分の価値のあるなしではなく、いまの私のレベルで良いビンテージを見つけるのはむずかしいというのがネックです。私自身が真贋の判断をするというだけでなく、このディーラーの言うことなら安心するという取引先を見つけてからそうしたものに手を出すつもりです。
そこでそれらは宿題としておいて、当面はセカンドベストの選択を取りました。

そこで選んだものは下の二本です。

Amperex "Bugle Boy(ビューグル・ボーイ)"

RCA "Clear top(クリア・トップ)"

これらはテレフンケンとかマラードに比べると少し安目というほかに、テレフンケンとマラードがわりと素直でくせがない音で知られているのに対して、めりはりのある音楽的な球として知られています。

海外ものの真空管の市場はやはりアメリカが巨大で入手できる数も多彩です。
また海外のこうしたショップでは測定してマッチドペアをきちんと保障してくれるシステムが完備しています。これはむこうではビンテージでも買ってきちんと実用する考えがあるからだと思います。

わたしはAudio TubeというショップのBrentさんのところに頼みました。Brentさんのところはちゃんと測定結果をプリントして張ってくれますし、対応も早いです。

bb1.jpg

AmperexはPhilipsの真空管ブランドです。これもオランダだけでなくアメリカや日本でも製作されています。
Bugle Boy(笛を吹く子供)は60年代に製作された表面にプリントされるロゴタイプをさしています。70年代から後はオレンジの別なワールドロゴと呼ばれるものに変わっています。
セカンドベストとは言っても、さすがにBugle Boyロゴ付きはそれなりに高いのでBugle Boyと同時期に同じオランダのHeerlen工場で他のブランド(Dumont)向けに製作された品を注文しました。箱が白箱というだけでは問題ないです。なぜかというとこれらのNOS品の多くはバルクでディーラーが入手することも多いからです。これらは60年代初期とのことで一番いいときですね。

電源を入れたときに管の下部が一瞬ぴかっと明るく輝く、これはAmperexの特徴ですのでまがいものでないことを証明しています。

Bugle Boyの音はぱっと聴くと音にめりはりがあってにぎやかに聴こえます。抑揚があって低域も低い方まで深く沈むようになります。
また音場も広く前後の立体感があり、全体に前よりでダイナミックな魅力があります。
SNもかなり良い感じです。


cleartop2.jpg

RCA クリアトップもまたこうしたミニチュア管では高名な球です。
これはゲッター(メッキ部分)がサイドにあるため球のてっぺんが透明であるのでそう呼ばれています。

cleartop3.jpg

全体に美音で高域はより美しく透明感があります。全体に繊細で細い感じがします。
Bugle Boyも高い音はとても美しいのですが、クリアトップはさらに二重丸をつけたくなるくらい美しく滑らかで繊細です。
低域はやや軽く感じられますが、上はかなり伸びます。
ただしオールラウンダーとしてみると音場がやや平面的で、迫力やめりはりのあるほうではありません。
音の3次元感もBugle Boyほどありません。全体に立体感はJan-Philipsよりも劣る感じです。
真空管らしい柔らかさはかなり良いかんじで、落ち着いていて静かに聴く音楽には一番良いかもしれません。

これらにたいして標準のJAN-philipsも音の分離・解像感やSNはやや劣りますが、3次元的な音の立体感はかなりあります。

ソースとの組み合わせではIKEMIから直接使うにはRCAクリアトップの方がよりよく感じます。これはIKEMIの高域部分にややピークがあり、その部分が真空管の高いほうの美しさによくマッチするからです。
また全体にウォームなIKEMIはよく言われますが、真空管アンプにマッチした音色といえます。

またDLIIIとはBugle Boyがあうように思えます。DLIIIの基本的な性能の高さ、音の分離や広がりが生きてきます。ただRCAクリアトップと組み合わせると高域がIKEMIよりややおとなしい分で、ちょっと楽しい刺激が減っているという感じです。

次はAmperexのプレミア規格である7316の方に手を出してみようかと思っています。またよく取り上げられるマラードのCV4003も製造年代を考慮すると最高のものというわけではないようですが、クライオ処理したものがよく流通していて、クライオのベースとしてはよいようです。軍用規格だと耐久性は折り紙つきですしね。
あとはやはりいつかはテレフンケンですが、これはなかなか。。
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2007年02月04日

Unison Research S6

昨年後半ころ真空管に興味があって、しばらく前からオーディオシステムの中核として真空管のプリメインアンプ、ユニゾン・リサーチのS6を使用しています。現在はLINN IKEMI->PSA DLIII->UR S6->Dyna SP25というシステムです。
こちらに製品ページがあります。
http://www.unisonresearch.com/valvolari/s6.asp

Unison Researchはイタリアのオーディオメーカーで木を組み合わせたデザインも美しく、音楽性豊かな真空管アンプを作ることで知られています。

s6b.jpg

S6の特徴は写真のように出力管のEL34が6本も並んでいることで、円弧を描いて整列している様子はなにやら不思議な工場を思わせます。ある意味でEARのV20のようにいわばスチームパンク的なありえなかった未来という意味でNew&Oldの独特の造形も感じます。
これはEL34をシングル増幅を採用しながら35Wもの出力を取り出すためです。EL34はプッシュプルなら4本で35Wは楽に取り出せますが、あえてシングルにこだわったことで余分に6本も必要になります。

真空管アンプはチャンネルごとに一本で増幅するシングルと二本組で増幅するプッシュプルという方式に大きく分かれます。プッシュプルの利点の一つは歪みを相殺できるので性能が上がるということですが、このときに真空管の隠し味であるところの偶数次歪みを打ち消してしまいます。偶数次歪みは耳に心地よいといわれる響きがあり、これが真空管が一般に美音であると言われるゆえんです。そこで真空管アンプではシングルが
ただしEL34でシングルだと11W/ch前後が限界ということですので大出力は取り出せません。そこで真空管アンプのそうした味を生かしたいとすればシングルを並列に二本重ねることで大出力を取り出せます。これはパラシングルと呼ばれます。普通は二段重ねたパラシングルはよくありますが、S6のように3パラシングルはかなりユニークと言えます。
もっともトリパラシングルという発想は真空管全盛時代にはあまりなかったでしょう。パワーを取り出すならプッシュプルにすればよいわけですからね。あくまで真空管の味の部分を生かしたシングルのままパワーを取り出そうという考え方はソリッドステート時代の真空管の使われ方ならではだと思います。そうした意味ではまさに現代的な真空管アンプといえるでしょう。

s6a.jpg

真空管アンプは数ワットの小出力でゆったりとした音を楽しむものという捉えられ方をすることも多々あります。実際に数ワットのアンプでも適当な能率のスピーカーと合わせれば日本の普通の家なら問題ない音量できけるでしょう。
しかし現代のスピーカーと組み合わせて深い彫りのある立体的な表現力を得るためには、スピーカーを自由に操ることのできるそれなりの駆動力が必要です。低域性能や音の三次元的な表現を得るにはスピーカーに十分な駆動力を与える必要があるということです。

もともとユニゾンリサーチはSimply Twoというシンプルな構成のEL34シングルのアンプが好評を得ました。
しかし10W未満では駆動力に限界がありますので、のちにそのままパラシングルにしたSimply FourというEL34x4のアンプが出ています。S6はそれをさらに発展させた、いうならばSimply Sixというわけです。


S6は電圧管(前段)にECC82と電力管(出力管)にEL34を使用しています。シングルのアンプなので真空管はこの二種類だけのシンプルなものです。またそれだけ真空管の質に依存するところが大きいともいえます。
わたしは中古での入手ですが、わたしが入手した時点でついていた真空管はECC82がJAN-Philipsというアメリカ製の軍用規格のもので実際には6189という軍用のECC82/12AU7の互換球です。JANは"Joint Army Navy"の略です。ちなみに英軍規格では軍用球はCVシリーズと呼ばれています。
EL34は標準ではエレクトロハーモニクスのEL34EHです。ただしわたしのものは前オーナーがスヴェトラーナに交換していたようです。

まずこの初期状態(フィリップス/スベトラーナ)での音はまず真空管うんぬんという前に普通にとても音質がいいので驚きます。意外なほどノイズフロアが低くSNも良くて細かい音もはっきりと解像します。例えばライブ録音で演奏の背景に客の立てる食事の音がノイズとしてではなくフォークの音としてきちんと分かります。ここは現代アンプならではです。ただしやや硬めの表現ではあります。(これは後で真空管を替えてみてわかったことです)
S6で特徴的なのはその幻惑的で立体感のある音場表現です。これは真空管の美しい音色とあいまって、とても魅力的です。これはS6の特性ということもありますが、前球のJAN-Philipsの個性によるところも大きいようです。
低域は量感がかなりある感じですが、沈み方が足らずにややふくらみを感じます。

S6のNFBはSN比と鮮度感のバランスがよく調整されていると思います。S2とS4にはNFBの切り替えがついていたのですがS6にはありません。米国価格が$3000クラスだったということもあり、あまりギミックのようなものは廃したのでしょう。

灯りを消すとEL34の管内に青い光が灯り、美しくもあります。
発熱はかなりあってこの季節は助かります(^.^

cleartop1.jpg

この写真の真空管は歴史的な名球のひとつ、ビンテージのRCA「クリアトップ」です。NOS(新古品)ですのでオリジナル箱です。左右の球で箱は別ですが買うときに特性一致したもの(マッチドペア)をオーダーしますので問題ありません。
少し真空管交換にもはまっていたのでその辺もまた書いていきたいと思います。
posted by ささき at 21:18| Comment(2) | TrackBack(0) | __→ Unison Research S6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする