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2024年06月14日

完成されたアナログサウンド、真空管搭載のフラッグシップAstell & Kern 「A&Ultima SP3000T」レビュー

Astell & Kernの最新のフラッグシップ「A&Ultima SP3000T」は端的にいうとこれまでの「A&Ultima SP3000」を真空管バージョンにしたものです。しかしながら詳しく見ていくと、単なる真空管バージョンというわけではありません。

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SP3000TとCampfire Fathom

 特徴 

真空管を採用したということは、最近のAstell & Kernの追い求めている「アナログサウンド」への直接的なアプローチとも言えるでしょう。Astell & KernにおいてはSP2000Tで真空管の搭載を試行したのですが、これはコルグのNutubeという言わば「真空管の原理を応用した新しい電子デバイス」を使用していました。それに対してSP3000Tではレイセオン社製のJAN6418という本物の昔の真空管が搭載されています。こうした真空管は大量に生産されたので現在でも新古ストック(New old stock、NOS)として未使用状態で入手可能です。これは他の一般的な真空管アンプにおいても同じです。いわば本物の昔のビンテージ真空管が搭載されているわけです。



真空管はサイズでいくつかのタイプに分かれますが、JAN6418はもっとも小さいサブミニチュア管というタイプで昔の小型の軍用品に使用されていたものです。この種の昔の真空管は製造ばらつきが大きいのが難ではありますがAstell & Kernではそのマッチングも測定により入念に行っているということです。左右のマッチングも一般的なビンテージ真空管では重要なポイントです。

JAN6418に関しては現役時代は主に通信機用に使用されていたものです。つまり元から音声用の真空管なので音が良い真空管って言っても良いでしょう。真空管は何を使っても好みの世界ではありますが、基本的には音声用のものを使用するのが良いということにされていて、その代表例はEL34です。JAN6418もその点ではよくオーディオ機器に使われる真空管です。特にJAN6418は小型ながら三極管が二個入っているので一個で三極管を使用したステレオ増幅が可能です。そのためSP3000TではJAN6418が二個搭載されているのでバランス増幅が可能なわけです。三極管はシンプルなので小出力ですが音が良いことで知られていて、音が良いことで定評ある300Bも三極管です。

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SP3000Tの真空管ノイズ対策

また真空管にはマイクロフォニックス問題という固有の問題があります。これは真空管アンプ固有の問題で、一般的には指で軽く真空管を叩くとキーンというノイズが生じます。振動でノイズが生じる)に対してもシリコンダンパーやモジュール構造を取り入れた衝撃低減対策を施している。これはSP2000Tの経験もあるのでしょう。
また真空管のTube Currentという設定項目を可変することでJAN6418真空管内のプレート電圧を調整できます。Astell & Kernによると設定を高くすると音が増幅され、密度が増し、低域が豊かになるということです。ただし真空管の内部電圧が高くなり増幅率が上がると、真空管固有のノイズもある程度増幅されてしまいます。 従って、必ずしも高い設定がベストとは言えないということです。これは後でTubeモードのインプレ時に再度書きます。

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SP3000Tの第二の特徴はハウジング素材です。Astell & Kernのフラッグシップはステンレススチールやカッパーなど筐体の素材にこだわって音質を向上させてきましたが、SP3000Tではまた新しいアプローチをしています。
SP3000Tのハウジングは316Lステンレススチールの上に導電性の高い純銀メッキを施しています。実際には酸化しないように直接空気に触れないような特殊多層コーティングをさらに施しています。SP3000では高級ステンレスの904Lステンレスを中心に摩耗に強いハードニング加工や汚れから守るコーティングを施したものでしたが、この銀コート線材のような純銀メッキというアプローチもなかなか面白いものです。やはり導電特性が良いということでは銀になりますからね。
今まではSS(ステンレススチール)モデルとか、カッパーモデルとかありましたが、言うなればSP3000Tは銀コートステンレススチール・モデルと言えるかもしれません。あるいはSP3000Tシルバーでも良いかもしれません。
この違いというのは出ていると思います。これは後のOPモードのところで書きます。

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AK4191EQとAK4499EX

デジタル部ではSP3000Tと同様にAKMのフラッグシップDAC ICである「AK4191EQ」と「AK4499EX」のペアをデュアル搭載したフラッグシップDAPらしいDAC構成を採用しています。この点もSP2000とDAC部分が大きく違うSP2000Tとは異なります。
AK4191EQとAK4499EXはデジタル処理を専門に行うというAK4191と、アナログ信号を専門的に扱うというAK4499EXの二つのチップから構成されています。いわばデジタル部とアナログ部を物理的に切り離すことが可能となりました。この形式の最大の利点は高速でスイッチングするというノイズの塊であるデジタル部と、ノイズを嫌うアナログ部の相反する二つを根本的に切り離したということです。そのためAK4191では従来のDACのオーバーサンプリングが8倍か16倍程度のところを256倍のオーバーサンプリングが可能です。これはFPGAなどを使ったディスクリートDACなみであり、従来のICチップDACからは一線を画した能力といえます。このメリットはSN比がとても高くなるということです。いわばAK4191とAK4499EXの組み合わせは、従来のDACチップを超えてディスクリートとチップによるソリューションの折衷案的なレベルに達しているわけです。

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SP3000Tブロック図

一方でSP3000では事実上バランス駆動DAPとシングルエンドDAPが一つの筐体に入る構成でしたが、SP3000Tではそのシングルエンド専用DAP部分がなく、その代わりに本格的な真空管アンプが別に搭載されているということになります。
実はそれだけではなくプロック図をよく見ると、SP3000では一つのAK4191EQで二つのAK4499EXが接続されていたのですが、SP3000TではAK4499EXそれぞれにAK4191EQが専用のように搭載されています。仕様のページではこれをデュアルモジュレーターと書いています。これはおそらく性能をさらに向上させるでしょう。
SP3000TではSP3000のシングルエンド専用部分がなくなった代わりに真空管が入っただけではなくデジタル部も違っているわけです。

そのアンプ部分に関してはOPアンプモードとTUBE(真空管)モード、そしてその両方を混ぜたハイブリッドモードというSP2000Tに似たシステムが搭載されています。ハイブリッドモードではOPアンプモードとTUBEモードの混合する度合いを混ぜることができるというAstell & kern独自のシステムを再び搭載しています。ハイブリッドの利点はSP2000Tの時も書きましたが、双方を加算しているせいか力強さが一層感じられるということです。

ちなみにSP3000との差異としてはSoCが最新であるということもあります。SoCは特にOpenAPPの動作において重要です。SP3000Tでは最新なのでSnapdragon 6125が採用されています。これはSP3000のSnapdragon 665と同じミドルクラスのSoC(CPU)ですが、より新しい分で性能が高いと言えます。

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SP3000にはなかったユニークな機能としてはディスプレイが昔のアンプやレコーダーのようなVUメーターがあります。VUメーターは、音声信号の電圧レベルを表示し、音量の測定と調整を支援するもので、3種類あります。これはUIのボタンを押すと起動できます。

SP3000との共通機能としてはDARが搭載されています。これはAK4137EQを使用したハードウエアによるアップサンプリング機能です。DSDにもPCMにも変換できる機能でいまやAstell & Kernではお馴染みの機能です。SP3000Tでは音がアナログ的な点をポイントにしていることから、DSDに変換する機能が特に効果的に思えます。
実のところAstell & kernのDAPの特徴は継ぎ足されて機能が拡張されてきた基本ソフトウエアがそのまま使えるという点があります。Roonとの連携やBluetooth受信機として使うなど豊富な機能はそのまま引き継いでいます。


 インプレッション 

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SP3000TはSP3000同様にパッケージも豪華なものです。内箱は木製で、その中にケースなども梱包されています。

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Astell & KernのフラッグシップとしてSP3000Tには豪華な本革ケースが付属します。これはフランス製ゴートスキンレザー製で、カラーリングはシックなグリーンです。このケースは、南フランスのタルンに位置したALRAN(アルラン)社製で、100年以上にわたって皮革製造を行ってきた歴史ある革製造業者ということです。

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SP3000Tの筐体はSP3000と似て、とても美しいものです。
筐体の差異は指紋がつきにくいコーティングがされている点と、ボリューム周りのデザインが異なります。またSP3000ではボリュームと電源ボタンが共用されていましたが、いささか使いにくいものでした。SP3000Tでは筐体の上面にKann Ultraのような指先が少し凹んだタイプの電源ボタンがつきました。
ちなみにコンコンと叩いてもマイクロフォニックノイズがないのはSP2000Tと同じです。対策がなされていないと、キーンというノイズが乗ってしまいます。

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SP3000とSP300T(下)

ただしSP3000より再生時に暖かくなります。のちに書きますがTUBEモードの時は筐体が熱くなってきたら「聴きごろ」になったと思っても良いかもしれません。
またハード操作ボタンに第4ボタンが増えたのですが、これは長押しするとAMPモードを呼び出すことができるボタンのようです。

SP3000Tの特徴はアンプのモードが3つの分かれていることです。オペアンプを使用するOPモード、真空管を使用するTUBEモード、そしてそれらを加算できるハイブリッドモードです。

 1 OPアンプモード

OPモードではSP3000同様にとても透明感が高く音の歯切れが良いのが特徴です。正確でスピードがあり端正なサウンドです。特に楽器音は普通のDAPとは一線を画する音質レベルの高さが感じられます。ここはAKM「AK4191EQ」と「AK4499EX」の効果がSP3000同様に感じられます。

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SP3000TとProject M

基本的にOPモードで聴くと音はSP3000に似ています。しかしじっくりと聴き比べるとSP3000Tの方がOPモードでもより音が洗練されていて少し暖かみがあります。少し厚みがあって豊かな音に聞こえます。前述のようにSP3000とはAK4191EQ の搭載の仕方がやや異なり、OPアンプモード時の回路設計が同じかどうかまではわかりません。このためOPモードでもまったく同じではありませんが、以前のフラッグシップ機の音傾向の違いから考えると、これはシャーシの銀材質によるものが大きいように思います。いままでのAstell & Kernのステンレスボディとカッパーボディでもこうした差はありました。音的にはステンレスボディよりもカッパーボディに近いように思います。

比較するとSP3000の方が硬質感があり、ステンレスボディらしいかちっとした音です。これはいままでのA&KフラッグシップのSSモデルの音傾向に沿っています。アコースティック楽器の音がやはり違いがわかりやすく、SP3000Tの方がより音鳴りが豊かで厚みがあるオーディオらしい音。真空管は切っていても、ベースのSP3000Tの音傾向がそのような感じです。ですからSP3000とSP3000Tの音の差は単に真空管の違いというだけではないと思います。OPアンプモードでもSP3000Tの方がリスニング寄りで、SP3000はモニター的という感じを受けます。ただしSN感とか解像力とか、そうした性能的なものはほぼ同じです。音色の違いですね。

 2 TUBEモード

やはりSP3000Tの白眉は真空管モード(TUBEモード)です。
まずポイントは真空管モードではスイッチオンした時よりも温まってからの方が良い音になるので少しウォームアップ(暖機運転)してから使った方が良いということです。あまり曲ごとに切り替えるよりはずっと真空管モードで使った方が良いと思う。またTube Current値も電源オンの時点では違いが少ないと感じるかもしれませんが、少し通電して再生させてからだと違いがよくわかるようになります。試してみると30分ではやや足らず硬さが残り、一時間程度はウォームアップした方が良いと感じます。毎回聞く前に少しエージングする感覚です。
この辺の感覚はSP2000Tではあまり感じなかったので、本物のビンテージ真空管を使用している感覚ではあると思う。また,そうしたところに手間を遣いながら使うと「本物の」を使用している感じが高まると思う。

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SP3000TとPathfinder

温まってから聴くと滑らかで温かみがある真空管アンプの音が堪能できます。しかし、Perpetuaのような先鋭的なイヤホンで聴くとかなり細かな音が聞くことができ、またとても音が整っています。真空管というとわざと歪み感を出すために使ったりしますが、SP3000Tにおいては暖かみがあると言っても滑らかという方が正しいと思う。つまりSP3000の低ノイズ・高性能を保ったまま音が極めて滑らかという不思議な感覚があります。おそらくはPA10でのA級増幅やSE300でのR2R DACの延長上に、このSP3000Tのビンテージ真空管使用があると思います。実際に真空管モードで聴いているとA級増幅で聞いているような、とても滑らかで高精細だけど柔らかい感覚が味わえます。それでいて楽器音は先鋭的ですが、先鋭的と言っても滑らかなのでキツさは少ないわけです。また音色自体はそれほど暖かみはつかずに着色感が少ないのもポイントです。このためによりアコースティック楽器の本来の音のような響きが楽しめます。解像力の高さと相まってホールに響く音もより豊かに聴こえ、女性ヴォーカルが美しく感じられます。
つまり真空管と言ってもノスタルジックな古っぽい甘い音ではないけれども、A&Kは現代的なアナログの音を追求しているように思います。

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SP3000TとPerpetua

特にPathfinderやProject Mのような高性能のハイブリッドイヤフォンだとTubeとOPアンプモードの差はかなり大きく感じられます。Pathfinderでは圧倒的な情報量と迫力をさらに楽しめ、Project Mでは美音が堪能できます。

真空管の電流値Tube Currentを変更するとHighではより骨太の濃い音になり、Lowでは比較するとややおとなしめの音になります。Midはその中間です。好みとしてはHighの方がより激しい音には合うと思います。そして真空管のイメージする滑らかで落ち着いた音というのはLowモードの方が良いです。長い時間聴きたい時はLowの方が聴き疲れは少ないですね。でも実はMidが良い感じです。特にPerpetuaなど解像力が高い時はHighだときついが、Lowだと物足りないという場合もあり、Midが意外と良いバランスになっています。

ただTubeモードがメインですが、Tubeモードだと電池も持ちはかなり少なくなると思います。だいたいフル充電で6-7時間くらい。SP2000Tの時はそれほど差はなかったように思いますが、やはりここは本物ビンテージ真空管を搭載しているゆえかと思います。

 3 ハイブリッドモード

SP3000TにもSP2000Tと同様にハイブリッドモードがあります。これはOPモードと真空管モードの音を混ぜるもので、混合度合いも5段階で調整できます。

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SP3000TとPathfinder

ハイブリッドモードにすると中間の音色になるとともにより音の歯切れが高くなります。真空管モードやOPモードのみよりもハイブリッドモードの方が手拍子の音やギターの切れ味がより鋭く感じます。これはちょっと驚くことでSP3000のさらに上があるのかと感心するほどです。
ハイブリッドモードでロックなど躍動的な音楽を聴くと、なぜロックファンに真空管が好まれるかがわかるでしょう。

 4 アンプモードまとめ

このようにSP3000TではSP2000Tと同様に3つのアンプモードがありますが、それぞれの特色がより際立っています。
OPモードではSP3000なみの音質ながら音により厚みがあります。Tubeモードでは滑らかな真空管らしさが堪能できるとともに3つのCurrentモードでさらに調整ができます。ハイブリッドモードではよりパワフルなサウンドが楽しめます。

DARに関してはSP3000TのTUBEモードではDSDモードの方がより音がなめらかに聞こえるので向いています。
DAR使用すると音質レベルは一段上がるので、単に高音質というよりも圧倒的なサウンドという感じで音に圧倒される。特にハイブリッドモードだと一層音の迫力があります。楽器の音色を楽しむならばTubeモードの方が良いかもしれませんが、アンサンブルやバンドサウンドなどの合奏曲を楽しむときにはハイブリッドがおすすめです。

 イヤフォン 

SP3000のときにはマルチBAのハイエンドイヤフォンが最も合うように思いましたが、SP3000Tでは真空管が入っていることもありダイナミックドライバーが搭載されているイヤフォンが良いように思います。しかしながらSP3000同等の音性能があるので、ハイブリッドタイプが良いと思います。
まずハイエンドではPathfinderです。高精細かつ迫力があり、滑らかな音空間に圧倒されます。また求めやすい価格帯だとProject Mがいいですね。TubeモードでのCurrentの違いもはっきりわかるような性能も十分にありながら音の美しさがTubeモードで引き立ちます。
シングルダイナミックではやはり高性能があった方が良いので、やはりPerpetuaですね。高精細さとダイナミックドライバーの暖かみがとても美しくマッチし美音を奏でます。音空間の広大さもあいまって壮大で美しい音世界を堪能できます。PerpetuaでTUBEモードを聴くと、SP3000Tの音は真空管の温かみがしっかりと感じられると同時に、低ノイズを極めた最近のAstell & Kernサウンドが見事に融合していることがわかります。聴きやすく、かつ高精細な音世界です。

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SP3000TとFathom

特にPerpetuaとPathfinderでは圧倒されるような音楽が楽しめます。
マルチBAでおすすめはCampfire Audioの最新作Fathomです。FathomはCampfire Audioの志向するシンプルイズベストの究極の形の一つで、低ノイズのSP3000との相性がよくSP3000Tともあいます。SP3000Tでは、そのピュアで透明でいて滑らかで温もりを感じられるな音世界に惹かれると思います。

 まとめ 

端的に書くとモニター的に使いたい時はSP3000、リスニング寄りで使いたい時はSP3000Tと結論づけることも可能です。しかしSP3000Tは単なるSP3000の真空管バージョンかというとそうではない点もあります。それはDACの使い方の違いや筐体材質の違いもありますが、もっとA&Kの開発戦略の変化としての意味も含んでいると思います。つまりSP3000からSP3000Tのこの間のA&Kの変化です。
Astell & KernはSP3000に至る前には低ノイズ化を一貫したテーマとして取り組んでいましたが、SP3000でその一つの到達点に辿り着くと、次はSE300でのディスクリートR2R搭載やPA10でのA級アンプの試行などアナログの音という一貫したテーマに取り組んできました。

アナログの音というと懐古的で甘い音をイメージするかもしれません。しかしアナログの音は実は高性能なんです。以前オーディオフェアで試聴室に行く前に部屋から漏れてくる音が極めて引き締まっていたのですごいDACを使ってるんだと思ったら、中に入ってみたらLINNのLP12だったということがあります。実のところ高性能のLINN LP12で聴くLPレコードの音はジッターもないので極めて高音質でした。デジタルとアナログの両方とも良い音は出せますが、その違いはアナログの方がより物量を投入する必要があるということです。

Astell & Kernの目指すアナログサウンドは単にノスタルジックな音ではなく、同じくAstell & Kernの目指している低ノイズ志向ともあいまって、現代的な高音質を目指したアナログサウンドだと思います。ただし現代でのソースはデジタル音源だから、それなりの工夫が必要です。それを志向しているのが最近のAstell & Kernの音ではないとか思います。
そうしたアナログサウンドへの取り組みの成果を取り入れてSP3000と融合させたのが、SP3000Tになると思います。つまりSP3000Tは単なるSP3000Tの真空管バージョンというよりも、SP3000からのA&Kの進化を取り入れたものです。SP3000TではSE300やPA10の音をさらに昇華させたようなサウンドも感じられます。低ノイズ化とアナログの音という二つのテーマを取り込んで、また一つの到達点に辿り着いたのがSP3000Tと言えるでしょう。
そしてAstell & Kernは次にどういうテーマに取り組んでいくのか、SP3000Tを聴きながらふとそうした考えに思いを巡らせます。

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2024年01月11日

ハイパワーにして繊細、A&K KANN ULTRAレビュー

KANN ULTRAはAstell & Kernのハイパワー多目的DAPであるKANN シリーズ第 5 弾のDAPです。
KANN ULTRAではシリーズ集大成を語るように性能・サイズといった基本使用の他に様々なアップデートが施されたモデルです。
価格は税込299,980円で、専用ケースが税込19,980円で用意されています。

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基本的な構成としては、ESSのフラッグシップDAC ICであるES9039MPROをデュアルDAC構成で採用しています。ES9039MPROはES9039PROのアップデート版で主にMQAハードウエアデコード機能を加えたものです。PCM 768kHz/32bit、DAD512 のネイティブ再生が可能です。

最大の特徴は出力先としてトリプル出力モード(ヘッドフォン出力、プリアウト、ラインアウト)が搭載されたことです。KANNはもともとデスクトップで他のオーディオ機器のソースとして使用されることも想定していたわけですが、それがきちんと整備されたというわけです。しかもそれぞれの出力に応じた設計がなされています。
ヘッドフォン出力とプリアウト、ラインアウトは端子自体が違いますので注意が必要です。ただ以前のA&K機ではラインアウトで出したくともヘッドフォン端子と共用でアンプも通っていたことを考えるとオーディオ機器ハードとしてだいぶ進歩したと思います。いわゆる真のラインアウトを実現したわけです。
(ヘッドホン出力側の 3.5mm 端子には S/PDIF 光デジタル出力も搭載)
KANN ULTRA のオーディオ回路部は、CPU、メモリ、ワイヤレス通信コンポーネントを含むプロセッサーエリアと物理的に分離されており、CPU から
発生する熱やノイズを最小限に抑える専用シールド缶の方式を採用しています。これも最近のAstell & Kernの低ノイズ志向に従っています。
またエージング中に気が付きましたが、従来機種よりも充電しながら再生してもあまり熱くならないように思います。再生中もあまり熱くないです。

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トリプル出力の回路図

ヘッドフォン出力ではボリュームで音量可変でき、4 段階のプリセットゲイン設定が可能です。超高ゲイン設定時はバランス出力で 16Vrms の出力が可能となっています。高感度イヤフォンも考慮して設計しているとのこと。アンプはバランス側とアンバランス側に分離され、電流を最適化しノイズを低減しているそうです。この辺はSP3000を想起します。

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アンプ回路図

プリアウト出力は外部アンプやオーディオ機器にサウンドを出力する場合で、音量をKANN側で調整したい時に使います。例えばアンプにボリュームがついていない場合です。プリアウト出力はボリュームで音量可変でき、通常のヘッドフォンアンプを通さずに特別に設計されたプリアウトアンプを通ります。ただしゲイン設定や出力電圧設定はできません。

ラインアウト出力では外部アンプやオーディオ機器にサウンドを出力する場合で、音量を外部アンプ側で調整したい時に使います。例えばプリアンプやパワードスピーカーなど音量調整を外部機器側で行う場合です。
ラインアウトは DAC からサウンド信号を、アンプを介さずに直接出力するモードとなり、ノイズレベルが最も低くなります。ラインアウトは固定電圧出力(4 段階設定)となり、音量調節はできません。

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ラインアウト・プリアウトでの出力

またデジタルオーディオリマスター(DAR)機能がついていて、信号をDSDもしくはPCMでリアルタイムにアップサンプリングが可能です。DARは好みの部分もありますが、KANN ULTRAは音が鋭いのでDARはDSDで音を滑らかにする方にするとよさそうに思います。
クロスフィード機能も搭載されています。この辺もAstell & Kern全部入りという感じはありますね。
プロセッサは次世代Octa-Core CPU搭載ということでかなりキビキビと動きます。これは特にOpenAPPでAmazonやApple Musicを使う際に助かります。
バッテリーは8,400mAhの大容量バッテリー搭載で連続約11時間再生に対応とのこと。実測はしていませんが特にKANNをデジタル出ししてUSB母機として使うとかなり長時間再生ができます。

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KANN ULTRA のデザインコンセプトは「Forceful Impact」ということで、意図的に大きめのボリュームホイールを本体に叩きつけて埋め込んだデザインでパワフルな性能を視覚的に表現しているとのこと。ボリュームの周りを立体的に際立たせたデザインはボディの外周が自然にボリュームプロテクターとして機能するとのこと。
ボリュームは実際に大きくて使いやすく、机の上に置いていても操作がしやすいと思う。
サイズもKANN CUBEに比べると小さくなっていて、持ち運べないというわけでもありません。
今回特に思ったのは表示されるアルバムアートが極めてきれいということで、とても明るく鮮明です。

ケースはベジタブルタンニングレザーを採用したシックなもので、滑り止めとしても機能します。KANNの場合は机に直置きすることも多いので、こうした保護があった方が良いかもしれません。

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音はまずホワイトタイガー高感度イヤホンで聞いてみましたが、Lowゲインでも音が力強い感じを受けます。声の明瞭感がとても高くリアルで、とても細かな音の変化や細かい音を拾います。音像が鮮明であると同時に、背景音と自然に溶け込む感じ。音の左右の広がりも自然で良いと思う。
音像がくっきりとして、音の輪郭が鮮明。SNがとても高いと思います。この点の音質ではこれまでのDAPの中でも最上クラスで、A&Ultimaとも違う良さがあります。
SP3000とは少し音色が違う感じで、ある意味でSP2000の直系の後継機が欲しい人に向いているかもしれません。

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KANN ULTRAとAK02

暴力的でかつ繊細なのはハイブリッドに向いています。AK02で使うと低音は暴力的な破壊力を感じて、中高域は鮮明でクリア。AK02は奥行き感の表現に長けたイヤフォンだけど、たっぷり電気をもらって生き生きとなっている感じがする。低域が特に力を感じているように思います。

ダイナミックドライバーのDita Audio Perpetuaで聴くと音がずっしりと重く感じられます。ゲインはlowでもボリュームの半分ほどで十分な音量が取れます。
ドラムスを連打する時の打撃感が重くて強いく、すごい躍動感を感じます。ある意味でアメリカンサウンドとも言えるかもしれません。楽器音の切れが良く、十分な電力でイヤフォンをドライブしている感があります。暴力的な感じの力強さがあるけれども、細かい音の繊細な表現にも長けている点もやはりPerpetuaならではという良さを引き出しています。
ベルの音の高音が極めて澄んでしっかりと響き、パワーがあるというだけではなく、低域の深みから高域までワイドレンジで、かつ細かい音の抽出が優れています。

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KANN ULTRAとCampfire Audio CASCADE

ヘッドフォンではまず3.5mm端子でCampfire AudioのCASCADEを使用しました。これはかなり良かった。ゲインはMidでも余裕があります。
オーケストラものではイヤフォンでは得られないようなヘッドフォンらしい迫力とともに、鳴らしにくいCASCADEが朗々となっているように感じます。それでいて細かい音が浮き上がるように聞こえてきます。これはパワーと低ノイズの両方に長けた証拠であると思います。

CASCADEのケーブルを使用してゼンハイザーHD800を3.5mmでKANN ULTRAに接続してみました。ではやはりKANNに6.3mm端子があった方が良かったと思います。
ハイインピーダンスのHD800だとMidゲインでも音量は取れますが、Highゲインの方が良いかもしれません。HD800らしい横に広い音空間で迫力ある音が楽しめますが、冷静なHD800が熱めの躍動感を奏でるのが面白いところです。4.4mmのヘッドフォンケーブルがあればさらに立体的な音で楽しめると思います。

Signature PureだとMidで余裕があるくらい鳴らせる。密閉型らしい重いパンチのインパクトが鋭く、躍動感に溢れる音が楽しめる。S-Logic的な音の広がり感も感じられて良い。

KANN単体のヘッドフォン端子はヘッドフォンをメインに聞きたいという人に向いていると思います。KANN ULTRAを活かすには低脳率のヘッドフォンを使用して背景を黒くし、KANNのパワーで鳴らしていき、SNの高さで細かい音を浮き上がらせるというのが一つの方程式のように思う。
また全体的に音があまりESSっぽくないでかなりニュートラルな感覚です。以前のES9038を搭載したSE100の時にはいわゆるドライなESSっぽさが音に出ていましたが、KANN ULTRAではちょっと聴くと性能は高いがどこのDAC ICなのかわかりにくいくらいです。この点ではA&KがESSサウンドをがっしり自分のものにしたという感じがします。
また基本的にLowでも音が大きく取れるので高感度イヤホンを使う場合には注意が必要です。


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KANN ULTRAとPA10

ラインアウトとプリアウトについてはAK PA10を使って試してみました。
PA10に接続するとラインアウトの真価が発揮されます。プリアウト設定にするとKANN側でボリューム可変で、ラインアウトではKANN側ではボリューム固定です。ラインアウトは最大音量になるので注意が必要です。
ヘッドフォン出力端子からもPA10に出力してみて比較してみましたが、やはりラインアウトが一番鮮明でクリアな音質になり、その次にプリアウトが鮮明で、ヘッドフォン出力端子から撮るとやや曇った感じはします。(比較的というレベルだけれども)
意外と中間のプリアウトモードも音が良いのが特徴で、特別なプリアウト用の回路を通しているのがわかります。プリアウトとラインアウトは音質というよりも普通に出力する先がボリュームがあるかどうかで切り分けて良いと思います。

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KANN ULTRAとPA10

KANN Ultraは外でも家でもパワーが欲しい時に取り出せる、"Fueling Your Sound"を体現したDAPといえます。それでいて音の細かな抽出にも優れています。
特にヘッドフォンを使いたいユーザーにとっては福音となりうる高性能DAPとなるでしょう。
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2023年12月30日

Astell & Kernの小型アンプ「AK HB1」をレビューした記事をアスキーに執筆

Astell & Kernの小型アンプ「AK HB1」をレビューした記事をアスキーに執筆しました。

https://ascii.jp/elem/000/004/173/4173113/
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2023年10月22日

聞き込んで分かった「A&futura SE300」の魅力(試聴レビュー)の記事をアスキーに執筆しました

聞き込んで分かった「A&futura SE300」の魅力(試聴レビュー)の記事をアスキーに執筆しました。


https://ascii.jp/elem/000/004/155/4155457/
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2023年06月27日

R2R DACを搭載してアナログサウンドを追求した「A&Futura SE300」レビュー

SE300はAstell & Kernの実験的なラインナップであるA&Futuraの最新モデルです。
技術的にいうとSE300はR2R DACを搭載してA級AB級増幅切り替えを採用した点が特徴だけれども、音的にいうと従来のA&Kのプロサウンド基調の枠からは外れて、音楽的な美しさとか艶といった官能的要素を重視したDAPだという点が特徴です。ただ特筆すべきなのはSE300が単なる昔のマニアックDACの復刻ではなく、解像力とかSNの高さのような現代的性能の高さを兼ね備えているという点です。

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A&Futura SE300は6月17日に発売。直販価格はSE300が329,980円。 ケースは直販17,980円です。

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専用ケース(ブラック)を装着したSE300

* 特徴

1 ディスクリートR2R DACを搭載、NOS/OS切り替え機能

ここから少しSE300の基本として、まずR2RとかNOSとは何だ、なんのメリットがあるのかというところを説明します。

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SE300オーディオ回路

1-1 R2R DACとはなにか

オーディオのDACは分類すると、デルタシグマ形式DACと、R2R形式DACに分かれます。昔はそれぞれ1ビットDACとマルチビットDACと呼んでいたんですが、ESSのように6bitでデルタシグマ形式の中間形式のDACが出てくるとこの分類が怪しくなるので、アーキテクチャからデルタシグマ形式とR2R形式に分けています。
デルタシグマというのはDSDのようにデータの差分を信号とする方式で、R2R(Register to Register)またはラダー形式というのは抵抗を組み合わせてPCMのビット数に対応する方式です。つまりデルタシグマ形式のDACはDSD音源をデコードするのに向いていて、R2R形式はPCM音源をデコードするのに向いています。R2R形式は抵抗をはしごの様に組み合わせるのでラダーDACとも言われます。
しかし現在のほとんどの音源がまだPCMなのに対して、現在のほとんど全てのDACはデルタシグマ形式です。これはR2R形式の場合はビット数が高くなるほど精度を出すのが難しいから、高ビット数(24bitなど)に対応する設計を実現しやすくするためです。これがこれまでR2RディスクリートDACが敬遠され、DAC ICでも24bit精度を持つのがPCM1704のように限られていた理由の一つです。しかし最近ではDAC IC不足や技術進歩から再びこの形式が見直されています。
SE300では誤差0.01%の超精密抵抗器を48組、96個の抵抗を組み合わせてR2R形式をディスクリートで実装しています。少し前の据え置きのXI AudioのSagraDACで使用されたのはSOEKRIS社の特注の高精度で0.012%だったので、SE300ではかなり高精度の設計がなされているといえるでしょう。

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SE300のR2R DAC部分

1-2 NOSとはなにか

まず、オーディオの世界でNOSという場合には真空管アンプでNOS(New Old Stock = 新古品)という場合とDAC設計でNOS(Non-Over Sampling = オーバーサンプリング無し)という場合があります。今回は後者についてです。

NOSがあるからにはOSがあります。OSとはオーバーサンプリングするということです。オーバーサンプリングとはDACの内部でサンプリング周波数を高くすることです。なぜオーバーサンプリング(OS)をするかというと、一つにはノイズを取りやすくするためです。
反面でNOSにするとOSでは除去されるはずの高周波成分が残って出力信号に混ざる可能性があります。それが情報が増えるという意味ですが、ノイズが残るので一般にSNが下がると言われます。
言い換えるとOSとはノイズを効率よく取るということであり、NOSとはそれをせずにダイレクトにDA変換するということです。つまり一長一短があります。

R2R方式はPCMをそのままデコードできるので、デジタル処理は最小限で済みます。先に書いたデルタシグマ型のDACは原理的にOSが必須となります。つまりNOSというオプションはありません。一方でR2RではOSは必須ではないのでNOSという設定が可能となります。そしてR2RではOSも可能です。つまりは両方切り替えられるのはR2Rの特徴です。
ですからR2RでもOSはできるけれども、最小限のデジタル処理で自然でアナログの音という観点から、デジタル処理がより少ないNOSがR2Rと組み合わせることが多いというわけです。R2R DACのことを別名でNOS DACとも呼ぶことがあるのはこのためです。

ちなみにこれはオーディオだけではありません。デジタルカメラをやっている人は「ローパスレス」という言葉をマニアがよく口にするのを聞くと思いますが、このローパスレスがオーディオで言うとNOSです。デジタルカメラで言うとローパスがある方が全体に画像はすっきりしますが、細部はぼやけています。ローパスを取るとモザイク状(偽色)になる部分がでますが、細部まで緻密に写ります。つまり入力をよりダイレクトに取り入れるという点ではオーディオにおけるNOSに似ています。
これをオーディオ的な言い方をすると、NOSはより情報量が多く自然でアナログに近いサウンド、OSはデジタル処理により高精度な再現性やノイズ低減を実現、となります。


2 A級/AB級増幅切り替え機能

A級増幅についてはPA10のところで書きましたが、SE300ではA級とAB級の切り替えができるようになりました。一般的に言うとA級はスムーズで電力消費が多く、AB級はよりパワフルで電力消費は少なくてすみます。SE300ではUIでA級増幅とAB級増幅を切り替えることができます。
電池容量はSP3000と同じ5000mAhもあり、SE200が3700mAhだったからかなり電力は消費してるように思います。

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アンプモード切り替え画面

さきに書いた様にNOSとOSではNOSがより味のある官能的な良さを志向して、OSのほうはSNの高さなど性能的な良さを志向しています。A級増幅とAB級増幅ではやはりA級増幅の方が味の良さを志向して、AB級増幅の方が性能的な良さを志向しています。
このNOS/OSとA/ABを組み合わせて自分の好みの音を作れるというのがSE300の特徴なわけです。そういう意味では二種類のDACを持つSE200やDACモジュール変更ができるSE180の延長線上にある音を変えられるDAPであるということもできます。

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SE300ではFPGAを搭載しているのも特徴の一つです。なにに使用しているのかはよく分かりませんが、推測としてはOSのさいのオーバーサンプリングとDSDをPCMに変換するのに使うのではないかと思います。

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* インプレッション

SE300は外観も特徴的で、片側側面が鏡面仕上げで波をうち、もう片側がマット仕上げというのもSE300の持つ2面性を表しています。見た目の高級感もあり、サイズ的にも操作感を考えると適当な大きさだと思う。

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専用ケースはベジタブルタンニングレザーを採用しブラックとブルーがあります。ケースは手触りも良く、高価なDAPが滑りにくくなるので良いのですが、記事内の画像はSE300の特徴を見せるためにケースなしで撮っています。

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専用ケースとケースを装着したSE300

さっそくその音をまずA級増幅でNOSで聴いてみます。
パッと一聴して今までと違う音だということがわかります。音が滑らかで柔らかく暖かみがあります。エージングしないでこんな滑らかなのは聞いたことがない、というかSP3000以来ですがSP3000とは違うタイプの滑らかさです。
中高域に独特の艶っぽさがあるのが昔懐かしいNOS DACの感じに似ている様にも思います。しかしながらSE300がそうしたノスタルジーの産物ではないということは、透明感や解像力の高さなどからわかります。味のあるマニアックな感じと現代的な性能の高さがブレンドされている感じです。
R2Rの音がイメージし難いというときは、普通のDACにおいてDSDを再生した時のDSDネイティブ再生とPCM変換の違いをイメージすれば近い様には思う。R2RはそれがPCMとDSDでは逆というわけです。

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SP2000Tのオペアンプモードと遜色ないほどの高い解像力と細かい音再現が感じられ、R2Rというとマニアックな味系の個性重視のように思えるんですが、SE300は解像力や音像の明瞭さもESSを思わせるくらいある。NOSってSNが理論上は低くなるけど、あまり濁りを感じないところはA&Kの低ノイズ設計が全体として効いているのかもしれない。
SP2000Tのオペアンプモードでは少し高域がきつい曲の部分では、まったくきつさを感じないのはR2R DACらしいところです。メタルを聴いていてもキツさが少ないので、長時間聴いていられますね。SP2000Tの場合には真空管モードを使って似た感じの効果を出すことはできます。

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SE300はとにかく音楽を美しく再生するDAPということが言えると思います。イヤフォンを変えるともちろん音は変わりますが、どれでも音楽を美しく聴かせてくれると思います。
でもやはり元のイヤフォンの音にも左右され、イヤフォンの音調がHIFIモニター的なものよりは音楽を楽しく聴かせてくれる系のイヤフォンの方が合っていると思います。例えばqdc Folkですが、最も合うのはDITA audioのPerpetuaだと思う。Perpetuaだと音楽の美しさと解像力の高さの両方を堪能できます。また一般的にマルチBAよりはダイナミック機の方が音の相性が良い様には思います。
Perpetuaと合わせると高域が艶やかで華やかに美しく響き、音の細部も拾い上げて情報量も豊か、かつ躍動感があって低音も深くたっぷりとして、音場も広大。なかなかに素晴らしい音で、さらにきつさが少なく「アナログ的な」音を堪能できます。

R2R DACはDSDをデコードできないのでたぶんFPGAで前段でPCM変換していると思いますが、DSDの曲を再生してみても上質に再生ができます。R2R DACに入るときはすでにPCMになっていると思うので、NOS/OSの切り替えでも音は変えられると思う。

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* OSとNOS、AとABの切り替え

R2R DACは別名をNOS DACともいい、普通はR2R DACはNOSで固定されています。先に書いたようにNOSがやはりR2R形式を取るときの売りになりますからね。ただHIFIMANのヒマラヤDACもそうですが、最近では切り替えられるものも出てきています。
この切り替え機能はSE300の特徴なのでいろいろと変えてみました。

上のインプレではずっとNOS/Aで聴いてきましたが、DACモードをNOSからOSに変えると音は艶っぽさや温かみという有機的な感覚的な良さが少なくなり、すっきりとした端正な音色となります。こちらの方が従来のDAPの音色に近い感じです。
アンプモードをABにするとやや平板的になりますが音が明るく開けたように音が広がります。またAに戻すと音が滑らかになり、やや音調が暗く中央に集まる様な感じの音になります。

ただOS/ABの組み合わせでも他のDAPよりは音のきつさは少ないと思います。OS/ABだと他のDAPに近づきますが、SE300の効果はないかというとそういうわけではなく、それで他のDAPと比べてもギターのピッキングでのデジタルっぽさやきつさは少ないので、アコースティックデュオのアコギの速弾きだとOS/ABの方が魅力は分かりやすいと思う。
艶っぽいとか美音という感覚的な良さを加えるのがNOSで、さらに滑らかで温かみのある音を実現するのがA級増幅。だから従来のA&KでDSDネイティブ再生のような音再現を実現したいときはOS/ABが良いと思う。

例えば四重奏で弦をかき鳴らす様なところでは、DACモードがNOSだと一つ一つの弦の音が華やかで複雑な色彩感が感じられ、OSだと一つ一つの弦の音はより落ち着いてすっきりと透明感が高く感じられます。アンプモードをAにすると演奏全体が中央に集まって滑らかで多少暖かな印象となり、ABにすると演奏全体が左右に広がってやや冷たく感じられます。
ただし色彩感と書いたけれども、言葉を変えると雑味という人もいるかもしれない。NOSの効果というのは人の感じ方に左右されるかもしれないわけです。
好みの問題ですが、個人的にはNOS/Aが好き。でもSE300の場合にはNOS/ABもいいと思います。SN感や音場感とか音性能の良さと、艶とか味の様な感覚的な良さを両立させている感覚です。
ただ暖かいという表現を使うけれども、着色感という意味では暖色のような色つけは少なく、主に滑らかで柔らかいだけど、柔らかいというとSNが低いようにも感じられるので避けています。
SE300では鮮明な音ながらキツさは抑えられた「アナログサウンド」がポイントです。アナログというと古くてもっさりした感があるかもしれませんが、ハイエンドのLPターンテーブルのシステムで音を聞けばその思い込みは一掃されるでしょう。「アナログサウンド」というのは昔ながらの古い音というわけではありません。

*まとめ

SE300は個人的にとても音が気に入ったDAPです。
SE300を聴いているとなにかこの感覚昔聴いたことがあるなあと思ったけど、それはレイ・サミュエルズさんのSR71だったかもしれない。なにか音がとても細かく聞こえるのに、躍動感があって暖かみがあるのに魅力を覚えたのを思い出します。それと昔の黒箱時代のLINNとか、心地よいのでもっと聴きたいと思わせるような魅力的な音再現があるように思う。

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当然ではありますが、このNOSやAクラスの音の良さはBluetoothレシーバーとしても、ストリーミング再生でも楽しめます。これは画期的なことです。前に書いた様にむしろストリーミングやワイヤレス時代だからこそPCMに強いR2R方式が生きているということもできます。DSD音源はまだまだ少ないし、ストリーミングはPCMなので、一般的なPCM音源でずっとDSDネイティブ再生で聴いている様なスムーズな音再現ができるのがR2R DACとは言えます。
R2Rは古いイメージがある設計ですが、むしろワイヤレス時代、ストリーミング時代のいまこそ輝いているのかもしれません。これはSE300が掲げる「Future of Analog sound」というテーマに沿っています。
そしてA&Kの最新の低ノイズ設計を併せて現代にR2Rを蘇らせたのがSE300であり、それがAstell & Kernが今テーマにしている「アナログの音」の体現と言えるでしょう。
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2023年06月01日

Astell & Kernの独自サウンド、AK ZERO2レビュー

「AK ZERO2」はAstell & Kernブランドでのオリジナルでの独自開発イヤフォンの「AK ZERO1」に次ぐ第二弾です。
初代AK ZERO1の開発で得た知見を元に、「先進の技術を用いてAstell&Kernの原音追求の哲学を詰め込んだ」というモデルということ。PathfinderはどちらかというとCampfire Audio色の強いイヤフォンなので、ZEROシリーズは独自の考え方で開発したということだと思います。5月20日に発売が開始され、直販価格は179,980円(税込)です。

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特徴

ZERO1と同様に多種のドライバーを組み合わせるというマルチドライバー構成ですが、ZERO1が平面駆動(PD)ドライバー、BAドライバー、ダイナミックドライバーの3種類だったのに対して、ZERO2ではそれにピエゾドライバーを加えた4種類に増えています。
ZERO2では全部で6基のドライバーを搭載しています。平面駆動(PD)ドライバーx1、BAドライバーx4、ダイナミックx1、それにピエゾなら7個ではないかと言われるかもしれないですが、ダイナミックとピエゾは後述するように一体型なので6個とカウントしているようです。

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SP3000とAK ZERO2

高域は平面駆動(PD)ドライバー(マイクロ・レクタンギュラー・プラナードライバー)が搭載されています。これは面上に整形されたコイルによって駆動することで、ダイナミック型のような臨場感を両立したサウンドキャラクターを実現したとしています。
そして中低域にはフルレンジでデュアルカスタムBAが搭載されています。フルレンジという意味はクロスオーバーが介されないという意味のようです。また中域にはクロスオーバーが介されたデュアルカスタムBAが搭載されています。
BAドライバーが4基で中域と中低域をオーバーラップして担当しているわけですが、2基のBAを帯域カットして2基のBAをフルレンジとしている理由は、A&Kに問い合わせてみるとトーンのコントロールをするためだそうです。つまり全部カットするよりも半分カットして半分フルレンジだと中間の落とし方が出来るので、チューニングのグラデーションが付けられるということのようです。

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また低域と超高域にはピエゾトランスデューサーと一体型の10mm径ダイナミックドライバーが搭載されています。これはピエゾが超高域を担当して、低域担当のダイナミックドライバーと一体型になっているとのこと。良く分かりにくかったのでこれもA&Kに問い合わせてみると、超高域用のピエゾはダイナミック型と同軸に配置してあるそうです。ダイナミック型はピエゾの真ん中の穴を通るが、ピエゾ素子が音響的にダイナミック型の音響抵抗(厳密には違うがローパスフィルター的な役割)になっていて、低域以外の帯域をカットする役割になるとのこと。ちなみにピエゾはダイナミックの前にあるが、パッシブラジエーターの役割はしていないそうです。この方式のメリットは、ダイナミックから見るとピエゾがフィルターの役割をしていること、ピエゾから見るとダイナミックと同軸上に配置できることで高域が整うということです。

こうしたことからかなり個性的な設計がなされたイヤフォンだと言えますね。この4種の異なるドライバーを超精密なクロスオーバーネットワークで調和させ、3Dプリントによるアコースティックチャンバーで最適に配置、さらにCNCアルミハウジングで共振を抑制することで極めて優れた音域バランスと超低歪を実現しているそうです。

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アルミニウムCNC切削によるシャーシで、Astell & Kernらしい造形を感じさせるデザインはIFデザイン賞を受賞しています。ケーブルは着脱可能で、MMCX端子を採用。付属ケーブルはHi-Fiグレードの4芯純銀メッキOFCケーブルで、3.5mmと4.4mmの2種類。5サイズのシリコンイヤーピースと1サイズのフォームイヤーピース、キャリングケースも付属しています。日本製造で、日本の経験豊富な技術者によるハンドメイドと最新の設備を用い、「厳しい工程を経て最高レベルの品質を実現した」とあります。たしかにこれだけの数と種類のドライバーをまとまりのある音に仕上げているのは組み立ての精密さもあるでしょう。

インプレ

10mmのダイナミックドライバーを含む6つのユニット、チャンバーと筐体が大柄ですが、重さはそれほどでもありません。デザインがよく金属らしい質感も良いですね。シックな印象もあって年齢によらず装着しても違和感が少ないと思います。大柄なボディですが装着感は悪くなく、形状がぴったりと耳に収まる感じがします。ケーブルは高級感があってしなやかで使いやすいと思う。

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AK ZERO2パッケージとケース

まず4.4mm、付属シリコンイヤーピースで、SP3000で聴いてみました。
パッと聞いてその音質の高さに驚くとともに、SP3000だとあまりにサウンドが異次元すぎるという事案が発生。SP2000Tにしましたが、やはりチューブモードだと異次元レベルの音になります。オペアンプモードでなんとなく現実世界の音が良いイヤフォンに戻ってきた感じです。
まず音世界の立体感が特筆もので、低音の深みがすごいというのが第一印象。そして聴いていくと音の描き方が緻密だということがわかります。解像力も極めて高く、楽器の鳴りが静まっていく残響音もよく聞き取れるます。
アンビエント風のシンセサイザーで包まれるような空間表現が得意で心地よく、曲が進んで女性ヴォーカルが入って歌い始めた時にはっとするくらい声のリアル感と肉質感が感じられます。中高域は鮮明でクリアでかっちりとした音再現。声の再現性が良く、ささやきから歌詞を朗々と歌い上げるまで、広い表現範囲でとてもスムーズでかつ緻密に感じられます。解像力も高いのでヴォーカルはリアルで声の肉質感がよく描き出されている。男声と女声の声の質感の違いがよくわかります。

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PDにピエゾと高域はだいぶドライバーが集中しているんですが、高域は伸びやかでベルの音もキラキラしているが、きついという意味ではまったく強くないですね。そのため聞きやすくキツさを感じないのが不思議なくらい。
低音はかなり分厚くて太く深みがあり、叩きつけるような鋭い打撃のアタックも感じられるが、きつさが少ない感じです。よくチューニングされていますね。ダイナミックドライバーの音の重みがハイブリッドらしく聞こえるんですが、低音はそれでいてすっきりしているのでハイブリッドにありがちな低域と中高域の別物感はないのも特徴です。この辺の音が滑らかで快調再現があるのはBAの上記した特徴が生きているのかもしれません。ピエゾハイカットや巧緻なクロスオーバーの効きが良いことと、BAフルレンジ使用の滑らかさなどですね。
SP3000とZERO2だと圧縮音源のストリーミングと内蔵のロスレスとの差が大きすぎて、圧縮音源のストリーミングで聞くのがもったいなくなります。録音の良し悪しも、新旧もかなり良くわかる感じ。ちょっと聞くと滑らかな音タイプだけれども、実はかなり緻密に音を描いていると思います。

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スティック型DACのPhatlab RIOを接続してみると、RIOはPhatLabのポタアン並みの性能あるのでちょっと驚くくらいのサウンドが味わえます。M2 Macbook Airとの組み合わせではこれいいと思う。とても解像度が高く、すごくワイドレンジというのがわかります。ZERO2が音を階調豊かに細かく描いてるのもよく分かります。RIOはハイパワーの分でホワイトノイズが少し多いのでPathfinderはおすすめできないけど、ZERO2は大丈夫です。

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RIOとAK ZERO2

ZERO1との違い

ZERO1に比べるとかなり違いは大きいと思います。また単なる後継というわけではないと思う。また一方で音傾向が違うのでZERO1の音が好きという人もいるかもしれません。
まずフラット基調から低域が厚めの音になったことです。ZERO1はフラットというかモニター的だったけど、ZERO2では低音が分厚くなって、少し暖かみもあります。ZERO2では低音は誇張されずに深みがあって豊か、量感があります。ZERO2では音がスリムになりすぎないで、ニュートラルではあるけれどもやや低音が多くてとても豊か。ロックやポップでも十分な低音はあります。


まとめ

音の立体感包まれ感、厚みと豊かさ、低域のパンチ、楽器音の鮮明さなど、ZERO2はおそらく現在トップレベルの能力があるイヤフォンだと思います。筐体が質実剛健ですが、これを宝石のようなフェイスプレートにしてユニバーサルデザインにするともっと高価でも納得してしまうかもしれません。そのくらいの驚きがある音ではあると思う。音性能の高さもさることながら、これだけの種類のマルチドライバーを有した個性ある設計なのに、まとまりのある音に仕上げているのも優れた設計だと思います。新しい音世界を提案してくるようなPathfinderに比べるとより自然な音でよくまとまっているのも特徴でしょう。

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多少暖かさがあって、滑らかで広がりがある。かつ音はクリアで芯があって緩くない、という音の印象からはアナログの音というAstell & Kernの新しいテーマに沿ったチューニングのようにも思います。その意味ではAstell & Kernの今のサウンドを体現した新製品といえると思います。
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2023年04月08日

アナログサウンドを届けるAstell & Kernのポタアン「AK PA10」レビュー

AK PA10はAstell & Kernが開発した「ポタアン」です。いまどきは珍しい純粋なアナログのヘッドフォンアンプでDACは内蔵していません。
また信号経路を分離したり、A級増幅を採用するなど硬派の製品でもあります。いわば昔ながらのポタアンのカタチを最新技術とA&Kがこれまで築いてきた蓄積をもとに再発明した製品といえます。
ホームページはこちらです。
https://www.iriver.jp/products/product_231.php

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SP2000T、qdc TigerとPA10

* 特徴

PA10はアナログのアンプとして、アナログの音にこだわっているという点がポイントです。それは特徴からもわかります。

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1. A級増幅

一般的にはアンプには電力効率が良くよりパワーを取り出しやすいAB級の増幅が用いられることが多いのですが、マニアがより高音質を求めるために使われるのがA級増幅アンプです。電力消費は大きいけれども、スムーズで歪みの少ない音を得ることができます。ここがまず大きなアナログの音に対するこだわりです。
あえてポータブル製品に電力消費では不利なA級動作を実現させるにあたり、PA10では大容量バッテリーを組み合わせることで、ポータブル+A級動作を実現させています。A級動作をせるためには常に一定の電流を流している必要がありますが、ここは後述するカレントコントロール機能で変更ができます。

2. アナログボリューム搭載

またボリュームにアナログボリュームを搭載しているのもPA10のアナログへのこだわりです。ポタアンの歴史はもともとアナログボリュームから始まりましたが、こうした価格の比較的安い機材でボリュームに使用されるポテンショメーター(可変抵抗器)は小音量時の誤差問題(いわゆるギャングエラー)が目立ってしまう難点がありました。そこでデジタルボリュームに変えてこの問題を解決してきました。しかしデジタルにするためにはアナログ信号を一旦変換する必要があるので、純粋なアナログ信号を壊してしまいます。
そこでPA10ではアナログにこだわるために、高品質のポテンショメーターを使用したアナログボリュームを搭載しています。特にバランスの場合には左右それぞれ+/-ごとの4組のポテンショメータが必要になりますので、PA10では正しく4組のポテンショメータが搭載されています。

3. 3.5mmと4.4mmの信号経路を分離

またアナログ信号の純度へのこだわりは、他にあまり例のない3.3mmと4.4mmの信号経路分離の設計を行なって4.4mm5極トゥルーバランス入出力を実現させています。

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このために3.5mm入力時は3.5mm出力のみ、4.4mm入力時は4.4mm出力のみの使用が可能です。これはいささか不便ではありますが、これによって3.5mm系統と4.4mm系統の信号純度を上げるだけではなく、それぞれに対して最適なチューニングをすることが可能となったということです。まさにこだわりポイントというわけです。

4. Astell&Kern技術の継承と反映

またPA10ではAstell & Kernの技術の蓄積を活用して音質を高めています。例えばノイズや電磁波がオーディオブロックに影響を与えないように独自のシールド缶技術を適用するとか、クロスフィード / ボリューム / アンプなどオーディオブロックごとに電源ICを分けて搭載、また先に書いたアンバランス回路とバランス回路を物理的に分離するなどして徹底的にローノイズ設計を極めるという最近のAstell & KernのDAPに見られるようなローノイズ設計がなされています。加えてA&K技術の集大成であるTERATON ALPHAの採用によって、Astell & Kernの音にしています。
ポータブルアンプは単独の製品ではなく他と組み合わせる製品ですから、アナログのAstell & Kernの音をその組み合わせにもたらすという考え方が貫かれているように思います。

5. 多彩な機能

PA10はシンプルなようでいて、多機能性を備えています。

 5-1 Class-Aカレント(電流)コントロール

PA10では切り替えスイッチによって3段階(Low/Mid/High)のカレントコントロールが可能です。これは電圧を変えるゲインとは違って電流を変えるものです。カレントというと電流ですが、ここでいうカレントは先に書いたA級アンプ動作で常に流れているバイアス電流の大きさを変更するというもののようです。これによって設定をHighにするとより電力消費が上がります。
これは言い換えると、音と音の間をよりスムーズに連結して音の自然さを高めるという機能です。このためソース機器のボリュームを減らし、PA10のボリュームを上げて聴くと、カレントコントロール変更による音の違いがよりよく感じられるということです。これは音源がアコースティック楽器の曲で楽器固有の残響音があるような場合によりわかりやすいということのようです。

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しかしながら、これはA級アンプのチューニングを自分でやっているようなものですから、この値は電池の消費を気にしなければ常に大きくした方が良いというわけではありません。さまざまな曲に対して適切なポイントがあるでしょう。そのために2段階ではなく、より細かい3段階の切り替えができるわけです。

 5-2 ゲインコントロール

これは一般的なゲイン切り替えで、わかりやすく音量の大きさが変わります。ゲインとは音の大小の情報となる電圧を変化させるスイッチのことです。PA10ではローゲインはアンバランス 2.1Vrms / バランス 4.2Vrms (無負荷)、ハイゲインではアンバランス 3.1Vrms / バランス 6.2Vrms (無負荷)となります。HD800のようなハイインピーダンスの機材を使用するときにはハイゲインにします。

 5-3 ハードウエア・クロスフィード

これは左右の音を混ぜることによって、空間再現性を変えるスイッチです。DAPでもクロスフィードが搭載されていることがありますが、それはデジタルで計算で行うために桁落ちなどで音質低下が生じてしまいます。PA10ではアナログにこだわっているためにクロスフィードもアナログになっています。この差はDXD(32/768)、DSD1024などでより自然な音質再現ができるということのようです。
そもそもこれは考えてみると当たり前ですが、PA10にはソフトウエアというものはないので、クロスフィードを実現するためには必然的にハードウエアのアナログ動作で実装することになります。

6. 使いやすい設計

PA10はポータブルアンプとしては、プレーヤーと二段重ねをした時に傷つかないように背面がラバーパッドになっています。今までだとこの面になにかクッション材を挿入したりしていました。それはポタアンというものが手作り品が多かったためですが、これもメーカー製ならではの配慮と言えますね。このパッド面はPCなどに使う時に机に置く際には逆にすることで滑り止めにもなります。またデザインも手作りポタアンのような直方体ではなく、スロープを活用して握りやすくしたり、ボリュームを半埋め込みにして誤操作を防ぐなどこの辺も造形にこだわってきたA&Kならではと言えます。

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* インプレ

PA10を実際に持った感じはすごくソリッド、ガッチリして金属っぽいという感じを受けます。これもいわゆるアナログ感を感じます。
内容物としては付属品としてシリコンバンド(A&Kロゴ入り)が2本ついてきます。これはDAPを二段重ねにする際に離してバンドを使うことでなるべく操作画面に干渉しないようにすることができます。

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* 4.4mmでDAPとの組み合わせ

まずサイズ的に相性の良いSP2000T(opampモード)と組み合わせてみました。短い4.4mmケーブルはOriolusのものです。イヤフォンはqdc Tigerで4.4mmです。DAPから4.4mmで接続する際には4.4mm端子のイヤフォンでないといけないので注意してください。

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SP2000TとPA10

DAP単体の音と比べると、A級アンプらしいシルクのような滑らかさで、とてもスムーズで暖かみがあるサウンドが感じられます。ただ暖かみと言っても着色感は少ないのはいわゆるAKサウンドです。音のエッジにきつさがまったくないですね。
広がり感がある点も良いです。広がりというよりも、音の余裕という感じです。余裕があってこじんまりとした感じが少ないように感じられます。
DAP単体に戻すとSP2000Tだけ聞いている時にはわからなかった音の硬さがわかります。A級の滑らかさというのは例えば絹ごし豆腐とと木綿豆腐のような食感の違い、シルクの服の手触り感の良さのようなものとも言えるかもしれません。

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SP2000TとPA10

そして長く聴いていると楽器音の質感の高さがDAPで聞いてるのとちょっと違う感じに向上しているのがわかります。これはカレントモードの設定を変えることによっても変えることができます。ゲインみたいに切り替えてすぐわかるのではなく、切り替えて少し聞き込むと、同じ曲だけどさっきと少し感触が違うと感じると思います。
例えばヴォーカルのバックでウッドベースやマラカスが鳴っている曲などでは、カレントモードを強くしていくとマラカスの音の鮮明さが上がっていき、ベースラインもより力強く太くなる感じになります。音が濃くなる、あるいは音の鮮明度が上がるという感じです。音の濃さ:弱・中・強、あるいは音像の鮮明度:弱・中・強と解釈したほうが良いように思う。これは組み合わせるイヤフォンがダイナミックか高感度マルチドライバー化によっても違ってきます。
効きは微妙ですが、確かにあります。はじめは3段階も必要かと思ったけど、聞き込むとやはり中間位置が欲しくなります。Lowだと物足りなくなってHighにしてしばらく聴いていると、今度は少しきつくて耳につくので、やはりMidが良いという曲も多々あります。電池消耗を気にしなければ常にHighにしていれば良いかというとそうではなく、やはりイヤフォンの性格に合わせ、自分の好みに合わせて音を作り込んでいくというか考え方が良いと思います。そう意味では3段階あるというのは意味があります。

ヘッドフォンで試してみると、ハイインピーダンスのHD800でもゲイン切り替えをハイにすると音量が取りやすくなります。HD800でもカレントモードはよく効いて、カレントHighにすると音がより引き締まり、逆に下げていくと音が緩くなっていくのがわかります。

ハードウエア・クロスフィードは、たしかにアナログなので音の劣化が少なく、頭内定位を和らげる効果があると思います。こうした効果が欲しいユーザーにとっては常にオンにしておいても良い程度には音質低下は少ないと思う。

SP3000と合わせると、SP3000も完璧と思ってたけどさらに上があるという感じで音の良さを底上げすることができます。さすがにちょっと嵩張りますが、家で使うには良いかもしれません。

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SP3000とPA10

持ち運びには小さなポーチバッグがあると便利です。これは22x18cmのサイズでマチ(奥行き)にゆとりがあるとこうした二段重ねが入れやすいです。また紐が100cmあると肩にななめ掛けできるので便利です。

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* 3.5mmでPCとの組み合わせ

4.4mmバランスでDAPと組み合わせて二段システムを組むのもマニアックでよいですが、PA10は3.5mmを使用してPCやiPadなどに組み合わせても全く別の魅力を発見できます。
その意味では送り出し品質の高いM2 Macbook Airのヘッドフォン端子との組み合わせは、ノートPCを持ち運ぶオーディオシステムに変えるなかなか良い組み合わせだと思います。

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M2 Macbook Proと

デスクトップにノートPCと組み合わせるとPA10のデザインが使いやすいのがよくわかります。デスクトップではパッドの面を下にしていると滑り止めになり、ボリュームが扱いやすくなります。
まさにオーディオで聴いてるという感じの音の豊かさと重みが、ヘッドフォンアンプというより上質のステレオアンプで聴いてる感じ。ある意味PA10の音の凄みがわかりやすい。
AK PA10を高性能DAPと組み合わせるとDAPの音を底上げするのだろうと感じられるかもですが、PA10をPCとかiPadに組み合わせるとPA10の音の支配力が大きくなるのでPA10の音の個性や性能の高さというのが分かりやすいと思う。

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モガミケーブルと標準添付のケーブル

こうしてくると3.5mm用にもいいケーブルが欲しくなるので、接続ケーブルを標準ケーブルからプロケーブルで有名なモガミ2534にアップグレードしました。太くてやや硬いけどそう取り回しには困りません。
音を比較すると音場がパッと開けて細かい音がより抽出されてくる感じです。重心はちょい高めなのでいわゆる日本人好みかもしれません。使う時はアンプを少し離して手のスペースを確保する感じですね。ケーブルは15cmだけど20cmでも良かったかもしれません。
興味ある人は下に販売リンクを置くのでこちらからどうぞ。

普通4.4mm製品に3.5mm端子がついていると互換性のためのおまけという感じもありますが、最近のAstell & Kernの製品ではSP3000もそうであるように、PA10も4.4mmも3.5mmも両方魅力的に作り込んであるというのはひとつ着目点のように思います。

* まとめ

AK PA10はA級動作らしいアナログ的な滑らかな音と豊かさをもたらします。
ポタアンは音量が取れない時に使うものと言われることもありますが、実際は最近のイヤフォンやヘッドフォンは能率が高く改良されているので、平面型でさえ音量が取れないということはまずありません。ただし最近のイヤフォンやヘッドフォンから最高の音質を引き出せるかというのは、音量とは別の話です。

Astell & Kernによると以前発売したSP1000やAK380 AMPの場合は、よりパワフルな出力で音楽を聴いてもらうことを目的としたアンプだったが、PA10の企画意図はAstell&Kernが追求するサウンドをAstell&Kernユーザーだけでなく、他のDAP製品ユーザーにも届けたいということだということです。そういう意味ではPA10はPCやiPadなどに用いてこうした機器の音質を向上させるデスクトップ運用がある意味ではあるべき使い方の一つと言えるでしょう。
また、そうした専用AMPは一つの製品だけに特化して開発がなされます。それに対してPA10は汎用のポタアンであり、一つの製品だけに特化したものではありません。Astell & KernではPA10をアナログの音に憧れるオーディオファンに向けて開発したアナログアンプであると語っています。アナログアンプPA10でデジタルDAPに接続することで、通常のデジタルDAPでは感じにくいアナログの音を届けたいというのが作り手の意図だと思います。
つまり、いまどきアナログのポタアンではなく、デジタル製品ばかりになったいまだからアナログのポタアンというのがPA10なのではないかと思います。

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下記は今回使用したモガミケーブルの販売リンクです。


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2022年11月25日

Astell & Kern 10年の結晶、新フラッグシップDAP「A&ultima SP3000」レビュー

Astell&Kernから、A&Ultima ライン待望の3000番の新製品にして新しいフラッグシップ「A&Ultima SP3000」が発売されました。
こちらは代理店アユートの製品ページです。
https://www.iriver.jp/products/product_228.php

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SP3000とqdc TIGER

* SP3000概要

Astell & KernのフラッグシップであるA & Ultimaラインの最新モデルで、旭化成の最新のDACモジュールであるAK4191とAK4499EXの組み合わせを世界で初めて採用していいます。これは据え置きも含めて世界初です。ポータブルの世界は進歩のサイクルが速いので、こうした最新DACを据え置きハイエンドよりも取り込みやすいという背景もあるようです。

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イヤフォン出力端子は3.5mmアンバランス、4.4mmバランス、2.5mmバランスに対応しています。PCとの接続端子はUSB-Cで内蔵ストレージは256GB、microSDカードも備えられています。microSDカードはSP1000のようなトレイではなく差し込み式です。ハードボタンは従来通り3個で、ボリュームは押し込むことで電源スイッチを兼ねています。上面の電源ボタンはありません。ディスプレイは5.46インチの大型でフルHD表示が可能です。
サイズは82.4mm × 139.4mm × 18.3mm、重さは約493gとずっしりとしています。筐体はのちに詳述しますがステンレススチール製ですので従来のSSモデルに相当します。

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SP3000の開発コンセプトは「光に包まれる」です。配色としてはクリムゾン・レッドがUIなどのキーのカラーに使われています。
またSP3000の開発コンセプトは開発コメント動画をみると「新しいものを一つの場所に」というものもあるようです。「光に包まれる」という言葉もこれまで蓄積した技術の集約をも意味しているとのことです。今年2022年はAK100が出てから10周年の節目にあたります。
SP3000では単に最新最高のDACを搭載したということに留まらずにさまざまな新基軸を採用し、これまでのAsstell & Kernの歩みをだとるかのような技術の蓄積をもみることができます。

* デジタルとアナログの分離

まずSP3000で注目したい点は世界初搭載されたというAK4191とAK4499EXという旭化成の最新DACです。これはデジタル処理を専門に行うというAK4191と、アナログ信号を専門的に扱うというAK4499EXの二つのチップから構成されています。いわばデジタル部とアナログ部を物理的に切り離すことが可能となりました。
このシステムについては以前アスキーに記事を書いています。
参考リンク:AK4499EX記事 https://weekly.ascii.jp/elem/000/004/005/4005472/

SP3000 DAC部.jpg SP3000 HEXAオーディオ回路構造.jpg

それぞれのチップは独自形式のマルチビットデータで受け渡しが行われています。この形式の最大の利点は高速でスイッチングするというノイズの塊であるデジタル部と、ノイズを嫌うアナログ部の相反する二つを根本的に切り離したということです。このためもあってかAK4191では従来のDACのオーバーサンプリングが8倍か16倍程度のところを256倍のオーバーサンプリングが可能です。これはFPGAとか使ったディスクリートDACなみであり、従来のICチップDACからは一線を画した能力といえます。このメリットはSN比がとても高くなるということです。
いわばAK4191とAK4499EXの組み合わせは、従来のDACチップを超えてディスクリートとチップによるソリューションの折衷案的なレベルに達していると思います。
SP3000においてはさらにデジタル部がシールドされていることでこの効果は最大限に発揮されています。このシールド缶はSE180から採用れた技術でそれが生かされているといえるでしょう。

* バランスとアンバランスの分離

もう一つのSP3000の大きな「完全分離」の新基軸はバランス回路とアンバランス回路の完全分離です。
これまでのDAPではバランスとアンバランスで共有されたDACやアンプを使用しているため、バランスとアンバランスを切り替えるためのスイッチICが必要でした。しかしここでそれぞれの回路の最適化のための信号処理が発生してしまうので、その分音質は劣化してしまいます。
SP3000ではバランスとアンバランスをDACやアンプを完全に分けたためにこの音質を劣化させるスイッチICを信号経路から排除しています。さらにSP3000ではバランス回路をを使用しているときはアンバランス回路の電源を切り、その逆も行われることでこの分離が徹底されています。
そのため実質的にバランス専用DAPとアンバランス専用DAPの二個入っていることになります。

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SP3000とTIGER

この一筐体に二個のDAPというのはSE200の知識が生かされているように思えますが、SE200の時は両方同時に通電していたのでSP3000ではそれを踏まえてさらに進化したということができます。

もちろん4.4mmバランスの方が電気的に有利だしパワーもよりかけられてセパレーションも良いのですが、一方でSP3000ではアンバランスの方が出力インピーダンスが低いというメリットもあります。またバランスの場合はアンプがブリッジ構成になってイヤフォンの見かけの抵抗が低くなるため電源負荷が高くなるので、アンバランスの方がより余裕はあるでしょう。SP3000でバランス専用機とアンバランス専用機が二つ入ってることで、それぞれの特性を楽しむことができます。

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SP3000とfinal A8000

イヤフォンの標準ケーブルはおまけのように思われがちですが設計は標準ケーブル込みの音で開発してるので、なんでもリケーブルすれば良いというものでもないでしょう。またJH AudioやFitEarのように独自ケーブルの場合には高価なバランスケーブルの用意まで手が回りにくいので標準の3.5mmのまま残っているということもあるでしょう。
DAPでも3.5mmはバランスのおまけというものでもないはずです。このように本気の3.5mm端子で本気の標準ケーブルを鳴らせるというのは望ましい形だと思います。

* ノイズ低減の徹底

このようにSP3000では「デジタルとアナログの分離」と「バランスとアンバランスの分離」という理想的な形を実現したフラッグシップらしい贅沢な設計がなされています。
さらに導電性の高い高純度銀を塗布したシールド缶でカバーするなど、チップだけではなく、基板全体を俯瞰した徹底的なノイズ対策が施されています。
デジタルアナログ分離DACでノイズ分離し、シールド缶使ってさらにノイズ分離して、ここまでやるかってレベルです。ステンレスシャーシも効いているでしょう。おそらくこれだけノイズ対策したオーディオシステムはハイエンドオーディオでもそうないと思う。

ノイズ低減は最近のAstell & Kernの開発テーマであり、それが全て結実したのがSP3000ということができると思います。実際にSP3000では130dBというこれまで最高のSN比を実現しています。

* DAR

SP3000はDARも音の良さのポイントに加速剤を加えてくれるものです。これはかなり効き目が高いですね。44kHzは352kHz、48kHzは384kHzに製数倍にアップサンプリングされます。ここではSE180のSEM4カードの知見が生かされています。
PCMモードでは一層音に緻密さが増して重厚な音になり、DSDモードでは自然な音のままで音質を一層引き上げてくれます。PCMかDSDかは好みですが基本的にDAR常にオンで良いのではと思います。

* RoonARC対応

SP3000ではRoon 2.0のRoonARCアプリに対応しています。これはRoonを自宅で実行して自宅のPCやサーバーの音源を管理している場合に、それをインターネットを通して外出先で聞くことができるというものです。これは画期的だと思います。使用にはuPnP対応のルーターが必要ですので注意ください。


* 筐体

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A&Kでは以前にもステンレススチールの筐体はありましたが、以前は316Lというメスなどに使われる医療グレードの高級ステンレスを採用していました。それがSP3000においてはロレックスなどがトレードマークのように使用している超高級ステンレスの904Lを採用しています。これはポータブルDAPというか電子製品として初めて採用されたとのことです。ボリュームホイールにはやはり高級時計のリューズを作る際に使用されるスイス製の無振動加工機が使われています。

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このようにSP3000は性能だけではなく、モノとしてまったく高級時計と遜色ないようなレベルの工業製品となっています。

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SP3000ではさらに摩耗や腐食に強いイオンプレーティング・ハードニングや、汚れから守るアンチファウリング・コーティングも施されています。それとパッケージにはAK銘のクリーニングクロスがついています。

* ユーザーインターフェース

SP3000のプレーヤー部ではSoCにオクタコアCPUを採用したクアルコム製Snapdragon 6125が採用されているとあります。ただし4桁番号の6125は開発名称なので、これは製品名としてはSnapdragon 665のことだと思います。Snapdragon 665はミドルレンジクラスのAndroidスマホに使われるSoCですのでDAPとしては十分な処理能力があるでしょう。またミドルレンジのスマホはたいてい4GBのRAMですが、SP3000では8GBのRAMを搭載しているので、実際にはミドルクラスのスマホよりも処理能力は高いでしょう。これは音楽データなどを考慮してのことだと思います。
実際にOpen Appのストリーミングサービスも含め、SP2000Tよりもよりキビキビと動きます。

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SP3000でApple Music再生

またストリーミング音源についてはアプリの処理能力が高いという他にメニューから直接サービス画面を開いてストリーミングアプリを起動できるようになったので、以前よりもストリーミングの使いやすさがだいぶ向上しています。
内蔵音源についてはCDスリーブのようなアルバム表示が凝っています。

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電源に関しては5050mAhのリチウムポリマーバッテリーを内蔵(SP2000は3700mAh)しています。これによって約10時間の連続再生かせ可能となっているとのこと。実際に試してみたところ、デフォルト設定でエージング中に見たら100%から9時間再生させて9%残りでした。


* パッケージ

今回は内箱が二つに分かれていて、大きい方の箱を二つに割ると本体がすっと出てくるという凝ったパッケージです。日本製でもここまで凝ってるのはなかなかないかもしれません。ここにもデザインテーマの「包まれる」が生きてます。

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実物は表面仕上げが今までとは違って艶と厚みがあり高級感を感じます。たしかに高級時計はこんな感じという感じですね。今まで見たポタオデ機の中で一番高級感があるように思います。ブラックモデルでは漆黒の感覚がノイズフロアの低さを感じさせてくれます。

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もう一方の内箱にはクリーニングクロスと伝統のレザーケースが入っています。まずこちらを開けると本体に指紋がついても拭き取れると思う。レザーケースは革の手触りもよく滑りにくいので使いやすそうです。

* 音質

SP3000で音の個性にまず気がついたのはエージングに入れるときです。
エージングに入れる前にイヤフォンのボリューム位置を合わせるためにちらっと聞いたときに、あれっと思ったのはエージングゼロなのに固くきつい感じがないことです。普通はエージングゼロだと硬くてエッジが尖っているように感じるものですが、すでに極めて滑らかでスムーズだったんです。
まるでPCMなのにDSDネイティブかR2Rのような音で、今までとは違うということはデジタル・アナログ分離のフラッグシップDACであるAK4191+AK4499EXの新機軸が効いてるのかもしれないわけです。もしかしてこれが新DACの効果の一つかもとその時にちょっと思いました。

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SP3000とTIGER

エージング終えてからまず4.4mmバランスで聴いてみました。バランスで相性良いのはやはり最新鋭のTIGERです。TIGERとSP3000のバランスでの組み合わせではまるで浮き上がるような透明感を堪能できます。みな音が中空に浮き上がって聴こえるような、今まで聞いたことがない音の感触さえ感じられます。
SNが高くなったせいか、例えば力強いパーカッションの連打の後ろに微かな女性ヴォーカルのヴォーカリーズやハミングが入っている場合にそれがはっきり聴こえるだけでなく、くっきりと上下(のように)に分かれて聴こえます。堀が深い彫刻のようですね。もちろんグレングールドがピアノ弾きながら鼻歌歌ってるのもはっきり聞き取れます。

まるでSP3000では別の世界線のDAPのようなサウンドが楽しめます。
音が浮いて聴こえるようなSP3000の音の進化って、SP1000から2000になったみたいに音がよりシャープになった、より細かくなった、ということだけじゃなくもっと質的な別次元の進化があるように思えます。
それはデジアナ分離構造の4499EXの新機軸の効果かもしれないし、A&Kの低ノイズ追及やSP2000とSP3000の間のfuturaでの試行錯誤の成果かもしれません。おそらく両方です。

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SP3000とTIGER

音はもちろん細かいんだけど、聴いた印象だと細かさより滑らかな方が強い感じです。特にステンレススチール筐体の音ってもっと硬かったはずですが、ステンレススチールの透明感はそのままにいい感じに角が取れて滑らかな感じです。
こうした感覚って前になんか聴いたことあると思い出したのは、光でガルバニックアイソレーションして電気絶縁したオーディオシステムです。それは音のキツさがなく、滑らかで立体的です。SNが高いとシャープになるというよりキツさがなくなるんですよね。特に44/16で聴くとそうです。

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SP3000とTIGER

こうした解像感とかSNの面以外でもう一つ感じる音の進化は、従来のフラッグシップDAPに比べて音が重く、重心が低く感じられることです。以前より力強くなってるのも特徴で、特にバランスでよりパワフルな音表現になっているように思います。これは低音が誇張されているというのではありません。
実際の帯域バランスはわからないけれど、おそらくSNの改善その他で低域方向が強化されてるのかもしれませんし、アンプ部分の改善なのかもしれません。ジッターとか出力インピーダンスとか低域方向でより差が出ますし、オーディオにおいては「質の高い」低域を出すのが一番難しいんですよね。

qdc TIGERは原音忠実性が高いので分かりやすいけれども、Astell & Kern /Campfire Audio のPathfinderのような個性派ハイエンドの個性もよりはっきり出ます。
Pathfinderは個性のかたまりのようなハイエンドイヤフォンです。ダブルダイアフラムBAや独自機構のダイナミックウーファーまで音に生きています。TIGERはEST採用など個性的な特徴をまとまりの良さの方にチューニングして優等生らしいけれども、Pathfinderは天才タイプのように透明感が磨かれています。SP3000ではその能力が極限まで発揮されて、こうした優等生的なTIGERと個性派Pathfinderの差がよりはっきりとわかります。

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SP3000とPathfinder

SP3000のSNの高さもPathfinderでは最高度に発揮されて、聴いたことがないようなレベルの透明感のクリスタル・クリアな音場に無数の細かな音が舞ってるように聴こえます。特に中域の透明感と鮮明さは群を抜いていて、Pathfinderのヴォーカルの良さが際立ちます。アルバム「Manafon」でのデヴィッドシルビアンの声がゾクッとするほどです。
今までTAECのチューブレス透明感は何度も聞いてるけど、SP3000ではTAECの高音の伸びもはじめて聴くほどに澄み切ったベルの音の響きが感じられます。ベースサウンドもタイトでハイスピード、単に迫力あるだけじゃないですね。またSP3000で聴くとPathfinderの低音が単に迫力あるだけでなくBAのように速いベースだということもわかります。

SP3000でのTigerとPathfinderだと正直どちらもすごいけど、よりSP3000の音に没したい場合にはモニター的なTigerの方がわかりやすく、思わず笑っちゃうような凄い音世界に浸りたい場合はPathfinderが良いように思えますね。

* アンバランスユーザー注目

SP3000の特徴的なところはアンバランスとバランスをスイッチも介さず完全分離してるので、3.5mm側をみると最近では珍しいアンバランス特化型のプレーヤーになってるところです。例えばアンバランス回路なら2chの4499EXの一個で良いはずですが、でもあえてA&K伝統のデュアルDACにこだわってDACを二基設けた本気度合いがポイント高いです。SP3000ではアンバランスがおまけではありません。いわば本気のアンバランスです。
バランスに比べると音場が狭くなるのは仕方ないですが、むしろ音がセンターにフォーカスされて、音質自体は馴染みやすいかもしれません。バランスに比べて出力インピーダンスが低い点も良いですね。

手持ちのイヤフォンではさまざまな理由で3.5mm端子のものがたくさんあります。SP3000はそうしたイヤフォンの使用頻度を増してくれます。
例えばバランスケーブルの購入はやはり汎用性のあるMMCXや2ピンが優先されてしまうので、JH AudioやFitEarのように独自端子のものは手が回らなくなりがちです。

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SP3000とJHA Layla CIEM

最近JH Audio LaylaをSP3000でよく使うんですが、しばらく使ってなかったLaylaが息を吹き返したように楽しめます。先進的なPathfinderに比べるとクラシックな音ですが、それがアンバランスでちょうど合います。ワイドレンジで鋭い音はジェリーのLayla設計の意図を汲み、低音のパンチの良さがJH Audioのハウスサウンドを感じさせます。SP3000の低域方向の性能の高さがずっしりとした重みを感じさせるんです。

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SP3000とFitEar TG335(左)とTo Go 334

SP3000でイヤーピースとケーブル同じにして比較してみたらFitEar Togo 335とTG334の違いがより分かりやすかったのに驚いたのも発見です。低域の違いはわかりやすいけど、中高域の表現もこんなに違うのかっていうのが発見できたように思います。

CA Cascadeは独特の端子で3.5mmアンバランスしかなく、普通のポータブル機器だと重くこもったようになりがちだったけど、SP3000のアンバランスだとからっと軽くHD800みたいに精密に鳴るのがちょっとすごいと思う。このくらいのドライブ力って今まではアンプ組みのシステム並みです。

またイヤフォンを設計する際には標準ケーブル込みの音で設計するわけですし、最近では標準ケーブルの性能も上がっています。そのために標準ケーブルのまま使いたいというものもあるし、それらはたいてい3.5mmです。

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SP3000とfinal A8000

例えばfinal A8000の音のすごい速さってトゥルーベリリウム振動板とともに、伝送速度を重視した標準ケーブルとの組み合わせの良さもあるので標準の3.5mmのまま使いたいわけです。そういう時にSP3000のアンバランス専用側で活かせます。古楽器の響きの良さ、消え入る細かい音までしっかり再現してくれます。


* まとめ

SP3000は外観と音質の両方で今までのポータブルオーディオにないレベルの「上質さ」を感じます。
超高級腕時計のような外観と、別世界線のような音性能で従来のプレーヤーと一線を画したSP3000はA&K 10年の区切りに相応しい製品と言えるでしょう。

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伊達にSP3000が10年の集大成を語っているわけではありません。実際にA&Kの歩みとこの間のA&futuraでの経験が生かされています。

バランスとアンバランスがスイッチで切り替えてなく完全別なので実質一つの筐体に二個DAPが入ってるのと同じなのはSE200を思い出させます。ただしSE200では同時に通電していたのからさらに進化して片方は電源カットという仕様に進化しています。
シールド缶やDARはSE180を通して得た知見ということもできます。
そしてA&futura全てを通してノイズ対策は一貫して続けられて、その成果が全てSP3000に投入されています。

わたしはAK100からずっと見てきたんですが、これだけの経験を地道に積み上げて来たメーカーは他にないと思います。カッパーみたいな特殊素材シャーシについてはソニーでさえ後追いしたくらいですからね。
Astell&Kernのブランドが確立してからも挑戦者のマインドを忘れずにfuturaラインでの経験が大きいと思います。ノイズ低減の徹底というテーマを設けているのも良いですね。
またAK120から続くデュアルDACの追求もいまだに生きています。アンバランス回路なら2chの4499EXの一個で良いはずですが、でもあえてA&K伝統のデュアルDACにこだわってDACを二基そのために設けています。そのためアンバランス部分は本気で使えるものになっています。
SP3000持って行くとハイレベルの音空間を楽しむためのバランス用の最新のイヤフォンと、味を楽しむための昔ながらのお気に入りのアンバランス用のイヤフォンを二つ持って行きたくなります。

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SP3000はたしかにスペックも素晴らしいのですが、それは数字という分かりやすい要素の一つであるに過ぎません。
単にスペックにとどまらない、その陰に隠れているこうした技術の積み上げが結実しているのがSP3000の音であり、それこそが10年の集大成という意味であると思います。
こうしてAK100が掲げた「ありのままの音」というテーマが結実しているのがSP3000と言えるでしょう。
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2022年06月10日

Astell & Kernのスティック型DAC、AK HC2レビュー

Astell & Kern 「AK HC2」はA&Kが開発したスティック型DACです。AKとしてはAK PEE51(AK HC1)の後継機となります。AK HC1とは異なりアダプターの標準添付によりiPhoneのライトニング端子にも対応しています。

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スティック型DACは最近4.4mmバランス対応のモデルが増えてきましたが、HC2も4.4mmバランス端子に対応しています。4.4mm対応スティック型DACは軽量なDAPの代替として使うこともできますが、例えばフラッグシッブDAPを4.4mm端子のハイエンドイヤフオンで聴いていて、ちょっとYoutubeの映像を見たいと思った時にそのままスマートフォンに接続することができるという便利なアダプターとしての役割も兼ねていると思います。

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HC2は2022年6月17日(金)発売で、価格は税込 29,980 円 と手ごろな点もポイントです。

https://www.iriver.jp/products/product_226.php

* 特徴

まずHC2は4.4mm5極バランス出力搭載という点がポイントです。 GND接続された5極バランスに対応しているのはイヤフォンを接続している時ではなく、ラインアウトとしてアンプに接続する時に意味を持ちます。このためPCと他の4.4mm対応ヘッドフォンアンプとの接続にも便利に使えると思います。ちなみにHC2から明記されてますがGND接続は以前のAKの4.4mm対応機種は同じだそうです。
HC2はコンバクトですがハイパワーで4Vrmsもの高出力が可能です。この点ではノートPCに接続してヘッドフォンで使うのにも向いているでしょう。

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AK HC2はコンパクトながら本格的な回路設計が行われ、CS43198を左右別にAKオーディオプレーヤーのようにデュアルDAC搭載しています。またAKオーディオプレーヤーにも使用され、電源変動を抑制して安定したシステムとオーディオ性能を実現するテーラード超小型タンタルコンデンサーを搭載しています。L/Rセパレーションも驚異的とカタログにありますが、実際に音場感が素晴らしいのを感じる点も音質のポイントです。

そして最近のAKオーディオプレーヤーの流れをくむ様に、徹底したノイズ低減も図られている点もポイントです。機器に直接接続されたUSB端子側にDACを配置するのではなく、リアオーディオ出力構造を採用することでノイズ低減をしています。HC2ではケーブルは外せませんが、これもより接点を少なくすることでノイズ対策を行った結果と言います。ケーブル部にはデュアルノイズシールドケーブルを採用してノイズ低減を果たしています。
この辺にも徹底した低ノイズ化へのAstell & Kernの最近のこだわりが現れていると思います。デュアルDACにノイズレスと小さくてもきちんとAstell & Kern製品であるということです。

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使用は簡単でスマホやPCに挿すだけで使えるプラグ&プレイです。Android スマートフォン及びタブレット PC、Windows10/11 および Mac OS の PC、iOS デバイスなどに対応しています。入力は最大PCM 368KHz/32bit、DSD256のネイティブ再生に対応しています。なおAndroidでは専用のアプリがあるということです。

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またAK HC2はRoonチームによる「Roonテスト済みデバイス」です。Roonテスト済みデバイス(Roon tested device)というのはRoonのUSB DACに対する認証規格です(ネットワークデバイスの規格はRoon Ready)。これはつまりPCと組み合わせて使用することも前提とされているということです。


* インプレッション

箱もしっかりAstell&Kernらしいパッケージングがなされています。筐体は値段のわりにソリッドでしっかりしているという印象です。ケーブルの質も良さそうですね。

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AK HC2のデザインコンセプトは、"Slope"です。パワフルな性能を象徴する六角柱形状のアルミボディに、斜めに走るスロープがデザインのポイントということで、Astell & Kernのアイディンティティをも象徴しています。
ボリュームもボタン類もなく、シンプルに徹しているのが印象的です。機能を求めず音に徹した質実剛健な感じですね。約29gと軽いのでスマホにぶら下げても負担になりにくいと思います。

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試聴はiPhoneにアダプターを付けて行いました。イヤフォンはAK ZERO1に4.4mmバランスケーブル「AK PEP11」を使用しています。このPEP11はなかなか優れたケーブルで他のイヤフォンに使用してみてもなかなか高音質です。
聴いてみると、まず音場がとても広いのに驚きます。空間オーディオの仕組みはないけどナチュラル立体オーディオみたいな感じ。次はピュアな音で透明感がとても高いということですね。音質レベルはずっと高価なDAPと遜色ないと思います。特に音場の広さと透明感はかなり良い。
パワーはかなりあって、どちらかというとダイナミックとか中低感度向きに感じます。高感度IEMだと少しボリュームの余地が少ないですが、それでもホワイトノイズは少ない感じです。ゲイン切り替えはあった方がよかったかもしれません。AK ZERO1はすこし低感度なのでHC2とちょうど良いと思います(ボリューム位置真ん中くらい)。たぶんもう少し低感度のヘッドフォンでも十分ならせるでしょう。

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帯域バランスでは誇張感が少なく、その点でもAK Zero1と相性が良いですね。楽器音もシャープで自然でAKらしい素直で高解像度な音です。
DITA Perpetuaでもかなり良かったです。ダイナミックには向いてますね。ダイナミックイヤフォンだとバランス駆動らしい力感のあるパンチが気持ち良いと感じます。
音の良さは3.5mmを入れないで4.4mmに割り切ったところも音に余裕があるせいかもしれません。

* まとめ

AK HC2はAKらしいデザインでAKらしいサウンドが楽しめるスティック型DACです。Astell & Kernが気になっていた学生さんなどのMyファーストAKにもいいと思いますね。手軽な価格でコスパがとても高いと思います。
パワーがあるのでノートPCに使って平面型ヘッドフォンにも向いているかもしれません。いろいろな使い出のある高コスパのスティック型DACを探していた人にオススメです。
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2022年03月08日

新機軸のデジタルプレーヤー、A&K ACRO CA1000レビュー

Astell&Kernから、ヘッドフォンアンプとDAPを一体化させたユニークな製品「ACRO CA1000」が1月に発売されました。価格は299,980円です。
こちらは代理店アユートの製品ページです。
https://www.iriver.jp/products/product_222.php

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これは最近ではトランスポータブルとも呼ばれるジャンルで、可搬はできるがポータブルのように常に持ち運ぶことを考えたものではないという形で使用する機材です。A&Kではキャリアブルと呼んでいます。A&K的にはKANNの考え方を進めたものとも言えるでしょう。
最近ではDAPが高性能化することで、家で使用するオーディオがDAPだという人も増えています。それを考えると、先進的に発達し続けるDAPを家で使うことに特化するという考え方が出るのは自然なことだと思います。
そうするとまず家で使うために、イヤフォンよりもヘッドフォンがメインになること、家でのオーディオ機器に接続できるという側面がより重要になってきます。また手に持つよりも机に置いて使うことがより増えてくるでしょう。そうした点を突き詰めて開発されたのがCA1000と言えます。

* 特徴

1 ティルトディスプレイ搭載

はじめ見たときはDAPを合体させるのかと思いましたが、実際はDAPと同じくらい大型の液晶ディスプレイをティルト方式で搭載しています。このディスプレイはCA1000の特徴的でもっとも優れた機能の一つです。これがあるのとないのではデスクに置いたまま使う際の使いやすさがまるで違います。

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水平から最大60度まで自由に調整が可能です。

2 ヘッドフォンに向いた機能

CA1000ではヘッドフォンでよく使われる6.53mmの標準プラグを搭載しています。これは大きさに余裕があるゆえですが、さらに3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスと多彩な端子があるのでまず接続には困らないでしょう。

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また高性能ヘッドフォンは高インピーダンスのものが多いためにCA1000ではKANNをさらに上回るスーパーハイゲインモードを含む4段階のゲイン設定があり、最大15Vrmsもの超高出力を出してヘッドフォンを駆動することができます。
またCA1000ではソフトウエアの新機能として、クロスフィードが搭載されています。これは左右の音を混ぜることでより自然な音場感を得られるという機能で、ヘッドフォンリスニングをより快適にしてくれるでしょう。

3 家での使用に向いた多彩な入出力

CA1000は筐体の大きさを生かして、背面に多彩な入出力端子を備えています。

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デジタル入力は光(角型)、同軸(RCA)を備え、充電専用のUSB Type-C端子とは別にデジタル入出力用のUSB Type-Cも搭載しています。またアナログ入出力(RCA)で機器を接続し、オーディオシステムの中でプリアンプとして使用することができます。しかもプレーヤー付きです。
こうしたすべての入出力設定は、タッチパネルで簡単に選択できます。
またMicroSDカードスロットも搭載しているので内蔵メモリを増やすことができます。

4 DAPの良さを継承したヘッドフォンアンプであること

そしてCA1000の最大の特徴はヘッドフォンアンプとしての視点に立つとよくわかります。それはヘッドフォンアンプでありながら、DAPの機能性と先進性を兼ね備えているということです。ヘッドフォンアンプならばDACとPCを別に用意してケーブルで接続する必要がありますが、CA1000ではすべて一体型です。さらに内蔵メモリを備えているので外部ディスクをつける必要もありません。
CA1000はES9068ASを4機搭載したクアッドDAC搭載で、単体DACとしてみてもかなり優れたDAC性能を有しています。
またA&K DAPはDLNAやRoonにも対応するネットワーク機能を有し、ワイヤレスでのファイル転送やBluetoothの送受信機能などワイヤレス環境に秀でています。またDACのデジタルフィルターやUSB DAC機能など書ききれないほどのA&Kソフトウエアを継承しているため豊富な機能性があります。
PCと単体DACを接続したのを上回るほどの機能を一体型で備えています。

一方でCA1000は最近A&Kが注力しているDAPの低ノイズ設計を継承しています。DACやアンプ回路を超高純度銀メッキシールド缶に入れてシールドした設計です。さらに CA1000では使用しないヘッドフォン端子をリレーを使って物理的電気的に分離するという徹底さを見せています。またバッテリーだとノイズレスのクリーンな電源を供給できます。これも据え置きではなかなかできない点です。
4オームとか8オームのスピーカーと違ってヘッドフォンでは電流よりも電圧の方が重要だし、小電力のプリアンプ段階だとノイズの影響が大きいから、ゲイン重視で低ノイズのAKのヘッドフォンアンプ設計は理に適ってると思います。
このためCA1000は単に大馬力ヘッドフォンアンプではなく、高感度イヤフオンにも向いています。家でイヤフォンで楽しむ意味を再確認させてくれるでしょう。

*インプレッション

CA1000はボックスを開けるとちっょと小声が漏れるほど存在感を感じます。火星探査ローバーを基にしたというデザインですが、どちらかというと「ガンダムか」というようなロボットメカ的なかっこよさを感じますね。大きなボリュームホイールも良いアクセントになっています。

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筐体はヘッドフォンアンプとしてみると意外とコンパクトなので場所をとらずにちょっとした机の隅などに置いておけます。普通ヘッドフォンアンプはラックに入れるとか置く場所が決まってしまいますが、CA1000はちっょと手元に置いたり、少し奥の方に置いたりとそのときそのときで自由に使えます。
ティルト液晶のおかげでデスクトップで使いやすく、このおかげで積極的に使う気になります。重量があるのでタッチしても動きにくいのがいいですね、特にキーボードで文字入力がしやすいと思います。ただDAPにクレードルつけても、指で押すと動くと思うのでこれはいいですね。この良さは特に机の奥に置いたときに感じます。
それと大型液晶でアルバムのカバーアートを観ながら音楽に浸れるのも意外と新鮮です。DAPだと選曲操作時以外はバッグやポケットに入れてしまうから見ないのですよね。
操作はA&KのDAPを使用している人ならすぐにわかるでしょう。液晶の下部分をタッチするとホームに戻るA&Kらしい仕様もあり、 DAPそのまんまの使用感でヘッドフォンアンプが使えます。
最近のAstell & Kernの流れとして本製品でもシールドされた電子回路のように徹底的にノイズ低減が図られていますが、CA1000では使用されない端子はメカニカルリレーで回路から切り離すと言う徹底されているので、カチッというリレー音がたまに聞こえるのが高級オーディオ感があって良い点でもあります。

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音源用意の段階でDAP+ヘッドフォンアンプの新鮮さを体感できます。内蔵メモリーが256GBもあるのでDSDとか192kハイレゾのような容量食うのを入れるのに良いですね。いくらストリーミングの時代と言っても限界がありますし、DSDはストリーミングもないですから内部メモリが必須です。DSDネイティブ再生もたっぷりと楽しめます。microSDもあるので容量にはあまり困らないでしょう。

バッテリーは実測で10時間くらいで、1時間で10%前後減るくらいです。バッテリーはSP2000Tあたりの倍の容量だからそれなりにアンプあたりに電力がまわっていそうです。発熱はなく、 SE180のCカードに似てるかんじてはあります。オーディオ的には熱があると頑張ってる気はするんですが、電子機器があって熱いとジョンソンノイズのような熱ノイズが出るので、低ノイズ化のためには発熱がない方が良いでしょう。その辺も最近のA&Kの低ノイズ化のトレンドに沿っている気はします。

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・ヘッドフォンでのインプレ
CA1000をちょっと聞いてみるとやっぱりDAPの音ではないと感じます。余裕があって深みがあり、据え置きの音がします。たしかにバッテリー駆動の据え置きオーディオという感じ。雑味が少なくクリーンでアナログ設計に余裕がある感じの滑らかさと奥行き感です。DAPだとどうしてもこじんまりとして箱庭的な音になりがちですからね。
この点でCA1000にはやはりヘッドフォンが一番似合います。ベイヤーのT1をベースにしたAK T1がかなり相性がいいと思いました。A&Kブランドのイヤフォン・ヘッドフォンはそれなりにA&K機器との音色の相性は考えられているように思います。
音の細やかさもよくわかるし、音空間の奥行きの広さもかなりのものです。
特筆すべきはデジタルっぽくない音の柔らかさと音の美しさ。アナログ回路が良くて余裕がある。特に低音の豊かさでそう思う。ブオーンという超低域の深みがちょっと聞いたことないくらい。一つ一つの楽器の音が美しくずっと聴いていたくなります。打撃が鋭く、トランジェントの立ち上がりと立ち下がりも俊敏でいいですね。
T1pは側圧も控えめで半開放なので家で使いやすいです。

クロスフィード機能を使用してみると柔らかく聴きやすくなり、自然で音質低下も少ないと思ます。長時間聴いている時にも良いかもしれません。録音がきつめの時に使っても聴きやすくできます。カスタム設定もできるので、ミキサーレベルは少し上げ気味の方が違いははっきりと出ると思います。

次に高インピーダンスヘッドフォンとしてHD800を使ってみました。ゲインはHighでも音量が取れますが、Super Highだとさらに余裕があってより一層力強さも加わる感じです。HD800の特有の左右の広さに加えて、CA1000アンプの奥行き感表現もあって音場感の良さは魅力的です。
音の歯切れも良く、ロックでのドラムのアタックの打撃感も小気味良いですね。

高インピーダンスの次は低感度を鳴らしてみようということで、古い平面磁界型で鳴らしにくいAudeze LCD-2を使ってみました。最近の平面磁界型は高感度化していますが、このころのはなかなかに難物です。
LCD-2も音量自体はHighでも聴ける音量で取れるけど、Super Highにした方が音に活力があります。音の歯切れもよく、パワフルで音の深みも良いですね。CA1000は十分に平面磁界型でも使えると思います。LCD-2がハイエンドの平面磁界型らしくとても細かい解像力があってウッドベースのピチカートがかなり生々しく感じられ、ちょっとハイエンドオーディオで聴いてる感じに近い音レベルです。このくらいの音質レベルになってくると音源の良し悪しがかなりはっきり出てきますね。いまはケーブルが標準プラグしかないけど、4.4mmバランスだとさらに良いかもしれない。

密閉型ヘッドフォンでポータブルのCampfire Audio Cascadeも使ってみました。ゲインはミドルで十分という感じです。音が早く、HD800より音のキレが良いのがよくわかります。低音の迫力もまるで爆発するように気持ち良い。

色々使ってわかったのは、HD800の空間再現の良さやCascadeの低音の暴力感など、ヘッドフォンの個性がよく引き出されると言うことです。

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・イヤフオンでのインプレ

基本的にはAstell & Kernの上品な音作りなのでA&KのZERO1がやはりよく似合います。ものすごく透明感が高いく、音の細かさはハイエンドDAPなみです。違いは奥行き感と厚み、重みや深みがCA1000にはあることです。脚色感は少なく録音忠実度が高い音です。

マルチBAカスタムのES80を聴くとDAPでは聴けないようなスケール感にちょっと感動します。ものすごく細かい音が雨のように降ってくる感じはDAPのままに思います。

・アクティブスピーカー

家のアクティブスピーカーにも繋いでみました。配信動画用にiPadの3.5mm音声出力に繋いでいたクリプトンのパワードスピーカーKS-1に繋いでみると見違えるように良い音出すので驚きます。当たり前といえば当たり前ですが、ケーブルは安いので使ってただけにちょっと驚きです。音が回り込む感じとか、音が繊細で歪みのないピュアなオーディオらしい音。KS-1はいいスピーカーだとは思ってたけど、タブレットという名のリミッターつけて使ってたわけで、リミッターが解放されるとさすがにデスクトップにはもったいないくらいのいい音です。
KS-1には内蔵DACがありますが、直接デジタルで入れるよりもCA1000からの3.5mmケーブルのアナログの音の方が格段にいいですね。DACのレベルが大きく違うので低価格ケーブル経由とは言え、当たり前と言えば当たり前ですが、それは実際に使わないと気がつかないものだったりします。

ヘッドフォンアンプはバイパスされるようなのでRCAアウトの品質もいいと思いますので、RCAから出力とってFostexやGENELECみたいなパワードスピーカーに使うのもいいですね。CA1000は音がスピーカー向きだと思うので、スピーカー用のパワーアンプのプリアンプとして CA1000を使用してもいいでしょう。
総じて家ではかなり使い出があると思います。

*音質のまとめ

CA1000は音質レベル的にはアンプ込みでHugo2と比べても甲乙がつけ難いくらい高いレベルがあります。CA1000の個性としてはノイズレスの透明感と響くようなSN感の高さ、加えてアンプの力か深みがあって奥行き感が深い点がいい。音楽世界に引き込まれる音の深みが素晴らしく感じられます。
良録音の音源とT1pのようなフラッグシップでフラットなヘッドフォンと合わせると驚くように魅力的です。
これも持ってる曲を片っ端から聞き直したくなるタイプの機材ですね。
音の細かさ自体は今までのAstell&KernのハイエンドDAPのものだけど、DAPみたいに音の細かさというよりもアンプの強化でもたらされた音の深みと奥行きに注意して聞いて欲しいと思います。

* 全体のまとめと考察

CA1000はいままでにないタイプの機材なので考察をもう少し追加してみます。

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CA1000はヘッドフォンアンプとして考えると画期的です。
まずシステムを組む必要がなく頭を巡らせる必要がないこと。ヘッドフォンアンプはDACが必要でさらにPCとも繋げる必要があります。T1pと合わせて聴く高音の透明感があって空間の深みもある澄んだ響きは普通にPCオーディオで組んでも難しいと思います。かなり高精度な光デジタルケーブルを使うとか、PCオーディオとして良い音を出すにはOSの設定などもいろいろと考える必要があります。CA1000の音質はMacでインテジャーモード使ったなみ、あるいはそれ以上の透明感やクリアさをあっさりと出してしまいます。PCオーディオ知ってる人だと革命的な感じですが、ポータブルオーディオでは普通なんです。それを合体させたのが CA1000です。
CA1000はRoon Ready機器として動作しますが、これにRoon Coreを載せられたらとか思いますね。ハイエンド・ヘッドフォンアンプに高級なDACを組み合わせてさらに最新の注意を払ってPCかMacを乗せれば、もしかするともっと良い音が得られるかもしれません。しかし、CA1000の価格の何倍するかわかりませんし、すべて電源をオンにするだけで面倒になるでしょう。

それとイヤフォンにこれだけ向いてるヘッドフォンアンプってなかなか無かったと思います。ヘッドフォンアンプは高インピーダンスとか平面磁界型とか鳴らすのに向いた機種が多くてパワーあっても大味なものが多かった。DAPは簡単に操作でき、音は細かいけどヘッドフォンアンプに比べるとこじんまりとしています。ACRO1000はそのいいところがミックスされています。家でイヤフォンの出番を増やしてくれる機材とも言えます。

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使い勝手でいうと、CA1000に関しては使用してみないと良さは解りにくいとは言えます。ティルトディスプレイとガッチリしたボディの使い心地もよく、家では常にWIFIに繋いでるのでハイレゾストリーミングにも向いてますのでOpenAppの稼働率も上がります。
それとやはり標準プラグをアダプターなしで刺せるのは良いです。

この音で持ち運べると良いんだけど、アナログ部分はどうしても物量だからそれは無理でしょう。基本的に家で使って、家のあちこちや机のあちこちに移動するのための「トランスポータブル」なので、あまり持ち出すことは考えないほうが良いでしょう。コロナ禍で通勤が減って在宅が多くなってDAPの稼働率が低くなって人にも良いでしょう。リモートオフィスにスタバやドトールにもっていくのはありかもしれません。
外でAKのハイエンドDAPを高性能イヤホンと組み合わせて楽しんで、この音が家でさらにスケール感良く聴きたいと思ってる人にはCA1000とT1pの組み合わせがオススメです。
手軽で音が良く便利なCA1000はおそらく結局は稼働率が高く、そういう意味でのコスパは高いのではないかと思います
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2021年11月24日

アスキーに「Astell&Kernの最上位ハイレゾ機「A&ultima SP2000T」を聴く」記事を書きました

アスキーに「Astell&Kernの最上位ハイレゾ機「A&ultima SP2000T」を聴く」記事を書きました。

https://ascii.jp/elem/000/004/072/4072922/
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2019年06月05日

Astell&Kern 新製品内覧会

SP2000はSP1000から2年ぶりとなる新しいフラッグシップで、最新最高のAK4499をデュアルで採用しています。

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そこで旭化成の担当者の方にも話を聞いたのですが、もともとAK4499は最高の音だけを求めて開発したもので、ポータブルでの採用はまったく想定していなかったので、これをしかもデュアルでポータブルに採用したというのはすごいと感心しておりました。発熱や消費電力だけではなく旭化成DAC ICにとっては初となる電流出力のためにI/V変換回路をDAP側で持つ必要があるために回路も複雑化します。KANN CUBEも電流出力のDAC ICを用いていますので経験が役に立ったということです。

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SP2000とSP1000の外観はほぼ同じで、SP2000ではSDカードはトレイではなく通常方式とされ、アンプ用の接続端子は廃止されました。重さ的にはほぼ同じに思えます。

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音質はSP1000のステンレススチールモデルとSP2000のステンレススチールモデルで、同じ曲を使用してES80のシングルエンドで比較しました。
立ち上げ時間は一緒に立ち上げると0.5秒-1秒くらいSP2000がはやい感じですね。SP1000SSと同じボリューム位置だと音量は同じです。
音に関してはSP2000SSとSP1000SSは似ていて、SP1000とAK380のような大きな違いはなく、正常進化モデルという感じです。
違いだけ言うと、SP2000のほうが明瞭でクリアに聴こえます。SP2000のほうがSNがより高いという感じですね。この辺に新DACの良さが出ているように思います。
周波数特性は似ていますが、ややSP2000の方が低域の締まりと力感があるように思います。また超低域はSP2000の方がより豊かに出ていて、そのため全体の音に厚みが乗ります。これはロックとかよりアカペラとかピアノソロの良録音の方がわかりやすいと思います。たぶんSP1000ユーザーはこの隠し味のような厚みをうらやましくなると思いますね。
あまり長時間は使ってませんが、一部のポタアンのように熱をすぐに持つ感じではないです。

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SP1000アンプは底面と上のフックで固定するタイプで、ファームアップでアンプメニューが出てきます。

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これはイヤフォンよりもヘッドホンで聴くとかなり力感が違います。だいぶパワフルに感じられるので、ヘッドフォンで楽しんでいるユーザーは要チェックとなるでしょう。

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2019年06月04日

KANN CUBEのインタビュー記事

Astell & KernのKANN CUBEのわたしのインタビュー記事が乗ってますのでこちらご覧ください。

https://www.phileweb.com/interview/article/201906/04/658.html
posted by ささき at 08:09| __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年04月26日

Astell & KernからKANNの新型、KANN CUBE登場

Astell & KernからKANNの新型であるKANN CUBEが登場します。

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これはKANNのデスクトップ的な使い方を突き詰めた新型で、旧KANNは併売されます。特徴としては従来よりひとまわり大きくなり、CDリッパーと合わせたデザインとなりました。またES9038proをデュアル搭載し、ラインアウトにmini XLRを採用しています。XLRの場合はアンプをバイパスする仕様のようです。

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またいままでより一段高いハイゲインが設けられましたが、これは平面型ヘッドフォンを意識してのことだと思います。(従来のハイゲインはミドルゲインになっています)
音質もなかなか良好でした。家で使うことが多いという人には興味ある新製品だと思います。

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現行KANNとの比較
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2018年10月07日

Astell & KernもついにMQA対応へ

Astell & Kernプレーヤーにも待望のMQA対応がなされることが、現在開催中のRMAFで発表されています。
プレスリリースによると、まずSP1000が10月中くらいをめどにして、それから順次拡大ということです。
さてTIDALマスターでのハイレゾストリーミング時代が来るか? フルデコーダーとなるはずなので、MQAコアデコーダーとしてOTG使用してMQA対応のポータブルアンプ(MQAレンダラー)にも使えるはずです。ポータブルでのMQA使用も拡大していきますね。
posted by ささき at 07:00| __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月07日

Astell & KernからSP1000の新型登場

Astell & Kernからハイエンド機A&ultima SP1000の新型であるSP1000Mが発売されます。

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SP1000CPやSP1000SSはいわばステンレススチールやカッパーなどの筐体を使用した特殊モデルで先行したわけですが、このSP1000MはSP1000のハイエンドな中身を可能な限り継承しながらディスプレイサイズを5インチから4.1インチにし、さらにボディ素材をステンレススチールやカッパーからアルミニウムにすることで小型化と軽量化を図ったモデルです。内蔵メモリも128GBに変更されています。
重さは386g(SS)から203gになっているのでほぼ半減、サイズも一回り小さそうです。まだ国内価格は発表されていませんが、参考価格として発表時のUS価格も$1000以上低減されているので価格もかなり低減されているのではないかと思います。色はブルーです。MはMINIまたはMobilityのことだそうです。
また、発表資料によるとバランス時の出力やSNRも向上していますし、ボディの違いにより音色も異なるかもしれません。単にボディ素材が変わっただけではないようですね。
詳しくは下記アユート(Astell & Kern)のSP1000Mページを確認お願いします。

https://www.iriver.jp/information/entry_1054.php


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2018年05月31日

Astell&Kernの新DAP、SE100とSR15の発表会

本日はアユートさん主催のAstell&Kern新DAPの発表会に行っていました。

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A&future SE100とA&norma SR15です。どちらもSP1000と同じく第4世代となります。

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SR15

それぞれのラインナップの意味としては、フラッグシップ(SP1000)は究極、プレミアム(SE100)は最新の技術を投入したもの、スタンダード(SR15)は出発点ということです。つまりそれぞれは単なる上下ではなく、それぞれのターゲットに向けて最適な製品開発をするためということです。それぞれのラインナップごとに異なるDACメーカーを使用しているのはそういうためもあるそうです。

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SE100

SE100は"the radically different sound"ということで、その通りにAKではじめてESSを採用しています。
ESSのES9038PROを一基使用していますが、ES9038PROは一個で8chの出力が可能であり、左右をそれぞれ4chずつ担当させることで従来のデュアルのように設計しているようです。
PCMは384kHz/32bitまで、DSDは11.2MHzまで対応しています。第4世代らしくアンプはバランス出力が強力に設計されているようですが、あとの試聴でもそれが実感できました。
オクタコアCPUを採用して、ユーザインターフェイスは新しくなっています。メニューを浅く、再生と管理を分けたということ。AK CONNECTは踏襲されています。

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SE100

デザインコンセプトは平行四辺形で、側面が斜めになっているため従来の再生ハードボタンが浮いて見えるのが面白いところ。
筐体はアルミニウム合金で、背面にはガラスプレートが設置されAマークが浮き出ています。
内蔵メモリは128GBでSDスロットはトレイなしのタイプが1基搭載されています。充電端子はUSB-Cタイプ。
価格は219980円(直販価格 税込)ということ。

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SE100

持ってみると大きいけれど軽いという印象です。操作は早く快適です。音はDITA Fidelityを使用しました。やはり音はAK380と比べるとESSっぽい冷ややかさがあり、SN感の高さと透明感がひときわ高いのもESSらしい点です。音のキレが良く明瞭感が高い音でわりとフラット基調です。
アンバランスでもAK380よりはひとレベル高い性能ですが、バランスにするとSE100はなんかスイッチが入ったようにターボモードになる感がありますね。今までで一番アンバランスとバランスの差があるかもしれません。

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AK70とSR15(右)

SR15は"HiFi standard redefined"ということで、定番AK70の更新であるようにも取れます。
これはシーラスロジック「CS43198」をデュアル搭載しています。CS43198は久しぶりに開発されたシーラスロジックの最新DACチップで、長らくこの座にあった4398の後継でもあります。シーラスの基準のMasterHIFIというハイグレード製品ですが、主眼としてはコンパクトで低消費電力なので、ポータブル製品向けと言えると思います。

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SR15

SR15はクアッドコアCPUを搭載し、PCMは192kHz/24bit、DSDは2.8MHzまで対応します。筐体はSE100と同じくアルミニウム合金で、内蔵メモリは64GB、こちらもトレイなしSDスロットを1基搭載しています。
デザインが特徴的で手に持った時に画面が垂直になるように液晶自体は斜めに設計されています。価格基99980円(税込 直販)ということです。

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SR15

手に取るとややAK70より厚めの印象です。操作が速くスクロールも画面遷移もSP1000なみです。
音はAK70系と似ていて、低域に厚みと重みがある傾向です。ただAK70よりも音は明瞭感が高く、音がより細かい感じはしますね。こちらもバランスにするとスイッチが入ったようにパワフルに感じました。


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音としてはSE100ではESSっぽい音造りになって、SR15ではAK70の音を踏襲した感じです。
興味深かったのはバランスとアンバランスの差が大きいということです。試聴はFidelityのAWESOMEプラグを変えながら行ったのでかなり良くわかりました。SP1000/AK70IIでもそれまでより差があったけど今回はさらに大きく、スイッチ入れたみたいに違うのが面白いですね。バランス対応イヤフォンが欲しくなることでしょう。

発売時期はSE100は6月中旬予定で、かなり確実。SR15は7月下旬予定で、遅れるかもしれないとのことです。
posted by ささき at 20:19| __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月25日

Astell & Kern A&ultima SP1000レビュー

SP1000については発表会の時にファーストインプレの記事は書いていましたが、本記事はSP1000のステンレススチールモデルとカッパーモデルをしばらく使ってみたインプレッションです。

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SP1000CP

AK380を使用していた期間が長かったので、レビューで使うという点で言うとSP1000の音になれるまでに時間がかかります。そこで今回は少しおいてからSP1000自身もレビューすることにしました。
結果からいえば、ファームウエア的にはAk240とAK380の差ほどAK380とSp1000の差はありませんが、音質的にはAK240とAK380の違いよりも、さらにAK380とSP1000の違いは大きいと思います。そのくらいの音質の向上があります。それはその間のAstell & Kernのさまざまなノウハウの蓄積によるところも大きいと感じました。

* デザインの変更

まずSP1000で印象的なのは内箱が木製になったことで、かなり豪華な感があります。特に外箱から木箱を取り出すときがちょっと感動モノです。

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カッパーのほうはカッパーを示すマークと酸化防止のためか真空パックされています。

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外箱をめくると木の箱が出てきます。

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SP1000SSとCP

外形デザインは原石を多面カットした宝石がデザインコンセプトで、光と陰はキープコンセプトです。

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SP1000SS

SP1000ステンレススチールでは先鋭的な表面のシャープさが音の先鋭さも感じさせてくれます。

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SP1000CP

SP1000カッパーモデルは表面仕上げが以前のAK380カッパーとは異なり、より酸化しにくく輝きが続くようです。深みのある銅の輝きがやはり深みのある音を感じさせてくれます。実際に数か月使うとAK380CPとはだいぶ酸化のされ方が違い、より長くきれいにきらめいています。AK380カッパーではタバスコを使うとか、レモンとかいろいろな方法がいわれましたが、SP1000CPに関しては特にそうした工夫なしでも長く輝きが続いていると思います。

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化粧箱はブナの木で、スエーデンでのタルンショの天然皮革のケースがついています。

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前に比べると重量が重くなったこともあり、落とした時に怖いのでケースに入れて使う機会が増えました。あとこれは気のせいかもしれませんが、ケースに入れないで使用した方が音がわずか良いようにも思います(人体アース?)。ほんとに気分的なものですが。

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SP1000SSとAK380の大きさ比較

上面のSDスロットはケースから外さずにmicroSDの取り外しが出来るようになりました。このため上面から電源ボタンがなくなっています。

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マイクロSDカードは確実な装着のためにトレイを採用しています。このため専用のピンが同行されています。
実際に使っていると不用意なSDカードのイジェクトは起こらなくなりましたが、SDカードを変えたいときにピンがないので困るということはあります。もちろん専用のピンで何くても細いものがあればイジェクトすることはできます。

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USBはCタイプとなり、KANNのようにハイブリッドではなく、Cタイプのみです。Cタイプのケーブルはもちろん同梱されてきます。
また底面を見ると拡張コネクタが4ピンではなく5ピンになっていますが、これはまだ使用途がわかりません。ただAK380に比べれば外部アンプの必要性はあまり感じられないので、公開してくれてサードパーティーが使えれば面白いと思います。

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SP1000SS

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SP1000CP

電源スイッチはボリュームの長押しで行います。液晶は見た目にも精細感が高くきれいです。音質だけではなく表示される画質も向上しています。
ホームボタンが第3世代のメタルタッチから、第2世代のタイプに戻されたけれども、ここはすんなりと慣れるでしょう。なれないのはサイドに変更された電源スイッチでここはAK歴が長いほど上に指が言ってしまうかもしれません。ロックボタンをサイド押しに変えたのは今のiPhoneやAndroidがそうだからだと思います。
全体的な反応は良くかなりさくさくと動きます。
UIの階層も変更されましたが、ここもすんなりと慣れると思います。またAK70など旧世代UIモデルを併用していても特に違和感はないでしょう。

* 大きく変わったフラッグシップ

まず少しA&Kブランドのこれまでをまとめておきます。
始めにAstell & KernのAK100が2012年秋に出てから、AK120が2013年春、AK240は2014年2月(大雪の日)、そしてAK380が2015年の春と、Astell & Kernのトップモデルはほぼ一年おきに新型が出ていました。しかし、2016年はフラッグシップモデルの発表はなく、2017年の今年に二年ぶりに満を持して表れた新世代のフラッグシップ機がA&ultima SP1000です。

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Campfire Audio PlarisとSP1000CP

AK100で誕生したAKプレーヤーはAK120で改良されました。次のAK240では大きく中身が変わり、それはAk380でさらに改良されました。そうした意味ではSP1000はAK380に比べてまた大きく変わったように思えます。AK120からAK240に変わった時のような内部アーキテクチャの大幅な変化ではなく、音質の差です。特にしばらく使用したあとの感想としてはその差が大きいと感じられます。

それは2年ぶりであるということ、ジェイムズ・リー新CEO体制になってからの初のフラッグシップということもあるでしょう。また今回はKANNも含めてAstell & Kernのラインナップのシリーズ体系(プロダクトライン)が見直され、SP1000はA&ultimaというトップカテゴリーのプロダクトラインに入っています。

* 最高グレードDACの採用

それではこの2年ぶりのフラッグシップの交替で変わったところはどこかというと、使い勝手も改良が感じられますが、やはり大きく違うと感じる一番の点は音質面です。
SP1000の音質をかたるうえでポイントになるのは既述していますが、AK70からの音質傾向の流れでアンプがパワフル傾向で特にバランス回路で改良されているという点、トップグレードDACチップの採用、そしてステンレス・スチールモデルとカッパーモデルの筺体材質となるでしょう。
(AK70との関係についてはさらにSP1000の回路設計がAK70mkIIの改良にさらにフィードバックされるという流れもあります)

このアンプ部分の進化と、DACの進化ですが、どちらがAK380とSP1000の最大の違いかというと、はじめのころや内覧会の時はアンプの差が大きいと思ったんですが、実際に自分でしばらく使った後の今ではDACの差が大きいと思います。
私は以前は毎日のように高性能だったAK380を聞いて、多数のイヤホンをAK380で聞いてきましたが、比較するとSP1000では音の描き出し方が尋常でないくらいに向上したことを感じます。特に細部表現力は格段に向上してます。これは端的に言ってDAC ICの違いだと思います。これは空間表現についても同じです。

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UM MacbethII ClassicとSP1000SS

現代のDAC ICの選択は狭められてきて、いまは最新のDAC ICを使おうとするとESSかAKMかのほぼ2択となります。SP1000は最新最高のAKM AK4479EQをデュアルで搭載しています。
ここでまた少し振り返ってみると、AK100/120のDACチップはWM8740で、これはミドルグレードの普及品でした。AK240のCS4398はシーラスの当時のトップグレードでしたが、10年ほど前の古いモデルでした(このときはネイティブDSDを可能にするために選択されています)。
AK380のAK4490は当時最新でしたが、グレードとしてはハイエンドではありませんでした。4490は技術的なリードモデルでかつモバイル向きの位置づけのチップで、そのころのスピーカー向けのハイエンドオーディオ機材にはトップグレードチップであるAK4495が採用されていました。据え置きで電源が気にならないならとにかく高音質のもの、というわけです。

SP1000のAK4497EQは文字通りハイエンドのDAC ICでAK4495をさらに超える高音質チップです。最近では刷新されたLINNのKLIMAX DS/3にも採用されています。つまりSP1000では250万円のオーディオ機材に使われるような、ポータブル、ホームの区別なく現在入手できる最高レベルのDACを搭載しているわけです。しかもデュアルです。

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Campfire Audio LyraIIとSP1000SS

ここでひとつ面白い点は、AK4497では4490のように特にポータブル向けに省電力が意識された設計ではありません。とにかく音質優先の設計です。それをポータブルに搭載したのは、ひとえにAstell & Kernの電源周りの設計努力によるものと言えるでしょう。本来的なSP1000での進化はそこを強調してあげるべきかもしれません。
ポータブル機材はiPodの昔から基本的には省電力優先の設計がなされてきましたが、ここではかなり思い切った方向転換がなされているわけです。バッテリー容量は10%ほど上がっていますが、プロセッサの強力さを考えても電力はいくらあっても足りません。
実際に使ってみるとバッテリーの持ちはAK380と同等か、それ以上に持つように感じられますのでここはかなりバッテリー自体かバッテリーマネージメントは改良がなされていると思います。実測で付けっ放しで8時間付けっ放しのあとに20%程度は残っているように思えます。

* 音質

持った感じではステンレススチールおよびカッパー筺体と言うこともあってAK380よりもずっしりとした重みを感じます。

既に書いたようにAK380に比べると、アンプもDACも大きく向上しているのでジャンルは問わずになに聴いても音質向上は実感できます。PILとか聴いてもダブベースがかっこいいし、ピアノソロなんかは絶品です。女性ヴォーカルのリアルさはぞくっとするレベルです。音は全体にスッキリクリーンに明瞭に聴こえ、AK380がちょっと曇って聴こえるくらいクリアでより鮮明です。ベースやドラムスがより鋭く、AK380よりはひとレベル上の音と感じます。

SP1000を使いこんでわかるのは、AK380よりも細部の再現力が格段にレベルアップしてよりスピーカーオーディオのハイエンドに近いということです。あの東京インターナショナルオーディオショウに出てくるようなハイエンド機材に近い感じです。

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64 Audio Tia FourteとSP1000SS

AK380の時は解像力がすごいと言ったけど、SP1000ではそうしたハイエンドオーディオで語られるローレベルリニアリティとかオーソリティとか言われる質や質感の部分がより語られるべきだと思います。解像力があって細かい音が分かるだけでなく、その階調再現がよくわかる感覚です。

もちろんDACチップがすべてではありませんが、大きな違いとなるのもやはり事実だと思います。
フラッグシップDAC ICを採用した効果はあると思います。もちろん周辺回路も重要なのは当たり前のことですが、周辺回路だけ良くても基本のDAC ICがよくないとここまで性能を絞り出せない頭打ちになるでしょう。

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JH Audio LolaとSP1000SS

またDAC部だけではなくアンプ部も強化されているので、アンプ無しでも完成された音創りが出来ていると思います。
従来モデルとの差はパワフルさで、KANNの時はKANNのみの個性かと思いましたが、おそらくSP1000を含む新ラインナップの個性かもしれません。

またミクロでなくマクロ的に聴いても、全体にAK380よりもさらに整って帯域バランスも良い感じです。Dita Dreamなどでは普通はよりシャープならよりきつく出ると思いますが、中高域のきつさもなぜか低減されて聴こえるので、やはり音自体の質感が滑らかというか上質感があるゆえかと思います。

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Dita DreamとSP1000SS

音場もさらに横に広いのも良い点ですが、DACの低域再現力も相まって、低域の深みがアンプついてるようにあるので、特にクラシックやオーケストラものでのスケール感の良さが感じられます。この辺のスケール感の良さは左右の広さというよりも、低域の改善によるものが大きいように思います。低い周波数の音再現の凄みは他になく、いままでと一線を画すると思います。
AZLAとかTITANとかダイナミックメインのハイブリッドも良い感じがしますね。BAでもきちんとローが出てるもの(W80とか)もその良さを堪能できるでしょう。

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W80とSP1000CP

A&K SP1000とWestone W80ではSP1000がW80をノリ良くパワフルにドライブするのもすごくカッコいいけど、こんな小さいイヤフォンでSP1000の力を受けとめてこんな壮大な音出すんだから、聞いててワクワクしてきますね。カール兄弟には脱帽です。

SP1000がイヤフォンをパワフルに鳴らすって言う点ではやはりダイナミックの良さがより良く分かるようになったと思います。AK T8iE2ではDreamのような精巧な刃物的な切れ味とはまた別に分厚いダイナミックらしさで躍動感を楽しめます。SP1000はダイナミックやダイナミックハイブリッドと相性がよいと思いますが、TITANとは全体に良く整ってヴォーカルもすっきり気持ちよく、パンチがあるベースもいい感じ。おそらくAir2とも相性が良いでしょう。TITANとはケーブルは006との組み合わせが良いと思った。

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TriFiとSP1000SS

JH Audio TriFiとBeat Signalを付けてみると、SP1000の透明感は2Wayのシンプル構成でも生きてきて、鮮烈な生々しさが気持ちよく伝わってきます。Beat Signalのおかげか、低い方が膨らみすぎずにパンチが効いてるのも良い感じです。

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SP1000とUM Mavis II

SP1000を活かすポイントの一つは低域の出方かと思いますが、ダイナミック二発のMavisIIも良い感じです。AK380の時はMavisカスタムとMavis IIの差は小さいと思ったけどSP1000では差が大きくなってMavis IIの方が良いと感じられます。
同様にAK380の時はMASONカスタムもMASON IIも差はないと思ってたし、受けた説明から当たり前と思ってたけど、SP1000だと違いがあるのがわかるように思えます。

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SP1000とJH Audio Layla II、Black dragon v2

JH Audio Layla IIではさすが堂々の再現力でSP1000の音をストレートに伝えるかのようです。とても整理された音空間に整然とアーティストが並ぶ感じですね。ただしSP1000の音を余さず伝えるにはリケーブルしたいところです。


* 標準とされたステンレス・スチールモデルとカッパーモデル

今回のSP1000のいままでとの大きな違いは、いままでは特別モデルとして用意されていたステンレス・スチールモデルとカッパーモデルが標準とされたことです。いままでは特別モデルでプレミア価格がついていた両者が、旧AK380の標準ジュラルミンモデルと同じ価格となったことで実質的には値下げと言えるかもしれません。

この2モデルは内覧会のときには差がそれまでの特別モデルよりも小さく控えめかと思いました。これらが標準となるのであえてそうしているのかとも思ったわけですが、実際にしばらく使ってみると、ステンレス・スチールモデルとカッパーモデルの音質の差はかなり大きいと思います。ファームウエアの1.04でより個性の差が広がったようにも思えます。(カッパーでは1.04から)

はじめに書いておくとステンレス・スチールモデルとカッパーモデルの音質レベルは同じだと思います。ですから両者は個性の好みで選ぶことになります

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SP1000SS

ステンレス・スチールモデルはより透明感が高く感じられ、よく高域がよく伸びて、ワイドレンジ感を堪能できます。音もシャープで華やかな印象があります。イヤフォンのレビューをするときにはまず性能領域を引き出せて、よく能力が見えるようなSP1000SSで聴くことが多いですね。

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SP1000CP

カッパーモデルはより落ち着いた音でより音色がきれいに感じられるようになります。より感性的に感じたいと言った方がよいかもしれません。また音の深みはカッパーの方がより深みがあって、低域が厚いと感じます。より中高域が聴きたい人はSP1000SSで、低域が聴きたい人はSP1000SPという分け方もあるかもしれません。

SP1000SSでは高域が伸びるので音楽によってはきつさが感じられることもあります。
しかし、そういうきつさはSP1000SSというよりも、むしろ録音かPCMのせいだと思います。その音楽をDSDネイティブで聴いてみてください。今度は録音というかエンジニアリングで本当にさまざまな音のエッジやグラデーションの再現があると感じられるようになるでしょう。


* まとめ

端的に言って、細かい表現力が感性に働いてワクワクするような音楽を聴くことができる、というのが率直なSP1000の印象です。
特に高性能なハイエンドイヤフォンを使って聴く人にお勧めです。

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Westone ES80とSP1000SS

そしてそのハイエンドDACチップの採用を支えているのは地味な努力があると思います。あるいはそうした点に2年という時間が生きているのかもしれません。
単に上位DAC ICを使うだけではなく、省電力の努力も地味になされなければならないということでしょう。このように見えないか、スペックに表れない改良ポイントもSP1000には多々あるように思えます。単にDACを上位のものにするならば価格を上げればよいだけですが、従来の電池の持ちを保ちながらもより電気を食う上位DACを採用できたということは見えない企業努力があったと思います。またステンレス・スチールとカッパーという本来特殊モデルであるのに、AK380の出た時と同じ価格に抑えたという点も同様でしょう。
SP1000はAstell & kernというすでに確立されたブランドをにない、満を持して2年ぶりに出したフラッグシップです。フラッグシップにふさわしく一クラス上の音質をもち総合力にも優れたDAPであると言えるでしょう。
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2017年09月20日

AK70の新型AK70 MKII登場、Michelleにも新型

好評のAK70に新型が登場します。AK70の後継機としてエントリーを超えたプレミアムモデル、"Your Next Premium"のキャッチフレーズで発表された、その名もAK70 MKIIです。

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価格はオープンですが参考の直販価格は79,980円、本日から予約受付開始で発売は10月14日の予定です。

* 改良点

端的にいうとAK70MKIIでは好評だったコンパクトな外観はほぼ変わらず、中身の音質に関する回路部分が大きく向上したと言えます。
AK70からの改良部分は主に下記の2点です。

1. アンプ部の強化
SP1000の回路設計を踏襲してバランス再生時の高出力化と低い歪みを達成しているということです。

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Astell & Kernの音の変化の歴史としてはSP1000の音は躍動感という点においてAK70の音の延長にあると言ってもよいかもしれませんが、さらにSP1000のエッセンスがAK70にまたフィードバックされたという感じでしょうか。

2.デュアルDAC化
DAC IC自体は同じくCS4398ですが、DACがデュアル化しました。これでDAC部分に関してはAK240と同じになったということになります。

外観デザインはほぼ同じですが、わずかに大きくなっています。デュアルDAC化のためにバッテリーも増えて再生時間は変わらないということです。
PCM/DSDの再生フォーマットも同じです。BT機能 、USB DAC 、AK connectも同じです。USB端子もMicroBです。

SP1000のときに今後のAstell & Kernの製品はA&なんとかというネーミングになるという話でしたが、今回はAK70と同じラインということで名称変更はないそうです。

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* インプレッション

実際に発表会で実機(量産前モデルなので写真のMicroSD表記が逆になっています)を使わせてもらいました。そこで現行のAK70を持って行って音の比較もしてみました。使ったイヤフォンはAZLAで純正バランスケーブルも使用しました。

手に持った感触としては少しだけ重く大きくなったという感じです。見た目にはほとんどわかりません。また外観ではシックにブラック(Noir Black)となりましたが、音質重視という渋い改良ポイントからすると納得できます。またよく見るとボリュームノブのデザインも変わっています。デザインもわずか違うだけだが、高級感が感じられます。

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音は標準ケーブル(シングルエンド)で聴いても音に重みが乗っています。しかし、違いがもっともよくわかるのはバランスです。

シングルエンドでも音に重みが乗って聴こえる。よりはっきりした違いがわかるのはバランスだ。音の明瞭感の差がシングルエンドとバランスでは大きく違います。

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AZLA純正バランスケーブル使用

AZLAのバランスケーブルで聴くと音質はかなり大きく違って、MkIIの音は力強く熱気が感じられ、楽器音のひとつひとつがより鮮明に聴こえます。MKIIではよりワイドレンジで中高域も鋭くシャープですね。低域もより豊かで躍動感が違います。
バロックバイオリンではAK70では普通のバイオリンと音色が区別できないが、MKIIだと倍音の豊かさと音色の違い、中高音の鋭さも違いがわかります。
MKIIでは弱音の再現性も高く、アカペラの冒頭に息を吸い込む音が入ってるんですが、前のAK70では息吸ってるのがわかるくらいだが、MKIIではリアルで息遣いが強弱まで聞き取れます。
MKIIではAZLAのベースの重みがより魅力的に感じられる。ロックポップではパンチがある。AK70に戻すと軽く気が抜けた感じになる。

AK120を聴いた時にこれならAK200で良かったんじゃないですか、って言ったんですが、今回もAK80とか別の名前にした方が良かったんじゃないかと思います。そのくらい音質部分はグレードアップしていると思います。
ぜひバランス駆動を楽しみたいと思っていたユーザーはこの機会にこの世界に来ることをお勧めします。

* Michelle Limited

またMichelleもリミテッドバージョンが発売されます。

ファイル 2017-09-19 22 15 31.jpg  Michelle Limited_04[1].jpg

本体デザインを変更してチューニングをし直したモデルです。3Dプリンタから金型(モールド)に変えたことで低価格化をはたしたということで、65980円から49980円に変更になっています。あのMichelleがずいぶんとお得になりました。

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左がLtd

それで音質はというと、オリジナルのMichelleと聴き比べてみましたが、より低域が深く豊かでヴォーカルが明瞭でリアルに感じられます。音質は向上していますね。全体に音が変わった感じがするのはユーザーなら比較しなくてもわかるレベルくらいには大きいと思います。

* AK Ripper MKII

AK CD RipperもMkIIとなりました。

ファイル 2017-09-19 22 09 23.jpg  AK CD-RIPPER MKII_02[1].jpg

本体デザインが一新されたのが大きいように見えますが、中身もTEACのハイファイグレードのCDドライブを採用しているようです。また実際に持ってみると重くてダンパーがしっかりしているので、かなり高級CDプレーヤー感覚があります。見ると結構物欲がわく作りになっています。

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消えつつあるCDプレーヤーもこうした形で残っていくのかなとふと思いました。

*追記
9/25日にAK70MKIIおよびMichelle Limitedの先行試聴会を行うということです。詳しくは下記リンクをご覧ください。
http://www.iriver.jp/information/entry_1001.php
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2017年06月16日

A&ultima SP1000ファーストインプレ

A&ultima SP1000の内覧会に参加してきました。以下の画像とインプレは6月初旬の内覧会時点のものです。

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SP1000は第四世代と言えるモデルで、モデルネームがSP1000、プロダクトラインの名前がA&ultimaになります。以降出るモデルもクラスに応じてA&なんとかになるということです。

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外形デザインは原石を多面カットした宝石がデザインコンセプトで、光と陰はキープコンセプトです。化粧箱はブナの木で、スエーデンでのタルンショの天然皮革のケースがついています。

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上面のSDスロットはケースから外さずにmicroSDの取り外しが出来るようになりました。このため上面から電源ボタンがなくなっています。
マイクロSDカードは確実な装着のためにトレイを採用しています。このため専用のピンが同行されています。これによってSDカードの接触がよくないというAK100時代によく泣いた問題は解決されるでしょう。トレイの出し入れは、なれると簡単です。

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またSP1000では従来機に比してオクタコアの優れた処理能力により体力を高めて、起動時間や反応速度を高めています。液晶は見た目にも精細感が高くきれいです。UIデザインも変わっています。

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音性能でもAKMのフラッグシップモデルのAK4497EQデュアルを採用して高音質化し、回路的には特にバランス出力の改良がポイントになります。VCXOクロックなどは引き続き採用されています。

持った感じではステンレススチール筺体と言うこともあってAK380よりもずっしりとした重みを感じます。
電源スイッチはボリュームの長押しで行います。後ろに倒れるように思ったけれども、そちらには動かないようです。
ホームボタンはAK240のように液晶の下を押すことによってホームとなります。AK380のメタルスイッチはやや反応が鈍いこともあったので実用的と言えます。全体的な反応はかなりさくさくと動きます。

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まずはステンレススチールタイプをDreamの3.5mmで試聴しました。
Dreamを使うとよく分かりますが、パワフルで高域の伸びがあるのが第一印象です。伸びの部分はステンレススチールタイプによるものも大きいと思います。
従来モデルとの差はパワフルさで、KANNの時はKANNのみの個性かと思いましたが、おそらく新ラインナップの個性かもしれません。正確にいうとAK70のころからの変化かもしれませんが。。

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低域自体はわりと抑えめで膨らみがないようにスッキリとして、クリーンで上質なベースです。
また高域もAK380がDreamで少しきつめなのに比べると、穏やかでいたさが少ないと思います。より上品というか上質な高域です。

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AK380とSP1000

今回バランスの音がアンバランスとの差が大きいのも特徴の一つ。音が広いだけでなくバランスにすると音に力感とか重みが加わるようになった。言い換えるとアンバランスでは従来通りで、バランスにするとAMPをつけた感じですね。でもAK380AMPと聞き比べると音はちょっと違います。SP1000の方がもっと重く深い気はします。AK380AMPの方がより太い音ではある。ただヘッドホンなどの駆動力は試せませんでした。
バランス回路はAlexに聞くと秘密だが大きく変わったそうです。

全体に380よりもさらに整って帯域バランスも良い感じです。
ステンレススチールタイプというところを差し引いても、380よりもクリアでより鮮明です。音場もさらに横に広いですね。
全体にスッキリクリーンに明瞭に聴こえ、AK380がちょっと曇って聴こえるくらいです。ベースやドラムスがより鋭く、AK380よりはひとレベル上の音と感じます。

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SP1000ステンレススチールとカッパー

AK380単体と同じ曲で比べると、音の広がり、高域の伸びがSP1000で上回ります。音が華やかで伸びが良いのはステンレススチールタイプの利点だと思います。SP1000カッパーに変えると音は落ち着いた感じになり、より音色がきれいに感じられるようになります。全体の音レベルはほぼ同じなので、好みでテンレススチールかカッパーを選ぶことになるでしょう。ただ良さがわかりやすいのはステンレススチールタイプだと思います。

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専用ケースを装着したSP1000

価格はAK380の発売価格と同じオープンの449,980円(税込み)です。ステンレススチール筺体と言うところを考えると価格据え置きはお得かもしれません。
ステンレススチールは7月7日発売で、カッパーが少し遅れて発売されるそうで、ステンレススチールとカッパーは同じ価格だそうです。

SP1000は新CEO時代の始まりを象徴するような、さまざまな点で刷新された新たなフラッグシップと言えるでしょう。
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