Music TO GO!

2010年06月08日

オーディオベーシックVol55とバランスヘッドホン特集

水曜日にオーディオベーシック誌の最新号Vol55が発売されます。私は今回はバランスヘッドホンの記事を書きました。「バランスヘッドフォンという楽しみ方」(P236)です。書いてた時期がヘッドホン祭のときに重なったのでちょっと大変でしたが、なんとか書き上げました。

特集ではバランスヘッドホンについての基本的な解説とともに、国産のバランス駆動アンプ(バランスヘッドホン対応アンプ)を4つクロスレビューしています。インターシティMBA-1プラチナム、McAudi M81、BLO-0299、CEC HD53です。ヘッドホンはウルトラゾーン Pro900のバランス版です。
始める前はレビューを4つ書き分けられなかったどうしよう、とか思っていたんですがいざ比較試聴をしてみると、それはまったくの杞憂でした。みな際立った個性があり、これとこれはほとんどおんなじじゃないか、というのはなかったですね。ヘッドホンというのは個性を楽しむという側面もありますけど、ヘッドホンアンプもまた個性的でした。

また、記事では4つですけど、実は後もうひとつ、自分の使っているHeadroom Desktop Balancedとも同条件で比較しました。ですので実際は5製品の比較をしました。これは記事にしませんけど面白いものでした。いくつかは負けたかなと思うようなのもあったし、これに買い換えようかと思えるのもありました。わたしがGS-Xで始めたあたりはバランスアンプは海外品しかもちろん選択肢はなかったんですけど、国産もレベルが高くなったと思いました。

DACも手持ちのDL3ではなく新しいものを貸し出してもらいました。やはりヘーゲルHD10 は自分自身は強い主張をせずに、しっかりと性能のかさ上げをする見えない力になっているという感じです。ある意味DACらしいDACといえましょうか。
それと今回はタイムロードさんの好意でCHORD Indigoも貸してもらいました。IndigoはほぼQBD76相当なので、HD10とは別に現在最高レベルだとどの程度の音かと知りたかったのです。またIndigoはプリアンプ一体型でヘッドホンアンプとしても使えます。ちょっと贅沢にヘッドホンアンプとして聴いてみても、インディゴは素晴らしかったですね。ほんとにこれだけ高価なのに、まじめに悩ませてくれるという魅力があります。
また記事中でHeadFiとHDTracks制作のOpen Your Earsも紹介しました。

それとPCオーディオ展とヘッドホン祭のレポートも書いていますのであわせてご覧ください。(P242)



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2007年06月17日

プリとしてのGS-XとヘッドホンVSスピーカー

一つ前の「週末のオーディオの組み換え」記事と関連しますが、GS-Xをプリから外す前に、スピーカーとヘッドホンがプリまで同じという状況を利用してちょっとラフですがスピーカーとバランス駆動ヘッドホンを比べるという比較をしてみました。

バランス駆動対応のものとしてHP-2は開放型なのでCD3000を使います。
方法はスピーカーを鳴らしながら同時にGS-XにBlackDragon CD3000をつないで適当なポイントでA/Bをしながらスピーカーの音とヘッドホンの音を比べてみるというものです。プリアウトのon/offがないので当然スピーカーの音が流れているところでヘッドホンをかぶるということで、あまり厳密な比較ではありません。ただしバランス駆動ヘッドホンというものが音の再現性という意味でどういうレベルにあるかということを軽く確認してみたかったということです。

システムはこのようになります。スピーカーへはパワーアンプのLINN KLOUT(クラウト)を介します。ちなみにKLOUTへはアンバランス接続です。

LINN IKEMI->DLIII->GS-X->Balanced CD3000
LINN IKEMI->DLIII->GS-X->LINN KLOUT->Dynaudio Special 25


これはヘッドホンとスピーカーの鳴りかたの違いを明らかにするというものではなく、そこは当然違うものとして考えます。オーディオとしての音楽の再現性というところにフォーカスをあてるわけです。実際に音の傾向はプリが同じということもあってかなり似ています。
さきに書いたようにラフな比較なのであまり細かいことを書きませんが、スピーカーシステムを超えるということはないけれどもかなりいいレベルにはなってきているという感じはあります。価格的な差を考えるとバランス駆動のヘッドホンシステムはかなり健闘していると思います。

GS-X/Special25/KLOUTシステムよりGS-X/Balanced CD3000が比較上で一番気になったのは上下(高低)のレンジで、特に低い方が足りないと思います。BlackDragon CD3000も改造後はかなり下が出るようになったのですが、SP25はブックシェルフとしては図抜けた低域再現力を持っていますからそこは特に差がつくかもしれません。
その次が高い方の細かい音の解像力というかテクスチャーの表現力です。ここはやはりSP25の強みのひとつで、トィーターはスピーカー界でも名を馳せるESOTAR2ですからね。この辺はやはりヘッドホンも2Way化があってもいいんじゃないかと思います。
またかなり肉迫するのは音のコントロールの部分で、ここはわりといい感じです。SP25はこの辺はそう強いわけではないので、なかなか納得できる感じではあります。

総じてみて、やはり高性能ヘッドホン+高性能ケーブルでのバランス化というのはかなり可能性が高いと思いますね。
ただしヘッドホン自体の性能をまだ向上させる余地はあると思います。またGS-Xというかバランス駆動アンプの部分もまだ向上する余地はあるように思います。スピーカーシステムの変化で見えたようなLINNシステムの持つような空間表現の向上があればもっとバランス駆動の特性とマッチして音の世界も向上するでしょうね。
GS-Xもバランス駆動アンプではわりと価格も低い方なので、よりハイレベルのものがどういう音を出すのかはちょっと気になります。
まあ、当面はGS-Xのモジュールアップグレードに期待というところです。
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2007年05月10日

プリとしてのGS-X

GW期間中は日差しも暖かく夏を感じさせる日が続きました。
昼間家にいたときに近隣もいないので気持ちよくスピーカーから存分に音を出してオーディオを楽しんでいましたが、、
暑い。良い天気とはいえなぜか暑い。ちょっとクーラーを入れてもまだ暑い。
気がつけば目の前にこうこうと輝く6本のEL34が。。うむ、これではまさにクーラーをつけながらストーブをたいているようなものです(笑)

ここしばらくユニゾン・リサーチの真空管プリメインアンプのS6を使ってきたんですが、さすがにこれからの季節は真空管アンプはいささかきつすぎるので、ひさびにLINNのアンプを持ち出してきました。
あまりスペースがないので、GS-Xをプリに使ってパワーアンプのKLOUT(クラウト)だけ使おうという魂胆です。(ただしKLOUTの入力はアンバランスのみです)

つまり:
*LINN IKEMI - デジタル -> *PSAudio DLIII - XLR -> *GS-X - RCA -> *LINN Klaut -> *Dynaudio SP25

実際に音を出してみると、ぱっと聴きはやや音がブライトで硬めと感じます。
まあいままでプリで使っていたLINNのKAIRN(ケルン)と比べてということなんで相対的とは言えるかもしれません。ケルンはかなり柔らかく空気感のあるプリの筆頭ですからね。真空管の権威である上杉さんが雑誌のレビューでケルンをほめていたことでも分かります。
しかしプリアンプでずいぶん変わりますね。DACも変えているわけですけど、このシステムだとLINNサウンドという感じではないです。

とりあえずそこから離れて評価してみると、プリとしてのGS-Xは解像感はかなり高くて音のメリハリはかなりついています。またノイズフロアはだいぶ低くて良好な感じですね。性能という観点からは文句ないかもしれません。
しかしスピーカー向けの音というより、やはりヘッドホンで聴く音という気もします。やはりヘッドホンアンプはプリにも使えるとは言ってもヘッドホン向けの音というのはあるかもしれません。
ただDLIIIを192モードで使うとその感覚はやや緩和されるようになりますので、一概にプリだけとは言えないかもしれません。この辺はまだちょっと詰めていきます。
やはりトータルの音作りでスピーカーシステム、ヘッドホンシステムというのを作っていくということはあるでしょうね。

それと細かいところだとGS-Xはプリアウトのオンオフがないのでヘッドホンとスピーカーの両方を切り替えて使うときに不便です。KLOUTはパワースイッチがあるのでいいですが、常時通電のパワーアンプだといささかやっかいかもしれません。
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2006年09月04日

バランス駆動とGS-Xの音のレビュー

1. ヘッドホンアンプとしてのGS-X

本論のバランス駆動の音のコメントの前に、まずヘッドホンアンプとしてのGS-Xの実力を把握してみようと思います。
GS-Xではヘッドホンのバランス接続もシングルエンド接続(普通の標準プラグ)もできますが、これらは両方に共通する印象です。

1.1 GS-Xの基本的な性格

GS-Xはニュートラル基調で帯域バランスは良好です。わずかに暖系かもしれませんが、ウォームすぎる感じや特定帯域の強調、色つけはあまり強くは感じません。味で聴かせるほうではありませんが、分析的なわけでもなく動的な意味で音楽的な印象があり、聴いていてつまらない音ではありません。
また音もよく整っていて歪みも少ないすっきりとした音のように思えますが、これはバランス駆動でより顕著になる長所です。

GS-1はSNの高さに定評がありますが、たしかに背景は評判どおり漆黒の闇の黒さを感じます。ゲインをハイポジションにしてもかなり黒さは保たれます。その黒い背景に美しくきれいに音が形良く響きます。
小さい音もきっちり分離するので解像力もよいのですが、音が硬かったり鋭角的なことはありません。実際にバランスでもシングルエンドでも子音のきつさはかなり抑制されています。高域はきちんと上に伸びてロールオフしていないので、これはかなりのレベルの高域のコントロールと言えます。

これらのことからバランス駆動対応という点を除いても、基本性能はかなり高いと思います。また全体になかなか優等生的で絶妙な音のバランスであると思います。

1.2 GS-XとHD-1L

次に聴きなれたHD-1Lと比べてみます。
ヘッドホンは両方ともK701のシングルエンドです。接続はHD-1LはAudio Quest AnacondaでRCAアンバランス接続で、前に書いたようにGS-Xで使っているDiamond3とはほぼ同等グレードです。

まず気が付くのは音の性格の違いで、音はHD-1Lのほうが前に出ていてGS-Xはやや落ち着いた感じがします。ただしGS-Xは音は前に出なくても動的な感じがあります。
左右の音場の広さはシングルエンドではそれほど変わりません。相対的にはHD-1Lがやや高域よりでGS-Xはやや低域よりに聴こえます。難としてHD-1Lはやや高域がきつく感じます。GS-Xは洗練されてきつさはなく、シングルエンドでも厚みがあります。
GS-Xの方が高解像ですがそれほど差は大きくないようです。低音はGS-Xの方が低く沈み量感もあります。
端的に言うとシングルエンドでもGS-Xの方がHD-1Lより上ですが、低域性能を除くとそう圧倒的な差ではないように思えます。



blog_gsx6.jpg

2. バランス駆動とシングルエンドとGS-X

ここからがメインですがバランス駆動(XLRプラグ)とシングルエンド(普通の標準プラグ)を交えてさまざまなヘッドホンで聴いて見てGS-Xとバランス駆動の音のコメントをしていきたいと思います。GS-Xのゲイン切り替えはこうしていろいろなヘッドホンを聞くときになかなか役に立ちます。

2.1 GS-XとSennheiser HD650

2.1.1 バランス駆動(Balanced BlueDragon V2) HD650

ここが今回のメインテーマでもあります。興味あるのはやはりバランス駆動になってなにが違うか、ということでしょう。
使用ヘッドホンは前に書いたとおりHD650にMoon AudioのBlueDragonV2をバランス仕様にしたものです。

まず感じるのは音の広がりですが、左右に広くなるだけでなく空間に満ちわたるように音が広がります。左右に広がるだけならパワーアンプをステレオからモノブロックに変えたような左右のセパレーション向上の感覚で、いわばステージの面積が広くなるような感じです。しかし、ここではプリアンプを良いものに変えたような空間的な広がり感、コンサートホールがより大きくなるような感じがあります。
良録音で環境音(足音やささやき)が入っているとかなり気持ち悪いくらいリアルに聴こえ、あまり感じたことがない感覚で背後に去る足音が聴こえることがあります。

そして単に音場をそのまま左右に引っ張って伸ばしただけではありません。GS-Xのバランス駆動の大きな特徴は音の密度がぐっと濃くなるように感じることです。
これは音量が大きくなるということではありません。オーケストラの構成人数が大きく増えたと言う気もしますし、ヴァイオリンだけの音にヴィオラをユニゾンで重ねたような厚みが深くなる感じにも似ているかもしれません。別なたとえをすると果汁20%のジュースと100%のジュースの違いかもしれません。このためにGS-Xのバランス駆動のときの音は独特の質感というか重量感・密度感を持っています。
これは後で書きますがバランスからシングルエンドに戻したときにより変化がよくわかり、バランスからシングルエンドにするとちょっと拍子抜けするような音の軽さ・薄さを感じます。

またGS-Xでは躍動感が顕著です。ノリの良い曲を聞いていると自然にヒザが腕が体が勝手にスイングしだします、不思議です。躍動感というよりパワー感がみなぎると言った方が良いかもしれません。
実際に事前に思っていたのはスルーレートが上がるならば、スピード感の強い歯切れの良さを強く感じる音ではないかということでした。しかしそうした歯切れ・立ち上がりの俊敏さも悪くはないですが、それよりもそうしたエネルギッシュな感覚を受けます。

それとシングルエンドからの変化では音が先鋭になるというより純度があがり、音数も増えるように感じます。ピアノの音はよりきれいに響き、ていねいにワックスをかけなおしたように輝きます。


2.1.2 BlueDragon V2 HD650 (シングルエンド)

ここでは同じヘッドホンで同じケーブルを使って接続だけシングルエンド(標準プラグ)にしてみます。CDPからの入力はバランス入力のままです。
方法としていつもはHD25に使っているBlueDragonV2(mini端子)に標準変換プラグをつけました。ただし長さはこちらは1.5mで上のバランスは2.5mという違いはあります。

前のバランス接続から変えてぱっと感じるのは音がこじんまりとして軽く(薄く)なるということです。
まず音場が狭くなるだけでなく、空間に音が満ちるような独特の空間表現も消えます。また骨太さ・厚みがなくなって軽くなり、一瞬あれっという拍子抜けた感じがします。さきほどの躍動感も後退します。
ただし繋ぎ変えてもケーブルが同じブランドなので音調は同じで解像感や帯域バランスなど性格は同じです。下記のストック(HD650標準ケーブル)に比べると音がシャープで透明感も高くこれだけ聴けば悪くありません、というか少し聴くとこれがいままで聴きなれてきた音だということに気が付きます。

やはりバランスとはずいぶん違うと感じます。下に書いたストックとBlueDragonの差よりもずっと大きいですね。
またバランスはシングルエンドに比べると音のあいまいさや歪み感も減っていたという感じがします。

上記印象はボリューム位置によりませんが、迫力が減った感じがするためシングルエンドだとボリュームを上げたくなります。

2.1.3 ストックのHD650 (シングルエンド)

参考までに上の状態からケーブルをもとの標準でついていたHD650標準ケーブルに戻しました。ちなみにストック(stock)とは改造していない、とか買ったままの状態というような意味です。
するとBlueDragonにくらべるとややクリアさが後退しておとなしくなります。ただし全体に落ち着いた丸いやさしさが出ていわゆるゼンハイザーHD650の音といえます。

これはいつものケーブル交換による音の違いです。
もちろんGS-Xの基本性能が高いのでこれで聴いてもかなり満足感は高いものがあります。


2.2 GS-XとEdition7 (シングルエンド)

Edition7(シングルエンド)とバランス駆動のHD650で比較するとこれは曲によるという感じもします。HD-1LとかP-1などでは、いままではHD650とEdition7はずいぶん差があると思ってましたが、そうした差はありません。

クラシックの器楽曲やジャズのピアノトリオのような楽器が少なくて純粋に楽器の音をくっきり見せるという点ではまだEdition7に軍配が上がるような気はします。これはHD650の限界というか性格的なものからきているように思えます。

ただしサラブライトマンのクエスチョン・オブ・オナーのような複雑にミックスされた曲ではあきらかにバランス駆動のHD650の方が素晴らしくよく感じます。Edition7の音が軽く感じます。
GS-Xのパワーも手伝ってシングルエンドでも低音の量感はEdition7の方がまだ大きいけれども、このレベルになるとHD650の方が帯域バランスがよいという長所も向上するため好感触です。


2.3 GS-XとAKG K701とGRADO HF-1 (シングルエンド)

GS-Xのよくコントロールされた子音のきつさの少なさはAKG K701で生きてきます。K701はいままで聞いたアンプの中で一番良い印象があります。GS-Xはシングルエンドでも十分パワーがありゲインも変えられるので、K701を楽にドライブできます。
またK701とGS-Xはキャラクター的にもバランスよく相性のよさを感じます。ある面で落ち着いてもいて、かつアグレッシブでもあるというAKGとK701のキャラクターもきちんと生かされていると思います。音色がきれいというK701の特徴も強く感じます。

K701はシングルエンドでも音場はわりと左右に広いのですが、これはK701のケーブルのグランド線がセパレートされているからのようです。そのため自分で改造できる人はケーブルはそのままでプラグの端末処理だけ変えることでバランス接続に対応できるそうです。

GRADO HF-1では子音のきつさが気になるレベルで残ります。ただGRADOの明るさとノリのよさはシングルエンドでもわりとGS-Xと合います。少し書いたようにもともとKevin Gilmoreがdynaloという設計をしたのは彼のGRADOのためとも言われていますので、GRADOとは相性はよいかもしれません。

サラブライトマンのクエスチョン・オブ・オナーではK701の方が破綻なくポップオペラのポップとクラシックのクロスオーバーした妙味を残さず崩さず上手に鳴らしますが、HF-1の方が単純に気持ちよくアップテンポにのれます。ただ音はK701の持つ洗練さではなく全般に荒さを感じますが、HF-1はSR225ベースなのでこの辺はフラッグシップのK701とは差が出るところです。
器楽曲でヴァイオリンとギターのデュオはK701だと文句ないですが、HF-1だとやや軽めで音もささくれて痛さが耳につきます。ジャズトリオだとK701はまたそつなくならして、HF-1に比べると貫禄勝ちします。

ちなみにGRADO HP-2とK701をシングルエンドで比べるとやはりHP-2はGRADOという気がします。K701は落ち着いていてHP-2はややのりの良さを感じます。



3. バランス駆動とダイナミック型ヘッドホン 

こうしてまとめて試してみるとバランス駆動の音はこれまでのシングルエンドに比べて単に音がよくなったというよりも、なにか質的な違いがあるようにも思えます。
それを言葉で表現するのはいささかやっかいでした。そのためにこれだけ冗長にいろいろと書きましたが、まだ足りないようにも思えます。

しかし質的に変わるといっても性格が変わるわけではありません。
たとえばヴァイオリンの再現性に関して難点を言うと、HD650では少し高域表現に物足りなさを感じます。GS-X自体の高域もやや抑制されてるというのもありますが、高域はもともとのHD650の弱みというよりアキレス腱でもあります。前に書いた根岸通信のケーブルのように、このHD650の高域再現性もシングルエンドでは気にならなくてもバランス駆動だと気になるという問題のような気がします。
HD650のきりっときれいなシンバルの音がする高域の再現性はわるくはありません。しかしアキレスが射られたかかとのように普段は問題なくてもよりシビアな状況下では弱みが浮き彫りにされてきます。
バランス駆動もマジックではありません。都合よくHD650がそこだけK701にはならないのです。

一番初めの記事でバランス駆動は「ダイナミック型を」向上させるものであると但し書きをしました。なぜかというと一方の静電型はもともとここで書いているバランス構成だからです。
静電型はその基本的なプッシュ・プル接続をする部分でバランス構成が必要なため、音に妥協しないことが自然にできました。接続は左右で+-が分離していてグランドが共有ということもありません。しかもバイアスをかけるためにドライバが必要なので自然にヘッドホンアンプもつきます。それが基本的な発音原理の差とは別に、静電型が音質に優れると高評を得ている理由のように思えます。
しかしそれにくらべてダイナミック型は妥協の形態のまま進化して来ました。
バランス駆動はマジックではありません、しかしダイナミック型ヘッドホンの進化のためのひとつのステップのように思えます。

実際にシングルエンドのいままでかなり高性能と思っていたヘッドホンと聴き比べるとよくわかります。
前にストックのHD650はケーブル交換したHP-2と同じ土俵に立てない、と書きました。しかしここでHD650は逆転しました。HD650のバランス駆動したものはHP-2のケーブル交換したものをシングルエンドで使用したものよりあきらかに上です。BlueDragonのケーブル単体でもかなり追いついていますが、音の広がりや厚みでバランス駆動のHD650が好印象です。

良いアンプに出会うとスピーカーが歌うようになる、とよくオーディオでは言います。
わたしにはHD650がよく歌うようになったと、確かに感じました。
posted by ささき at 00:19| Comment(2) | TrackBack(0) | __→ GS-Xとバランス駆動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月30日

GS-Xとギルモアデザイン

前の記事でGS-XはKevin Gilmore氏の公開されているデザインをもとに設計されていると書きました。
ここでは自作アンプとして見たGS-Xについて書いてみます。本来はわたしが自作系はわからないので省こうと思ったのですが、今書いている音質編でも関係しますし、製作に興味がある人もいるようですのでわたしの分かる範囲でもう少し詳しく解説します。

Gilmore氏は自分で設計したアンプの基本デザインをHeadwize.comに公開しています。Headwizeはcmoyアンプで有名なChu Moy氏の主催する自作系の人を中心としたヘッドホンフォーラムで、ここのProjectコラムにはGilmore氏以外のアンプ設計もたくさん公開されています。
またGilmore氏の作成したアンプもいくつか公開されています。たとえばGilmore氏が設計した静電型のアンプはKGSS(またはBlue Hawaii)だけではありません。このフォーラムに載っているトライオードタイプの全段真空管式の静電型アンプは最近WooAudioによって製品化されました。静電型については別の機会に書く予定です。

これらのデザインは一般に公開されたものであり、条件付(氏が認める高品質であること)で商用に使うことが出来ます。Gilmore氏自身は商用には作成しません。
HeadampのJustinさんが元にしているのは下記の"A Pure Class A Dynamic Headphone Amplifier"ですが、いまではこれは通称Dynaloと呼ばれます。現在公開されているGilmor氏のデザインは大きく4つあって、それぞれDynalo、Dynamid、Dynahi、Dynamiteと呼ばれます。

DynaloはHeadampのGilmore-liteとGS-1のデザインになっています。
Dyna-loは設計が一番早かったのでDynamic型のLowエンドという意味でもありますが、もう一つ意味があってDynamic型でLowインピーダンスに強いというものです。これはもともとGilmore氏が低インピーダンスの彼のGRADOのために設計したとも言われています。
低インピーダンスは鳴らしやすいと一般に思われがちですが、それは音量が取れやすいということであって鳴らしきるというのとは少し違います。スピーカーを知っている人ならば8Ωより4Ωのスピーカーの方が手ごわいという認識を持っている人が多いと思います。
低インピーダンスは電流が流れやすいのでうまく設計しないと安定して十分な電流を供給できません。特に周波数によってインピーダンスは変化するので低域で影響が大きく出ます。そのためGRADOの低域再現のためにはLowインピーダンス性能を高める必要があるというわけです。Dyanaloがいわばパッケージ化されたオペアンプを使わないでディスクリートにしているのはこのためだと言われています。

DynamidはDynaloをブリッジ対応(バランス駆動対応)にしたものでGS-XはこのDynamidです。

Dynahiは高インピーダンスや低能率のものなどに対応したものでK1000も視野にあると言われます。
このためDynaloはあまり発熱しませんが、Dynahiはかなり発熱するそうなので自作する人は熱対策が必要でしょう。

DynamiteはDynahiをブリッジ対応(バランス駆動対応)にしたものです。

こう見るとDynamiteが一番すごそうですが、これを商用にしたものはSFTオーディオのものだけであまり評判はよくないように思えます。やはり基本設計だけでなく、アンプとしての作りこみが大事なのでJustinさんのように実績と評判のある人が作成したものが結果的には安心できます。またDynaloデザインもDyanhiとは眼目が違うということであって、Lowインピーダンス向けというわけではなく全てのインピーダンスのヘッドホンに対応できます。
ただし自作してみる人はDynamiteなど挑戦してみるのも面白いかもしれませんね。

これらについてはこちらに詳しい解説のページがあります。
posted by ささき at 21:50| Comment(2) | TrackBack(0) | __→ GS-Xとバランス駆動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月21日

バランス駆動アンプ Headamp GS-X

1. Headamp

Headamp.comはヘッドホンアンプを製作しているアメリカのガレージメーカーで、主催はJustinさんです。ここは静電用アンプのKGSSの製作でもよく知られています。静電型については以前記事に書いたように新型のAristaeus(アリスタイオス)という新型を開発しています。
他の製品としてはポータブルではAE-1、据え置きでは$300前後のエコノミーなGilmore lite、liteに専用電源DPSを加えたもの、 プリとしても使用できる上位機種のGS-1などがあります。AE-1の改良型も登場が噂されています。

特徴としてアンプ回路はディスクリートで組まれていて、回路の基本設計は主に(公開されている)Kevin Gilmore氏のデザインを使っています。それをJustinさんが実際のアンプとして設計して組上げるという形をとっているようです。
またアンプ部分はモジュールになっていてユーザーが交換できるので拡張性があります。いまは上記のいわゆる"Gilmoreモジュール"ですが、今年のあちこちのオフで新モジュールが公開されていて、つい最近の西海岸オフでもかなり完成形に近いものが公開されていますので、そろそろ登場するのかも知れません。これはJustinさん独自設計のモジュールでMOSFETを使用しているようです。
GS-Xに興味をもたれた方はこの辺を考慮にいれてもいいかも知れません。

こちらがHeadampのホームページです。
http://headamp.com/

2. GS-X

GS-Xは昨年登場した新機種でバランス駆動に対応するため、そのアンプモジュールを4つ使用しています。HeadampではGilmore Balancedというバランスタイプを以前製作していて、そのレビューはHeadFiに載っています
Gilmore Balancedに比較するとまずその洗練されたシャーシに目が行きます。アンプ部と電源部に別れたスマートなツインシャーシになっていて両モジュールは専用の電源ケーブルで接続されます。そのシャーシもメーカー製といってもよいくらいプロフェッショナルな仕上がりで洗練されて美しいものです。

blog_gsx3.jpg

通常のヘッドホンアンプと違うのは前面にバランス接続できるXLRコネクタを備えているところです。またGS-Xでは普通のタイプのヘッドホンも使えるように標準タイプのコネクタも2基備えています。
そのためにバランスタイプでないヘッドホンも使えますが、もちろんバランスの利点は享受できません。ただし強力な電源を備えたGS-1の上位機種としての高い性能を期待できます。

blog_gsx5.jpg

ボリュームはアッテネーター(4チャンネルなので4連)となっています。これは下位機種ではオプションだったのですが、フラッグシップのGS-Xでは標準です。
このほかには3段のゲイン切り替えのスイッチや入力切り替えがあります。

blog_gsx4.jpg

目を背面に移すとさまざまな入力端子が装備されています。
入力はバランスでもアンバランスでも受けられますが、試して見るとやはりバランスでの入力が良いように思えます。

GS-Xのもう一つの特徴はプリアンプとしても使える点で、背面には二組の出力端子を備えていて、それぞれバランスでもアンバランスでも接続できます。出力端子はそれぞれループアウトとプリアウトで、ループアウトは入力のスルーでプリアウトはアンプの増幅した出力をだすのでしょう。(ちなみにマニュアルはついていません)
プリアンプとしてはフルバランス構成のプリアンプになるわけです。
アンプ部には専用の電源モジュールから専用の電源ケーブルで電力が供給されます。


GS-Xの大きな特徴は電源部が別シャーシになっていることです。電源部はかなり大きなもので本体より重さがあります。
これは電源を増幅部と干渉を避けるため切り離すという従来のメリットのほかに、バランス駆動ならではの問題を解決するために巨大な電源部をつけたために分離したとも考えられます。

バランス駆動はさきに述べたようにスピーカーでのブリッジ接続に置き換えることが出来ますので、スピーカーでのブリッジ接続を例に取ります。この方式は手軽にステレオアンプを二つ流用して大きなパワーを得る半面で落とし穴がひとつあります。
それはブリッジ接続では理論的に2倍ではなく4倍の出力が取り出せる、つまり大きな電流が流れるために通常ステレオ(2ch)用に設計したアンプを流用してもステレオ用に設計した電源が4倍の出力まで持たないということです。そのために特別に設計されたアンプでなければ、ブリッジ接続をしてもリミッタをつけて2倍の出力に抑えているようなものもあります。
またブリッジ接続によってアンプの対応する負荷のインピーダンスの最低保証値が変わってあまり低いインピーダンスの負荷(スピーカー)をつけられなくなるということもあるようです。

ブリッジ接続は手軽に大出力を得られる半面で、従来のステレオの仕組みを流用しただけだとこうした電源にまつわる問題があります。
ただしはじめからこの問題を考慮していればブリッジ接続では高い駆動力を得ることが出来ます。このあたりがGS-Xが特に強力な電源部を設計した理由に思えます。


3.他のバランスタイプとGS-X

バランス駆動のタイプのヘッドホンアンプは他にもありますが、GS-Xを選んだポイントはまずGS-1という評価の高いベース機種があるので試聴なしでも手がだし易いということがあります。

次に価格の面です。$1800はまだ高価ではありますが、他のバランス駆動タイプに比べると最安値の部類です。
(発注した時点ではより安価なRudiのNX33はまだ出ていませんでした)
他にはSinglePower SDS-XLR,Moon Audio Luna,RSA B52, Rudi RP1000など真空管を使うものが多いわけですが、真空管の場合はフルバランス構成では+と-で特性の一致が半導体より大変です。そこで価格が高くなるというのもあるかもしれません。


4. 設置

箱は2つに分かれていますのでまとまって大きなダンボールで届きます。シリアルは13という縁起のいい数字ですが(笑)まだ13個しか出ていないようです。また電源ケーブルははいっていません(アンプと電源部をつなぐ専用ケーブルは入っています)。このクラスのアンプを使う人はいずれ替えるでしょうから必要ないともいえます。
ちなみにわたしはパワーアンプ用電源ケーブルでは定番のひとつ、キャメロット・テクノロジーのPM600を使いました。これは電力供給能力では定評のあるものです。

わたしはいつものようにLINN IKEMIをCDPとして使用してAudio QuestのDiamond3 XLRバランスケーブルでGS-Xとつないでいます。
Diamond3はいまうちのシステムではアンバランスでメインに使っているAudio QuestのAnacondaの一つ前の世代のAudio Questのフラッグシップケーブルです。(中古購入ですが当時の価格はGS-Xとほぼ同じくらいです)
Anacondaとは共通した傾向があって周波数バランスが整っていて繊細で抜けが非常に良くクリアであるという特徴があります。傾向が似ているのでAnacondaを使った他のヘッドホンアンプとも比較が容易だと思います。
エントリークラスともいえる根岸通信のバランスケーブルもつけてみましたが、さすがにかなり物足りなさを感じました。GS-Xはとにかくソースやケーブルなどのあらを根こそぎ洗い出すという感じですので、透明感のような聴覚上の差だけでなく歪みなど基本性能が重要と感じました。P-1だと根岸通信はまあ使えるかと許せたのですが、GS-Xだと高域がロールオフして透明感がいまひとつという欠点がありのままにでてきます。
ちなみにHeadampのサイトには書いてませんが、聞いて見たところバランスの接続は2番ホットです。

電源をいれると上下のシャーシに青いLEDが点灯して、シャーシのなかのアンプモジュールの赤いパイロットランプも点灯します。これで暗闇ではなかなかきれいです。他のA級ヘッドホンアンプくらい暖かくなりますが、SAC K1000みたいにさわれないほどではありません。
ボリュームはアッテネーターなのでステップ動作をします。


音はあとで詳しく書きますが端的に言うと、かつて感じたことのない豊かで厚みのある音と空間表現力、そして力強い躍動感です。高域は空気感を、低域再現は強いというより重みを感じます。
いまはCDを片端から聴きなおしているところです。エージング、というのではありません。ちょっと感動したのです。

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2006年08月19日

ヘッドホンのバランス駆動について (基礎編)

さて、そろそろ夏休みの自由研究の発表を行いたいと思います。
今年のテーマは「ヘッドホンのバランス駆動」としました。

Head-Fiの全国大会の記事でも書きましたが、これはダイナミック型ヘッドホンの性能を向上させる手段として最近話題になってきているものです。

HD-1LやP-1の次のステップのヘッドホンアンプとしてバランス駆動に対応したHeadampのGS-Xを発注したのですが、かなり時間がかかり先日到着しました。そこでこの機会にまだあまり知られていないバランス駆動そのものを含めた多面的な記事にしたいと思います。本稿ではまず基礎編としてバランス駆動そのものについて書いてみます。


1. バランス駆動とは

はじめに実際の写真を見た方が分かりやすいと思います。
ヘッドホンのバランス駆動とは下の写真のようにヘッドホン側のケーブルを二本のバランス(XLR)コネクタを持ったケーブルに変更して、アンプの出力(バランスコネクタ)に接続するものです。ヘッドホンアンプは先に書いたHeadampのGS-Xで、ヘッドホン側はSennheiser HD650にMoon AudioのBlueDragon V2バランスケーブルをつけています。

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バランス駆動させるにはBenchmark DAC-1やWadiaのCDPなどの(ボリュームを可変できる)バランス出力からとる方式もありますが、本稿ではGS-Xのように専用のアンプとヘッドホンをバランス接続させる専用の端子を使う方式について書きます。


2. バランス駆動に必要なもの

まずバランス駆動のために必要なものはバランス接続用の専用のヘッドホンアンプと専用のケーブルです。バランス方式に対して従来の3極の端子を持った方式はシングルエンド(SE)とも呼ばれます。

2.1 ヘッドホンとケーブル

ケーブルはHD650を中心に交換ケーブルがいろいろと入手できます。例えばここでよく書いているLarryさんのところ(headphile.com)やDrewさんのところ(Moon Audio)で扱っています。下の写真はDrewさんのところのBlueDragonV2のゼンハイザー版です。

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Larryさんのところではバランスのコネクターのところにオスとメスがあるので選択に注意が必要です。通常はオスですが、前出のDAC-1やWadiaなど可変出力の付いたXLR<出力>コネクタへの直差しのためにメスコネクタが用意されていると思います。ここで話しているバランス対応アンプを前提とするとオス(male)コネクタになります。

またGRADOを使いたいときはケーブルの改造が必要なのでDrewさんのところではGRADOのケーブル変更品も扱っています。DrewさんのところもLarryさんのところも基本的にGRADOのRS-1などの木製ハウジングの改造は請け負っていないと思いましたが、これはハウジングを開けるのに木だとリスキーだからだそうです。そのためDrewさんのところではGRADOにケーブルを送って製造段階でつけてもらっているということです。
この他ではCardasやEquinoxのStefan AudioArtでもHD650用のバランスケーブルを扱っています。

ここでHD650用のケーブルが多いのはケーブル交換が簡単ということもありますが、もうひとつ理由があります。HeadFiを読んでいるとヘッドホンによってバランス駆動の効果の大小が異なるようで、効果的なものとしてHD650がよくあげられています。後述しますがバランス駆動の大きな利点は駆動力の向上なので、もともとドライブしにくいHD650が適切といえるのでしょう。


2.2 ヘッドホンアンプ

バランス接続用の専用のヘッドホンアンプは従来は背面にあるXLRのバランス接続端子がヘッドホンを接続するために前面にもあります。
また従来のアンプではRとLの2チャンネルの出力だけあれば良かったのですが、バランス駆動(つまり内部がフルバランス設計)ではR+/R-とL+/L-の4つの出力チャンネルが必要です。さらに電流が多く流れるようになるので従来アンプに比べると電源を含めた見直しが必要です。
このため専用アンプは高価になる傾向があり、選択肢は多くありませんでした。

従来からあった代表的なバランス対応アンプはHeadRoomのBlockHeadやSinglePowerのSDS XLR、またHeadampのGilmore Balancedなどです。これらを見ると分かりますが、それぞれ従来もともと彼らのラインナップにあったアンプ(それぞれMax、SDS、Glimore Reference)をバランス対応に転用したものです。
しかし、Headfiの全国大会のところで書いたように最近でははじめからバランス駆動用に設計されたいわば新世代アンプも出てきました。また価格もかなりこなれてきたようです。
これらはHeadampのGS-X、Moon AudioのLuna、RSAのB52、RudiのRP1000やNX33などです。HeadRoomも上級機にBalanced Maxというバランス駆動対応のものがあります。また自作系ではSFTオーディオなんかもバランス駆動アンプを用意しています。
SDS XLRでは$5000-$8000程度もしていたバランス対応アンプですが、GS-Xでは$1800、NX33では$1300というくらいまで値段は落ち着いてきました。


3. バランス駆動の仕組みについて

ヘッドホンのバランス接続はHeadroomのBlockHeadが嚆矢だと思いますが、BlockHeadはもともとMaxという単体アンプを二つ連結したものです。ひとつの単体アンプは通常RとLの二つのチャンネルへの出力をしますが、BlockHeadでは2つのチャンネルでRかLの片側を駆動しています。
つまりオーディオアンプでいうところのブリッジ接続(BTL)をしていることになりますが、このことからバランス接続の実体が推測されると思います。ここではより詳細にバランス駆動について見ていきます。

3.1 接続に関して

意味を多少明確にすると、ここでバランス駆動といっているのはバランス接続でヘッドホンを駆動することです。
そこでまずバランス接続についてもう少し詳細に見ていきます。
標準プラグ(3極)で接続する普通のヘッドホンは(R/L/G)の3本の信号線がヘッドホンのドライバに接続されています。ヘッドホンの場合は一部のケーブルを除くとグランドは共通です。これに対してバランス接続ではひとつのXLRプラグあたり3本の信号線(+/-/G)があるのでそれが二本ですから、6本の信号線になります。つまり(R+/R-/L+/L-/RG/LG)となります。ただしRG/LGはバランス接続で必要なものではないのでここでは省きます。
通常の3極の接続ではグランドは0VでRないしはLにプラスの電圧がかかるわけです。この方式は片側のみに信号が流れるのでシングルエンドまたはアンバランスと呼ばれます。
他方でバランス接続ではRとLのそれぞれの+/-極には同じ大きさで+には正相で、-には逆相で信号が流れます。つまりR/LとGの関係と違い、+と-は同じ大きさでつり合っているのでバランスといいます。


3.2 バランスとブリッジ

バランス接続を実現するためにはアンプ側に+と-に独立したアンプ回路で-からは逆相で出力されるような仕組みが必要です。つまり片チャンネルあたり二つのアンプ(2チャンネル)が必要なのでRL両チャンネルでは出力が4チャンネル必要です。
実際これはバランス接続というよりも、ブリッジ接続という言ったほうが正しい理解が得られると思います。ブリッジ接続というのは二つのアンプ回路の間にスピーカーが負荷としてブリッジされているという意味です。

海外でさえあまりバランス駆動にたいして理解が得られているとはいえません。よくある誤解はヘッドホンケーブルが長くないのにバランス接続は意味がないだろうということです。普通オーディオ機器でXLR(バランス)ケーブルが使われるのは主にプロがスタジオで長いケーブルを引き回すときに使うからです。このときに+/-でバランスしているというのはノイズをキャンセルするのに役立つわけです。
それも利点ではありますが、いわゆるバランス駆動の眼目はむしろそこよりもブリッジ接続したときの利点が適用されることにあります。

例えばスピーカーアンプで言うとアキュフェーズのフルバランス構成のパワーアンプA30は純A級増幅のため片チャンネルあたりわずか30Wの出力です。しかしA30には同じアンプを2つ使用したときに効果的な運用が出来るような接続オプションが2つあります。ブリッジとデュアルモノです。
二台のA30をブリッジモードで使うと片チャンネルの出力は倍の60Wではなく4倍の120Wになります。これは電流と電圧がそれぞれ二倍になるからでしょう。
http://www.accuphase.co.jp/model/a-30.html
ただしデュアルモノ(RL同位相を出す)で使うと片チャンネル60Wです。これはスピーカーとの接続によって使い分けるもので、バイアンプにするときはデュアルモノが最適ですが、シングルポストのスピーカーに高出力がほしいときはブリッジにします。
ただしA30はブリッジを念頭に入れた設計なのでこうなりますが、すべてのBTL可能なステレオアンプがブリッジ接続をすると出力が4倍になるわけではありません。これは次のアンプ編で説明します。


4. バランス駆動の効果

それでは結局のところ、バランス駆動にすると音質にどういうメリットがあるのでしょうか。
この辺は基本的には実際にHD650とGS-Xを聴きながらどういう特徴があるかをコメントしていきたいと思いますが、まず机上の利点をまとめてみたいと思います。

バランス駆動のメリットはまず大電流を引き出せるのでヘッドホンの駆動力が高くなるということと、アンプ側から見た負荷が減るという点ですが、これにより得られるバランス駆動での利点はスルーレートの向上があげられます。
つまり音が大きくなるということではなくスピード感が向上するとかよりダイナミックに感じるということです。実際にHeadFiにあげられるレビューを見ているとバランスタイプのアンプはみなダイナミックであるという評判があります。
これは特に高インピーダンスとか低能率など駆動しにくいドライバに有効であるといえますが、他方で低インピーダンスに対して脆弱性をもつ可能性があります。これもアンプ編で書きます。

またバランス接続をすることの利点として信号線を分けられることによるクロストークの減少がありますので、定位・音場の再現力で有利であるということもあげられます。これは明確なメリットになると思います。またバランス自体のメリットとしての低ノイズ化にももちろん効果があるでしょう。


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個人的には他のオーディオアンプに比べるとヘッドホンアンプはまだまだ性能の向上する余地があると思います。
HD-1LとP-1はたしかにすぐれていますが、それゆえにさらに上を見たくなってきます。その次のレベルのアンプを考えるにいろいろと候補はあったのですが、将来性に惹かれてバランス駆動の選択をしてみました。

次の記事ではアンプの方の紹介としてHeadampのGS-Xについて書いていきます。
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2006年07月16日

ゼンハイザー HD650

ゼンハイザーのHD650をゲットしました。
わたしはヘッドホン系に本格的にこりだす前からHD545という機種をずっと使っていましたし、いまもHD25をポータブルでは愛用しています。そうしたわけでゼンハイザーはわりと好んで使っているのですが、ゼンハイザーの厚みがあってやや暗めで渋さを感じさせる音がわりと好きです。
いうなればGRADOのアメリカ的な明るい開放的なところに対して、ヨーロッパの良い意味での陰影をもつといいましょうか。。

とはいえ、いまころなぜに新型でもないHD650を買い込んできたかというと、今年の夏休みの自由研究のためです(笑)
と、いっても「BlueDragonV2対SennV2」のようなものではありません。まあそれもやりますが、この辺はまたおいおいと。。

(ちなみに昨年の夏休みの自由研究のテーマはGRADOのビンテージもの、HP-2&HPA-1でした)
posted by ささき at 21:07| Comment(8) | TrackBack(0) | __→ GS-Xとバランス駆動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする