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2018年04月20日

AKG N5005レビュー

AKG N5005はN30やN40のようなNシリーズの流れをくむハイエンドIEMの新製品です。それと同時に名称からはAKGの名機であり一時期を築いたK3003を連想します。もちろん私的にもK3003との比較が興味あるところでした。(K3003は併売とのこと)

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AKG N5005とSP1000SS

AKG K3003の2011年のレビューは下記リンクです。記事に出てくるプレーヤーが時代を感じさせます。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/227180797.html

* K3003からN5005へ

まずK3003を少しおさらいすると、2011年のK3003のデビュー当時はBAとダイナミックとのハイブリッド自体が珍しい形式で先駆的な製品でした。 またK3003はハイブリッド形式というだけではなく、ダイナミックドライバーと直列にBAドライバー(TWFK)をステム(ノズル)内に配置して、チューブレスで耳穴にダイレクトにBAドライバーの音が届くという点で画期的でした。その鮮烈な音が当時のユーザーを魅了したわけです。下のK3003の内部構造と画像を見てもらうとノズル部分の構造が良くわかると思います。
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左: K3003の内部構造(AKGサイトから転載)

音をチューニングする音響フィルターを替えられるという方式もこうしたダイレクトな音作りならではと言えたかもしれません。このフィルター交換とノズル部分の構造はN5005に継承されています。
また共振を抑えたステンレス製の筐体もポイントですが、これもセラミックという形でN5005に引き継がれます。

K3003では3Way 3ドライバーで2基がBAで中域と高域、一基がダイナミックで低域のハイブリッド形式で、N5005では4Way 5ドライバーとなり、中域にドライバーが足された感じです。ダイナミックドライバーはK3003が9.8mmに対してN5005は9.2mmということです。N5005では口径は小型化していますが、後に音質で書くように性能は向上していると思います。

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AKG N5005

N5005ではNシリーズの流れを汲んで筐体デザインが耳掛けできるシュア方式を採用しています。(この方式はWestoneのカートライト兄弟がShureもアウトソースで手がけていた時のデザインなのでカートライト方式というべきかもしれませんが)

* パッケージ

パッケージではまず交換ケーブルの多さが印象的です。K3003はリケーブルできないのが残念なところでしたが、N5005はこれでもかというくらいの交換ケーブルが初めから標準でたっぷり入ってます。

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ケーブルは3.5mm, 2.5mmバランスのほかにBTアダプタケーブルも同梱され、さらに国内ではAKGの純正の交換ケーブルであるCN120-3.5も入っています。これだけはじめから入っているのは珍しいですね。その他にはBTアダプタ用のUSBケーブルや各種イヤチップとクリーナーが入っています。

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BTアダプタはWestoneやShureと同じタイプのように見えます。MMCXプラグの汎用品としても使えそうですが、他のメーカーイヤフォンは保証外ということのようです。

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3.5mmは耳フックの部分がメモリワイヤのようにヒートシュリンク加工がされていてリモコンのついたケーブルが入っています。3.5mmについてはさらに上級グレードのCN120-3.5が付属しています(国内)。2.5mmバランスケーブルは3.5mmの標準と同じケーブルです。

ただケースについてはK3003のケースが気にいってたのでデザインを踏襲してほしかったとは思いますね。

* 音質

イヤチップはSpin Fitと標準的なラバーの二種類が入っています。
K3003と比べるとK3003が従来的なイヤフォンの形を踏襲していたのに対して、N5005ではもっと新しく耳にはまりやすい形をしています。N5005では耳に回す方式のためにK3003のストレートインよりも外れにくくなっています。筐体にはダイナミックハイブリッドらしくベント穴が空いてますね。

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N5005とAK380

まずAstell & KernのAK380を使いました。N5005の能率はやや低めに感じます。
まずリファレンスフィルター、ラバーイヤチップ、3.5mm標準ケーブルという条件で聴いてみると、中高域のバロックバイオリンの音色が響き豊かに美しく再生され、高域の痛さは少なく、厚みのある音の高級感が感じられます。これだけでもハイエンド機の品質と感じられます。また音に粗さが少なくケーブルが高品質な気もしますね。
リファレンスフィルターでも十分に低音の量感はあって、帯域全体では少し低域多めの音楽を楽しみやすいチューニングになっていると思います。低域もわりと低いところまで出ている感じです。中音域ではジャズヴォーカルや楽器とのバランスが良いと感じられます。
全体的にいうと低域の質が高く、深く重く出ていると言えます。これがひとつの要因として豊かさと厚みが感じられてN5005を高級な音にしていると思います。細かい音もよく抽出されていて解像感も高いと感じます。
AKプレーヤーでは2.5mmケーブルを使うことでさらに立体感が高く上質な音楽を楽しむことができます。音の重なりも一層よくなります。


なお国内版ではAKGの純正交換ケーブルであるCN120-3.5が付属しています。
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CN120-3.5はとてもしなやかなケーブルで見た目も高級感があります。柔らかいのでメモリワイヤや曲げ癖がなくとも耳にかけるのは容易です。音質は透明感が高く、音の純度が高いという印象です。高音域がきつすぎずに透明感を堪能できるのが良い点です。低音域も十分な量感があってタイトで膨らみが少なく、品質の良い低域が楽しめます。音調もニュートラルで着色感も少ないですね。
全体に標準ケーブルよりさらに音の粗さが少なく滑らかで高品位なN5005にふさわしいボーナスと言えるでしょう。


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プレーヤーをAstell & Kern SP1000SSに変えるとN5005の音再現性能の高さがより一層高く感じられます。SP1000のハイエンドオーディオ並みの細やかで色彩感豊かな音がN5005をより高みにもっていく感じですね。SP1000SSモデルの持ち味の至高の透明感もN5005では十分に堪能できます。ベルの音が澄んで綺麗なのは中高域ではなく、本当の高域が綺麗に出ているからでしょう。
低域の深さもSP1000で聴くといっそう引き出され、これゆえに広いスケール感も味わえます。ダイナミックドライバーの躍動感がSP1000のパワー感を生かしてるのも魅力的な音楽再生です。N5005はまぎれもなくハイエンドクラスの音を持ったフラッグシップと感じることができます。

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N5005、付属のBTアダプターとiPhone X

Blutoothアダプターケーブルもおまけというだけではなく、かなり高品質を感じさせます。形からはWestoneやShureのアダプターと同じOEM先のように思えるけれども、操作部は左になっています。もっとも電子部分のOEM先が同じでもオーディオ部分のチューニング次第で音は左右されるらしいので、そこはAKGの音に合わせているのでしょう。SP1000とは高品位コーデックであるAptXで接続ができます。透明感が高く、すっきりと音が伸びていく感じです。
iPhoneとの組み合わせでも音質は十分に良く、iPhone X(iOS11.3)との組み合わせではN5005の性能を十分に堪能できるほど音質が高いと感じられます。高低のレンジ感も十分にあり、iPhoneやスマートフォンを見ながらの通勤や通学の手軽で高音質のぜいたくなお供としてお勧めです。

* 音質調整フィルター

調整用の音響フィルターはねじ込み式でK3003と同じ方式です。ねじ込みはスムーズですが、パーツが小さいので広いテーブルか箱の上でやったほうが良いと思います。

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ヴォーカル域に鮮明さを足したいときはMid-Hghフィルターを使うとよいですね。低域はより締まった感じになるのでジャズはこれが良いように思えました。バイオリンもMid-Highで高域がより伸びるように感じられますが厚みがやや失われるので好みもあると思います。
Highフィルターだとさらに高域はシャープになるのですが、個人的にはやや高い音がきつめに感じられます。このフィルターでも低域はあまり落ちないので低域の強さはダイナミックドライバー由来のものだと思います。

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N5005のノズル部分もK3003と共通する設計ということがわかると思います

Bassフィルターは低域強めというよりも高域を抑えめにするという感じに思えます。たとえばヘビメタのようにきつめの曲にはよく合います。リファレンスでもメタルを聴くと高域が刺さる感じがしますので、そうした調整に向いています。
比べてみるとリファレンスはreferenceというよりもMid-Lowといったほうがよいかもしれません。N5005ではMid-Highの調整フィルター種類が増えたのでリファレンスがやや低域寄りになったかもしれませんね。

フィルターに関しては低域はわりと強めでほぼ変わらず、高域の強さを調整するという感じに思えます。曲のジャンルや録音によって変えるとよいでしょう。個人的にはリファレンスかMid-Highが常用できると思いますが、この二つは個人の好みだと思います。HighとBassは曲や録音によって使いわけるとよいのではないでしょうか。

*N40、K3003との音質比較

N40と比べるとN5005は全体に一段上のレベルで、特に音の豊かさ厚みが違います。N40も価格的にはよいと思うけれども、N5005はやはり高級機のハイレベルな格上の音再現を聞かせてくれます。たしかに似た感じの音調ではあるけれども、ここでも中音域のドライバーが違うのが効いているように思いますね。またケーブルの質も違うのではないかと感じます。全体的な解像感や透明感もN5005の方が上です。

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左:N40 右:N5005

K3003と比べてみると、K3003とN5005は能率がだいぶ違うように思います(K3003が高い)。音の個性はAKGイヤフォンとして似ていますが、同じリファレンスフィルターでもK3003は少し高域寄りに聴こえます。K3003の当時にはK3003独特の透明感の高さとシャープな高域に酔っていたので、高域の鮮明さがK3003の美点と思っていたと思います。

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左:K3003 右:N5005

N5005と比べると、N5005のほうが豊かで厚みがあるので高級に聴こえ、K3003のほうが軽い感じの音に聞こえます。理由としては低域ダイナミックドライバーの性能もあるけれども、ドライバーが増えたことによる中音域の充実が大きいのではないかと思います。これはCampfire AudioのJupiterに中音域ドライバーの加わったAndromedaの音の関係にも少し似ているかなともちょっと思いました。

今聞いてもK3003はかなり優れたイヤフォンだと思います。ステンレス製筐体の質感の高さもいまでも見劣りしません。ただN5005とK3003では好みの部分もあるけれども、やはりN5005の方が一段性能は上だと思います。

* まとめ

たっぷりした低域と、それに負けない豊かな中音域が魅力的なイヤフォンです。高音域はフィルターで好みに変えられます。K3003はもはやクラシックという感じですが、N5005はNシリーズで最新イヤフォンのトレンドを抑えたうえで、K3003を超えるような音質を実現したと言えます。

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10万を切る価格でBTアダプターやケーブルもたっぷりとついてますし、音質からするとだいぶお買い得なパッケージだと思います。K3003やN40と大きくは音調というか音の個性は変わらないのでAKGサウンドが好きな人には特に魅力的な製品と言えるでしょう。
posted by ささき at 22:05| __→ AKG K3003 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月22日

AKG K3003 ハイエンドイヤフォンの時代

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AKGが1000ユーロというハイエンドのイヤフォンを開発したと言うことでしばらく前から話題となっていましたが、そのAKG K3003がIFAでベールを脱ぎ、間おかずに国内でも代理店のハーマンから発売されました。私は雑誌記事のために試聴機をしばらく借りていたんですが、その音のよさに自分でも欲しくなってしまいフジヤさんに予約して入手しました。価格的には国内価格はかなり高価になるかと思われたんですが、妥当な値段ですね。なおハーマン経由ではリモコンなしのモデルを扱い、アップルもリモコンありのモデルを扱うと言うことです。その兼ね合いも合っての価格決定かもしれません。

K3003の特徴は3Wayのトリプルドライバーにバランスド・アーマチュア(BA)とダイナミック型のハイブリッド構成を取っているという点です。3Wayのトリプルドライバーはいまや珍しくありませんが、BAとダイナミックのハイブリッドはユニークです。BAがその特性を生かして中高域を担当し、ダイナミックタイプはいわばウーファーとなり低域を担当します。
またスペックを見ると驚くのは高域が30kHzまで伸びると言うことです。通常このタイプでは20kHzまでとしても高い性能であり、16kHzでもおかしくありません。実際は30kHzで何dB損失かと言うことを比較しなければならないので、単純には比べられませんがかなり特徴的な点です。これは倍音再生などにも利いてくるでしょう。

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実際その性能レベルは驚くほど高く、JH13とかUE18のようなハイエンドクラスのカスタムイヤフォンにTWagとかPiccolinoのような高性能ケーブルを常用していても驚くほどです。これらのカスタムイヤフォンでは総じてBAによる細部表現は良いが、能率が高すぎて音が膨らみ締りのない音になりがちです。JH16やUE18は顕著ですが、そうした傾向が少ないJH13でも緩みによる甘さはあるということをK3003は気づかせてくれます。
K3003はそうした贅肉がなく、あくまでソリッドで淀みないシャープさを堪能できます。それが本来的な楽器の美しさを再現しているように感じられます。明瞭さと言う点ではEty ER4を始めて聴いたときのような驚きがあるように思えますね。
スピードが早く立ち上がりとたち下がりが素早く正確で、アコースティック楽器の音は端正で美しく響きます。

もうひとつの特徴はかなりワイドレンジであると言う点です。低いほうは量感も低域の深さもかなりのもので、パイプオルガンの低音によるローカットのあるなしのテストトラックで聴いてみるとかなりローカットがはっきりわかるので低いほうにも相当深く沈んでいると感じられます。また高いほうはさらに印象的で、高域のベンチマークになるベルの音なんかは今まで聴いたことがないくらいのカチッとした正確な金属の硬質感を感じられ、しっかりとした強さでベルの存在感を主張しています。ソプラノもどこまでも突き抜けて行くかのように気持ちよく高く伸びていきますね。
また特筆すべきなのは立体感や楽器の重なりの明瞭さで、HP-P1やHM801などの良いアンプを使うと三次元感覚はちょっと驚きます。アコースティック楽器だけではなく、音響系(エレクトロニカ)アーティストの複雑で精巧な電子音の構築はポータブルではちょっと聴いたことがないくらいの音の重なりを楽しめます。

いずれにせよ、今までのようにカスタムがユニバーサルより上である、とはいえなくなったのは事実です。SE535もWestone4もやはりJH13とかUE18と比べると、というのはありましたが、(まあ価格も比較になりませんが)K3003には正直舌を巻くと言うかユニバーサルでここまでできるとは思いませんでした。それだけでもエポックメーキングなイヤフォンと言えます。実際にカスタムではなくユニバーサルということを逆に利用して高い剛性のステンレスシャーシを使うことで音の純度を高められたということはあるかもしれません。

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FOSTEX HP-P1などの優れたDACを持ったヘッドフォンアンプで音世界の緻密さを味わって欲しいと思いますが、iPhone直とFLAC Playerで聴いて欲しいとも思います。iPhoneでこれだけの音が出せたのかと驚くことでしょう。FOSTEX HP-P1ではぜひDirgentのUSBケーブルなど良いUSBケーブルを使ってください。ホームアンプで高性能ヘッドフォンで楽しむような立体感や質感が楽しめることでしょう。

ケースも高級感あるとともによくできていて、あまり添付のケースは使わない私でもこれは常用しています。チップがいま一つにも思えますが、これでこの音が出ると言うところにも逆に驚きますね。意外とダイナミック用のいろいろなチップがはまるので少し工夫してみたいところです。また音響フィルターを交換してHighブーストとかBassブーストもできるのですが、標準のリファレンスでの完成度に比べるとちょっと必要性は薄いように思えます。ただ組み合わせるアンプによってはフィルターを換えてみるのも面白いでしょう。

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K3003はBAとダイナミックのハイブリッドと言う点で変わってるようにも思えますけど、ふとAKGにはK340があったのを思い出しました。
これは静電型とダイナミックのハイブリッドで、静電型ドライバーが高域を担当してダイナミック型ドライバーが低域を担当します。K340は静電型と言ってもSTAXと違ってエレクトレットタイプです。K340はK240という機種をベースにした発展型ですが、K240はスピーカーで言うところのパッシブラジエーターをヘッドフォンに取り入れた独特のデザインでした。AKGってK1000もそうだけどけっこうユニークな製品を作るメーカーです。K3003がハイブリッドというのも不思議はないかもしれません。K340については以前書きましたのでこのリンクをご覧ください。
http://vaiopocket.seesaa.net/category/1059886-1.html

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さすがにK240についてはついに買いませんでしたが、この頃はGRADO HP-1000(HP-2)なんかも研究していました。思うとK3003の音の印象ってHP-1000にもある面で似てるかも知れません。精緻で正確、そして美しいサウンド、美しいハウジングです。Joe Gradoがその理想を追うために開発したのがHP-1000シリーズです。これは商業的には失敗しましたが、その音をいまでも求める人が絶えません。私もその一人だったわけですが、思えばうちのサイトもこの頃の方がマニアックだったかもしれません。
しかし今ではこんなマニアックなK340やHP-1000をネットをあさって発掘してこなくても、HD800やEdition8など量産品で中野のお店に行けば十分良いものを買える時代です。K240にしてもK340にしても当時のドライバーの再現レンジの限界をさまざまな工夫で突破しようとしていたわけですが、いまでは同じようなことをより強力なマグネットや進化したドライバーが可能にしてしまいます。
それを考えると今と言うのはヘッドフォンやイヤフォンの良い時代なのかもしれません。
posted by ささき at 23:47 | TrackBack(0) | __→ AKG K3003 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする