Music TO GO!

2006年02月02日

AKG K340の音の印象

k340c.jpg

このK340改造モデルはXLR4pinに改造してあるのでまず目的どおりSAC K1000アンプにつなぎます。するとまず驚くのは音の広がりとセパレーションです。
これは普通のヘッドホンではあまり聴いたことがないような音同士のはっきりと分離した感じがあり、かつ音場もとても二次元的に広くなります。これは4極バランス接続の強みといえるでしょう。実際にこの広がる感覚はHE60/HEV70ととても似た感じがあります。

また今回はK1000を通常のヘッドホンアンプにつなげるためにXLR->1/4プラグのアダプタも作ってもらいました。それでK340を普通にヘッドホンアンプにもつなぐことが出来ます。ここでは他のヘッドホンと比較するためにHD-1Lにつなぎます。
(K1000を通常のアンプにつなげた結果はまたいずれ書きます)

2Wayということでかまえて聴いているのですが、はじめのうちは特に不自然な点はなくとても自然に聴こえます。一つのユニットから音が出ているように感じられます。ちょっと静電型風の音色のようなものも感じられますが、あまり強くそうした傾向は感じません。全体的にはぱっと聴くとわりと性能の高いダイナミックタイプの音と感じると思います。

しかし、いろいろなソースをとっかえひっかえ長時間聞いていると少し気が付いてくることがあります。
はじめは少しヴォーカル(中域)が引っ込んでいるのではないかという感じです。しかし低域と中域を比べてみると量的な差や強弱の差があるようには聴こえません。そこで次に高域がハイ上がり気味に強調されているのではないかと思いました。
ここで帯域特性がフラットなヘッドホンとしてよくリファレンスに使われるGrado HP-2と比べてみます。するとよく分かりますがやはり中域に比べて高域が強調されて聴こえます。ただいわゆるどんしゃりっぽいというのではありません。HP-2は解像力や音の分離には定評がありますが、それと比べてもK340は高域の音はかなりくっきりとして音像がしっかりと描き出されます。そこでK340の高域の解像力はかなりのものだと気が付きます。
つまり高域が量的に強調されているのではなく、質的にはっきりくっきりとしているため、高域がより鮮やかに聴こえるのだと思います。

K340は例えていうとホンダのVTECエンジンのようです(わたしはホンダユーザーですので眉につばつけてください)。
ふつうのエンジンだと高回転まわすとたれてきますが、VTECの場合はある回転数以上で高速カムが効くとぐっと力感がかえってまします。そうした感じでK340はふつうなら高域にいたって音があいまいになるところをかえって力強くなるという感じです。
普通のダイナミックヘッドホンであれば高域での解像力が中域に比べて聴き劣りしてあいまいになってしまうところを、K340だと静電型の担当するところの高域がかえって解像力が高く音をはっきりと描き出すので高域の音があいまいにならず芯の強さを感じさせるので普通のヘッドホンに比べるとあたかも強調されているように聴こえるのだと思います。
それを考えるとたしかにK340がハイブリッドというのは納得できると思います。

K340の中域と低域はやや解像力と音像の明確さは落ちますが文字通りダイナミックで立体的であり、静電型に感じるある種の軽さはないと思います。低域は強調されているわけではなく、適度に強さがあります。
もうひとつのK340の特徴であるパッシブ振動板はスピーカーで使われるパッシブ・ラジエーター(マグネットがないウーファー)のヘッドホンへの応用のようなものと思われますが、低音の豊かさと音の広がりがXLRでない普通の1/4端子でもかなり実感できます。実際にDAC1+P-1の組み合わせでK340を聴くとL-3000よりも音の広がりは感じられます。この辺もうまく機能していると思います。


ここで少し引いて客観的に考えると、K340改の音の絶対的な性能をHE60"baby O"とかL-3000などの現代のフラッグシップクラスと比べてみるとさすがに時代を感じさせます。上はHE60ほどは伸びず、低域の迫力はL-3000まで及びません。全体的な解像力もいまひとつです。
当時の技術としては上下に伸ばし、音場を広げるためにはこうしたK340のような工夫が必要だったのでしょうが、いまの技術ではそれを大きな細工なしに実現できるというわけです。

Sonyのクオリア010の開発インタビューの中で2Wayも検討したがスピーカーと違い耳に近いヘッドホンは2Wayは向かないというのもありました。
一方でたとえばスピーカーシステムで聴くとフルレンジと2Wayでは、フルレンジも一定のメリットはあるのですがやはり上下の伸びをはじめとして2Wayには絶対的なオーディオ性能はどうしても及びません。
それを考えるといまK340のようなコンセプトをいまの技術でどこかで試しなおしてみても良いのではないかとも思います。

性能領域は今日の基準ではけっして広いわけではないとはいえ、K340にはいまのヘッドホンにはない個性的な音を感じるのもまた事実です。
それは当時の技術を工夫して性能限界を広げようとしたAKG技術陣の思いが伝わってくるからなのかもしれません。

2006年01月19日

K340の改造モデルについて

K340は個性的なヘッドホンではありますが、製作されたのが20年ほど前なので現代的にはやや古いところがあります。そこでいろいろな改造がほどこされたものが出回っています。

まず細かい内部を加工します。
パッシブ振動板のグリルを広げて、中の綿を取り除きます。また低域用のみネットワークをバイパスします。
2Wayなのにクロスオーバーネットワークをカットしてよいかという問題もありますが、実際にはさきの低音ダクトが余分な周波数をアコースティックにカットするローパスフィルターの役割をするようです。
全体的に初期状態では配線やコード類の品質が低いようで、改造していない状態だとおそらくブライトできんきんとした広がりの少ないがさつな音になっていると思います。
また静電側の高域ネットワークはトランスが含まれるため手をつけないということです。

ラリーさんのところではさらに得意のケーブル交換をします。昔はケーブル線の品質はかなり低かったようで、K340のケーブルはOFCではなくHD25-1のようにスチールのようです。
たとえばGrado HP-1000系はケーブルラベルが何回か変わっているというところがコレクターを悩ませている点ですが、これもケーブルがあまりよくなかったので短い歴史の中でも二度ほど変更があったという点によるようです。(John Gradoの弁によると二回目の変更ではRS-1のものと同じであるということです)
わたしはラリーさんのところのBlack Maxを選択して、端末をSAC K1000で使うためにXLR4極仕様にしてもらいました。もともとは片出しケーブルですが、この改造で両出しになります。
実際のところK340自体の流通価格は$100-150程度ですが、このケーブル交換だけでその倍くらいになってしまいます。ただしこれをやらないと単にビンテージ品ということで終わってしまいます。

ちなみに今回のベースになったものはヘッドバンドにAKGのラベルのない点からいわゆる初期型であると思われます。

2006年01月18日

AKG K340 ・ 静電型とダイナミック型のハイブリッド

AKGはときおりK1000のようなユニークな製品を世に出します。
K340もそのひとつで静電型とダイナミック型のハイブリッドというユニークな特徴をもっています。
それに興味を持ち改造版のK340を入手してみました。

k340a.jpg

ヘッドホンには大きく分けてダイナミック型と静電型の二つがありますが、より一般的なダイナミック型に対してSTAXに代表される静電型は少数派ではありますが熱烈な支持があります。静電型は文字通り振動板を静電気の反発で動かすもので振動板を薄くできるのでより細かい音が出せるとされています。
個人的な印象としてはダイナミック型が音楽のマクロ的な動感をうまく表現するのにたいして、静電型は音楽のミクロ的な細部をうまく表現するという感じがします。そういう意味では一長一短という感じですが、そこでその二つのハイブリッド型としてK340が1978年に生まれました。
K340はしばらくしてディスコンになりましたが、人気があったためにその後も改造やケーブル変更品などがときおり入手できます。わたしが入手したのもそうした改造品でHeadphile(いわゆるラリーさんのところ)でカスタマイズされたものです。
さらにケーブルプラグを4極XLRになるようにわたしが特注依頼をしています。SAC K1000アンプで使うためです。


- オリジナルのK340について

K340は静電型の発音体ユニットとダイナミック型の発音体ユニットを同軸に配した2Wayヘッドホンという特徴があります。
それぞれはスピーカーのようにツィーターとウーファーの役割があり、静電型の得意とする高域を静電型で駆動して不得意な低域をダイナミック型で補うという良いとこどりな考え方です。

ツィーターとなる静電型ユニットは円形で中心に配置されていて(耳に対して)前面にあります。ウーファーとなるダイナミック型ユニットはその静電型ユニットの背後に静電ユニットと同軸で配置されています。同軸なので二個の発音体の位相差は少なくなると思います。
もうひとつ特徴的なのは静電型ドライバを囲むように6つの円形の小部屋があり、そのうち5つがダイナミックユニットの音を通すダクトの役割をするということです。ここにはパッシブな振動板と綿が詰まっています。パッシブと書いたのは、ダイナミック型のトランデューサー(発音体)の振動板のようにマグネットで駆動されるのではなく、さきの中心のトランデューサーの音で間接的に振動するようです。これはスピーカーのパッシブ・ラジエーターのようなものと考えられます。
のこりのひとつのダクトには電子回路がはいっています。電子回路部分にはトランスやクロスオーバーが入っています。
このダイナミック型部分の構造自体はオリジナルのK240をもとにしているようです。(オリジナルのK240では電子回路はないので6つの小部屋にパッシブ振動板があり、"6"を示すSextettと呼ばれました)

また静電型でありながらSTAXのような特別なドライバーユニットが不要であり、通常のダイナミック型として扱えるところも特徴です。これは静電型といっても電荷を自己保持しているエレクトレット(electret)タイプだからです。
静電型は振動板を帯電させねばなりませんが、それ専用に外部から常にバイアスを与えるのがSTAXのコンデンサタイプでそのため専用電源(ドライバ/アンプ)が必要です。それに対して振動坂の材質などにより振動板自身が常に電荷を持っている(あるいはバイアスなしでも電荷を発生する)のがエレクトレットタイプで、そのため専用電源は要りません。
ただし静電気を作るために電圧は上げる必要があるのでトランスは必要です。そこでエレクトレットタイプでも外にトランスがあるタイプとヘッドホンに内蔵するタイプがあります。つまりK340はエレクトレットタイプでかつヘッドホンにトランスを内蔵しているため、そのままヘッドホン端子につなぐことができるというわけです。

その代わりに能率が低くなるようで、やはりそれなりの駆動力が必要になります。
また専用に高電圧を与えるドライバがないので、ユニット自体としてはどうしてもSTAXのようなタイプよりは劣るのではないかと思います。ただしK340の静電ユニットはツィーターとしてのみ使うという割りきりがあるので十分ということなんでしょう。
K340があまり主流になれなかった原因は複雑な製造工程によりコスト大とともにこの低能率というのが当時は大きかったと想像できます。

k340b.jpg

スペックをさらに詳しく見るとインピーダンスは400Ωで能率が94dB(1mW)という実際に低能率なものになっています。そのためアンプのボリューム位置は通常のヘッドホンよりかなり高くなります。
周波数レンジは16Hzから25000Hzとそれなりですが聴覚的には2Wayの効果か、かなり上下は広く感じられます。
なお複雑な構造から推測できるように重さは385gありますのでヘッドホンとしては重いほうになります。ただし装着はハウジングのサポートがよく考えられていて重さのわりには快適です。

K340では2Wayの発音体ユニットが入っていますので、2Wayスピーカーのようにクロスオーバーネットワークも内蔵されています。
クロスオーバーネットワークとはツィーターとウーファーにそれぞれ最適な周波数を振り分ける回路のことです。スピーカーにおいては高域用のツィーターにあまり低い周波数を与えると破損するもとですし、低域用のウーファーに高い周波数を与えると音が歪むもとになりますので余分な帯域をカットするわけです。
K340のクロスオーバー周波数は4000Hzですので普通の2Wayスピーカーのクロスオーバーに近い常識的な値が使われています。つまり4000Hzより上の音は主に静電型の音になり、それより下はダイナミック型の音になります。ただし、クロスオーバーにはその境界で重なる領域があり、どの程度ゆるやかに遷移するかという目安があります。それをスロープ特性といいますが、K340では6dB/Octというスピーカーでいうと比較的緩やかな特性ですのでかなりゆるやかな境界となります。そのため4000Hz前後では静電型とダイナミック型の両方の音が混ざっているということになります。

はじめは静電ユニットをフルレンジとして扱ってダイナミックユニットはサブウーファー的に使うのではないかと思いましたが、これらのことを考えると単純に静電ユニット=ツィーターでダイナミックユニット=ウーファーと考えてよいと思います。
そうした面ではK340のコンセプトは静電型とダイナミック型のハイブリッドという点でスピーカーでいうとマーチンローガンのProdigyやOdyssey系のものと似ているけれども、マーチンローガンではクロスオーバーが250HzとK340よりは低めに設定されていてあくまで静電ユニット主体であるのに対してK340では静電ユニットはツィーターとしてのみ考えられていることが分かります。


K340は普通のダイナミック型と考えても独特の音の広がりを感じます。それはさきに述べたアクティブ+パッシブ振動板の1+6の小部屋の構成によるようです。K340はクローズ型ですが、パッシブ振動板を使用した小部屋によってオープン的な音の開放感を出そうとしているようです。このK240で創始されたSextett技術は当時の広告で「オープンとクローズの良さを兼ね備える」と宣伝されていました。
そうした意味ではK340は静電型とダイナミック型の良さを兼ね備え、さらにオープン型とクローズ型の良さも兼ね備えようとした野心作といえます。のちのK1000に見られるAKGの理想追求の姿勢がここにも垣間見えます。

K340改造モデルとはなにか、またその音の印象についてはまた別の記事にします。