音をマスタークオリティにちかづける、と言う点で一つはLINNの配信によるStudio Qualityダウンロードのアプローチを書きました。
そして従来のディスクメディアでもそうした試みはあります。
週末にハイエンドショウに行って音元出版さんの試聴会に参加しましたが、斉藤氏の良録音紹介の試聴会などでそうした試みが紹介されていました。
*ダイレクトカット盤(オクタヴィア)
ひとつはSACDのダイレクトカット盤というもので、これはこちらのリンクで詳しく紹介されていますが音元出版さんの今回の目玉でした。ダイレクトカットはもともとアナログ時代の言葉ですが、その品質の高さを意識したということでしょう。
http://www.phileweb.com/shop/octavia/
つまりはCD/SACDの音質の問題点のひとつは大量生産のため子・孫と繰り返されるプレス工程にあるので、その大本でプレスするということです。
ただし、この方法では大本であるマスタースタンパがあまり持たないので一回に30枚くらいが品質維持の限界ということなので、小口しか売れないということとともにコストが高くなるということです。そのためSACD一枚で20000円となってしまいます。かなりコストがかかるので、これでも30枚のうち20枚以上うれないと採算には合わないそうです。
このもとのマスタースタンパを作り直せばもちろん30枚単位でより多く製作できますが、結局マスタースタンパを作り直すのにまた一からコストがかかるので、単価を下げることはできないということのようです。

レーベル面には余分な印刷はなく、中央部が緑に塗られているのはレーザーの赤色の補色ということで乱反射の防止加工だそうです。
*マスターCDR(オクタヴィア、赤坂工芸)
上のダイレクトカット盤は、プレス工場が品質確認のために製作会社や関係者に配る検盤用の「プルーフ盤」を商品化したものともとらえることができます。
もうひとつのアプローチはさらにマスターに近いCDRを販売するということです。
http://www.phileweb.com/shop/octavia/meq.html
製作者(レコード会社)は大本のマスターをデジタルのテープやハードディスクで持っています。それをマスタースタンパを作る際にプレス工場に送るときにはCDの場合はCDRに焼いて送ります。(SACDの場合はUSBメモリやDATのようなものを使うようです)
このCDRをそのまま販売しようというものです。
上に書いたオクタビアさんでは音元出版と共同でこれを5月末位に企画しているそうですが、一日に一枚ペースの製造しかできないとのことで約10枚程度の販売となるそうです。
実はこのマスターCDRを販売するというのはすでにやっているところがあります。
オクタビアさんはクラシックで有名なレーベルですが、こちらはジャズの良録音CDで有名な赤坂工芸さんです。
http://www.aklab.jp/
赤坂工芸さんでは「ニューマスターシリーズ」という名称でここに書いたのと同じCDRを受注で制作販売しています。これも結局のところ赤坂工芸さんのようないわば蔵元であり、さらにマイナーレーベルならではの小回りの利く良さといえると思います。
ここの人はもとはスピーカー製作をやっていたそうですが、製品テストのために録音をしていくうちに録音の方が本業になってしまったということです。そのためオーディオ再生を意識していますし、ライナーノートもマイクをどう設置すると音色がどうなるという録音のうんちくがほとんどというなかなか通なところです。
斉藤氏の良録音紹介の試聴会のときに比較試聴をしたのに衝撃を受けて、そのあとサイレントブースの赤坂工芸の直販ブースにいきました。オクタビアさんのもそれなりに差はあると思いますが、個人的にはこちらの方がはっきりと分かりました。ジャズとクラシックの違いということもあるかもしれません。
こちらは通常のCD盤が3000円のところ、このCDRはなんと13000円の価格がついています。とはいえ、上のオクタビアさんの例を知ってからだと驚かないということはあります。これは直販ブースで試聴できますし、実際に聴いてみないと10000円の価格差は払えないと思います。試聴会のときのアキュフェーズ+TAD Referenceのようなハイエンドシステムでなく、この試聴ブースの数万円程度のCDプレーヤーのヘッドホン端子でも十分に違いがわかります。
わたしはまずビブラフォンを含めたジャズアンサンブルの"Creamy"のマスターCDR盤と比較用に通常のCD盤も買ってみました。
左の写真では赤坂工芸マークが入っている手前のものがCDR盤で、右の写真では上がCDRです。


家に帰ってさっそくうちのスピーカーで聴いてみました。通常のCD盤でも定評通りのかなりの優秀録音盤なのですが、マスターCDRに変えると、しばらく聞き込んで分るというのではなくはじめのビブラフォン(鉄琴)の連打音をぱっと聴いて違いがもうはっきり分かります。
音がより広がり、クリアでより明瞭になります。さらに聴きこむと音の硬さがとれて柔らかくなっているように感じます。質感が良いというか、くっきりと明瞭ですが柔らかいという不思議な感覚です。特にヴォーカルを聴くとそう思いますが、作り物っぽくない自然な音、というべきでしょうか。
もともと赤坂工芸の録音ポリシー自体が、クリアだけどシャープで細身の音ではなく、質感豊かな骨太のアナログ感覚の音を目指しているというのでそれともあっているように思えます。
際立つのは空間的な感覚です。自然でかつ奥行きを感じます。最後のトラックにオーディオチェック向け、とわざわざ題してドラムソロが入っているのですが、これを聴くと単なるドラムのソロなのにより広い空間表現を感じて立体でかつ自然な奥行きが感じられます。比較するとCD盤はやや平面的です。
こうなると高くても、もう一枚欲しくなってしまいます。次の日にもまた行って今度はHey Rim Jeonという韓国女性ピアニストのジャズピアノの新作"Alone"を購入しました。Hey Rim Jeonはバークレー音大のジャズピアノ科の講師をやっているという人です。スタンダードやSpainなどジャズの名曲をピアノアレンジしたものやオリジナル曲から構成されています。
こちらはソロピアノのせいかアンサンブルの"Creamy"ほどCDとCDRの差が鮮烈ではなかったので前日は買いませんでしたが、試聴して音楽的に気に入っていたものです。
やはり自然で柔らかくかつ明瞭感がある、という独特の感触がピアノの音色を強調や誇張感なく自然で豊かに表現するという感じです。これはさすがに比較用の通常CDは買いませんでしたが、ピアノのタッチがCDだとどうも硬質すぎる、と感じている人には良いのではないでしょうか。
感覚的に言うと「ガラスのCD」の試聴をしたときの感じに似ているかもしれません。しかしアナログ盤ならともかく、デジタルの場合はCDRもCDも中身は同じように思えます。メディアが完全ではなく汚れた1や0が読み出されても読み取れるかぎりは完全な0や1としてデータは完全にコピーできるのがいったん数値化するデジタル記録方式の長所ですが、実際に聴いてみると違うのが不思議です。まあジッターとかもありますからね。
気のせいだと思えば安く済みますし、実際に赤坂工芸は通常版CDでもかなり良いんですが、一度味を占めると後戻りできないのがオーディオの怖いところです。次はまたなにを買おうかと赤坂工芸のホームページを見ながら悩んでしまいます。ちなみにニューマスターCDRはホームページにはありませんが、頼めば受注生産で作ってくれるそうです。
*XRCD24(ビクター)
上記のアプローチはいわばマイナーレーベルであるからこそできることとは言えます。いわば工場でつくるメーカーのせんべいと頑固おやじが店先で一枚ずつやく手焼きせんべいのような違いと言えます。
とはいえ、メーカーでもこうしたアプローチはあります。そのひとつはビクターのXRCDです。
XRCDというのはうたい文句の16bitで24bit相当の云々と聞いても具体的になにが特殊かというのはよくわからないところもありますが、端的に言うとリマスタリングからプレスまで従来のものより手間をかけて作成した普通のCDということになると思います。いわばセミオーダーのようなものでしょうか。もっともこちらは新しい技術でリマスターをしているので音質がよくなるというのは当然と言うか分かりやすいと思います。すでにビットデータ(ワードデータ)で違うわけですからね。
いまではXRCD24という規格になっていますが、ハイエンドショウの売り場で少し販売されていました。前から興味があったものがXRCD24で販売されていたので買いました。
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=1401152&GOODS_SORT_CD=102
それはこの「古代ギリシャの音楽」です。古楽はM&Aなど良録音が多い分野ですが、「古代ギリシャの音楽」はこの分野でも優秀録音の代表挌として有名なものです。こちらも良録音で有名なレーベルであるフランスのハルモニア・ムンディのものです。比較する通常盤は持ってませんが、ぱっと聴いて冒頭からちょっとびっくりします。
録音は1978年ということですが、この透明感と楽器の鳴り、空間の広がりはすごいものがあります。まさに見通しが良い音場です。
これとかはSTAXで聴くとかなりすごいものがあります。器楽曲なので音と音のあいだに間がありますが、その間にどれだけ音が詰まっているんだという感じです。このディスクを語るときによく言われる外の鳥のさえずりもきちっと聞こえます。
これもなかなか気に入ったので、「古代ギリシャの音楽」の続編ともいえる「ラ・フォリア」を注文してしまいました。
こうして聴いてみると結局のところ問題なのは大量生産物たるCDディスクの方で、規格であるRedbookに関してほんとに限界なのか、というのは配信時代に行く前にもっと検証すべきことだと思いますし、配信時代になっても物理的なメディアが残れる道の一つではないかとも思いました。
買い逃したSACD、残ってるかもと教えてもらった店でも売り切れでした…
買えないと余計に欲しくなります。
赤坂工芸さんのCD-R、ゆっくり試聴できる場所があれば良いですね。
たしかに高価なわりにはかなり人気がありましたね。
サイレントブースもレクストのDACとかけっこうおもしろいものがありましたが、CDの販売も含めてサイレントブースのみの会が別にあってもいいように思えますね。