
Edition7はUltrasone社ヘッドホンの特別モデルで、革張りのイアパッドやハイエンドらしい高性能を持っています。すでに生産と販売を終了していますが、わたしは最後の処分のあたりに再生品などが出回って安くなってから入手しました。
http://www.timelord.co.jp/ULTRASONE/Edition7.html
いま所有しているATH L3000やGrado HP-2と比較しつつ少しコメントを書いてみます。アンプはP-1あるいはHD-1L、ソース(CDプレーヤー)は前のAudio AnalogueからLINN Ikemiに切り替わるあたりなので両方使っています。
CDPからのインターコネクトケーブルはAudioQuest PythonとTransparent MLSの両方使いましたが、腰高になりがちなEdition7には重心の低いPythonの方がバランスよく思えました。
装着感ですが、耳をすっぽりパッドに入れるタイプのEdition7は耳に乗せる形になるL-3000よりもわりと長時間つけていてもむれない感じです。L-3000はラムスキンのパッドが直接耳たぶに当たるので心地よいけれども、長時間つけているとそこがむれてきます。ただしEdition7のパッドは汗ですぐに痛みが見えます。
価格の割にはプラスチック製のアーチなどいまひとつなところもありますが、これはL-3000にもいえます。やはりこのクラスであれば仕上げはHP-2くらいの手間をかけてモノとしての魅力あるものにしてほしいものです。ただ鏡面仕上げのハウジングはなかなか美しい外観です。
シリアルのついたケーブル金具はケーブルをたるまずに伸ばすという役目もありますがときとして邪魔になります。
ぱっと聴いたときの第一印象はスピーカー風の音かな?というものでした。S-Logicの効果かもしれませんがたしかにちょっと三次元的に独特の音場形成はあります。特にHD-1Lだと特徴的です。ただある程度慣れてしまうとそうした感覚は薄れますし、他のヘッドホンと替えても大きな違和感があるわけではありません。
また音場の二次元的な広さ自体はL-3000の方がずいぶん広く感じます。
Edition7が光るのはさまざまな楽器が複雑に絡み合うときです。
驚くのはEdition7ではひとつひとつの楽器の音をきれいに分離するだけでなく、音色もきちんと描き分ける力を持っていることです。これは音の粒立ちのよいP-1で強く感じます。
たとえばピアノコンチェルトの場合にL-3000だとピアノの音のエッジが背景のオケと分離ができないところがあり、くっつく傾向がありますが、Edition7はきれいに分離してピアノの音が背景からポップアップした感じになります。さらに音色もストリングスとはっきり区別ができてかつ美しく感じます。ヴォーカルは独特の余韻がとても味わい深いものです。
CDトランスポートとしては解像力に優れるIkemiとEdition7の組み合わせではもう異常とも思えるくらい細かく音を描き分け、かつ小さな音まで拾います。マイクに入るスタジオの全ての擦れた音や雑音まで再現するようで、そこをリアルと感じるか余分な情報と感じるかの好みは出てくるかもしれません。
ただしEdition7は高域も低域も少し強めの傾向があって、HP-2のようにバランスよく抑制されているとは感じません。低域もHP-2の方が量感はないですが、小気味良くタイトにコントロールされています。
一方でL-3000は音が少し団子になるけれどもかえって刺激的なところが丸められて聴きやすいと感じます。オーテク独特のやさしい音色やゆったりと広い音場もこの点ではプラスに働くと思います。また低域の量感は絶対的にはEdition7の方があるかもしれませんが、低域全体の音のボリューム感は響きの関係か、L-3000の方があるように思えます。
前述したようにEdition7は良い録音ではちょっと耳を疑うくらいの空間再現と情報量が堪能できるのですが、ロック・ポップだとがちゃがちゃしてかえって聴きにくいと感じることもあります。ロックの場合は音の再現性が高いかどうかより、演奏がかっこよく聴こえるか、というところに重点があると思いますのでそうした点ではかえって聴きやすいL-3000の方がわたしは好ましく感じます。
Edition7の難点としては高域がきついことです。エージングの問題という話もありますがキャラクター的なものも確かにあって、たとえばQuietLineフィルターなどの電源ノイズ対策のあるなしでEdition7の高域の感じは大きく異なります。ここできついヘッドホンと感じるか、驚きの繊細さと感じるかが変わってくるように思えます。
それと、はっきりとは言えませんがケーブルの品質がこのクラスにしてはいまひとつという気がします。悪くないけれども、もう一息のSN感や定位感(チャンネルセパレーション)はこの辺から感じるように思えます。もしかすると少し経ってからシアトル送りになるかもしれません(笑)
こうしてみるとEdition7も高価とはいえレーダーチャートで全て満点というわけではないと思います。
私が持っているヘッドホンで周波数バランスや抑制・コントロールがハイエンドらしくかなり完璧に近いのはHP-2ですが、これはオーディオ性能や音色のよさはEdition7に及びません。L-3000は高性能でも聴きやすくかつダイナミックですが、ハイエンド的なバランスとは言いがたいものがあります。
ハイエンドヘッドホンはQUOLIA 010、OMEGA II、HE90(Orpheus)とわたしの知らない世界もまだまだありますが、レビューを見て思うに感触的にはどれも完全無欠というわけではないような気がします。
そうしてみるとヘッドホンは個性で選ぶというのが正解だと思いますし、それを楽しめる個性的な製品がたくさんあるのもまたヘッドホンの世界の大きな魅力であると思います。