Joe GradoのクラフトマンシップはHP-1000ヘッドホンとともにヘッドホンアンプにも発揮されました。それがこのもうひとつのシグネチャープロダクトであるHPA-1です。
まずおどろくのはこのアンプの設計があのマランツの名設計者である(故)シドニー・スミスによるものだということです。
シドニー・スミスはいまや伝説的なマランツ#2,#5,#8,#9(管球王国36参照)などのマランツ前期の代表的なパワーアンプ設計者です。現在の日本マランツのアンプは円形のメーターをデザインの特徴にしていますが、それは#9を規範としています。
http://www.marantz.jp/bc/brand/history/
そうした米国オーディオ界の重鎮的存在の人がこうしたヘッドホンアンプの設計をするとは珍しいことですが、HPA-1の頃には齢60を過ぎていておそらく引退をされていたと思いますのでJoeとの交友関係で設計をしたのでしょう。シドニー・スミス時代のマランツもプロ機器ゆずりのこだわった作りこみを特徴としていますので、おなじようにこだわりのあるjoeとは共鳴するところがあったと思われます。
海外の個性的なオーディオにおいては音決めをするオーナーと音を作る設計者というペアの関係がよく引用されますが(例えばMLASのマークレビンソンとジョンカール)といわれますが、HPA-1においてはそれがジョウ・グラドとシド・スミスというわけでハイエンドオーディオにも比肩するかなり豪華なものです。
そしてもちろんこれもHP-2と同様に妥協のない作りこみがなされています。ボリューム、電子部品、ワイヤー、コネクターなどいたるところでJoeの選んだカスタムメイドのパーツが使われています。
製作はJoe自身とマランツのトム・キャドバス(品質管理部門の技術者)との手作りで生産数はかなり少ないようです。また作成しているうちにJoeのこだわりから試行錯誤でパーツ類も変えていったとも言われますので市場のどのHPA-1も音が違う可能性もあります。中身は大きく二つのタイプがあると言われますが、実際にいくつのバリエーションがあるかは分かりません。
このようにHPA-1はHP-1000よりさらに深いものがありますし、HP-1とRS-1が異なる以上にHPA-1は現在のRA-1とは違うものといえます。(HPA-2というのもあるようですが、これはよくわかりません)
実際にHP-2と組み合わせてみるとヘッドホンとヘッドホンアンプの相乗効果というものをあらためて考えさせられます。
この流れるような音楽性とGradoの暖かいヴォーカルの組み合わせはまさに絶妙です。高域も低域も絶妙のバランスでかつナチュラルです。それでいてモニターというイメージから来る無味乾燥さとは無縁の音楽性の高さが感じられます。
ATH L3000をHPA-1につけてみると特に低域は延びますが、特にアコースティックな音楽を再生したときのバランスは完全にHP-2との組み合わせが上です。L-3000はかなりメリハリがつくように音が強調されて聞こえますが、HP-2に換えるととても自然な音の流れを感じます。おそらくはHP-2のフラットなバランスにあわせてアンプの方で強弱を加えているのだと思います。そうしてシステムとして音楽的なバランスが形成されます。
またフラットなHP-2を動的なHD-1Lにつけると組み合わせとしては良さそうに思えますが、今度はHPA-1と組み合わせたときのような滑らかさが出ないのである意味HP-2の良さを消してしまっています。またこの組み合わせで聴くときついというほどではありませんが、やや高域が強調されます。そこからもHPA-1がうまく子音の抑制を行っていたことがわかります。
やはりHP-2の項で書いた「聴きやすさ」というところはHP-2とHPA-1の相乗効果だと思います。
ただATH L-3000をHD-1Lにつけると今度はきちんとはまります。聴きやすくて動的にもすばらしい再現性です。この組み合わせはいいと思うんですが、この辺も相乗効果というのはあると思います。
今度はHP-2/HPA-1とL-3000/HD-1Lで同じソースを聴くと前者は落ち着いた大人の音楽、後者は動的でダイナミックな演奏者の気持ちが感じられます。また前者よりは後者がウォームに聴こえます。HP-2/HPA-1もややウォームだと思いますが、かなりニュートラルに近いと思います。
ただ相乗効果ということを逆に言えば、これ単体で今の最新のヘッドフォンと組み合わせるのはお勧めできないかもしれません。HP-2との相性という面を別にすると、たしかに現在において最高クラスのLuxman P-1などと比べるとやや情報量や解像力、あるいはSNや定位のフォーカスがやや甘いなどオーディオ性能的なところは劣るといえます。
やはりHP-2と組み合わせてこそ真価を発揮するアンプといえるでしょう。
またHPA-1はこうした小型の高性能ヘッドホンアンプの嚆矢でもあります。いまとはちがってHP-1000の時代はこうした小型ヘッドホンアンプの良いものがなかったのでそれが開発のきっかけということのようです。
電源は12Vのアダプターと9V電池二個のいずれかです。ポータブルも可能というわけですが、大きさから考えると運ぶというよりも電源としてのクリーンさを狙って電池にしたという気もします。さらにバッテリー室に仕切りや押さえがなくてバッテリーがきちんと固定されないので移動時に動いてしまうという点もポータブルには適しません。ただし部屋をまたいで、という点では可搬性は高いと思います。
電源スイッチ位置にスタンバイポジションがあるのもハイエンド機を思わせます。
もし内部の画像に興味がある人はHeadfiの画像倉庫にあります。
http://photo.head-fi.org/
ここでキーワードをHPA-1で検索してください。
当時の価格は$795ですが、こちらはHP-1000と違ってプレミアがないので入手金額はその半額くらいでした。この個体は動作は完全で、ほとんど新品同様でした。しかし事実上修理不能なので本来はある意味で「ビンテージアンプ」として楽しむものかもしれません。しかしこのHP-2とHPA-1の組み合わせはビンテージとして片付けることはできない魅力をもっています。
最近ではMcIntoshがもはや引退したと思われるシドニー・コーダーマン名義で数十年前の名作を焼きなおして新しい真空管アンプを発表していますが、その是非はともかくこうして顔が見えるということが海外オーディオの面白さのひとつだと思います。
HPA-1はHP-2とともにそうしたアメリカオーディオ黄金期の残滓がヘッドホンの分野にあったと思わせてくれます。
Music TO GO!
2005年08月02日
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HPA-1とRA-1はグラドホン向けに作られたアンプという点では一緒みたいですね。今ではどんなヘッドホンにも対応したアンプが多いですが、そういう"コア"なアンプも是非聞いてみたい…。
それにしてもHPA-1の中身は今売られているアンプと比べると、変わってるな〜と思います。
ドリューさんから返信が来たのですが、来週月曜までポケットドックが届かないと言われました。手数料3.9%。保険付き高速便で21ドル。ブラックドラゴンについてはエスティメイトしてくれませんでした。とりあえず待っているしかありませんが、ケーブルだけで送料21ドルはあまりに高いような気が…。
これを書いていて面白かったのは、一時は一世を風靡した偉いひとたちがおじいちゃんになって集まって「もう一回なにかやろうぜ」と選んだところがヘッドホンの市場だったというところです。なんか光景が目に浮かびました(^^
たしかにアメリカになにか頼むと送料が高くつきますね。まあついでにということで、さらに買い物をしてしまうということにいつもなってしまいます(笑)
私もささきさんの返信を拝見している最中に、頭の中で白い髪のおじいちゃん達が数人で何かに取り組んでいる光景が作り出されました。引退してもなお、オーディオが好きなんですね。仕事=好きなんていう構成は素敵です。
一応、お値段の方を教えていただきました。ブラックドラゴンは銅を使用して85ドルだそうです。多分これで行くことになると思います。