日本のGrado製品の購入紹介のページによくGradoの名声を成したヘッドホンとして紹介されているのがこの"HP-2"です。伝説的とも称されますが、いまでは絶版になっています。
ちなみにGrado HP-1/2/3を総称してHP-1000とも呼びます。HP-1000の中でももっともポピュラーなものがHP-2です。
HP-2の特徴はなんといっても細部にわたり加工がオーバークオリティといわれるほど精密なことです。現在とは違いプラスチックパーツはありません。ドライバーを包むイヤピースはアルミ合金削りだしでずっしりと手ごたえがあり、美しく磨きこまれています。位置決めはそのイヤピースをネジで固定します。
HP-2の製作はかのJoe(Joseph) GradoでMCカートリッジの開発などで音の殿堂入りを果たしています。現在Gradoのヘッドホンとして売られているもの(RS-1や325など)は経営が甥のJohn Gradoになってからものです。
Joeの時代のクラフトマンシップあふれる音的にも作りにも妥協なきところは写真好きな私にはライカなどドイツ製品のマイスター魂を思わせます。しかし同じ時期に製作されたヘッドホンアンプのHPA-1とともに採算度外視の作りこみはGradoを赤字に導いたといわれています。そこを継いだJohnはもうすこしアメリカ合理主義があり、やりすぎたところを合理化して音質をできるだけ落とさずにうまく作りこみGradoを立て直しました。そして現在に至ります。
もともとJoe Gradoはスタジオ用のモニターとしてHP-1000を製作したらしく、こうした堅固なアルミ削りだし素材にしたのはスタジオでのタフな使用に耐えうるものとして作られたようです。特別モデルと考えられている現在のメタルハウジングのPS-1も同様な理由でドイツのスタジオ現場からの要求によるものということのようです。HP-1の位相反転機能もレコーディングで使うためのものかもしれません。
まずHP-2は頭にかぶった瞬間にJoe Gradoの主張が伝わります。その金属フレームの剛性感ある装着感はそれだけで個性を感じます。それほど重くはありませんが確かなホールド感があります。イヤピースはビスによって位置を固定しますが、間接部の自由度が大きいので適切に耳にフィットします。
HP-1000はモニター的と評されることもありますが、やや暖かいヴォーカルの再現を基調とした音は現代のGradoに通じるものがあると思います。おそらくは低音の出方が現在のものとは異なるのでモニター的という評が付くことがあると思いますが、そうした言葉から連想されるような冷たくて無味乾燥な音とはまったく違います。
フラットというよりはバランスがよいと言ったほうが良いかもしれません。能率の低さもあって、いまのAKGの繊細さとGradoの艶っぽさをほどよくブレンドした感じにも思えます。端正でかつ上質です。低域はメリハリがあるというよりは適度な量感でタイトに締まっています。高域はとてもよく子音が抑制されて耳に優しい感じがします。このように低域も高域も適切にコントロールされているところにHP-2の特徴のひとつがあります。
(私のものはケーブル交換されていますので音についてはその上での評ということになります)
わたしはRS-1は所持していないので直接比較できませんが、感じとしてはメリハリのあるRS-1に対して滑らかなHP-2ということになると思います。
HP-1000はときには超高性能と評が付くこともありますが、ヘッドフォンとしてのオーディオ性能を考えると実際のところRS-1と同じくらいかもしれません。高域も低域もよどまずにほどよく伸びますが、解像力や周波数特性は最新最高のものほどではないかもしれません。ちなみにHP-1000系は共通データとしてはインピーダンスが40Ω、能率が94dbとやや能率が低くなっています。周波数特性は18Hzから24kHzです。ちなみにRS-1は12Hzから30kHzです。
アンプとの相性はHD-1LよりもLuxman P-1の方が良く思えます。しかしHP-1000用に設計されたGrado HPA-1がやはりもっとも相性は良く音楽性を感じます。Grado HPA-1との"Signature Combo"はナチュラルでかつバランスが良く、そして流れるように歌うように音楽的です。
わたしが聴くようなコンテンポラリー・アコースティックのNew Age系、またはスムースジャズやアーバンジャズ、クラシックの室内楽には特に相性が良く思えます。とにかく気持ちが良いという一言ですね。長時間聴いても聴き疲れしません。
もちろんロックを聴いてもうまく鳴らしますが、低音の迫力が物足りないという人は多いかもしれません。低音のタイトさは申し分ありませんが、ちょっと上品であって音の塊的な量感としての迫力という点ではいまひとつかもしれません。
相場は一時は高騰していたようですがHP-2で現在$700-$900くらいだとおもいます。(ちなみにRS-1の米国価格はだいたい$700)。それにしてももとは$495ですからいまではずいぶんプレミアがついているわけです。こうして昔のヘッドホンで現在価値を見直されているものとしてSTAXの初代オメガをちょっと連想させます。
そのためもあってHP-1000は時とともに過大評価される傾向はあるようですが、Joe Gradoという才人の音の考え方や製品へのこだわりを個性として伝えてくれる名器と言って間違いはないと思います。
Appendix: HP-1000とバリエーション
HP-1000はGradoシグネチャープロダクトのヘッドホンシリーズ(HP-1/HP-2/HP-3)の総称です。HP-1000は80年代末に設計されて90年代前半に5年間ほど1000台程度製作されたようです。これらがHP-1000と呼ばれるのはトータルで1000セット作られたからとも言われています。(実際の製作数については諸説あります)
HP-1000には大きく二つのタイプがあって、それぞれHP-1とHP-2と呼ばれます。その違いはHP-1が左右のイアピースの中央に位相切り替えスイッチがあることですが、スイッチ自体が音に影響するという評もあります。そのためか普通はシンプルなHP-2の方が一般には好まれるようです。ドライバーなどはみな同じはずです。
また少数ですがHP-2の派生型としてHP-3というのもあります。これはHP-2のコストを下げるために左右のドライバー特性の合致の基準を緩めるなどドライバーの製作精度を下げたモデルのようで、HP-2より$100ほど安く販売されていました。HP-1とHP-2は0.05dbの合致基準で製作されていますが、HP-3はそれより低いということです。ちなみに現在はRS-1/SR325iで0.05db、SR125で0.1dbとなっていますのでHP-3は現在の普及クラス並みということになるかもしれません。
見た目はHP-2とほとんど同じなので、元箱がないと区別できません。そのためオークションなどで箱なしのアイテムを買う人は注意が必要です。HP-1000の特徴として本体にシリアルや型番はついていません。(またそのために下記のように外観でバージョンを定めるようです)
*追記: HP-3はパッドをめくると刻印されていたそうです。ただこするとそれも消えてしまうとのことです。HP-3は50作られたそうです。
HP-1000には表面仕上げとケーブルにいくつかマイナーチェンジがあるようです。
まず表面仕上げにはアルミ地のムクに近いものと研磨されたような光沢のあるものがあります。研磨されたほうが後期型ですが、こちらはレタリング文字がとれやすいようです(私の固体)。
さらに後期にはドライバーのネット部分がドームのように盛り上がっているものがあります。
またケーブルは3種類のケーブルがあり、最初期の無印のものと中期の"Joseph Grado Signature Ultra-Wide Bandwidth Reference Cable(通称UWBRC)"と最後期の"Grado Signature Laboratory Standard Audio Cable"と記入のあるものがあります。これらは購入時の選択ではなくあるときから切り替わったようで市場のものはUWBRCが大勢だと思います。
やや音には違いがあるとのことですが、これらはわりと長短あって名前の示すように単純に標準と高級版というわけではないようです。HP-1000の音に対してのリクエストを受けてケーブルで音を調整しようとしたようにも思えます。
今回注文したものにはオリジナルのUWBRCもつけてもらいましたが、プラグ形式ではないので予備的な意味合いです。
*追記: 最近のJohn Gradoのインタビューからケーブルは刻印のある二種類のみがHP-1000用に作られたそうです。
またHP-1/2/3(HP-1000)だけでなくSR100/200/300がJoeの時代のものです。このうちでSR-100/200はHP-1000と同じドライバーを使っているかもしれません。
価格は当時でHP-2が$495で、HP-1は$595、HP-3は$395でした。
Music TO GO!
2005年08月01日
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HP-2は見た目からはとても暖かい音を想像できないのですが、そこが神秘性さえを感じさせますね。ラリーさんが「You must listen sometime.」というくらいですから、次は是非HP-1000/SRx00シリーズで行きたい…と思います。それにしても、これだけの情報を調べるのは結構大変じゃなかったですか? とても勉強になりましたw
ちなみにメールを確認したところ、[fine items]でした…
iPod mini買って来ましたが、これラインアウト持ってないんですね(泣) ちょっくらMoon AudioさんにBlack Dragonについてメールしてこようと思います。
HPA1の記事も楽しみに待っています。現行のRA-1とは比較にならないんでしょうね。
HP-1000の入手はあとはebayかAudiogonだと思います。
ところでいろいろ調べたんですが、下記の一番重要なスレッド(Zanthさんの最近のJohn Gradoインタビュー)を読み落としていたのに気が付いたので、これを読んで少々記事を訂正いたします。(特にHP-3の記述)
http://www6.head-fi.org/forums/showthread.php?t=129877&page=1&pp=20
ラインアウトのあるポータブルというとあとはiRiverあたりですね。特に前はデジタルアウトのあるモデルH320?もあったんですが今はないんでしょうか。
もしポケットドックを持っていないんでしたら、Moon audioでドック込みのケーブルを買ったほうがいいですね。ただBlack dragonはラインナップにないので頼んでみてください(^^
Head-fierのsaleって終了早すぎて。e-Bayからは購入したことがないので分かりませんし、私もラリーさんのほうが安心できそうなので、いつかDealsのページに来ることを祈っていますが、まあ、あまり早く来られてもお金が…
インタビュー長いですね(汗)
私が読むには時間が掛かりそうです。HP-3の評価が上がるか、下がるか、とても気になります。単なるHP-2の廉価版でないなら嬉しいのですが。
ええ、ポケットドック持っていないんですよね。「シルバードラゴンを購入した方がHardWiredタイプをお勧めしてくれたので、スペシャルブラックドラゴンが欲しいのですが」といったメールをドリューさんに送りました。あまりに高価…100ドルを超えるようだったら考えますが…。3%の手数料も必要なんですね
あとはHPA-2もレアなんですが、おそらくこちらがRA-1の元になったのではないかという気がしますが、、謎です。
たしかにドリューさんのところではPayPalで3%の手数料を取りますね。アメリカではチェック(小切手)で送金するのが普通ですからね。
スーパーのレジでおばちゃんが小切手を書いて支払いするのも珍しくありません。おかげでレジ渋滞がおきたりします(笑)
いつか絶対手に入れるぞとは思っているんですが、何時手に入ることやら。
作りも良いので、その辺から今のものとは違います。
90年代に購入したHP1000を久しぶりに箱から出してみました。当時はこれしかないと思っていましたが色々種類があったんですね。