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2025年09月30日

XPan開発者インタビューとXPanの考察

さて、ファイルウエブのイベント終了後に開発者のナイジェル・バージェスに直接話を聞く機会を得ました。3月のXPanイベントでの内容の確認でもあります。バージェス氏はその時にしつこく質問をしたことで覚えていてくれたようです。

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バージェス氏

まず、XPanのコンセプトを端的にいうと、「Bluetoothでつなぎ、Wi-Fiで届ける」ということです。Bluetoothで繋ぐので簡単で標準的、Wi-Fiで届けるので高音質データを家中に広範囲に届けられます。
まずこの辺りから解き明かしていきましょう。

1 Bluetoothでつなぎ、情報交換

はじめにXPanに疑問に思ったのはスマホはWi-Fi情報(SSIDとパスワード)を手で入力して入れられますが、イヤフォンはどうやってそれを知るのかということです。
バージェス氏によると「例えば、最初のペアリング後にデバイス同士が接続するとします。距離が近い間はBluetoothで通信しますが、もしスマホがWi-Fiに繋がっていれば、そのSSIDとパスワードをイヤフォンに渡して記憶させます。
その後、スマホ側はRSSI(受信信号強度)やネットワーク品質、オーディオ品質をモニターしていて、距離が離れつつあることを検知すると「そろそろBluetoothが切れる」と判断します。そこで「Wi-Fiに切り替えよう」とイヤフォンに伝え、イヤフォンはWi-Fi接続に切り替えるわけです」
これは3月の時にも試しましたが、具体的にはBluetooth LEとWi-FiのP2P接続を「同時に」張っていて、Wi-Fi P2Pの方が先に途切れるのでBLEを用いてこの制御を行います。

バージェス氏に「P2PからスマホのWi-Fiネットワークに切り替わるときに、SSIDやネットワークIDをイヤフォンに伝えるのですか」と聞くと、
バージェス氏は「はい。そのときスマホ(あるいはPC)は“親”の役割で、イヤフォンは“子”です。親が子に「今からWi-Fiに移動しよう」と指示を出す。Wi-Fi上に移った後も、通信は継続され、制御データのやり取りでスマホやPCはイヤフォンが接続していることを確認できます。イヤフォン側も常にハンドセット(スマホ/PC)に接続可能かをチェックしています」と答えてくれました。

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左がP2P接続、右がホームネットワーク

2 XPanでのイヤフォンのコントロール

次の疑問はイヤフォンはどうやって再生・停止などの制御信号をスマホやPCに伝えるのか、ということです。これを質問すると、
バージェス氏は「双方向でやり取りしています。イヤフォンはハンドセットのIPアドレスを知っているので、そこにオーディオデータと制御データを送ります。逆方向も同様です。つまり音声と制御の両方が流れるわけです。
P2Pモードの場合には制御はBluetooth経由で行い、ホームネットワークに切り替わった場合にはWi-Fi経由です。将来的には音声アシスタントの操作にも対応できる予定です」と答えてくれました。
将来的には音声アシスタントの操作にも対応できる予定というのはポイントです。

3 XPanでのレイテンシー

もし、XPanイヤフォンをゲームに使った場合、遅延はどうなるか、ということも聞いてみました。
バージェス氏は「現時点では、ゲーム用途はXPanはサポートしていません。高音質で聴くときはXPan(Wi-Fi)を使いますが、ゲームを始めると自動的にLE Audioに切り替わります。つまりWi-Fi接続を切って、Bluetooth LE Audioで低遅延モードに移行します。
Snapdragon Sound対応機種ならさらに遅延を抑えられますが、基本的にはBluetooth LE Audioでのゲーミングになります。」とのことです。

4 XPanでのaptX

3月にXiaomi 15を使用した時に表示で興味があったのはXPanでの通信時には使用コーデックが「aptX Adaptive R4」と謎のR4表示がなされることです。これを聞いてみました。
バージェス氏は「R4は次世代のコーデックで、96kHzのロスレス伝送に対応し、XPanと連携します。従来のR3はLE Audioに対応していましたが、R4(Revision 4)はXPanに対応し、96kHzロスレスをサポートするのです。」と答えてくれました。
つまりXPan上ではWi-Fi上をaptX Adaptive R4コーデックでデータが搬送されていることになります。

図2 aptX Adaptive R4の表示.jpg
XIaomiでの表示

考察

ちなみにここでWi-Fiと呼んでいるのはクアルコムが開発した「低電力Wi-Fi」のことです。これによってイヤフォンでもWi-Fiが使用できるようになりました。「低電力Wi-Fi」自体はXPanだけではなくIoT機器にも使用されているクアルコムの技術(IP)です。

もともとWiFiはBluetoothと違って広範囲・高データレートを主眼に進化してきましたが、そのハードを低電力WiFiに置き換えたと言っても、ソフトとしてのプロトコル全体まで低電力志向にはなりません。
例えばBluetooth では「待機中心・間欠動作」で無駄を排除した省電力指向の機器発見プロトコルで、見つからない場合の繰り返しを低コスト化します。一方、Wi-Fiにも機器発見プロトコルはありますが、「積極送信・連続動作」で高消費になりやすいわけです。
つまり近距離の部分はBluetooth の力を借りてP2Pでハイブリッドアプローチで低電力化を目指し、広範囲が必要になれば本来のWiFiとしてルーターを介して通信するというのがXPanの狙いだと思います。
これによって、ハードウエアでは低消費電力Wi-Fiを使用し、ソフトウエアにおいても低消費電力プロトコルが使えるというわけです。これで全体に低消費電力になり、イヤフォンなどに適した技術となります。これが「XPan」なのでしょう。


posted by ささき at 16:32 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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