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2025年07月31日

Astell & Kern「PD10 & Cradle」レビュー [1 DAP/イヤフォン編]

Astell & Kern「PD10 & Cradle」は、Astell & Kernの新体制における最初のDAPであり、“Breaking Away From The Normal”というスローガンが象徴するように、従来とは一線を画した設計思想が盛り込まれています。

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大きな特徴は標準としてクレードルがついてデスクトップ志向があること、低インピーダンスのIEMから高インピーダンスのヘッドフォンまで最適な駆動力を実現する「インピーダンス適合型デュアルアンプ機能」が搭載されていることです。いままでの枠を超えたPD10は応用範囲がとても広いので、今回はIEMと合わせて普通のDAPとしてどうなのか、ということを解説する「DAP/イヤフォン編」です。


 特徴・使用感 

DACについては基本的にはSP3000と似たいわゆるHEXA回路構成で、アンバランスとバランスの分離も同じです。ただし使用されるDAC ICがSP3000のAK4191EQ(2基)とAK4499EX(4基)ではなく、AK4191EQ(2基)とAK4498EX(4基)となっています。AK4498EXはAK4499EXの後に登場した電圧出力型DACで、性能というより用途や設計思想が異なる兄弟機のような位置づけです。後で述べますが、実のところSP3000とPD10の大きな差はDAC部分ではないように思います。

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PD10はまずデザインが従来のAKよりも鋭角的で、角はかなり切り立っています。初めて手に持ったときSFのガジェットかと思ったくらい。手で持つよりもケースを活用した方が良いでしょう。付属ケースは従来の箱のように開けてから入れる方式ではなく、上からスポッと嵌め込む方式に変わっています。

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また外観的に大きな違いはボリュームノブがなくなったことです。AKは元々デジタルボリュームだったので、違いは使い勝手だけとなります。ボリュームノブと比較すると、+/-ボタン方式は細かく音量を調整するにはやりやすく、大きく調整するにはあまり向いていません。そこで音量を大きく変えるときは画面をドラッグ、細かく調整する時は+/-ボタンというのが良いと思います。

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これは従来AKに慣れていると多少頭の切り替えが必要になりますが、同じイヤフォンとDAPのペアを使うことが多いので、この方が日常的には使いやすいと思う。またデスクトップで使用する際にも再生スピーカーは固定されていることが多いので使いやすいでしょう。
またキーロックがハードスイッチになったのも使いやすいと思う。キーロックをオンにするとボリュームだけではなくスキップやバックキーも効かなくなるのは最新のAK DAPの更新と同じです。たぶん最新の更新はPD10の仕様に合わせたのでしょう。
ちなみに2.5mm端子はありません。

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画面の表示品質もSP3000より優れています。アルバムアートを表示すると、より高精細、より高彩度です。見た目には彩度が高く鮮やかという感じがします。最新のスマホとそう遜色はないくらいです。
処理速度に関してPD10のCPUはオクタコアということでモデル名は明示されていません。SP3000で十分に早かったのでメイン画面ではほとんど違いを感じませんが、OpenAPPを使用するときはPD10の方が少し早いようには感じられます。

もう一つDAPとして従来と異なる点はAirPlayに対応した点です。これはiPhoneからPD10に音楽をストリーミングできるということです。従来はBluetoothのみでしたが、AirPlayは多少遅延がありますが、ロスレスで伝送できるので音質面ではBluetoothよりも有利です。
ただしAirPlayはWiFi接続を必要とします。家では簡単ですが、外出時の手順は次のとおりです。まずiPhoneをインターネット共有モードにします。そしてPD10のWiFi設定でこのiPhoneと接続します。そうするとAirPlay相手先にPD10が見えます。
PD10でのAirPlayはBluetooth接続よりも楽なほどで、素早く接続でき音も良いです。OpenAPPの必要性を減らしてくれます。PD10側にQobuzやApple Musicなどストリーミングアプリが用意されても、PD10側でインターネット接続する必要があります。それよりはiPhoneとAirPlay 接続した方が早くて手軽です。AirPlay接続中でもPD10側から音量調整と曲のスキップ、バックが可能です。
これまではBluetooth Sink機能でしか繋げなかったのですが、Bluetoothだと音質劣化がありこのくらいのDAPになるとかなりわかります。ただしAirPlayでも48kHzまでの制限がありますので、DAPの場合ベストはやはり内蔵音源ではあります。

 音質 

その肝心の音ですが、ここにおいても"Breaking Away"が感じられます。今回はノーマルゲインモードに固定して主にSP3000(SS)と比較し、イヤフォン(IEM)で試しています。
PD10の音質はその鋭角的な外観デザイン通りに音も素晴らしくシャープな切れ味のある音です。音自体はSP3000と似ていますが、出音が力強く力感があります。解像力自体は互角ですが、PD10の方がSN感が高いサウンドと感じられます。
そして音色がこれまでのAK DAPとは少し異なっています。音色はニュートラルで従来のAKに似ていますが、少し温かく無色という感じではありません。AKらしい中庸から良い意味で少し逸脱した感じです。
これはもっぱら主観的な印象ですが、据え置きオーディオ機的な音に近くなっているように思います。少し聴いていてバーソンのヘッドフォンアンプを思い起こしました。クリアで鮮明、力強いサウンドです。明晰なところは従来のようにモニター的でもあるけれども、音が力強く躍動感が感じられるところとか、個性的な海外の据え置きブランドを少し彷彿とさせる音です。

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PD10とLUNA

SP3000との違いは解像力というよりもこのSN感の高さがより際立っている点で、音の歯切れが良くジャズやクラシックなど良録音のピアノの打鍵などで光ります。SP3000よりもDACのスペック上は一歩譲るはずですが、実際の音はそうではない。先鋭的と思っていたSP3000SSの音が少し優しく感じるくらい。同じ曲でもピアノを弾くタッチがSP3000ではソフトな打鍵、PD10では強めの打鍵で鋭いタッチいう違いがあります。この辺でSP3000との好き嫌いはあるかもしれませんが、オーディオ的な性能ではPD10の方がSNが高いという感じがします。
この違いはDACチップそのものというより、むしろ後段、アンプ段の設計に由来するように思います。パワーの強さではなく、AK4498EXの電圧出力を活かしてシグナルパスを短縮していることや、フィードバック回路の工夫などが影響しているのではないでしょうか。
音場感の横の広さはSP3000と変わらないが、縦方向の奥行きはPD10の方がより深く立体的に感じる。この立体感の差はPD10の方が細かい音がより鮮明に聞こえるからだと思う。

このPD10の鮮明さ・歯切れの良さは平面型のLUNAで良くわかります。
Fried Priedのシンプルな女性ヴォーカルとアコギのペアで比較すると、ヴォーカルの声質、ピッキングの切れ味はPD10の方が鋭く。同じ曲を聴いてもSP3000よりも躍動感があり、スピード感が速く感じられます。

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PD10とLUNA

イヤフォンに関してはCampfireだとFathomが良いと思います。Astrolithの平面型もスピード感という点ではよくPD10の旨みを引き出すけれども、細かい音の抽出という点でシンプルイズベストデザインのFathomが音楽的にとても合います。Fathomで聴くとやはり細かい音はSP3000よりもPD10の方が少し鮮明に聞こえます。より透明感が高く見通しが良いという感覚もあります。
音楽的にはCampfireのClaraも良い。こっちはノリが良いという感じで、ベースもグッとくるし、中高域も美しいサウンドが楽しめます。やはりSP3000と比べると解像力などでの差は大きくないが、PD10ではダイナミックドライバーの躍動感とTAECを活かした中高域の鮮明さ、ダブルマグネットのダイナミックドライバーの低音の力強さが際立ちます。

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PD10とClara

 まとめ 

PD10はいままでのAK DAPと音傾向が少し違うDAPです。AKが新体制でロンチした初のDAPとして、PD10はまるで新監督のデビュー作のような個性と意気込みを感じます。
SNが極めて高く、音が先鋭的なのでDARでDSDモードをオンにすることをお勧めします。するとAKM DACでネイティブDSD処理されるはずです。

PD10はLUNAやClaraと合わせるとちょっとクセになる新しいサウンドです。落ち着いたライブ会場の後ろよりはもっと前で聞く感じのグイグイとくる感じ。SP3000とは音質的な意味ではほぼ拮抗していますが、異なる個性を持っています。
おそらくアンプ部分でより電気が素早く取り出せてるとか、少し設計の考えが変わったように感じられますが、いずれにせよ、従来のAKファン層を超えて他のユーザー層にアピールできる音の魅力を持った製品だと思います。特にバスドラやベースギターの重み、厚み、畳みかけという感覚的な部分はいままでのAKにはあまりなかったように思います。
まじめでクラスの人気ものだった優等生が、軽く夏休みデビューしてよりモテるようになった、そんな感じです。

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今までもAKでは据え置き志向の製品としてCA1000のようなものはあったのですが、PD10はポータブルオーディオの世界からより据え置きオーディオの世界を目指したものに見えます。CA1000に比べるとサウンド自体が据え置きの海外製オーディオっぽい音でもあります。

あとはインピーダンス適合型アンプを試すヘッドフォン編、機材が用意できたらクレードル編をちょっとやってみたいと思います。
posted by ささき at 09:22 | TrackBack(0) | __→ AK100、AK120、AK240 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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