Music TO GO!

2025年07月28日

あなたの知らないLC3plusの世界

あなたは、信じますか?
LC3plusが密かに広まっているということを。

6月に開催されたOTOTENでフラウンホーファーの展示ブースで取材を行い、LC3plusの最新事情についてコーデック系の担当者に直接話を聞いてきました。

毎年定期的にLC3plusについての最新事情を担当者に話を聞いているのですが、今年のトピックはさらなる低遅延化とLC3plusロスレスの導入です。
低遅延化については1.25msという新しいフレーム長の規格ができました。これはフレーム長なので、実際の遅延はこれより大きくなりますが、それでも約5msという極めて低いレイテンシーを実現できることになり、さらなる低遅延化が図れます。ただしこうしたとても短いフレーム長については機器側の実装次第となります。

LC3plusロスレスですが、96kHzまで対応しています。この特徴はアダプティブとフォールバックです。
ちなみにそれぞれ意味は以下の通りです。
アダプティブ:「通信状況に応じて動的にビットレートやコーデックを切り替えること」
フォールバック:「望ましい方式が使えなくなったときに、代替手段に自動的に切り替えること」

スクリーンショット 2025-07-28 10.18.34.png
LC3plus Lossless (c) Fraunhofer IIS

上の図は、44.1kHz/16bitの音源を対象に、LC3plusロスレスとFLACのビットレート変動を比較したものです。グラフ中の青線(FLAC)と緑線(LC3plus Lossless VBR)はいずれも可逆圧縮で、音楽の時間経過とともにビットレートが大きく上下しているのがわかります。つまり、リアルタイムで1:2で可逆圧縮を行なって、ロスレスで伝送されているという意味です。
もしこの環境が電波状況のせいで500kbpsまでしか伝送できないということになると、1.4Mbpsロスレスの1:2伝送ではロスレスでは対応できません。そのときに500kbpsのロッシーのLC3plusで伝送をすることで音質を担保できます。つまり電波状況についてアダプティブ(適応可能)であり、フォールバック(縮退運用)が可能ということです。
実際にデモ音源を聴いてみると、ロスレスの部分とフォールバックする部分の切り替えでノイズは発生しませんし、前後の音質で大きな差を感じるわけでもありません。

たしかにLC3plusは優れているけれども、実際に製品に取り入れられたのは今でもAKGのN5、N9やクリエイティブの製品くらいではないか、と聴いたところ、そんなことはないとのこと。
これは実際にリストを見せてもらいました。製品名を明かしていいかどうかわかりませんが、現在市場にあるワイヤレス製品で「2.4GHz独自通信方式」を採用しているものの多くは実際にはコーデックとしてLC3plusを使用しています。私が実際に持っている有名海外ブランドのTWSでケースをトランスミッタにしてイヤフォンに伝送する機能も実際に使われているコーデックはLC3plusですし、私が記事を書いた最近ゲーミングで有名な海外ブランドのドングルとヘッドフォンの通信もコーデックはLC3plusです。またサウンドバーのワイヤレス機能やカラオケのワイヤレスマイク機能などでも採用が増えているとのこと。こうした分野でのLC3plusの使用はかなりの割合を占めてきているようです。

そしてなぜLC3plusがそうした市場を伸ばしているかというと、この最大の理由は「低遅延」です。LDACなど高音質コーデックはいろいろとありますが、さらに低遅延というとこれはLC3plusが抜群の存在になります。
これは以前アスキーに記事を書きましたが、LC3はAACのように一方通行のためのコーデックではなく、相互通信のためのコーデックだからです。
https://ascii.jp/elem/000/004/148/4148665/

もし、あなたの周りでワイヤレスなのにロスレス、ワイヤレスなのに低遅延という不可思議な現象が起きていたら...それはLC3plusなのかもしれません。
posted by ささき at 13:11 | TrackBack(0) | __→ PCオーディオ最新技術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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