

左:Peacock、右:Apollo
12月のポタフェスの開催に合わせて来日した際に開発者に直接いろいろと話を伺った。

左はCEOの周さん、右は開発のパンさん
* 開発者インタビュー
まずよく混同される話として、SivgaとSENDY AUDIOの関係について聴いてみました。
端的にいうと、会社の名前としてはSivgaであり、SENDY AUDIOはそのハイエンド製品のブランド名ということになります。つまりSivgaはSENDY AUDIOの兄弟ブランドというより会社の名前そのままです。
Sivgaは2001年からイヤホンやヘッドホンの開発に携わり、はじめはOEMを行っていました。それから徐々に自社ブランド製品に移行していて、その過程で高級品のラインナップをSENDY AUDIOとして別ブランドとして立ち上げたということです。
SENDY AUDIOは5-6万円以上のハイエンドヘッドホンをメインとしており、対してSivga名の製品はそれよりも下の価格でコンシューマーを対象としているそうです。
SENDY AUDIOのポリシーとしてはウッドハウジングと平面型振動板のこだわりです。これにはスピーカーオーディオへのオマージュがあり、スピーカーオーディオのハウジングもウッド材料なので、ヘッドホンもピュアオーディオを志向してウッドにこだわりたいと言うことです。このほかにも材質としては金属や皮革部分、装着性にもこだわりがあるとのこと。
ドライバー部分は自社開発にこだわっているそうです。中でもこだわりは自社開発の特許技術であるクアッド・フォーマー(QUAD-FORMER)技術です。
クアッドは四つの意味でですが、平面型の振動板が上下に振動して音を出すとき、実際には上下に正確に振動するわけではなく、左右にぶれてしまいます。そしてこのぶれが歪みの原因になります。
そこで、SENDY AUDIOでは普通の平面型の振動版上のコイルパターンの他に、四隅にこのぶれを抑えるための独立したコイルパターンが4つ設けられています。これがクアッド・フォーマー技術です。
下の図はパンさんが直接描いてくれたものですが、SENDY AUDIOの振動板にはメインのパターンの他に4隅に独立した部分があります(赤丸部分)。ここがクアッドフォーマー用のコイルです。Peacockには4つ、Apolloには2つ搭載されています。

これによって上下の振動をより正確なものにして歪みを抑えることができるということです。効果としてはオーケストラなどの大音量時での歪みが特に減少するということ。
クアッド・フォーマー用コイルはPeacockでは4つ搭載され、Apolloでは2つ搭載されています。
* 製品紹介: Peacock
次にSENDY AUDIOの製品を紹介します。
まずSENDY AUDIOのフラッグシップとなるのがPeacockです。開放型のヘッドホンで平面駆動型ドライバーを採用しています。

Peacock
振動板は88mmと大口径で薄膜複合材を採用しています。平面磁界型なので振動板の全面にコイルが搭載されていますが、前述したように4隅に振動板のコイルとは別にクアッド・フォーマーのコイルが配されています。平面型振動板の厚さは0.09ミクロン、振動板の両側にマグネットがあるダブルサイドマグネットを採用しています。

Peacockのクアッドフォーマー用コイル(赤丸部分)
ヘッドホンハウジングには天然無垢材のゼブラウッドを採用、手作業による木材加工により製作され、ヘッドホンの木目と質感は一台一台異なるとのこと。
ハウジングの金属グリル部分は名の由来となった孔雀(Peacock)の意匠が施されています。このデザインは形だけではなく、音響的な効果も考えられているとのと。
ヘッドバンド部には柔らかいゴートレザー、イヤーパッドはゴートレザーとメモリーフォームで構成されている。イヤパッドの内側に大きくL とRを記載してわかりやすくしているのも良い配慮だと思います。これはApolloもそうですが、金属の面取りもきれいになされていて、質感も良い感じで、細かいところによく気が利いている感じです。

Peacock
ケーブルには約2mの6N OCC 8芯リッツ線を使用し、4.4mmバランスプラグを採用、ヘッドホン側コネクターにはmini XLR 4pinを採用しています。基本は4.4mm端子で、パッケージに4.4mmから6.35mmへの変換プラグ、4.4mmからXLR 4pin変換プラグが標準で添付されています。
この他にはアクセサリーバッグと堅牢なオリジナルキャリングケースが付属しています。
インピーダンスは50Ω、感度的にも特に鳴らしにくくはありません。重量は約578gでやや重いのが難ではありますが、作りががっしりしているので致し方ないでしょう。
実際に手に取ってみると、ウッドハウジングは高級感があり、きれいに面取りされています。イヤパッドもヘッドバンドも革製で柔らかく、高級感があり本格的なハイエンド機という感じです。孔雀の羽を思わせるようなハウジングのホールもユニークです。こうした意匠に凝っているところはApolloにも引き継がれています。
装着すると少し重く感じられますが、側圧は軽めで長時間のリスニング向きです。

PeacockとKANN Ultra/PA-10スタック
音質は平面型らしく高い透明感で解像度が高い音で抜群に強いアタック感が感じられ、音がとても速いのが特徴です。立ち上がりと立ち下がりのトランジェントが素早い感じで歯切れ感はBAイヤホンよりも良く感じられます。また空間再現が独特で奥行き感の再現に強いと感じられます。
ワイドレンジ感が高く、低音は重く、高音は鮮度が高くシャープです。ハイハットの高音から、ウッドベースの低音までアコースティック楽器の音を鮮明に描き分けます。特に低音の打撃感が高く、緩みが少ない点がダイナミックとの違いで、高音の伸びの良さや低域のアタック感ともに平面型らしいところです。低域が足りない感じはなく、量感も十分にあります。ただし後述のApolloが低音がコンシューマ的に誇張気味なのに対して、Peacockは抑えられていてハイファイ向きという感じです。
高温の歪感のない澄んだ音を聴くと、確かに正確に振動しているのかもしれないと思います。
また音色がやや暖かく、音に厚みが感じられる濃い音なのも特徴です。音に着色感があるわけではなく音色はニュートラルだが、低域が厚いので温かみを感じるかもしれません。
このためにワイドレンジで鮮明ながらモニター的というよりもリスニングに向いた感じに思えます。
声はかなり鮮明で歌詞も良くわかる。ヴォーカルがセンターにぽっかりと浮かび上がり、声が近く切々と美しい歌声で訴えてくる感じが伝わります。
音が早く歯切れが良いのは平面型らしい特徴です。スピード感があり、低音がタイトです。
例えば村上ゆきのスタンダード・カバー曲である「バンバン」ではギターの素早い音だけではなく、背後のウッドベースの深い音も素早くキレがあるので思わず足を揺らしてしまいます。そして声がよく通り、感動的に歌い上げるのが楽しめるわけです。
クアッド・フォーマー技術の効果としてはオーケストラなどの大音量時での歪みが特に減少するということなので、実際にオーケストラの代表的な強奏部を聴いてみました。
ベートーヴェン「運命」の冒頭部分は破綻が少なく安心して音量を上げられます。また2001年宇宙の旅でよく知られる「ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭のティンパニの連打は歯切れ良く打撃感が高く感動的な威力で聴かせてくれます。
Peacockは厚みがあってリスニング寄りに感じられますが、実のところ再生機材を選ぶとモニター的にも使えるかもしれません。低音もそれぼ誇張感はありません。


KANN UltraとPA-10
機材で言うと、それほど鳴らしにくくはないのでポータブル機材でも使えます。ただそれなりに性能が良くないとPeacockの真価は発揮できません。
使って良かったのはKANN Ultraです。やはりES9038Proデュアルの解像力が高く、据え置きのようにパワーがあります。もう一つDAPを使っていて分かったのはA級アンプとの相性が良い点です。例えばA&K SE300で使うとA級モードとAB級モードの違いがよくわかります。KANN UltraのA級モードがあればなあ、と思ったらA級ポタアンのPA-10があるじゃないかということで、KANN UltraにPA-10をスタックして二段で使いました。KANN Ultra単体よりもパワーというよりも音空間が洗練されて深みが出ます。これでPeacockとよく合うようになります。実際PA-10側のゲインはlowで良いと思う。KANN側のゲインはMidでラインアウトは2V設定、DACフィルターはConpensate設定がいいかと思う。PA-10のA級モードはMAXだとPeacockの個性と相まってかなり濃い音世界となります。
この組み合わせはぐいぐい押してくるような音圧のものすごいスケール感と迫力があります。さすがにこのくらいだと据え置きはなくても良いかもしれないとも思えますね。PA-10が光るのはイヤホンよりもやはりヘッドホンです。

またDAP単体ではSP3000Tが音色再現という点で震えるほど良い感じです。感動的な音色と透明な音が同時に楽しめます。
音が温かく滑らか、かつ高精細なHD画像のような細かな再現性をCD品質の音源でも味わえます。ヘッドホンながらハイエンドイヤホンなみにかなり解像力も細かいと感じます。透明感が高くSN感もかなり高いのは良録音のソロピアノ曲を聴くとよくわかります。打鍵の音が正確で、緩みがありません。SP3000Tの再現力どおりを正確にPeacockが出力しているように感じます。パーカッションやドラムのアタック感の鋭さも一級品だと思う。ここは平面型らしいところです。
SP3000Tで聴くとPeacockの再現性が極めて高く、かつ正確であることがわかります。音の歪み感がとても少なく端正な音に聴こえるのは、独自のクアッドフォーマー技術のおかげかもしれません。
HD800と比べてみると、Peacockの音の違いは際立ってきます。ただしHD800は4.4mmケーブルがないので3.5mmで使用しています。
まず音の分厚さが違います。Peacockは音が分厚くて重く、音の密度感がPeacockはぎっしり詰まっている感じです。Peacockはちょっと聴くと密閉型ダイナミックのような密度感と重さがあります。また低域がフラットで相対的に軽いと感じられるHD800に対して、Peacockは低域がたっぷり出るのでよりリスニング向けです。
Peacockの楽器音はモニター用とのHD800と比較しても遜色ないくらい正確な音色だと思う。高域のベルやハイハットの音は少し控えめで刺激成分は抑えられています。
音量自体はHD800よりも低い位置で音量は取れるので最近の効能率平面型のトレンドに沿っていると思います。
一言で言うと立体感のある高解像度リスニング向けサウンドで、頭を揺さぶるような迫力はヘッドホンならではのものなので、
Peacockの良さは音楽への没入感の高さ。感動的な音体験。モニター用とはちょっと違う。
* 製品紹介: Apollo
次はApolloです。ApolloはSENDY AUDIOのブランドエントリーモデルとなるオープン型ヘッドホンです。やはり平面磁界型を採用していて、クアッドフォーマー技術をダウンサイズして採用しています。価格が5万円台と安価で、Peacockの廉価版のような位置付けとしても考えられますが、重さがより軽く、低音が多いことから独自のコンシューマー向けの位置付けとしても捉えられます。

Apollo
Apolloは複合膜の68mm大口径振動板採用の平面磁界型の振動板を搭載しています。またPeapockのクアッド・フォーマー技術をダウンサイズして搭載しています。Apolloの場合には振動板の下側に二個のクアッド・フォーマーの左右ズレ防止用のコイルが搭載されているのがわかります。

Apolloのクアッドフォーマーコイル
ヘッドホンハウジングには木材加工技術を使用し、天然無垢材のローズウッド 表面は光沢のある塗装を施しています。この点で木肌をそのまま生かしたようなPeacockとは違います。ハウジングにはApollo(太陽神)の意味でもある太陽の意匠がほどこされています。
ヘッドバンド部には柔らかいゴートレザーを使用、イヤーパッドはハイプロテインレザーとメモリーフォームを採用しています。
ケーブルには約2mの6N OCC 4芯リッツ線を使用し、4.4mmバランスプラグを採用。4.4mmから3.5mmへの変換プラグが付属します。ケーブルはPeacockよりも一回り細くなっています。

Apollo
Apolloを手に取ってみると木材と金属のバランスが良く、それぞれ高級感があります。Peacockに比べると重さがかなり軽く負担になりません。
音傾向はPeacockと似ていて、低域に重心がある音で低音が重く感じられます。低音の膨らんだ感じはないのでダイナミックとは違います。声も明瞭感があります。
平面型は低音が軽いという印象もあるが、それに反してかなりたっぷり低音があります。Peacockに対しても、Apolloは多少誇張気味に低域がたっぷりと涼感があります。ここはApolloが単なるPeacockのコストダウン版ではなく、コンシューマー向けに独自に調整されていることがわかります。
ウッドベースは腹に響くくらい出ますが、音のキレが良いので緩んだ感じはありません。なかなか優れていますね、
楽器音はPeacock同様に歯切れよく緩みが少ない感じで、解像感も高いものです。振動板の動きはきびきびとして平面型らしいと感じられます。
ただし声とウッドベースの分離はやはりPeacockの方が良く、音も一段Peacockの方が濃いので、全体的な性能はPeacockの方が上ではあります。Peacockとの音の違いは全体的な厚み・豊かさ・重み、低域の出方の違いです。解像感・楽器の音の鮮明さ・音の立体感、楽器の分離感もPeacockの方が良く、Apolloの方が少し明るめの音で低音がよりたくさん出ます。
とはいえ上級機と比較するのでなしに5万円台の絶対的なクラスで考えるとかなり性能は高いと思います。

ApolloとDita Navigator
Apolloによく会うのはDita AudioのスティックDAC Navigatorで、価格も釣り合いが取れるので良い組み合わせでしょう。
Navigatorの少し温かみのあるところがよく合います。平面型の素早い動きにもNavigatorは追従できるので、Peacockと合わせてもなかなか良い組み合わせです。
Apolloは低価格ですが、クアッドフォーマー技術を継承した単なるApolloの廉価版としてだけではなく、軽さや低音の強さで独自の位置付けの平面型ヘッドホンです。
デザインの意匠や金属の質感の高さもなかなかのもので、音質の高さとあいまって、仕上げと音の点で55000円ヘッドホンにしてはコスパが高いと感じるでしょう。
低価格で本格的な平面型の体験ができると思います。鳴らしにくいということもないので、スティック型DACで十分鳴らせます。
まとめ
PeacockもApolloも、どちらも現代平面型らしく鳴らしやすく音質の良さを手軽に引き出せます。音に集中して楽しみたい時はPeacock、カジュアルに楽しみたい時はApolloという切り分けができるかもしれません。
またデザインの意匠を設計に入れ込み、金属も木材もきれいに使用しています。Apolloにしてもエントリーとしての手抜き感がありません。ハイエンドブランドとしての意気込みが感じられます。
Sivga/SENDY AUDIOでは今後は据え置きアンプやイヤホンを開発する計画もあるということで、今後も楽しみなブランドです。

