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2024年08月08日

Campfire Audioのひとつの集大成「Fathom」レビュー

Campfire Audio「Fathom(ファゾム)」はCampfire Audioの最新モデルで、6つのバランスド・アーマチュアドライバーを搭載したオールBAモデルです。約10年積み重ねてきた経験の集大成として開発されています。
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Fathomの設計目標は「レコーディングされたオリジナルの音に忠実なサウンドを提供し、音楽を明瞭かつ深みをもって音楽を奏でること」とされていますが、それはどういうことかということを紹介していきます。
そのドライバー構成は高域(超高域)にBAドライバー2基、中音域にBAドライバー1基、低域にBAドライバー2基とAndromedaに似たオールBAドライバーの設計です。ただし最新の成果を取り入れて、新しいドライバーを採用している点が異なります。特に高域は新しいKnowlesのドライバーを使用して、クロスオーバーポイントを低く取ってツィーターのカバー領域を広く取っています。

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A&K SP3000とFathom

* Ken Ball氏インタビュー

Fathomは設計者のKen Ball氏のLess is more(シンプルイズベスト)の設計哲学が反映されたものであり、ドライバー数が多くなりすぎないように工夫されたイヤフォンでもあります。
直接開発者のKen Ball氏に聞いてみました。

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Q: 今回の名前の「Fathom」の由来を教えてください

KB : Fathomは6feetの深さ(日本語で一尋)という意味ですが、これは6つのドライバーを意味しています

Q: Fathomのページに「フェイズ・ハーモニー・エンジニアリング/Phase Harmony Engineering」という新しい言葉を見つけたのですが、これを説明してください

KB :フェイズ・ハーモニー・エンジニアリングとは、CampfireのIEMを設計する様々な方法の一つです。ご存知の通り、Campfireの設計はすべて、2人のメカニカルエンジニアの協力を得て、私が100%自社で行っています。CampfireのIEMを作る興味深い方法の1つは、ドライバーを慎重に選択し、すべてのドライバーが互いにどのように機能するかということです。
他の多くの音響エンジニアは、信号経路に多くのパッシブコンポーネントを追加したり、ローパスフィルターやハイパスフィルターを追加したりして、無理やり調和(ハーモニー)を取ろうとします。私はドライバーのマッチングに多くの時間を費やし、機械的なアナログ空間のフロントエンドとバックエンドの負荷(音響ボアと空気室)、音響ダンパーを使用して、位相が問題にならないことを確認します。BAドライバー、平面型ドライバー、ダイナミックドライバーど、ドライバーから始める場合、私はまずドライバーが本来持っている自然な位相に対してドライバーをマッチングさせたいと考えます。最初から位相に問題があるドライバー同士を使うことはしません。こうすることで、よりクリーンなオーディオマニア向けIEMのために、たくさんの不要な部品の使用を避けることができます。
これは、私が長年かけて学んだ音響の「黒魔術」のひとつです。

Q : FAHTOMに使われている高・中・低域のBAドライバーとless is moreの設計思想の関係について教えてください

KB : 私たちは位相特性が互いに競合しないBAドライバーを選ぶことに多くの時間を費やしています。周波数特性がうまくカバーできるBAドライバーを選ぶのも一つの方法ですが、位相が問題にならないようにするのも一つの方法です。そうしないと、ドライバーの固有周波数出力がキャンセルされてしまいます。さらにフロントエンドの負荷(アコースティックボア)とバックエンドの負荷(空気量)の3Dモデリングによって、位相と周波数を操作することができます。私は抵抗、コンデンサー、インダクターなどの電子部品によって何かを強制する必要がないように、これらすべてを行うようにしています。
私はクロスオーバーの少ない設計が好きなのですが、Fathomの場合、2基のツィーターBAには高い値のコンデンサーが付いていて、このコンデンサーによって高域の伸びと出力を向上させています。また、ミッドドライバーも高い低域をカバーするように調整しています。
パッシブコンポーネントが少なければ少ないほど、音質ははるかにクリーンで信号の劣化や色付けが少なくなります。よりオーディオマニア的なピュアリストアプローチ(ショートシグナルパスなどを好むこと)ですが、3Dモデリングでボアの前面を空間的に操作する方法について十分な知識を持っていなければ、優れた周波数特性を得るのははるかに困難です。私たちの内部3Dプリント構造はモノリシック3Dプリントであり、3Dモデリングが得意なので、このバランスを達成することができます。


このようにFathomではこれまでのCampfire Audioの集大成とも言えるシンプルイズベスト、いわゆるピュアリストアプローチを突き詰めて、余分なものを極力取り払い地味に調整することで、最新ドライバーのもつ能力をさらに引き出しています。またFathomではTAECが採用されていないのですが、それはこうしてドライバーの能力を最大限に引き出した結果のようです。

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また周波数特性では2Kから10Kにかけてピークがなくフラットな点がポイントだと教えてもらいました。シンプルでかつ素直という基本的なことを極限まで突き詰めたのがFathormの設計思想だと思います。

* インプレッション

外形的には虹色に輝くパーツが特徴的で、シェルが美しくブラックのアルミニウム筐体に良いアクセントになっています。アルミニウム筐体はファセットカットと呼ばれるCampfire Audio独自の多面体です。

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Fathomにはポルトガルの工房にて手作りで作られているレザーケース、 3.5mm、4.4mm の2本のTime Stream Cable、イヤーチップ各種、クリーニングアイテムが付属しています。パッケージはAndromeda Emerald Seaあたりの流れに沿ったものです。

本体はコンパクトで女性でも十分に装着できると思います。これも多ドライバーになりすぎない長所です。
イヤーピースはフォームとシリコンチップが同梱されていて、どちらもよくフィットします。Kenさんはシリコンチップがおすすめとのこと。フォームもよくできていて、こちらの方が中間サイズの調整がしやすいのでより広いユーザーにハマりやすいと思います。フォームだから高域が落ちるということも少ないよくできたフォームチップです。

能率は高めでAndromedaほどではないけれども、ボリュームは絞ってから聞き始めた方が良いでしょう。

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A&K SP3000とFathom

まず驚いたのは、Astell & Kern SP3000でエージングしようとして音量合わせるためにちょっと聴いた時に心が震えたということ。音の純度が高く、透き通るような山奥の清流のようです。

エージングして聴き進めると、とても歪みが少ないサウンドで、音は端正ですっきりとしています。着色感も少ないんですが、わずかに温かみがあって無味乾燥には感じません。
古楽のバロックバイオリンを聞いてみると、シンプルな音でも豊かで濃い倍音成分がたっぷりと入っています。おそらくレコーディングしたスタジオかホールに響くようなトーンもよく聞こえます。音楽的でいながらも、とてもHi-Fi的なオーディオ再現性が高いことがわかります。

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A&K SE300とFathom

楽器音はとても美しくリアルで、特にピアノの音色がとても良く、グリッサンドで連続的に撫でるように響く音がとても心地が良い。フォルテの強い打鍵が力強さだけではなく音の美しさが伝わります。ピアノはSNの差がよく出る楽器の一つですが、聴覚的なSN感の高さとともに歪み感もとても少ないと感じられます。アコースティック楽器に強いはもちろんですが、実のところ電子楽器の音再現も美しく感じられます。付帯音で美しく感じさせる美音系ではなく、正確に音が出ていて歪み感が少ないから美しいというべきかもしれません。

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高域表現はベルの音が息を呑むようなリアルさで感じられます。またハイハットの細かいシャープさもよく再現されて、刺さるようなキツさはあまり感じません。この辺はよく調整されていますね。
中音域の楽器再現とヴォーカルは出過ぎず引っ込みすぎずちょうど良い位置にあると思う。そのためバックバンドとのバランスが良く感じられます。
女性ヴォーカルの透明感がとてもよく再現されて、声質がとても美しく再現できます。反面で男性ヴォーカルはやや綺麗すぎるかもしれません。
低域表現はパンチがあって力強い、BAのベースの音です。例えばメタルを聴くと上品すぎるきらいはあるが、パワフルで躍動感がある音楽をうまく表現します。ただし上品すぎるけらいはあるので、この手の音楽を聴くときに好き嫌いはあると思う。低音の量感はなかなか上手いところにあって、フラットなほど少なくはないが多すぎるわけではないです。

音の純度の高さという他にFathomの良さのもう一つのポイントは立体感に優れているということで、位相特性が揃っているからだと思う。これはジャズトリオのように配置がわかりやすいというだけではなく、高木正勝やSaycetなど打ち込み系やエレクトロニカのよう電子音が散りばめられた音楽でも音場の気持ち良い立体感と囲まれ感を感じることができます。

ジャンル的には上品な感じの音なので室内楽やジャズトリオがよく合いますが、中域が良いのでヴォーカルものも良いですね。またスピード感があって、ロックでも躍動感が感じられます。これもピュアな設計の一環だと思う。

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DX260とFathom

DAPの相性で言うと能率が高めなので、やはり一番向いているのは背景ノイズの極めて少ないSP3000です。SP3000持ってる人には特におすすめです。音的な相性ということで言うと次に良いのはR2R DACで音色が美しいAstell & Kern SE300とやはりSN感がよく透明感が高いiBasso DX260です。

* まとめ

Campfire Audio Fathomはピュアな音色表現と、立体感に秀でたハイエンドIEMで、中高域だけではなく低音も良くオールBAモデルらしくタイトで切れ味が良い音が楽しめます。プレーヤーによってはダイナミックとのハイブリッドかと思うような迫力も楽しめます。
Andromeda Emerald Seaとも音質は異なりますが、系統としてはAndromedaが好きな人は好むタイプだと思います。

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そういえばCampfire Audioももう10年になるんだと気がつきました。
Kenさんに色々と聞いて思ったんだけど、イヤホンの設計ってほんとに細かな努力と経験が必要だと思います。前にウエストンのカールカートライトに話を聞いた時にも思ったけど、ほんとイヤフォンの音質って細かい部分のちょっとした工夫、でも豊富な経験に裏付けられた工夫が大事なんですよね。
FathomはそうしたKenさんのLess is moreのオーディオ哲学と、10年の経験が生んだ傑作ということができると思います。



posted by ささき at 08:16 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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