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2024年07月22日

Softearsのフラッグシップモデル「Softears Enigma」レビュー

Softears は中国を拠点とする若いブランドで、創業者は2014年にオーディオの仕事を始め、2017年に中国のシリコンバレーである深センにスタジオを設立。2019年には成都に研究開発のための独立したラボと自社工場を設立しています。究極の音楽再生をスローガンとしているとのこと。本稿はJaben Japanから借りた試聴機によるレビューです。

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* 特徴

Enigmaは4年かけて開発したというSoftearsのフラッグシップモデルで、2基の10mmのダイナミックドライバー、6基のBAドライバー、4基のESTを搭載したハイブリッドのマルチドライバーIEMです。

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低音域ドライバーは"Composit Woofer"と呼ばれていて、ダイナミックドライバー1基とBAドライバー2基が低音を担当することで量感と鋭さを両立させる仕組みになっています。また2基のダイナミックドライバーのうちの1基はパッシブラジエーターです。これは直接音は出しませんが低音ドライバーと共鳴することで定在波を減らしてクリーンな低音再生に寄与するという仕組みが採用されています。このパッシブラジエーターはフェイスプレートの透明なサファイアガラスカバーから見えていて外観上のアクセントにもなっています。

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ダイナミックドライバーはウールペーパーというバイオ素材を採用しています。
中音域は4基のフルレンジのBAドライバーをまとめて搭載しています。この仕組みはSoftears独自のものだそう。高音域には4基のESTドライバーが搭載されています。ノズル先端には4つのボア(音導孔)があり、ひとつにはダストカバーがされています。

ケーブル.png

ケーブルはEFFECT Audioと共同開発によるもので、3.5mmと4.4mmバランスの二組が添付されています。それぞれ線材が異なっているという点がなかなか凝っています。

* インプレッション

Enigmaはパッケージも凝っていて、大きく黒いキューブ状の箱に入っています。
中にはレザーの内箱がひとつとさらにキューブ型の内箱が詰まっています。このうちレザーのケースは保証書などが入っていますが、キャリングケースだと思います。
もう一つの内箱が特徴的でカラクリ箱のようになっていて、折りたためるルービックキューブのような構造になっています。この箱を折り返して広げると8個の引き出しのある小さなキューブから構成されています。この折り畳み方には行く通りかあるようで、畳み方によっては中身が出せなくなることがあり、まさにEnigma(謎という意味)を象徴していると思う。

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それぞれに引き出しにはクリーニングキット、謎のキューブ、3.5mmケーブル、本体L、本体R、4.4mmケーブルと6.3mmアダプター、謎の耳型のオブジェ、イヤピースとドライバーがバラバラに入っていて、それを組み立ててイヤフォンにしますが、謎のキューブと耳型は単なる遊びで、キューブは組み立てるとルービックキューブのようになるようです。ちなみに付属のドライバーはこのキューブを組み立てるためのものです(組み立て動画があります)。イヤーピースはフォームSML、シリコンSML、シリコンラバーの透明SMLが入っています。

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イヤフォンはユニバーサルタイプのシェルで大きさの割には割と軽く感じます。フェイスプレートには透明で中のドライバー(パッシブドライバー)が見えているのがユニークです。ケーブルは高級線材のような外観でしなやか、タッチノイズはあまりありません。
イヤフォンはかなり大柄ですが、軽量でユニバーサル形状のため装着感は悪くないです。装着感としてはノズルが太いので気になる程度です。女性だと少しはめにくいかもしれません。

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能率はやや低めなのでパワーのあるDAPを使用した方が良いと思います。ハイエンドモデルに相応しくAstell & Kern SP3000とKANN Ultraで聴いてみました。
Enigamaの音はハイエンドイヤフォンとしてかなり優秀で、立体感があり三次元的、とてもクリアで音の分離が明確になされています。ワイドレンジで解像力が高くSN感が高く感じられます。様々なドライバーの集合体でもあり箱から出した後は初めはまとまりなく聞こえるのですが、エージングをすると全体の音がまとまって溶け合い一つの濃密な音空間となります。独特の端正でいて重厚な音表現です。
このように音が濃厚というのがいちばんの音の特徴で、音の密度感がいままであまり聴いたことがないくらいのレベルで芳醇で厚みがあります。本格的なオーディオ機器の音のように感じられます。

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低音では量感はありますが誇張感は少なく、リスニング目的でも低音が物足りなくならないように適度な量感にしています。それでいてあまり出過ぎないで曲の印象を大きく変えないのも特徴です。GoGoPenguinのようなユーロジャズではドラムスのタイトさが印象的でBAとダイナミックの相乗効果は出ていると思います。
中高音域はよくコントロールされていてキツさが少なく滑らかで美しい音です。ベルの音は歪みすくなく綺麗に響きます。ヴォーカルは肉質感があって厚みがあり、音のバランスが適度で男声も女声も良い感じです。古楽器の良録音音源を聞いてもかなり細かい音がよくはいっていて、楽器の音色が美しく響くのも特徴の一つです。
様々なドライバーが使われているのですが、溶け合うようにうまく調整されていると思います。例えばアニソンの「アイドル」を聴くとがちゃがちゃとしたバックの音の中でも歌詞がよく聞き取れていて、低音によって中音域がマスクされている感は少ないですね。
この音の聞きやすさにはケーブルの品質の高さも貢献していると思います。ケーブルは2ピン端子で交換できますので、他のケーブルに変えても印象は異なるでしょう。

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付属のイヤーピースを透明ラバー製に変えると音はやや軽めに出ます。フォームチップは低音寄りになります。イヤーピースでよく考えられているのは、イヤーピースを変えると音が大きく変わるものも多いのですが、Softearsの場合には全体の音調はあまり変わらずに、透明(軽め)-シリコン(中間)-フォーム(重め)と音の調子がやや変わることで選択できるということです。わりと考えてイヤーピース選びをしていると思います。ただ個人的にはやはり中間のシリコンがもっともEnigmaらしいと思います。まず標準で試してみると良いでしょう。

* まとめ

全体的に高性能ですがモニター的な味気ないものではなく、濃厚で美しい出音で音楽リスニング寄りに聞いて楽しく感動するような音作りがなされていると思います。特に本機の濃厚な音再現はあまり他にはないようなものなので、他にない個性を求めるハイエンドユーザーにお勧めです。

Jaben Japanの販売リンクはこちらです。現在セール中だそうです。
https://jabenjapan.thebase.in/items/88424923

またPhatLab RIOのEnigma向け特別チューニング版(カッパ)同梱版もあります。
カッパとはRIOが河の意味だからということのようです。
https://jabenjapan.thebase.in/items/88657275

なお今週末のヘッドフォン祭miniにJaben Japanのブースで展示するということです。興味ある方は試してみてください。

最後に付属のミニルービックキューブの組み立て動画を添付します。
posted by ささき at 19:26 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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