KANN ULTRAはAstell & Kernのハイパワー多目的DAPであるKANN シリーズ第 5 弾のDAPです。
KANN ULTRAではシリーズ集大成を語るように性能・サイズといった基本使用の他に様々なアップデートが施されたモデルです。
価格は税込299,980円で、専用ケースが税込19,980円で用意されています。
基本的な構成としては、ESSのフラッグシップDAC ICであるES9039MPROをデュアルDAC構成で採用しています。ES9039MPROはES9039PROのアップデート版で主にMQAハードウエアデコード機能を加えたものです。PCM 768kHz/32bit、DAD512 のネイティブ再生が可能です。
最大の特徴は出力先としてトリプル出力モード(ヘッドフォン出力、プリアウト、ラインアウト)が搭載されたことです。KANNはもともとデスクトップで他のオーディオ機器のソースとして使用されることも想定していたわけですが、それがきちんと整備されたというわけです。しかもそれぞれの出力に応じた設計がなされています。
ヘッドフォン出力とプリアウト、ラインアウトは端子自体が違いますので注意が必要です。ただ以前のA&K機ではラインアウトで出したくともヘッドフォン端子と共用でアンプも通っていたことを考えるとオーディオ機器ハードとしてだいぶ進歩したと思います。いわゆる真のラインアウトを実現したわけです。
(ヘッドホン出力側の 3.5mm 端子には S/PDIF 光デジタル出力も搭載)
KANN ULTRA のオーディオ回路部は、CPU、メモリ、ワイヤレス通信コンポーネントを含むプロセッサーエリアと物理的に分離されており、CPU から
発生する熱やノイズを最小限に抑える専用シールド缶の方式を採用しています。これも最近のAstell & Kernの低ノイズ志向に従っています。
またエージング中に気が付きましたが、従来機種よりも充電しながら再生してもあまり熱くならないように思います。再生中もあまり熱くないです。
トリプル出力の回路図
ヘッドフォン出力ではボリュームで音量可変でき、4 段階のプリセットゲイン設定が可能です。超高ゲイン設定時はバランス出力で 16Vrms の出力が可能となっています。高感度イヤフォンも考慮して設計しているとのこと。アンプはバランス側とアンバランス側に分離され、電流を最適化しノイズを低減しているそうです。この辺はSP3000を想起します。
アンプ回路図
プリアウト出力は外部アンプやオーディオ機器にサウンドを出力する場合で、音量をKANN側で調整したい時に使います。例えばアンプにボリュームがついていない場合です。プリアウト出力はボリュームで音量可変でき、通常のヘッドフォンアンプを通さずに特別に設計されたプリアウトアンプを通ります。ただしゲイン設定や出力電圧設定はできません。
ラインアウト出力では外部アンプやオーディオ機器にサウンドを出力する場合で、音量を外部アンプ側で調整したい時に使います。例えばプリアンプやパワードスピーカーなど音量調整を外部機器側で行う場合です。
ラインアウトは DAC からサウンド信号を、アンプを介さずに直接出力するモードとなり、ノイズレベルが最も低くなります。ラインアウトは固定電圧出力(4 段階設定)となり、音量調節はできません。
ラインアウト・プリアウトでの出力
またデジタルオーディオリマスター(DAR)機能がついていて、信号をDSDもしくはPCMでリアルタイムにアップサンプリングが可能です。DARは好みの部分もありますが、KANN ULTRAは音が鋭いのでDARはDSDで音を滑らかにする方にするとよさそうに思います。
クロスフィード機能も搭載されています。この辺もAstell & Kern全部入りという感じはありますね。
プロセッサは次世代Octa-Core CPU搭載ということでかなりキビキビと動きます。これは特にOpenAPPでAmazonやApple Musicを使う際に助かります。
バッテリーは8,400mAhの大容量バッテリー搭載で連続約11時間再生に対応とのこと。実測はしていませんが特にKANNをデジタル出ししてUSB母機として使うとかなり長時間再生ができます。
KANN ULTRA のデザインコンセプトは「Forceful Impact」ということで、意図的に大きめのボリュームホイールを本体に叩きつけて埋め込んだデザインでパワフルな性能を視覚的に表現しているとのこと。ボリュームの周りを立体的に際立たせたデザインはボディの外周が自然にボリュームプロテクターとして機能するとのこと。
ボリュームは実際に大きくて使いやすく、机の上に置いていても操作がしやすいと思う。
サイズもKANN CUBEに比べると小さくなっていて、持ち運べないというわけでもありません。
今回特に思ったのは表示されるアルバムアートが極めてきれいということで、とても明るく鮮明です。
ケースはベジタブルタンニングレザーを採用したシックなもので、滑り止めとしても機能します。KANNの場合は机に直置きすることも多いので、こうした保護があった方が良いかもしれません。
音はまずホワイトタイガー高感度イヤホンで聞いてみましたが、Lowゲインでも音が力強い感じを受けます。声の明瞭感がとても高くリアルで、とても細かな音の変化や細かい音を拾います。音像が鮮明であると同時に、背景音と自然に溶け込む感じ。音の左右の広がりも自然で良いと思う。
音像がくっきりとして、音の輪郭が鮮明。SNがとても高いと思います。この点の音質ではこれまでのDAPの中でも最上クラスで、A&Ultimaとも違う良さがあります。
SP3000とは少し音色が違う感じで、ある意味でSP2000の直系の後継機が欲しい人に向いているかもしれません。
KANN ULTRAとAK02
暴力的でかつ繊細なのはハイブリッドに向いています。AK02で使うと低音は暴力的な破壊力を感じて、中高域は鮮明でクリア。AK02は奥行き感の表現に長けたイヤフォンだけど、たっぷり電気をもらって生き生きとなっている感じがする。低域が特に力を感じているように思います。
ダイナミックドライバーのDita Audio Perpetuaで聴くと音がずっしりと重く感じられます。ゲインはlowでもボリュームの半分ほどで十分な音量が取れます。
ドラムスを連打する時の打撃感が重くて強いく、すごい躍動感を感じます。ある意味でアメリカンサウンドとも言えるかもしれません。楽器音の切れが良く、十分な電力でイヤフォンをドライブしている感があります。暴力的な感じの力強さがあるけれども、細かい音の繊細な表現にも長けている点もやはりPerpetuaならではという良さを引き出しています。
ベルの音の高音が極めて澄んでしっかりと響き、パワーがあるというだけではなく、低域の深みから高域までワイドレンジで、かつ細かい音の抽出が優れています。
KANN ULTRAとCampfire Audio CASCADE
ヘッドフォンではまず3.5mm端子でCampfire AudioのCASCADEを使用しました。これはかなり良かった。ゲインはMidでも余裕があります。
オーケストラものではイヤフォンでは得られないようなヘッドフォンらしい迫力とともに、鳴らしにくいCASCADEが朗々となっているように感じます。それでいて細かい音が浮き上がるように聞こえてきます。これはパワーと低ノイズの両方に長けた証拠であると思います。
CASCADEのケーブルを使用してゼンハイザーHD800を3.5mmでKANN ULTRAに接続してみました。ではやはりKANNに6.3mm端子があった方が良かったと思います。
ハイインピーダンスのHD800だとMidゲインでも音量は取れますが、Highゲインの方が良いかもしれません。HD800らしい横に広い音空間で迫力ある音が楽しめますが、冷静なHD800が熱めの躍動感を奏でるのが面白いところです。4.4mmのヘッドフォンケーブルがあればさらに立体的な音で楽しめると思います。
Signature PureだとMidで余裕があるくらい鳴らせる。密閉型らしい重いパンチのインパクトが鋭く、躍動感に溢れる音が楽しめる。S-Logic的な音の広がり感も感じられて良い。
KANN単体のヘッドフォン端子はヘッドフォンをメインに聞きたいという人に向いていると思います。KANN ULTRAを活かすには低脳率のヘッドフォンを使用して背景を黒くし、KANNのパワーで鳴らしていき、SNの高さで細かい音を浮き上がらせるというのが一つの方程式のように思う。
また全体的に音があまりESSっぽくないでかなりニュートラルな感覚です。以前のES9038を搭載したSE100の時にはいわゆるドライなESSっぽさが音に出ていましたが、KANN ULTRAではちょっと聴くと性能は高いがどこのDAC ICなのかわかりにくいくらいです。この点ではA&KがESSサウンドをがっしり自分のものにしたという感じがします。
また基本的にLowでも音が大きく取れるので高感度イヤホンを使う場合には注意が必要です。
KANN ULTRAとPA10
ラインアウトとプリアウトについてはAK PA10を使って試してみました。
PA10に接続するとラインアウトの真価が発揮されます。プリアウト設定にするとKANN側でボリューム可変で、ラインアウトではKANN側ではボリューム固定です。ラインアウトは最大音量になるので注意が必要です。
ヘッドフォン出力端子からもPA10に出力してみて比較してみましたが、やはりラインアウトが一番鮮明でクリアな音質になり、その次にプリアウトが鮮明で、ヘッドフォン出力端子から撮るとやや曇った感じはします。(比較的というレベルだけれども)
意外と中間のプリアウトモードも音が良いのが特徴で、特別なプリアウト用の回路を通しているのがわかります。プリアウトとラインアウトは音質というよりも普通に出力する先がボリュームがあるかどうかで切り分けて良いと思います。
KANN ULTRAとPA10
KANN Ultraは外でも家でもパワーが欲しい時に取り出せる、"Fueling Your Sound"を体現したDAPといえます。それでいて音の細かな抽出にも優れています。
特にヘッドフォンを使いたいユーザーにとっては福音となりうる高性能DAPとなるでしょう。
Music TO GO!
2024年01月11日
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