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2023年10月23日

Shanlingの多機能ヘッドフォンアンプ・DAC「EH3」レビュー

Shanlingは近年ポータブルや小型機の方に注力していたんですが、本格的なDAC内蔵ヘッドフォンアンプに再び目を向けたのがこのEH3です。ただし単にDAC内蔵ヘッドフォンアンプを復活させただけではなく、それに最近のネットワーク・ワイヤレス機能を盛り込んだ点がポイントです。

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特徴

1 高い基本性能

基本となるDAC ICはESSのフラッグシップモデルES9039SPROを搭載、アンプ部はOPA1612を4基搭載したフルバランス構成です。また入出力にはFPGAやXMOS XU316 USBチップを搭載しています。
特徴的なのはアップサンプリング機能(サンプリングレートコンバーター、SRC)です。ICを使用したSRCで入力に関わらずPCMなら768K、DSDではDSD512にアップサンプリングできます。これは後で書きますがメインの信号経路にあるのでアナログを除くどの入力にでも適用でき、入力形式に関わらずPCMとDSDは任意で選べます。SRCをしないこともできます。例えばMQAやハイレゾをビットパーフェクトで聴きたい場合などに有効です。ただしBluetooth入力などではSRCをかけた方が良いですね。またミニマムフェイズなど各種DACのデジタルフィルターも任意で変更可能です。
ヘッドフォンアンプとしてはシングルエンドで最大1900 mW(32オーム)、バランスで5300 mW(32オーム)とかなりの大出力です。実際にHD800でもローゲインかミッドで十分です。

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液晶表示でアルバムアートを表示

内部は実質的にコンピューターと言って良いもので、IoT分野で使われるIngenic X2000プロセッサを採用したLinuxベースのOSを搭載しているようです。本体での操作はボリュームノブとハードボタンによって行われます。またリモコンも付属していますが、多機能なのでH5同様にスマホ接続でEddict Playerアプリを用いた方が良いです。本体のみでも全面の円形のユニークなディスプレイで表示は可能です。

2 単体プレーヤーとしての機能

ユニークな点としてEH3はDAC内蔵ヘッドフォンアンプですが、Shanling H7やH5と同様のローカルファイル再生機能がついています。つまりでかいH5と見なすこともできます。この状態では巨大なDAPとしても使えます。
音源はUSBメモリです。おそらくはUSB HDDも使用できると思います。DACなのに操作系のハードボタンが上面についているで、なかなか面白い外観になっています。再生はPCMが768/32bit、DSD512まで対応しているとのことです。FLACとかWAVは特に問題ないようです。
またこの場合にはEddict Playerアプリが必須です。またWiFi設定するにもEddici Playerアプリが必須なのでEH3を使用するにはかならずEddict Playerアプリをダウンロードしておいた方が良いです。

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USBメモリを接続

3 多彩な使い方が可能

先に書いた単体プレーヤーはその一つですが、EH3は実に多彩な使い方が可能です。大きく分けると新しいワイヤレスでの使い方と、昔ながらのケーブル接続でDACとして使う方法です。さらにワイヤレスはBluetoothとWiFi、有線接続ではUSB、光、同軸、I2S HDMIで接続できます。

まずワイヤレスでは、Bluetoothを用いてBluetoothレシーバーとして使用することができます。BluetoothではLDAC、aptX HD、aptX、AACに対応しています。後でも書きますが、Bluetooth信号でもSRCとES9039SPROを通すのでBluetoothレシーバーの音質も高音質です。
またWiFi接続ではDLNAのレンダラー、サーバーとして機能するとのことです。またWiFiではAirPlayを受けることができます。

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Eddict Player画面

ケーブル接続では先に書いたようにEH3はET3 CDトランスポートのコンパニオンとして設計された面もあり、ET3とは新しいL8ケーブルを使用し、I2S接続で接続できます。またUSB端子を使用してUSB DACとしてEH3を使うこともできます。この場合にはWindowsやMac側では排他接続などの設定をした方が良いでしょう。
そして先に述べたようにUSBメモリに音源を入れて単体プレーヤーとしての使用が可能です。この場合はEddict Playerで操作をすることになるので、実質的にはワイヤレスのように使えるということになります。ただし音源はあくまでEH3に格納されているので、ハイレゾロスレスで再生ができます。
また光接続でも周辺機器と接続できますが、この使い方はまた後で書きます。

インプレッション

重さは3kgあるので箱から取り出すとずっしりと重く感じますが、意外とコンパクトです。デザインもすっきりと良いので、デスクトップにおいて使っても良いと思う。
面白いのはDAC・ヘッドフォンアンプなのに早送りや再生・停止の操作メカボタンが上面に搭載されていることです。ここでの左右セレクトキーは機能の選択にも使用します。機能選択はボリュームノブの押し込みでOK、ノブの回転で選択、ハードキーの戻るボタンでバックという感じです。リモコンもついているので家電感覚でも使用できる点もユニークです。
また上面にデザインとしてブロックダイアグラムがプリントされているのがマニアックで良いです。これは簡単な接続ガイドも兼ねていると思います。

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EH3はまず背面の電源スイッチを入れるとスタンバイ状態になり、さらにボリュームを押し込むと起動して動作モードになります。そうすると前面の円形の液晶に表示がなされます。
オプションの操作は本体だけでも簡単で、ボリュームノブをワンプッシュすると "Menu "に入ります。ここでノブをスクロールさせればメニューをたどれます。選択した項目をハイライトしたら、もう一度ノブを押すだけで、その選択肢が選択されます。戻るには、上部の "巻き戻し(戻る) "ボタンを押すだけです。
ただし複雑な設定や操作にはEddict Playerが必要です。

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音質はUSBメモリの音源でゼンハイザーHD800で聞いてみました。デモ機であまりエージングされていないと思いますが、音質はなかなかに優れています。据かなりパワーの余裕のある音で、LowゲインでもHD800で十分に音量がとれます。HD800の場合はMiddleゲインにすると音に力強さが加わって良いと思う。ハイインピーダンスのHD800をかなり軽々と駆動していて暗い重苦しさがないです。
音傾向はクリアで着色感が少なく、いわばモニターライクな音で、真空管アンプやリスニング志向サウンドのような低音や高音の誇張はなく着色感や温かみもありません。フラットでワイドレンジな点はHD800に向いています。また女性ヴォーカルが前に出てくる感じで、声がクリアで明瞭に聞こえます。楽器音の再現も正確だと思います。主役がはっきりわかる音で、解像力も高いサウンドです。据え置きらしい音で、H5よりもプロ志向のHiFiサウンドだと思います。

次に4.4mmでバランスで聞いてみました。イヤフォンはいろんなドライバーが入っているマルチドライバーのAK02を使用しました。Lowゲイン設定にしておきます。
やはりかなりモニターライクで、着色感が少なくフラットニュートラルなサウンドです。やはりワイドレンジ感があり、かなり低音は低いところまで出ています。そしてヘッドフォンと同様にヴォーカルと楽器が綺麗に分離されて、音も細かく音の濁りが少なく感じます。ノイズフロアは十分低いのですが、Lowゲインでもイヤホンにはやや音が大きいいのでヘッドフォンに向いたアンプだとはいえるでしょう。

音質は一番ダイレクトだと思ってUSBメモリの単体モードで聞いたんですが、ただしどのモードでもわりと均等に良い音が出ます。特にBluetoothレシーバーモードでも同じように良い音が出るのにはちょっと驚きます。これはブロック図を見るとわかりますが、SRC機能をオンにした場合にはAUXアナログ以外の全てのデジタル入力は一旦ICでDSD変換されてES9039PRO DACに入ります。そこで音が均等な感じになるんでしょう。AUXアナログ入力はDAC部分をバイパスしてボリュームを経由して直接アンプに入ります。

EH3はネットワークプレーヤーとして使えると言っても単独ではストリーミングを直接受けることはできません。スマホでストリーミングを受けてAirPlayなどでEH3に送ることになりますが、その場合はAirPlayの制限で48KHzまでに制限されます。
そこで以前Philewebに書いたWiiMも一緒に貸し出してもらいました。WiiMについてはこちらの記事をご覧ください。
https://www.phileweb.com/review/article/202309/05/5260.html

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黒いものがWiiM Mini

WiiMを使ってEH3側でストリーミングを受けられるようにしてみます。このためWiiM Miniを光デジタルを使ってEH3に接続します。WiiM miniはあらかじめWiFi設定などが必要です。
まずEH3側設定で入力を光デジタルにします。次にWiiMアプリでWiiM Miniを選択して出力をSPDIF(光)にセットします。出力は96kHzなどハイレゾが選べます。
これによって新たに二つの機能が加わります。一つはiPhoneの内部ファイルの再生です。そしてAamzon MusicやTidalなどのストリーミングサービスの再生です。これらはWiiMアプリの機能です。ただしAamzon MusicやTidalはWiiM miniで直接ストリーミングを受けているのでiPhone側で受けているのではありません(これは上の記事を書く時に開発元に確認しました)。
まずTIDALのMQAを再生してみると、EH3内でデコードされてハイレゾで再生されます。この場合にはSRCをバイパスすることが必要です。
AmazonははじめWiiMアプリではダミーユーザーでログインされているので、まずログアウトしてから自分のアカウントで入ります。こちらはULTRA HDで再生されています。
残念ながらApple Musicは現状WiiMではストリーミングできません。

WiiMアプリ1.png  WiiMアプリTidal.png  WiiMアプリAmazon.png
WiiMアプリ設定画面、Tidal、Amazon Music

まとめ

とても多機能ですが、デモ機を借りてレビューしましたので設定などは製品版と異なるかもしれません。いずれにしてもファームウエアの比重が高いので、まず最新を確認した方が良いと思います。私はVersion1.2をShanlingサイトからダウンロードして使用しました。ファームアップはUSBメモリに入れて行います。製品版の価格は13万8,600円とのことです。
Shanlingは現在でもCDトランスポートのShanling ET3を販売していて、Shanlingの製品体系の中ではET3からのデジタル出力を受けるDACという役割もあります。しかしEH3は多機能で、ネットワーク入力が可能な他に内蔵した音源をDAPのように再生する機能まであるので、単体でも十分に完結している製品です。SRC機能もなかなか優秀でBluetoothレシーバーとしても侮れません。
posted by ささき at 07:48 | TrackBack(0) | ○ PCオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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