Shanling(シャンリン)は中国の大手オーディオメーカーで、1989年に創業して多様なラインナップのオーディオ製品を販売しています。最近ではポータブルオーディオにも進出してさまざまな製品を日本市場でも販売されています。例えば今年1月に発売された「H7」は高機能のDAC内蔵ヘッドフォンアンプです。「H7」は高機能ですが少し大柄で10万円前後とやや高価な製品でした。いわゆるポータブルというよりはトランスポータブルというタイプです。
今回レビューする「H5」は「H7」の小型廉価版とも言えるDAC内蔵ポータブルアンプ製品です。「H7」が搭載していたポタアンながら内蔵音源(ローカルファイル)を再生できるという多機能性を引き継ぎながらも、より小型でほぼ半分の価格となったものです。高機能性を保ちつつ、モバイル用途にも向いたモデルと言えます。
Shanling H5とM2 Macbook Air、SUPERIOR
カラーはブラックとチタニウムの2色が用意されてサイズは102×85×25mm、重さは270.4g、市場価格は現在52000円前後です。
* 特徴
筐体は航空機グレードのアルミニウムを使用した金属筐体で、シンプルな液晶ディスプレイがついています。背面には各種端子が並び、前面にはダイヤルが二個ついています。右側は主に音量を変更し、左側はモード変換や操作などを行います。これは「H5」の各モードでも異なります。
まず「H5」は多機能なアンプです。入力はDAC内蔵なのでデジタルのみ、光デジタル/同軸デジタル/USB入力(USB DAC)とマイクロSDカードによる内蔵音源の再生(ローカルファイル再生)も可能です。このローカルファイル再生で使われるTFカードというのはマイクロSDカードの中国呼称です。この他にBluetoothレシーバーとして使うことができ、LDACに対応しています。再生可能コーデックはLDAC、AAC、SBCですので、iPhoneとの組み合わせではAACを使うことになります。
出力は3.5mmアンバランス/4.4mmバランスの他にRCAラインアウト出力です。つまり「H5」の光入力やRCA出力を組み合わせるとホームオーディオ機器と繋ぎたい場合に便利に使えます。
USB DACとしてはPCM 768kHz/32bit、DSD512、MQAに対応しています。
また設定でUSB接続をUAC1.0モードにすることができるので、ゲーム機などと接続したい時はこちらにした方が接続しやすいと思います。UACとはUSB Audio Classのことで、UAC1.0ではほとんどの場合にドライバー不要だから相手を選びません。ただしUAC1.0にするとハイレゾが使えません。
付属品もケーブル類が充実していて、USBで接続する際のOTGケーブルやSPDIFケーブルなど入出力系が初めから付属しています。
また「H5」は基本性能も優れていて、DAC ICに10万円を超えるDAPのShanling H6 Ultraでも搭載されたAK4493SEQをデュアルで搭載しています。アンプ部分はヘッドフォンアンプでよく使われるTIのヘッドフォンアンプ用ICのTPA6120A2を採用、最大出力840mW@32オーム(バランス時)と大出力です。後でも書きますが、実のところアンプICとしてTPA6120を採用している点がH5の機材としての性格を決めているように思います。ヘッドフォンアンプで1W近くあるとほぼ据え置き並みと言って良いくらいですのでポータブルとしては十分すぎるくらいです。イヤフォンだけではなくヘッドフォンにも向いているでしょう。ゲインはLow/Middle/Highと3段階あります。
またUSB入出力にXMOSチップを採用しているのも本格的です。このほかにもPanasonicのタンタルコンデンサ、ELNA社のオーディオ用アルミ電解コンデンサなどパーツの選択もしっかりしています。
このように「H5」は据え置きアンプとして便利な側面もあれば、バッテリー駆動ですのでポータブルとしても使えます。H7よりは小さくなったのでその点で使いやすくなったと言えるでしょう。3500mAhのバッテリーで4.4mmバランスでは最長8時間、3.5mmでは最長12時間持つとのこと。ちなみに急速充電規格のQC3.0にも対応しています。
「H5」をポータブルとして使う際にはUSBでスマホに接続することもできますが、便利なのが「ローカルファイル再生」機能です。これはマイクロSDカード内に格納した音源を再生するもので、スマホでのリモート再生と組み合わせるとDAPのように使用できます。マイクロSDカードによるローカルファイル再生はPCM 384kHz/32bit、DSD256まで対応します。MicroSDは2TBまで対応しています。
操作は液晶で表示して左右のダイヤルで音量とコントロールというもので、慣れないとやりにくいように思いますが、「H5」にはスマートフォンとのBluetoothを使用したリンク機能があります。スマホ側にShanlingの「Eddict Player」アプリをインストールしてペアリングを行うことでリモートで設定や再生操作が可能となります。この場合はローカルファイル再生モードにして(Bluetoothモードでなく)、スマホからEddict Playerを立ち上げてSync LinkメニューからH5を選択してください。
Eddict Player画面(iPhone)
その後にファイルのスキャンをするとH5のマイクロSDカードの中身がEddict Playerから再生指示ができるようになります。ここまでくるとほとんどDAPです。アルバムごとやアーティストごとの表示が可能です。ただボリュームのコントロールはBluetooth経由なので遅延がありますから上げすぎに注意が必要です。ボリュームに関しては本体のダイヤルを使用した方が良いでしょう。
この方式は使いやすいのですが、少し接続が切れやすい点は難ではあります。ただ接続はコントロール信号だけだから接続が切れても再生が止まるということはありません。本体側で再生操作を継続できますし、アプリを立ち上げ直すとすぐに接続が復帰します。
Eddict Playerアプリでは設定もより簡単に行えます。設定で大事なことですが、設定の中でDAC使用の初期設定がSingleになっているので、まずここをDualモードにしてください。飛行機によく乗るなど長時間使いたい人は別ですが、音が全然違います。戻せなくなると思います。DACをDUAL設定にすると、音の解像感もかなり上がってハイクラスのイヤフォンでも十分以上に楽しめるようになります。
* インプレッション
まず価格的に組み合わせやすく、音の相性も良いのは最近発売されたqdcのSUPERIORです。特に4.4mmのオプションケーブルがおすすめです。
「H5」とバランス駆動で組み合わせたSUPERIORは低音が深く重いパンチが感じられます。低音の量がたっぷりとあり、左右の広がりも十分に広く感じられスケール感を感じる音です。ロックではバスドラのパンチが力強く、躍動感があります。高音域も端正な音再現でなかなか好印象です。SUPERIORの音の素性の良さをアンプの力で十分に引き出している感じです。
据え置きアンプから聞いているような雄大で押し出しの強い力強さを感じられ、持ち運びにはあまり小さなアンプではないですが、これくらいの音が得られるならば持って行く気になると思います。
H5とSUPERIOR
音的には基本的にDAPではなくポタアンなのでパワフルですから、シングルダイナミックによく合います。高価格帯ではfinalのA8000を4.4mmケーブルに付け替えて試してみると、低音の力強さと深さもひときわ高く、切れ味抜群のA8000の音にダイナミックさがより加わるように感じられます。
A8000の持ち味の歯切れの良さとスピードの速さがH5のパワー感とあいまって、見事な躍動感に変わっていきます。高域の再現力も高いので、ワイドレンジな音を感じます。これはかなり良いですね。特にゲインをMiddleにしてやるとさらに音が引き締まるように思えます。音の細かい調整はデジタルフィルターが6種類あるので、少しきつめな時などはデジタルフィルターを変えても調整ができます。
H5とA8000
またハイブリッドではqdc Folkなどが価格的にも同じくらいで組み合わせやすいと思います。弦楽器の響きも美しく、洗練されたFolkの音色再現をうまく引き出していると思います。音の細部は滑らかで荒さが少なく、回路設計やパーツがきちんと使われている感じがします。
H5とFolk
USB DACモードでもノートPCに繋ぐなどして良い音で楽しめます。ノートPC用としてはやや大きいと思いますが、廉価なスティックDACの音に飽き足らないユーザーにはおすすめです。
またiPhoneなどスマートフォンでも接続できます。この点ではバッテリー内蔵なのでスマホ側に負担をかけないので、こちらの用途の方が向いているとは思います。標準のOTGケーブルはなかなか品質は悪くないと思います。
ライトニングに対応したOTGケーブルがあればiPhoneに接続することができます。画像ではLEDが黄色で点灯していてiPhoneからハイレゾがきちんと再生されていることが分かります。
iPhoneをOTGケーブルでH5に接続
* まとめ
多彩な使い方ができる機材ですが、個人的に気に入ったのはマイクロSDを音源としたローカルファイル再生で、スマホでコントロールするモードです。音質は倍くらいの価格帯のDAPなみにはあると思うので、リモート操作であることを割り切ればコスパの良いプレーヤーとして5万円前後の予算で良い音を求める人にも良いと思います。
また一般的にDAPはどちらかというとDAC部分の方に重きが置かれていますが、「H5」は音的にはアンプらしく細やかさというよりは力感に重点があるのでやはりアンプが主体であることを感じます。たとえばDAC ICが同じDAPのM6 Ultraでは出力段がBUF634ですが、H5ではTPA6120を採用しています。この辺りの性格の違いも選択のポイントになり、普段DAPを使っている人も力強いアンプらしい音が堪能できる機材として考えるのも良いでしょう。パワーがあるのでヘッドフォンを主に使っている人にも良いと思います。
入出力が豊富なので、自宅に既にオーディオやAV環境のある人が光デジタルやSPDIFをRCA出力にしたい場合にも向いています。
液晶画面のDAPのように万能性を求めるというよりは、使い方がわかっている人がコスパの良いプレーヤーを欲しい時に良い機材です。
Music TO GO!
2023年09月01日
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