AK PA10はAstell & Kernが開発した「ポタアン」です。いまどきは珍しい純粋なアナログのヘッドフォンアンプでDACは内蔵していません。
また信号経路を分離したり、A級増幅を採用するなど硬派の製品でもあります。いわば昔ながらのポタアンのカタチを最新技術とA&Kがこれまで築いてきた蓄積をもとに再発明した製品といえます。
ホームページはこちらです。
https://www.iriver.jp/products/product_231.php
SP2000T、qdc TigerとPA10
* 特徴
PA10はアナログのアンプとして、アナログの音にこだわっているという点がポイントです。それは特徴からもわかります。
1. A級増幅
一般的にはアンプには電力効率が良くよりパワーを取り出しやすいAB級の増幅が用いられることが多いのですが、マニアがより高音質を求めるために使われるのがA級増幅アンプです。電力消費は大きいけれども、スムーズで歪みの少ない音を得ることができます。ここがまず大きなアナログの音に対するこだわりです。
あえてポータブル製品に電力消費では不利なA級動作を実現させるにあたり、PA10では大容量バッテリーを組み合わせることで、ポータブル+A級動作を実現させています。A級動作をせるためには常に一定の電流を流している必要がありますが、ここは後述するカレントコントロール機能で変更ができます。
2. アナログボリューム搭載
またボリュームにアナログボリュームを搭載しているのもPA10のアナログへのこだわりです。ポタアンの歴史はもともとアナログボリュームから始まりましたが、こうした価格の比較的安い機材でボリュームに使用されるポテンショメーター(可変抵抗器)は小音量時の誤差問題(いわゆるギャングエラー)が目立ってしまう難点がありました。そこでデジタルボリュームに変えてこの問題を解決してきました。しかしデジタルにするためにはアナログ信号を一旦変換する必要があるので、純粋なアナログ信号を壊してしまいます。
そこでPA10ではアナログにこだわるために、高品質のポテンショメーターを使用したアナログボリュームを搭載しています。特にバランスの場合には左右それぞれ+/-ごとの4組のポテンショメータが必要になりますので、PA10では正しく4組のポテンショメータが搭載されています。
3. 3.5mmと4.4mmの信号経路を分離
またアナログ信号の純度へのこだわりは、他にあまり例のない3.3mmと4.4mmの信号経路分離の設計を行なって4.4mm5極トゥルーバランス入出力を実現させています。
このために3.5mm入力時は3.5mm出力のみ、4.4mm入力時は4.4mm出力のみの使用が可能です。これはいささか不便ではありますが、これによって3.5mm系統と4.4mm系統の信号純度を上げるだけではなく、それぞれに対して最適なチューニングをすることが可能となったということです。まさにこだわりポイントというわけです。
4. Astell&Kern技術の継承と反映
またPA10ではAstell & Kernの技術の蓄積を活用して音質を高めています。例えばノイズや電磁波がオーディオブロックに影響を与えないように独自のシールド缶技術を適用するとか、クロスフィード / ボリューム / アンプなどオーディオブロックごとに電源ICを分けて搭載、また先に書いたアンバランス回路とバランス回路を物理的に分離するなどして徹底的にローノイズ設計を極めるという最近のAstell & KernのDAPに見られるようなローノイズ設計がなされています。加えてA&K技術の集大成であるTERATON ALPHAの採用によって、Astell & Kernの音にしています。
ポータブルアンプは単独の製品ではなく他と組み合わせる製品ですから、アナログのAstell & Kernの音をその組み合わせにもたらすという考え方が貫かれているように思います。
5. 多彩な機能
PA10はシンプルなようでいて、多機能性を備えています。
5-1 Class-Aカレント(電流)コントロール
PA10では切り替えスイッチによって3段階(Low/Mid/High)のカレントコントロールが可能です。これは電圧を変えるゲインとは違って電流を変えるものです。カレントというと電流ですが、ここでいうカレントは先に書いたA級アンプ動作で常に流れているバイアス電流の大きさを変更するというもののようです。これによって設定をHighにするとより電力消費が上がります。
これは言い換えると、音と音の間をよりスムーズに連結して音の自然さを高めるという機能です。このためソース機器のボリュームを減らし、PA10のボリュームを上げて聴くと、カレントコントロール変更による音の違いがよりよく感じられるということです。これは音源がアコースティック楽器の曲で楽器固有の残響音があるような場合によりわかりやすいということのようです。
しかしながら、これはA級アンプのチューニングを自分でやっているようなものですから、この値は電池の消費を気にしなければ常に大きくした方が良いというわけではありません。さまざまな曲に対して適切なポイントがあるでしょう。そのために2段階ではなく、より細かい3段階の切り替えができるわけです。
5-2 ゲインコントロール
これは一般的なゲイン切り替えで、わかりやすく音量の大きさが変わります。ゲインとは音の大小の情報となる電圧を変化させるスイッチのことです。PA10ではローゲインはアンバランス 2.1Vrms / バランス 4.2Vrms (無負荷)、ハイゲインではアンバランス 3.1Vrms / バランス 6.2Vrms (無負荷)となります。HD800のようなハイインピーダンスの機材を使用するときにはハイゲインにします。
5-3 ハードウエア・クロスフィード
これは左右の音を混ぜることによって、空間再現性を変えるスイッチです。DAPでもクロスフィードが搭載されていることがありますが、それはデジタルで計算で行うために桁落ちなどで音質低下が生じてしまいます。PA10ではアナログにこだわっているためにクロスフィードもアナログになっています。この差はDXD(32/768)、DSD1024などでより自然な音質再現ができるということのようです。
そもそもこれは考えてみると当たり前ですが、PA10にはソフトウエアというものはないので、クロスフィードを実現するためには必然的にハードウエアのアナログ動作で実装することになります。
6. 使いやすい設計
PA10はポータブルアンプとしては、プレーヤーと二段重ねをした時に傷つかないように背面がラバーパッドになっています。今までだとこの面になにかクッション材を挿入したりしていました。それはポタアンというものが手作り品が多かったためですが、これもメーカー製ならではの配慮と言えますね。このパッド面はPCなどに使う時に机に置く際には逆にすることで滑り止めにもなります。またデザインも手作りポタアンのような直方体ではなく、スロープを活用して握りやすくしたり、ボリュームを半埋め込みにして誤操作を防ぐなどこの辺も造形にこだわってきたA&Kならではと言えます。
* インプレ
PA10を実際に持った感じはすごくソリッド、ガッチリして金属っぽいという感じを受けます。これもいわゆるアナログ感を感じます。
内容物としては付属品としてシリコンバンド(A&Kロゴ入り)が2本ついてきます。これはDAPを二段重ねにする際に離してバンドを使うことでなるべく操作画面に干渉しないようにすることができます。
* 4.4mmでDAPとの組み合わせ
まずサイズ的に相性の良いSP2000T(opampモード)と組み合わせてみました。短い4.4mmケーブルはOriolusのものです。イヤフォンはqdc Tigerで4.4mmです。DAPから4.4mmで接続する際には4.4mm端子のイヤフォンでないといけないので注意してください。
SP2000TとPA10
DAP単体の音と比べると、A級アンプらしいシルクのような滑らかさで、とてもスムーズで暖かみがあるサウンドが感じられます。ただ暖かみと言っても着色感は少ないのはいわゆるAKサウンドです。音のエッジにきつさがまったくないですね。
広がり感がある点も良いです。広がりというよりも、音の余裕という感じです。余裕があってこじんまりとした感じが少ないように感じられます。
DAP単体に戻すとSP2000Tだけ聞いている時にはわからなかった音の硬さがわかります。A級の滑らかさというのは例えば絹ごし豆腐とと木綿豆腐のような食感の違い、シルクの服の手触り感の良さのようなものとも言えるかもしれません。
SP2000TとPA10
そして長く聴いていると楽器音の質感の高さがDAPで聞いてるのとちょっと違う感じに向上しているのがわかります。これはカレントモードの設定を変えることによっても変えることができます。ゲインみたいに切り替えてすぐわかるのではなく、切り替えて少し聞き込むと、同じ曲だけどさっきと少し感触が違うと感じると思います。
例えばヴォーカルのバックでウッドベースやマラカスが鳴っている曲などでは、カレントモードを強くしていくとマラカスの音の鮮明さが上がっていき、ベースラインもより力強く太くなる感じになります。音が濃くなる、あるいは音の鮮明度が上がるという感じです。音の濃さ:弱・中・強、あるいは音像の鮮明度:弱・中・強と解釈したほうが良いように思う。これは組み合わせるイヤフォンがダイナミックか高感度マルチドライバー化によっても違ってきます。
効きは微妙ですが、確かにあります。はじめは3段階も必要かと思ったけど、聞き込むとやはり中間位置が欲しくなります。Lowだと物足りなくなってHighにしてしばらく聴いていると、今度は少しきつくて耳につくので、やはりMidが良いという曲も多々あります。電池消耗を気にしなければ常にHighにしていれば良いかというとそうではなく、やはりイヤフォンの性格に合わせ、自分の好みに合わせて音を作り込んでいくというか考え方が良いと思います。そう意味では3段階あるというのは意味があります。
ヘッドフォンで試してみると、ハイインピーダンスのHD800でもゲイン切り替えをハイにすると音量が取りやすくなります。HD800でもカレントモードはよく効いて、カレントHighにすると音がより引き締まり、逆に下げていくと音が緩くなっていくのがわかります。
ハードウエア・クロスフィードは、たしかにアナログなので音の劣化が少なく、頭内定位を和らげる効果があると思います。こうした効果が欲しいユーザーにとっては常にオンにしておいても良い程度には音質低下は少ないと思う。
SP3000と合わせると、SP3000も完璧と思ってたけどさらに上があるという感じで音の良さを底上げすることができます。さすがにちょっと嵩張りますが、家で使うには良いかもしれません。
SP3000とPA10
持ち運びには小さなポーチバッグがあると便利です。これは22x18cmのサイズでマチ(奥行き)にゆとりがあるとこうした二段重ねが入れやすいです。また紐が100cmあると肩にななめ掛けできるので便利です。
* 3.5mmでPCとの組み合わせ
4.4mmバランスでDAPと組み合わせて二段システムを組むのもマニアックでよいですが、PA10は3.5mmを使用してPCやiPadなどに組み合わせても全く別の魅力を発見できます。
その意味では送り出し品質の高いM2 Macbook Airのヘッドフォン端子との組み合わせは、ノートPCを持ち運ぶオーディオシステムに変えるなかなか良い組み合わせだと思います。
M2 Macbook Proと
デスクトップにノートPCと組み合わせるとPA10のデザインが使いやすいのがよくわかります。デスクトップではパッドの面を下にしていると滑り止めになり、ボリュームが扱いやすくなります。
まさにオーディオで聴いてるという感じの音の豊かさと重みが、ヘッドフォンアンプというより上質のステレオアンプで聴いてる感じ。ある意味PA10の音の凄みがわかりやすい。
AK PA10を高性能DAPと組み合わせるとDAPの音を底上げするのだろうと感じられるかもですが、PA10をPCとかiPadに組み合わせるとPA10の音の支配力が大きくなるのでPA10の音の個性や性能の高さというのが分かりやすいと思う。
モガミケーブルと標準添付のケーブル
こうしてくると3.5mm用にもいいケーブルが欲しくなるので、接続ケーブルを標準ケーブルからプロケーブルで有名なモガミ2534にアップグレードしました。太くてやや硬いけどそう取り回しには困りません。
音を比較すると音場がパッと開けて細かい音がより抽出されてくる感じです。重心はちょい高めなのでいわゆる日本人好みかもしれません。使う時はアンプを少し離して手のスペースを確保する感じですね。ケーブルは15cmだけど20cmでも良かったかもしれません。
興味ある人は下に販売リンクを置くのでこちらからどうぞ。
普通4.4mm製品に3.5mm端子がついていると互換性のためのおまけという感じもありますが、最近のAstell & Kernの製品ではSP3000もそうであるように、PA10も4.4mmも3.5mmも両方魅力的に作り込んであるというのはひとつ着目点のように思います。
* まとめ
AK PA10はA級動作らしいアナログ的な滑らかな音と豊かさをもたらします。
ポタアンは音量が取れない時に使うものと言われることもありますが、実際は最近のイヤフォンやヘッドフォンは能率が高く改良されているので、平面型でさえ音量が取れないということはまずありません。ただし最近のイヤフォンやヘッドフォンから最高の音質を引き出せるかというのは、音量とは別の話です。
Astell & Kernによると以前発売したSP1000やAK380 AMPの場合は、よりパワフルな出力で音楽を聴いてもらうことを目的としたアンプだったが、PA10の企画意図はAstell&Kernが追求するサウンドをAstell&Kernユーザーだけでなく、他のDAP製品ユーザーにも届けたいということだということです。そういう意味ではPA10はPCやiPadなどに用いてこうした機器の音質を向上させるデスクトップ運用がある意味ではあるべき使い方の一つと言えるでしょう。
また、そうした専用AMPは一つの製品だけに特化して開発がなされます。それに対してPA10は汎用のポタアンであり、一つの製品だけに特化したものではありません。Astell & KernではPA10をアナログの音に憧れるオーディオファンに向けて開発したアナログアンプであると語っています。アナログアンプPA10でデジタルDAPに接続することで、通常のデジタルDAPでは感じにくいアナログの音を届けたいというのが作り手の意図だと思います。
つまり、いまどきアナログのポタアンではなく、デジタル製品ばかりになったいまだからアナログのポタアンというのがPA10なのではないかと思います。
下記は今回使用したモガミケーブルの販売リンクです。
Music TO GO!
2023年04月08日
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