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2022年12月30日

コンピュテーショナル・オーディオとしての完全ワイヤレス、Apple AirPods Pro2 レビュー

Apple AirPods Pro2 (第二世代AirPods Pro)を使い始めました。興味の対象は空間オーディオを含むコンピュテーショナル・オーディオです。
そこで普通のレビューでなぜか中心的に書かれるANCの効きとかはすっ飛ばして、結局のところ新時代のオーディオ機器とはなにかというあたりをレビューしてみたいと思います。

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*AirPods Pro2の特徴

1 H2チップの搭載

AirPods Pro2を語るためにはH2チップが欠かせません。初代AirPodsはW1というBT通信用のアップル製SoCを搭載していましたが、それがAirPods Pro初代でH1というヘッドフォン機能の加わったSoCに発展進化しました。この時にノイズキャンセリングモードや空間オーディオ、 アダプティブイコライゼーションなどが加わっています。実際には製品ごとにカスタマイズされたSiPの中核にH系SoCが内蔵されているというのがより正確だと思います。

H2はH1に比べると10億個のトランジスタが集積されていますが、これはH1の約二倍でアップル公表の仕様では初代Proが毎秒6000回とされていた処理が毎秒4万8000回と増えています。10億個のトランジスタということはA7プロセッサ程度の集積密度があるということで、直接比較は意味がないとしてもかなりの能力が感じられます。

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あまり書かれないH2での改良点の一つはまずBluetoothが5.3に変更されたことです。
この理由はおそらくLE Audioのサポートにあると思います。LE AudioにおいてはLC3コーデックをサポートするだけではなく、基本仕様自体が進化してアイソクロナス転送になった点があります。アイソクロナス転送とはデータロスがあっても決まった時間ごとに送ることが優先される転送方式で、音楽に向いていてUSBなどでもサポートされています。
このサポートのためにはBluetoothの基本仕様として5.2が最低必要となります。これは高レベルのプロファイルではなく低レベルの部分が変更されたからです。
ただしLE AudioをサポートするためにはLC3のデコード(と、おそらくTMAPプロファイルの対応)が必要になるので、この辺は後でファームの更新があるかもしれませんし、Pro2以降になるかもしれません。なおLE Audioの使用にはiPhone側も当然BT5.2対応が要るのでいずれ使えるのはiPhone14以降となります。(いま自分が使っているのはiPhone 12 Pro)

またもう一つのH2での隠れた改良は特許回避があるようです。アップルは現在ANC特許で係争中で、このためにH1チップを使用するAirPods Pro初代とAirPods MaxではあるファームウエアからANCの効き目が減ったというテスト結果もあります。それによるとH2ではこの問題が解決されているだろうとのことです。これはノイズ低減とマイク入力に関係するところらしく、もしかするとPro2でフィードバックマイクの位置が変更されたのはこれが関係しているのかもしれません。

またPro2では初代に比べてレイテンシーも改善されているようです。ある報告ではAirPods Pro2はPro初代の167msに対して126ms程度と40msほど性能が向上しているようです。(これはH2単体というより全体での話です)

ちなみにH2もOppoのMariSilicon YのようにTSMCのN6RFプロセスで製造されていると言われています。OppoがMariSilicon Yの発表時に比較に書いた「従来品」とはおそらくH2のことだと思います。

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2 音響部分の改良

これにはエアフローの改善が関係してます。「What's HiFI」にアップルの開発者であるEsge Andersen氏のインタビューが載っていますが、彼は第2世代AirPods Proについて「ポケットに入るようなAirPods Max」を目指したと語っています。AirPods Maxは以前アスキーに掲載した私のレビューにおいてもオーディオ性能は同種のヘッドフォンでは群を抜いていると評価した製品です。このことからもAirPods Maxがやはりアップルで音質ではリファレンス的な位置付けだったことがわかります。ちなみにAirPods MaxもAirPods Pro2同様に「What's HiFI」誌の5つ星評価を得ています(以前のモデルは4つ星)
Esge Andersen氏はその目標を達成するためにまず音響設計の基本に立ち戻ることにしたといいます。実のところAirPods Proの第1世代と第2世代ではベント穴の位置とマイクの位置が変更されただけですが、そのベント穴の位置の変更がエアフローの最適化のために重要なポイントであり音質向上のキーになったということです。
第2世代AirPods Proでは前面と背面にあった二つのベント穴を背面の一つにまとめてよりシンプルにして、このことでより高音が伸びて低音が深く沈むようになったとのこと。Esge Andersen氏は特に高音のレスポンスを得ることが難しかったが、エアフローを改善したことでドライバーがより動作しやすくなったとしています。

振動板のサイズはiFixitの分解動画から推測するに6mm径だと思います。ダイナミックとしてはバランスの良いサイズではあります。
ドライバーはアップルの国内の仕様では高偏位ドライバーを搭載と記述されてますが、ここは元の英語仕様では”high excursion driver"になっています。このexcursionとはオーディオ英語ではスピーカーの振動板のピストンモーションの振幅のことですので、より振動板が大きく動いて空気を動かせるということでしょう。だから日本語は本来は高振幅ドライバーの方がわかりやすかったと思います。
おそらくは大口径よりも振幅が大きい方が制御を細かくできるので、振動板もH2による「コンピュテーショナル・オーディオ」を実現しやすいように設計されているのではないかと思います。

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3 デザインその他

電気系統はステムの方にまとめられていて、ステムはマイクの幅を確保すると共にノイズを隔離するにも役に立っていると思います。
このデザインはうどんと言いますが、このAirPodsのカタチには原型(初代iPhone向けのBTマイク)があるのですよね。私もこれ持っていたんですが、どこかに行ってしまいました。
https://arigato-ipod.com/2012/07/apple-iphone-bluetooth-headset.html

またAirPods Pro2の黒い部分はメッシュになっていてここにベントやマイクがあります。この部分はホコリを溜めてしまうので定期的に清掃することが音質やANC効率の向上にもなると思います。後で述べるインスタチップの作成時にはここをシールなどで保護しておく必要があります。念のため。
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ちなみにAirPods Pro2の製造は従来通り中国のゴアテックがやってましたが、不良率が上がってきたので他の拠点に移るとも言われてます。

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またAirPods Proのファームウエアアップデートについては、MacにAirPodsをケースごと充電するようにUSBケーブルで接続するとすぐに行われる。(Magic Mouseなどのリセットと同様)


*インプレの前に

はじめに端的に書くとAirPods Pro2は音は良いです。ただし設定に左右されます。それとエージングはやはり必要です。AirPods Pro2で音が良くないというコメントはたぶんエージングがなされていないことと、設定がされていないことによると思います。
おそらくAirPods買っていきなりエージング50時間する人は稀だと思いますが、AirPodsも大方デジタルで音作ってると言っても、ダイナミックドライバーだし、実際に箱から開けたばかりのアコースティックな部分がエージングされてない初期状態だと音は曇っていて甘く音は悪いです。たいていの人はそこからスタートしてしまうでしょう。ダイナミックドライバーなのできちんとドライバーの慣らしが必要だと思います。
ちなみに今のiOSだと設定を変更しないと耳から離すと音が止まりますが、昔のiOS7とかのiPhone使うと耳から離しても音が止まらないので普通にエージングできます。

また設定で見るところは何箇所かありますが、最低でもアクセシビリティ>オーディオビジュアル>ヘッドフォン調整(iOS14以降) をオンにしておく必要があります。ここのバランスの取れたトーンなどの弱めから強めが一番音が変わります。アニソンとかヘビメタとかコンプ強いのは弱めにして少しボリュームあげると柔らかくなって良い感じになります。良録音の時に強くしてもキツくなるので、強目はブートレッグとか古い録音など甘い録音の時に使うといい感じになるように思います。ちなみにこの感覚はノイキャンをオフにしてもやや強くなります。また後で書くようにイヤーピースを変えた時の音の調整にもこの中とか強が役に立ちます。

加えてカスタムオーディオ設定のオージオグラムでも変化します。オージオグラムとは個人の耳を測定したグラフのことで、iOSではヘルスアプリで電子的に管理できます。これはいくつかのアプリで聴覚テストをすることでiOS内に作成することができます。
カスタムオーディオ設定ではオージオグラムを調整用に選択することができます。オージオグラムを使うと音が良くなると言うより音が自然になり、デフォルトではキツく感じてた成分がなくなるように思います。おそらく音が良くなると言うより耳の健康に良いように調整するという方が正しいような気もします。ここはあまり見てないので後でまた詳しくやってみるつもりです。

AirPods関連の設定で見るところは以下のように分散されています(iOS16)。
○設定第一階層のイヤホンの名前(ANC設定や装着テスト)
○アクセシビリティ>AirPods(主にコントロール)
○アクセシビリティ>オーディオビジュアル(AV基本設定)
○アクセシビリティ>オーディオビジュアル>ヘッドフォン調整(音質など)
○コントロールセンター画面の音量部分(ANCと空間化)
○コントロールセンター画面の耳のアイコン(イヤフォン設定や音量レベル)
○ヘルスケアアプリの聴覚(オージオグラム)


またAirPods Proでは装着も独特です。いまでは多くのイヤフォンに採用されることになったイヤーピースをあまり耳に差し込まないタイプで、イヤーピースは他との互換性はありません。AirPods Pro用のイヤーピースがいくつか販売されています。また正式リリースではAirPods Pro2と初代Proでは違いがあるように書かれていますが、試してみると物理的には互換性はあります。
それとやはり密着テストです。iOSでは設定のところで密着テストが用意されているので、これを行うことでイヤーピースがきちんとはまっているかを確認ができます。このテストはわりとシビアなので微調整にも役立ちます。
このAirPodsをはじめ最近流行ってきた「耳穴に挿入しないで置くだけ方式」の装着も、ER4SやE2cからずっと耳穴に差し込み続けてもう20年とか言う自分にはどうも馴染めないのではありますが、まあそれだけ市場が広がったということなんでしょう。ただジムなどでは上下が逆さまになるような器具もあるのでやはり不安ではありますね。

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*インプレ

実際に使ってAirPods Pro2のなにが使いやすいかというと、本体にベタベタ触ってもセンサーが反応しないことです。押してハプティックレスポンスがあった時だけ機能します。私はポジション決めるのによくイヤフォンを細かく触るので、普通の完全ワイヤレスではそれでタッチセンサーが反応して機能が起動するのに閉口してしまうのですよね。特にイヤーピース交換するときにそうです。メカボタンは防水とかあるので難しいかもしれませんが、できればこうした感圧スイッチにしてほしいところです。この辺は逆に細かく調整したいマニア向けとも言えそうです。
ケースもコンパクトでポケットに入れたままで良いし、詳述しませんがペアリングも含めて使い勝手としては文句のつけようがありません。

肝心の音質ですが、ちょっと書いたように少なくともエージングして、ヘッドフォン調整がオンになって、きちんとイヤーピースが装着されていれば、AirPods Pro2は完全ワイヤレスの中でも音質が良い方です。というかかなり特徴的な音質が感じられます。
その特徴は極めて明瞭感が高くて鮮明だということです。デジタルっぽさはありますが、音が極めてクリアでくっきりはっきり聴こえます。音の静寂部と音の差が明確で音像が切り立って聴こえます。SN感の高さによりピアノの打鍵の音がきわめて美しく鋭く響きます。これは他のイヤフォンではなかなか聴けないサウンドです。これはオーディオ設定で大きく変わるのでコンピュータ処理してる音だと思います。
空間オーディオ確認しようと、Brian Enoの最新アルバムを聴いてみると、それよりも音に明瞭感があって細かい音がとてもよく聴こえるのに驚きます。ギターの細かな弦の震えも聞こえるほどで解像力は極めて高く聴こえます。ノイキャン効果も含めて背景ノイズ感がとても低いと感じられます。独特の奥行きと立体感があって、特に空間オーディオなしでも立体感はかなりある方だと思います。
低音は映画を見てる時もズーンというかなり迫力があるので、音楽だけではなくさまざまな用途に向くと思います。これは音調がとてもニュートラルな点もそうですが、後でまた触れます。空間オーディオ対応してるiPhone/iPadならば、設定の「iPhoneに追従」をオフにすると常にiPhone方向から音が聴こえる体験ができます。Apple TV+アプリだとわかりやすいと思います。映画の「グレイハウンド」なんかみていると船酔いしそうな感じにもなりそうです。

もう一つ良い点はパンチがあって躍動感が感じられる点です。量感は適度で出過ぎないが、パンチはあってバスドラもベースも重くて密度感があってダイナミックらしいサウンドで、ロックなどでいい感じに楽しめます。ワイドレンジ感は高く、中高音域の伸びやシャープさ、低音の深みも十分あります。低音域の解像感もかなり高く、なかなか質の良い低温だと言えます。
またボリューム位置には余裕があって、多くの完全ワイヤレスのように振り切るくらいではありません。単純には比較できませんが、これは内蔵アンプの出力が十分高いように感じられる特徴です。

そして音が先鋭的で良く聴こえるのであまり音量を上げる必要がないということも書くべきかもしれません。これはノイキャンの効きの優れた点と相まって、低い音量で聴くのにも適していますので人の迷惑になりにくいとともに耳のためにも良いことではあります。明瞭感の高い音傾向はセミナー聞いていても声が聞き取りやすく便利です。
オーディオマニアにおいてもアナログアンプの暖かい音よりデジタルアンプの鮮明でクリアな音が好きな人はAirPods Pro2は良いと思います。

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すっ飛ばすとはいいましたがANCについて少し書くと、まず外音取り込み機能は、もはや外音取り込み機能ではなく聴覚増強装置だと思います。
AirPods Pro2で外音取り込みモードを常時オンにしてると、鳥の声や街の環境音が自分の聴覚が高くなったように聞こえて目の前に別な世界が見える感じです。そしてノイキャンをオンにするとその世界が一瞬で消失する喪失感を味わいます。

*AirPods Proでのイヤーピース交換

標準でもかなり音質は良いんですが、もう一歩なにか欲しいという感じのときはイヤーピースで調整する手があります。これは装着感だけではなく音質にも関係しますが、前に書いた設定のヘッドフォン調節の幅を広げるのにも役立ちます。これについてはいくつか試してみて、イヤーピースケースをAirPods Pro2ケースのストラップにしてしまうくらいちょっとハマりました。

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AirPods Pro2は独自のイヤーピース規格ですが、このノズルの形が楕円形なのにも注目したいところです。ノズルが耳穴の形に合わせて楕円形なのは知ってる限りではAIrPodsとFitEarくらいだと思います。イヤーピースはサードパーティー品がたくさん出ていてAirPods Pro1と2は物理的には互換性があるようですので選択幅はわりと広い市場です。変更したら密着テストできちんと装着されているかどうか確認できるのもAirPods Pro2の良い点です。意外と装着できたように思えてもNGを出されることもあるのでやった方が良いですね。

いまメインに使用しているのはSednaEarfit MAX、Comply TRUEGRIP PRO、ePro Horn-Shapedです。これらは傘の部分とAirPodsのノズルに装着するアダプターのセットになっています(後述)。

SednaEarfit MAXは純正よりワンサイズ小さくても遮音性は良好で、イヤーピース密着テストでNGが出たことがないくらい優秀です。AirPods Pro2でイヤーピース変えたら設定も変えた方良くて、標準イヤピだと「オーディオビジュアル>ヘッドフォン調整」でバランスの取れたトーンの強だときつかったけど、SednaEarfit Maxだと強で良いくらいで、素晴らしい音になります。解像感、ワイドレンジさと打撃感、音の立体感も優れて驚くくらいです。
またヴォーカルものを聞くときにはやはりこの設定を音声にした方が声がはっきりと聞こえます。このようにAirPods Pro2の音はイヤーピースと設定項目の組み合わせを変えることで自分の好みに変えていくことができます。(このほかにカスタム設定もある)

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SednaEarfit MAX(M)

ePro Horn-Shapedはヘッドフォン調整のバランスの取れたトーンでデフォルトの中だといまいちの印象ですが、強にすると見違えるくらい良くなります。広がりがあって開放的で、華やかさはないけど、刺激成分がないので落ち着いて聴きやすく良いです。
ちなみにこうしたAirPods Pro用のイヤピの多くは銃声とは違い傘とアダプターが別パーツになっており、アダプターを流用して普通のイヤピを取り付けることができます。ただしケースに入れる都合上で極めて傘の短いTWS用のものしか使えません。ePro Horn ShapeのTWS用はこの用途に使えるのでこちらも試してみました。実際に使用できましたが、音質的にはこちらのAirPods版を使用した方が良いように思います。

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ePro Horn-Shaped(左)、右はTWS版の流用(潰れているのは保存のせい)

Comply TRUEGRIP PROはコンプライらしくフォームですが、イヤピまで耳穴に合わせて楕円形なのが良い。フォームなのでAirPodsみたいに耳に挿入しないイヤフォンでも広がって抑えるのでフィット感は極めて優れています。音は重心が下がってロックポップにとても好適ですが、打撃感は緩めになります。ヘッドフォン調整がバランスの取れたトーンだとちょいヴォーカルが奥に行くので音声の帯域でも良いかもしれません。

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Comply TRUEGRIP PRO(L)

そしてFitEarインスタチップも試してみました。これは自分でセミカスタムイヤピを製作できるキットです。
ケースに格納できることが必須なので、ベースになるイヤーピースはMサイズでもフィットできるSednaErafir Maxを使用しています。作成の際には外側の黒いメッシュ部分を保護するためにシールを貼ってください。
結果として密着テストもパスしてケースに入れて閉じて充電も可能です。音も広い音場でリアルなサウンドが楽しめます。

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インスタチップ(SednaEarfit Max)

できあがったイヤーピースはやはり楕円形になります。AirPods Pro2のように装着の浅いタイプでもやはり楕円形が理想なのは興味深いところです。これはつまりイヤピが重要である点は変わりないということだと思います。
いずれにせよ、イヤーピースで音質を向上するというというよりも、オーディオ設定のヘッドフォン調整の幅を広げるために使用すると考えても良いかもしれません。つまりイヤーピースというアコースティックな部分とデジタルの部分を合わせて調整するという考え方です。

*まとめ

端的に言ってAirPods Pro2はデジタル臭さはありますが、他では得られない鮮明なサウンドを楽しめる音の良い完全ワイヤレスイヤフォンです。
しかしいくつか条件があります。まずエージングを数十時間はすること、iPhone(iOS)で聴くこと、イヤーピースを選ぶこと、選んだイヤーピースでiOSの設定からヘッドフォン調整をすること、聴く前に密着テストをすることです。
おそらくAirPodsを買うほとんどの人ははじめの段階でもったいない評価をしてしまうと思います。そして装着も適当なまま使ってしまうでしょう。
それも仕方ないのはほとんどの人にとってはAirPodsはオーディオ機器と言うよりはiPhoneのアクセサリーなわけです。一般的な多くのレビューが音質よりもANCの効きの方に重点をおいてることからも伺えます。
最近では特に海外でAirPods Proを補聴器(ヒアリングエイド)の代わりに用いようという動きがあります。高いと言っても補聴器としては安いからです。これはLE Audioの元になった動きのひとつですが、論旨が外れていくのでやめておきます。
このように確かにAirPodsはイヤフォンというよりはIT機器と捉えられても仕方はないし、そのインパクトから使われ方は多様性を帯びてきています。

いささか逆説的なようですが、これは音にも表れます。
AirPods Pro2の良いけれども硬めでデジタル的な音傾向はAirPodsが音楽イヤフォンというよりこうした汎用ITデバイスだからだと思います。そのため柔らかい暖かみのあるオーディオ的な音にすると音声が聴きづらくなるので、硬めの明瞭感が高い音にせざるを得ないでしょう。
もちろんこれはこれで素晴らしく音が良いのだけれども、好みが入る余地はあります。逆に言うと音楽専用のイヤフォンとしてならば、AirPods以外を選択する余地はあるかもしれません。完全ワイヤレスイヤフォンを選ぶ時はこの辺も考えると良いように思います。

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面白いのは大抵のイヤフォンはiPhoneよりMacで聴く方が音は良いんですが、AirPods Pro2 に関しては逆にiPhoneの方がいいと感じる点です。Macだと力感は出るけどSNが低い感じで曇り感があります。これはおそらくMacOSにiOSの音質調節相当の機能がないからではないかと思います。
AirPods Pro2の音の良さはDSPという枠を超えて「コンピュテーショナル・オーディオ」というべきだと思うけど、それはイヤフォン側のH2だけではなく、iOS側もあってのことだと思います。コンピュテーショナル・オーディオという言葉はカメラの最近のトレンドの一つであるコンピュータ処理を前提としたコンピュテーショナル・フォトグラフィーからきたものです。つまりDSPというのは既に成り立ってるサウンドを計算でより良くするものなのに対して、コンピュテーショナルオーディオというのはそもそもサウンドが計算なしでは成り立たないというものです。
イヤーピース交換にしてもAirPods Proでイヤピ変えるのはそれ自体で音質高めるというより、設定のヘッドフォン調整の幅を広げると考えた方がいいかもしれません。例えばこの記事に表示している画像も全てiPhoneで撮ったものですが、画像調整しないとこんなに鮮明で綺麗ではありません。

つまりのところ、イヤフォンの音質を考えるには、もはやイヤフォンだけの問題ではないのではないかということです。
完全ワイヤレスがもたらしたものは、単に利便性というだけではなく、音的にもZE8000のように信号処理ありきの音作りや、UW100やFW5のようにDACと振動板の超ショートシグナルパスなんてのもありますが、イヤフォン側だけでなく処理能力の高いスマホ側にまでそれが拡張されるべきなのかもと思ったり考えてしまいますね。
AirPods Pro2の数少ない欠点の一つは意外とバッテリーがもたないと思うことです。けっこう使い込んでるとケースの残量が思ったより減ります。これも本体の計算量が多くて電池消費が多いからだと思います。バッテリー容量については初代AirPods Proの15%増しと言われていますが、おそらく増大した消費電力のためだと思います。

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AirPods Pro2は装着感も良いし、使いやすい「デバイス」です。外音取り込みも良いしANCも良い、おまけにデザインもいい。アップル製品エコシステムでの親和性は言わずもがなです。AirPods Pro2を使うようになるとずっと耳につけっぱなしになるし、逆に耳から外す理由がありません。
EarinとかBragiのような先駆者はあったけれども、完全ワイヤレスを今のように隆盛にしたのはアップルのAirPodsでしょう。しかしAirPodsが契機となった完全ワイヤレスがイヤフォンの世界を根本から変えたものは、単に利便性ではなくプレーヤーからイヤフォンへの伝送の主役がアナログからデジタルになったことではないでしょうか。これは単に便利になったことより根本的な革新であり、イヤフォン世界のパラダイムシフトの種となるものです。やがてOPPOのMariSilicon Yのようにこの分野にもあのAIという登場人物が加わってきます。
こうして単なるデジタル化というよりも計算を前提としたコンピュテーショナル・オーディオにより、イヤフォンはただのアナログオーディオ機材から進化の階梯を上がることでしょう。
その先にあるものは私にもわかりません。ただ問いかけるだけです、老いたペテロのように。


"聖ペテロは夜明けの光の中から人の姿を見た。それは主イエスの姿であった。
ペテロは膝まずいて手を差し伸べ、こう問うた。
「クオ・ヴァディス」(どこに向かわれるのですか)"

ー新約聖書より
posted by ささき at 09:35 | TrackBack(0) | ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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