HIFIMAN SUNDARA Closed-BackはSUNDARAの密閉型バージョンとなる平面磁界型ヘッドフォンです。
10月28日に発売され、価格は55,880円です。SUNDARAの音性能を継承しつつ、密閉型だが開放型のような音場感を目指したヘッドフォンです。
以下の記事では前タイプのSUNDARAをSUNDARA開放型と呼びます。
* 特徴
ベースモデルのSUNDARAは2018年に発売されたスタンダードクラスの平面磁界型ヘッドフォンです。
HIFIMANはAUDEZEと並んで今日の平面磁界型ヘッドフォンの隆盛に導いた功労者ですが、その製品ラインナップも広くハイエンドだけではなくHE400など低価格機にも平面型を広げてきましたが、このSUNDARAはその結実と言えるようなコスパの高いヘッドフォンでした。これは開放型でしたが、そのイヤカップを木製にして密閉型にしたのが今回のSUNDARA Closed-Backです。
SUNDARA Closed-Backにおいては新たにステルスマグネットが採用されている点も特徴です。
従来の平面型ヘッドフォンにおけるマグネットはマグネット自体が回析減少で空気の流れを乱してしまい、音質を劣化させてしまいます。そこで特殊形状の「ステルス・マグネット」を採用して、空気の流れをあまり乱すことなく透過させることで音質劣化を防いでいるわけです。つまり透過的なエアフローを、見えないステルスに例えているわけです。これによって歪みの少ない、ピュアでハーモニーを阻害しない音楽再現を実現しているということです。
下の図を見てもらうとわかりますが、従来のマグネットは四角く、ステルス・マグネットは丸くなっています。回析というのは波が回り込む現象を言います。回り込みが多いということは直進する成分が減っているということですので、これによってエアフローが最適化されているということでしょう。
またSUNDARA Closed-BackにおいてはHIFIMAN独自のNEO “supernano”振動板(NsD)搭載されています。
この新しいNsD振動板はSusvaraなどの高級モデルのために開発された技術でNEOスーパーナノ(NsD)振動板は以前よりも75%薄く、より歪みのないハイスピードサウンドを提供できるというものです。
ハウジングにはブナ材の木製イヤカップを使用しています。これは職人が手作業で丁寧に組み立てているとのことです。ヘッドバンドはマットブラックでアルミと皮革をハイブリッド構成で使用しています。
標準ケーブルは着脱式で3.5mmの両出しタイプです。
製品仕様は以下の通りです。
周波数特性 6Hz-50kHz
インピーダンス 20Ω
感度 : 98dB
重量: 432g
* インプレッション
試聴にはヘッドフォンアンプとしてA&K Acro CA1000を使用しました。
各部は十分に剛性感があり、側圧はややきつめなくらいでよくフィットします。重さ的にはSUNDARA開放型よりも50g程度重いのですが、長時間使用して首が痛くなるほどではありません。
能率はやや鳴らしにくい方ですがSUNDARA開放型よりも多少鳴らしやすくなっています。CA1000だとHighゲインを使いました。
SUNDARA Closed-BackはヘッドバンドなどはSUNDARAと同じですが、なかなか綺麗な仕上げのウッドカップになっています。単に密閉型にしたんではなく木材を使用した点が良いですね。この価格帯で木製ヘッドフォンはなかなかないので、ちょっと高級なものを欲しい人にも向いています。
肝心の音質ですが、たしかに密閉型にしてはすっきりとしてこもり感が少ない方で、音場がかなり広いと感じます。それでいて低音はぐっと密度感のある密閉型らしいサウンドが楽しめます。ずしっとした重みのある低音です。
楽器やヴォーカルの定位感というか音の重なり感を感じられると思います。この辺の強みはSUNDARA開放型からきちんと引き継がれている特徴です。この音の立体感という点においてはSUNDARA Closed-Backはこの価格帯にしてはかなりレベルが高い方だと思います。
低音も密閉型らしい重みのある低音なのにきりっと引き締まってタイトなのがいいですね。ロックなんかでは畳み掛けるようなドラミングがとても気持ち良く楽しめます。ジャズトリオのような落ち着いて疾走感のある感じもよく伝わってきます。振動板が薄くて軽いだけあって、歯切れも良くスピード感があるのでノリのよい音楽にもむいています。音の素早さ、整った周波数再現性はこのクラスのヘッドフォンではなかなか聞くことができず、また平面型らしいと感じるところでもあります。
低音が良いだけではなく高域もよくチューニングされていてきつさは抑え気味ながらシャープに聞こえます。ベルやハイハットの高音も綺麗で澄んでいます。そして特に中音域が良いのでヴォーカルがとてもよく感じられます。
またウッドカップらしい音の響きがあって音楽を美しく聴くことができます。木製ヘッドフォンの入門にも良いと思います。
SUNDARA Closed-Backは平面型の良いところでもありますが、性能が高くても誇張感はあまり大きくないので合わせるジャンルは広いと思います。電子音が主体の音楽でも、アコースティックな音楽でも広く合います。またヴォーカルがとても魅力的なのでアニソンなんかにも良いですね。ヴォーカルがきれいにバックの楽器群と分かれて聞こえるので多少込み入った音楽でもヴォーカルを楽しみやすいと思います。
付属ケーブルは余裕があれば変えてみると高級感のあるハイグレードな音を楽しめると思います。手元にこのタイプの交換ケーブルがないので変えて試せませんが、ヘッドフォン自体はもっとポテンシャルはあるように感じます。この点はオリジナルのSUNDARA開放型と同じです。
* オリジナルのSUNDARA開放型との比較
SUNDARA開放型と比べてみると単に密閉型になっただけではなく、音質的にさらに向上しているのが感じられます。まず音の広がりがSUNDARA Closed-Backの方が少し広く、ちょっと驚くことに開放型よりもあるように感じられます。水平的だけではなくSUNDARA Closed-Backの方が逆に立体的な広がり感も高く感じられます。
開放型特有の音の抜けの良さとかすっきり感ではSUNDARA開放型の方がややすっきりとはしています。ただ低音はSUNDARA開放型は鋭くても軽めなのに対して、SUNDARA Closed-Backでは同じくらいタイトでかつ密度感があり重くベースらしく感じます。
弦楽器の響きも着色感の少なかったSUNDARA開放型に比べるとclosedでは少し暖かみが乗ってより響きも深く美しく楽しめます。この音の響きの違いも大きな違いの一つです。おそらく木製イヤカップの関係だと思います。
SUNDARA開放型とSUNDARA Closed-Backを比べてみるとスペック的にはステルスマグネットだけが変化点ですが、それだけではないように思うほどには音質も進化して優れています。正直はじめは開放型が密閉型になった違いくらいかと思いましたが、実際に聞いてみるとそれ以上の進化があるように思います。
* まとめ
SUNDARA Closed-Backは密閉型ではあるけれども抜群の立体感を備え、基本的な音性能も平面型らしく高く音の歯切れの良さを味わえます。木製ヘッドフォンらしい音もするので、木製ヘッドフォンのファンにもいいと思います。ただし平面型で多少鳴らしにくいので、それなりのヘッドフォンアンプはあった方が良いです。
元のSUNDARA開放型はややモニター的な優等生の感もありましたが、Closedでは音の響きがウッドらしく良く、低音がぐっと強くなり立体感が増したことでより音楽的に楽しめるヘッドフォンになったと思います。SUNDARAとは古代サンスクリット語で美しいという意味を持っているということですが、SUNDARA Closed-Backはそれに相応しいようなコスパの良い平面磁界型ヘッドフォンになっていると思います。
Music TO GO!
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