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2022年03月20日

新機軸を搭載した後継機、Chord Mojo2レビュー

Chord Mojo2とは先代のMojoから7年ぶりに発売された後継機です。開発は2018年に始まって、様々なプロトタイプを経て改良が重ねられました。

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端的に言うとMojo2はMojoのサイズはそのままに、音質をさらに向上させて電源周りなど各部を改良し、USB-C端子やイコライザやクロスフィードなどの新機能を追加したものです。正統的な後継機と言えるでしょう。
DSPにはUHD DSP「ロスレスDSP」と呼ばれる新機軸が採用されています。
Mojoとサイズや端子は共通なのでPolyもそのまま使えます(ファームウエアについては最新を適用)。

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* Mojo2の特徴

Mojo2は外観変わらないように見えて中身はけっこう手が入ってます。
なにげに大きいのが、新しくFPGA制御の充電回路を導入したことによってFPGAのポテンシャルが最大限に発揮されていることです。FPGAチップ自体はMojoと同じくザイリンクスのArtix-7 XC7A15Tですが、初代Mojoが電力制限のために限られた能力しか使用してなかったのに対して、電力改善によりフルキャパシティで能力が引き出せるようになりました。

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内部的にはトランジェントのタイミングをより向上させたWTAフィルターにより、より良い音高と音色がもたらされ、微弱信号の精度を向上させたノイズシェーバーにより奥行き感の向上が行われています。
中核となるパルスアレイDACは40,960タップに解像力が向上してノイズシェーバーは改良型が使われています。これによって音の深みがより再現されるとのこと。しかしタップ数(解像力)だけではパルスアレイDACは語れません。
Mojo2のパルスアレイDAC自体は4eと呼ぶパルスアレイが4個あったMojoのenhancedバージョンです。バルスアレイ回路はFPGAチップ以外にも抵抗などアナログ部分がありますので、物理的なサイズによってパルスアレイの個数は制限を受けます。ここはパルスアレイが10個ある、よりサイズの大きなHugo2との差別化ポイントです。(バルスアレイDACについては以前のこちらの記事を参照ください)
http://vaiopocket.seesaa.net/article/448035198.html

一方でMojo2ではHugo2にない新基軸が追加されています。その心臓部となるのがUHD DSP「ロスレスDSP」です。
UHD DSPとは従来64bitで行われていたデジタル計算を104bitで行うことで聴感的な音質ロスがほぼなくなるというもので、クロスフィードやイコライザーなどに使用されます。このため音質低下を気にせずに積極的にイコライザーを使用することができます。
またMojo2ではボリュームがボリュームの範囲が広がって、ハイボリュームモードとローボリュームモードに分かれているのですがこれでもDSPが活用されています。これは高感度IEMのために設けられています。

Mojo2ではよりニュートラルなトーンバランスが目指されていて、このためにカップリングコンデンサーが廃止されています。コンデンサーはどうしても着色感がありますからね。ただ除去するだけだと出力側にDCが漏れて出力先を痛めるかもしれないのでMojo2ではDCサーボ回路が導入されています。
こうしてよりニュートラルなトーンバランスにしておいて、ユーザーが暖かみや明るさを欲しいときはUHD DSPを活用したイコライザーで"トランスペアレンシー(transparency = 後述)"を低下させずにトーンバランスを暖かくも明るくも変更可能です。

こうしてMojo2では機能が増えたためにメニューボタンが新設されています。これにより各ボタンは小さくなっていますが、より回りにくくなっていて誤動作防止も兼ねています。ボタンロック機能も追加されました。
メニューボタンから4段階のクロスフィード(オフ、最小、中程度、最大)やイコライザーが設定できます。クロスフィードのプログラムコードはHugo2と同じものが搭載されています。

外観的にはUSB-C端子が追加されていますが、Polyとも互換性を持っています。そのためにUSB-C端子はややオフセットして設けられています。
Mojo 2のUSB-C端子はこんな感じに差し込みます。

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そのほかの入出力はMojoと同様に豊富なデジタル接続が用意されています。

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電源ではFPGA 管理の新バッテリー充電システムにより充電の改良が行われ、バッテリー容量は9%増加しています。また新規追加されたインテリジェントデスクトップモードは据え置き用として電源を繋ぎっぱなしにした時にそれを物理的に切り離してバッテリーを過充電から守るというものです。

* Mojo2の目指すところ、トランスペアレンシー

Mojo2のデザインポリシーは"トランスペアレンシー(transparency)"を保つということです。
音のトランスペアレンシー/トランスペアレントはなかなか日本語にしにくい英語のオーディオ用語だと思います。transparentには透明という一般訳語があるので透明感って訳したくなるんですが、間違いではないけど意味合いはちょっと違うと思います。
ITでNetwork transparencyをネットワーク透過性と訳すけどこちらの透過に近いと思う。つまり入るものと出てくるものが足したり壊れたりせずに同じと言うことで、transparencyに一番近い日本語のオーディオ用語は意訳すると「原音忠実」ではないかと思います。デジタルドメインで言うビットパーフェクトに近い、アナログドメインの言葉がトランスペアレンシーとも言える感じです。
(ちなみに英語では「嘘偽りのない」という意味もあります。日本語的にはわかりにくいんですがtransparentとhonestは近い言葉なんです)

ロバート・ワッツによればトランスペアレンシーを得るために大事なポイントは3つあります。小信号の振幅の正確性、小信号の位相の正確性、ノイズフロア変動です。
いずれも微弱信号の正確性という点がキーとなり、その微弱信号とはDAVEの開発を通して-301dBの再現という値が設定されていたようです。ChordのDACは同じアーキテクチャで設計されているので、DAVEを頂点としていかにDAVEに近づくかがキーとなります。

* 「ロスレス」UHD DSPの導入

ワッツによるとMojo2ではMojoよりもよりニュートラルになったので、逆に温かみなど着色感がほしいユーザーに対してDSPを提供したいが、普通のDSPでは問題があります。
これまでの64bitのDSPではサウンドがトランスペアレントではなかったということです。解像力や音の奥行きが失われていて、サウンドが平板になり高音はギラギラとキツめでリスニングに疲労感をもたらしていました。

Mojo2で導入されたのが、104bitのDSPです。これもただビット幅を104bitにしただけではなく、デジタル処理の工夫も施されて微弱信号の正確さを実現したとのこと。

これはつまり-301dBという微弱な信号においてDSPを適用してある量を持ち上げ、同じ量を落として本来はゼロになるべきものが、実際はどの程度の計算誤差が生じるかということです。(計算誤差とは例えば1/3x3が元の1になるかということです)
結果としてトランスペアレンシーを確保する上で必要な-301dBの再現性を達成しているために実質上の「ロスレス」となるというわけです。

このUHD DSPを使用してデジタルボリュームやイコライザ、クロスフィードなどが実装されています。
Mojo 2のUHD DSPは実際の設定が分かりにくいと思いますので簡単に説明します。まず左図のような4つの領域があり、それぞれごとに+/-で1dBごとにアップダウンできます。
その4つを合成すると右図のようになり、各周波数で合計値を取ると右図の点線になります。これがイコライジングカーブになります。音についてはまた後述します。

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* Polyとの接続

基本的にMojoはスマホやDAPともつながりますが、Polyとの使用がオススメです。

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オリジナルのMojo/PolyケースにMojo2を入れると音量ボタンに干渉するので、そこを切ってみました。切るだけだと断面が白く残るのでボールペンで黒く塗ってます。この元からあったような一体感いい感じですね。Mojoとまったく同様に接続できて違和感もありません。

* Mojo2インプレと初代との比較

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見た目には微妙にスマートになっていて一回り小さく見えるのですが、実際にはほぼ同じ大きさです。ただMojo 2のボタン類はかなり小さくなり、前よりも滑りにくいのでよりボタンらしくなってます。

基本的な音はMojoと同じく透明感が高く、かつ躍動感があるサウンドです。
箱開けてすぐ聞いても初代Mojoより情報量が多くなってるのがわかります。より線が細くなってる感じです。エージングを進めると音はさらに滑らかに自然になっていきます。この自然で高音質というのがChordらしい点かなと思います。

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また、端的に言うと音がより上位機種に近づいて高級になったという感もあります。音の細やかさと情報量がだいぶ向上してるのでマルチBA機とかESTやプラナー使ったマルチドライバー機に向いてるように思います。
Mojo時代によく合わせてたacoustune HS1697tiと合わせると、Mojo2では音の細やかさと奥行き感がだいぶ向上してるのがわかります。旧Mojoと比べてみましたが、細かい音の抽出はFPGA同じと思えないくらい向上してる感じです。

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Mojo2とacoustune HS1697ti

* 各イヤフォンとのインプレ

Mojo2にはAK ZERO1とも相性が極めて良いです。音がとても明瞭でクッキリはっきり聴こえて性能がよく引き出されてる感じがします。細かさだけでなく、低音の引き締まり方もいいですね。
ただフラットなAK ZERO1だと音楽によっては低音が物足りなくなります。そこでUHD DSPの出番です。たしかに音質が劣化する感はまったくないですね。

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Mojo2とAK ZERO1

AK ZERO1はさらにFitearインスタチップをつけて音質アップしました。ZERO1はPDによるものか音になにか説明しにくい個性的な滑らかさと厚みがあって美しいサウンドが堪能できます。
インスタチップつけてブーストした分をUHD DSPで少し中高音と中低域を聴きやすく調整するのも簡単です。UHD DSPが体の一部になったみたいに馴染みます。


Mojo2にはFitear TG334もとても相性が良い感じです。クリアで透明感が高く、ピアノなどの楽器音もリアルに聞こえます。
なによりヴォーカルがとても聞こえやすくて、声が際立って明瞭に聞こえます。ここは特筆ものって言っていいかもしれません。イヤモニらしさを堪能できる組み合わせと言えますね。

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Mojo2とTG334

アニソンやヴォーカルにはMojo2とFotear TG334がとてもすごく相性いい感じです。
怪しい北欧の音楽なんかでもパーカッションが引き締まってパンチあっていいです。それでちょっと低音をDSPで味付けして迫力あげたりと楽しめます。
TG334は素直な帯域特性なので、Mojo2のUHD DSPで自分なりの音を作って楽しむという目的にもぴったりかもしれません。

* UHD DSPについて

Mojo2での売りであるUHD DSPによるイコライザを試してみると二つ驚きがあります。その並外れた音質と、思ったよりも簡単に使えるという点です。

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UHD DSPによるイコライザーの使用

普通のイコライザーだと音が劣化してても味濃くして誤魔化してるからまあいいかみたいな感じですが、Mojo2の場合は低域の細やかさやウッドベースの材質感もまったく変わらないで量感だけ増える、というか元からこうだったみたいな錯覚に陥ります。
わたしはイコライザーとかDSPってあまり使わないで機材の生音を楽しみたい派なんですが、Mojo2はその考えを変えてくれます。なにしろ機材の生音とDSPを適用した音の境目がないんですから。自分で設計を変えているような感覚でさえあります。

Mojo2のUHD DSPの使い方としては、一つは上で書いたようにTG334とかAK ZERO1みたいなフラットなイヤフォンを使って好みのサウンドにするというのと、もう一つは相性がいまひとつと思ったイヤフォンをDSPで調整して好みの音にするっていうのがあると思います。

いままでは機材の相性が良くないと、いかにイヤフオンの性能が良くてもその組み合わせは使わなかったんですが、Mojo2の場合にはUHD DSPを駆使して相性をよくしてしまうことさえ可能なように思います。
例えばMojo2とFir audio Five x Fiveを合わせた時に最初はいま一つかと思ったけど、UHD DSPでこねくり回してたらすごくいい感じになりました。それでちゃんとFive x Fiveの持ち味であるチューブレスの鮮明さとかATOM第二の鼓膜の開放感が浮き出てくるように個性発揮できるのがすごい点です。個性が分かる=トランスペアレンシーと言えるかもしれません。

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Mojo2とFir audio Five x Five

万能マシンというと言い過ぎかもしれませんが、イヤフォンと再生機器の相性の問題に革新をもたらしてるような気さえするMojo2のUHD DSPはもうイコライザーの再発明と言っても過言ではないかも取れません。

そしてボタンだけだとやや難しいと思っていたイコライザーの操作も、やってみると以外と簡単でした。慣れるとマニュアルなしでもできます。メニューボタンで帯域選んでボリュームで上下です。
音のバランスはなかなかデリケートで、低域増やすとヴォーカル被りが増えるのはアナログ的な問題だからUHD DSPとは別の話です。そこで低域増やすと他も調整が必要になるかもしれません。
こうした音のバランスを変えていくのは開発のチューニング気分ですが、はじめから決めるよりも雑に決めて音楽聴きながらイコライザーの色のついた図を思い浮かべて赤領域を増やすかな〜黄領域を減らすかな〜と追い込むのがいいと思います。
Mojo2のメニューを使っててわからなくなったら、とりあえず手を離して放置すると10秒でトップに戻ります。これを覚えておくと便利です。

Mojo2のUHD DSPとイコライザーは音の良さと操作の簡単さで使う気にさせてくれるDSP・イコライザーと言えるでしょう。これ、ほんとに画期的です。

* まとめ

前のMojoは素の性能が良いので高評価を得ていたわけですが、Mojo 2はその基本面の向上に加えて、UHD DSPなど機能面で新味があるのでいじりがいが加わったと言えます。
価格的には以前のMojo(発売時価格73,440円)よりも発売時がやや高いのですが、いまのなんでも高くなった状況からすると据え置きと言っても良いようなレベルだと思います。Chord製品はポータブルでも安易に2や3を連発せずに一度すごいのを作ると長く持たせる点がハイエンドメーカーらしいのですが、今回のMojo2もまた長く持つことでしょう。
Mojo2では-301dBという微弱信号にハイエンド機器のDAVEなみにこだわった点もまたハイエンドオーディオメーカー製らしい点です。ハイエンドオーディオをポータブルにしたのがMojo2であるということを実感できることでしょう。

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posted by ささき at 16:33| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする