Astell&Kernから、ヘッドフォンアンプとDAPを一体化させたユニークな製品「ACRO CA1000」が1月に発売されました。価格は299,980円です。
こちらは代理店アユートの製品ページです。
https://www.iriver.jp/products/product_222.php
これは最近ではトランスポータブルとも呼ばれるジャンルで、可搬はできるがポータブルのように常に持ち運ぶことを考えたものではないという形で使用する機材です。A&Kではキャリアブルと呼んでいます。A&K的にはKANNの考え方を進めたものとも言えるでしょう。
最近ではDAPが高性能化することで、家で使用するオーディオがDAPだという人も増えています。それを考えると、先進的に発達し続けるDAPを家で使うことに特化するという考え方が出るのは自然なことだと思います。
そうするとまず家で使うために、イヤフォンよりもヘッドフォンがメインになること、家でのオーディオ機器に接続できるという側面がより重要になってきます。また手に持つよりも机に置いて使うことがより増えてくるでしょう。そうした点を突き詰めて開発されたのがCA1000と言えます。
* 特徴
1 ティルトディスプレイ搭載
はじめ見たときはDAPを合体させるのかと思いましたが、実際はDAPと同じくらい大型の液晶ディスプレイをティルト方式で搭載しています。このディスプレイはCA1000の特徴的でもっとも優れた機能の一つです。これがあるのとないのではデスクに置いたまま使う際の使いやすさがまるで違います。
水平から最大60度まで自由に調整が可能です。
2 ヘッドフォンに向いた機能
CA1000ではヘッドフォンでよく使われる6.53mmの標準プラグを搭載しています。これは大きさに余裕があるゆえですが、さらに3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスと多彩な端子があるのでまず接続には困らないでしょう。
また高性能ヘッドフォンは高インピーダンスのものが多いためにCA1000ではKANNをさらに上回るスーパーハイゲインモードを含む4段階のゲイン設定があり、最大15Vrmsもの超高出力を出してヘッドフォンを駆動することができます。
またCA1000ではソフトウエアの新機能として、クロスフィードが搭載されています。これは左右の音を混ぜることでより自然な音場感を得られるという機能で、ヘッドフォンリスニングをより快適にしてくれるでしょう。
3 家での使用に向いた多彩な入出力
CA1000は筐体の大きさを生かして、背面に多彩な入出力端子を備えています。
デジタル入力は光(角型)、同軸(RCA)を備え、充電専用のUSB Type-C端子とは別にデジタル入出力用のUSB Type-Cも搭載しています。またアナログ入出力(RCA)で機器を接続し、オーディオシステムの中でプリアンプとして使用することができます。しかもプレーヤー付きです。
こうしたすべての入出力設定は、タッチパネルで簡単に選択できます。
またMicroSDカードスロットも搭載しているので内蔵メモリを増やすことができます。
4 DAPの良さを継承したヘッドフォンアンプであること
そしてCA1000の最大の特徴はヘッドフォンアンプとしての視点に立つとよくわかります。それはヘッドフォンアンプでありながら、DAPの機能性と先進性を兼ね備えているということです。ヘッドフォンアンプならばDACとPCを別に用意してケーブルで接続する必要がありますが、CA1000ではすべて一体型です。さらに内蔵メモリを備えているので外部ディスクをつける必要もありません。
CA1000はES9068ASを4機搭載したクアッドDAC搭載で、単体DACとしてみてもかなり優れたDAC性能を有しています。
またA&K DAPはDLNAやRoonにも対応するネットワーク機能を有し、ワイヤレスでのファイル転送やBluetoothの送受信機能などワイヤレス環境に秀でています。またDACのデジタルフィルターやUSB DAC機能など書ききれないほどのA&Kソフトウエアを継承しているため豊富な機能性があります。
PCと単体DACを接続したのを上回るほどの機能を一体型で備えています。
一方でCA1000は最近A&Kが注力しているDAPの低ノイズ設計を継承しています。DACやアンプ回路を超高純度銀メッキシールド缶に入れてシールドした設計です。さらに CA1000では使用しないヘッドフォン端子をリレーを使って物理的電気的に分離するという徹底さを見せています。またバッテリーだとノイズレスのクリーンな電源を供給できます。これも据え置きではなかなかできない点です。
4オームとか8オームのスピーカーと違ってヘッドフォンでは電流よりも電圧の方が重要だし、小電力のプリアンプ段階だとノイズの影響が大きいから、ゲイン重視で低ノイズのAKのヘッドフォンアンプ設計は理に適ってると思います。
このためCA1000は単に大馬力ヘッドフォンアンプではなく、高感度イヤフオンにも向いています。家でイヤフォンで楽しむ意味を再確認させてくれるでしょう。
*インプレッション
CA1000はボックスを開けるとちっょと小声が漏れるほど存在感を感じます。火星探査ローバーを基にしたというデザインですが、どちらかというと「ガンダムか」というようなロボットメカ的なかっこよさを感じますね。大きなボリュームホイールも良いアクセントになっています。
筐体はヘッドフォンアンプとしてみると意外とコンパクトなので場所をとらずにちょっとした机の隅などに置いておけます。普通ヘッドフォンアンプはラックに入れるとか置く場所が決まってしまいますが、CA1000はちっょと手元に置いたり、少し奥の方に置いたりとそのときそのときで自由に使えます。
ティルト液晶のおかげでデスクトップで使いやすく、このおかげで積極的に使う気になります。重量があるのでタッチしても動きにくいのがいいですね、特にキーボードで文字入力がしやすいと思います。ただDAPにクレードルつけても、指で押すと動くと思うのでこれはいいですね。この良さは特に机の奥に置いたときに感じます。
それと大型液晶でアルバムのカバーアートを観ながら音楽に浸れるのも意外と新鮮です。DAPだと選曲操作時以外はバッグやポケットに入れてしまうから見ないのですよね。
操作はA&KのDAPを使用している人ならすぐにわかるでしょう。液晶の下部分をタッチするとホームに戻るA&Kらしい仕様もあり、 DAPそのまんまの使用感でヘッドフォンアンプが使えます。
最近のAstell & Kernの流れとして本製品でもシールドされた電子回路のように徹底的にノイズ低減が図られていますが、CA1000では使用されない端子はメカニカルリレーで回路から切り離すと言う徹底されているので、カチッというリレー音がたまに聞こえるのが高級オーディオ感があって良い点でもあります。
音源用意の段階でDAP+ヘッドフォンアンプの新鮮さを体感できます。内蔵メモリーが256GBもあるのでDSDとか192kハイレゾのような容量食うのを入れるのに良いですね。いくらストリーミングの時代と言っても限界がありますし、DSDはストリーミングもないですから内部メモリが必須です。DSDネイティブ再生もたっぷりと楽しめます。microSDもあるので容量にはあまり困らないでしょう。
バッテリーは実測で10時間くらいで、1時間で10%前後減るくらいです。バッテリーはSP2000Tあたりの倍の容量だからそれなりにアンプあたりに電力がまわっていそうです。発熱はなく、 SE180のCカードに似てるかんじてはあります。オーディオ的には熱があると頑張ってる気はするんですが、電子機器があって熱いとジョンソンノイズのような熱ノイズが出るので、低ノイズ化のためには発熱がない方が良いでしょう。その辺も最近のA&Kの低ノイズ化のトレンドに沿っている気はします。
・ヘッドフォンでのインプレ
CA1000をちょっと聞いてみるとやっぱりDAPの音ではないと感じます。余裕があって深みがあり、据え置きの音がします。たしかにバッテリー駆動の据え置きオーディオという感じ。雑味が少なくクリーンでアナログ設計に余裕がある感じの滑らかさと奥行き感です。DAPだとどうしてもこじんまりとして箱庭的な音になりがちですからね。
この点でCA1000にはやはりヘッドフォンが一番似合います。ベイヤーのT1をベースにしたAK T1がかなり相性がいいと思いました。A&Kブランドのイヤフォン・ヘッドフォンはそれなりにA&K機器との音色の相性は考えられているように思います。
音の細やかさもよくわかるし、音空間の奥行きの広さもかなりのものです。
特筆すべきはデジタルっぽくない音の柔らかさと音の美しさ。アナログ回路が良くて余裕がある。特に低音の豊かさでそう思う。ブオーンという超低域の深みがちょっと聞いたことないくらい。一つ一つの楽器の音が美しくずっと聴いていたくなります。打撃が鋭く、トランジェントの立ち上がりと立ち下がりも俊敏でいいですね。
T1pは側圧も控えめで半開放なので家で使いやすいです。
クロスフィード機能を使用してみると柔らかく聴きやすくなり、自然で音質低下も少ないと思ます。長時間聴いている時にも良いかもしれません。録音がきつめの時に使っても聴きやすくできます。カスタム設定もできるので、ミキサーレベルは少し上げ気味の方が違いははっきりと出ると思います。
次に高インピーダンスヘッドフォンとしてHD800を使ってみました。ゲインはHighでも音量が取れますが、Super Highだとさらに余裕があってより一層力強さも加わる感じです。HD800の特有の左右の広さに加えて、CA1000アンプの奥行き感表現もあって音場感の良さは魅力的です。
音の歯切れも良く、ロックでのドラムのアタックの打撃感も小気味良いですね。
高インピーダンスの次は低感度を鳴らしてみようということで、古い平面磁界型で鳴らしにくいAudeze LCD-2を使ってみました。最近の平面磁界型は高感度化していますが、このころのはなかなかに難物です。
LCD-2も音量自体はHighでも聴ける音量で取れるけど、Super Highにした方が音に活力があります。音の歯切れもよく、パワフルで音の深みも良いですね。CA1000は十分に平面磁界型でも使えると思います。LCD-2がハイエンドの平面磁界型らしくとても細かい解像力があってウッドベースのピチカートがかなり生々しく感じられ、ちょっとハイエンドオーディオで聴いてる感じに近い音レベルです。このくらいの音質レベルになってくると音源の良し悪しがかなりはっきり出てきますね。いまはケーブルが標準プラグしかないけど、4.4mmバランスだとさらに良いかもしれない。
密閉型ヘッドフォンでポータブルのCampfire Audio Cascadeも使ってみました。ゲインはミドルで十分という感じです。音が早く、HD800より音のキレが良いのがよくわかります。低音の迫力もまるで爆発するように気持ち良い。
色々使ってわかったのは、HD800の空間再現の良さやCascadeの低音の暴力感など、ヘッドフォンの個性がよく引き出されると言うことです。
・イヤフオンでのインプレ
基本的にはAstell & Kernの上品な音作りなのでA&KのZERO1がやはりよく似合います。ものすごく透明感が高いく、音の細かさはハイエンドDAPなみです。違いは奥行き感と厚み、重みや深みがCA1000にはあることです。脚色感は少なく録音忠実度が高い音です。
マルチBAカスタムのES80を聴くとDAPでは聴けないようなスケール感にちょっと感動します。ものすごく細かい音が雨のように降ってくる感じはDAPのままに思います。
・アクティブスピーカー
家のアクティブスピーカーにも繋いでみました。配信動画用にiPadの3.5mm音声出力に繋いでいたクリプトンのパワードスピーカーKS-1に繋いでみると見違えるように良い音出すので驚きます。当たり前といえば当たり前ですが、ケーブルは安いので使ってただけにちょっと驚きです。音が回り込む感じとか、音が繊細で歪みのないピュアなオーディオらしい音。KS-1はいいスピーカーだとは思ってたけど、タブレットという名のリミッターつけて使ってたわけで、リミッターが解放されるとさすがにデスクトップにはもったいないくらいのいい音です。
KS-1には内蔵DACがありますが、直接デジタルで入れるよりもCA1000からの3.5mmケーブルのアナログの音の方が格段にいいですね。DACのレベルが大きく違うので低価格ケーブル経由とは言え、当たり前と言えば当たり前ですが、それは実際に使わないと気がつかないものだったりします。
ヘッドフォンアンプはバイパスされるようなのでRCAアウトの品質もいいと思いますので、RCAから出力とってFostexやGENELECみたいなパワードスピーカーに使うのもいいですね。CA1000は音がスピーカー向きだと思うので、スピーカー用のパワーアンプのプリアンプとして CA1000を使用してもいいでしょう。
総じて家ではかなり使い出があると思います。
*音質のまとめ
CA1000は音質レベル的にはアンプ込みでHugo2と比べても甲乙がつけ難いくらい高いレベルがあります。CA1000の個性としてはノイズレスの透明感と響くようなSN感の高さ、加えてアンプの力か深みがあって奥行き感が深い点がいい。音楽世界に引き込まれる音の深みが素晴らしく感じられます。
良録音の音源とT1pのようなフラッグシップでフラットなヘッドフォンと合わせると驚くように魅力的です。
これも持ってる曲を片っ端から聞き直したくなるタイプの機材ですね。
音の細かさ自体は今までのAstell&KernのハイエンドDAPのものだけど、DAPみたいに音の細かさというよりもアンプの強化でもたらされた音の深みと奥行きに注意して聞いて欲しいと思います。
* 全体のまとめと考察
CA1000はいままでにないタイプの機材なので考察をもう少し追加してみます。
CA1000はヘッドフォンアンプとして考えると画期的です。
まずシステムを組む必要がなく頭を巡らせる必要がないこと。ヘッドフォンアンプはDACが必要でさらにPCとも繋げる必要があります。T1pと合わせて聴く高音の透明感があって空間の深みもある澄んだ響きは普通にPCオーディオで組んでも難しいと思います。かなり高精度な光デジタルケーブルを使うとか、PCオーディオとして良い音を出すにはOSの設定などもいろいろと考える必要があります。CA1000の音質はMacでインテジャーモード使ったなみ、あるいはそれ以上の透明感やクリアさをあっさりと出してしまいます。PCオーディオ知ってる人だと革命的な感じですが、ポータブルオーディオでは普通なんです。それを合体させたのが CA1000です。
CA1000はRoon Ready機器として動作しますが、これにRoon Coreを載せられたらとか思いますね。ハイエンド・ヘッドフォンアンプに高級なDACを組み合わせてさらに最新の注意を払ってPCかMacを乗せれば、もしかするともっと良い音が得られるかもしれません。しかし、CA1000の価格の何倍するかわかりませんし、すべて電源をオンにするだけで面倒になるでしょう。
それとイヤフォンにこれだけ向いてるヘッドフォンアンプってなかなか無かったと思います。ヘッドフォンアンプは高インピーダンスとか平面磁界型とか鳴らすのに向いた機種が多くてパワーあっても大味なものが多かった。DAPは簡単に操作でき、音は細かいけどヘッドフォンアンプに比べるとこじんまりとしています。ACRO1000はそのいいところがミックスされています。家でイヤフォンの出番を増やしてくれる機材とも言えます。
使い勝手でいうと、CA1000に関しては使用してみないと良さは解りにくいとは言えます。ティルトディスプレイとガッチリしたボディの使い心地もよく、家では常にWIFIに繋いでるのでハイレゾストリーミングにも向いてますのでOpenAppの稼働率も上がります。
それとやはり標準プラグをアダプターなしで刺せるのは良いです。
この音で持ち運べると良いんだけど、アナログ部分はどうしても物量だからそれは無理でしょう。基本的に家で使って、家のあちこちや机のあちこちに移動するのための「トランスポータブル」なので、あまり持ち出すことは考えないほうが良いでしょう。コロナ禍で通勤が減って在宅が多くなってDAPの稼働率が低くなって人にも良いでしょう。リモートオフィスにスタバやドトールにもっていくのはありかもしれません。
外でAKのハイエンドDAPを高性能イヤホンと組み合わせて楽しんで、この音が家でさらにスケール感良く聴きたいと思ってる人にはCA1000とT1pの組み合わせがオススメです。
手軽で音が良く便利なCA1000はおそらく結局は稼働率が高く、そういう意味でのコスパは高いのではないかと思います