バランス化されたEdition7は凄みさえ感じる音の表現力がありますが、それがどういう音かを書く前に、まずシングルエンドからここに至る道を書くことが有用ではないかと思います。
わたしのヘッドホンのバランス化のステップはおおよそ二期に分けられます。
まずGS-Xを買った初期から第二回ハイエンドショウあたりまでで、それまではHD650とK701という現行機のバランス化をしていました。これらはフラッグシップとはいえ特に珍しさはありません。逆に言うとバランス化というものでどのくらいの変化があるかということが分かりやすいとも言えるでしょう。
第一回ハイエンドショウのときはわたし自身もバランス化といっても五里霧中でいたわけですから、よくわからないけど可能性を感じます、という感じです。しかし霧の中から方向性というものがやがて分かってきて、第二回ハイエンドショウでハイエンドプリアンプとEdition9を相手にしてみるといろいろと思うところがありました。
そこで次のステップとして、いまでは希少であるリミテッド・ディスコンに目を向けました。これはバランス化について確信がもてたので、そうした希少な機種を改造するという行為も許容することができるようになったということです。
それがCD3000(BlackDragon)やGrado HP-2(BlackGold)です。そしていよいよDrewさんがやってくれそうだということでEdition7のバランス化に取り掛かるわけですが、しかしこのEdition7をバランス化するにあたっては「どのケーブルでバランス化」するかという課題がありました。Drewさんに頼むということでもBlackDragonとSilverDragon/BlueDragonの選択があります。
いまL3000のバランス化にどうとりかかるかで考えていると書きましたが、あるヘッドホンをリケーブルする際には、まずそのヘッドホンのことを深く理解する必要があります。その上でどういう音にしたいかという方針を立てるわけです。もちろんケーブルについても同様です。
そこで第二期にバランス化したヘッドホン(CD3000とHP-2)とストック(改造していない)のEdition7で試聴テストを繰り返してみて自分の考えをまとめてみました。
つまり本記事は少し時間を巻き戻して今回のリケーブルをMoon Audioに頼む前に行なったときのメモをもとにして記事を書いています。つまり以下のedition7のコメントはバランス化リケーブル前のオリジナル・シングルエンドでのコメントです。またケーブルが異なるEdition9はまた違う結果かもしれません。あくまで標準状態(ストック)のケーブルのEdition7についてのコメントです。
テストに使ったのはいつもの下記システムです。DLIIIはすべて96kで聞いています。
IKEMI->DLIII->GS-X
BlackDragon Balanced MDR-CD3000
BlackGold Balanced Grado HP-2
ストック Single-ended Edition7
1. まず全体的な印象です。
バランスCD3000は音場が非常に広く3次元的な広がりがあります。もともと二次元的な広がりのあるCD3000ですが、バランス化でそれが立体的にホールのように広がる感じです。これはバランス型共通の特徴ですが、CD3000は顕著です。ただしSONY的というか音色が無機的な側面がありますが、リアルというと一番リアルに鳴ることも多いですね。切れは良くて軽くからっとしている分でよく響くという感じです。
HP-2はもともと全域のバランスがフラットでスピードがありますが、バランス化とBlackGoldリケーブルで適度なウォームさとウエットさが加わってとても艶っぽい側面があります。横方向の広さという点ではそれほどではありませんが立体的な広がりと密度感はあって、バランス化の利点を感じます。
ストック(シングルエンド)Edition7は音自体に密度感とか重みがあり、繊細な切れがあります。低域も重いのですが、量感は意外とバランスCD3000と大差ありません。
2. 次に細かいテストで良録音のCDとかオーディオベーシックの試聴用CDを使っています。
まずギター曲ですが、Wil Ackermanのグラミー受賞のReturningとかFaKIEのギターソロなどを使っています。
ピッキングの歯切れのよさはかなりいい勝負ですが、わずかストックEdition7が細密感がありさらに全体に重み・密度感があります。ただし音場はコンパクトで普通という感じです。
バランスHP-2はウォームな良さがあり艶がのっていて音楽的で力感があります。バランスCD3000はリアルというと一番リアルで、かなり広くて軽めの音再現です。ストックEdition7に細やかさで少し及ばない気がします。ただしストックEdition7はよく聴いてみると透明感・クリアさに劣ります。ここはケーブル由来に思えました。
次にコントラバスデュオのSoNAISHのAmapora(オーディオベーシックの試聴ディスク)を使って低域のテストですが、実はここが一番差がついたところです。さきの高い方は実のところ3者で差はあまり大きくないのですが、低域はやや差がつきます。これは量というより質的なものです。
低域はバランスCD3000が一番はっきりと良く感じて、ベースのうなりのリアルさと解像感があります。いわゆる松ヤニが飛ぶように感じて、広がりとともに量感も一番感じます。ただし期待するほど下に沈まないのはおそらくドライバーの限界だと思います。逆に言うとこのくらいまでリケーブルしないとドライバーよりもケーブルが足を引っ張ってしまうことになります。バランスCD3000ももともとは低域の量も質的にもそこそこという感じなので、バランス化・リケーブルのメリットがかなり出ていると思います。
バランスHP-2も質は良く、低域の解像力は一番かもしれません。CD3000に比べれば音表現はややこじんまりとしながらも質感表現が秀逸です。
ストックEdition7の低域はこれだけ聴くといいように思えますが、バランス・リケーブルされたCD3000/HP-2と比べると質感がのっぺりとしてあまり解像感を感じません。量的な意味での低域の張り出し感はありますが下に沈みません。リアルで松ヤニが飛んでくるようには思われないし、またインパクトが甘めです。
今度はハルモニア・ムンディの優秀録音盤などで込み入ったシンフォニーやオペラ、ピアノソロなどを聴いて、全体的な音再現を聴いてみるとストックEdition7は全体に厚みのある濃い音で好ましい感じはしますが、音の広さや情報量、全体的な表現力でバランスのCD3000とHP-2に負けてしまいます。
テスト的に聴かないで聞き流してもやはりストックEdition7はバランスヘッドホンに比べると細部のテクスチャのなさで物足りなさを覚えます。情報量が足りなく、音のインパクトも全体に甘めできびきびとした反応感にも欠けます。またリアルさに欠け、立体感が少なくこじんまりと聴こえます。
3. 総じて言うと、ストックのシングルエンドEdition7は単体で聴いていると文句がないけれども、こうしてテストしてみると粗がでます。
たとえばEdition7の低域はすごいと思っていても実は解像力という部分では表現力に劣り、下も沈みが足りません。これらはシングルエンドの問題というよりも、むしろケーブルに起因する問題だと思います。せっかくの高価で良いドライバーがあってもケーブルの性能でリミッターがつけられてしまうのはいささかもったいない気がします。
バランス化のひとつのポイントはそれがリケーブルでもあるということです。バランス化による変化とともにリケーブルによる変化も同時におこります。
そこでバランス化するにあたってなにでリケーブルするかということを考えると、高域方向はあまり差が出ないということ、またEdition7の厚み・密度感というよいキャラクターを生かすため、物足りない下への限界を高めるため、リケーブルにはSilverDragonよりBlackDragonがよいと思われました。BlueとBlackではCD3000のBlackDragonの広がりと低域性能、クリアさがすごいと感じとれBlackDragonにより魅力を感じました。
今回はMoon Audioありきなので、対象外ですがBlackGoldも適度なウォーム感・艶とともに音楽性に優れていてかつバランスが取れています。音のエッジはシャープでスピード感がBlackDragonよりあります。
バランス化にあたっては、バランス化によってなにが変化するのか、なにがしないのか、リケーブルでどう変化するのか、というところを見極めるのが大事だと思います。
もしケーブルを変えないで端末だけバランス化としても、せっかく電圧も電流も増えて駆動力があがるのにケーブルの品質が足を引っ張っていたらバランス化を活かしきれないということになります。
今度はこれらをふまえてBlackDragonでバランス化したEdition7の音についてコメントしてみたいと思います。
また一連のバランス化でおもしろい側面は(HP-2をのぞくと)みなBlackDragonでそろえたことで、これらのバランスヘッドホンではケーブルの差がなくなり純粋にドライバー(とかハウジング)の音の違いがわかるようになったということです。
この辺の比較ももう少し音が落ち着いてきたらやってみたいものです。
Music TO GO!
2007年07月18日
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比較試聴することで機種間の差がはっきりして、各ヘッドホンへの理解が深まりますね。
特徴を伸ばす、不満点を補うという両面からリケーブルを検討していくと間違いのないところに着地できる気がします。
音質の追求は奥が深い!
そうですね、愛するためにはまず理解する、という感じでしょうか(^^