去る7月1日はウォークマンの日で、42年前に記念すべき初代ウォークマンが誕生しました。そしてユニークなDAP製品がOriolusから発売されます。初代ウォークマンそっくりのデジタルオーディオプレーヤー「Oriolus DPS-L2」です。
DPS-L2は外見は初代ウォークマンそっくりのカセットプレーヤー風ですが、中身は最新のデジタルプレーヤーです。いわば「レトロとモダンの融合」です。
Oriolus DPS-L2
左が初代ウォークマン
* TPS-L2 初代ウォークマン
まず初代ウォークマンTPS-L2について多少解説します。この初代ウォークマンの登場によってはじめて屋外でステレオ再生で音楽を楽しむことができるようになり、音楽を外で楽しむ文化が生まれたと言っても良いでしょう。それまで外で音楽を聴くのはFMポケットラジオなどだったわけです。
初代ウォークマンTPS-L2
ソニーのサイトにその誕生物語があります。
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-05.html#block3
端的に言うとモノラルだった取材用の「プレスマン」をステレオ再生可能にして、録音機能を省いたのが初代ウォークマンと言えます。そのためマイクも付いていたのでホットライン機能(今でいう外音取り込み・ヒアスルー機能)も搭載されていました。これもDPS-L2に引き継がれています。
面白いのは上リンクのプレスマン改造機を見るとわかりますが、ケーブルが二個の端子から今のバランス駆動のように2本出てます。これは当時ステレオミニ端子がなかったのでこのようにモノラル端子を二個使用してステレオ再生できる工夫をしていたからのようです。今でいうと3.5mmを二本使うTRSバランスのようなものですね。しかし初代ウォークマンの発売時までにはステレオミニ端子が搭載されたので、端子が余り「恋人と聴けるように」と宣伝してたGuys&Dolls(のちにA/B)になって二本端子がそのまま活かされたと思います。
初代ウォークマンの内部メカ
TPS-L2は当時のソニー製品らしく外も中もきちんと設計されていて、実際にいま音を聴いてみてもそう悪くありません。
初代ウォークマンとカスタムイヤフォンJH Audio Layla
* Oriolus DPS-L2
OriolusのDPS-L2はその初代ウォークマンのオマージュともいうべき製品です。
こうした製品はソニー自身が初代ウォークマン発売40周年を記念してA100シリーズをベースにしたNW-A100TPSがあります。A100TPSは画面は凝っていましたが、ハード的には大きな差はありません。しかしながらDPS-L2の方はさらに動作ボタンをメカボタンにするなどより凝った設計がなされている点がポイントです。
大きいほうが初代ウォークマン
このこだわりはかなり細かいところまで考えられていて、初代ウォークマンのトーン切り替えスイッチがあったところには、似たようなデザインでゲイン切り替えスイッチが設けられています。またHotline機能も同様に取り入れられています。これはオープンエアヘッドフォンを採用していた当時に比べると、密閉型のイヤフォンの多い今の方が使える機能でしょう。
オレンジがHOTLINEボタン
二者を並べてみると重さはそう変わらないのですが、DPS-L2の方が一回り小さく作られています。メカボタンの感触はDSP-L2では軽めですが、これは実際のテープのメカのようになにかを押し込むわけではないので致し方ないでしょう。
DPS-L2の筐体はアルミ合金製で、初代同様にスライド方式のアナログボリュームコントロールが左右別に採用されています。これはアルプス製の高精度のタイプです(バランス対応)。再生やスキップボタンもタッチではなくメカボタンで再現されています。
再生ボタンでは押すとメカ機構で再生ロックがかかるという機械式ならではの仕組みも組み込まれています。だから止めるためには停止ボタンを押して再生ボタンを解除することになります。これは当時の仕組みにそった形です。
こうしたアナログ・レトロ的な機能とは対照的にリモートでプレーヤーをコントールできる「Hiby Link」やUSB双方向データ通信など最新の技術も搭載されているのがDPS-L2のユニークな点です。Hiby LinkはスマートフォンにHiby MusicアプリをインストールすることでBluetooth接続によりアプリを使用してスマートフォン側でDPS-L2の内蔵音源のリスト表示や音楽の再生指示ができる機能です。
中身も半端ではなく、心臓部であるDACチップにはESS ES9038PROを採用しています。これはポータブルではなく据え置き用のハイエンドクラスのDACチップです。スペックも優れていてPCMは44kHz〜384kHz,DSDはDSD256までサポートしています。ヘッドフォンアンプはバランスとシングルエンドが別で6ch(バランス4ch,シングルエンド2ch)持っているという凝りようです。
内蔵メモリはなく楽曲はMicroSDに格納します。Bluetooth送信が可能なのでワイヤレスで聴くこともでき、AptXにも対応しています。USB-C端子によってPCからのデータの転送を行うことが可能で、USB-Cタイプのメモリを使うこともできるということです。USB端子はUSB DACとして使用することができ、この場合にはPCM192kHz,DSD128までに対応しています。
さらにUSB OTGケーブルを使用することで外部USB DACに出力することもできます。この場合はPCMが192kHz,DSD256まで対応しています。
このようにレトロでアナログな外観と最新最高クラスのデジタルの中身が組み合わされたユニークなDAPだと言えます。
* インプレッション
実際に操作する際には本体の蓋を開けてメニューボタンや前後ボタンで楽曲を選択して、再生や早送りはメカボタンを使うことになります。再生する時には再生ボタンをメカ的に押し込んでロックするとそのまま再生が始まって継続し、停止ボタンを押すとロックがカチッと外れて再生終了します。巻き戻しとスキップはその瞬間になされてロックはかからずボタンは戻ります。メカボタンでの操作はテープを実際に使っていた私もなかなかに楽しく、いまのユーザーならば新鮮な面白さがあるでしょう。
ただ液晶はタッチではなくサイズも小さいので曲が多い場合には、Hiby Linkと組み合わせて使うという使い方が一般的だと思います。Hiby Musicアプリを用意して、本体とスマホでBluetoothのペアリングをして、Hiby Musicを立ち上げて接続するとスマホのHiby Musicアプリに本体内蔵の音源がリストされます。
具体的に言うと、まず再生メカボタンを押し込んで再生状態(再生モードと言ったほうが良いかも)にして、曲選択をスマホ上のHiby Link(Hiby Musicアプリ)で行い、音量は本体のアナログスライダーで操作するのが最もやりやすい方法です。メカとスマホの混合です。
再生中はカセットテープのような画面が液晶に表示されるのも面白いんですが、ここはさすがにソニー純正のように「AHF」や「BHF」など実在したテープの名前は使えません。当時にはよく自分だけの好みの音楽を入れた"マイベスト"テープを編集してましたが、これは現在ではプレイリスト機能に相当しますね。
音質は4.4mmバランスでCampfire Audio ARAを使用して聞いてみました。音質レベルはかなり優れていて、音に豊かさと深みのあるオーディオらしい音です。
ESSらしいニュートラルな音調ですが乾いた感じは少なく、デジタルっぽさは少なめという点でオーディオ回路の高品質さが感じられます。このためにアナログ的な音楽の楽しさを堪能できると思います。ただしあまり真空管的な柔らかい音ではなく、あくまで端正でしっかりした高品位な音造りです。音の先鋭さと解像力の高さはESSらしい点で、高音はとても伸びやかでベルの響きがよどみなく美しく聴こえます。録音に含まれる細かな背景音もよく聞こえてリアルです。低域は誇張感がなく、ウッドベースの弦の擦れがよく聞こえます。中音域はクリアでヴォーカルが鮮明に楽しめます。
音はよく引き締まっていて緩みが少なく、ジッターの少なさがうかがえるのでここでもデジタル臭さは抑えられていると言えますね。帯域バランスも優れていて音質的にも大変優れています。
特にバランスがおすすめで、4.4mmで聴くとかなり力感があり太くて強い音が印象的です。パワフルで迫力がある音で、いわゆる「ガッツのある音」という昔オーディオフレーズが思い出されます。音の広がりもよく、スケール感もあります。
総じて言うと音質的にはトップクラスに引けを取らないくらいのかなり優れたDAPだと言えます。タッチ液晶を排したのも音質的にはプラスの効果があるのかもしれません。
このようにDPS-L2は遊び心満載の機材でありながらも、中身は最新・最高クラスの再生が楽しめるユニークな製品となっています。日本製よりも凝った初代ウォークマンへのオマージュ製品を中国が作るというのも面白いのですが、それだけ日本製品が他の国で愛されていたということの証しといえるでしょう。