Bluetoothの新オーディオ規格であるLE Audioを含むBluetooth 5.2の最新改訂版(2020/1/6付け)のオーバービューが公開されています。
ここでは3つの追加が書かれていますが、ここでは3つめの(LE Audioのために)物理層にアイソクロナス(同時性)転送が追加されるというところについて書いてみます。(P26の3章から)
3.1.5のオーディオセクションで新しいLE Audioに対して、A2DPは古いBluetooth BR/EDRに基づいていると書いているので、LE AudioはA2DPとは異なるソフトウエア(プロファイル)になるような気がしますね。
3.2ではLE Isochronous Channel(アイソクロナス - 同時性転送)について書かれています。
これは複数のSink(受け手)が単一のソースから送信された時間的制約のあるデータ(time bounded data)、つまり音楽とかを同時に同期して受け取るということです。アイソクロナスというのは同時性とか等時性と訳されますが、時間が意味を持つという意味です。
これは定められたレイテンシー通りに転送する、time-limited validity(時間的有意)がなくなれば捨てられるとありますので、時間で受け取れなかったデータは欠けるということになりますね。
アイソクロナスはUSBにもIEEE1394にもありますが同じです。つまりデータの正しさよりも時間が優先ということです。たとえばアプリデータの転送ならばこれは許されなく、時間よりもデータの正しさが優先なので欠けたら再送させます。同時性転送の場合には欠けたら時間的にもう有意ではないので再送しても意味がありません。
ちなみにUSBの場合には転送モードのひとつとしてデータ転送用のバルクモードなどと並んで音楽用にアイソクロナスがあって、アイソクロナスの下にアシンクロナス(非同期)とシンクロナス(同期)があります。
ユースケースとしては次のものがあげられています。
1. Personal Audio Sharing
ひとつのスマートフォンから何人もの友人が同時に音楽を楽しむこと。この場合は友人たちのBluetoothヘッドフォン(sink)が一つのグループとみなされるようです。
2. Public Assisted Hearing
シアターなどで映像の会話をブロードキャストするということ。
3. Public television
例えばジムなどで映像の音声を同時に聴く
4. Multi-language Flight Announcement
飛行機内でBluetoothイヤフォンなどで言語選択してから機内放送を聞く。
3.2.2は具体的なアイソクロナス転送が書いてありますが、ここは技術者向けです。この転送は新しいLEアイソクロナス物理チャンネルが使われますが、コネクションあり(CIS - connected Isochronous stream)となしがあって周波数ホップしてアンカーを決めLE-SとLE-Fがどうたらこうたらというやつです。このコネクションありが友人同士で、コネクションなしがブロードキャスト(不特定多数)となるでしょう。
3.2.2.2のところでCISはグループ化してCIG(Connected Isochronous group)となり、それぞれの転送スケジュールはイベントとサブイベントで制御されるとありますので、これがさきに出てきた受信グループでしょう。このイベントは5msから4sまでの1.25ms単位のトリガーになるというので、LE AudioにおけるBluetoothのレイテンシーは理論的な最小値が5msで、レイテンシーのカウントは1.25ms単位となりますね。
3.2.2.4ではグループ内のSinchronization(同期)が書いてありますが、ここはたとえば完全ワイヤレスの左右ユニットの同期のことが触れられています。完全ワイヤレスの左右は二つのSink(受信機)とみなされます。それどれCIS(コネクションあり)でスマートフォンと接続され、CIGとみなされます。
この転送は連続したイベントになります。それぞれのイベントは決められた遅延時間内にすべてのSink(左右イヤフォン)に届いてはじめて再生されます。つまり一つ目のイベントはかならず二つ目のイベントよりも前に再生される(レンダリングされる)ため、左右の音の同期が確保されるということになるのでしょう。
ちなみに今話しているのは物理層(パケットの送受信)の話なので、プロファイルなど上の論理層では違った遅延の定義があるかもしれません。
ちなみにCIGには31個までのCISを含むことができます。完全ワイヤレスは2つのCISを使うので、完全ワイヤレスを使う場合には、15人まで同時に音楽シェアリングできるということになりますね。15人も一緒に聴きたい友達がいる人はそうないと思うのでこれはいいでしょう。
ブロードキャストではコネクションなしなので、いささか状況が異なりますが、いずれにせよブロードキャスト内にある完全ワイヤレスでも左右の音は同期しなければならないので、やはり似たような同期メカニズムがあります。
BIGでも持てるBISは31までなので、空港ラウンジ内に完全ワイヤレスの人が多いとちょっと困ったことになるように思いますが、その場合は論理層でなんとかするのでしょうね。
あと3.2.2.7のセキュリティですが、この辺はペアリングに関係してきますね。ペアリングは送り手と受け手が相互にカギを交換することです。
コネクションありはいままでのペアリングとして、コネクションなしのブロードキャストってペアリングはどうなるんだと思いますが、このために新しいLE security Mode3という新しいセキュリティレベル群が用意されています。レベルはセキュリティなし、認証されたブロードキャストコードの使用、未認証のコードの使用とあります。おそらくコードは以前のBluetoothの様に画面に3241とか出てきてそれをタイプインするというようなことだと思いますが、イヤフォンでそれができるのかはちょっとわからないところですね。現実的にはおそらくセキュリティーなしのモードになると思います。