Simphonio VR1はシングルドライバーダイナミックのハイエンドイヤフォンです。VR1は昨年の春のヘッドフォン祭に出展されて好評を得ています。この時はCHORD DAVEのシステムでデモされていて驚くほど高い音質を味わわせてくれました。
私はその後に雑誌の記事を書くために再度借りたのですが、その時はまずAK380と組み合わせてみると、良いけれどもさすがにDAVEで聴いたほどではないか、とはじめは考えました。その後にSP1000と組み合わせたところ、あのDAVEと組み合わせたようなものすごい音質を再生して、えっなんでこんなにプレーヤーで違うのとあらためて驚いたのを覚えています。
それでVR1に興味を持ち、また貸し出してもらって今回詳細にレビューを書いているというわけです。VR1は七福神商事から発売が決定されて、フジヤさんで専売されます。今度のポタ研に出展されますので参考になればと思います。
*Simphonioについて
この開発者の方とは随分前からメールでのやり取りをして知ってはいました。聞いた話によるともとは有名メーカーのOEMを手がけていたのですが、Sunriseという自社ブランドを立ち上げて製品を作ってもいました。私がまだヘッドフォン祭で自分のブースを持っていたとき(2011年頃)にデモ機を送ってもらって参考展示したりしていたのですが、ここにちょっと書いています。(自分のブースを持っていると他に参加できないので、のちに自分でブースを持つのはやめましたが)
http://vaiopocket.seesaa.net/article/199951950.html
その後にSimphonioという会社を立ち上げています。Simphonioはとにかく音質を第一に提供するというブランドで、他の要素は二次的に考えるというオーディオファイル的なブランドということです。VR1の他にはDragon3というハイインピーダンスのインイヤー型のイヤフオンもありますが、こちらも見た目はスマホの付属イヤフォンだが音はよいというものなのでコンセプトがわかってもらえると思います。
他の製品などについては公式ホームページをご覧ください。
http://www.simphonio.com/index.html
*VR1とセラミック振動板
VR1は形式的にはシングルドライバーのダイナミック型イヤフオンです。
ユニークなのはセラミックを積層させて形成した「セラミック振動板」を採用していることです。普通セラミックは陶器みたいなものなので成形して焼き入れして加工しますが、ここではまったく新しい方式でセラミックをあるベース素材に積層を繰り返すことで成形するという研究所レベルの技術をもちいて製作されています。良い例えかわかりませんが、セラミックの3Dプリントみたいなものでしょうか。
これはSimphonioの件の開発者の知人にこうした研究者がいて、その要素技術をなにかに応用できないかということで、 開発者がイヤフオンの振動板に応用することを思いついたということのようです。つまり他でこの技術が使われるということはないでしょう。
いままでもVSTのようにイヤフォンでいわばスーパーツィーターでのセラミック応用はあったのですが、この技術を採用することで14.2mmという大型のフルレンジ振動板が可能となりました。そしてもう一つ重要なポイントがありますが、これはもう少し後で書きます。
このセラミック振動板はセラミックなので軽くて硬いという、振動板に好適な特徴を持っています。硬くてたわみにくいので、ダイナミックドライバーが中央の一点で振動していても場所によって振動が異なるということが生じにくいわけです。このことで全面が均等に動きやすいので平面型のような特性を持つことができます。
また軽くてすぐ動けるので入力信号に正確で動きが早いという利点もあります。また止めたいときに止められるので余分な附帯音もつきにくいというわけです。
それなりの解像力だとそれなりの音になるし、解像力が高いとすごい音になるというのもこの辺から推測ができます。
そして先に書いたもう一つのポイントはこの積層方式の成形によって、振動板の厚みを局所的に自由に変えることができるということです。このことで振動板の周辺部・縁の部分を薄くすることで、あたかもスピーカーのエッジを持ったようにここだけ柔らかく作ることができるというわけです。
このことにより振動板の動きの自由度が高くなり、イヤフォンというよりはスピーカーのように深みのある音を出すことが可能になるということです。
公式サイトから
このセラミック振動板のデメリットはやはり高価について、まだ大量生産に向かないということです。まだ研究室レベルの技術の応用ですからそれは仕方のないところでしょう。
*VR1の他の特徴
他のVR1のイヤフオンとしての特徴はダイナミック型なのでベント穴がありますが、ベントが二個あるという点です。これは振動板を挟むように前と後ろにいわゆるアコースティックチャンバーのような空気室があってそれぞれについているということです。一つは耳穴の内側に空いていて耳内の空気室と連動しているということです。これらのことにより振動板がより自由に、かつ最適に動くことができるので豊かな音を実現できるということです。
こうしたイヤフオンの工夫はさきに書いたような開発者の長年の経験からくるもので、けっしてセラミック振動板だけのアイディア企業ではありません。
またVR1の外観を特徴付けているのはサファイア製のフェイスプレートです。サファイアも硬いので強度を上げるためということもありますが、一番の理由は見た目の良さで、開発者の意向として宝石のような製品を作りたいので加工しやすく強度を稼げる宝石としてサフアイアを選んだということです。
* VR1とケーブルについて
このVR1の音を引き出すには、このブログを見ている人にはいうまでもなく良いケーブルが必要です。
VR1は発売形態としてケーブル無しと推奨ケーブル付きの二種類があります。
推奨ケーブルにはCS1とCS10があり、それぞれ3.5mm端子と4.4mm端子のモデルがあります。
青いほうがCS10、黒いほうがCS1
CS10(いちぜろ)は単結晶の銅線と、銀メッキではなく無垢の銀線と、無垢の金線をよった線材を使用しています。
CS1は単結晶の銅線をクライオ処理したものと、シルバーの上にパラジウム(レアメタル)コーティングした線材を採用しています。
* インプレッション
Simphonio VR1は緑色の立派な化粧箱に入っています。中にはケーブルはなく、先に書いたようにオプション扱いになっています。イヤチップはいくつか入っていて、今回は標準添付のシリコンチップを試聴に使いました。
公式サイトから
またイヤチップと共にユニークな形状のイヤフォンバッグもついてきます。
VR1本体は14.2mmの大口径ということもあってそれなりに大柄な筐体ですが、耳に入れた時の装着感は悪くありません。金属製なのでずっしりとくる感じですね。ケーブルはCS1とCS10を使いましたが、どちらも凝った線材のわりには取り回しはしやすい感じです。ポータブルで使いにくいような硬いものではありません。この点で他の8芯線などの高級交換ケーブルなどに比べると使いやすい方だと思います。
はじめにAK380を使用してCS1で聴き始め、時折CS10に変えて違いをみてみます。
まずいままで聞いたことがないくらいの高いレベルの透明感と解像力の高さに驚きます。解像力というよりも情報量の多さというべきかもしれません。音の響きというか余韻、いわゆる楽器の松ヤニがとびちるような感覚ですね。このVR1の音を特徴付けているのはこの豊富な情報量からくる緻密な音の再現力です。一音一音の音の余韻によって、ものすごく小さな音が積み重なって豊かな音空間を作り上げているという感じです。
例えばバロックバイオリンは典型的な例ですが、古楽器らしい倍音というか音の響きのこまかな音がよく聞こえて来ます。中高域はとてもシャープで鋭いのですが、ベルの音が整っていて淀みのない美しい音色を聴かせてくれるのも特徴的です。この辺はハイエンドでなければとうてい味わえないレベルの音楽体験といえるでしょうね。
低音域もとても深く、ダイナミックドライバーらしい重みもあります。このため、ポップやロックのようなジャンルでもパンチのある音楽が楽しめます。ここはCS10に変えてみるとやや様子がことなり、CS1ではよりワイドレンジでより低い方の超低域が豊かであり、CS10はいわゆる低音を感じるところのやや上の方がやや強調されているように感じられます。
中域はもちろん声の明瞭感が高くはっきりと歌詞が聞き取れますが、ここでも情報量の多さがかなり効いていて、アカペラを聞くとよくわかるけれども、音の広がりと重なりが音のよいホールで聴いているようにリアルで鮮明に感じられます。
細かい音の重なりがとても立体的ですが、これはシングルらしい良好な位相特性による影響も大きいと思います。また楽器音が正確で、音色がそれぞれ違うのがよくわかるのも特徴です。
このVR1とCS1の組み合わせはおそろしく透明感が高く、解像力があるけれども、ずっと聞いていたくなるような豊かさがあって、この無数の音の粒子に包まれるような気持ち良さにいつまでも浸っていたい感じになります。
またCS1の特徴として透明感の高さ、ワイドレンジという他にわずかな心地よい味付けがなされているように感じられます。AK380はSP10000SS/CPなどのような特殊筐体とはことなり、それ自体に付帯音がないのでわかりやすいのですが、ちょっと隠し味的な味付けがなされているように思います。それがちょっと音を麻薬的な美しい魅力あるものにしているように思います。このために性能が高いからといって音楽を無機的に感じることはありません。CS10はもっと着色感は少なくプレーンな感覚です。
次にSP1000に変えてみると、いっそう音レベルが高くなるのがわかります。特に立体感は顕著に良くなり、音の細かさも一層上がってきます。よく聞くSpanish Harlemもあまり聞いたことがないくらいの高いレベルの再現力で楽しめます。こういう試聴曲は文字通り飽き飽きするほど聞いているのですが、新しい魅力を感じさせてくれます。
またSP1000では鋭いベースパーカッションのインパクト・アタック感など打撃感がより高く感じられます。この辺はスピーカーオーディオでも再現が難しいところですが、AK380だと音の良さはよくわかるけれども、こうした音再現の凄みというところまでは及ばないように思いますね。
SP10000ではSSとCPの違いもかなり明確にわかるのですが、特にVR1ではCPがおすすめです。低域の深みと重みを堪能でき、高性能ながら美しい音色で長い時間でも聞いていたくなります。
AK380にHugo2を加えてみてもさらに生き生きとした迫力ある音世界を聞かせてくれます。なにしろミニDaveのようHugo2ですから、再現レベルは東京インターナショナルオーディオショウに出てくるようなハイエンドスピーカーをきいているようなかなり高いものです。
情報量がたっぷりとしていて、それが音楽的に魅力的な音の豊かさ厚みにつながっているのがよい点ですが、こうしてみると普通のイヤフオンで拾いきれない小さな音はずいぶんあるものだと感心します。
* ケーブルの違いについて
ケーブルの違いについてもう少しまとめてみます。ただし両方ともエージングはあまりしていない状態ですので、使い込むとまた印象は変わるかもしれません。
3.5mmと4.4mmのバランスを比べてみるとCS1/CS10ともに、バランスにすると音の広がり、音の力感ともに向上します。これは一般的なバランスとシングルエンドの差と同じですが、CS10の方がややバランスとシングルエンドの差が大きいように思います。これはおそらくCS10の低域の出方によるものだと思います。双方ともシングルエンドに戻すと音が軽めに感じられますが、線材がよいせいかあまり音が薄くなる感じはありません。
またCS1とCS10の違いをいうと、CS1の方はより透明感が高く、周波数特性が良くてフラットに近く聞こえ、よりハイエンドで高域と低域がより広がって聞こえます。CS1はより声とか楽器の違いがわかる感じですね。またさきにも書いたように着色感というよりはより音が美しく聞こえます。
特に透明感の高さが顕著で、いままで聞いたケーブルの中でもかなり高いレベルです。
CS10の方はやはり高いレベルですが、先に書いたように少しですが低域に強調感があってよりポップやロックには向いている感じがします。 CS1はより良録音のジャズやクラシックに向いているような音再現です。
* まとめ
このVR1は音への追従性能が高く、かつポテンシャルが高いので、プレーヤー側のレベルを上げたり、よいケーブルを使うとそれがわかりやすいと言えます。ただし相性はあると思います。自分でもいろいろと手持ちのケーブルを使ったけれども、これだけVR1の能力を引き出せるものは実はあまりないので、推奨ケーブルセットをおすすめします。あるいは試聴会でいろいろと試してみるのがよいでしょう。
このVR1に関しては「スマホで聴いても良い音を再生してくれる」と書くつもりはありません。持っている最高のプレーヤーを使ってみてください。ハイエンドプレーヤーを持っている人が、さらに高みを目指すためのイヤフォンといえるでしょう。