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2019年12月26日
Tinker boardでHugo2のポータブルシステムを考える
ASUS Tinker BoardとHugo2
いまでもヘッドフォンやイヤフォンを生かすための最高のDACアンプというとChord Hugo2です。ただしHugo2はDAC内蔵アンプですから音を再生するためにはソース機器であるなんらかのプレーヤーが必要となります。Hugo2は据え置きDACとしても他の機器に負けないような音質をもっていますが、やはりポータブルでも使えるソース機器を使ってポータブルシステムとして組んでみたいものです。
一番手軽なのはiPhoneなどと組み合わせてBluetoothで使うものです。ただしこれではロスレスで送ることができません。
次によく行われるのはDAP、例えばAK70などのDAPのUSB出力機能を使うものです。これはかなりの高音質で聞くことができますが、スマートフォンの操作性も生かしたいと思うことがあります。
AK70とHugo2
そこでスマートフォンからの操作性と音質を両立するプレーヤーをシングルボードコンピュータであるASUS Tinker boardで作ってみました。
これは後にも書きますが、超小型のネットワークプレーヤーに相当するものになります。いわばポータブルのVolumio Primoのようなものを目指しています。
* Hugo2のおさらい
Hugo2は初代Hugoを継ぐ高性能のDAC内臓アンプというかアンプ内蔵DACで、バッテリーで動作するのでポータブルで使うことができます。またChord独自のパルスアレイDACを搭載してフルにその能力を引き出すことができるため、据え置き並みの音質が得られるので据え置きのDACとしてもよく使われます。これはMojoや初代Hugoでは4エレメントの制限付きパルスアレイだったのに対して、Hugo2では10エレメントのパルスアレイでフルにその能力を発揮できるからです。
Hugo2 (右は専用スリムケースBlack)
パルスアレイDACとはなにかというと、一般的なDACではESSやAKMなどのように市場に売られている汎用品のDACチップICを買ってきてそれを使いますが、ChordではFPGAを中心に据えたより洗練されたディスクリートの独自DACを搭載しています。これはパルスアレイというユニットを並列に並べたもので、パルスアレイDACと呼ばれます。これはFPGAが独自のプログラミングができるカスタムICであるから可能なことです。
FPGAではWTAフィルターやボリューム・クロスフィードなどデジタルドメインの処理を担当します。処理の細かさであるタップ数はHugoの26,368タップから、ほぼ倍の49,152タップに向上しています。
FPGAでフィルタリングされたデジタル信号はフリップ・フロップ回路(IC)に送られてアナログ信号に変換されます。一個のパルスアレイとはFPGAの横にあるフリップフロップICと抵抗のペアです。よくChordのパルスアレイDACはFPGAをベースにしているということでFPGAチップでDA変換がおこなわれているようにも言われることがありますが、実際にはFPGAではなく、そこから出たデジタル信号をこのフリップ・フロップ回路と抵抗の組み合わせでアナログに変換します。
Hugo2では片チャンネル10個のパルスアレイ・エレメントで構成されます。HugoとMojoでは4個、DAVEでは20個です。
パルスアレイDACのポイントはスイッチング動作が入力信号と無関係で一定だということです。このことはスイッチング動作に起因するノイズフロア変動による歪を低減します。なぜかというと、音の大小は複数のパルスアレイの組み合わせですが、ひとつひとつのパルスアレイは音の大小に関わらずに単に一定のスイッチング動作をしているにすぎないからです。
ノイズフロア変動による歪というのは本来一定のはずのノイズフロアが信号入力で揺れてしまうことなので、入力信号とスイッチング動作が無関係なパルスアレイDACはこの影響を受けにくいというわけです。
また他の回路においても同時開発していた世界最高レベルDACのDAVEの技術を生かしているためにトータルの性能も大幅に向上しています。例えば初段が16FSで二段目が256FSのWTAフィルター構成は細かさであるタップ長こそ違いますがDAVEから引き継いだものですし、二段目のプログラムコードはDAVEとまったく同一だそうです。
Hugo2ではFPGAの能力をフルに発揮しているために、多彩なデジタルフィルターも搭載し、また電気的な絶縁効果も光接続並みに優れているUSB周りの設計もなされています。
* ASUS Tinker Boardとは
Tinker BoardはASUSが開発したラズベリーパイ互換のSBC(シングルボードコンピュータ)です。Tinker Boardとラズベリーパイの違いは何かというと、その設計コンセプトです。
Timker Board(ASUSサイトより)
ラズベリーパイはもともと低年齢層や貧困層にもコンピュータを届けるというコンセプトで、とにかく安く作るという点に眼目が置かれています。たとえばUSBとネットはバスを共有しているとか、DACを搭載せずに疑似PWMみたいなことやって音を出しているとかです。ラズパイ4ではわりと改修されていますが、少し前に発覚したUSB-C設計問題も本来別々にしなければならな抵抗を共有させていたということですので、低価格第一という根っこはやはりいまも昔も変わらないと言えます。
しかしラズパイは本来のそうしたターゲット層よりももっと実用的なところで成功を収めたともいえるでしょう。それが広くマニア層にも支持された理由です。
ASUSのTinker Boardはそのラズパイの成功を踏まえて、ラズベリーパイに比べるともっと実用的なSBCを目的としています。もちろんUSBとネットは別々であり、CODEC ICが搭載され(ICとしてのCODECとはADC+DACの機能を持ったICのこと)、192/24の出力が可能です。ラズパイ3に比べるとパワーもより強力で(ラズパイ3は1.2GHzに対して1.8GHz)、メモリも倍(2GB)搭載しています。またラズパイ3と同様にWIFIとBluetoothを内蔵しています(買ったのは国内版で技適を通っています)。
Tinker BoardはSPDIFも出せます(端子はない)。ラズパイとGPIOベースで互換性を持っていて、HiFiBerryやIQaudioのHATオーディオとハード互換性があります。ただしソフトウエアやドライバはTinker Board用のものが必要です。
ただし高品質の代りにラズパイよりも高価になっています(国内価格は1万円前後)。
* Hugo2とTinker Board
そのTinker Boardの実用性の中ではオーディオもターゲットにしてあり、その証拠にVolumioは先日Primoという据え置きのネットワークプレーヤー(海外ではStreamerと呼ぶ)を開発しましたが、その中で中核に使われているSBCはラズパイではなくTinker Boardです。
つまりここではPrimoのポータブル版のようなものを作ってHugo2と組み合わせようというわけです。
Tinker Boardには初期型とSと呼ばれる改良型がありますが、ここではあえて初期型を使いました。それはSでは電源要求がより厳しくなっているので、あまりポータブルに向かないと考えたからです。初期型でも5V/2Aは必須です(Sでは3A推奨)。ちなみに据え置き前提のPrimoで使われているのはSタイプです。
以前にラズパイを使ったこうしたポータブルデバイスをよく作りましたが、Tinker Boardはかなり熱を持つのでファンと放熱板を組み合わせた金属ケースを使いました。
ラズパイに比べると初期型でも電源要求が厳しいのでより大型のバッテリーを組み合わせました。
ソフトウエアはVolumioのTinker Board版をインストールします。Volumioはアップサンプリングができるので、アップサンプリングしてHugo2に送ることができます。Tinker Boardはプロセッサが強力なのでVolumioのアップサンプリング機能をフルに発揮できます。
簡単にインストール手順を書くと、以下の通りです。
1. volumio for Tinker Boardをダウンロード
2. etcherなどを使ってSDにイメージを書き込み
3. Tinker Boardにイーサネットを接続
4. 同一ネット内でiPhoneかPCでhttp://volumio.localと入力
5. 以後はwizradでセットアップできます
接続はUSBケーブルを使用しています。
操作はスマートフォンで可能で、音源はTinker BoardのUSBに入れることもできますし、Airplayを使うこともできます。
(ちなみにTinkerboardはAndroidも使えます。つまり基本ソフトをAndroidにしてVolmioの代わりにUAPPを使うとMQAコアデコードも可能になりますね)
こうして組み合わせるとたしかにかなり高品質な音で再生することができます。やはりラズベリーパイよりもだいぶ音質は高いと感じます。音の透明感が違います。こうしてポータブルでミニDAVEのようなレベルの高い音を持ち運ぶというのもなかなかポータブルオーディオ冥利に尽きます。
ただしTinker Boardと組み合わせてかさ張るシステムを持ち運ぶというのもなかなか大変ではあるので、もっと洗練されたプレーヤーがほしいところではありますね。
ちなみにケースはラズパイ用を使っています。下記のTinker Boardは初期型だと思いますが、私の購入した製品リンクはなくなっていたので、初期型を欲しい人は念のため確認したほうがよいかもしれません。
バッテリーとTinker Boardを接続するためには下記の短いケーブルを使用しています。