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2019年04月22日

DITAの新機軸、Project71レビュー

DITAはAnswerからDream、Twinsと様々な製品ラインナップを広げていき、シリアスで硬派なダイナミック型イヤフォンの代表格の一つになりました。PROJECT 71は同社の記念モデルであり、全世界で300個の限定生産販売となります。
Project71の名の由来はDITAの親会社であるシンガポールのPackager Pte Ltd.が1971年に創業されてから47年目を意味するということです。この会社は自動包装機械のメーカーであり、DITAイヤフォンの優れた機械加工技術はこの会社あってのものです。

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* Project71の哲学

他のDITAイヤフォン同様にこのProject71もCEOであるダニー・タン氏の理想の実現と言えます。ダニー氏がProject71の秘話を教えてくれたんですが、まずそのキーワードは"enjoyable"、つまり楽しめることです。
彼がProject71のアイディアを思いついた当初、2つのことを考えたということです。

まずひとつは昔ながらのイヤフォンの形を取りながらも、他から大きく違う個性を持つものです。使いやすく楽しみやすいということですね。彼は高品質なものこそ、マニアだけではなく多くの人に楽しめるものでなければならないと考えているということです。
この場合は耳に回すいわゆるShure掛けタイプのイヤフォンはプロやマニア向けであり、一般の音楽愛好家にはあまりなじみがないので、普通に耳にストレートに装着できるものを目指しているわけです。

マルチドライバーのように手段が目的になりがちな、あまりマニア的なものに陥らずにいかに音質をよくするかというところに注力したい、音楽を楽しむのに手段を忘れるようなものを作りたいというわけです。
つまり良い靴がそれを履いていことを忘れるようにしたいというわけですね。

もうひとつは従来のDITAのラインナップとは別のラインナップを作りたいということです。AnswerからTwinsのようにどこかメカニカルでオーディオファイル的なものもよいけれども、もっと別のアナログ的なものを作りたかったということですね。

* 特徴

そうした点で今回は素材・材料を重要だと考えたということです。Project71では真鍮とマッカサルエボニーという楽器にも用いられる木材を組み合わせています。
このように真鍮や木材が使われるのには音質的な意味が必要であり、よくある木製のイヤフォンのように表面だけ木材で中身がプラスチックというようなものは作りたくなかったということです。ただしここがかなり難関となります。Project71のポイントの一つはこのように真鍮と木材を組み合わせたという点で、独特の音響効果を生み出せますが、金属と木材という加工の難易度はかなり高いということです。

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Project71ではパーツを個々に製作されて重ねられていきますが、双方の加工中の熱膨張率の違いなどで精密な加工は難易度が高かったようです。特にMMCX端子の部分の接合が難しかったということです。またベント穴を設けるのも大変で、Project71では大きな独自の音響チャンバーを作ってエアフローのコントロールをしているのですが、その設計も難しかったようです。
また、音響的な効果だけではなく、この筐体は使い込むほどに味が出てくるということで、まさに持ち主の個性が出るでしょうとのこと。

ドライバーには複合材を採用した第3世代の新しいもので、音楽的な情感に訴えるような特性を持たせたということ。

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木材と真鍮製の筐体、新型のドライバーに加えてProject71のさらなるポイントは独自開発のOSLOケーブルです。
従来のVan Den Hulのケーブルは硬いこともあり、今回の製品には向いていないので、日本のケーブルメーカーと共同で開発したのがOSLOケーブルです。

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OSLOはまったく新しいケーブルでOil Soaked Long Oxygen Free cableのことです。Oil Soakedはオイルに浸したという感じの意味で、金と銀の粒子がサメ油に浮いているような感じです。これによって顕微鏡的な大きさでのPC-tripleCの高品質線材表面の不規則さを整えて、信号伝達を高めて豊かな音と細かなニュアンスの再現に貢献するということです。たぶん接点活性剤のようなものではないかと推測しています。

端子は今回はMMCXであり、ノッチがあって不要なMMCXの回転をロックするメカニズムがついています。もちろん好評のAwesomeコネクターが引き続き採用されてリケーブルを簡単にしています。このAwsomeコネクターはかなり便利で、3.5mmと2.5/4.4mmバランスをすぐに交換できるのでDAPとスマホを使い分けて聞いているときなどに便利です。端子だけポケットに入れておけばいいですからね。

* パッケージ

記念モデルということもあって、パッケージもなかなか豪華なものです。

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* 音質

Project71の最大のポイントはその独特の音質です。
音はこれまでのDITAの硬質なイメージとは変わって、暖かみのある滑らかなものです。いわば聴いていて楽しく美しい、音楽的というべきものですが、DITAらしい切れ味の良さは残していて、ダイナミックにしては解像力もかなり高いと思います。音楽的で甘いというと、クリアではなく鈍い音のように聴こえますが、Project71の場合はそうしたことはなく、甘くて滑らかな音ですが、透明感が高く歯切れの良さ・解像力はtwinsと比べてもそうひけをとらないでしょう。
基本的な性能が高く、ハイエンドDAPの底力も引き出しています。AK380よりもSP1000でより実力を発揮できるのはDITAならではで、楽器の響きが豊かで、音楽の情熱を伝えてくれると言えますね。
能率は低めですが、スマホやBTアダプターで鳴らせないほどではありません。

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SP1000CPとProject71

Project71の音の個性で際立っているのは音の滑らかさ・スムーズさの部分で、なかなか書いて説明がむずかしいのですが、ほかのイヤフォンと比べてもわりと差がわかります。バターのようにスムーズ、シルクのように滑らか、という感じです。美しくきもち良いのでもっと聞いていたくなるという感じの音です。

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Mojo+PolyとProject71

DITAはダイナミック型らしい低域の充実感が良さの一つでしたが、Project71でも低域の迫力はいっそうパワフルです。低域の量感はわりとある方ですが、膨らんで贅肉がついている感じはなく、すっきりとしてパンチがあります。音は低音に迫力があり暖かみのあるダイナミックドライバーらしい音ですが、低域の細かな再現力もDITAらしく情報量が多く、楽器の響きがよく聴こえます。中音域でのヴォーカルの深みも良いですね。

Awesomeプラグで簡単に2.5mm/4.4mmに変えることでバランス駆動でよりスケール感も楽しめます。SP1000でバランス駆動で使った音の迫力と躍動感の魅力は格別です。
音はケーブルを変えてもこうした傾向があるのでOSLOのみの効果ではありません。

* 別売りのOSLO交換ケーブル

OSLOケーブルにはリケーブル用の単体売り交換ケーブルが用意されています。MMCXと2pinです。ちなみにMMCX仕様でもProject71に付属しているケーブルとは端子部分の形状が異なり、またメモリーワイヤになっています。
MMCXはどのイヤフォンでもあまり問題がありませんが、2ピン版は最近の2ピンが出たり引っ込んだりしているので適合するのがなかなか見つからないかもしれないので、店で試着させてもらったほうが良いでしょう。

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SolarisとOSLOケーブル

MMCX版をCampfire Audio Solarisにつけてみました。Solarisの標準ケーブルもかなりよいものが付属していますが、OSLOケーブルの効果は高く、いわゆるすべての音源を聴きなおしたくなるくらい向上効果があります。
音がよりリアルで滑らかに聴こえ、音の深みが増して濃くなるという感じです。また音場がさらに少し大きくなります。適度に暖かみは加わりますが、着色感が大きいわけではないようです。

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ケーブル替えたというよりDACを変えたような感じでもありますね。一枚ベールをはがすというよりも、音色が別な感じになるという感もあります。
標準ケーブルに戻すと少しこじんまりとして、あっさりとした感じに聴こえます。

* まとめ

Project71のポイントは、普通でありながら個性的であること。
ストレートに耳に入れられる簡単な取り扱いで、真鍮と木材、そしてOSLOケーブルのもたらす音楽的で絹のように滑らかな音質、その材料がもたらす経年変化など持つ喜びもあります。
個性的という点ではDITAの中で個性的というだけではなく、シングルダイナミックの高性能イヤフォンの中でも個性的です。
DITAのラインナップに新しい魅力が加わったと言えますね。
SP1000などのハイエンドDAPでダイナミックドライバーの音楽性を楽しみたい人に薦めたいですね
月末のヘッドフォン祭にてぜひ試してみてください。
posted by ささき at 16:14| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする