スタインウェイが世界初の「ハイレゾリューション・ピアノ」と銘打った新製品Spirioを発売しています。
https://www.steinway.co.jp/spirio
スタインウェイとしては実に80年ぶりの新製品ということですが、端的にいうと従来のスタインウェイのピアノに自動演奏システムを搭載したもので、いわゆる自動ピアノです。
なぜハイレゾかというとピアノの解像力が高くなったわけではなくて、自動演奏記録の精度(解像力)が高くなったということのようです。自動演奏システムの部分はiPadを使用して、独自のアプリを搭載しています。
Spirioのカタログより
このフォーマットはSpirio High Resolutionというらしく、記録しているのは打鍵の強さと長さ、ペダルのデータで、おそらく昔のピアノのロール紙をベースにしているように思います。記録方法はSpirioで演奏しているのを記録するか、または音源から解析することができます。
再現精度はハンマー速度が一秒間に880回、1020段階、ペダルが1秒間に100回、256段階ということです。
わたしは自動ピアノにわりと興味があって、前にZenph社がヤマハの自動ピアノを使ってグールドの演奏を再現したときに下記リンクの記事を書いています。
グレングールドは電気ピアノの夢を見るか?
これはグールドの録音したマスターテープを解析してデータ化(MIDI)します。このときは2007年で10年以上前ですが、この当時でも100万分の一秒の精度で鍵盤を叩く角度まで検出していたというので、今だとAIを使用してもっと進んだ解析ができるのでしょう。
こうした先進的な自動ピアノのもとになったのが、昔ながらのロール紙を読んで再生する自動ピアノで英語でいうとPlayer Piano(ボネガットの小説タイトルにもなった)またはReproducing Piano(再現ピアノ)ともいいます。わたしが行った範囲では清里と河口湖にわりと良い自動ピアノがあります。
清里の自動ピアノ(ホールオブホールズ所蔵)
河口湖の自動ピアノ(河口湖オルゴール博物館所蔵)
清里ではガーシュインとかラフマニノフが自分で記録したロール紙があります。下記動画は学芸員さんの了承を得て撮った自動ピアノの再生動画で、ガーシュイン自身によるラプソディインブルーのピアノ演奏です。
当時(100年くらい前)は自動ピアノがビジネスとして成立していて、作曲家も小遣い稼ぎになるのでよく自分自身で自動ピアノの記録を行ったそうです。記録には専用の記録ピアノを自動ピアノの発売の前に作っておいて、ロール紙に記録しますが、当時の技術では完全ではありません。そこで記録時に別の演奏家が立ち会って自分でもメモを取っていて、あとでロール紙を手作業で修正するのだそうです。(この辺がいまではAIなんでしょうけれども)
わたしが興味あるテーマの一つはオーディオがない時代はどのように家で音楽を楽しんでいたか、です。
その一つの答えは「自分で演奏する」で、よくオーケストラ曲のソロギターなどのアレンジ版がありますが、あれはギター演奏家のためというよりも、演奏会で楽しんだ感動を家でも味わいたいという人々の需要があったからのようです。そしてもう一つの答えは「オルゴールによる機械演奏」で、これが自動ピアノにつながります。
私自身はピアノを弾くわけではないですが、こうした科学と音楽の融合という分野には心惹かれるものがありますね。オーディオもそうなんですけれども。