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2019年02月03日

HIFIMANの平面駆動型、HE1000seレビュー

HE1000seはHIFIMANの平面駆動型のハイエンド・ヘッドフォンです。

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HE1000seは平面型としてはオルソダイナミック、アイソダイナミックと呼ばれるダイナミック型のタイプで、静電型とは異なって専用ドライバを必要としない特徴があります。このタイプは最近のハイエンドヘッドフォンの潮流の一つですが、最近開発された技術ではなく、もともとはオーディオの黄金期と呼ばれる数十年前の時代には珍しくなかった形式です。

平面駆動型のヘッドフォンでは振動板の全面が振動することにより、一点でしか振動しない普通のヘッドフォンに比べて理想的な音質が発揮できます。しかし普通のタイプに比べると平面駆動型はコストのかかる方式で、オーディオ販売が低迷する時代になるとこうした価格度外視で音質を追求する技術はあまり採用がなされなくなってきたという事情があります。
しかし、そのいったんは忘れさられかけた技術を現代によみがえらせた功績はAudezeのLCD-1とHIFIMANのHE-5の登場にあります。どちらもマニアックなメーカーであり、ヘッドフォン人気の隆盛に従ってさらなる音質追及のためにこの形式を現代によみがえらせたわけです。

HE1000は海外では高い評価を得てきたモデルで、HE1000se(SEはSpecial Editionの略)はその第三世代の製品です。HE1000seでは、フラッグシップであるSUSVARAの技術を受け継ぎ、さらなる音質向上と高能率化が図られています。

HE1000seの特徴

* 高能率化

平面駆動型ヘッドフォンは音質はよいのですが、一般に能率が低く鳴らしにくいのがネックです。「平面駆動型でも鳴らせる」がうたい文句のヘッドフォンアンプが多いことでもそれはわかります。このHE1000seでは能率を前の91dBから96dBに大幅に効率を高めています。感度(能率)の5dBアップは大幅な効率改善と言ってよいでしょう。

* 薄い振動板

最近は中国も先端技術では日米に迫り、追い越すレベルに来ている分野も多くあります。つまり売りが先進技術というのは、もうおかしいことではありません。

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HIFIMANはナノテクノロジーに強いメーカーで、イヤフォンにおけるトポロジーダイヤフラムなどさまざまな技術を取り入れてきました。HE1000seではわずか1ナノメーターという薄さの振動板を採用しているため、素早いレスポンスが可能となっていくす。
オルソダイナミックタイプでは静電型とは異なり振動板にダイナミック型のコイルが必要となりますが、それもサブミクロンという薄さです。

* ステルスマグネット

従来の平面型ヘッドフォンにおけるマグネットはマグネット自体が回析減少で空気の流れを乱してしまい、音質を劣化させてしまいまうということです。
HE1000seでは特殊形状の「ステルス・マグネット」を採用して、空気の流れをあまり乱すことなく透過させることで音質劣化を防いでいるということです。つまり透過的なエアフローを、見えないステルスに例えているわけです。

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これによって歪みの少ない、ピュアでハーモニーを阻害しない音楽再現を実現するということです。
下の図を見てもらうとわかりますが、従来のマグネットは四角く、HE1000seのマグネットは丸くなっています。回析というのは波が回り込む現象をいいます(写真レンズでもありますが)。回り込みが多いということは直進する成分が減っているということですので、これによってエアフローが最適化されているということでしょう。

* ウインドウシェイド・デザインのオープンバック

これもエアフローをスムーズにすることを目的としていて、オープンバックタイプの最適化を図った「ウインドウ・シェード”」システムを採用しています。これはまたドライバーの保護にも貢献しています。これも下図を見てもらうと独特の形状がわかります。

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これらの技術によってHE1000seはとても広い周波数レンジを有していて、再生周波数帯域は8Hz - 65kHzです。
他の仕様としてはインピーダンスは35Ω、感度は96dB、質量は440gです。

インプレッション

HE1000seは立派な木箱に入っていて、パッケージは高級感があります。ケーブルはとてもしなやかで扱いやすいタイプです。

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ヘッドフォン側のケーブルコネクタはミニ端子となっていてケーブル交換が可能です。製品版では3.5mmミニケーブル、6.35mm標準ケーブル、4.4mmバランス用ケーブルが同梱されています。(画像のXLR4ピンはデモ用に貸し出してもらったものです)

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まずリファレンスであるゼンハイザーHD800と比較するために1/4標準端子でシングルエンドで聴きました。
ヘッドフォンアンプはバランス端子の豊富なパイオニアU-05を使用しました。U-05はなかなか駆動力もあって、なみのヘッドフォンアンプをクリップさせてしまうような超低能率HE-6も鳴らせます。DACもU-05内蔵DACを使用して、音楽再生ソフトはRoon(1.6)を使用しました。

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HE1000se本体は金属製でメタリックで現代的なデザインが感じられます。手磨きという表面の質感もよいですね。イヤーカップは耳に自然にフィットするという非対称デザインを採用ということですが、なかなか快適性が高く、スペック上はより軽量なHD800(369g)と比べても感覚的に軽量に感じられます。

能率に関してはボリューム位置としてはHD800よりも能率が良いと思います。U-05のLowゲイン位置でも普通に鳴らせます。これでさまざまなヘッドフォンアンプが使えると思います。
音的にも能率の低いヘッドフォン特有の暗さがなく、明るめで軽やかにリズムを刻む気持ちの良い音です。

HE1000seの音はひと言でいうと、自然でかつ壮麗な音です。
HD800もかなり音の広がりはよいのですが、HE1000seはさらに横にも広く、奥行きもより深みが感じられます。このため、オーケストラ物のクラシックや、サントラのような壮大な音楽ではかなり豊かなスケール感が感じられるます。
また高低のワイドレンジ感も驚くほど優れていて、特筆したいのはその超低域の豊かさです。単なる低域、ではなく。あまり聞いたことがないくらい、かなり低い音が豊かに出てきます。ここはHD800とは比較にならないくらい優れています。これは単に低域が張り出しているのではなく、HE1000seも周波数特性はフラット傾向ですが、超低域がとても豊かに出ているのです。高域も気持ちよく上に伸び、かつ音の痛さが少ない優れた再現です。
ウッドベースでは不自然な低域強調感がなく、周波数特性がフラットで良好であるとともに、HD800よりもかなり低域が深く下に沈むので豊かさという意味で量感があります。この良好な低域はくせになりそうな魅力的なものです。
アコースティックな楽器だけではなく、電子楽器や打ち込み系でもこの良さは感じられますが、この曲のウッドベースをちょっと見直した、という感覚が味わえるのはちょっと魅力的ですね。

HE1000seの良さはそうした壮麗さというマクロ的なほかに、ミクロ的な音の細かさでも感じられます。
音の立ち上がりが極めて高く、楽器音の歯切れがよくスピード感が感じられます。ダイナミック型というよりは静電型に近い感じですね。
解像力も極めて高く、さざ波のような音の細やかさが感じられます。これもダイナミックというよりは静電型に近い感じがしますね。ナノメーター振動板というのはかなり効いているように思います。
192kハイレゾのストリングカルテットを聴いていても、HD800と比べてもまだ音と音の間に別の音があるような情報量の高さが感じられます。またピアノソロを聴いていると、HD800に比べて音の響きがより豊かで、これも音と音の間にホールの反響音とか残響音が聞こえてくるような豊かさを感じます。

またヴォーカルはやや耳に近く迫力が感じられます。いわゆるHD800のような「プロデューサーのためのモニター」のような一歩引いた音ではなく、ライブステージの近くのような音楽の迫力を感じられる音です。
全体にニュートラルな音だが、音に冷たさが少なく、わずか暖かみがのっています。これはたぶんケーブルの色のように思います。
こうした点では音楽的でもあり、フラットで自然な音調ととてもに音楽に真摯に取り組みたい人のヘッドフォンと言いましょうか。

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HE1000seがよいのは楽しむジャンルを問わないことで、ジャズやクラシックの良録音盤を楽しむのはもちろん、ロックを聴いてもスピード感があり、アタックが激しく、ボリューム感のある低域を感じられます。ただし周波数特性がかなりフラット傾向なので、メタル等ではやや物足りなさを覚えるかもしれません。しかし抜群のスピード感やアタックの鋭さでまた別に曲の良さを感じ取れると思います。

XLRバランスで聴いてみると、バランスでは期待したように音の広がりがさらに増すとともに、より立体感も増して音の重なり感が明瞭になります。ストリングカルテックを聴いても楽器音の鮮明さがさらによくなり、全体がより華やいだ感じとなります。
また音のアタックがより強くなり歯切れ感も増します。これらがすべて整理されていて、ごちゃごちゃとしていないのは高級感がある音という印象です。

まとめ

HD800も今聞いてもすごく良いんだけれども、HE1000seを聴くとCEO Fang氏の言うところの「ベストよりベターなものがある」という感じでしょうか。

とてつもないワイドレンジ感、静電型のように錯覚する高精細感と音の早さ、音の広がりの良さなど、ヘッドフォンで最高の音を求めたい方にお勧めしたい製品です。
静電型はほしいけどいまのヘッドフォンアンプが気に入っていて、という人にも静電型的なテイストの音も楽しめるためお勧めですね。

HE1000seの価格はオープンですが、だいたい390,000円前後での実売を想定しているということ。昨年のヘッドフォン祭で公開され、昨年の12月から発売されています。

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HIFIMANのホームページはこちらです。
http://hifiman.jp/products/detail/296
posted by ささき at 11:51| ○ ホームオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする