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2018年08月13日

SONY DMP-Z1とS-Masterの功罪について考える


SONYが香港AVショウで超ド級のDAP、DMP-Z1を発表したと下記Philewebなどに報じられて話題をまいています。
https://www.phileweb.com/news/audio/201808/09/20057.html
少し調べてみるとこのDMP-Z1で興味を引いたのが、ウォークマンのみならず据え置きのTA-ZH1ESまで採用されていたSONY自慢のS-Masterが採用されず、一般的なDAC IC(AK4497)+アンプIC(TPA6120)という組み合わせに収まっているということです。

本稿ではこの辺の理由を考え、SONYのこれからを推察していくことにします。

まず下記のスペックからDMP-Z1ではDSD Remastering engineという機能でPCMを 5.6MHz DSDに変換するということが書かれています。ここから推察されるのはDMP-Z1がDSD中心のアーキテクチャになっているということです。これはDSDをネイティブ処理する能力に長けているAKMのAK4497を採用していることでもわかります。
http://www.sony.com.hk/en/electronics/walkman/dmp-z1
また下記のHeadFi投稿にありますが、このDSD Remasteringを行うDSPはSONYの自家製だが、Walkmanでも採用されていたがS-Masterとの相性が悪いのでRemastering機能は使えず、TA-ZH1ではそのためにFPGAを使う羽目になったと書かれています。
https://www.head-fi.org/threads/official-sony-dmp-z1-thread.886122/page-9#post-14417586
つまりS-Masterから決別した第1の理由はここで、S-MasterはPCMに特化した設計であったため、DSDを中心とするアーキテクチャには向いていないと言えます。

次に下記のPhileweb記事にも乗っているSONY自身の説明にもあるように、S-Masterでは大出力が取り出しにくいということがあります。HeadFiでも同様なことを開発者から聴いたという投稿がありましたが、これもそれを裏付けています。
https://www.phileweb.com/news/d-av/201808/11/44729.html

また、これらを解決するためにはDSD中心で大出力のS-Masterを開発すればよいのでは、と思われる人もいるかもしれません。しかしS-Masterのような大規模なカスタムICは設計開発費がかさむので、小ロット高利益率のような製品には向いていないということがあります。一般ウォークマンのようなコンシューマ向け大量生産品の性能を上げるには向いていますが、似た用途でも高級オーディオのカスタムICではCHORDのようにFPGAか、XMOSのような小回りの利くものが向いています。おそらくS-MasterはASICのようなものだと思います。

そして、これまで出てきた断片からDMP-Z1が新技術のテストベッドではないかということも推測できます。ほんとのワンオフの特別モデルであれば最高性能を追求するためにはDACはともかくアンプはディスクリートを使う手もあります。しかしあえてDAC IC+アンプICというスキーム(図式)を取っているのは、周辺のガワとか高級パーツを簡易化すれば、のちにもっと求めやすい「なにか」になるのではないかということです。それがWMなんとかかはわかりませんが。
ソニーはかつて技術の最高のものを集めてコスト度外視でクオリアを作りましたが、これは次につながるものにはなりませんでした。DMP-Z1は新しい技術を試したくてコスト度外視となり、次につなげたいということがあるのかもしれません。


以上からソニーはS-Masterを捨てて、DAC IC+アンプICでDMP-Z1を開発したのではないかと推測します。もちろん省電力の良さもあってコンシューマープロダクトではS-Masterは継続すると思いますが、DMP-Z1はひとつのマイルストーンになるのかもしれません。


ところで蛇足ながら最後にもっと推測をひとつ。
ソニーは自分の固有形式・技術にこだわる会社で、この場合それはDSDだと思います。ソニーはDSDをソニーが生み出した形式として捉えているのではないでしょうか。PCMに縛られるS-Masterを捨てることで、そこに立ち返ろうとしたのではないかとふと思いました。まあ私のただの思いつきですけれども。

posted by ささき at 14:09| ○ ポータブルオーディオ全般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする