AKG N5005はN30やN40のようなNシリーズの流れをくむハイエンドIEMの新製品です。それと同時に名称からはAKGの名機であり一時期を築いたK3003を連想します。もちろん私的にもK3003との比較が興味あるところでした。(K3003は併売とのこと)
AKG N5005とSP1000SS
AKG K3003の2011年のレビューは下記リンクです。記事に出てくるプレーヤーが時代を感じさせます。
http://vaiopocket.seesaa.net/article/227180797.html
* K3003からN5005へ
まずK3003を少しおさらいすると、2011年のK3003のデビュー当時はBAとダイナミックとのハイブリッド自体が珍しい形式で先駆的な製品でした。 またK3003はハイブリッド形式というだけではなく、ダイナミックドライバーと直列にBAドライバー(TWFK)をステム(ノズル)内に配置して、チューブレスで耳穴にダイレクトにBAドライバーの音が届くという点で画期的でした。その鮮烈な音が当時のユーザーを魅了したわけです。下のK3003の内部構造と画像を見てもらうとノズル部分の構造が良くわかると思います。
左: K3003の内部構造(AKGサイトから転載)
音をチューニングする音響フィルターを替えられるという方式もこうしたダイレクトな音作りならではと言えたかもしれません。このフィルター交換とノズル部分の構造はN5005に継承されています。
また共振を抑えたステンレス製の筐体もポイントですが、これもセラミックという形でN5005に引き継がれます。
K3003では3Way 3ドライバーで2基がBAで中域と高域、一基がダイナミックで低域のハイブリッド形式で、N5005では4Way 5ドライバーとなり、中域にドライバーが足された感じです。ダイナミックドライバーはK3003が9.8mmに対してN5005は9.2mmということです。N5005では口径は小型化していますが、後に音質で書くように性能は向上していると思います。
AKG N5005
N5005ではNシリーズの流れを汲んで筐体デザインが耳掛けできるシュア方式を採用しています。(この方式はWestoneのカートライト兄弟がShureもアウトソースで手がけていた時のデザインなのでカートライト方式というべきかもしれませんが)
* パッケージ
パッケージではまず交換ケーブルの多さが印象的です。K3003はリケーブルできないのが残念なところでしたが、N5005はこれでもかというくらいの交換ケーブルが初めから標準でたっぷり入ってます。
ケーブルは3.5mm, 2.5mmバランスのほかにBTアダプタケーブルも同梱され、さらに国内ではAKGの純正の交換ケーブルであるCN120-3.5も入っています。これだけはじめから入っているのは珍しいですね。その他にはBTアダプタ用のUSBケーブルや各種イヤチップとクリーナーが入っています。
BTアダプタはWestoneやShureと同じタイプのように見えます。MMCXプラグの汎用品としても使えそうですが、他のメーカーイヤフォンは保証外ということのようです。
3.5mmは耳フックの部分がメモリワイヤのようにヒートシュリンク加工がされていてリモコンのついたケーブルが入っています。3.5mmについてはさらに上級グレードのCN120-3.5が付属しています(国内)。2.5mmバランスケーブルは3.5mmの標準と同じケーブルです。
ただケースについてはK3003のケースが気にいってたのでデザインを踏襲してほしかったとは思いますね。
* 音質
イヤチップはSpin Fitと標準的なラバーの二種類が入っています。
K3003と比べるとK3003が従来的なイヤフォンの形を踏襲していたのに対して、N5005ではもっと新しく耳にはまりやすい形をしています。N5005では耳に回す方式のためにK3003のストレートインよりも外れにくくなっています。筐体にはダイナミックハイブリッドらしくベント穴が空いてますね。
N5005とAK380
まずAstell & KernのAK380を使いました。N5005の能率はやや低めに感じます。
まずリファレンスフィルター、ラバーイヤチップ、3.5mm標準ケーブルという条件で聴いてみると、中高域のバロックバイオリンの音色が響き豊かに美しく再生され、高域の痛さは少なく、厚みのある音の高級感が感じられます。これだけでもハイエンド機の品質と感じられます。また音に粗さが少なくケーブルが高品質な気もしますね。
リファレンスフィルターでも十分に低音の量感はあって、帯域全体では少し低域多めの音楽を楽しみやすいチューニングになっていると思います。低域もわりと低いところまで出ている感じです。中音域ではジャズヴォーカルや楽器とのバランスが良いと感じられます。
全体的にいうと低域の質が高く、深く重く出ていると言えます。これがひとつの要因として豊かさと厚みが感じられてN5005を高級な音にしていると思います。細かい音もよく抽出されていて解像感も高いと感じます。
AKプレーヤーでは2.5mmケーブルを使うことでさらに立体感が高く上質な音楽を楽しむことができます。音の重なりも一層よくなります。
なお国内版ではAKGの純正交換ケーブルであるCN120-3.5が付属しています。
CN120-3.5はとてもしなやかなケーブルで見た目も高級感があります。柔らかいのでメモリワイヤや曲げ癖がなくとも耳にかけるのは容易です。音質は透明感が高く、音の純度が高いという印象です。高音域がきつすぎずに透明感を堪能できるのが良い点です。低音域も十分な量感があってタイトで膨らみが少なく、品質の良い低域が楽しめます。音調もニュートラルで着色感も少ないですね。
全体に標準ケーブルよりさらに音の粗さが少なく滑らかで高品位なN5005にふさわしいボーナスと言えるでしょう。
プレーヤーをAstell & Kern SP1000SSに変えるとN5005の音再現性能の高さがより一層高く感じられます。SP1000のハイエンドオーディオ並みの細やかで色彩感豊かな音がN5005をより高みにもっていく感じですね。SP1000SSモデルの持ち味の至高の透明感もN5005では十分に堪能できます。ベルの音が澄んで綺麗なのは中高域ではなく、本当の高域が綺麗に出ているからでしょう。
低域の深さもSP1000で聴くといっそう引き出され、これゆえに広いスケール感も味わえます。ダイナミックドライバーの躍動感がSP1000のパワー感を生かしてるのも魅力的な音楽再生です。N5005はまぎれもなくハイエンドクラスの音を持ったフラッグシップと感じることができます。
N5005、付属のBTアダプターとiPhone X
Blutoothアダプターケーブルもおまけというだけではなく、かなり高品質を感じさせます。形からはWestoneやShureのアダプターと同じOEM先のように思えるけれども、操作部は左になっています。もっとも電子部分のOEM先が同じでもオーディオ部分のチューニング次第で音は左右されるらしいので、そこはAKGの音に合わせているのでしょう。SP1000とは高品位コーデックであるAptXで接続ができます。透明感が高く、すっきりと音が伸びていく感じです。
iPhoneとの組み合わせでも音質は十分に良く、iPhone X(iOS11.3)との組み合わせではN5005の性能を十分に堪能できるほど音質が高いと感じられます。高低のレンジ感も十分にあり、iPhoneやスマートフォンを見ながらの通勤や通学の手軽で高音質のぜいたくなお供としてお勧めです。
* 音質調整フィルター
調整用の音響フィルターはねじ込み式でK3003と同じ方式です。ねじ込みはスムーズですが、パーツが小さいので広いテーブルか箱の上でやったほうが良いと思います。
ヴォーカル域に鮮明さを足したいときはMid-Hghフィルターを使うとよいですね。低域はより締まった感じになるのでジャズはこれが良いように思えました。バイオリンもMid-Highで高域がより伸びるように感じられますが厚みがやや失われるので好みもあると思います。
Highフィルターだとさらに高域はシャープになるのですが、個人的にはやや高い音がきつめに感じられます。このフィルターでも低域はあまり落ちないので低域の強さはダイナミックドライバー由来のものだと思います。
N5005のノズル部分もK3003と共通する設計ということがわかると思います
Bassフィルターは低域強めというよりも高域を抑えめにするという感じに思えます。たとえばヘビメタのようにきつめの曲にはよく合います。リファレンスでもメタルを聴くと高域が刺さる感じがしますので、そうした調整に向いています。
比べてみるとリファレンスはreferenceというよりもMid-Lowといったほうがよいかもしれません。N5005ではMid-Highの調整フィルター種類が増えたのでリファレンスがやや低域寄りになったかもしれませんね。
フィルターに関しては低域はわりと強めでほぼ変わらず、高域の強さを調整するという感じに思えます。曲のジャンルや録音によって変えるとよいでしょう。個人的にはリファレンスかMid-Highが常用できると思いますが、この二つは個人の好みだと思います。HighとBassは曲や録音によって使いわけるとよいのではないでしょうか。
*N40、K3003との音質比較
N40と比べるとN5005は全体に一段上のレベルで、特に音の豊かさ厚みが違います。N40も価格的にはよいと思うけれども、N5005はやはり高級機のハイレベルな格上の音再現を聞かせてくれます。たしかに似た感じの音調ではあるけれども、ここでも中音域のドライバーが違うのが効いているように思いますね。またケーブルの質も違うのではないかと感じます。全体的な解像感や透明感もN5005の方が上です。
左:N40 右:N5005
K3003と比べてみると、K3003とN5005は能率がだいぶ違うように思います(K3003が高い)。音の個性はAKGイヤフォンとして似ていますが、同じリファレンスフィルターでもK3003は少し高域寄りに聴こえます。K3003の当時にはK3003独特の透明感の高さとシャープな高域に酔っていたので、高域の鮮明さがK3003の美点と思っていたと思います。
左:K3003 右:N5005
N5005と比べると、N5005のほうが豊かで厚みがあるので高級に聴こえ、K3003のほうが軽い感じの音に聞こえます。理由としては低域ダイナミックドライバーの性能もあるけれども、ドライバーが増えたことによる中音域の充実が大きいのではないかと思います。これはCampfire AudioのJupiterに中音域ドライバーの加わったAndromedaの音の関係にも少し似ているかなともちょっと思いました。
今聞いてもK3003はかなり優れたイヤフォンだと思います。ステンレス製筐体の質感の高さもいまでも見劣りしません。ただN5005とK3003では好みの部分もあるけれども、やはりN5005の方が一段性能は上だと思います。
* まとめ
たっぷりした低域と、それに負けない豊かな中音域が魅力的なイヤフォンです。高音域はフィルターで好みに変えられます。K3003はもはやクラシックという感じですが、N5005はNシリーズで最新イヤフォンのトレンドを抑えたうえで、K3003を超えるような音質を実現したと言えます。
10万を切る価格でBTアダプターやケーブルもたっぷりとついてますし、音質からするとだいぶお買い得なパッケージだと思います。K3003やN40と大きくは音調というか音の個性は変わらないのでAKGサウンドが好きな人には特に魅力的な製品と言えるでしょう。